特許第6381131号(P6381131)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6381131アンモニア分解触媒及び該触媒の製造方法並びに該触媒を用いたアンモニアの分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381131
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】アンモニア分解触媒及び該触媒の製造方法並びに該触媒を用いたアンモニアの分解方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/232 20060101AFI20180820BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20180820BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20180820BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20180820BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20180820BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20180820BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   B01J27/232 M
   B01J35/10 301G
   B01J37/03 A
   B01J37/02 101E
   B01J37/08
   B01J37/16
   B01J37/02 101D
   C01B3/04 B
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-38592(P2015-38592)
(22)【出願日】2015年2月27日
(65)【公開番号】特開2016-159209(P2016-159209A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年9月14日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構 SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「エネルギーキャリア」「高性能アンモニア分解触媒の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 忠博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 厚
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102188977(CN,A)
【文献】 特開2012−254419(JP,A)
【文献】 特開2006−314970(JP,A)
【文献】 特開2006−341185(JP,A)
【文献】 特開2009−254981(JP,A)
【文献】 WANG Xiuyun, et al.,Highly efficient Ru/MgO-CeO2 catalyst for ammonia synthesis,Catalysis Communications,2010年,Vol.12,pp. 251-254,Available online 25 September 2010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C01B 3/00 − 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性炭酸マグネシウムを含む酸化マグネシウム担体と該記担体に均一に担持されたルテニウムを含有することを特徴とするアンモニア分解触媒。
【請求項2】
30Å付近に細孔径分布のピークを有することを特徴とする請求項1に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
活性助剤として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1つの金属を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項4】
マグネシウム化合物及びルテニウム化合物を含む水溶液中でアルカリ金属炭酸塩により沈殿させる工程、得られた沈殿を乾燥する工程、焼成する工程、及び還元する工程を含むことを特徴とするアンモニア分解触媒の製造方法。
【請求項5】
前記焼成を、400℃を超え600℃未満で行うことを特徴とする請求項4に記載のアンモニア分解触媒の製造方法。
【請求項6】
前記還元を、還元性ガスを含む雰囲気中で行うことを特徴とする請求項4又は5に記載のアンモニア分解触媒の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥後の沈殿に、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の水溶液を含浸させた後、乾燥させる工程を含むことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒の製造方法。
【請求項8】
前記マグネシウム化合物及びルテニウム化合物を含む水溶液に、更にアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含有させることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒の存在下でアンモニアを分解することを特徴とするアンモニアの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアガスを効率よく分解し水素を製造するためのアンモニア分解触媒、及び該触媒の製造方法並びに該触媒を用いたアンモニアの分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から水素をクリーンエネルギー源として用いることが注目されており、例えば、水素を燃料とする燃料電池車の開発が活発に行われている。一方、水素は気体の状態では非常に軽いために、輸送することが困難であるという問題がある。解決策としては圧縮、または液化する方法があるが、エネルギー消費が大きく課題が残る。この課題を解決する方法として、液体アンモニアとして水素を貯蔵・輸送して、アンモニアの接触分解により水素を製造する試みがなされている。アンモニアから燃料電池の燃料として使用される水素を生成する場合には、アンモニアが電池を被毒することからほぼ完全に分解可能な高い性能をもつアンモニア分解触媒が必要となる。
【0003】
従来、アンモニアを水素と窒素に分解する方法や触媒としては、以下の技術が知られている。
(1)シリカや酸化ランタンなどの無機質担体にニッケルやコバルトを含浸担持法等により担持した触媒を使用し、加熱下でアンモニアを接触させ、水素と窒素に分解する方法(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2参照)。
(2)アルミナ、シリカ、酸化マグネシウムなどの無機質担体に、含浸担持法等により白金族(ルテニウム)を担持した触媒を使用し、加熱下でアンモニアを接触させ、水素と窒素に分解する方法(特許文献2〜5参照)。
【0004】
中でもルテニウムを担持した触媒はアンモニアの分解に際して最も高い活性を示すが、実用化に際し、さらなる高活性化が望まれている。
しかし、従来の触媒では、ルテニウムを担体に均一に分散し、担持させることは難しく、触媒としての充分な機能が発揮し難いものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】化学工学会 第75年会要旨集, P303
【非特許文献2】Applied Catalysis A,443-444 (2012) 119-124
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−84910号公報
【特許文献2】国際公開第2011/125653号
【特許文献3】特公平06−015041号公報
【特許文献4】特許第03760257号公報
【特許文献5】特開2009−254981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、活性種であるルテニウムを担体に均一に分散し、担持させることで極めて高い触媒活性を有するアンモニア分解触媒、および該触媒を用いたアンモニア分解方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、マグネシウム化合物とルテニウム化合物を、水溶液中でアルカリ金属炭酸塩により沈殿させ、乾燥、焼成、還元を経て作製されたルテニウム担持触媒が上記目的を達成できることを見出した。これは、アルカリ金属炭酸塩により沈殿したマグネシウム炭酸塩とルテニウム水酸化物が高度に分散した状態で緩く結びつき、さらに焼成条件を制御することで、高い比表面積を有し、30Å付近に細孔径分布のピークを持つ塩基性炭酸マグネシウムを含む担体に、ルテニウム種を均一に高分散した状態とすることができるためである。また、該触媒に、活性助剤としてアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を添加することでさらに活性が向上することも合わせて見出した。
【0009】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、以下の構成を要旨とするものである。
[1]塩基性炭酸マグネシウムを含む酸化マグネシウム担体と該記担体に担持されたルテニウムを含有することを特徴とするアンモニア分解触媒。
[2]30Å付近に細孔径分布のピークを有することを特徴とする[1]に記載のアンモニア分解触媒。
[3]活性助剤として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1つの金属を含有することを特徴とする[1]〜[2]のいずれかに記載のアンモニア分解触媒。
[4]マグネシウム化合物及びルテニウム化合物を含む水溶液中でアルカリ金属炭酸塩により沈殿させる工程、得られた沈殿を乾燥する工程、焼成する工程、及び還元する工程を含むことを特徴とするアンモニア分解触媒の製造方法。
[5]前記焼成を、400℃を超え600℃未満で行うことを特徴とする[4]に記載のアンモニア分解触媒の製造方法。
[6]前記還元を、還元性ガスを含む雰囲気中で行うことを特徴とする[4]又は[5]に記載のアンモニア分解触媒の製造方法。
[7]前記乾燥後の沈殿に、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の水溶液を含浸させた後、乾燥させる工程を含むことを特徴とする[4]〜[6]のいずれかに記載のアンモニア分解触媒の製造方法。
[8]前記マグネシウム化合物及びルテニウム化合物を含む水溶液に、更にアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を含有させることを特徴とする[4]〜[6]のいずれかに記載のアンモニア分解触媒の製造方法。
[9][4]〜[8]のいずれかに記載された方法で製造されたアンモニア分解触媒。
[10][1]〜[3]及び[9]のいずれかに記載のアンモニア分解触媒の存在下でアンモニアを分解することを特徴とするアンモニアの分解方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、活性種であるルテニウムを無機質担体に均一に分散し、担持させることで極めて高い触媒活性を有するアンモニア分解能を示す触媒が提供される。
また、本発明によれば、かかる触媒を使用することにより、低温でも非常に高い活性を示すアンモニアを水素と窒素に効率良く分解する方法、或いは、アンモニアから燃料電池用の水素と窒素とを効率的に製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例6〜8で調製した触媒について、微分細孔容積分布を測定した結果を示す図。
図2】実施例6〜8で調製した触媒について、アンモニア分解反応前の触媒の粉末X線結晶構造解析を行った結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における担体を構成する成分である塩基性炭酸マグネシウムそのものは、アンモニア分解活性を全く示さない。また、市販の塩基性炭酸マグネシウムにルテニウムを含浸担持法により担持した触媒では、アンモニア分解活性を示すものの、その活性は低い。一方、マグネシウム化合物とルテニウム化合物を、水溶液中、アルカリ水酸化物、アンモニア、アンモニウム塩等による塩基性化合物で沈殿させ、これを乾燥、焼成、還元により調製したルテニウム担持触媒においてもアンモニア分解活性はさほど高くない。
【0013】
これに対し、本発明の、マグネシウム化合物とルテニウム化合物を、水溶液中でアルカリ金属炭酸塩により沈殿させ、乾燥、焼成、還元を経て作製されたルテニウム担持触媒は、著しく高いアンモニア分解性能を有する。このような特異的な活性は、マグネシウム化合物とルテニウム化合物をアルカリ金属炭酸塩により沈殿させ調製することによって始めて発現するものである。
【0014】
本発明における、触媒の調製における沈殿物作製の過程においては、マグネシウム化合物ならびにルテニウム化合物の混合溶液にアルカリ金属炭酸塩を後から添加する方法、もしくはアルカリ金属炭酸塩水溶液にマグネシウム化合物ならびにルテニウム化合物の混合溶液を添加する方法、もしくはアルカリ金属炭酸塩水溶液にマグネシウム化合物の溶液とルテニウム化合物の溶液を別々に同時あるいは逐次的に添加する方法等で行うことができる。この際、マグネシウム化合物の形態は水溶性の塩化物、硝酸塩、酢酸塩、アンミン錯体等が好ましく用いられる。特に好ましくは、残存陰イオンを空気中の焼成処理により比較的低温で分解できる硝酸マグネシウムが用いられる。また、ルテニウム化合物の形態は、水溶性の塩化物、硝酸塩、酢酸塩、アンミン錯体等が好ましく用いられる。特に好ましくは、安価な塩化ルテニウムが用いられる。
【0015】
沈殿剤であるアルカリ金属炭酸塩の形態は炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等が好ましく用いられる。また、アルカリ金属の炭酸水素塩も好ましく用いられる。特に好ましくは、炭酸カリウムが用いられる。例えば、炭酸カリウム水溶液中に硝酸マグネシウム水溶液、塩化ルテニウム水溶液を添加することにより、塩基性炭酸マグネシウムとルテニウム水酸化物からなる沈殿が得られる。この沈殿では、塩基性炭酸マグネシウムとルテニウム水酸化物が高度に分散した状態で緩く結びついた状態で存在している。
【0016】
得られた沈殿は、大気中静置して熟成させるのが好ましいが、熟成させなくてもよい。熟成は、常温〜80℃で、1〜144時間で行うのが好ましい。その後、濾過、必要に応じて水洗を行い、乾燥し、空気中で焼成を行うことによって製造することができる。
【0017】
活性助剤であるアルカリ金属、もしくはアルカリ土類金属の担持方法は、前記の手順に従って得られた沈殿物を乾燥したものに、アルカリ金属化合物もしくはアルカリ土類金属化合物からなる水溶液を含浸させた後、乾燥、焼成する。あるいは、沈殿作製時に、沈殿剤の水溶液中にアルカリ金属、もしくはアルカリ土類金属水溶液を混合した水溶液を供給し、沈殿を乾燥、焼成する方法を用いてもよい。
【0018】
活性助剤であるアルカリ金属化合物の形態は水溶性の水酸化物、硝酸塩、塩化物等が好ましく用いられる。特に、水酸化物である水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が好ましく用いられる。特に好ましくは、水酸化セシウムが用いられる。また、アルカリ土類金属化合物の形態は水溶性の水酸化物、硝酸塩、塩化物等が好ましく用いられる。特に、水酸化物である水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が好ましく用いられる。特に好ましくは、水酸化バリウムが用いられる。アルカリ金属化合物の含有量として、Ru含有量に対して原子比で1/10〜10、好ましくは1/2〜2の範囲で効果を示す。
【0019】
焼成は、酸素含有雰囲気、好ましくは大気中で、300〜900℃、好ましくは400〜700℃で、1〜12時間で行い、低温、短時間であると、化合物の分解が十分に進行せず、高温、長時間であると、含有成分の凝集やシンタリングが起きて、触媒の活性が低下してしまう。焼成後には、塩基性炭酸マグネシウムは、焼成温度に従い塩基性炭酸マグネシウムのまま、もしくは一部あるいは全てが酸化マグネシウムとして存在すると考えられる。ルテニウムは、酸化物として存在すると考えられる。
【0020】
本発明の触媒の形状は、特に制約はなく、粉状、粒状、球状、円柱状、リング状などのほか、特に、本発明の触媒は高い空間速度においても高い活性を示すことから、ハニカム状でも使用が可能である。
【0021】
上記触媒は還元処理を行うことにより、アンモニアガスから水素と窒素との生成をより高転化率で行うことができる。これは、主に、前記ルテニウムが、還元処理によって、還元処理前の酸化物の状態から活性状態である金属の状態に分散された状態で形成され、アンモニア分解触媒として機能するためである。
【0022】
この際、還元処理は、使用前に還元性ガスにより行ってもよく、また、使用中アンモニアガスによって行っても良い。還元処理は、還元性のガスの雰囲気に暴露することにより行うのが好ましい。還元性のガスとしては、特に制約はなく、水素ガス、アンモニアガス、ヒドラジンガス、一酸化炭素等が挙げられ、それだけで使用しても、また不活性ガスと混合して用いても良い。
【0023】
還元性ガスの還元処理時間は特に制限しないが、1〜2時間が好ましい。また、還元処理の温度は、300〜900℃が好ましい。
【0024】
本発明のアンモニア分解触媒を用いることによりアンモニアを分解することができる。アンモニアの分解は、エネルギー源としての水素製造の観点からアンモニアを分解して水素と窒素を製造する場合や、公害防止などの観点から有害物としてのアンモニアを水素と窒素に分解する場合のいずれにも使用される。
【0025】
本発明におけるアンモニア分解触媒を用いるアンモニアの分解反応は、温度が300〜900℃であるのが好ましく、400〜600℃がより好ましい。アンモニアの体積空間速度は1000〜50000h-1であるのが好ましく、2000〜20000h-1であるのがより好ましい。
【0026】
アンモニアの分解時の圧力は、適宜調整することができ、常圧であるのが特に好ましい。
【0027】
アンモニア分解反応の反応装置の形式に特に制限はなく、バッチ式、流通式のいずれの装置も使用し得るが、流通式が効率も良いので好ましい。また、固定床方式、又は流動床方式のいずれも採用できるが、固定床方式が好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるべきではない。
【0029】
(実施例1)
本実施例では、Ru出発原料は塩化ルテニウム(RuCl3・nH2O)とし、担体原料は硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2・6H2O)(和光純薬工業、特級)とした。
焼成後のRu担持触媒中のRuの量が3質量%となるように、塩化ルテニウム0.296g及び硝酸マグネシウム25.340gを計り取り、400mLの純水に溶解した。得られた混合溶液を激しく撹拌しながら、0.3mol/Lの炭酸カリウム溶液400mLを徐々に加え、沈殿物を作製した。沈殿物は常温で24時間静置し、熟成させた。その後、濾過、洗浄し、110℃で24時間乾燥した。これを空気中において550℃で2時間焼成しRu担持触媒を得た。
【0030】
上記のようにして得られた本発明の触媒0.2gを常圧流通式反応装置に充填した。触媒床温度を測定するための熱電対を触媒床中心付近に配置した。
触媒は反応前に20%H2/窒素気流中、550℃、1時間還元を施した。100%アンモニアガスを反応ガスとし、反応温度400℃、流量100ml/min(W/F 0.002g・min/cc、SVでは15000h-1に相当)で触媒床に流通し、その生成ガスを、ガスクロマトグラフ(N2、H2、NH3分析)で分析した。
活性評価は、次式に示すH2収率により行い、その結果を表1に示した。
2収率=[3×H2濃度/2×NH3入口濃度]×100(%)
【0031】
(実施例2)
実施例1において、反応温度を450℃とした以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0032】
(実施例3)
実施例1において、反応温度を500℃とした以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0033】
(実施例4)
実施例1において、反応温度を600℃とした以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0034】
(比較例1)
本比較例では、担体を酸化マグネシウム(和光純薬工業)としてRuを含浸法にて担持した以外は、実施例1と同様にしてRu担持触媒を得た。すなわち、所定量の酸化マグネシウムに、焼成後のRu担持触媒中のRuの量が3質量%となるように塩化ルテニウム(RuCl3・nH2O)を溶解した水溶液を加えて含浸させた後、110℃で24時間乾燥し、これを空気中において550℃で2時間焼成した。
こうして得られたRu担持触媒を用いて、実施例1と同様にアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0035】
(比較例2)
比較例1において、反応温度を450℃とした以外は、比較例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0036】
(比較例3)
比較例1において、反応温度を500℃とした以外は、比較例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0037】
(比較例4)
比較例1において、反応温度を600℃とした以外は、比較例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、実施例1〜4の本発明の触媒活性は、比較例1〜4に示す従来技術の含浸法で調製した触媒の活性に比べて著しく高く、反応温度が450℃以上では、ほぼ平衡値まで到達している。このことは、マグネシウム化合物とルテニウム化合物とをアルカリ金属炭酸塩にて沈殿させることで、これまでにないRuの触媒性能が現れることを示している。
【0040】
(比較例5)
硝酸マグネシウムを硝酸イットリアに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表2に示した。
【0041】
(比較例6)
硝酸マグネシウムを硝酸ランタンに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表2に示した。
【0042】
(比較例7)
硝酸マグネシウムを硝酸セリウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表2に示した。
【0043】
(比較例8)
硝酸マグネシウムを硝酸アルミニウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表2に示した。
【0044】
(比較例9)
硝酸マグネシウムを硝酸カルシウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表2に示した。
【0045】
【表2】
【0046】
表2から、担体原料としてマグネシウム化合物を用いた本発明の触媒は、他の担体原料化合物を用いた場合よりも活性が著しく高いことがわかる。
このことから、マグネシウムを含む担体を用いることにより高い触媒性能が発揮されることがわかる。
【0047】
(実施例5)
炭酸カリウムを炭酸ナトリウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表3に示した。
【0048】
(比較例10)
炭酸カリウムを水酸化ナトリウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表3に示した。
【0049】
(比較例11)
炭酸カリウムを水酸化カリウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表3に示した。
【0050】
(比較例12)
炭酸カリウムをアンモニアに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表3に示した。
【0051】
【表3】
【0052】
表3から、沈殿剤としてアルカリ金属炭酸塩を用いた本発明の触媒は、水酸化物等の沈殿剤を用いた場合よりも活性が高くなっており、炭酸塩が高活性化に寄与していることが示される。特に沈殿剤に炭酸カリウムを用いることにより顕著に高い触媒性能が発揮されることがわかる。これは、沈殿生成時に炭酸カリウムにより塩基性炭酸マグネシウムとルテニウム水酸化物が生成するが、これらが高度に分散した状態で緩く結びついており、その結果、焼成後に塩基性炭酸マグネシウム上にルテニウム種が高分散した状態で担持されているためである。
【0053】
(実施例6)
実施例2において、触媒の焼成温度を400℃とした以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表4に示した。
【0054】
(実施例7)
実施例2において、触媒の焼成温度を500℃とした以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表4に示した。
【0055】
(実施例8)
実施例2において、触媒の焼成温度を600℃とした以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表4に示した。
【0056】
(実施例9)
実施例2において、触媒の焼成温度を700℃とした以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表4に示した。
【0057】
【表4】
【0058】
表4に示すように、400℃から550℃までは活性はほとんどかわらず、焼成温度にはほとんど影響されないことがわかる。一方、焼成温度を600℃、700℃と高くした場合では温度が増加するにつれて活性が著しく低下する。硝酸マグネシウムと炭酸カリウムにより生成した沈殿物である塩基性炭酸マグネシウムは、600℃付近で分解が終了し、酸化マグネシウムに変化することから、開発した触媒では、担体成分として塩基性炭酸マグネシウムが存在することによって高活性化されていると見なせる。
【0059】
実施例6、7及び8で調製した触媒について、比表面積、細孔容積、及び細孔容積を測定した。その結果を表5に示す。また、同触媒について、微分細孔容積分布の測定及びアンモニア分解反応前の触媒の粉末X線結晶構造解析を行った。その結果を、それぞれ図1及び図2に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
表5より、焼成温度の増加に従い、比表面積、細孔容積とも低下することがわかる。
また、図1より、細孔径分布を比較すると、焼成温度が400℃の場合では30Å付近の細孔が多く見られるのに対し、焼成温度の増加に伴いこの30Å付近の細孔は減少し、代わりに200Å付近の細孔が増加するようになる。すなわち、塩基性炭酸マグネシウムが存在する状況では、マグネシウム担体は、細孔径が小さく表面積も高い状態であるが、塩基性炭酸マグネシウムの分解が進み酸化マグネシウムが増えてくるにつれ細孔径も大きくなり、比表面積も低下すると考えられる。さらに焼成温度と結晶構造の関係(図2)を比較すると、焼成温度が400℃の場合では15、31°付近に塩基性炭酸マグネシウム由来のピークが存在し、酸化マグネシウム由来のピークは存在しない。焼成温度が500℃においても、ピークは不明瞭であるが上記塩基性炭酸マグネシウム由来のピークが存在する。一方、焼成温度600℃では、上記塩基性炭酸マグネシウム由来のピークは消失し、42、62°付近に酸化マグネシウム由来のピークが観察される。すなわち、表4の活性の結果と合わせて考えると、マグネシウム化合物とルテニウム化合物とをアルカリ金属炭酸塩にて沈殿する方法で調製された触媒では、塩基性炭酸マグネシウムが存在することにより、触媒の比表面積は高く、また、多くの小さな細孔が存在し、その結果、Ruが従来にはない均一に高分散した状態で担持されており、これが高い活性を示した要因となっている。
【0062】
(比較例13)
担体を塩基性炭酸マグネシウム(和光純薬工業)としてRuを含浸法にて担持した以外は、比較例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表6に示した。
【0063】
【表6】
【0064】
表6に示すように、実施例2の本発明の触媒活性は、比較例13に示す塩基性炭酸マグネシウムに含浸担持した触媒の活性に比べて著しく高いことがわかる。このことは、担体が塩基性炭酸マグネシウムであっても、従来の含浸法では機能せず、本発明の触媒で用いているマグネシウム化合物とルテニウム化合物とをアルカリ金属炭酸塩にて沈殿させる方法により生成した塩基性炭酸マグネシウム担体によってのみ、ルテニウムの高い活性が現れることを示している。
【0065】
(実施例10)
実施例2において調製したRu担持触媒に、助触媒成分として水酸化セシウムをCsとRuの原子比が0.5となるように添加し含浸担持した触媒を用いた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。なお、助触媒成分であるCsの担持方法は、実施例1に従って得られた沈殿物を乾燥したものに、水酸化セシウム水溶液を含浸させた後、実施例1と同様に乾燥、焼成を行った。
【0066】
(実施例11)
水酸化セシウムをCsとRuの原子比が1.0となるように添加した以外は、実施例10と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。
【0067】
(実施例12)
水酸化セシウムをCsとRuの原子比が2.0となるように添加した以外は、実施例10と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。
【0068】
(実施例13)
実施例2において調製したRu担持触媒に、助触媒成分として水酸化バリウムをBaとRuの原子比が0.5となるように添加し含浸担持した触媒を用いた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。なお、実施例10と同様に、助触媒成分であるCsの担持方法は、実施例1に従って得られた沈殿物を乾燥したものに、水酸化バリウム水溶液を含浸させた後、実施例1と同様に乾燥、焼成を行った。
【0069】
(実施例14)
水酸化バリウムをBaとRuの原子比が1.0となるように添加した以外は、実施例13と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。
【0070】
(実施例15)
水酸化バリウムをBaとRuの原子比が2.0となるように添加した以外は、実施例13と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。
【0071】
【表7】
【0072】
表7に示すように、助触媒成分としてアルカリ金属であるCsはCs/Ru原子比が0.5〜2.0に至るまで高い活性が得られ、特に原子比1.0においては収率が99.6%に達し、ほぼ完全な分解が達成されている。また、アルカリ土類金属であるBaの添加も有効であり、どの添加量においても収率が向上している。すなわち、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の助触媒成分としての添加が、アンモニア分解活性の向上に有効であることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のアンモニア分解触媒は、アンモニアから燃料電池用の水素と窒素とを効率的に製造する場合や、有害なアンモニアを水素と窒素に効率良く分解する場合などのアンモニアの分解に広く利用できる。
図1
図2