特許第6384668号(P6384668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6384668構造体、光取出し膜、電子デバイス及び構造体の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384668
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】構造体、光取出し膜、電子デバイス及び構造体の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20180827BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20180827BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20180827BHJP
   H01L 33/22 20100101ALI20180827BHJP
【FI】
   C08J5/00
   C08G73/10
   C08L79/08 Z
   H01L33/22
【請求項の数】7
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2014-539793(P2014-539793)
(86)(22)【出願日】2013年10月2日
(86)【国際出願番号】JP2013076850
(87)【国際公開番号】WO2014054703
(87)【国際公開日】20140410
【審査請求日】2016年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-221667(P2012-221667)
(32)【優先日】2012年10月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 洋介
(72)【発明者】
【氏名】三木 徳俊
(72)【発明者】
【氏名】桜井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】見山 幸広
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正睦
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/119889(WO,A1)
【文献】 特開平06−313055(JP,A)
【文献】 特開平08−020721(JP,A)
【文献】 特開2005−041936(JP,A)
【文献】 特開2009−013384(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/111836(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/099937(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/096204(WO,A1)
【文献】 特開2012−103506(JP,A)
【文献】 藤山孝太郎、外3名,ラビングによる自己組織化ナノパターンに関する研究,2004年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,2004年,p.1023−1024
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00
C08G 73/10
H01L 33/22
51/50
H05B 33/02
C08L 79/08
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドからなる第1の重合体と、前記第1の重合体とは異なりかつ前記第1の重合体と分離しないポリイミドからなる第2の重合体、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルと、を含み、前記第1の重合体及び第2の重合体の自己組織化によって形成された凹凸を表面に有し、前記表面に形成された凸部の平均高さが0.5nm〜500nmであることを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記第1の重合体及び第2の重合体の少なくとも一方は、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる結合、及び、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる置換基から選択される少なくとも一種を有することを特徴とする請求項1に記載する構造体。
【請求項3】
前記分子内又は分子間で水素結合を形成しうる結合が下記式(1)で表され、前記分子内又は分子間で水素結合を形成しうる置換基がヒドロキシル基、チオール基、アミノ基及びカルボキシル基から選択される基であることを特徴とする請求項2に記載する構造体。
【化1】
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載する構造体からなることを特徴とする光取出し膜。
【請求項5】
請求項4に記載する光取出し膜を有することを特徴とする電子デバイス。
【請求項6】
発光ダイオードであることを特徴とする請求項5に記載する電子デバイス。
【請求項7】
自己組織化によって形成される凹凸を表面に有する構造体の形成方法であって、
下記(A)成分及び下記(B)成分を含有する構造体形成用組成物を基材上に塗布する塗布工程と、塗布工程の後に引き置く引き置き工程と、引き置き工程の後に40℃〜250℃で焼成する焼成工程とを有することを特徴とする構造体の形成方法。
(A)成分:ポリイミドからなる第1の重合体又はポリイミド前駆体からなる第1の重合体前駆体。
(B)成分:(A)成分とは異なり(A)成分と分離しないポリイミドからなる第2の重合体又はポリイミド前駆体からなる第2の重合体前駆体、及び、プロピレングリコールモノメチルエーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドやポリイミド前駆体の自己組織化により形成された凹凸を表面に有する構造体、光取出し膜、電子デバイス及び構造体の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オプトデバイス(光学素子)の光取出し効率を向上させる検討が活発である。オプトデバイスとして、例えば、透明基板、透明電極、発光層及び電極がこの順に積層され、透明基板側から光が取り出される発光ダイオード(LED、Light Emmiting Diode)素子が挙げられるが、透明基板、透明電極及び発光層の各界面で光が反射等することにより光取出し効率が低くなってしまうため、光取出し効率の向上が求められている。光取出し効率を向上させる技術として、有機発光ダイオード(OLED)素子では、光を取り出す面(光取出し面)の最前面にレンズを設ける方法(特許文献1参照)、光取出し面の最前面にゾルゲル法により多孔質の光散乱体を設ける方法(特許文献2参照)、プラズモンを生じる金属微粒子が分散された光散乱層を設ける方法(特許文献3参照)が知られている。
【0003】
また、透明基板と透明電極との間や、透明電極と発光層との間に、光取出し効率を向上する光取出し膜を設けた技術として、例えば、インプリント法によって形成された凹凸部を有する低屈折率層(光取出し膜)を設けた技術(特許文献4参照)が報告されている。そして最近では、アルミニウムを用いてPDMS(ポリジメチルシロキサン)表面に作成した凹凸をナノインプリント法によって転写した凹凸を有する構造体(光取出し膜)を透明基板と透明電極との間に設けたOLED素子の光取出し効率が約100%向上することが報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
このように、凹凸を表面に有する光取出し膜を設けることにより、光取出し効率が向上するが、上記インプリント法で凹凸を形成すると、製造工程が長く、容易に形成できないという問題がある。
【0005】
ここで、ポリスチレンとポリメタクリル酸メチルとのブロックコポリマーを熱アニールすることにより自己組織化を行い、その後ドライエッチングすることにより微細な凹凸を作製する技術が報告されている(非特許文献2参照)。この自己組織化は、従来から半導体デバイス製造で用いられているフォトリソグラフィ法等に比べて、簡便・安価にナノスケールの加工が可能であるという利点を有する。
【0006】
しかしながら、アクリル系のブロックコポリマーであるポリスチレンとポリメタクリル酸メチルとのブロックコポリマーは製造が非常に難しいためか、ポリスチレンとポリメタクリル酸メチルとのブロックコポリマーの自己組織化を用いて形成される凹凸の再現性が悪いという問題がある。
【0007】
また、このブロックコポリマーの自己組織化を行うことにより凹凸を形成する方法は、表面に凹凸を発現させるためのドライエッチング、300℃の高温で焼成、アニールや、窒素雰囲気下の操作が必要で、製造工程が長く且つ煩雑で高価な設備投資が必要であった。
【0008】
なお、このように容易に且つ再現性良く製造できる凹凸を表面に有する構造体は、凹凸を表面に有する光取出し膜を具備するLEDに限らず、種々のオプトデバイスや、さらには、半導体デバイス、太陽電池、ディスプレイ、記憶媒体、バイオチップ等の電子デバイスにおいても、同様に望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−29172号公報
【特許文献2】特開2009−238507号公報
【特許文献3】特開2007−165284号公報
【特許文献4】特開2011−44296号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nature Photonics、米国、2010年、4巻、p.222−226
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics、日本、2002年、41巻、p.6112−6118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その解決しようとする課題は、凹凸を表面に有する構造体であって、容易に且つ再現性良く製造できる構造体、光取出し膜、電子デバイス及び構造体の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、ポリイミド前駆体又はポリイミドを、該ポリイミド前駆体又はポリイミドとは異なる重合体や、プロピレングリコールモノメチルエーテルと共に含有する組成物を、基材に塗布し、放置及び焼成するだけで自己組織化し、表面に凹凸を有する構造体を再現性良く得られるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下を要旨とする。
1. ポリイミドからなる第1の重合体と、前記第1の重合体とは異なりかつ前記第1の重合体と分離しないポリイミドからなる第2の重合体、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルと、を含み、前記第1の重合体及び第2の重合体の自己組織化によって形成された凹凸を表面に有し、前記表面に形成された凸部の平均高さが0.5nm〜500nmであることを特徴とする構造体。
【0017】
. 前記第1の重合体及び第2の重合体の少なくとも一方は、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる結合、及び、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる置換基から選択される少なくとも一種を有することを特徴とする1.に記載する構造体。
【0018】
. 前記分子内又は分子間で水素結合を形成しうる結合が下記式(1)で表され、前記分子内又は分子間で水素結合を形成しうる置換基がヒドロキシル基、チオール基、アミノ基及びカルボキシル基から選択される基であることを特徴とする.に記載する構造体。
【0019】
【化1】
【0020】
. 1.〜.のいずれかに記載する構造体からなることを特徴とする光取出し膜。
【0021】
.に記載する光取出し膜を有することを特徴とする電子デバイス。
【0022】
. 発光ダイオードであることを特徴とする.に記載する電子デバイス。
【0023】
7. 自己組織化によって形成される凹凸を表面に有する構造体の形成方法であって、
下記(A)成分及び下記(B)成分を含有する構造体形成用組成物を基材上に塗布する塗布工程と、塗布工程の後に引き置く引き置き工程と、引き置き工程の後に40℃〜250℃で焼成する焼成工程とを有することを特徴とする構造体の形成方法。
(A)成分:ポリイミドからなる第1の重合体又はポリイミド前駆体からなる第1の重合体前駆体。
(B)成分:(A)成分とは異なり(A)成分と分離しないポリイミドからなる第2の重合体又はポリイミド前駆体からなる第2の重合体前駆体、及び、プロピレングリコールモノメチルエーテル。
【発明の効果】
【0024】
本発明の凹凸を表面に有する構造体は、ポリイミド前駆体又はポリイミドをその他の重合体やプロピレングリコールモノメチルエーテルと共に含有する組成物を、基材に塗布し放置及び焼成することにより自己組織化させるという容易な方法で製造できる。例えば、ドライエッチング工程、高温焼成工程、高湿環境下での操作等、複雑な操作も不要であり、工程数も少ない。また、再現性が良いため、構造体の安定製造が可能である。そして、本発明の凹凸を有する構造体は、例えばOLEDの光取出し膜等、種々の電子デバイスに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】OLEDを模式的に示す概略断面図
図2】実施例1の構造体表面のAFM像
図3】実施例14の構造体表面のAFM像
図4】比較例2の構造体表面のAFM像
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る構造体は、ポリイミドからなる第1の重合体を含み、この第1の重合体の自己組織化によって形成された凹凸を表面に有するものである。
【0027】
本明細書において、自己組織化とは、基材上に塗布したポリイミドやポリイミド前駆体等の重合体分子が自発的に集合等することにより凹凸となってパターンのある構造を作り出すことを意味する。自己組織化では、決められた特定のパターンを形成するのではなく、フラクタルなパターンが形成される。なお、決められた特定のパターンとは、フォトリソグラフィやインプリントなどの人為的なパターン形成方法によって得られる人為的に定められたパターンを指し、同じパターンを連続して得ようとする技術に基づいている。一方、自己組織化で得られるフラクタルなパターンとは、マンデルブロ集合に代表される幾何学の一部であり、数学的に厳密な定義が困難であるが、人間が直感的に理解できるパターンを指す。自己組織化では、フラクタルなパターン(すなわち、自己相似構造をもつ集合からなるパターン)を連続で得て、得られた自己組織化膜の物性値を規格内に収めようとする技術に基づいている。
【0028】
自己組織化により形成されるフラクタルなパターンの基本単位図形は、例えば、点(ドット)形状、ミミズ(ワーム)形状、穴(Via)形状等である。基本単位図形とその基本単位図形の相似構造とで、フラクタルなパターンとなる。なお、AFM(原子間力顕微鏡、atomic force microscope)、SEM(走査電子顕微鏡、scanning electron microscope)若しくはTEM(透過電子顕微鏡 transmission electron microscope)で測定した際に、基本単位図形が50μm四方の中で確認できない場合は、フラクタルなパターンの定義から除外される。点形状は、平面視の形状が楕円や円である半球状などが挙げられる。ミミズ形状は、点形状と点形状とが連結して繋がった形状などが挙げられる。穴形状は、構造体の最表面に穴が開いている形状などが挙げられる。これら形状の種類は、本発明の構造体の適用箇所によって選択されれば良い。また、基本単位図形の種類は1つ以上であれば良く、複数の種類の組み合わせであっても良い。
【0029】
本発明において自己組織化を引き起こす要因は、(i)重合体の極性項、分散項又は表面エネルギーの差、(ii)重合体の溶媒への溶解度の差、又は、(iii)重合体の吸湿性の差等を利用するものであり、フラクタルなパターンが得られれば特に限定されない。
【0030】
本発明の構造体が表面に有する自己組織化により形成された凹凸は、例えば凸部の平均高さが0.5nm〜500nmである。ここで、凸部の平均高さとは、AFMで測定したときの平均表面粗さ(R)で表される。
【0031】
好ましい凸部の平均高さは、適用箇所によって選択されれば良い。例えば、OLEDにおいてガラス等の透明基板とITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極との間に設ける光取出し膜として本発明の構造体を適用する場合、短絡特性を考慮して、凸部の平均高さは0.5nm〜50nmが好ましく、より好ましくは0.5nm〜30nmである。また、OLEDの光を取出す面(光取出し面)の最前面に設ける光取出し膜として本発明の構造体を適用する場合、凸部の平均高さは40nm〜500nmが好ましい。凸部の平均高さが500nmより高い場合、透明性を失い、光取出し効率が悪くなる場合があるためである。
【0032】
本発明の凹凸を表面に有する構造体は、例えば、上記(A)成分及び上記(B)成分を含有する構造体形成用組成物(以下、ワニスとも記載する。)を基材上に塗布する塗布工程と、塗布工程の後に引き置く引き置き工程と、引き置き工程の後に焼成する焼成工程とを有する形成方法によって得ることができる。
【0033】
(A)成分は、ポリイミド(第1の重合体)、又は、焼成によりイミド化してポリイミド(第1の重合体)になるポリイミド前駆体(第1の重合体前駆体)である。すなわち、(A)成分は、製造される本発明の構造体においては、ポリイミド(第1の重合体)になる成分である。ポリイミド前駆体とは、ポリアミック酸(ポリアミド酸ともいわれる)やポリアミック酸エステル等である。なお、(A)成分であるポリイミドやポリイミド前駆体はこれまで自己組織化材料として検討されたことはない。
【0034】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル等のポリイミド前駆体は、ジアミン成分と、テトラカルボン酸成分と反応させることにより、得られるものである。ポリアミック酸エステルは、ポリアミック酸のカルボキシル基をエステルに変換する方法でも得られる。そして、これらポリアミック酸やポリアミック酸エステル等のポリイミド前駆体をイミド化することで、ポリイミドが得られる。なお、ジアミン成分は1種類でも2種類以上でもよく、また、テトラカルボン酸成分も1種類でも2種類以上でもよい。
【0035】
テトラカルボン酸成分とは、テトラカルボン酸及びテトラカルボン酸誘導体から選択される少なくとも一種である。テトラカルボン酸誘導体としては、テトラカルボン酸ジハライド、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステルジクロリド、テトラカルボン酸ジエステル等が挙げられる。例えば、テトラカルボン酸ジハライド、テトラカルボン酸二無水物などとジアミン成分とを反応させることで、ポリアミック酸を得ることができる。また、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミン成分との反応や、テトラカルボン酸ジエステルとジアミン成分とを適当な縮合剤や塩基の存在下等にて反応させることにより、ポリアミック酸エステルを得ることができる。
【0036】
テトラカルボン酸成分として、下記式(2)で示されるテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0037】
【化2】
(式(2)中、Zは炭素数4〜6の非芳香族環状炭化水素基を含有する炭素数4〜13の4価の有機基である。)
【0038】
式(2)中、Zの具体例としては、下記式(2a)〜式(2j)で表される4価の有機基が挙げられる。
【0039】
【化3】
(式(2a)中、Z〜Zは水素原子、メチル基、塩素原子またはベンゼン環であり、それぞれ、同じであっても異なっていてもよく、式(2g)中、ZおよびZは水素原子またはメチル基であり、それぞれ、同じであっても異なっていてもよい。)
【0040】
式(2)中、Zの特に好ましい構造は、重合反応性や合成の容易性から、式(2a)、式(2c)、式(2d)、式(2e)、式(2f)または式(2g)である。なかでも、式(2a)、式(2e)、式(2f)または式(2g)が好ましい。
【0041】
また、テトラカルボン酸成分全量に対する式(2)で示されるテトラカルボン酸二無水物の割合は特に限定されず、例えば、テトラカルボン酸成分全量の5〜40モル%が上記式(2)で示されるテトラカルボン酸二無水物であることが好ましく、より好ましくは、10〜30モル%である。
【0042】
上記式(2)で示されるテトラカルボン酸二無水物以外のその他テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン、2,3,4,5−ピリジンテトラカルボン酸、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ピリジン、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸または1,3−ジフェニル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸の二無水物が挙げられる。
【0043】
テトラカルボン酸ジエステルも特に限定されない。その具体例を以下に挙げる。
脂肪族テトラカルボン酸ジエステルの具体的な例としては1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、1,2−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸ジアルキルエステル、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、3,4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸ジアルキルエステル、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸ジアルキルエステル、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、ビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸ジアルキルエステル、3,3’,4,4’−ジシクロヘキシルテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸ジアルキルエステル、シス−3,7−ジブチルシクロオクタ−1,5−ジエン−1,2,5,6−テトラカルボン酸ジアルキルエステル、トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸−3,4:7,8−ジアルキルエステル、ヘキサシクロ[6.6.0.12,7.03,6.19,14.010,13]ヘキサデカン−4,5,11,12−テトラカルボン酸−4,5:11,12−ジアルキルエステル、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンー1,2−ジカルボンジアルキルエステルなどが挙げられる。
【0044】
芳香族テトラカルボン酸ジアルキルエステルとしては、ピロメリット酸ジアルキルエステル、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸ジアルキルエステル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,3,3’,4−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテルジアルキルエステル、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホンジアルキルエステル、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸ジアルキルエステルなどが挙げられる。
【0045】
テトラカルボン酸成分と反応させるジアミン成分は特に限定されず、一般的なジアミンを用いることができる。ジアミン成分として、例えば、p−フェニレンジアミン、2,3,5,6−テトラメチル−p−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノフェノール、2,4−ジアミノフェノール、3,5−ジアミノフェノール、3,5−ジアミノベンジルアルコール、2,4−ジアミノベンジルアルコール、4,6−ジアミノレゾルシノール、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ビフェニル、3,3’−トリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジアミノビフェニル、2,3’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジアミノジフェニルメタン、2,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、2,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−スルホニルジアニリン、3,3’−スルホニルジアニリン、ビス(4−アミノフェニル)シラン、ビス(3−アミノフェニル)シラン、ジメチル−ビス(4−アミノフェニル)シラン、ジメチル−ビス(3−アミノフェニル)シラン、4,4’−チオジアニリン、3,3’−チオジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルアミン、3,4’−ジアミノジフェニルアミン、2,2’−ジアミノジフェニルアミン、2,3’−ジアミノジフェニルアミン、N−メチル(4,4’−ジアミノジフェニル)アミン、N−メチル(3,3’−ジアミノジフェニル)アミン、N−メチル(3,4’−ジアミノジフェニル)アミン、N−メチル(2,2’−ジアミノジフェニル)アミン、N−メチル(2,3’−ジアミノジフェニル)アミン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,4−ジアミノナフタレン、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、2,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,5−ジアミノナフタレン、1,6−ジアミノナフタレン、1,7−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、2,8−ジアミノナフタレン、1,2−ビス(4−アミノフェニル)エタン、1,2−ビス(3−アミノフェニル)エタン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ブタン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ブタン、ビス(3,5−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−[1,4−フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、4,4’−[1,3−フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,4’−[1,4−フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,4’−[1,3−フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,3’−[1,4−フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,3’−[1,3−フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、1,4−フェニレンビス[(4−アミノフェニル)メタノン]、1,4−フェニレンビス[(3−アミノフェニル)メタノン]、1,3−フェニレンビス[(4−アミノフェニル)メタノン]、1,3−フェニレンビス[(3−アミノフェニル)メタノン]、1,4−フェニレンビス(4−アミノベンゾエート)、1,4−フェニレンビス(3−アミノベンゾエート)、1,3−フェニレンビス(4−アミノベンゾエート)、1,3−フェニレンビス(3−アミノベンゾエート)、ビス(4−アミノフェニル)テレフタレート、ビス(3−アミノフェニル)テレフタレート、ビス(4−アミノフェニル)イソフタレート、ビス(3−アミノフェニル)イソフタレート、N,N’−(1,4−フェニレン)ビス(4−アミノベンズアミド)、N,N’−(1,3−フェニレン)ビス(4−アミノベンズアミド)、N,N’−(1,4−フェニレン)ビス(3−アミノベンズアミド)、N,N’−(1,3−フェニレン)ビス(3−アミノベンズアミド)、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’−ビス(3−アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)イソフタルアミド、N,N’−ビス(3−アミノフェニル)イソフタルアミド、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)プロパン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,5−ジアミノ安息香酸、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ブタン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ブタン、1,5−ビス(4−アミノフェノキシ)ペンタン、1,5−ビス(3−アミノフェノキシ)ペンタン、1,6−ビス(4−アミノフェノキシ)へキサン、1,6−ビス(3−アミノフェノキシ)へキサン、1,7−ビス(4−アミノフェノキシ)ヘプタン、1,7−(3−アミノフェノキシ)ヘプタン、1,8−ビス(4−アミノフェノキシ)オクタン、1,8−ビス(3−アミノフェノキシ)オクタン、1,9−ビス(4−アミノフェノキシ)ノナン、1,9−ビス(3−アミノフェノキシ)ノナン、1,10−(4−アミノフェノキシ)デカン、1,10−(3−アミノフェノキシ)デカン、1,11−(4−アミノフェノキシ)ウンデカン、1,11−(3−アミノフェノキシ)ウンデカン、1,12−(4−アミノフェノキシ)ドデカン、1,12−(3−アミノフェノキシ)ドデカンなどの芳香族ジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノへキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの脂肪族ジアミン等の汎用ジアミンが挙げられる。
【0046】
このような汎用ジアミンは、ポリアミック酸の合成に用いるジアミン成分の50〜95モル%となる量を用いることが好ましく、より好ましくはジアミン成分の70〜90モル%である。
【0047】
また、ジアミン成分として、長鎖のアルキル基、長鎖アルキル基の途中に環構造や枝分かれ構造を有する基、ステロイド基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子に置き換えた基を側鎖として有するジアミンを挙げることができる。具体的には例えば下記式(3)、(4)、(5)、(6)で表されるジアミンを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0048】
【化4】
(式(3)中、l、m及びnはそれぞれ独立に0又は1の整数を表し、Rは炭素数2〜6のアルキレン基、−O−、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−、又は炭素数1〜3のアルキレン−エーテル基を表し、R、R及びRはそれぞれ独立にフェニレン基又はシクロアルキレン基を表し、Rは水素原子、炭素数2〜24のアルキル基又はフッ素含有アルキル基、一価の芳香環、一価の脂肪族環、一価の複素環、又はそれらからなる一価の大環状置換体を表す。)
【0049】
なお、上記式(3)中のRは、合成の容易性の観点からは、−O−、−COO−、−CONH−、炭素数1〜3のアルキレン−エーテル基が好ましい。
【0050】
また、式(3)中のR、R及びRは、合成の容易性の観点から、下記表1に示すl、m、n、R、R及びRの組み合わせが好ましい。
【0051】
【表1】
【0052】
そして、l、m、nの少なくとも一つが1である場合、式(3)中のRは、好ましくは水素原子または炭素数2〜14のアルキル基もしくはフッ素含有アルキル基であり、より好ましくは水素原子または炭素数2〜12のアルキル基もしくはフッ素含有アルキル基である。また、l、m、nがともに0である場合、Rは、好ましくは炭素数12〜22のアルキル基またはフッ素含有アルキル基、一価の芳香環、一価の脂肪族環、一価の複素環、それらからなる一価の大環状置換体であり、より好ましくは炭素数12〜20のアルキル基またはフッ素含有アルキル基である。
【0053】
【化5】
(式(4)及び式(5)中、A10は−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−CH−、−O−、−CO−、又は−NH−を表し、A11は単結合若しくはフェニレン基を表し、aは−R−(R−(R−(R−R(R、R、R、R、R、l、m、nは、上記式(3)における定義と同じである)を表し、a’は上記aと同一の構造から水素等の元素が一つ取れた構造である二価の基を表す。)
【0054】
【化6】
(式(6)中、A14は、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数3〜20のアルキル基であり、A15は、1,4−シクロへキシレン基、又は1,4−フェニレン基であり、A16は、酸素原子、又は−COO−*(ただし、「*」を付した結合手がA15と結合する)であり、A17は酸素原子、又は−COO−*(ただし、「*」を付した結合手が(CH)aと結合する。)である。また、aは0又は1であり、aは2〜10の整数であり、aは0又は1である。)
【0055】
式(3)における二つのアミノ基(−NH)の結合位置は限定されない。具体的には、側鎖(−R−(R−(R−(R−R)に対して、ベンゼン環上の2,3の位置、2,4の位置、2,5の位置、2,6の位置、3,4の位置、3,5の位置が挙げられる。なかでも、ポリアミック酸を合成する際の反応性の観点から、2,4の位置、2,5の位置、又は3,5の位置が好ましい。ジアミンを合成する際の容易性も加味すると、2,4の位置、又は3,5の位置がより好ましい。
【0056】
式(3)の具体的な構造としては、下記の式[A−1]〜式[A−24]で示されるジアミンを例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0057】
【化7】
(式[A−1]〜式[A−5]中、Aは、炭素数2〜24のアルキル基又はフッ素含有アルキル基である。)
【0058】
【化8】
(式[A−6]及び式[A−7]中、Aは、−O−、−OCH−、−CHO−、−COOCH−、又は−CHOCO−を示し、Aは炭素数1〜22のアルキル基、アルコキシ基、フッ素含有アルキル基又はフッ素含有アルコキシ基である。)
【0059】
【化9】
(式[A−8]〜式[A−10]中、Aは、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−COOCH−、−CHOCO−、−CHO−、−OCH−、又は−CH−を示し、Aは炭素数1〜22のアルキル基、アルコキシ基、フッ素含有アルキル基又はフッ素含有アルコキシ基である。)
【0060】
【化10】
(式[A−11]及び式[A−12]中、Aは、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−COOCH−、−CHOCO−、−CHO−、−OCH−、−CH−、−O−、又は−NH−を示し、Aはフッ素基、シアノ基、トリフルオロメタン基、ニトロ基、アゾ基、ホルミル基、アセチル基、アセトキシ基、又は水酸基である。)
【0061】
【化11】
(式[A−13]及び式[A−14]中、Aは、炭素数3〜12のアルキル基であり、1,4−シクロヘキシレンのシス−トランス異性は、それぞれトランス異性体である。)
【0062】
【化12】
(式[A−15]及び式[A−16]中、Aは、炭素数3〜12のアルキル基であり、1,4−シクロヘキシレンのシス−トランス異性は、それぞれトランス異性体である。)
【0063】
【化13】
【0064】
式(4)で表されるジアミンの具体例としては、下記の式[A−25]〜式[A−30]で示されるジアミンを挙げることができるが、これに限るものではない。
【0065】
【化14】
(式[A−25]〜式[A−30]中、A12は、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−CH−、−O−、−CO−、又は−NH−を示し、A13は炭素数1〜22のアルキル基又はフッ素含有アルキル基を示す。)
【0066】
式(5)で表されるジアミンの具体例としては、下記の式[A−31]〜式[A−32]で示されるジアミンを挙げることができるが、これに限るものではない。
【0067】
【化15】
【0068】
このような長鎖のアルキル基、長鎖アルキル基の途中に環構造や枝分かれ構造を有する基、ステロイド基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子に置き換えた基を側鎖として有するジアミンは、ポリアミック酸の合成に用いるジアミン成分の0〜50モル%となる量を用いることが好ましく、より好ましくはジアミン成分の10〜40モル%である。
【0069】
また、ジアミン成分として、光反応性基を有するジアミンが挙げられる。光反応性基を有するジアミンとしては、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、アリル基、スチリル基、シンナモイル基、カルコニル基、クマリン基、マレイミド基などの光反応性基を側鎖として有するジアミン、例えば下記の一般式(7)で表されるジアミンを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0070】
【化16】
(式(7)中の、Rは単結合又は−CH−、−O−、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−、−NH−、−CHO−、−N(CH)−、−CON(CH)−、−N(CH)CO−、のいずれかを表し、Rは単結合、又は、非置換またはフッ素原子によって置換されている炭素数1〜20のアルキレン基を表し、アルキレン基の−CH−は−CF−又は−CH=CH−で任意に置き換えられていてもよく、次に挙げるいずれかの基が互いに隣り合わない場合において、これらの基に置き換えられていてもよい;−O−、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−、−NH−、二価の炭素環、二価の複素環。R10はビニル基、アクリル基、メタクリル基、アリル基、スチリル基、−N(CHCHCH、又は下記式で表される構造を表す。)
【0071】
【化17】
【0072】
なお、上記式(7)中のRは、通常の有機合成的手法で形成させることができるが、合成の容易性の観点から、−CH−、−O−、−COO−、−NHCO−、−NH−、−CHO−が好ましい。
【0073】
また、Rの任意の−CH−を置き換える二価の炭素環や二価の複素環の炭素環や複素環としては、具体的には以下のような構造が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0074】
【化18】
【0075】
10は、光反応性の観点から、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、アリル基、スチリル基、−N(CHCHCH又は下記式で表される構造であることが好ましい。
【0076】
【化19】
【0077】
また、上記式(7)の−R−R−R10は、より好ましくは下記の構造である。
【0078】
【化20】
【0079】
式(7)における二つのアミノ基(−NH)の結合位置は限定されない。具体的には、側鎖(−R−R−R10)に対して、ベンゼン環上の2,3の位置、2,4の位置、2,5の位置、2,6の位置、3,4の位置、3,5の位置が挙げられる。なかでも、ポリアミック酸を合成する際の反応性の観点から、2,4の位置、2,5の位置、又は3,5の位置が好ましい。ジアミンを合成する際の容易性も加味すると、2,4の位置、又は3,5の位置がより好ましい。
【0080】
光反応性基を有するジアミンとしては、具体的には以下のような化合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0081】
【化21】
(式中、Xは単結合、又は、−O−、−COO−、−NHCO−、−NH−より選ばれる結合基、Yは単結合、又は、非置換またはフッ素原子によって置換されている炭素数1〜20のアルキレン基を表す。)
【0082】
また、このような光反応性基を有するジアミンは、ポリアミック酸の合成に用いるジアミン成分の0〜70モル%となる量を用いることが好ましく、より好ましくは0〜60モル%である。
【0083】
ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分との重合反応は、通常、有機溶媒中で行う。その際に用いる有機溶媒としては、生成したポリアミック酸等のポリイミド前駆体が溶解するものであれば特に限定されない。具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、γ−ブチロラクトン、イソプロピルアルコール、メトキシメチルペンタノール、ジペンテン、エチルアミルケトン、メチルノニルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、エチルカルビトール、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール−tert−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノプロピルエーテル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、トリプロピレングリコールメチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジイソプロピルエーテル、エチルイソブチルエーテル、ジイソブチレン、アミルアセテート、ブチルブチレート、ブチルエーテル、ジイソブチルケトン、メチルシクロへキセン、プロピルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、n−へキサン、n−ペンタン、n−オクタン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸メチルエチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸、3−メトキシプロピオン酸、3−メトキシプロピオン酸プロピル、3−メトキシプロピオン酸ブチル、ジグライムまたは4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、混合して使用してもよい。さらに、ポリイミド前駆体を溶解させない溶媒であっても、生成したポリイミド前駆体が析出しない範囲で、上記溶媒に混合して使用してもよい。また、有機溶媒中の水分は重合反応を阻害し、さらには生成したポリイミド前駆体を加水分解させる原因となるので、有機溶媒は脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
【0084】
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを有機溶媒中で反応させる際には、ジアミン成分を有機溶媒に分散あるいは溶解させた溶液を攪拌させ、テトラカルボン酸成分をそのまま、または有機溶媒に分散、あるいは溶解させて添加する方法、逆にテトラカルボン酸成分を有機溶媒に分散、あるいは溶解させた溶液にジアミン成分を添加する方法、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを交互に添加する方法などが挙げられ、これらのいずれの方法を用いてもよい。また、ジアミン成分またはテトラカルボン酸成分を、それぞれ複数種用いて反応させる場合は、あらかじめ混合した状態で反応させてもよく、個別に順次反応させてもよく、さらに個別に反応させた低分子量体を混合反応させてもよい。その際の重合温度は−20℃〜150℃の任意の温度を選択することができるが、好ましくは−5℃〜100℃の範囲である。また、反応は任意の濃度で行うことができるが、濃度が低すぎると高分子量のポリイミド前駆体(ひいてはポリイミド)を得ることが難しくなり、濃度が高すぎると反応液の粘性が高くなり過ぎて均一な攪拌が困難となる。そのため、ジアミン成分及びテトラカルボン酸成分の総量の濃度は、反応液中で好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜30質量%である。反応初期は高濃度で行い、その後、有機溶媒を追加することができる。
【0085】
ポリアミック酸等のポリイミド前駆体の重合反応においては、ジアミン成分の合計モル数とテトラカルボン酸成分の合計モル数の比は0.8〜1.2であることが好ましい。通常の重縮合反応同様、このモル比が1.0に近いほど生成するポリイミド前駆体の分子量は大きくなる。
【0086】
なお、ポリアミック酸エステルは、上記のようにテトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミン成分との反応や、テトラカルボン酸ジエステルとジアミン成分を適当な縮合剤、塩基の存在下にて反応させることにより得ることができる。または、上記の方法で予めポリアミック酸を合成し、高分子反応を利用してポリアミック酸のカルボキシル基をエステル化することでも得ることができる。
【0087】
具体的には、例えば、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミン成分とを塩基と有機溶剤の存在下で−20℃〜150℃、好ましくは0℃〜50℃において、30分〜24時間、好ましくは1時間〜4時間反応させることによって、ポリアミック酸エステルを合成することができる。
【0088】
塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジンが使用できるが、反応が穏和に進行するためピリジンが好ましい。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという観点から、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドに対して、2〜4倍モルであることが好ましい。
【0089】
また、テトラカルボン酸ジエステルとジアミン成分を、縮合剤存在下にて重縮合する場合、塩基として、トリフェニルホスファイト、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’−カルボニルジイミダゾール、ジメトキシ−1,3,5−トリアジニルメチルモルホリニウム、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボラート、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニル、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)4−メトキシモルホリウムクロリド n−水和物などが使用できる。
【0090】
また、上記縮合剤を用いる方法において、ルイス酸を添加剤として加えることで反応が効率的に進行する。ルイス酸としては、塩化リチウム、臭化リチウムなどのハロゲン化リチウムが好ましい。ルイス酸の添加量は反応させるジアミンまたはテトラカルボン酸ジエステルに対して0.1〜1.0倍モル量であることが好ましい。
【0091】
上記の反応に用いる溶媒は、上記にて示したポリアミック酸を合成する際に用いられる溶媒と同様の溶媒で行うことができるが、モノマーおよびポリマーの溶解性からN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。合成時の濃度は、重合体の析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、テトラカルボン酸成分とジアミン成分の反応溶液中での合計濃度が1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。また、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドの加水分解を防ぐため、ポリアミック酸エステルの合成に用いる溶媒はできるだけ脱水されていることがよく、窒素雰囲気中で、外気の混入を防ぐのが好ましい。
【0092】
このようにして重合されたポリイミド前駆体は、例えば、下記式[a]で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【0093】
【化22】
(式[a]中、R11は、原料のテトラカルボン酸成分に由来する4価の有機基であり、R12は、原料のジアミン成分に由来する2価の有機基であり、A11およびA12は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、それぞれ同じであっても異なってもよく、jは正の整数を示す。)
【0094】
上記式[a]において、R11およびR12がそれぞれ1種類であり同一の繰り返し単位を有する重合体でもよく、また、R11やR12が複数種であり異なる構造の繰り返し単位を有する重合体でもよい。
【0095】
上記式[a]において、R11は原料である下記式[c]等で示されるテトラカルボン酸成分に由来する基である。また、R12は原料である下記式[b]等で示されるジアミン成分に由来する基である。
【0096】
【化23】
【0097】
そして、このようなポリイミド前駆体を脱水閉環させることにより、ポリイミドが得られる。
【0098】
ポリイミド前駆体をイミド化させる方法としては、ポリイミド前駆体の溶液をそのまま加熱する熱イミド化またはポリイミド前駆体の溶液に触媒を添加する触媒イミド化が挙げられる。
【0099】
ポリイミド前駆体を溶液中で熱イミド化させる場合の温度は、100℃〜400℃、好ましくは120℃〜250℃であり、イミド化反応により生成する水を系外に除きながら行う方が好ましい。
【0100】
ポリイミド前駆体の触媒イミド化は、ポリイミド前駆体の溶液に、塩基性触媒と酸無水物とを添加し、−20〜250℃、好ましくは0〜180℃で攪拌することにより行うことができる。塩基性触媒の量はアミド酸基の0.5〜30モル倍、好ましくは2〜20モル倍であり、酸無水物の量はアミド酸基の1〜50モル倍、好ましくは3〜30モル倍である。塩基性触媒としてはピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミンまたはトリオクチルアミンなどを挙げることができ、中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。酸無水物としては、無水酢酸、無水トリメリット酸または無水ピロメリット酸などを挙げることができ、中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。触媒イミド化によるイミド化率は、触媒量と反応温度、反応時間を調節することにより制御することができる。
【0101】
なお、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル等のポリイミド前駆体や、ポリイミドの反応溶液から、生成したポリイミド前駆体やポリイミドを回収する場合には、反応溶液を溶媒に投入して沈殿させればよい。沈殿に用いる溶媒としてはメタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼンまたは水などを挙げることができる。溶媒に投入して沈殿させたポリイミド前駆体やポリイミドは濾過して回収した後、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱して乾燥することができる。また、沈殿回収したポリイミド前駆体やポリイミドを、有機溶媒に再溶解させ、再沈殿回収する操作を2〜10回繰り返すと、ポリイミド前駆体やポリイミド中の不純物を少なくすることができる。この際の溶媒として、例えば、アルコール類、ケトン類または炭化水素などが挙げられ、これらの内から選ばれる3種類以上の溶媒を用いると、より一層、精製の効率が上がるので好ましい。
【0102】
ポリイミドのアミド酸基の脱水閉環率(イミド化率)は必ずしも100%である必要はなく、0%から100%の範囲で用途や目的に応じて任意に選ぶことができるが、50%〜100%が好ましい。
【0103】
ポリイミド前駆体やポリイミドの分子量は、溶媒への溶解性を考慮した場合、GPC(Gel Permeation Chromatography)法で測定した重量平均分子量で5,000〜1,000,000とするのが好ましく、より好ましくは、10,000〜150,000である。重量平均分子量が5,000より低い場合、溶解性が高くなり構造体を得にくくなる場合がある。また、重量平均分子量が1,000,000より高いと溶媒への溶解性が低下し、ポリマー溶液を得られない場合がある。
【0104】
また、(B)成分は、(A)成分とは異なる第2の重合体又は第2の重合体前駆体、及び、プロピレングリコールモノメチルエーテルの少なくとも一方である。
【0105】
第2の重合体としては、(A)成分とは異なるポリイミドや、ポリシロキサン、ポリアクリル酸、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィン(コ)ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルフォン等が挙げられる。第2の重合体前駆体としては、焼成によりイミド化してポリイミド(第2の重合体)になるポリイミド前駆体が挙げられる。第2の重合体や第2の重合体前駆体の分子量は、溶媒への溶解性を考慮した場合、GPC法で測定した重量平均分子量で5,000〜1,000,000とするのが好ましく、より好ましくは、10,000〜150,000である。また、スパッタ等の耐性等を考慮すると、ポリイミドやポリイミド前駆体が好ましい。(B)成分のポリイミドやポリイミド前駆体としては、上記第1の重合体及び第1の重合体前駆体で例示したものと同じポリイミドやポリイミド前駆体が挙げられる。勿論(A)成分とは異なるポリイミドやポリイミド前駆体である必要がある。
【0106】
ここで、(B)成分が第2の重合体又は第2の重合体前駆体を含む場合、第1の重合体又は第1の重合体前駆体、及び、第2の重合体又は第2の重合体前駆体の少なくとも一方は、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる結合、及び、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる置換基から選択される少なくとも一種を有することが好ましい。自己組織化が生じ易くなるからである。なお、このように第1の重合体又は第1の重合体前駆体、及び、第2の重合体又は第2の重合体前駆体の少なくとも一方が、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる結合、及び、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる置換基から選択される少なくとも一種を有すると、得られる本発明の構造体は、第1の重合体及び第2の重合体を有し、第1の重合体及び第2の重合体の少なくとも一方が、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる結合、及び、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる置換基から選択される少なくとも一種を有することになる。
【0107】
分子内又は分子間で水素結合を形成しうる結合としては、上記式(1)で表される2価の基が挙げられる。また、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる置換基としては、ヒドロキシル基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基が挙げられる。
【0108】
このような分子内又は分子間で水素結合を形成しうる結合や、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる置換基は、例えば、これらの結合又は置換基を有するジアミン成分や、テトラカルボン酸成分を原料とすることにより、ポリイミドやポリイミド前駆体に導入することができる。
【0109】
(A)成分と(B)成分の混合割合は、自己組織化を生じさせることができれば特に限定されないが、例えば、(B)成分が第2の重合体又は第2の重合体前駆体である場合は、(A)成分:(B)成分=40〜60:60〜40(質量比)が好ましく、特に好ましくは、(A)成分:(B)成分=45〜55:55〜45(質量比)である。また、(B)成分がプロピレングリコールモノメチルエーテルである場合は、構造体形成用組成物(ワニス)中で重合体が析出しない範囲で選択すれば特に限定されないが、(A)成分:(B)成分=99〜70:1〜30(質量比)が好ましい。
【0110】
構造体形成用組成物は、第1重合体、第1重合体前駆体、第2重合体や第2重合体前駆体以外のその他の重合体を含有していてもよい。以下、第1重合体、第1重合体前駆体、第2重合体、第2重合体前駆体、その他の重合体を合わせて、重合体成分とも記載する。その他の重合体として、第1重合体、第1重合体前駆体、第2重合体や第2重合体前駆体以外のポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリシロキサン、ポリアクリル酸、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィン(コ)ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルフォン等が挙げられる。
【0111】
構造体形成用組成物がその他の重合体を含有する場合、重合体成分全量におけるその他の重合体の含有量は0.5質量%〜50質量%、好ましくは1質量%〜30質量%である。
【0112】
構造体形成用組成物が含有する重合体成分は、1質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは3質量%〜15質量%、特に好ましくは3質量%〜10質量%である。
【0113】
構造体形成用組成物が含有する溶媒は、第1の重合体、第1の重合体前駆体、第2の重合体や、第2の重合体前駆体等の重合体成分を溶解させる有機溶媒であれば特に限定されない。その具体例として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、2−ピロリドン、N−エチルピロリドン、N−ビニルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−エトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、エチルアミルケトン、メチルノニルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジグライム、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、2−ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、混合して使用してもよい。
【0114】
構造体形成用組成物は、構造体の物理的強度を向上するために、架橋剤を含有することができる。架橋剤としては、アルコキシアルキル化されたアミノ基を有する化合物、多官能(メタ)アクリレート化合物、エポキシまたはオキセタン化合物、ヒドロキシメチル基置換フェノール化合物、ブロック化イソシアナートを含有する化合物等が挙げられる。これらの架橋剤は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0115】
アルコキシアルキル化されたアミノ基を有する化合物としては、例えば、(ポリ)メチロール化メラミン、(ポリ)メチロール化グリコールウリル、(ポリ)メチロール化ベンゾグアナミン、(ポリ)メチロール化ウレア等の、一分子内に複数個の活性メチロール基を有する含窒素化合物であって、そのメチロール基のヒドロキシル基の水素原子の少なくとも一つが、メチル基、ブチル基等のアルキル基によって置換された化合物を挙げることができる。
【0116】
アルコキシアルキル化されたアミノ基を有する化合物は、複数の置換化合物を混合した混合物である場合があり、一部自己縮合してなるオリゴマー成分を含む混合物も存在し、そのような混合物も使用することができる。より具体的には、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミン(日本サイテックインダストリーズ(株)製、CYMEL(登録商標)303)、テトラブトキシメチルグリコールウリル(日本サイテックインダストリーズ(株)製、CYMEL(登録商標)1170)、テトラメトキシメチルベンゾグアナミン(日本サイテックインダストリーズ(株)製、CYMEL(登録商標)1123)等のCYMELシリーズの商品、メチル化メラミン樹脂((株)三和ケミカル製、ニカラック(登録商標)MW−30HM、同MW−390、同MW−100LM、同MX−750LM)、メチル化尿素樹脂((株)三和ケミカル製、ニカラック(登録商標)MX−270、同MX−280、同MX−290)等のニカラックシリーズの商品を挙げることができる。
【0117】
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エチレングルコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、ビス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。より具体的には、例えば、NKエステル701A、同A−DCP、同A−DON−N、同A−HD−N、同A−NOD−N、同DCP、同DOD−N、同HD−N、同NOD−N、同NPG、同A−TMM−3、同A−TMM−3L、同A−TMM−3LMN、同A−TMPT、同TMPT、同A−TMMT、同AD−TMP、同A−DPH、同A−9550、同A−9530、同ADP−51EH、同ATM−31EH、UA−7100(以上、新中村化学工業株式会社製)、KAYARAD(登録商標)T−1420、同D−330、同D−320、同D−310、同DPCA−20、同DPCA−30、同DPCA−60、同DPCA−120、同TMPTA、同PET−30、同DPHA、同DPHA−2C(以上、日本化薬株式会社製)、UA−306H、UA−306T、UA−306I、UA−510H(以上、共栄社化学株式会社製)等が挙げられる
【0118】
エポキシまたはオキセタン化合物としては、例えば1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−4−(エポキシエチル)シクロヘキサン、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、2,6−ジグリシジルフェニルグリシジルエーテル、1,1,3−トリス[p−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]プロパン、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、ビスフェノール−A−ジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。より具体的には、例えば、YH−434、YH434L(東都化成(株)製)、シクロヘキセンオキサイド構造を有するエポキシ樹脂である、エポリードGT−401、同GT−403、同GT−301、同GT−302、セロキサイド2021、セロキサイド3000(ダイセル化学工業(株)製)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である、エピコート(現、jER)1001、同1002、同1003、同1004、同1007、同1009、同1010、同828(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂である、エピコート(現、jER)807(ジャパンエポキシレジン(株)製)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂である、エピコート(現、jER)152、同154(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)、EPPN201、同202(以上、日本化薬(株)製)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂である、EOCN−102、EOCN−103S、EOCN−104S、EOCN−1020、EOCN−1025、EOCN−1027(以上、日本化薬(株)製)、エピコート(現、jER)180S75(ジャパンエポキシレジン(株)製)、脂環式エポキシ樹脂である、デナコールEX−252(ナガセケムテックス(株)製)、CY175、CY177、CY179(以上、CIBA−GEIGY A.G製)、アラルダイトCY−182、同CY−192、同CY−184(以上、CIBA−GEIGY A.G製)、エピクロン200、同400(以上、大日本インキ工業(株)製)、エピコート(現、jER)871、同872(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)、ED−5661、ED−5662(以上、セラニーズコーティング(株)製)、脂肪族ポリグリシジルエーテルである、デナコールEX−611、同EX−612、同EX−614、同EX−622、同EX−411、同EX−512、同EX−522、同EX−421、同EX−313、同EX−314、同EX−321(ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
【0119】
ヒドロキシメチル基置換フェノール化合物としては、例えば、2−ヒドロキシメチル−4,6−ジメチルフェノール、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン、3,5−ジヒドロキシメチル−4−メトキシトルエン[2,6−ビス(ヒドロキシメチル)−p−クレゾール]等を挙げることができる。
【0120】
ブロック化イソシアナートを含有する化合物はイソシアネート基(−N=C=O)が適当な保護基によりブロックされた化合物である。ブロック剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−エトキシヘキサノール、2−N,N−ジメチルアミノエタノール、2−エトキシエタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、フェノール、o−ニトロフェノール、p−クロロフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のフェノール類、ε−カプロラクタム等のラクタム類、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム等のオキシム類、ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾール等のピラゾール類、ドデカンチオール、ベンゼンチオール等のチオール類が挙げられる。より具体的には、例えば、VESTANAT(登録商標)T,同HB、同HT、同B、同DS(以上、エボニック(株)製)、タケネート(登録商標)B−830、B−815N、B−842N、B−870N、B−874N、B−882N、B−7005、B−7030、B−7075、B−5010(以上、三井化学ポリウレタン(株)製)等が挙げられる。
【0121】
以上の架橋剤の中では耐熱性や保存安定性の観点からエポキシ基またはブロックイソシアナートを含有する化合物が好ましい。
【0122】
構造体形成用組成物は、構造体と基材との密着性を向上するために、密着促進剤を含有することができる。密着促進剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−2−(イミダゾリン−1−イル)−プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0123】
また、構造体形成用組成物は、界面活性剤を含有することができる。界面活性剤は例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフエノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフエノールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロツクコポリマー類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤、商品名エフトップEF301、EF303、EF352((株)トーケムプロダクツ製)、商品名メガファックF−553、F−554、F171、F173、R−08、R−30、R−30−N(大日本インキ化学工業(株)製)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム(株)製)、商品名アサヒガードAG710,サーフロンS−382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(旭硝子(株)製)等のフッ素系界面活性剤、及びオルガノシロキサンポリマ−KP341(信越化学工業(株)製)等を挙げることができる。これらの界面活性剤は単独で使用してもよいし、また二種以上の組み合わせで使用することもできる。
【0124】
このような構造体形成用組成物を用いると、後段の塗布工程、引き置き工程及び焼成工程を経ることにより、ポリイミドやポリイミド前駆体等の自己組織化が生じ、構造体に凹凸を形成できる。具体的には、ポリイミド又はポリイミド前駆体と該ポリイミド又はポリイミド前駆体とは異なる重合体とを含有する構造体形成用組成物を用いると、ポリイミド又はポリイミド前駆体及び異なる重合体の分子が集合等して自己組織化が生じて凹凸が形成される。また、ポリイミド又はポリイミド前駆体とプロピレングリコールモノメチルエーテルとを含む構造体形成用組成物を用いると、ポリイミド又はポリイミド前駆体の分子が集合等して自己組織化が生じて凹凸が形成される。プロピレングリコールモノメチルエーテルは、(A)成分であるポリイミドやポリイミド前駆体の溶解性が極めて低い貧溶媒であるため、ポリイミド又はポリイミド前駆体の自己組織化が生じると推測される。なお、詳しくは後述するが、ポリイミドやポリイミド前駆体等による自己組織化の有無や程度は、(A)成分と(B)成分の種類や混合比、固形分濃度、塗布方法、焼成温度、引き置き時間(放置時間)等の製造条件に依存するため、自己組織化に影響を与えるこれらの製造条件を適宜設定する必要がある。
【0125】
このような構造体形成用組成物を基材上に塗布する(塗布工程)。基材は構造体形成用組成物を塗布することができれば特に限定されないが、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)、ガラス、シリコン、シリコーン、窒化珪素、コバルト、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、ニッケル、亜鉛、鉄、ルテニウム及びこれらの合金等からなる基板が挙げられる。
【0126】
塗布方法は、例えば、スピンコート法、スリットコート法、ディップ法、フローコート法、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、オフセット印刷法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法等が挙げられる。中でもスピンコート法が好ましく、例えばスピンコート条件は、10〜10000rpmの回転数で、3〜60秒間とすればよい。
【0127】
塗布工程により形成される塗膜の膜厚としては、例えば5nm〜1μmの範囲とすることが可能であるが、得られる構造体表面に形成される凹凸の凸部の平均高さを0.5nm〜500nmとするためには、塗布工程により形成される塗膜の膜厚は5nm〜500nmの範囲であることが好ましい。
【0128】
塗布工程の後、引き置く、すなわち、塗布工程により基材上に形成された塗膜を、そのまま放置する(引き置き工程)。引き置き時間(放置時間)は例えば10秒〜72時間の間で選択されれば良いが、放置時間は実際に製造するプロセスのタクトタイムに直結し、短ければ製造時間が短くなり好ましいため、10秒〜10分が好ましく、より好ましくは10秒〜5分である。
【0129】
引き置き工程の後、焼成する(焼成工程)。焼成機器は特に限定されず、例えば、ホットプレート、オーブン、ファーネスが挙げられる。また、焼成工程を行う雰囲気も特に限定されず、例えば、大気中、窒素等の不活性ガス雰囲気中や、真空中等で焼成すればよい。中でも、自己組織化により形成される凹凸の凸部平均高さを高くするためには、大気中で焼成することが好ましい。
【0130】
焼成温度は特に限定されないが、例えば構造体形成用組成物が含有する溶媒を揮発させることができる40℃〜250℃で行うことが好ましい。なお、得られる構造体の形状を安定させるためには、焼成温度は70℃〜120℃であることが好ましい。このように比較的幅広い温度での焼成が可能なため、本発明の構造体を適用するデバイス種に対応した設計が可能であり、プロセスマージンを拡大でき、本発明の構造体は例えばオプトデバイス等に好適に用いることができる。
【0131】
焼成時間も特に限定されず、例えば、5〜40分程度とすることができる。目的とするイミド化率によって変化させてもよい。具体例としては、焼成温度が230℃の場合、20分間以上であることが好ましい。また、焼成工程は、40℃〜120℃程度の低温の焼成と、180℃〜250℃程度の高温の焼成の両方を順に行ってもよい。
【0132】
なお、上記塗布工程、引き置き工程及び焼成工程は、常温及び常湿の環境下で行うことができる。
【0133】
このように、上記(A)成分及び上記(B)成分という特定の成分を含有する構造体形成用組成物を基材上に塗布し、放置した後に、焼成するという容易な形成方法によって、ポリイミドやポリイミド前駆体等を自己組織化させて、表面に凹凸を有する構造体を得ることができる。例えば、ドライエッチング工程、高温の焼成工程や、高湿環境下での操作等、複雑な操作を経ることなく、構造体を形成できる。また、工程数が少ないため製造工程は短く、複雑な操作を行うための高価な設備も不要であるため、安価に製造できる。
【0134】
上記形成方法では、ポリスチレンとポリメタクリル酸メチルとのブロックコポリマーを用いた場合と比べて、顕著に再現性良く構造体を形成できる。したがって、日間差等が抑制されて、目的とするフラクタルパターンの凹凸を有する構造体を、安定製造することができる。
【0135】
さらに、本発明の構造体は構造体形成用組成物、塗布方法、塗布後の放置時間、焼成温度等を調整することで、得られるフラクタルパターンの形状をコントロールでき、例えば、凸部の平均高さを所望の値にすることができる。
【0136】
また、本発明の構造体はフォトリソグラフィやインプリントのように規格化されたパターンを作製、転写した構造体ではなく、フラクタルな表面形状を有する構造体であるため、光学的に干渉縞を発生しにくい。
【0137】
また、本発明の構造体はポリイミドを含むため、ポリイミドが有する高透明性、耐アルカリ性、耐薬品性、高屈折率、ドライエッチング耐性、ITOスパッタ耐性などの化学的及び物理的に有用な特性を兼ね備え、永久膜としての信頼性が高い。
【0138】
本発明の構造体は、種々の電子デバイスを構成する部材として用いることができる。適用できる電子デバイスは特に限定されないが、例えば、オプトデバイス(光学素子)、半導体デバイス、太陽電池、ディスプレイ、記憶媒体、バイオチップ等が挙げられる。以下にオプトデバイスである有機発光ダイオード(OLED)を例に説明する。
【0139】
図1は、OLEDを模式的に示す概略断面図である。図1(a)に示すように、OLEDは、透明基板11、透明電極13、正孔輸送層14、発光層15及び電極16がこの順に積層された構造であり、本発明においては、透明基板11と透明電極13との間に、本発明の構造体からなる光取出し膜12が設けられている。
【0140】
光取出し膜12は、上記形成方法によって透明基板11上に形成されたものであり、ポリイミドを含み、図1(a)においては、透明電極13側の表面に自己組織化により形成された凹凸を有する。凹凸の大きさは、例えば、凸部の平均高さが、0.5nm〜50nmである。
【0141】
本発明の構造体からなる光取出し膜12が設けられている他は、従来のOLEDと同様であるが、具体例を以下に例示する。
【0142】
透明基板11としては、ガラス基板、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、シクロオレフィン(コ)ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルフォン、並びにこれらポリマーを組み合わせた共重合体などのプラスチック基板等が挙げられる。
【0143】
透明電極(陽極)13としては、ITO、IZO、IGZO等が挙げられる。
【0144】
電極(陰極)16としては、アルミニウム、インジウム、金、銀等や、これらの合金等が挙げられる。
【0145】
発光層15を構成する発光材料としては、アルミニウム錯体等の低分子系発光材料、π共役ポリマー等の高分子系発光材料や、これら発光材料に有色色素をドーパントとして加えた材料が挙げられる。
【0146】
このようなOLEDでは、透明電極13及び電極16に電圧を印加することにより電子と正孔が注入され、発光層15で結合する。そして、この発光層15での結合エネルギーによって、発光層15の発光材料が励起され、励起状態から基底状態に戻る際に光(蛍光)が発生する。この光を、透明基板11側から取り出す。
【0147】
発光層15で発生した光は、発光層15、正孔輸送層14、透明電極13、透明基板11の各界面で反射等するため、透明基板11側から取り出される光の強度は、通常大きく低下するが、上記OLEDにおいては、本発明の構造体を光取出し膜12として設けているため、光取出し効率は非常に高い。
【0148】
また、ITO等の透明電極13は通常スパッタリング法で設けられるが、本発明の構造体はポリイミドを含むものであるため丈夫であり、スパッタリング耐性に優れており、スパッタリング後も凹凸形状を十分維持することができる。なお、ポリスチレンとポリメタクリル酸メチルとのブロックコポリマーを用いた自己組織化膜からなる光取出し膜とした場合は、その上にスパッタリング法で透明電極13を設けると、凹凸形状が崩れ、光取出し効率は大幅に減少する。また、本発明の構造体はポリイミド(屈折率約1.65)を含むので屈折率が比較的高いため、例えば透明電極13であるITO(屈折率約2.1)と透明基板11であるガラス(屈折率約1.4)との間の屈折率とすることができる。
【0149】
本発明の構造体からなる光取出し膜12を設ける位置は透明基板11と透明電極13との間に限定されず、光取り出し面の最前面、例えば、図1(b)に示すように、透明基板11の透明電極13とは反対側の面に設けるようにしてもよい。光取出し膜12は、上記形成方法によって透明基板11上に形成されたものであり、ポリイミドを含み、図1(b)においては、透明電極13側とは反対側の表面に自己組織化により形成された凹凸を有する。凹凸の大きさは、例えば、凸部の平均高さが、40nm〜500nmである。その他については、上記図1(a)と同様であり、説明は省略する。また、本発明の構造体からなる光取出し膜12を設ける位置は、透明電極13と正孔輸送層14や発光層15の間でもよい。
【実施例】
【0150】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。なお、実施例で用いた各測定装置は以下のとおりである。また、分子量の測定、イミド化率の測定方法、略称も以下に示す。
【0151】
AFM(原子間力顕微鏡)はエスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製Nano Navi L−traceを用いて測定した。カンチレバーはSI−DF40(背面ALコート)を用いた。走査範囲は5μm×5μm、走査周波数は1.0Hzで測定した。
【0152】
スピンコーターはBrewer Science株式会社 Cee200Xを使用した。
【0153】
膜厚はジェー・エー・ウーラム・ジャパン社製、多入射角分光エリプソメーターVASEを用いて測定した。
【0154】
蛍光スペクトルは、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製分光蛍光光度計F−7000を使用した。
【0155】
<分子量の測定>
ポリアミック酸およびポリイミドの分子量は、該ポリアミック酸やポリイミドをGPC(常温ゲル浸透クロマトグラフィー)装置によって測定し、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド換算値として数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。
GPC装置:Shodex社製(GPC−101)
カラム:Shodex社製(KD803、KD805の直列)
カラム温度:50℃
溶離液:N,N−ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム−水和物(LiBr・HO)が30ミリモル/L、リン酸・無水結晶(o−リン酸)が30ミリモル/L、テトラヒドロフラン(THF)が10ml/L)
流速:1.0ml/分
検量線作製用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(分子量約900000、150000、100000、30000)、および、ポリマーラボラトリー社製ポリエチレングリコール(分子量約12000、4000、1000)。
【0156】
<イミド化率の測定>
ポリイミドのイミド化率は次のようにして測定した。
ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO−d、0.05%TMS(テトラメチルシラン)混合品)0.53mlを添加し、完全に溶解させた。この溶液を日本電子データム社製NMR測定器(JNM−ECA500)にて500MHzのプロトンNMRを測定した。イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.5ppm〜10.0ppm付近に現れるアミック酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い次式によって求めた。
イミド化率(%)=(1−α・x/y)×100
上記式において、xはアミック酸のNH基由来のプロトンピーク積算値、yは基準プロトンのピーク積算値、αはポリアミック酸(イミド化率が0%)の場合におけるアミック酸のNH基プロトン一個に対する基準プロトンの個数割合である。
【0157】
<略称>
NBoc3TBS:下記式で表されるジアミン
【0158】
【化24】
(式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表し、t−Buはtert−ブチル基を表す。)
DADPA:下記式で表される4,4‘−ジアミノジフェニルアミン
【0159】
【化25】
DDM;下記式で表される4,4−ジアミノジフェニルメタン
【0160】
【化26】
PCH7AB:下記式で表される1,3−ジアミノ−4−〔4−(トランス−4−n−ヘプチルシクロヘキシル)フェノキシ〕ベンゼン
【0161】
【化27】
TDA:3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物
【0162】
【化28】
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
GBL:γ−ブチロラクトン
【0163】
[重合体の合成]
<合成例1>
撹拌装置付きおよび窒素導入管付きの200ml四つ口フラスコに1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを14.03g(48.0mmol)、NMPを141.3g加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらピロメリット酸二無水物を10.05g(46.0mmol)、および固形分濃度が12質量%になるようにNMPを加え、23℃の水浴中で20時間撹拌してポリアミック酸の溶液(P1と略す)を得た。また、このポリアミック酸の分子量はMn=15466、Mw=41241であった。P1をNMPで希釈し、固形分濃度が6質量%及び1質量%のワニスを調製した。
【0164】
<合成例2>
撹拌装置付きおよび窒素導入管付きの100ml四つ口フラスコに4,4’−ジアミノジフェニルメタンを4.02g(20.3mmol)、1,3−ビス(4−アミノフェネチル)ウレアを2.60g(8.7mmol)、NMPを70.8g加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながら1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を5.61g(28.5mmol)、および固形分濃度が12質量%になるようにNMPを加え、23℃の水浴中で5時間撹拌してポリアミック酸の溶液(P2と略す)を得た。また、このポリアミック酸の分子量はMn=10120、Mw=22465であった。P2をNMPで希釈し、固形分濃度が6質量%及び1質量%のワニスを調製した。
【0165】
<合成例3>
撹拌装置付きおよび窒素導入管付きの100ml四つ口フラスコに4,4’−ジアミノジフェニルメタンを4.59g(23.1mmol)、p−フェニレンジアミンを1.07g(9.9mmol)、NMPを70.6g加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながら1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を6.36g(32.4mmol)、および固形分濃度が12質量%になるようにNMPを加え、23℃の水浴中で5時間撹拌してポリアミック酸の溶液(P3と略す)を得た。また、このポリアミック酸の分子量はMn=13899、Mw=30991であった。P3をNMPで希釈し、固形分濃度が6質量%のワニスを調製した。
【0166】
<合成例4>
撹拌装置付きおよび窒素導入管付きの50ml四つ口フラスコに4,4’−ジアミノジフェニルメタンを2.66g(13.4mmol)、4,4’−ジアミノベンズアニリドを1.31g(5.8mmol)、NMPを34.1g加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながら1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を3.54g(1.8mmol)、および固形分濃度が12質量%になるようにNMPを加え、23℃の水浴中で5時間撹拌してポリアミック酸の溶液(P4と略す)を得た。また、このポリアミック酸の分子量はMn=12254、Mw=27234であった。P4をNMPで希釈し、固形分濃度が6質量%のワニスを調製した。
【0167】
<合成例5>
攪拌装置付きの300mL四つ口フラスコを窒素雰囲気とし、p−フェニレンジアミンを2.81g(26.0mmol)、NBoc3TBSを1.10g(2.89mmol)入れ、NMPを51.99g、GBLを155.97g、塩基としてピリジンを5.16g(65.18mmol)加え、攪拌して溶解させた。次にこのジアミン溶液を攪拌しながらジメチル 1,3−ビス(クロロカルボニル)シクロブタン−2,4−ジカルボキシレートを8.83g(27.2mmol)添加し、水冷下4時間反応させた。4時間後、アクリロイルクロリドを0.75g(8.3mmol)加えて、水冷下で30分間反応させた。得られたポリアミック酸エステル溶液を905gの2−プロパノールに撹拌しながら投入し、析出した沈殿物をろ取し、続いて、448gの2−プロパノールで5回洗浄し、乾燥することでポリアミック酸エステルの粉末を得た。このポリアミック酸エステルの分子量はMn=15623、Mw=30510であった。ポリアミック酸エステル粉末はGBLで希釈し、固形分濃度が10質量%、6質量%及び1質量%のワニス(P5と略す)を調製した。
【0168】
<合成例6>
撹拌装置付きおよび窒素導入管付きの100ml四つ口フラスコにDADPAを3.99g(20.0mmol)、DDMを0.99g(5.0mmol)、NMPを72.4g加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながら1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を3.57g(18.3mmol)加え、23℃の水浴中で2時間撹拌後、TDAを1.50g(5.0mmol)、NMPを13.58g加え、23℃の水浴中で3時間攪拌し固形分濃度が10.5質量%のポリアミック酸の溶液(P6と略す)を得た。また、ポリアミック酸の分子量はMn=14375、Mw=34127であった。P6はNMPで希釈し、固形分濃度が10質量%、6質量%及び1質量%のワニスを調製した。
【0169】
<合成例7>
撹拌装置付きおよび窒素導入管付きの2000mlセパラブルフラスコにp−フェニレンジアミンを48.67g(0.45mol)、4−(オクタデシルオキシ)―1,3−フェニレンジアミンを18.83g(0.05mol)、NMPを1233g加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらTDAを150.14g(0.5mmol)、およびNMPを加え、50℃で24時間撹拌してポリアミック酸の溶液を得た。このポリアミック酸溶液を5質量%に希釈し、さらにイミド化触媒としてピリジン237.9g、無水酢酸510.6gを加え、40℃で3時間反応させた。この溶液を17.4Lのメタノール中に投入し、得られた沈殿物を濾別、乾燥し、白色のポリイミド粉末を得た。得られたポリイミドは、Mn=9273、Mw=18815であった。またイミド化率は84%であった。ポリイミド粉末をNMPに溶解し、固形分濃度が6質量%のワニス(P7と略す)を調製した。
【0170】
<合成例8>
撹拌装置付きおよび窒素導入管付きの2000mlセパラブルフラスコに4,4’−ジアミノジフェニルメタンを198.27g(1.0mol)、NMPとGBLの混合溶媒(NMP:GBL=25.3:74.7(体積比))を1111g加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながら1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を98.05g(0.5mol)、ピロメリット酸二無水物を98.98g(0.44mol)を加え、室温で5時間反応させポリアミック酸の溶液(P8と略す)を得た。ポリアミック酸はMn=11067、Mw=26270であった。P8をNMPで希釈し、固形分濃度が6質量%のワニスを調製した。
【0171】
<合成例9>
ビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物(2.50g、10.00mmol)、3,5−ジアミノ安息香酸(1.07g、7.03mmol)、PCH7AB(4.95g、13.01mmol)をNMP(34.05g)中で混合し、80℃で1時間反応させた後、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(1.93g、9.84mmol)とNMP(7.73g)を加え、40℃で6時間反応させ固形分濃度が20質量%のポリアミック酸の溶液(P9と略す)を得た。ポリアミック酸のMn=13400、Mw=58000であった。P9をNMPで希釈し、固形分濃度が6質量%のワニスを調製した。
【0172】
<合成例10>
ビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物(3.94g、15.75mmol)、3,5−ジアミノ安息香酸(1.60g、10.52mmol)、PCHAB7(4.00g、10.51mmol)をNMP(38.14g)中で混合し、80℃で1時間反応させた後、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(1.01g、5.15mmol)とNMP(4.04g)を加え、40℃で6時間反応させポリアミック酸溶液を得た。
【0173】
このポリアミック酸溶液(20.0g)にNMPを加え固形分濃度を6質量%に希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(4.17g)、ピリジン(1.29g)を加え、50℃で2時間反応させた。この反応溶液をメタノール(250ml)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、100℃で減圧乾燥しポリイミド粉末を得た。このポリイミドのイミド化率は49%であり、Mn=17200、Mw=63000であった。ポリイミド粉末をNMPに溶解し、固形分濃度が6質量%のワニス(P10と略す)を調製した。
【0174】
[構造体形成用組成物の調製及び構造体の作製]
製膜及び焼成工程は全て室温が23℃、相対湿度が55%RHのクラス1000のクリーンルームの中で行った。
【0175】
<実施例1>
20mLの一つ口ナス型フラスコに合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)とを加え、マグネティックスターラーを用いて撹拌し、均一なワニス(構造体形成用組成物)を得た。このワニスを、3cm×4cmで厚みが150nmのITOが表面に積層された厚さ1.1mmのガラス(以下、ガラス基材とも記載する。)のガラス面(すなわち、ITOが形成された面とは反対側の面)に、スピンコートにより塗布し、塗膜を形成した。スピンコート終了後、10秒間放置し、次いで80℃のホットプレート上で5分間焼成した後、230℃のホットプレートで30分間焼成し、膜厚100nmの膜(構造体)を得た。
【0176】
<実施例2>
合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに合成例3で得た5.0gのP3(6質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0177】
<実施例3>
合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに合成例4で得た5.0gのP4(6質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0178】
<実施例4>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例7で得た5.0gのP7(6質量%)と合成例8で得た5.0gのP8(6質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0179】
<実施例5>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例5で得た5.0gのP5(6質量%)と合成例7で得た5.0gのP7(6質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0180】
<実施例6>
合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに合成例6で得た5.0gのP6(6質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0181】
<実施例7>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例6で得た5.0gのP6(6質量%)と合成例7で得た5.0gのP7(6質量%)とを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0182】
<実施例8>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)と合成例9で得た5.0gのP9(6質量%)とを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0183】
<実施例9>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例2で得たP2(6質量%)と合成例10で得たP10(6質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0184】
<実施例10>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例7で得た5.0gのP7(6質量%)と合成例10で得た5.0gのP10(6質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0185】
<実施例11>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例5で得た3.0gのP5(6質量%)と、合成例7で得た3.0gのP7(6質量%)と、合成例9で得た3.0gのP9(6質量%)とを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0186】
<実施例12>
合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに0.5gのプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0187】
<実施例13>
スピンコート、放置及び焼成を、酸素濃度が20ppmの窒素雰囲気のグローブボックス中で行った以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0188】
<実施例14>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例5で得た5.0gのP5(6質量%)と合成例6で得た5.0gのP6(6質量%)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0189】
<実施例15>
スピンコート、放置及び焼成を、酸素濃度が20ppmのグローブボックス中で行った以外は実施例14と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0190】
<実施例16>
230℃のホットプレートで30分間焼成する操作を行わなかった以外は、実施例1と同様の操作を行って、ガラス基材上に膜厚120nmの膜を得た。
【0191】
<実施例17>
230℃のホットプレートで30分間焼成する操作を行わなかった以外は、実施例14と同様の操作を行って、ガラス基材上に膜厚120nmの膜を得た。
【0192】
<実施例18>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例1で得た5.0gのP1(1質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(1質量%)とを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚20nmの膜を得た。
【0193】
<実施例19>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例5で得た5.0gのP5(1質量%)と合成例6で得た5.0gのP6(1質量%)とを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚20nmの膜を得た。
【0194】
<実施例20>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例5で得た5.0gのP5(10質量%)と合成例6で得た5.0gのP6(10質量%)とを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚200nmの膜を得た。
【0195】
<実施例21>
ホットプレート上で5分間焼成する温度を40℃に変更した以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0196】
<実施例22>
ホットプレート上で5分間焼成する温度を70℃に変更した以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0197】
<実施例23>
ホットプレート上で5分間焼成する温度を90℃に変更した以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0198】
<実施例24>
ホットプレート上で5分間焼成する温度を120℃に変更した以外は実施例1と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0199】
<実施例25>
ホットプレート上で5分間焼成する温度を40℃に変更した以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0200】
<実施例26>
ホットプレート上で5分間焼成した焼成温度を70℃に変更した以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0201】
<実施例27>
ホットプレート上で5分間焼成した焼成温度を90℃に変更した以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0202】
<実施例28>
ホットプレート上で5分間焼成した焼成温度を120℃に変更した以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0203】
<実施例29>
スピンコート終了後の放置時間を1分間に変更した以外は実施例1と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0204】
<実施例30>
スピンコート終了後の放置時間を5分間に変更した以外は実施例1と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0205】
<実施例31>
スピンコート終了後の放置時間を10分間に変更した以外は実施例1と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0206】
<実施例32>
スピンコート終了後の放置時間を72時間に変更した以外は実施例1と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0207】
<実施例33>
スピンコート終了後の放置時間を1分間に変更した以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0208】
<実施例34>
スピンコート終了後の放置時間を5分間に変更した以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0209】
<実施例35>
スピンコート終了後の放置時間を10分間に変更した以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0210】
<実施例36>
スピンコート終了後の放置時間を72時間に変更した以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0211】
<実施例37>
合成例1で得たP1(6質量%)を4.0gとし合成例2で得たP2(6質量%)を6.0gとした以外は実施例1と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0212】
<実施例38>
合成例1で得たP1(6質量%)を6.0gとし合成例2で得たP2(6質量%)を4.0gとした以外は実施例1と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0213】
<実施例39>
合成例5で得たP5(6質量%)を1.0gとし合成例6で得たP6(6質量%)を9.0gとした以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0214】
<実施例40>
合成例5で得たP5(6質量%)を2.0gとし合成例6で得たP6(6質量%)を8.0gとした以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0215】
<実施例41>
合成例5で得たP5(6質量%)を3.0gとし合成例6で得たP6(6質量%)を7.0gとした以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0216】
<実施例42>
合成例5で得たP5(6質量%)を4.0gとし合成例6で得たP6(6質量%)を6.0gとした以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0217】
<実施例43>
合成例5で得たP5(6質量%)を6.0gとし合成例6で得たP6(6質量%)を4.0gとした以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0218】
<実施例44>
合成例5で得たP5(6質量%)を7.0gとし合成例6で得たP6(6質量%)を3.0gとした以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0219】
<実施例45>
合成例5で得たP5(6質量%)を8.0gとし合成例6で得たP6(6質量%)を2.0gとした以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0220】
<実施例46>
合成例5で得たP5(6質量%)を9.0gとし合成例6で得たP6(6質量%)を1.0gとした以外は実施例14と同様の操作を行って均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0221】
<比較例1>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例1で得た10.0gのP1(6質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0222】
<比較例2>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例2で得た10.0gのP2(6質量%)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0223】
<比較例3>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例3で得た10.0gのP3(6質量%)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0224】
<比較例4>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例4で得た10.0gのP4(6質量%)を用いた以外は比較例1と同様に試験しガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0225】
<比較例5>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例5で得た10.0gのP5(6質量%)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0226】
<比較例6>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例6で得た10.0gのP6(6質量%)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0227】
<比較例7>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例7で得た10.0gのP7(6質量%)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0228】
<比較例8>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例8で得た10.0gのP8(6質量%)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0229】
<比較例9>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例9で得た10.0gのP9(6質量%)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0230】
<比較例10>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例10で得た10.0gのP10(6質量%)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0231】
<比較例11>
80℃のホットプレート上での5分間の焼成、及び、230℃のホットプレートでの30分間の焼成を行わなかった以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0232】
<比較例12>
合成例1で得た5.0gのP1(6質量%)と合成例2で得た5.0gのP2(6質量%)の代わりに、合成例7で得た2.0gのP7(6質量%)と合成例8で得た8.0gのP8(6質量%)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、均一なワニスを得、また、ガラス基材上に膜厚100nmの膜を得た。
【0233】
<比較例13>
ガラス基材上に光取出し膜を設けない例として、実施例1と同様のガラス基材を用意した。
【0234】
[AFMによる表面観察]
各実施例1〜46及び比較例1〜12で得られたガラス基材上の膜(構造体)の表面を、AFMを用いて5μm×5μmのサイズでスキャンして観察し、自己組織化によって形成された凹凸の有無を評価し、また、凸部の平均高さ(表面粗さRa)を求めた。なお、膜に、自己組織化による凹凸が形成されていた場合(すなわちフラクタルな模様が形成されていた場合)は○、自己組織化による凹凸が形成されていない場合(すなわちフラクタルな模様が形成されていない場合)は×とした。また、光取出し膜のない比較例13については、ガラス面(すなわち、ITOが形成された面とは反対側の面)の表面を、上記実施例1と同様にして、AFMによる観察及び凸部の平均高さの測定を行った。結果を表2−1及び表2−2に示す。また、観察結果の一例として、実施例1のAFM像を図2に、実施例14のAFM像を図3に、比較例2のAFM像を図4に示す。
【0235】
[相対蛍光強度の測定]
100mLの一つ口ナス型フラスコに9.0gのポリメチルメタクリレート(重量平均分子量;15000、Aldrich社製)、0.18gの3−ヒドロキシフラボン(東京化成工業株式会社製)、82.62gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を加え、マグネティックスターラーを用いて撹拌し、均一なワニスを得た。ここで得られたワニスは蛍光強度を測定するときの標準液とした。
【0236】
このワニス(標準液)を、実施例1〜46及び比較例1〜12で作製した各構造体が形成されたガラス基材のITO面側にスピンコートして、80℃のホットプレートで10秒間焼成し、膜厚が100nmの標準膜を作製した。そして、蛍光スペクトルの測定条件を、励起波長が341.0nm、蛍光開始波長が450nm、蛍光終了波長が700nm、スキャンスピードが240nm/minとし、励起光を標準膜側から照射し、構造体側から光を取出し、蛍光は531.0nmに現れる極大蛍光ピークを読み取ることで蛍光強度を求めた。
【0237】
また、比較例13は、上記のワニス(標準液)をガラス基材のITO面側にスピンコートして80℃のホットプレートで10秒間焼成し、膜厚が100nmの標準膜を作製した。そして、上記実施例1と同様の方法で、蛍光強度を求めた。
【0238】
蛍光強度は相対比較で行い、比較例1で得た構造体を測定した蛍光強度を1.00と規格化した。実施例1〜46及び比較例1〜13の相対蛍光強度を表2−1及び表2−2に示す。
【0239】
【表2-1】
【0240】
【表2-2】
【0241】
表2−1及び表2−2に示すように、実施例1〜46の全てで自己組織化によって形成された凹凸を表面に有する構造体、すなわち、フラクタルな模様の凹凸を表面に有する構造体が形成されていた。一方、比較例1〜12では、自己組織化による凹凸は形成されていなかった。そして、実施例1〜46は比較例1〜12と比べて、相対蛍光強度が高く、光取出し膜として使用すると、光取出し効率を向上できることが確認された。したがって、本発明の構造体は、LED素子等のオプトデバイスの光取出し膜等として、好適に使用できると言える。これらの結果について、以下にさらに詳述する。
【0242】
重合体の組み合わせとしては、実施例1〜3、6及び8はポリアミック酸とポリアミック酸とを、実施例4、7及び9はポリアミック酸とポリイミドとを、実施例10はポリイミドとポリイミドとを、実施例14はポリアミック酸とポリアミック酸エステルとを、実施例5はポリイミドとポリアミック酸エステルとを混合した例であるが、いずれの混合においても、自己組織化によって形成された凹凸を表面に有する構造体が形成されていた。また、実施例11はポリアミック酸、ポリイミド及びポリアミック酸エステルの3種類の重合体を混合した例であるが、この場合も、自己組織化によって形成された凹凸を表面に有する構造体を形成した。さらに、実施例12は単一の重合体を用いており、異なる重合体を混合していない系であるが、重合体を含むワニスの中に重合体に対して溶解性が極めて低い貧溶媒であるPGMEを加えているため自己組織化し、自己組織化によって形成された凹凸を表面に有する構造体を形成することがわかった。なお、実施例1〜6、12、13、15、16、18〜24、29〜32、37〜39は、フラクタルな模様の基本図形単位が、図3に示すように、ミミズ状であった。また、実施例7〜11、14、17、25〜28、33、43〜46は、フラクタルな模様の基本図形単位が、図4に示すように、半球状であった。また、実施例34〜36、40〜42は、フラクタルな模様の基本図形単位が、穴形状であった。
【0243】
そして、実施例1〜11の相対蛍光強度を比較すると、実施例2のみ相対蛍光強度が1.30を下回っており、相対蛍光強度は重合体を構成するモノマー(ジアミン成分やテトラカルボン酸成分)骨格に依存する傾向を確認した。実施例2では、用いた構造体形成用組成物が含有する重合体を構成するモノマー骨格に、分子内又は分子間で水素結合を形成しうる結合及び分子内又は分子間で水素結合を形成しうる置換基のいずれも有しておらず、混合した2種の重合体のいずれか1つにも含まれていないことに起因して、実施例2では相対強度が比較的低かったと考えられる。
【0244】
実施例1及び13〜15はスピンコート、スピンコート後の放置及び焼成の雰囲気が異なる例である。雰囲気が、大気中、酸素濃度が20ppmの窒素中のいずれでも、自己組織化による凹凸を表面に有する構造体が形成されており、自己組織化が生じるか否かは、これらのプロセスの雰囲気に依存しないことがわかった。また、窒素雰囲気中では、凸部の平均高さが低下し、相対蛍光強度が低下する傾向であることから、好ましくは大気中で焼成したほうが良いことがわかった。
【0245】
実施例1及び16、実施例14及び17、比較例11は、焼成工程が異なる例である。230℃で30分間の焼成及び80℃で5分間の焼成をした実施例1及び実施例14や、230℃で30分間の焼成はしなかったが80℃で5分間焼成した実施例16及び実施例17では自己組織化により凹凸が形成されていたが、焼成を行わなかった比較例11では自己組織化は生じなかったことから、自己組織化による形成された凹凸を有する構造体を形成するには、焼成工程が必須であることがわかった。なお、実施例1、16、14及び17においては、80℃での5分間の焼成によって、自己組織化が生じていたといえる。
【0246】
実施例1及び21〜24、実施例14及び25〜28は、焼成温度が異なる例である。スピンコート後に焼成する温度は、40℃〜120℃のいずれでも、自己組織化による形成された凹凸を有する構造体が形成されることがわかった。また、相対蛍光強度は焼成温度が70℃以上で安定化することから、焼成温度は70℃以上が好ましいことがわかった。
【0247】
実施例1及び18、実施例14、19及び20は、構造体形成用組成物の固形分濃度、すなわち、重合体の濃度が異なる例である。固形分濃度の増加による膜厚の増加に依存せず、自己組織化による凹凸を表面に有する構造体が形成されることがわかった。また、相対蛍光強度は、固形分濃度が最も高く凸部の平均高さが最も高い実施例20が強くなり、構造体が光を取り出す最前面に設置される場合は固形分濃度が高く膜厚が大きいほうが有利であることがわかった。
【0248】
実施例1及び29〜32、実施例14及び33〜36は、スピンコート終了後の放置時間が異なる例である。スピンコート終了後の放置時間は、10秒間〜72時間のいずれでも自己組織化により形成された凹凸を有する構造体が形成されることがわかった。放置時間は実際に製造するプロセスのタクトタイムに直結し、短ければ製造時間が短くなり好ましいため、10秒〜10分が好ましく、より好ましくは10秒以上〜5分であるといえる。
【0249】
実施例1、37及び38、実施例14及び39〜46は、重合体の混合割合が異なる例である。相対蛍光強度の増加の点から、異なる重合体である第1の重合体と第2の重合体との混合率は第1の重合体:第2の重合体=40:60(質量%)から第1の重合体:第2の重合体=60:40(質量%)の範囲内が好ましいことがわかり、どちらかの重合体の比率が70質量%以上となると低下することがわかった。
【0250】
また、実施例4及び比較例12も、重合体の混合割合が異なる例である。ポリアミック酸を含有するP8及びポリイミドを含有するP7混合した構造体形成用組成物を用いた場合は、実施例4では自己組織化により形成された凹凸を有する構造体が形成されたが、重合体比をポリイミド:ポリアミック酸=20:80(質量%)にした比較例12では、自己組織化による凹凸は形成されなかった。これは、このP7のポリイミドと、P8のポリアミック酸の場合は、異なる2種類のポリイミド等を用いているが、上層(ポリイミド)と下層(ポリアミック酸)にきれいに分離するため、膜表面は上層のポリイミドの単独膜と同じになり、自己組織化が生じず、フラクタルな模様は発現しなかったためと推測される。
【0251】
比較例1〜12は、自己組織化による凹凸が表面に形成されている構造体を有する実施例と比べて、相対蛍光強度が低く、光取出し効率は悪かった。なお、比較例1〜12の中には比較的凸部の平均高さが高い凹凸が形成されているものもあるが、図4に示すように、比較例2等で形成された凹凸は、自己組織化により形成された凹凸ではない。すなわち、50μm四方に基本単位図形が観察されず、膜表面の面内で均一な膜荒れに起因する凹凸であった。
【0252】
比較例13は光取出し膜を設けなかった場合の相対蛍光強度であるが、最も取出し光取り出し効率が悪かった。このことから、ポリイミド及びポリイミド前駆体は光取出し膜として用いると光取出し効率は向上するが、自己組織化によって形成された凹凸を表面に有する構造体とすると、さらに光取出し効率が高まることがわかった。
【0253】
また、上記実施例1〜46は、それぞれ30回繰り返しても、同じ結果(自己組織化による凹凸の形成、凸部の平均高さ)が得られ、再現性が非常に良いことが確認された。
【符号の説明】
【0254】
11 透明基板 12 光取出し膜
13 透明電極 14 正孔輸送層
15 発光層 16 電極
図1
図2
図3
図4