【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「先端計測分析技術・機器開発プログラム」に係る委託研究、産業技術協力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Takayuki Suzuki et al.,Efficient heterodyne CARS measurement by combining spectral phase modulation with temporal delay tec,Optics Express,2011年 6月 6日,Vol.19 No.12,pp.11463-11470
【文献】
鈴木隆行 他,広帯域パルスの単色成分位相変調を用いた位相敏感CARS分光,電子情報通信学会技術研究報告. LQE, レーザ・量子エレクトロニクス,2012年 5月18日,Vol.112 No.62,pp.1-5
【文献】
H.KANO et al.,Near-infrared coherent anti-Stokes Raman Scattering microscopy using supercontinuum generated from a,Applied Physics B,2005年,Vol.80,pp.243-246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィルタ部および前記合波部は、前記第2パルス光および前記位相変調部で位相変調された第2パルス光を透過し、前記第3パルス光を反射する単一のバンドパスフィルタで構成された
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の光検出装置。
【背景技術】
【0002】
本発明は、光検出装置、光検出方法およびプログラムに関し、特に、物質の分析においてラマン分光技術を用いる場合の光検出装置、光検出方法およびプログラムに関する。すなわち、2つ以上のパルスレーザ光を試料に照射し、その結果試料から発せられるラマン散乱光を観察することにより、試料内の物質を分析する場合の光検出装置に関する。
【0003】
ラマン分光技術による微量物質の検出は、分析装置における基本技術としての重要性が高く、多くの技術開発が行われてきた。一方、昨今の医療技術の進歩と共に、微量物質検出技術の医療診断技術への応用が試みられており、当該医療診断技術の分野においてもより一層の微量物質の検出感度の向上が求められようになってきている。
【0004】
上記ラマン分光技術として、コヒーレントアンチストークスラマン散乱法(Coherent Anti−stokes Raman Scattering;CARS)が知られている(特許文献1)。これは、二種類又はそれ以上の光パルスを試料に照射し、それらの間に起こる非線形光学過程によって試料から発せられるコヒーレントアンチストークスラマン散乱光(CARS光)を観察するものである。
【0005】
たとえば、
図10(a)に示されるようなエネルギー準位を持った分子をCARSによって観察することを考える。まず、初期状態のエネルギー準位L1において、角周波数ω1をもった第1のパルス光(励起光)の入射によって試料の分子が励起され、そのエネルギー準位が矢印Aで示すようにL3まで上がる。そして、角周波数ω2を持った第2のパルス光(ストークス光)を入射させることにより、分子のエネルギー準位は光子放出により矢印Bで示すようにL3からL2に下がる。さらに角周波数ω3を持った第3のパルス光(プローブ光)を入射させることにより、分子のエネルギー準位は、矢印Cで示すように、L2からL4に上昇し、CARS光の発生によって矢印Dで示すように、L4からL1に下がる。
【0006】
このように、角周波数ω1、ω2、ω3をもった3種類のパルス光の入射によって、いわゆる四光波混合過程が生じ、結果として角周波数ω1+ω3−ω2を持つCARS光が発生する。このようなCARS光は、入射パルスの周波数差Δω=ω1−ω2が、観察すべき分子のエネルギー準位差に共鳴するときに特に強く現れる。現実に用いることの可能な光パルスを考慮すると、Δωが分子の振動モード周波数に一致するときに強いシグナルが得られることが考えられるため、このような振動モードを持つ分子の検出が可能となる。また、この手法は2種類のパルス光を用いて上記第3のパルス光によって生ずる光学過程を第1のパルス光によって起こすことにより、2ω1−ω2の角周波数を持つCARS光を検出することによっても実現される。
【0007】
図10(b)は、試料に照射されたパルス光のスペクトルSPと、当該照射によって発生したCARS光のスペクトルSCを示している。スペクトルSPの一部に対応するパルス光によりラマン散乱が発生し、波長λがΔλだけ短波長側に遷移した位置にCARS光のスペクトルSCが発生している。この波長の遷移幅Δλは、一般にラマンシフトと呼ばれ、波長の代わりに波数n(波長λの逆数、cm
−1)で表す場合もある。なお、以下では、パルス光の波長に言及する場合には、当該パルス光のスペクトルの中心波長で示すこととする。
【0008】
図11に、このような原理を利用した、従来技術に係るラマン分光装置80を示す。ラマン分光装置80は、2種類のレーザパルス光源である第1レーザパルス光源82、第2レーザパルス光源84、これら光源からのパルス光を試料88の同一箇所に照射するための光学系86、試料88より放出されるCARS光を検出する検出装置90を含んで構成されている(特許文献1、非特許文献1)。そして、たとえば、第1レーザパルス光源82および第2レーザパルス光源84から発せられるパルス光の波長を変化させることにより、試料88に含まれた特定分子から発せられるCARS光を選択的に検出することが可能となっている。
【0009】
CARS光は、試料88中の分子に固有の性質である分子の振動によって検出されるので、たとえば生体内の微量分子を同定する場合において、当該微量分子に対する標識物質による染色等を必要としない。したがって、特に標識物質の分子よりも小さい分子から構成される小分子化合物を観測する場合に、標識物質の影響により阻害されることなく観測が可能となる。このように、CARS光の観察によるラマン分光装置は、特に生体観察において他の方法に対する優位性を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、複数の振動準位、あるいは複数の分子種を同時に観測するためには、広帯域の振動スペクトルの一括測定が必須となる。このためには、多くの光周波数を一括して含む広帯域光源、すなわち超短パルス光源が必要となる。
【0013】
しかしながら、広帯域の超短パルスの光源を用いることで、CARS光信号の周波数分解能が下がってしまう。CARS光信号も広帯域となるため、ラマンシフトの正確な値を得ることが困難となるからである。
また、超短パルスは先頭出力(ピークパワー)が高いため、非共鳴バックグラウンドも同時に発生し、観測対象のCARS光信号を覆い尽くしてしまう。
【0014】
ここで、共鳴成分であるCARS光を含む信号光には、上記非共鳴バックグラウンドと呼ばれる光成分が重畳されることが知られている(非特許文献1)。
図12(a)は、非共鳴バックグラウンドの発生過程の一例を示している。まず、初期状態のエネルギー準位L1において、角周波数ω1を持った第1のパルス光の入射によって試料の分子が励起され、そのエネルギー準位が矢印Eで示すように仮想的な準位L6まで上がる。そして、角周波数ω2を持った第2のパルス光を入射させることにより、矢印Fで示すようにエネルギー準位がさらに仮想的な準位L7まで上がる。さらに角周波数ω3を持った第3のパルス光を入射させることにより、分子のエネルギー準位は、矢印Gで示すように、仮想的な準位L7から仮想的な準位L5に下がり、光の発生によって矢印Hで示すように、仮想的な準位L5から準位L1に下がる。仮想的な準位L5から準位L1への遷移で発生した光が非共鳴バックグラウンドである。
【0015】
図12(b)は、入射パルス光のスペクトルSP、CARS光のスペクトルSC、および非共鳴バックグラウンドのスペクトルSNの各スペクトルを示したものである。
図12(b)では、直感的な理解のために5つのスペクトルSNで示しているが、実際の非共鳴バックグラウンドは離散的なスペクトルではなく、連続的なスペクトルを有して発生する。上述では、理解の容易化の観点から、仮想的な準位L5ないしL7を介して非共鳴バックグラウンドが発生するとして説明したが、実際の非共鳴バックグラウンドは振動準位を介さないで発生するからである。
【0016】
上記のような連続的なスペクトルを有する非共鳴バックグラウンドが発生すると、CARS光はその非共鳴バックグラウンドの中に埋もれてしまう。このように非共鳴バックグラウンド内に埋もれてしまったCARS光の抽出は非常に困難である。また、非共鳴バックグラウンドは、ラマン光の検出においてノイズとして作用し、この影響により、得られる画像のコントラストが下がったり、またスペクトルのシフトや歪み等の悪影響が発生したりする。
【0017】
さらに、一般にCARS光は非線形光学効果に起因しているために、極めて強度が弱い。また、生体内の分子の観察においては、観察対象を保護するために入射パルス光の照射光強度をなるべく低くすることが要求されており、その場合には、信号光に含まれるCARS光はさらに弱くなる。
【0018】
上記のように、ノイズに埋もれた弱い光を観測する一方法として、入射パルス光に位相変調を施して試料に照射し、試料から発生する信号光のスペクトルのうち位相変調に同期した成分のみを直接抽出するロックイン検出を用いた方法がある(非特許文献2)。しかしながら、信号光の検出部としてCCD(Charge Coupled Device)を用いる場合には、ロックイン検出を採用することができない。CCDは素子の内部に電荷を蓄積させる構造のため、DC(直流)成分も含めてA/D(アナログ/ディジタル)変換せざるを得ないが、アナログ信号の状態で変調成分だけを抽出するロックイン検出は原理的に不可能だからである。
【0019】
また、ロックイン機構を用いないでラマン光を検出する方法として、入射パルス光に対しランダムな位相変調をかけて試料に照射し、発生した信号光の光強度を複数取得し、取得した複数の光強度に対する数値解析(信号処理)からラマン光を検出する方法もある。
本検出方法は、いわば擬似的な位相敏感検波を用いた検出方法である。
【0020】
図13に、上記検出方法に関して、入射パルス光の周波数の1周期(0〜2π)に相当する波形と、当該波形に施す位相変調の位置を模式的に示している。本方法では、入射パルス光に対しランダムな位相位置の位相変調を施して試料に照射し、試料において散乱した信号光の中から、当該位相変調が施された信号を正弦波近似して再現し、抽出する。
【0021】
しかしながら、上記検出方法では、実用的な感度でCARS光を検出するために、数100個(たとえば、500個)レベルの位相変調が必要である(
図13では、14個の位相位置について位相変調を施した場合を例示している)。したがって、本検出方法では、測定に多大な時間を要し、また、複数のランダムな位相を適用していることから、ノイズの除去、あるいは感度の点で不十分であった。
【0022】
本発明は、以上のような背景に鑑みてなされたものであり、電気的な処理による位相敏感検出機構を確立し、簡易な構成で、微弱光を高速、高感度に検出可能な光検出装置、光検出方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の第1の態様に係る光検出装置は、第1パルス光を発生する光源部と、前記第1パルス光が示す周波数スペクトルの一部から成る第2パルス光を透過し前記第1パルス光が示す周波数スペクトルの他部から成る第3パルス光を反射するフィルタ部と、前記第2パルス光を複数の位相で位相変調する位相変調部と、前記第3パルス光と前記位相変調部で位相変調された第2パルス光とを合波して第4パルス光とする合波部と、前記第4パルス光が対象物に照射されて発生した散乱光を分光して検出する検出部と、前記検出部で検出された散乱光の周波数スペクトルから前記位相変調部で位相変調された第2パルス光に基づいて散乱した散乱光の周波数スペクトルを所定の演算処理により前記位相変調部における位相変調と同期させて抽出する抽出部と、を含むものである。
【0024】
本発明の第2の態様に係る光検出装置は、第1の態様に係る光検出装置において、前記複数の位相が、φ、φ+2π/3、φ+4π/3 (φは固定位相)であるものである。
【0025】
本発明の第3の態様に係る光検出装置は、第2の態様に係る光検出装置において、前記抽出部は、前記検出部で検出された散乱光の前記複数の位相の各々における強度I(φ)、I(φ+2π/3)、I(φ+4π/3)について下式に示すIを演算し、当該Iの値が0または許容範囲内で0に近い値になる周波数スペクトルを抽出するものである。
【0026】
本発明の第4の態様に係る光検出装置は、第1の態様に係る光検出装置において、前記複数の位相が互いに直交するものである。
【0027】
本発明の第5の態様に係る光検出装置は、第4の態様に係る光検出装置において、前記複数の位相が、φ、φ+π/2、φ+π、φ+3π/2(φは固定位相)であるものである。
【0028】
本発明の第6の態様に係る光検出装置は、第5の態様に係る光検出装置において、前記抽出部は、前記検出部で検出された散乱光の前記複数の位相の各々における光強度I(φ)、I(φ+π/2)、I(φ+π)、I(φ+3π/2)について下式に示すIを演算し、当該Iの値が0または許容範囲内で0に近い値になる周波数スペクトルを抽出するものである。
【0029】
本発明の第7の態様に係る光検出装置は、第1〜第6のいずれか1つの態様に係る光検出装置において、前記光源部が超短パルスレーザを用いた光源であり、前記第2パルス光の周波数スペクトルの帯域幅が前記第3パルス光の周波数スペクトルの帯域幅より狭いものである。
【0030】
本発明の第8の態様に係る光検出装置は、第1〜第7のいずれか1つの態様に係る光検出装置において、前記位相変調部が電気光学効果に基づく変調器、または、入射した光の光路長を変化さて出射させる光路長調整部であるものである。
【0031】
本発明の第9の態様に係る光検出装置は、第1〜第8のいずれか1つの態様に係る光検出装置において、前記フィルタ部および前記合波部は、前記第2パルス光および前記位相変調部で位相変調された第2パルス光を透過し、前記第3パルス光を反射する単一のバンドパスフィルタで構成されたものである。
【0032】
本発明の第10の態様に係る光検出装置は、第1〜第9のいずれか1つの態様に係る光検出装置において、前記抽出部で抽出する周波数スペクトルがコヒーレントアンチストークスラマン散乱光の周波数スペクトルであるものである。
【0033】
本発明の第11の態様に係る光検出方法は、フィルタ部において、光源部から発生した第1パルス光が示す周波数スペクトルの一部から成る第2パルス光を透過させ、前記第1パルス光が示す周波数スペクトルの他部から成る第3パルス光を反射させ、前記第2パルス光を位相変調部により複数の位相で位相変調し、前記第3パルス光と前記位相変調部で位相変調された第2パルス光とを合波部で合波させて第4パルス光とし、前記第4パルス光が対象物に照射されて発生した散乱光を分光して検出部で検出し、前記検出部で検出された散乱光の周波数スペクトルから前記位相変調部で位相変調された第2パルス光に基づいて散乱した散乱光の周波数スペクトルを所定の演算処理により前記位相変調部における位相変調と同期させて抽出するものである。
【0034】
本発明の第12の態様に係るプログラムは、第1パルス光を発生する光源部と、前記第1パルス光が示す周波数スペクトルの一部から成る第2パルス光を透過し前記第1パルス光が示す周波数スペクトルの他部から成る第3パルス光を反射するフィルタ部と、前記第2パルス光を複数の位相で位相変調する位相変調部と、前記第3パルス光と前記位相変調部で位相変調された第2パルス光とを合波して第4パルス光とする合波部と、前記第4パルス光が対象物に照射されて発生した散乱光を分光して検出する検出部と、を含む光検出装置を制御するためのプログラムであって、コンピュータを、前記検出部で検出された散乱光の周波数スペクトルから前記位相変調部で位相変調された第2パルス光に基づいて散乱した散乱光の周波数スペクトルを所定の演算処理により前記位相変調部における位相変調と同期させて抽出する抽出部として機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、簡易な構成で、微弱光を高速、高感度に検出可能な光検出装置、光検出方法およびプログラムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。本発明においては、光源からのパルス光に対して位相変調する際の複数の変調位相は、相互に直交していてもよいし直交していなくともよいが、本実施の形態では、理解のし易さの観点から、まず直交する4位相で位相変調する場合を例示して説明する。
【0038】
[第1の実施の形態]
本発明では、超短パルス光の広帯域スペクトルの一部に位相変調を施して試料に照射し、試料において発生した信号光から位相変調されたスペクトルと同期した周波数成分を抽出し、観測する。すなわち、広帯域スペクトルの一部である狭帯域のパルス光に対して、最も大きなスペクトル変化が得られる複数の直交位相を指定して位相変調を施し、各変調位相におけるスペクトルを積算することにより信号のコントラストを向上させている。なお、本実施の形態においては、「直交」を、2つの信号の積を積分した場合に0となるという通常の意味で用いている。
【0039】
図1を参照しつつ、本発明の概要について、より具体的に説明する。
図1は、本発明に係る光検出方法の手順を示しており、同図は、試料において発生したCARS光をスペクトル情報として抽出する場合を例示している。
【0040】
図1に示すように、まず、手順T1で、光源のパルス光について狭帯域成分を有するパルス光(第1のパルス光)と広帯域成分を有するパルス光(第2のパルス光)とに分波する。
つぎの手順T2では、第2のパルス光に対して第1のパルス光を遅延させる。第1のパルス光を遅延させるのは、緩和時間の早い信号光を選択的に除去するためである。この遅延により、たとえば、生体内での主要なノイズ源となる水に由来する信号を効果的に除去することができる。
【0041】
つぎの手順T3では、手順T2で遅延させた第1のパルス光に対して、予め定められた直交する複数の位相で位相変調を施す。
つぎの手順T4では、位相変調された第1のパルス光と第2のパルス光とを合波する。
【0042】
つぎの手順T5では、当該合波された光を試料に照射する。
つぎの手順T6では、試料において発生した信号光を分光する。
【0043】
つぎの手順T7では、分光した信号光を受光部に入射させ電気信号に変換する。
つぎの手順T8では、当該電気信号に対し所定の信号処理を実行することにより、CARS光のスペクトルを抽出する。
【0044】
以上の手順により、試料に含まれる分子の振動を反映したCARS光のスペクトルを得ることができる。
【0045】
図2に、本実施の形態に係る光検出装置10を示す。光検出装置10は、光源12、光変調器14、分光器16、受光部18、制御部20、信号発生器22、バンドパスフィルタ24、ショートパスフィルタ28、対物レンズ30、32、レトロリフレクタ34A、34B、反射鏡36A、36B、36Cを含んで構成されている。
【0046】
光源12は、光検出装置10において、ラマン散乱過程における、励起光、ストークス光、およびプローブ光の各々に対応する光を発生させる光源である。本実施の形態に係る光検出装置10では、光源12に広帯域のパルス光を発生する超短パルスレーザを用いている。
【0047】
バンドパスフィルタ24は、光源12から出射したパルス光PAについて、一部を透過させて狭帯域の第1のパルス光PBとし、他部を反射させて広帯域の第2のパルス光PDとする狭帯域バンドパスフィルタである。また、本実施の形態に係るバンドパスフィルタ24は、位相変調された第1のパルス光PCと、レトロリフレクタ34Bで折り返された第2のパルス光PDとを合波し、試料26に照射するパルス光PEとする機能を兼用している。
【0048】
なお、本実施の形態では、バンドパスフィルタ24は、第1のパルス光PCと第2のパルス光PDとを分波する機能と合波する機能とを兼用した形態を例示して説明するが、これに限られず、これらを別の素子を用いて構成してもよい。この場合には、合波する素子として、通常のハーフミラーを用いればよい。
【0049】
レトロリフレクタ34Aは、バンドパスフィルタ24で分波され、入射する第1のパルス光PBを入射方向に折り返す部位である。本実施の形態では、互いに直角に配置された反射鏡を用いているが、これに限られず、たとえば直角プリズム等を用いてもよい。
【0050】
光変調器14は、レトロリフレクタ34Aで折り返された第1のパルス光PBに対して所定の位相変調を施し、変調された第1のパルス光PCとする変調器である。本実施の形態では、光変調器14の一例として、電気光学効果により光の位相を変調するLN(リチウムナイオベート;LiNbO
3)変調器を用いた形態を例示して説明するが、これに限られない。たとえば、駆動機構の付いた反射鏡等の、機械的に光の位相を遅延させる構成を用いた形態としてもよい。
【0051】
信号発生器22は、光変調器14の駆動電圧を変えて位相変調を行うための電気信号を発生するシグナルジェネレータである。信号発生器22の出力は、図示しない駆動回路を介して光変調器14に接続される場合もある。
【0052】
対物レンズ30は、バンドパスフィルタ24で合波されたパルス光PEを試料26に対して集光し、照射するレンズである。
対物レンズ32は、試料において発生した信号光であるパルス光PF(CARS光とともに励起光等も含まれている)を集光し、分光器16に導くレンズである。
【0053】
対物レンズ30および試料26の少なくとも一方を動かすことにより、試料26におけるパルス光PEの照射位置を変更する(スキャンする)ことができる。この場合、対物レンズ30および試料26の少なくとも一方に、紙面に垂直な平面内で移動させることが可能な駆動機構、たとえばピエゾ素子を用いた駆動機構を設けてもよい。
【0054】
ショートパスフィルタ28は、パルス光PFからCARS光より圧倒的に光強度が大きい励起光(試料26を透過しただけの光)の成分を除去してパルス光PGとし、CARS光を抽出し易くするための長波長カットフィルタである。なお、励起光の除去は励起光の一部であってもよい。また、ショートパスフィルタ28は、励起光の大きさに応じて適宜に設ければよいもので、必須のものでもない。
【0055】
分光器16は、パルス光PGを分光するとともに分光した光を受光部18に導く部位であり、特に制限なく一般的なスペクトロメータを用いて構成することができる。
【0056】
受光部18は、分光されたCARS光を含む光を受光する部位であり、本実施の形態では、一例として、CCDを用いている。受光部18としては、CCDに限定されず、たとえば光電子増倍管、フォトダイオード等の他の受光素子を用いることもできる。
【0057】
制御部20は、試料26から発生したCARS光を含むパルス光PGから、CARS光の周波数成分を抽出する信号処理を行うための部位であり、また、信号発生器22で発生させる光変調器14を位相変調するための駆動電圧の波形制御等を行うための部位である。制御部20は、一般的なパーソナル・コンピュータ等を用いて構成することができる。
【0058】
反射鏡36A、36B、36Cは、光路を変換するためのミラーである。
【0059】
つぎに、
図3を参照して、本実施の形態に係る光変調器14で行われる位相変調についてより具体的に説明する。
【0060】
本実施の形態に係る光検出装置10では、広帯域スペクトルの一部である狭帯域のパルス光PBに対して、最も大きなスペクトル変化が得られる4つの位相を指定して位相変調を施す。そして、各変調位相における光強度Iを積算することにより信号のコントラストを向上させている。また、本実施の形態では、4つの位相として直交する4つの位相、すなわち基準となる位相を0とした4つの位相、0、π/2,π,3π/2を用いている。
【0061】
つまり、
図3(a)示すように、本実施の形態では、パルス光PBの光の波形WOの1周期に対して、基準位相位置M
0の位相0、位相位置M
1の位相π/2、位相位置M
2の位相π、位相位置M
3の位相3π/2で位相変調を行っている。
【0062】
図3(b)は、上記位相変調を行う際に光変調器14に印加する駆動電圧波形の一例を示しており、同図に示すように、本実施の形態では階段状の駆動電圧波形を採用している。本実施の形態に係る光変調器14はLN変調器を採用しているため、当該光変調器の駆動信号として電圧信号を用いる。
【0063】
図3(b)において、V
0、V
1、V
2、およびV
3は、各々
図3(a)の位相位置M
0、M
1、M
2およびM
3において印加する駆動電圧を示しており、したがって、各々、0、π/2、π、3π/2の位相変化をパルス光PBに付与する。なお、
図3(b)に示されたV
πは、LN変調器の半波長電圧、すなわち光信号に対してπの位相変化を付与する駆動電圧を示している。また、本実施の形態に係る光検出装置10では、各駆動電圧の周期Tを、一例として1ms(ミリ秒)としている。
【0064】
なお、本実施の形態では、上記変調位相は4つの位相の相対的な関係(つまり、π/2の位相差)が維持されればよく、位相の絶対値は問題とならない。
【0065】
本実施の形態に係る光検出装置10では、上記光変調器14の駆動電圧は信号発生器22から(あるいは、信号発生器22から図示しない駆動回路を介して)供給され、また、信号発生器22で発生させる電圧の波形は、制御部20によって制御される。また、光変調器14において施される位相変調に関する条件、たとえば、位相変調数、各位相位置の変調位相、各位相変調に適用する駆動電圧等は、制御部20内に設けられた図示しないROM(Read Only Memory)あるいはNVM(Non volatile Memory)等の記憶手段に格納しておいてもよい。
【0066】
また、本実施の形態では、光変調器14に印加する駆動電圧の波形として階段状の波形を例示して説明したが、これに限られず、たとえば各々の駆動電圧(V
0、V
1、V
2、V
3)のピーク値を有するパルス状の波形としてもよい。
【0067】
つぎに、
図4および
図5を参照して、上記パルス光PAないしパルス光PGのパルス波形およびスペクトルについて説明する。
図4(a)ないし
図4(d)は、パルス光PAないしパルス光PDの各々のパルス波形(横軸が時間tであり、縦軸が光強度I)、およびスペクトル(横軸が波長λであり、縦軸が光強度I)を示している。また、
図5(e)ないし
図5(g)は、パルス光PEないしパルス光PGの各々のパルス波形、およびスペクトルを示している。
【0068】
図4(a)に示すように、本実施の形態に係るパルス光PA(光源12からの出射光)は、広帯域のスペクトルS1を有し、パルス幅がフェムト秒オーダーの超短パルスレーザ光である光パルスP1である。より具体的には、光源12の一例として、中心波長が約800nm、パルス幅がフェムト秒オーダー(たとえば、10fs)、帯域幅が100nm(1600cm
−1)であるチタン・サファイアレーザを用いている。
【0069】
図4(b)に示すように、パルス光PAがバンドパスフィルタ24でパルス光PBとして透過、分波されると、狭帯域のスペクトルS2を有する光パルスP2となる。本実施の形態に係る光検出装置10では、パルス光PBの帯域幅を、一例として約4nm(60cm
−1)としている。
【0070】
図4(c)は、パルス光PBが光変調器14によって複数の位相で変調され、パルス光PCとして出力された状態を示している。
図4(c)に示すように、光パルスP3が複数の位相で位相変調されると、位相変調の数(本実施の形態では4つ)だけずれた位相で、後述の光強度Iの測定を行うことが可能となる。なお、光パルスP3のスペクトルS3は、光変調器14での位相変調に起因するスペクトル上の微小な変動を除き、基本的に上記スペクトルS2と同じものである。
【0071】
一方、
図4(d)は、バンドパスフィルタ24で反射、分波されたパルス光PDを示しており、パルス光PDは、広帯域のスペクトルS4を有する光パルスP4で構成されている。スペクトルS4は、スペクトルS1からスペクトルS3に相当する部分が減算されたスペクトルとなっている。
【0072】
上記パルス光PCとパルス光PDとがバンドパスフィルタ24で合波されると、
図5(e)に示すように、スペクトルS5を有する光パルスP5および光パルスP6となる。これらの光パルスがパルス光PEを構成している。
【0073】
なお、本実施の形態に係る光検出装置10では、上記パルス光PCが励起光およびプローブ光として作用し、パルス光PDがストークス光として作用する。
【0074】
パルス光PEが試料26に照射されると、
図5(f)に示すように、スペクトルS6およびS7を含む信号光がパルス光PFとして発生する。スペクトルS7はCARS光に対応するスペクトルであり、スペクトルS6は主として励起光に対応するスペクトルである。また、
図5(f)に示すように、スペクトルS7には、スペクトルマーカーSmが含まれている。なお、
図5(f)では1つのスペクトルS7を示しているが、本実施の形態に係る光検出装置10では広帯域光を用いて励起しているので、実際には同時に複数のCARS光が発生する。
【0075】
本実施の形態において「スペクトルマーカー」とは、光変調器14による位相変調に起因し、試料26から発生したCARS光と非共鳴スペクトルとが干渉した結果発生する信号光のスペクトルの変動部分をいう。当該スペクトルの変動部分の変動形状はいわば正弦波状の形状をなしており、
図4(c)のようにパルス光PBの位相をずらすと、その正弦波状の形状の位相が波長λ軸方向にずれる。本実施の形態においては、この変動部分、すなわちスペクトルマーカーをラマンシフトの標識として用いている。つまり、
図5(f)において点線で示したスペクトルS6に含まれるスペクトルS3の中心波長から、スペクトルマーカーSm部の波長までの波長差Δλがラマンシフトに対応している。
【0076】
このように、本実施の形態に係る光検出装置10では、CARS光を含む狭帯域成分をマーキングすることにより、周波数分解能を向上させることが可能となった。
なお、
図5(f)では1つのスペクトルマーカーSmについて示しているが、実際には複数のCARS光に対応して複数のスペクトルマーカーSmが発生する。
【0077】
パルス光PFがショートパスフィルタ28を通過すると、
図5(g)に示すように、主として励起光のスペクトルであるスペクトルS6の所定部分が除かれて、スペクトルマーカーSmを有するCARS光のスペクトルS8が主として抽出される。実際には、上述した非共鳴バックグラウンドのスペクトルもスペクトルS8の周囲に発生しており、これらのスペクトルの一部も同時にショートパスフィルタ28を通過する。
【0078】
つぎに、
図6を参照して、本実施の形態に係る光る光検出装置10で実行される光検出処理について説明する。
図6は、本実施の形態に係る光検出処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【0079】
本実施の形態に係る光検出装置10では、
図6に示す処理は、制御部20等を介して光検出の開始を指示することで、制御部20内に備えられた図示しないCPUがROM等の記憶手段に記憶された光検出処理プログラムを読み込み、実行することによりなされる。
【0080】
また、本実施の形態では、本光検出処理プログラムをROM等の記憶手段に予め記憶させておく形態を例示して説明するが、これに限られない。たとえば、本光検出処理プログラムがコンピュータにより読み取り可能な可搬型の記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線または無線による通信手段を介して配信される形態等を適用してもよい。
【0081】
さらに、本実施の形態では、本光検出処理を、プログラムを実行することによるコンピュータを利用したソフトウエア構成により実現しているが、これに限らない。たとえば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)を採用したハードウエア構成や、ハードウエア構成とソフトウエア構成の組み合わせによって実現してもよい。
【0082】
図6に示すように、まずステップS100で、制御部20内に設けられた図示しないROMあるいはNVM等の記憶手段から、光変調器14における位相変調条件(変調位相数、各変調位置での変調位相、各位相変調に適用する駆動電圧等)を読み込む。
【0083】
つぎのステップS102では、ステップS100で読み込んだ位相変調条件に基づいて、変調位相数N(本実施の形態では、N=4)を設定し、つぎのステップS104では、信号発生器22に対し光変調器14を駆動するための駆動電圧、駆動波形等の設定を行う。
【0084】
つぎのステップS106では、変調位相数Nのカウンタであるiを1にセットする。
つぎのステップS108では、光変調器14に対し位相θ(i)で位相変調を施し、つぎのステップS110で、位相θ(i)で変調した場合の光強度I(i)を取得する。
【0085】
つぎのステップS112では、カウンタiがNより大きいか否かを判定し、当該判定が否定判定となった場合には、ステップS114でカウンタiを1インクリメントしてステップS108に戻り、位相θ(i+1)での位相変調を継続する。
【0086】
一方、ステップS112で肯定判定となった場合には、ステップS116に移行し、各位相θ(i)で変調して取得した光強度I(i)に基づいて、CARS光のスペクトルを抽出する信号処理を行う。CARS光のスペクトルを抽出する本信号処理は、光変調器14での位相変調と同期させて行う。
【0087】
本信号処理は、以下の(式1)で示される処理に基づいて行う。
【0088】
より具体的には、信号光のスペクトルの中から、上記(式1)のIの値が0または許容範囲内で0に近い値となるスペクトルを同定して、信号光のスペクトルにおけるスペクトルマーカーSmに対応する部分を抽出し、スペクトルを演算する。そして、ステップS118で演算したスペクトルを出力する。その後、本光検出処理プログラムを終了する。
本信号処理によれば、非共鳴バックグラウンドの強度、あるいはスペクトル形状の如何にかかわらず、非共鳴バックグラウンド成分を差し引くことができる。したがって、発生したCARS光に対する非共鳴バックグラウンドの影響を排除することでき、高感度な光検出装置の実現が可能となっている。
なお、上記許容範囲については、シミュレーション、または実機等を用いた実験等により予め設定し、制御部20の図示しないROMあるいはNVM等に格納しておいてもよい。
【0089】
なお、上記実施の形態では、4つの位相について測定するサイクルを1回実行する場合を例示して説明したが、これに限られず、当該サイクルを複数回実行してもよい。実行回数が増えればそれだけS/N比は向上する。
【0090】
つぎに、
図7を参照して、本実施の形態に係る光検出装置10の実施例について説明する。
図7は、同じ試料について、本実施の形態に係る光検出装置10によるCARS光の光検出結果と、先述したランダムな位相変調を用いた従来技術に係る光検出装置によるCARS光の光検出結果とを対比して示したものである。
【0091】
図7に示す実施例では、本実施の形態に係る光検出装置、従来技術に係る光検出装置ともに、以下の条件で実施している。
・光源12(パルス光PA):波長800nm、パルス幅10fs、帯域幅125nm(2000cm
−1)
・狭帯域のパルス光(パルス光PB):波長777nm、パルス幅0.6ps、帯域幅4nm
・試料:イソフルラン原液を滴下したプレパラート
【0092】
図7において、横軸は波数であり、励起光の波数に対する波数シフト量を示している。
また、縦軸は光強度(a.u)である。
図7に示す実施例では、従来技術に係る光検出装置の積算測定回数(つまり、ランダムな変調位相の数)を500としている。
【0093】
図7において、SCIで示されたスペクトルがイソフルランの固有の分子振動のCARS光スペクトルである。従来技術に係る光検出装置では、CARS光のスペクトルをほとんど観測できないのに対し、本実施の形態に係る光検出装置によればCARS光のスペクトルを明瞭に観測できていることがわかる。なお、
図7において、SPで示されるスペクトルは励起光のスペクトルである。
【0094】
以上詳述したように、本実施の形態に係る光検出装置、光検出方法およびプログラムによれば、簡易な構成で、微弱光を高速、高感度に検出可能な光検出装置、光検出方法およびプログラムを提供することができる。また、本実施の形態に係る光検出装置、光検出方法およびプログラムによれば、位相変調において相対的な位相関係が決まればよいので、LN変調器に固有の動作点の温度ドリフト等の影響がないという効果も奏することができる。
【0095】
[第2の実施の形態]
つぎに、
図8を参照して、本実施の形態に係る光検出装置100について説明する。本実施の形態に係る光検出装置100は、第1の実施の形態に係る光検出装置10において、第1のパルス光PBに対する位相変調の方式を変えたものである。したがって、
図2と同一の構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0096】
光検出装置10では、光変調器14としてLN変調器を用いていたのに対し、光検出装置100では、駆動機構付レトロリフレクタ38を用いている。
図8に示すように、光検出装置100では、制御部20が図示しない駆動機構を介し、駆動機構付レトロリフレクタ38を所定の変調位相に対応する複数の位置(本実施の形態では4つの位置)に配置することにより位相変調を行う。
【0097】
図8では、所定の変調位相に対応する位置を、駆動機構付レトロリフレクタ38に付された1ないし4の数字で表しており、これらの各位置は、
図3の位相位置M
0ないしM
3に各々対応している。すなわち、1ないし4の数字が付された駆動機構付レトロリフレクタ38の位置が、各々変調位相0,π/2,π,3π/2に対応している。したがって、
図2の光検出装置10と同様、光検出装置100でも4つの位相の相対的な位置関係が維持されればよく、位相の絶対値は問題とならない。光検出装置100における各部のパルス光PAないしパルス光PGの波形およびスペクトルも
図4および
図5と同様である。
【0098】
本実施の形態に係る光検出処理プログラムも、基本的に
図6に示された第1の実施の形態に係る光検出処理プログラムと同様であるが、ステップS104のみ若干異なる。すなわち、本実施の形態に係る光検出処理プログラムでは、ステップS104で信号発生器22を設定する代わりに、駆動機構付レトロリフレクタ38の駆動機構の設定、すなわち、各変調位相に対応した駆動機構付レトロリフレクタ38の位置の設定等を行う。そして、設定した駆動機構付レトロリフレクタ38の位置に基づいて、第1の実施の形態と同様に、ステップS108において位相θ(i)で位相変調し、ステップS110において光強度I(i)を取得する。
【0099】
以上のように、本実施の形態に係る光検出装置、光検出方法およびプログラムによっても、簡易な構成で、微弱光を高速、高感度に検出可能な光検出装置、光検出方法およびプログラムを提供することができる。
【0100】
[第3の実施の形態]
本実施の形態は、上記各実施の形態において、CARS光のスペクトルを抽出する信号処理の際の位相変調条件のうち、変調位相数Nを一般化した形態である。また、本実施の形態は、位相変調を施す複数の位相が直交していない場合にも適用可能とした形態である。
【0101】
まず、複数の位相Φ+φ
Nに対し、受光部で測定される共鳴信号の光強度I(φ
N)は、一般的に以下に示す(式2)で表される。
ここで、Nは、異なる変調位相を表す指標であり、Φは、未知の固定位相であり、I
NRBは、非共鳴バックグランドの強度である。
【0102】
たとえば、変調位相数Nが4の場合の、上記実施の形態における(式1)は、(式2)を用いて、以下のようにして求められる。
すなわち、φ
N=0,π/2,π,3π/2を(式2)に代入すると、下記(式3)が得られる。
【0103】
(式3)から、I
NRBを消去すると、以下に示す(式4)が得られる。
【0104】
未知の固定位相Φが消去できるように、(式4)の各々の式の両辺を2乗し、加算して平方根をとると、以下に示す(式5)のように(式1)が得られる。
ただし、(式5)において右辺全体にかかる係数は本質的ではないので、(式1)では、1/2の係数を省略している。
【0105】
本発明において、未知量は、I、Φ、I
NRBの3つであるので、変調位相数Nが3の場合も原理的に光強度I(φ
N)を求めることができる。一例として、φ
N=0,2π/3,4π/3とすると、以下に示す(式6)が得られる。
【0106】
(式6)から、I
NRBを消去すると、以下に示す(式7)が得られる。
【0107】
(式7)の第1式の両辺を3で割り、第2式の両辺を9で割って両式を加算し、(式7)からΦを消去すると、以下に示す(式8)を得る。
【0108】
本実施の形態に係る光検出処理も、
図6に示すフローチャートに従って実行することができる。この場合、ステップS102において変調位相数N=3を設定し、ステップS108において、変調位相0,2π/3,4π/3で変調を行えばよい。
【0109】
図9は、変調位相数Nが3の場合の変調位相を示している。
図9に示すように、本実施の形態では、パルス光PBの光の波形WOの1周期に対して、基準位相位置M
0の位相0、位相位置M
1の位相2π/3、位相位置M
2の位相4π/3で位相変調を行えばよい。
【0110】
本実施の形態は、変調位相数Nが3であるので、変調位相数Nが4である上記実施の形態と比較して、周波数スペクトル抽出の演算時間が約3/4に短縮できるという利点がある。また、本実施の形態に係る変調位相0,2π/3,4π/3は、直交していない。つまり、本発明は、変調位相が相互に直交していない場合にも適用が可能である。むろん、変調位相数Nを3とし、かつ変調位相を直交させることも可能であり、その場合は、変調位相として、たとえば0,π/2,πを選択すればよい。
【0111】
以上のように、本発明は、複数の変調位相数N一般に対して適用することが可能であり、また、直交していない複数の変調位相に対しても適用することが可能である。
【0112】
なお、上記各実施の形態では、CARS光のスペクトルを観測する形態を例示して説明したが、これに限られず、たとえば所定のスペクトル幅ごとに試料26からの信号光を画像化する形態に適用してもよい。
【0113】
また、上記各実施の形態では、解析的に求められた計算式((式1)、(式8))に基づいて周波数スペクトルを抽出する形態を例示して説明したが、これに限られず、たとえば、近似式に基づいて、光強度I(φ
N)を0近傍に収束させる条件から周波数スペクトルを抽出する形態としてもよい。
【0114】
また、上記各実施の形態では、位相を選択する場合において、位相0を基準として選択する形態を例示して説明したが、これに限られず、N個の位相の相対的な関係が維持されていればよいので、固定位相φを基準として選択してもよい。つまり、たとえば変調位相数Nが4の場合の各位相を、0+φ、π/2+φ、π+φ、3π/2+φのように選択してもよい。
【0115】
日本出願2014−033129の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。