(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382032
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】MEMS素子
(51)【国際特許分類】
B81B 3/00 20060101AFI20180820BHJP
H04R 19/04 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
B81B3/00
H04R19/04
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-175348(P2014-175348)
(22)【出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2016-49583(P2016-49583A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩希
【審査官】
石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許出願公開第102006022377(DE,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/280319(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/48138(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/90398(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 3/00
H04R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックチャンバーを備えた基板と、該基板上に、スペーサーを挟んで固定電極と可動電極とを配置することでエアーギャップが形成されたMEMS素子において、
前記固定電極および前記可動電極の少なくともいずれか一方に、前記エアーギャップ側に突出する突起部を備え、
該突起部は、環状で、かつ屈曲形状であることを特徴とするMEMS素子。
【請求項2】
請求項1記載のMEMS素子において、前記突起部は、前記可動電極から前記基板側に突出していることを特徴とするMEMS素子。
【請求項3】
請求項1または2いずれか記載のMEMS素子において、
前記屈曲形状の変曲点は、湾曲形状であることを特徴とするMEMS素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS素子に関し、特にマイクロフォン、各種センサ、スイッチ等として用いられる容量型のMEMS素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体プロセスを用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子では、半導体基板上に固定電極、犠牲層及び可動電極を形成した後、犠牲層の一部を除去することで、スペーサーを介して固定された固定電極と可動電極との間にエアーギャップ(中空)構造が形成されている。
【0003】
例えば、容量型MEMS素子であるコンデンサマイクロフォンでは、音圧を通過させる複数の貫通孔を備えた固定電極と、音圧を受けて振動する可動電極(ダイヤフラム膜)とを対向して配置し、音圧を受けて振動する可動電極の変位を電極間の容量変化として検出する構成となっている。
【0004】
ところで、コンデンサマイクロフォンの感度を上げるには、音圧による可動電極の変位を大きくする必要がある。そのため可動電極は、引っ張り応力が残留する膜を用いるのが一般的である。一方この残留応力が大きすぎると可動電極の破損の原因となってしまう。
【0005】
そこで、膜自体の残留応力を制御する方法や、構造上の工夫により残留応力の影響を緩和する方法が提案されている。具体的には、前者の場合、固定電極をLPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法により堆積させ、堆積後のアニール条件等を制御して残留応力を調整する方法が、後者の場合、スリットを形成する方法(特許文献1)により残留応力を調整する方法が提案されている。
【0006】
図4は、従来のMEMS素子の説明図である。
図4に示すようにシリコン基板1上に熱酸化膜2を介して可動電極3が形成されている。可動電極3上には、スペーサー4を介して固定電極5と窒化膜6が形成され、固定電極5および窒化膜6には貫通孔7が形成されている。一方、可動電極3にはスリット8が形成され、残留応力が調整されている。
【0007】
ところで、可動電極3にスリット8を設けることは、このスリット8を通して音波が通過してしまい、コンデンサマイクロフォンの感度の低下を招いてしまう。そのため、
図4に示すようにシリコン基板1と可動電極3との間に、シリコン基板1側に突出する突起部9を形成することで音響抵抗を高める方法が提案されている(例えば特許文献2)。
【0008】
また、可動電極3に形成される突起部9をエアギャップ10側に突出する形状としたり、固定電極3側に突起部を形成し、エアギャップ10側に突出する形状とすることが種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−210083号公報
【特許文献2】特開2009−60600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、突起部の平面形状は、
図5に示すように断続的な環状とするのが一般的である。このように配置された突起部9と可動電極3の接続部では、
図5に矢印で示す環状の内周側に沿って応力が集中する。音響抵抗を高くするため突起部9の径方向の幅を拡げるのが望ましいが、幅が広いほど応力が大きくなり、可動電極3の脆弱性を増してしまう。その結果、突起部9の幅を拡げることには限界があった。一方、破損が起こらない程度の幅に突起部9を形成すると、所望の音響抵抗が得られないことになる。このような問題は、突起部9を固定電極5側に形成した場合も同様に生じてしまう。
【0011】
本発明は、上記問題点を解消し、音響抵抗を高めるための突起部を備えながら、応力集中による破壊が発生しないMEMS素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、バックチャンバーを備えた基板と、該基板上に、スペーサーを挟んで固定電極と可動電極とを配置することでエアーギャップが形成されたMEMS素子において、前記固定電極および前記可動電極の少なくともいずれか一方に、前記エアーギャップ側に突出する突起部を備え、該突起部は、環状で、かつ屈曲形状であることを特徴とする。
【0013】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載のMEMS素子において、前記突起部は、前記可動電極から前記基板側に突出していることを特徴とする。
【0014】
本願請求項3に係る発明は、請求項1または2いずれか記載のMEMS素子において、前記屈曲形状の変曲点は、湾曲形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のMEMS素子は、突起部を環状で、かつ屈曲形状とすることで、突起部の幅を拡げることなく音響抵抗が高くすることができ、MEMS素子の特性改善を図ることができるという利点がある。特に、屈曲形状の変曲点の形状を湾曲して変化するようにすると、変曲点に応力集中することを防止できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のMEMS素子の製造工程の説明図である。
【
図2】本発明のMEMS素子の製造工程の説明図である。
【
図3】本発明のMEMS素子の突起部の平面配置を説明する図である。
【
図4】従来のこの種のMEMS素子の説明図である。
【
図5】従来の音響抵抗を高めるための突起部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るMEMS素子は、固定電極あるいは可動電極に突起部を備えており、しかもこの突起部は、環状で、屈曲した平面形状とすることにより、突起部の幅を広くした場合と同等の音響抵抗を構成することが可能となる。以下、MEMS素子としてコンデンサマイクロフォンを例にとり、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0018】
まず、第1の実施例として固定電極からエアギャップ側に突出する突起部について、製造工程に従い説明する。結晶方位(100)面の厚さ420μmのシリコン基板1上に、厚さ1μm程度の熱酸化膜2を形成し、熱酸化膜2上に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により厚さ0.4μmの導電性ポリシリコン膜を積層形成する。次に通常のフォトリソグラフ法によりパターニングし、可動電極3を形成する。可動電極3には、スリット8が形成されている(
図1a)。
【0019】
可動電極3上に、厚さ2.0〜4.0μm程度のUSG(Undoped Silicate Glass)膜からなる犠牲層11を積層形成する。その後、犠牲層11の一部を除去し凹部12を形成する(
図1b)。ここで、凹部12は、
図3に突起部9の平面配置を模式的に示すように、環状で、単純な円形ではない屈曲した形状に形成する。なお、屈曲部は鋭角でなく湾曲した形状で変化するように形成すると、屈曲部に応力集中することなく好ましい。
【0020】
次に、犠牲層11上に、厚さ0.1〜1.0μm程度の導電性ポリシリコン膜を積層形成する。このとき、先に生成した凹部12内に導電性ポリシリコン膜が充填される。次に通常のフォトリソグラフ法によりパターニングし、固定電極5を積層形成する。
【0021】
犠牲層11の一部をエッチング除去し、先に形成した可動電極3の一部を露出させる。このとき、スクライブラインも開口する。露出した可動電極3および固定電極5にそれぞれ接続するアルミニウム等の導体膜からなる配線膜13を形成する(
図1c)。
【0022】
全面に窒化膜6を堆積させる。ここで、凹部12を固定電極5で充填する代わりに窒化膜6で充填することも可能である。通常のフォトリソグラフ法にて音圧を可動電極3に伝えるための貫通孔7を形成し、貫通孔7内に犠牲層11を露出させる。その後、シリコン基板1の裏面側から熱酸化膜2が露出するまでシリコン基板1を除去し、バックチャンバー14を形成する(
図2a)。
【0023】
その後、貫通孔7を通して犠牲層11の一部を除去してスペーサー4を形成する。その結果、スペーサー4に固定電極5と可動電極3が固定され、エアーギャップ構造が形成され、突起部9を備える固定電極5が形成される。このエッチングにより、熱酸化膜2の一部も除去される。(
図2b)。
【0024】
次に本発明の突起部9について説明する。
図3は、突起部9の平面配置を模式的に示した図である。
図3に示すように本発明の突起部9は、環状であり、単純な円形状でない屈曲した形状となっている。このような屈曲形状は、
図3に示すようなジグザグ形状の他、波形形状や、凹凸形状等種々変更可能である。ただし、ジグザグ形状や凹凸形状とした場合に、その屈曲部に応力が集中する場合には、屈曲部を湾曲させた波形形状とするのが好ましい。
【0025】
本発明の突起部9は、屈曲形状とすることで、径方向の内周と外周との間の距離がのび、音響抵抗として機能する見かけ上の幅が大きくなる。その結果、構造的な強度を保ちながら、音響抵抗を増大させることができるという利点がある。
【0026】
本発明の突起部は、上記実施例で説明したように固定電極5からエアギャップ側に突出する構造の他、可動電極からエアギャップ側に突出する構造としたり、可動電極から基板側に突出する構造とすることも可能である。
【符号の説明】
【0027】
1:シリコン基板、2:熱酸化膜、3:可動電極、4:スペーサ、5:固定電極膜、6:窒化膜、7:貫通孔、8:スリット、9:突起部、10:エアギャップ、11:犠牲層、12:凹部、13:配線膜、14:バックチャンバー