特許第6384273号(P6384273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6384273置換元素の選択方法、電池正極材料の製造方法及び電池正極材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384273
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】置換元素の選択方法、電池正極材料の製造方法及び電池正極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20180827BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   H01M4/525
   C01G53/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-221378(P2014-221378)
(22)【出願日】2014年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-91633(P2016-91633A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2016年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉尾 里司
(72)【発明者】
【氏名】槙 孝一郎
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−147863(JP,A)
【文献】 特開2004−319268(JP,A)
【文献】 特開2009−224098(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/090029(WO,A1)
【文献】 特開2006−294393(JP,A)
【文献】 特開2008−147199(JP,A)
【文献】 特開2005−332713(JP,A)
【文献】 特開2013−125594(JP,A)
【文献】 特開2004−127675(JP,A)
【文献】 特開2016−064966(JP,A)
【文献】 特開平05−074451(JP,A)
【文献】 特開2010−080231(JP,A)
【文献】 特開2015−118898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01G 53/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiNi1−x(MはNiの置換元素であり、xは0<x<0.2を満たす。)で表される置換元素の選択方法であって、
第1の充電状態におけるLiNi1−xの安定構造のNi−O間距離A1と、前記第1の充電状態よりも充電された第2の充電状態におけるLiNi1−xの安定構造のNi−O間距離A2との差ΔA=A1−A2を算出する第1の算出ステップと、
前記第1の充電状態におけるLiNiOの安定構造のNi−O間距離B1と、前記第2の充電状態におけるLiNiOの安定構造のNi−O間距離B2との差ΔB=B1−B2を算出する第2の算出ステップと、
前記ΔAが前記ΔBよりも小さくなる前記置換元素を選択する選択ステップと
を有する、
置換元素の選択方法。
【請求項2】
前記LiNi1−xの安定構造及び前記LiNiOの安定構造を、密度汎関数理論に基づく平面波基底第一原理計算を利用して算出する、
請求項1に記載の置換元素の選択方法。
【請求項3】
一般式LiNi1−x−yCo(MはNiの置換元素であり、xは0<x<0.2を満たし、yは0<y<0.2を満たす。)で表される置換元素の選択方法であって、
第1の充電状態におけるLiNi1−x−yCoの安定構造のNi−O間距離A1と、前記第1の充電状態よりも充電された第2の充電状態におけるLiNi1−x−yCoの安定構造のNi−O間距離A2との差ΔA=A1−A2を算出する第1の算出ステップと、
前記第1の充電状態におけるLiNi1−yCoの安定構造のNi−O間距離B1と、前記第2の充電状態におけるLiNi1−yCoの安定構造のNi−O間距離B2との差ΔB=B1−B2を算出する第2の算出ステップと、
前記ΔAが前記ΔBよりも小さくなる前記置換元素の選択する選択ステップと
を有する、
置換元素の選択方法。
【請求項4】
前記LiNi1−x−yCoの安定構造及び前記LiNi1−yCoの安定構造を、密度汎関数理論に基づく平面波基底第一原理計算を利用して算出する、
請求項3に記載の置換元素の選択方法。
【請求項5】
前記第1の充電状態は、Liが引き抜かれていない状態であり、
前記第2の充電状態は、Liが66%引き抜かれた状態である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の置換元素の選択方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の置換元素の選択方法により置換元素を選択する選択工程と、
前記置換元素を有する電池正極材料を合成する合成工程と
を有する、
電池正極材料の製造方法。
【請求項7】
請求項3又は4に記載の置換元素の選択方法により選択された置換元素を含む電池正極材料であって、
iNi1−x−yCo(MはNiの置換元素であり、xは0<x<0.2を満たし、yは0<y<0.2を満たす。)におけるMがNa又はKである、
電池正極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換元素の選択方法、電池正極材料の製造方法及び電池正極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は高電圧・高容量であるため、高出力・小型化が求められるノートパソコン、携帯電話用の二次電池として、またハイブリット車等の車載用の電池として普及している。
【0003】
リチウムイオン電池は、正極、負極、電解質及びセパレータを有する。このうち正極の材料としては、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)が用いられている。中でもLiNiOはエネルギー密度が高いため、正極の材料として有望である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、LiNiOのサイクル特性は、LiCoOのサイクル特性と比較して劣っている。また、サイクル特性は、組成のみではなく、結晶子径、粒径、リチウム(Li)欠損、酸素(O)欠損等にも依存するため、有効な組成を実験的に見出すことは困難である。
【0005】
従来、LiNiOにおけるニッケル(Ni)の置換元素としては、チタン(Ti)を用いることにより、サイクル特性が向上することが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−187326号公報
【特許文献2】特開2010−108793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、サイクル特性が向上するメカニズムの解明は十分ではなく、有効な置換元素を効率的に見出す手法は未だ開発されていない。
【0008】
そこで、本発明の一つの案では、LiNiOのサイクル特性を向上させることが可能な置換元素を効率的に選択することができる置換元素の選択方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの案では、一般式LiNi1−x(MはNiの置換元素であり、xは0<x<0.2を満たす。)で表される置換元素の選択方法であって、第1の充電状態におけるLiNi1−xの安定構造のNi−O間距離A1と、前記第1の充電状態よりも充電された第2の充電状態におけるLiNi1−xの安定構造のNi−O間距離A2との差ΔA=A1−A2を算出する第1の算出ステップと、前記第1の充電状態におけるLiNiOの安定構造のNi−O間距離B1と、前記第2の充電状態におけるLiNiOの安定構造のNi−O間距離B2との差ΔB=B1−B2を算出する第2の算出ステップと、前記ΔAが前記ΔBよりも小さくなる前記置換元素を選択する選択ステップとを有する、置換元素の選択方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
一態様によれば、LiNiOのサイクル特性を向上させることが可能な置換元素を効率的に選択することができる置換元素の選択方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る置換元素の選択方法について、ニッケル酸リチウム(LiNiO)を正極の材料(以下「電池正極材料」という。)として用いた場合を例として説明する。
【0012】
本発明の第1実施形態に係る置換元素の選択方法は、一般式LiNi1−x(MはNiの置換元素であり、xは0<x<0.2を満たす。)で表される置換元素の選択方法であって、第1の算出ステップ、第2の算出ステップ及び選択ステップを有する。
【0013】
第1の算出ステップは、第1の充電状態におけるLiNi1−xの安定構造のNiとOとの結合距離(以下「Ni−O間距離」という。)A1と、第2の充電状態におけるLiNi1−xの安定構造のNi−O間距離A2との差ΔA=A1−A2を算出するステップである。第2の充電状態は、第1の充電状態よりも充電された状態である。すなわち、第2の充電状態は、第1の充電状態よりもLiNi1−xにおけるLiが引き抜かれた状態である。なお、以下、ΔAをNi−O間距離の変化量ともいう。
【0014】
置換元素としては、特に限定されるものではないが、Niと置換されるという観点から、陽イオンとなる元素が好ましく、例えばマグネシウム(Mg)等の遷移金属以外の元素、コバルト(Co)、マンガン(Mn)等の遷移金属の元素を用いることができる。
【0015】
置換元素が遷移金属以外の場合、過剰に置換されると結晶構造が不安定となり、電池特性に悪影響を及ぼすという観点から、置換割合xは0<x≦0.1であることが好ましく、0<x≦0.05であることがより好ましい。一方、置換元素が遷移金属の場合、置換割合xは、上記範囲に限定されず、0.2以下であればよい。
【0016】
LiNi1−xの安定構造としては、少なくとも48原子以上のユニットセルを作製し、密度汎関数理論(DFT:Density Functional Theory)に基づく平面波基底第一原理計算により安定な結晶構造を算出することが好ましい。
【0017】
密度汎関数理論における汎関数としては、GGA−PBE(Generalized Gradient Approximation‐Perdew,Burke,Ernzerhof)又はより高精度な汎関数を用いることが好ましい。また、平面波のカットオフやk点のサンプリングはエネルギーが十分に収束するように、具体的には収束残差が0.0001eV以下になるように選択し、構造緩和は少なくとも原子に加わる力が0.02eV/Å以下になるまで行うことが好ましい。
【0018】
第2の算出ステップは、第1の充電状態におけるLiNiOの安定構造のNi−O間距離B1と、第2の充電状態におけるLiNiOの安定構造のNi−O間距離B2との差ΔB=B1−B2を算出するステップである。なお、以下、ΔBをNi−O間距離の変化量ともいう。また、LiNiOの安定構造としては、第1の算出ステップと同様の方法により算出する。
【0019】
第1の算出ステップ及び第2の算出ステップにおいて、第1の充電状態は電池正極材料からLiが引き抜かれていない状態(以下「放電時」という。)であることが好ましい。また、第1の算出ステップ及び第2の算出ステップにおいて、第2の充電状態は電池正極材料からLiが66%引き抜かれた状態(以下「66%充電時」という。)であることが好ましい。これにより、実使用環境に近い環境におけるNi−O間距離の変化量を算出することができる。
【0020】
選択ステップは、第1の算出ステップにおいて算出されたNi−O間距離の変化量ΔAが第2の算出ステップにおいて算出されたNi−O間距離の変化量ΔBよりも小さくなる置換元素を選択するステップである。
【0021】
以上に説明したように、本発明の第1実施形態に係る置換元素の選択方法によれば、第1の充電状態と第2の充電状態における安定構造のNi−O間距離の変化量が小さくなる置換元素を理論的に正確に選択できる。また、Ni−O間距離の変化量が小さいほど、充放電過程における結晶構造に生じる歪みを緩和することができ、LiNiOのサイクル特性を向上させることができると考えられる。結果として、LiNiOのサイクル特性を向上させることが可能な置換元素を効率的に選択することができる。
【0022】
次に、本発明の第1実施形態に係る電池正極材料を製造する方法について説明する。
【0023】
本発明の第1実施形態に係る電池正極材料の製造方法は、前述した置換元素の選択方法により置換元素を選択する選択工程と、置換元素を有する電池正極材料を合成する合成工程とを有する。
【0024】
選択工程は、前述した置換元素の選択方法により置換元素を選択する工程である。
【0025】
合成工程は、選択工程において選択された置換元素を有する電池正極材料を合成する工程である。合成工程としては、特に限定されるものではないが、例えばLi源、Ni源、M源を含有する原料組成物を混合し、酸素雰囲気中において加熱する固相反応を用いることができる。各金属源の種類としては、特に限定されるものではなく、各金属を含む無機塩(例えば炭酸塩、硝酸塩)、有機塩(錯体)等を用いることができる。加熱温度及び加熱時間としては、特に限定されるものではないが、所望の固相反応が進む条件に設定される。
【0026】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る置換元素の選択方法について、ニッケルコバルト酸リチウム(LiNiCoO)を電池正極材料として用いた場合を例として説明する。本発明の第2実施形態に係る置換元素の選択方法は、電池正極材料としてLiNiCoOを用いる点で、第1実施形態に係る置換元素の選択方法と異なる。
【0027】
以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0028】
本発明の第2実施形態に係る置換元素の選択方法は、一般式LiNi1−x−yCo(MはNiの置換元素であり、xは0<x<0.2を満たし、yは0<y<0.2を満たす。)で表される置換元素の選択方法であって、第1の算出ステップ、第2の算出ステップ及び選択ステップを有する。
【0029】
第1の算出ステップは、第1の充電状態におけるLiNi1−x−yCoの安定構造のNi−O間距離A1と第2の充電状態におけるLiNi1−x−yCoの安定構造のNi−O間距離A2との差ΔA=A1−A2を算出するステップである。第2の充電状態は、第1実施形態と同様に、第1の充電状態よりも充電された状態である。
【0030】
置換元素としては、特に限定されるものではないが、Niと置換されるという観点から、陽イオンとなる元素が好ましく、例えば亜鉛(Zn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)等の遷移金属以外の元素、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)等の遷移金属の元素を用いることができる。置換割合としては、第1実施形態と同様とすることができる。
【0031】
LiNi1−x−yCoの安定構造としては、第1実施形態と同様の計算により算出することができる。
【0032】
第2の算出ステップは、第1の充電状態におけるLiNi1−yCoの安定構造のNi−O間距離B1と第2の充電状態におけるLiNi1−yCoの安定構造のNi−O間距離B2との差ΔB=B1−B2を算出するステップである。なお、LiNi1−yCoの安定構造としては、第1実施形態と同様の計算により算出することができる。
【0033】
選択ステップは、第1の算出ステップにおいて算出されたNi−O間距離の変化量ΔAが、第2の算出ステップにおいて算出されたNi−O間距離の変化量ΔBよりも小さくなる置換元素を選択するステップである。
【0034】
以上に説明したように、本発明の第2実施形態に係る置換元素の選択方法によれば、第1の充電状態と第2の充電状態における安定構造のNi−O間距離の変化量が小さくなる置換元素を理論的に正確に選択できる。また、Ni−O間距離の変化量が小さいほど、充放電過程における結晶構造に生じる歪みを緩和することができ、LiNiOのサイクル特性を向上させることができると考えられる。結果として、LiNiOのサイクル特性を向上させることが可能な置換元素を効率的に選択することができる。
【0035】
特に、第2実施形態では、Coが酸素と強く結合することから、熱安定性にも優れた電池正極材料を提供することができる。
【0036】
なお、本発明の第2実施形態に係る電池正極材料は、本発明の第1実施形態に係る電池正極材料を製造する方法と同様の方法を用いて製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
また、以下の実施例及び比較例においては、各々の電池正極材料の安定構造を、密度汎関数理論に基づく平面波基底第一原理計算を利用して算出した。また、Ni−O間距離としては平均値を用いた。
【0039】
(実施例1)
Li12Ni1224のNiの一部をMgで置換したLi12Ni11Mg24について、放電時(Li12Ni11Mg24)における安定構造のNi−O間距離A1及び66%充電時(LiNi11Mg24)における安定構造のNi−O間距離A2を算出した。続いて、放電時における安定構造のNi−O間距離A1と66%充電時における安定構造のNi−O間距離A2との差であるNi−O間距離の変化量ΔA=A1−A2を算出した。
【0040】
また、置換していないLi12Ni1224について、放電時(Li12Ni1224)における安定構造のNi−O間距離B1及び66%充電時(LiNi1224)における安定構造のNi−O間距離B2を算出した。続いて、放電時における安定構造のNi−O間距離B1と66%充電時における安定構造のNi−O間距離B2との差であるNi−O間距離の変化量ΔB=B1−B2を算出した。
【0041】
算出した結果を下記の表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すように、Li12Ni1224のNiの一部をMgで置換することにより、置換前と比較して、充放電によるNi−O間距離の変化量が0.094Åから0.084Åに抑制されることが示された。すなわち、Mgがサイクル特性の向上に有効な置換元素として選択された。
【0044】
また、Niの1%をMgで置換したLiNi1−xMg及び置換していないLiNiOを実際に合成し、LiNi1−xMg及びLiNiOを電池正極材料として用いたリチウムイオン電池を作製した。
【0045】
作製したリチウムイオン電池に対して、3.0V〜4.3Vの領域において充放電を繰り返し、初期容量に対する充放電を繰り返した後の容量比である容量維持率(%)を測定することによりサイクル特性を評価した。
【0046】
LiNiOを電池正極材料として用いたリチウムイオン電池の50サイクル後の容量維持率は75.4%であったのに対し、LiNi1−xMgを電池正極材料として用いたリチウムイオン電池の50サイクル後の容量維持率は76.7%であった。すなわち、LiNiOのNiの1%をMgで置換することにより、サイクル特性の向上が確認できた。
【0047】
(実施例2)
Li12Ni1224のNiの一部をCoで置換したLi12Ni10Co24について、放電時(Li12Ni10Co24)における安定構造のNi−O間距離A1及び66%充電時(LiNi10Co24)における安定構造のNi−O間距離A2を算出した。続いて、放電時における安定構造のNi−O間距離A1と66%充電時における安定構造のNi−O間距離A2との差であるNi−O間距離の変化量ΔA=A1−A2を算出した。
【0048】
また、置換していないLi12Ni1224について、放電時(Li12Ni1224)における安定構造のNi−O間距離B1及び66%充電時(LiNi1224)における安定構造のNi−O間距離B2を算出した。続いて、放電時における安定構造のNi−O間距離B1と66%充電時における安定構造のNi−O間距離B2との差であるNi−O間距離の変化量ΔB=B1−B2を算出した。
【0049】
算出した結果を下記の表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、Li12Ni1224のNiの一部をCoで置換することにより、置換前と比較して、充放電によるNi−O間距離の変化量が0.094Åから0.087Åに抑制されることが示された。すなわち、Coがサイクル特性の向上に有効な置換元素として選択された。
【0052】
また、Niの15%をCoで置換したLiNi1−xCo及び置換していないLiNiOを実際に合成し、LiNi1−xCo及びLiNiOを電池正極材料として用いたリチウムイオン電池を作製した。
【0053】
作製したリチウムイオン電池に対して、実施例1と同様の条件を用いて容量維持率(%)を測定することによりサイクル特性を評価した。
【0054】
LiNiOを電池正極材料として用いたリチウムイオン電池の50サイクル後の容量維持率は75.2%であったのに対し、LiNi1−xCoを電池正極材料として用いたリチウムイオン電池の50サイクル後の容量維持率は93.2%であった。すなわち、LiNiOのNiの15%をCoで置換することにより、サイクル特性の向上が確認できた。
【0055】
(実施例3)
Li12Ni10Co24のNiの一部をMで置換したLi12NiCo24について、放電時(Li12NiCo24)における安定構造のNi−O間距離A1及び66%充電時(LiNiCo24)における安定構造のNi−O間距離A2を算出した。なお、MはNiの置換元素であり、実施例3では、MとしてK、Zn、Na、Fe、Ca及びMoを用いた。続いて、放電時における安定構造のNi−O間距離A1と66%充電時における安定構造のNi−O間距離A2との差であるNi−O間距離の変化量ΔA=A1−A2を算出した。
【0056】
また、置換していないLi12Ni10Co24について、放電時(Li12Ni10Co24)における安定構造のNi−O間距離B1と66%充電時(LiNi10Co24)における安定構造のNi−O間距離B2を算出した。続いて、放電時における安定構造のNi−O間距離B1と66%充電時における安定構造のNi−O間距離B2との差であるNi−O間距離の変化量ΔB=B1−B2を算出した。
【0057】
算出した結果を下記の表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示すように、Li12Ni10Co24のNiの一部をKで置換することにより、置換前と比較して、充放電によるNi−O間距離の変化量が0.087Åから0.082Åに抑制されることが示された。すなわち、Kがサイクル特性の向上に有効な置換元素として選択された。
【0060】
また、Li12Ni10Co24のNiの一部をZnで置換することにより、置換前と比較して、充放電によるNi−O間距離の変化量が0.087Åから0.055Åに抑制されることが示された。すなわち、Znがサイクル特性の向上に有効な置換元素として選択された。
【0061】
また、Li12Ni10Co24のNiの一部をNaで置換することにより、置換前と比較して、充放電によるNi−O間距離の変化量が0.087Åから0.074Åに抑制されることが示された。すなわち、Naがサイクル特性の向上に有効な置換元素として選択された。
【0062】
また、Li12Ni10Co24のNiの一部をFeで置換することにより、置換前と比較して、充放電によるNi−O間距離の変化量が0.087Åから0.081Åに抑制されることが示された。すなわち、Feがサイクル特性の向上に有効な置換元素として選択された。
【0063】
また、Li12Ni10Co24のNiの一部をCaで置換することにより、置換前と比較して、充放電によるNi−O間距離の変化量が0.087Åから0.082Åに抑制されることが示された。すなわち、Caがサイクル特性の向上に有効な置換元素として選択された。
【0064】
また、Li12Ni10Co24のNiの一部をMoで置換することにより、置換前と比較して、充放電によるNi−O間距離の変化量が0.087Åから0.084Åに抑制されることが示された。すなわち、Moがサイクル特性の向上に有効な置換元素として選択された。
【0065】
(比較例1)
Li12Ni1224のNiの一部をアルミニウム(Al)で置換したLi12Ni11Al24について、放電時(Li12Ni11Al24)における安定構造のNi−O間距離A1及び66%充電時(LiNi11Al24)における安定構造のNi−O間距離A2を算出した。続いて、放電時における安定構造のNi−O間距離A1と66%充電時における安定構造のNi−O間距離A2との差であるNi−O間距離の変化量ΔA=A1−A2を算出した。
【0066】
また、置換していないLi12Ni1224について、放電時(Li12Ni1224)における安定構造のNi−O間距離B1及び66%充電時(LiNi1224)における安定構造のNi−O間距離B2を算出した。続いて、放電時における安定構造のNi−O間距離B1と66%充電時における安定構造のNi−O間距離B2との差であるNi−O間距離の変化量ΔB=B1−B2を算出した。
【0067】
算出した結果を下記の表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
表4に示すように、Li12Ni1224のNiの一部をAlで置換することにより、置換前と比較して、充放電によるNi−O間距離の変化量が0.094Åから0.098Åに増大することが示された。すなわち、Alは有効な置換元素として選択されなかった。
【0070】
(比較例2)
Li12Ni10Co24のNiの一部をスズ(Sn)で置換したLi12NiCoSn24について、放電時(Li12NiCoSn24)における安定構造のNi−O間距離A1及び66%充電時(LiNiCoSn24)における安定構造のNi−O間距離A2を算出した。続いて、放電時における安定構造のNi−O間距離A1と66%充電時における安定構造のNi−O間距離A2との差であるNi−O間距離の変化量ΔA=A1−A2を算出した。
【0071】
また、置換していないLi12Ni10Co24について、放電時(Li12Ni10Co24)における安定構造のNi−O間距離B1及び66%充電時(LiNi10Co24)における安定構造のNi−O間距離B2との差であるNi−O間距離の変化量ΔB=B1−B2を算出した。
【0072】
算出した結果を下記の表5に示す。
【0073】
【表5】
【0074】
表5に示すように、Li12Ni10Co24のNiの一部をSnで置換することにより、置換前と比較して、充放電によるNi−O間距離の変化量が0.087Åから0.105Åに増大することが示された。すなわち、Snは有効な置換元素として選択されなかった。
【0075】
以上、置換元素の選択方法、電池正極材料の製造方法及び電池正極材料を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。