(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384455
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】シリコン原料洗浄装置
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20180827BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20180827BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20180827BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20180827BHJP
C30B 29/06 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
B08B3/04 A
B08B3/08 Z
H01L21/304 642D
!C30B29/06 D
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-226747(P2015-226747)
(22)【出願日】2015年11月19日
(65)【公開番号】特開2017-95289(P2017-95289A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2017年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】岡井 篤志
(72)【発明者】
【氏名】矢島 渉
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開平4−152525(JP,A)
【文献】
特開2013−244447(JP,A)
【文献】
特開平9−1091(JP,A)
【文献】
特開平4−87334(JP,A)
【文献】
特開平3−284842(JP,A)
【文献】
特開2012−211073(JP,A)
【文献】
特開2012−106914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/01 − 33/193
B08B 3/00 − 3/14
H01L 21/304
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン原料を充填するためのバスケット、該バスケットを揺動及び搬送するためのアーム、前記シリコン原料の表面を水洗するための水洗槽、及び前記シリコン原料の表面を混酸でエッチングするための薬液槽を具備するシリコン原料洗浄装置であって、
前記薬液槽は、薬液槽の外周上部に設けられ前記シリコン原料と前記混酸の反応によって発生した反応ガスを排気するための排気口と、該排気口の上部に前記薬液槽の外周に沿って外周から内側に向かうように設けられた庇を備えるものであり、前記アームは前記薬液槽の液面上に水平に位置するように設置された板を備えるものであり、
前記バスケットを前記薬液槽内の混酸に浸漬させた際に、前記庇と前記板によって前記薬液槽の上部が覆われるものであることを特徴とするシリコン原料洗浄装置。
【請求項2】
前記混酸がフッ硝酸であり、前記反応ガスがNOxガスであることを特徴とする請求項1に記載のシリコン原料洗浄装置。
【請求項3】
前記庇が、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、及びポリエチレンから選ばれる樹脂からなる厚さ5〜20mmのものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン原料洗浄装置。
【請求項4】
前記板が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、及びポリエチレンから選ばれる耐酸性樹脂からなる厚さ5〜20mmのものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン原料洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用シリコン単結晶の製造に使用されるシリコン原料の表面を酸溶液による洗浄で高純度化する洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の育成方法は、ルツボ内に高純度のシリコン原料を充填して溶融し、その溶融液に浸漬した種結晶を回転させながら引き上げることにより、種結晶の下端にシリコン単結晶を成長させる方法であり、半導体基板に用いられるシリコン単結晶を製造する方法として広く採用されている。このようにして製造されたシリコン単結晶をワイヤーソーなどによりウェーハ状に切断して粗面ウェーハとし、これを研磨布や薬液を用いて研磨するとポリッシュドウェーハ(PW)となる。また、トリクロロシランなどを用いてエピタキシャル反応によりSi層を積載するとエピタキシャルウェーハ(EPW)となる。
【0003】
ここで、CZ法には上記のシリコン原料として、粒状もしくは塊状の多結晶シリコン又は単結晶シリコンが用いられる。昨今、半導体用シリコン単結晶はますます高品質のものが要求されており、それに従いシリコン原料も高純度のものが求められている。そのため、半導体用シリコン単結晶の製造に使用されるシリコン原料はバルクのみでなく、その表面も高純度でなくてはならない。
【0004】
シリコン原料の表面を純化させる手法として、フッ硝酸等の酸溶液によるエッチング(洗浄)が一般的に行われている。シリコン原料のエッチングの際には、NOxガス等の反応ガスが発生するが、反応ガスが十分に排気できなかった場合、反応ガスがエッチングを行う洗浄装置内に充満し洗浄装置外に漏洩する恐れがある。しかし、単に排気量を増やすだけでは設備投資や稼動コストが増すことが予想される。そこで、可能な限り効率的に洗浄装置内の反応ガスを排気することが求められる。
【0005】
ここで、従来のシリコン原料洗浄装置を
図4に示す。
図4に示される従来のシリコン原料洗浄装置101は、シリコン原料102を充填するためのバスケット103、バスケット103を揺動及び搬送するためのアーム104、シリコン原料102の表面を水105で洗浄するための水洗槽106、シリコン原料102の表面を混酸107でエッチングするための薬液槽108、反応ガスを排気するための排気口109、及びバスケット103を搬入・搬出するための搬入口・搬出口(不図示)を少なくとも有している。また、バスケット103には、取っ手112が設けられており、アーム104でこの取っ手112を掴むことで、次槽へのバスケット103の搬送や水洗槽106あるいは薬液槽108内でのバスケット103の揺動を行う。また、従来の洗浄装置では、排気口109を洗浄装置上部もしくは背面に設置し、洗浄装置内に拡散・充満した反応ガスを排気する方式が主である。
【0006】
ここで、
図4の従来のシリコン原料洗浄装置101において、バスケット103を薬液槽108内の混酸107に浸漬させた状態を
図5に示す。
図5に示されるように、従来の洗浄装置では、薬液槽108で発生した反応ガスが
図5中の矢印の方向に進み、洗浄装置上部もしくは背面に設置された排気口109から排気されるが、この方式では反応ガスが洗浄装置内に拡散・充満するため、洗浄装置外への反応ガスの漏洩を防止するためには排気量を増やす必要が出てくる。
【0007】
また、特許文献1では、複数のフッ硝酸水溶液槽(薬液槽)を有し、上流槽から下流槽に向かって順にエッチングを行うシリコン原料洗浄装置において、エッチング後のシリコン原料とエッチング反応によって発生するNOxガスが反応して酸化膜が形成されるのを抑制するために、下流槽から上流槽へ気流を作ることによりNOxガスを下流に流さないようにすることが提案されている。しかし、特許文献1の洗浄装置では、下流槽で発生するNOxガスが上流側に流れるため、上流側で集まったNOxガスを排気するため、上流側の排気量を増大させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−150130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、薬液槽におけるシリコン原料のエッチングによって発生する反応ガスを、洗浄装置内に充満させずに効率的に排気できるシリコン原料洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、シリコン原料を充填するためのバスケット、該バスケットを揺動及び搬送するためのアーム、前記シリコン原料の表面を水洗するための水洗槽、及び前記シリコン原料の表面を混酸でエッチングするための薬液槽を具備するシリコン原料洗浄装置であって、前記薬液槽は、薬液槽の外周上部に設けられ前記シリコン原料と前記混酸の反応によって発生した反応ガスを排気するための排気口と、該排気口の上部に前記薬液槽の外周に沿って外周から内側に向かうように設けられた庇を備えるものであり、前記アームは前記薬液槽の液面上に水平に位置するように設置された板を備えるものであり、前記バスケットを前記薬液槽内の混酸に浸漬させた際に、前記庇と前記板によって前記薬液槽の上部が覆われるものであるシリコン原料洗浄装置を提供する。
【0011】
このようなシリコン原料洗浄装置であれば、排気口の上部に設けられた庇とアームに設置された板によって、反応ガスを薬液槽の外周上部に設けられた排気口に導くことができるため、反応ガスを洗浄装置内に充満させずに効率的に排気することができる。
【0012】
また、前記混酸がフッ硝酸であり、前記反応ガスがNOxガスであることが好ましい。
【0013】
本発明のシリコン原料洗浄装置は、このようにフッ硝酸を用いたエッチングによってNOxガスが発生する場合に好適である。
【0014】
また、前記庇が、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、及びポリエチレンから選ばれる樹脂からなる厚さ5〜20mmのものであることが好ましい。
【0015】
庇がこのようなものであれば、製造が容易であり、またコストを抑えることができる。
【0016】
また、前記板が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、及びポリエチレンから選ばれる耐酸性樹脂からなる厚さ5〜20mmのものであることが好ましい。
【0017】
板がこのようなものであれば、混酸による腐食の恐れがなく、製造が容易であり、またコストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明のシリコン原料洗浄装置であれば、バスケットを薬液槽内のフッ硝酸等の混酸に浸漬させた際に、排気口の上部に設けられた庇とアームに設置された板によって薬液槽の上部が覆われるため、NOxガス等の反応ガスを薬液槽の外周上部に設けられた排気口に導くことができ、これにより、反応ガスを洗浄装置内に充満させずに効率的に回収・排気することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のシリコン原料洗浄装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図1のシリコン原料洗浄装置において、バスケットを薬液槽内の混酸に浸漬させた状態を示す概略図である。
【
図3】本発明のシリコン原料洗浄装置の別の一例において、バスケットを薬液槽内の混酸に浸漬させた状態を示す概略図である。
【
図4】従来のシリコン原料洗浄装置の一例を示す概略図である。
【
図5】
図4のシリコン原料洗浄装置において、バスケットを薬液槽内の混酸に浸漬させた状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上述のように、薬液槽におけるシリコン原料のエッチングによって発生する反応ガスを、洗浄装置内に充満させずに効率的に排気できるシリコン原料洗浄装置の開発が求められていた。
【0021】
本発明者らは、薬液槽で発生したNOxガス等の反応ガスを効率的に回収する方法について鋭意検討を重ね、薬液(混酸)直上である薬液槽の縁(外周)の上部に排気口を設置することで、薬液から発生する反応ガスを洗浄装置内に拡散させずに回収・排気することが可能となることを見出した。また、本発明者らは、この排気口の上部に庇を設けることで、反応ガスが排気口より上に逃れるのを防ぎ、反応ガスの回収効率を向上させることが可能となることを見出した。
【0022】
更に、薬液槽の上面面積(即ち、薬液が雰囲気と接している面積)が大きいほど、薬液槽の中心と薬液槽の縁の距離が遠くなり、薬液槽縁上部にある排気口からの反応ガスの吸入が困難になると考えられることから、本発明者らは、バスケットを次槽へ搬送させるためのアームに板を設けることを考案した。このような板を設けることで、アームで掴まれたバスケットが薬液槽に浸漬される間、アームに設けられた板がバスケットの直上に位置し薬液槽に蓋をするような構造となるため、反応ガスが薬液槽の中心から洗浄装置外の雰囲気中へ逃れるのを防ぎ、排気口へ流れるように誘導することが可能となる。
【0023】
本発明者らは、上記構造により、シリコン原料のフッ硝酸等の酸によるエッチングの際に発生するNOxガス等の反応ガスを洗浄装置内に充満させることなく、効率的に回収・排気することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
即ち、本発明は、シリコン原料を充填するためのバスケット、該バスケットを揺動及び搬送するためのアーム、前記シリコン原料の表面を水洗するための水洗槽、及び前記シリコン原料の表面を混酸でエッチングするための薬液槽を具備するシリコン原料洗浄装置であって、前記薬液槽は、薬液槽の外周上部に設けられ前記シリコン原料と前記混酸の反応によって発生した反応ガスを排気するための排気口と、該排気口の上部に前記薬液槽の外周に沿って外周から内側に向かうように設けられた庇を備えるものであり、前記アームは前記薬液槽の液面上に水平に位置するように設置された板を備えるものであり、前記バスケットを前記薬液槽内の混酸に浸漬させた際に、前記庇と前記板によって前記薬液槽の上部が覆われるものであるシリコン原料洗浄装置である。
【0025】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
図1は、本発明のシリコン原料洗浄装置の一例を示す概略図である。
図1に示されるシリコン原料洗浄装置1は、シリコン原料2を充填するためのバスケット3、バスケット3を揺動及び搬送するためのアーム4、シリコン原料2の表面を水5で洗浄するための水洗槽6、及びシリコン原料2の表面を混酸7でエッチングするための薬液槽8を具備する。薬液槽8は、薬液槽8の外周上部に設けられシリコン原料2と混酸7の反応によって発生した反応ガスを排気するための排気口9と、排気口9の上部に薬液槽8の外周に沿って外周から内側に向かうように設けられた庇10を備えている。また、アーム4は薬液槽8の液面上に水平に位置するように設置された板11を備えている。また、バスケット3には、例えば前後又は左右に取っ手12が設けられており、アーム4でこの取っ手12を掴むことで、次槽へのバスケット3の搬送や水洗槽6あるいは薬液槽8内でのバスケット3の揺動を行う。
【0027】
以下、本発明のシリコン原料洗浄装置の各構成部材について、更に詳しく説明する。
[バスケット]
バスケット3は、シリコン原料2を水洗槽6及び薬液槽8に浸漬するための入れ物である。このバスケット3には、水洗槽6や薬液槽8に浸漬してバスケット3内でシリコン原料2が洗浄できるように複数の穴が設けられている。
【0028】
バスケット3は耐酸性樹脂製のものが好ましく、樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、及びポリエチレン(PE)などが好ましい。
【0029】
[アーム]
アーム4は、バスケット3を揺動及び搬送するためのものである。なお、
図1では、バスケット3に設けられた2つの取っ手12を2本のアーム4で掴む構造が例示されているが、本発明におけるバスケットの取っ手やアームの数はこれに限定されるものではない。
【0030】
また、本発明において、アーム4は、薬液槽8の液面上に水平に位置するように設置された板11を備えている。これにより、バスケット3をアーム4が掴んだ際に、
図1に示されるように、バスケット3の直上に板11が配置され、バスケット3に蓋をするような構造となる。
【0031】
板11は耐酸性樹脂製のものが好ましく、樹脂としては、PTFE、PVDF、PVC、PP、PEなどが好ましい。また、板11は厚さ5〜20mmのものとすることが好ましい。このようなものであれば、混酸による腐食の恐れがなく、製造が容易であり、またコストを抑えることができる。なお、板11は、例えば樹脂製のねじでアーム4に固定することで設置することができる。
【0032】
[水洗槽]
水洗槽6は、シリコン原料2の表面を水5で洗浄するためのものである。水洗槽6は樹脂製のものが好ましく、樹脂としては、PTFE、PVDF、PVC、PP、PEなどが好ましい。なお、水洗槽の数は1つ以上であればよく、特に限定されないが、後述のように前水洗工程とリンス工程を行う場合は、水洗槽を2つ以上とするのが好ましい。
【0033】
[薬液槽]
薬液槽8は、シリコン原料2の表面を混酸7でエッチングするためのものである。薬液槽8は耐酸性樹脂製のものが好ましく、樹脂としては、PTFE、PVDF、PVC、PP、PEなどが好ましい。
【0034】
本発明において、薬液槽8は、薬液槽8の外周上部に設けられた排気口9及び排気口9の上部に薬液槽8の外周に沿って外周から内側に向かうように設けられた庇10を備えている。排気口9及び庇10は樹脂製のものが好ましく、樹脂としては、PVC、PP、PEなどが好ましい。また、庇10は厚さ5〜20mmのものとすることが好ましい。このようなものであれば、製造が容易であり、またコストを抑えることができる。なお、庇10は、例えば樹脂製のねじで排気口9上部に固定することで設置することができる。
【0035】
また、エッチングに使用する混酸7としては、フッ硝酸(フッ酸と硝酸の混酸)の水溶液が好ましい。このようにフッ硝酸を用いてエッチングを行うと反応ガスとしてNOxガスが発生するが、本発明のシリコン原料洗浄装置は、このような場合に好適である。ただし、混酸はこれに限定されるものではなく、フッ酸や過酸化水素水等の混酸を用いてもよい。
【0036】
なお、薬液槽の数は1つ以上であればよく、特に限定されない。薬液槽を2つ以上有するものとし、それらの薬液槽にシリコン原料を充填したバスケットを順次浸漬させながらエッチングを行う場合は、すべての薬液槽を上記のような庇と排気口を有するものとするのが好ましい。
【0037】
また、ここで、
図1のシリコン原料洗浄装置1において、バスケット3を薬液槽8内の混酸7に浸漬させた状態を
図2に示す。
図2に示されるように、本発明のシリコン原料洗浄装置では、バスケット3を薬液槽8内の混酸7に浸漬させた際に、庇10と板11によって薬液槽8の上部が覆われ、薬液槽8に蓋がされた状態になる。これにより、薬液槽8で発生した反応ガスが板11及び庇10に沿って
図2中の矢印の方向に進み排気口9に導かれるため、反応ガスを薬液槽8の外周上部に設けられた排気口9から効率的に回収・排気することができる。
【0038】
また、本発明のシリコン原料洗浄装置の別の一例において、バスケットを薬液槽内の混酸に浸漬させた状態を
図3に示す。
図3に示されるように、本発明のシリコン原料洗浄装置の薬液槽8は、薬液槽8の外側に混酸7の循環や冷却を目的とした外槽13を備えたものとしてもよい。この場合、外槽13の上部に排気口9を設け、反応ガスを回収するものとする。
【0039】
上述のような本発明のシリコン原料洗浄装置を用いてシリコン原料を洗浄する際には、例えば、純水による前水洗工程、混酸によるエッチング工程、及び水洗により混酸を除去するリンス工程の順で行うことが好ましい。以下に、より具体的な作業手順を示すが、本発明のシリコン原料洗浄装置を用いたシリコン原料の洗浄方法は、これに限定されるものではない。
【0040】
まず、粒状又は塊状のシリコン原料をバスケットに充填し、シリコン原料を充填したバスケットを本発明のシリコン原料洗浄装置内に投入する。次に、バスケットを第一の水洗槽に搬送して第一の水洗槽内の純水に浸漬させ、前水洗工程を行う。次に、第一の水洗槽から出したバスケットを薬液槽に搬送して薬液槽内の混酸に浸漬させ、エッチング工程を行う。このとき、フッ硝酸等の混酸に浸漬されたシリコン原料はエッチング反応により、NOxガス等の反応ガスを発生させる。発生した反応ガスは薬液槽の上方へ流れようとするが、薬液槽の縁(外周)近くの混酸表面から発生した反応ガスはそのまま排気口へ吸い込まれる、あるいは排気口上部の庇にぶつかり、排気口へ吸い込まれる。一方、薬液槽の中心の混酸表面で発生した反応ガスはアームに設けられた板にぶつかり、それより上へは流れずに水平方向に流れて排気口へ吸い込まれる。最後に、薬液槽から出したバスケットを第二の水洗槽に搬送して第二の水洗槽内の純水に浸漬させ、リンス工程を行う。なお、この前水洗工程、エッチング工程、及びリンス工程では、アームでバスケットを掴んだ状態のまま、次槽へのバスケットの搬送と各槽でのバスケットの搖動を行う。このときアームは各槽固有のものであり、薬液槽のアームにのみ板が設けられている。各槽固有のアームは、次槽へのバスケットの搬送が終わったら、元の位置に戻って次のバスケットの取っ手を掴むようになっている。
【0041】
以上のように、本発明のシリコン原料洗浄装置であれば、バスケットを薬液槽内のフッ硝酸等の混酸に浸漬させた際に、排気口の上部に設けられた庇とアームに設置された板によって薬液槽の上部が覆われるため、NOxガス等の反応ガスを薬液槽の外周上部に設けられた排気口に導くことができ、これにより、反応ガスを洗浄装置内に充満させずに効率的に回収・排気することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
図1に示される、薬液槽8の外周上部に設けられた排気口9と、排気口9の上部に設けられた庇10と、アーム4に設置された板11を備えた本発明のシリコン原料洗浄装置1を用いて、シリコン原料2の洗浄を行い、洗浄装置のバスケット搬入口(不図示)付近(洗浄装置外)におけるNOxガスの濃度を測定した。なお、洗浄装置の容量は20m
3、排気量は20m
3/min、薬液槽容量は150L、混酸はフッ硝酸(硝酸濃度64質量%、フッ酸濃度1質量%)、シリコン原料の総処理量は1,000kg、総反応時間は6時間とした。
【0044】
[比較例1]
図4に示される、排気口109が洗浄装置の背面に設けられた従来のシリコン原料洗浄装置101(即ち、上記の
図1中の排気口9、庇10、及び板11を備えていないもの)を用いて、シリコン原料102の洗浄を行い、洗浄装置のバスケット搬入口(不図示)付近(洗浄装置外)におけるNOxガスの濃度を測定した。なお、実施例1と同様、洗浄装置の容量は20m
3、排気量は20m
3/min、薬液槽容量は150L、混酸はフッ硝酸(硝酸濃度64質量%、フッ酸濃度1質量%)、シリコン原料の総処理量は1,000kg、総反応時間は6時間とした。
【0045】
上記のようにして測定した実施例1のNOxガス濃度は0ppmaであり、比較例1のNOxガス濃度は0.12ppmaであった。上記結果から、従来のシリコン原料洗浄装置を使用した比較例1では、洗浄装置内に充満したNOxガスが洗浄装置外まで漏洩しているのに対し、本発明のシリコン原料洗浄装置を使用した実施例1では、洗浄装置内に充満させずに効率的にNOxガスを回収・排気できているため、洗浄装置外へのNOxガスの漏洩がないことが分かる。
【0046】
以上のことから、本発明のシリコン原料洗浄装置であれば、薬液槽におけるシリコン原料のエッチングによって発生するNOxガス等の反応ガスを、洗浄装置内に充満させずに効率的に回収・排気できることが明らかとなった。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0048】
1…シリコン原料洗浄装置、 2…シリコン原料、 3…バスケット、 4…アーム、
5…水、 6…水洗槽、 7…混酸、 8…薬液槽、 9…排気口、 10…庇、
11…板、 12…取っ手、 13…外槽。