(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1に記載された発明では、自動販売機に新たに音波発生装置を組み込む必要がある。このため、特別に追加の装置等を組み込むことなく、発光装置自体に昆虫の誘引を防止する機能を持たせることが望まれる。
【0006】
引用文献2に記載された発明では、虫を誘引する効果があるとされる紫外領域の光および可視光線の短波長側の光をカットすることで、虫が誘引されにくくしている。しかし、可視領域における短波長側の光が僅かながらでもカットされるので、光が黄色味を帯びるなど、照明の色味が変化してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、特別な装置を追加することなく、昆虫の誘引を防止する機能を有し、光色の変化が抑制されたディスプレイ等の発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、これまで、第1の波長領域の光を発する第1の光源と、第1の波長領域とは異なる第2の波長領域の光を発光する第2の光源とを備えた発光装置において、これら第1の光源と、第2の光源との境界部にカメムシなどの昆虫が誘引されることを利用した誘引装置を提案している(例えば、国際出願番号PCT/JP2012/074100参照)。
【0009】
上記の誘引装置では、第1及び第2の光源が発する光の波長領域ごとに昆虫の視覚情報処理が異なることを利用している。さらに、本願発明者らは昆虫が光によって誘引される際に、光源が発する光の波長のコントラスト(エッジ部分)に誘引されることを見出した。光のエッジ部分とは、単一の光である場合は光っている部分とその周りの光っていないところとの境界部分であり、2以上の種類の光である場合はそれぞれ異なる光の境界部分を意味する。すなわち、昆虫は単純に光や特定の波長に誘引されるのではなく、光のエッジ部分に誘引される。
【0010】
さらに、本願発明者らは鋭意検討した結果、輝度を調整するなど、エッジ部分におけるコントラストの変化を緩やかにすることで、昆虫の誘引効果が異なることを見出し、これを利用することでディスプレイに虫が寄り付かなくすることができることを実験的に発見した。具体的には、発光装置の発光面の縁部に、内側から外側に向かって徐々に輝度が低下するような輝度減衰部を設けることにより、この輝度減衰部への虫の誘引を低下できることを発見した。
【0011】
これを踏まえ、本発明の発光装置は、発光面を有し、発光面の縁部の少なくとも一部には、虫が誘引されにくい低誘引部が設けられ、低誘引部は発光面の表面の内側から外側に向かって徐々に少なくとも1種の光学特性が変化する光学特性傾斜部からなることを特徴とする。光学特性としては、特に規定するものではないが、トータルとしての輝度、波長特性、特定波長の輝度、特に紫外波長領域の輝度、並びに偏光の種類等があげられる。
【0012】
本発明において、好ましくは、低誘引部は、発光面の少なくとも一つの辺に沿って設けられており、発光面は、矩形状である。
本発明における一つに実施形態としては、低誘引部は発光面の内側から外側に向かって徐々に輝度が低下するような輝度減衰部からなることを特徴とする。
上記の構成の本発明によれば、内側から外側に向かって徐々に輝度が低下するような輝度減衰部が設けられているため、虫の誘引を抑止できる。
【0013】
本発明において、好ましくは、輝度減衰部は、100mm以上の幅を有する。
本発明において、好ましくは、輝度減衰部は、200mm以上の幅を有する。
上記の構成の本発明によれば、輝度減衰部は、幅100mm以上である場合に虫が誘引しにくく、幅200mm以上である場合に、より虫を誘引しにくいため、より確実に虫の誘引を抑止することが可能である。
【0014】
本発明において、好ましくは、発光面には、透光性シートが貼付されており、輝度減衰部は、透光性シートの輝度減衰部に当たる部分に内側から外側に向かって徐々に透光性が低下する透光性低下部が形成されることにより、形成されている。
上記の構成の本発明によれば、既存の発光装置に対しても、透光性シートを貼付するだけで容易に本発明を適用できる。
【0015】
本発明において、好ましくは、発光面は、複数の光源が配置されることにより構成されており、輝度減衰部は、複数の光源を内側から外側に向かって密度が低下するように配置することにより形成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、昆虫の誘引を防止する機能を有し、光色の変化が抑制されたディスプレイ等の発光装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の発光装置の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態では、発光装置としてディスプレイ装置を用いた場合を例として説明する。
図1は、本実施形態のディスプレイ装置の構成を示す分解斜視図である。同図に示すように、本実施形態のディスプレイ装置1は、ディスプレイ本体2と、ディスプレイ本体2の前面に貼付された透光性シート3とを備える。ディスプレイ本体2は、内部にLEDなどの発光体(図示せず)が設けられた筐体4と、筐体4の前面に取り付けられた散乱特性を有する乳白色の樹脂又はガラス製の透光板5とからなり、発光体から発せられた光は透光板5を透過してディスプレイ本体2の前方に照射される。したがって、この樹脂板5がディスプレイ本体2の発光面を構成する。なお、ディスプレイ本体2の発光体は、発光面から発せられた光が場所に寄らず、実質的に均一な輝度となるように発光する。
【0019】
ディスプレイ本体2としては、例えば、LEDディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなど周知の各種ディスプレイ装置を用いることができる。ディスプレイ本体2は、発光体を電子制御することにより発光面に文字や図形等を表示することができる。なお、発光面は必ずしもカラー表示可能である必要はなく、グレースケール表示可能であってもよい。
【0020】
透光性シート3は、ディスプレイ本体2の発光面と同一の寸法形状の透光性を有するシート材であり、その垂直辺の一方に沿って内側から外側に向かって徐々に透光性が低下する透光性低下部6が形成されている。このような透光性低下部6は、透光性シート3の垂直辺の一方に沿って所定の幅にわたって、内側から外側に向かって密度が連続的に増加するようなドットを印刷することにより形成することができる。透光性シート3の材質としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエーテルケトン、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース等)、ポリオレフィン、ポリオレフィン、脂環式ポリオレフィン、ガラス等が挙げられる。なお、透光性低下部6のドットは、内側から外側に向かって一定の割合で透光性が低下するように形成されており、縁部から同一の距離の位置では透光性が等しくなっている。
【0021】
このような構成のディスプレイ装置1によれば、ディスプレイ本体2の発光面から照射された光は透光性シート3を通過して照射される。この際、透光性シート3の透光性低下部6以外の部分を通過する光はそのまま通過するものの、透光性低下部6を通過する光は、シート材の透光性低下部6を構成するドットにより遮光され輝度が減衰する。さらに、透光性シート3の透光性低下部6にプリントされたドットは、内側から外側に向かって密度が連続的に増加している。このため、本実施形態のディスプレイ装置1から照射される光の輝度は、透光性低下部6に相当する垂直辺の一方に沿った所定の幅の部分(以下、輝度減衰部という)以外では一定であるが、輝度減衰部では内側から外側に向かって連続的に低下することとなる。
【0022】
なお、本実施形態では、ディスプレイ本体2の発光面に透光性シート3を貼付することにより輝度減衰部を形成することができるため、既存のディスプレイ装置等にも容易に適用することができる。
【0023】
[実験1]
本願発明者らは、上記のディスプレイ装置によれば、発光面の輝度減衰部に昆虫が誘引されないことを確認するべく実験を行ったので、以下説明する。
本実験では、ディスプレイ装置1の端部にそれぞれ幅の異なる輝度減衰部を設けた実施例1〜3のディスプレイ装置を暗室内に設置し、この暗室内にチャバネアオカメムシを離して、チャバネアオカメムシが定位した位置を測定した。なお、
図2〜4は、それぞれ実施例1〜3の輝度分布を示す。
【0024】
<実施例1>
ディスプレイ本体2の発光体としては三菱電機株式会社製diamondcrysta WIDE RDT271WLMV(BK)のバックライトを用い、ディスプレイ本体2の透光板5としては、三菱レイヨン株式会社製アクリライト♯432を用いた。なお、発光面の大きさは横599mm、縦338mmである。
【0025】
また、透光性シート3としては、無色透明のポリエチレンテレフタレート(PET)製のシートを用い、ソルベントタイプのインクを用いてドットを印刷し、
図2に示すように、一方の垂直辺から100mmの幅で透光性低下部6を形成した。なお、透光性シート3の透光性低下部6では、透光性が100%から0%まで連続的に低下している。
【0026】
<実施例2>
ディスプレイ本体2としては、実施例1と同様のものを用いた。
また、透光性シート3としては、無色透明のポリエチレンテレフタレート(PET)製のシートを用い、ソルベントタイプのインクを用いてドットを印刷し、
図3に示すように、一方の垂直辺から200mmの幅で透光性低下部6を形成した。なお、透光性シート3の透光性低下部6では、透光性が100%から0%まで連続的に低下している。
【0027】
<実施例3>
ディスプレイ本体2としては、実施例1と同様のものを用いた。
また、透光性シート3としては、無色透明のポリエチレンテレフタレート(PET)製のシートを用い、ソルベントタイプのインクを用いてドットを印刷し、
図4に示すように、一方の垂直辺から300mmの幅で透光性低下部6を形成した。なお、透光性シート3の透光性低下部6では、透光性が100%から0%まで連続的に低下している。
【0028】
上記の実施例1〜3について、実施例1〜3のディスプレイ装置を暗室内に配置し、暗室内にチャバネアオカメムシを放虫し、チャバネアオカメムシが衝突した箇所を調べた。
【0029】
図5〜
図7は、それぞれ実施例1〜3におけるチャバネアオカメムシの衝突した位置を示し、黒色の丸は雄が衝突した位置を、灰色の丸は雌が衝突した位置を示す。なお、図中のグリッドは5cm間隔である。
図5〜
図7に示すように、実施例1〜3に共通して、水平辺に比べて垂直辺にチャバネアオカメムシが衝突した。
【0030】
図5に示すように、実施例1では、輝度減衰部が設けられた側と反対側の垂直辺近傍に最もチャバネアオカメムシが衝突したものの、輝度減衰部が設けられた側の垂直辺近傍にも一定数のチャバネアオカメムシが衝突した。
【0031】
これに対して、
図6及び
図7に示すように、実施例2、3では、多くのチャバネアオカメムシは輝度減衰部が設けられた側と反対側の垂直辺に衝突し、輝度減衰部が設けられた側の垂直辺近傍には、ほとんど衝突しなかった。
【0032】
上記の実験により、本実施形態のディスプレイ装置1によれば、一方の垂直辺に輝度減衰部が設けられているため、この部分には昆虫が衝突しにくいことが確認された。すなわち、発光面の縁部に内側から外側に向かって徐々に輝度が低下するような輝度減衰部を設けることにより、この部分には虫が誘引されにくいことが確認された。
【0033】
また、チャバネアオカメムシは発行面が長方形である場合に、虫は垂直辺に誘引されやすいため、垂直辺に輝度減衰部を設けることが有効であることが確認された。
【0034】
また、この輝度減衰部は、幅200mm以上である場合に、より虫を誘引しにくくなることが確認された。
【0035】
[実験2]
さらに、本願発明者らは、天井灯などの照明装置に関しても虫がエッジ部分に定位するか否かについて実験を行ったので、以下説明する。
図8は、天井灯のエッジ部分に虫が定位するか否かについての実験の様子を示す図である。同図に示すように、本実験では、天井10に取り付けられた天井灯12に拡散板14を取り付けた場合と、取り付けていない場合について、チャバネアオカメムシを飛翔台Aまたは飛翔台Bから飛翔させて、虫の定位した位置を記録した。なお、天井灯12としては、光源がHf蛍光灯16(パナソニック株式会社製のFHF32EX−N−H)であり、長さ1275mm、幅210mmの傘18を有するものを用いた。天井10の高さは床から2100mmであり、飛翔台Aは蛍光灯の直下の床からの高さ600mmに設け、飛翔台Bは蛍光灯の延長線上の蛍光灯の端部から1000mmの位置の床からの高さ600mmに設けた。
【0036】
拡散板14は、長さ1235mm、幅200mm、厚さ2mmのアクリル樹脂(PMMA)からなる半透明のプラスチック板(パナソニック株式会社製FSK42355A)からなる。拡散板14を取り付けることにより、天井灯12は面光源とみなすことができ、蛍光灯16の輪郭が視認できない状態となる。なお、
図9は、拡散板14を設けた場合と、拡散板14を設けていない場合における波長とフォトン数の関係を示すグラフである。同図に示すように、拡散板14を付けた場合であっても、天井灯12から照射される光の波長成分の傾向は変化していないことが確認できる。
【0037】
以下の条件1〜3に実験条件を設定して実験を行った。
<条件1>拡散板14を取り付けた状態でチャバネアオカメムシを飛翔台Aから飛翔させた場合
<条件2>拡散板14を取り付けない状態でチャバネアオカメムシを飛翔台Aから飛翔させた場合
<条件3>拡散板14を取り付けない状態でチャバネアオカメムシを飛翔台Bから飛翔させた場合
【0038】
図10は、条件1〜3におけるチャバネアオカメムシの定位した位置を示す図である。なお、
図10に示す二つの長方形のうち、外側の長方形が天井灯の傘18と天井の境界を示し、内側の長方形が蛍光灯16の輪郭を示す。また、図中、薄灰色の丸は雄の定位位置を、濃灰色の丸は雌の定位位置を示す。また、図中、定位位置に10cm間隔のグリッドを重ねて示している。
【0039】
図10に示す条件1〜3の定位位置からわかるように、飛翔台の位置や拡散板の有無にかかわらず、飛翔したチャバネアオカメムシは天井灯と天井の境界近傍に定位する傾向があることが確認できる。
【0040】
また、条件1と条件2及び3とを比較すると、条件1では一部のチャバネアオカメムシの定位位置が天井灯12と天井の境界から大きく離間しているが、条件2、3ではより多くのチャバネアオカメムシの定位位置が天井灯12と天井の境界から大きく離間していることが確認できる。したがって、拡散板14を取り付けることにより、虫は照明器具のエッジ部分へ定位する傾向が高くなることが確認できる。
【0041】
以上の通り、本実験により、照明器具においても虫は照明器具のエッジ部分に定位する傾向を有することが確認された。さらに、本実験により、照明器具を覆う拡散板を設けることにより、虫が照明器具のエッジ部分へ定位する傾向が高くなることが確認された。このため、照明器具を覆う拡散板を設けた場合に、本発明は特に有効であるといえる。
【0042】
[実験3]
さらに、本願発明者らは、照明器具の縁部に輝度のグラデーション(輝度減衰部)を設けることにより、虫の低誘引効果が得られることを実験により確認したので以下説明する。
本実験では、長方形の透明フィルムに、各辺と垂直な方向に内側から外側に向かって透光する光の輝度が低下するような輝度減衰部を全ての辺に沿って設けて構成された上述した実施例1と同様の方法により透光性シートを作成し、この透光性シートを面光源に取り付けた照明装置(以下、実施例4という)と、実施例4と輝度と光量が同一の面光源を有する照明装置(以下、比較例4という)とを室内に並べて配置し、チャバネアオカメムシがいずれの照明に誘引されるかを調べた。
【0043】
なお、実施例4の照明装置としては、実施例1の発光体にも用いた、長さ599mm、幅338mmの三菱電機株式会社製diamondcrysta WIDE RDT271WLMV(BK)のバックライトを用い、各辺に沿って幅100mmの輝度減衰部を設けた。また、比較例4としては、長さ457mm、幅196mmの光源を用いた。
図11は、実験3の結果を示すグラフである。同図に示すように、比較例4には65.9%の虫が誘引されたのに対して、実施例4には34.1%の虫が誘引された。本実験からもからも、照明器具の縁部に輝度のグラデーションを設けることにより、照明に虫が誘引されなくなることが確認された。
【0044】
なお、上記の実施例では、照明器具の縁部に輝度のグラデーションを設けるものとしたが、これに限らず、他の光学特性のグラデーション(光学特性傾斜部)を設けてもよい。このような光学特性としては、特に規定するものではないが、上記実施例の全波長の輝度の他に、波長特性、特定波長の輝度、特に紫外波長領域の輝度、並びに偏光の種類等があげられる。
【0045】
本実施形態では、本発明をディスプレイ装置に適用した場合を例として説明したが、これに限らず、平面状の発光部を有する照明装置等にも本発明を適用できる。例えば、半透明の樹脂からなるプレートの背面にLED光源が配列された照明装置や看板等にも、本発明を適用することができる。
【0046】
また、本実施形態では、輝度減衰部に相当する部分に外側に向かって密度が増加するようなドットがプリントされたシート材をディスプレイ本体に貼付することにより、減衰部を形成したが、減衰部を形成する方法はこれに限られない。
【0047】
例えば、LEDディスプレイなどの複数の光源を有するディスプレイ装置を用いる場合には、内側から外側に向かって密度が低下するように光源(LED)を配置することにより、輝度減衰部を形成することができる。要するに、本発明の輝度減衰部は、内側から外側に向かって照射される光の輝度が低下していればよく、その構成は問わない。
【0048】
また、本実施形態では、ディスプレイの発光面の一方の垂直辺に沿って輝度減衰部を設けたが、これに限らず、輝度減衰部を両方の垂直辺に沿って設けてもよく、さらには、輝度減衰部を水平辺に沿って設けてもよい。さらには、ディスプレイの発光面の形状は矩形に限らず円形等でもよい。
【0049】
また、本実施形態では、透光性シートの透光性低下部が透光性が100%から0%まで連続的に低下する場合について説明したが、必ずしも0%まで低下しなくてもよい。