(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)が、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位5〜60重量%、カルボキシル基含有単量体単位0.1〜20重量%および共役ジエン単量体単位15〜94.9重量%を含有する請求項1または2に記載のニトリルゴム組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ニトリルゴム組成物
本発明のニトリルゴム組成物は、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)と、液状ニトリルゴム(B)と、ポリアミン架橋剤(C)とを含有してなる。
【0014】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)
まず、本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)について説明する。本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、カルボキシル基含有単量体および必要に応じて加えられる共重合可能なその他の単量体を共重合することにより得られるゴムである。
【0015】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0016】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜55重量%、さらに好ましくは15〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0017】
カルボキシル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能であり、かつ、エステル化等されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個以上有する単量体であれば特に限定されない。カルボキシル基含有単量体を用いることにより、ニトリルゴムに、カルボキシル基を導入することができる。
【0018】
本発明で用いるカルボキシ基含有単量体としては、たとえば、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体などが挙げられる。また、カルボキシル基含有単量体には、これらの単量体のカルボキシル基がカルボン酸塩を形成している単量体も含まれる。さらに、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の無水物も、共重合後に酸無水物基を開裂させてカルボキシル基を形成するので、カルボキシル基含有単量体として用いることができる。
【0019】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0020】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などが挙げられる。また、α,β−不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。
【0021】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0022】
カルボキシル基含有単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になることから、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体が好ましく、マレイン酸モノアルキルエステルおよびフマル酸モノアルキルエステルがより好ましく、マレイン酸モノアルキルエステルがさらに好ましく、マレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。なお、上記マレイン酸モノアルキルエステルおよびフマル酸モノアルキルエステルのアルキル基の炭素数は、2〜8が好ましい。
【0023】
カルボキシル基含有単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.2〜15重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%である。カルボキシル基含有単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の機械的強度および耐圧縮永久ひずみ性が悪化するおそれがあり、逆に、多すぎると、ニトリルゴム組成物のスコーチ安定性が悪化したり、得られるゴム架橋物の耐疲労性が低下するおそれがある。
【0024】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、およびカルボキシル基含有単量体とともに、得られるゴム架橋物がゴム弾性を発現するという点より、共役ジエン単量体を共重合したものであることが好ましい。
【0025】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4〜6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0026】
共役ジエン単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは15〜94.9重量%、より好ましくは20〜89.8重量%、さらに好ましくは25〜84.5重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。なお、上記共役ジエン単量体単位の含有量は、後述する水素化を行った場合には、水素化された部分も含めた含有量である。
【0027】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリルゴムは、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、カルボキシル基含有単量体、および共役ジエン単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(上述の「カルボキシル基含有単量体」に該当するものを除く)、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0028】
α−オレフィン単量体としては、炭素数が3〜12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0029】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0030】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(上述の「カルボキシル基含有単量体」に該当するものを除く)としては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(「メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル」の略記。以下同様。);アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチルなどの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノブチルなどの炭素数2〜12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1〜12のフルオロアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;ジメチルアミノメチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレートなどのジアルキルアミノ基含有α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル;などが挙げられる。
【0031】
フッ素含有ビニル単量体としては、たとえば、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0032】
共重合性老化防止剤としては、たとえば、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0033】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体の単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0034】
カルボキシル基含有ニトリルゴムのヨウ素価は、好ましくは120以下であり、より好ましくは60以下、さらに好ましくは40以下、特に好ましくは30以下である。ヨウ素価を120以下とすることにより、得られるゴム架橋物の耐熱性および耐オゾン性を向上させることができる。
【0035】
カルボキシル基含有ニトリルゴムのポリマームーニー粘度(ML
1+4、100℃)は、好ましくは10〜200、より好ましくは15〜150、さらに好ましくは15〜100、特に好ましくは30〜70である。カルボキシル基含有ニトリルゴムのポリマームーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、ニトリルゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0036】
また、カルボキシル基含有ニトリルゴムにおけるカルボキシル基の含有量、すなわち、カルボキシル基含有ニトリルゴム100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは5×10
−4〜5×10
−1ephr、より好ましくは1×10
−3〜1×10
−1ephr、特に好ましくは5×10
−3〜6×10
−2ephrである。カルボキシル基含有ニトリルゴムのカルボキシル基含有量が少なすぎると得られるゴム架橋物の機械的強度が低下するおそれがあり、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0037】
本発明のカルボキシル基含有ニトリルゴムの製造方法は、特に限定されないが、乳化剤を用いた乳化重合により上述の単量体を共重合して共重合体ゴムのラテックスを調製し、これを水素化することにより製造することが好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0038】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0039】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部である。
【0040】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜0.8重量部である。
【0041】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部である。
【0042】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0043】
なお、共重合して得られた共重合体のヨウ素価が120より高い場合には、ヨウ素価を120以下とするために、共重合体の水素化(水素添加反応)を行ってもよい。この場合における、水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0044】
液状ニトリルゴム(B)
本発明で用いる液状ニトリルゴム(B)は、25℃において液体状態を有する(25℃において流動性を有する)ニトリルゴムである。本発明で用いる液状ニトリルゴム(B)は、たとえば、JIS K6300に準拠して測定したムーニー粘度が、通常、1以下、あるいは、粘度が低すぎてムーニー粘度が測定不可能なものである。
【0045】
本発明で用いる液状ニトリルゴム(B)は、通常、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と、共役ジエン単量体と、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他の単量体と、を共重合することにより得られる。
【0046】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)と同様のものを用いることができ、アクリロニトリルが好ましい。
共役ジエン単量体としては、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)と同様のものを用いることができ、1,3−ブタジエンが好ましい。
また、共重合可能な他の単量体としては、カルボキシル基含有単量体、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(カルボキシル基含有単量体に該当するものを除く)、フッ素含有ビニル単量体、および共重合性老化防止剤などを用いることができ、その具体例は上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)の場合と同様である。
【0047】
本発明で用いる液状ニトリルゴム(B)中における、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは20〜50重量%であり、さらに好ましくは25〜40重量%である。
また、液状ニトリルゴム(B)中における、共役ジエン単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、好ましくは40〜90重量%、より好ましくは50〜80重量%であり、さらに好ましくは60〜75重量%である。
さらに、液状ニトリルゴム(B)中における共重合可能な他の単量体の含有割合は、全単量体単位中、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0048】
また、本発明で用いる液状ニトリルゴム(B)は、温度70℃、回転数10rpmにて、B型粘度計を用いて測定した粘度が、好ましくは1〜30Pa・sであり、より好ましくは1〜20Pa・s、さらに好ましくは1〜10Pa・s、特に好ましくは3〜9Pa・sである。さらに、本発明で用いる液状ニトリルゴム(B)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いたポリスチレン換算の重量平均分子量が、好ましくは1,000〜100,000、より好ましくは3,000〜50,000、さらに好ましくは3,000〜30,000、特に好ましくは3,000〜15,000である。
【0049】
本発明で用いる液状ニトリルゴム(B)の製造方法としては、特に限定されず、公知の製造方法が採用できるが、たとえば、分子量調整剤を多量に使用し、上述した各単量体を乳化重合し、凝固・加熱乾燥する方法などが挙げられる。また、液状ニトリルゴム(B)としては、たとえば、市販の液状ニトリルゴムを使用してもよい。
【0050】
本発明のニトリルゴム組成物中における、液状ニトリルゴム(B)の含有量は、カルボキシ含有ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは1〜50重量部であり、より好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは2〜15重量部である。液状ニトリルゴム(B)の含有量が少なすぎると、ニトリルゴム組成物の加工性(特に、成形と架橋とを同時に行った際の流動性)が低下してしまうおそれがある。一方、含有量が多すぎると、得られるゴム架橋物から液状ニトリルゴムがブリードするおそれがある。
【0051】
ポリアミン架橋剤(C)
本発明で用いるポリアミン架橋剤(C)としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物、または、架橋時に2つ以上のアミノ基を有する化合物の形態になるもの、であれば特に限定されないが、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素の複数の水素原子が、アミノ基またはヒドラジド構造(−CONHNH
2で表される構造、COはカルボニル基を表す。)で置換された化合物および架橋時にその化合物の形態になるものが好ましい。その具体例として、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、テトラメチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンシンナムアルデヒド付加物、ヘキサメチレンジアミンジベンゾエート塩などの脂肪族多価アミン類;2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)などの芳香族多価アミン類;イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどのヒドラジド構造を2つ以上有する化合物;などが挙げられる。これらのなかでも、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0052】
本発明のニトリルゴム組成物中における、ポリアミン架橋剤(C)の含有量は、カルボキシ含有ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部であり、より好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部である。本発明においては、架橋剤として、ポリアミン架橋剤(C)を用いることにより、本発明のニトリルゴム組成物を架橋性に優れたものとすることができる。すなわち、本発明においては、ポリアミン架橋剤(C)を用いることにより、得られるゴム架橋物の常態物性や耐圧縮永久ひずみ性を良好なものとすることができる。ポリアミン架橋剤(C)の含有量が少なすぎると、ニトリルゴム組成物の架橋性が不十分となり、得られるゴム架橋物の常態物性や耐圧縮永久ひずみ性が悪化する恐れがある。一方、含有量が多すぎると、ゴム架橋物からポリアミン架橋剤がブリードするおそれがある。
【0053】
その他の配合剤
また、本発明のニトリルゴム組成物は、上記各成分に加えて、塩基性架橋促進剤をさらに含有していることが好ましい。塩基性架橋促進剤をさらに含有させることにより、本発明の効果がより一層顕著になる。
【0054】
塩基性架橋促進剤の具体例としては、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(以下「DBU」と略す場合がある)および1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5(以下「DBN」と略す場合がある)、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−メトキシエチルイミダゾール、1−フェニル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−2−フェニルイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、1,5−ジメチルイミダゾール、1,2,4−トリメチルイミダゾール、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−エトキシイミダゾール、1−メチル−4−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−4−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−アミノイミダゾール、1−メチル−4−(2−アミノエチル)イミダゾール、1−メチルベンゾイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルベンゾイミダゾール、1−メチル−5−ニトロベンゾイミダゾール、1−メチルイミダゾリン、1,2−ジメチルイミダゾリン、1,2,4−トリメチルイミダゾリン、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾリン、1−メチル−フェニルイミダゾリン、1−メチル−2−ベンジルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプチルイミダゾリン、1−メチル−2−ウンデシルイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプタデシルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシメチルイミダゾリン、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾリンなどの環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤;テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−オルト−トリルグアニジン、オルトトリルビグアニドなどのグアニジン系塩基性架橋促進剤;n−ブチルアルデヒドアニリン、アセトアルデヒドアンモニアなどのアルデヒドアミン系塩基性架橋促進剤;などが挙げられる。これらのなかでも、グアニジン系塩基性架橋促進剤および環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤が好ましく、1,3−ジ−オルト−トリルグアニジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7および1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5がさらに好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7および1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5がより好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7が特に好ましい。なお、上記環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤は、有機カルボン酸やアルキルリン酸などと塩を形成していてもよい。
【0055】
本発明のニトリルゴム組成物中における、塩基性架橋促進剤の配合量は、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部であり、より好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部である。塩基性架橋促進剤の配合量が少なすぎると、ニトリルゴム組成物の架橋速度が遅過ぎて架橋密度が低下する場合がある。一方、配合量が多すぎると、架橋性ゴム組成物の架橋速度が速すぎてスコーチを起こしたり、貯蔵安定性が損なわれる場合がある。
【0056】
また、本発明のニトリルゴム組成物には、上述した各成分に加えて、ゴム加工分野において通常使用されるその他の配合剤を配合してもよい。このような配合剤としては、たとえば、補強剤、充填材、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、スコーチ防止剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、受酸剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤、シランカップリング剤、共架橋剤、架橋助剤、架橋遅延剤、発泡剤などが挙げられる。これらの配合剤の配合量は、配合目的に応じた量を適宜採用することができる。
【0057】
なお、本発明のニトリルゴム組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(A)以外のゴムを配合してもよい。
このようなゴムとしては、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴムなどが挙げられる。
カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)以外のゴムを配合する場合における、ニトリルゴム組成物中の配合量は、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは60重量部以下、より好ましくは30重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0058】
本発明のニトリルゴム組成物は、上記各成分を好ましくは非水系で混合することで調製される。本発明のニトリルゴム組成物を好適に調製する方法としては、ポリアミン架橋剤(C)など熱に不安定な成分を除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で一次混練した後、オープンロールなどに移して、ポリアミン架橋剤(C)など熱に不安定な成分を加えて二次混練することなどが挙げられる。なお、一次混練は、通常、10〜200℃、好ましくは30〜180℃の温度で、1分間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間行い、二次混練は、通常、10〜100℃、好ましくは20〜60℃の温度で、1分間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間行う。
【0059】
本発明のニトリルゴム組成物のコンパウンドムーニー粘度(ML
1+4、100℃)は、好ましくは20〜400、より好ましくは40〜200、特に好ましくは60〜150である。
【0060】
ゴム架橋物
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明のニトリルゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明のニトリルゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよいが、本発明においては、製造工程を簡略化することができ、さらには、複雑な形状を有するゴム部品を歩留り良く(不良品の発生が少ないこと)製造することができることから、成形と同時に架橋を行うことが好ましい。
【0061】
特に、上述した本発明のニトリルゴム組成物は、成形と架橋を同時に行った際における最小トルク値(ML)が低く、そのため、成形と架橋とを同時に行った際における流動性に優れるものである。ここで、
図1は、振動式レオメータを用いて測定される、ニトリルゴム組成物の架橋時のムーニー粘度の変化を示すグラフ(ニトリルゴム組成物の架橋特性を示すグラフ)である。
図1においては、ニトリルゴム組成物について架橋を行った際における(「成形と架橋とを同時に行った場合」に相当)、架橋時間と、トルクの変化(ムーニー粘度の変化)を示している。
図1に示すように、ニトリルゴム組成物について加熱を行うと(架橋を開始すると)、ニトリルゴム組成物の軟化により、まず、トルクが低下し、トルクの最小値(ML)となった後に、トルクは上昇することとなる。ここで、トルクの最小値(ML)は、ニトリルゴム組成物の流動性を示す指標となり、トルクの最小値(ML)が小さいほど、流動性に優れているといえる。一方で、トルクの最大値(MH)は架橋度の指標となる値であり、さらに、t10、t90は、それぞれ、トルクの最小値と最大値との差(MH−ML)を100%としたときに、トルクがMLから10%上昇するまでの時間、トルクがMLから90%上昇するまでの時間を示している。
【0062】
そして、本発明によれば、このような本発明のニトリルゴム組成物(成形と架橋を同時に行った際における最小トルク値(ML)が低く、流動性に優れるニトリルゴム組成物)を用い、複雑な形状を有する成形型を使用して、成形と架橋とを同時に行った場合に、当該成形型内の隅々まで本発明のニトリルゴム組成物を適切に流動させることでき、これにより、複雑な形状を有するゴム架橋物を歩留り良く(不良品の発生が少ないこと)得ることができる。
なお、成形および架橋を行う際における、成形および架橋温度は、好ましくは120〜220℃であり、より好ましくは150〜200℃である。また、成形および架橋時間は、好ましくは5分〜5時間、より好ましくは10分〜1時間である。
【0063】
なお、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0064】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0065】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、上述した本発明のニトリルゴム組成物を用いて得られるものであるため、耐圧縮永久ひずみ性に優れたものである。特に、上述したように、本発明のニトリルゴム組成物は、成形と架橋を同時に行った際における最小トルク値(ML)が低く、流動性に優れるものであり、複雑な形状を有する成形型内において隅々まで適切に流動させることでき、複雑な形状を有し、かつ、耐圧縮永久ひずみ性に優れたゴム架橋物を歩留り良く(不良品の発生が少ないこと)提供することができる。
【0066】
このため、本発明のゴム架橋物は、このような特性を活かし、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置及びボールねじ等)用のシール、バルブ及びバルブシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板及び負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、油中ベルトなどの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、化粧品、及び医薬品の分野、食品と接触する分野、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。これらのなかでも、本発明の架橋物は、シール材、ベルト、ホースまたはガスケットとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限られるものではない。以下において、特記しない限り、「部」は重量基準である。物性および特性の試験または評価方法は以下のとおりである。
【0068】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムの組成
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムを構成する各単量体単位の含有割合は、以下の方法により測定した。
すなわち、マレイン酸モノn−ブチル単位の含有割合は、2mm角のカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム0.2gに、2−ブタノン100mlを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数を求め、求めたモル数をマレイン酸モノn−ブチル単位の量に換算することにより算出した。
1,3−ブタジエン単位および飽和化ブタジエン単位の含有割合は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムを用いて、水素添加反応前と水素添加反応後のヨウ素価(JIS K 6235による)を測定することにより算出した。
アクリロニトリル単位の含有割合は、JIS K6383に従い、ケルダール法により、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム中の窒素含量を測定することにより算出した。
【0069】
ヨウ素価
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムのヨウ素価は、JIS K 6235に準じて測定した。
【0070】
カルボキシル基含有量
2mm角のカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム0.2gに、2−ブタノン100mlを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数として、カルボキシル基含有量を求めた(単位はephr)。
【0071】
架橋性試験(流動性)
ニトリルゴム組成物について、ゴム加硫試験機(商品名「ムービングダイレオメータMDR」、アルファテクノロジーズ社製)を用い、JIS K6300−2に準拠して、170℃、30分の条件で架橋性試験を行うことで、
図1に示すような架橋曲線を得た。そして、架橋性試験の結果から、トルクの最小値(ML)(単位は、dN・m)、トルクの最大値(MH)(単位は、dN・m)、t10(単位は、min.)、およびt90(単位は、min.)を測定した。なお、t10、t90は、「トルクの最大値(MH)−トルクの最小値(ML)」を100%としたときに、トルクが最小トルク(ML)から、それぞれ、10%上昇するのに要する時間、および90%上昇するのに要する時間を意味する。トルクの最小値(ML)が小さいほど、型内での流動性が高く、複雑な形状を有するゴム部品の成形性に優れる。
【0072】
常態物性(伸び、引張応力、硬さ)
ニトリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状の架橋物を得た。次いで、得られた架橋物をギヤー式オーブンに移して170℃で4時間二次架橋し、得られたシート状のゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られたこの試験片を用いて、JIS K6251に従い、ゴム架橋物の引張応力(100%引張応力)、および伸びを、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いてゴム架橋物の硬さをそれぞれ測定した。なお、硬さは、圧子の接触時および10秒後のそれぞれについて、測定した。
【0073】
O−リング圧縮永久ひずみ試験
内径30mm、リング径3mmの金型を用いて、ニトリルゴム組成物について、170℃、20分間、プレス圧5MPaの条件で架橋を行い、170℃、4時間にて、二次架橋を行うことによりO−リング圧縮永久ひずみ試験用の試験片を得た。そして、得られた試験片を用いて、O−リング状の試験片を挟んだ二つの平面間の距離をリング厚み方向に25%圧縮した状態で150℃にて168時間保持する条件で、JIS K6262にしたがって、O−リング圧縮永久ひずみを測定した。この値が小さいほど、耐圧縮永久ひずみ性に優れる。
【0074】
合成例1(カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)の合成)
反応器に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル36部、マレイン酸モノn−ブチル6部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン58部を仕込んだ。次いで、反応器を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら重合反応を継続し、重合転化率が85%になった時点で、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した。次いで、水温60℃で残留単量体を、減圧にして除去し、ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
そして、上記にて得られたニトリルゴムのラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が1,000重量ppmになるように、オートクレーブ中に、ニトリルゴムのラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、高飽和ニトリルゴムのラテックスを得た。
得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴムのラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、60℃で12時間真空乾燥することにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)を得た。
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)の各単量体単位の組成は、アクリロニトリル単位36.0重量%、マレイン酸モノn−ブチル単位6.0重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)58.0重量%であり、カルボキシル基含有量は0.030ephr、また、ヨウ素価は10、ポリマー・ムーニー粘度〔ML
1+4、100℃〕は55であった。
【0075】
実施例1
合成例1にて得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)100部に、液状ニトリルゴム(商品名「Nipol−1312」、日本ゼオン社製、アクリロニトリル含有量28重量%、温度70℃、回転数10rpmにてB型粘度計を用いて測定した粘度が、7.2Pa・s)5部、FEFカーボンブラック(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製)40部、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(商品名「アデカサイザーC−8」、ADEKA社製、可塑剤)5部、4,4’−ビス−(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラックCD」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)1.5部、ステアリン酸(滑剤)1部、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(商品名「フォスファノールRL210」、東邦化学工業社製、加工助剤)1部を添加して、110℃で5分間混練した。次いで、得られた混合物を、温度40℃に加温したロールに移して、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−ウンデセン−7(DBU)(商品名「RHENOGRAN XLA−60(GE2014)」、RheinChemie社製、DBU60%(ジンクジアルキルジフォスフェイト塩になっている部分を含む)、およびアクリル酸ポリマーと分散剤40%からなるもの、塩基性架橋促進剤)4部、および、ヘキサメチレンジアミンカルバメート(商品名「Diak#1」、デュポン・ダウ・エラストマー社製、ポリアミン架橋剤)2.4部を添加して混練することで、ニトリルゴム組成物を得た。
【0076】
そして、得られたニトリルゴム組成物について、上述した方法により、架橋性試験、常態物性(伸び、引張応力、硬さ)、およびO−リング圧縮永久ひずみの各評価・試験を行った。結果を表1に示す。
【0077】
実施例2
液状ニトリルゴム(商品名「Nipol−1312」、日本ゼオン社製)の配合量を5部から10部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ニトリルゴム組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
比較例1
液状ニトリルゴムを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、ニトリルゴム組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
比較例2
カルボキシル基を含有しない水素化ニトリルゴム(商品名「Zetpol2010L」、日本ゼオン社製)100部に、液状ニトリルゴム(商品名「Nipol−1312」、日本ゼオン社製)5部、FEFカーボンブラック(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製)40部、トリメリット酸エステル(商品名「アデカサイザーC−8」、ADEKA社製、可塑剤)5部、4,4’−ビス−(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラックCD」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)1.5部、2−メルカプトベンゾイミダゾール亜鉛塩(商品名「ノクラックMBZ」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)1.5部、ステアリン酸(滑剤)1部、亜鉛華(ZnO)5部を添加して、110℃で5分間混練した。次いで、得られた混合物を、温度40℃にしたロールに移して、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン40%品(商品名「Vul Cup40KE」、アルケマ社製、有機過酸化物架橋剤)10部を添加して混練することで、ニトリルゴム組成物を得た。
そして、得られたニトリルゴム組成物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1より、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)に、液状ニトリルゴム(B)と、ポリアミン架橋剤(C)とを配合してなるニトリルゴム組成物は、架橋時のトルクの最小値(ML)が低く、架橋時の流動性に優れ、また、得られるゴム架橋物は、耐圧縮永久ひずみ性に優れるものであった(実施例1,2)。特に、実施例1,2の結果より、本発明のニトリルゴム組成物は、架橋時のトルクの最小値(ML)が低いため、成形型として、複雑な形状を有する成形型を用いた場合でも、該型内において、隅々まで流動することができ、これにより、複雑な形状を有するゴム架橋物を、歩留り良く(不良品の発生が少ないこと)得ることができるといえる。
【0082】
一方、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)を用いる一方で、液状ニトリルゴム(B)を配合しなかった場合には、架橋時のトルクの最小値(ML)が高く、架橋時の流動性に劣る結果となった(比較例1)。
また、カルボキシル基含有ニトリルゴム(A)の代わりに、カルボキシル基を含有しない高飽和ニトリルゴムを用いた場合には、液状ニトリルゴム(B)を配合しているにも拘わらず、架橋時のトルクの最小値(ML)が高く、架橋時の流動性に劣り、さらには、得られるゴム架橋物は、耐圧縮永久ひずみ性に劣るものであった(比較例2)。