(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、以下、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0015】
[密着防止膜付きガラス板]
図1は、本発明の実施形態で使用される密着防止膜付きガラス板の概略構成を示す断面図である。
図1に示される密着防止膜付きガラス板1は、ガラス板2と、その表面に形成された密着防止膜3で構成される。
【0016】
ここで用いられるガラス板2は、その表面にガラスが露出したガラス板であれば特に限定されずに挙げられる。特に、ガラス板を積層して輸送又は保管されるような、半導体製品の製造に関連して使用されるガラス板、例えば、TFT回路基板用のガラス板、光学多層膜基板等に適用されるのが好ましい。
【0017】
本実施形態に用いられるガラス板は、その用途に応じて、材質および形状等が適宜選択される。ガラス板の材質としては、通常のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリボロシリケートガラス、石英ガラス等が挙げられる。ガラス板としては、紫外線や赤外線を吸収するガラスや強化ガラスからなるガラス板を用いることも可能である。
【0018】
ガラス板の厚さは、得られる密着防止膜付きガラス板の用途により適宜選択できる。例えば、液晶ディスプレイ用等のFPD用ガラス板に使用されるものである場合、その厚さは0.7mm以下であることが好ましい。ガラス板の厚さの下限値は特に限定されないが、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。ガラス板1の厚さが0.1mm以上であれば、後述するガラス板を縦置きの梱包容器に載置したとき、ガラス板が撓みにくくなり、損傷を抑制できる。また、ガラス板は、複数枚のガラス板が中間膜を挟んで接着された合わせガラスであってもよい。
【0019】
図1に示される密着防止膜付きガラス板1において、密着防止膜3はガラス板1の一方の主面の全領域に形成されている。本実施形態の密着防止膜付きガラス板においては、密着防止膜は、ガラス板の一方または両方の主面の全領域に配設されてもよい。必要に応じて、端面を含むガラス板の表面が全て覆われるように密着防止膜が形成されていてもよい。
【0020】
本実施形態に用いられる密着防止膜3は、ガラス板2の表面に設けられた単層構造の膜である。ここで、密着防止膜3は、炭素数が8以上の疎水性基を有するアンモニウム塩若しくはピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤、平均分子量が200〜100万のカチオンポリマー又は1分子内にカチオン性基およびアニオン性基を有する両性イオン化合物から構成される膜である。
【0021】
ガラス板の表面には負電荷に帯電しやすいシラノール基(−Si−OH)が存在する。ガラス板に上記陽イオン界面活性剤(A)、カチオンポリマー(B)や両性イオン化合物(C)を接触させると、ガラス板のシラノール基と陽イオン界面活性剤(A)、カチオンポリマー(B)や両性イオン化合物(C)が有するカチオン性基が結合する。この際、陽イオン界面活性剤(A)においては疎水性基がガラス板の表面とは反対側である雰囲気中に向かって整列して単分子膜として密着防止膜が形成される。カチオンポリマー(B)においては、シラノール基との結合に供さないカチオン性基がガラス板の表面とは反対側である雰囲気中に向かって整列して密着防止膜が形成される。両性イオン化合物(C)においてはアニオン性基がガラス板の表面とは反対側である雰囲気中に向かって整列して単分子膜として密着防止膜が形成される。
【0022】
図1に示す密着防止膜3においては、密着防止膜3が陽イオン界面活性剤(A)からなる場合には、ガラス板2と接する面である界面3aに上記シラノール基と結合したカチオン性基が存在しその反対側の面である密着防止膜3の表面3bに疎水性基が存在する。密着防止膜3がカチオンポリマー(B)からなる場合には、ガラス板2との界面3aに上記シラノール基と結合したカチオン性基が存在しその反対側である密着防止膜3の表面3bにもカチオン性基が存在する。両性イオン化合物(C)からなる場合には、ガラス板2と接する面である界面3aに上記シラノール基と結合したカチオン性基が存在しその反対側の面である密着防止膜3の表面3bにアニオン性基が存在する。
【0023】
密着防止膜3は、上記構造を有することで、ガラス板1の複数枚を積層する際にガラス板間に設けられる合紙とガラス板1とが貼り付かないように密着性を改善したものである。このように合紙とガラス板1との密着性が改善されるのは、陽イオン界面活性剤(A)においては、ガラス板1の表面3bに疎水性基が整列して形成されてガラス板との滑り性が改善されるため、また、カチオンポリマー(B)及び両性イオン化合物(C)においては、ガラス板1の表面3bが空気中の水分を強く吸着することが可能であり、該吸着された水の作用により静電気を逃がしやすくなって帯電しにくく、その表面の静電気量を低く保つことが可能となるためであると考えられる。
【0024】
(陽イオン界面活性剤(A))
密着防止膜を構成する陽イオン界面活性剤(A)は、炭素数が8以上の疎水性基を有する4級アンモニウム塩又はピリジニウム塩であれば特に限定されずに使用でき、その疎水性基の炭素数が大きくなるとガラス表面の被覆性が高くなり、滑り性の改善度合いが向上するため、疎水性基の炭素数が12以上であることが好ましい。このような疎水性基としては、典型的には炭素数が8〜18のアルキル基が挙げられ、特に、炭素数が16〜18のアルキル基が好ましい。
【0025】
なお、陽イオン界面活性剤(A)においては、疎水性基の炭素数を上記8〜12の範囲とすることで、必要に応じて、密着防止膜付きガラス板から密着防止膜を除去して使用する場合には、除去も容易に行える。除去の方法として、具体的には、アルカリ性洗剤でスクラブ洗浄する等の方法が挙げられる。
【0026】
ここで、4級アンモニウム塩としては、例えば、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンジルトリアルキルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウムなどが挙げられる。また、ピリジニウム塩としては、例えば、塩化オクチルピリジニウム、塩化デシルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化テトラデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化オクタデシルピリジニウム等のピリジニウム塩等が挙げられる。このようなピリジニウム塩は、ガラス板の撥水性を向上させることができ、特に塩化ヘキサデシルピリジニウム(別名:塩化セチルピリジニウム)は大量生産され安く入手しやすい点で好ましい。
【0027】
(カチオンポリマー(B))
密着防止膜を構成するカチオンポリマー(B)は、平均分子量が200〜100万の分子内に複数のカチオン性基を有し実質的にアニオン性基を有しないカチオンポリマーである。なお、本明細書において平均分子量は、特に断りのない限りゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量(MW)を意味する。
【0028】
カチオンポリマー(B)におけるカチオン性基として、具体的には、アミノ基、4級アンモニウム基等が挙げられる。カチオンポリマー(B)は、実質的にアニオン性基を有しない。カチオンポリマー(B)が、実質的にアニオン性基を有しないとは、例えば、原料化合物や重合開始剤等に含まれるアニオン性基が若干残留している程度の量を除いて、アニオン性基を含有しないことをいう。
【0029】
カチオンポリマー(B)が有するカチオン性基の数は、例えば、
図1に示す密着防止膜3において、ガラス板2との界面3aに上記シラノール基と結合したカチオン性基が存在しその反対側である密着防止膜3の表面3bにもカチオン性基が存在する構造が取れる数であればよい。カチオンポリマー(B)が有するカチオン性基の数は通常、分子量1000あたりの平均のカチオン性基の個数で示される。
【0030】
以下、カチオンポリマー(B)が分子量1000あたりに有する平均のカチオン性基の個数を「カチオン性基密度」といい、単位を[eq/MW1000]で示す。カチオンポリマー(B)におけるカチオン性基密度は、具体的には、3〜25[eq/MW1000]が好ましい。
【0031】
カチオンポリマー(B)としては、三次元ネットワーク構造を有する網状ポリマー(B1)であってもよく、側鎖を有してもよい鎖状ポリマー(B2)であってもよい。カチオンポリマー(B)の好ましい平均分子量およびカチオン性基の数については、カチオンポリマー(B)の分子構造によるところが大きい。以下、網状ポリマー(B1)および鎖状ポリマー(B2)の分類にしたがって、カチオンポリマー(B)を説明する。
【0032】
カチオンポリマー(B)が網状ポリマー(B1)である場合、通常、カチオン性基は網状ポリマー(B1)の表面および内部に存在する。ここで、例えば、
図1に示す密着防止膜3においてガラス板2との界面3aおよびその反対側の面である表面3bに存在するカチオン性基はいずれも、網状ポリマー(B1)が表面に有するカチオン性基と考えられる。したがって、網状ポリマー(B1)を用いる場合には、カチオン性基密度が比較的大きい、具体的には、10〜25[eq/MW1000]の網状ポリマー(B1)が好ましく、15〜25[eq/MW1000]がより好ましい。なお、カチオンポリマー(B)が網状ポリマー(B1)である場合、密着防止膜を構成する網状ポリマー(B1)は、その1種または2種以上であってよい。
【0033】
また、網状ポリマー(B1)の平均分子量は、200〜10万が好ましく、300〜10000がより好ましい。網状ポリマー(B1)においては、カチオン性基密度が同じ場合、平均分子量が小さい方が、1分子あたりの比表面積が大きくなり、内部に存在するカチオン性基の数に対する表面に存在するカチオン性基の数の割合が高くなることから、平均分子量は上記範囲が好ましい。すなわち、網状ポリマー(B1)においては、カチオン性基密度が同じ場合、平均分子量が小さい方が、得られる密着防止膜は密着防止性能に優れるといえる。
【0034】
なお、網状ポリマー(B1)においては、平均分子量を上記範囲とすることで、必要に応じて、密着防止膜付きガラス板から密着防止膜を除去して使用する場合には、除去も容易に行える。除去の具体的な方法は、上記陽イオン界面活性剤(A)の場合と同様にできる。
【0035】
網状ポリマー(B1)として、具体的には、1,2,3級アミンを含むポリエチレンイミン等が挙げられる。ポリエチレンイミンとしては、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、いずれも日本触媒社製の商品名として、エポミンSP−003(平均分子量;約300、カチオン性基密度;23.2[eq/MW1000])、エポミンSP−006(平均分子量;約600、カチオン性基密度;23.2[eq/MW1000])等が挙げられる。
【0036】
密着防止膜が網状ポリマー(B1)で構成される場合、その膜厚は分子径と略同等と考えられる。具体的には、網状ポリマー(B1)からなる密着防止膜の膜厚は、概ね0.5〜2.5nmである。
【0037】
カチオンポリマー(B)が鎖状ポリマー(B2)である場合、カチオン性基は主鎖に存在する場合と側鎖に存在する場合がある。いずれの場合も、鎖状ポリマー(B2)は、カチオン性基の一部が密着防止膜3のガラス板2との界面3aに存在し、カチオン性基の別の一部が密着防止膜3の表面3bに存在するように主鎖が折りたたまって密着防止膜3を構成する。
【0038】
鎖状ポリマー(B2)において側鎖にカチオン性基を有する場合、カチオン性基が存在する位置について主鎖にカチオン性基を有する場合に比べて自由度が高く、密着防止膜3の表面3bにあるカチオン性基が内部に隠れてしまう場合がある。側鎖のカチオン性基の位置を制御することは困難であることから、鎖状ポリマー(B2)はカチオン性基を主鎖に有することが好ましい。なお、カチオンポリマー(B)が鎖状ポリマー(B2)である場合、密着防止膜を構成する鎖状ポリマー(B2)は、その1種または2種以上であってよい。さらに、鎖状ポリマー(B2)の1種以上と網状ポリマー(B1)の1種以上を組み合せて密着防止膜を構成してもよい。
【0039】
鎖状ポリマー(B2)を用いる場合、その平均分子量は1000〜100万が好ましく、1万〜10万がより好ましい。また、鎖状ポリマー(B2)を用いる場合、カチオン性基密度は、3〜25[eq/MW1000]が好ましく、5〜20[eq/MW1000]がより好ましい。なお、鎖状ポリマー(B2)においては、平均分子量を上記1000〜5万の範囲とすることで、必要に応じて、密着防止膜付きガラス板から密着防止膜を除去して使用する場合には、除去も容易に行える。除去の具体的な方法は、上記陽イオン界面活性剤(A)の場合と同様にできる。
【0040】
鎖状ポリマー(B2)として具体的には、主鎖にカチオン性基を有する鎖状ポリマー(B2)については、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合体塩、ジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン縮合体塩、ジシアンジアミド-ジエチレントリアミン縮合体塩、ジシアンジアミド−ホルマリン縮合体塩等が挙げられる。
【0041】
また、側鎖にカチオン性基を有する鎖状ポリマー(B2)として具体的には、ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級塩)、トリメチルアンモニウムアルキルアクリルアミド重合体塩、ポリアリルアミン、ポリビニルアミジン等が挙げられる。
【0042】
これら鎖状ポリマー(B2)としては市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、PDAC(商品名FPA100L、センカ社製、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、平均分子量;2万、カチオン性基密度;6.2[eq/MW1000])、DE(商品名KHE104L、センカ社製、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合体塩、平均分子量;10万、カチオン性基密度;7.3[eq/MW1000])、DNE(商品名KHE100L、センカ社製、ジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン縮合体塩、平均分子量;10万、カチオン性基密度;8.1[eq/MW1000])、PQEM((商品名FPV1000L、センカ社製、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級塩)、平均分子量;不明、カチオン性基密度;3.7[eq/MW1000])等が挙げられる。
【0043】
密着防止膜が鎖状ポリマー(B2)で構成される場合、上記の通りカチオン性基の一部がガラス基板との界面に存在し、カチオン性基の別の一部が密着防止膜の表面に存在するように分子の主鎖が折りたたまって密着防止膜を構成することから、その膜厚は、分子鎖長とカチオン性基密度等に分子設計により適宜調整できる。
【0044】
(両性イオン化合物(C))
密着防止膜を構成する両性イオン化合物(C)は、1分子内にカチオン性基およびアニオン性基を有する化合物であれば特に制限されない。また、密着防止膜を構成する両性イオン化合物(C)は、1種または2種以上であってよい。
【0045】
カチオン性基は、水等の溶媒に溶解させたときにカチオンとなる基であり、例えば、アミノ基、4級アンモニウム基等が挙げられる。このとき、アミノ基はアンモニア、1級アミン、2級アミンから水素を除去した1価の官能基であり、それぞれ1級アミン、2級アミン、3級アミンを形成する。また、4級アンモニウム基は4級アンモニウムカチオンを形成する。これらのなかでも、電離度及び帯電性の観点から1級アミン、4級アンモニウム基が好ましく、4級アンモニウム基が特に好ましい。
【0046】
アニオン性基は、水等の溶媒に溶解させたときにアニオンとなる基であり、例えば、カルボキシ基(−COOH)、スルホ基(−SO
3H)等が挙げられる。上記のとおり、両性イオン化合物(C)からなる密着防止膜においては、その表面にアニオン性基が位置し、アニオン性基に水が吸着することで帯電防止性能を得ている。したがって、アニオン性基としては、水を吸着する能力の高い、すなわち電離度が大きい(pKaが小さい)基が好ましい。例示したアニオン性基のなかではスルホ基(−SO
3H)が好ましい。
【0047】
両性イオン化合物(C)が有するカチオン性基およびアニオン性基の数は、それぞれ1または2が好ましく、合計で3以下が好ましい。より好ましくは、両性イオン化合物(C)が1分子内に有するカチオン性基およびアニオン性基の数は各1個である。
【0048】
さらに、両性イオン化合物(C)は、直鎖状の分子構造を有し、分子鎖の両末端にそれぞれカチオン性基とアニオン性基を有する化合物が好ましい。両性イオン化合物(C)がこのような分子構造を有することで、該化合物により形成される密着防止膜は、分子が同一方向に規則正しく緻密に整列した単分子膜となり得る。これにより帯電防止性能の高い膜が得られる。
【0049】
両性イオン化合物(C)の分子量は特に制限されない。密着防止膜形成時における溶媒への溶解性が良好である、分子が同一方向に規則正しく整列しやすい等の観点から、分子量は概ね70〜200の範囲にあることが好ましい。また、上記分子量の範囲とすることで、必要に応じて、密着防止膜付きガラス板から密着防止膜を除去して使用する場合には、除去も容易に行える。除去の方法として、具体的には、pH4以下の酸性溶液等に浸漬して洗浄する、アルカリ洗剤スクラブ洗浄する等の方法が挙げられる。
【0050】
両性イオン化合物(C)として具体的には、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、リシン、カルニチン、ベタイン(トリメチルグリシン)、タウリン、クレアチン、β−アラニン等が挙げられる。これらの両性イオン化合物(C)の構造式を表1に示す。
【0052】
これらのなかでも、直鎖状であり、カチオン性基とアニオン性基を各1個ずつ有し、分子鎖の両末端にそれぞれカチオン性基とアニオン性基を有する化合物として、カルニチン、ベタイン、タウリン、β−アラニン等が好ましい化合物として挙げられる。
【0053】
密着防止膜が両性イオン化合物(C)で構成される場合、その膜厚は単分子膜の膜厚であり、両末端にカチオン性基とアニオン性基を有する直鎖状化合物の場合には、分子長が膜厚と略等しくなる。具体的には、両性イオン化合物(C)からなる密着防止膜の膜厚は、概ね0.6〜1.0nmである。
【0054】
このような本発明の実施形態で使用される密着防止膜付きガラス板は、例えば、以下に示す本発明の製造方法のように、ガラス板上への密着防止膜の形成を簡易な装置により簡便な操作で行うことが可能である。また、本発明の実施形態で使用される密着防止膜付きガラス板においては、密着防止膜が比較的安定でありかつ十分な帯電防止機能を有する。また、必要に応じて、密着防止膜の除去が求められる用途においては、そのような設計変更が容易にできる。
【0055】
[密着防止膜付きガラス板の製造方法]
上記の密着防止膜付きガラス板の製造方法について、以下に説明する。
本発明の実施形態において密着防止膜付きガラス板の製造方法は、ガラス板の表面に、炭素数が8以上の疎水性基を有する4級アンモニウム塩若しくはピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤(界面活性剤(A))、平均分子量が200〜100万のカチオンポリマー(カチオンポリマー(B))または1分子内にカチオン性基およびアニオン性基を有する両性イオン化合物(両性イオン化合物(C))を含有する溶液を接触させて塗膜を得、前記塗膜を乾燥させて、前記両性イオン化合物または前記カチオンポリマーからなる密着防止膜を形成する工程を有する。
【0056】
上記製造方法において、両性イオン化合物(C)またはカチオンポリマー(B)の溶液は、両性イオン化合物(C)またはカチオンポリマー(B)を溶質として、これらを溶解可能な溶媒を用いて作製される。該溶媒としては、両性イオン化合物(C)またはカチオンポリマー(B)を溶解しこれらおよびガラス板と反応しないものであれば特に制限されない。上記溶媒として、具体的には、水、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶剤の1種または2種以上が挙げられる。これらのなかでも、水またはエタノール等の水溶性有機溶剤と水との混合物が好ましい。
【0057】
上記溶液における、陽イオン界面活性剤(A)または両性イオン化合物(C)の含有量は、溶液1L中のモル濃度として、0.01mmol/L〜100mmol/Lの範囲となるように調整することが好ましい。ガラス板表面を適度に覆いながら過剰とならないようにするため、上記陽イオン界面活性剤(A)または両性イオン化合物(C)の含有量は、0.1〜10mmol/Lがより好ましい。
【0058】
上記溶液における、カチオンポリマー(B)の含有量は、カチオン性基の濃度(当量)として、0.01meq/L〜100meq/Lの範囲となるように調整することが好ましい。ガラス板の表面を適度に覆いながら過剰とならないようにするために、上記カチオンポリマー(B)のカチオン性基の濃度(当量)は、0.1meq/L〜10meq/Lがより好ましい。なお、溶液1L中にカチオン性基を1mol有する場合に、その濃度を1当量とし、1eq/Lと表す。
【0059】
上記溶液のpHについては、酸性〜アルカリ性、例えば、pH3〜12程度の範囲で適宜調整が可能である。ガラス板表面のシラノール基の電離を促進しマイナス帯電させることで静電的な結合力をより強固にしつつ、陽イオン界面活性剤(A)、カチオンポリマー(B)または両性イオン化合物(C)の付着量を増加できる点で、溶液のpHは6〜12が好ましく、10〜11がより好ましい。
【0060】
溶液のpH調整は、酸またはアルカリを用いて行う。設備の腐食がされにくい、洗浄後の残留が少ない等の点からアンモニア、硫酸等が好ましい。
【0061】
次いで、上記のようにして調製された溶液を、密着防止膜を形成するガラス板の表面に接触させて塗布する。塗布方法としては、ディップコート、スプレーコート、スピンコート、スキージコート、スポンジ等による塗布等の公知の膜形成方法に使用される塗布方法が挙げられる。
【0062】
上記塗布の操作において、上記調製された溶液をガラス板の表面に接触させるだけで、該溶液中に含まれる陽イオン界面活性剤(A)のカチオン性基、カチオンポリマー(B)のカチオン性基または両性イオン化合物(C)のカチオン性基がガラス板の表面側に、陽イオン界面活性剤(A)の疎水性基、カチオンポリマーのガラス板側に向いていないカチオン性基または両性イオン化合物(C)のアニオン性基がその反対側である雰囲気中に向かって整列して、溶媒を含む塗膜となる。これは、ガラス板の表面に存在するシラノール基(−Si−OH)が負電荷に帯電しやすいため、接触させるだけで正電荷を帯びている陽イオン界面活性剤(A)のカチオン性基、カチオンポリマー(B)のカチオン性基または両性イオン化合物(C)のカチオン性基がガラス板の表面側に静電的にひきつけられるためである。
【0063】
上記塗布操作により得られる塗膜は、溶媒を含む上記溶液の層である。上記塗布操作の後、上記のようにガラス板の表面に陽イオン界面活性剤(A)、カチオンポリマー(B)または両性イオン化合物(C)を整列させた状態で、乾燥により塗膜中の溶媒を除去することで、均質な密着防止膜を容易に形成できる。
【0064】
乾燥の方法としては、溶媒除去に通常用いられる、加熱やエアブロー等の乾燥方法が特に制限なく適用できる。加熱乾燥を行う場合には、50〜80℃に加熱することが好ましく、エアブローでは15〜30℃のエアーを吹き付けることが好ましい。
【0065】
なお、上記溶液を用いたガラス板上への塗膜の形成と、乾燥の間に、塗膜を水洗する操作を加えることが好ましい。水洗の方法としては、水浴に浸漬する、シャワーにより水洗する等、通常、ガラス板を水洗する方法が特に制限なく適用可能である。水洗により余分な薬剤が除去され、乾燥後に得られる密着防止膜が透明になり欠点検査機で異常が出なくなるとなる。
【0066】
一般に、ガラス板の製造においては、最終工程として水洗および必要に応じて乾燥する操作を数回繰り返すことがよく行われる。このようなガラス板の製造において、上記水洗と任意の乾燥の工程の1回、好ましくは最後の水洗工程以外の1回を、上記陽イオン界面活性剤(A)、カチオンポリマー(B)または両性イオン化合物(C)の溶液の塗布、乾燥に置き換えることで、密着防止膜付きガラス板が可能である。この方法によれば、通常の製造ラインを用いて密着防止膜付きガラス板が可能であり、経済的に非常に有利である。なお、この密着防止膜付きガラス板においては、水洗により除去されることはない。
【0067】
このように本発明の製造方法によれば、ガラス板の表面に密着防止膜を形成する際の、溶液の塗布、乾燥は、簡易な装置により簡便な操作で達成でき、さらに、排水規制に抵触することもなく、環境負荷を増大させることのなく行うことができる。
【0068】
以上、本発明で用いる密着防止膜付きガラス板および密着防止膜付きガラス板の製造方法の実施形態を説明したが、これらに限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限度において、また必要に応じて、その構成を適宜変更できる。
【0069】
[合紙]
本実施形態で使用される合紙は、密着防止膜付きガラス板1を輸送や保管する際に、該ガラス板間に介在させるシートであり、ガラス板同士が直接接触することで生じるガラス板の割れや表面が傷付くこと、また汚染を防止するものである。
【0070】
この合紙は、上記機能を有するシートであればよく、原料としてバージンパルプやセルロース等を使用して得られるパルプが挙げられ、さらに、樹脂フィルム、樹脂シート及び発泡樹脂シート等を合紙として使用することもできる。
【0071】
合紙としては、その表面の平滑度が低いほどガラス板と密着しにくいため、通常、平滑度は3〜20秒のものが用いられる。しかしながら、本発明においては、ガラス板側から密着性の改善を施しているため、従来よりも平滑度の高い合紙を用いても十分に取り外すことができる。例えば、合紙の平滑度が10秒以上となるようなものであっても使用可能であり、平滑度が10秒〜30秒程度のものに適用可能である。なお、この平滑度は、JIS P 8119(1998年)で規定されるベック平滑度で定まるものである。
【0072】
[ガラス板積層体、ガラス板積層体の梱包方法]
ガラス板の輸送や保管の際には、上記のガラス板と合紙とを交互に積層してガラス積層体とし、これを容器に収容してから梱包してガラス板梱包体とする。ガラス板梱包体には、ガラス板を水平に積層する横置き型とガラス板を傾斜させて立てた状態で積層する縦積型とがあり、本発明はいずれの型にも適用できる。本実施形態においては、縦置き型を例に以下図面を参照しながら説明する。
【0073】
図2は、縦置き型のガラス板梱包容器12に密着防止膜付きガラス板1(以下、ガラス板1と略称することもある)を複数枚積層させたガラス板積層体10が梱包されたガラス板梱包体14の全体斜視図である。
【0074】
同図に示すガラス板梱包容器12は、基台となる台座16の上面に備えられた板状の搭載面18上に、ガラス板積層体10のガラス板1の下端面を接触させて載置する底受け板20が搭載面18に対して傾斜して固定されている。ガラス板梱包容器12の支柱22は底受け板20の主面(ガラス板1の下縁を載置する面)に対して90°〜100°、好ましくは約95°となるように搭載面18上に立設され、この支柱22にガラス板1の主面を受ける不図示の背受け板が立て掛けられて固定される。底受け板20及び上記背受け板には、ガラス板1を載置した際のガラス板1との接触による損傷を防止するため、ゴムや硬質の発泡性樹脂等のクッション性を有するシート材(不図示)が設けられている。
【0075】
台座16の搭載面18の後部にはフレーム24が立設され、このフレーム24に支柱22が支持されている。また、台座16の前面にはフォークリフトの爪(不図示)が挿抜される開口部26が備えられている。
【0076】
底受け板20は、搭載面18と底受け板20との間に配置された三角形状の底片28を介して搭載面18上に傾斜して載置される。また、底受け板20の主面は、ガラス板1を差込むための溝等が形成されない実質的に平坦なもので、表面にはシート材(不図示)が設けられている。底受け板20は、その主面が台座16の搭載面18に対して好ましくは5°〜25°、より好ましくは10°〜20°、特に好ましくは約18°に傾斜して配置される。これにより、ガラス板積載装置(不図示)によるガラス板梱包容器12へのガラス板1の積載時に、ガラス板1の位置決め作業が容易になる。また、各ガラス板1の主面は自重によって上記背受け板側の他のガラス板1の主面に接するので、各ガラス板1の主面間に無駄な隙間が生じることはない。さらに、載置するガラス板1の安定化を図ることができ、ガラス板1の前方(
図2の矢印Xの方向)へのずれや崩壊を防止し、併せて傷や割れの防止も図ることができる。
【0077】
ガラス板積層体10は、複数枚の矩形状のガラス板1と、複数枚の矩形状の合紙30とから構成され、ガラス板1と合紙30とが交互に積層されることにより構成される。
【0078】
ここで、ガラス板梱包容器12に搭載されるガラス板1及び合紙30の枚数は、例えば、第6世代(縦1500mm×横1800mm〜縦1500mm×横1850mm)のガラス板の場合は300枚以上、第7世代(縦1870mm×横2200mm〜縦1950mm×横2250mm)のガラス板の場合は250枚以上であることが好ましい。
【0079】
なお、ガラス板梱包容器12において、ガラス板1の下端面と接触するシート材としては、公知のシート材であれば特に限定されずに適用可能である。すなわち、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エラストマゴム、発泡性樹脂や、これらを組み合わせたシート材等が挙げられる。
【0080】
このとき、シート材のクッション性が高いと、ガラス板にかかる応力を効果的に低減できない場合があるため、上記ガラス板1を梱包する際に用いられるシート材は、クッション性を有していながら、適度な硬さと良好な滑り性を有する表面性状を備えた、高分子量ポリエチレンシート、発泡ポリエチレンシート、発泡ポリウレタンシート、等を用いたシート材が好ましい。
【0081】
そして、このようにガラス板積層体10をガラス板梱包容器12に収容し、これを一体的に固定し、梱包することで得られるガラス板梱包体14は、通常通り、この梱包体を輸送手段に積載して輸送したり、保管場所に載置して保管したりして、ガラス板の保管及び輸送を行うことができる。
【0082】
そして、保管や輸送を行った後、ガラス板を製品製造の部材として使用する際には、本発明のガラス板1の表面には密着防止膜が形成されており、ガラス板1と合紙との密着性を改善しているため、合紙の取り外しを容易に行うことができ、作業性を向上させることができる。
【0083】
なお、このガラス積層体10における、密着防止膜付きガラス板1と合紙30との組み合わせは、ガラス板と合紙との密着力が低い組み合わせのものが好ましい。例えば、ガラス板上に合紙を載せた状態で、合紙上から(1)エアー及びイオンを用いて合紙をガラス板に押し付けした直後の密着力が2.0kg/m
2以下となるもの、又は、(2)帯電装置を用いてガラス板を帯電させたときの密着力が12kg/m
2以下となる組み合わせが好ましい。ここで、密着力は、上記(1)押しつけ後又は(2)帯電後、すぐにバネばかりにより合紙を水平方向に引張ってガラス板から引きはがしたときの張力を測定し、この張力をガラス板の単位面積当たりの力に換算して算出されたものである。
【0084】
なお、上記(1)エアー及びイオンを用いて、合紙をガラス板に押し付ける場合は、例えばイオン発生器を備える送風装置から、イオンを含む空気を合紙30の中央から上空250mmから垂直に4.5m/sの速度で吹き付けることで合紙30を密着防止膜付きガラス板1に押し付けたものであり、上記(2)帯電装置を用いてガラス板を帯電させる場合は、例えば、コロナ帯電ガンを合紙30の中央から上空250mmの位置に固定し、−10kVの電圧を30秒間かけて帯電させたものである。ただし、上記(1)(2)は上記方法に限定されない。例えば、上記(1)は、エアーを合紙に吹き付けた後、イオン発生器から発生したイオンを合紙に吹き付けてもよい。上記(2)は、ローラ帯電等(ベルト帯電、ブラシ帯電等)の近接放電を用いた帯電装置でもよい。本明細書においては、上記(1)の条件で密着力を測定する方法を密着力測定方法1、上記(2)の条件で密着力を測定する方法を密着力測定方法2、と称することもある。
【実施例】
【0085】
以下、実施例および比較例に基づいてさらに本発明を詳細に説明する。
[各種溶液の調製]
<密着防止膜形成用の溶液1〜3>
両性イオン化合物(C)であるタウリンが1mmol/Lおよびアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、密着防止膜形成用の溶液1を調製した。この溶液1のpHは約10.5である。
【0086】
同様にして、溶液1におけるタウリンを共に両性イオン化合物(C)であるベタインおよびカルニチンにそれぞれ変更した以外は上記同様にして密着防止膜形成用の溶液2および溶液3を調製した。この溶液2および溶液3のpHは約10.5である。
【0087】
<密着防止膜形成用の溶液4>
カチオンポリマー(B)として網状ポリマー(B2)であるポリエチレンイミン(日本触媒社製エポミンSP−003(平均分子量約300、カチオン性基密度;23.2[eq/MW1000])、以下「PEI−300」と示す。)が1meq/Lの濃度になるように純水に溶解して、密着防止膜形成用の溶液4を調製した。この溶液4のpHは約10.5である。
【0088】
<密着防止膜形成用の溶液5>
カチオンポリマー(B)として網状ポリマー(B2)であるポリエチレンイミン(PEI;日本触媒社製エポミンSP−006(平均分子量約600)、カチオン性基密度;23.2[eq/MW1000]、以下「PEI−600」と示す。)が1meq/Lの濃度になるように純水に溶解して、密着防止膜形成用の溶液5を調製した。この溶液5のpHは約10.5である。
【0089】
<密着防止膜形成用の溶液6>
カチオンポリマー(B)として鎖状ポリマー(B1)であるジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合体塩(DE;商品名KHE104L、センカ社製、平均分子量;10万、カチオン性基密度;7.3[eq/MW1000])が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、密着防止膜形成用の溶液6を調製した。この溶液6のpHは約10.5である。
【0090】
<密着防止膜形成用の溶液7>
カチオンポリマー(B)として鎖状ポリマー(B1)であるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDACまたはPDADMAC;商品名FPA100L、センカ社製、平均分子量2万、カチオン性基密度;6.2[eq/MW1000])が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、密着防止膜形成用の溶液7を調製した。この溶液7のpHは約10.5である。
【0091】
<密着防止膜形成用の溶液8>
カチオンポリマー(B)として鎖状ポリマー(B1)であるポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級塩)(PQEM;商品名FPV1000L、センカ社製、平均分子量;不明、カチオン性基密度;3.7[eq/MW1000])が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、密着防止膜形成用の溶液8を調製した。この溶液8のpHは約10.5である。
【0092】
<密着防止膜形成用の溶液9>
カチオンポリマー(B)として鎖状ポリマー(B1)であるジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン縮合体塩(DNE;商品名KHE100L、センカ社製、平均分子量;10万以下、カチオン性基密度;8.1[eq/MW1000])が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、密着防止膜形成用の溶液9を調製した。この溶液9のpHは約10.5である。
【0093】
<密着防止膜形成用の溶液10>
陽イオン性界面活性剤である塩化セチルピリジニウム(CPC)が1mmol/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、密着防止膜形成用の溶液10を調製した。この溶液10のpHは約10.5である。
【0094】
(実施例1〜10)
表面研磨をした、470mm×370mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス基板の一方の主面の全領域に、上記で得られた密着防止膜形成用の溶液1の100mLをスポンジにより塗布し塗膜を形成した。該塗布後、20〜30秒放置した塗膜付きガラス基板をシャワーすることで水洗した後、塗膜をエアブロー(室温)で水滴を吹き飛ばすことで乾燥させて、ガラス板の一方の主面上に密着防止膜を形成し、密着防止膜付きガラス板1とした。
【0095】
得られた密着防止膜付きガラス板1の300枚を、ガラス板1と合紙とを交互に積層してガラス板積層体とし、縦置き型のガラス板梱包容器に収容し、梱包した。このとき、ガラス板1は密着防止膜が積層体の表側に来るようにして、合紙をその密着防止膜が設けられた主面に載せて、との操作を繰り返して積層させた。これにより、使用時に、合紙を取り外す際に、合紙のガラス板への密着性を改善して引き剥がすのが容易になる。
【0096】
密着防止膜形成用の溶液1に代えて上記で得られた密着防止膜形成用の溶液2〜10を用いた以外は、上記と同様にして、ガラス基板の一方の主面上に密着防止膜を有する密着防止膜付きガラス板2〜10を作製し、各ガラス板のガラス板梱包体を得た。
【0097】
(比較例1)
表面研磨をした、470mm×370mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス基板を、純水で洗浄した。このガラス基板は、表面が研磨後の状態であり、密着防止膜等は設けられていない。このガラス板を上記実施例と同様にして、ガラス板梱包体を得た。
【0098】
[密着力試験]
ポロンを敷いた測定台の上に、実施例5のガラス板5(PEI−600からなる密着防止膜を有するガラス板)及び比較例1のガラス板をそれぞれ固定し、該ガラス板上に合紙を載せた。その後、(1)エアーの吹き付け後、イオンで押し付けしたものと、(2)コロナ帯電ガンにより帯電させたものと、それぞれ2つの状態のものとした。
【0099】
上記(1)押しつけ後又は(2)帯電後、すぐにバネばかりにより合紙を水平方向に引張ってガラス板から引きはがしたときの張力を測定した。また、この張力をガラス板の単位面積当たりの力に換算して密着力とした。ここで、上記(1)エアー+イオンの押し付け条件では、イオンを含む空気を合紙の中央から上空250mmから垂直に4.5m/sの速度で吹き付けることで合紙をガラス板に押し付けて密着力の測定を行い(密着力測定方法1)、上記(2)帯電条件ではコロナ帯電ガンを合紙の中央から上空250mmの位置に固定し、−10kVの電圧を30秒間かけて帯電させて密着力の測定を行った(密着力測定方法2)その結果を表2及び
図3に示す。なお、
図3には、帯電直後の帯電量を静電電位測定装置(シシド静電気株式会社製、商品名:スタチロン DZ4)で測定した結果も併せて示した。
【0100】
【表2】
【0101】
この結果から、密着防止膜を設けたガラス板は合紙との密着性が改善され、合紙をガラス板から引き剥がす力が少なくて済み、作業性の向上に効果的であることが確認できた。
【0102】
なお、この密着力と帯電量とは少なからず関係しているものと考えられ、帯電量を小さくすることで密着性を改善できるものと考えられる。実施例1〜4、6〜9の密着防止膜を設けたガラス板は、比較例1のガラス板よりも帯電量を小さくできることも確認できており、合紙の引き剥がしを容易に行うことができると推察される。