【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度経済産業省「エネルギー使用合理化技術開発等(未利用熱エネルギー革新的活用技術研究開発)(国庫債務負担行為に係るもの)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【文献】
Kishimoto Kengo ,Synthesis and Thermoelectric Properties of Silicon Clathrates Sr8Alx Ga16-x Si30 with the Type-I and Type-VIII Structures,Applied Physics Express,2008年,Vol.1,PP.031201
【文献】
J. C. Li,A study of the vibrational and thermoelectric properties of silicon type I and II clathrates,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2009年,Vol.105,pp.043503
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、熱電変換素子として熱電変換材料部と電極層とを組み合わせたものは知られており、特に複数の熱電変換材料部を電気的に配列したものが熱電変換モジュールとして使用されている。
ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは、熱エネルギーを電気エネルギーに変換することを可能とする。現実に熱電変換する場合は、p型熱電変換材料部とn型熱電変換材料部とを用いてこれらを交互に電気的に直列に接続する構造とする。熱電変換モジュールの性質を利用すると、産業・民生用プロセスや移動体から排出される排熱を有効な電力に変換することができるため、熱電変換は、環境問題に配慮した省エネルギー技術として注目されている。
【0003】
そこで、廃熱発電のような200〜900℃程度では、熱電性能が良好で環境負荷が少なく、さらに低コストで軽量な新しい熱電変換材料が求められている。
そのような新しい熱電変換材料の1つとしてクラスレート化合物が注目されている。有望なクラスレート化合物にはいくつかの種類が報告されているが、コスト面などからBa、Ga、Al、Si系やBa、Ga、Al、Ge系のクラスレート化合物が注目されている。
本発明者らは、有害元素を含まない組成が適用可能であること、室温〜900℃という温度範囲で適用可能であることなどの理由で、前者のSi系クラスレート化合物に特に注目している。
【0004】
Si系クラスレート化合物においては、Ba、Ga、Al、Siからなるクラスレート化合物の組成や合成法について既にいくつか開示されている。
たとえば、特許文献1には、単位格子あたりx個(10.8≦x≦12.2)のSi原子が、Al原子とGa原子のいずれかで置換されているBa
8(Al,Ga)
xSi
46−xの単結晶とその製造方法が開示されている。
【0005】
ところで、クラスレート化合物を使用した熱電変換モジュールに際しては、熱電変換材料部と電極とを高温部および低温部で接合する必要がある。
たとえば、Bi−Te系クラスレート化合物を使用した熱電変換モジュールは室温〜250℃の温度範囲において用いられるため、これらの接合は、熱の影響をほとんど考慮することなく、ハンダ、ロウ材などを使用した比較的容易な方法によって実現される。
しかしながら、Si系クラスレート化合物を使用した熱電変換モジュールは室温〜900℃の温度範囲において用いられるため、高温部における熱電変換材料部と電極との接合部分の耐熱性を含めた熱対策を考慮する必要がある。しかも、この温度範囲においてはハンダを適用できない。したがって、Si系クラスレート化合物を使用した熱電変換モジュールにおいては、クラスレート化合物から構成される熱電変換材料部と電極との接合性が課題となる。
【0006】
これを解決するため、特許文献2の技術では、Ba、Ga、Ge系クラスレート化合物から構成される熱電変換材料部とTi
3Cu
4の組成を有する電極(線膨張係数=12.8×10
−6[/K])との間にTi層を設けている。
特許文献3の技術では、クラスレート化合物をはじめとする材料からなる熱電変換材料部と電極とを、Agペーストを加熱処理することで金属化したAg接着層を介して、接続している。
【0007】
他方、熱電変換モジュールの実装の観点から、熱サイクルによる経時劣化を考慮する必要がある。かかる状況では、熱電変換材料部と電極との元素の相互拡散により、熱電変換材料部の成分が変化し熱電特性が低下することや、熱電変換材料部と電極との界面で抵抗が比較的高くなることが想定される。
【0008】
これを解決するため、特許文献4の技術では、鉄族元素であるNi、Co、Feを主成分としたSiとの合金層を、熱電変換材料部と電極との間に設けていることにより、拡散を防止している。
特許文献5の技術では、遷移金属シリサイド、または遷移金属シリサイドと金属材料との混合体の電極層を具備することにより、熱電変換材料部と電極層との界面抵抗を抑制している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。無論、本発明は下記に記載する実施形態に限定されるものでない。
【0018】
(A)熱電変換素子
図1に示すとおり、熱電変換素子1は基本的に、熱電変換材料部10と、熱電変換材料部10上に形成された高温側電極層21と、熱電変換材料部10上に形成された低温側電極層22とで、構成されている。
熱電変換材料部10はSi系クラスレート化合物を主成分とする熱電変換材料から構成されている。
電極層21、22は熱電変換材料部10に隣接しており、Si系クラスレート化合物に実質的に固溶しない少なくとも1種以上の遷移金属と、Siと、の化合物を含有している。
【0019】
熱電変換素子1はn型熱電変換素子もしくはp型熱電変換素子として使用され、またはn型熱電変換素子とp型熱電変換素子との両方の熱電変換素子として使用され、これらがさらに配線と接合され、モジュールとして組み込まれうる。配線はAg、Cu、Al、Niなどの導電性金属で構成される(熱電変換モジュールについては後述する。)。
【0020】
(B)熱電変換材料部
熱電変換材料部10はSi系クラスレート化合物を主成分としている。
Si系クラスレート化合物の一例としてBa−Ga−Al−Si系クラスレート化合物が挙げられる。Ba−Ga−Al−Si系クラスレート化合物は、主に、基本的な格子がSiのクラスレート格子から構成され、Ba元素がその内部に内包され、クラスレート格子を構成する原子の一部がGa、Alで置換された構造を有している。このクラスレート化合物は、Ba、Ga、Si、Alが同時に含まれた化合物である。
【0021】
Ba−Ga−Al−Si系クラスレート化合物では、化学式Ba
aGa
bAl
cSi
dの組成比のうち、Ba、Ga、Al、Siの各組成比a、b、c、dが概ね、次のような関係[1]を有し、Ga、Al、Siの各組成比b、c、dが概ね、次のような関係[2]を有する。
これらのような関係を満たせば、当該Ba−Ga−Al−Si系クラスレート化合物は理想的な結晶構造をとりうる。
a+b+c+d=54 … [1]
b+c+d=46 … [2]
【0022】
なお、熱電変換材料部10には、Si系クラスレート化合物を主成分として、少量の他の不純物が含まれてもよい。
【0023】
また、Si系クラスレート化合物として、Ba−Ga−Al−Si系クラスレート化合物に、少量の他の添加物が含まれたクラスレート化合物が使用されてもよい。たとえば、Si系クラスレート化合物はBa−Ga−Al−Si−X(X=Sr、Pd)系クラスレート化合物であってもよい。SrやPdは、ゼーベック係数を上昇させるのに有用な場合がある。
Ba−Ga−Al−Si−X系クラスレート化合物では、化学式Ba
aGa
bAl
cSi
dX
xの組成比のうち、Ba、Ga、Al、Si、Xの各組成比a、b、c、d、xが概ね、次のような関係[3]を有する。
a+b+c+d+x=54 … [3]
かかる場合、b+c+d+x=46であるのがよい。
なお、Ba−Ga−Al−Si−X系のクラスレート化合物にも、少量の他の不純物が含まれてもよい。
【0024】
(C)電極層
熱電変換素子1では、熱電変換材料部10と電極層21、22との接合性(密着性)が求められる。
実装の観点から、室温〜900℃程度の温度範囲での適用による熱電変換材料部10と電極層21、22との元素の相互拡散の影響によって熱電特性の低下を招く可能性がある。特に、熱電変換材料部10に対し、電極層21、22を構成する成分が著しく拡散することにより、致命的な熱電特性の低下が考えられる。
【0025】
これに対し、本実施形態にかかる熱電変換素子1では、熱電変換材料部10と、Si系クラスレート化合物に実質的に固溶しない遷移金属とSiとの化合物を含有する電極層21、22とを、備える。
Si系クラスレート化合物に実質的に固溶しない遷移金属とSiとの化合物は、他の元素の固溶域を有する場合もあるため、当該化合物には他の元素が若干含有されていてもよい。
【0026】
ここで「Si系クラスレート化合物に実質的に固溶しない遷移金属」とは、固溶域が存在しないか、もしくは著しく微量な固溶域が存在する遷移金属であり、以下の判断基準で判断する。すなわち、上記遷移金属を含まない場合のSi系クラスレート化合物の成分元素の元素数比率をα
1、α
2・・・α
nとし、元素数比率mの遷移元素Mが、上記「Si系クラスレート化合物に実質的に固溶しない遷移金属」に該当するかどうか判断するとき、以下の式[4][5]を満たす場合は、該当する、と判断する。
Σα
n+m=54 … [4]
m=0 または 0<m<0.5 … [5]
なお、式[4][5]の判断を行う場合は、上記α
1、α
2・・・α
nは、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による組成分析結果を用いる。
例えば、Ba−Ga−Al−Si系のクラスレート化合物に実質的に固溶しない遷移金属とは、Ba−Ga−Al−Si系のクラスレート化合物に対して、遷移金属Mを固溶させようとしたとき、化学式Ba
aGa
bAl
cSi
dM
mの組成式のうち、a、b、c、d、mが式[6][7]を満足することである。このとき、遷移金属MはBa−Ga−Al−Si系クラスレート化合物に固溶しないと判断する。
a+b+c+d+m=54 … [6]
m=0 または 0<m<0.5 … [7]
【0027】
具体的に「Si系クラスレート化合物に実質的に固溶しない遷移金属」とは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ta、Wなどであり、好ましくはVまたはCrである。
これら遷移金属は、Si系クラスレート化合物に対して固溶せず、主にSiと化合物を形成するのみである。そのため、これら遷移金属はSi系クラスレート化合物に対して比較的元素拡散が生じ難く、拡散が抑制される。さらに、一般的にこれら遷移金属とSiの化合物は比較的高融点であるため、拡散が抑制される。
したがって本実施形態のように、Si系クラスレート化合物に実質的に固溶しない遷移金属とSiとの化合物を含有する電極層21、22を用いた場合、熱電変換材料部10と金属層21、22との相互拡散が抑制される。
そして結果的に、熱電変換材料部10と電極層21、22との接合性を維持したまま、熱電変換材料部10と電極層21、22を構成する成分の著しい相互拡散を抑制し、接合性を維持したまま熱サイクルによる致命的な熱電特性の低下を防止することができる。
【0028】
図2に示すとおり、電極層21、22上には、Si系クラスレート化合物に実質的に固溶しない遷移金属とSiとの化合物が含有されない金属層31、32が形成されてもよい。
かかる構成によれば、熱電変換モジュールにおける熱電変換素子と配線とを、より容易に接合できる。
【0029】
電極層21、22は遷移金属とSiとの化合物が含有されていればよく、金属相など他の不純物が含まれていてもよい。
遷移金属とSiとの化合物が含有された電極層21、22のSi源としては、Si系クラスレート化合物が使用されてもよい。電極層21、22に対し、Si系クラスレート化合物が同時に含有されると、熱応力による歪の影響が緩和され、熱電変換材料部10と電極層21、22との接合性をより良好にすることができる。
【0030】
図1に示すとおり、電極層21、22は熱電変換材料部10の高温側と低温側との両方に設けられてもよいし、いずれか一方にのみ設けられてもよく、好ましくは
図3のように高温側にのみ設けられるのがよい。
電極層21、22を、高温側と低温側との両方に設ける場合には、電極層21、22の遷移金属とSiとの化合物の成分、含有量および構成などは、高温側と低温側とで同じであってもよいし異なっていてもよい。高温側と低温側とでは、熱電変換材料部10における熱応力などの状態が異なるためである。
【0031】
電極層21、22では、熱電変換材料部10から離れるにつれて遷移金属の含有量を増加させるのがよい。
かかる場合、焼結前の段階において、
図4に示すとおり、電極層21、22を複数の層21a〜21dから構成し、複数の層同士で遷移金属の含有量の比を変化させたものとする。詳しくは熱電変換材料部10に隣接する層では遷移金属の含有量を少なくし、熱電変換材料部10から離れるにつれて当該層中における遷移金属の含有量を増加させた構成とする。その後、焼結すると、
図5に示すとおり、遷移金属の含有量が段階的に増加する構成の電極層21となり、熱応力による歪の影響をより緩和できる。
【0032】
(D)製造方法
本発明の好ましい実施形態にかかる熱電変換素子の製造方法は、
(a)原料を混合・溶融・凝固して所定の組成のSi系クラスレート化合物を調製する調製工程と、
(b)Si系クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
(c)(i)Si系クラスレート化合物微粒子を焼結するか、(ii)Si系クラスレート化合物微粒子と遷移金属微粒子とを同時に焼結するか、または(iii)Si系クラスレート化合物微粒子と、遷移金属とSiとの化合物微粒子とを、同時に焼結する焼結工程と、
(d)焼結工程において、Si系クラスレート化合物微粒子を単独で焼結する行程を選択した場合は、焼結体の電極接合部に導電性金属を接合し、電極層を形成する形成工程と、
を有する。
これらの工程を経ることにより、所定の組成を有し、ポア(空隙)が少なく、組成が均一な材料が得られるという利点がある。
以下、工程を詳細に説明する。
【0033】
(a)調製工程
調製工程では、所定の組成を有しかつ均一な組成のSi系クラスレート化合物のインゴットを製造する。
まず、所望のSi系クラスレート化合物の組成となるように、所定量の原料(Ba、Ga、Al、Si、X)を秤量し混合させる。原料は、単体であってもよいし、合金や化合物であってもよく、その形状は、粉末でも片状でも塊状であってもよい。また、Siの原料として単体のSiではなくAl−Siの母合金を用いると、融点が低下するのでより好ましい。
【0034】
溶融時間としては、すべての原料が液体状態で均質に混ざり合う時間が必要とされるが、製造に要するエネルギーを考慮すると、溶融時間はできるだけ短時間であることが望まれる。そのため、溶融時間は、好ましくは1〜100分であり、さらに好ましくは1〜10分であり、特に好ましくは1〜5分である。
【0035】
原料混合物からなる粉末を溶融する方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。溶融方法としては、たとえば、抵抗発熱体による加熱、高周波誘導溶解、アーク溶解、プラズマ溶解、電子ビーム溶解などが挙げられる。ルツボとしては、グラファイト、アルミナ、コールドクルーシブルなどが、加熱方法に対応して適宜用いられる。溶融の際は、材料の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気下でおこなわれるのが好ましい。
【0036】
短時間で均質に混ざり合った状態とするためには、好ましくは微細な粉末状の原料が混合されるのがよい。ただし、Baは、酸化を防ぐために、好ましくは塊状を呈するものを使用する。また、溶融時に機械的な攪拌または電磁的な攪拌を加えるのも好ましい。
【0037】
溶融後、インゴットにするためには、鋳型を用いて鋳造してもよいし、ルツボ中で凝固させてもよい。できあがったインゴットの均質化のためには、溶融後にアニール処理をおこなってもよい。
【0038】
アニール処理の処理時間は、製造時の省エネルギーを考慮すると、なるべく短時間とされることが望まれるが、アニール効果を考慮すると、長い時間が必要とされる。アニール処理の処理時間は、好ましくは1時間以上であり、さらに好ましくは1〜10時間がさらに好ましい。
【0039】
アニール処理の処理温度は、好ましくは700〜950℃であり、さらに好ましくは850〜930℃である。処理温度が700℃未満であると、均質化が不十分になるという問題が生じ、処理温度が950℃を超えると、再溶融による濃度偏析が生じるという問題が生じる。
【0040】
(b)粉砕工程
粉砕工程では、調製工程によって得られたインゴットを、ボールミルなどを用いて粉砕し、微粒子状のSi系クラスレート化合物を得ることができる。得られる微粒子としては、焼結性を向上するために粒度が細かいことが望まれる。本実施形態では、微粒子の粒径は、好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上75μm以下である。
【0041】
所望の粒径の微粒子とするためには、ボールミルなどによってインゴットを粉砕した後、粒度を調整する。粒度の調整方法は、ISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いたふるい分けによりおこなえばよい。なお、この粉砕工程に代えて、ガスアトマイズ法などの各種アトマイズ法やフローイングガスエバポレーション法などを用いて微粒子を製造することもできる。
【0042】
(c)焼結工程
(i)焼結工程では、前記粉砕工程で得られた微粒子状のSi系クラスレート化合物を焼結して、均質で空隙の少ない、所定の形状の固体(熱電変換材料部)を得ることができる。
【0043】
他方、焼結工程では、熱電変換材料部と同時に、電極層を形成することもできる。
(ii)具体的には、熱電変換材料としてのSi系クラスレート化合物の微粒子と、電極層の形成用材料としてのSi系クラスレート化合物に実質的に固溶しない遷移金属微粒子とを、それぞれ所定量用意し、これらを焼結型に充填して焼結する。かかる場合、焼結時の通電加熱によってSi系クラスレート化合物と遷移金属との相互拡散が促進され、遷移金属とSiとの化合物が含有した電極層が形成される。
(iii)または、熱電変換材料としてのSi系クラスレート化合物の微粒子と、電極層の形成用材料としてのSi系クラスレート化合物に実質的に固溶しない遷移金属とSiとの化合物微粒子とを、それぞれ所定量用意し、これらを焼結型に充填して焼結してもよい。
【0044】
焼結方法としては、放電プラズマ焼結法、ホットプレス焼結法、熱間等方圧加圧焼結法などを用いることができる。放電プラズマ焼結法を用いる場合、その焼結の1条件となる焼結温度は、好ましくは600〜1000℃であり、より好ましくは800〜900℃である。焼結時間は好ましくは1〜10分であり、より好ましくは3〜7分である。圧力は好ましくは40〜80MPaであり、より好ましくは50〜70MPaである。
【0045】
焼結温度が600℃以下では焼結せず、焼結温度が1100℃以上では溶解する。焼結時間が1分未満では密度が低く、焼結時間が10分を超えると焼結が完了・飽和し、それ以上時間をかける意義がないと考えられる。
【0046】
(d)電極層の形成工程
焼結工程とは別に電極層を形成することもできる。
電極層の形成工程では、得られた熱電変換材料の焼結体と、電極層の形成材料としての遷移金属とSiとの化合物、または電極層の形成材料としての遷移金属の板や粉末とを、通電接合法に従って処理し電極層を形成することができる。
通電接合法に代えて、蒸着法、溶射法、メッキ法、スパッタ法などの薄膜形成法を用いてもよく、それぞれの工程の後に上記と同様の効果を得るアニール処理を施してもよい。
【0047】
(E)クラスレート化合物の生成の確認
前記の製造方法によって、Si系クラスレート化合物が生成されたかどうかは、粉末X線回折(XRD)により確認することができる。具体的には、焼結後のサンプルを再度粉砕して粉末X線回折測定し、得られるピークがタイプ1クラスレート相(Pm−3n、No.223)のみを示すものであれば、Si系クラスレート化合物が合成されたことを確認できる。
【0048】
しかし、実際にはタイプ1クラスレート相(Si系クラスレート相)のみからなるものと、不純物相を含むものとがあるため、不純物のピークも観察される。
Si系クラスレート化合物におけるSi系クラスレート相の最強ピーク比は85%以上であればよい。Si系クラスレート相の最強ピーク比は、好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。
【0049】
最強ピーク比とは、たとえばBa−Ga−Al−Si系クラスレート化合物であれば、粉末X線回折測定において測定されたSi系クラスレート相の最強ピーク(IHS)、不純物相A(BaGa
4―Y(Al,Si)
Y(0≦Y≦4))の最強ピーク強度(IA)、不純物相B(BaAl)
2(Si)
2など)の最強ピーク強度(IB)より、下記の式[8]で定義される。
「最強ピーク比」=IHS/(IHS+IA+IB)×100(%) … [8]
【0050】
上記のとおり、熱電変換素子1では、熱電変換材料部10はSi系クラスレート化合物を主成分としている。「Si系クラスレート化合物を主成分とする」とは、粉末X線回折測定結果から、Si系クラスレート相の最強ピーク比が85%以上であるという意味である。
【0051】
(F)熱電変換モジュール
熱電変換モジュールは、熱電変換素子にかかる熱エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を持つことができるモジュールである。
図6(a)に示すとおり、熱電変換モジュール60は主に、n型熱電変換素子11、p型熱電変換素子12、高温側配線41、低温側配線42、高温側絶縁基板51および低温側絶縁基板52によって構成されている。
図6(b)に示すとおり、熱電変換モジュール60では、n型熱電変換素子11およびp型熱電変換素子12と高温側配線41および低温側配線42とが交互に接合され、n型熱電変換素子11およびp型熱電変換素子12が高温側配線41および低温側配線42を介して電気的に直列に配列された構成を有している。
【0052】
n型熱電変換素子11およびp型熱電変換素子12として、熱電変換素子1が使用される。熱電変換素子1は、n型熱電変換素子11とp型熱電変換素子12との少なくとも一方に使用されればよく、n型熱電変換素子11とp型熱電変換素子12との両方に使用されてもよい。
ただ、熱電変換素子1は好ましくはn型変換素子11に使用されるのがよい。かかる場合、p型熱電変換素子は、Ba−Ga−Al−Si系クラスレート化合物を主成分とする熱電変換材料部を含む素子であってもよいし、Ba−Ga−Al−Ge系クラスレート化合物を主成分とする熱電変換材料部を含む素子であってもよい。
【0053】
高温側配線41および低温側配線42は、n型熱電変換素子11とp型熱電変換素子12とを電気的に直列に接続する機能を備える。
高温側配線41の材料としては、900℃以上の融点を持つ導電性金属であればよく、好ましくはCuまたはAgなどの比較的低電気抵抗の金属が望ましい。低温側配線42の材料としては、導電性金属であればよく、Cu、AgまたはAlなどが望ましい。
【0054】
高温側絶縁基板51および低温側絶縁基板52は、n型熱電変換素子11およびp型熱電変換素子12と、高温側配線41および低温側配線42とを、固定する機能を備え、さらに熱電変換モジュール60が均一に受熱する機能を備える。
高温側絶縁基板51の材料は、900℃以上の融点を持ち、高温側配線41との間で絶縁される材料であればよく、たとえばアルミナである。また、低温側絶縁基板52の材料は、高温側絶縁基板51と同一であってもよく、異なっていてもよいが、低温側配線42との間で絶縁される材料である必要がある。
【0055】
なお、熱電変換モジュール60では、高温側絶縁基板51がなくてもよい。
この場合、高温側配線41と高温側絶縁基板51との接続がなくなり、高温側配線41やn型熱電変換素子11、p型熱電変換素子12などにかかる熱応力が緩和され、高温における熱電変換モジュール60の信頼性が向上する。
以上、熱電変換モジュールの一例を上述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0056】
以下、本発明を、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
(1)熱電変換素子サンプルの作製
(1.1)サンプル1
純度2N以上の高純度のBaと、純度3N以上の高純度のGa、Al、Siを表1に記載の配合比率で秤量し、原料混合物を調製した。
【0058】
【表1】
【0059】
この原料混合物を、Ar雰囲気中において、水冷銅ハース上で300Aの電流で1分間アーク溶解した後、原料の不均一を解消するためにインゴットを反転して、再度アーク溶解を行う工程を5回繰り返し、そのまま水冷銅ハース上で常温まで冷却することによりSi系クラスレート化合物を有するインゴットを得た。
その後、インゴットの均一性を高めるために、Ar雰囲気で、900℃で6時間のアニール処理を行った。
【0060】
得られたインゴットを、メノウ製遊星ボールミルを用いて粉砕し、微粒子を得た。このとき、得られた微粒子の粒径が75μm以下となるようにISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いて粒度を調製した。
【0061】
熱電変換材料部と電極層とを作製するために、得られた焼結用微粒子(Si系クラスレート化合物)とV微粒子とを所定の割合で焼結型に充填し、焼結を行った。このとき、焼結型に充填した粉末は、得られた焼結用微粒子とV微粒子とを、表2となるように混合粉末を調製し、特に焼結前の電極層が5層構造の熱電変換素子(
図4参照)を作製した。
表2中、電極層の1層目が熱電変換材料部に隣接する層であり、層数が増えるにつれて熱電変換材料部から離れている(後述の表3および表4でも同様である。)。
【0062】
【表2】
【0063】
焼結は、放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて、圧力60MPaまで加圧した後に1000℃まで加熱を行い、その後1000℃で5分間焼結した。焼結が終了してから、加圧状態を解除し、1000℃から室温まで冷却を行った。
【0064】
なお、焼結が終了してから、加圧状態を保持し続けて冷却を行うと、割れが生じてしまったが、上記のとおりに焼結後に加圧状態を解除して1000℃から室温まで冷却を行うと、そのような割れを抑制することができた。得られるサンプルやダイスの劣化を考慮すると、冷却温度が500℃以上では真空雰囲気で保持することが好ましいが、500℃未満では大気雰囲気で保持してもかまわない。
【0065】
(1.2)サンプル2、3
サンプル1に対し、800℃で2時間の熱処理を施した試料をサンプル2と、900℃で6時間の熱処理を施した試料をサンプル3とした。
【0066】
(1.3)サンプル4
サンプル1の作製において、焼結用微粒子とV微粒子とを表3の割合で焼結型に充填し、焼結を行った。その結果得られた試料をサンプル4とした。
【0067】
【表3】
【0068】
(1.4)サンプル5
サンプル1の作製において、焼結用微粒子とCrSi2微粒子とを表4の割合で焼結型に充填し、焼結を行った。その結果得られた試料をサンプル4とした。
【0069】
【表4】
【0070】
(1.5)サンプル6
サンプル1の作製において、焼結用微粒子とAg微粒子とを表5の割合で焼結型に充填し、焼結を行った。その後、得られた焼結体に対し、800℃で2時間の熱処理を施した試料をサンプル6とした。
【0071】
【表5】
【0072】
(1.6)サンプル7
サンプル1の作製において、焼結用微粒子とCu微粒子とを表6の割合で焼結型に充填し、焼結を行った。その後、得られた焼結体に対し、900℃で2時間の熱処理を施した試料をサンプル7とした。
【0073】
【表6】
【0074】
(2)熱電変換素子サンプルの評価
サンプル1〜7における熱電変換材料部を、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)で組成分析するとともに、前記の「(E)クラスレート化合物の生成の確認」のX線回折とに供した。
【0075】
(2.1)熱電変換材料部の組成分析
サンプル1の熱電変換材料部の組成分析の結果、表1のSi系クラスレート化合物において、所望の組成Ba
aGa
bAl
cSi
d(a+b+c+d=54、b+c+d=46)の化合物が得られた。
【0076】
(2.2)X線回折分析
サンプル1の熱電変換材料部がSi系クラスレート化合物を主成分とすることを確認するために、X線回折装置(リガク社製Geigerflex)を使用して、サンプルの中心部分を切り出して粉末X線回折で分析した。その結果、タイプ1クラスレート相が生成していることが確認された。得られた結果から、式[8]に基づき最強ピーク比を算出すると、最強ピーク比が95%以上であることを確認した。
【0077】
(2.3)接合性の評価
サンプル1〜7を、縦2×横2×高さ5mmのサイズに精密成形した。
その後、サンプル1〜7における熱電変換材料部と電極層との間の界面について、光学顕微鏡を用いた目視により界面近傍を観察し、その観察の結果、界面の剥離、割れ、クラックが確認されなければ、デジタルマルチメーター(カイセ社製KU-2608)を使用して、熱電変換素子の高温側と低温側との通電の可不可を確認した。
このとき、高温側と低温側との両端の抵抗が100Ωを越える場合は、界面に剥離、割れ、クラックが生じたと考えられ、通電可能でないと判断した。
界面に剥離、割れ、クラックが無くかつ通電可能であれば「○(良好)」と、界面に剥離、割れ、クラックがあるか、または通電可能でない場合には「×(不良)」として、熱電変換材料部と電極層との間の接合性を評価した。
【0078】
サンプル1の熱電変換材料部と電極層との接合界面近傍における(a)SEM像、(b)Vの組成マッピング、(c)Siの組成マッピングを、
図7に示す。
図7(a)中、主に下半分部はSi系クラスレート化合物の熱電変換材料部で、上半分部はV−Si化合物(VとSiとの化合物)を含有している電極層である。熱電変換材料部と電極層との接合界面において、剥離、割れ、クラックが生じていないことが確認できる。さらに、
図7(b)の白いコントラスト部分と、
図7(c)の暗いコントラストの部分とから、電極層にはV−Si化合物が形成されていることがわかる。
【0079】
サンプル3の熱電変換材料部と電極層との接合界面近傍における(a)SEM像、(b)Vの組成マッピング、(c)Siの組成マッピングを、
図8に示す。
サンプル3でも、サンプル1のSEM像、Vの組成マッピング、Siの組成マッピングの傾向とは大きな変化がなく、電極層にV−Si化合物が形成されていることがわかる。900℃の高温でも、熱電変換材料部と電極層との接合界面においては、剥離、割れ、クラックが生じないことが確認される。
【0080】
サンプル2、4でも、サンプル1のSEM像、Vの組成マッピング、Siの組成マッピングの傾向とは大きな変化がなく(図示略)、電極層にV−Si化合物が形成されていることがわかった。さらに、サンプル2、4でも、熱電変換材料部と電極層との接合界面において、剥離、割れ、クラックが生じないことを確認した。
【0081】
サンプル5でもサンプル1〜4と同様にSEM画像、組成マッピングにより評価を行ったところ、サンプル5では、電極層にCrSi
2を主として含有していることを確認した。さらに、サンプル5では、熱電変換材料部と電極層との接合界面近傍における剥離、割れ、クラックを生じないことを確認した。
【0082】
サンプル6の熱電変換材料部と電極層との接合界面近傍における(a)SEM像、(b)Agの組成マッピング、(c)Siの組成マッピングを、
図9に示す。
図9(a)中、上部はAg電極層である。
図9(b)から、電極層の下方にAgが存在することがわかる。
図9(b)中、下部の暗いコントラスト部はAgが含有していない熱電変換材料部である。
図9(c)から、熱電変換材料部にSiが存在することがわかる。その他の元素であるBa、Al、Gaの組成マッピングも確認したところ、これら元素においてもSiと同様に存在が確認された。結果、熱電変換材料部と電極層との接合部分は、Agが固溶しているクラスレート化合物から構成されていると判断でき、Ag−Si化合物(AgとSiの化合物)を形成せずに、熱電変換材料部と電極層とが接合していることがわかった。
ただ、サンプル6では、熱電変換材料部と電極層との接合界面近傍において、剥離、割れ、クラックが生じていないと判断でき、接合性の評価は良好であった。
【0083】
サンプル7の熱電変換材料部と電極層との接合界面近傍における(a)SEM像、(b)Cuの組成マッピング、(c)Siの組成マッピングを、
図10に示す。
図10(a)中、上部は電極層であり、Cu−Si化合物(CuとSiの化合物)を含有している。
図10(b)から、電極層の下方にCuが存在することがわかる。
図10(b)中、下部の暗いコントラスト部はCuが含有していない熱電変換材料部である。
図10(c)から、熱電変換材料部にSiが存在することがわかる。その他の元素であるBa、Al、Gaの組成マッピングも確認したところ、これら元素においてもSiと同様に存在が確認された。結果、熱電変換材料部と電極層との接合部分は、Cuが固溶しているクラスレート化合物から構成されていると判断でき、熱電変換材料部とCu−Si化合物を含有した電極層とが接合していることがわかった。
サンプル7では、熱電変換材料部と電極層との接合界面近傍において、クラックが生じていると判断でき、接合性の評価は不良であった。
【0084】
(2.4)拡散状態の評価
サンプル1〜7における熱電変換材料部と電極層との間の拡散状態を、下記のとおり評価した。
EPMAによる組成マッピングの結果から、電極層に含有される遷移金属がSi系クラスレート化合物に実質的に固溶していない場合には「○(良好)」と、Si系クラスレート化合物に固溶している場合には「×(不良)」と評価した。
【0085】
サンプル1では、1000℃における焼結にもかかわらず、
図7(b)より、Vは黒いコントラストのSi系クラスレート化合物である熱電変換材料部へは実質的に固溶していないことがわかる。そのため、サンプル1では、熱電変換材料部の熱電特性は低下していないと考えられる。
【0086】
サンプル3では、900℃で6時間の熱処理を施しているにもかかわらず、
図8(b)より、Vは黒いコントラストのSi系クラスレート化合物である熱電変換材料部へは実質的に固溶していないことがわかる。そのため、サンプル3でも、熱電変換材料部の熱電特性は低下していないと考えられる。
【0087】
サンプル2、4でも、Vは熱電変換材料部へほぼ拡散せずにSi系クラスレート化合物に実質的に固溶していないことがわかった。そのため、サンプル2、4でも、熱電変換材料部の熱電特性は低下していないと考えられる。
サンプル5でも、電極層に含有されるCrはSi系クラスレート化合物に実質的に固溶しておらず、熱電変換材料部の熱電特性は低下していないと考えられる。
【0088】
他方、サンプル6では、
図9(b)より、AgがSi系クラスレート化合物に固溶しており、拡散状態の評価は不良である。
サンプル7でも、
図10(b)より、CuがSi系クラスレート化合物に固溶しており、拡散状態の評価は不良である。
【0089】
以上、サンプル1〜7の評価結果を表7に示す。
【0090】
【表7】
【0091】
(3)まとめ
表7に示すとおり、サンプル1〜5はサンプル6〜7に対し優れている。
その結果、Si系クラスレート化合物を用いた熱電変換素子では、室温〜900℃という温度範囲において、熱電変換材料部と電極層との接合性を向上させ、元素の相互拡散を抑制するうえでは、電極層に対し特定の遷移金属とSiとの化合物を含有させることが有用であることがわかる。
【実施例2】
【0092】
図6と同様の構成を有する熱電変換モジュールを作製した。
n型熱電変換素子としてサンプル1を使用した。
p型熱電変換素子として、サンプル1の作製に従う手法で、組成比Ba
8Ga
13Al
5Ge
28のBa−Ga−Al−Ge系クラスレート化合物を主成分とする焼結体を作製し、高温側電極層および低温側電極層としてNiめっきを施したものを準備した。
なお、Ba−Ga−Al−Ge系クラスレート化合物の原料混合物の調製にあたっては、Ba、Ga、Al、Geを表8に記載の配合比率で秤量した。
【0093】
【表8】
【0094】
その後、n型熱電変換素子およびp型熱電変換素子を、縦2×横2×高さ5mmのサイズに精密整形を施した。
高温側配線および低温側配線として縦2×横5×厚さ0.1mmのサイズのCu板を使用し、さらに、高温側絶縁基板および低温側絶縁基板としてアルミナ板を使用した。
【0095】
その後、n型熱電変換素子とp型熱電変換素子とを、それぞれ8個ずつ配線を介して直列に接続するように、熱電変換素子、配線および絶縁基板にそれぞれAgペーストを塗布し、常温乾燥させることでこれら部材を互いに接合させた。
【0096】
このように得られた熱電変換モジュールでは、900℃においても使用可能で、n型熱電変換素子における高信頼性を有していた。