(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多孔質基体に、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂と微粒子とを含有する多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを含浸し、未焼成複合膜を形成する未焼成複合膜形成工程と、
前記未焼成複合膜をベークしてポリイミド−微粒子複合膜を得るベーク工程と、
前記ポリイミド−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程と、を有する多孔質膜の製造方法であって、前記多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの含浸は、
前記多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに前記多孔質基体の少なくとも一部を浸漬すること及び/又は
前記多孔質基体の内部に前記多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを注入すること
を含む方法により行う、製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
<多孔質膜の製造方法>
本発明の多孔質膜の製造方法は、多孔質基体に、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂と微粒子とを含有する多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを含浸し、未焼成複合膜を形成する未焼成複合膜形成工程と、上記未焼成複合膜をベークしてポリイミド−微粒子複合膜を得るベーク工程と、 上記ポリイミド−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程と、を有する。以下に、各工程に分けて説明する。
【0017】
1.未焼成複合膜形成工程
未焼成複合膜形成工程は、多孔質基体に、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂(以下、「ポリイミド系樹脂」と総称することがある。)と微粒子とを含有する多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを含浸し、未焼成複合膜を形成する工程である。
【0018】
(多孔質基体)
多孔質基体は、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを含浸することができる多孔質体であれば特に限定されないが、ポリイミド化のための焼成に付される点で耐熱性を有することが好ましい。多孔質基体の耐熱温度は、下限値として例えば100℃が好ましいが、ポリイミド化のための焼成を行う場合は230℃が好ましく、250℃がより好ましく、260℃が更に好ましい。上限値は特にないが、例えば、350℃が好ましい。
【0019】
多孔質基体は、また、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの含浸性の点で親水性を有することが好ましいが、元の材質自体が親水性を有するものでなくても、親水処理を施すことにより好適に用いることができる。
【0020】
多孔質基体の空孔率は、上限値として95%が好ましく、90%がより好ましく、下限値として10%が好ましく、50%がより好ましく、60%が更に好ましい。
多孔質基体の空孔率は、水銀圧入法により測定して得られる値である。
【0021】
多孔質基体の細孔容積(mL/g)は、上限値として0.95が好ましく、0.9がより好ましく、下限値として0.1が好ましく、0.5がより好ましく、0.6が更に好ましい。多孔質基体の細孔容積は、水銀圧入法により測定して得られる値である。
【0022】
多孔質基体としては、例えば、セルロース、セルロースエステル誘導体、セルロースエーテル誘導体、キサントゲン酸塩誘導体等のセルロース系樹脂のほか、繊維系材料からなる基体等が挙げられる。セルロース系樹脂の耐熱温度は、下限値として230℃が好ましく、250℃がより好ましく、260℃が更に好ましい。上限値は特にないが、例えば、320℃以下である。
繊維系材料からなる基体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリアクリロニトリル、ポリアミド等の樹脂を主成分とする不織布(繊維径は、例えば、約50nm〜約3000nmである。);ガラス繊維その他のシリカ繊維等が挙げられ、耐熱性の点で、PI、PPS等の不織布が好ましい。
【0023】
多孔質基体の厚さは、1〜50μmが好ましく、5〜40μmがより好ましく、10〜30μmが更に好ましい。
【0024】
(多孔質ポリイミド膜製造用ワニス)
多孔質ポリイミド膜製造用ワニスは、ポリイミド系樹脂ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂(ポリイミド系樹脂)と微粒子とを含有する。
ポリイミド系樹脂としては、ポリアミド酸又はポリイミドの何れかを含むものであってもよいし、ポリアミド酸及びポリイミドの両方を含むものであってもよい。
【0025】
[ポリアミド酸]
本発明で用いるポリアミド酸としては、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合して得られるものが、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50〜1.50モル用いるのが好ましく、0.60〜1.30モル用いるのがより好ましく、0.70〜1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0026】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0027】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−へキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は1種類を単独で又は二種以上混合して用いることもできる。
【0028】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0029】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2〜10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0030】
フェニレンジアミンはm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4−ジアミノトルエン、2,4−トリフェニレンジアミン等である。
【0031】
ジアミノビフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基がフェニル基同士で結合したものである。例えば、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等である。
【0032】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合したものである。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合は炭素数が1〜6程度のものであり、その誘導体基はアルキレン基の水素原子の1以上がハロゲン原子等で置換されたものである。
【0033】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(p−アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−1−ペンテン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−2−ぺンテン、イミノジアニリン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)ペンタン、ビス(p−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニル尿素、4,4’−ジアミノジフェニルアミド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0034】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0035】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基が何れも他の基を介して結合したものであり、他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様のものが選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1,3−ビス(m−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0036】
ジアミノナフタレンの例としては、1,5−ジアミノナフタレン及び2,6−ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0037】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6−アミノ−1−(p−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダンを挙げることができる。
【0038】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(m−アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0039】
カルド型フルオレンジアミン誘導体は、9,9−ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
【0040】
脂肪族ジアミンは、例えば、炭素数が2〜15程度のものがよく、具体的には、ペンタメチレンジアミン、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0041】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0042】
本発明で用いられるポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0043】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0044】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤の例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類、キシレン系混合溶媒等のフェノール系溶剤が挙げられる。
これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5〜50質量%とするのが望ましい。
【0045】
これらの溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0046】
重合温度は一般的には−10〜120℃、好ましくは5〜30℃である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3〜24Hr(時間)である。
ポリアミド酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0047】
[ポリイミド]
本発明に用いるポリイミドは、その構造や分子量が限定されることはなく、公知のものが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。また、本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスが溶剤を含有するものである場合、使用する溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドが好ましい。
【0048】
溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2−メチル−1,4−フェニレンジアミン、o−トリジン、m−トリジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。更に、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したものと同じモノマーを併用することもできる。
ポリイミド及びそのモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0049】
本発明で用いられるポリイミドを製造する手段に特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等を挙げることができ、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的に閉環反応によって取得したもの、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミド等が挙げられる。式中、Arはアリール基を示す。本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスが溶剤を含有するものである場合、これらのポリイミドは、次いで、使用する溶剤に溶解させるとよい。
【化1】
【化2】
【0050】
〔微粒子〕
本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスは、更に、微粒子を含有する。
本発明で用いられる微粒子の材質は、後にポリイミド−微粒子複合膜から除去可能なものであれば、特に限定されることなく公知のものが採用可能である。本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスが溶剤を含有するものである場合、使用する溶剤に不溶であってよい。
【0051】
微粒子の材質としては、特に限定されず、例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al
2O
3)等の金属酸化物等が挙げられ、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン,ポリエチレン等)、ポリスチレン、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル等の有機高分子微粒子等が挙げられる。なかでも、シリカが好ましく、具体的には、コロイダルシリカ、特に、単分散球状シリカ粒子を選択することが、未焼成複合膜においてはじきを生じにくく、得られる多孔質膜において均一な孔を形成しやすい点で、好ましい。
【0052】
また、本発明で用いられる微粒子は、真球率が高く、粒径分布指数の小さいものが好ましい。これらの条件を備えた微粒子は、多孔質ポリイミド膜製造用ワニス中での分散性に優れ、互いに凝集しない状態で使用することができる。
使用する微粒子の平均粒径は、例えば、100〜2000nmであることが好ましく、100〜1000nmがより好ましい。これらの条件を満たすことで、微粒子を取り除いて得られる多孔質膜の孔径を揃えることができるため、セパレータに印加される電界を均一化できる点で、好ましい。
微粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0053】
本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおいて、微粒子の含有量は、ポリイミド系樹脂と微粒子との合計に対して65体積%以上であることが好ましい。上記範囲内であると、得られる多孔質膜の空孔率が下がりにくく、また、得られる未焼成複合膜のベーク時の収縮率が高くなりにくい。
ポリイミド系樹脂と微粒子との合計に対する微粒子の含有量は、上限値としては、95体積%が好ましく、90体積%がより好ましく、下限値としては、65体積%が好ましく、70体積%がより好ましく、72体積%が更に好ましい。上記微粒子の含有量の上限が上記範囲内であると、微粒子同士が凝集しにくく、また、表面にひび割れ等が生じにくいため、安定して電気特性の良好な多孔質膜を形成することができる。
なお、本明細書及び本特許請求の範囲において、体積%及び体積比は、25℃における値である。また、上記ポリイミド系樹脂の量は、ポリイミド系樹脂の固形分の量である。
【0054】
ポリイミド系樹脂と微粒子とを含有する未焼成複合膜をベークして樹脂−微粒子複合膜とした場合において、微粒子の材質が無機材料の場合は、ポリイミド系樹脂に対する微粒子の比率が2〜6(質量比)となるように、微粒子とポリイミド系樹脂とを混合することが好ましく、3〜5(質量比)とすることがより好ましい。微粒子の材質が有機材料の場合は、ポリイミド系に対する微粒子の比率が1〜3.5(質量比)となるように、微粒子とポリイミド系樹脂とを混合することが好ましく、1.2〜3(質量比)とすることがより好ましい。また、樹脂−微粒子複合膜とした際にポリイミド系樹脂に対する微粒子の体積比が1.5〜4.5となるように微粒子とポリイミド系樹脂とを混合することが好ましく、1.8〜3(体積比)とすることがより好ましい。樹脂−微粒子複合膜とした際にポリイミド系樹脂に対する微粒子の質量比又は体積比が上記下限値以上であれば、セパレータとして適切な密度の孔を得ることができ、上記上限値以下であれば、粘度の増加や膜中のひび割れ等の問題を生じることなく安定して成膜することができる。
【0055】
また、本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおいて、ポリイミド系樹脂の固形分と微粒子との合計の含有量は、後述の多孔質ポリイミド膜製造用ワニス中の固形分全体(後述の溶剤以外の各成分全体)に対し、例えば、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に99〜100質量%となるよう調整することが各種製造工程の安定性の点で更により好ましい。
【0056】
[溶剤]
本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスは、更に、溶剤を含有するものであってもよい。溶剤としては、ポリイミド系樹脂を溶解することができ、微粒子を溶解しないものが好ましい。このような溶剤としては、特に限定されず、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤として例示したもの等が挙げられる。
【0057】
本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおける溶剤としては、ポリイミド系樹脂と別に配合するものであってもよいし、ポリイミド系樹脂として、市販されているワニスを用いる場合、該市販品のワニスに含有されている溶剤をそのまま用いるものであってもよいし、後者であって更にポリイミド系樹脂と別に配合する溶剤との合計であってもよい。
溶剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0058】
本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおいて、溶剤の含有量は、上記多孔質ポリイミド膜製造用ワニス全体に対し、60質量%以上であること(即ち、上記多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおける固形分濃度が40質量%以下となる量であること)が含浸性の点で好ましい。上記溶剤の含有量は、上記多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおける固形分濃度の上限がより好ましくは35質量%、更により好ましくは30質量%となる量であり、下限がより好ましくは10質量%、更により好ましくは15質量%、特に好ましくは20質量%となる量である。溶剤の含有量(又は固形分濃度)が上記範囲内であると、含浸性が良く、また、得られる未焼成複合膜にはじきを生じにくい。
【0059】
[分散剤]
本発明では、多孔質ポリイミド膜製造用ワニス中の微粒子を均一に分散することを目的に、微粒子とともに更に分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、ポリイミド系樹脂と微粒子とを一層均一に混合でき、更には、未焼成複合膜等における微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られる多孔質膜の表面に稠密な開口を設け、かつ、表裏面を効率よく連通させることが可能となり、多孔質膜の透気度を向上することができる。更に、分散剤を添加することにより、本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの乾燥性が向上しやすくなる。
【0060】
本発明に用いられる分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0061】
本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスにおいて、分散剤の含有量は、例えば、成膜性の点で、上記微粒子に対し0.01〜5質量%であることが好ましく、0.05〜1質量%であることがより好ましく、0.1〜0.8質量%であることが更により好ましい。
【0062】
[多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの調製]
本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの調製は、ポリイミド系樹脂を含み、微粒子を分散した溶液を製造することにより行うことができる。より具体的には、本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの調製は、例えば、微粒子を予め分散した溶剤とポリイミド系樹脂とを任意の比率で混合するか、微粒子を予め分散した溶剤中でポリイミド系樹脂を重合して行われる。上記微粒子は、ワニスに使用する溶剤に不溶であり、成膜後選択的に除去可能なものなら、特に限定されることなく使用することができる。
【0063】
本発明における多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの25℃における粘度は、多孔質基体上に形成したい膜厚及び内部へのワニスの浸透量を考慮して適宜設定すればよく、例えば、上限値としては3000mPa・sが好ましく、1500mPa・sがより好ましく、1000mPa・sが更に好ましく、下限値としては10mPa・sが好ましく、30mPa・sがより好ましく、50mPa・sが更に好ましい。粘度が低いほど多孔質基体の内部において、短時間でより広範囲に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスが浸み込みやすい(含浸性)。
なお、粘度は、E型粘度計により測定される。
【0064】
(含浸)
本発明における未焼成複合膜形成工程においては、上述の多孔質基体に、上述の多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを含浸し、未焼成複合膜を形成する。
多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの含浸の方法としては、多孔質基体の内部の少なくとも一部に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスが浸み込むのであれば、特に限定されないが、(1)多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに多孔質基体の少なくとも一部を浸漬すること及び/又は(2)多孔質基体の内部に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを注入することを含む方法により行うことが好ましい。かかる(1)及び/又は(2)の方法により、多孔質基体の内部のより広範囲に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスが浸み込みやすい(含浸性)。
【0065】
上記(1)多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに多孔質基体の少なくとも一部を浸漬することは、例えば、容器又は支持基板に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを予め滴下しておき、これに多孔質基体の少なくとも一方の面を浸すことにより簡便に行うことができる。多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに多孔質基体の少なくとも一部を浸漬することとしては、例えば、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに多孔質基体の全部を浸漬するものであってもよいが、本発明においては、多孔質基体の全部ではなく一部のみを浸漬することによっても、良好な含浸性を得ることができる。
【0066】
多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに多孔質基体の一部のみを浸漬する場合、多孔質基体と、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを介した、容器の底面又は支持基板との距離は近い方が多孔質膜の浸漬面側の表面均一性がより向上すると考えられるため好ましい。
該距離(予め塗布される多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの膜厚)としては、特に限定されず、多孔質基体の多孔質性、厚さ等にもよるが、例えば、上限値としては多孔質基体の膜厚以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
【0067】
上記(1)多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに多孔質基体の少なくとも一部を浸漬する時間としては、含浸性が良好であれば特に限定されず、また、用いる多孔質基体の多孔質性、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの粘度等にもよるが、例えば、1秒〜120分の間である。
【0068】
上記(2)多孔質基体の内部に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを注入することは、例えば、多孔質ポリイミド膜製造用ワニスをスポイト等を用いて多孔質基体の外部表面に滴化又は多孔質基体の内部にまで注入するように行う方法等が挙げられる。内部への注入は、滴下又は後述の(3)の塗布の後の静置が挙げられる。また、滴下塗布した場合はアプリケータ等を用いて塗布表面を整えることが好ましい。この際、アプリケータのギャップを調整することにより多孔質基体の外部表面上の膜厚を調整することもできる。
なお、本明細書及び本特許請求の範囲において、「多孔質基体の外部表面」とは、多孔質基体の全体の形状を形作る外縁でもあり、多孔質基体が内部に有する空隙等における表面と区別される。
【0069】
多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの含浸は、更に、(3)多孔質基体の外部表面上に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを塗布することを含む方法により行うことが好ましい。かかる塗布としては、特に限定されず、例えば、従来公知の塗布方法を用いることができ、具体的には、スキージ、アプリケータ等を用いる方法、ドクターブレード法等が挙げられ、アプリケータを用いる方法が好ましい。塗布により形成される塗膜の厚さとしては、特に限定されないが、本発明の多孔質膜の製造方法により得られる多孔質膜において、多孔質基体の少なくとも1つの外部表面上に形成されてもよい多孔質ポリイミド膜の厚さが5μm未満となるように、調整することが好ましい。具体的には、例えば、アプリケータを用いる場合、塗膜の厚さを5μm未満に設定することが好ましい。
【0070】
多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの含浸は、上記(1)又は(2)の何れかのみを行うことでよい。表面均一性がより向上すると考えられる点で(1)を行うことが好ましい。含浸量を調整しやすいと考えられる点で、(2)が好ましい。表面均一性又は外部表面上の膜厚調整の点では(2)及び(3)を行うことがより好ましい。
(1)、(2)及び(3)の順序としては、特に限定されず、例えば、多孔質基体の膜厚、浸漬用の多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの滴化量等にもよるが、(1)及び(2)を実質的に同時に行うことが、多孔質基体の両面に多孔質ポリイミド膜を形成する場合に効率的でよいことがあり、また、(3)は、(1)及び/又は(2)の後に行うことにより上述のように多孔質膜(多孔質ポリイミド膜)表面の整調若しくは均一化、多孔質基体の外部表面上の膜厚の調整等を行うことができるが、(1)及び/又は(2)の前に行ってもよい。
【0071】
未焼成複合膜は、多孔質基体の内部の空隙における表面(例えば、空孔を形成する孔の表面)に少なくとも形成されればよく、更に多孔質基体の外部表面にも形成されることが好ましい。多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに含浸することにより、多孔質基体の内部の空隙における表面には、少なくともポリイミド系樹脂及び微粒子を含有する膜が微視的に形成され、かかる膜は未焼成複合膜の1つである。なお、本明細書において、かかる未焼成複合膜が多孔質基体の内部の空隙に、又は、該多孔質基体の内部の空隙及び外部表面に、それぞれ形成されていることを、「多孔質基体に未焼成複合膜が形成されている」等と略称することがある。
【0072】
2.ベーク工程
ベーク工程は、未焼成複合膜をベークしてポリイミド−微粒子複合膜を得る工程である。
本発明において、ベークは未焼成複合膜が形成された多孔質基体をそのまま加熱することができ、従来、一般に必要であった未焼成複合膜と基材との剥離を行う必要がない。
【0073】
未焼成複合膜をベークして、ポリイミド系樹脂と微粒子とからなる複合膜(本明細書において、「ポリイミド−微粒子複合膜」ともいう。)とする。
本工程におけるベークは、乾燥及び焼成を含む概念であり、用いるポリイミド系樹脂の種類に応じて乾燥のみ又は乾燥及び焼成を行うことができ、具体的には、ポリイミド系樹脂としてポリイミドを用いる場合、焼成は特に行う必要がない。
【0074】
ベーク工程におけるベーク温度としては、未焼成複合膜及び多孔質基体の構造や縮合剤の有無によっても異なるが、乾燥を行う場合、常圧又は真空下で0〜100℃が好ましく、常圧下10〜100℃がより好ましい。
【0075】
以上の未焼成複合膜形成工程において、未焼成複合膜が形成される。未焼成複合膜は、上記含浸の後、常圧又は真空下で0〜200℃(好ましくは0〜90℃)、好ましくは常圧下10〜200℃(更に好ましくは10〜90℃)で乾燥したものであることが好ましく、例えば多孔質ポリイミド膜製造用ワニスが溶剤を含む場合は特にかかる乾燥を施すことが好ましい。
【0076】
ベーク工程におけるベーク温度としては、未焼成複合膜及び縮合剤の有無によっても異なるが、焼成を行う場合、120〜375℃が好ましく、150〜350℃がより好ましい。また、微粒子に、有機材料を使用するときは、その熱分解温度よりも低い温度に設定する必要がある。ポリイミド系樹脂としてポリアミド酸を用いる場合、ベーク工程においてはイミド化を完結させることが好ましい。
【0077】
焼成条件は、例えば、室温〜375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に375℃で20分保持させる等の段階的な乾燥−熱イミド化法を用いることもできる。
【0078】
3.微粒子除去工程
微粒子除去工程は、ポリイミド−微粒子複合膜から微粒子を取り除く工程である。
ポリイミド−微粒子複合膜から、微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、多孔質膜を再現性よく製造することができる。本工程で得られる多孔質膜は、多孔質基体と多孔質ポリイミド膜とを含有する。
【0079】
微粒子の材質として、例えば、シリカを採用した場合、ポリイミド−微粒子複合膜を低濃度のフッ化水素水等により処理して、シリカを溶解除去することが可能である。
【0080】
また、微粒子の材質として、有機材料を選択することもできる。有機材料としては、ポリイミド系樹脂よりも低温で分解するものであれば、特に限定されることなく使用できる。例えば、線状ポリマーや公知の解重合性ポリマーからなる樹脂微粒子を挙げることができる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断され、解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。何れも、低分子量体、あるいは、CO
2まで分解することによって、ポリイミド−微粒子複合膜から消失する。使用される樹脂微粒子の分解温度は200〜320℃であることが好ましく、230〜260℃であることが更に好ましい。分解温度が200℃以上であれば、ワニスに高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、ポリイミド系樹脂のベーク条件の選択の幅が広くなる。また、分解温度が320℃未満であれば、ポリイミド系樹脂に熱的なダメージを与えることなく樹脂微粒子のみを消失させることができる。
【0081】
〔樹脂除去工程〕
本発明の多孔質膜の製造方法は、微粒子除去工程前に、ポリイミド−微粒子複合膜のポリイミド系樹脂からなる樹脂部分の少なくとも一部を除去するか、又は、微粒子除去工程後に多孔質膜の少なくとも一部を除去する樹脂除去工程を有してもよい。微粒子除去工程前に、ポリイミド−微粒子複合膜の樹脂部分の少なくとも一部を除去することにより、続く微粒子除去工程で微粒子が取り除かれ空孔が形成された場合に、上記樹脂部分の少なくとも一部を除去しないものに比べて、最終製品の多孔質膜の開孔率を向上させることが可能となる。また、微粒子除去工程後に多孔質ポリイミド膜の少なくとも一部を除去することにより、上記多孔質ポリイミド膜の少なくとも一部を除去しないものに比べて、最終製品の多孔質膜の開孔率を向上させることが可能となる。
【0082】
上記の樹脂部分の少なくとも一部を除去する工程、あるいは、多孔質ポリイミド膜の少なくとも一部を除去する工程は、通常のケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組合せた方法により行うことができる。
【0083】
ケミカルエッチング法としては、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のケミカルエッチング液による処理が挙げられる。無機アルカリ溶液が好ましい。無機アルカリ溶液として、例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンを含むヒドラジン溶液、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液、アンモニア溶液、水酸化アルカリとヒドラジンと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを主成分とするエッチング液等が挙げられる。有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n−プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピヘリジン等の環状アミン類等のアルカリ性溶液が挙げられる。
【0084】
上記の各溶液の溶媒については、純水、アルコール類を適宜選択できる。また、界面活性剤を適当量添加したものを使用することもできる。アルカリ濃度は、例えば0.01〜20質量%である。
【0085】
また、物理的な方法としては、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング、研磨剤(例えば、アルミナ(硬度9)等)を液体に分散し、これを芳香族ポリイミドフィルムの表面に30〜100m/sの速度で照射することでポリイミドフィルムの表面を処理する方法等が使用できる。
【0086】
上記した方法は、微粒子除去工程前又は微粒子除去工程後の何れの樹脂除去工程にも適用可能であるので好ましい。
【0087】
一方、微粒子除去工程後に行う樹脂除去工程にのみ適用可能な物理的方法として、対象表面を液体で濡らした台紙フィルム(例えばPETフィルム等のポリエステルフィルム)に圧着後、乾燥しないで又は乾燥した後、多孔質膜を台紙フィルムから引きはがす方法を採用することもできる。液体の表面張力あるいは静電付着力に起因して、多孔質膜の表面層のみが台紙フィルム上に残された状態で、多孔質膜が台紙フィルムから引きはがされる。
【0088】
<多孔質膜>
本発明の多孔質膜は、多孔質基体と多孔質ポリイミド膜とを含有する。多孔質基体を剥離することなく多孔質ポリイミド膜と一体となった膜として使用することができる。
【0089】
多孔質膜の全体の膜厚は、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。どのような平均膜厚が好ましいかは、多孔質膜の用途によって異なるが、例えば、セパレータ等に使用する場合は、1〜50μmであることが好ましく、3〜40μmであることがより好ましく、5〜30μmであることが更に好ましい。
【0090】
多孔質膜の全体の膜厚は、また、用いた多孔質基体の当初の厚さとほぼ同じであるか又は該多孔質基体の当初の厚さよりも10μm未満厚い程度であることが好ましく、5μm未満がより好ましく、3μm以下であることが更に好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。また、用いた多孔質基体の一方の側のみに多孔質ポリイミド膜を有する場合、多孔質膜の全体の膜厚は、用いた多孔質基体の当初の厚さとほぼ同じであるか又は該多孔質基体の当初の厚さよりも5μm未満厚い程度であることが好ましく、4μm以下がより好ましく、2μm以下であることが更に好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。
【0091】
多孔質膜において、多孔質基体は、内部の空隙の少なくとも一部に多孔質ポリイミド膜を有する。多孔質ポリイミド膜は、更に、多孔質基体の少なくとも1つの外部表面上に5μm未満の厚さで形成されていることが好ましい。上述の(1)により多孔質ポリイミド膜製造用ワニスに浸漬した多孔質基体の底面及び/又は上述の(2)により多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを注入した上面それぞれの表面上に5μm未満の厚さで形成されていることがより好ましい。(1)の場合は、浸漬させる側の面の表面均一性がより向上すると考えられる。
【0092】
かかる各表面上に形成されていてもよい多孔質ポリイミド膜の厚さは、上限値として4μmがより好ましく、3μmが更に好ましく、2μmが更により好ましく、下限値として0.01μmがより好ましく、0.1μmが更に好ましく、0.5μmが更により好ましい。上記の膜厚は、例えば断面SEM写真で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。
【0093】
多孔質膜の空孔率は、40〜90%が好ましく、50〜85%がより好ましい。
多孔質膜の空孔率は、上記と同様の方法により測定して得られる値である。
【0094】
多孔質膜の細孔容積(mL/g)は、0.4〜0.9が好ましく、0.5〜0.85がより好ましく、0.6〜0.8が更に好ましい。
多孔質膜の細孔容積は、上記と同様の方法により測定して得られる値である。
【0095】
本発明の多孔質膜は、上述した本発明の多孔質膜の製造方法により、好適に製造することができる。
また、本発明の多孔質膜は、上記のとおり、適切な空隙を内部に有するので、高い透気度を有するとともに、多孔質基体を内在するものであるので、適度な引張強度も備える。従って、例えば、下記の用途に好適である。
【0096】
<多孔質膜の用途>
本発明の多孔質膜は、リチウムイオン電池のセパレータや燃料電池電解質膜、ガス又は液体の分離用膜、低誘電率材料として使用することが可能である。上記多孔質膜は、ニッケルカドミウム、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池等の二次電池用セパレータとして使用することが可能であるが、リチウムイオン二次電池用多孔質セパレータとして使用することが特に好ましい。特に、リチウムイオン電池のセパレータとして使用する場合、本発明の多孔質膜は、上述の(1)〜(3)により多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを塗布した面(好ましくはより均一な面)をリチウムイオン電池の負極面側とすることにより、電池性能を向上させることができる。
【0097】
〔二次電池〕
本発明の多孔質膜を使用することができる二次電池は、負極と正極との間に、電解液と該多孔質膜からなるセパレータとが配置される。
【0098】
二次電池の種類や構成は、何ら限定されるものではない。正極とセパレータと負極とが順に上記条件を満たすように積層された電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となった構成であれば、ニッケルカドミウム、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池等の公知の二次電池に、特に限定されることなく使用することができる。
【0099】
二次電池の負極は、負極活物質、導電助剤及びバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造をとることができる。例えば、負極活物質として、ニッケルカドミウム電池の場合は水酸化カドミウムを、ニッケル水素電池の場合は水素吸蔵合金を、それぞれ用いることができる。また、リチウムイオン二次電池の場合は、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が採用できる。このような、活物質として、例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金等が挙げられる。
【0100】
負極を構成する導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えば、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。集電体には、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等を用いることが可能である。
【0101】
また、正極は、正極活物質、導電助剤及びバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造とすることができる。例えば、正極活物質としては、ニッケルカドミウム電池の場合は水酸化ニッケルを、ニッケル水素電池の場合は水酸化ニッケルやオキシ水酸化ニッケルを、それぞれ用いることができる。他方、リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
0.5Ni
0.5O
2、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiCo
0.5Ni
0.5O
2、LiAl
0.25Ni
0.75O
2等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔等を用いることが可能である。
【0102】
電解液としては、例えば、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池の場合には、水酸化カリウム水溶液が使用される。リチウムイオン二次電池の電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した構成とされる。リチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4等が挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート等が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0103】
外装材は、金属缶又はアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本発明の製造方法で作製した多孔質膜からなるセパレータは何れの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0104】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0105】
実施例及び比較例では、以下に示すものを用いた。
・ポリアミド酸溶液:テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物)とジアミン(4,4’−ジアミノジフェニルエーテル)との反応物(反応溶媒:N,N−ジメチルアセトアミド)
・微粒子:平均粒径300nmの球状シリカ(P30)
・分散剤:ポリオキシエチレン二級アルキルエーテル系分散剤
・有機溶剤(1):N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)
・有機溶剤(2):γ−ブチロラクトン(GBL)
・多孔質基体:セルロース系樹脂からなる不織布(厚さ25μm、空孔率約70%)
なお、上記分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)のポリスチレン換算による測定値である。
【0106】
調製例1 多孔質ポリイミド膜製造用ワニスの調製
ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸換算25質量部)、微粒子75質量部、分散剤(微粒子に対し0.5質量%)、及び有機溶剤(1)と(2)とを混合・撹拌して、ポリアミド酸固形分とシリカとの質量比を25:75とした、固形分濃度25質量%(溶剤組成質量比はDMAc:GBL=9:1)の多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを調製した。E型粘度計により測定した粘度は、約70mPa・sであった。
【0107】
実施例 多孔質膜の作製と評価
[多孔質膜の作製]
上記の多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを約10mLほどバットに滴下し、その上に多孔質基体の一方の面を重ねて10分間浸漬するとともに、別途スポイトに入れた多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを多孔質基体の上面から(3cm角あたり約10mL程度を目安に)滴下した。更に、アプリケータを用いて、膜厚調整のためギャップを適宜変更し、多孔質基体の上面全体に多孔質ポリイミド膜製造用ワニスを用いて塗膜、未焼成複合膜を形成した。室温で10分間放置して上面のワニスも内部に浸透させた後に、70℃で10分間ベーク(乾燥)し、更に250℃で15分間ベーク(焼成)して、ポリイミド−微粒子複合膜を得た。このポリイミド−微粒子複合膜を、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去した後水洗・乾燥して、表1に示す多孔質ポリイミド膜を得た。
本発明に係る多孔質膜の製造方法により、当初多孔質基体よりも耐熱性に優れた多孔質膜を得ることができた。
【0108】
[評価]
(膜厚)
多孔質膜の膜厚を電子顕微鏡で観察して複数の箇所の厚さを測定し、平均することで求めた。参考までに実施例1の多孔質膜の断面の電子顕微鏡(SEM)写真を
図1に、実施例3の多孔質膜の断面の電子顕微鏡写真を
図2に、それぞれ示す。実施例3の多孔質膜の断面は多孔質基体内部すべて樹脂が含浸されていた。
【0109】
(透気度)
多孔質膜を5cm角に切り出して、透気度測定用のサンプルとした。ガーレー式デンソメーター(東洋精機社製)を用いて、JIS P 8117に準じて、100mlの空気が上記サンプルを通過する時間を測定した。結果を表1に示す。
【0110】
(引張強度)
多孔質膜を1cm×5cmの大きさに切り出して短冊状のサンプルを得た。このサンプルの破断時の応力(MPa)を、RTC−1210A TENSILON(ORIENTEC社製)を用いて評価した。結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1から、実施例1において作製した多孔質膜は、当初の多孔質基体との膜厚の差が0.7μmであることから、当初の多孔質膜の外部表面として底面及び上面それぞれに形成された多孔質ポリイミド膜の各膜厚の合計が0.7μmである。この実施例1により得られた多孔質膜は、透気度の値が低く、引張強度に優れることがわかった。また、
図1から、当初の多孔質基体の内部の空隙に樹脂が存在することが観察され、特に、多孔質基体の底面から4.6μmまで及び上面から4.5μmまでの間に樹脂が多く存在することが観察された。
【0113】
これに対し、実施例2〜3において作製した多孔質膜は、当初の多孔質基体との膜厚の差から同様に、当初の多孔質膜の底面及び上面それぞれに形成された多孔質ポリイミド膜の各膜厚の合計が15.4μm(実施例2)及び22.7μm(実施例3)であり、かかる実施例2及び3により得られた多孔質膜は、実施例1で得られた多孔質膜に比べ、透気度の値が高く、引張強度に劣ることがわかった。
【0114】
また、実施例3の多孔質膜では、多孔質基体の内部がすべて樹脂で含浸されていたことから、底面及び上面それぞれに形成された多孔質ポリイミド膜の少なくとも一方の膜厚を大きくする場合、ワニスが乾燥するまでの間、多孔質基体表面にワニスが溶液として留まる時間が長くなるので、多孔質基体の内部の空隙に浸透する樹脂の量が実施例1より増加し、その結果、透気度の値が高くなったものと考えられる。このことから、透気度の点では、多孔質基体の内側に含浸する樹脂の厚さは薄い方が好ましく、多孔質基体の内部の空隙の一部を含浸させることがより好ましく、例えば、表面から5μm以下が好ましい。