(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板を載置して加熱処理するための加熱板が内部に配置された処理容器と、この処理容器内の処理雰囲気にパージ用の気体を取り込むための給気口と、前記処理雰囲気を排気する排気口と、を各々備えた複数の加熱モジュールと、
前記複数の加熱モジュールの各々の排気口に接続された個別排気路と、
前記複数の加熱モジュールの各個別排気路の下流端に共通に接続された共通排気路と、
前記各個別排気路に分岐して設けられ、前記処理容器の外部に開口する分岐路と、
前記排気口側から前記共通排気路に排気される排気量と前記処理容器の外部から前記分岐路を介して前記共通排気路に取り込まれる取り込み量との流量比を調整するための排気量調整部と、を備えたことを特徴とする基板加熱装置。
前記処理雰囲気内を低い排気量で排気する低排気状態と、前記処理雰囲気内を前記低い排気量よりは多い排気量で排気する高排気状態と、を選択するために前記排気量調整部の流量比率を調整するための制御信号を出力する制御部を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の基板加熱装置。
前記制御部は、前記基板が加熱板に載置された後、予め設定された時間が経過するまでまたは基板の温度が予め設定された温度になるまでは低排気状態とし、その後、高排気状態とするように前記排気量調整部を制御することを特徴とする請求項3記載の基板加熱装置。
前記制御部は、前記基板が加熱板に載置された後、基板に塗布された塗布液の粘性が低いことにより高い排気状態とすると膜厚の面内均一性が悪くなる時間帯を含む時間が経過するまでは低排気状態とし、その後、塗布膜からの昇華物を排気するために高排気状態とするように前記排気量調整部を制御することを特徴とする請求項3または4記載の基板加熱装置。
前記制御部は、前記低排気状態から高排気状態への切換を、前記排気量調整部の流量比を徐々に変更することにより行うように制御信号を出力することを特徴とする請求項3ないし5のいずれか一項に記載の基板加熱装置。
基板を載置して加熱処理するための加熱板が内部に配置された処理容器と、この処理容器内の処理雰囲気にパージ用の気体を取り込むための給気口と、前記処理雰囲気を排気する排気口と、を各々備えた複数の加熱モジュールと、
前記複数の加熱モジュールの各々の排気口に接続された個別排気路と、
前記複数の加熱モジュールの各個別排気路の下流端に共通に接続された共通排気路と、
前記各個別排気路に分岐して設けられ、前記処理容器の外部に開口する分岐路と、を備えた基板加熱装置を用い、
前記加熱板に基板を載置する工程と、
前記排気口側から前記共通排気路に排気される排気量と前記処理容器の外部から前記分岐路を介して前記共通排気路に取り込まれる取り込み量との流量比を排気量調整部により調整して、前記処理雰囲気内を低い排気量で排気する低排気状態とする工程と、
この工程の後、流量比を排気量調整部により調整して、前記処理雰囲気内を前記低い排気量よりは多い排気量で排気する高排気状態とする工程と、を含むことを特徴とする基板加熱方法。
前記低排気状態とする工程は、前記基板が加熱板に載置された後、基板に塗布された塗布液の粘性が低いことにより高い排気状態とすると膜厚の面内均一性が悪くなる時間帯を含む時間が経過するまで行われ、
前記高排気状態とする工程は、塗布膜からの昇華物を排気するために行われることを特徴とする請求項14記載の基板加熱方法。
前記低排気状態から高排気状態への切換は、前記排気量調整部の流量比を徐々に変更することにより行われることを特徴とする請求項14または15記載の基板加熱方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係るウエハWの加熱装置1について、
図1の概略構成図を参照しながら説明する。この加熱装置1は、当該加熱装置1の外部にて表面に薬液が塗布されたウエハWを加熱する。この例ではウエハWの直径は300mmである。また、前記薬液としては比較的分子量が低いポリマー(低分子ポリマー)と架橋剤とを含み、例えば250℃に加熱されることで前記ポリマーの架橋反応が起こり、炭素を主成分とするSOC膜と呼ばれる有機膜を形成する。この有機膜における炭素の含有率は、例えば90%以上である。また、この有機膜には加熱装置1による加熱処理後、加熱装置1の外部にてSOG膜と呼ばれる酸化シリコンを含む膜、レジスト膜がこの順に積層される。ドライエッチングにより前記レジスト膜に形成されるパターンが、順次下層の膜に転写される。つまりこの有機膜は炭素を主成分として構成され、当該有機膜の下層の膜をエッチングするためのパターンマスクとなる。
【0013】
加熱装置1の説明に戻って、当該加熱装置1は、前記ウエハWを各々加熱する加熱モジュール2A〜2Cと、排気ダクト11と、制御部12と、を備えている。排気ダクト11は横方向に伸びるように設けられ、その下流側は加熱装置1が設けられる工場の排気路に接続されている。この排気ダクト11の伸長方向の互いに異なる箇所には、加熱モジュール2A〜2Cを各々構成する個別排気路をなす排気管30の下流端が接続されている。つまり、排気ダクト11は加熱モジュール2A〜2Cに対する共通排気路を構成する。排気ダクト11内は所定の排気量で、常時排気されており、加熱モジュール2A〜2Cから流入する昇華物の凝結を防ぐためにヒーター(不図示)により加熱されている。
【0014】
加熱モジュール2A〜2Cは互いに同様に構成されており、各々独立してウエハWに加熱処理を行うことができる。加熱モジュール2A〜2Cのうち代表して、
図2にその縦断側面を示す加熱モジュール2Aについて説明する。図中21は水平な円形の加熱板であり、ヒーター22を備えており、加熱板21の表面に載置されたウエハWが加熱される。図中23は、加熱板21の底面及び側面を囲んで支持するベースであり、有底の筒状に形成されている。図中24はベース23の上端をなすフランジである。図中25は加熱板21及びベース23を上下方向に貫通する昇降ピンであり、図示しない搬送機構と加熱板21との間でウエハWの受け渡しを行う。
【0015】
このフランジ24の外周には起立した円筒状のシャッタ26が設けられ、シャッタ26の上端は、ベース23及び加熱板21の上方にて外側に広がりフランジ27を形成している。シャッタ26の下端は内方へ向かい、リング28を形成している。リング28はベース23のフランジ24と重なり、シャッタ26とベース23との間でガスが漏れることを防ぐように形成されている。図中29は昇降機構であり、加熱板21に対してシャッタ26を昇降させる。シャッタ26はウエハWの処理時には
図2に示す位置にあり、加熱板21に対するウエハWの受け渡し時には、当該受け渡しの妨げにならないように
図2に示す位置から下降する。
【0016】
シャッタ26の上方には、当該シャッタ26及び加熱板21を覆うように円形のカバー31が、当該加熱板21に対向して設けられており、当該カバー31、ベース23、シャッタ26によりウエハWを処理する処理容器20が構成され、処理容器20内がウエハWの処理雰囲気として構成される。カバー31の天井部には、加熱板21上に載置されるウエハWの中心部と対向するように排気口32が開口する。このようにウエハWの上方に排気口32を形成するのは、処理容器20内を排気するにあたり圧力損失が抑えられ、比較的大きい流量で前記排気を行えるようにするためである。前記有機膜については、昇華物の発生量が比較的多いため、このように排気量を大きくできる構成とすることが有利である。また、カバー31とシャッタ26のフランジ27との間の隙間は、加熱板21の周方向に沿って設けられる
給気口33を構成し、当該
給気口33はウエハWの全周に亘って形成される。図中H1で示す給気口33の上下の幅は、例えば0.5mm〜1mmである。また、図中H2で示す加熱板21の表面からカバー31の裏面までの高さは、例えば30mmである。
【0017】
前記排気口32を介して処理容器20内を排気できるように、カバー31には前記排気管30の一端が接続されている。排気管30の他端は、上記のように排気ダクト11に接続されており、既述のように排気ダクト11内が排気されているため、処理容器20内の処理雰囲気は当該排気ダクト11へ排気される。そのように処理容器20内が排気されることで、給気口33を介して処理容器20内の排気量に応じた流量で、当該処理容器20の外側から処理容器20内に気体例えばエアが取り込まれる。そして、このエアはウエハWの周縁部から中心部へ向けてウエハWの径方向に沿って流れ、処理雰囲気をパージし、排気口32に流入して排気される。
【0018】
また、排気管30は分岐して分岐路をなす分岐管34を形成し、この分岐管34の他端は処理容器20の外部における大気雰囲気(エア雰囲気)に開口している。そして分岐管34には排気量調整部をなし、開閉自在なダンパー35が介設されている(
図1参照)。
図3は加熱モジュール2Aの上面を示し、前記ダンパー35については開いた状態を模式的に示しており、この状態の加熱モジュール2Aのガスの流れを矢印により示している。このガスの流れについて具体的に説明すると、排気ダクト11内の排気によって前記大気雰囲気から分岐管34及び排気管30を介して当該排気ダクト11内にエアが流入する。従って、分岐管34から排気管30へ流れるエアの流量と処理容器20内から排気されるエアの流量との合計が、排気管30から排気ダクト11へ流れるエアの流量となる。そのため、例えば排気管30から排気ダクト11内へ10L/分でエアが流入しているものとし、分岐管34のエアの流量をaL/分とすると、処理容器20内の排気量は(10−a)L/分であり、a>0であるため、処理容器20内の排気量は10L/分よりも低い。
【0019】
図3に示す状態からダンパー35の開度が低下すると、分岐管34から排気管30へ流れるエアの流量aが低下するが、このaの低下分を補償するように処理容器20の外部から給気口33を介して処理容器20内へ供給され、排気管30へ流入するエアの流量が多くなる。つまり、処理容器20内の排気量が増大する。このようにダンパー35は、処理容器20の排気口32から排気ダクト11に排気される排気量と分岐管34から排気ダクト11に取り込まれる取り込み量との流量比を調整する。
図4は、ダンパー35が閉じられた状態を
図3と同じく模式的に示しており、ダンパー35が閉じられたときには分岐管34のエアの流量a=0となるため、処理容器20内の排気量は(10−0)=10L/分である。この
図4に示す状態からダンパー35が再度開かれると、aの値が上昇するので、処理容器20内の排気量は再び低下する。
【0020】
このようにダンパー35を開閉することによって、処理容器20内の排気量が切り替わる。これ以降、
図3に示すようにダンパー35が開き、処理容器20内の排気量が低くなった状態を低排気あるいは低排気状態と記載し、
図4に示すようにダンパー35が閉じて、処理容器20内の排気量が高くなった状態を高排気あるいは高排気状態と記載する場合がある。上記のように加熱モジュール2Aにおいて、分岐管34の端部及び処理容器20の給気口33から夫々排気ダクト11へエアが供給される構成としているため、分岐管34のダンパー35の開閉により処理容器20の高排気と低排気とが切り替わっても、排気管30から排気ダクト11へのエアの流量が変動することが抑えられる。そのように排気ダクト11へのエアの流量の変動が抑えられることから、加熱モジュール2B、2Cの各排気管30から排気ダクト11への排気量の変動が抑えられるので、これら加熱モジュール2B、2Cの各処理容器20内の排気量の変動が抑えられる。同様に、加熱モジュール2B、2Cで夫々高排気と低排気とが切り替わっても、他の加熱モジュールの処理容器20内の排気量の変動が抑えられる。
【0021】
ところで後述の評価試験より、処理容器20内が低排気であるときに処理容器20内の排気量は0.16L/分以下であることが好ましい。排気量をこのように十分低い値にするためには分岐管34の圧力損失を抑え、当該分岐管34からのエアの流量が多くなるように構成する。配管の圧力損失は、配管の内径の大きさに反比例し、且つ配管の管路の長さに比例するので、分岐管34における配管の管路の長さ/配管の内径(=A)の値は、排気管30における配管の管路の長さ/配管の内径の値(=B)に比べて十分に小さくなるように構成され、例えばA/Bは1/25以下とされる。
【0022】
続いて、
図1に示すコンピュータである制御部12について説明する。制御部12には、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)及びメモリーカードなどの記憶媒体に格納されたプログラムがインストールされる。インストールされたプログラムは、加熱装置1の各部に制御信号を送信してその動作を制御するように命令(各ステップ)が組み込まれている。具体的には、各加熱モジュール2A〜2Cについてのダンパー35の開閉、ヒーター22への供給電力の制御、シャッタ26及び昇降ピン25の昇降等の各動作が、前記プログラムにより制御される。
【0023】
加熱モジュール2A〜2Cでは、ウエハWの加熱処理中に既述の処理容器20内の低排気状態と高排気状態とが切り替わるが、この切り替えを行う理由を説明する。背景技術の項目で説明したようにウエハWを加熱すると、ウエハW表面の薬液の塗布膜から昇華物が発生する。この昇華物がウエハWや処理容器20内に付着して凝結するとパーティクルとなる。この昇華物を処理容器20内から除去し、前記パーティクルによる汚染を防ぐ観点からは、高排気で排気することが望ましい。
【0024】
しかしウエハWの処理開始から処理終了まで、高排気で処理を行うとすると、排気口32の下方、即ちウエハWの中心部における膜厚が、周縁部の膜厚に比べて大きくなってしまう。これは、上記の架橋反応が起きる前の塗布膜は粘性が低く、処理容器20内の気流に曝されることでその膜厚が低下する性質を持つが、高排気状態においてはウエハWの周縁部から中心部に向けて流れるエアが、ウエハWの中心部に到達する前に排気口32へ向けて、つまり上方へと吸引されてしまうために起こる。即ち、ウエハWの中心部が気流に曝され難いために起きる。
【0025】
前記架橋反応が起きて塗布膜の粘性が高くなり、当該塗布膜が硬化することで、塗布膜の膜厚は上記の気流による影響を受け難くなる。また、ウエハWの温度が高くなることで余剰の低分子ポリマーや架橋剤が昇華し、塗布膜から昇華物が発生しやすいが、ウエハWの温度が低いときには昇華物が発生しない。従って、ウエハWの処理開始から所定の時間は低排気にしてウエハWの面内の膜厚分布の均一性の低下を抑え、前記所定の時間が経過した後に高排気にして、昇華物を除去することが有効である。
【0026】
図5のグラフは、ウエハWに加熱処理を行うにあたりそのように排気を切り替えるときのダンパー35の開閉のタイミングを示しており、グラフの縦軸はウエハWの温度(単位:℃)、グラフの横軸は処理時間を夫々示す。加熱モジュール2A〜2Cは、いずれもこのタイミングチャートに従って処理される。代表して加熱モジュール2Aの処理について説明すると、先ず、例えば上記の塗布膜が形成されたウエハWが処理容器20に搬入される前に、
図3に示したようにダンパー35が開かれて処理容器20内が低排気とされ、0.16L/分以下の排気量で排気される。そして前記ウエハWが例えば450℃に加熱された加熱板21上で昇降ピン25に受け渡され、当該昇降ピン25が下降してウエハWが加熱板21上に載置される(時刻T0)。処理容器20内が低排気であるため、処理容器20の外部から処理容器20内へ流れ込んだ気流はウエハWの周縁部から中心部へ向けて流れ、当該中心部から上方の排気口32へ向かって流れて排気される。つまり、ウエハWの中心部及び周縁部が共に気流に曝されながら、ウエハWが昇温する。
【0027】
そしてウエハWの温度が、前記塗布膜にて架橋反応が開始される温度(架橋温度)である250度に達し、塗布膜が硬化し始める。ウエハWの温度がさらに上昇して前記架橋反応が進行し、塗布膜の硬化が進行すると共に、塗布膜からの昇華物の発生量が増大する。そして、時刻T0から所定の時間経過した時刻T1になると、
図4に示したようにダンパー35が閉じられ、処理容器20内が高排気となる。時刻T0〜時刻T1間は、例えば10秒である。高排気となったことで塗布膜から発生した昇華物は、速やかに排気口32から排気されて処理容器20内から除去され、ウエハWはさらに昇温して450℃になる。然る後、昇降ピン25によりウエハWが加熱板21から持ち上げられて当該ウエハWの温度が下降すると共に、ダンパー35が開かれ(時刻T2)、処理容器20内が低排気となる。そして、ウエハWは搬送機構により処理容器20から搬出される。
【0028】
続いて、加熱装置1全体の動作の一例について説明する。この加熱装置1には例えば加熱モジュール2A、2B、2Cの順に繰り返しウエハWが搬送される。そしてウエハWが搬送された加熱モジュールから加熱処理が開始され、この加熱処理中に
図5のグラフで説明したようにダンパー35の開閉が切り替えられる。2A〜2CのうちウエハWの加熱処理が終了した加熱モジュールについては、処理済みのウエハWの搬出後、後続のウエハWが搬送される。
図6は、このように処理が行われるときの各加熱モジュール2A〜2Cのダンパー35の開閉の切り替えのタイミングと各加熱モジュール2A〜2CのウエハWの温度とを、
図5と同様に示すグラフである。
図6のグラフでは、装置の動作をモジュールごとに区別するために、
図5でT1として示したダンパー35が開いた状態から閉じた状態に切り替えられる時刻を、加熱モジュール2A、2B、2Cについて夫々時刻TA1、TB1、TC1として夫々示し、
図5でT2として示したダンパー35が開いた状態から閉じた状態に切り替えられる時刻を、加熱モジュール2A、2B、2Cについて夫々時刻TA2、TB2、TC2として示している。
【0029】
上記のように加熱モジュール2A、2B、2Cの順にウエハW(1枚目のウエハW)が搬送されて処理が開始されるため、時刻TA1、TB1、TC1の順に時刻が経過し、これらの各時刻で加熱モジュール2A、2B、2Cについて低排気から高排気への切り替えが行われる。
図7では、前記時刻TB1経過後、時刻TC1に至るまでの各加熱モジュール2A〜2Cのダンパー35の状態を
図3、
図4と同様に模式的に示しており、加熱モジュール2A、2Bにおいてはダンパー35が閉じられて処理容器20内が高排気となっており、加熱モジュール2Cにおいてはダンパー35が開かれて処理容器20内が低排気となっている。
【0030】
前記時刻TC1が経過して加熱モジュール2Cが高排気に切り替えられた後、加熱モジュール2A、2B、2Cの順に1枚目のウエハWの加熱処理が終了して当該ウエハWが処理容器20から搬出されるので、TA2、TB2、TC2の順に時刻が経過し、これらの各時刻で加熱モジュール2A〜2Cのダンパー35が開かれて、高排気から低排気への切り替えが行われる。各加熱モジュール2A、2B、2Cにおいて、1枚目のウエハWが搬出され次第、2枚目のウエハWが搬入され、この2枚目のウエハWを処理中にダンパー35が閉じられる。即ち2回目の時刻TA1、TB1、TC1が経過し、これらの各時刻で加熱モジュール2A、2B、2Cについて低排気から高排気への切り替えが行われる。この例では2回目の時刻TA1は、例えば上記の時刻TB2と時刻TC2との間に設定されている。
【0031】
各加熱モジュール2A〜2Cに搬送された2枚目のウエハWも1枚目のウエハWと同じく処理が終了次第、処理容器20から搬出され、各加熱モジュールでは処理終了時に高排気から低排気への切り替えが行われる。つまり、
図6中には示していないが、2回目の時刻TA2、TB2、TC2がこの順に経過する。後続のウエハWについても加熱モジュール2A、2B、2Cの順に搬送されて加熱処理を受け、加熱処理が終了次第、処理容器20から搬出される。
【0032】
このように加熱モジュール2A〜2Cに対して個別にウエハWが搬送され、各加熱モジュール2A〜2Cにおいて個別に加熱処理が進行するため、個別に低排気と高排気との切り替えが行われるように各ダンパー35の開閉の切り替えが行われる。そして、2A〜2Cのうち一の加熱モジュールでダンパー35の開閉が切り替わる際に、
図3、
図4で説明したように、当該一の加熱モジュールの排気管30から排気ダクト11内へのエアの流量が一定に保たれるので、他の加熱モジュールの排気管30から排気ダクト11内へのエアの流量が変動することが抑えられ、結果として他の加熱モジュールにおいて処理容器20内の排気量が変動することが防がれる。
【0033】
上記の加熱装置1によれば、排気ダクト11を共有する加熱モジュール2A、2B、2Cの夫々が、周囲から取り込んだエアによりウエハWの処理雰囲気をパージしながら当該ウエハWを加熱処理する処理容器20と、排気ダクト11と各処理容器20とを接続する排気管30と、排気管30から分岐してその一端が大気開放される分岐管34と、分岐管34の管路を開閉するダンパー35と、を備えている。このような構成においては、前記ダンパー35を開閉し、分岐管34から排気ダクト11へのエアの取り込み量を制御することによって、処理容器20の排気量を制御でき、且つ排気管30から排気ダクト11へのエアの流量の変動を抑えることができる。従って、2A〜2Cのうち一の加熱モジュールにおける処理容器20の排気量を変更しても、その変更によって他の加熱モジュールの処理容器20の排気量が変動してしまうことを防ぐことができる。その結果として、処理容器20内を夫々低排気状態、高排気状態とするにあたり、各状態における排気量を精度高く制御することができる。従って、ウエハWの面内で膜厚分布が低下したり、処理容器20内に昇華物が残留して当該昇華物から生じたパーティクルがウエハWや処理容器20に付着することを抑えることができる。また、ダンパー35が設けられる分岐管34については、昇華物の凝結を防ぐために高温にする必要が無いので、当該ダンパー35の熱による劣化を防ぐことができる。
【0034】
上記の処理例では、ウエハWを加熱板21に載置し、予め設定した時間が経過するとダンパー35を閉鎖し、低排気から高排気への切り替えを行っている。このように時間に基づいてダンパー35を制御する代わりに、例えば処理容器20に放射温度計を設けてウエハWの温度を測定できる構成とし、測定されるウエハWの温度が予め設定された温度に達したらダンパー35を閉鎖するようにダンパー35を制御してもよい。
【0035】
ところで、上記の処理例では低排気と高排気とが瞬時に切り替わるようにしているが、この切り替わりは徐々に行われるようにしてもよい。
図8のグラフは、
図5と同様にダンパー35の開閉のタイミングとウエハWの温度との関係を示しており、低排気から高排気への切り替えが徐々に行われるようにダンパー35が制御される例を示している。
図9のグラフで示す処理について、
図5のグラフで説明した処理との差異点を中心に説明すると、処理容器20を低排気として時刻T0でウエハWを加熱板21に載置した後、例えばウエハWの温度が上記の架橋温度である250℃となる時刻T11においてダンパー35の開度の変更を開始し、徐々にその開度を小さくする。そして分岐管34から排気管30へのエアの流入量を徐々に小さくすると共に、処理容器20の排気量を徐々に大きくする。そして時刻T12においてダンパー35が閉じられて、分岐管34のエアの流量が0になると共に処理容器20が高排気となる。時刻T11、T12間は、5秒以上であることが好ましく、この例では10秒である。時刻T0、T11間は例えば5秒である。
【0036】
このように徐々にダンパー35を閉じるのは、ダンパー35を急に閉じると分岐管34のダンパー35の下流側に大気雰囲気からエアが急に流れなくなることで、当該下流側の圧力が低くなり、この圧力低下に起因して処理容器20から排気22管30へ流れた昇華物が排気ダクト11へ向かわず、この分岐管34内に流れ込んで凝結してしまうおそれがあるためである。つまり徐々にダンパー35を閉じることで、このような分岐管34における昇華物の凝結を防ぎ、再度ダンパー35が開かれてエアが分岐管34を流通するときに、そのように凝結した昇華物から発生したパーティクルが処理容器20に向かって飛散してしまうことを防ぐことができる。
【0037】
図9には、加熱モジュール2Aの変形例を示している。この
図9の加熱モジュール2Aのカバー31の下面には、加熱板21に載置されるウエハWの外側に開口するように給気口41が設けられている。給気口41は、例えば前記ウエハWの周に沿って複数設けられており、配管42を介してパージ用の気体であるエアの供給源43に接続されている。また、配管42には加熱部44が介設されており、配管42を流通するエアを加熱する。加熱部44の加熱により給気口41から供給されるエアの温度は、例えば40℃以上である。
【0038】
図9の加熱モジュール2Aにおいて
図5のグラフに示すように処理を行う場合、例えば時刻T1にてダンパー35を閉じ、処理容器20内を高排気にすると共に各給気口41へ加熱部44により加熱されたエアの供給を開始する。このエアの供給によって、排気口32からの排気量を確実に高い状態にすることができるので、昇華物を効率よく、より確実に除去することができる。然る後、例えば時刻T2にてダンパー35を開いて処理容器20内を低排気にすると共に、前記エアの供給を停止する。
【0039】
前記加熱部44により加熱された状態でエアが給気口41から供給されるので、当該エアにより、昇華物が冷却されて凝結することを防ぐことができる。ただしウエハWの処理中は加熱板21により処理容器20の温度が上昇するため、供給源43からカバー31に供給されたエアが、給気口41から処理雰囲気に吐出されるまでに前記加熱板21の熱で加熱されるように、当該カバー31にエアの流路を形成し、加熱部44が設けられない構成としてもよい。また、給気口41はカバー21に設けることに限られず、例えば加熱板21のウエハWの載置領域の外側に設けてもよい。また、処理容器20の外気として、処理容器20内にエアを供給することには限られず、窒素ガスなどの不活性ガスを供給してもよい。この処理容器20の外気には、
給気口33から取り込まれるガスと、供給源43から供給されるガスとが含まれる。
【0040】
図10、
図11は、ダンパー35の他の構成例を示している。この例では、ダンパー35は排気管30において分岐管34が接続される接続部に設けられている。そしてダンパー35によって当該接続部にて、分岐管34の下流端から当該排気管30へエアが流通可能な状態と、流通が遮断される状態とが互いに切り替わり、処理容器20内が低排気状態と高排気状態とに互いに切り替わる。つまり、ダンパー35は分岐管34に設けられずに、このように排気管30に設けられていてもよい。
【0041】
上記の加熱装置1としては、例えばレジスト膜の下層の反射防止膜を形成するための薬液が塗布されたウエハWを加熱する場合にも用いることができる。当該反射防止膜を形成する薬液も低分子のポリマーと架橋剤とを含み、架橋温度より低い温度で膜厚が気流の影響を受けやすいので、上記のように低排気と高排気とを切り替えて加熱処理することが有効である。また、加熱装置1は、そのような架橋反応が起こる薬液が塗布されたウエハWの処理に用いることには限られない。例えば前記架橋反応が行われないレジスト液が塗布されたウエハWを加熱処理するために用いることができる。前記レジスト液の温度が低く、溶剤を多く含むことで当該レジスト液の粘性が低いときには、レジスト液から形成されるレジスト膜は気流によって膜厚の影響を受けやすい。そのため上記の有機膜や反射防止膜の処理と同様に、膜が硬化すると共に昇華物の発生量が比較的多くなる温度まで低排気で加熱処理し、その後に高排気で加熱処理することが有効である。また、上記の各加熱モジュール2A〜2Cの処理において、低排気時においてはウエハWの膜厚分布の均一性が低下しなければよいため、処理容器20内の排気量は0L/分であってもよい。つまり、低排気時には排気が行われなくてもよい。
【0042】
(評価試験)
続いて、本発明に関連して行われた評価試験について説明する。この評価試験では上記の実施形態で説明した加熱モジュールを用いて、既述の有機膜を形成するための薬液が塗布された直径300mmのウエハWを加熱処理した。この加熱処理はウエハW毎に処理容器20内の排気量を変更して行った。評価試験1−1〜1−5としては上記の実施形態の処理と異なり、ウエハWの処理開始から処理終了まで処理容器20の排気量を一定にして加熱処理を行っており、評価試験1−1、1−2、1−3、1−4、1−5では、夫々前記排気量を15L/分、0L/分、0.3L/分、0.5L/分、1L/分とした。また、評価試験1−6としては、実施形態で説明したようにウエハWの処理中に低排気から高排気への切り替えを行った。
【0043】
評価試験1−1〜1−6で処理されたウエハWについて、面内の複数箇所の膜厚を測定し、膜厚の平均値、3シグマ、レンジ、中心部レンジ、改善率を計測した。前記レンジとは、ウエハWについて取得された膜厚の最大値と最小値との差分であり、中心部レンジとはウエハWの中心の膜厚と中心から所定の距離離れた一の膜厚との差分である。改善率とは、評価試験1−1の中心部レンジを基準としたときの他の評価試験で取得された中心部レンジの改善率であり、(評価試験1−1の中心部レンジ−他の評価試験で取得された中心部レンジ)/(評価試験1−1の中心部レンジ)×100(単位:%)である。
【0044】
下記の表1は、評価試験1−1〜1−6の測定結果を示している。また、グラフは評価試験1−1〜1−5から得られた中心部レンジ及び改善率を示している。グラフの横軸は処理容器20の排気量を示し、縦軸は中心部レンジ及び改善率を示している。測定結果をグラフ中にプロットすると共に、この測定結果に基づいて得られた近似曲線をグラフ中に示している。表1に示すように評価試験1−1〜1−6で平均膜厚は略等しい。そして、評価試験1−6は、評価試験1−1〜1−5に比べて3シグマ、レンジ、中心部レンジについていずれも低く、改善率については高い。従って、上記の実施形態に示すように低排気と高排気とを切り替えて処理を行うことで、ウエハWの膜厚の面内分布について均一性を高くすることができることが確認された。また、上記の改善率としては50%以下にすることが実用上、有効である。
図12のグラフの近似曲線より、改善率が50%であるときに排気量は0.16L/分であり、排気量が低下するほど改善率が高くなることが分かる。従って、上記の実施形態において処理容器20内を低排気にしたときの排気量は、0.16L/分以下にすることが有効である。
【0046】
上記の分岐管35及びダンパー36の代わりに、
図13、
図14に示す吸入管51、55及びダンパー61を備えるように加熱装置1を構成してもよい。吸入管51、55及びダンパー61は加熱モジュール2A〜2Cについて夫々設けられ、
図13、
図14では加熱モジュール2Aに対応する吸入管51、55及びダンパー61を示している。吸入管51は水平方向に延設されており、当該吸入管51の管路を52として表示している。吸入管51の一端側にて管路52は大気雰囲気に開放されている。吸入管51の他端側には上方に向かう凹部53が形成され、管路52はこの凹部53の側面に開口している。凹部53の底面には吸入口54が形成されている。この吸入口54に開口するように、吸入管51には下方側から吸入管55の一端が接続され、吸入管55の他端は、上記の分岐管35と同様に排気管30に接続されている。
【0047】
ダンパー61は、球体62、電磁石63、カバー64及びヒーター65により構成されている。カバー64は下方が開口した箱形に形成され、凹部53を覆うように吸入管51上に設けられている。カバー64内は球体62が収納される収納領域66として構成されている。カバー64上には電磁石63が設けられており、オンの状態(磁力を発生する状態)、オフの状態(磁力の発生が停止した状態)が互いに切り替えられる。ヒーター65は、カバー64の外周を囲むように設けられ、例えば加熱装置1の動作中、収納領域66を常時加熱する。それによって球体62が所定の温度とされる。このように球体62を加熱する理由は後述する。
【0048】
球体62は電磁石63のオンオフにより昇降できるように、例えば鉄により構成されている。
図13は電磁石63がオンの状態を示しており、このときは球体62が磁力によって重力に抗して凹部53から浮き上がっている。それによって吸入口54が吸入管51の管路52に連通し、大気が排気管30へ取り込まれて、加熱モジュール2Aが低排気状態となる。
【0049】
図14は、電磁石63をオフにした状態を示している。このときは球体62が凹部53内に位置し、球体62の下部が吸入口54を塞ぐ。それによって吸入口54は管路52から遮断され、大気の排気管30への取り込みが停止し、加熱モジュール2Aが高排気状態となる。また、
図13に示す状態から電磁石63をオフにすることで重力により落下する球体62を、
図14に示す吸入口54を塞ぐ位置へとガイドできるように、例えば凹部53の側面は球体62の外周面にフィットする曲面によって構成されている。
【0050】
上記の球体62を加熱する理由について説明する。球体62が吸入口54を塞ぐとき、排気管30から昇華物が吸入管55に流入することが考えられ、仮に球体62の温度が比較的低いと、球体62に接触した昇華物が凝結し、当該球体62に付着してしまう。そうなると、吸入管51、55から大気が取り込み難くなることで、加熱モジュール2Aの処理容器20内の排気量が設計値と異なってしまうおそれがある。しかし、上記のように球体62が加熱されていることで、この球体62の表面における昇華物の凝結及び付着を防ぐことができるため、処理容器20内の排気量が異常になることを防ぐことができる。
またこのダンパー61によれば、重力と電磁石63による磁力との作用により弁体である球体62を昇降させるので、シリンダや歯車などを用いた弁体を昇降させるための昇降機構及び当該昇降機構を構成する駆動部品に塗布されるグリスが不要となる。従って、このような昇降機構及びグリスの劣化を考慮しなくてよいため、上記のヒーター65を比較的高い出力とすることができる。それによって上記の昇華物の球体62への付着を、より確実に防ぐことができる。
【0051】
なお、上記の球体62としては、吸入口54を閉鎖する位置から、その上方の吸入口54を開放する位置へ電磁石63の磁力によって吸引されて上昇できる材質により構成されていればよく、鉄以外には例えばコバルト、ニッケルなどの磁性体によって構成してもよい。また、この磁性体としては磁石も含まれる。さらに、弁体としては昇降することで吸入口54を開閉できればよいため、球体62を用いることには限られず、例えば円錐を逆さにしたものを用いてもよい。