(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の納豆は、蒸煮大豆又は煮大豆に納豆菌を植菌し、37〜53℃の温度帯において発酵を行った後、3.5時間以内の間、豆の品温を実質的に54〜67℃の温度帯に維持して加熱処理を行って得られる納豆であって、当該加熱処理の直後において、下記(A)及び(B)に記載の条件を満たすことを特徴とする、納豆である。
(A)遊離アミノ酸含有量が14.5mg/g納豆以下であること。
(B)γ−PGAの含有量が1.1mg/g納豆を超えること。
【0012】
本発明の納豆は、本発明の製造方法により製造することができるので、以下、本発明の製造方法について説明しつつ、本発明の納豆について説明することにする。
【0013】
本発明の製造方法は、納豆を製造するにあたり、蒸煮大豆又は煮大豆に納豆菌を植菌し、37〜53℃の温度帯において発酵を行った後、3.5時間以内の間、豆の品温を実質的に54〜67℃の温度帯に維持して加熱処理を行うことを特徴とするものであり、これにより、保存性の向上した納豆、より具体的には、上記(A)及び(B)に記載の条件を満たす納豆、を製造することができる。
【0014】
納豆は、原料大豆の選別工程、洗浄工程、水への浸漬工程、蒸煮工程、納豆菌の接種工程、充填工程、発酵工程、包装工程、を経て製造され、さらに発酵終了後は、直ちに5℃以下に冷却・冷蔵されて出荷され、流通されている。
本発明による納豆の製造方法は、発酵工程に引き続いて加熱工程を行うことに加えて、納豆菌の接種工程において特定の納豆菌を接種し、発酵をこの特定の納豆菌を用いて行うか、或いは、発酵工程において通常よりも発酵温度を高くする点に特色を有している。
【0015】
従って、これ以外の工程(原料大豆の選別工程、洗浄工程、水への浸漬工程、蒸煮工程、充填工程、包装工程)については、通常行われている条件と同様にして行うことができる。
【0016】
すなわち、原料は大豆であるが、原料大豆の選別工程において、形の整ったものを選別して用いる。大豆としては、特に制限はないが、丸大豆が好ましく、丸大豆の中でも特に中粒、大粒の大豆が好適である。また、これら原料大豆は、乾燥処理を行ったものでも、乾燥処理を行わないで生のままでも用いることができる。
【0017】
次に、洗浄工程において、常法に従い、選別した原料大豆を水にて洗浄した後、水へ浸漬して吸水させる(水への浸漬工程)。
ここで大豆浸漬液に、乳酸カルシウム、塩化カルシウムなどのカルシウム塩を添加することにより、糸引き性を向上させることができる。カルシウム塩の添加濃度は、0.05〜0.5%程度で十分である。
また、酵母エキスを添加することにより、糸引き性や香味を向上させることができる。酵母エキスの添加は、水への浸漬工程で行ってもよいが、通常、次の大豆蒸煮工程において行う。酵母エキスの添加濃度は、0.01〜0.5%程度で十分である。
なお、カルシウム塩や酵母エキスの添加は、大豆浸漬液への添加という形である必要はなく、要するにカルシウム塩や酵母エキスが添加されるような形であれば特に制限されない。
【0018】
次いで、吸水させた原料大豆を、常法に従い、蒸煮する(蒸煮工程)。
大豆蒸煮工程としては、通常の納豆製造における公知の方法、例えば釜内に浸漬大豆を入れ蒸気を噴きこむ方法、を採用することができる。蒸煮時間は1分〜40分の範囲である。
【0019】
蒸煮工程終了後、調製された蒸煮大豆に、納豆菌を接種する(納豆菌の接種工程)。
本発明の製造方法の一態様においては、この納豆菌の接種工程において特定の納豆菌を接種し、発酵をこの特定の納豆菌を用いて行う。
具体的には、10℃以上20℃未満の温度帯での生育能が抑制された低温感受性の性質を示す納豆菌、或いは、ある種の納豆菌(No.7株)(NITE BP−01805)を接種し、発酵をこの納豆菌を用いて、通常の温度で行う。
【0020】
ここで、10℃以上20℃未満の温度帯での生育能が抑制された「低温感受性」の性質を示す納豆菌とは、具体的には例えば、NPA10株(NITE BP−01806)、T−058株(NITE BP 1576)又はK−245株(NITE BP−01804)である。
【0021】
NPA10株は、優れた低温感受性を有し、且つ、納豆の品質特性が優れた性質の納豆菌株である。この菌株は、受託番号NITE BP−01806として Bacillus subtilis NPA10株の名称で、2014年2月25日付けにて、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに国際寄託されている。このNPA10株は、10℃以上20℃未満の温度帯での生育能が抑制された「低温感受性」の性質を示すものである。
このNPA10株は、特開2000−224982に記載の納豆菌株(Bacillus subtilis N64)を変異処理して得られた変異株である。当該納豆菌を用いて製造した納豆は、通常発酵条件においてもアミノ酸含有量が低い。
【0022】
次に、T−058株は、極めて優れた低温感受性を有し、且つ、納豆の品質特性が優れた性質の納豆菌株である。この菌株は、受託番号NITE BP−1576として Bacillus subtilis T−058株の名称で、2013年3月19日付けにて、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに国際寄託されている。このT−058株は、10℃以上20℃未満の温度帯での生育能が抑制された「低温感受性」の性質を示すものである。当該納豆菌を用いて製造した納豆は、通常発酵条件においてもアミノ酸含有量が低い。
【0023】
また、K−245株は、上記T−058株同様、極めて優れた低温感受性を有し、且つ、納豆の品質特性が優れた性質の納豆菌株である。即ち、このK−245株も、10℃以上20℃未満の温度帯での生育能が抑制された「低温感受性」の性質を示すものである。この菌株は、受託番号NITE BP−01804として Bacillus subtilis K−245株の名称で、2014年2月25日付けで、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに国際寄託されている。
このK−245株は、特公平5−60335に記載の納豆菌株(Bucillus subtilis K−2;NITE BP−1577)を変異処理して得られた変異株である。当該納豆菌を用いて製造した納豆は、通常発酵条件においてもアミノ酸含有量が低い。
【0024】
このようにNPA10株、T−058株又はK−245株は、10℃以上20℃未満の温度帯での生育能が抑制された「低温感受性」の性質を示すが、上記低温温度帯での生育抑制度合いは、次のようにして判定されたものである。
・低温温度帯での生育抑制
当該低温感受性菌が示す低温温度帯での生育抑制度合いは、当該納豆菌を所定の寒天培地に植菌し低温で所定時間培養した際のコロニーの最大幅を指標にして判定することができる。
具体的には、10%(w/v)フィトンペプトンを含有する3〜4%(w/v)のいずれかの濃度の寒天培地(pH7.0)に植菌し、気相温度20℃で48時間培養した際のコロニーの最大幅を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を植菌して培養したコロニーの最大幅が2〜4mm、好ましくは2〜3mmである場合に、;当該納豆菌を植菌して培養したコロニーの最大幅が1mm以下、好ましくは0.7mm以下、より好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下、特に好ましくは0.1mm以下、最も好ましくは0mm(目視ではコロニーが確認できない大きさ)であるか、;を指標として判定することができる。
なお、ここでフィトンペプトン(Phytone Peptone)とは、大豆粉砕物をパパイン消化した消化物を指す。
また、ここで「%(w/v)」とは、容量100mLに対する含有質量(g)を%で表した値である。
また、コロニーの最大幅とは、コロニー乳白色部分の最大幅の値を指す。
【0025】
なお、No.7株は、上記した低温感受性菌とは異なり、いわゆる低温感受性を示さない。しかしながら、低温感受性を示さない、他の公知の納豆菌が、これを通常の条件で発酵させた後に高温加熱しても、十分に保存性を向上させることができないのに対して、No.7株は、これを通常の条件で発酵させた後に高温加熱することにより、納豆の品質を劣化させずに、納豆としての十分な品質を有しつつ、しかも保存性を向上させた納豆を製造することができるものである。即ち、加熱処理直後において、遊離アミノ酸含有量を14.5mg/g納豆以下とし、PGAの含有量が1.1mg/gを超える納豆を得ることができる。
この菌株は、受託番号NITE BP−01805として Bacillus subtilis No.7株の名称で、2014年2月25日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに国際寄託されている。
【0026】
本発明の製造方法の一態様において、10℃以上20℃未満の温度帯での生育能が抑制された低温感受性の性質を示す納豆菌、或いは、ある種の納豆菌(No.7)を接種する場合、発酵は、通常の温度範囲、具体的には、37〜53℃、好ましくは42〜53℃、さらに好ましくは42〜46℃の温度範囲で行う。
発酵は、10〜20時間、好ましくは13〜18時間、さらに好ましくは13〜16時間行えばよい。発酵時間がこれより短いと十分に発酵させることができない。一方、発酵時間がこれより長くなると、過剰に発酵してしまうので、好ましくない。
これにより、後述する、豆の品温を実質的に54〜67℃の温度帯に維持して加熱処理を行うことと合わせて、納豆の品質を劣化させずに、納豆としての十分な品質(特に糸引き性)を有しつつ、しかも保存性を向上させた納豆を製造することができる。
なお、ここで行う「通常発酵」においても発酵熱により納豆の品温が46℃以上になるため、次に述べる他の態様で行う「高温発酵」とは、温度範囲が重複しているようにみえるが、「高温発酵」であると、発酵開始時(発酵から1〜3時間までの間)においては、46℃以上となるのに対して、「通常発酵」では、発酵開始時(発酵から1〜3時間までの間)においては、46℃に満たない、37℃以上46℃未満の温度帯となる点で明確に異なっている。
【0027】
一方、このような特定の納豆菌を用いない、本発明の製造方法の「他の態様」においては、発酵は、上記の場合よりも高温の46〜53℃、好ましくは47〜53℃、より好ましくは47〜52℃の温度範囲で行う(高温発酵させる)。
発酵は、10〜20時間、好ましくは13〜18時間、より好ましくは13〜16時間行えばよい。発酵時間がこれより短いと十分に発酵させることができない。一方、発酵時間がこれより長くなると、過剰に発酵してしまうので、好ましくない。
この「他の態様」の場合、高温発酵を行うことにより、後述する、豆の品温を実質的に54〜67℃の温度帯に維持して加熱処理を行うことと合わせて、納豆の品質を劣化させずに、納豆としての十分な品質を有しつつ、しかも保存性を向上させた納豆を製造することができる。
【0028】
なお、この本発明の製造方法の「他の態様」において用いられる納豆菌としては、本発明の製造方法の「一の態様」とは異なり、例えば公知の納豆菌であるK−2株を用いることができる。また、上記した「低温感受性」の性質を示す納豆菌(NPA10株、T−058株、K−245株)などを用いることもできる。さらには、低温感受性菌に限定されることなく、公知の納豆菌を用いることもできる。
ここで、K−2株とは、特公平5−60335号公報に記載されている公知の菌株(Bacillus sp K−2;微工研菌寄第9768号)であるが、受託番号NITE BP−1577として Bacillus subtilis K−2株の名称で、2013年3月19日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに国際寄託されている。
【0029】
上記のようにして発酵させた後、本発明の製造方法の「一態様」と「他の態様」のいずれの場合においても、発酵を行った後、3.5時間以内の間、豆の品温を実質的に54〜67℃の温度帯に維持して加熱処理を行う。
【0030】
ここでの加熱処理は、発酵を行った後、3.5時間以内の間、好ましくは2時間以内の間、豆の品温を実質的に54〜67℃、好ましくは54〜66℃、より好ましくは55〜65℃の温度帯に維持しての加熱処理を行うものである。
なお、加熱処理温度が高くなると、糸引きが弱くなる(例えば、55℃処理の方が、60℃処理より糸引きが強い)。加熱時間については、58℃で0.5〜2時間の範囲においては、糸引きはほとんど変化せず、3.5時間までは納豆の品質として許容できる糸引きの強さであるが、加熱処理時間が3.5時間を超えると、糸引きが納豆の品質として許容できないほど弱くなるため、好ましくない。
【0031】
加熱処理終了後、通常、4〜10℃で24〜72時間程度、熟成を行い、製品納豆となる。
【0032】
このようにして、納豆の保存性を向上させ、目的とする、納豆の品質を劣化させずに、納豆としての十分な品質(特に糸引き性)を有しつつ、しかも保存性を向上させた納豆を製造することができる。
即ち、このようにして製造された納豆は、前記加熱処理の直後において、下記(A)及び(B)に記載の条件を満たすものである。
(A)遊離アミノ酸含有量が14.5mg/g納豆以下、好ましくは14.0mg/g納豆以下、より好ましくは13.0mg/g納豆以下、特に好ましくは12.5mg/g納豆以下、であること。
(B)γ−PGAの含有量が1.1mg/g納豆を超えること、好ましくは1.5mg/g納豆以上であること、より好ましくは1.8mg/g納豆以上であること、特に好ましくは2.0mg/g納豆以上であること
【0033】
換言すると、このようにして製造された納豆は、前記加熱処理の直後において、(A)遊離アミノ酸含有量が14.5mg/g納豆以下、好ましくは14.0mg/g納豆以下、より好ましくは13.0mg/g納豆以下、特に好ましくは12.5mg/g納豆以下、のものであり、しかも、(B)γ−PGAの含有量が1.1mg/g納豆を超え、好ましくは1.5mg/g納豆以上、より好ましくは1.8mg/g納豆以上、特に好ましくは2.0mg/g納豆以上、のものである。
【0034】
ここで、例えば発酵時間を短くすると、(A)遊離アミノ酸含有量を14.5mg/g納豆以下とすることができるものの、この場合には、(B)γ−PGAの含有量が1.1mg/g納豆を超えるものとはならず、納豆として十分な糸引き性を有するものとすることはできない。
逆に、例えば発酵時間を長くすると、(B)γ−PGAの含有量が1.1mg/g納豆を超えるものとすることができるものの、(A)遊離アミノ酸含有量を14.5mg/g納豆以下とすることができない。
このように、上記(A)及び(B)に記載の条件は、いわば相反するような条件であり、これまで両方の条件を兼ね備えた納豆は見当たらなかったが、本発明によれば、そのような納豆が初めて得られたものである。
【0035】
特に、本発明の製造方法の「他の態様」の場合には、(A)遊離アミノ酸含有量が9.0mg/g納豆以下と極めて低く、極めて保存性に優れた納豆である。
具体的には、10℃で、10日間以上、特に20日間以上保存した場合にも、チロシンの析出はなく、顕著に保存性に優れた納豆である。
また、このようにして製造された納豆は、納豆として十分な糸引き性を有しており、納豆としての十分な品質を有している。
従って、本発明によれば、納豆の賞味期限、保存期限を従来の7〜12日程度から、20日程度と大幅に延長することが可能である。
しかも、本発明によれば、従来の技術と比較して、加熱温度が低めであったり、時間が短めであったりしても、十分に納豆の保存期限を延長させる効果が認められ、設備、コスト上の制約が少ないという利点がある。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明を実施例等により説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0037】
〔実施例1〜3及び比較例1〜2;低温感受性菌による発酵が納豆に与える影響〕
納豆の発酵において、発酵後に高温での加熱処理を行うことを条件とするとき、低温感受性を有する納豆菌と通常の納豆菌とを用いて発酵を行った場合に納豆の性質にどのような影響が現れるかを検討した。
【0038】
(1)「納豆の製造」
納豆菌として、下記に示す各種の低温感受性を有する納豆菌(実施例1〜3)と通常の納豆菌(比較例1〜2)とを用いて、以下のようにして納豆の製造を行った。
乾燥大豆を水に16時間浸漬し、水切りした後、1.6kg/cm
2で30分間加圧蒸煮した。蒸煮した大豆1gあたり5000個の納豆菌を含むように納豆菌液を添加し、軽く均一化した。
その後、45gずつをPSP製納豆容器に入れて蓋をし、気相温度43℃に設定したプログラムインキュベーター内で静置することで発酵を行った。各試料の発酵時間(品温37〜53℃の温度帯にて静置した時間)を表1に示した。なお、定常状態に達した時の品温は、発酵熱により46〜50℃となっていた。
次に、インキュベーターの気相温度を60℃に設定して、試料の品温を58℃に上昇させることで加熱処理を行った。各試料の加熱処理時間(品温58℃以上で静置した時間)を表1に示した。なお、当該加熱処理中は品温が58℃となるように加熱温度を微調整した。この際、納豆菌の発酵が停止しているため設定温度と品温は同じであった。
加熱処理後、品温を20℃まで冷却した。最後に4℃の冷蔵室に移動して品温約5℃の状態にて8時間静置して熟成させた。
【0039】
<低温感受性を有する納豆菌>
・NPA10株:Bacillus subtilis NPA10;NITE BP−01806
・T−058株:Bacillus subtilis T−058;NITE BP−1576
・K−245株:Bacillus subtilis K−245;NITE BP−01804
【0040】
<通常の納豆菌>
・K−2株:Bacillus sp K−2 ;特公平5−60335に記載の納豆菌株;NITE BP−1577
・OUV23481株:Bacillus subtilis OUV23481;FERM BP−6659
【0041】
(2)遊離アミノ酸含有量とγ−PGA含有量の測定
各納豆について、室出し時(加熱処理後、約5℃に冷却後に評価)の遊離アミノ酸含有量(20種の合計量)とγ−PGA含有量とを下記の方法にてそれぞれ測定した。単位は、それぞれ「mg/g納豆」である。
【0042】
<アミノ酸測定法>
1)2gの納豆を乳鉢ですりつぶし、0.2N塩酸50mlで4℃、1晩抽出した。
2)次に、これに3%スルホンサリチル酸を加え除タンパクした。
3)次いで、これを水酸化リチウムでpH2.2に調整後、クエン酸リチウム緩衝液(pH2.2)で希釈した。
4)さらに、これを0.45μmフィルターでろ過した。
5)ろ過して得られたものを、日本電子社製のアミノ酸分析機(JCL−500/V)で分析した。
【0043】
<γ−PGAの測定法>
特開2006−166812号公報の段落0041〜0042に記載されている方法と同様にして測定した。
即ち、10gの納豆に、2.5%トリクロロ酢酸(以下、「TCA」という。)を約20ml加えて撹拌した後、これを50℃の湯浴中で10分間温めて、50ml容量のメスフラスコに液部を移し、再度、2.5%TCAを約20ml加えて、50℃の湯浴中で10分間温め、ナイロンメッシュで豆を取り除き、上清を同メスフラスコヘ加え、2.5%TCAで50mlにメスアップした。遠心分離した後、上清を20mlとり、NaOHで中和した後、25ml容量のメスフラスコに移し、蒸留水でメスアップした。この液5mlを、冷エタノール20mlと混和し、氷上で10分以上放置した後、遠心分離を行い、上清を捨て、沈殿に20mMリン酸緩衝液(pH:7.0)(以下、「リン酸緩衝液」という。)を20ml加え、溶解させたものを「試料液」とした。
試験管に、リン酸緩衝液2.0mlと試料液0.5mlとを加え、撹拌した後、0.1Mセタブロン/1M NaCl溶液を0.5ml加えて撹拌し、30℃で20分放置したものについて、濁度を400nmにて測定した。シグマ社製ポリグルタミン酸標準品を0.1mg/mlになるようリン酸緩衝液に溶解したもので検量線を作成し、試料液のγ−PGA量を求めた。
【0044】
(3)糸引き性
各納豆について、室出し時(加熱処理後、約5℃に冷却後に評価)の糸引き性を、「糸引きが強い」(◎)、「糸引きは普通」=許容範囲(○)、「糸引きが弱い」(×)の3段階にて評価した。
【0045】
(4)チロシンの析出の有無
各納豆について、熟成後、10℃で10日間保存したときと、10℃で20日間保存したときのチロシンの析出の有無を調べ、その結果を「析出なし」(−)、「析出あり」(+)の2段階にて表した。なお、チロシンの析出は、シャリシャリとした食感、および表面析出の目視による確認で評価した。
【0046】
(5)保存性
各納豆の保存性は、熟成後、10℃で10日間保存したときと、10℃で20日間保存したときとにおける総合的な品質(外観、色、香り、糸引き、味、硬さ、チロシンの析出の有無)を、専門のパネラーが官能検査により、「保存性がよい」(○)、「保存性が悪い」(×)の2段階にて評価した。
【0047】
以上の結果を表1に示す。
表1によれば、実施例1〜3に示すように、低温感受性を有する納豆菌(実施例1〜3)を用いることにより、γ−PGA含有量が十分であって納豆としての十分な品質を有しているにもかかわらず、遊離アミノ酸含有量が少なくて、顕著に保存性に優れていることが分かる。一方、納豆菌として、通常のK−2株(比較例1)、或いは、OUV23481株(比較例2)を用いた場合、遊離アミノ酸含有量が多く、10℃、20日間保存時の保存性に劣るものとなってしまうことが分かる。
【0048】
【表1】
【0049】
〔実施例4;特定菌株(No.7株)による発酵が納豆に与える影響〕
納豆菌として、No.7株(Bacillus subtilis No.7;NITE BP−01805)を用いたこと以外は、実施例1〜3及び比較例1〜2と同様にして納豆を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0050】
〔実施例5;高温発酵が納豆に与える影響〕
納豆菌として、K−2株を用い、且つ、表2に示す条件での高温発酵を行ったこと以外は、実施例1〜3及び比較例1〜2と同様にして納豆を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0051】
表2によれば、納豆菌として特定菌株(No.7株)を用いた場合はもとより、通常のK−2株であったとしても、高温発酵させることによって、γ−PGAの生産および糸引き性を維持しつつ、遊離アミノ酸を減らすことができ、発酵後に高温加熱していることと相まって、十分な品質を有し、しかも顕著に保存性に優れた納豆を得ることができることが分かる。このことから、表1の結果と合わせ、遊離アミノ酸量が所定量以下であれば、顕著に保存性に優れた納豆を得ることができることが分かる。
【0052】
【表2】
【0053】
〔比較例3、4;通常の納豆菌において発酵時間が納豆に与える影響〕
納豆菌として、通常のK−2株(比較例3)、或いは、No.7株(比較例4)を用い、且つ、表3に示す時間(10時間)で短時間発酵を行ったこと以外は、実施例1〜3及び比較例1〜2と同様にして納豆を製造し、評価した。結果を表3に示す。
表3によると、納豆菌として、通常のK−2株(比較例3)、或いは、No.7株(比較例4)を用いた場合、発酵時間が短いと、遊離アミノ酸量が所定量以下であって保存性は優れていると理解されるものの、γ−PGAの量が少なすぎるため、糸引き性に劣るものとなってしまうことが分かる。
【0054】
【表3】
【0055】
〔実施例6〜7;加熱処理温度が納豆に与える影響〕
納豆菌として、K−2株を用い、且つ、表3に示す条件での加熱処理を行ったこと以外は、実施例1〜3及び比較例1〜2と同様にして納豆を製造し、評価した。結果を表4に示す。
表4によれば、加熱処理温度が58℃ではなく、55℃と65℃の場合にも、それぞれ十分な品質(糸引き性)を有する納豆を得ることができることが分かる。
なお、この実施例6、7においても、遊離アミノ酸量が所定量以下であることから、顕著に保存性に優れた納豆を得ることができることが良く理解される。
【0056】
【表4】
【0057】
〔実施例8〜9;加熱処理時間が納豆に与える影響〕
納豆菌として、K−2株を用い、且つ、表3に示す条件での加熱処理を行ったこと以外は、実施例1〜3及び比較例1〜2と同様にして納豆を製造し、評価した。結果を表5に示す。
表5によれば、加熱処理時間が0.5時間ではなく、1時間と2時間の場合にも、それぞれ十分な品質(糸引き性)を有する納豆を得ることができることが分かる。
なお、この実施例8、9においても、遊離アミノ酸量が所定量以下であることから、顕著に保存性に優れた納豆を得ることができることが良く理解される。
【0058】
【表5】