(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383595
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】フィブリル化繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/14 20060101AFI20180820BHJP
D02J 1/00 20060101ALI20180820BHJP
D04H 1/4309 20120101ALI20180820BHJP
【FI】
D01F6/14 D
D02J1/00 A
D04H1/4309
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-152711(P2014-152711)
(22)【出願日】2014年7月28日
(65)【公開番号】特開2016-30862(P2016-30862A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(72)【発明者】
【氏名】早川 友浩
(72)【発明者】
【氏名】川井 弘之
(72)【発明者】
【氏名】楠木 敏道
【審査官】
清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−293027(JP,A)
【文献】
特開平09−170115(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01457591(EP,A1)
【文献】
中国特許出願公開第1530474(CN,A)
【文献】
国際公開第2008/149583(WO,A1)
【文献】
特開平08−218271(JP,A)
【文献】
特開昭63−120107(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/143722(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−9/04
D04H 1/00−18/04
D06M 10/00−16/00
19/00−23/18
D02G 1/00−3/48
D02J 1/00−13/00
D21B 1/00−1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00−9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00−7/00
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
けん化度が98モル%以上のポリビニルアルコール単独重合体の繊維に架橋が導入された、水中溶解温度が100℃以上のポリビニルアルコール単独重合体架橋繊維をフィブリル化している、平均繊維径の変動係数が20〜50%の範囲内にあるフィブリル化繊維。
【請求項2】
前記架橋の導入が、ホルマール化による架橋導入である請求項1に記載のフィブリル化繊維。
【請求項3】
前記架橋の導入が、ジアルデヒドによる架橋導入である請求項1に記載のフィブリル化繊維。
【請求項4】
前記フィブリル化繊維の平均繊維径が0.5〜3μmの範囲内にある請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィブリル化繊維。
【請求項5】
けん化度が98モル%以上のポリビニルアルコール単独重合体から形成され、水中溶解温度が100℃以上であり、繊度が0.1〜4デニールおよび繊維長が0.2〜3mmの範囲内にあるポリビニルアルコール単独重合体架橋繊維の水分散体を、150〜275MPaで高圧噴射して、水分散体同士を一点で衝突合流させることにより、ポリビニルアルコール単独重合体架橋繊維をフィブリル化する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィブリル化繊維の製造方法。
【請求項6】
水分散体中の繊維濃度が0.1〜3.2重量%である請求項5に記載のフィブリル化繊維の製造方法。
【請求項7】
水分散体の温度が40℃を超えないようにコントロールされている請求項5または6に記載のフィブリル化繊維の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィブリル化繊維を配合した湿式不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)単独重合体を紡糸・熱延伸・架橋して得られた、水中溶解温度が100℃以上のPVA単独重合体架橋繊維をフィブリル化して得られるフィブリル化繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セパレーターの遮蔽性向上やフィルターの微細粒子補足のために、細かく微細化した(フィブリル化した)繊維から形成したシートを使用するのが有効であるがPVA単独重合体繊維は、6μm程度の繊度にするのが限度で、さらに細いフィブリル化した繊維は実用化されていない。
従来から、フィブリル化したPVA繊維を得ようと試みられてきた。特許文献1では、PVAを主成分とする連続相の中にポリアクリロニトリルを主成分とする独立相が均一に微分散し、さらにポリアクリロニトリルを主成分とする独立相のなかにPVAを主成分とする第三相が均一に分散された三相以上の構造を形成しているPVA系易フィブリル化繊維が開示されている。
特許文献2では、ビニルアルコール系ポリマー(A)と水不溶性セルロース系ポリマー(B)を共通の有機溶媒に溶解して、A成分を海成分、B成分を島成分とする海島層分離溶液を調整し、この溶液を紡糸原液として紡糸することにより易フィブリル化繊維を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−81818号公報
【特許文献2】特開平10−102322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行文献ではいずれもPVAとポリアクリロニトリルやセルロースなどとからなる海島繊維を用いてフィブリル化を達成しようとしている。すなわち、PVAと他種のポリマーとが混合した繊維を形成し、これからフィブリル化した繊維を得ている。しかしながら、PVA単独重合体繊維は、延伸熱固定後、緻密な繊維構造を有しており、ビーター、シングルデイスクリファイアー、ダブルデイスクリファイアーなどにより叩解してもフィブリル化を行うことはできなかった。このため、PVAのフィブリル化繊維は実用化されていない。
【0005】
本発明者らは、PVA単独重合体繊維をフィブリル化したフィブリル化繊維を得ることを解決すべき技術的課題であると設定した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、PVA単独重合体繊維のフィブリル化について、鋭意検討を行ったところ、高圧噴射を利用した湿式微粒化装置を用いると従来フィブリル化が不可能であったPVA単独重合体をフィブリル化できる可能性があることを見出したが、一方で、PVA単独重合体繊維をフィブリル化するために、超高圧に加圧した原料粒子(PVA繊維の水分散体)同士を衝突させて微粒化(フィブリル化)を行おうとすると、水分散液の水温が上昇し、PVA単独重合体繊維が水に溶解して、フィブリル化繊維を得ることができないという問題が生じた。
この点について本発明者はさらに鋭意検討の結果、(1)PVA単独重合体に架橋を導入したPVA単独重合体架橋繊維を用いることによりPVA単独重合体繊維の溶解を防ぐとともに、(2)PVA繊維が分散したスラリー(水分散液)を高圧噴射して、高圧噴射したスラリー同士を1点で衝突合流させることにより、フィブリル化処理を行うことにより、繊維の溶解が起こることなく、微粒化(フィブリル化)を達成することができることを突き止め、本発明を完成させることができた。
【0007】
本発明第1の構成は、けん化度が98モル%以上のPVA単独重合体の繊維に架橋が導入された、水中溶解温度が100℃以上のPVA単独重合体架橋繊維がフィブリル化しているフィブリル化繊維である。
なお、本発明において、PVA単独重合体とは、実質的に酢酸ビニルのみが重合した重合体(ポリ酢酸ビニル)がけん化度98モル%以上にけん化された重合体をいう。
また、PVA単独重合体架橋繊維とは、上記のPVA単独重合体のみから形成された繊維に架橋が導入された繊維であって、したがって、「PVA」には、繊維形成後、PVAのOH基に架橋が導入されることにより改質された改質PVAが含まれる。
【0008】
前記架橋の導入が、ホルマール化による架橋導入であってもよく、ジアルデヒドによる架橋導入であってもよい。
【0009】
前記フィブリル化繊維の平均繊維径が0.5〜3μmの範囲内にあることが好ましく、前記フィブリル化繊維の平均繊維径の変動係数が20〜50%の範囲内にあることが好ましい。
【0010】
前記フィブリル化繊維の繊維長が0.2〜3mmの範囲にあることが好ましくは、0.2〜2mmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0011】
本発明第2の構成は、けん化度が98モル%以上のPVA単独重合体から形成され、水中溶解温度が100℃以上であり、繊度が0.1〜4デニールおよび繊維長が0.2〜3mmの範囲内にあるPVA単独重合体架橋繊維の水分散体を、150〜275MPaで高圧噴射して、水分散体同士を一点で衝突合流させることにより、PVA単独重合体繊維のフィブリル化を行うフィブリル化繊維の製造方法である。
【0012】
水分散体中の繊維濃度が0.1〜3.2重量%であることが好ましい。
【0013】
水分散体の温度が40℃を超えないようにコントロールされていることが好ましい。
【0014】
本発明第3の構成は、前記のフィブリル化繊維を配合した湿式不織布である。
【発明の効果】
【0015】
本発明第1の構成では、従来、フィブリル化することのできなかったPVA単独重合体繊維であってもフィブリル化することができた。これにより、セルロースやアクリロニトリルなどの他のポリマーが混合していないPVA単独重合体フィブリル化繊維から湿式不織布などの製品を得ることができ、耐アルカリ性やゴム、セメントとの接着性を有するPVA繊維の特徴を生かした用途への適用を図ることができる。
【0016】
本発明第2の構成では、水中溶解温度が100℃以上のPVA単独重合体架橋繊維を用い、かつ、該繊維の水分散体を高圧噴射して、高圧噴射した水分散体同士を一点で衝突合流することにより、PVA繊維が処理中に溶解することなく、フィブリル化を行うことができる。
【0017】
本発明第3の構成では、このようなフィブリル化繊維により、緻密で強力が増加し、保水性の大きい機能紙(湿式不織布)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明において用いられるフィブリル化処理装置の一例を示す説明図である。
【
図2】フィブリル化PVA繊維の一例を示す電顕写真(倍率:1000倍)である。
【
図3】フィブリル化処理前のPVA繊維の一例を示す電顕写真(倍率:1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(PVA繊維)
本発明においてフィブリル化処理を行うPVA繊維は、PVA単独重合体(例えば、粘度平均重合度:1200〜3000、けん化度:98モル%以上、好ましくは99モル%以上、さらに好ましくは、99.8モル%以上)から形成される。
PVA単独重合体を溶剤(水、有機溶剤)に溶解した紡糸原液から湿式法(芒硝凝固浴紡糸、アルカリ凝固浴紡糸)、乾式法、または湿乾式法により紡糸原糸が形成される。PVA繊維の紡糸方法としては、芒硝凝固浴紡糸繊維、アルカリ凝固浴紡糸繊維、乾式紡糸繊維、有機溶剤系繊維のいずれの紡糸方法により得られる繊維を用いることができるが、なかでも、芒硝凝固浴紡糸繊維がフィブリル化しやすく好ましい。
この紡糸原糸を、熱延伸(湿熱延伸、乾熱延伸)・固定処理し、さらに架橋処理することにより、水中溶解温度100℃以上のPVA単独重合体架橋繊維を得ることができる。
なかでも、高圧水処理する際にPVA単独重合体繊維の溶解性を低くする点で、高けん化度(99.9モル%)のPVAを用いて繊維を形成して、繊維中に架橋を導入した繊維にすることが好ましい。
【0020】
(架橋処理)
本発明において、フィブリル化処理を行う繊維として、紡糸延伸熱固定後(未アセタール化)、さらに架橋処理[ホルマール化、ジアルデヒド(グリオギザール、グルタルアルデヒドなど)によるアセタール化によるPVAの改質処理]を行った繊維を用いることが必要である。架橋の導入により、フィブリル化処理時におけるPVAの溶出が抑えることができる。
【0021】
(繊度)
PVA単独重合体繊維における単繊維の繊度としては、特に限定されないが、出発原料繊維の単繊度が小さいほど、フィブリル化後の繊度も小さくなることから、例えば0.1〜4デニール(好ましくは、0.2〜3デニール)の範囲内から適宜選択されるのが好ましい。上記の繊度よりも小さい繊維は繊維製造が難しくなり、また繊度が大きすぎると、フィブリル化後の繊維の繊度が大きく、緻密な湿式不織布が得にくくなる傾向にある。
【0022】
(繊維長)
PVA繊維の繊維束をカッターにより例えば0.2〜3mm(好ましくは、0.5〜2mm)の長さにカットして、フィブリル化処理を行うための原料繊維が調整される。繊維長が長すぎると、処理装置内で分散液を噴射するノズル詰まりが起こりやすくなる傾向にあり、また、繊維長が短すぎると湿式不織布の強度が出にくくなるおそれがある。
【0023】
(PVA単独重合体架橋繊維の水分散体の調整)
上記の繊維長にカットしたPVA単独重合体架橋繊維を、常法により、0.1〜5重量%、好ましくは0.1〜3.2重量%濃度で水に分散させたPVA単独重合体繊維の水分散体を調整する。繊維濃度が低すぎると所定の繊維量を処理するには効率が悪くなり、繊維濃度が高すぎるとスラリーの流動性が低下して、オリフィスノズルに詰まり処理できなくなる。
【0024】
(フィブリル化処理)
フィブリル化処理は、前記水分散体を、高圧噴射流を利用して衝突させることにより行うことができる。例えば、このような処理を行うことのできる装置として、(株)スギノマシンが開発した高圧噴射を用いたスターバースト処理装置が挙げられる。
この処理装置を用いて、上記のPVA単独重合体架橋繊維の水分散体を、対向配置した二つのオリフィスノズル(ノズル径:0.1〜0.8mm)より高圧噴射(例えば、高圧噴射の圧力:150〜275MPa、噴射速度:440〜700m/s)して、水分散体同士を一点で衝突合流させることにより、水分散体中のPVA単独重合体架橋繊維のフィブリル化が始まる。そして、衝突合流させた水分散体は回収され、再度オリフィスノズルより分散流体同士を一点で衝突合流させる。この操作を20〜100回程度(好ましくは、30〜80回、さらに好ましくは40〜60回程度)繰り返すことによりフィブリル化が行われる。繰り返し回数が少なすぎるとフィブリル化が不十分となり、繰り返し回数を増加しすぎてもそれ以上のフィブリル化は進まず、一方では装置の生産性が低下する。
なお、前記架橋繊維の水分散体をオリフィスノズルから衝突用硬質体(セラミック製または金属製のボール状体または平板状体)に衝突させてもフィブリル化は可能である。
【0025】
(フィブリル化処理装置)
本発明で使用するフィブリル化処理装置の一例を
図1に示す。
図1に示されるフィブリル化処理装置14において、水分散体(分散液)30が入口22から流路24a,24aを通って供給され、この水分散体30をオリフィスノズル26a,26aから上記の噴射圧力で噴射する。オリフィスノズル26a,26aから噴射された高圧噴射流の噴射方向は、例えば、内壁面が平滑面に形成されたチャンバ28に貯留された水分散体30の液面に交差する方向とし、両高圧噴射流がチャンバ28に貯留された水分散体30の液面上で衝突合流するように、オリフィスノズル26a,26aの向きを調整するのが好ましい。このチャンバ28に貯留された水分散体は、オリフィスノズル26a,26aからの高圧噴射流の衝突合流によって生成するPVA単独重合体架橋繊維のフィブリル化物を含む水分散体30である。更に、チャンバ28からの水分散体(分散液)30の排出量を調整して、チャンバ28内に水分散体(分散液)30を貯留するとともに、供給タンクに貯留されている分散液をスターバースト処理装置14に供給するとともに、チャンバ28の分散液30及び処理済タンク内の分散液30を供給タンクに戻し、供給タンクから分散液30として、再度、オリフィスノズル26a,26aの各々から噴射することによって、水分散体中のPVA単独重合体架橋繊維に対し繰り返して高圧噴射流の衝突合流の衝撃を与える。かかる高圧噴射流の衝突合流の衝撃を、PVA単独重合体架橋繊維に対して上記のように例えば20〜100回程度与えるのが好ましい。
【0026】
このノズル26a,26aから噴射された高圧噴射流の噴射軌跡は、チャンバ28内に貯留された溶液30の液面と交差する方向である。ノズル26a,26aから高圧噴射流を噴射するには、ノズル26a,26aからの高圧噴射流の噴射方向を、高圧噴射流の噴射軌跡と高圧噴射流の衝突合流点からチャンバ28内に貯留した溶液30の液面に下ろした垂線との成す液面方向の噴射角度θ
1,θ
2が鈍角となるように調整することが好ましい。かかる噴射角度θ
1,θ
2を同一とすることによって、ノズル26a,26aの噴射方向の調整を容易に行うことができる。
【0027】
高圧噴射流の衝突の繰り返しにより、分散液の温度が上昇して60〜70℃にもなる場合があり、PVA繊維の一部溶出のおそれがある。そこで、供給タンク内の分散液は、供給タンクを水冷により冷却し、分散液の温度が40℃、好ましくは30℃を超えないようにコントロールされていることが、分散液温度の上昇によりPVA繊維の溶解を防ぐことができることから好ましい。
【0028】
フィブリル化繊維の繊維径については、噴射時の高圧噴射の水圧、パス回数、繊維濃度を選ぶことにより変化させることができるが、例えば、繊維濃度0.8〜1.6%、水圧200〜275MPa、パス回数30回により、繊維径1.6〜1.8μmのフィブリル化繊維が得られ、パス回数50回により、繊維径1.3〜1.5μmのフィブリル化繊維を得ることができる。
【0029】
(PVA単独重合体架橋繊維のフィブリル化)
本発明においてフィブリル化とは、処理した繊維の中に含まれる少なくとも1本の単繊維が繊維軸の平行方向に分離して微細繊維になることを意味する。
本発明により得られるフィブリル化繊維は、通常、平均繊維径0.5〜3μm、繊維径の変動係数20〜50%であり、湿式不織布形成に好適なフィブリル化したポリビニルアルコール繊維を得ることができる。
【0030】
(湿式不織布形成)
湿式不織布を形成する場合には、例えば、上記のフィブリル化繊維を主体繊維として、また、必要に応じて上記のフィブリル化繊維に通常のポリビニルアルコール系主体繊維、パルプ等のセルロース繊維等を加え、さらに、ビニルアルコール系バインダーを加えて、抄紙法により湿式不織布が形成される。
本発明において用いられるPVA繊維は、水中溶解温度が100℃以上の、PVA繊維としては、高延伸された緻密な繊維構造を有する繊維である。従来の方法では、このようなPVA繊維(主体繊維)は、PVAバインダー繊維(水中溶解温度80℃以下)が少量配合されて抄紙され、湿式不織布が形成されていた。従来の方法では、主体繊維であるPVA繊維は、バインダー繊維の溶解により繊維間が接着されて、湿式不織布が形成されていたが、本発明に係るフィブリル化PVA繊維の場合には、バインダー繊維の溶解による繊維間の接着に加えて、フィブリル化により主体繊維間に形成される絡合が加わるため、より緻密な湿式不織布を形成することができる。
【0031】
(バインダー繊維の使用)
本発明の湿式不織布形成に用いられるバインダーとしては、耐電解液性、吸液性の点からポリビニルアルコール系バインダーが好適に用いられる。形態としては、繊維状、粉末状、溶液状のものがあるが、湿式抄造によってセパレーターを抄造する場合は、繊維状バインダーが好ましい。
ポリビニルアルコール系バインダー繊維の水中溶解温度としては、60〜90℃が好ましく、さらに好ましくは70〜90℃である。また、粘度平均重合度は500〜3000程度、けん化度97〜99モル%のポリビニルアルコール系ポリマーから構成され、紡糸後の未延伸繊維であるか、軽度熱延伸繊維が好適に使用される。
【0032】
(用途)
本発明に係るフィブリル化ポリビニルアルコール繊維が配合された湿式不織布は、
緻密性、遮蔽性、耐アルカリ性、不透明性、拭取り性、吸水性、吸油性、透湿性、保温性、耐候性、高強度、高引裂力、耐摩耗性、制電性、ドレープ性、染色性、安全性等に極めて優れるため、アルカリ電池セパレーター紙、エアフィルター、バグフィルター、液体フィルター等の各種フィルター用シート、コンデンサー紙、フロッピー(登録商標)ディスク包材等の各種電気器材用シート、FRPサーフェーサー、粘着テープ基布、吸油材、製紙フェルト等の各種工業用シート、家庭・業務・医療用ワイパー、印刷ロール用ワイパー、複写機クリーニング用ワイパー、光学機器用ワイパー等の各種ワイパー用シート、手術衣・ガウン、覆布、キャップ、マスク、シーツ、タオル、ガーゼ、バップ剤基布、おむつ、おむつライナー、おむつカバー、絆創膏基布、おしぼり、ティッシュ等の各種医療・衛材用シート、芯地、パット、ジャンバーライナー、ディスポ下着等の各種衣料用シート、人工・合成皮革基布、テーブルトップ、壁紙、障子紙、ブラインド、カレンダー、ラッピング、カイロ・乾燥剤袋、買物袋、風呂敷、スーツカバー、枕カバー等の各種生活資材用シート、寒冷紗、内張カーテン、べたがけ、遮光・防草シート、農薬包装材、育苗ポット下敷き紙等の各種農業用シート、防煙・防塵マスク、実験着、防塵服等の各種防護用シート、ハウスラップ、ドレン材、濾過材、分離材、オーバーレイ、ルーフィング、タフト・カーペット基布、結露防止シート、壁装材、防音・防振シート、木質ボード、養生シート等の各種土木建築用シート、フロアー・トランクマット、天井成型材、ヘッドレスト、内張布等の各種車輛内装材用シート等の用途に用いることができる。また、本発明の繊維を、無機微粒子と分散撹拌するとフィブリル化し、微粒子捕捉性と補強性に優れ、しかも耐熱難燃性に優れたフィブリルを得ることができ、摩擦材として有用である。またこのフィブリルをセメントに混合分散させると、セメント粒子の捕捉性に優れ、しかも補強性もあるので、高強度スレート板を容易に得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によりさらに本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0034】
(水中溶解温度の測定)
繊維サンプルに500mg/drの重りをつるした状態で水中に浸漬し、1℃/分の昇温速度で昇温した際に繊維サンプルが破断した温度を観測し、該温度を水中溶解温度として求めた。
【0035】
(平均繊維径の測定)
電子顕微鏡((株)日立製作所製:S−340N)により倍率1000倍で撮影した風乾後の繊維塊の表面の拡大写真を10枚以上撮影し、無作為に写真ごとに15本以上の繊維を選び、それらの繊維径を測定する。すべての写真の平均値を求めて平均繊維径とした。
【0036】
(実施例1〜2)
繊度0.3デニール(平均繊維径5μm)、繊維長1mm、水中溶解温度100℃以上のPVA繊維[けん化度99.9モル%、粘度平均重合度1750のPVA単独重合体を水に溶解した紡糸原液を芒硝凝固浴中で凝固させ、熱延伸(湿熱延伸→乾熱延伸)・熱固定・ホルマール化(FA化)(ホルマール化度:27モル%)して形成]について、スターバースト処理装置(スギノマシン社製、スターバースト70)を用いて、表1に示す条件でフィブリル化処理を行った。表1において、パス回数50回とは、表1に示す繊維濃度の水分散体を二つのオリフィスノズルから噴射・衝突を50回行ったことを示している。
なお、水分散体の温度は、供給タンクを水冷により冷却することにより、30℃を超えないようにコントロールして行った。
【0037】
(比較例1〜5)
表1に示すように、繊度0.3デニール、繊維長1mmまたは5mm、水中溶解温度96℃または100℃以上の繊維を用いた。水中溶解度が100℃以上の繊維は、実施例1〜2と同じホルマール化された繊維である。比較例1で用いられた水中溶解度が96℃の繊維は、熱延伸・固定後の未アセタール化物である。
比較例1、比較例4〜5では、実施例1〜2と同じ高圧水流を用いた。比較例2では、
リファイナ(ワルドロン型ディスクリファイナー:(株)東洋精機製作所)、比較例3ではビーター(タッピ−スタンダードナイヤガラ試験ビーター:(株)安田精機製作所製)を用いてフィブリル化を試みた。
【0038】
(実験結果)
(1)水中溶解温度96℃のPVA繊維の場合(比較例1)、スターバースト処理中に繊維が溶解した。
(2)処理装置として、リファイナ―(比較例2)、ビーター(比較例3)を用いた場合には、フィブリル化しなかった。
(3)水圧245MPaで、繊維濃度0.8重量%の場合(比較例4)も、3.2%重量の場合(比較例5)も、繊維長が5mmではノズル詰まりを生じた。
(4)実施例1〜2において、繊度0.3デニール(繊維径:5μm)の原料繊維をフィブリル化処理して、フィブリル化処理後の平均繊維径は、それぞれ1.4μm、1.5μmであった。
【0039】
(処理後のフィブリル化繊維の繊維径分布)
実施例1で処理されたフィブリル化繊維から、11サンプルを採取して、個々のサンプルについて繊維径の平均値(個々のサンプルについて、14〜23個のデータを採取して平均値を算出した)、最大値、最小値、変動係数を求めた結果を表2に示した。なお、サンプルの採取は、スラリーの固形分をピンセットで行った。
得られた結果は、繊度の平均値:1.39μm(最小値:0.56μm、最大値:2.81μm、変動係数:28.5%)であった。
処理前の繊維径が5μmであることを考慮すると、フィブリル化されていることは明らかである。
本実施例では、フィブリル化繊維の変動係数が、28.5%であることにより、均一性の高いフィブリル化繊維が得られたことがわかる。しかも、従来技術では達成されなかった、ポリビニルアルコールの単独重合体架橋繊維から形成されたフィブリル化繊維として得られた。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
フィブリル化した繊維(実施例1)の電子顕微鏡断面写真を
図2に、フィブリル化処理前の繊維の電子顕微鏡写真を
図3に示した。
図3と比較して
図2を見ると、フィブリル化により繊維が分裂するとともに屈曲していることがわかる。
【0043】
通気度が10cc/cm
2/secのフィブリル化したセルロースで構成された緻密な紙の一部を上記のフィブリル化したPVA繊維に置き換えても同様の通気度を示す緻密なサンプルとなった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、ポリビニルアルコール単独重合体から形成された、水中溶解温度が100℃以上のポリビニルアルコール単独重合体架橋繊維からフィブリル化繊維を得ることが可能になった。このフィブリル化繊維は、新たな湿式不織布などへの利用可能性があるので、産業上の利用可能性がある。
【0045】
以上の通り、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
14 フィブリル化処理装置
15 配管
20 本体部
22 入口
24a 流路
26a オリフィスノズル
28 チャンバ
30 水分散体
θ1、θ2 噴射角度