特許第6384750号(P6384750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384750
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】木質成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20180827BHJP
   B27M 3/00 20060101ALI20180827BHJP
   B32B 21/13 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   B27K5/00 F
   B27K5/00 G
   B27M3/00 C
   B32B21/13
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-109491(P2014-109491)
(22)【出願日】2014年5月27日
(65)【公開番号】特開2015-223752(P2015-223752A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 公宏
(72)【発明者】
【氏名】金山 公三
(72)【発明者】
【氏名】三木 恒久
(72)【発明者】
【氏名】重松 一典
(72)【発明者】
【氏名】関 雅子
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−161932(JP,A)
【文献】 特開昭60−184804(JP,A)
【文献】 実開昭49−113413(JP,U)
【文献】 特開2012−011749(JP,A)
【文献】 特開2013−075449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27N 1/00−3/28
B27K 3/00−5/06
B27M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基材部と、該基材部とは透光性が異なる複数の板状の斑点部とが一体化されて構成されていると共に、それら基材部と斑点部とが、互いに色調の異なる樹脂含浸木質材料から形成されており、且つ該基材部が所定の厚さをもって形成されている一方、該複数の板状の斑点部が、該基材部に一部は埋没及び一部は該基材部の表面に露呈するように一体的に分散、位置せしめられている形態の木質成形体を製造する方法であって、
前記基材部を形成するための平板状の基材部形成用材料の複数と、前記斑点部を形成するための小片状且つ板状の斑点部形成用材料の複数とを、互いに色調の異なる樹脂含浸木質材料を用いて、それぞれ準備する工程と、
該複数の基材部形成用材料を、相互に重ね合わせて、積層せしめると共に、該複数の斑点部形成用材料を、それぞれ、かかる積層せしめられた複数の基材部形成用材料の間に又は上面若しくは下面の所定位置に分散、配置せしめることにより、それら基材部形成用材料と斑点部形成用材料との積層物を形成して、前記木質成形体を形成するための成形キャビティ内に収容する工程と、
該成形キャビティ内に収容された該積層物に対して、100〜200℃の温度及び50〜200MPaの圧力にて加熱・加圧することからなる流動成形操作を実施し、該積層物を、その積層方向において圧縮すると共に、該積層物の積層方向とは直角な方向において該積層物の両側にそれぞれ流動せしめて、前記木質成形体の形状に成形する一方、該積層物を構成する基材部形成用材料及び斑点部形成用材料中の含浸樹脂材料を硬化又は固化させることにより、該基材部形成用材料から透光性を有する前記基材部を生成せしめ、また該斑点部形成用材料からは該基材部とは透光性が異なる前記複数の板状の斑点部を生成せしめ、更に該基材部と斑点部とを一体化せしめて、該複数の板状の斑点部が、所定厚さの該基材部内に埋没及び基材部表面に露呈されるようにする工程と、
を含むことを特徴とする木質成形体の製造方法。
【請求項2】
透光性を有する基材部と、該基材部とは透光性が異なる複数の板状の斑点部とが一体化されて構成されていると共に、それら基材部と斑点部とが、互いに色調の異なる樹脂含浸木質材料から形成されており、且つ該基材部が所定の厚さをもって形成されている一方、該複数の板状の斑点部が、該基材部に一部は埋没及び一部は該基材部の表面に露呈するように一体的に分散、位置せしめられている形態の木質成形体を製造する方法であって、
前記基材部を形成するための小片状且つ板状の基材部形成用材料の複数と、前記斑点部を形成するための小片状且つ板状の斑点部形成用材料の複数とを、互いに色調の異なる樹脂含浸木質材料を用いて、それぞれ準備する工程と、
該複数の基材部形成用材料と該複数の斑点部形成用材料とを、該複数の斑点部形成用材料が、それぞれ、所定位置に分散、配置せしめられるように、前記木質成形体を形成するための成形キャビティ内に積層、充填する工程と、
該成形キャビティ内に積層、充填された前記基材部形成用材料及び前記斑点部形成用材料の積層物に対して、100〜200℃の温度及び50〜200MPaの圧力にて加熱・加圧することからなる流動成形操作を実施し、該積層物を、その積層方向において圧縮すると共に、該積層物の積層方向とは直角な方向において該積層物の両側にそれぞれ流動せしめて、前記木質成形体の形状に成形する一方、該積層物を構成する該基材部形成用材料及び該斑点部形成用材料中の含浸樹脂材料を硬化又は固化させることにより、該基材部形成用材料から透光性を有する前記基材部を生成せしめ、また該斑点部形成用材料からは該基材部とは透光性が異なる前記複数の板状の斑点部を生成せしめ、更に該基材部と斑点部とを一体化せしめて、該複数の板状の斑点部が、所定厚さの該基材部内に埋没及び基材部表面に露呈されるようにする工程と、
を含むことを特徴とする木質成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質成形体の製造方法に係り、特に、従来にない新たな見栄えのある木質成形体を有利に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の木材や竹等からなる木質材料を用いて成形された木質成形体が、建築用の床パネルの他、家具や調度品の構成材等として、多く用いられている。例えば、自動車の分野においても、木質成形体が、自動車用内装部品の外板パネルや表面パネル等といった意匠部品として利用されている。更に、近年では、需要者の意匠に対する要望が多様化しており、より個性的で優れた意匠性を有する木質成形体が望まれている。
【0003】
かかる状況下、特開2013−75449号公報(特許文献1)には、樹脂が含浸せしめられてWPC(Wood Plastic Combination)処理されることで、透光性を有する木質薄単板からなり且つ所定の木目を有する突板層と、所定の透光性を有する隠蔽層と、所定の木目又は色調の木目柄が形成された透光性を有する色柄層とを含む積層体からなる透光性化粧材が、明らかにされている。
【0004】
そのような透光性化粧材にあっては、WPC処理により、突板層となる薄単板の厚さを極度に薄くせずとも、高い透光性が得られるため、透光性化粧材の裏側からの光により、色柄層の木目柄が、透光性化粧材の表面側に、鮮明に且つ明確に、木質薄単板表面の木目に加えて現出するようになる。そして、これにより、突板層の木目と色柄層の木目柄とが混じり合って現出することとなって、より一層自然な突板感が得られるとされている。
【0005】
また、そのような従来から提案されている化粧材は、そこで表現されている意匠が、従来の通り、木目を基調とするものであるところから、より個性的な意匠性を求める需要者の要望に充分に応え得るものではなかったのである。更に、色柄層の木目柄を隠蔽するための隠蔽層を配置したり、色柄層に木目柄を印刷等により形成する必要があるために、化粧板を製造するためのコストが増大してしまうという問題も内在するものであった。
【0006】
一方、木質材料を用いた成形体(木質成形体)やその製造方法として、特許第4502848号公報(特許文献2)や特許第4849609号公報(特許文献3)等には、所謂流動成形を利用したものが、提案されている。この流動成形を利用して製造された木質成形体は、資源・環境問題に利するのみならず、「木」本来の感触が十分に得られるものとされている。更に、そのような植物系材料の成形体製造方法として、特開2012−161932号公報(特許文献4)や特開2012−161933号公報(特許文献5)には、側方押出成形によるものが開示されている。特に、特許文献4においては、植物系材料に予め添加剤(樹脂)を含浸させて、熱圧成形を行なうことが明らかにされており、それによって、材料の流動現象が起き易くなって、成形体の力学的性質を均一にすることが出来ることが、明らかにされている。
【0007】
しかしながら、そのような数々のメリットが得られる流動成形を利用して製造された木質成形体には、下記の如き各種の問題が、内在しているのである。即ち、流動成形を行なうときに、木質材料の全体が成形キャビティ内で流動するようになるため、木質成形体の表面に、木目が変形したり、崩れたりした模様が現れてしまう恐れがあった。また、特許文献4及び特許文献5に示される側方押出成形において、複数の板材を用いて成形を行なった場合には、それら板材の境界部位に筋状の模様が形成されてしまったり、各板材毎の色調の差が縞状に現出してしまう恐れがあった。このため、従来の流動成形を利用した木質成形体の成形技術では、需要者の意匠に対する要望に充分に応え得るような、より個性的で優れた意匠性を有する木質成形体を得ることが、極めて困難であったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−75449号公報
【特許文献2】特許第4502848号公報
【特許文献3】特許第4849609号公報
【特許文献4】特開2012−161932号公報
【特許文献5】特開2012−161933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かくの如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、樹脂の含浸により透光性を有するという木質材料の性質を生かしつつ、かかる木質材料に対して有効な流動成形操作を施して、より個性的で優れた意匠性を具備する、新規な見栄えのある木質成形体を提供することにある。また、本発明は、そのような木質成形体を有利に製造し得る方法をも、提供することを、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明にあっては、樹脂材料が含浸された木質材料を用いて、それを加熱・加圧することにより、圧縮せしめつつ、流動させて賦形する流動成形操作を実施して製造された、表面に意匠面を有する木質成形体であって、透光性を有する基材部と、該基材部とは透光性が異なる複数の板状の斑点部とが一体化されて構成されていると共に、それら基材部と斑点部とが、互いに色調の異なる樹脂含浸木質材料から形成されており、且つ該基材部が所定の厚さをもって形成されている一方、該複数の板状の斑点部が、それぞれ、該基材部に埋没又は該基材部の表面に露呈するように一体的に分散、位置せしめられていることを特徴とする木質成形体を、その対象とするものである。
【0011】
また、本発明は、前記した課題を解決するために、透光性を有する基材部と、該基材部とは透光性が異なる複数の板状の斑点部とが一体化されて構成されていると共に、それら基材部と斑点部とが、互いに色調の異なる樹脂含浸木質材料から形成されており、且つ該基材部が所定の厚さをもって形成されている一方、該複数の板状の斑点部が、該基材部に一部は埋没及び一部は該基材部の表面に露呈するように一体的に分散、位置せしめられている形態の木質成形体を製造する方法であって、(a1)前記基材部を形成するための平板状の基材部形成用材料の複数と、前記斑点部を形成するための小片状且つ板状の斑点部形成用材料の複数とを、互いに色調の異なる樹脂含浸木質材料を用いて、それぞれ準備する工程と、(b1)該複数の基材部形成用材料を、相互に重ね合わせて、積層せしめると共に、該複数の斑点部形成用材料を、それぞれ、かかる積層せしめられた複数の基材部形成用材料の間に又は上面若しくは下面の所定位置に分散、配置せしめることにより、それら基材部形成用材料と斑点部形成用材料との積層物を形成して、前記木質成形体を形成するための成形キャビティ内に収容する工程と、(c1)該成形キャビティ内に収容された該積層物に対して、100〜200℃の温度及び50〜200MPaの圧力にて加熱・加圧することからなる流動成形操作を実施し、該積層物を、その積層方向において圧縮すると共に、該積層物の積層方向とは直角な方向において該積層物の両側にそれぞれ流動せしめて、前記木質成形体の形状に成形する一方、該積層物を構成する基材部形成用材料及び斑点部形成用材料中の含浸樹脂材料を硬化又は固化させることにより、該基材部形成用材料から透光性を有する前記基材部を生成せしめ、また該斑点部形成用材料からは該基材部とは透光性が異なる前記複数の板状の斑点部を生成せしめ、更に該基材部と斑点部とを一体化せしめて、該複数の板状の斑点部が、所定厚さの該基材部内に埋没及び基材部表面に露呈されるようにする工程と、を含むことを特徴とする木質成形体の製造方法を、その要旨の一つとするものである。。
【0012】
さらに、本発明は、前記した課題を解決するために、透光性を有する基材部と、該基材部とは透光性が異なる複数の板状の斑点部とが一体化されて構成されていると共に、それら基材部と斑点部とが、互いに色調の異なる樹脂含浸木質材料から形成されており、且つ該基材部が所定の厚さをもって形成されている一方、該複数の板状の斑点部が、該基材部に一部は埋没及び一部は該基材部の表面に露呈するように一体的に分散、位置せしめられている形態の木質成形体を製造する方法であって、(a2)前記基材部を形成するための小片状且つ板状の基材部形成用材料の複数と、前記斑点部を形成するための小片状且つ板状の斑点部形成用材料の複数とを、互いに色調の異なる樹脂含浸木質材料を用いて、それぞれ準備する工程と、(b2)該複数の基材部形成用材料と該複数の斑点部形成用材料とを、該複数の斑点部形成用材料が、それぞれ、所定位置に分散、配置せしめられるように、前記木質成形体を形成するための成形キャビティ内に積層、充填する工程と、(c2)該成形キャビティ内に積層、充填された前記基材部形成用材料及び前記斑点部形成用材料の積層物に対して、100〜200℃の温度及び50〜200MPaの圧力にて加熱・加圧することからなる流動成形操作を実施し、該積層物を、その積層方向において圧縮すると共に、該積層物の積層方向とは直角な方向において該積層物の両側にそれぞれ流動せしめて、前記木質成形体の形状に成形する一方、該積層物を構成する該基材部形成用材料及び該斑点部形成用材料中の含浸樹脂材料を硬化又は固化させることにより、該基材部形成用材料から透光性を有する前記基材部を生成せしめ、また該斑点部形成用材料からは該基材部とは透光性が異なる前記複数の板状の斑点部を生成せしめ、更に該基材部と斑点部とを一体化せしめて、該複数の板状の斑点部が、所定厚さの該基材部内に埋没及び基材部表面に露呈されるようにする工程と、を含むことを特徴とする木質成形体の製造方法をも、また、その要旨の他の一つとするものである。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従って得られる木質成形体にあっては、樹脂材料が含浸された木質材料を流動成形することによって製造されてなるものであって、透光性を有する基材部と、かかる基材部とは透光性が異なる複数の斑点部とが一体化されて構成されていると共に、基材部が所定の厚さをもって形成されている一方、複数の斑点部が、それぞれ、そのような基材部に埋没又はその表面に露呈するようにして、一体的に分散、位置せしめられているところから、意匠面が、従来の木質成形品とは質感を異にする、例えばべっ甲調の如き意匠が容易に実現され得るものとなるのであり、それによって、木質成形体において、これまでにない新規な見栄えのある意匠を有利に実現することが出来るのである。
【0014】
また、そのような木質成形体を構成する基材部が所定の厚さをもって形成され、複数の斑点部が、それぞれ、基材部内に埋没又はその表面に露呈するように分散、配置されているところから、意匠面において立体感を有することとなり、三次元的な深みのある優れた意匠が実現されることとなるのである。しかも、それら基材部及び斑点部が、互いに色調の異なる樹脂含浸木質材料から構成されているところから、それらの間で効果的に透光性が異なるものと為され得ると共に、優れた耐傷付き性や耐水性、耐候性が得られるという利点も有するものとなるのである。
【0015】
そして、上記した本発明に従う木質成形体を得るための方法の一つによれば、平板状の基材部形成用材料の複数を、相互に重ね合わせて、積層せしめると共に、小片状の斑点部形成用材料の複数を、それぞれ、積層せしめられた基材部形成用材料の間に又はその上面若しくは下面の所定位置に分散、配置せしめて、目的とする木質成形体を形成するための成形キャビティ内に収容した状態で、流動成形操作が実施されるものであるところから、斑点部が所望の位置に有利に形成されることとなるのであり、以て、狙い通りの意匠を現出せしめることが出来るのである。
【0016】
加えて、本発明に係る木質成形体の製造方法の他の一つにあっては、基材部形成用材料と斑点部形成用材料とが、何れも、小片状とされて、それらを積層、配置するようにしているところから、製造される木質成形体の外形形状に関わらず、成形キャビティ内に、それら基材部形成用材料及び斑点部形成用材料を所定の配置において積層、充填(収容)して、流動成形操作を実施することが可能となるのであり、このため、種々の木質成形体を製造する場合においても、それらを形成するための材料を共通化することが出来、以て、製造コストの低減を図ることが可能となる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に従う木質成形体の一実施形態を示す平面説明図である。
図2図1におけるA−A断面説明図である。
図3図1に示される木質成形体を製造する際に採用される一工程例を示す断面説明図であって、基材部形成用材料と斑点部形成用材料とを、加熱プレス装置の成形用金型にセットした状態を示している。
図4図3に示される工程における基材部形成用材料と斑点部形成用材料との積層形態を分解して模式的に示す斜視説明図である。
図5図3に示される工程に続いて採用される工程例を示す断面説明図であって、成形用金型の型閉じの進行途中において、上型が基材部形成用材料の上面に当接せしめられた状態を示している。
図6図5に示される工程に続いて採用される工程例を示す断面説明図であって、成形用金型を型閉じして、加熱プレスにより基材部形成用材料及び斑点部形成用材料に対する流動成形を実施することにより、木質成形体を形成した状態を示している。
図7図1に示される木質成形体を製造する際に採用される別の一工程例を示す断面説明図であって、基材部形成用材料と斑点部形成用材料とを、加熱プレス装置の成形用金型にセットした状態を示している。
図8図7に示される工程における基材部形成用材料と斑点部形成用材料との積層形態を分解して模式的に示す斜視説明図である。
図9図7に示される工程に続いて採用される工程例を示す断面説明図であって、成形用金型の型閉じの進行途中において、上型が基材部形成用材料の上面に当接せしめられた状態を示している。
図10】本発明に従う構造を有する木質成形体の他の実施形態を示す、図2に対応する断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0019】
先ず、図1及び図2には、本発明に従う木質成形体の実施形態である自動車用内装部品の一例が、その平面形態と断面形態において、それぞれ示されている。それらの図から明らかなように、本実施形態に係る自動車用内装部品10(以下、内装部品10と略称する)は、全体として、略長手矩形状の厚肉板状形態を呈し、基材部12と複数の斑点部14とが一体化されて構成されており、その表面(図1に示されている面であって、図2における上面)が、意匠面16とされている。
【0020】
より具体的には、図2に示されるように、基材部12は、所定の厚さ、ここでは全体として内装部品10と同程度の厚さを有する湾曲厚板形態を呈しており、複数の斑点部14が、それぞれ、かかる基材部12内に埋没され、又は基材部12の表面若しくは裏面に露呈するように、一体的に分散、配置されている。換言すれば、複数の斑点部14が、それぞれ、基材部12の厚さ(板厚)方向において、意匠面16からの距離が異なるように、一体的に配置されているのである。そして、基材部12及び露呈せしめられた斑点部14の表面にて、意匠面16が、構成されている。なお、基材部12の裏面側には、複数の取付クリップ18が一体形成されている。この取付クリップ18は、可撓性を有する板状の支持部の先端部に爪部が一体形成された公知の構造を有し、自動車の所定の取付部に対して、内装部品10を、ワンタッチの操作で取り付け得るようにするためのものである。
【0021】
また、本実施形態に係る内装部品10においては、所定の樹脂材料が含浸された木質材料(後述する、基材部形成用材料及び斑点部形成用材料)を用いた流動成形が実施されることにより、基材部12と斑点部14とが所望の形状をもって一体化されている。即ち、基材部12と斑点部14を構成する各木質材料の繊維細胞の細胞壁に、樹脂材料としての熱硬化性樹脂、例えば、メラミン樹脂が、それぞれ含浸されて、硬化せしめられている。これにより、それら基材部12及び斑点部14が、透光性を有するように構成されているのである。
【0022】
そして、ここでは、基材部12と斑点部14とが、互いに色調の異なる樹脂含浸木質材料を用いて構成されている。例えば、基材部12が、比較的色の薄い(淡い)、アガチス等の木材の辺材を用いて構成されている一方、斑点部14が、比較的色の濃い、杉等の木材の心材(芯材)を用いて構成されることとなるのである。そのため、基材部12の透光性と斑点部14の透光性とが異なるものとなり、図1に示されるように、内装部品10の表面(意匠面16)側から、半透明の基材部12を介して、濃褐色の複数の斑点部14が視認されるようになっている。これによって、意匠面18が、所謂べっ甲調の意匠を呈している。
【0023】
ところで、かくの如き構造を有する内装部品10は、例えば、以下の如き方法に従って有利に製造することが出来る。
【0024】
すなわち、先ず、目的とする内装部品10の基材部12を形成するための基材部形成用材料と、斑点部14を形成するための斑点部形成用材料とが、それぞれ準備されることとなる。
【0025】
具体的には、基材部形成用材料を構成する木質材料として、アガチスの原木から切り出された、長手矩形の薄肉平板材からなる複数(ここでは、4枚)の基材部形成用板材20が、準備されるのである。そこにおいて、基材部形成用板材20は、その外形形状が、内装部品10の外形形状よりも小さくされている。なお、本実施形態において、外形形状とは、各部材を平面視で見た場合(図1参照)の、投影形状を指すものとする。
【0026】
一方、斑点部形成用材料を構成する木質材料としては、杉の原木から切り出された、矩形小片状の複数(ここでは、12片)の斑点部形成用小片22が、準備される。ここで、斑点部形成用小片22は、その外形形状が、基材部形成用板材20の外形形状よりも充分に小さくされている。また、複数の斑点部形成用小片22の外形形状は、全て一定の大きさとはされておらず、任意に、大小の差を有するものとされている。
【0027】
そして、それら準備された基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22には、所定のメラミン樹脂の含浸作業が実施され、これによって、それらの木質構造を与える各繊維細胞内やそれら繊維細胞のセルロースを主な構成成分とする細胞壁中に、メラミン樹脂が含浸せしめられるのである。ここでは、所定の圧力容器内に配設された槽内にメラミン樹脂水溶液を収容し、このメラミン樹脂水溶液中に、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22を浸漬した状態で、圧力容器内の減圧、加圧を行なうことによって、メラミン樹脂水溶液をそれら基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22中に注入する方法、所謂減圧加圧注入法により、メラミン樹脂水溶液が基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22の各繊維細胞中に含浸せしめられるようになっているのである。
【0028】
なお、そのような水槽内に収容されたメラミン樹脂水溶液を構成するメラミン樹脂の分子量は、特に限定されるものではないものの、平均分子量が2000程度以下の低分子量であることが望ましい。何故なら、メラミン樹脂の平均分子量が2000を超える場合には、分子量が大き過ぎるために、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22のそれぞれの繊維細胞への侵入が困難となって、それらへのメラミン樹脂の含浸量が少なくなり、その結果、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22へのメラミン樹脂の含浸による効果が、充分に得られなくなってしまう可能性があるからである。
【0029】
さらに、水槽内に収容されたメラミン樹脂水溶液の濃度も、何等限定されるところではないものの、好ましくは重量基準で10〜50%程度とされる。何故なら、メラミン樹脂水溶液の濃度が10%未満であると、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22へのメラミン樹脂の含浸量が少なくなって、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22へのメラミン樹脂の含浸によって奏される効果が、充分に得られなくなってしまう懸念があるからである。一方、メラミン樹脂水溶液の濃度が50%を超える場合には、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22へのメラミン樹脂の含浸量が過大となって、最終的に得られる内装部品10の重量が大きくなり過ぎてしまう恐れがあるからである。
【0030】
その後、メラミン樹脂水溶液が含浸された基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22は圧力容器内から取り出されて、大気中に放置されるか、或いはそれらに温風を吹き付ける等して、所定の乾燥操作が施される。これによって、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22の各繊維細胞中に含浸されたメラミン樹脂水溶液が、有利に各繊維細胞の細胞壁中に含浸せしめられることとなる。
【0031】
ここで、基材部形成用板材20や斑点部形成用小片22の各繊維細胞の細胞壁中にメラミン樹脂水溶液が含浸せしめられると、メラミン樹脂の分子が、水素結合により架橋した基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22の繊維細胞(セルロース)の分子鎖同士の間に吸着されて、繊維細胞間の水素結合が切断されることとなる。従って、本実施形態では、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22へのメラミン樹脂水溶液の含浸工程及び乾燥操作を実施することによって、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22の繊維細胞間の水素結合を切断する工程が、同時に行なわれるのである。
【0032】
このようにして、基材部形成用材料として、メラミン樹脂の含浸された基材部形成用板材20の複数が準備され、また斑点部形成用材料として、メラミン樹脂の含浸された斑点部形成用小片22の複数が、準備されるのである。
【0033】
次に、図3乃至図6に示されるように、加熱プレス装置24を用いて、上述のようにして準備された基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22に対して、流動成形操作が、施されることとなる。
【0034】
この流動成形操作において用いられる加熱プレス装置24は、図3乃至図6から明らかな如く、成形用金型26を有している。そして、その成形用金型26は、下型28と、この下型28に対して、その上方に所定距離を隔てて対向配置された上型30とを含んで、構成されている。
【0035】
かかる成形用金型26における下型28は、図示しない油圧シリンダ等を用いた公知の構造を有する移動装置により、上下方向に所定距離だけ移動可能とされている。また、そのような下型28には、その上面において開口する凹所32が設けられており、その内面が、内装部品10の意匠面16に対応した長手矩形形状の凹状湾曲面からなるキャビティ面34とされている。更に、下型28内におけるキャビティ面34の近傍部位には、複数のカートリッジヒータ36が埋め込まれている。それら複数のカートリッジヒータ36は、図示しないコントローラによって、加熱温度が制御されるようになっており、それら複数のカートリッジヒータ36によって、キャビティ面34が加熱されて、所定の温度に調節され得るようになっている。
【0036】
一方、上型30は、その中央部に配置された第一分割型38と、かかる第一分割型38を間に挟んで、下型28の凹所32の長さ方向(図3乃至図6における左右方向)の両側に対向配置された、第二分割型40及び第三分割型42とを含んで、構成されている。ここでは、第一分割型38が、位置固定とされており、第二分割型40及び第三分割型42が、図示しない油圧シリンダ等の移動装置を用いた公知の構造により、第一分割型38に対して接近乃至離隔移動可能とされている。そして、それら第二分割型40及び第三分割型42の第一分割型38への接近移動により、第一分割型38と第二分割型40及び第三分割型42とが、それぞれ、互いの対向面同士において当接せしめられるようになっている。なお、それら第一分割型38と第二分割型40及び第三分割型42との当接面間においては、それぞれ、基材部12(内装部品10)の裏面側に取付クリップ18を一体的に形成するための取付クリップ形成用キャビティ44、44が、下方に向かって開口して形成されている。
【0037】
ここで、第一分割型38の下面が、湾曲面からなる第一加圧面46とされると共に、第二及び第三分割型40、42の下面が、それぞれ、平坦面からなる第二加圧面48及び第三加圧面50とされており、本実施形態においては、下型28のキャビティ面34と、上型30(各分割型38、40、42)の加圧面46、48、50に囲まれた部分にて、目的とする成形体を形成するための成形キャビティ52が、形成されるようになっている。また、各分割型38、40、42内における加圧面46、48、50の近傍部位には、1つ乃至複数のカートリッジヒータ36が埋め込まれている。それらのカートリッジヒータ36は、下型28に埋め込まれたカートリッジヒータ36と同様に、図示しないコントローラによって、加熱温度が制御されるようになっており、そのようなカートリッジヒータ36にて、各加圧面46、48、50が加熱されて、所定の温度に調節され得るようになっている。
【0038】
そして、このような成形用金型26を有する加熱プレス装置24を用いて、基材部形成用板材20と斑点部形成用小片22とに対する流動成形を実施する際には、図3に示されるように、先ず、上型30と下型28とを型開きさせた状態下で、下型28の凹所32内に、複数の基材部形成用板材20と複数の斑点部形成用小片22とが、所定の分散、配置形態において積層されて、収容せしめられるのである。
【0039】
すなわち、ここでは、図4にも模式的に示されるように、複数の基材部形成用板材20が、相互に重ね合わされて、積層せしめられると共に、複数の斑点部形成用小片22が、それぞれ、積層せしめられた複数の基材部形成用板材20に対して、積層方向において隣接する基材部形成用板材20、20の間、又は最上部(図3及び図4における最上方)に位置する基材部形成用板材20の上面若しくは最下部(図3及び図4における最下方)に位置する基材部形成用板材20の下面(キャビティ面34上)の所定位置に、分散(分布)配置せしめられているのである。
【0040】
そして、そのようにして、複数の基材部形成用板材20と複数の斑点部形成用小片22とが、凹所32内に収容された状態下で、或いはそれらの収容前に、下型28のキャビティ面34、並びに上型30の第一、第二及び第三分割型38、40、42の第一、第二及び第三加圧面46、48、50が、それらの各型28、38、40、42に内蔵のカートリッジヒータ36にて、基材部形成用板材20と斑点部形成用小片22に含浸せしめられたメラミン樹脂の硬化温度にまで加熱されて、その温度に維持される。具体的には、ここでは、キャビティ面34並びに各加圧面46、48、50が150℃程度の温度にまで加熱されて、維持されるようになっている。なお、このキャビティ面34や各加圧面46、48、50の加熱温度は、含浸せしめられる樹脂材料の硬化温度や融点に影響されるものの、一般的には、100〜200℃程度とされることとなる。
【0041】
次に、図5に示されるように、第二分割型40と第三分割型42とを第一分割型38に当接させて、それらの組付体からなる上型30が形成されると共に、下型28が、上方に移動せしめられることにより、複数の基材部形成用板材20と複数の斑点部形成用小片22とが、それらの積層方向に、第一、第二及び第三加圧面46、48、50にて加圧される。
【0042】
ここで、上記の操作を実施している間に、複数の基材部形成用板材20及び複数の斑点部形成用小片22が、キャビティ面34、並びに第一、第二及び第三加圧面46、48、50の熱で加熱されることとなる。これにより、それら基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22の全体が軟化せしめられる。
【0043】
さらに、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22は、メラミン樹脂の含浸によって、それぞれの木質構造を与える繊維細胞間の水素結合が切断されてなる構造となっている。そのため、上記の如き加熱・加圧操作によって、複数の基材部形成用板材20及び複数の斑点部形成用小片22の流動が許容されるのである。即ち、ここでは、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22が加熱・加圧されたときに、繊維細胞間に剪断力が働いて、繊維細胞同士の相互位置が変化し、キャビティ面34や第一、第二及び第三加圧面46、48、50に沿うような流動が許容されると共に、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22が、それらの積層方向に押さえ付けられて、互いに密着せしめられるようになるのである。
【0044】
その後、図6に示されるように、下型28を、上型30との間に成形キャビティ52を形成する位置まで、更に上方に移動させることにより、複数の基材部形成用板材20及び複数の斑点部形成用小片22が、上型30(第一、第二及び第三分割型38、40、42)の第一、第二及び第三加圧面46、48、50と、下型28のキャビティ面34との間で、例えば100t程度の大きさで、基材部形成用板材20と斑点部形成用小片22との積層方向に加圧されることとなる。また、そのような加圧状態下で、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22が、カートリッジヒータ36にて加熱されたキャビティ面34や第一、第二及び第三加圧面46、48、50にて、加熱される。そして、そのような加熱・加圧操作により、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22に対する流動成形が、実施されることとなる。
【0045】
すなわち、メラミン樹脂が含浸されて、水素結合が予め切断された基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22に対する加熱・加圧操作を行なうことで、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22の繊維細胞間に剪断力を作用させて、繊維細胞同士の相互位置が変化せしめられるのである。これにより、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22(主として、基材部形成用板材20)が、上型30と下型28との間に形成された成形キャビティ52内で流動せしめられて、かかる成形キャビティ52内と、それに開口する取付クリップ形成用キャビティ44、44内に、それぞれ充填される。なお、このような流動成形に際しては、一般に、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22に対して、50〜200MPa程度の圧力が加えられることとなる。
【0046】
なお、ここで、上記の流動成形時においては、複数の斑点部形成用小片22が、それら自体が流動せしめられて、それぞれ、移動するようになると共に、基材部形成用板材20の流動に伴なって移動せしめられるものの、凹所32への収容当初から、大きくその位置が変わってしまうものではない。また、複数の斑点部形成用小片22は、複数の基材部形成用板材20と共に流動変形せしめられるため、それらの間の境界が曖昧な、一体化されたものとなるのである(図6において二点鎖線で示す)。更に、かかる斑点部形成用小片22の外形形状が、それぞれ、流動変形によって不規則に変形せしめられることにより、べっ甲等の自然物に見られる斑点部と近似した、自然な外形形状を呈するものとなり(図1参照)、以て新規な意匠効果が発揮されるようになるのである。
【0047】
そして、そのような成形キャビティ52内と取付クリップ成形用キャビティ44、44内への基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22の充填下で、加圧力が維持されることにより、基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22に対して、所定の圧縮力が加えられる。そして、そのようにして圧縮された基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22が、第一、第二及び第三加圧面46、48、50やキャビティ面34により、メラミン樹脂の硬化温度にまで加熱される。なお、上型30と下型28とによる基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22の加圧時間は、例えば、5分程度とされる。
【0048】
かくして、複数の基材部形成用板材20及び複数の斑点部形成用小片22が、成形キャビティ52に対応した形状に賦形(成形)されると共に、それらの形態が固定されて、基材部12及び斑点部14が形成されることとなる。そして、そのような基材部12及び斑点部14のキャビティ面34との接触面が意匠面16とされる。また、それと同時に、基材部12の裏面側に取付クリップ18、18が一体形成され、更に、成形キャビティ52内の基材部12と斑点部14とが、かかる斑点部14を所定の位置において基材部12に埋没又はその表面若しくは裏面に露呈させた状態で一体化されて、それらの一体化物が得られる。なお、基材部12と斑点部14の一体化は、基材部12(基材部形成用板材20)中のメラミン樹脂と斑点部14(斑点部形成用小片22)中のメラミン樹脂とが互いに固着すること等によって、実現されるものと考えられている。
【0049】
その後、上型30と下型28とが型開きされて、基材部12と斑点部14との一体化物が離型され、以て、図1に示される如き構造を有する内装部品10が得られるのである。
【0050】
以上の説明から明らかなように、本実施形態の内装部品10においては、透光性を有する基材部12と、かかる基材部12とは透光性が異なる複数の斑点部14とが一体化されて、構成されていると共に、基材部12が所定の厚さをもって形成され、更に複数の斑点部14が、それぞれ、そのような基材部12に埋没又はその表面若しくは裏面に露呈するようにして、一体的に分散、配置されているところから、意匠面16が、従来の木質成形品とは質感を異にする、所謂べっ甲調の意匠を呈することとなり、これまでにない新規な見栄えのある意匠が有利に実現されることとなるのである。しかも、それら基材部12及び斑点部14が、樹脂含浸木質材料の流動成形にて形成されているところから、所望の透光性が有利に実現されているのである。
【0051】
また、そのような内装部品10を構成する基材部12が所定の厚さをもって形成されると共に、複数の斑点部14が、それぞれ、基材部12に埋没又はその表面若しくは裏面に露呈するように分散、配置されているところから、換言すれば、それら複数の斑点部14の内装部品10の表面(意匠面16)からの距離が、それぞれ異なるものとされているところから、内装部品10の意匠面16において、立体感(奥行感)を有する、三次元的な深みのある優れた意匠が実現され得ているのである。
【0052】
そして、本実施形態に係る製造手法によれば、平板状の基材部形成用板材20の複数を相互に重ね合わせて、積層せしめると共に、小片状の斑点部形成用小片22の複数を、それぞれ、積層せしめられた基材部形成用板材20の間に又は上面若しくは下面の所定位置に分散乃至は分布配置せしめて、成形キャビティ52内に収容した状態で、かかる基材部形成用板材20及び斑点部形成用小片22に対して流動成形操作が実施されるのであるが、その際、斑点部形成用小片22が流動成形に伴なって移動せしめられるものの、その位置が、成形キャビティ52(凹所32)への収容当初から大きく変わるものではないところから、斑点部14が有利に所望の位置に形成されることとなり、狙い通りの意匠(外観)を現出せしめることが出来る利点がある。
【0053】
また、斑点部14が、基材部12と共に流動成形操作が実施されることにより一体的に形成されているところから、それらの間の境界部分が曖昧となり、内装部品10の意匠面16において不自然な筋等が生じることが、有利に回避されるようになる。しかも、斑点部14の外形形状が、流動変形により、べっ甲等の自然物における斑点と近似した自然な外形形状とされることからも、より自然で優れた意匠を得ることが可能となるのである。加えて、斑点部14が、複数の小片状の斑点部形成用小片22によって形成されるものであるところから、そのような複数の斑点部形成用小片22の大きさに差をつけることにより、画一的でない斑点部14が得られ、これによって、より一層自然な意匠を得ることが出来るという利点も得られるのである。
【0054】
なお、ここでは、基材部12と斑点部14とが、互いに、アガチスと杉という色調の異なる木質材料を用いた樹脂含浸木質材料から構成されているところから、それらが有利に透光性を有するものとなると共に、基材部12と斑点部14とを、有利に透光性が異なるものとすることが出来ることとなる。また、基材部12と斑点部14が、それぞれの繊維細胞中に含浸させたメラミン樹脂を硬化せしめることによって形成されているため、透明樹脂からなるカバー層を何等形成しなくとも、優れた耐傷付き性と耐水性と耐候性とが有利に発揮され得るのであり、更に内部への水の浸透によって、形状が崩壊するようなことも、有利に防止され得る特徴も有することとなる。加えて、使用される樹脂(メラミン樹脂)を可及的に少量に抑え得ることが出来るところから、資源・環境問題を悪化させることもない特徴も有しているのである。
【0055】
ところで、図1に示される如き構造を有する内装部品10は、上記の方法とは異なる他の方法によっても、製造することが可能であり、以下に、そのような内装部品10の他の製造方法について、図7乃至図9に基づいて詳述することとする。
【0056】
すなわち、先ず、基材部形成用材料を構成する木質材料として、ここでは、アガチスの原木から切り出された、矩形小片形状を呈する基材部形成用小片54の複数が、準備される。なお、それら複数の基材部形成用小片54は、それぞれ、一定の大きさの外形形状を有している。一方、斑点部形成用材料を構成する木質材料としては、前記した実施形態と同様にして、複数の斑点部形成用小片22が、準備される。
【0057】
次いで、それら準備された基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22の各繊維細胞やその細胞壁中に、メラミン樹脂水溶液が含浸させられる。この含浸工程は、前記した製造方法において実施される工程と同様な工程に従って、実施される。即ち、圧力容器に設置される水槽内のメラミン樹脂水溶液中に、基材部形成用小片54や斑点部形成用小片22を浸漬した後、圧力容器内を減圧する操作と加圧する操作とが交互に実施されるのである。なお、減圧時と加圧時の圧力容器内の圧力は、前記した実施形態における含浸工程の場合と同様とする。
【0058】
そして、かかる含浸操作の終了の後、樹脂材料が含浸された基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22が圧力容器内から取り出されて、乾燥されることで、基材部形成用材料として、樹脂材料の含浸された基材部形成用小片54の複数が得られ、また斑点部形成用材料として、樹脂材料の含浸された斑点部形成用小片22の複数が、得られることとなる。
【0059】
続いて、このようにして得られた基材部形成用小片54と斑点部形成用小片22とが、前記した製造方法において用いられた加熱プレス装置24を用いて、圧縮流動成形されて、目的とする内装部品10の成形が行なわれる。
【0060】
なお、それら基材部形成用小片54と斑点部形成用小片22に対する流動成形の実施に際しては、図7に示されるように、先ず、上型30と下型28とを型開きさせた状態下で、下型28の凹所32内に、それぞれ複数の基材部形成用小片54と斑点部形成用小片22とが、所定の分散配置で充填されるようにして、収容される。
【0061】
すなわち、図8に模式的に示される如く、複数の斑点部形成用小片22が、それぞれ、所定位置において、分布配置せしめられると共に、その隙間を埋めるようにして、複数の基材部形成用小片54が、同一平面上(図8において二点鎖線で示す)に並べられたり、相互に重ね合わされたりして、収容(充填)せしめられるのである。また、それら複数の基材部形成用小片54及び複数の斑点部形成用小片22の積層(重ね合わせ)方向において、最上部(図7及び図8における最上方)に位置する基材部形成用小片54の上面には、一つの斑点部形成用小片22が載置されており、更に、最下部(図7及び図8における最下方)に位置する基材部形成用小片54と同一平面上(キャビティ面34上)には、他の一つの斑点部形成用小片22が配置されている。
【0062】
そして、このようにして、凹所32内に収容された複数の基材部形成用小片54と斑点部形成用小片22とに対して、前記した実施形態と同様にして、上型30(第一、第二及び第三分割型38、40、42)の第一、第二及び第三加圧面46、48、50と下型28のキャビティ面34との間で、加熱・加圧操作が実施されるのである。
【0063】
ここで、図9に示されるように、第二分割型40と第三分割型42とを第一分割型38に当接させて、それらの組付体からなる上型30が形成されると共に、下型28が上方に移動せしめられることにより、複数の基材部形成用小片54と複数の斑点部形成用小片22とに対する加熱・加圧操作が開始されて、それら基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22が流動せしめられるようにされる。即ち、ここでは、基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22が、積層方向と直角な方向において流動せしめられることにより、かかる方向において密着させられると共に、それら基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22が、積層方向に押さえ付けられて、密着せしめられるようになるのである。
【0064】
その後、図6と同様にして、基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22に対する流動成形操作が、実施されることとなる。
【0065】
なお、本実施形態にあっては、基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22に対する流動成形時において、複数の基材部形成用小片54及び複数の斑点部形成用小片22の成形キャビティ52(凹所32)への収容状態下で、それら基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22の間に隙間があるところから、前記した実施形態に比べて、斑点部形成用小片22の移動量が大きくなるようになるが、それでも、凹所32の収容時から、大きくその位置が変わってしまうものではない。
【0066】
かくして、基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22が、成形キャビティ52に対応した形状に賦形(成形)されると共に、その形態が固定されて、基材部12及び斑点部14が形成されることとなる。そして、その後、上型30と下型28とが型開きされて、基材部12と斑点部14との一体化物が離型され、以て、図1に示される如き構造を有する内装部品10が得られるのである。
【0067】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る製造手法にあっても、前記した優れた特徴を有する内装部品10を、前記実施形態に係る手法と同様に有利に製造することが出来る利点を有している。
【0068】
特に、本実施形態に係る手法にあっては、基材部形成用材料(基材部形成用小片54)と斑点部形成用材料(基材部形成用小片22)とが、何れも、小片状とされているところから、製造される内装部品10(木質成形体)の外形形状に関わらず、成形キャビティ52(凹所32)内に、それら基材部形成用材料及び斑点部形成用材料を所定の配置において分散、充填(収容)して、流動成形操作を実施することが可能となる。そのため、種々の木質成形体を製造する場合において、それらを形成するための材料を共通化することが出来、以て、製造コストの低減を図ることが可能となるのである。また、そのような小片状の材料として、各種の木質材料の端材を利用することが出来るという利点も有している。
【0069】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、上記した記載によって、何等の制約をも受けるものではないことが理解されるべきである。
【0070】
例えば、前述の実施形態においては、何れも、斑点部14が内装部品10の板厚方向において重なり合うことなく形成されているが、図10に示されるように、斑点部14の幾つかが、内装部品56の板厚方向に重なり合うようにして形成されていても、何等差支えない。これによって、内装部品56の意匠面16において、斑点部14に濃淡(色調)の差がある部分が形成されることとなり、より優れた外観(意匠)を得ることが可能となる。
【0071】
また、斑点部14を形成するための斑点部形成材料(斑点部形成用小片22)の形状についても、矩形形状に何等限られるものではなく、所望の斑点部14を得るために、例えば、円形、楕円形、又は多角形等の形状が、適宜に採用され得る。
【0072】
なお、前記した実施形態の二つの手法について、それらの手法を併用することも可能である。例えば、積層方向における最上部及び最下部の基材部形成用材料として基材部形成用板材20、20を用い、それらの間に、複数の基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22を重ね合わせて、挟むようにしてもよい。こうすることで、木質材料の端材を基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22として有効に利用すると共に、その上下が基材部形成用板材20、20で覆われていることにより、流動成形操作の実施時における材料のハンドリング性を向上させることが出来る。
【0073】
さらに、前記した、基材部形成用小片54及び斑点部形成用小片22を用いる実施形態手法について、成形キャビティ52内を真空引きをしながら流動成形操作を実施するようにしてもよい。これにより、基材部形成用小片54や斑点部形成用小片22の間に存在する隙間に起因する空気の噛み込みを有利に阻止することが可能となって、気泡の発生等による意匠性の低下を効果的に阻止することが出来る。
【0074】
また、基材部形成用材料(20、54)及び斑点部形成用材料(22)を構成する木質材質としては、特に限定されるものではなく、要求特性に応じて公知のものを適宜選択することが出来る。なお、前記した実施形態のように、基材部形成用材料(20、54)を構成する木質材料と斑点部形成用材料(22)を構成する木質材質との間で、色調の異なる樹種を用いることの他、樹木の外辺部位に形成される辺材と呼ばれる比較的色の薄い材料と、樹木の中心部位に形成される心材(芯材)と呼ばれる比較的色の濃い材料とを、効果的に使い分けること等により、それらの材料の間で色調の差異を実現することも可能である。
【0075】
さらに、所望の透光性や外観を得るために、基材部形成用材料(20、54)及び斑点部形成用材料(22)を構成する木質材料を漂白処理する等してもよい。例えば、透光性を高くしたい方の材料(前記した実施形態においては基材部形成用材料)に対して漂白操作を実施し、材料の色を薄くすることで、形成される部位(前記した実施形態においては基材部12)の透光性を有利に高めることが出来る。かかる漂白操作は、公知の各種の手法によって実施され、例えば、過酸化水素や亜塩素酸塩系の酸化漂白剤等を用いて、材料を浸漬したり、材料にそのような漂白剤を塗布、噴霧等することにより実施される。また、所望の透光性や外観を得るために、基材部形成用材料(20、54)や斑点部形成用材料(22)を着色処理することも可能である。
【0076】
なお、前記した実施形態においては、何れも、斑点部形成用材料(22)を構成する木質材料(杉)が、基材部形成用材料(20、54)を構成する木質材料(アガチス)よりも色の濃いものとされ、斑点部14の透光性が、基材部12の透光性よりも低いものとされているが、これとは逆に、斑点部14の透光性が、基材部12の透光性よりも高いものとされていてもよい。この場合は、例えば、意匠面16において、濃褐色で半透明の基材部12と、それより色の薄い斑点部14とが視認されるようになり、ここでも、優れた外観が実現されることとなる。
【0077】
そして、各木質材料に含浸させられる樹脂材料としては、例示したメラミン樹脂の他、フェノール樹脂やユリア樹脂等の公知の樹脂材料を用いることが出来る。ここで、本発明においては、各木質材料の色調を生かすため、例えば、色の薄い、メラミン樹脂が有利に用いられることとなる。なお、より個性的な意匠を得るために、あえて各木質材料に含浸させる樹脂材料として有色の樹脂材料を用いたり、樹脂材料に染料、顔料等を加えて着色を行なってもよい。
【0078】
さらに、前記した実施形態においては、何れも、基材部形成用材料(20、54)と斑点部形成用材料(22)の各繊維細胞やその細胞壁中に、同じ種類の熱硬化性樹脂たるメラミン樹脂を含浸させているが、それら基材部形成用材料(20、54)に含浸せしめる樹脂材料と斑点部形成用材料(22)に含浸させる樹脂材料の種類を互いに異なるものとしても、何等差支えない。なお、含浸させる樹脂材料が同じである場合や、メラミン樹脂とユリア樹脂のように化学的に混合乃至結合し得る組み合わせである場合には、基材部12と斑点部14との接合性を有利に向上せしめることが出来るという利点がある。
【0079】
また、基材部形成用材料(20、54)と斑点部形成用材料(22)に含浸する樹脂材料として、熱可塑性樹脂である、熱可塑性アクリル樹脂(例えば、アクリル酸メチルやメタクリル酸メチル等のアクリルモノマーの重合体)等を用いることも可能である。但し、その場合、基材部形成用材料(20、54)と斑点部形成用材料(22)に対する熱可塑性樹脂の含浸工程を実施する前に、例えば、基材部形成用材料(20、54)と斑点部形成用材料(22)の各繊維細胞を構成するセルロースを公知のアセチル化処理する等して、繊維細胞間の水素結合を切断する操作を行なうことが望ましい。
【0080】
なお、各木質材料に樹脂材料を含浸させる際には、従来から公知の手法が適宜に採用され得る。例えば、木質材料を樹脂水溶液に浸漬又は木質材料に樹脂水溶液を塗布して、木質材料に樹脂材料を含浸させる方法や、樹脂水溶液をスポンジロールコーターやナチュラルリバースコーター、フローコーター等を使用して、木質材料に塗布する方法等が、採用され得る。
【0081】
更にまた、基材部形成用材料や斑点部形成用材料としては、木材を原料とするもの以外に、竹を原料とするものも使用可能である。
【0082】
加えて、本発明は、自動車用内装部品以外の木質成形体とその製造方法の何れに対しても、有利に適用されるものであることは、勿論である。
【0083】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものである。また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0084】
10、56 自動車用内装部品 12 基材部
14 斑点部 16 意匠面
20 基材部形成用板材 22 斑点部形成用小片
24 加熱プレス装置 26 成形用金型
52 成形キャビティ 54 基材部形成用小片
図1
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図10