【文献】
Schlomm T et al.,Extraction and processing of high quality RNA from impalpable and macroscopically invisible prostate,Int J Oncol.,2005年 9月,Vol.27,No.3,Page.713-720
【文献】
Schlomm T et al.,Marked gene transcript level alterations occur early during radical prostatectomy.,Eur Urol.,2008年 2月,Vol.53,No.2,Page.333-346
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前立腺の基底細胞におけるTRIM29(Tripartite motif-containing protein 29)タンパク質の発現を免疫組織染色により可視化することを特徴とする前立腺基底細胞の検出方法。
前立腺の腺組織構造の形態及び可視化されたTRIM29(Tripartite motif-containing protein 29)タンパク質の発現を解析する、請求項1に記載の前立腺基底細胞の検出方法。
前立腺の腺組織構造の形態、並びに可視化されたサイトケラチンタンパク質の発現及び/又は可視化されたp63タンパク質の発現を解析する、請求項3に記載の前立腺基底細胞の検出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記の基底細胞の免疫組織染色において、抗p63抗体、又は抗サイトケラチン抗体を用いた免疫組織染色のみでは、基底細胞が消失しているか否かの判断が困難な場合があった。
従って、本発明の目的は、前立腺の基底細胞に特異的に発現している分子を探索し、その分子を解析することにより前立腺基底細胞の検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、正常前立腺組織の基底細胞に特異的に発現している分子について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、正常前立腺組織の基底細胞にTRIM29(Tripartite motif-containing protein 29)が特異的に発現していることを見出した。そして、TRIM29の前立腺組織における発現を免疫組織染色により可視化することにより、基底細胞を検出できることがわかった。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
【0007】
従って、本発明は、
[1]前立腺の基底細胞におけるTRIM29(Tripartite motif-containing protein 29)タンパク質の発現を免疫組織染色により可視化することを特徴とする前立腺基底細胞の検出方法、
[2]前立腺の腺組織構造の形態及び可視化されたTRIM29(Tripartite motif-containing protein 29)タンパク質の発現を解析する、[1]に記載の前立腺基底細胞の検出方法、
[3]更にサイトケラチン及び/又はp63タンパク質の発現を免疫組織染色により可視化する、[1]又は[2]に記載の前立腺基底細胞の検出方法、
[4]前立腺の腺組織構造の形態、並びに可視化されたサイトケラチンタンパク質の発現及び/又は可視化されたp63タンパク質の発現を解析する、[3]に記載の前立腺基底細胞の検出方法、
[5]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の前立腺基底細胞の検出方法を用いることを特徴とする前立腺基底細胞の存在、減少又は消失の確認方法、
[6]抗TRIM29抗体またはその抗原結合断片を用いる免疫組織染色により、対象から採取された前立腺組織における前立腺基底細胞を検出する工程を含む、前立腺がんの診断方法、
[7]正常な前立腺組織との比較における前立腺基底細胞の減少又は消失が前立腺がんの存在を示す、[6]に記載の診断方法、
[8]前立腺がんの診断において使用するための、抗TRIM29抗体またはその抗原結合断片、
[9]前立腺がんの診断のための、抗TRIM29抗体またはその抗原結合断片を含む診断組成物、
[10]前立腺がんの診断のための診断組成物の製造における、抗TRIM29抗体またはその抗原結合断片の使用、
[11]抗TRIM29抗体またはその抗原結合断片を含む、前立腺基底細胞の検出用免疫組織染色キット、及び
[12]抗サイトケラチン抗体もしくはその抗原結合断片及び/又は抗p63抗体もしくはその抗原結合断片を更に含む、[11]に記載の前立腺基底細胞の検出用免疫組織染色キット、
に関する。
【0008】
なお、前記TRIM29の遺伝子は、肺癌、卵巣漿液性乳頭状腺癌、及び子宮頸部上皮内腫瘍との関連が報告されている(特許文献1〜4)。また、TRIM29を含む80のmRNAを調べることにより、前立腺がんの予後を予測する方法が開示されている(特許文献5)。しかしながら、正常前立腺の基底細胞においてTRIM29が発現していることは、報告されていなかった。
【発明の効果】
【0009】
本発明の前立腺基底細胞の検出方法によれば、正常な前立腺基底細胞を確実に検出することができ、前立腺の組織学的な研究に有用である。また、サイトケラチン及び/又はp63の発現の免疫組織染色を併用することにより、更に正確に前立腺基底細胞を検出することが可能である。
また、本発明の前立腺基底細胞の検出方法、及び本発明の前立腺基底細胞の存在、減少又は消失の確認方法によれば、前立腺がんの確定診断を行うことができる。また、サイトケラチン及び/又はp63の発現の免疫組織染色を併用することにより、更に正確に前立腺がんの確定診断を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1]前立腺基底細胞の検出方法
本発明の前立腺基底細胞の検出方法は、前立腺の基底細胞におけるTRIM29(Tripartite motif-containing protein 29)タンパク質の発現を免疫組織染色により可視化することを特徴とするものである。すなわち、前立腺由来のTRIM29が発現している細胞をその形態及びタンパク質の発現から基底細胞と判断することができるものである。更に、前立腺の腺組織構造の形態及び可視化されたTRIM29タンパク質の発現を確認することにより腺組織構造の一部を構成する基底細胞を検出することができるものである。
本発明の検出方法によって検出される前立腺基底細胞を有する動物種は、前立腺に基底細胞を有する限りにおいて限定されるものではなく、哺乳動物、例えばヒト、サル、イヌ、ネコ、フェレット、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、モルモット、ハムスター、スナネズミ、マウス、又はラットを挙げることができる。また、本発明の検出方法は、分離された細胞に用いることもできる。例えば、前記の哺乳動物の分離された基底細胞を含む初代培養細胞、又は継代細胞に使用することもできる。
【0012】
《前立腺》
前立腺は、男性(雄)生殖器系の腺であって、膀胱に下で直腸の前にある。基底細胞と腺細胞との2種類の細胞によって構成されている。組織学的には、前立腺腺細胞の周囲に前立腺基底細胞が存在している。
【0013】
(前立腺腺細胞)
前立腺腺細胞は、アンドロゲン受容体(Androgen receptor)、サイトケラチン8(cytokeratin8)、及びサイトケラチン18(cytokeratin18)を特異的に発現しており、多くの前立腺がんは前立腺線細胞由来である。
【0014】
(前立腺基底細胞)
本発明の検出方法によって検出することのできる前立腺基底細胞は、TRIM29が発現している限りにおいて限定されない。しかしながら、TRIM29が発現していない前立腺基底細胞の存在を否定するものではない。
基底細胞には、TRIM29以外に、p63、サイトケラチン5(cytokeratin5)、及びサイトケラチン14(cytokeratin 14)が特異的に発現している。p63は前立腺の発達に重要な役割を果たすと考えられており、抗p63モノクローナル抗体である4A4を用いた免疫組織染色では基底細胞の核が染色される。また、サイトケラチン5及びサイトケラチン14は細胞質に存在し、抗サイトケラチンモノクローナル抗体である34βE12による免疫組織染色で染色される。なお、モノクローナル抗体34βE12は、サイトケラチン5及びサイトケラチン14以外にも、サイトケラチン1及びサイトケラチン10にも陽性反応を示す抗体である。
【0015】
《TRIM29》
TRIM29(Tripartite motif-containing protein 29)は、TRIM遺伝子ファミリーに属し、ヒトでは588アミノ酸からなるタンパク質であり、別名をATDC(ataxia-telangiectasia group D-associated protein)という。TRIM29は、複数のジンクフィンガーモチーフ(zinc finger motifs)及びロイシンジッパーモチーフ(leucine zipper motif)を有しており、DNAに結合し、分化において転写制御因子として働く可能性が考えられている。また、毛細血管拡張性運動失調(ataxia-telangiectasia)に関連することが知られており、放射線感受性の抑制機能との関連が指摘されている。
本発明において、分析することのできるヒトのTRIM29タンパク質をコードする核酸(以下、ヒトTRIM29遺伝子とも称する)の塩基配列を配列番号1に、該ヒトTRIM29タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。しかしながら、分析対象の遺伝子は、前立腺基底細胞に発現し、且つ配列番号1の塩基配列のTRIM29遺伝子に結合することのできるプローブ又はプライマーとハイブリダイズできる限りにおいて、配列番号1に記載の塩基配列を有するTRIM29遺伝子に限定されない。また、分析対象のタンパク質は、前立腺基底細胞に発現し、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質と結合することのできる抗体と結合できる限りにおいて、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するTRIM29タンパク質に限定されない。すなわち、本発明において、分析されるTRIM29は、前立腺基底細胞に発現する限りにおいて、変異を有するTRIM29でもよい。また、ヒトのTRIM29に限定されるものではなく、哺乳動物のTRIM29でもよく、例えばヒト、サル、イヌ、ネコ、フェレット、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、モルモット、ハムスター、スナネズミ、マウス、又はラットのTRIM29を挙げることができる。変異を有するTRIM29タンパク質の例としては、ヒトTRIM29を例にとると、配列番号2のアミノ酸配列において、1個から数個、例えば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個または9個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質; 配列番号2のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性、例えば80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、または98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質等が挙げられる。
【0016】
《TRIM29タンパク質発現解析》
本発明の検出方法における免疫組織染色によるTRIM29発現解析は、限定されるものではないが、TRIM29タンパク質の発現を可視化するものである。TRIM29タンパク質の発現を可視化することにより、同一の基底細胞において、前立腺基底細胞を形態的に確認することができ、更に前立腺基底細胞及び前立腺の腺組織構造の形態をTRIM29タンパク質の発現により確認することができる。すなわち、本発明の検出方法は、好ましくは前立腺の腺組織構造の形態及び前記可視化されたTRIM29タンパク質の発現を、腺組織構造の一部を構成する基底細胞において解析するものである。
【0017】
なお、本明細書において「可視化」とは、免疫組織染色による発色又は蛍光を光学顕微鏡又は蛍光顕微鏡を介して、肉眼により確認することのみを意味するものではなく、例えば発色、蛍光、発光、又は放射線(すなわち、シグナル)を機械的に検出し、そのシグナルをイメージ化した映像等を確認することを含むものである。
【0018】
また、本明細書において、「前立腺の腺組織構造の形態及び前記可視化されたTRIM29(Tripartite motif-containing protein 29)タンパク質の発現を解析する」とは、前立腺の腺組織構造の形態と、TRIM29タンパク質の発現を同時に観察することのみではなく、例えば、前立腺の腺組織構造の形態と、前記のシグナルをイメージ化した映像等とを比較して観察することを含むものである。
【0019】
前立腺基底細胞におけるTRIM29タンパク質の解析は、免疫組織染色によって行う。前立腺組織における基底細胞の位置、又は基底細胞の形態を確認することができるからである。
【0020】
(免疫組織染色)
免疫組織染色は、確立された技術であり、TRIM29に特異的な抗体を使用することを除いては、公知の方法に基づいて行うことが可能である。すなわち、免疫組織染色とは、組織切片の細胞に発現している特定の抗原を、その抗原を特異的に認識する抗体によって検出する手法である。
具体的には、免疫組織染色は、例えば以下のように行うことができる。前立腺組織を凍結切片として薄切、又は固定後パラフィン包埋したブロックから薄切し、組織切片を作製する。組織切片上にTRIM29を認識する抗体を反応させる。この抗TRIM29抗体を、シグナルを発する物質で標識しておくことにより、TRIM29タンパク質を組織切片上において検出することができる。また、抗TRIM29抗体を標識せずに、抗TRIM29抗体に対する第2抗体を、シグナルを発する物質で標識してもよい。更に、抗TRIM29抗体、又は第2抗体にビオチンを結合させ、ビオチンに特異的に結合するアビジンをシグナルを発する物質で標識してもよい。
抗体の標識に用いられる物質も限定されるものではないが、蛍光色素(例えば、ローダミン、フルオレセインイソチアネート(FITC)、希土類金属キレート)、放射性物質(例えば、
3H、
14C、又は
125I)、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、又はβ−D−ガラクトシダーゼ)などを用いることができる。また、シグナルの検出も限定されるものではないが、蛍光、放射線(オートラジオグラフィー)、発光、又は発色などによって検出することが可能である。蛍光色素として、ローダミン又はFITC等を用いた場合は、蛍光顕微鏡を用いてシグナルを検出できる。また、アルカリフォスファターゼを用い、NBT/BCIP等で発色した場合は、光学顕微鏡下でシグナルを検出することができ、細胞の形態も同時に観察することが可能である。
具体的な方法としては、ペルオキシダーゼ抗ペルオキシダーゼ法(PAP法)、ストレプトアビジンービオチン複合体法(sABC法)、二次抗体と標識酵素とのポリマーへ結合させたポリマー試薬法、又はFITCで標識した一次抗体を用いるか又は二次抗体としてHRP標識抗FITC抗体を用いる方法などが、一般的に用いられている。
【0021】
(抗TRIM29抗体)
本発明における免疫組織染色に用いる抗TRIM29抗体は、免疫原としてTRIM29タンパク質又はその部分ペプチドを用いること以外は、公知の方法によって作成することが可能である。抗TRIM29抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。モノクローナル抗体の方が、他のタンパク質との交差反応が少ないことが多いからである。既存又は市販の抗体を用いることもできる。
例えば、モノクローナル抗体は、KoehlerとMilsteinの方法(Nature 256:495−497、1975)に従って作製することができる。また、ポリクローナル抗体は、例えばウサギの皮内に、NKG2Dリガンドを単独もしくはBSA、KLHなどと結合させた抗原として、フロイント完全アジュバント等のアジュバントと混合して定期的に免疫し、血中の抗体価が上昇した時点で採血してそのまま抗血清とするか、又は抗体を公知の方法で精製して使用することができる。
【0022】
また、免疫学的分析方法に用いる抗体として、TRIM29タンパク質に対する抗原結合部位を含む抗体断片(抗原結合断片)を用いることも可能である。かかる抗体断片としては、例えば、F(ab’)
2、Fab’、Fab、又はFv等を挙げることができる。これらの抗体断片は、例えば、抗体を常法によりタンパク質分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)によって消化し、続いて、常法のタンパク質の分離精製の方法により精製することにより、得ることができる。
【0023】
本発明の前立腺基底細胞の検出方法においては、前記TRIM29タンパク質発現分析に加えて、サイトケラチンタンパク質の発現分析及び/又はp63タンパク質の発現分析を行うことが好ましい。すなわち、TRIM29タンパク質及びサイトケラチンタンパク質を解析してもよく、TRIM29タンパク質及びp63タンパク質を解析してもよく、又は3つのタンパク質を解析してもよい。
本実施態様においては、同一対象(患者)の同一組織切片において、2つ以上のタンパク質を解析してもよい。また、同一対象(患者)の異なる組織切片において、2つ以上のタンパク質を、それぞれ個別に解析してもよい。
【0024】
《サイトケラチンタンパク質発現解析》
本発明の検出方法における免疫組織染色によるサイトケラチン発現解析は、限定されるものではないが、サイトケラチンタンパク質の発現を可視化するものである。サイトケラチンタンパク質の発現を可視化することにより、同一の基底細胞において、前立腺基底細胞を形態的に確認することができ、更に前立腺基底細胞及び前立腺の腺組織構造の形態をサイトケラチンタンパク質の発現により確認することができる。すなわち、本発明の検出方法は、好ましくは前立腺の腺組織構造の形態及び前記可視化されたサイトケラチンタンパク質の発現を、腺組織構造の一部を構成する基底細胞において解析することを含むものである。
【0025】
サイトケラチンのタンパク質の発現解析は、サイトケラチンに特異的な抗体を使用することを除いては、公知の方法に基づいて行うことが可能である。すなわち、サイトケラチンに特異的な抗体を使用することを除いては、前記「TRIM29タンパク質発現解析」に記載の方法に従って、実施することができる。サイトケラチン5のアミノ酸配列を配列番号4に、そしてサイトケラチン14のアミノ酸配列を配列番号6に示す。サイトケラチン5をコードする塩基配列を配列番号3に、サイトケラチン14をコードする塩基配列を配列番号5に示す。
サイトケラチンに特異的な抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であてもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。モノクローナル抗体の方が、他のタンパク質との交差反応が少ないことが多いからである。既存又は市販の抗体を用いることもできる。例えば、市販の抗サイトケラチンモノクローナル抗体である34βE12モノクローナル抗体を用いることができるが、この抗体はサイトケラチン1、5、10、及び14を認識する抗体である。
【0026】
《p63タンパク質発現解析》
本発明の検出方法におけるp63タンパク質発現解析は、限定されるものではないが、p63タンパク質の発現を可視化するものである。p63タンパク質の発現を可視化することにより、同一の基底細胞において、前立腺基底細胞を形態的に確認することができ、更に前立腺基底細胞及び前立腺の腺組織構造の形態をp63タンパク質の発現により確認することができる。すなわち、本発明の検出方法は、好ましくは前立腺の腺組織構造の形態及び前記可視化されたp63タンパク質の発現を、腺組織構造の一部を構成する基底細胞において解析することを含むものである。
【0027】
p63タンパク質の発現分析は、p63に特異的な抗体を使用することを除いては、公知の方法に基づいて行うことが可能である。すなわち、p63に特異的な抗体を使用することを除いては、前記「TRIM29タンパク質発現解析」に記載の方法に従って、実施することができる。p63のアミノ酸配列を配列番号8に示し、p63をコードする塩基配列を配列番号7に示す。
p63に特異的な抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であてもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。モノクローナル抗体の方が、他のタンパク質との交差反応が少ないことが多いからである。既存又は市販の抗体を用いることもできる。例えば、市販の抗p63モノクローナル抗体である4A4モノクローナル抗体を用いることができる。
【0028】
[2]前立腺基底細胞の存在、減少又は消失の確認方法
本発明の前立腺基底細胞の存在、減少又は消失の確認方法は、本発明の前立腺基底細胞の検出方法を用いて、前立腺組織におけるTRIM29(Tripartite motif-containing protein 29)タンパク質の発現を免疫組織染色により可視化することを特徴とするものである。前記確認方法において、TRIM29タンパク質の発現を検出する。このTRIM29タンパク質発現の検出は、前記本発明の前立腺基底細胞の検出方法における「TRIM29タンパク質発現解析」と同じように実施することができる。そして、前記前立腺基底細胞の検出の後に、前立腺基底細胞の存在、減少又は消失を確認する。
本発明の前立腺基底細胞の存在、減少又は消失の確認方法においては、TRIM29タンパク質の発現を免疫組織染色により可視化することにより、基底細胞の形態及び前立腺の腺組織構造の形態と、TRIM29タンパク質の発現との関係を観察することが可能であり、確実に腺組織構造の一部を構成する前立腺基底細胞の存在、減少又は消失を確認することが可能である。
【0029】
例えば、組織切片上において、前立腺基底細胞の存在、減少又は消失を確認する場合、正常前立腺組織の基底細胞におけるTRIM29タンパク質の発現量と比較して、被検試料のTRIM29タンパク質の「存在」、「減少」又は「消失」を蛍光顕微鏡下、又は光学顕微鏡下における可視化したTRIM29タンパク質の発現量を目視によって判定することができる。また、カメラ等で撮影したイメージ中の発色、発光、蛍光、又は放射線などのシグナルを、機械的に可視化し、そのTRIM29タンパク質の発現量を解析することができる。かかる方法によれば、被検試料のTRIM29タンパク質の「存在」、「減少」、又は「消失」を、イメージを肉眼で見ることによって判断することもでき、また上記シグナルを機械的に数値化して判断することも可能である。
例えば、正常前立腺組織の基底細胞におけるTRIM29タンパク質の発現量と比較して、被検試料のTRIM29タンパク質の量が同等の場合、該被検試料において前立腺基底細胞が「存在」していると判断することができる。また被検試料のTRIM29タンパク質の量がほとんど検出できない場合、前立腺基底細胞は「消失」していると判断できる。また、被検試料のTRIM29タンパク質の量が「存在」と「消失」の中間の量の場合、前立腺基底細胞が「減少」していると判断することができる。
【0030】
《前立腺がん》
前立腺がんの場合、前立腺基底細胞が完全に消失したり、一部を残して減少している。従って、本発明の前立腺基底細胞の検出方法、及び前立腺基底細胞の存在、減少又は消失の確認方法によって、前立腺がんの診断、又は確定診断を行うことが可能である。
【0031】
[3]免疫組織染色キット
本発明の前立腺基底細胞の検出用免疫組織染色キットは、抗TRIM29抗体を含むものである。本発明の免疫組織染色キットは、前記前立腺基底細胞の検出方法、前立腺基底細胞の存在、減少又は消失の確認方法、および前立腺がんの診断方法に用いることができる。
本発明の免疫組織染色キットは、TRIM29に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合部位を有する断片(抗原結合断片)が、所望の形態で含まれていることが好ましい。抗TRIM29抗体としては、「[1]前立腺基底細胞の検出方法」に記載の抗TRIM29抗体を用いることができる。すなわち、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれであってもよい。抗体断片としては、TRIM29への特異的結合能を有するもの、すなわち抗原結合部位を有するもの(抗原結合断片)であれば特に限定されるものではない。かかる抗体断片としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)
2、又はFvを用いることができる。
【0032】
更に、本発明の前立腺基底細胞の検出用免疫組織染色キットは、抗サイトケラチン抗体及び/又は抗p63抗体を含むことが好ましい。抗サイトケラチン抗体及び抗p63抗体も、「[1]前立腺基底細胞の検出方法」に記載の抗サイトケラチン抗体及び抗p63抗体、又はその抗原結合部位を有する断片(抗原結合断片)を用いることができる。
更に本発明の前立腺基底細胞の検出用免疫組織染色キットは、酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、又はグルコースオキシダーゼ等を含んでもよい。また、蛍光物質として、フルオレセインイソチアネート又は希土類金属キレート等を含んでもよい。また、放射性同位体として、
3H、
14C、又は
125I等を含んでもよい。なお、本発明に係るキットでは、その他の標識物質として、ビオチン、アビジン、又は化学発光物質等を用いてもよい。また、本発明のキットは、酵素又は化学発光物質に対する適当な基質等を含んでいてもよい。
【0033】
また、本発明のキットは、前立腺基底細胞の検出用であることを明記した使用説明書を含んでいてもよい。前立腺基底細胞の検出用である旨の記載は、キットの容器に付されていてもよい。また、前立腺がんの診断、又は確定診断に用いることが記載されていてもよい。
【0034】
前記抗TRIM29抗体は、前立腺基底細胞の検出用免疫組織染色キットの製造のために使用することができる。また、前記抗サイトケラチン抗体は、前立腺基底細胞の検出用免疫組織染色キットの製造のために使用することができる。更に、抗p63抗体は前立腺基底細胞の検出用免疫組織染色キットの製造のために使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
《実施例1》
本実施例では、抗TRIM29抗体を使用した前立腺組織(正常及びがん)の免疫組織染色を行った。北海道大学大学院医学研究科病理学講座腫瘍病理学分野に保管及び管理されている16検体の前立腺標本を用いて、免疫組織染色を行った。解析に供した前立腺標本の概要を表1に示す。前立腺癌を有する15検体および前立腺上皮内腫瘍(Prostatic Intraepithelial Neoplasia: PIN)を有する1検体を解析した。
【0037】
【表1】
【0038】
(1)抗TRIM29ウサギポリクローナル抗体による染色
1次抗体として抗TRIM29ウサギポリクローナル抗体(サンタクルーズ社製ATDC(H−300)SC−33151)を、希釈液(1%BSAを含んだPBS)で200倍に希釈し、それぞれの組織切片に添加した。1次反応は、37℃、30分で行った。洗浄液(PBS)で、3回洗浄後、2次抗体として、ペルオキシダーゼ標識された抗ウサギ抗体を含む試薬(Dako REALTMEnvisionTM Detection Reagent peroxidase rabbit/mouse)を組織切片に添加した。2次反応は、室温、30分で行った。洗浄液で3回洗浄後、発色液(Dako社REALTMDAB+CHROMOGE N)で発色反応を行った。
【0039】
(2)抗サイトケラチンモノクローナル抗体による染色
更に1次抗体として、抗サイトケラチンモノクローナル抗体である34βE12を用いて、前立腺組織(正常及びがん)の免疫組織染色を行った。200倍に希釈した抗TRIM29ウサギポリクローナル抗体に代えて、1%BSAにて2倍希釈した34βE12(H1205ニチレイ抗高分子サイトケラチンモノクローナル抗体)を用いたことを除いては、前記(1)の操作を繰り返した。
【0040】
上記(1)及び(2)の免疫組織染色の結果の一部を
図1に示す。抗TRIM29抗体は正常前立腺組織の腺細胞の周囲に存在する基底細胞を特異的に染色することが判明した。前立腺がん組織において、抗TRIM29抗体によって染色される細胞及び組織が減少もしくは消失することが判明した。これらの結果は、34βE12を用いて免疫組織染色を行った場合と同等であった。また、34βE12及び抗TRIM29抗体を重複して使用することで前立腺がんの診断の信頼度を高めることができる。
【0041】
《実施例2》
本実施例では、1次抗体として抗TRIM29マウスモノクローナル抗体(抗ATDC(A−5)抗体)(sc−166718)を用いて、正常前立腺の免疫組織染色を行った。
1次抗体として、抗TRIM29マウスモノクローナル抗体A5を用い、2次抗体として、抗マウスIgG二次抗体を用いたこと、並びに検体として正常前立腺組織のみを用いたことを除いては、実施例1(1)の操作を繰り返した。
図2に示すように、非特異的な染色が無く、基底細胞が明瞭に染色された。
【0042】
《実施例3》
本実施例では、抗TRIM29マウスモノクローナル抗体(抗ATDC(A−5)抗体)(sc−166718)及び抗サイトケラチンモノクローナル抗体を用いて、正常前立腺の免疫組織染色を行った。
抗TRIM29マウスモノクローナル抗体については、実施例2の操作を、抗サイトケラチンモノクローナル抗体については、正常前立腺組織のみを用いたことを除いては、実施例1(2)の操作を繰り返した。
図3に示すように、抗TRIM29マウスモノクローナル抗体と抗サイトケラチンモノクローナル抗体とによる染色は、非常に似たものであるが、2つの免疫染色を組み合わせることにより、確実に前立腺基底細胞を確認することができた。
【0043】
また、実施例1〜3の免疫組織染色の結果を解析したところ、前立腺癌の全例に関して、癌組織部分においてはTRIM29の発現が消失していた。一方、前立腺上皮内腫瘍に関しては、正常前立腺と同じように基底細胞部分でTRIM29の発現が認められた。これらの結果を表2に示す。
【0044】
【表2】