特許第6381920号(P6381920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6381920
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】多孔質構造体の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20180820BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C12M3/00 Z
   C12N5/00
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-13730(P2014-13730)
(22)【出願日】2014年1月28日
(65)【公開番号】特開2015-139400(P2015-139400A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2017年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 啓
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−335574(JP,A)
【文献】 特開2004−073848(JP,A)
【文献】 特開2005−210931(JP,A)
【文献】 J. Biomed. Mater. Res. A,2013年,vol.101, no.12,pp.3571-3579
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12N 5/00−5/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体細胞の培養を与えるための気孔を含む多孔質構造体の製造方法であって、
貯留された複数の小体から1つを保持して持ち上げ水平移動させた後に降下させ該保持を解除させ得るピックアップ手段により、互いに平行に所定間隔で離間して位置し小体の配置されるべき所定位置をそれぞれ与えられた複数の仮想平面に対して、このうちの下から順に前記小体の前記所定位置への配置を繰り返していく上で、模倣元となる構造体の前記仮想平面毎に対応した断層画像から前記仮想平面上の前記所定位置を与えられることを特徴とする多孔質構造体の製造方法。
【請求項2】
前記仮想平面毎に対応させたシート体のそれぞれについて前記小体の前記所定位置への配置をした後に、前記シート体を積層させその少なくとも一部を溶解させることを特徴とする請求項1記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項3】
前記シート体は、アガー、アガロース、ゼラチン、又は、コラーゲンのいずれかからなることを特徴とする請求項2記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項4】
前記ピックアップ手段は、前記小体の前記所定位置への配置に先立ち、前記小体に接着剤を塗布させることを特徴とする請求項1記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項5】
前記小体は、ガラス及びセメントを含むセラミックスからなる第1の小体と、前記第1の小体と異なる材料からなる第2の小体とを含み、前記仮想平面のうちの下から順に前記小体の前記所定位置への配置を繰り返した後に、前記第2の小体を消失せしめることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項6】
前記小体は、ガラス及びセメントを含むセラミックスからなることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の多孔質構造体の製造方法
【請求項7】
生体細胞の培養を与えるための気孔を含む多孔質構造体の製造装置であって、
貯留された複数の小体から1つを保持して持ち上げ水平移動させた後に降下させ該保持を解除させ得るピックアップ手段を有し、
前記ピックアップ手段は、互いに平行に所定間隔で離間して位置し小体の配置されるべき所定位置をそれぞれ与えられた複数の仮想平面に対して、このうちの下から順に前記小体の前記所定位置への配置を繰り返していく上で、模倣元となる構造体の前記仮想平面毎に対応した断層画像から前記仮想平面上の前記所定位置を与えられることを特徴とする多孔質構造体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工骨や細胞培養の担体の如き生体細胞の培養を与えるための気孔を含む多孔質構造体の製造方法及び該方法を用いた装置に関し、特に、所定の形状を模倣しつつ形成することも可能な多孔質構造体の製造方法及び該方法を用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工骨や細胞培養の担体の如き生体細胞の培養を与える培地として、ガラス及びセメントなどを含むセラミックスからなる多孔質構造体が用いられ得る。特に、かかる培地として、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト、第二リン酸カルシウム(DCP)、第二リン酸カルシウム二水和物(DCPD)、α型第三リン酸カルシウム(α−TCP)、β型第三リン酸カルシウム(β−TCP)、第四リン酸カルシウム(TeCP)、メタリン酸カルシウムなどのリン酸カルシウム系セラミックスを用いた多孔質構造体が広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ヒトを含めた動物の組織細胞を3次元的に培養するためのリン酸カルシウム系セラミックスからなる多孔質構造体を用いた細胞培養用担体が開示されている。多孔質構造体には複数の球状の気孔が全体にわたって連通しその気孔率を80%以上にすることも可能である。一方で、平均気孔径が400μmを超えると、多孔質構造体の内部に侵入した細胞が流出しやすくなり構造体上に定着し難くなるとともに、培養担体の強度が不十分となってしまう。そこで、気孔率は60%以上80%以下、平均気孔径は100μm以上400μm以下、各気孔間の連通部の径は10μm以上100μm以下に制御すべきとしている。また、かかる多孔質構造体は、スポンジ状の有機多孔体にスラリーを塗布して有機多孔体に焼き抜くセラミックフォーム法や、スラリーを撹拌起泡して焼結する方法などで得られるとしている。
【0004】
更に、生体細胞の培養を与えるような高い気孔率の気孔を含むセラミックス多孔質構造体及びその製造方法として、セラミックスからなる小体を集めて集合体として多孔質構造体を製造する方法も知られている。
【0005】
例えば、非特許文献1では、特許文献2に開示された貫通孔を有するリン酸カルシウム系セラミックスビーズを集めた集合体からなり、ネットワーク状の連通孔を含む多孔質構造体による人工骨の設計及び製造の具体例について述べている。骨伝導構造として約300μm径の貫通孔を与えられた直径約1mmの球状の水酸アパタイトからなるビーズを直径5mmの内径の円柱状のセル(型枠)の中に充填し多孔質構造体を得ている。かかる方法では、円柱状のセル内の球状のビーズは閉鎖間隙を作らず、ビーズ間隙とビーズに設けられた貫通孔とが連通し完全連通孔ネットワークを形成する。このときの多孔質構造体のマクロ気孔率は約50%程度であり、生体由来因子がこれに容易に侵入し良好な骨の再形成を期待できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−209203号公報
【特許文献2】特開2003−335574号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】寺岡啓著、「微小人工骨ユニットの集積による自由な人工骨の設計と製造〜モザイク人工骨の提案〜」、産総研TODAY、2006年2月号、第8〜9頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に開示された小体を集めて集合体として多孔質構造体を製造する方法は、気孔率の制御などに優れる。一方で、例えば、人工骨などの用途として、適用箇所の形状を模倣しつつ多孔質構造体を製造するには、セル(型枠)を三次元的に複雑な形状にオーダーメードで1つずつ作成する必要が生じ、製造性に欠ける。そこで、生体細胞の培養を与えるような高い気孔率の気孔を含む多孔質構造体を高い製造性をもって提供できる方法が求められた。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、生体細胞の培養を与えるための気孔を含む多孔質構造体において、所定の形状を模倣しつつ形成することも可能であって、製造性の高い製造方法の提供、及び、かかる製造方法を取り込んだ製造装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による製造方法は、生体細胞の培養を与えるための気孔を含む多孔質構造体の製造方法であって、貯留された複数の小体から1つを保持して持ち上げ水平移動させた後に降下させ該保持を解除させ得るピックアップ手段により、互いに平行に所定間隔で離間して位置し小体の配置されるべき所定位置をそれぞれ与えられた複数の仮想平面に対して、このうちの下から順に前記小体の前記所定位置への配置を繰り返していくことを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、生体細胞の培養を与えるような気孔率の高い多孔質構造体にあっても、適用箇所に合わせた複雑形状を仮想平面毎に分けて小体配置を設計しこれに従って小体を配置すればよいから、複雑形状のセルを必要とせず、高い製造性を得られる。また、仮想平面毎の小体配置の設計とかかる設計に従った小体の配置作業とを対応付けて機械化(自動化)が可能であるから、より高い製造性を得られるのである。
【0012】
上記した発明において、前記仮想平面毎に対応させたシート体のそれぞれについて前記小体の前記所定位置への配置をした後に、前記シート体を積層させその少なくとも一部を溶解させることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、仮想平面上に小体を安定して配置できるとともに生体細胞の培養を与えるような気孔率の制御を容易にでき、高い製造性とともに設計に対する製品精度を高め得るのである。
【0013】
上記した発明において、前記シート体は、アガー、アガロース、ゼラチン、又は、コラーゲンのいずれかからなることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、シート体内における結晶成長による小体同士の接合を与え得るのである。
【0014】
上記した発明において、前記ピックアップ手段は、前記小体の前記所定位置への配置に先立ち、前記小体に接着剤を塗布させることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、仮想平面上に小体を安定して配置できるとともに生体細胞の培養を与えるような気孔率の制御を容易にでき、高い製造性とともに設計に対する製品精度を高め得るのである。
【0015】
上記した発明において、前記小体は、ガラス及びセメントを含むセラミックスからなる第1の小体と、前記第1の小体と異なる材料からなる第2の小体とを含み、前記仮想平面のうちの下から順に前記小体の前記所定位置への配置を繰り返した後に、前記第2の小体を消失せしめることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、高い製造性を損なうことなく、中空の多孔質構造体を容易に得られるとともに、生体細胞の培養を与えるような気孔率の広い範囲の制御を可能とするのである。
【0016】
上記した発明において、前記小体は、ガラス及びセメントを含むセラミックスからなることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、用途に適合した材料を広く選択できて、広い適用用途を提供できるのである。
【0017】
上記した発明において、前記仮想平面上の前記所定位置は、模倣元となる構造体の前記仮想平面毎に対応した断層画像から与えることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、仮想平面毎の小体配置の設計についても自動化できて、設計から多孔質構造体の製造まで一貫した自動化ができる。つまり、より高い製造性を得られるのである。
【0018】
更に、本発明による製造装置は、生体細胞の培養を与えるための気孔を含む多孔質構造体の製造装置であって、貯留された複数の小体から1つを保持して持ち上げ水平移動させた後に降下させ該保持を解除させ得るピックアップ手段を有し、互いに平行に所定間隔で離間して位置し小体の配置されるべき所定位置をそれぞれ与えられた複数の仮想平面に対して、このうちの下から順に前記小体の前記所定位置への配置を繰り返していくことを特徴とする。
【0019】
かかる発明によれば、生体細胞の培養を与えるような気孔率の高い多孔質構造体にあっても適用箇所に合わせた複雑形状を仮想平面毎に分けて小体配置を設計しこれに従って小体を配置すればよいから、複雑形状のセルを必要とせず高い製造性を得られるのである。
【0020】
上記した発明において、前記仮想平面上の前記所定位置を模倣元となる構造体の前記仮想平面毎に対応した断層画像から与える手段を更に有することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、仮想平面毎の小体配置の設計とかかる設計に従った小体の配置作業とを対応付けて機械化(自動化)できるので、より高い製造性を得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明による製造方法を示す工程図である。
図2】本発明による装置を示すブロック図である。
図3】本発明による製造方法を示す図である。
図4】本発明による製造方法を示す図である。
図5】本発明による製造方法を示す図である。
図6】本発明による製造方法を示す図である。
図7】本発明による多孔質構造体の写真である。
図8】本発明による多孔質構造体の写真である。
図9】本発明による多孔質構造体の写真である。
図10】本発明による多孔質構造体の写真である。
図11】本発明による多孔質構造体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1のS1〜S4に示すように、本発明を概略すれば、互いに平行に所定間隔で離間して位置しかつ小体の配置されるべき所定位置をそれぞれ与えられた複数の仮想平面を含む形状データに基づいて、貯留された複数の小体から1つをピックアップして搬送するピックアップ手段により、仮想平面の下から順に該小体の所定位置への配置を繰り返していくことで製造される生体細胞の培養を与えるための気孔を含む多孔質構造体及びその製造方法である。
【0023】
ピックアップ手段は貯留場所にあるガラス及びセメントなどを含むセラミックスからなる各種形状の小体を陰圧を付与したノズル先端若しくは吸着スポンジを取り付けたノズルに保持させて持ち上げ、所定の位置に運び、降下させて配置していく。このノズルの移動は、多孔質構造体の形状データに従って、X、Y、Zの三軸で位置決め可能な各種機構を用いて行い得る。
【0024】
多孔質構造体の形状データの作成は、CAD(Computer Aided Design)等のモデリングツールを使用し得るが、CT(Computed Tomography)で実体物から取得してもよい。詳細については後述する。
【0025】
ノズルによりピックアップした小体を所定の位置に留め置く方法、つまりサポート方法は、例えば、ピックアップした小体の上に接着剤を与えた後に所定の位置に留め置く方法、ゲルシートに小体を配置し該ゲルシートごとに積み上げてゲルシートを霧吹きで水(適宜、水蒸気や過熱水蒸気も用い得る。)を与えて処理して小体同士を接着させる方法を含み得る。
【0026】
また、多孔質構造体において、小体を存在させたくない部分に消失材を配置させておいて後にこれを消失させるとオーバーハング位置に小体を留め置くことができて、上記に併せて採用し得る。
【0027】
続いて、本発明による多孔質構造体の製造方法及び製造装置、特に、生体細胞の培養を与えるための気孔を含む多孔質構造体の製造方法及び製造装置の1つの実施例について、図1乃至図5を用いて説明する。
【0028】
図2に示すように、製造装置1は、コンピュータを含む制御部10によって、ノズル駆動機構20、可動ステージ25、ディスペンサ30、接着用ディスペンサ40をそれぞれ制御して、可動ステージ25上に所定の形状の多孔質構造体を作り込む装置である。なお、制御部10には予め形状データを取り込んでおくが、これについては後述する。
【0029】
ノズル駆動機構20は、XY平面内で可動である可動ステージ25と相対的に移動しつつ、小体置き場22から可動ステージ25の近傍の所定位置に小体7を運び、可動ステージ25の上に小体7を積み上げて多孔質構造体7aを作り上げる。ノズル駆動機構20はノズル5を含み、ノズル5を上下動D1において自在とするとともに、左右動D2においても自在とする。
【0030】
ディスペンサ30は、ノズル5の先端に陰圧を付加することで小体7を保持させ、かかる陰圧を解除することで小体7を開放させる。ディスペンサ30によるノズル5への陰圧の付加及び解除は、制御部10からの信号に基づいてなされる。なお、ノズル5の陰圧は、小体7を落下させず、かつ小体7を変形させずに保持できる程度の値に設定される。ノズル7の先端直径は、小体7の大きさにも依存するが、一例として、2mm径の球状粒子である小体7のピックアップには1mm径が好適である。
【0031】
接着用ディスペンサ40は、接着剤ノズル42を介してノズル5に保持された小体7の底面から接着剤を与える。詳細には、図3に示すように、ノズル5によりピックアップされた小体7は、ノズル駆動機構20によりノズル5とともに接着剤ノズル42の直上に運搬され、下降して接着用ディスペンサ40による接着剤再び、小体7はノズル5により接着剤ノズル42の直上に上昇させられる。ノズル42からの小体7への接着剤の塗布は、制御部10からの信号に基づいてなされる。
【0032】
接着剤の種類は適宜選定され得るが、簡便さの観点においては硬化時間の短いものが好ましい。例えば、シアノアクリレート系の接着剤が好適である。あるいは、生体材料を製造する観点においては、アガロースや寒天、ゼラチン、コラーゲンを使用し得る。
【0033】
なお、図4に示すように、ゲルシート8を枠8aにはめ込んで、この上の所定配置位置に小体7を配置し、これを重ね合わせた後に、ゲルシート8を水蒸気中に入れて蒸して小体7同士を接着させることもでき得る。各ゲルシート8の上の小体7の配置位置を多孔質構造体(構築目的体)7aの仮想断面に対応させて求めることで、後述するように、CT等により取得された画像から該配置位置を決定できて、実体物の形状を模倣して直接、多孔質構造体を構築できる。ゲルシートの材質には、例えば、アガロース、寒天、ゼラチン、コラーゲンが用い得る。
【0034】
小体7同士がゲルにより接合される場合、該ゲル内に結晶を育成させることが接着の観点で有効である。例えば、ゲルで接合された多孔質構造体7aについて、カルシウムを含む水溶液と、リンを含む水溶液に交互に浸漬することで、ゲル内にリン酸カルシウム析出物を与えることができる。このとき、カルシウムを含む水溶液とリンを含む水溶液には各種水溶液を用い得るが、例えば、それぞれにCaCl2水溶液とKH2PO4水溶液を用い得る。小体の材質がα−TCPの場合、小体からの溶出物がゲル内に析出する場合がある。このとき適宜の試薬によりゲル内のカルシウム濃度、もしくはリン濃度を高め、及び/又は、pHを高めると、ゲル内析出を促進できる。
【0035】
図5に示すように、制御部10の形状データの作成は、実体物3からCTを用いて取得し得て、より簡便に実体物3の形状を模倣した多孔質構造体7aを得ることが出来る。例えば、積層された小体7に対応する高さごとの断層画像3aを取得し、小体7の配置位置7’にこれを分割して成形体配置情報を含む形状データとするのである。仮想平面として互いに離間した断層画像3aを得ることにより、CTの撮像時間、画像処理にかかる時間などを低減できる。また、プライバシーを考慮した取得データの管理も容易となる。一方で、仮想平面として互いに離間した断層画像3aの間隔が密で、CTのデータが精密な場合、つまり、より小さな小体7に対応した間隔で断層画像3aを取得し、かかる小体7の形状に分割して配置情報とすることで、より精密に実体物3の形状を模倣した多孔質構造体7aを得ることが出来る。
【0036】
また、図6に示すように、多孔質構造体7aにおいて、小体7を存在させたくない部分に消失材からなる消失体9を配置させておいて、後にこれを消失させるとオーバーハング位置に小体7を留め置くことができる。かかる方法では、小体7と同一形状、若しくは、不定形状を含む適宜の形状のゲル又はゾルを消失材に使用し得る。消失材の材質は、熱分解可能なもの、溶解可能なものが好適であり、例えば、PVA、アガロース、寒天、ゼラチン、コラーゲンが好適である。
【0037】
以上によれば、小体7の集積による立体構築を自動的、もしくは半自動的に行うことができて、生体細胞の培養を与えるための気孔を含む多孔質構造体においても製造性を高め得る。また、サポートステップS2によれば、オーバーハングした位置にも小体7を留め置くことができ、従って、CT等の3次元形状スキャナーで取得したデータに忠実に小体7を集積させることができ、所定の形状を模倣しつつ形成することも可能である。更に、サポートをゲルにて与えた場合、該ゲル内に結晶を育成することでそのサポート能をより高めることができる。
【0038】
[実施例1]
図2の装置を用いて、図3の方法で直径2mmの球状のガラスビーズからなる小体7をピラミッド状の多孔質構造体7aに積み上げる(図7参照)。制御部10の形状データには、ガラスビーズ7をピラミッド状に積み上げた格子点データを収容し、各格子点にガラスビーズ7の中心が配置されるようにノズル5をノズル駆動機構20及び可動ステージ25と協働させて配置していく。なお、小体置き場22にも可動ステージを設け、所定の向きにビーズ7を配置し、所定の向きにビーズ7を配向させて積み上げることが出来る。例えば、ビーズ7に貫通孔などが設けられている場合、かかる貫通孔の方向を制御した多孔質構造体7aを形成可能である。
【0039】
[実施例2]
図2の装置を用いて、プラスチック枠8aに寒天ゲルシート8をはめて、この上に直径約1.6mmの球状α−TCPからなる小体7を3×3個を正方形に配置し、これを3枚積み重ね、10分間水蒸気中で蒸し上げて処理することで立方体の多孔質構造体7aを形成した(図8参照)。
【0040】
[実施例3]
実施例2において、ゲルシート8上に白色の析出物を得られる(図9参照)。α−TCP由来であり、ゲルの湿潤状態でのpHから析出物はリン酸カルシウムである。
【0041】
[実施例4]
図10に示すように、小体7に5mm径のアクリル球、消失小体9に5mm径のPVA球を用いて逆さピラミッド形状に多孔質体7aを形成した(図10参照)。つまり、オーバーハング構造となっている。詳細には、第1層目に消失小体9を一辺が五個の五角形に配置し(図10a参照)、第2層目に逆ピラミッドの頂点とする1つの小体7と、それを囲むように消失小体9を配置した(図10b参照)。続いて、第3層目には、逆ピラミッドの中間層として小体7を3個と、それを囲むように消失小体9を配置した(図10c参照)。更に、第4層目には、逆ピラミッドの上面として小体7を7個と、それを囲むように消失小体9を配置した(図5d参照)。かかる集積体を水につけ置くことでPVAからなる消失小体9が溶解し、アクリルからなる小体7のピラミッドを得られるのである(図10e参照)。なお、小体7同士は接着剤ノズル42により接着剤を与えて接着し、消失小体9同士は水を与えて接着した。
【0042】
[実施例5]
アガーゲルからなるサポート材を用いて2mm径のガラスビーズからなる小体7を集積させた(図11参照)。詳細には、シャーレを可動ステージ25の上に配置し、第1層目としてガラスビーズからなる小体7をシャーレ底面に配置し、アガーゲルを小体の高さ位置まで流し込む。アガーゲルが凝固後、第2層目としての小体7を第1層目の上に且つ第1層目の小体7よりも小体7を1個分だけ横長に配置し、アガーゲルをこの第2層目の小体7の高さ位置まで流し込む。これを第4層目まで繰り返した。これにより、長手方向の片側がオーバーハングした6面体としての多孔質構造体7aを形成できる。
【0043】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0044】
1 製造装置
5 ノズル
7 小体
8 ゲルシート
10 制御部
20 ノズル駆動機構
25 可動ステージ
30 ディスペンサ
40 接着用ディスペンサ
42 接着剤ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11