(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384086
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】金属リングの製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 53/14 20060101AFI20180827BHJP
B21D 11/06 20060101ALI20180827BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20180827BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20180827BHJP
【FI】
B21D53/14
B21D11/06
B23K9/00 501Z
B23K26/38 A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-69221(P2014-69221)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-188925(P2015-188925A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年11月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菅 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸夫
【審査官】
石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−023561(JP,A)
【文献】
特表平09−509892(JP,A)
【文献】
米国特許第02751066(US,A)
【文献】
特開平08−170692(JP,A)
【文献】
特開2001−212639(JP,A)
【文献】
特開昭57−124537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 53/14
F16G 1/20
B21D 11/06
B23K 9/00
B23K 26/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製素材から金属リングを製造する方法において、前記金属製素材を円筒土台に螺旋状に捲いて円筒状に形成する捲き付け工程と、前記捲き付け工程にて螺旋状に捲かれた金属製素材を円筒状のまま、円筒面状の適当な1箇所の位置で円筒の中心軸に平行な方向に切断して、横並びに整列する細長状の中間素材を複数製造する切断工程と、複数の前記中間素材に対し、少なくとも一方の前記切断工程による切断面を前記円筒面状の長手方向に沿って横移送することにより、各々の前記中間素材がリング状となるようにする端面の位置合わせ工程と、前記リング状となった複数の中間素材それぞれの両端部を無端状に接合し金属リングとする接合工程と、前記接合工程にて接合部位で横並びに繋がった状態から分断して一環の金属リングに分断する分断工程を行うことを特徴とする金属リングの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属リングの製造方法において、前記位置合わせ工程は、前記複数の中間素材の先端部及び後端部を前記円筒土台に押付けて保持して行うことを特徴とする金属リングの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の金属リングの製造方法において、前記位置合わせ工程は、前記複数の中間素材の先端部及び後端部を前記押付けて保持しながら前記円筒土台がその中心軸方向に移動することにより行うことを特徴とする金属リングの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属リングの製造方法において、前記捲き付け工程は金属製素材を金属製素材の側面が接触させる又は金属製素材の間に一定の隙間を空けるように円筒状に捲くことを特徴とする金属リングの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属リングの製造方法において、前記位置合わせ工程は、中間素材の長手方向の中心線が両端部において一直線上になるように位置合わせすることを特徴とする金属リングの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属リングの製造方法において、前記位置合わせ工程は、中間素材の切断面が一直線上になるように位置決めすることを特徴とする金属リングの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属リングの製造方法において、前記位置合わせ工程は、中間素材の切断面が階段状になるように位置決めすることを特徴とする金属リングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状又は薄板状、或いは管状の長尺の金属製素材から金属リングを製造するにあたり、金属製素材を複数本の定尺の中間素材に切断し、さらに複数の中間素材の切断面である両端部を接合して金属リングを効率良く製造することができる金属リングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリンタやファクシミリ、複合機、自動改札機の送り機構には、ゴムやプラスチックのベルトが用いられていたが、最近では耐久性に富んだ金属リングが用いられるようになっている。特に耐久性とともに強度や耐熱性を要求するような駆動伝達機構の部品、たとえば、変速機用の無端リングにも採用されている。
【0003】
このように、金属リングの耐久性や強度、耐熱性を活かして、金属リングはさまざまな分野に使用されてきているが、金属製であるが故、ゴムやプラスチックのように容易には製造できない。
たとえば、一般的には、薄板状の金属製素材から金属リングを製造する方法がとられており、薄板状で幅広のフープ状の金属製素材をまず必要なリング長に切断し、リング状に曲げて両端部を突合せ接合して円筒状にする。その後、所定のリング幅になるよう輪切りに切断して、切断面のバリを削除するバリ取り工程を解して金属リングを製造している。
【0004】
上述のように、幅広のフープ状の金属製素材から製造しているため、幅広のフープ状の金属製素材を切断するための大きな切断機や幅広の金属製素材を円筒状に溶接する大きな溶接機、そして幅広の円筒状の金属素材を輪切りする大きな切断機等、大型設備を配置して製造する等、どうしても大きな金属製素材から製造するために各工程で大きな設備を必要としていた。
【0005】
一方、棒状の金属製素材から金属リングを製造しようとすると、コイル状になった棒状の金属製素材を必要なリング長さに切断した後、リング長の金属製素材を環状に丸め、1本1本切断面の両端部を溶接して金属リングを製造することになり、幅広のフープ状の金属製素材から製造するのに比べ、生産性が劣っていた。また管状の金属製素材でも必要な長さに切断し、環状に丸め、溶接等しなければならない点は同様である。
そのため、棒状や管状の金属製素材から金属リングを量産しようとしても、棒状や管状の金属製素材の長手方向のスペースを確保しながら、複数箇所で切断した後、切断された中間素材を一旦整列させる必要がある。また中間素材の両端を把持しながら一本一本環状に折り曲げ、両端部を溶接する必要があり、大量に製造しようとすると、設備が複雑になり広大な敷地を必要としていた。
【0006】
よって、本発明者らは、薄板状や棒状、或いは管状の金属製素材を用い切断や溶接を効率的に行い、金属リングを製造する方法を鋭意研究するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−170692号公報
【特許文献2】特開2001−212639号公報
【特許文献3】特昭57−124537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薄板の金属リングを製造する場合、現状では幅広の薄板から金属リングを製造することが主流であり、以下の特許文献1〜3の製造方法が提案されている。
特許文献1には、既に幅狭に切断された金属薄板を芯金にスパイラル状に密着捲きし、密着捲きされた金属薄板をスパイラル状の密着部分に沿って溶接して管状にし、その管状からリング状に輪切りに切断して製造する金属エンドレスベルトとその製造方法を開示している。
また特許文献2は、特許文献1に記載された各工程を効率的に行うための製造方法を具体的に開示している。
また特許文献3は、スチール製薄肉のエンドレスベルトを製造するために、円板状のブランクをプレス加工し、プレス成形体を輪切り切断する製造方法を開示している。
【0009】
しかしながら、特許文献1の製造方法は、金属薄板をスパイラル状に密着捲きする密着部分を全て溶接することになり、溶接長は金属薄板の全長にも及ぶことになる。そのため、溶接材料の使用量は多大であり、また溶接時に使う電気やガスも同様に多大に消費することになる。さらに、管状に溶接後、環状に輪切り切断する必要があり、この時の切断面にはバリが発生するため、バリ取り工程が必要になってしまう。
【0010】
特許文献2の製造方法は、特許文献1の製造方法を効率的に行うことために、芯金への捲き付けと同時に捲き付けの密着部分を溶接する構成が開示しているが、特許文献1と同様、溶接時の溶接材料や電気、ガスの消耗が大きく、かつ切断後のバリ取り工程は必須である。
【0011】
特許文献3の製造方法は、スチール製薄肉の円板状のブランクからエンドレスベルトを製造しているが、プレス成形体から得られるエンドレスベルトはプレス成形体の一部に過ぎず、プレス成形体の中央部分と端部分はエンドレスベルトにできないため、歩留まりが悪い。
【0012】
本発明者らは、棒状の金属製素材を用いて金属リングを製造する場合について、薄板状で幅広のフープ状から製造する場合と同等の生産性を有する効率的な製造方法について鋭意研究したところ、幅狭の薄板状や管状の金属製素材であっても同様に効率的に生産できる製造方法を見出したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、本発明者らは、上記課題を解決するために、棒状又は板状、或いは管状の長尺の金属製素材からリング状に成形し、接合して金属リングを製造するにあたり、金属製素材を複数本の定尺の中間素材に切断し、さらに複数の中間素材を接合することで金属リングを効率良く製造することができる金属リングの製造方法を提供するものである。
【0014】
すなわち、本発明の金属リングの製造方法は、前記金属製素材を
円筒土台に螺旋状に捲いて円筒状に形成する捲き付け工程と、前記捲き付け工程にて螺旋状に捲かれた金属製素材を円筒状のまま、円筒面状の適当な1箇所の位置で円筒の中心軸に平行な方向に切断して、横並びに整列する細長状の中間素材を複数製造する切断工程と、複数の前記中間素材に対し、少なくとも一方の前記切断工程による切断面を前記円筒面状の長手方向に沿って横移送することにより、各々の前記中間素材がリング状となるようにする端面の位置合わせ工程と、それぞれの両端部を無端状に接合し金属リングとする接合工程と
、前記接合工程にて接合部位で横並びに繋がった状態から分断して一環の金属リングに分断する分断工程を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属リングの製造方法によれば、金属リングの母材となる金属製素材が棒状又は板状、或いは管状の長尺材であっても金属リングに製造することができる。しかも、従来の広幅の薄板状から製造する場合、製造される管状の中間材を搬送、保管する大きなスペースを必要とする。一方、棒材や管材を金属製素材として生産性をあげようとする場合、長手方向のスペースを確保して多数の金属製素材に切断した後、一本一本を把持しながら環状に折り曲げ複数溶接を行うための広い敷地や複雑な設備を必要とする。しかし、本発明によれば、そのような大型かつ複雑な設備は必要とせず、小型の設備を用いて連続的に製造することができる。
【0016】
また切断から位置合わせを連続的に行うことができるため、金属製素材がたとえ棒材であったとしても、生産性を確保しつつ製造することができる。
さらには位置合わせ工程後の接合工程をも連続に行って効率を高めることもできる。その場合は、接合の仕方により複数個の金属製リングが接合部位で連なることもある
が、分断工程を設けることで、金属製リングを一環毎にすることが容易である。
さらに溶接箇所はあくまでも中間素材の切断された両端部に留まっているため、接合箇所も少なく接合に掛かる電気やガス等も少なくて済み効率的にリング状へと接合することができる。
【0017】
よって、本発明による金属リングの製造方法は、これまでの大型設備や複雑な設備、さらには大きな敷地を必要とする製造方法に変わって、小型設備や敷地を用いて効率よく金属リングの製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の製造方法の工程の流れを説明する図である。
【
図2】本発明の捲き付け工程を説明する斜視図である。
【
図3】本発明の捲き付け工程後を正面から見た捲き付け状態図である。
【
図10】本発明の位置合わせ工程の他の突合せを説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の各態様について具体的に説明する。
本発明の金属リングの製造方法は、前記金属製素材を螺旋状に捲いて円筒状に形成する捲き付け工程と、前記捲き付け工程にて螺旋状に捲かれた金属製素材を円筒状のまま、円筒面状の適当な1箇所の位置で円筒の中心軸に平行な方向に切断して、横並びに整列する細長状の中間素材を複数製造する切断工程と、複数の前記中間素材に対し、少なくとも一方の前記切断工程による切断面を前記円筒面状の長手方向に沿って横移送することにより、各々の前記中間素材がリング状となるようにする端面の位置合わせ工程と、それぞれの両端部を無端状に接合し金属リングとする接合工程
を有するものである。
【0020】
更に、接合工程後に接合された複数のリング状素材が接合部位で横並びに繋がった状態から分断して一環の金属リングとする分断工程を行うことを特徴としている。
これにより分断工程を設けることで、接合工程で接合と中断を繰り返すことなく連続的に中間素材の両端部を接合することを特徴としている。
【0021】
本発明における金属製素材は、従来主流となっている幅広のフープ状の薄板から得られる幅狭の薄板状のものであっても良いし、断面が丸形状や楕円形状、異形状等の棒状或いは管状の棒材を用いてもよい。
これは、本発明が金属製素材の断面形状に左右される製造方法ではないためであり、幅広から幅狭への切断および切断面のバリ取りが不要な棒状の金属製素材であるほうがバリ取り工程を省略できる。
本発明における捲き付け工程は、金属製素材を円筒状に捲くにあたり金属製素材の側面同士が接触するように捲き付けても良いし、金属製素材が重ならないように一定の隙間を設けて捲き付けてもよい。このように捲き付ける金属製素材同士の位置関係は、その捲き具合が一定していれば、特に問題にならない。
なお捲き具合を一定にするのは、切断後の中間素材の長さを一定にするためであり、後工程で長さを揃えるための調整をする必要が生じないようにするためである。
【0022】
次に本発明の切断工程は、捲き付け工程にて螺旋状に捲かれた金属製素材を円筒状のまま、円筒面状の適当な一箇所の位置で円筒の中心軸に平衡な方向に一直線に切断する。
これにより、横並びに整列する複数の細長状の中間素材を効率良く得ることができる。また金属製素材を切断する角度は、一定角をなして捲き付けられているため、一直線に切断するだけで複数の中間素材の切断面の角度を一定のまま切断することができる。
また切断工程において、金属製素材の側面同士が接触するように密着して捲き付けられている方が、一定の隙間を設けて捲き付けられているよりも切断を連続して無駄なく行うことができる。それは、切断工程での切断する金属製素材の厚みが最小となり極力切断の負荷を減らすことができるからである。これにより、一度に複数本の金属素材を切断できるため短時間に切断することが可能である。
このように、金属製素材を効率的に切断して複数の中間素材を得ることができる。
【0023】
なお前記切断工程は、シャーや旋盤を用いる機械的切断、レーザや電子ビームを用いる光・電磁波エネルギーによる切断、プラズマやガス、アーク、抵抗熱、高周波電流等を用いる熱エネルギーによる切断、放電加工や電解加工等を用いる電気エネルギーによる切断、超音波エネルギーによる切断等で行うことができ、特に限定するものではない。
【0024】
本発明の位置合わせ工程は、横並びに整列する細長状の複数からなる中間素材に対し、前記各々の中間素材がリング状となるようにする工程である。この位置決めにあたり、中間素材の両端部を突き合わせる際に、中間素材の両端部の切断面の角度の整合させるように突き合わせる方法(以下、直線状合わせという)やリング状に位置決めする中間素材の側面が複数の中間素材から形成される円筒の中心軸方向に対して垂直になるように中間素材の切断面の角度を階段状にギザギザに突き合わせる方法(以下、階段状合わせという)とすることができる。
【0025】
この位置合わせ工程では、複数の中間素材を一斉に中間素材の一方の端部を他方の端部の方へ幅の長さ横移送させる又は、中間素材の両端部それぞれを近づけるように横移送させて、最終的に中間素材の両端部における長手方向の中心軸が直線状になるようにする必要がある。これにより、リング状をなした中間素材が両端部を突き合わせた状態で横並びに整列させて、次工程の接合を効率的に行うことができるようになる。横並びに整列した中間素材のそれぞれの端部を順番に横移送する方法もとることができるが、その場合は横移送する機構が複雑化するおそれがあり、かつ設備を小型化しにくくなる恐れがあるので注意が必要である。
【0026】
前記直線状合わせは、ひとつひとつの中間素材の両端部の切断面を整合するように、かつ複数の中間素材の整合された切断面が一直線状をなすように位置合わせする方法である。この直線状合わせを行うことにより、次工程の接合工程における接合部位が直線状となるため、複数の中間素材の接合を連続的に一斉に行うことが容易となるとともに、中間素材の両端部の切断面間の隙間を少なくすることが可能なため、より精密に接合が可能であり、その結果、接合強度を確保しやすい。
【0027】
一方、前記階段状合わせは、リング状に位置決めする中間素材の側面が複数の中間素材から構成される円筒の中心軸方向に対して垂直になるように中間素材の切断面の角度を階段状にギザギザに突き合わせる方法である。この階段状合わせを行うことにより、リング状に位置決めする中間素材の側面が複数の中間素材から形成される円筒の中心軸方向に対して垂直になりリング形状としては良好な形状を有している。なお階段状合わせは、捲き付けされた状態から切断したことにより、ひとつひとつの中間素材を良好なリング形状を保持したままその両端部の切断面を位置決めしようとすると、両端部の切断面の間にV字状の若干の隙間を有した状態となる。そのため、次工程で接合する際には、接合面の最大隙間を塞ぐように、かつ接合強度を確保できるように接合条件を調整する必要がある。
【0028】
また位置合わせ工程では、捲き付け工程で金属製素材の側面同士が接触するように密着して捲き付けられている方が、一定の隙間を設けて捲き付けられているよりも中間素材の横移送時に中間素材の両端部が均一に切断面で突き合わせることが容易である。一定の隙間を有して捲き付けた状態から、中間素材を維持しながら横移送する場合は、中間素材が正確に横移送できるよう溝や突起を有した保持冶具で保持しながら横移送を行うことが好ましい。
【0029】
前工程の位置合わせ工程で中間素材を直線状に合わせた場合は、接合工程での接合位置が一直線状のため、接合を連続的に効率良く行うことができる。すなわち、この場合には、無駄に接合位置をジグザグに移動させたり、接合位置を調整しつつ接合機のON−OFFを繰り返しながら作業する必要がないため、接合を効率的に行うことができる。
一方、前工程の位置合わせ工程で中間素材を階段状合わせにした場合は、接合位置が一直線上ではないため、ジグザグに移動させながら接合を行う必要があり、接合位置を調整しつつ、接合機のON−OFFを繰り返すことで、接合することができる。
【0030】
捲き付け工程で一定の隙間を設けて捲き付けた場合、中間素材間の隙間を設けてように位置決めさせることで、両端部のみを溶接し、隙間では溶接を中断することを繰り返すことで、本発明の第2の態様に記載の分断工程を用いずとも金属リングを製造することができる。
【0031】
本発明における接合工程は、溶接、接着、溶着を用いることができる。また溶接であれば、アーク溶接、ガス溶接、電子ビーム溶接、制御アーク溶接、プラズマジェット溶接等を採用できるとともに、超音波圧接等のような非加熱方法を用いたり、抵抗溶接や鍛接等のような加熱圧接方法や摩擦圧接等の方法を用いることができる。
また溶着であれば、超音波溶着、振動溶着、誘導溶着、超音波溶着、半導体レーザ溶着、熱溶着、スピン溶着等を用いることができる。
【0032】
本発明の前記接合工程は、前記捲き付け工程における金属製素材の円筒状の中心線に対する捲き角度と中間素材の直径、幅、厚みに基づく式1により算出される中間素材の両端を突き合せてできる開き角度の最大幅を、接合方法により接合可能な接合幅よりも小さくすることを特徴としている。
これにより、接合工程における接合条件の範囲を特定し、確実に中間素材の両端部を接合することができる。また所望する接合強度を確保し、金属リングにおける引張強度、疲労強度等の特性を得るようにすることができる。
【0033】
本発明の分断工程は、前記接合工程にて接合部位で横並びに繋がった状態から分断して一環の金属リングを分断する工程である。分断する方法としては、接合工程による接合強度にもよるが、接合して繋がった複数の金属リングの接合部分の一部を広げるようにして個々に分断しても良いし、必要に応じてせん断または溶断等にて切り離して個々の金属リングとしても良い。
【0034】
本発明においては、金属製素材から中間素材を切り出す切断工程や中間素材の両端部を接合する接合工程において、複数の中間素材を切断工程や接合工程で処理することができるため、薄板状で幅広のフープ状によらず生産性を確保したまま、金属リングを製造することができる。
また本発明で製造される金属リングは、薄板の幅広のフープ材から製造される金属リングと何ら機械特性が劣ることない。またむしろ棒材で製造すれば、棒材まで圧延にて製造していることから、コーナー面が圧延により緩やかにカーブして成形されており、薄板の幅広のフープ材ように切断する際に生じる切断バリが無いこと、フープ材の幅方向に生じる切断屑の発生が無い。
さらに、棒材や管状からの製造方法では生産性を確保するために複数箇所の切断や複数の溶接を行うためには、大掛かりは設備やスペースが必要になるが、本発明によれば、極力小型化でき、かつ複数の中間素材へ切断、かつ複数の中間素材を溶接することができるため、生産性を維持しながら製造することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づいて本発明の金属製リングの製造方法を説明する。
金属製リングを製造するための金属素材を準備するために、0.5%C−0.73%Si−0.60%Mnの機械構造用鋼を30kgVIMにて溶解し、鋳造して鋼塊を製造した。そして、得られた鋼塊を鍛伸にてφ50、長さ1200mmにし、鍛伸された鋼塊のトップとボトムを切断し、長さ1000mmにした。その後、860℃で焼鈍処理をおこない1100℃で熱間圧延にてφ9.0の熱延コイルを製造した。さらに、860℃にて焼鈍した後、酸洗処理にて酸化スケールを除去した。その後、冷間ダイス引抜と860℃の焼鈍を繰り返しておこないφ6.0の伸線コイルを製造した。
そして、焼鈍、酸洗、ダイス引抜を行ってφ4.75の伸線コイルにした。この伸線コイルを用いて薄板圧延をおこない厚さ0.4mm、板幅10mmの寸法に圧延してコイル状の金属素材とした。
【0036】
次に金属製素材から金属リングまで製造する方法を以下に説明する。
図1に示すとおり、前記金属製素材を螺旋状に捲いて円筒状を形成する捲き付け工程と、前記捲き工程にて螺旋状に捲かれた金属製素材を円筒状のまま円筒面状の適当な1箇所の位置で円筒の中心軸に平行な方向に切断して、横並びに整列する複数の細長状の中間素材を複数製造する切断工程と、前記横並びに整列する複数の細長状の中間素材に対し、少なくとも一方の前記切断工程による切断面を中間素材がリング状となるようにする位置合わせ工程と、前記位置合わせ工程で突き合わさった中間素材の両端部を溶接してひとつひとつの中間素材を無端状に接合しリングとする接合工程と、さらに前記接合工程で接合された複数のリング状素材が接合部位で横並びに繋がった状態から分断してひとつひとつのリングとする分断工程を行った。
【0037】
まず上述した金属製素材を螺旋状に捲いて円筒状に形成する捲き付け工程を行う。
捲き付け工程は、
図2、
図3に示すような円形土台1を用いて金属製素材W1を捲き付けた。
前記円形土台1は、長さが30cmで断面が半円形状からなる2つの半円形土台1a及び1bからなっており、二つの半円形土台はそれぞれ外円周部10a及び10bと平面部11a及び11bを有している。そして、半円形土台1a及び1bの平面部11a及び11bとの間が平行で幅0.5cmの隙間Dをなすように設置されている。
これにより、半円周部10a及び10bからなる円形土台1の外周長が100cmの円形をなすように構成されている。
また半円形土台1a及び1bは、それぞれが独立して円形土台1の中心軸1Aの方向に移動できるとともに、平面部11a及び11bがなす隙間Dが等間隔のまま距離を拡縮できるように移動することもできるような機構を有している。さらに2つの半円形土台1a及び1bとが隙間Dと外円周部からなる外周を保持したまま円形土台1が回転しながら中心軸1Aの方向に伸縮可能になっている(図示しない)。
【0038】
半円形土台1a及び1bの外円周部10a及び10bの外方には、各半円形土台の外円周部を押圧する押付ロールR1、R2が設けられており、前記押付ロールを支持しているシリンダー機構により、エアーによる押圧力を調整可能にしてある。また押圧ロールが、前記半円形土台の外円周部から離脱又は密着することもできる。また押圧ロールR1、R2は前記円形土台1に押圧しつつ、円形土台1の回転に同調しながら中心軸1Aを中心に回転することができる。
【0039】
まず前記円形土台1へ金属製素材W1を捲き付けるにあたり、金属製素材W1の先端を前記円形土台1の中心軸1Aと金属製素材W1の側面W4とが垂直に対して、角度αがsinα=金属製素材W1の幅/中間素材の長さとなるように半円形土台1a(又は1b)と押圧ロールR1(又はR2)の間の隙間に密着させた。このときの角度αは、1.825度であった。
次に、金属製素材1が押付ロールR1に押圧されながら、半円形土台1a、1bを押付ロールR1、R2とともに中心軸1Aを中心に
図2(a)に図示した時計周りに回転させ、金属製素材W1が半円形土台1a、1bと押圧ロールR1、R2の間の隙間を通りつつ、半円形土台1a、1bの円周に捲き付くように加工した。この際、先に円筒土台1に捲かれた金属製素材W1aと次に円形土台1に捲かれる金属製素材W1bとが重なり合わないようにした。また捲き付けられた金属製素材W1の間隙が0.1mm以内になるように捲き付けた。これを連続して行い、円形土台1の外周面上に金属製素材W1を円筒状に捲き付けた(
図3)。
【0040】
次の切断工程では、前記円形土台1に捲き付けた金属製素材W1を押圧ロールR1及びR2にて固定された状態で、円形筒土台1の隙間Dに沿ってYAGレーザ(ニッセイ機工製PLASMAFIX51)を用いて切断した(
図4)。その際のYAGレーザの電極は1mmφ、ノズルは1.2mmφでアルゴンガスを用いた。
これにより、前記円形土台1に捲き付けられた金属製素材W1は、横並びに整列する複数の細長状の中間素材W2(幅10mm、長さ314mm)に分断されことになる。そして、複数の中間素材W2は押付ロールR1及びR2にて先端と後端を固定された状態となる。
したがって、中間素材W2を1本ずつ必要な長さ毎に切断する必要がなく、複数本を一度に切断できるため、切断回数が少なくて済む。また前記円形土台1に捲き付けられた金属製素材W1は、一定の角度で捲き付けられているため、得られる中間素材W2の切断角を全て一定で切断できる。
この切断工程により、中間素材W2のそれぞれの長手方向の中心線Eは、前記円筒土台1の外周面を1周する間に、少なくとも中間素材W2の幅の長さだけズレていることになる(
図5)。
【0041】
次に位置合わせ工程では、それぞれの中間素材W2の先端W2tの中心線E2tと後端部W2bの中心線E2bが、一致するように移動させ切断面同士が突き合わられて中間素材W2がリング状になるように位置決めする。
そのためには、切断後の円形土台1に複数の中間素材W2の先端部W2t及び後端部W2bを押圧ロールで保持したまま、半円形土台1a、1bのいずれか又は両方を中心軸1Aに沿って移動させ、中間素材W2の先端部と後端部をズラした。
これにより、先端W2tの中心線E2tと後端部W2bの中心線E2bが一直線となる(
図6)。
この方法をとることにより、中間素材W2の両端部の一本毎に位置合わせして次工程の接合工程を行う必要がない。
特に金属製素材が広幅の薄板から切断されたものではなく、線材を圧延して薄板に成形したものであれば、金属製素材時の側面部(長手方向の端部)の面取りが不要である。
なお前工程の位置合わせ工程では、中間素材の両端部の隙間が0.1mm以下になるようにした。
【0042】
まず中間素材W2の状態は、前工程の位置合わせ工程で横並びに整列しているとともに、その両端部W2t、W2bの中心線E2t、E2bが一直線を有しているものの、その両端部W2t、W2bの切断面には、若干の傾斜が生じる。そのため、複数の中間素材W2の突き合わせされた切断面は、円形土台1の中心軸1Aに対し、1.825度の角度を有し、正面から見ると階段状にギザギザとなる(
図7)。したがって、V字状の隙間の存在を考慮して溶接を行う必要がある。
【0043】
次に接合工程では、前記位置合わせ工程で位置決めされた中間素材W2の両端部W2t及びW2bをプラズマ溶接にて接合した(
図8)。なお本実施例では、溶接時の電極は1mmとし、ノズルは電極より少し大きく(1.2mm)で行った。また溶接時に酸化しないようにアルゴンなどのシールドガスを10L/min流しながら溶接をおこなうことで溶接部の酸化を抑制した。
【0044】
前記溶接工程で、中間素材W2を整列し、接合強度を強固にするように溶接したため、溶接部にて繋がった複数の金属リングW3になっていた。そこで、押圧ロールによる押付を解除、離脱して繋がった金属リングを円形土台から抜き取った。そして、金属リングW3の接合部の一部の位置で隙間を広げるようにして個々に分断した(分断工程、
図9)。
なお溶接条件によっては、溶接部分だけを溶接する方法を用い、分断工程を省略することもできるが、高い接合強度を優先した結果として接合工程後に、金属リング同士が強固に繋がった状態となった場合には、必要に応じてせん断または溶断等にて切り離して個々の金属リングW3とすることもできる。
【0045】
さらに本実施例の位置合わせ工程では、複数の中間素材W2の突き合わされた切断面が円形土台1の中心軸1Aに対し、正面から見ると階段状にギザギザとなっているが、複数の中間素材W2の切断面が一直線状、かつ円形土台1の中心軸に対して平行になるように中間素材W2を位置決めしてもよい(
図10)。この場合は、次工程の接合を一直線に連続することができる。
【0046】
このように、金属製素材を円筒状に捲き付けて、そのままの形状を保持しながら切断して複数の中間素材となし、各々の中間素材の切断面を横移送して両端の中心線を突き合わせて一直線状にしてから、そのまま切断面を接合するので、切断や位置決め、そして接合を連続して行うことにより、効率的に複数の金属リングを製造することができる。
また接合に適した位置決め条件である式1内に抑えることで、必要な接合強度を得ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 円形土台
1a、1b 半円形土台
1A 円形土台の中心軸
R1、R2 押付ロール
10a、10b 半円形土台の外円周部
11a、11b 半円形土台の平面部
D 隙間
W1 金属製素材
W1a 金属製素材の先端
W1b 金属製素材の後端
W2 中間素材
W2t 中間素材の先端
W2b 中間素材の後端
E 中間素材の中心線
E2t 中間素材の先端の中心線
E2b 中間素材の後端の中心線
W3 金属リング