【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0051】
<実験例1>
実験例1では、本発明に係る糖液種を用いて製造したパンと、通常のストレート法を用いて製造したパン及び湯種を用いて製造したパンとを比較した。
【0052】
(1)糖液種の製造
下記表1に示す種の配合の各種材料を混練して、実施例1〜4及び比較例1の糖液種を製造した。なお、実施例2、3及び4の糖液種は、それぞれ、上白糖、トレハロース、及び粉あめを、あらかじめ、80℃に加温した水と混合して糖液とした後に強力粉と混練した。
【0053】
(2)湯種の製造
下記表1に示す種の配合の各種材料を混練して、比較例4及び5の湯種を製造した。
【0054】
(3)パンの製造
実施例1〜4及び比較例1については、前記で製造した糖液種と下記表1の生地材料に示す配合の各種材料を、比較例4及び5については、前記で製造した湯種と下記表1の生地材料に示す配合の各種材料を、比較例2及び3については、下記表1の生地材料に示す配合の各種材料を、それぞれ使用して、以下の方法でパンを製造した。
A.ボールにショートニング以外の材料を加え、ミキサーの低速で3分、中速で4分間ミキシングした。
B.Aにショートニングを加え、さらにミキサーの低速で2分、中速で4分間ミキシングして生地を調製した。生地の捏ね上げ温度は、28℃とした。
C.Bで調製した生地を28℃、相対湿度75%で60分間、発酵させた。一玉70gに分割し、丸めを行い20分間ベンチタイムをとった後成形した。
D.Cの生地を38℃、相対湿度85%で75分ホイロをとった後、200℃で13分間、焼成してバターロールを製造した。
【0055】
(4)評価
前記で製造した実施例1〜4及び比較例1〜5のパンについて、比容積(mL/g)を算出した。また、0〜3日後の硬さをテクスチャーアナライザー「TA.XTPlus」(Stable Micro Systems社製)を用いて求めた。硬さは、製造したバターロールを厚さ2cmにスライスし、直径40mmの円筒型プランジャーを使用して、中心部分を1cmまで圧縮した時の応力(g)を測定した。更に、1日後及び3日後のしっとり感、口どけ及びソフト感について、各5点満点で評価を行った。また、製造時の作業性についても5点満点で評価を行った。
【0056】
(5)結果
結果を下記表1に示す。
【表1】
イソマルト500(登録商標):昭和産業株式会社製分岐オリゴ糖含有糖液(以下同じ)
【0057】
表1に示す通り、本発明に係る糖液種を用いて製造したパンは、比較例2〜5のパンに比べ、その比容積が大きかった。特に、湯種を用いた比較例4のパンの比容積は実施例1〜4のパンに比べて明らかに小さく、パンの生地材料として上白糖を加えた比較例5のパンは、比容積は増えたものの、実施例1〜4のパンに比べると小さかった。即ち、本発明に係る糖液種を用いることで、通常のストレート法で製造したパンや湯種を用いて製造したパンに比べて、出来上がったパンのボリュームを向上させることが分かった。
【0058】
また、本発明に係る糖液種を用いて製造したパンは、比較例2〜4のパンに比べ、3日後になっても柔らかさ、良好な口どけ及びソフト感を持続していた。
【0059】
しっとり感についても、本発明に係る糖液種を用いて製造したパンは、比較例2、4、5のパンに比べ、3日後になってもしっとり感を持続していた。比較例3のパンは、パンの生地材料として糖液を用いたことで、出来上がったパンのしっとり感は持続していたものの、パン製造時における作業性が非常に悪く、製パンが困難であった。
【0060】
70℃の糖液を用いた比較例1では、出来上がったパンの品質は良好であったものの、糖液種製造時において種が均一な餅状にならず、作業性が悪かった。
【0061】
<実験例2>
実験例2では、糖液種中の穀粉と糖液由来の糖(固形分)との好適な比率を検討した。
【0062】
(1)糖液種及びパンの製造
下記表2に示す種の配合の各種材料を用いて、実験例1の実施例1と同様の方法で、実施例5
、参考例6、7、実施例8〜
10、参考例11〜13、実施例14の糖液種を製造した後、この糖液種を用いて、実験例1と同様の方法で実施例5
、参考例6、7、実施例8〜
10、参考例11〜13、実施例14のパンを製造した。
【0063】
(2)評価
前記で製造した実施例5
、参考例6、7、実施例8〜
10、参考例11〜13、実施例14のパンについて、実験例1と同様の評価を行った。
【0064】
(3)結果
結果を下記表2に示す。
【表2】
【0065】
表2に示す通り、糖液種中の穀粉と糖液由来の糖(固形分)との重量比が、1:0.25〜1.6の範囲内の実施例5、
参考例7
、実施例8〜10のパンは、糖の量が少ない
参考例6のパンに比べ、3日後になっても柔らかさ及び良好な口どけを持続していた。なお、糖液種中の糖液由来の糖の量が少ない場合、
参考例12
、13、実施例14のように、パンの生地材料として糖類を加えることで、パンの柔らかさを向上させられることが分かった。
【0066】
また、実施例5、
参考例7
、実施例8〜10は、糖の量が多い
参考例11に比べ、製造時の作業性が良好で、出来上がったパンは、3日後になっても良好な口どけを持続していた。
【0067】
以上の結果から、糖液種中の穀粉と糖液由来の糖(固形分)との重量比は、1:0.25〜1.6の範囲内に設定することが好ましいことが分かった。糖類の量は、パンの生地材料中に配合する糖類の量を調整することで、出来上がったパンの特性を操作することが可能であるが、パン生地材料中に配合する糖類の量を調整しても、糖液種中の穀粉と糖液由来の糖(固形分)との重量比を前記範囲内に設定した場合に比べると、出来上がったパンの特性は劣っていた。
【0068】
<実験例3>
実験例3では、糖液種中に用いる糖類の種類によって、製造されるパンの特性が変化するかを検討した。
【0069】
(1)糖液種及びパンの製造
下記表3に示す種の配合の各種材料を用いて、実験例1の実施例1と同様の方法で、実施例15〜17の糖液種を製造した後、この糖液種を用いて、実験例1と同様の方法で実施例15〜17のパンを製造した。
【0070】
(2)評価
前記で製造した実施例15〜17のパンについて、実験例1と同様の評価を行った。
【0071】
(3)結果
結果を下記表3に示す。
【表3】
オリゴMT500:昭和産業株式会社製マルトオリゴ糖含有糖液
マルデックPH400(登録商標):昭和産業株式会社製マルトオリゴ糖含有糖液
【0072】
表3に示す通り、実施例15〜17のパンは、いずれも十分なボリュームがあり、3日後になっても柔らかさ、しっとり感、良好な口どけ及びソフト感を持続していた。また、作業性も良好であったが、特に、分岐オリゴ糖を含む実施例15のパンの特性が、最も良好であった。
【0073】
<実験例4>
実験例4では、糖液種中に用いる穀粉の種類によって、製造されるパンの特性が変化するかを検討した。
【0074】
(1)糖液種及びパンの製造
下記表4に示す種の配合の各種材料を用いて、実験例1の実施例1と同様の方法で、実施例18〜20の糖液種を製造した後、この糖液種を用いて、実験例1と同様の方法で実施例18〜20のパンを製造した。
【0075】
(2)評価
前記で製造した実施例18〜20のパンについて、実験例1と同様の評価を行った。
【0076】
(3)結果
結果を下記表4に示す。
【表4】
【0077】
表4に示す通り、実施例18〜20のパンは、いずれも十分なボリュームがあり、3日後になっても柔らかさ、しっとり感、良好な口どけ及びソフト感を持続していた。また、作業性も良好であったが、特に、強力粉を使用した実施例18のパンの特性が、最も良好であった。
【0078】
<実験例5>
実験例5では、糖液種中に他の材料(糖類、油脂)を用いた場合に、製造されるパンの特性が変化するかを検討した。
【0079】
(1)糖液種及びパンの製造
下記表5に示す種の配合の各種材料を用いて、実験例1の実施例1と同様の方法で、実施例21〜23の糖液種を製造した後、この糖液種を用いて、実験例1と同様の方法で実施例21〜23のパンを製造した。なお、実施例21及び実施例23の上白糖は、糖液とは別に粉末状のままで使用した。
【0080】
(2)評価
前記で製造した実施例21〜23のパンについて、実験例1と同様の評価を行った。
【0081】
(3)結果
結果を下記表5に示す。
【表5】
【0082】
表5に示す通り、実施例21〜23のパンは、いずれも十分なボリュームがあり、3日後になっても柔らかさ、しっとり感、良好な口どけ及びソフト感を持続していた。また、作業性も良好であった。この結果から、糖液種を製造する際に、糖液に加えて、上白糖などの糖類や、サラダ油などの油脂を加えることで、3日後の柔らかさが更に良好に保たれることが分かった。
【0083】
<実験例6>
実験例6では、パン製造時に用いる糖液種の好適な量を検討した。
【0084】
(1)糖液種及びパンの製造
下記表6に示す種の配合の各種材料を用いて、実験例1の実施例1と同様の方法で、実施例24〜27の糖液種を製造した後、この糖液種を用いて、実験例1と同様の方法で実施例24〜27のパンを製造した。
【0085】
(2)評価
前記で製造した実施例24〜27のパンについて、実験例1と同様の評価を行った。
【0086】
(3)結果
結果を下記表6に示す。
【表6】
【0087】
表6に示す通り、パンに使用する全穀粉量に対し、4〜25質量%の範囲の穀粉を配合する糖液種を用いた実施例24〜26は、それよりも多くの穀粉を配合する糖液種を用いた実施例27に比べ、出来上がったパンのボリューム感が良好で、柔らかさ、しっとり感、口どけ及びソフト感の持続性も高く、作業性も良好であった。また、前記実験例1の結果と合わせると、パンに使用する全穀粉量に対し、10〜25質量%の範囲の穀粉を配合する糖液種を用いた実施例1、25、26は、更に効果が高いことが分かった。
【0088】
<実験例7>
実験例7では、糖液種を冷凍またはチルド保存した場合、焼成前のパン生地を冷凍保存した場合に、同様の効果が得られるかを検討した。
【0089】
(1)糖液種及びパンの製造
[糖液種の冷凍またはチルド保存例]
前記表1に示す種の配合の各種材料を用いて、実験例1の実施例1と同様の方法で糖液種を製造した後、この糖液種を冷凍(−18℃)で1か月間、またはチルド(5℃)で、7日間保存した。その後、これらの糖液種を28℃に戻したものを用いて、実験例1と同様の方法でバターロールを製造した。
【0090】
[パン生地の冷凍保存例]
前記表1の実施例1に示す種の配合の各種材料を用いて、実験例1の実施例1と同様の方法で糖液種を製造した。この糖液種を用いて、実験例1と同様の方法でパン生地の製造工程の成形工程まで行い、ホイロをとる前に、このパン生地を−35℃で急速冷凍し、−18℃で1か月間冷凍保存した。その後、この冷凍パン生地を15℃で解凍し、38℃、相対湿度85%で60分間ホイロをとった後、200℃で13分間、焼成してバターロールを製造した。
【0091】
(2)評価・結果
出来上がったパンは、全て、ボリューム感が良好で、柔らかさ、しっとり感、口どけ及びソフト感の持続性も高く、作業性も良好であった。
【0092】
<実験例8>
実験例8では、パンの種類として食パンを製造した場合に、同様の効果が得られるかを検討した。
【0093】
(1)糖液種及びパンの製造
前記表1の実施例1に示す種の配合の各種材料を用いて、実験例1の実施例1と同様の方法で糖液種を製造した後、前記表1の実施例1の生地材料に示す配合の各種材料を、それぞれ使用して、以下の方法で食パンを製造した。
A.ボールにショートニング以外の材料を加え、ミキサーの低速で3分、中速で3分、高速で2分間ミキシングした。
B.Aにショートニングを加え、さらにミキサーの中速で4分、高速で2分間ミキシングして生地を調製した。生地の捏ね上げ温度は、28℃とした。
C.Bで調製した生地を28℃、相対湿度75%で60分間、発酵させ、パンチを行い、さらに30分間発酵させた。一玉230gに分割し、丸めを行い20分間ベンチタイムをとった後、U字形に成形し6個をパン型に詰めた。
D.Cの生地を38℃、相対湿度85%で50分間ホイロを取った後、210℃で38分間、焼成して食パンを製造した。
また、出来上がった食パンを厚さ7mmにスライスし、具材を載せ、さらにスライスした食パンを載せてサンドイッチを製造した。製造したサンドイッチを10℃で1日間保存した。
【0094】
(2)評価・結果
出来上がった食パンは、ボリューム感が良好で、柔らかさ、しっとり感、口どけ及びソフト感の持続性も高く、作業性も良好であった。
また、製造後10℃で1日間保存したサンドイッチも、柔らかさ、しっとり感、口どけ及びソフト感が維持されており、品質の良いものであった。