【実施例1】
【0018】
<概要>
はじめに、本実施例で用いられる試料台の概要に関して説明する。以下で説明する三次元内部構造観察方法は従来の一般的な電子顕微鏡用試料台においても可能であるが、次に説明する試料台を用いることでさらに利便性が向上する。
【0019】
本実施例では、試料内部を透過または散乱した荷電粒子線を光に変換し、その光を検出することで透過荷電粒子線像を生成する荷電粒子顕微鏡、観察システムについて説明する。より具体的には、試料が載置される試料台の少なくとも一部は荷電粒子線の照射により発光する発光部材で形成され、当該発光部材上にある試料を透過または散乱した荷電粒子線が当該発光部材に照射されることで光が発生し、その光を荷電粒子顕微鏡に備えられた検出器で検知することで、透過荷電粒子線像を生成する。つまり、本実施例では試料を透過した荷電粒子線を直接検出するのではなく、光に変換して検出する。以下に詳述するように、荷電粒子線を光に変換する発光部材には外部から接続される電源ケーブルや信号線等の配線が不要である。そのため、同じ試料台を用いて荷電粒子線顕微鏡とその他の装置で観察することができ、装置間の試料の移動に際して電気配線を外すという非常に手間な作業が不要となる。また、発光部材自体または発光部材を有する試料台を簡単に装置に着脱できるので、どのような試料でも簡単に試料を試料台にセットすることが出来る。特に、顕微鏡観察用の試料台上で試料自体を培養させる必要がある培養細胞などを観察する場合に非常に有効である。
【0020】
さらに、
図1に示すように本実施例の試料台を用いれば荷電粒子線顕微鏡による観察と光学顕微鏡などの他の装置による観察とを同じ試料台で行うことができる。
図1には本実施例における荷電粒子線を光に変換または増幅して発光させることが可能な検出素子500(発光部材ともいう)を具備する試料台と、荷電粒子線顕微鏡601と、光学顕微鏡602を示す。試料台の検出素子500上には試料6を直接または後述する所定の部材を介して搭載することができる。後述するように、検出素子500からの光を電気信号に変換及び増幅するために荷電粒子線顕微鏡601内には光検出器503を備える。この構成により、荷電粒子線顕微鏡内で発生された荷電粒子線が試料6に照射された後に試料の内部を透過または散乱した「荷電粒子透過信号」を、試料台の一部を成す検出素子にて光に変換して検出することにより、透過荷電粒子顕微鏡画像を取得することが可能である。また、本試料台は荷電粒子線顕微鏡と光学顕微鏡と共用に用いられる共通試料台であるので、図中矢印で図示したように同一試料台を各顕微鏡間で移動させて観察することで、それぞれの顕微鏡観察向けに試料を複数作製したり試料を移し変えたりすることなく、一つの試料台に試料を配置したまま荷電粒子線観察と光学観察が可能である。
【0021】
本実施例において、この試料台の一部を成す検出素子は透明な部材で作られているとよい。以下、本明細書において、「透明」の意味は、特定の波長領域の可視光もしくは紫外光もしくは赤外光が通過可能、またはすべての波長領域の可視光もしくは紫外光もしくは赤外光が通過可能ということである。紫外光は波長がおおよそ10〜400nmであり、可視光は波長がおおよそ380nmから750nmであり、赤外光とは波長がおおよそ700nm〜1mm(=1000μm)程度の波長の領域のことを言う。例えば、多少の色が混在されていても透けて見えれば特定の波長領域の可視光が通過可能ということであり、無色透明であればすべての波長領域の可視光が通過可能という意味である。ここで「通過可能」とは少なくとも当該波長領域の光によって光学顕微鏡観察が可能な光量の光が通過することを指す(例えば透過率50%以上であることが望ましい)。また、ここで特定の波長領域とは少なくとも光学顕微鏡の観察に用いる波長領域を含む波長領域である。そのため、本実施例の試料台の一面側からの光が試料を透過することによって得られる「光透過信号」を試料台のもう一面側から検出することが可能な一般的な光学顕微鏡(透過型光学顕微鏡)に用いることが可能である。光学顕微鏡としては、生物顕微鏡、実体顕微鏡、倒立型顕微鏡、金属顕微鏡、蛍光顕微鏡、レーザ顕微鏡等の光を用いた顕微鏡ならばどんなものでもかまわない。また、ここでは説明のため「顕微鏡」としているが、この試料台は画像の拡大率に関らず、試料に光を照射することで情報を取得する装置一般に適用可能である。
【0022】
さらに、この試料台を用いれば、共通試料台上に配置された試料を光学顕微鏡観察した後に、荷電粒子顕微鏡装置にて三次元内部構造観察することが可能となるために、同一試料台上の同一試料から様々な情報を入手することが可能となる。以下で、試料台、試料搭載方法、画像取得原理、装置構成等の詳細に関して説明する。
【0023】
<試料台の説明>
本実施例における試料台の詳細の説明と原理説明をする。本実施例の試料台は荷電粒子線を光に変換する検出素子500で構成される。
図2のように試料6は検出素子500上に直接搭載される。図中試料6は一つだけ搭載されているが、複数配置されていてもかまわない。または、後述するように膜などの部材を介して間接に搭載されても良い。試料台500の下に、無色透明または多少の色が混在されている土台501(図示せず)を配置してもかまわない。土台501としては、透明ガラス、透明プラスチック、透明の結晶体などである。蛍光顕微鏡などで観察したい場合は、蛍光が吸収されない方がよいのでプラスチックがよい。土台501は必ずしもなくともよい。
【0024】
検出素子500は例えば数keVから数十keVぐらいまでのエネルギーで飛来してくる荷電粒子線を検知し、荷電粒子線が照射されると可視光や紫外光や赤外光などの光を発光する素子である。本実施例の試料台に用いられる場合、当該検出素子は試料台に載置された試料の内部を透過または散乱した荷電粒子を光に変換する。発光波長は、可視光、紫外光、赤外光のうち特定のまたは任意のいずれかの波長領域であればよい。検出素子としては例えばシンチレータ、ルミネッセンス発光材などを用いることができる。シンチレータの例としてはSiN(シリコンナイトライド)、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)素子、YAP(イットリウム・アルミニウム・ペロブスカイト)素子、BGO素子(ビスマスゲルマニウム酸化物)、GSO(ガドリニウムシリコン酸化物)素子、LSO( ルテチウムシリコン酸化物)素子、YSO(イットリウムシリコン酸化物)素子、LYSO(ルテチウムイットリウムシリコン酸化物)素子、NaI(TI)(タリウム活性化ヨウ化ナトリウム)素子などの無機シンチレータ材料がある。または、ポリエチレンテレフタレートなど発光することが可能な材料が含有するプラスチックシンチレータあるいは有機シンチレータや、アントラセンなどが含有した液体シンチレータが塗布された材料などでもよい。荷電粒子線を光に変換可能な素子であれば検出素子500はどのような材料であってもかまわない。また、本発明における発光とは、蛍光やその他の発光現象を利用することも含まれる。
【0025】
また、荷電粒子線が照射されることによって蛍光を発生する蛍光剤がコーティングされた薄膜や微粒子であってもよい。例えば、コーティング材として、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein,GFP)などの蛍光たんぱく質などがある。蛍光色は緑に限らず青や赤など何でも構わない。特に、荷電粒子線を照射しても瞬時に劣化することがないようなGFPがよい。例えば、高感度緑色蛍光タンパク質(enhancedGFP,EGFP)などである。観察したい試料が細胞などの生体試料の場合には、タンパク質であるGFPと細胞試料などの密着性がよいといった効果もある。また、GFPが塗布された基板に対して、試料搭載後に荷電粒子線を照射してGFPの蛍光強度を高めてから観察してもよいし、試料搭載前に荷電粒子線を照射して、GFPの発光強度を高めてから試料を搭載してもよい。この場合、コーティング材は図示しない透明な土台501に支持、塗布、または散布される。本実施例では、これらも含め、荷電粒子を受光面に受けることにより光を発生する部材を総称して発光部材と称する。荷電粒子線の固体内平均自由行程は荷電粒子線の加速電圧に依存するが数十nmから数十μmである。そのため、検出素子500の上面の発光領域も検出素子表面から同程度の厚みの領域となる。よって、検出素子500の厚みはこの厚みを上回っていればよい。一方で、前述の通り、光学顕微鏡観察を同じ試料台で行うことを考えた場合には、光学顕微鏡にて観察した際の光透過信号ができるかぎり透過可能な必要があるので、多少の色が混在された検出素子の場合はできるかぎり薄いほうがよい。
【0026】
なお、光学顕微鏡602が蛍光顕微鏡である場合には、試料に蛍光材を注入する必要がある。この場合、試料に注入する蛍光材料の蛍光波長帯と、本実施例における上記発光部材としての蛍光材料の発光波長帯とがずれているほうが望ましい。例えば、緑色である蛍光たんぱく質で検出素子500をコーティングした場合には、赤や青などの蛍光たんぱく質で試料を染めることが望ましい。もし、発光部材のコーディングと試料の染色を同一色で実施する場合は、蛍光顕微鏡下では色ではなく発光強度の違いを識別すればよい。また、試料に蛍光材が含まれる場合はそれがどのような色であっても、荷電粒子線装置内の光検出器503では試料台500からの光と試料からの光を検出することになる。この場合、光検出器503は予め発光波長の増幅率が異なる検出器を用いれば、結果として荷電粒子による透過情報が取得できることになる。具体的には、発光部材からの光に対する増幅率が試料からの光に対する増幅率より高い光検出器503を用いれば、荷電粒子による透過信号を選択的に増幅することができる。
【0027】
光学顕微鏡にて良く用いられる試料台としてスライドグラス(又はプレパラート)やディッシュ(又はシャーレ)などの透明試料台がある。つまり、本実施例における荷電粒子線を光変換することが可能な検出素子を具備した試料台500をこれら光学顕微鏡向けの一般的なスライドグラス(例えば約25mm×約75mm×約1.2mm)の形状の上にのせれば、これまでユーザが使用していたような経験や感覚で試料台操作や試料搭載や試料観察が可能である。または、スライドグラスやシャーレなどの試料台自体を上記のような発光部材で形成し発光する試料台としてもよい。これによって、光学顕微鏡で観察対象とする試料を一次的にスクリーニングし、選別された試料をそのまま荷電粒子顕微鏡で詳細観察するといった使い方をすることができる。また、一般の高性能の透過型荷電粒子線顕微鏡装置での試料調製は大変な労力を要するので、本実施例における試料台による観察によって、高性能の透過型荷電粒子線顕微鏡観察前のスクリーニングをすることも可能である。また、後述するように、これら顕微鏡間で試料を移動する際に位置情報等をコンピュータ上や紙面上でマップとして共有化すると、各顕微鏡で同一部位を観察することが可能となる。
【0028】
前述のように荷電粒子線の固体内平均自由行程は荷電粒子線の加速電圧に依存するが数十nmから数十μmであるため、その平均自由行程よりも十分薄い膜502を検出素子500と試料との間に配置してもよい。すなわち、検出素子500を覆う薄い膜502の上に試料が載置される。この試料台を
図3(a)に示す。この厚みは図中Aで記載されている。この薄い膜502は、荷電粒子線の少なくとも一部が透過可能な厚さおよび材質である必要がある。光学顕微鏡での観察も実施されるのでこの薄い膜502はさらに光に対して透明である必要もある。このような薄い膜502を配置すると、検出素子500の表面の汚れや傷などを防止することが可能である。この薄い膜502として、試料が試料台と分離しないように、試料と試料台の密着性を高めるための物質が試料台に塗布されてもよい。例えば、試料が細胞等の生体試料の場合、細胞表面は脂質二重層のリン酸脂質による負の荷電状態であるため、正の荷電状態の分子(リジンやアミノシランなど)をスライドグラスなどの試料台上に塗布することによって、細胞試料が試料台から剥離することを防止することができる。そのため、検出素子500にも同様に正の荷電状態の分子が付着されていてもよい。または、液体を多く含んだ状態の試料を搭載しやすくなるように親水性を有する材料が塗布されていてもよい。または、生きた細胞や細菌が搭載または培養しやすくなるようにコラーゲンのような生体試料と親和性が高い材料を塗布してもよい。なお、ここで塗布とは、散布、浸漬、コーティング等試料台表面にコーティング材を付着させる方法を広く含むものとする。また、
図3(b)のように所定の位置だけに前記分子や膜を配置させてもよい。ここで、所定の位置とは検出素子500のうち一部の領域という意味である。例えば、試料が細胞等の生体試料の場合には、所定の位置だけに正の荷電状態の分子を配置することで当該所定の位置のみに前記試料を配置することが可能となる。例えば、観察したい領域を狭めることで、観察時間を短くしたい場合などに本手法が有用となる。また、荷電粒子線が照射された際に帯電が発生しないように少なくとも試料が載置される面に導電性部材(帯電防止部材)が具備されていてもよい。導電性部材とは例えばカーボン材や金属材やITO(酸化インジウムスズ)や導電性有機物などである。なお、前述の膜の層数は複数あってもかまわない。
【0029】
また、試料が含水試料などの場合は
図4(a)のように観察試料を囲うまたは覆う様に薄い膜702を配置してもよい。薄い膜702とは例えば界面活性材や有機物などである。薄い膜702を試料周辺部に配置することによって、試料からの水分蒸発防止や試料の形状変化を防止することが可能となる。または、
図4(b)のように、試料内部または周辺に置換物質703を導入してもよい。置換物質703は例えばイオン液体などの有機物などである。イオン液体は電子照射面に導電性を付与することができる性質を有する。イオン液体が観察試料の内部や周辺部に配置されていることによって、真空中で荷電粒子線を照射させた時に、試料が帯電することを防止することが可能となる。さらに、イオン液体を試料中の水分と置換させることで、試料形態を維持した状態を保つことが可能となる。そのため、イオン液体を含んだ試料を透過または散乱してきた荷電粒子線による発光を検出することで、よりウェットな試料の透過画像を取得することが可能となる。イオン液体を試料に搭載する方法は、試料をイオン液体中に含浸させてもよいし、スプレーなどで試料にイオン液体を吹きかけるなどしてもよい。
【0030】
以下で、本実施例の試料台を用いた光検出方法及び透過荷電粒子線が取得可能な原理について説明する。
図5に、検出素子500上に試料6が配置されている状態を示している。試料台の下には光検出器503を示している。光検出器503は検出素子500からの光信号を電気信号に変換または増幅することが可能である。変換または増幅された電気信号は通信線を介して制御部やコンピュータに入力され、これらの制御系により画像化される。取得された画像(透過荷電粒子線画像)はモニタ等に表示されてもよい。
【0031】
ここでは、試料内で密度が高い部位508と密度が低い部位509があることを考える。試料内で密度が高い部位508に一次荷電粒子線510が照射された場合、荷電粒子線は大多数が後方散乱されるため、検出素子500には荷電粒子線は到達しない。一方、試料内で密度が低い部位509に一次荷電粒子線511が照射された場合、荷電粒子線は検出素子500まで透過することが可能となる。その結果、検出素子500にて試料内部の密度差を検出(すなわち光信号に変換)することが可能となる。この透過具合は荷電粒子線の加速エネルギーによってかわる。そのため、荷電粒子線の加速エネルギーを変えることで、画像化される試料内部構造物の密度を選択することができる。すなわち観察したい内部情報とその領域を変えることができる。また、荷電粒子線のビーム電流量を変化させることによって、ビーム径を変更することが可能である。この結果、観察した内部構造の大きさと前記ビーム径との相対サイズを変更することが可能である。つまり、ビーム電流を変更することで、観察したい内部情報を見えるようにしたり見えなくなるようにしたりすることが可能となる。
【0032】
光検出器503と試料台との間(図中h部分)は空間があってもよいが、光を出来る限り効率よく検出するためには、この光伝達部hは出来る限り短い方がよい。または、光伝達部hに光学レンズやミラーなどを配置して集光してもよい。光伝達部hは、空気中であってもよいし真空中であってもよい。発光の波長領域を通過させることが可能な固体材料とは、例えば、石英、ガラス、光ファイバ、プラスチック等、光に対して透明または半透明な材料である。この構成にすると、光検出器503をステージから分離して配置することができるので、光検出器503に接続される配線や電気回路を試料台や試料台を保持する試料ステージとは離れた位置に配置することが可能となる。いずれにしても、光伝達部hは出来る限り発光の波長領域を通過させる領域であることが好ましい。なお、
図5では、光検出器503は試料台500の下側に配置されているが、横方向や上側などに配置されていてもよく、検出素子500からの光を取得できればどの位置にあってもかまわない。
【0033】
試料台に試料を搭載する方法を以下で述べる。荷電粒子線(光学顕微鏡観察を併用する場合にはさらに光)が透過しなければならないために、試料は薄い必要がある。例えば、数nmから数十μm程度の厚みである。検出素子500上に直接搭載可能な試料としては例えば細胞が含まれている液体や粘膜、血液や尿など液状生体検体、切片化された細胞、液体中の粒子、菌やカビやウイルスのような微粒子、微粒子や有機物などを含むソフトマテリアル材などである。試料の搭載方法は、前述の培養の他にも、以下の方法が考えられる。例えば、試料を液体の中に分散させて、この液体を検出素子に付着させる方法がある。また、試料を荷電粒子線が透過可能な厚さに切片化して、切片化された試料を検出素子上に配置してもよい。より具体的には、例えば綿棒の先端に試料を付着させこれを検出器上に塗りつけてもよいし、スポイトで垂らしてもよい。また微粒子の場合は検出器上に振りかけてもよい。スプレーなどで塗布してもよいし、液体を試料台に高速回転させて塗布するスピンコーティング法を用いてもよいし、液体に試料台をつけて引き上げることによって塗布するディップコーティング法を用いてもよい。いずれの方法にしても、試料厚みを数十nmから数十μm程度の厚みにすることができればどのような方法であってもかまわない。
【0034】
<三次元内部構造観察の原理説明>
次に、
図6を用いて、荷電粒子線を用いて試料の三次元内部構造観察を実施するための原理に関して説明する。図では試料6と荷電粒子線900が照射される際の相互関係を示す。試料6には密度が比較的小さい物質904の中に、密度が比較的大きい内部物質901と内部物質902と内部物質903を持つ。内部物質903は内部物質901、902に比べると大きさが小さいかつ密度が小さいとする。試料として例えば細胞試料などを考えると、物質904は細胞内部であり、内部物質901、902、903などは細胞核などの細胞小器官などに対応する。
【0035】
荷電粒子光学鏡筒の軸である光軸905を図中縦方向とする。荷電粒子線900が試料6に照射され、紙面上左右方向に走査され、その結果、検出素子500によって光信号に変換された信号を顕微鏡画像としてモニタ上に表示させることを考える。
図6−1(a)では内部物質901、902は密度が大きいので、入射した荷電粒子線900の多くは後方散乱される一方、内部物質903は密度が小さいために多くの荷電粒子線は通過する。その結果、荷電粒子線が走査されて試料下側で検出される画像は投影画像(または検出画像、透過荷電粒子画像)906のようになる。例えば、投影画像906における内部物質901と内部物質902との距離は実際の距離ではなく、上から投影された距離Cとなる。内部物質903では荷電粒子線の多くが透過し検出できないので投影画像906には現れない。
【0036】
次に、
図6−1(b)は荷電粒子線900の入射エネルギーEを
図6−1(a)の場合より小さくした場合の説明図およびその場合に得られる投影画像である。入射エネルギーEの大きさは図中矢印の太さで明示的に図示している。入射エネルギーEが小さいと内部物質903でも荷電粒子線が通過できずに後方散乱される量も増えるので、投影画像(または検出画像)907には内部物質901,902の構造に加えて内部構造903aが検出されている。これは、低エネルギーの荷電粒子線のほうがより物質による散乱を受けやすいといった現象による。
【0037】
図6−1(a)と
図6−1(b)で得られる投影画像からは、内部物質901と内部物質902と内部物質903の三次元位置関係は不明である。そこで、荷電粒子線の入射方向と試料との相対角度を変えて複数の投影画像を取得する。具体的には試料自体を傾斜するか荷電粒子線の入射自体を光軸905に対して傾斜する。この複数の投影画像に基づいて内部構造の三次元位置配置を把握することが可能となる。例として、照射カラムを傾斜させる方法、照射ビームを電界もしくは磁界によってビームチルトさせる方法、もしくは試料台を傾斜させる方法が挙げられ、これらの2つ以上の方法の組み合わせによっても実現できる。
図6−1(c)では試料台500をθ傾斜することによって荷電粒子線を斜めから試料6に照射する様子を図示する。投影画像907と投影画像(または検出画像)908を比較すると、内部物質901と内部物質902と内部物質903の間の距離が変化する(図中C’部やD’部)。さらに、物質904の大きさも変化する(図中B’部)。つまり、投影画像907と投影画像908を比較して観察して変化量をみることによって、試料6全体及び内部の三次元内部構造観察をすることが可能となる。
【0038】
また、荷電粒子線が試料に照射される際の相対的な照射角度θの代わりに又はこれに加えて、試料の回転方向φを動かすことによって試料内部の三次元内部構造観察を実現する方法について以下記載する。はじめに、
図6−2(a)で図示したような状態から、荷電粒子線の入射方向に対する試料の相対角度θをつける。この時に、試料を保持している試料ステージを使って試料を傾けてもよいし、あらかじめ傾斜させて試料を配置してもよいし、荷電粒子線の照射する方向が傾斜してもよい。
図6−2(b)の例では、相対角度θは0°以外の角度に固定であってもよい。
【0039】
このとき、試料ステージではなく、後述する
図20のような試料台500に設けられた傾斜機構(部)を用いて試料と荷電粒子線の照射する方向を変更してもよい。この場合、試料ステージの傾斜軸とは異なる傾斜軸にて試料を傾斜させることが出来るので、試料ステージの傾斜可動範囲の制約を受けることなく試料を傾斜させることが出来る。ちなみに、元々試料ステージに傾斜機能が無い装置の場、「異なる傾斜軸」は試料室内のどの位置を指しても良い。
【0040】
なお、一般的な荷電粒子線装置においては、試料ステージの最大傾斜範囲が5度〜30度程度であるものもあり、また、大傾斜させる場合は片側のみの傾斜しか行えない試料ステージもある。使用する装置によっては大傾斜が可能な試料ステージを有するものもあるが、無い場合は別の傾斜機構を用いて傾斜させることが有効である。
【0041】
また、試料ステージの傾斜軸より光軸に近づいた傾斜軸を有する傾斜機構を用いて試料を傾斜させると、傾斜に要する試料の空間移動が減少し、試料室の空間的制約が緩和できる効果もある。
【0042】
次に、試料台500の面に垂直な軸Rに対して試料を回転させる。ここで説明の都合上、軸Rは試料台500の面に垂直としたが、実質的に垂直であればその後の画像処理演算が簡便化できる。
【0043】
また
図7にて述べるとおり、軸Rは試料ステージ自体または試料ステージ上に配置された回転機構の回転軸である。この場合において、試料台500の面が地面に対して傾斜していると、軸Rは試料台500の面に垂直ではないが、このような場合にも本実施例と同様の方法により試料内部の三次元構造を構築することが可能である。したがって以下では、軸Rは、試料ステージ自体または試料ステージ上に配置され、試料を回転させる回転機構の回転軸を意味するものとする。
【0044】
初期状態を、
図6−2(b)とし、
図6−2下段の投影図で図中横方向をX軸、図中縦方向をY軸と置いた場合に、軸Rに対してこのX軸とY軸を含む面を回転させる。回転角度をφとすると、回転角度φを変えて複数の投影画像を取得でき、それらの取得結果に基づいて内部構造の三次元位置配置を把握することが可能となる。例えば、
図6−2(b)から、試料台500の回転角度φを90°回転すると、
図6−2(b)は
図6−2(c)のようになる。
図6−2(c)から、試料台500の回転角度φをさらに90°回転すると、
図6−2(c)は
図6−2(d)のようになる。図からわかるとおり、投影画像916と投影画像(または検出画像)918を比較すると、内部物質901と内部物質902と内部物質903の間の距離が変化する(図中E’部やF’部)。さらに、投影画像における物質904の大きさや形状も変化する(図中G’部)。つまり、取得された投影画像を比較して観察して各変化量をみることによって、試料6全体及び内部の三次元内部構造観察をすることが可能となる。
【0045】
ちなみに、試料角度θを変更する場合は試料、試料台及び試料ステージの全体が傾斜するため、荷電粒子光学鏡筒の下で試料を含む部材の位置を大きく可動させる必要がある。つまり、装置構成によっては、試料室の空間的な制限やステージ等の傾斜機構の可動範囲などにより試料の傾斜角度θが狭い範囲に制限されてしまう可能性がある。このように十分傾斜できない場合、トモグラフィ等を行う場合に必要な情報量を取得することができない可能性がある。
【0046】
これに対して試料回転角度φを回転する構成は試料、試料台及び試料ステージの一部が回転しているだけであるため、荷電粒子光学鏡筒の下で、試料を含む部材の位置を大きく動かす必要はない。つまり、回転動作は試料台500の面内で行われるので、回転角度によって必要となる空間が大きく増えることはなく、容易に角度φを大角度(例えば360度)回転させることが可能である。そのため、荷電粒子光学鏡筒に試料を極力接近させたい場合や、試料室空間が狭い場合などは、照射角度θをあらかじめ固定にしておき、その後試料回転角度φが回転する構成のほうが望ましい。
【0047】
また、図示しないが、荷電粒子線のビーム電流量Iを変化させることによって、ビーム径を変更することが可能である。この結果、観察した内部構造の大きさと前記ビーム径との相対サイズを変更することが可能である。つまり、ビーム電流を変更することで、観察したい内部情報を見えるようにしたり見えなくなるようにしたりすることが可能となる。つまり、見たい情報と見たくない情報を分離するために、荷電粒子線のビーム電流量Iをベクトルパラメータとしてもよい。
【0048】
以上の説明をまとめると、三次元の内部構造観察を実施するためには、荷電粒子線が試料に照射される際の相対的な照射角度θ(または試料回転角度φ)と荷電粒子線エネルギーEと荷電粒子線のビーム電流量Iが重要となる。これは荷電粒子線のベクトルそのものである。この様子を
図6−3を用いて説明する。
図6−3(a)で複数の試料内部構造物を線で結んで構成される試料内部構造体914を考えた場合、
図6−3(b)のように照射角度θを変化させたり、
図6−3(c)のように試料を傾斜させた状態で試料回転角度φを変化させたりすると、一次荷電粒子線の入射方向905に対する前記試料内部構造体914の向きが変化することになる。また、荷電粒子線エネルギーEと荷電粒子線のビーム電流量Iを変化させると一次荷電粒子線の入射方向905の試料内部構造体914の深さ方向への侵入深さが変化することになる。すなわち、試料内部構造体914の位置が一定であると考えた場合において、照射角度θ、試料回転角度φ、荷電粒子線エネルギーE、荷電粒子線のビーム電流量Iを変化させることで、結果として荷電粒子線のベクトル(向きと強度)を変化させることができる。そこで、本明細書において、一次荷電粒子線入射方向と試料との相対的な照射角度θまたは試料回転角度φと一次荷電粒子線の入射エネルギーEと荷電粒子線のビーム電流量Iを組にして、そのいずれか1つ以上、もしくは準ずるものをベクトルパラメータと称する。
【0049】
すなわち、ベクトルパラメータとは一次荷電粒子線と試料との相互関係を決定するパラメータであるといえる。つまり、ベクトルを決定するベクトルパラメータとして照射角度θ(または試料回転角度φ)と荷電粒子線エネルギーEと荷電粒子線のビーム電流量Iを制御することによって、ベクトルパラメータが異なる条件での一次荷電粒子線の照射によって取得した複数の画像に基づいて試料台500上の試料の内部構造を観察できる。ここでいう複数の画像とは各ベクトルパラメータに対応する透過荷電粒子画像である。ベクトルパラメータの照射角度θ(または試料回転角度φ)と荷電粒子線エネルギーEと荷電粒子線のビーム電流量Iを変更して複数の画像取得を行い、これら画像を並べて観察したり連続的に表示させたりすることによって、三次元内部構造がどのようになっているかを識別することが可能である。また、内部構造の距離や面積などの大きさを計測していくつかの画像を比較することによって三次元内部構造の定量化も可能となる。これらの演算は、計算機内部で行って測定結果のみを表示しても良いが、操作者に途中の画像を表示することで結果の妥当性を確認できるメリットがある。以下で「ベクトルパラメータの変更」とは一次荷電粒子線入射方向と試料との相対的な照射角度θ(または試料回転角度φ)、一次荷電粒子線の入射エネルギーE、荷電粒子線のビーム電流量Iの少なくとも一つを変更または制御することを意味する。
【0050】
また、リアルタイムに内部情報を迅速に取得したい場合がある。例えば、後述するように、試料が自動で動いてコンピュータ断層撮影法(CT)によりトモグラフィ化する際などである。この場合、荷電粒子線装置内部に配置される時間が限られるため、このような場合は、照射角度θ(または試料回転角度φ)と荷電粒子線エネルギーEと荷電粒子線のビーム電流量Iをセットにしてリアルタイムに可変してもよい。この結果、見たい内部情報をより迅速に観察することが可能となる。
【0051】
<装置説明>
ここで、
図7−1に、本実施例の試料台を搭載して三次元内部構造観察が実施できる装置に関して説明する。荷電粒子顕微鏡は、主として、荷電粒子光学鏡筒2、荷電粒子光学鏡筒を装置設置面に対して支持する筐体7(以下、真空室と称することもある)およびこれらを制御する制御系によって構成される。荷電粒子顕微鏡の使用時には荷電粒子光学鏡筒2と筐体7の内部は真空ポンプ4により真空排気される。真空ポンプ4の起動および停止動作も制御系により制御される。図中、真空ポンプ4は一つのみ示されているが、二つ以上あってもよい。
【0052】
荷電粒子光学鏡筒2は、一次荷電粒子線を発生する荷電粒子源8、発生した荷電粒子線を集束して鏡筒下部へ導き、一次荷電粒子線を試料6上に走査する光学レンズ1などの要素により構成される。荷電粒子光学鏡筒2は筐体7内部に突き出すように設置されており、真空封止部材123を介して筐体7に固定されている。荷電粒子光学鏡筒2の端部には、上記一次荷電粒子線の照射により得られる二次的荷電粒子(二次電子または反射電子等)を検出する検出器3が配置される。検出器3は図示した位置ではなくても筺体7内部であればどこでもよい。
【0053】
試料6に到達した荷電粒子線によって試料内部または表面から反射荷電粒子などの二次的荷電粒子や透過荷電粒子を放出する。この二次的荷電粒子を検出器3にて検出する。検出器3は数keVから数十keVのエネルギーで飛来してくる荷電粒子線を検知及び増幅することができる検出素子である。例えば、シリコン等の半導体材料で作られた半導体検出器や、ガラス面またはその内部にて荷電粒子信号を光に変換することが可能なシンチレータ等である。
【0054】
筐体7には、一端が真空ポンプ4に接続された真空配管16が接続され、内部を真空状態に維持できる。同時に、筐体内部を大気開放するためのリークバルブ14を備え、試料台を装置内部に導入時に筐体7の内部を大気開放することができる。リークバルブ14は、なくてもよいし、二つ以上あってもよい。また、筐体7におけるリークバルブ14の配置箇所は、
図7−1に示された場所に限られず、筐体7上の別の位置に配置されていてもよい。
【0055】
筐体7は側面に開口部を備えており、この開口部には蓋部材122及び真空封止部材124によって装置内部の真空気密を保っている。本実施例の荷電粒子顕微鏡は、前述のように試料台に搭載された試料を筺体7内部にいれた後に試料と荷電粒子光学鏡筒との位置関係を変更するための試料ステージ5を備えている。試料ステージ5には前述の発光部材または発光部材を有する試料台が着脱可能に配置される。蓋部材122が支持する底板となる支持板107が取り付けられており、ステージ5が支持板107に固定されている。ステージ5は、面内方向または高さ方向へのXYZ駆動機構、試料を荷電粒子光学鏡筒の光軸200に対して傾斜できる傾斜駆動機構を備えている。ここを変更すると試料角度θを変えることができる。また、試料ステージ5が前記光軸方向を軸にして回転することが可能な回転駆動機構を備えることで、試料回転角度φを変えることができる。また、試料ステージ5とは別体に構成される回転または傾斜可能な駆動機構を試料ステージ5上に配置してもよい。支持板107は、蓋部材122の対向面に向けて筺体7内部に向かって延伸するよう取り付けられている。ステージ5のいくつかの駆動機構からはそれぞれ支軸が伸びており、各々蓋部材122が有する駆動部51及び駆動部52に接続されている。図中駆動部は二つだけ示しているが、駆動機構の数だけ配置される。駆動部51及び駆動部52は電動モータなどである。駆動部51及び駆動部52はユーザが手動で回転させてもよい。装置ユーザは、手動で駆動部51,52を操作し、またはユーザインターフェース34で上位制御部への命令を入力することによって、試料の位置を調整することが可能である。また、図示しないが、筺体7内に光学顕微鏡を具備すれば、2つ以上の顕微鏡による同時観察を行うことができ、もしくは試料室間の移動や位置合わせの手間を省略することができる。
【0056】
試料ステージ5の上には試料が搭載された検出素子500を搭載できる。前述の通り検出素子500では荷電粒子線を光に変換する。この光を検出して電気信号に変換及び信号増幅するための光検出器503を試料ステージ5上またはステージ近傍に備える。前述の通り、光信号を効率よく検出できる配置であることが望ましい。例えば検出素子500を備えた試料台とこの光検出器は近接していてもよいし、接触していてもしていなくてもよい。またはこれらの間に光伝達部hを配置してもよい。
図7−1では、光検出器は試料ステージに具備されているが、光検出器503は筐体7のどこかに固定されていて試料台500からの発光を検出してもよい。また、光検出器503は筐体7外部に設置されており光を導いて筐体7外部で光検出してもよい。光検出器503が筺体7外部にある場合は、ガラスや光ファイバなどの光を伝達するための光伝達路が試料台500近傍にあり、その光伝達路の中を検出素子500で変換された光信号が伝達することにより光検出器にて信号を検出することが可能となる。光検出器503は例えば半導体検出素子やフォトマルチプライヤーなどである。いずれにしても、本実施例の光検出器は前述の試料台の検出素子で発光した光を検出するものである。
【0057】
図7−1ではステージ5の上部に光検出器503が具備されている様子を図示している。ステージ5に具備された光検出器503からは配線509経由でプリアンプ基板505が接続される。プリアンプ基板505は配線507などを経由し下位制御部37に接続される。図では、プリアンプ基板505は筐体7内部にあるが筐体7外部にあってもよい(例えば図中のプリアンプ54部)。後述する通り、試料台500を傾斜する際に、試料台500が試料ステージ5から落ちることがないようにする必要があるため、試料ステージ5上に試料台500を配置する位置を決めることが可能な固定部材506が具備されている。この他に試料台500と光検出素子503との間に図示しない固定部材があってもよい。これにより試料台500の固定ができ位置ずれ防止をすることができる。
【0058】
本実施例の荷電粒子線装置には検出器3と検出素子500の両方があるので、検出器3で試料から発生または反射してきた二次的荷電粒子を取得し、同時に検出素子500にて試料を透過または散乱されてきた透過荷電粒子を取得することができる。したがって、下位制御部37等を用いて、二次的荷電粒子線画像と透過荷電粒子画像のモニタ35への表示を切り替えることが可能である。また、前記二種類の画像を同時に表示させることも可能である。
【0059】
本実施例の荷電粒子顕微鏡の制御系として、装置使用者が使用するキーボードやマウスなどのユーザインターフェース34や顕微鏡画像が表示されるモニタ35が接続され通信を行う上位制御部36、上位制御部36から送信される命令に従って真空排気系や荷電粒子光学系などの制御を行う下位制御部37、駆動部51や駆動部52との信号送受信を行うステージ制御部38を備える。それぞれは各々通信線により接続される。ステージ制御部38と下位制御部37は一つのユニット内に配置されていてもよいし、上位制御部36内部に配置されていてもよい。
【0060】
下位制御部37は真空ポンプ4、荷電粒子源8、光学レンズ1などを制御するための制御信号を送受信する手段を持つ。より具体的には、上述した3次元内部構造観察を実施するために、下位制御部37は、ベクトルパラメータを制御する手段を有する。すなわち下位制御部37は荷電粒子線源8からの荷電粒子線が試料に到達するまでのエネルギーEや照射角度θ(または試料回転角度φ)を変更制御することができる。図中、下位制御部37と荷電粒子光学鏡筒2との間には照射エネルギー制御部59を図示している。照射エネルギー制御部59は荷電粒子線の試料への照射エネルギーEを決定することが可能である高圧電源などを具備している。照射エネルギー制御部59の機能を持つ高圧電源などは下位制御部37内部にあってもよい。
【0061】
また、荷電粒子線の試料への照射エネルギーEの変更は、荷電粒子線源からの加速電圧を変更するか、荷電粒子線が試料に照射する前に荷電粒子線を加速または減速させることが可能な光学レンズへの電圧を変更することによっても達成できる。または試料ステージに電圧を印加できる電源を備えてもよい。
【0062】
照射角度θの変更は荷電粒子線を光軸200に対して傾斜して照射することが可能な光学レンズを制御することによって実施可能である。もしくは荷電粒子光学鏡筒2自体を傾斜させる機構を有してもよい。また、下位制御部37には検出器3や光検出器503からのアナログ信号をデジタル画像信号に変換して上位制御部36へ送信するA/D変換器を含む。デジタル画像信号データは上位制御部36に送られる。下位制御部37ではアナログ回路やデジタル回路などが混在していてもよく、また上位制御部36と下位制御部37が一つに統一されていてもよい。
【0063】
ステージ制御部38は上位制御部36よりステージ位置調整の情報が伝達され、それに応じて決められる駆動情報を駆動機構51や52に送信する。また、前述のベクトルパラメータである試料角度θや試料回転角度φも本系統から制御される。
【0064】
また、荷電粒子線のビーム電流量Iを変えることが可能な光学レンズを制御するための電流制御部も下位制御部37中に備える。あるいは、照射エネルギー制御部59としての高圧電源で電子源8から放出されるビーム電流量Iを制御してもよい。
【0065】
次に、上位制御部36内部について説明する。上位制御部内部には、データ送受信部40、データメモリ部41、外部インターフェース42、演算部43が含まれる。データ送受信部40は検出画像などのデータを受信するとともに、照射エネルギーEや照射角度θや試料回転角度φを変更するためにデータを下位制御部37やステージ制御38に送信する。データメモリ部41は下位制御部37から送られたデジタル検出信号をデータ保管する。外部インターフェース42は装置使用者が使用するキーボードやマウスなどのユーザインターフェース34や顕微鏡画像が表示されるモニタ35との信号送受信を行う。演算部43は取得データやユーザからの操作情報を演算処理する。検出された画像情報はメモリ部41から読みだしてモニタ35上に表示させてもよいし、メモリにデータを格納することで記憶されてもよい。また、リアルタイムにモニタ35に表示させてもよい。上位制御部とは例えばパーソナルコンピュータやワークステーションなどの計算機でもよいし、CPUやメモリなどが搭載された制御基板であってもよい。これら上位制御部36では、データ送受信部40経由で画像データをメモリ部41に格納した後、演算部43にて画像データの演算処理を実施して、その計算結果からデータ送受信部40経由でベクトルパラメータである照射エネルギーEや照射角度θや試料回転角度φを制御することなどが実施可能である。
【0066】
なお、
図7−1に示す制御系の構成は一例に過ぎない。制御ユニットやバルブ、真空ポンプまたは通信用の配線などの変形例は、本実施例で意図する機能を満たす限り、本実施例の荷電粒子線顕微鏡の範疇に属する。すなわち各制御ブロックは、同一の装置に組み込まれても良いし、他の装置に分けられて配置されても良い。また、この方法によって得られた測定結果(画像情報)を用いて、他の計算機に情報を取り込み、測定結果の解析や表示を行ってもよい。
【0067】
荷電粒子線顕微鏡には、このほかにも各部分の動作を制御する制御部や、検出器から出力される信号に基づいて画像を生成する画像生成部が含まれている(図示省略)。制御部や画像生成部は、専用の回路基板によってハードウェアとして構成されていてもよいし、荷電粒子線顕微鏡に接続されたコンピュータで実行されるソフトウェアによって構成されてもよい。ハードウェアにより構成する場合には、処理を実行する複数の演算器を配線基板上、または半導体チップまたはパッケージ内に集積することにより実現できる。ソフトウェアにより構成する場合には、コンピュータに高速な汎用CPUを搭載して、所望の演算処理を実行するプログラムを実行することで実現できる。このプログラムが記録された記録媒体により、既存の装置をアップグレードすることも可能である。また、これらの装置や回路、コンピュータ間は図示した通信線以外にも有線又は無線のネットワークで接続され、適宜データが送受信される。
【0068】
図7−2は、試料6、検出素子500及び光検出器503近傍の各部材の配置関係を示す図である。
図7−2(a)はこれらの部材の上面図であるが、分かりやすさのため試料ステージ5は省略している。
図7−2(b)は
図7−2(a)の側面図である。
図7−2を用いて、ベクトルパラメータが試料回転角度φの場合の荷電粒子光学鏡筒1、試料ステージ5の駆動機構、光検出器503、試料6などの配置の詳細を記載する。
【0069】
図7−2では光検出器503が試料6の表面よりも荷電粒子光学鏡筒1側のどこかに配置されているものとする。本実施例において、
図6−2で説明したように回転機構を組み合わせて用いる場合には、試料ステージ5には試料を傾けるための機構(図中T部:傾斜ステージ)と試料を回転させる機構(図中R部:回転ステージ)を有していることが望ましい。または、後述の通り、ステージ5上にステージ5とは独立して可動な傾斜機構または回転機構を備えていてもよい。なお、試料ステージ5には試料を縦や横方向に動かす機構(図中XY部:XYステージ)や試料と荷電粒子光学鏡筒1との距離を変えることが可能な高さ調整機構を有していてもよい。
【0070】
ここで、試料ステージ5の試料6を傾けるための機構(図中T部)によって角度θを駆動する方向は、光検出器503の方向に向ける必要がある。例えば、
図7−2で示したように光検出器503が荷電粒子光学鏡筒1の図中左側に配置されていて傾斜軸が紙面垂直方向である場合、試料6が図中左側を向くように角度θが調整される必要がある。光検出器503の検出面に垂直な軸を軸aとし、試料を回転させる回転機構の回転軸を軸bとすると、理想的には軸aと軸bが等しい(
図7−2(a)に示すように上面からみた場合に軸aと軸bが一致する)ことが望ましい。ただし、検出器の方向に傾斜できない場合は、光検出器503’や光検出器503’’のように角度ηの範囲内にあってもよい。この角度ηの範囲は最大で180度である。また、本実施例において3次元の内部構造を観察するためには、図で示したように試料を傾けるための機構(図中T部)の上に、試料を回転させる機構(図中R部)があることが望ましい。このようにすると、回転軸bによって試料6を回転させた場合に、光軸200と試料台500の面との位置関係が常に一定となるためである。もし、試料を回転させる機構(図中R部)の上に、試料を傾けるための機構(図中T部)がある場合は、回転軸bによって試料を回転すると、試料を傾けるための機構(図中T部)も回転してしまうと言った問題点がある。そのため、ベクトルパラメータのうち試料回転角度φを変化させて画像取得する場合には、試料ステージ5は試料を傾けるための機構(図中T部)の上に、試料を回転させる機構(図中R部)が配置された構成が望ましい。
【0071】
次に、
図7−3を用いて、ベクトルパラメータのうち照射角度θを変化させて画像取得する場合の荷電粒子光学鏡筒1、試料ステージ5の駆動機構、光検出器503、試料6などとの構成の詳細を記載する。
図7−3は、試料6、検出素子500及び光検出器503近傍の各部材の配置関係を示す図である。
図7−3(a)はこれらの部材の上面図であるが、分かりやすさのため試料ステージ5は省略している。
図7−3(b)(c)は
図7−3(a)の側面図であり、
図7−3(a)における下側から見た配置を示している。
図7−3(b)は
図7−3(a)において試料6が図中左側を向くように傾斜軸cを傾斜させた例であり、
図7−3(c)は
図7−3(a)において試料6が図中右側を向くように傾斜軸cを傾斜させた例である。
【0072】
図7−3では光検出器503が試料6の表面よりも荷電粒子光学鏡筒1側のどこかに配置されているものとする。この例では、試料ステージ5は試料を傾けるための機構(図中T部)を有し、傾斜角度θを可変にできる構造である必要がある。なお、試料ステージ5には試料を縦や横方向に動かす機構(図中XY部)や試料と荷電粒子光学鏡筒1との距離を変えることが可能な高さ調整機構を有していてもよい。試料ステージの試料を傾けるための機構(図中T部)を駆動して角度θを変えても、試料台500から放出される光を安定的に取得するためには、光検出器503方向へ試料台表面の発光領域を射影したときの面積が角度θの変化に対して大きく変化しないことが望ましい。理想的には、光検出器503の検出面に垂直な軸を軸aとし、試料を角度θに傾斜させる傾斜機構の傾斜軸を軸cとすると、軸aと軸cが等しい(
図7−3(a)に示すように上面からみた場合に軸aと軸cが一致する)ことが望ましい。軸aと軸cが等しい場合には光検出器503からは角度θに依存せず常に試料台500の側面だけが見えることになるため、全発光のうち検出できる光量の割合は角度θによらない。
【0073】
一方で、もし、光検出器503’’’の位置に検出器があると、試料を傾斜し
図7−3(c)の位置になった場合は光が検出されない問題が生じうる。つまり、試料傾斜軸cと光検出器503の軸aとのなす角の大きさが所定の範囲内にないと、傾斜角度θの大きさによって試料台500からの発光のうち検出可能な光量が異なってしまうため、取得される画像は傾斜角度θの大きさに依存した明るさになってしまい正確な三次元情報を取得できない可能性がある。
【0074】
そのため、
図7−3(a)に示すように上面からみた場合に試料傾斜軸cと光検出器503の軸aとがなす角度は±30°以内であるように光検出器503が配置されることが望ましい。つまり
図7−3(a)に示される通り、光検出器503が配置可能な限界位置における光検出器の軸a’および軸a’’がなす角ηは試料傾斜軸cを中心に最大でも60°であることが望ましい。軸cと軸aのなす角の角度がこの範囲内になるように光検出器を配置することで、傾斜角度に依存せず安定した明るさの画像を取得することができ、これらの画像から正確な三次元情報を取得することができる。なお、図示していないが、傾斜角度に依存せず安定した明るさの画像を取得する方法として、光伝達部hにおける説明で述べたような部材(光ファイバ等)を試料近傍に配置し、試料台500からの発光を検出器まで導く構成もある。この場合、装置構成が増加し必要な検出強度(光量)が変化することになるが、傾斜角度に依存せず安定した明るさの画像を取得することができる。
【0075】
<操作画面>
図8に操作画面の一例を示す。三次元の内部構造を観察するために設定するベクトルパラメータ設定部として、モニタ上には照射エネルギーE変更部45、照射角度変更部46、試料角度変更部47、試料回転角度変更部60などが表示される。照射エネルギーE変更部45に入力された数値に従い荷電粒子線の照射エネルギーが設定される。照射角度変更部46は荷電粒子線と光軸との角度を変更するための入力窓であって入力された数値に従い荷電粒子線の光軸に対する照射角度が設定される。試料角度変更部47は試料6を傾斜する角度を入力する入力窓であり、入力された数値に従い試料ステージが傾斜することにより試料が傾斜される。試料回転角度変更部60は試料の回転角度φを変更するため入力窓であって入力された数値に従い試料が回転する。
【0076】
前述のようにベクトルパラメータ照射エネルギーEは観察可能な構造物の密度に対応し、照射角度または試料角度または試料回転角度は観察する方向に対応しているので、操作画面上の入力窓はそれぞれ「密度」または「観察方向」等の表示項目であってもよい。照射角度変更部46と試料角度変更部47はどちらか一方だけでもかまわない。照射角度θだけ変更するのであれば試料回転角度変更部60はなくてもよい。さらに、荷電粒子線の焦点を変更する焦点調整部48、画像の明るさ調整部49、画像コントラスト調整部50、照射開始ボタン51、照射停止ボタン52などからなる。
【0077】
さらに、顕微鏡画像をリアルタイムで表示することが可能な画面55、メモリ部41に保管されている画像を表示することが可能な画面56などを備える。なお、メモリ部41に保管されている画像を表示させることが可能な画面56は別ウィンドウなどで表示させてもよいし、画面56は2つ以上ありそれぞれの画面で異なるベクトルパラメータで取得した画像を表示してもよい。また、画像を保存するための画像保存ボタン57、画像を読みだすことが可能な画像読み出しボタン58も表示される。
【0078】
ベクトルパラメータである照射エネルギーEや照射角度θや試料回転角度φの設定が異なる状態で表示された複数の画像を取得し、この複数のベクトルパラメータに対応する透過荷電粒子画像を並列して表示することで、装置使用者は試料の三次元内部構造を識別することが可能となる。また、並列表示の代わりにまたは並列表示に加えて、これらの画像を任意の時間ごとに切替えて表示してもよい。この際ベクトルパラメータの大小の順に画像を表示していくことで、ユーザはより三次元構造を把握しやすくなる。なお、
図8に示す表示の構成は一例に過ぎず、表示位置や表示形態などの変形例は、本実施例で意図する機能を満たす限り、本実施例の荷電粒子線顕微鏡の範疇に属する。
【0079】
また、一連の計測ステップに用いる値をテーブルデータとして記憶部(図示せず)に格納することで、操作者が一連の計測ステップに用いる全てのベクトルパラメータのうち一部を入力する手間を省略することができる。また、テーブルデータは計測する試料の特性(試料の種類や膜厚)や計測したい深度や精度などに関連付けられたデータとして格納されておいても良い。この場合、上述した試料の特性を操作者が入力するか、装置が試料を計測し自動的に判断することで、各パラメータを入力する手間を省略できるメリットがある。
【0080】
<手動観察手順>
次に、
図9を用いて、ユーザが三次元内部構造を観察する手順について記載する。
【0081】
はじめに、ユーザは試料を搭載するための検出素子500(発光する試料台)を準備する。次に、必要に応じて検出素子500に所定の部材を配置する。ここで、所定の部材とは、前述の通り、試料と試料台の密着性を高めるための物質や導電性物質や光を反射するための物質や、何らかの所定のガス材などである。もし、所定の部材を配置する必要がなければ本ステップは不要である。次に、ユーザは検出素子500上に試料を搭載する。次に、荷電粒子顕微鏡または光学顕微鏡に搭載し観察するステップに移動する。ステップAは光学顕微鏡にて観察するステップで、ステップBは荷電粒子顕微鏡にて観察するステップである。
【0082】
光学顕微鏡による観察ステップAでは、ユーザは、まず、試料が搭載された検出素子500を光学顕微鏡装置内に配置する。前述のとおり、光学顕微鏡装置に配置する際に、スライドガラスの形状である必要があれば、検出素子500をスライドガラス上に載せることも可能である。次に、ユーザは光学顕微鏡にて観察する。観察が終了したら、荷電粒子顕微鏡装置による観察ステップBに移る。なお、後述するように光学顕微鏡がデジタルデータを取得可能であれば、上位制御部36にデータを移して、モニタ35上に光学顕微鏡画像を表示させてもよい。
【0083】
荷電粒子顕微鏡にて観察するステップBでは、ユーザは、はじめに、前述のように試料が搭載された検出素子500を荷電粒子顕微鏡装置内に配置する。次にステップ61では、モニタ35上の操作画面44上にて所望のベクトルパラメータである照射エネルギーEや照射角度θ(試料回転角度φ)、あるいはビーム電流量Iを設定する。次のステップ62では、荷電粒子顕微鏡により荷電粒子線を試料に照射して試料台500からの発光を検出する。次のステップ63では、ステップ62で取得した画像をモニタ35上の画面55に表示する。次のステップ64で、前述の操作画面でのユーザの入力に基づいて光学レンズの励磁強度を調整することで、所望の位置で焦点を合わせる。次のステップ65で、前述の操作画面でのユーザの入力に基づいて、プリアンプ基板505の中の検出信号の増幅率を変化させるなどして、所望の位置で画像の明るさやコントラストを調整する。所望の画像が取得できたら、次のステップ66で、画像保存することにより、メモリ部41に画像データを格納する。次のステップ67では、ユーザはベクトルパラメータを変更するかどうかの決定を行う。ベクトルパラメータを変更する必要があればステップ61に戻る。変更する必要がなければ、荷電粒子顕微鏡装置による観察が終了し、荷電粒子顕微鏡装置外に試料を取り出す。必要に応じてAの光学顕微鏡による観察ステップに戻る。ステップAとBは入れ替えてもよい。また荷電粒子顕微鏡装置と光学顕微鏡装置が一体化された装置であれば、プロセスAとBを交互に繰り返してもよいし、同時に観察してもよい。このステップを実施することによって、光学顕微鏡にて観察した試料における三次元内部構造を荷電粒子線顕微鏡にて観察することが可能となる。
【0084】
<自動観察手順>
次に、
図9のステップBにおける三次元内部構造観察のための一連動作及び画像保存を実施するための手順を自動的に実施するための構成について説明する。具体的には、ステップ61からステップ67までを自動化すれば実施が可能である。
【0085】
例として、
図10で示した操作画面70を用いて、試料角度θを変更して三次元内部構造観察を実施する方法について以下に説明する。操作画面70では初期試料角度θ設定部71と、最終試料角度θ設定部72とその間の刻み幅を決定する変更角度Δθ設定部73を具備する。初期試料角度θ設定部71で設定された角度から最終試料角度θ設定部72で設定された角度になるまで、変更角度Δθ設定部73で設定された角度Δθごとに、角度を変更する。操作画面70は、垂直設定バー74と水平設定バー75と、顕微鏡画像が表示される画面76を具備する。垂直設定バー74と水平設定バー75は、角度θを変更した際に、画像の中心に常に観察される位置を決定する物体を指定するためのものである。垂直設定バー74と水平設定バー75の交差する点が自動画像取得基準点77である。ユーザは、垂直設定バー74と水平設定バー75が交差する点である自動画像取得基準点77が観察したい位置に一致するように、垂直設定バー74と水平設定バー75の位置を調整する。
【0086】
なお、自動画像取得基準点77の設定方法は、ユーザが試料の特定の位置を選択できる手段であればよく、上述した方法に限られない。また、自動画像取得基準点77は必ずしも画面の中心でなくてもよい。図では、自動画像取得基準点77が内部物質901に一致するように設定されている様子を示している。図の状態に設定されると、試料の傾斜θを変更しても内部物質901が常に画像中心にすることができる。さらに、傾斜角度θを変更すると焦点や画像明るさも変動するが、自動画像取得基準点77で定められた部位を基準に位置、焦点、明るさが自動調整される。前記で示した照射角度θを変更するプロセス及び制御部は試料回転角度φであってもよい。
【0087】
例えば、画面の中心の内部物質901の位置は、試料6が傾斜すると図中における左右方向からずれた位置に移動する。そのため、ベクトルパラメータである傾斜角度θまたは試料回転角度φを変更する前後で、基準点として設定された部位が画面の中心からずれないように、ステージ制御部38経由で駆動機構51に信号が伝わり、自動で位置を補正するようにしても良い。なお、自動画像取得基準点は必ずしも画像中心に固定されなくてもよい。透過荷電粒子画像における自動画像取得基準点とされた試料位置が変わらないようにステージの位置を補正することが重要である。これら自動調整は
図7−1で示した上位制御部36内部のデータ送受信部40、データメモリ部41、演算部43にて実施する。特に自動位置把握は演算部43が自動画像取得基準点77の構造物が傾斜角度θまたは試料回転角度φの変更によってどこに移動したかを特定する画像計算を行うことで実施する。その後、演算部43によって、自動画像取得基準点77の位置に焦点が合うように自動で焦点調整が行われ、自動画像取得基準点77の位置の明るさが試料傾斜前の明るさと一致するように明るさ調整が行われる。これによって、自動画像取得基準点とされた試料位置においては、傾斜角度変更前後で、焦点が常に合った状態となりかつ明るさを一定とすることができる。
【0088】
なお、自動画像取得基準点77は一点しか図示していないが、複数あってもよいし、面で指示することによって、自動調整精度を高めてもよい。これらの設定が済んだら、自動取得開始ボタン78を押すことによって、
図9で示したステップ61からステップ67までを自動的に実施することが可能である。
【0089】
この間に取得された画像はデータメモリ部41に保管される。データメモリ部41に保管された連続的に傾斜された画像をモニタ上に順次読みだしたり並べたりすることによって、試料内部の三次元内部構造を装置使用者が識別することが可能となる。以上では、試料傾斜についてだけ述べたが、照射エネルギーEや荷電粒子線の光軸との照射角度θを変更する場合も同様である。その場合は上述の説明において、「試料角度θ」を「照射エネルギーE」、「荷電粒子線の光軸との照射角度θ」、または「ビーム電流量I」に置き換えて読めばよい。または、試料傾斜角度θではなく試料回転角度φを変更して画像を自動的に取得してもよい。さらに、照射エネルギーEと試料傾斜θのベクトルパラメータを同時に変更して画像を自動的に取得してもよい。
【0090】
上で述べたように手動または自動で取得された画像をコンピュータ断層撮影法(CT)によりトモグラフィ化してもよい。CT化された画像であればモニタ上で自由に画像を回転させて、三次元内部構造を表示させることができるため操作者は試料の内部状態をよりよく観察することができる。さらに、操作者が所望する断面だけ取り出して表示させることができる。CT化された画像を構成することで、試料の切片などを作製することなく断面画像または切片画像を取得することが可能となる。また、迅速に細胞などの試料をCT化したい場合は試料を自動で動かしてもよい。この場合は、照射角度θまたは試料回転角度φと荷電粒子線エネルギーEと荷電粒子線のビーム電流量Iをセットにしてリアルタイムに可変すれば、短時間で多くの情報を得ることができる。
【0091】
また、図示しないが、上記保存または表示している2枚の画像を数度だけ傾斜させて立体観察するステレオ観察をしてもよい。ステレオ観察時には、角度を変えて撮像した2枚の画像を並べて立体視してもよいし、青や赤などの2種類の色を変えた画像を重ね合わせた画像を用いてもよいし、3次元観察が可能なモニタなどの表示部に3次元表示させてもよい。また、上記ではコンピュータ断層撮影法(CT)によりトモグラフィ化した例がユーザにとって利便性が高いと思われるが、3次元構築する像の形成方法として他の方法を用いることも可能である。
【0092】
<免疫染色>
また、金コロイド等の標識を付加した免疫染色を試料に実施してもよい。標識をつけることによって、試料内部の形態構造だけでなく検出したいたんぱく質等が試料内部のどこに局在しているかなどを観察することが可能となる。
図11では試料に標識をつけて観察する場合を考える。この場合の試料は例えば培養細胞や生体から摘出された細胞である。金標識909が接合した抗体を付加した材料を細胞内に注入すると、細胞内部のたんぱく質等に特異的に反応して結合する(抗原抗体反応)。荷電粒子線900は金標識909によって大きく散乱をうけるので、投影画像(または検出画像)910は図のようになり、金標識909が集まって局在化した場所がわかる。この結果、検出したいたんぱく質等の場所が把握できることになる。
【0093】
また、
図11(a)から
図11(b)のようにベクトルパラメータを変更(図では試料角度θを変更)して三次元内部構造観察やCT観察などを実施することによって、細胞内部のどこに検出したいたんぱく質等が集積しているかなどを把握することが可能となる。さらに、金標識909は数nmから数μmなど様々な大きさがあるが、集まる量または密度によって荷電粒子線900の散乱量が異なる。つまり、例えば照射エネルギーEを調整することで、投影画像910の中で色が薄い金標識部911(あるいは図示しない色が濃い金標識部)などを検出することが可能となる。この投影画像910は特異的に集積しているたんぱく質の位置や密度などが表されたものであるので、ユーザはこの画像を見ることで細胞内部のたんぱく質の位置や密度を把握することが可能となる。前述の金標識部の大きさや色の濃さなどは、装置使用者が観察するだけでもよいし、上位制御部36の中で大きさ計測や色の濃さ判定を実施してもよい。
【0094】
また、図示しないが荷電粒子線を照射したことによって発生するX線等の放射線を取得してもよい。これによって、試料内部の元素や化学状態の分析を行うことができる。
【0095】
<顕微鏡情報交換の説明>
前述の通り、試料台上に観察したい試料を搭載し、同一試料台上の試料の光学顕微鏡観察と荷電粒子顕微鏡観察を実施できる。このとき、光学顕微鏡及び荷電粒子顕微鏡で同一部位を正確に観察できることが望ましい。そこで、光学顕微鏡と荷電粒子顕微鏡で同一部位を観察できる装置システムに関して
図12を用いて説明する。光学顕微鏡602にはCCDカメラ603が具備される。ユーザはまず光学顕微鏡にて試料の画像を取得する。CCDカメラ603と上位制御部36は配線604で接続されている。これにより、光学顕微鏡のデジタル画像情報を図中点線矢印で示したように上位制御部36に送ることが可能となる。また荷電粒子顕微鏡で取得される画像情報も同様に上位制御部36に送られるので、同一部位の顕微鏡像の比較が同一モニタ35上で実施することが可能となる。ユーザはモニタ上で光学顕微鏡によって取得した画像を見ながら、荷電粒子顕微鏡で画像取得する試料位置を探す。これによって光学顕微鏡での観察結果に基づいて所望の試料位置を一次荷電粒子線の照射位置に配置することができる。また、画像マッチングや類似度計算などの演算処理によって光学顕微鏡画像と類似した形状の試料位置を探して、自動的に荷電粒子線の照射位置として設定してもよい。なお、図示しないが、光学顕微鏡と上位制御部との間は、別のコンピュータが介在してもよいし、インターネットなどの通信ラインを経由して画像情報を送信してもよい。
【0096】
また、
図13のように荷電粒子顕微鏡装置601の中に、簡易的な光学顕微鏡202を配置してもよい。“簡易的”とは例えば、大きさが小さい、価格が安いなどのメリットを有しつつ、必要な光学的な顕微鏡観察が実行できるという意味である。光学顕微鏡202は例えば光学レンズなどの簡単な結像系とCCDカメラなどの撮像素子を有するものである。光学顕微鏡202からの画像情報は同様に上位制御部36に配線を経由して接続される。また、荷電粒子顕微鏡の光軸200と光学顕微鏡202の光軸201との距離は常に一定であるので、光学顕微鏡にて観察した後に、場所移動をする距離も常に一定である。そのため、この距離をメモリ等に予め記憶しておき、ステージ移動指示が入力されたときにこの距離値をステージ移動量として駆動部51,52を制御する構成とすれば、ユーザは非常に簡単な操作で荷電粒子顕微鏡の光軸200と光学顕微鏡202の光軸201の間の移動指示をすることができる。したがって、簡易的な光学顕微鏡202と荷電粒子顕微鏡601とで同一試料部位を観察することは、ユーザの操作が非常に容易となる一方、装置の大きさやコストを抑えることができ効率的である。
【0097】
また他の効果として、光学顕微鏡602と光学顕微鏡202ではいずれも光を用いた顕微鏡なので、ほぼ同じ見え方の画像が得られるため、光学顕微鏡602で観察された試料と同じ部位を荷電粒子顕微鏡601にて観察することが非常に容易となる。具体的には、以下のような手順で観察を行う。ユーザはまず荷電粒子顕微鏡装置の外に設置された光学顕微鏡602で試料の所望の位置を観察した後、試料が搭載された試料台を荷電粒子顕微鏡装置内部に導入する。次に光学顕微鏡202を用いて光学顕微鏡602で観察した位置を特定する。この作業はユーザが手動で行ってもよいし、光学顕微鏡602で取得した画像に基づきマッチングや類似度計算などの演算処理をすることで自動的に行ってもよい。次に前述の方法で光学顕微鏡202から荷電粒子顕微鏡601へ試料を移動し、光学顕微鏡202で特定した試料位置を一次荷電粒子線の照射位置に配置する。次に荷電粒子顕微鏡により透過荷電粒子画像を取得する。このように光学顕微鏡202を、荷電粒子線顕微鏡装置外部の光学顕微鏡と荷電粒子顕微鏡との観察位置合わせのために用いることで、荷電粒子顕微鏡装置外部の光学顕微鏡で観察した試料位置を荷電粒子顕微鏡で観察するのが非常に簡単となる。
【0098】
なお、
図14のように光学顕微鏡202の場所は、試料台500の直下に配置できるようにして、荷電粒子顕微鏡の光軸200と光学顕微鏡202の光軸201とを同軸にしてもよい。荷電粒子顕微鏡の光軸200と光学顕微鏡202の光軸201は同軸であり同一部位を観察することが可能であり、また、光学顕微鏡602と光学顕微鏡202ではいずれも光を用いた顕微鏡なので同一試料部位を観察するのが非常に簡単となる。この結果として、
図13の構成よりもさらに容易に、光学顕微鏡602で観察された試料と同じ部位を荷電粒子顕微鏡601にて観察することができる。なお、光学顕微鏡202にて観察する場合に、光検出器503は取り外してもよいし、光検出器503に移動機構を持たせて位置を変更できるようにしてもよい。また、検出素子500からの光を光学顕微鏡202経由で取得して透過荷電粒子顕微鏡画像を形成してもかまわない。
【0099】
また、
図14の場合にも、
図13で説明したのと同様、光学顕微鏡202を、荷電粒子線顕微鏡装置外部の光学顕微鏡と荷電粒子顕微鏡との観察位置合わせのために用いることができる。この場合には、光学顕微鏡202から荷電粒子顕微鏡601へ試料を移動するステップは不要となるというメリットがある。
【0100】
光学顕微鏡で観察した場所を荷電粒子線顕微鏡内ですぐに見つけることが難しい場合がある。そこで、次に光学顕微鏡と荷電粒子顕微鏡間での位置情報共通化する手段に関して以下説明する。顕微鏡間で位置情報を共通化する手段としては、試料台上の印を使って観察したい場所を簡単に見つける方法が考えられる。
図15に、試料6が搭載された検出素子500を上面からみた図を示す。試料台である検出素子500は、検出素子500に対する試料の位置関係を把握することが可能なマーキング913を備える。マーキング913は試料台の所定の位置に形成されたものであって、例えば定規のように刻み幅が既知な印である。水平方向、垂直方向ともにマーキングがついているので、どこの場所を観察していたか把握することが可能となる。また、検出素子500上にマーキングすることが難しい場合は、マーキングを備えた土台501上に検出素子500を配置すれば試料台上のどこに試料が配置されているかを把握することが可能となる。また、試料台上のどこかに印となる点を複数点記録して、それを基準点にして観察位置を把握してもよい。例えば、試料自体を基準点としてもよい。マーキングに基づいて試料の位置を記憶する作業は装置使用者が行ってもよいし、上位制御部36等上で実施することによって試料台上のマップデータを作成し、メモリに記憶されたマップデータをもとに位置探しをしてもよい。
【0101】
以上述べたように、本実施例での荷電粒子線装置、試料観察方法、試料台、観察システムにより光学顕微鏡にて観察された試料の三次元内部構造を荷電粒子顕微鏡にて実施することが可能となる。
【実施例2】
【0102】
<三次元観察の原理説明>
図6−2で説明した内容に加え、試料904をX軸とY軸にて傾斜させることで、計測点を増やした三次元観察を行う構成について説明する。さらに、X軸もしくはY軸の少なくとも一方とZ軸の回転によって、計測点を増やした三次元観察を行う構成について説明する。これにより、高精度な三次元観察を行う事が出来る。
【0103】
また独立した他の効果として、試料における任意の箇所を複数の角度から観察可能にすることで、一方向の観察からでは計測が困難な箇所についても計測を行う事が出来る。
【0104】
また独立した他の効果として、計測点を増加させるため相対角度を大傾斜にして試料を観察することなく、相対的に少ない傾斜角度にて計測点を増やした三次元観察を行うことができる。これにより、試料の大傾斜が不要になり、大傾斜させるための傾斜装置の大規模化や試料室における空間的配置の制約を回避することができる。
【0105】
図16を用いて、荷電粒子線を用いて試料の三次元観察を実施するための原理について説明する。すなわち
図16(a)にて、荷電粒子線905が照射される際の試料904との相互関係を示す。荷電粒子線905が試料904に照射され、試料上を走査された結果、検出素子500によって光信号に変換された信号を顕微鏡画像としてモニタ上に表示させることを考える。
【0106】
図16(a)に図示したように、試料904の内部には内部物質921,922,923が存在することとする。試料904は細胞等であると考えると、内部物質921,922,923は細胞核等の細胞内小器官やボイドなどに対応する。ここで検出素子500上のY軸のまわりに試料を回転させる。試料を回転させることで荷電粒子線の入射方向と試料との相対角度を変え、相対角度を変えた複数の画像を取得する。この複数の画像に基づいて、試料の外形および内部構造の三次元的位置配置を把握することが可能となる。
【0107】
図16(a)に、Y軸のまわりに試料を回転させる前の荷電粒子線905を試料904に照射する様子を示す。この
図16(a)では、回転軸であるY軸と同一方向から試料を見た様子を図示する。荷電粒子線905の光軸は矢印で示した方向とする。また、X軸は回転軸であるY軸に対して垂直に交わる検出素子500上の線を示す。
【0108】
この状態で得られる顕微鏡画像を
図16(a)下段925に示す。この図では、内部物質921と内部物質922が光軸からみて一部重なっており、傾斜を行わない状態では内部物質922の一部を観察することが困難になっている。
【0109】
その理由として、内部物質921と内部物質922の密度が類似している場合、それぞれの内部物質によって散乱される荷電粒子数は類似することが挙げられる。また、それぞれの内部物質を透過して検出素子500に到達する荷電粒子数も類似する。その結果、取得される顕微鏡画像では内部物質921と内部物質922の明暗の差がほとんどなくなるため、これらの上下関係を識別することができない。さらに、内部物質921,922と内部物質923との上下関係も識別することができない。
【0110】
次に、試料904の外形や内部物質921,922,923の形態や上下関係を識別するために、荷電粒子線905を試料904に斜めから照射することを考える。
図16(c)には、X軸のまわりに回転して試料台500を角度Φだけ傾斜する様子を示す。このときに得られる顕微鏡画像が
図16(c)の下図(927)である。
【0111】
図16(a)の顕微鏡画像の下図(925)と比較すると、傾斜したことにより内部物質922が内部物質921に隠れることなく観察される。また、内部物質921,922および923との間の相対距離が変化する。さらに、試料904の顕微鏡画像上での大きさも変化する。つまり、傾斜前の画像と傾斜後の画像を比較して、画像上での試料の変化量を見ることによって、試料および内部物質の三次元構造を観察することが可能となる。さらに、X軸またはY軸における回転を連続的に行って画像を取得することによって、試料の三次元構造をより詳細に把握することが可能となる。このようにして得られた複数の画像をモニタ上に順次表示し、もしくは互いを並べることによって、試料の三次元構造をより正確に識別することが可能となる。
【0112】
たとえば、試料を回転させていない状態を0°として、X軸を−60°から+60°まで10°ごとに回転して各回転角度で画像を取得することが考えられる。ここで指定する角度情報は、特にこれらの角度に限定されるわけではない。また、試料の特性や観察したい情報によって、システムに格納されていても良い。
【0113】
このようにして観察した際の、試料と荷電粒子線との相対角度をステレオ投影した図を
図17(a)の点の集合240で図示する。ここではウルフネットで説明するが、他のステレオ投影した図でも説明可能である。この図では、円周250上を試料表面に設定した際の試料に照射される荷電粒子線の相対角度を、連続する点の集合240で示している。三次元構造をより詳細に把握するためには、なるべく小さい角度ごとに画像を取得することが望ましい。
【0114】
また、なるべく高角度まで傾斜させて画像を取得することが望ましいが、傾斜角度が大きくなるにつれて荷電粒子線が試料内を通過する距離が長くなるため、試料や内部物質等によって散乱される荷電粒子の数は増加する。その結果、検出素子まで到達する荷電粒子の数が少なくなるため、試料を高角度に傾斜して観察する場合は明瞭な画像が得られないこともある。そのため、
図16の試料904のように観察対象が水平面上に広がるような試料の場合は、通常は50°から70°程度を傾斜角度の上限として観察を行うと良い。なお、本角度はあくまで一例を示しているに過ぎず、観察する試料によって好ましい角度が異なることも本発明の思想の範囲に含まれる。
【0115】
さらに、取得された画像をコンピュータ断層撮影法(CT)によりトモグラフィ化してもよい。画像をトモグラフィ化することにより、モニタ上で自由に画像を回転させて試料の三次元構造を表示させたり、試料のある断面だけ表示させたりすることができる。このようにトモグラフィ化された画像を作ることで、試料を切片にすることなく断面画像または切片画像を取得することが可能となる。また、内部情報を表す方法として他の方法を用いても良い。
【0116】
次に、回転軸を増やして二軸にすることによって、より正確な三次元観察を行う方法について記載する。本願で説明する試料の場合、上記にて述べたように、傾斜角度を大きくした場合は明瞭な画像を得ることが難しいため、明瞭な画像が得られる傾斜角度の上限が50°から70°であることが多い。よって、傾斜角度をこの上限の角度から90°までの範囲にした場合の画像情報を得ることが困難となる。このように、画像が得にくい領域、つまり情報欠損領域が存在する。正確な三次元構造を把握したい場合等は、この情報欠損領域をなるべく小さくすることが必要である。たとえば連続的に傾斜して得られた画像をトモグラフィ化し、試料の体積等の測定をしたい場合、情報欠損領域をなるべく小さくすることが望ましい。
【0117】
この情報欠損領域を小さくする方法として、回転軸を二軸に増やしてより多くの方向から試料を観察する手法について、以下に説明する。X軸の回転軸に加えて、X軸に直交する検出素子500上のY軸で試料を回転させることを考える。試料904とX軸、およびY軸や荷電粒子線905等の相互関係は
図16(b)に図示されている。
【0118】
Y軸を回転軸として回転し、試料台500を傾斜させ荷電粒子線905を斜めから照射した様子が
図16(b)である。この状態で得られる顕微鏡画像が
図16(b)の下
図926である。画像上での内部物質921,922および923の間の距離と試料904の外形は、傾斜する前の画像である
図16(a)の925と比較して変化する。また、X軸を回転軸として回転して試料を傾斜して得られる画像である
図16(c)の927と比較しても、内部物質921,922および923の間の距離や位置関係と試料904の外形は変化する。このように、回転軸を一軸から二軸に増やすことにより、より多くの方向から観察することが可能となり、試料の内部物質および外形の三次元構造をより正確に把握することができる。
【0119】
試料を回転していない状態を0°として、−60°から+60°まで10°ごとにY軸を回転して各回転角度で画像を取得した際の、試料と試料に照射される荷電粒子線の相対的な位置関係を示したステレオ投影図を、
図17(a)に点の集合241で示す。X軸を回転軸とした場合の、試料904と試料に対する相対的な荷電粒子線の照射角度を示す点の集合240に加え、Y軸を回転軸とした場合の相対角度を示す点の集合241が点の集合240に直交する位置関係で分布する。X軸に加えて、直交するY軸を回転軸として追加することで、情報欠損領域を小さくすることができる。これにより、より正確な三次元構造の把握が可能となる。
【0120】
以上では二つの回転軸をそれぞれ独立に回転させることを考えたが、二軸を連動させて動かしてもよい。たとえば、
図17(b)において、まず線分X軸を回転軸として+30°回転させ、次にY軸を回転軸として−60°から+60°まで10°ごとに回転させ、各回転角度で画像を取得することを考える。このようにして取得される画像における試料と荷電粒子線の相対角度は、
図17(b)のステレオ投影図(ウルフネット)上に点の集合242として図示される。このように二つの回転軸を連動して回転させることにより、さらに多方向からの観察が可能となる。
【0121】
さらにX軸,Y軸をそれぞれ−60°から+60°まで傾斜することを考えると、試料に照射する荷電粒子線の相対角度は、
図17(c)のステレオ投影図(ウルフネット)の斜線部245の内部で自由に変化させることができる。斜線部245内で様々な方向から試料を観察することができ、試料の三次元構造をより正確に把握することが可能となる。
【0122】
以上では、試料台を傾斜させるように二つの回転軸を導入することを考えたが、試料台に垂直な方向を軸として、試料を試料台平面上で回転することが可能な回転軸を導入し、多方向からの観察を可能にする方法について
図18を用いて説明する。
【0123】
図18に、試料台500をX軸にて傾斜することが可能な機構と、試料台500の面に直交し試料を試料台平面上かつZ軸を中心に回転することが可能な回転機構を示す。なお、X軸はZ軸に対し独立に作動するものと考える。つまり、Z軸のまわりに試料を回転させた場合でも、X軸は傾斜せず、試料904または試料台500のみが回転することとする。逆に、X軸のまわりに試料を傾斜した場合は、Z軸も試料と同様に傾斜することとする。
【0124】
Z軸を回転させずにX軸のみを傾斜させた場合は、上記の回転軸が一軸である場合と同様である。この際、X軸のまわりに−60°から+60°まで10°ごとに回転し、各回転角度で画像を取得した場合、試料904と荷電粒子線905の相対角度は
図18(a)のステレオ投影図の点の集合240のようになる。ここではシュミットネットで示した。このステレオ投影図では、円周250上を試料表面に設定した際の試料に照射される荷電粒子線の相対角度を示す。
【0125】
次に、Z軸のまわりに試料を90°回転させた後、X軸まわりに回転させることを考える。この場合は
図18のY軸のまわりに回転させた場合と同様になる。この状態で、上記と同様にX軸のまわりに−60°から+60°まで10°ごとに回転し、各回転角度で画像を取得した場合、試料904と荷電粒子線905の相対角度は点の集合241のようになる。
【0126】
さらにZ軸の回転角度を変更することで、観察方向を増やすこともできる。たとえばZ軸のまわりに、荷電粒子線が試料に照射される方向から見て時計回りに45°回転した後、同様にX軸のまわりに−60°から+60°まで10°ごとに回転し、画像を取得することを考える。この際の試料と荷電粒子線の相対角度は点の集合243のようになる。
【0127】
また、以上ではZ軸のまわりに回転した後にX軸のまわりに回転することを考えたが、この回転の順序は逆でも構わない。たとえば、X軸のまわりに45°回転した後、Z軸を10°ごとに360°回転させ、各回転角度で画像を取得することを考える。このようにして得られる画像の試料と荷電粒子線の相対角度をステレオ投影図上に示すと、円形の点の集合244のようになる。
【0128】
X軸を−60°から+60°まで回転し、Z軸を0°から90°まで回転することを考えると、試料に照射する荷電粒子線の相対角度は、
図19(b)のステレオ投影図(シュミットネット)の斜線部245の内部で自由に変化させることができる。斜線部46内で様々な方向から試料を観察することによって、試料の三次元構造をより正確に把握することが可能となる。また情報欠損領域も大幅に小さくすることができる。
<試料台の説明>
上記の三次元観察を可能にする試料台について、以下に説明する。試料を傾斜することができる二つの回転軸を有することで、多方向からの観察を可能にする試料台を
図20に示す。試料ステージ500上にモータ810を備え、モータ回転軸811に試料台500が固定される構成となっている。試料ステージ500は、傾斜軸801のまわりに傾斜することができる傾斜駆動機構(角度制御部)を備えている。モータ810はモータ回転軸811が試料ステージの傾斜軸801に直交するように配置されており、支持部材805によって試料ステージ500に固定される。モータ回転軸811には試料保持部材812が備えられており、モータ回転軸811とともに回転することが可能である。試料保持部材812には着脱可能で発光部材を有する試料台500が取り付けられる。以上の構成によって、試料ステージ800の傾斜およびモータ810の回転による、二つの軸での回転が可能となる。
【0129】
次に、試料を試料ステージ上で回転することができる回転軸と、試料を傾斜することができる傾斜軸を有する試料台を
図21に示す。試料ステージ800上に回転台820を備え、その上に着脱可能で発光部材を有する試料台500が取り付けられている。試料ステージ800は傾斜軸801のまわりに傾斜することができる傾斜駆動機構(角度制御部)を備えている。回転台820は試料ステージ800に直交する方向を回転軸とする回転駆動機構(角度制御部)を備えている。回転台820上に取り付けられた試料台500は回転台820とともに回転することができる。以上の構成によって、試料ステージ800による傾斜および回転台820の回転による、二つの軸での回転が可能となる。また、二つの軸を回転(傾斜)させるためには必ずしも2つの駆動部を有する必要は無く、1つの駆動部から得られる動力を用いて二つの軸を制御することもできる。
【0130】
また、図示はしていないが、モータ810と試料台500との間に回転運動を与える部材や回転運動を他の運動に変える部材を配置することで、モータ810の位置に拘らずに上記の構成のいずれかを実現することも可能である。回転運動を与える部材の例として、歯車やチェーン、ベルトなどがあり、回転運動を他の運動に変える部材の例として、カム機構やリンク機構などが挙げられる。