【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるべきではない。
【0029】
(実施例1)
本実施例では、Ru出発原料は塩化ルテニウム(RuCl
3・nH
2O)とし、担体原料は硝酸マグネシウム(Mg(NO
3)
2・6H
2O)(和光純薬工業、特級)とした。
焼成後のRu担持触媒中のRuの量が3質量%となるように、塩化ルテニウム0.296g及び硝酸マグネシウム25.340gを計り取り、400mLの純水に溶解した。得られた混合溶液を激しく撹拌しながら、0.3mol/Lの炭酸カリウム溶液400mLを徐々に加え、沈殿物を作製した。沈殿物は常温で24時間静置し、熟成させた。その後、濾過、洗浄し、110℃で24時間乾燥した。これを空気中において550℃で2時間焼成しRu担持触媒を得た。
【0030】
上記のようにして得られた本発明の触媒0.2gを常圧流通式反応装置に充填した。触媒床温度を測定するための熱電対を触媒床中心付近に配置した。
触媒は反応前に20%H
2/窒素気流中、550℃、1時間還元を施した。100%アンモニアガスを反応ガスとし、反応温度400℃、流量100ml/min(W/F 0.002g・min/cc、SVでは15000h
-1に相当)で触媒床に流通し、その生成ガスを、ガスクロマトグラフ(N
2、H
2、NH
3分析)で分析した。
活性評価は、次式に示すH
2収率により行い、その結果を表1に示した。
H
2収率=[3×H
2濃度/2×NH
3入口濃度]×100(%)
【0031】
(実施例2)
実施例1において、反応温度を450℃とした以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0032】
(実施例3)
実施例1において、反応温度を500℃とした以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0033】
(実施例4)
実施例1において、反応温度を600℃とした以外は、実施例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0034】
(比較例1)
本比較例では、担体を酸化マグネシウム(和光純薬工業)としてRuを含浸法にて担持した以外は、実施例1と同様にしてRu担持触媒を得た。すなわち、所定量の酸化マグネシウムに、焼成後のRu担持触媒中のRuの量が3質量%となるように塩化ルテニウム(RuCl
3・nH
2O)を溶解した水溶液を加えて含浸させた後、110℃で24時間乾燥し、これを空気中において550℃で2時間焼成した。
こうして得られたRu担持触媒を用いて、実施例1と同様にアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0035】
(比較例2)
比較例1において、反応温度を450℃とした以外は、比較例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0036】
(比較例3)
比較例1において、反応温度を500℃とした以外は、比較例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0037】
(比較例4)
比較例1において、反応温度を600℃とした以外は、比較例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表1に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、実施例1〜4の本発明の触媒活性は、比較例1〜4に示す従来技術の含浸法で調製した触媒の活性に比べて著しく高く、反応温度が450℃以上では、ほぼ平衡値まで到達している。このことは、マグネシウム化合物とルテニウム化合物とをアルカリ金属炭酸塩にて沈殿させることで、これまでにないRuの触媒性能が現れることを示している。
【0040】
(比較例5)
硝酸マグネシウムを硝酸イットリアに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表2に示した。
【0041】
(比較例6)
硝酸マグネシウムを硝酸ランタンに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表2に示した。
【0042】
(比較例7)
硝酸マグネシウムを硝酸セリウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表2に示した。
【0043】
(比較例8)
硝酸マグネシウムを硝酸アルミニウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表2に示した。
【0044】
(比較例9)
硝酸マグネシウムを硝酸カルシウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表2に示した。
【0045】
【表2】
【0046】
表2から、担体原料としてマグネシウム化合物を用いた本発明の触媒は、他の担体原料化合物を用いた場合よりも活性が著しく高いことがわかる。
このことから、マグネシウムを含む担体を用いることにより高い触媒性能が発揮されることがわかる。
【0047】
(実施例5)
炭酸カリウムを炭酸ナトリウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表3に示した。
【0048】
(比較例10)
炭酸カリウムを水酸化ナトリウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表3に示した。
【0049】
(比較例11)
炭酸カリウムを水酸化カリウムに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表3に示した。
【0050】
(比較例12)
炭酸カリウムをアンモニアに代えた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表3に示した。
【0051】
【表3】
【0052】
表3から、沈殿剤としてアルカリ金属炭酸塩を用いた本発明の触媒は、水酸化物等の沈殿剤を用いた場合よりも活性が高くなっており、炭酸塩が高活性化に寄与していることが示される。特に沈殿剤に炭酸カリウムを用いることにより顕著に高い触媒性能が発揮されることがわかる。これは、沈殿生成時に炭酸カリウムにより塩基性炭酸マグネシウムとルテニウム水酸化物が生成するが、これらが高度に分散した状態で緩く結びついており、その結果、焼成後に塩基性炭酸マグネシウム上にルテニウム種が高分散した状態で担持されているためである。
【0053】
(実施例6)
実施例2において、触媒の焼成温度を400℃とした以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表4に示した。
【0054】
(実施例7)
実施例2において、触媒の焼成温度を500℃とした以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表4に示した。
【0055】
(実施例8)
実施例2において、触媒の焼成温度を600℃とした以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表4に示した。
【0056】
(実施例9)
実施例2において、触媒の焼成温度を700℃とした以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表4に示した。
【0057】
【表4】
【0058】
表4に示すように、400℃から550℃までは活性はほとんどかわらず、焼成温度にはほとんど影響されないことがわかる。一方、焼成温度を600℃、700℃と高くした場合では温度が増加するにつれて活性が著しく低下する。硝酸マグネシウムと炭酸カリウムにより生成した沈殿物である塩基性炭酸マグネシウムは、600℃付近で分解が終了し、酸化マグネシウムに変化することから、開発した触媒では、担体成分として塩基性炭酸マグネシウムが存在することによって高活性化されていると見なせる。
【0059】
実施例6、7及び8で調製した触媒について、比表面積、細孔容積、及び細孔容積を測定した。その結果を表5に示す。また、同触媒について、微分細孔容積分布の測定及びアンモニア分解反応前の触媒の粉末X線結晶構造解析を行った。その結果を、それぞれ
図1及び
図2に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
表5より、焼成温度の増加に従い、比表面積、細孔容積とも低下することがわかる。
また、
図1より、細孔径分布を比較すると、焼成温度が400℃の場合では30Å付近の細孔が多く見られるのに対し、焼成温度の増加に伴いこの30Å付近の細孔は減少し、代わりに200Å付近の細孔が増加するようになる。すなわち、塩基性炭酸マグネシウムが存在する状況では、マグネシウム担体は、細孔径が小さく表面積も高い状態であるが、塩基性炭酸マグネシウムの分解が進み酸化マグネシウムが増えてくるにつれ細孔径も大きくなり、比表面積も低下すると考えられる。さらに焼成温度と結晶構造の関係(
図2)を比較すると、焼成温度が400℃の場合では15、31°付近に塩基性炭酸マグネシウム由来のピークが存在し、酸化マグネシウム由来のピークは存在しない。焼成温度が500℃においても、ピークは不明瞭であるが上記塩基性炭酸マグネシウム由来のピークが存在する。一方、焼成温度600℃では、上記塩基性炭酸マグネシウム由来のピークは消失し、42、62°付近に酸化マグネシウム由来のピークが観察される。すなわち、表4の活性の結果と合わせて考えると、マグネシウム化合物とルテニウム化合物とをアルカリ金属炭酸塩にて沈殿する方法で調製された触媒では、塩基性炭酸マグネシウムが存在することにより、触媒の比表面積は高く、また、多くの小さな細孔が存在し、その結果、Ruが従来にはない均一に高分散した状態で担持されており、これが高い活性を示した要因となっている。
【0062】
(比較例13)
担体を塩基性炭酸マグネシウム(和光純薬工業)としてRuを含浸法にて担持した以外は、比較例1と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表6に示した。
【0063】
【表6】
【0064】
表6に示すように、実施例2の本発明の触媒活性は、比較例13に示す塩基性炭酸マグネシウムに含浸担持した触媒の活性に比べて著しく高いことがわかる。このことは、担体が塩基性炭酸マグネシウムであっても、従来の含浸法では機能せず、本発明の触媒で用いているマグネシウム化合物とルテニウム化合物とをアルカリ金属炭酸塩にて沈殿させる方法により生成した塩基性炭酸マグネシウム担体によってのみ、ルテニウムの高い活性が現れることを示している。
【0065】
(実施例10)
実施例2において調製したRu担持触媒に、助触媒成分として水酸化セシウムをCsとRuの原子比が0.5となるように添加し含浸担持した触媒を用いた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。なお、助触媒成分であるCsの担持方法は、実施例1に従って得られた沈殿物を乾燥したものに、水酸化セシウム水溶液を含浸させた後、実施例1と同様に乾燥、焼成を行った。
【0066】
(実施例11)
水酸化セシウムをCsとRuの原子比が1.0となるように添加した以外は、実施例10と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。
【0067】
(実施例12)
水酸化セシウムをCsとRuの原子比が2.0となるように添加した以外は、実施例10と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。
【0068】
(実施例13)
実施例2において調製したRu担持触媒に、助触媒成分として水酸化バリウムをBaとRuの原子比が0.5となるように添加し含浸担持した触媒を用いた以外は、実施例2と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。なお、実施例10と同様に、助触媒成分であるCsの担持方法は、実施例1に従って得られた沈殿物を乾燥したものに、水酸化バリウム水溶液を含浸させた後、実施例1と同様に乾燥、焼成を行った。
【0069】
(実施例14)
水酸化バリウムをBaとRuの原子比が1.0となるように添加した以外は、実施例13と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。
【0070】
(実施例15)
水酸化バリウムをBaとRuの原子比が2.0となるように添加した以外は、実施例13と同様にしてアンモニア分解反応を行い、その結果を表7に示した。
【0071】
【表7】
【0072】
表7に示すように、助触媒成分としてアルカリ金属であるCsはCs/Ru原子比が0.5〜2.0に至るまで高い活性が得られ、特に原子比1.0においては収率が99.6%に達し、ほぼ完全な分解が達成されている。また、アルカリ土類金属であるBaの添加も有効であり、どの添加量においても収率が向上している。すなわち、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の助触媒成分としての添加が、アンモニア分解活性の向上に有効であることが示されている。