特許第6383982号(P6383982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6383982マスクブランク用ガラス基板、および、その製造方法
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  • 特許6383982-マスクブランク用ガラス基板、および、その製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383982
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】マスクブランク用ガラス基板、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20180827BHJP
   G03F 1/60 20120101ALI20180827BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   G03F1/24
   G03F1/60
   C03C19/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-8498(P2015-8498)
(22)【出願日】2015年1月20日
(65)【公開番号】特開2016-134509(P2016-134509A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】平林 佑介
(72)【発明者】
【氏名】岡村 有造
(72)【発明者】
【氏名】梅尾 直弘
【審査官】 新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−199847(JP,A)
【文献】 特開2006−309143(JP,A)
【文献】 特開2008−257132(JP,A)
【文献】 特開2010−083707(JP,A)
【文献】 特開2006−008426(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/065973(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0259605(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0138721(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
C03C 19/00
G03F 1/24
G03F 1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する2つの主表面を有し、前記2つの主表面の周囲に面取り面が設けられたマスクブランク用ガラス基板であって、
一方の主表面の平坦度が100nm以下であり、
前記一方の主表面、および、前記一方の主表面の周囲に設けられた面取り面の二次元投影形状の外端からの距離が10mm以内の基板コーナー部を除いた、前記面取り面において、該面取り面と直近の前記二次元投影形状の一辺と平行な方向に任意の2mmの範囲で測定したうねりが50nm以下であるマスクブランク用ガラス基板。
【請求項2】
互いに対向する2つの主表面を有し、前記2つの主表面の周囲に面取り面が設けられたマスクブランク用ガラス基板であって、
前記2つの主表面の平坦度がそれぞれ100nm以下であり、
前記主表面、および、前記主表面の周囲に設けられた面取り面の二次元投影形状の外端からの距離が10mm以内の基板コーナー部を除いた、前記面取り面において、該面取り面と直近の前記二次元投影形状の一辺と平行な方向に任意の2mmの範囲で測定したうねりが50nm以下であるマスクブランク用ガラス基板。
【請求項3】
主表面の周囲に面取り面が設けられたマスクブランク用ガラス基板の製造方法であって、単位加工面積が前記マスクブランク用ガラス基板の主表面の面積よりも小さい局所加工ツールを用いて、該局所加工ツールを前記主表面基板上で走査して、該主表面を加工した後、
該主表面の周囲に設けられた面取り面を、研磨量が200nm以上となるよう研磨し、
さらに、研磨時の接触面積が前記主表面の面積よりも大きい研磨パッドと、研磨スラリーを用いて、前記主表面を研磨量が200nm以上2000nm以下となるよう研磨する、マスクブランク用ガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種リソグラフィの際に使用されるマスクブランク用ガラス基板、および、その製造方法に関する。
本発明のマスクブランク用ガラス基板は、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光を用いたリソグラフィ(以下、「EUVL」と略する)に使用されるマスクブランク用ガラス基板(以下、「EUVLマスクブランク用ガラス基板」と略する。)に好適である。
本発明のマスクブランク用ガラス基板は、従来の透過型光学系を用いたリソグラフィに使用されるマスクブランク用ガラス基板、例えば、ArFエキシマレーザやKrFエキシマレーザを用いたリソグラフィ用マスクブランク用ガラス基板にも好適である。
【背景技術】
【0002】
近年における超LSIデバイスの高密度化や高精度化に伴い、各種リソグラフィに使用されるマスクブランク用ガラス基板表面に要求される仕様は年々厳しくなる状況にある。特に、露光光源の波長が短くなるにしたがって、基板表面の形状精度(平坦性)や欠陥(パーティクル、スクラッチ、ピット等)に対する要求が厳しくなっており、きわめて平坦度が高く、かつ、微小欠陥がないガラス基板が求められている。
【0003】
例えば、露光光源としてArFエキシマレーザを用いた液浸リソグラフィの場合は、要求されるマスクブランク用ガラス基板表面の平坦度が100nm以下、要求される欠陥サイズが70nm以下であり、さらにEUVLマスクブランク用ガラス基板の場合は、要求されるガラス基板表面の平坦度がPV値で30nm以下、要求される欠陥サイズが50nm以下となっている。
【0004】
上記の高度な平坦度を達成するため、基板の局所的な凸度合いに応じて局所的に加工量を調整してマスクブランク用ガラス基板表面を平坦化する局所加工が施される。前記局所加工の手法として、プラズマエッチング、ガスクラスターイオンビームエッチング、または、磁性流体を利用した局所加工ツールや、回転型小型加工ツールを用いた局所加工ツールが好ましく用いられる(特許文献1,2参照)。
但し、マスクブランク用ガラス基板表面の加工にこれらの局所加工ツールを用いる場合、マスクブランク用ガラス基板表面全体を加工するため、基板上で局所加工ツールを走査する必要がある。上記した局所加工ツールの走査ピッチ間隔は、典型的には0.1〜1mmであり、局所加工ツールによる加工部には、この走査ピッチ間隔に相当する周期の加工痕が生じる。この加工痕を除去するために、研磨パッドと研磨スラリーとを用いて、マスクブランク用ガラス基板表面全体を仕上げ研磨する必要がある。
【0005】
一方、マスクブランク用ガラス基板表面の外縁部には、カケの発生を抑制するなどの理由から、面取り面が通常設けられる。
上述した平坦度、および、欠点サイズに関する要求は、マスクブランク用ガラス基板表面のうち、面取り面が設けられた外縁部を除いた主表面に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−207757号公報
【特許文献2】特許第5402391号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の局所加工をマスクブランク用ガラス基板の主表面の加工に用いた場合、主表面に周囲に位置するマスクブランク用ガラス基板の面取り面にも局所加工が施される。その結果、マスクブランク用ガラス基板の面取り面にも、上記した走査ピッチ間隔に相当する周期の加工痕が生じる場合がある。その後の仕上げ研磨によって主表面の加工痕は消失するが、面取り面には加工痕が残存する。
仕上げ研磨後のマスクブランク用ガラス基板の主表面の平坦度を測定する際には、マスクブランク用ガラス基板の面取り面を治具により保持するのが一般的であるが、治具により保持する面取り面に加工痕が存在すると、マスクブランク用ガラス基板の主表面の平坦度を測定精度が低下するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、主表面の平坦度の測定精度が高いマスクブランク用ガラス基板、および、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明は、互いに対向する2つの主表面を有し、前記2つの主表面の周囲に面取り面が設けられたマスクブランク用ガラス基板であって、
一方の主表面の平坦度が100nm以下であり、
前記一方の主表面、および、前記一方の主表面の周囲に設けられた面取り面の二次元投影形状の外端からの距離が10mm以内の基板コーナー部を除いた、前記面取り面において、該面取り面と直近の前記二次元投影形状の一辺と平行な方向に任意の2mmの範囲で測定したうねりが50nm以下であるマスクブランク用ガラス基板を提供する。
【0010】
また、本発明は、互いに対向する2つの主表面を有し、前記2つの主表面の周囲に面取り面が設けられたマスクブランク用ガラス基板であって、
前記2つの主表面の平坦度がそれぞれ100nm以下であり、
前記主表面、および、前記主表面の周囲に設けられた面取り面の二次元投影形状の外端からの距離が10mm以内の基板コーナー部を除いた、前記面取り面において、該面取り面と直近の前記二次元投影形状の一辺と平行な方向に任意の2mmの範囲で測定したうねりが50nm以下であるマスクブランク用ガラス基板を提供する。
【0011】
また、本発明は、主表面の周囲に面取り面が設けられたマスクブランク用ガラス基板の製造方法であって、単位加工面積が前記マスクブランク用ガラス基板の主表面の面積よりも小さい局所加工ツールを用いて、該局所加工ツールを前記主表面基板上で走査して、該主表面を加工した後、
該主表面の周囲に設けられた面取り面を、研磨量が200nm以上となるよう研磨し、
さらに、研磨時の接触面積が前記主表面の面積よりも大きい研磨パッドと、研磨スラリーを用いて、前記主表面を研磨量が200nm以上2000nm以下となるよう研磨する、マスクブランク用ガラス基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マスクブランク用ガラス基板の主表面の平坦度の測定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、面取り面を有するガラス基板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
本発明のマスクブランク用ガラス基板は、互いに対向する2つの主表面を有しており、該主表面の周囲には面取り面が設けられている。
図1は、面取り面を有するガラス基板の平面図であり、ガラス基板10の一方の主表面11と、該主表面11の周囲に設けられた面取り面12が二次元投影形状として示されている。該主表面11と対向する他方の主表面と、該他方の主表面の周囲に設けられた面取り面の二次元投影形状も図1と同様の形状である。
面取り面12の幅は、ガラス基板の仕様によって異なるが、マスクブランク用ガラス基板として使用される152mm角のガラス基板の場合、0.2〜0.6mmである。
【0015】
本発明のマスクブランク用ガラス基板は、各種リソグラフィに使用されるため、その主表面の平坦度が高いことが求められる。
本発明のマスクブランク用ガラス基板が、透過型光学系を用いたリソグラフィに使用される場合、露光面となる側の主表面の平坦度の平坦度が高いことが求められる。この場合、本発明のマスクブランク用ガラス基板は、一方の主表面の平坦度が100nm以下であり、好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。
一方、EUVLに使用される場合、露光面となる側の主表面に加えて、該主表面に対し裏面側の主表面についても、平坦度が高いことが求められる。この場合、本発明のマスクブランク用ガラス基板は、2つの主表面の平坦度がそれぞれ100nm以下であり、好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。
【0016】
本発明において、図1に示す主表面11およびその面取り面12の二次元投影形状の外端から10mm以内の部分を当該ガラス基板10の基板コーナー部とする。
本発明のマスクブランク用ガラス基板は、面取り面12のうち、上記で定義した基板コーナー部を除いた部分において、面取り面12と直近の二次元投影形状の一辺(例えば図1中、主表面11の右側の面取り面12の場合、図示した二次元投影形状の右辺)と平行な方向に任意の2mmの範囲で測定したうねりが50nm以下である。
本発明のマスクブランク用ガラス基板が、透過型光学系を用いたリソグラフィに使用される場合、上記した一方の主表面の面取り面について、上記で定義したうねりが50nm以下である。
一方、EUVLに使用される場合、上記した2つの主表面の面取り面について、上記で定義したうねりが50nm以下である。
【0017】
ここで、面取り面12のうち、基板コーナー部を除くのは、該面取り面12の残りの部分に比べて平坦度が低いことが多く、マスクブランク用ガラス基板の主表面11の平坦度を測定する際には、マスクブランク用ガラス基板の面取り面12のうち、基板コーナー部除いた部分を治具により保持することが一般的なためである。
【0018】
面取り面12と直近の二次元投影形状の一辺と平行な方向に任意の2mm範囲について、うねりを測定するのは以下の理由である。
上述したように、ガラス基板10の主表面11の仕上げ研磨に使用される局所加工ツールの走査ピッチ間隔は、典型的には0.1〜1mmであり、局所加工ツールによる加工部には、この走査ピッチ間隔に相当する周期の加工痕が生じる。局所加工ツールによる加工痕の周期よりも有意に長い任意の2mm範囲についてうねりを測定すれば、局所加工ツールによる加工痕による影響を評価するのに十分であるからである。
また、平坦度を測定する際に、ガラス基板とガラス基板を保持する治具との接触部は、面取り面12と直近の二次元投影形状の一辺と垂直な方向に比べて平行な方向に長い形状をしている。平坦度の測定精度に与える影響は前記接触部の長手方向の方が大きいため、面取り面12と直近の二次元投影形状の一辺と平行な方向に任意の2mm範囲についてうねりを測定する。
【0019】
図1に示すように、ガラス基板10の一方の主表面11の周囲には4つの面取り面12が存在する。ガラス基板10の他方の主表面の周囲にも4つの面取り面が存在する。したがって、ガラス基板には、8つの面取り面が存在する。本発明では、これら8つの面取り面全てについて、面取り面と直近の二次元投影形状の一辺と平行な方向に任意の2mm範囲でうねりを測定してもよい。但し、一方の主表面11の周囲の4つの面取り面12のうち、いずれか一つの面取り面におけるうねりの測定結果から、残りの3つの面取り面におけるうねりを推定することも可能である。局所加工ツールでガラス基板10の主表面11を加工する場合、該主表面11上で局所加工ツールを走査するため、主表面11の周囲の4つの面取り面12には、ほぼ同様の加工痕が生じるからである。また、ガラス基板の2つの主表面の仕上げ研磨は、通常、同一の局所加工ツールを使用し、同一の研磨条件で実施される。このような場合は、一つの面取り面におけるうねりの測定結果から、残りの7つの面取り面におけるうねりを推定することも可能である。
【0020】
本発明のマスクブランク用ガラス基板は、面取り面と直近の二次元投影形状の一辺と平行な方向に任意の2mm範囲で測定したうねりが50nm以下であることにより、面取り面を治具により保持して、マスクブランク用ガラス基板の主表面の平坦度を測定した場合の測定精度が向上する。その理由は以下の通りである。
上記で定義したうねりが50nm以下のガラス基板では、このうねりが50nmより大きい基板に比べて、平坦度を測定する際に、ガラス基板とガラス基板を保持する治具との接触面積が大きくなり保持状態が安定する。保持状態が安定であると平坦度測定時の振動や気流の外乱の影響を受けづらくなり平坦度の測定精度が向上する。
また、同一のガラス基板であっても平坦度測定を複数回実施した場合に、毎回全く同一位置にガラス基板を保持できるとは限らず、ガラス基板を保持する位置がずれることがある。上記で定義したうねりが50nm以下の基板であれば、ガラス基板を保持する位置がずれた場合であっても、基板の保持状態は実質的に変化しないため、平坦度測定を複数回実施した場合でも再現性よく平坦度測定ができる。一方、上記で定義したうねりが50nmより大きい基板の場合は、ガラス基板を保持する位置によって基板の保持状態が変化して基板が変形する。これにより平坦度測定の再現性が損なわれる。
【0021】
本発明のマスクブランク用ガラス基板を構成するガラスは、熱膨張係数が小さくかつそのばらつきの小さいことが好ましい。具体的には20℃における熱膨張係数の絶対値が600ppb/℃の低熱膨張ガラスが好ましく、20℃における熱膨張係数が400ppb/℃の超低熱膨張ガラスがより好ましく、20℃における熱膨張係数が100ppb/℃の超低熱膨張ガラスがさらに好ましく、30ppb/℃が特に好ましい。
上記低熱膨張ガラスおよび超低熱膨張ガラスとしては、SiO2を主成分とするガラス、典型的には合成石英ガラスが使用できる。具体的には、例えば合成石英ガラス、AQシリーズ(旭硝子株式会社製合成石英ガラス)や、SiO2を主成分とし1〜12質量%のTiO2を含有する合成石英ガラス、AZ(旭硝子株式会社製ゼロ膨張ガラス)が挙げられる。
【0022】
上記の特徴を有する本発明のマスクブランク用ガラス基板は以下の手順で製造することができる。
【0023】
一般に、マスクブランク用ガラス基板の製造手順では、複数回、ガラス基板の主表面の予備研磨を行い、次いで仕上げ研磨を行う。予備研磨において、ガラス基板を所定の厚さに粗研磨し、端面研磨と面取り加工を行い、更にその両主表面を表面粗さ、および、平坦度が一定以下になるように予備研磨しておく。この予備研磨は、複数回、たとえば2〜3回実施される。予備研磨には、公知の方法が使用できる。例えば、複数の両面ラップ研磨装置を連続して設置し、研磨剤や研磨条件を変えながら該研磨装置で順次研磨することにより、ガラス基板の主表面を所定の表面粗さおよび平坦度に予備研磨する。
本発明の場合も、ガラス基板の主表面を所定の表面粗さおよび平坦度に予備研磨することが好ましい。ガラス基板の主表面は、その平坦度(PV値)が1μm以下となるように予備研磨されていることが好ましく、500nm以下に予備研磨されていることがより好ましい。
【0024】
次に、ガラス基板の主表面の面積よりも単位加工面積が小さい局所加工ツールを用いて、ガラス基板の主表面を加工する。
局所加工ツールは、その単位加工面積がガラス基板の主表面の面積よりも小さいため、ガラス基板の主表面全面を加工するため、ガラス基板の主表面上で局所加工ツールを走査させる。
上記の目的で使用する局所加工ツールとしては、加工手法として、イオンビームエッチング法、ガスクラスターイオンビーム(GCIB)エッチング法、プラズマエッチング法、湿式エッチング法、および、磁性流体(MRF(登録商標))研磨法を用いるものや、回転型小型加工ツールがある。
イオンビームエッチング、ガスクラスターイオンビームエッチングおよびプラズマエッチングは、ガラス基板主表面へのビーム照射をともなう方法であり、ガラス基板主表面上でビームを走査させる。ビームを走査させる手法としては、ラスタスキャンとスパイラルスキャン等が挙げられるが、これらのいずれの走査手法を用いてもよい。
磁性流体(MRF(登録商標))による研磨法は、研磨粒子を含む磁性流体を用い、対象物の被研磨部位を研磨する手法であり、例えば、特開2010−82746号公報、特許第4761901号明細書に記載されている。MRF(登録商標)研磨法を用いた研磨装置、および、該研磨装置におる研磨手順については、特開2010−82746号公報に例示されている。
回転型小型加工ツールによる加工法は、モーターで回転する研磨加工部を被加工部位に接触させて、当該被加工部位を研磨加工するものである。
回転型小型加工ツールは、その研磨加工部が研磨可能な回転体であればいかなるものでも構わないが、小型定盤を基板直上から垂直に加圧して押し付けて基板表面と垂直な軸で回転する方式や、小型グラインダーに装着された回転加工ツールを基板面に対して斜め方向から加圧して押し付ける方式などが挙げられる。
【0025】
次に、主表面の周囲に設けられた面取り面を、研磨量が200nm以上となるよう研磨する。
上述したように、局所加工ツールを用いてガラス基板の主表面を研磨すると、該主表面に周囲に位置するガラス基板の面取り面に、局所加工ツールの走査ピッチ間隔に相当する周期の加工痕が生じる。局所加工ツールの走査ピッチ間隔は、典型的には0.1〜1mmであり、加工痕の深さは50〜100nm程度になる。研磨量が200nm以上となるよう面取り面を研磨することにより、面取り面に生じた加工痕を除去することができる。
面取り面の研磨量は、200nm以上であることが好ましく、500nm以上であることがより好ましく、1000nm以上であることがさらに好ましい。
【0026】
面取り面の研磨に用いる研磨手法は、その研磨自身により新たに50nmより大きいうねりが発生しない限り特に限定されず、公知の研磨手法から選択することができる。面取り面の研磨に適用可能な研磨手法の具体例は以下の通り。
シリカ、セリア、アルミナ、ジルコニアなどの遊離砥粒と、研磨パッドと、を用いた研磨、上記した遊離砥粒と、ブラシと、を用いた研磨、シリカ、セリア、アルミナ、ジルコニアなどをフィルム状のシートの表面に固着させた研磨テープを用いた研磨である。
【0027】
次に、研磨時の接触面積が主表面の面積よりも大きい研磨パッドと、研磨スラリーと、を用いて、ガラス基板の主表面を研磨量が200nm以上2000nm以下となるよう研磨する。ここで、研磨時の接触面積が主表面の面積よりも大きい研磨パッドを使用するのは、ガラス基板の主表面全体を同時に研磨するためである。なお研磨量の合計が上記した範囲内であれば複数回に分けて研磨しても構わない。
研磨量を200nm以上とするのは、面取り面の研磨について記載したのと同様、局所加工ツールによる加工痕を除去するためである。一方、研磨量の上限を2000nmとしたのは、研磨量をそれ以上大きくしても、局所加工ツールによる加工痕の除去には寄与せず、研磨に要する時間が長くなり生産性が悪化したり、平坦度の制御性が悪化してマスクブランク用基板の歩留りが低下するためである。
主表面の研磨量は、200nm以上2000nm以下であることが好ましく、200nm以上1000nm以下であることがより好ましく、200nm以上500nm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
マスクブランク用ガラス基板の主表面の研磨に使用する研磨パッドとしては、不織布などの基布に、ポリウレタン樹脂を含浸させ、湿式凝固処理を行って得られたポリウレタン樹脂発泡層を有する研磨パッドなどが挙げられる。研磨パッドとしては、スウェード系研磨パッドが好ましい。スウェード系研磨パッドとしては、適度の圧縮弾性率を有する軟質の樹脂発泡体が好ましく使用でき、具体的には例えばエーテル系、エステル系、カーボネート系などの樹脂発泡体が挙げられる。
【0029】
マスクブランク用ガラス基板の主表面の研磨に使用する研磨スラリーは、研磨粒子と、その分散媒からなる。コロイダルシリカ又は酸化セリウムなどが好ましい。コロイダルシリカは、より精密にガラス基板を研磨できるので特に好ましい。
研磨粒子の分散媒としては、水、有機溶剤が挙げられ、水が好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。
本実施例では、以下の手順を実施した。
152mm角、6.6mm厚の合成石英ガラス基板を準備した。この合成石英ガラス基板は、主表面が151.2mm角であり、面取り面の幅が0.4mmである。
この合成石英ガラス基板の主表面を、両面ラップ研磨装置を使用して、該主表面の平坦度(PV値)が1μm以下となるまで予備研磨した。
次に、合成石英ガラス基板の主表面を、局所加工ツールとして、GCIBエッチングを使用して加工した。GCIBのビーム径は、FWHM値で6mmであり、主表面に照射したビームを該主表面上で走査させて、該主表面全体を加工した。
次に、実施例1〜3では、合成石英ガラス基板の面取り面を研磨した。面取り面の研磨には、セリアの遊離砥粒と研磨パッドを使用した。研磨量は200nmであった。
一方、比較例1〜3では、面取り面の研磨は実施しなかった。
次に、パッド径が152mmより大きい軟質ポリウレタン製研磨パッドを使用し、研磨スラリーとしてコロイダルシリカを用いて、合成石英ガラス基板の主表面を研磨した。研磨量は200nmであった。
上記の手順で得られた合成石英ガラス基板について、図1に示すように、基板コーナー部を除いた面取り面の2mmの範囲で、ZYGO社製の走査型白色干渉計を使用してうねりを測定した。
次に、合成石英ガラス基板の面取り面を治具により保持し、該合成石英ガラス基板の主表面の平坦度を富士フィルム株式会社製のレーザー干渉計を用いて測定した。主表面の平坦度の測定は、一つの合成石英ガラス基板について、10回実施した。結果を下記表に示す。
【表1】
局所加工ツールを用いた主表面の加工後、面取り面を研磨した実施例1〜3は、主表面の平坦度測定値のばらつきが小さかった。一方、局所加工ツールを用いた主表面の加工後、面取り面を研磨しなかった比較例1〜3は、主表面の平坦度測定値のばらつきが大きかった。この点は、標準偏差の数値からも確認できる。
また、実施例1〜3の結果から、主表面の平坦度測定に使用した装置の測定ばらつき(標準偏差、σ)は4nm程度であると考えられる。そして、全ての平坦度測定値が、平坦度測定値の中央値±2σ(8nm)の範囲内である場合は、主表面の平坦度の測定精度が高いと考えられる。一方、平坦度測定値の中央値±2σ(8nm)の範囲外となる平坦度測定値が存在する場合、主表面の平坦度の測定精度が低いと考えられる。
実施例1〜3は、全ての平坦度測定値が、平坦度測定値の中央値±2σ(8nm)の範囲内であり、主表面の平坦度の測定精度が高い。
【符号の説明】
【0031】
10:ガラス基板
11:主表面
12:面取り面
図1