(54)【発明の名称】多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法、多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体、多層構造のガラス化後のハイドロゲル、徐放剤乾燥体の製造方法、接着方法、徐放剤乾燥体、及び徐放剤水和体
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、農林水産省、農林水産資源を活用した新需要創出プロジェクト委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と、第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを接着して多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体を製造する方法であって、
(a)第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の一方の面の少なくとも一部に、コラーゲンゾルを滴下又は塗布する工程と、
(b)第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体のコラーゲンゾルが滴下又は塗布された前記一方の面の少なくとも一部に、第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させる工程と、
(c)コラーゲンゾルが滴下若しくは塗布された第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の一方の面の少なくとも一部に、前記第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させた状態で、該コラーゲンゾルをゲル化させ、第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを付着させ、ガラス化後のハイドロゲル多重層を形成させる工程と、
(d)工程(c)で形成された前記ガラス化後のハイドロゲル多重層を乾燥させ、多重層乾燥体を形成させる工程と、
(e)工程(d)で形成された多重層乾燥体に紫外線を照射して重層間結合を誘導する工程と、を含み、
前記コラーゲンゾルは、分子量が30以上40000以下の薬物を含有することを特徴とする多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法。
前記工程(e)の後に前記工程(a)〜(e)を繰り返して行う工程、前記工程(d)の後に前記工程(a)〜(d)を繰り返して行う工程、前記工程(c)の後に前記工程(a)〜(c)を繰り返して行う工程、及び前記工程(b)の後に前記工程(a)〜(b)を繰り返して行う工程からなる群から選ばれる少なくとも1工程を含む請求項1に記載の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法。
前記ガラス化後のハイドロゲル又は前記ガラス化後のハイドロゲル再乾燥体が、細胞外マトリックス成分を含有する請求項1又は2に記載の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法。
請求項1〜6のいずれか一項に記載の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法を用いて得られることを特徴とする多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体。
第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と、第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを接着してなる徐放剤を製造する徐放剤乾燥体の製造方法であって、
(a)第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の一方の面の少なくとも一部に、薬物を含有するコラーゲンゾルを滴下又は塗布する工程と、
(b)第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体のコラーゲンゾルが滴下又は塗布された前記一方の面の少なくとも一部に、第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させる工程と、
(c)コラーゲンゾルが滴下若しくは塗布された第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の一方の面の少なくとも一部に、前記第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させた状態で、該コラーゲンゾルをゲル化させ、第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを付着させ、ガラス化後のハイドロゲル多重層を形成させる工程と、
(d)工程(c)で形成された前記ガラス化後のハイドロゲル多重層を乾燥させ、多重層乾燥体を形成させる工程と、
(e)工程(d)で得られた多重層乾燥体に紫外線を照射して重層間結合を誘導する工程と、を含み、
前記薬物の分子量が30以上40000以下であることを特徴とする徐放剤乾燥体の製造方法。
第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と、第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを接着させる接着方法であって、
(a)第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部に、コラーゲンゾルを滴下又は塗布する工程と、
(b)第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体のコラーゲンゾルが滴下又は塗布された部分に、第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させる工程と、
(c)コラーゲンゾルが滴下若しくは塗布された第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部に、前記第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させた状態で、該コラーゲンゾルをゲル化させ、第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを付着させ、付着面においてガラス化後のハイドロゲル多重層を形成させる工程と、
(d)工程(c)で形成された前記ガラス化後のハイドロゲル多重層を乾燥させ、多重層乾燥部を形成させる工程と、
(e)工程(d)で形成された多重層乾燥部に紫外線を照射して重層間結合を誘導する工程と、を含み、
前記コラーゲンゾルは、分子量が30以上40000以下の薬物を含有することを特徴とするガラス化後のハイドロゲル又はガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の接着方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記(ア)のゲル同士の接着又は積層について特許文献1が開示されているが、特許文献1に記載の無孔性コラーゲン系材料と多孔性コラーゲン系材料とを接着させる方法では、多孔性コラーゲン系材料にコラーゲンゾルを糊として接合させている。この方法では無孔質材料と多孔質コラーゲン系材料との境界面における毛管力が、一定限度の量のゲルを多孔質コラーゲン系材料中に引き込むので、多孔性材料には糊が塗布されやすく、接着も強固となる傾向にあると考えられる。しかし、無孔性コラーゲン系材料同士あるいは多孔性コラーゲン系材料同士を接着させる方法は例示されていない。
前記(イ)のゲル中間層に含有された物質の徐放について特許文献2が開示されているが、特許文献2に記載の方法で薬物を含有するガラス化後のハイドロゲル乾燥体を得ようとしても、ハイドロゲルから自由水を除去しガラス化を行う段階でハイドロゲルが含んでいた薬物が自由水とともに流出してしまう。そのため、流出した薬物が無駄となってしまう。また、ガラス化後のハイドロゲル乾燥体に正確な量の薬物を保持させることは困難である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、強固な重層間結合を有する多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法、強固な重層間結合を有する多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体、強固な重層間結合を有する多層構造のガラス化後のハイドロゲル、ガラス化後のハイドロゲル等同士の接着方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、正確な量の薬物を保持させることが可能な徐放剤乾燥体の製造方法、徐放剤乾燥体、及び徐放剤水和体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ガラス化後のハイドロゲル又はガラス化後のハイドロゲル再乾燥体を、コラーゲンゲルを介して付着させた後に、これらの多重層へと紫外線を照射する工程を有することで、強固な重層間結合を有する多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
また、本発明者らは、上記コラーゲンゲルが薬物を含有することで、多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体を正確な量の薬物を保持させることが可能な徐放剤とすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有する、多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法、多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体、多層構造のガラス化後のハイドロゲル、徐放剤乾燥体の製造方法、接着方法、徐放剤乾燥体、及び徐放剤水和体を提供するものである。
【0010】
(1)第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と、第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを接着して多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体を製造する方法であって、
(a)第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の一方の面の少なくとも一部に、コラーゲンゾルを滴下又は塗布する工程と、
(b)第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体のコラーゲンゾルが滴下又は塗布された前記一方の面の少なくとも一部に、第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させる工程と、
(c)コラーゲンゾルが滴下若しくは塗布された第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の一方の面の少なくとも一部に、前記第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させた状態で、該コラーゲンゾルをゲル化させ、第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを付着させ、ガラス化後のハイドロゲル多重層を形成させる工程と、
(d)工程(c)で形成された前記ガラス化後のハイドロゲル多重層を乾燥させ、多重層乾燥体を形成させる工程と、
(e)工程(d)で形成された多重層乾燥体に紫外線を照射して重層間結合を誘導する工程と、を含み、
前記コラーゲンゾルは、分子量が30以上40000以下の薬物を含有することを特徴とする多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法。
(2)前記工程(e)の後に前記工程(a)〜(e)を繰り返して行う工程、前記工程(d)の後に前記工程(a)〜(d)を繰り返して行う工程、前記工程(c)の後に前記工程(a)〜(c)を繰り返して行う工程、及び前記工程(b)の後に前記工程(a)〜(b)を繰り返して行う工程からなる群から選ばれる少なくとも1工程を含む前記(1)に記載の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法。
(3)前記ガラス化後のハイドロゲル又は前記ガラス化後のハイドロゲル再乾燥体が、細胞外マトリックス成分を含有する前記(1)又は(2)に記載の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法。
(4)前記細胞外マトリックス成分がブタ由来アテロコラーゲンである前記(3)に記載の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法。
(5)前記ガラス化後のハイドロゲル又は前記ガラス化後のハイドロゲル再乾燥体が、細胞外マトリックス成分を1cm
2あたり0.1〜1,000mg含有する前記(3)又は(4)に記載の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法。
(6)前記紫外線の総照射量が70〜1,600mJ/cm
2である前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法。
(7)前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法を用いて得られることを特徴とする多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体。
(8)厚さが1〜50,000μmである前記(7)に記載の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体。
(9)前記(7)又は(8)に記載の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体を再水和してなる多層構造のガラス化後のハイドロゲル。
(10)第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と、第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを接着してなる徐放剤を製造する徐放剤乾燥体の製造方法であって、
(a)第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の一方の面の少なくとも一部に、薬物を含有するコラーゲンゾルを滴下又は塗布する工程と、
(b)第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体のコラーゲンゾルが滴下又は塗布された前記一方の面の少なくとも一部に、第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させる工程と、
(c)コラーゲンゾルが滴下若しくは塗布された第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の一方の面の少なくとも一部に、前記第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させた状態で、該コラーゲンゾルをゲル化させ、第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを付着させ、ガラス化後のハイドロゲル多重層を形成させる工程と、
(d)工程(c)で形成された前記ガラス化後のハイドロゲル多重層を乾燥させ、多重層乾燥体を形成させる工程と、
(e)工程(d)で得られた多重層乾燥体に紫外線を照射して重層間結合を誘導する工程と、を含み、
前記薬物の分子量が30以上40000以下であることを特徴とする徐放剤乾燥体の製造方法。
(11)第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と、第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを接着させる接着方法であって、
(a)第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部に、コラーゲンゾルを滴下又は塗布する工程と、
(b)第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体のコラーゲンゾルが滴下又は塗布された部分に、第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させる工程と、
(c)コラーゲンゾルが滴下若しくは塗布された第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部に、前記第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させた状態で、該コラーゲンゾルをゲル化させ、第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを付着させ、付着面においてガラス化後のハイドロゲル多重層を形成させる工程と、
(d)工程(c)で形成された前記ガラス化後のハイドロゲル多重層を乾燥させ、多重層乾燥部を形成させる工程と、
(e)工程(d)で形成された多重層乾燥部に紫外線を照射して重層間結合を誘導する工程と、を含み、
前記コラーゲンゾルは、分子量が30以上40000以下の薬物を含有することを特徴とするガラス化後のハイドロゲル又はガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の接着方法。
(12)
(10)に記載の徐放剤乾燥体の製造方法を用いて得られることを特徴とする徐放剤乾燥体。
(13)前記コラーゲンゲル層は分子量が30以上4000以下の薬物を含有する前記(12)に記載の徐放剤乾燥体。
(14)
(12)又は(13)に記載の徐放剤乾燥体を再水和してなる徐放剤水和体
。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法によれば、強固な重層間結合を有する多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体が得られ、強固な重層間結合を有する多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体及び多層構造のガラス化後のハイドロゲルを提供することができる。
また、本発明の接着方法によれば、ガラス化後のハイドロゲル等同士の付着面において強固な重層間結合を形成させることができる。
また、本発明の徐放剤乾燥体の製造方法によれば、正確な量の薬物が保持された徐放剤が得られ、徐放剤乾燥体、及び徐放剤水和体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、「ハイドロゲル」とは、高分子が化学結合によって網目状構造をとり、その網目に多量の水を保有した物質を指し、より具体的には、天然物由来の高分子や合成高分子の人工素材に架橋を導入してゲル化させたものをいう。
【0014】
本明細書中において、「ガラス化後のハイドロゲル」とは、ガラス化(vitrification)の工程を経て作製されたハイドロゲルのことを指す。
本明細書中における各工程、並びに各工程を経た後のゲル及びゲル乾燥体の呼称を
図1に示す。本明細書中においては、ガラス化後のハイドロゲルの作製工程を詳細に説明するにあたり、当該ガラス化工程の直後であり再水和の工程を経ていないハイドロゲルの乾燥体に対しては、単に「ハイドロゲル乾燥体」とした。そして、当該ガラス化工程の後に再水和の工程を経て得られたゲルを「ガラス化後のハイドロゲル」として区別して表し、そのゲルをガラス化させて得られた乾燥体を「ガラス化後のハイドロゲル再乾燥体」とした。また、ガラス化後のハイドロゲル又はガラス化後のハイドロゲル再乾燥体に後述の工程(a)〜(c)を施して得られるものを「ガラス化後のハイドロゲル多重層」とし、該ガラス化後のハイドロゲル多重層に乾燥(後述の工程(d))を施して得られるものを「多重層乾燥体」とし、該多重層乾燥体に紫外線照射(後述の工程(e))を施して得られたものを「多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体」とした。さらに、多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体を再水和したものを「多層構造のガラス化後のハイドロゲル」とした。
【0015】
仮に、最初に溶媒Aを用いてハイドロゲルを作製すると、溶媒A由来のハイドロゲル乾燥体が得られる。溶媒Aはガラス化工程でハイドロゲル内の自由水が除去されるに伴い、ハイドロゲル内から流出するが、ハイドロゲル乾燥体は溶媒Aの成分が残留している状態の溶媒A由来のハイドロゲル乾燥体となる。次にこの溶媒A由来のハイドロゲル乾燥体を、今度は溶媒Bで再水和したとすると、得られたガラス化後のハイドロゲルは溶媒Bで平衡化されたガラス化後のハイドロゲルとなる。同様に、溶媒Bで平衡化されたガラス化後のハイドロゲルのガラス化及び溶媒Cでの再水和を行うと、溶媒Cで平衡化されたガラス化後のハイドロゲルとなる。
本明細書中では溶媒Bで平衡化されたガラス化後のハイドロゲルも、溶媒Cで平衡化されたガラス化後のハイドロゲルも「ガラス化後のハイドロゲル」として扱う。
【0016】
《多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法、多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体》
本発明の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法は、
(a)第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の一方の面の少なくとも一部に、コラーゲンゾルを滴下又は塗布する工程、
(b)第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体のコラーゲンゾルが滴下又は塗布された前記一方の面の少なくとも一部に、第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させる工程と、
(c)コラーゲンゾルが滴下若しくは塗布された第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の一方の面の少なくとも一部に、前記第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させた状態で、該コラーゲンゾルをゲル化させ、第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを付着させ、ガラス化後のハイドロゲル多重層を形成させる工程と、
(d)工程(c)で形成された前記ガラス化後のハイドロゲル多重層を乾燥させ、多重層乾燥体を形成させる工程と、
(e)工程(d)で形成された多重層乾燥体に紫外線を照射して重層間結合を誘導する工程を含む。
【0017】
[第一実施形態]
本実施形態では、第一のガラス化後のハイドロゲルと第二のガラス化後のハイドロゲルとを接着する。ガラス化後のハイドロゲルは膜状である。
(工程(a))
図2は、本発明の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法の第一実施形態を例示した模式図である。工程(a)として、第一のガラス化後のハイドロゲル1の一方の面の少なくとも一部にコラーゲンゾル3aを滴下する。
【0018】
(工程(b))
次に、第一のガラス化後のハイドロゲル1のコラーゲンゾル3aが滴下された前記一方の面の少なくとも一部に、第二のガラス化後のハイドロゲル2の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させる。このときコラーゲンゾル3は流動性を有しているので、第一のガラス化後のハイドロゲル1と第二のガラス化後のハイドロゲル2の表面に沿って広がる。本実施形態では、コラーゲンゾル3aが第一のガラス化後のハイドロゲル1と第二のガラス化後のハイドロゲル2との間に広がり層状となった状態を示すが、必ずしも層状である必要はない。
【0019】
(工程(c))
その後、コラーゲンゾルが滴下された第一のガラス化後のハイドロゲル1の一方の面の少なくとも一部に、第二のガラス化後のハイドロゲル2の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾル3aを介して接触させた状態で、コラーゲンゾル3aをゲル化させコラーゲンゲル3bを形成させる。通常コラーゲンゾルは、保温により容易にゲル化させることができる。
コラーゲンゲル3bを形成させることにより、第一のガラス化後のハイドロゲル1と第二のガラス化後のハイドロゲル2とをコラーゲンゲル3bを介して付着させ、ガラス化後のハイドロゲル多重層4を形成させる。
【0020】
(工程(d))
次いで、工程(c)で形成された前記ガラス化後のハイドロゲル多重層を乾燥させ、ガラス化後のハイドロゲル多重層乾燥体5を形成させる。乾燥の目安としては、第一のガラス化後のハイドロゲル1及び第二のガラス化後のハイドロゲル2から完全に自由水が除去されて、これらゲルがガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の状態となるまで、とすることができるが、これらゲルの長期間に渡る十分なガラス化は必須ではない。この工程でコラーゲンゲル3aもガラス化されることになる。ガラス化されたコラーゲンゲルはガラス化されていないコラーゲンゲルよりも強固にガラス化後のハイドロゲル同士を接着させることができる。
【0021】
(工程(e))
その後、工程(d)で形成されたガラス化後のハイドロゲル多重層乾燥体5に紫外線を照射して重層間結合を誘導し、多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体6を得る。紫外線の照射には、公知の紫外線照射装置を使用することができる。
ガラス化後のハイドロゲル多重層乾燥体5への紫外線の照射エネルギーは、単位面積あたりの総照射量が、70〜1,600mJ/cm
2であることが好ましく、400〜1,600mJ/cm
2であることがより好ましく、800〜1,600mJ/cm
2であることがさらに好ましい。この範囲の照射量であると、第一のガラス化後のハイドロゲル1と第二のガラス化後のハイドロゲル2との接着を特に好ましいものとすることができる。
【0022】
また、ガラス化後のハイドロゲル多重層乾燥体5への紫外線の照射を複数回に分けて行う場合、紫外線の照射部位を、一方の面と他方の面(上面と下面)とに分けて照射して、その総照射量を、ガラス化後のハイドロゲル多重層乾燥体5への単位面積あたりの紫外線総照射量としてもよい。
紫外線の照射を、ガラス化後のハイドロゲル多重層乾燥体5に行うことで、第一のガラス化後のハイドロゲル1と第二のガラス化後のハイドロゲル2との接着強度が強まる。このことは、第一のガラス化後のハイドロゲル1内とコラーゲンゲル3b内の高分子化合物同士、及び、第二のガラス化後のハイドロゲル2内とコラーゲンゲル3b内の高分子化合物同士が、紫外線によって架橋されるからと考えられる。
【0023】
得られた多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体6を再水和することで、多層構造のガラス化後のハイドロゲル7を得ることができる。多層構造のガラス化後のハイドロゲル7では、ゲル同士が強固に接着されており、再水和等の操作によってゲル同士の接着が容易に剥がれてしまうことを防止できる。
【0024】
[第二実施形態]
本実施形態では、第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを接着する。これは上記[第一実施形態]のガラス化後のハイドロゲルをガラス化後のハイドロゲル再乾燥体へ置き変えたものである。
【0025】
まず、工程(a)として、第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体一方の面の少なくとも一部にコラーゲンゾルを滴下する。
【0026】
次に、(工程(b))として、第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体のコラーゲンゾルが滴下された前記一方の面の少なくとも一部に、第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させる。このときコラーゲンゾルは流動性を有しているので、第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面に沿って広がる。同時に、コラーゲンゾル由来の水分の一部が第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体及び第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体へと移行し、各ハイドロゲル再乾燥体が再水和される。
【0027】
その後の工程(c)〜工程(e)は、上記[第一実施形態]と同様に行うことができる。
【0028】
本発明の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法は、前記工程(e)の後に前記工程(a)〜(e)を繰り返して行う工程、前記工程(d)の後に前記工程(a)〜(d)を繰り返して行う工程、前記工程(c)の後に前記工程(a)〜(c)を繰り返して行う工程、及び前記工程(b)の後に前記工程(a)〜(b)を繰り返して行う工程からなる群から選ばれる少なくとも1工程を含むものであってもよい。以下に当該製造方法の実施形態の一例を示す。
【0029】
[第三実施形態]
本実施形態では、複数枚の第一のガラス化後のハイドロゲルと1枚以上の第二のガラス化後のハイドロゲルとを接着する。
まず、上記[第一実施形態]に記載の方法と同様にして、工程(a)〜(e)を行い、多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体6を得た後、それを再水和させて多層構造のガラス化後のハイドロゲル7を得る。そして、多層構造のガラス化後のハイドロゲル7を上記[第一実施形態]の第一のガラス化後のハイドロゲル1と同様に扱い、再度工程(a)〜(e)を繰り返して、多層構造のガラス化後のハイドロゲル7と第二のガラス化後のハイドロゲルとを接着させる。
上記の方法の概要は、工程(a)→工程(b)→工程(c)→工程(d)→工程(e)→再水和→工程(a)→工程(b)→工程(c)→工程(d)→工程(e)の順である。上記操作によって、計3枚のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と、計2枚のコラーゲンゲルの乾燥体とが夫々交互に重ねられた多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体を得ることができる。
ここで、第二のガラス化後のハイドロゲルに代えて、多層構造のガラス化後のハイドロゲル7を用いることで、複数枚のガラス化後のハイドロゲルを有する多層構造のガラス化後のハイドロゲル同士を接着することも可能である。
【0030】
[第四実施形態]
本実施形態では、複数枚の第一のガラス化後のハイドロゲルと1枚以上の第二のガラス化後のハイドロゲルとを接着する。
まず、上記[第一実施形態]に記載の方法と同様にして、工程(a)〜(b)までを行い、第一のガラス化後のハイドロゲル1と、第二のガラス化後のハイドロゲル2の表面の少なくとも一部がコラーゲンゾル3aを介して接触した状態とする。当該操作を複数回行い、複数枚のガラス化後のハイドロゲルとコラーゲンゾルの層とを夫々交互に重ねていく。その後、上記[第一実施形態]に記載の方法と同様にして、工程(c)〜(e)を行う。上記の方法の概要は、{工程(a)→工程(b)}n回 →工程(c)→工程(d)→工程(e)の順である。上記操作によって、複数枚のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と、複数枚のコラーゲンゲルの乾燥体とが夫々交互に重ねられた多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体を得ることができる。
【0031】
このように、工程(a)〜(b)を含む工程を複数回繰り返すことで、任意の厚さ及び層状態の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体を得ることができる。
【0032】
本発明の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法を用いて得られたハイドロゲル乾燥体の厚さとしては、1〜50,000μmであることが好ましく、10〜5,000μmであることがより好ましく、10〜1,000μmであることがさらに好ましい。このようなゲル乾燥体の厚さは、本発明の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体を後述の徐放剤や細胞移植用キャリアとして用いる場合にも、好適な厚さであるため好ましい。
【0033】
(ゲル成分)
前記ガラス化後のハイドロゲル又は前記ガラス化後のハイドロゲル再乾燥体は、細胞外マトリックス成分を含有することが好ましい。
ガラス化後のハイドロゲルの作製に用いられる細胞外マトリックス成分としては、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型など)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどを含む)より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル)、ゼラチン、寒天、アガロース、フィブリン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカンなどを例示することができる。それぞれのゲル化に至適な塩等の成分、その濃度、pHなどを選択しハイドロゲルを作製することが可能である。複数種の原料を組み合わせることで、様々な生体内組織を模倣したガラス化後のハイドロゲルを得ることができる。
【0034】
また、ハイドロゲルの作製に用いられる合成高分子としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド、poly(II−hydroxyethylmethacrylate)/polycaprolactoneなどが挙げられる。また、これらの高分子を2種以上用いてハイドロゲルを作製することも可能である。ハイドロゲルの量は、作製するガラス化後のハイドロゲルの厚さを考慮して調節することができる。
【0035】
ハイドロゲルの原料はコラーゲンが好ましい。コラーゲンのなかでもより好ましいハイドロゲルの原料として、ブタ由来アテロコラーゲンを例示できる。ブタ由来のコラーゲンのゾルは、同濃度のウシ由来のネイティブコラーゲンのゾルよりも粘性が低いため、ゾルの濃度を高めた場合でも均一な状態のゲルを製造することができ、さらにウシ由来のコラーゲンのように反芻動物由来基準に抵触する恐れも無い。また、アテロコラーゲンは、ネイティブコラーゲンよりも、炎症反応やアレルギー反応を起こしにくいコラーゲンである。そのため、ブタ由来アテロコラーゲンを用いることで、生体移植材料としても非常に優れたガラス化後のハイドロゲルを製造することができる。これらの好ましいコラーゲンについては、コラーゲンゾル3aの原料のコラーゲンに対しても同様である。
【0036】
ブタアテロコラーゲンゾルを使用する場合を例に説明すると、コラーゲンゾルは、至適な塩濃度を有するものとして、生理食塩水、PBS(Phosphate Buffered Saline)、HBSS(Hank’s Balanced Salt Solution)、基礎培養液、無血清培養液、あるいは血清含有培養液などで調製することができる。また、コラーゲンゲル化の際の溶液のpHは、6から8程度が好ましい。
【0037】
特に無血清培養液を用いる場合、他動物血清成分中に含まれる移植に適さない物質(抗原、病原因子等)がゲル膜に含まれることを回避できるため、生体移植材料としてより好ましいガラス化後のハイドロゲルとすることができる。
【0038】
ここで、コラーゲンゾルの調製は4℃で行うのが望ましい。その後、ゲル化する際の保温は、用いるコラーゲンの動物種に依存したコラーゲンの変性温度より低い温度でなければならないが、一般的には20℃〜37℃の温度で数分から数十分でゲル化できる温度に保温して行うことができる。
【0039】
また、コラーゲンの濃度が0.2%以上のアテロコラーゲンゾルはゲル化が弱すぎることがなく、コラーゲンの濃度が0.8%以下のアテロコラーゲンゾルは均一化も容易となる。したがって、アテロコラーゲンゾルのコラーゲンの濃度は0.4〜0.6%が好ましく、より好ましくは0.5%程度である。
【0040】
(ガラス化後のハイドロゲル及びガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の作製方法)
以下、本発明に用いるガラス化後のハイドロゲルの作製方法の一例を示す。例えば、コラーゲンを用いる場合には、コラーゲンゾルを、基板上に配置された壁面鋳型に注入し、インキュベーターでゲル化させたものを使用することができる(特許文献2、国際公開第2012/026531号参照)。
【0041】
まず、上記のように調整されたコラーゲンゾルを壁面鋳型内部に注入する。前記濃度のコラーゲンゾルは粘性を有しているため、コラーゲンゾルを壁面鋳型内部に注入して迅速に保温すれば、コラーゲンゾルは基板と壁面鋳型との間隙から流出することなく数分以内にゲル化することができる。
【0042】
そして、形成されたコラーゲンゲルは基板と壁面鋳型に密着するが、所定の時間放置することで、時間の経過とともに、コラーゲンゲル内の自由水の一部が、基板と壁面鋳型の間隙から壁面鋳型の外側へ流出する。
【0043】
ここで、壁面鋳型を上下等に僅かに動かすことで、ゲルと壁面鋳型間の接着が解除されて僅かな間隙が生じるので、自由水の流出を促進することができる。
【0044】
さらに、例えば、単位面積(1.0 cm
2)当たりに注入する0.25%コラーゲンゾルの量が0.4ml以上の場合には、ゲル化したコラーゲンゲル内の自由水を1/4〜2/3程度に減じるまでは、基板と壁面鋳型の間隙から流出する自由水を経時的に除去することが望ましい。これによって、ゲルのコラーゲン濃度は0.375〜1.0%程度になるため、壁面鋳型を除去してもゲル形状が歪まないゲル強度にすることができる。なお、その後は基板上に流出する自由水も伴った状態でゲル内に残留する自由水を自然乾燥させて除去してガラス化することができる。ここで、迅速大量生産の観点からは、コラーゲンゲル内の自由水を1/4〜2/3程度に減じさせる時間は2〜8時間が望ましい。さらに、その後、ゲル内に残留する自由水を自然乾燥させ完全に除去させる時間は48時間以内が望ましい。そのためには、単位面積(1.0 cm
2)当たりに注入する0.25%コラーゲンゾルの量は0.1〜2.4mlが望ましく、その結果、単位面積(1.0 cm
2)当たりに250μg〜6mgのコラーゲンを含有するハイドロゲル乾燥体を作製することができる。
【0045】
ハイドロゲル乾燥体をPBSや使用する培養液などで再水和することでガラス化後のハイドロゲルを得ることができる。ここで、再水和する液体には、生理活性物質などの各種の成分が含まれていてもよく、例えば、生理活性物質としては、抗生物質をはじめとする各種医薬品、細胞増殖因子、分化誘導因子、細胞接着因子、抗体、酵素、サイトカイン、ホルモン、レクチン、またはゲル化しない細胞外マトリックス成分としてファイブロネクチン、ビトロネクチン、エンタクチン、オステオポエチン等が挙げられる。また、これらを複数含有させることも可能である。
【0046】
さらに、ガラス化後のハイドロゲル内に残留する自由水を自然乾燥等により完全に除去し、ガラス化後のハイドロゲル再乾燥体を得ることができる。
【0047】
壁面鋳型の内部のハイドロゾルには、支持体を導入することができる。例えば、支持体は、ナイロン膜、ワイヤ、綿製ガーゼ、繭糸、その他の織成体、生体吸収性材料等を例示することができ、壁面鋳型の内部の形状に対応したものを使用することができる。好ましくは、壁面鋳型が環状の場合には、支持体は、壁面鋳型の内径と略等しい外径を有する環状ナイロン膜とすることができる。ゾルに支持体を導入することで、ガラス化後のハイドロゲルの強度や形状保持能が高まり、取り扱い性、利便性が向上する。例えば、円形の壁面鋳型の直径より1.0 mm程短い外円直径の環状ナイロン膜支持体を導入することで、ピンセットで容易に取り扱えるガラス化後のハイドロゲルを作製することができる。
【0048】
なお、上記ガラス化工程(ハイドロゲル内の自由水を完全に除去した後に、結合水の部分除去を進行させる工程)の期間を長くするほど、再水和した際には透明度、強度に優れたガラス化後のハイドロゲル膜を得ることができる。なお、必要に応じて短期間のガラス化後に再水和して得たガラス化後のハイドロゲル膜をPBS等で洗浄し、再度ガラス化することもできる。
【0049】
上記乾燥方法としては、例えば、風乾、密閉容器内で乾燥(容器内の空気を循環させ、常に乾燥空気を供給する)、シリカゲルを置いた環境下で乾燥する等、種々の方法を用いることができる。例えば、風乾の方法としては、10℃40%湿度で無菌に保たれたインキュベーターで2日間乾燥させる、もしくは無菌状態のクリーンベンチ内で一昼夜、室温で乾燥する等の方法を例示することができる。
【0050】
前記ガラス化後のハイドロゲル又は前記ガラス化後のハイドロゲル再乾燥体は、細胞外マトリックス成分を該膜の単位面積1cm
2あたり0.1〜1000mg含有することが好ましく、0.5〜500mg含有することがより好ましく、1.0〜50mg含有することがさらに好ましい。なお、「該膜の単位面積1cm
2あたり」とは、膜の厚さを任意として、該膜片1cm
2あたりに含有される成分を指す。
【0051】
≪徐放剤乾燥体の製造方法、徐放剤乾燥体、徐放剤水和体≫
本発明の多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法は、前記コラーゲンゾルが薬物を含有するものであってもよい。
前記コラーゲンゾルが薬物を含有する場合、得られた多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体は徐放剤として用いることができ、多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法は、徐放剤乾燥体の製造方法と言い換えることができる。
【0052】
本発明の徐放剤乾燥体の製造方法によって得られうる徐放剤乾燥体の一例としては、第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と、第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体との間にコラーゲンゲル乾燥体の層が形成されてなる徐放剤であって、前記コラーゲンゲル層が薬物を含有するものである。徐放剤乾燥体は、薬物を安定的に保持することができるので、保管、流通等に適した形態である。
当該徐放剤乾燥体を再水和して得られたものが徐放剤水和体である。徐放剤乾燥体は再水和され、徐放剤水和体とされた状態で使用されることが好ましい。徐放剤水和体の一例としては、第一のガラス化後のハイドロゲルと、第二のガラス化後のハイドロゲルとの間にコラーゲンゲル層が形成されてなる徐放剤であって、前記コラーゲンゲル層が薬物を含有するものである。
【0053】
コラーゲンゲル層に含有された薬物は、水中へと放出され、適用箇所にて効果を発揮することが期待される。しかし、単に薬物がコラーゲンゲル層に含有された状態では、薬物が早急に放出されてしまい、薬物の効果が持続せず不都合が生じる場合がある。
一方で、以下の非特許文献(Takezawa et al. (2007) Collagen vitrigel membrane useful for paracrine assays in vitro and drug delivery systems in vivo. J. Biotechnol. 131: 76-83.)で示されるように、BMP-2タンパク質を含有するコラーゲンゾルをゲル化・乾燥・再水和し、その後乾燥してガラス化して製造したBMP-2を含有したガラス化後のコラーゲンゲルは、ガラス化していないコラーゲンゲルと比較して、より優れたBMP-2の徐放効果(低下した薬物放出速度を示す)を有することが認められる。しかし、上記非特許文献に記載の方法で、コラーゲンゲルにBMP-2を含有させた場合、コラーゲンゲルから自由水を除去しガラス化を行う段階でコラーゲンゲルが含んでいた薬物が自由水とともに流出してしまい、流出した薬物が無駄となってしまう場合がある。また、ガラス化後のコラーゲンゲル乾燥体に正確な量の薬物を保持させることは困難である。
【0054】
対して、本発明の徐放剤乾燥体の製造方法によれば、薬物はコラーゲンゲル層に含有された状態となり、製造に用いた薬物を実質的に流出させることなく、徐放剤を製造することが可能である。また、正確な量の薬物を徐放剤乾燥体に保持させることが可能である。
そして、本発明の徐放剤乾燥体を再水和して得られた徐放剤水和体では、薬物を含有するコラーゲンゲル層が2枚のガラス化後のハイドロゲルの層の間に配置されているので、薬物はガラス化後のハイドロゲルの層を通過して放出されることとなる。したがって、本発明の徐放剤乾燥体は、長期にわたって薬物を放出することが可能であり、且つ正確な量の薬物が保持された徐放剤とすることができる。
【0055】
上記薬物は特に限定されないが、分子量が30〜2,000,000であることが好ましく、分子量が100〜500,000であることがより好ましく、分子量が200〜100,000であることがさらに好ましく、分子量が500〜50,000であることが特に好ましい。徐放剤が含有する薬物の分子量が上記範囲にあると、より効果的に徐放性が発揮される。
【0056】
本発明の徐放剤乾燥体又は徐放剤水和体の使用方法として、例えば、薬物の放出対象の液中に投入する、薬物の投与対象の生物に貼付ける、薬物の投与対象の生物に経口投与する等を挙げることができる。例えばヒトなどの哺乳動物の皮膚表面に徐放剤を貼り付け、薬剤を経皮吸収させることができる。または、徐放剤を移植材料として用い、移植先の生体内で薬物が徐放されるようにしてもよい。
【0057】
≪接着方法≫
本発明の接着方法は、
(a)第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部に、コラーゲンゾルを滴下又は塗布する工程と、
(b)第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体のコラーゲンゾルが滴下又は塗布された部分に、第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させる工程と、
(c)コラーゲンゾルが滴下若しくは塗布された第一のガラス化後のハイドロゲル又は第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部に、前記第二のガラス化後のハイドロゲル又は第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させた状態で、該コラーゲンゾルをゲル化させ、第一のガラス化後のハイドロゲル若しくは第一のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体と第二のガラス化後のハイドロゲル若しくは第二のガラス化後のハイドロゲル再乾燥体とを付着させ、付着面においてガラス化後のハイドロゲル多重層を形成させる工程と、
(d)工程(c)で形成された前記ガラス化後のハイドロゲル多重層を乾燥させ、多重層乾燥部を形成させる工程と、
(e)工程(d)で形成された多重層乾燥部に紫外線を照射して重層間結合を誘導する工程を含む。
【0058】
[第一実施形態]
(工程(a))
図3は、本発明の接着方法の一例を示す模式図である。工程(a)として、第一のガラス化後のハイドロゲル1の表面の少なくとも一部にコラーゲンゾル3aを滴下する。ガラス化後のハイドロゲルは膜状に限定されずあらゆる形状を選択可能であり、本実施形態では柱状である。
【0059】
(工程(b))
次に、第一のガラス化後のハイドロゲル1のコラーゲンゾル3aが滴下された前記表面の少なくとも一部に、第二のガラス化後のハイドロゲル2の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾルを介して接触させる。このときコラーゲンゾル3は流動性を有しているので、第一のガラス化後のハイドロゲル1と第二のガラス化後のハイドロゲル2の表面に沿って広がる。本実施形態では、コラーゲンゾル3aが第一のガラス化後のハイドロゲル1と第二のガラス化後のハイドロゲル2との間に広がり層状となった状態を示すが、必ずしも層状である必要はない。
【0060】
(工程(c))
その後、コラーゲンゾルが滴下された第一のガラス化後のハイドロゲル1の表面の少なくとも一部に、第二のガラス化後のハイドロゲル2の表面の少なくとも一部を前記コラーゲンゾル3aを介して接触させた状態で、コラーゲンゾル3aをゲル化させコラーゲンゲル3bを形成させる。コラーゲンゲル3bを形成させることにより、第一のガラス化後のハイドロゲル1と第二のガラス化後のハイドロゲル2とをコラーゲンゲル3bを介して付着させ、付着面においてガラス化後のハイドロゲル多重層4を形成させる。これは、前記≪多層構造のガラス化後のハイドロゲル乾燥体の製造方法≫において説明したガラス化後のハイドロゲル多重層4を付着面において形成するものと考えればよい。ハイドロゲル多重層4は第一のガラス化後のハイドロゲル1及び第二のガラス化後のハイドロゲル2の全部を含んで形成されていてもよく、一部のみを含んで形成されていてもよい。
【0061】
(工程(d))
次いで、工程(c)で形成された前記ガラス化後のハイドロゲル多重層を乾燥させ、ガラス化後のハイドロゲル多重層乾燥部8を形成させる。
図3ではガラス化後のハイドロゲル多重層の一部のみを乾燥させてガラス化後のハイドロゲル多重層乾燥部8が形成された様子を示している。乾燥の目安としては、付着面において形成されたガラス化後のハイドロゲル多重層4に含まれる第一のガラス化後のハイドロゲル1及び第二のガラス化後のハイドロゲル2から完全に自由水が除去されて、これらゲルがガラス化後のハイドロゲル再乾燥体の状態となるまで、とすることができるが、これらゲルの長期間に渡る十分なガラス化は必須ではない。この工程でコラーゲンゲル3aもガラス化されることになる。ガラス化されたコラーゲンゲルはガラス化されていないコラーゲンゲルよりも強固にガラス化後のハイドロゲル同士を接着させることができる。
【0062】
(工程(e))
その後、工程(d)で形成されたガラス化後のハイドロゲル多重層乾燥部8に紫外線を照射して重層間結合を誘導する。紫外線の照射には、公知の紫外線照射装置を使用することができる。紫外線の照射を、ガラス化後のハイドロゲル多重層乾燥部8に行うことで、第一のガラス化後のハイドロゲル1と第二のガラス化後のハイドロゲル2との接着強度が強まる。
本実施形態の接着方法によれば、ガラス化後のハイドロゲル同士を強固に接着することができる。
【実施例】
【0063】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[2枚のガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜の接着]
≪ガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜(直径15mm・コラーゲン量5.0 mg/cm
2)及びガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜乾燥体の作製≫
【0064】
壁面鋳型は、外円の直径が19mmで内円の直径が15mmで高さが30mmのアクリルを用いた。ディッシュは、96×96×15mm(アズワン#D-210-16)のプラスチックディッシュを用いた。ビニールは87×87mmに切り出した上で四隅を切り落とし、前記のディッシュに入るサイズとした。なお、壁面鋳型およびビニールは70%エタノールを噴霧して拭き取る滅菌処理を施してから使用した。具体的には、ディッシュの上にビニールを敷いて、その上に壁面鋳型を設置した。
【0065】
コラーゲンゾルは、無血清培養液(20mM HEPES(GIBCO#15630-080、100units/ml Penicillin、100μg/ml Streptomycinを含有するダルベッコ改変イーグル培養液(GIBCO#11885-084))と1.0%ブタ由来アテロコラーゲン溶液を氷上で等量混和することによって作製した。
【0066】
コラーゲンゲルは、作製したコラーゲンゾルを壁面鋳型の中に1.7ml注入して、クリーンベンチ内で30分間室温で静置し、ディッシュの蓋をした後、5%CO
2・95%空気存在下の37℃の保湿インキュベーター内で2時間ゲル化することで作製した。この際、注入したコラーゲンゾルはディッシュ上に敷いたビニールと壁面鋳型の間隙より流出することなくゲル化した。
【0067】
37℃の保湿インキュベーターに移し入れてから2時間後、ディッシュ上に敷いたビニールと壁面鋳型の間隙から壁面鋳型の外側へ流出したコラーゲンゲル内の自由水を除去した。また、壁面鋳型を上下に僅かに動かすことで、コラーゲンゲルと壁面鋳型間の接着を解除した。その際に再びビニールと壁面鋳型の間隙から自由水が流出してきたので除去作業を行った。その後はディッシュの蓋を閉じ、カルチャーパルCO
2 2.5L(コアフロント#CP-1)を入れた専用気密角型ジャー13.5×19.7×9.5mm(コアフロント#A-110)の中に入れ、4℃の冷蔵庫で静置した。
【0068】
翌日より一日一回、専用気密角型ジャーからコラーゲンゲルの入ったディッシュを取り出し、壁面鋳型を上下に動かすことで、自由水の流出を促した。流出した自由水を除去した後は、新しいカルチャーパルCO
2 2.5Lを入れた専用気密角型ジャーに再びコラーゲンゲルの入ったディッシュを入れ、4℃の冷蔵庫で静置した。
【0069】
壁面鋳型が無い状態でもコラーゲンゲルが倒れず自立可能になったので、壁面鋳型を外し10℃・40%湿度の条件下のクリーンベンチ内(ESPEC:PDR-3KP)に移し入れ、ディッシュの蓋を外した状態でコラーゲンゲル内に残留する自由水を自然乾燥により完全に除去し、ガラス化が始まったコラーゲンゲル厚膜乾燥体(ハイドロゲル乾燥体)を得た。
【0070】
ガラス化が始まったコラーゲン乾燥体の入ったディッシュに37℃に温めたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(SIGMA#D8537) 20mlを加えて、MILD MIXER(TAITEC:PR-36)を用いて振とうさせながら再水和を行った。数回PBSでリンスすることで、PBSに平衡化されたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜(ガラス化後のハイドロゲル)を作製した。再びディッシュの蓋を外した状態で、10℃・40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れ、ガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜を乾燥させた。
【0071】
翌日取り出した後は、ガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜乾燥体(ガラス化後のハイドロゲル再乾燥体)の入ったディッシュをアルミホイルで包み、室温・暗所で保存した。
【0072】
≪2枚のガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜の接着≫
上記と同様の方法で作製した、ガラス後のコラーゲンハイドロゲル厚膜(直径15mm・コラーゲン量5.0 mg/cm
2)2枚を1セットとして使用する。ガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜乾燥体をPBSで十分に再水和した。また、氷上で無血清培養液と1.0% ブタ由来アテロコラーゲン溶液を等量混和し、コラーゲンゾルを作製した。
【0073】
再水和したガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜1枚を、ビニールを敷いた96×96×15mmのディッシュの上にしわが寄らないように乗せた。コラーゲンハイドロゲル厚膜の上にコラーゲンゾルを30μl滴下し、上から再水和したもう1枚のガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜を重ねて、コラーゲンゾルが全体に行き渡るように接着させた。そのままディッシュの蓋を開けた状態で、クリーンベンチ内で1時間静置した後、10℃・40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れディッシュの蓋を外した状態で乾燥させた。
【0074】
数日後取り出し、FUNA-UV-Linker(フナコシ:FS-1500 / 15W / 254nm)を用いて接着させた2枚のガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜にUV照射を行った。UV照射条件として、0mJ/cm
2(UV非照射)、100mJ/cm
2、200mJ/cm
2、400mJ/cm
2、600mJ/cm
2、800mJ/cm
2のUV照射量を、各々接着させた2枚のガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜に、片面のみに照射した。
【0075】
[接着させた2枚のガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜の評価]
≪接着させた2枚のガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜の振とうと剥離≫
接着させた2枚のガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜を振とうするディッシュとして、6ウェルふた付きのセルカルチャープレート(ファルコン#35-3046)を用いた。6ウェルセルカルチャープレートにPBS 5mlを入れ、その中にUV照射処理済の接着させたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜を浸漬させた。
【0076】
浸漬させてから10分後、接着させたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜が剥がれていないことを確認した後、MILD MIXERを用いて42rpm/minの速度にて室温で1時間振とうさせた。
【0077】
1時間後、接着させたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜を、PBSの中に浸したままピンセットでつまんでゆすった。すると、UV非照射で接着させたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜に関しては、ゆすっただけで容易に剥離する様子が観察された(
図4)。UV照射量 100mJ/cm
2以上の接着させたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜に関してはゆすっても剥がれる様子が見られなかったので、PBS 5mLに浸漬したまま6ウェルセルカルチャープレートにパラフィルム(BEMIS FLEXIBLE PACKAGING)を巻いた状態で、5%CO
2・95%空気存在下の37℃の保湿インキュベーター内で静置した。
【0078】
翌日より1週間、接着させたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜が剥がれていないことを確認した後、1時間(同時間) MILD MIXERで振とう→剥離しているか否かの確認を繰り返した。UV照射量100mJ/cm
2以上の接着させたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜は1週間振とう作業を行っても、全ての照射条件で剥離する様子が見られなかったので、1週間後2本のピンセットを用いて物理的に剥離した。UV 照射量100mJ/cm
2、200mJ/cm
2の接着させたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜に関しては、一部引きはがすと、残りの箇所は比較的容易に剥離した。UV照射量 400mJ/cm
2、600mJ/cm
2、800mJ/cm
2の接着させたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜に関しては、特に周縁部が比較的強固に接着していたため、ピンセットで引っ張ると接着させたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜が袋状に開く様子が観察された(
図4)。
【0079】
[三層構造のガラス化後の薬物含有コラーゲンハイドロゲル厚膜の作製方法]
≪三層構造のガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜の作製≫
前述≪ガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜(直径15mm・コラーゲン量5.0 mg/cm
2)及びガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜乾燥体の作製≫と同様の手法で、ガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜乾燥体をあらかじめ作製した。
【0080】
モデル薬物として使用する蛍光試薬の調整を行った。VB12(SIGMA:シアノコバラミン:Mw=1355.4Da) / FD4(SIGMA:Fluorescein isothiocyanate dextran :Mw=4000Da) / FD10 (SIGMA:Mw=10000Da)/ FD40(SIGMA:Mw=40000Da)について、濃度が10mg/mlになるようにPBSで調整し、遮光状態で冷蔵保存した。
【0081】
あらかじめ作製したガラス後のコラーゲンハイドロゲル厚膜乾燥体(直径15mm・コラーゲン量5.0 mg/cm2)2枚を1セットとして使用する。氷上で無血清培養液と1.0% ブタ由来アテロコラーゲン溶液を等量混和し、コラーゲンゾルを作製した。作製したコラーゲンゾルのうち270μlを1.5mlビオラテマイクロチューブ(アズワン#1-1600-03)に入れ、濃度10mg/mlの蛍光試薬(FD4 、FD10、FD40)30μlを加え氷上でよく混和し、蛍光試薬含有のコラーゲンゾルを作製した。また、同様にして、作製したコラーゲンゾルのうち240μlを1.5mlエッペンチューブに入れ、濃度10mg/mlの蛍光試薬VB12 60μlを加え氷上でよく混和し、蛍光試薬含有のコラーゲンゾルを作製した。
【0082】
ガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜乾燥体1枚の片面をPBSで湿らせ、ビニールを敷いた96×96×15mmのディッシュの上に、湿らせた側を下にしてしわが寄らないように乗せた。その後、厚膜の上に蛍光試薬含有のコラーゲンゾルを30μl滴下し、チップの先でコラーゲンゾルを薄く一面に延ばし、上から同様に片面だけPBSで湿らせた残りのガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜乾燥体を、湿らせていない側がコラーゲンゾルと直接接触するように重ねて、コラーゲンゾルが全体に行き渡るように接着させた。そのままディッシュの蓋を開けた状態で、上にアルミホイルをかぶせ、クリーンベンチ内で1時間静置した後、10℃・40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れディッシュの蓋を外した状態で乾燥させた。
【0083】
[三層構造のガラス化後の薬物含有コラーゲンハイドロゲル厚膜の徐放性評価]
前述≪三層構造のガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜の作製≫の乾燥工程から3日後、三層構造のガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜に、フナコシのUV Linkerを用いてUV照射を行った。UV条件は、UV照射量600mJ/cm
2を両面(表裏)に各々照射した。
【0084】
接着させた2枚のガラス化後の薬物含有コラーゲンハイドロゲル厚膜の徐放を検討するディッシュとして、6ウェルふた付きのセルカルチャープレートを用いた。6ウェルセルカルチャープレートにPBS 3mlを入れ、その中にUV照射処理済の接着させたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜を浸漬させた。PBSに浸漬させた時間をゼロ点として、2時間、4時間、6時間、1日後に接着させた2枚のガラス化後の薬物含有コラーゲンハイドロゲル厚膜を、PBS 3mlを入れた新しい6ウェルセルカルチャープレートに移し入れた。その際、PBS中に排出される薬物を時間ごとに回収した。回収した薬物含有溶液は96ウェルふた付きのセルカルチャープレートのセルにそれぞれ100μlずつ注入して、蛍光プレートリーダーとマルチプレートリーダーを使用して蛍光強度を測定し、薬物徐放量を調べた。
【0085】
三層構造のガラス化後の薬物含有コラーゲンハイドロゲル厚膜においては、作製段階で薬物を無駄なく正確な量で封じ込めることが可能となった。分子量の小さいVB12含有のコラーゲンハイドロゲル厚膜は初期段階(PBSに浸漬後2時間以内)でほぼ全量の薬物が徐放された。FD4、FD10含有のコラーゲンハイドロゲル厚膜はPBSに浸漬後4時間以内で約90%の徐放が確認された。
しかしながら、FD40含有のコラーゲンハイドロゲル厚膜においては、他の分子量の薬物含有コラーゲンハイドロゲル厚膜と比較し、ゆるやかな徐放が見られたことより、薬物含有三層構造のガラス化後の薬物含有コラーゲンハイドロゲル厚膜は、薬物の分子量に応じた徐放性を示す結果が得られた(
図5参照)。
【0086】
[比較例1:従来法によるガラス化後の薬物含有コラーゲンハイドロゲル厚膜の作製方法]
≪従来法によるガラス化後の薬物含有コラーゲンハイドロゲル厚膜(直径15mm・コラーゲン量10.0 mg/cm
2)の作製≫
壁面鋳型は、外円の直径が19mmで内円の直径が15mmで高さが30mmのアクリルを用いた。ディッシュは、96×96×15mm(アズワン#D-210-16)のプラスチックディッシュを用いた。ビニールは87×87mmに切り出した上で四隅を切り落とし、前記のディッシュに入るサイズとした。なお、壁面鋳型およびビニールは70%エタノールを噴霧して拭き取る滅菌処理を施してから使用した。具体的には、ディッシュの上にビニールを敷いて、その上に壁面鋳型を設置した。
【0087】
無血清培養液(20mM HEPES(GIBCO#15630-080、100units/ml Penicillin、100μg/ml Streptomycinを含有するダルベッコ改変イーグル培養液(GIBCO#11885-084))10.5mlから18μlをピペットで除き、代わりにあらかじめ10mg/mlに濃度調整しておいた蛍光試薬FD4、FD10、FD40をピペットでそれぞれ18μl加えた。同様に、無血清培養液(20mM HEPES(GIBCO#15630-080、100units/ml Penicillin、100μg/ml Streptomycinを含有するダルベッコ改変イーグル培養液(GIBCO#11885-084))10.5mlから36μlをピペットで除き、代わりにあらかじめ10mg/mlに濃度調整しておいた蛍光試薬VB12をピペットでそれぞれ36μl加えた。蛍光試薬含有コラーゲンゾルは、上記の方法で各々の蛍光試薬を含有させた無血清培養液と1.0%ブタ由来アテロコラーゲン溶液(Lot:I-4903)を氷上で等量(各々10.5ml)混和することによって作製した。
【0088】
蛍光試薬含有のコラーゲンゲルは、蛍光試薬を混和させたコラーゲンゾルを壁面鋳型の中に3.5ml注入して、クリーンベンチ内で30分静置し、ディッシュの蓋をした後、5%CO
2・95%空気存在下の37℃の保湿インキュベーター内で2時間ゲル化することで作製した。この際、注入したコラーゲンゾルはディッシュ上に敷いたビニールと壁面鋳型の間隙より流出することなくゲル化した。
【0089】
37℃の保湿インキュベーターに移し入れてから2時間後、ディッシュ上に敷いたビニールと壁面鋳型の間隙から壁面鋳型の外側へ流出したコラーゲンゲル内の自由水を全量回収した。その後、壁面鋳型ごとコラーゲンゲルをビニールの上からステンレスメッシュ(東京スクリーン:円の直径40mm/ 0.21mm×40mesh)の上に移し変えた。また、ステンレスメッシュの上で壁面鋳型を上下に僅かに動かすことで、コラーゲンゲルと壁面鋳型間の接着を解除した。その際に再びビニールと壁面鋳型の間隙から自由水が流出してきたので全量を回収した。その後はディッシュの蓋を閉じ、カルチャーパルCO
2 2.5L(コアフロント#CP-1)を入れた専用気密角型ジャー13.5×19.7×9.5mm(コアフロント#A-110)の中に入れ、4℃の冷蔵庫で静置した。
【0090】
翌日より一日一回、専用気密角型ジャーからコラーゲンゲルの入ったディッシュを取り出し、壁面鋳型を上下に動かすことで、自由水の流出を促し流出分を全量回収した。回収後は、新しいカルチャーパルCO
2 2.5Lを入れた専用気密角型ジャーに再び入れ、4℃の冷蔵庫で静置した。
【0091】
コラーゲンゲルの高さが1/3程度まで下がったのを確認した後、壁面鋳型とステンレスメッシュを外した。コラーゲンゲルのみビニールを敷いたディッシュに載せた状態で、10℃・40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れ、ディッシュの蓋を外した状態でコラーゲンゲル内に残留する自由水を自然乾燥により完全に除去し、ガラス化が始まったコラーゲンゲル乾燥体を得た。
この際、取り外したステンレスメッシュをPBS 2mLで3回洗い流し、流出したPBS溶液は全量回収した。
【0092】
ガラス化が始まったコラーゲン乾燥体の入ったディッシュに37℃に温めたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(SIGMA#D8537) 20mlを加えて、MILD MIXERを用いて振とうさせながら再水和を行った。5回PBSでリンスすることで、PBSに平衡化されたガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜を作製した。なお、再水和時に洗い流したPBS溶液は各々全量回収した。再びディッシュの蓋を外した状態で、10℃・40%湿度の条件下のクリーンベンチ内に移し入れ、ガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜を乾燥させた。取り出した後は、ガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜乾燥体の入ったディッシュをアルミホイルで包み、室温・暗所で保存した。
【0093】
[従来法によるガラス化後の薬物含有コラーゲンハイドロゲル厚膜の評価]
≪回収した溶液の蛍光濃度測定≫
96ウェルふた付きのセルカルチャープレート(ファルコン#35-3075)の各セルに上記で回収した各サンプルを100μlずつ入れた。FD4、FD10、FD40の測定は蛍光プレートリーダー(molecular devices:SPECTRA max GEMINIXS)を使用し、またVB12の測定はマイクロプレートリーダー(molecular devices:VERSA MAX)を使用して100μl中の蛍光強度を測定し、回収した液量の計測と併せて、各作製工程で流出した蛍光試薬量を算出した。
【0094】
従来法で薬物含有のコラーゲンハイドロゲル厚膜乾燥体を作製すると、分子量の小さいVB12含有のコラーゲンハイドロゲル厚膜に関しては、自由水除去の作製段階でほぼ全量の薬物が流出した。FD4、FD10、FD40については自由水除去の作製段階では60%程度の薬物を保持できているものの、その後PBSでガラス化後のコラーゲンハイドロゲル厚膜を平衡化させる再水和の段階で、FD4、FD10含有のコラーゲンハイドロゲル厚膜の薬物総流出量は80%を超える結果となった。また、FD40含有のコラーゲンハイドロゲル厚膜は再水和を終えた段階で約70%の薬物が流出したが、約30%の薬物封入は可能であることが分かった(
図6参照)。
【0095】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。