【文献】
齋藤高輝 他,電気学会研究会資料,一般社団法人電気学会,2013年 5月16日,PST−13−38,p.41−44
【文献】
Int. J. Food Sci. Nutr., 2012.08 [Available online on 2011.12.12], Vol.63, No.5, pp.580-596,doi:10.3109/09637486.2011.641940
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更できるものである。
【0017】
発酵飲食品は、飲食品および/またはその原料を各種微生物で発酵させて得られる飲食品の総称である。飲食品および/またはその原料を発酵させることで、飲食品および/またはその原料に新たな風味、香り、栄養、生理機能などが付与されることが知られている。また、発酵飲食品には、発酵に関与する微生物(以降、発酵菌ともいう)自体に由来する好ましい風味、香り、栄養、生理機能もあるため、生菌が残存している場合、これを摂取する利点がある。その一方で、発酵飲食品に発酵菌の生菌が生残したまま含まれると、保存中に発酵が進行しすぎて、製品として好ましい風味や品質を長期間にわたって維持できなくなる場合がある。
【0018】
例えば、ヨーグルトなどの発酵乳製品や乳酸菌飲料では、一定数以上の乳酸菌の生菌を含むことを特長としている。日本では乳製品について、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」(昭和二十六年十二月二十七日厚生省令第五十二号)で成分規格などを定めている。乳等省令では、発酵乳中の乳酸菌数又は酵母数を1000万個/ml以上、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%以上のもの、加熱殺菌したものを除く)中の乳酸菌数又は酵母数を1000万個/ml以上、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%未満のもの、加熱殺菌したものを除く)中の乳酸菌数又は酵母数を100万個/ml以上に定めている。また、このような発酵乳製品や乳酸菌飲料に含まれる乳酸菌の生菌には、プロバイオティクスとしての保健効果など、有用な生理機能を発揮することも知られている。
【0019】
一方で、このような発酵乳製品や乳酸菌飲料は乳酸菌の生菌を含むことから、保存中に発酵が進行し、乳酸等が生成されて、その風味が酸っぱくなりすぎてしまい、風味が低下することがある。さらに、このような発酵乳製品や乳酸菌飲料では、保存中に発酵が進行してpHが低下しすぎると、乳酸菌が死滅してしまい、乳等省令で規定された生菌数を維持できなくなることもある。その場合、発酵乳製品や乳酸菌飲料は乳等省令の規格外となり、品質に劣る製品となる。なお、発酵乳において、保存中の酸味増加またはpHの低下は、使用した乳酸菌株の酸生成能力、保存温度、保存期間、保存開始時のpHなどに依存することが知られている(山内邦男、横山健吉 編「ミルク総合事典」朝倉書店、1992年1月20日、p.241)。
【0020】
乳酸菌と酵母菌を併用して発酵するケフィアのような発酵乳製品や、酵母発酵により製造される味噌などでは、製品中に酵母が生残していると、保存中に酵母の発酵作用により、炭酸ガスが発生する。そして、このような、酵母の生菌が生残している発酵飲食品では、衛生的に流通することを考慮して、密閉容器に充填すると、その発生した炭酸ガスにより、密閉容器が膨張することがあり、生菌を残存させながら、流通適性などの品質が良好な状態で長期間にわたって流通することは困難であった。
【0021】
また、ナチュラルチーズでは、細菌(乳酸菌、プロピオン酸菌など)、カビ(白カビ、青カビなど)などの各種微生物が発酵や熟成に関与する。このようなナチュラルチーズには、発酵や熟成に関与する微生物の生菌の作用により、より好ましい風味や香りを発生するものがある。ただし、このようなナチュラルチーズは、保存中に発酵や熟成が進行しすぎると、過度の苦味、アンモニア臭などが発生して、却ってその風味や香りを損なうことがある。例えば、白カビチーズや青カビチーズは、熟成が早く進むため、特に長期間で流通することが困難であった。なお、本発明において、ナチュラルチーズの発酵には、乳酸菌による乳酸発酵、細菌による熟成、カビによる熟成が含まれる。このように、発酵飲食品を好ましい風味や品質を維持したまま、長期間にわたって保存するためには、発酵菌の生菌による発酵を目的に応じて適度に調整することが重要である。
【0022】
本発明は、少なくとも、飲食品および/またはその原料を発酵する工程および電界パルスを印加する工程を含むことを特徴とする。電界パルスを発酵の途中の飲食品および/またはその原料、または発酵の後の発酵飲食品に印加することによって、発酵飲食品に発酵菌の生菌を所定濃度で生残させたまま、保存中の発酵の進行を抑制することが可能である。
【0023】
しかも、本発明は、発酵の途中または発酵の前や後において、添加剤などを使用しなくても、もしくは発酵の後において、乳酸菌などの生菌を加熱殺菌などしなくても、新鮮物を同様な風味や品質などを維持できるため、栄養成分の化学変化などが抑制され、鮮度の良好な発酵飲食品およびその製造方法を提供することができる。
【0024】
図1に本発明で用いることができる電界パルス発生装置の例を示す。パルスの発生にはCR放電回路を用いた。この回路は、主に充電用抵抗(Charging resistor)、コンデンサ(Condenser)、スイッチ(Switch)、試料(Sample)および電極(Electrode)で構成されている。試料は、直接電極に接していてもよく、あるいは容器(エレクトロポレーション用キュベット等)、配管、包装等の中に存在して、容器、配管、包装等の外側から間接的に電極に接していてもよい。
図1は、電極がエレクトロポレーション用キュベットまたは配管を挟んでいる様子を示しており、試料がエレクトロポレーション用キュベットまたは配管を通じて間接的に電極に接している例となる。本発明において、
図1中の試料(Sample)は、発酵の途中の飲食品および/またはその原料、または発酵の後の飲食品および/またはその原料に相当する。
【0025】
まず、直流高電圧電源によりコンデンサが回路の抵抗成分(例えば、
図1(A)の場合、充電用抵抗および図示されていない抵抗成分(エレクトロポレーション用キュベットおよび試料が持つ抵抗成分)が該当し、
図1(B)の場合、充電用抵抗および図示されていない抵抗成分(配管および試料が持つ抵抗成分)が該当する)を通して充電される。この時、充電電圧はコンデンサ出力側の電圧と逆極性の電圧である。次にトリガ回路を動作させスイッチを閉じると、電極に挟まれた抵抗成分(例えば、
図1(A)の場合、エレクトロポレーション用キュベットおよび試料が持つ抵抗成分が該当し、
図1(B)の場合、配管および試料が持つ抵抗成分が該当する)の抵抗値R(Ω)とコンデンサ容量C(F)の値を乗算して得られる時定数τ(=C×R)によって減衰電圧波形が出力される。この出力電圧波形は次式で表すことができる。
V=V
0・e
-t/CR=V
0・e
-t/τ
(ここで、Vは出力電圧(V)、V
0は充電電圧(V)、Rは電極に挟まれた抵抗成分の抵抗値(Ω)、Cはコンデンサ容量(F)、tは充電時間(秒)、τは時定数(秒)を示す)。
上記の式からも分かるように、コンデンサ容量Cもしくは電極に挟まれた抵抗成分の抵抗値Rを変化させることでパルスの減衰時間を変化させることができる。本発明において、時定数τの値をパルス幅と定義する。
【0026】
本発明の製造方法において、発酵途中の飲食品および/またはその原料、あるいは発酵後の発酵食品に印加する電界パルスの波形は、パルスで出力されるものであればよい。本発明の製造方法で用いる波形の例として、減衰波形以外に、矩形パルス、台形パルス、三角パルス等を挙げることができるが、これらの例に限定されるものではない。さらに、電界パルスの印加で発生する熱の影響を最小限にするため、電極部を冷却する装置を設置することもできる。例えば、アース側の電極内に水流を通じ、また高圧側の電極に熱交換用フィンを設置することなどの手段により、電極を冷却することができる。これにより電界印加中の試料の温度上昇を抑えることができる。
【0027】
細胞や菌に電界パルスを印加すると、大きな電圧が一瞬だけ加えられ、コンデンサ成分がある細胞膜に電荷が蓄積され、細胞膜の両側に電位差(電圧)が生じ、細胞膜の破壊がおきることが知られている。この電位差は次式に示されるように、細胞の半径と外部電界強度に比例する。
Vm=1.5r・E・cosθ
(中心(
図2中のc)からの半径がrの細胞や菌に外部電界強度Eを与えた時、電気力線方向と細胞や菌の中心(
図2中のc)と膜部位を結んでなす角がθとなる膜部位にかかる電位差Vm)
【0028】
電位差が1V程度に至ると、細胞膜に絶縁破壊が起きて細胞に細孔ができる。このように電界パルスを用いて細胞に細孔をあけることをエレクトロポレーションという。1Vの電位差は細胞膜に2×10
6V/cmという非常に大きな電界強度を発生させる。この細孔はあまり大きくなければ細胞自身によって修復されるが、電界を大きくしたり、パルス幅を長くしたりして、加えるエネルギーを大きくすると不可逆的な細胞膜破壊がおき、細胞の組織が外部に流出することで細胞が壊死する。つまり、半径の大きい細胞ほど細胞膜にかかる電位差は大きくなるので、細胞膜が破壊されやすい。例えば、酵母は乳酸菌よりも直径が大きいので、電界パルスを印加した時に受ける影響がより大きくなる。また、菌の形状(球菌(酵母)、桿菌(乳酸菌)など)や細胞膜の強度も電界パルスを印加した時に影響を与える要因となる(
図2)。
【0029】
本発明の製造方法で使用する電界パルスの印加条件は、発酵菌の種類、発酵飲食品中に含まれる発酵菌の生菌濃度、飲食品および/またはその原料の種類、発酵の進行を抑制する目的、電界パルスを印加するタイミング(発酵の途中に印加、または発酵の後に印加)または電界パルスの印加が接触的(直接的)あるか非接触的(間接的)であるかの選択などに応じて適宜調整することができる。
【0030】
本発明の製造方法を使用することで、発酵飲食品が発酵菌の生菌を含みながら、その発酵菌の代謝産物の生産を抑制することができる。例えば乳酸菌の場合、代謝産物として、乳酸、アルコール、酢酸などが知られている。また、酵母の場合、代謝産物として、アルコールや炭酸ガスなどが知られている。本発明の製造方法を用いて発酵飲食品を製造すると、発酵飲食品が発酵菌の生菌を含みながら、保存中に発酵が進行しすぎて風味や品質が低下する問題が起こりにくくなる。その結果、風味や品質がより長期間維持された発酵飲食品を製造することができる。
【0031】
例えば、後述の例1〜例3ではLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusおよびStreptococcus thermophilusで発酵した発酵乳に下記条件で電界パルスを印加し、4℃で14日間保存した。
・電極間隔:4mm
・電界強度:5、10または20kV/cm
・パルス印加回数:50shotsまたは200shots
・パルス幅:10μs
・繰り返し周波数:0.5pps
・電極の冷却装置:アース側の電極内に水流を通じ、高圧側の電極に熱交換用フィンを設置した。すると、電界強度が10kV/cmのとき、乳酸菌が生残したままpHの低下が抑制された。電界強度が20kV/cmになるとpHの低下は抑制され、生残する乳酸菌数はControlよりも減少したが、試験終期でも1000万(1×10
7)cfu/mlの生菌数を認めた。また、電界強度が5kV/cmでは乳酸菌が生残しているが、印加回数が50shotsではpHの低下が抑制されず、印加回数が200shotsでは、pHの低下がControlよりも抑制されていた。
【0032】
このことから、電界強度が5kV/cm〜20kV/cmの範囲で乳酸菌の生残およびpH低下抑制効果がみられた。乳酸菌で発酵した発酵乳製品や乳酸菌飲料の場合、電界強度を電界強度を5kV/cm以上かつ20kV/cm以下、電界強度を5kV/cm以上かつ20kV/cm未満、電界強度を5kV/cmより大きくかつ20kV/cm以下、5kV/cmより大きくかつ20kV/cm未満にするのが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法で使用する電界パルスの他の印加条件も、適宜調整することができる。パルス印加回数は特に限定されないが、50shots以上かつ200shots以下、50shotsより大きくかつ200shots以下、50shots以上かつ200shots未満、50shotsまたは200shotsで行うことができる。パルス幅も特に限定されないが、1μs以上100μs以下、7μs以上12μs以下、または10μsで行うことができる。繰り返し周波数も特に限定されないが、0.05pps以上5.0pps以下、0.2pps以上0.8pps以下、または0.5ppsで行うことができる。
【0034】
本発明の製造方法は、あらゆる発酵飲食品の製造に使用することができる。本発明の製造方法で製造できる発酵飲食品の例として、発酵乳製品(ヨーグルト、発酵乳、乳酸菌飲料、乳酒、ナチュラルチーズ、発酵バター、発酵クリーム、ケフィア、乳酸菌の生菌を含むプロセスチーズなど)、豆乳発酵物、漬け物(ピクルス、キムチ、泡菜、搾菜、サワークラウト、すぐきなど)、なれ鮨、味噌、醤油、魚醤、納豆、酒(ビール、清酒など)、みりん、醸造酢、発酵茶(烏龍茶、紅茶、碁石茶、阿波晩茶など)、発酵ソーセージなど、一般的に発酵飲食品として知られるものを挙げることができるが、これらの例に限定されない。
【0035】
本発明の製造方法において、発酵飲食品の製造に用いる飲食品および/またはその原料は、公知の飲食品および/またはその原料のいずれも使用することができる。例えば、乳、各種乳原料(乳タンパク質、乳タンパク質濃縮物、カゼイン、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質精製物(WPI)、α―ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、ラクトフェリンなど)、穀類(米、小麦、大麦など)、豆類(大豆など)、肉類、魚介類、野菜、果物、茶葉、糖類などの原料をそのまま、あるいはこれらの単独または複数を加工して得られる飲食品を例として挙げることができる。
【0036】
本発明の製造方法において、発酵飲食品の発酵に関与する微生物(発酵菌)はいずれであってもよい。その例として、乳酸菌、酵母、プロピオン酸菌、白カビ、青カビなどを挙げることができるが、これらの例に限定されない。
【0037】
本発明の製造方法において、飲食品および/またはその原料に電界パルスを印加する時期は、飲食品および/またはその原料の発酵の途中、発酵の後(発酵飲食品)のいずれかであってもよく、あるいは、発酵の途中および発酵の後であってもよい。
【0038】
例えば、乳酸菌を用いて発酵を行う発酵乳製品や漬け物などでは、生残する乳酸菌が保存中に過度の乳酸を産生するため、酸味が増加して風味を損なうことが問題となっていた。この場合、飲食品および/またはその原料の発酵の途中、または飲食品および/またはその原料の発酵の後(発酵飲食品)において、飲食品および/またはその原料や発酵飲食品に電界パルスを印加することにより、保存開始時(製造直後)や保存中のpHの低下を抑制することができる。
【0039】
酵母をろ過除去しないタイプのビール、清酒等の酒類や、ケフィアのような、乳酸菌と酵母菌を併用して発酵するタイプの発酵乳製品では、保存中に酵母の発酵作用により、炭酸ガスが発生して密閉容器の内圧が高まった結果、密閉容器が膨張したり、密閉容器が破裂したり、密栓が外れて飛んだりすることがある。例えば、飲食品および/またはその原料の発酵の途中、または飲食品および/またはその原料の発酵の後(発酵飲食品)に電界パルスを印加すれば、発酵の後に加熱殺菌等の処理を行わなくても保存中の密閉容器が膨張・破裂等するのを防ぐことが可能となるため、発酵飲食品が酵母の生菌を含んでいても、流通や保存が容易となる。
【0040】
ナチュラルチーズには、発酵菌の生菌(乳酸菌、プロピオン酸菌、白カビ、青カビなど)による発酵・熟成でより好ましい風味や香りを生じるタイプのものがある。このようなナチュラルチーズでは、保存中に発酵が進行しすぎると、逆に風味や香りを損なうこともある。発酵工程・熟成工程の途中やその後に電界パルスを印加すれば、殺菌処理を行わなくても保存中に発酵が過度に進行することを抑制できるので、発酵菌の生菌を含有しながら、保存中の風味や香りを通常より長期間、好ましく維持することが可能となる。
【0041】
また、殺菌処理または静菌処理を施していない味噌においても、保存中に酵母が過度の発酵をおこして炭酸ガスを発生し、保存中の密閉容器が膨張・破裂する可能性があった。そのため、加熱やアルコール添加などにより殺菌処理または静菌処理を行って対応する必要があった。発酵工程の途中や発酵工程の後に電界パルスを印加すれば、発酵菌の生菌を含有しながら、保存中の容器が膨張・破裂するような製品事故を防ぐことができる。
【0042】
このように、本発明の製造方法により、発酵菌の生菌を含有しながら、好ましい風味をより長期間維持するか、または流通適性や保存適性によりすぐれた良好な品質の発酵飲食品を製造することができる。
【0043】
また、本発明の製造方法で製造した発酵飲食品に含まれる生菌の濃度として、
以下の例を挙げることができるが、これらの例に限定されない。
・下限値:10万(1×10
5)個/ml、10万個/g、100万(1×10
6)個/ml、100万個/g、1000万(1×10
7)個/ml、または1000万個/g(10万個/ml以上、10万個/g以上、100万個/ml以上、100万個/g以上、1000万個/ml以上、または1000万個/g以上と表すこともできる)
・上限値:1000億(1×10
11)個/ml、1000億個/g、100億(1×10
10)個/ml、100億個/g、10億(1×10
9)個/mlまたは10億個/g、1億(1×10
8)個/mlまたは1億個/g
なお、本願明細書において、生菌数の単位を個またはcfuで表すことができる。
【0044】
本発明の製造方法で発酵飲食品を製造すると、発酵飲食品が発酵菌の生菌を含んでいても保存中のpHの低下を抑制することができる。例えば、本発明の方法で製造した発酵飲食品(例えば、例1〜3のPulse試料)を10℃で14日間保存した場合、この期間中に、電界パルスを印加する工程を除く以外は同様に製造して保存した発酵飲食品(例えば、例1〜3のControl試料)と比較して、pHが最大0.05以上高くなったとき、保存中のpHの低下が抑制されたということができる。あるいは、このようなpHの低下を判定するための差異は前述の0.05以上のほか、0.1以上、0.15以上、0.2以上、0.25以上などを例示できるが、これらの例に限定されない。このとき、pHの低下を判定するための保存期間や温度は、任意に設定してもよいが、発酵飲食品の賞味期間、流通温度、冷蔵温度などを使用することもできる。
【0045】
本発明の製造方法において、電界パルスは様々な態様で印加することができる。例えば、発酵飲食品の製造工程において、電界パルスの印加は、発酵の途中の飲食品および/またはその原料、または発酵の後の発酵飲食品のいずれに行ってもよく、単回あるいは複数回にわたって行ってもよい。電界パルスは、発酵の途中の飲食品および/またはその原料、または発酵の後の発酵飲食品に電極を直接投入するなど、接触的(直接的)に印加してもよく、発酵タンクの外から、発酵の途中の飲食品および/またはその原料、または発酵の後の発酵飲食品に電界パルスを印加するなど、非接触的(間接的)に印加してもよい。また、発酵タンクから移送する配管の途中で配管の外から、発酵の途中の飲食品および/またはその原料、または発酵の後の発酵飲食品に電界パルスを連続的に印加してもよく、発酵の途中の飲食品および/またはその原料、または発酵の後の発酵飲食品を充填した容器の外から電界パルスを印加してもよい。
【0046】
電界パルスの印加するとき、発酵の途中の飲食品および/またはその原料、または発酵の後の発酵飲食品は直接的に電極に接していてもよく、あるいは容器(エレクトロポレーション用キュベット、発酵タンク、販売用容器等)、配管(移送用の配管等)、包装(販売用包装)等の中に存在して、容器、配管、包装等の外側から間接的に電極に接していてもよい。
図1は、電極がエレクトロポレーション用キュベットまたは配管を挟んでいる様子を示しており、発酵の途中の飲食品および/またはその原料、または発酵の後の発酵飲食品がエレクトロポレーション用キュベットまたは配管を通じて間接的に電極に接している例となる。
【0047】
このように、発酵飲食品の製造おいて電界パルスの印加を行って、接触的(直接的)または非接触的(間接的)に発酵の途中の飲食品および/またはその原料、または発酵の後の発酵飲食品の処理をすることができる。例えば、後発酵型の発酵乳は、容器に飲食品および/またはその原料のミックス、および乳酸菌スターターを充填した後に発酵を行って製造する。このとき、発酵の途中または発酵の後に容器の外から電界パルスを印加することが可能である。また、前発酵型の発酵乳や乳酸菌飲料では、容器に充填する前に発酵タンクで飲食品および/またはその原料の発酵を行って製造する。このとき、発酵の途中または発酵の後に発酵タンクの外から電界パルスを印加してもよく、発酵の後に発酵タンクから容器に充填するまでの配管の途中で印加して連続処理を行うことも可能であり、充填した容器の外から印加することもできる。
【0048】
例えば、ナチュラルチーズでは、発酵工程の途中に電界パルスを印加してもよく、発酵工程の後に電界パルスを印加してもよく、さらに熟成工程の途中や熟成工程の後に電界パルスを印加してもよい。
【0049】
本発明の製造方法において、電界パルスを印化して製造した発酵飲食品の保存温度はいずれであっても良い。あえて例を挙げるなら、常温、冷蔵温度、35℃、25℃、20℃、15℃、10℃、5℃、または4℃を保存温度の上限とすることができ、さらに0℃、4℃、5℃、10℃、15℃、20℃を保存温度の下限とすることができるが、これらの例に限定されない。また、電界パルスを印化して製造した発酵飲食品の保存期間もいずれであっても良い。あえて例を挙げるなら、30年、10年、3年、2年、1年、150日、90日、80日、70日、60日、50日、40日、30日、20日、14日、10日、7日を保存期間の上限とすることができ、さらに3日、5日、7日、10日、14日、20日、30日、40日、50日、60日、70日、80日、150日、1年、2年、3年、10年を保存期間の下限とすることができるが、これらの例に限定されない。
【0050】
以下、本発明に関して例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。
【0051】
例1
(試験試料)
プレーンヨーグルト(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusおよびStreptococcus thermophilusを使用、無脂乳固形分10.6%、乳脂肪分0.2%)を撹拌してカードを破砕し、常温の純水により3倍希釈して試験試料を調製した。
【0052】
(電界パルスの印加)
調製した試験試料を直ちにエレクトロポレーション用キュベット(電極間隔4mm)に入れ、下記の条件で電界パルスを印加し、これをPulse試料とした。また、印加しない試験試料をControl試料とした。Pulse試料およびControl試料は4℃で静置保存した。
印加条件
・電界強度:20kV/cm
・パルス印加回数:50shotsまたは200shots
・パルス幅:10μs
・繰り返し周波数:0.5pps
・電極の冷却装置:アース側の電極内に水流を通じ、高圧側の電極に熱交換用フィンを設置した。
(測定)
電界パルスの最初の印加から、試料のpHと生菌数を、24時間毎に2週間にわたって測定した。試験試料は各時点で2回サンプリングを行って測定を行い、得られた測定値の平均値を算出した。
試験試料のpHは pH Spear(型番01×366920、Eutech社)を用いて測定した。
・試験試料中の乳酸菌(生菌)数はコロニーカウント法にて測定した。
【0053】
(結果)
pHおよび乳酸菌(生菌)数の測定結果を
図3に示す。Control試料ではpHが経時的に低下したのに対して、Pulse試料ではpHの低下は見られなかった。パルス印加回数が50shotsと200shotsで異なっても同様の傾向を示した。試験期間中、Control試料と比較して、Pulse試料のpHは、50shotsで最大0.15以上、200shotsで最大0.25以上高くなった。乳酸菌(生菌)数は、実験開始から1週間程度は概ね1×10
7〜1×10
8cfu/mlあり、その後は概ね1×10
6〜1×10
7cfu/mlで推移し、試験終期は1×10
7cfu/mlオーダーの値を示した。乳酸菌(生菌)数の変化において、パルス印加回数が50shotsと200shotsで異なっても同様の傾向を示した。
【0054】
以上の結果から、発酵乳を電界強度20kV/cm、パルス印加回数:50shotsまたは200shots、パルス幅:10μs、繰り返し周波数 0.5ppsの条件で印加したとき、保存中のpH低下が十分抑制され、かつ十分な数の乳酸菌(生菌)が生残していることが確認できた。
【0055】
例2
(試験試料)
プレーンヨーグルト(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusおよびStreptococcus thermophilusを使用、無脂乳固形分10.6%、乳脂肪分0.2%)を撹拌してカードを破砕し、常温の純水により3倍希釈して試験試料を調製した。
【0056】
(電界パルスの印加)
電界強度を10kV/cmとし、他の条件は例1に記載の方法に従って測定を行った。(測定)
例1に記載の方法に従って測定を行った。
【0057】
(結果)
pHおよび乳酸菌(生菌)数の測定結果を
図4に示す。Control試料ではpHが経時的に低下したのに対して、Pulse試料では、pHの低下が抑制された。パルス印加回数が50shotsと200shotsで異なっても同様であった。試験期間中、Control試料と比較して、Pulse試料のpHは、50shotsで最大0.2以上、200shotsで最大0.2以上高くなった。乳酸菌(生菌)数は、パルス印加回数によらずPulse試料もControl試料と変わらない菌数が試験期間を通じて維持された。いずれも、試験期間を通じて1×10
8cfu/ml以上の生菌数を維持しており、発酵乳の規格値(1×10
7cfu/ml)以上の生菌数を示した。
【0058】
以上の結果から、発酵乳を電界強度10kV/cm、パルス印加回数:50shotsまたは200shots、パルス幅:10μs、繰り返し周波数 0.5ppsの条件で印加したとき、保存中のpH低下が十分抑制され、かつ乳酸菌(生菌)数の低下も抑制されることがわかった。
【0059】
例3
(試験試料)
プレーンヨーグルト(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusおよびStreptococcus thermophilusを使用、無脂乳固形分9.5%、乳脂肪分3.0%)を撹拌してカードを破砕し、常温の純水により3倍希釈して試験試料を調製した。
【0060】
(電界パルスの印加)
電界強度を5kV/cmとし、他の条件は例1に記載の方法に従って測定を行った。
(測定)
例1に記載の方法に従って測定を行った。
【0061】
(結果)
pHおよび乳酸菌(生菌)数の測定結果を
図5に示す。Control試料ではpHが経時的に低下したのに対して、印加回数が50shotsのPulse試料ではpHの低下が抑制されなかった。試験期間中、Control試料と比較して、Pulse試料のpHは、50shotsで最大でも0.05未満、200shotsで最大0.05以上高くなった。乳酸菌(生菌)数は、パルス印加回数によらずPulse試料もControl試料と変わらない菌数が試験期間を通じて維持された。いずれも、試験終了時に発酵乳の規格値(1×10
7cfu/ml)以上の菌数であった。
【0062】
以上の結果を表1にまとめた。
<pHの低下抑制>
×・・・Control試料と比較して、pHの低下が抑制されなかった。
△・・・Control試料と比較して、pHの低下がほぼ抑制された。
◎・・・Control試料と比較して、pHの低下が十分抑制された。
<菌の生残>
○・・・Control試料よりも低い生菌数を示したが、
試験終了時に発酵乳の規格値(1×10
7cfu/ml)近傍の値を示した。
◎・・・Control試料と同様の生菌数の推移を示し、かつ試験終了時に発酵乳の
規格値(1×10
7cfu/ml)以上の生菌数を示した。
<総合評価>
×・・・pHの低下抑制が認められなかった。
○・・・pHの低下がほぼ抑制され、菌も十分生残していた。
◎・・・pHの低下が抑制され、菌も十分生残していた。
【0064】
このように、電界パルスの印加により、幅広い電界強度でヨーグルトの生菌数を十分維持しながら、保存中のpH低下を抑制できた。