(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384303
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】ガラス基板の研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24B 7/24 20060101AFI20180827BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20180827BHJP
G03F 1/60 20120101ALI20180827BHJP
G03F 1/24 20120101ALI20180827BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
B24B7/24 Z
B24B37/00 H
G03F1/60
G03F1/24
H01L21/30 531M
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-249604(P2014-249604)
(22)【出願日】2014年12月10日
(65)【公開番号】特開2016-107386(P2016-107386A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】平林 佑介
(72)【発明者】
【氏名】梅尾 直弘
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/090364(WO,A1)
【文献】
特開2010−131679(JP,A)
【文献】
特開2001−167427(JP,A)
【文献】
特開2012−256038(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0197437(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/24
B24B 37/00
G03F 1/24
G03F 1/60
H01L 21/027
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨パッドと研磨スラリーとを用いて、面取り面を有するガラス基板の主表面を研磨する、ガラス基板の研磨方法であって、
前記ガラス基板の主表面の総研磨量が5nm以上であり、研磨量が研磨終了時から遡って5nm以降の研磨については、
前記ガラス基板の側面に直交する断面形状における、該ガラス基板の側面からの距離が1.5mm〜2.5mmの範囲の主表面がなす形状の最小二乗直線を基準にした場合に、主表面から面取り面にかけての領域のうち、前記基準からの高さが−0.2μm〜−0.7μmの遷移領域がなす形状が、下記(1)、(2)を満たす条件にて、ガラス基板の主表面を研磨することを特徴とする、ガラス基板の研磨方法。
(1)該遷移領域がなす形状の傾きが下記式を満たす。
0≧遷移領域の傾き≧0.0038×基準からの高さ[μm]+0.00021
(2)該遷移領域がなす形状における曲率が0〜−20×10-6を満たす。
【請求項2】
前記基準に対する、面取り面がなす形状の傾きが−0.33≧傾き≧−3である、請求項1に記載のガラス基板の研磨方法。
【請求項3】
前記面取り面の幅が0.2〜0.6mmである、請求項1または2に記載のガラス基板の研磨方法。
【請求項4】
前記ガラス基板が、マスクブランク用ガラス基板である、請求項1〜3のいずれかに記載のガラス基板の研磨方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のガラス基板の研磨方法により主表面が研磨された、主表面の表面粗さRmsが0.1nm以下であり、該主表面の平坦度が0.5μm以下であるガラス基板。
【請求項6】
主表面の周囲に面取り面を有するガラス基板であって、
前記面取り面の幅が0.2〜0.6mmであり、
前記ガラス基板の側面に直交する断面形状における、該ガラス基板の側面からの距離が1.5mm〜2.5mmの範囲の主表面がなす形状の最小二乗直線を基準にした場合に、主表面から面取り面にかけての領域のうち、前記基準からの高さが−0.2μm〜−0.7μmの遷移領域がなす形状が下記(1)、(2)を満たし、
前記基準に対する前記面取り面がなす形状の傾きが−0.33≧傾き≧−3である、ことを特徴とするガラス基板。
(1)該遷移領域がなす形状の傾きが下記式を満たす。
0≧遷移領域がなす形状の傾き≧0.0038×基準からの高さ[μm]+0.00021
(2)該遷移領域がなす形状における曲率が0〜−20×10-6を満たす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の研磨方法に関する。本発明は、各種リソグラフィの際に使用されるマスクブランク用ガラス基板の仕上げ研磨に好適である。
本発明は、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光を用いたリソグラフィ(以下、「EUVL」と略する)の際に使用される反射型マスクの基材として使用されるガラス基板(以下、「EUVL光学基材用ガラス基板」と略する。)の仕上げ研磨に特に好ましいが、従来の透過型光学系を用いたリソグラフィの際に使用される透過型マスクの基材として使用されるガラス基板の仕上げ研磨にも好適である。
【背景技術】
【0002】
近年における超LSIデバイスの高密度化や高精度化に伴い、各種リソグラフィに使用されるマスクブランク用ガラス基板表面に要求される仕様は年々厳しくなる状況にある。特に、露光光源の波長が短くなるにしたがって、基板表面の形状精度(平坦性)や欠陥(パーティクル、スクラッチ、ピット等)に対する要求が厳しくなっており、きわめて平坦度が高く、かつ、微小欠陥がないガラス基板が求められている。
【0003】
例えば、露光光源としてArFエキシマレーザを用いたリソグラフィの場合は、要求されるマスクブランク用ガラス基板表面の平坦度が0.25μm以下、要求される欠陥サイズが0.07μm以下であり、さらにEUVLマスクブランク用ガラス基板の場合は、要求されるガラス基板表面の平坦度がPV値で0.03μm以下、要求される欠陥サイズが0.05μm以下となっている。
【0004】
上記の平坦度を達成するため、マスクブランク用ガラス基板表面は、高精度の研磨が施される。この研磨では、所定の平坦度になるまで、比較的高い加工レートで予備研磨した後、より加工精度の高い方法を用いて、またはより加工精度が高くなるような加工条件を用いて、マスクブランク用ガラス基板表面が所望の平坦度になるように仕上げ研磨される。
特許文献1には、上記の予備研磨、および、仕上げ研磨の手順の一例が示されている。特許文献1に記載の方法では、酸化セリウムを主材とする研磨剤と、研磨パッドを備えたポリッシャを用いて、ガラス基板表面を予備研磨した後、研磨剤としてコロイダルシリカを用いてガラス基板表面を仕上げ研磨する。
【0005】
マスクブランク用ガラス基板表面の外縁部には、カケの発生を抑制するなどの理由から、面取り面が通常設けられる。
上述した平坦度、および、欠点サイズに関する要求は、マスクブランク用ガラス基板表面のうち、面取り面が設けられた外縁部を除いた主表面に関するものである。
【0006】
一方、特許文献2〜5には、マスクブランク用ガラス基板の面取り面の形状に関する要求が示されている。
特許文献2では、主表面と面取り面との境界から内側3mmの領域を除いた平坦度測定領域における平坦度が0.5μm以下であって、且つ主表面と面取り面の境界における基準面からの最大高さが−1μm以上0μm以下であることにより、半導体集積回路の製造等に用いられるステッパーの基板保持手段の形状が異なり、基板に対する当接する領域が異なるステッパーの基板保持手段にマスクを装着しても、マスクの変形を抑制し、転写パターンの位置精度の低下を最小限に抑えることができる、とされている。
特許文献3では、マスクブランク用ガラス基板の主表面の周縁部の縁だれ量を−2μm〜0μmとすることにより、露光機のステッパーに対し基板装着時の位置精度を良好にすることができる、とされている。
特許文献4では、表面と端面とが交差する端縁に形成された面取り面を、表面に対する角度が互いに異なる2段階の面取り面とし、表面と一段目の面取り面との交差角θ1を5〜40°とし、表面と二段目の面取り面との交差角θ2を30〜70°とすることにより、ガラス基板の端縁領域における不当な角張り部をなくして、脆さを緩和することにより、FBD等の製造工程でガラス基板が欠損する確率を低減できる、とされている。
特許文献5では、フォトマスクブランクスの主表面と面取り部との間に傾斜部を形成し、該傾斜部の俯角を、面取り部の俯角より小さくすることにより、マスク材塗布時に生じる基板周縁部でのマスク材の表面張力を低減させ、基板周縁部におけるフリンジ部を小さくできる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭64−40267号公報
【特許文献2】国際公開WO2004/083961号
【特許文献3】特開2006−146250号公報
【特許文献4】特開2012−111661号公報
【特許文献5】特開2008−003208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マスクブランク用ガラス基板の主表面の仕上げ研磨時には、該主表面全体を研磨するため、該主表面と面取り面との境界付近にも研磨パッドが接触する。該主表面と面取り面との境界付近の形状によっては、研磨パッドに押しつけられて研磨スラリーが除去されてしまい、主表面と研磨パッドに挟まれた領域に研磨スラリーが十分に供給されず、ガラス基板主表面に欠点を発生させる場合がある。
面取り面の形状が特許文献2〜5に記載の要求を満たしている場合であっても、上述したガラス基板主表面の仕上げ研磨時において、欠点が発生する場合がある。
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、面取り面を有するガラス基板の主表面を研磨する際に、該主表面における欠点の発生を抑制する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明は、研磨パッドと研磨スラリーとを用いて、面取り面を有するガラス基板の主表面を研磨する、ガラス基板の研磨方法であって、
前記ガラス基板の主表面の総研磨量が5nm以上であり、研磨量が研磨終了時から遡って5nm以降の研磨については、
前記ガラス基板の側面に直交する断面形状における、該ガラス基板の側面からの距離が1.5mm〜2.5mmの範囲の主表面がなす形状の最小二乗直線を基準にした場合に、主表面から面取り面にかけての領域のうち、前記基準からの高さが−0.2μm〜−0.7μmの遷移領域がなす形状が、下記(1)、(2)を満たす条件にて、ガラス基板の主表面を研磨することを特徴とする、ガラス基板の研磨方法を提供する。
(1)該遷移領域がなす形状の傾きが下記式を満たす。
0≧遷移領域の傾き≧0.0038×基準からの高さ[μm]+0.00021
(2)該遷移領域がなす形状における曲率が0〜−20×10
-6[1/μm]を満たす。
【0011】
本発明のガラス基板の研磨方法において、前記基準に対する、面取り面がなす形状の傾きが−0.33≧傾き≧−3であることが好ましい。
【0012】
本発明のガラス基板の研磨方法において、前記面取り面の幅が0.2〜0.6mmであることが好ましい。
【0013】
本発明のガラス基板の研磨方法において、前記ガラス基板は、マスクブランク用ガラス基板であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、本発明の方法により主表面が研磨された、主表面の表面粗さRmsが0.1nm以下であり、該主表面の平坦度が0.5μm以下であるガラス基板を提供する。
【0015】
また、本発明は、主表面の周囲に面取り面を有するガラス基板であって、
前記面取り面の幅が0.2〜0.6mmであり、
前記ガラス基板の側面に直交する断面形状における、該ガラス基板の側面からの距離が1.5mm〜2.5mmの範囲の主表面がなす形状の最小二乗直線を基準にした場合に、主表面から面取り面にかけての領域のうち、前記基準からの高さが−0.2μm〜−0.7μmの遷移領域がなす形状が下記(1)、(2)を満たし、
前記基準に対する前記面取り面がなす形状の傾きが−0.33≧傾き≧−3である、ことを特徴とするガラス基板を提供する。
(1)該遷移領域がなす形状の傾きが下記式を満たす。
0≧遷移領域がなす形状の傾き≧0.0038×基準からの高さ[μm]+0.00021
(2)該遷移領域がなす形状における曲率が0〜−20×10
-6[1/μm]を満たす。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、面取り面を有するガラス基板の主表面を研磨する際に、該主表面における欠点の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、面取り面を有するガラス基板の面取り面周辺を示した部分断面図である。
【
図2】
図2は、実施例における基準からの高さと、遷移領域がなす形状の傾きと、の関係を示したグラフである。
【
図3】
図3は、実施例における基準からの高さと、遷移領域がなす形状における曲率と、の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明のガラス基板の研磨方法について説明する。
本発明のガラス基板の研磨方法では、研磨スラリーと、研磨パッドと、を用いて、面取り面を有するガラス基板の主表面を研磨する。
【0019】
上述したように、マスクブランク用ガラス基板のような、表面性状に関する要求がきわめて厳しいガラス基板では、ガラス基板表面の外縁部に、カケの発生を抑制するなどの理由から、面取り面が通常設けられる。本発明の方法により研磨されるガラス基板は、その研磨対象である主面の周囲に面取り面を有する。
図1は、面取り面を有するガラス基板の面取り面周辺を示した部分断面図である。
図1は、ガラス基板の側面に直交する断面形状を示しており、ガラス基板の主表面と、側面との間に、面取り面が位置している。面取り面の幅は、ガラス基板の仕様によって異なるが、マスクブランク用ガラス基板として使用される152mm角のガラス基板の場合、0.2〜0.6mmである。
以下、本明細書において、ガラス基板の主表面や面取り面についての記載は、ガラス基板の側面に直交する断面形状に関する記載とする。
【0020】
本発明のガラス基板の研磨方法において、ガラス基板の主表面の総研磨量は5nm以上であり、研磨量が研磨終了時から遡って5nm以降の研磨については、ガラス基板の主表面と面取り面との境界付近の形状が、以下に述べる特定の条件を満たす状態でガラス基板の主表面を研磨する。
マスクブランク用ガラス基板の主表面の仕上げ研磨時における問題点として上述したように、研磨パッドと研磨スラリーとを用いて、面取り面を有するガラス基板の主表面を研磨する場合、ガラス基板の主表面全体を研磨するため、主表面と面取り面との境界付近にも研磨パッドが接触する。ガラス基板の主表面と面取り面との境界付近の形状によっては、該境界付近に研磨パッドが接触する際に、研磨パッドに押しつけられて研磨スラリーが除去されてしまい、主表面と研磨パッドに挟まれた領域に研磨スラリーが十分に供給されず、ガラス基板の主表面に欠点を発生させる場合がある。
【0021】
ガラス基板の主表面を研磨する際には、ガラス基板の主表面において、ガラス基板の主表面と面取り面との境界付近の形状に起因する欠点の発生と消失を繰り返す。すなわち、ガラス基板の主表面に発生した欠点は、該主表面をさらに研磨することにより消失する。しかしながら、該主表面の研磨の最終段階に発生した欠点は、該欠点の消失に十分な研磨量が得られないため、研磨終了後の主表面に残存する。本願発明者らは、欠点の消失に最低限必要な研磨量が5nmであることを見出した。そのため、本発明のガラス基板の研磨方法では、研磨量が研磨終了時から遡って5nm以降の研磨については、ガラス基板の主表面と面取り面との境界付近の形状が、以下に述べる特定の条件を満たす状態でガラス基板の主表面を研磨することで、研磨後の主表面における欠点を抑制することができる。
以下、本明細書において、研磨量が研磨終了時から遡って5nm以降の研磨のことを、「最終段階の研磨」とする。
【0022】
本発明のガラス基板の研磨方法では、最終段階の研磨において、ガラス基板の主表面と面取り面との境界付近の形状が満たすべき条件を、ガラス基板の側面に直交する断面形状における、ガラス基板の側面からの距離が1.5mm〜2.5mmの範囲の主表面がなす形状の最小二乗直線(
図1中、太線で示されている)を基準として定める。ガラス基板の側面からの距離が1.5mm〜2.5mmの範囲の主表面がなす形状の最小二乗直線を基準とする理由は以下の通りである。
研磨時にはガラス基板の主表面と研磨パッドが平行になり、角度の基準は主表面とするべきであるため、主表面に対する最小二乗直線を角度の基準とした。なお、最小二乗直線を使用する理由は、測定した形状データに含まれる高周波成分を除去して正しく傾きを評価するためである。またガラス基板の主表面と面取り面との境界と研磨パッドとの接触状態に対し基板の主表面の形状が与える影響は、該境界付近に近いほど大きく、遠いほど小さくなる。従って主表面の中で比較的該境界に近い範囲を該境界付近の形状の高さの基準にすることが好ましく、ガラス基板の側面からの距離が1.5mm〜2.5mmの範囲に対する最小二乗直線を高さの基準とした。
以下、本明細書において、「基準」と記載した場合、ガラス基板の側面からの距離が1.5mm〜2.5mmの範囲の主表面がなす形状の最小二乗直線を指す。
【0023】
本発明のガラス基板の研磨方法では、主表面から面取り面にかけての領域のうち、上記で定義した基準からの高さが−0.2μm〜−0.7μmの領域を遷移領域とし、この遷移領域がなす形状が、下記(1)、(2)を満たす条件で最終段階の研磨を実施する。
(1)遷移領域がなす形状の傾きが下記式を満たす。
0≧遷移領域がなす形状の傾き≧0.0038×基準からの高さ[μm]+0.00021
(2)遷移領域がなす形状における曲率が0〜−20×10
-6[1/μm]を満たす。
ここで、基準からの高さが−0.2μm〜−0.7μmの領域を遷移領域とするのは、ガラス基板の主表面全体を研磨する際には、主表面からの高さがおよそ−0.7μmの領域まで研磨パッドが接触するからであり、主表面からの高さが−0.2μmまでの領域は、対象となる領域の傾きが極めて小さく、形状を特定することが困難であるからである。
なお、上記の基準に対する、面取り面がなす形状の傾きは、ガラス基板の仕様によって異なるが、マスクブランク用ガラス基板として使用される152mm角のガラス基板の場合、−0.33≧傾き≧−3である。
【0024】
本発明のガラス基板の研磨方法では、最終段階の研磨の実施時において、遷移領域がなす形状が上記(1)、(2)を満たしているため、主表面と面取り面との境界付近に研磨パッドが接触した際に、研磨パッドに押しつけられて研磨スラリーが除去されてしまうおそれが低い。そのため、主表面と研磨パッドに挟まれた領域に研磨スラリーが十分に供給され、ガラス基板の主表面における欠点の発生が抑制される。
【0025】
最終段階の研磨の研磨量は、上述したように、5nmである。この研磨量による遷移領域がなす形状の変化は2%程度である。そのため、遷移領域がなす形状は、最終段階の研磨実施後においても、上記(1)、(2)を満たす。
したがって、研磨実施後のガラス基板について、遷移領域がなす形状が上記(1)、(2)を満たすことを確認することにより、本発明の研磨方法が実施されたことを確認できる。
【0026】
本発明のガラス基板の研磨方法における好ましい態様を以下に示す。
【0027】
[基板]
本発明のガラス基板の研磨方法を用いて研磨するガラス基板は、EUVL光学基材用ガラス基板、または、透過型マスクの基材として使用されるガラス基板である。
EUVL光学基材用ガラス基板を構成するガラスは、熱膨張係数が小さくかつ、そのばらつきの小さいガラスが好ましい。具体的には20℃における熱膨張係数が0±30ppb/℃の低熱膨張ガラスが好ましく、20℃における熱膨張係数が0±10ppb/℃の超低熱膨張ガラスがより好ましく、20℃における熱膨張係数が0±5ppb/℃の超低熱膨張ガラスがさらに好ましい。
上記低熱膨張ガラスおよび超低熱膨張ガラスとしては、SiO
2を主成分とするガラス、典型的には石英ガラスが使用できる。具体的には例えばSiO
2を主成分とし1〜12質量%のTiO
2を含有する合成ガラス、AZ(旭硝子株式会社製ゼロ膨張ガラス)等が挙げられる。
一方、透過型マスクの基材として使用されるガラス基板を構成するガラスは、リソグラフィに使用する光線の波長(例えばKrFエキシマレーザでは248nm、ArFエキシマレーザでは193nm)において高い透過率を有する高透過率ガラスが好ましい。上記高透過率ガラスとしては、例えば珪素源と酸素源とを気相で反応させて、スートと呼ばれるSiO
2からなる多孔質体を成長させ、焼結して得られる実質的にSiO
2のみからなる合成石英ガラスが挙げられる。
なお、上記の用途のガラス基板は通常、四角形状の板状体で研磨される。
【0028】
[研磨スラリー]
本発明における研磨スラリーは、研磨粒子と、該研磨粒子の分散媒体と、を含む流体である。
研磨粒子としては、コロイダルシリカ又は酸化セリウムなどが好ましい。コロイダルシリカは、より精密にガラス基板を研磨できるので、その結果、より良好な精度で、凹状の欠陥が低減された又は除去されたガラス基板が得られ、特に好ましい。
研磨粒子の分散媒体としては、水、有機溶剤が挙げられ、水が好ましい。
【0029】
コロイダルシリカを用いる場合、平均一次粒子径は、5nm以上100nm以下であればよい。コロイダルシリカの平均一次粒子径が5nm以上であれば、ガラス基板の研磨効率を向上できる。また、コロイダルシリカの平均一次粒子径が100nm以下であれば、研磨液を用いて研磨された基板の表面粗さを低減できる。また、コロイダルシリカを用いる場合、平均一次粒子径は、10nm以上50nm以下がより好ましい。酸化セリウムについても、コロイダルシリカと同様の指標が適用でき、平均一次粒子径は、5nm以上100nm以下であればよく、10nm以上50nm以下がより好ましい。なお、平均一次粒子径は、ガス吸着法によって測定した比表面積より算出できる。
【0030】
研磨スラリーにおけるコロイダルシリカの含有率は、5質量%以上40質量%以下であればよい。研磨スラリーにおけるコロイダルシリカの含有率が5質量%以上であれば、ガラス基板の研磨効率を向上できる。また、研磨スラリーにおけるコロイダルシリカの含有率が40質量%以下であれば、研磨されたガラス基板の洗浄の効率を向上できる。
【0031】
[研磨パッド]
本発明における研磨パッドとしては、不織布などの基布に、ポリウレタン樹脂を含浸させ、湿式凝固処理を行って得られたポリウレタン樹脂発泡層を有する研磨パッドなどが挙げられる。研磨パッドとしては、スウェード系研磨パッドが好ましい。
スウェード系研磨パッドにおけるナップ層の厚さは0.3〜1.0mm程度が実用上で好ましい。また、スウェード系研磨パッドとしては、適度の圧縮弾性率を有する軟質の樹脂発泡体が好ましく使用でき、具体的には例えばエーテル系、エステル系、カーボネート系などの樹脂発泡体が挙げられる。
【0032】
本発明のガラス基板の研磨方法は、ガラス基板を研磨度の異なる複数の研磨工程で研磨するときの最後に行う仕上げ研磨として特に適している。このためガラス基板は、本発明の方法で研磨する前にあらかじめ所定の厚さに粗研磨し、端面研磨と面取り加工を行い、更にその主表面を表面粗さ、および、平坦度が一定以下になるように予備研磨しておくことが好ましい。予備研磨方法はとくに限定されるものではなく、公知の研磨方法を適用できる。例えば、複数のラップ研磨機を連続して設置し、研磨材や研磨条件を変えながら該研磨機で順次研磨することにより、ガラス基板の主表面を所定の表面粗さおよび平坦度に予備研磨できる。予備研磨後の表面粗さ(Rms)としては、1nm以下が好ましく、0.5nm以下がより好ましい。予備研磨後の平坦度(P−V値)としては、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。さらに好ましくは0.2μmである。なお、本明細書において表面粗さとは、JIS−B0601に基づく二乗平均平方根粗さRq(旧RMS)として説明する。
【0033】
本発明のガラス基板の研磨方法では、ガラス基板の仕上げ研磨として実施し、遷移領域がなす形状が、上記(1)、(2)を満たす条件で最終段階の研磨を実施することにより、面取り面を有するガラス基板の主表面を研磨する際に、該主表面における欠点の発生を抑制しつつ、該主表面を優れた表面性状に研磨することができる。
本発明の研磨方法により、主表面が研磨されたガラス基板は、該主表面の表面粗さ(Rms)が0.1nm以下であることが好ましく、0.05nm以下であることがより好ましく、0.02nm以下であることがさらに好ましい。また、該主表面の平坦度(P−V値)が0.5μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましく、0.02μm以下であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明のガラス基板は、主表面の周囲に面取り面を有するガラス基板であって、該面取り面の幅が0.2〜0.6mmであり、上記した基準に対する面取り面がなす形状の傾きが−0.33≧傾き≧−3であり、上記で定義した遷移領域がなす形状が上記(1)、(2)を満たす。本発明のガラス基板は、本発明の研磨方法を用いて、ガラス基板の主表面を研磨することで得ることができる。
【実施例】
【0035】
本実施例では、以下の手順にしたがって、面取り面を有するガラス基板について、遷移領域がなす形状を設定することを試みた。
面取り面を有するガラス基板としては、152mm角のガラス基板であって、面取り面の幅が0.4mmのものを想定した。このガラス基板の側面に直交する断面形状において、ガラス基板の側面からの距離が1.5mm〜2.5mmの範囲の主表面がなす形状の最小二乗直線を基準にした場合に、面取り面がなす形状の傾きが該基準に対して、−0.5であるものとした。
このガラス基板の側面に直交する断面形状において、上記で定義した基準をx軸とし、該x軸に対し直交する方向をy軸とし、該x軸方向で約0.1mmごとに断面形状を仮想的に分割した。仮想的に分割された断面形状の該基準に対する平均高さを該分割された断面形状の高さとした。また、該分割された断面形状に対する最小二乗直線の該基準に対する傾きを該分割された断面形状の傾きとした。最小二乗直線を使用する理由は、測定した形状データに含まれる高周波成分を除去して正しく傾きを評価するためである。このようにして得られた該ガラス基板の主表面から面取り面にかけての領域がなす形状の傾きを微分して、該領域がなす形状の曲率を求めた。上記で定義した基準からの高さが−0.2μm〜−0.7μmの領域を遷移領域とし、該遷移領域がなす形状の傾き、および、該遷移領域がなす曲率(1/μm)を変えたものが実施例1〜2、比較例1〜2であり、下記表1、2、および、
図2、3に示した。なお、表1、2、および、
図2、3に示した規定値(規定直線)は上記(1)中の右式、(2)中の式の等号が成立する場合の傾きおよび曲率である。
【表1】
【表2】
実施例1,2は遷移領域がなす形状の傾きが下記式を満たす。
0≧遷移領域がなす形状の傾き≧0.0038×基準からの高さ[μm]+0.00021
また、実施例1,2は遷移領域がなす形状における曲率が0〜−20×10
-6を満たす。
実施例1,2のガラス基板について、最終段階の研磨を実施した場合、ガラス基板の主表面における欠点の発生を抑制できると考えられる。
一方、比較例1,2は遷移領域がなす形状における曲率が0〜−20×10
-6を満たしているが、遷移領域がなす形状の傾きが下記式を満たさない。
0≧遷移領域がなす形状の傾き≧0.0038×基準からの高さ[μm]+0.00021
比較例1,2のガラス基板について、最終段階の研磨を実施した場合、ガラス基板の主表面における欠点の発生を抑制できないと考えられる。
EUVLマスクブランク用ガラス基板に使用可能な欠点品質を有するガラス基板の歩留りを比較した場合、遷移領域がなす形状が上記(1)、(2)を満たすガラス基板では歩留りが94%であるのに対し、遷移領域がなす形状が上記(1)、(2)を満たさないガラス基板では歩留りが64%であった。