特許第6382561号(P6382561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382561
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】電気化学計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20180820BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   G01N27/26 391Z
   G01N27/416 311A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-85316(P2014-85316)
(22)【出願日】2014年4月17日
(65)【公開番号】特開2015-206604(P2015-206604A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083194
【弁理士】
【氏名又は名称】長尾 常明
(72)【発明者】
【氏名】示野 洋一
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−142359(JP,U)
【文献】 特開2011−205515(JP,A)
【文献】 実開昭57−098022(JP,U)
【文献】 実開昭56−172750(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納された電解液に少なくとも作用極と対極が浸漬された電気化学センサと、所定の電圧を前記対極に印加するポテンショスタット回路とを備え、前記電気化学センサの出力電流又は該出力電流を電圧変換した出力電圧を測定する電気化学計測装置において、
前記ポテンショスタット回路をオペアンプで構成し、該オペアンプの正転出力側負荷抵抗と反転出力側負荷抵抗を同一の抵抗値に設定し、前記正転出力側負荷抵抗又は前記反転出力側負荷抵抗の抵抗値を別の抵抗値に切り替えるスイッチを設け、該スイッチがオン→オフ操作されることで発生するオフセットパルスが前記電気化学センサに印加されるようにしたことを特徴とする電気化学計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学計測装置において、
前記スイッチは、前記正転出力側負荷抵抗又は前記反転出力側負荷抵抗の抵抗値を、互いに異なった複数の抵抗値のうちから選択した1つの抵抗値に設定する複数のスイッチからなり、
該複数のスイッチのうちの1つがオン→オフ操作されることで発生するオフセットパルスが前記電気化学センサに印加されるようにしたことを特徴とする電気化学計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学センサの接続不良や断線異常や感度劣化度合等を検出することができるようにした電気化学計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学センサの1つとしての定電位電解式ガスセンサの内外リード線の接続不良や断線異常を検出する機能点検装置について特許文献1に記載がある。この機能点検装置は、図4に示すように、容器に収納した電解液に作用極11、対極12、照合極13を浸漬した定電位電解式ガスセンサ10に対し、パルス発生器80により発生した数mV〜数十mVの電圧パルスを、ポテンショスタット回路70によりそのガスセンサ10の対極12に印加し、そのとき流れる電流を電流計60により、そのとき発生する作用極11と対極12との間の電圧を電圧計50により、それぞれ測定して、その測定結果により接続不良や断線異常の有無を判定するものである。
【0003】
たとえば、パルス発生器80により、振幅が2mVでパルス幅が0.1秒のパルス電圧を発生してガスセンサ10に印加したとき、
(1)測定電流値が15μAで測定電圧が0Vであれば正常
(2)測定電流値が0Aで測定電圧が0Vであれば作用極11が断線異常
(3)測定電流値が15μAで測定電圧が300mVであれば対極12が断線異常
と判定するものである。また、上記したパルス電圧による測定結果をガスセンサ10の使用初期と現在とで比較すれば、そのガスセンサ10の感度劣化度合を判定できる。
【0004】
上記したパルス発生器80は、ポテンショスタット回路70に、基準電圧(バイアス電圧)あるいは数mV〜数十mVのパルス電圧を印加させるために、D/A変換器を使用したり、あるいは図5に示すように、定電圧ダイオードZDで発生した定電圧を、抵抗R80,R81a,R81b,R82a,R82b,R83a,R83b,R84a,R84bからなる抵抗ラダーで分割する抵抗分割回路を使用している。SW81は基準電圧あるいはパルス電圧を選択するためのスイッチである。
【0005】
図5では、たとえば、抵抗R81a,R81bは第1の基準電圧Vref1用、抵抗R82a,R82bは第2の基準電圧Vref2用、抵抗R83a,R83bは第3の基準電圧Vref3用、抵抗R84a,R84bは第4の基準電圧Vref4用として設定される。また、抵抗値は、R81b<R81a、R82b<R82a、R83b<R83a、R84b<R84aに設定される。
【0006】
そして、通常のガスセンサとして使用するときは、当該ガスセンサ10に応じてスイッチSW81を切り替えることにより、基準電圧Vref1〜Vref4のうちのいずれかが選択されて設定され、ポテンショスタット回路70の正転入力端子に印加する。
【0007】
また、接続不良や断線異常や感度劣化度合等を点検するときは、当該ガスセンサ10の種類に応じて、スイッチSW81によって、たとえば基準電圧Vref1が設定されるときは、一時的にスイッチSW81を基準電圧Vref1+αに切り替えることで、抵抗R81bの抵抗分に相当する大きさα(=数mV〜数十mV程度)のパルス電圧を生成する。また、基準電圧Vref2が設定されるときは、一時的にスイッチSW81を基準電圧Vref2+βに切り替えることで、抵抗R82bの抵抗分に相当する大きさβ(=数mV〜数十mV程度)のパルス電圧を生成する。同様に、基準電圧Vref3,Vref4が設定されるときは、一時的にスイッチSW81を基準電圧Vref3+γ、Vref4+δに切り替えることで、抵抗R83b,R84bの抵抗分に相当する大きさγ、δ(=数mV〜数十mV程度)のパルス電圧を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2613316号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述のD/A変換器を使用する場合は、回路規模や消費電流が大きくなるという問題がある。また、図5で説明した抵抗分割回路を使用する場合は、多種類のガスセンサに対応させるとき、複数種類の基準電圧が必要となるので、その各基準電圧についてそれぞれ数mV〜数十mV程度で変化するパルス電圧を発生させるための抵抗(図5では抵抗R81b,R82b,R83b,R84b)が必要となる。また、1.25V程度の定電圧ダイオードZDから数mV〜数十mV程度で変化するパルス電圧を生成させるときは、必要な抵抗比(抵抗の重み付け、たとえばR81aとR81bの抵抗比)が大きくなり、精度を確保することが難しくなる。
【0010】
本発明の目的は、ポテンショスタット回路を構成するオペアンプでオフセット電圧を発生させて、電気化学センサの接続不良や断線異常や感度劣化度合等を検出するためのパルス電圧が生成されるようにし、消費電流の問題や抵抗分割回路の大規模化、さらには検出精度低下の問題を解決した電気化学計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1にかかる発明は、収納された電解液に少なくとも作用極と対極が浸漬された電気化学センサと、所定の電圧を前記対極に印加するポテンショスタット回路とを備え、前記電気化学センサの出力電流又は該出力電流を電圧変換した出力電圧を測定する電気化学計測装置において、前記ポテンショスタット回路をオペアンプで構成し、該オペアンプの正転出力側負荷抵抗と反転出力側負荷抵抗を同一の抵抗値に設定し、前記正転出力側負荷抵抗又は前記反転出力側負荷抵抗の抵抗値を別の抵抗値に切り替えるスイッチを設け、該スイッチがオン→オフ操作されることで発生するオフセットパルスが前記電気化学センサに印加されるようにしたことを特徴とする。
【0012】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の電気化学計測装置において、前記スイッチは、前記正転出力側負荷抵抗又は前記反転出力側負荷抵抗の抵抗値を、互いに異なった複数の抵抗値のうちから選択した1つの抵抗値に設定する複数のスイッチからなり、該複数のスイッチのうちの1つがオン→オフ操作されることで発生するオフセットパルスが前記電気化学センサに印加されるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポテンショスタット回路を構成するオペアンプにオフセット電圧発生手段を設けたので、このオフセット電圧発生手段によりパルス電圧が発生させることができ、電気化学センサの接続不良や断線異常や感度劣化度合等を検出する際に、D/A変換器を使用する場合のように追加のための回路や消費電流が小さくて済み、また大きな抵抗比を設定させた抵抗ラダーを設ける必要もなくなる。このため、回路の大規模化、検出精度低下等の問題を引き起こすことはない。オフセット電圧発生手段をスイッチで構成し、そのスイッチを複数用いれば、発生するパルス電圧の振幅をより細かく設定することができ、より多くの種類の電気化学センサの接続不良や断線異常や感度劣化度合等の検出に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の1つの実施例の電気化学計測装置のブロック図である。
図2図1の電気化学計測装置のポテンショスタット回路の変形例の回路図である。
図3図1の電気化学計測装置のポテンショスタット回路の別の変形例の回路図である。
図4】定電位電解式ガスセンサを使用した従来の電気化学計測装置のブロック図である。
図5図4の電気化学計測装置のパルス電圧発生回路の具体的な回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に本発明の1つの実施例の電気化学計測装置を示す。10は電解液が容器に収納された定電位電解式ガスセンサであり、作用極11、対極12、照合極13がその電解液内に浸漬されている。
【0017】
20はポテンショスタット回路を構成するオペアンプであり、正転入力端子21、反転入力端子22、出力端子23を有し、さらに、差動接続のPMOSトランジスタMP1,MP2、電流源24、カレントミラー接続の能動負荷としてのNMOSトランジスタMN1,MN2、正転出力側負荷抵抗R11,R12、反転出力側負荷抵抗R21,R22、反転増幅器25、および抵抗R12を短絡するためのスイッチSW11を備える。そして、反転入力端子22がガスセンサ10の照合極13に接続され、出力端子23がガスセンサ10の対極12に接続されている。抵抗R11,R12,R21,R22の抵抗値は、R11=R21,R12=R22に設定されている。つまり、正転出力側負荷抵抗R11,R12の合計抵抗値と反転出力側負荷抵抗R21,R22の合計抵抗値は同じである。
【0018】
30は電流/電圧変換回路を構成するオペアンプであり、発振防止抵抗R31と帰還抵抗R32を備え、ガスセンサ10から出力する電流信号Ioutを電圧信号Voutに変換して出力する。31は正転入力端子、32は反転入力端子、33は出力端子である。
【0019】
40は基準電圧発生回路であり、電源電圧Vddを5個の抵抗R41〜R45により分圧した4個の基準電圧Vref1〜Vref4から1つの電圧を、スイッチSW41により選択してオペアンプ20の正転入力端子21に供給し、スイッチSW42により選択してオペアンプ30の正転入力端子31に供給する。
【0020】
50はガスセンサの作用極11と対極12の間に印加された電圧を計測する電圧計、60はガスセンサ10の出力電流を計測する電流計である。
【0021】
さて、ガスセンサ10の通常の使用態様では、電圧計50や電流計60は取り外され、オペアンプ20のスイッチSW11がオフに設定される。また、ガスセンサ10の規格に応じた基準電圧が、基準電圧発生回路40のスイッチSW41で選択されてオペアンプ20の正転入力端子21に入力し、スイッチSW42で選択された基準電圧がオペアンプ30の正転入力端子31に入力する。この設定状態でガスセンサ10によるガス検知が行われ、検知結果に応じた出力電圧Voutがオペアンプ30の出力端子33から出力する。
【0022】
次に、ガスセンサ10の接続不良や断線異常や感度劣化度合等を検出するときは、電圧計50と電流計60が取り付けられ、基準電圧発生回路40のスイッチSW41,SW42の切換状態はそのままにした状態において、オペアンプ20のスイッチSW11を瞬間的にオン/オフさせる。これにより、オペアンプ10から数mV〜数十mVのオフセット電圧が、パルス電圧として発生して出力端子23に現れる。
【0023】
よって、スイッチSW11をオン→オフすることによって発生するオフセット電圧のパルス電圧が、図4で説明した場合と同様に2mVでパルス幅が0.1秒であって、ガスセンサ10が図4で説明したガスセンサ10と同一であれば、
(1)測定電流値が15μAで測定電圧が0Vであれば正常
(2)測定電流値が0Aで測定電圧が0Vであれば作用極11が断線異常
(3)測定電流値が15μAで測定電圧が300mVであれば対極12が断線異常
と判定することができる。また、上記したパルス電圧による測定結果をガスセンサ10の使用初期と現在とで比較すれば、そのガスセンサ10の感度劣化度合を判定できる。
【0024】
図2図1で説明したオペアンプ20の変形例のオペアンプ20Aを示す回路であり、正転側負荷抵抗を4個の抵抗R13,R14,R15,R16で構成し、反転側負荷抵抗を4個の抵抗R23,R24,R25,R26で構成し、さらに、抵抗R14〜R16を短絡するスイッチSW12、抵抗R15とR16を短絡するスイッチSW13、抵抗R16を短絡するスイッチSW14を設けたものである。抵抗値は、R13=R23,R14=R24,R15=R25,R16=R26に設定される。
【0025】
このオペアンプ20Aでは、ガスセンサ10を通常動作させるときは、スイッチSW12〜SW14をオフにしておく。また、ガスセンサ10の接続不良や断線異常や感度劣化度合等を検出するときは、スイッチSW12〜SW14のいずれか1つをオン/オフさせる。スイッチSW12をオン→オフしたときはオフセット電圧が最大となるので最大振幅のパルス電圧が発生し、スイッチSW13をオン→オフしたときはオフセット電圧が中位となるので中位の振幅のパルス電圧が発生し、スイッチSW14をオン→オフしたときはオフセット電圧が最小となるので最小振幅のパルス電圧が発生する。これにより、数mV〜数十mVの複数のパルス電圧を発生できるので、複数種類のガスセンサ10の接続不良や断線異常や感度劣化度合等の検出が可能となる。
【0026】
図3図1で説明したオペアンプ20の別の変形例のオペアンプ20Bを示す回路であり、図2で説明したスイッチSW12〜SW14に加えて、抵抗R24〜R26を短絡するスイッチSW22、抵抗R25とR26を短絡するスイッチSW23、抵抗R26を短絡するスイッチSW24をさらに追加したものである。
【0027】
このオペアンプ20Bでは、ガスセンサ10を通常動作させるときは、スイッチSW12〜SW14、SW22〜SW24をオフにしておく。また、ガスセンサ10の接続不良や断線異常や感度劣化度合等を検出する際に、スイッチSW12〜SW14をオン/オフさせる場合は、図2の回路の場合と同様に、大、中、小のパルス電圧が発生するが、スイッチSW22〜SW24をオン/オフさせる場合は、図2の回路の場合と異なり、大、中、小の負パルス電圧が発生する。このように、図3のオペアンプ20Bでは、正および負の複数のパルス電圧(±数mV〜±数十mV)を発生させることができる。
【0028】
なお、以上説明した実施例では、定電位電解式ガスセンサ10について、その接続不良や断線異常や感度劣化度合等の検出の場合について説明したが、定電位電解式ガスセンサに限られるものではなく、照合極を有しないものも含めてすべての種類の電気化学センサについて、接続不良や断線異常や感度劣化度合等の検出が可能となるものである。
【符号の説明】
【0029】
10:定電位電解式ガスセンサ、11:作用極、12:対極、13:照合極
20:オペアンプ、21:正転入力端子、22:反転入力端子、23:出力端子、24:電流 源、25:反転増幅器
30:オペアンプ、31:正転入力端子、32:反転入力端子、33:出力端子
40:基準電圧発生回路
50:電圧計
60:電流計
70:オペアンプ
80:パルス電圧発生回路
図1
図2
図3
図4
図5