(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ハブ部および前記ハブ部の外周面から放射状に形成されたデザイン部を備えたディスク部と、前記ディスク部が一方端に内設された略円環形状のリム本体部と前記リム本体部の一方端に配置された第1のフランジ部と他方端に配置された第2のフランジ部とを備えたリム部とを有するアルミニウム合金製ロードホイールを、前記ディスク部が底面となる金型を用いて低圧鋳造法により一体的に形成するアルミニウム合金製ロードホイールの製造方法であって、
前記金型によって形成される前記ディスク部を形成するキャビティのうち、前記ハブ部を形成するキャビティに開口した第1の開口部、および前記金型によって形成される前記リム部を形成するキャビティのうち、前記リム本体部を形成するキャビティに開口するとともに前記第1の開口部よりも上方に複数個配置された第2の開口部を通じ、前記ディスク部および前記リム部を形成するキャビティにアルミニウム合金溶湯を充填する注湯工程と、
前記ディスク部を形成するキャビティのうち、前記デザイン部を形成するキャビティに充填された前記アルミニウム合金溶湯の冷却速度が2℃/秒以上であり、かつ、当該冷却速度は、前記第2の開口部近傍の前記アルミニウム合金溶湯の冷却速度の1.5倍以上となるように、充填された前記アルミニウム合金溶湯を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程後に配置された、溶体化処理工程および人工時効処理工程を備え、
前記アルミニウム合金溶湯は、Siを9.0〜11.8質量%、Mgを0.20〜0.45質量%、Fe、Cu、Mn、ZnおよびTiの総量を0.1〜1.5質量%、残部Alならびに不可避不純物を含み、
前記冷却速度は、前記冷却工程における溶湯の温度と時間との相関を示す線図において、580℃における接線の傾きであるアルミニウム合金製ロードホイールの製造方法。
前記冷却工程において、前記デザイン部を形成するキャビティに充填された前記アルミニウム合金溶湯の前記冷却速度が、2〜30℃/秒である請求項1に記載のアルミニウム合金製ロードホイールの製造方法。
前記溶体化処理工程は、前記アルミニウム合金の共晶温度をT1としたときに(T1−2)〜(T1−37)℃の範囲に設定された第1の温度域で前記冷却工程後のロードホイール中間体を加熱処理する第1の加熱処理工程と、前記第1の加熱処理工程後、前記第1の温度域の温度をT2としたときに、(T2−5)〜(T2−40)℃の範囲に設定された第2の温度域で前記ロードホイール中間体を加熱処理する第2の加熱処理工程と、前記第2の加熱処理工程後、前記ロードホイール中間体を急冷して焼入れする焼入れ工程を有する請求項1又は2のいずれかに記載のアルミニウム合金製ロードホイールの製造方法。
前記冷却手段は、前記デザイン部を形成するキャビティに充填された前記アルミニウム合金溶湯の冷却を制御する第1管路と、前記ディスク部および前記リム部を形成するキャビティに充填された前記アルミニウム合金溶湯の冷却を制御する冷却用空間と、前記冷却用空間に冷却水を流通する第2管路とを備え、
前記冷却工程は、冷却水を前記第1管路に流通することにより、前記デザイン部を形成するキャビティに充填された前記アルミニウム合金溶湯の冷却を制御するとともに、冷却水を前記第2管路を介して前記冷却用空間に流通することにより、前記ディスク部および前記リム部の少なくともいずれかを形成するキャビティに充填された前記アルミニウム合金溶湯の冷却を制御して凝固する工程である請求項5に記載のアルミニウム合金製ロードホイールの製造方法。
前記デザイン部を形成するキャビティは、半径方向において前記ハブ部を形成するキャビティと前記リム本体部を形成するキャビティとの間に配置された中間部を有し、前記冷却工程は、前記デザイン部を形成するキャビティにおいて当該キャビティの中間部から前記リム本体部を形成するキャビティ前までに充填された前記アルミニウム合金溶湯を、前記中間部から前記リム本体部を形成するキャビティへ半径方向に指向性凝固する工程を含み、かつ、その指向性凝固する工程における冷却速度が、3〜30℃/秒である請求項6に記載のアルミニウム合金製ロードホイールの製造方法。
前記注湯工程の前に、前記アルミニウム合金溶湯を清浄化する清浄工程を有し、前記清浄工程を経た後のアルミニウム合金溶湯に含まれる水素量がアルミニウム合金溶湯100g当たり0.2cc以下であり、前記冷却工程後に得られたロードホイール中間体の破断面に存在する介在物が0.005個/mm2以下である請求項1乃至7のいずれかに記載のアルミニウム合金製ロードホイールの製造方法。
ハブ部および前記ハブ部の外周面から放射状に形成されたデザイン部を備えたディスク部と、前記ディスク部が一方端に内設された略円環形状のリム本体部と前記リム本体部の一方端に配置された第1のフランジ部と他方端に配置された第2のフランジ部とを備えたリム部とを有するアルミニウム合金製ロードホイールであって、
Siを9.0〜11.8質量%、Mgを0.20〜0.45質量%、Fe、Cu、Mn、ZnおよびTiの総量を0.1〜1.5質量%、残部Alならびに不可避不純物を含み、
前記デザイン部のα‐Alの2次枝法で測定したデンドライト2次アームスペーシングは、前記ロードホイールの回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部において、10μm〜30μmであり、
前記デザイン部のデンドライト2次アームスペーシングの平均値が、前記リム本体部の回転軸方向と平行な断面の肉厚中心部におけるα‐Alのデンドライト2次アームスペーシングの平均値よりも、10%以上小さく、
前記デザイン部の前記肉厚中心部の密度の平均値をD1、前記リム本体部の前記肉厚中心部の密度の平均値をD2としたとき、D1/D2が0.9990以上であるアルミニウム合金製ロードホイール。
前記デザイン部における長軸長が250μm以上500μm未満である針状α‐Alの単位面積当たりの個数が、前記リム本体部の回転軸方向と平行な断面の肉厚中心部における、長軸長が250μm以上500μm未満である針状α‐Alの単位面積当たりの個数の、90%以下である請求項11に記載のアルミニウム合金製ロードホイール。
前記デザイン部の断面における長軸長が250μm以上である針状α‐Alは、前記ロードホイールの回転軸と平行な直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合が5〜30%であり、かつ前記ロードホイールの回転軸と直行する直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合が5〜30%である、請求項10乃至12のいずれかに記載のアルミニウム合金製ロードホイール。
前記ロードホイールの回転軸と平行な直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合と、前記ロードホイールの回転軸と直行する直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合との差の絶対値が20%以下である、請求項13に記載のアルミニウム合金製ロードホイール。
前記デザイン部の前記肉厚中心部の共晶Siの平均円相当径が2.00〜2.55μmであり、前記リム本体部の前記肉厚中心部の共晶Siの平均円相当径が前記デザイン部の共晶Siの平均円相当径よりも大きくかつ2.10〜2.65μmである請求項15に記載のアルミニウム合金製ロードホイール。
前記リム本体部を支持する前記デザイン部の複数の支持部の円周方向に平行な断面の肉厚中心部におけるα‐Alの前記デンドライト2次アームスペーシングの各々の最大値の差が、13μm以下である請求項9乃至17のいずれかに記載のアルミニウム合金製ロードホイール。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明者らは、共晶組成に近い領域までケイ素(Si)の含有量を高めた合金組成、具体的にはSiを9.0〜11.8質量%、Mgを0.20〜0.45質量%、Fe、Cu、Mn、ZnおよびTiをこれらの総量が0.1〜1.5質量%、残部Alならびに不可避不純物を含む合金組成により、アルミホイール全体としての剛性とデザイン部における変形能が両立したアルミホイールを形成するためには、アルミホイールの各部を低圧鋳造法で一体的に形成するにあたり、リム本体部とデザイン部との組織、例えばデンドライト状組織である初晶α‐Al、共晶Al‐Si、微小鋳巣その他両部を構成する組織要素の形態・分布状態などを造り分けることが有効であることを知見した。そして、そのような組織の造り分けのためには、マルチゲート方式の低圧鋳造法によりリム本体部およびデザイン部を形成する各々のキャビティに流入時期・流量などを制御しつつ溶湯を充填するとともに、両キャビティに充填された溶湯の冷却速度を相違せしめることが効果的であることを知見し、本発明を想到したものである。以下、本発明について、その実施形態に基づき
図1〜18を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は、以下説明する実施形態および実施例に限定されず、また、発明の作用効果を奏する限り、同一性の範囲内において適宜変形して実施することができる。
【0033】
[アルミホイールの構造]
まず、本発明に係るアルミホイールの構造の一例について
図1〜3を参照し説明する。
図1はアルミホイールの回転軸方向に沿う断面図、
図2は
図1のアルミホイールを下方から眺めた底面図、
図3は
図2のB−B断面図である。なお、
図1は、
図2のA−A断面図であり、中心線Iよりも左側はデザイン部1gを含まない断面、右側はデザイン部1gを含む断面となっている。
【0034】
本発明に係るアルミニウム合金製ロードホイールは、Siを9.0〜11.8質量%、Mgを0.20〜0.45質量%、Fe、Cu、Mn、ZnおよびTiの各元素を総量で0.1〜1.5質量%、残部Alならびに不可避不純物を含む。アルミホイール1は、
図1および2に示すように、ハブ部1fおよびハブ部1fの外周面から放射状に形成されたデザイン部1gを備えたディスク部1eを有しており、また、ディスク部1eが下方(一方)端に内設された略円環形状のリム本体部1bと、リム本体部1bの下方端に配置された第1のフランジ部(いわゆるアウターフランジ)1cと、上方(他方)端に配置された第2のフランジ部(いわゆるインナーフランジ)1dを備えたリム部1aを有している。各部は、つなぎ目なく一体的に形成されている。なお、リム本体部1bと、ディスク部1eとの連結部、つまりリム本体部1bの下方(一方)部の領域を、以下「連結部」1nと言う場合がある。また、ハブ部1fの中央に形成された回転軸方向の貫通孔1hは車軸が挿入される貫通孔であり、半径方向においてハブ部1fの外周部に等ピッチで複数個形成された孔部1iは車軸にアルミホイール1を固定するためボルト等が挿通される孔部である。
【0035】
図1および2に示すアルミホイール1は、窓部1mを介して円周方向に複数本配置されたスポークがハブ部1fより延設されてリム部1aと結合する、スポークを主体として意匠されたスポーク型のデザイン部1gを有するアルミホイールであるが、デザイン部の意匠としては、これに限定されない。スポーク型以外に、例えばスポーク型よりもハブ部がかなり広い範囲で緩やかな面が形成され、リム部とは短めのスポークで連結されているデザイン部中心が略円盤形状のディッシュ型、スポーク型に属するがスポーク数が比較的多くかつ細い点が特徴であるフィン型、スポーク数が多くかつ細く伸びているが、スポークがハブ部とリム部の間で網目のようにメッシュ状となるメッシュ型など、各種意匠のデザイン部が存在する。なお、
図2のデザイン部1gを構成するスポークの回転軸方向と平行な断面の形状は、
図3に示すように、下方底部が凹状に鋳抜かれた鋳抜部が形成され、天井部1jと両側部1kおよび1Lを有する略コの字形状をなしているが、断面形状はこれに限定されず、円周方向および半径方向で部位により肉厚の異なる略V字形状、略U字形状であってもよく、また鋳抜部のない形状であってもよい。
【0036】
上記構造のアルミホイール1には、その第1のフランジ部1cと第2のフランジ部1dの各々の内面に接しつつこれらの間に挟まれるようにリム本体部1bにタイヤが取り付けられ、ディスク部1eが外側に向いた姿勢で車軸に装着される。つまり、リム本体部1は弾性のあるタイヤを介しているので外部から衝撃が負荷された場合でも変形や破損がし難く、定常時の変形量を支配する剛性を主体として設計することが可能である。一方で、外側に向いた姿勢で取り付けられ外部環境に対して露出しているディスク部1e、特に意匠性のために窓部1mなどの空間が形成されるデザイン部1gは、外部から衝撃が負荷された際に破損しやすい。このため、本発明に係るアルミホイール1は、以下説明する製造方法により製造し、リム本体部1bとデザイン部1gとの組織を造り分け、特にデザイン部1gの変形能(伸び特性)を高めている。
【0037】
[アルミホイールの製造方法]
以下、上記アルミホイール1を製造する本発明に係る製造方法の具体的態様について、
図4〜12を参照しつつ説明する。ここで、
図4は
図1のアルミホイールの製造工程のフロー図、
図5は
図1のアルミホイールの製造装置の一部を示す概略構成図、
図6は
図5のC−C断面図であり、
図5は
図6のD−D断面図となっている。また、
図7は
図4の注湯工程における溶湯の充填状況を説明する図、
図8は
図5の金型のキャビティに充填された溶湯の凝固状態を説明する図、
図9は
図4の注湯工程〜冷却工程における各キャビティに充填された溶湯の温度と時間との相関示す線図、
図10は
図4の溶体化処理工程〜時効処理工程における温度と時間との相関を示す線図、
図11は
図10とは異なる溶体化処理工程〜時効処理工程における温度と時間との相関を示す線図である。
図12は、キャビティおよび開口部に充填されたアルミニウム合金溶湯の形状を示す斜視断面図である。なお、
図7および8では、理解のため第2の開口部19aを仮想的に破線で示している。
【0038】
本発明に係るアルミホイールの製造方法は、
図4に示すように、注湯工程の前段で行われる溶解工程(S1)、溶解工程(S1)の後に好ましくは行われる清浄工程(S2)、注湯工程(S3)、冷却工程(S4)、溶体化処理工程(S5)、時効処理工程(S6)および時効処理工程の後段で任意に行われる加工、塗装、検査などの後処理工程(S7)を含んでいる。以下、各工程について、上記の順に説明する。
【0039】
<溶解工程>
図4に示すように、まず、Al、SiおよびMgその他各種元素が所望の組成となるよう調整された原料を、好ましくは非酸化雰囲気中において概ね720〜1100℃の温度範囲となるよう調整した溶解炉で溶解して溶湯を形成する溶解工程(S1)を行う。なお、本発明では上記各元素の組成を特定しているが、その理由は下記のとおりである。
【0040】
本発明のアルミホイール中のSiの組成は、9.0〜11.8質量%(以下、組成の項で記載する%は、いずれも質量%のことを指す。)である。この範囲であれば、他の組成物との相乗効果により、剛性と強度の両立をはかることができる。Siが9.0%未満であると、所望の剛性を有するアルミホイールを得ることができない。一方で、Siが11.8%を超えると、アルミホイールの強度が低下し、所望の伸び特性を得ることができないおそれがある。剛性の観点からSiの下限は10.5%であると好ましく、伸びの観点から上限は11.5%であると好ましい。
【0041】
Mgの組成は、0.20〜0.45%である。Mgは析出強化元素であり、アルミニウム合金組織の強度を確保する上で、適量のMgを含有することが重要である。この範囲であれば、他の組成物との相乗効果により、耐変形性(0.2%耐力)と変形能(伸び)の両立をはかることができる。Mgが0.20%未満であると、アルミホイールを構成する基地相が軟らか過ぎて十分な耐変形性(0.2%耐力)が得られない。Mgが0.45%を超えると、アルミホイールを構成する基地相が固くなり過ぎ、所望の変形能(伸び)を得ることができないおそれがある。耐変形性(0.2%耐力)の観点からMgの下限は0.25%であると好ましく、変形能(伸び)の観点から上限は0.35%であると好ましい。
【0042】
上記SiおよびMg以外の主要な元素であるFe、Cu、Mn、ZnおよびTiの組成は、これらの総量が0.1〜1.5%である。総量がこの範囲であれば、他の組成物との相乗効果を期待することができ、剛性と強度の両立をはかることができる。この総量が0.1%未満とするためには非常に高純度な原料を使用する必要があり、得られるアルミホイールが工業生産上高コストとなる。一方で、1.5%を超えると、所望の剛性およびデザイン部の変形能を有するアルミホイールを得ることができない。なお、使用中における錆の発生を抑制する点からCuは0.03%以下であることが好ましい。また、Tiは、0.05〜0.15%であると好ましい。Tiは、アルミホイールを構成する結晶粒を微細化させるからである。
【0043】
<清浄工程>
上記溶解工程で形成された溶湯をそのまま注湯工程(S3)に使用してもよいが、一端保持炉に移し、溶湯中に含まれる水素ガスおよび酸化物(いわゆるノロ、スラグ)などアルミホイールの欠陥の原因となる不純物を除去し清浄化する清浄工程(S2)を注湯工程(S3)の前に行うことが好ましい。
【0044】
この溶湯中の不純物を除去する清浄化は、例えば、カーボンまたはセラミックスなど溶湯との反応性の低い材料で構成されたガス吹込み用回転体を用い、窒素やアルゴンガスなどの不活性ガスを溶湯中でバブリングさせることにより行われる。具体的には、下端にガス分断用のロータを有するガス吹込み用回転体を溶湯に浸漬して回転させつつ不活性ガスを供給すると、ロータの回転により不活性ガスが分断され気泡化し、ロータの周囲から細かい気泡が溶湯中に分散した状態で噴出する。そして、溶湯中に供給された気泡は、溶湯の表面に達するまでに溶湯中における水素ガスや酸化物などの不純物を捕捉し除去する。なお、酸化物を効率的に除去するためには、フラックスを溶湯に添加してもよい。そして、この清浄工程を経た後の溶湯に含まれる水素ガスの量が溶湯100g当たり0.2cc以下であり、下記する冷却工程後の成形体であるロードホイール中間体の破断面に存在する介在物が0.005個/mm
2以下であることが望ましい。冷却工程後のロードホイール中間体の破断面に存在する介在物の個数は、ロードホイール中間体から試験片を採取し、試験片の任意の破断面に存在する単位面積当たりの介在物の数を数えることにより算出する。介在物の測定方法の詳細は、実験例の項で詳細に説明する。
【0045】
<注湯工程>
上記溶解工程(S1)、好ましくは清浄工程(S2)の後、
図4に示すように、金型のキャビティに溶湯を充填する注湯工程(S3)を行う。注湯工程では、
図7に示すように、ディスク部1eが底面となる金型を用い、金型においてハブ部1fを形成するキャビティ(以下、ハブ部用キャビティと言う場合がある。金型を構成する他のキャビティについても同様。)10fに開口した第1の開口部(センターゲート)13aおよびリム部用キャビティ10aに開口するとともに第1の開口部13aよりも上方に複数個配置された第2の開口部(サイドゲート)19aを通じ、ディスク部1eおよびハブ部1fを形成するキャビティ10eおよび10aに溶湯Mを充填する。その詳細を、
図5〜7を参照して説明する。
【0046】
図5および6に示すように、本発明に係る製造方法で使用される製造装置10は、マルチゲート方式を適用した低圧鋳造法でアルミホイールを製造する設備である。具体的には、製造装置10は、溶湯を収納した保持炉が配置された密閉容器(いずれも不図示)の上に、密閉容器を密閉するように固定された平板状の下型ベース11と下型ベース11の上面に配置された下型入子13とを備えた下型、下型入子13の上方に相対するように配置された上型入子14と上型入子14の上方に配置された平板上の上型ベース12とを備えた上型、および半径方向において上型入子14および下型入子13を包囲するように配置された横型19とを有している。ここで、上型は不図示の昇降装置に、横型19は不図示の横行装置に、各々可動型として昇降または横行可能なように取り付けられており、図示する注湯時および不図示の製品取り出しの際に、固定型である下型に対して所望の位置に位置決め可能なように構成されている。この下型、上型、および横型19は金型であり、上型入子14の外周面、横型19の内周面および下型入子14の上面の形状は、製造すべきアルミホイール1の形状に応じた形状であり、図示する注湯時において位置決めされた3者の組合せにより溶湯が注湯される金型のキャビティ10a、10eが画成される。
【0047】
下型ベース11には、金型のキャビティ10a、10eへ溶湯を供給する供給管路15、16が形成されており、供給管路15、16の各々の下端部は、保持炉内に収納された溶湯に浸漬されている。ここで、保持炉が配置された密閉容器には管路を通じ加圧された非酸化性ガスなどの気体が供給されるよう構成されており、この加圧された気体により保持炉に収納された溶湯が押され、下端部が溶湯に浸漬された供給管路15、16の中を上昇する。
【0048】
下型ベース11の中央に配置された供給管路16の上端は、下型入子13に形成された第1の開口部(センターゲート)13aに連通している。この第1の開口部13aは、
図7に示すように、ハブ部用キャビティ10fに開口しており、もって上記加圧により供給管路16を上昇する溶湯は第1の開口部13aに流入し、次いでハブ部用キャビティ10fに充填される。一方で、供給管路16を挟み下型ベース11の両側に2本形成された供給管路15の上端は、
図6に示すように、半径方向において相対するよう横型19に設けられた一対の第2の開口部(サイドゲート)19aに連通している。この第2の開口部19aは、
図5に示すように、リム部用キャビティ10aに開口しており、もって上記加圧により供給管路15を上昇する溶湯は第2の開口部19aに流入し、次いでリム部用キャビティ10aに充填される。
【0049】
ここで、横型19に形成された第2の開口部(サイドゲート)19aは、下型入子13に形成された第1の開口部(センターゲート)13aよりも上方に形成されている。このため、加圧により保持炉から供給された溶湯Mは、
図7(a)に示すように、まず第1の開口部13aを通じてハブ部用キャビティ10fに流入し、その後、デザイン部用キャビティ10gを満たしつつリム部用キャビティ10aの中を湯面が上昇する。そして、供給の継続により引き続き上昇する溶湯Mの湯面が第2の開口部19aの高さを超えると、
図7(b)に示すように、溶湯Mは、第2の開口部19aからリム部用キャビティ10aに流入し、当該キャビティ10aに充填される。
【0050】
なお、
図5および6において符号14aおよび14bは、本発明に係る製造装置10が好ましい構成要素として有している、上型入子14の内部に配置された、リム本体部用キャビティ10bに対応した領域に形成された冷却用空間である。当該冷却用空間14aおよび14bには管路(第2の管路)18を通じて冷却水が流通され、金型を介して冷却することにより、主としてリム本体部用キャビティ10bおよびデザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯Mの冷却速度を制御する。また、ディスク部用キャビティ10eおよびリム部用キャビティ10aに充填された溶湯Mの冷却速度を個別に制御することも可能である。ここで、
図6に示すように、本態様の上型入子14は、半径方向と平行な断面において冷却水が流通される冷却用空間14aおよび14bを合計で4個(複数)有している。なお、
図6では、各冷却用空間14aおよび14bは等角度で配置されているが、必要な位置に設けておけば良い。そして、管路18を通じ各々の冷却用空間14aおよび14bに供給される冷却水の流速や流量は各々独立して制御可能なように構成されている。具体的には、第2の開口部19aに対向するように配置された2個の冷却用空間14aと他の2個の冷却用空間14bとを流通する冷却水の流速や流量は異なる条件となるよう各々独立して制御可能に構成されている。
【0051】
図5および6において符号17も、製造装置10が好ましい構成要素として有している、下型入子13の内部に配置された冷却用の管路(第1の管路)である。この管路17は、ディスク部用キャビティ10e、特にデザイン部用キャビティ10gに対応した領域に形成されている。そして、この管路17にも冷却水が流通され、主としてデザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯Mの冷却速度を制御する。なお、金型のキャビティに充填された溶湯の冷却速度を制御する構成は上記に限定されず、上型入子14、横型19または下型入子13のいずれかに、例えばキャビティに沿い部分的に断熱部材を配置したり、断熱用の空間を形成したり、または加熱手段を配置してもよい。
【0052】
<冷却工程>
上記注湯工程に引き続き、
図4に示すように、金型のキャビティに充填された溶湯を冷却する冷却工程(S4)を行う。冷却工程では、各キャビティに充填された溶湯の温度変化を示す線図である
図9に示すように、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度(実線)が、リム本体部用キャビティに充填された溶湯の第2の開口部近傍の冷却速度(2点鎖線)よりも1.5倍以上早くかつ2℃/秒以上となるよう、充填された溶湯を冷却することにより、両キャビティに充填された溶湯の冷却速度を制御する。ここで、上記溶湯の冷却速度とは、
図9に示すように、冷却工程における溶湯の温度を縦軸yとし、冷却時間を横軸xとして、溶湯の温度と時間との相関を示す線図において、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の温度と時間との相関を示す線図(実線)、およびリム本体部用キャビティに充填された溶湯の第2の開口部近傍の時間との相関を示す線図(二点鎖線)の各々の、液相線と固相線(共晶温度)の間に挟まれた温度である580℃における接線(L1、L2)の傾き(℃/秒)のことを指す。接線L1は、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の温度変化を示す温度曲線を基に算出することができる。また、接線L2は、リム本体部用キャビティに充填された溶湯の温度変化を示す温度曲線を基に算出することができる。ここで、溶湯温度として580℃に着目したのは、この温度は、上記説明した合金組成における液相線と固相線(共晶温度)に挟まれた中間の温度であり、冷却速度が急変する過冷却域を含まないからである。また、冷却工程は、上記注湯工程による金型のキャビティへの溶湯の充填と同時またはその直後に行われる工程であり、冷却工程と注湯工程とは一体不可分の関係にある。以下、冷却工程について、
図7〜9を参照して説明する。
【0053】
図9は、
図7に示すハブ部1f、デザイン部1gおよびリム本体部1bを各々形成する金型のキャビティ10f、10gおよび10bに溶湯Mが注湯され、充填され、冷却工程を経たロードホイール中間体が取り出しされる温度である400℃付近まで冷却されるまでの、溶湯Mの温度と時間との相関を示す線図である。ここで、
図9において、破線がハブ部、実線がデザイン部、二点鎖線がリム本体部を形成する金型のキャビティに充填された溶湯の各々の温度変化を示す線図となっている。なお、上記各キャビティに充填された溶湯の温度変化は、具体的には、所望のキャビティに充填される溶湯に触れ直接測定できるように、または金型の中で配置され間接的に測定できるように、金型に設けられた熱電対により確認することができる。
【0054】
ここで、
図7を参照して説明したように、溶解炉から供給された溶湯Mは、まず第1の開口部(センターゲート)を通じてハブ部用キャビティ10fに流入し、次いで半径方向においてハブ部用キャビティ10fから外方に向かい流動してデザイン部1g、連結部1nおよび第1のフランジ部(アウターフランジ)1cの各々を形成する金型のキャビティ10g、10nおよび10cへ流入していく(
図7(a)参照)。その後に継続される溶湯Mの供給により上昇した湯面が第2の開口部(サイドゲート)19aに達すると、
図7(b)に示すように、リム本体部用キャビティ10bの回転軸方向において中央に第2の開口部19aから溶湯Mが当該キャビティ10bに流入する。ここで、上記したように連結部用キャビティ10nには既に溶湯Mが供給されており、第2の開口部19aから供給された溶湯Mは連結部用キャビティ10n領域に存在する溶湯Mと合流する。そして、引続く溶湯Mの供給により更に湯面が上昇し、溶湯Mは、回転軸方向において上方(他方)端にある第2のフランジ部(インナーフランジ)用キャビティ10dまで充填される。
【0055】
上記のように、本発明に係る製造方法では、回転軸方向において異なる高さに配置した第1の開口部13aおよび第2の開口部19aを通じて溶湯Mを供給するので、アルミホイールの各部を形成する金型の各キャビティ10f、10g、10b等への溶湯Mの流入時期が相違する。このため、各キャビティに流入した溶湯の温度変化である
図9において、ハブ部、デザイン部、リム本体部の各部に対応した線図が注湯温度まで立ち上がる時期で示されるように、ハブ部、デザイン部、リム本体部の順序で各キャビティへの溶湯の流入時期がずれることとなる。これにより、本発明に係る製造方法では、ディスク部用キャビティ10eに充填された溶湯M、リム部用キャビティ10aに充填された溶湯Mの各々について、適確な方向性で凝固が進行する指向性凝固が達成される。
【0056】
すなわち、第1の開口部13aを通じ、ディスク部用キャビティ10eに充填された溶湯Mは、
図8において矢印EおよびFで示すように、半径方向において、デザイン部用キャビティ10fから、第1の開口部13aが存在するハブ部用キャビティ10fおよび第2の開口部19aが存在する連結部用キャビティ10nへ向かう指向性を持ちながら凝固する。また、リム部用キャビティ10aに充填された溶湯Mは、矢印GおよびHで示すように、回転軸方向において、第1のフランジ部用キャビティ10cおよび第2のフランジ部用キャビティ10d各々から、第2の開口部19aが存在するリム本体部用キャビティ10bの中央部へ向かう指向性を持ちながら凝固する。つまり、溶湯の流入時期および指向性凝固を考慮すると、溶湯の凝固は、デザイン部用キャビティに充填された溶湯が最初に凝固し、次いで第1または第2のフランジ部用キャビティ、次いでハブ部用キャビティ、またはリム本体部用キャビティ(連結部用キャビティ含む)という順序で進んでいく。そして、この凝固の態様により、引け巣や介在物などの欠陥を最終凝固部となる第1の開口部13aおよび第2の開口部19aに偏在せしめ、製品となる部分に存在する欠陥が抑制され高い機械的強度を有するアルミホイールを得ることができるとともに、下記で説明するように各キャビティに充填された溶湯の冷却速度を適切に制御することで全体が適切な剛性を有し、かつ特に衝撃的な負荷に対する変形能に優れたデザイン部を有するアルミホイールを形成することができる。
【0057】
本発明に係る製造方法の一つの特徴は、デザイン部用キャビティおよびリム本体部用キャビティの各々に充填された溶湯の冷却速度を、好ましくは上記説明した各々冷却水を流通させる上型入子14内に形成した冷却用空間14aまたは下型入子13に形成した管路17などで適切に制御することにより(
図5参照)、
図9に示すデザイン部用キャビティに充填された溶湯の上記定義した冷却速度L1が、リム本体部用キャビティに充填された溶湯の第2の開口部近傍の冷却速度L2よりも1.5倍以上早くかつ2℃/秒以上となるよう設定した点である。このように、デザイン部用キャビティおよびリム本体部用キャビティの各々に充填された溶湯の冷却速度L1およびL2の比(L1/L2)を制御することにより、上記のような順序で指向性凝固をしたアルミホイールは各部が所望の剛性(ヤング率)を有するとともに、衝撃的な負荷に対する変形能に優れた、伸びが5%以上のデザイン部を有するアルミホイールを得ることができる。なお、アルミホイールへ作用する負荷に対する変形能と併せ、負荷が作用した場合に塑性変形による永久歪が生じ難い耐変形性も走行安定性や快適性の面では重要である。このためには、リム本体部を含めアルミホイール全体として150MPa程度の0.2%耐力は必要であり、特に外部環境に露出したデザイン部の0.2%耐力は160MPa以上であることが好ましい。本発明に係る製造方法によれば、伸び(変形能)に優れるとともに所望の0.2%耐力を有し耐変形性も優れたアルミホイールを得ることができる。ここで、「0.2%耐力」とは、JIS−Z2241で定められたオフセット法により算出された、永久伸びが0.2%に相当する場合の耐力(α
0.2)である。
【0058】
デザイン部用キャビティとリム本体部用キャビティとの冷却速度の比L1/L2が1.5倍未満でかつデザイン部用キャビティに充填され溶湯の冷却速度L1が2℃/秒未満の場合には、所望の剛性を有し、衝撃的な負荷に対する変形能(伸び)および耐変形性(0.2%耐力)に優れたデザイン部を有するアルミホイールを得ることができない。その原因は明らかではないが、両部の冷却速度の比L1/L2が小さいと凝固するデザイン部へのリム本体部キャビティからの溶湯の補給が阻害され、デザイン部の冷却速度が低いとデザイン部の組織が粗大化するためと推定される。なお、両部の冷却速度の比L1/L2の上限は特に限定されないが、リム本体部においても1%程度の伸びと150MPa程度の0.2%耐力は必要であり、デザイン部キャビティに充填された溶湯の冷却速度が特に下限域にある場合には、その伸びおよび耐力の確保のために15倍以下であることが好ましい。さらに、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度L1の上限も特に限定されないが、冷却速度L1が30℃/秒を超えても、デザイン部の変形能(伸び特性)は改善されず、かえって不廻りなどの表面欠陥が発生する可能性もあり、さらに30℃/秒を超える冷却速度の実現は製造装置を複雑化し、アルミホイールの高コスト化を招く。したがって、デザイン部用キャビティに充填され溶湯の冷却速度L1は30℃/秒以下であることが望ましい。これら冷却工程における具体的な条件およびその効果については、下記する実験例で詳細に説明する。
【0059】
図12に示すように、上記冷却工程は、デザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯Mを、ハブ部用キャビティ10fとリム本体部用キャビティ10bとの間であって、デザイン部用キャビティ10gの中間部から、リム部本体部用キャビティ10bへ半径方向に指向性凝固する工程を含み、かつ、当該指向性凝固する工程における溶湯の冷却速度が、3〜30℃/秒となる条件で冷却する工程であることが好ましい。その理由について、
図12を参照しつつ説明する。なお、冷却工程における溶湯の凝固過程を概念的に示す
図12は、
図8においてキャビティ10aおよび10e並びに第1の開口部13aおよび第2の開口部19aに充填された溶湯Mの形状のみを示す斜視断面図であり、理解のために上型や下型などの製造装置の各構成要素の図示は省略している。また、
図12において符号R1〜R11およびQ1〜Q7で示す2点鎖線は、溶湯Mが凝固する際の固相線の分布を等高線的に示している。具体的には、各線R1〜R11およびQ1〜Q7は、キャビティ10aおよび10eへの溶湯Mの充填完了後、冷却工程においてほぼ同一時期に溶湯Mが固相線に至った点を各々結んだ線となっている。
【0060】
上記したように第1の開口部13aおよび第2の開口部19aを通じてリム部用キャビティ10aとディスク部用キャビティ10eに各々充填された溶湯Mは、以下説明するような形態で凝固が進行する。まず、リム部用キャビティ10aに充填された溶湯Mの凝固形態について説明する。リム用キャビティ10aに充填された溶湯Mの凝固の指向性に主として影響するのは、当該キャビティ10aに連なる第2の開口部19aに充填された押湯としても機能する溶湯Mの存在である。つまり、リム用キャビティ10aに充填された溶湯Mの凝固は、この第2の開口部19aから離れた位置から開始する。本実施形態の場合には、円周方向においては一対の第2の開口部19aの中間部であって、回転軸方向においては上方に配置された第2のフランジ部用キャビティ10dの点Q、および下方に配置された第1のフランジ部用キャビティ10cの点Rから溶湯Mの凝固は開始する。点Qは、例えば、前記キャビティ10dの外端部であって、一対の第2の開口部19aのいずれからも等しい距離に位置することができる。また、点Rは、例えば、前記キャビティ10cの外端部であって、一対の第2の開口部19aのいずれからも等しい距離に位置することができる。そして、上方の点Qから凝固が開始した溶湯Mは、矢印P1〜P3で示すように線R1から線R8に向かい、第2のフランジ部用キャビティ10dから第2の開口部19aへと下方へ指向しつつ徐々に凝固する。また、下方の点Rから凝固が開始した溶湯Mは、矢印P4およびP5で示すように線R9から線R11に向かい、第1のフランジ部用キャビティ10cから第2の開口部19aへと上方へ指向しつつ徐々に凝固する。このような溶湯Mの凝固の部位ごとの時間差、つまり凝固の指向性により、リム部用キャビティ10aに充填された溶湯Mが凝固して形成されたリム部1aの組織は、その部位により差を有することとなる。
【0061】
ディスク部用キャビティ1eに充填された溶湯Mは、半径方向においてハブ部用キャビティ10fとリム本体部用キャビティ10bとの間、つまりデザイン部用キャビティ10gの中間部から開始する。そして、デザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯Mのうち、リム本体部用キャビティ10bの側の範囲10oに充填された溶湯Mは、矢印P6で示すように線Q1を起点として線Q5から線Q7に向かい、デザイン部用キャビティ10gの中間部からリム本体部用キャビティ10bへと半径方向において外方へ指向しつつ凝固する。一方で、デザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯Mのうち、ハブ部用キャビティ10fの側の範囲10pに充填された溶湯Mは、矢印P7で示すように線Q1を起点として線Q2から線Q4に向かい、デザイン部用キャビティ10gの中間部からハブ部用キャビティ10fへと内方へ指向しつつ凝固する。このような矢印P6、P7で示す2つの指向性を有するデザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯Mの凝固のうち、後者の内方への指向性を有する凝固(矢印P7)は、その範囲10pにおいて、中心線Iの周りに線Q1〜Q4がほぼ同心円状となり大略等方的である。もって、この凝固の指向性が内方となる範囲10pに充填された溶湯Mが凝固して形成された、ハブ部1fを支持するデザイン部1gの支持部1pにおける組織の円周方向の位置による差異は小さい。
【0062】
これに対し、デザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯Mのうち、リム本体部用キャビティ10bの側の範囲10oに充填された溶湯Mにおける外方への指向性を有する矢印P6で示す凝固は、リム部用キャビティ10aに充填された溶湯Mと同様に、第2の開口部19aに充填された溶湯Mの影響を受ける。すなわち、当該範囲10oにおける線Q5〜Q7は、中心線Iの周りに同心円状とならず、円周方向において第2の開口部19aに近いデザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯Mに対して、第2の開口部19aから離れた位置のデザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯Mの凝固はより早く進み、溶湯の冷却速度が速くなる傾向となる。もって、この凝固の指向性が外方となる範囲10oに充填された溶湯Mが凝固して形成された、リム本体部1bを支持するデザイン部1gの支持部1oにおける組織は、第2の開口部19aからの距離に応じて変化するため、その円周方向の位置による差異が大きくなる可能性がある。このように円周方向の位置により当該支持部1pの組織が異なる場合には、衝撃的な負荷が作用した場合に、耐変形性および変形能の低い部分からデザイン部が破損するおそれがある。
【0063】
しかしながら、本実施形態の製造方法では、
図5および6を参照して上記説明したように、管路18を通じて冷却水が流通される冷却用空間14aおよび14bを有し、金型を介して冷却することにより、主としてリム本体部用キャビティ10bおよびデザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯Mの冷却速度を制御している。そして、
図6に示すように、本態様の上型入子14は、第2の開口部19aの近傍のデザイン部用キャビティ10gを含むように対向するように配置された2個の冷却用空間14aと、第2の開口部19aから離れたデザイン部用キャビティ10gを含むように配置された他の2個の冷却用空間14bを有している。管路18を通じ冷却用空間14aおよび14bに供給される冷却水の流速や流量は、各デザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯が適宜な冷却速度で凝固するよう各々独立して制御される。このようにデザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯の冷却能を円周方向の位置に応じ相違せしめるよう制御することにより、デザイン部用キャビティ10gに充填された溶湯を、ハブ部用キャビティ10fとリム本体部用キャビティ10bとの間であって、デザイン部用キャビティ10gの中間部から、リム部本体部用キャビティ10bへ半径方向に指向性凝固することが可能であり、溶湯の当該指向性凝固する工程における溶湯の冷却速度が、3〜30℃/秒となる条件で冷却することができる。なお、冷却用空間14aおよび14bの形状や配置は上記に限定されず、例えばデザイン部1gの形状および配置に応じ適宜な形状の冷却用空間を配置すればよい。
【0064】
そして、上記のように溶湯Mの冷却速度を制御することにより、前記リム本体部1bを支持するデザイン部1gの複数の支持部1oの円周方向に平行な断面の肉厚中心部におけるα‐Alの2次枝法で測定したデンドライト2次アームスペーシングの各々の最大値の差が13μm以下であるホイールを得ることができる。肉厚は、
図1および
図3において符号U1〜U4で示す寸法のことを指す。具体的には、肉厚を求めたい部位の表面の点に引いた接線への垂線がアルミホイールと交わる長さのことである。そして、肉厚中心部は、この肉厚の中心を基準とし、肉厚の50%(つまり両側に25%づつ)の範囲のことを指す。
【0065】
<溶体化処理工程、人工時効処理工程>
図4に示すように、上記冷却工程に引き続き、冷却工程で得られたロードホイール中間体の溶体化処理工程(S5)および人工時効処理工程(S6)を行う。本発明に係る製造方法は、両処理をいずれも行うこと、すなわちT6熱処理を必須とするものであるが、以下の(1)、(2)を好ましい特徴としている。
(1)前記アルミニウム合金の共晶温度をT1としたときに(T1−2)〜(T1−37)℃の範囲に設定された第1の温度域で前記冷却工程後のロードホイール中間体を加熱処理する第1の加熱処理工程と、前記第1の加熱処理工程後、前記第1の温度域の温度をT2としたときに、(T2−5)〜(T2−40)℃の範囲に設定された第2の温度域で前記ロードホイール中間体を加熱処理する第2の加熱処理工程と、前記第2の加熱処理工程後、前記ロードホイール中間体を急冷して焼入れする焼入れ工程を有する点。
(2)100〜200℃の温度域で0.5〜10時間加熱処理する第1の時効処理工程と、第1の時効処理工程後、当該第1の時効処理工程の前記温度域より低い温度域で加熱処理する第2の時効処理工程を有する点。
【0066】
以下、溶体化処理工程および人工時効処理工程について、各々の加熱炉における温度の制御プロファイル(以下、温度プロファイルと言う場合がある。)を纏めて表示した
図10および11を参照しつつ詳細に説明する。
【0067】
まず、溶体化処理工程について説明する。本発明に係る溶体化処理工程は、その冷却域(焼入処理)においてロードホイール中間体に生じる熱変形に起因した半径方向の歪を抑制する点に特に効果があり、
図10に示すように、アルミニウム合金の共晶温度をT1としたとき(T1−2)〜(T1−37)℃の範囲t1に設定された温度域で処理する第1の温度域を有している。なお、
図10では、第1の温度域の温度は一定の温度で所定の時間保持する温度プロファイルとなっているが、第1の温度域は、上記温度範囲t1の範囲でロードホイール中間体を加熱処理すればよく、波形形状、階段形状または傾斜形状の温度プロファイルで加熱処理しても構わない。
【0068】
上記第1の温度域の後に引き続き、第1の温度域の温度をT2としたとき(T2−5)〜(T2−40)℃の範囲t2に設定された温度域(第2の温度域)となるように加熱処理する。なお、上記したように温度プロファイルが波形形状、階段形状または傾斜形状であり、第1の温度域に入るように加熱した時のロードホイール中間体の温度が一定では無い場合には、第1の温度域における温度の平均値を第1の温度域の温度T2とすればよい。なお、溶体化処理工程の加熱時間は、上記第1の温度域および第2の温度域を合計して0.5〜10時間が好ましい。
【0069】
ここで、第2の温度域の温度プロファイルは、上記のように第1の温度域の温度T2よりも設定された値だけ低い温度が少なくとも第2の温度域の終盤、つまり冷却域の前におけるロードホイール中間体の温度が上記温度範囲t2の範囲に入っていればよく、その温度プロファイルは特に限定されない。すなわち、
図10中において破線で示すように、第1の温度域から所定の温度t2だけ階段状に温度を降下せしめ、そのまま一定の温度で所定の時間保持する温度パターンとしてもよい。しかしながら、デザイン部の伸びをより効果的に向上させる点からは、
図10において実線で示すように、第2の温度域の温度は、第1の温度域の設定温度から第2の温度域の設定温度へ徐々に低下するよう漸減する温度プロファイルであることが望ましい。なお、
図10の溶体化処理工程の変形例の温度プロファイルである
図11に示すように、第2の温度域の温度は、第1の温度域の設定温度から第2の温度域の設定温度へ徐々に低下し、設定温度に到達した後、その温度に一定に保持する温度プロファイルとしてもよい。また、このように漸減する温度プロファイルを第2の温度域に設定した場合には、0.1〜2.2℃/分程度の割合で温度を低下させることが好ましい。
【0070】
上記第2の温度域の後に引き続き、
図10に示すように、第2の温度域で所定の温度に加熱処理されたロードホイール中間体を冷却媒体である例えば水などに浸漬して急冷し、焼入れする(冷却域)。なお、溶体化処理の目的であるMg等の元素の非平衡状態での組織への固溶および冷却域における歪を抑制する点から、冷却域の冷却速度は5〜100℃/秒であることが望ましい。ここで、冷却域における冷却速度とは、冷却域の直前における加熱されたロードホイール中間体の温度をT3、当該温度T3から冷却されてロードホイール中間体の温度が400℃に至るまでの時間をSとしたとき、(T3−400)/Sの数式にて算出される値のことを指す。
【0071】
次に、人工時効処理工程について説明する。本発明に係る人工時効処理は、形成されたアルミホイールの伸び特性を改善し、特にデザイン部の変形能をより高めることができる点に効果が有り、
図10に示すように、100〜200℃で0.5〜10時間処理する第1の温度域と、第1の温度域の後に第1の温度域より低い温度で加熱処理する第2の温度域とを有している。なお、
図10の人工時効処理工程の変形例の温度プロファイルである
図11に示すように、第2の温度域の温度プロファイルは、その一部に第1の温度域の温度よりも高い温度で加熱処理する領域を含んでいてもよく、その一部が第1の温度域よりも低い温度で加熱処理されればよいが、得られるアルミホイールの伸び特性の改善という点からは第1の温度域よりも全体が低い温度で加熱処理することが望ましい。さらに、第2の温度域の温度は50〜180℃、処理時間は0.3〜6時間であることが望ましい。
【0072】
<後工程>
上記人工時効処理工程の後、
図4に示すように、加工、メッキ、塗装、洗浄または検査など必要に応じた後工程を適宜行い、製品であるアルミホイールを得ることができる。
【0073】
次に、本発明に係るアルミホイールの具体的態様について、説明する。アルミホイールは、ハブ部および前記ハブ部の外周面から放射状に形成されたデザイン部を備えたディスク部と、前記ディスク部が一方端に内設された略円環形状のリム本体部と前記リム本体部の一方端に配置された第1のフランジ部と他方端に配置された第2のフランジ部とを備えたリム部とを有する。その組成は、Siを9.0〜11.8質量%、Mgを0.20〜0.45質量%、Fe、Cu、Mn、ZnおよびTiの総量を0.1〜1.5質量%、残部Alならびに不可避不純物を含むものである。
【0074】
そして、デザイン部のα‐Alの2次枝法で測定したデンドライト2次アームスペーシングは、ロードホイールの回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部において、10μm〜30μmである。本発明では、アルミホイールの組織の微細さの目安として、デンドライト2次アームスペーシング(DASII)を用いる。本発明の凝固形態によれば、肉厚中心部の組織が粗くなる傾向にあることから、肉厚中心部における組織の微細さを判断する。アルミホイールの密度、平均円相当径、および平均円形度についても、同様の理由により肉厚中心部を基準としている。デザイン部の肉厚中心部において、デンドライト2次アームスペーシングが10μm〜30μmの範囲にある微細な組織であれば、衝撃的な負荷に対するデザイン部の変形能に優れることとなる。デンドライト2次アームスペーシングが10μmよりも小さい場合には、組織を微細化するため冷却速度を過剰に早くする必要があり、その結果、不廻りやキラワレなどの表面欠陥が発生しやすくなるという不具合が生じる。一方で、デンドライト2次アームスペーシングが30μmよりも大きい場合には、組織が粗いために十分な変形能を満足することができない。なお、上記α‐Alの評価は、アルミホイールのリム本体部およびデザイン部から採取した試験片の組織観察を行い、リム本体部およびデザイン部のα‐Alについて、複数個の2次アームの間隔を、その間隔中に含まれる2次アームの数で除するという2次枝法を用いて確認することができる。
【0075】
本発明に係るアルミホイールにおいて、前記デザイン部のデンドライト2次アームスペーシングの平均値が、リム本体部の回転軸方向と平行な断面の肉厚中心部におけるα‐Alのデンドライト2次アームスペーシングの平均値よりも、10%以上小さいことが好ましい。デザイン部とリム本体部の組織の微細さを変え、デザイン部の組織がより微細であることにより、デザイン部における変形能を満足すると共に、アルミホイール全体として十分な剛性を確保することが出来るからである。デザイン部におけるデンドライト2次アームスペーシングの平均値は、肉厚中心部の任意の複数個所における測定値を平均した値であり、リム本体部の平均値も同様である。デザイン部の上記平均値がリム本体部の上記平均値よりも10%以上小さいことにより、デザイン部における変形能を満足すると共に、アルミホイール全体として十分な剛性を確保することが出来る。デザイン部の上記平均値がリム本体部の上記平均値の10%未満である場合には、デザイン部とリム本体部の組織の微細さが変わらないため、デザイン部の変形能を満足させることや、アルミホイール全体としての剛性を十分に確保することが困難となる。
【0076】
本発明に係るアルミホイールにおいて、長軸長が500μm以上である針状α‐Alの個数が、前記デザイン部の断面において、5個/mm
2以下であることが好ましい。針状α‐Alは、デンドライト状組織である初晶α‐Alのうち、主に1次アームがデンドライト主軸として長く成長して針状となったものである。また、2次アームが著しく長く成長して針状となったものも、針状α‐Alに該当する。長軸は、針状α‐Alの長く成長した1次アームおよび2次アームを指す。長軸長は、これらの1次アームおよび2次アームの長さである。デザイン部は車軸やタイヤから伝わる衝撃を緩和する役割を果たす部分であり、十分な変形能を満足することが好ましい。長軸長が500μm以上である針状α‐Alが多く存在すると、アルミホイールが衝撃を受けた際にデザイン部やリム本体部が破損するおそれがある。長軸長が500μm以上である針状α‐Alの個数が、デザイン部の断面において5個/mm
2以下であれば、十分な変形能を満足することができる。
【0077】
ここで、長軸長が250μm以上であり、かつ500μm未満である針状α‐Alの個数が、前記デザイン部の断面において、1〜15個/mm
2であることが好ましい。このような針状α‐Alが多く存在すると、アルミホイールが衝撃を受けた際にデザイン部やリム本体部が破損するおそれがあるからである。針状α‐Alの上記個数は、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度を上げることで減らすことができるところ、針状α‐Alの個数が1個/mm
2未満のアルミホイールを製造する冷却速度条件では、表面欠陥が生じやすくなるため、好ましくない。デザイン部の断面において、1〜15個/mm
2であれば、十分な変形能を満足することができる。
【0078】
さらに、前記デザイン部における長軸長が250μm以上500μm未満である針状α‐Alの単位面積当たりの個数が、前記リム本体部の回転軸方向と平行な断面の肉厚中心部における、長軸長が250μm以上500μm未満である針状α‐Alの単位面積当たりの個数の、90%以下であることが好ましい。リム本体部と比べてデザイン部の方が、このような針状α‐Alが少ないことにより、車軸やタイヤから伝わる衝撃を緩和することのできる変形能を満足することができる。
【0079】
また、前記デザイン部の断面における長軸長が250μm以上である針状α‐Alは、前記ロードホイールの回転軸と平行な直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合が5〜30%であり、かつ前記ロードホイールの回転軸と直行する直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合が5〜30%であることが好ましい。この条件は、長軸長が250μm以上である針状α‐Alの長軸が、ランダムな方向にどの程度成長しているかを定義したものである。ここで、ロードホイールの回転軸と平行な直線は、例えば
図1で説明すると、アルミホイール9の回転軸となる中心線Iと平行な直線である。このような直線のうち、針状α‐Alの長軸と交わる直線は、当該長軸と挟角を形成する。また、ロードホイールの回転軸と直行する直線は、アルミホイール9の回転軸となる中心線Iと垂直に交わる直線である。このような直線のうち、針状α‐Alの長軸と交わる直線は、当該長軸と挟角を形成する。これらの挟角が15°以内である針状α‐Alの割合が5〜30%である条件を満たすデザイン部であれば、長軸長が250μm以上である針状α‐Alの長軸方向が、配向性を持たずにランダムであることから、変形能を十分に満足することができる。
【0080】
さらに、前記ロードホイールの回転軸と平行な直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合と、前記ロードホイールの回転軸と直行する直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合との差の絶対値が、20%以下であることが好ましい。この条件は、長軸長が250μm以上である針状α‐Alの長軸が、配向性を持たずによりランダムな方向にどの程度成長しているかを定義したものである。α‐Alの結晶の成長に配向性がなく、α‐Alの長軸がランダムな方向に成長したアルミホイールであれば、デザイン部においてあらゆる方向から伝わる衝撃にも耐えることのできる変形能を満足することができる。特に、長軸長が250μm以上である針状α‐Alの長軸方向に配向性があると、耐衝撃性能に影響するため、このような針状α‐Alの長軸方向が、上記絶対値が20%以下であるように、ランダムであることが好ましい。
【0081】
本発明に係るアルミニウム合金製ロードホイールにおいて、前記デザイン部の前記肉厚中心部の密度の平均値をD1、前記リム本体部の前記肉厚中心部の密度の平均値をD2としたとき、D1/D2が0.9990以上であることが好ましい。デザイン部の伸び特性を改善し、その変形能を高めることができるからである。D1/D2が0.9990未満の場合には、下記で詳述するようにマイクロシュリンケージ(微小引け巣)を多く含んでおりデザイン部の伸びや耐力が低下しているおそれがある。また、D1/D2の上限値が、1.0011であることが好ましい。D1/D2の値が大きすぎる場合には、同様にマイクロシュリンケージを起因としてリム本体部の耐力が低下しているおそれがあり、アルミホイール全体として十分な剛性を確保することが困難となる場合がある。D1/D2の上限値が1.0011であれば、デザイン部における変形能を満足すると共に、アルミホイール全体として十分な剛性を確保することが出来る。なお、デザイン部における密度の平均値は、肉厚中心部の任意の複数個所における測定値を平均した値であり、リム本体部の平均値も同様である。また、密度は、アルキメデス法で確認することができる。
【0082】
本発明に係るアルミニウム合金製ロードホイールにおいて、前記デザイン部の前記肉厚中心部の共晶Siの平均円相当径が2.00〜2.55μmであり、前記リム本体部の前記肉厚中心部の共晶Siの平均円相当径が前記デザイン部の共晶Siの平均円相当径よりも大きくかつ2.10〜2.65μmであることが好ましい。肉厚中心部の共晶Siの平均円相当径が2.00〜2.55μmであるデザイン部は、変形能を十分に満足することができる。また、リム本体部の肉厚中心部の共晶Siの平均円相当径が、デザイン部の共晶Siの平均円相当径よりも大きく、かつ2.10〜2.65μmであることにより、アルミホイール全体として十分な剛性を確保することが出来る。これらの条件から外れてしまうと、デザイン部の変形能が不十分である場合や、アルミホイール全体として十分な剛性を確保することが困難となる場合がある。円相当径は、不規則形状の粒子の投影像を円に相当させて定義した粒子径であり、投影面積円相当径(ヘイウッド径)である。本発明では、複数の不規則形状の共晶Si粒子の円相当径を測定し、その平均値を平均円相当径としている。
【0083】
本発明に係るアルミニウム合金製ロードホイールにおいて、前記デザイン部の共晶Siの平均円形度が0.79〜0.86であり、前記リム本体部の共晶Siの平均円形度が0.79〜0.87であることが好ましい。デザイン部の変形能を満足し、アルミホイール全体として十分な剛性を確保することができるからである。これらの条件から外れてしまうと、デザイン部の変形能が不十分である場合や、アルミホイール全体として十分な剛性を確保することが困難となる場合がある。円形度は、円形度=((4×π×(投影面積)/(粒子の周長)
2によってあらわすことができる。本発明では、複数の共晶Si粒子の円形度を測定し、その平均値を平均円形度としている。
【0084】
本発明に係るアルミニウム合金製ロードホイールにおいて、前記リム本体部を支持する前記デザイン部の複数の支持部の円周方向に平行な断面の肉厚中心部におけるα‐Alの前記デンドライト2次アームスペーシングの各々の最大値の差が、13μm以下であることが好ましい。上記条件から外れてしまうと、鋳造時に蓄積された応力により熱処理後に大きな歪が発生する場合がある。
【0085】
本発明に係るアルミニウム合金製ロードホイールにおいて、前記デザイン部の耐力が160MPa以上であり、かつ、前記デザイン部の伸びが5%以上であることが好ましい。これらの条件を満たすことにより、デザイン部における変形能を満足すると共に、アルミホイール全体として十分な剛性を確保することが出来る結果、アルミホイールを軽量化することができるからである。上記条件から外れてしまうと、デザイン部の変形能が不十分である場合や、アルミホイール全体として十分な剛性を確保することが困難となる場合がある。
【0086】
[実験例]
以下、本発明について、その具体的な実験例に基づき説明する。なお、本発明は、以下で述べる実験例のみに限定されない。また、各実験例ともに、同一の条件で複数個のアルミホイールを形成し、下記する溶湯の冷却速度、アルミホイール中間体の介在物数、製造したアルミホイールの機械的特性などを求めた。
【0087】
<組成>
各実験例におけるSi、Mgその他元素の構成を、表1に示す。以下の各実験例における組成A〜Gの元素割合は、下記のとおりである(いずれも質量%)。なお、組成FおよびGは、本発明の範囲外の組成となる。また、共晶温度は、組成AからGのいずれも557℃であった。
[組成A] Si:9.1%、Mg:0.22%、Fe:0.12%、Cu:0.02%、Mn:0.02%、Zn:0.03%、Ti:0.13%(Fe〜Ti総量:0.32%)、残部Alおよび不可避不純物
[組成B] Si:9.2%、Mg:0.23%、Fe:0.12%、Cu:0.04%、Mn:0.03%、Zn:0.02%、Ti:0.13%(Fe〜Ti総量:0.34%)、残部Alおよび不可避不純物
[組成C] Si:11.5%、Mg:0.42%、Fe:0.12%、Cu:0.02%、Mn:0.02%、Zn:0.01%、Ti:0.13%(Fe〜Ti総量:0.3%)、残部Alおよび不可避不純物
[組成D] Si:11.7%、Mg:0.44%、Fe:0.13%、Cu:0.05%、Mn:0.03%、Zn:0.04%、Ti:0.12%(Fe〜Ti総量:0.37%)、残部Alおよび不可避不純物
[組成E] Si:11.3%、Mg:0.38%、Fe:0.11%、Cu:0.03%、Mn:0.05%、Zn:0.02%、Ti:0.13%(Fe〜Ti総量:.034%)、残部Alおよび不可避不純物
[組成F](JIS−H5202のAC4CH材に相当) Si:7.1%、Mg:0.34%、Fe:0.13%、Cu:0.03%、Mn:0.02%、Zn:0.03%、Ti:0.15%(Fe〜Ti総量:0.36%)、残部Alおよび不可避不純物
[組成G] Si:13.0%、Mg:0.42%、Fe:0.11%、Cu:0.02%、Mn:0.03%、Zn:0.02%、Ti:0.10%(Fe〜Ti総量:0.28%)、残部Alおよび不可避不純物
[組成H] Si:11.3%、Mg:0.15%、Fe:0.11%、Cu:0.03%、Mn:0.05%、Zn:0.02%、Ti:0.13%(Fe〜Ti総量:0.34%)、残部Alおよび不可避不純物
【0089】
<実験例1>
実験例1では、表2に示すように、上記組成Eとなるよう調整された原料を溶解し、得られた溶湯を清浄化処理した。清浄工程後の溶湯中の水素量は溶湯100g当たり0.16ccであった。また、後述する冷却工程を経たロードホイール中間体で確認したその破断面における単位面積当たりの介在物の個数は、0.00053個/mm
2であった。なお、溶湯中の水素量および冷却工程を経たロードホイール中間体の破断面における単位面積当たりの介在物の個数は、次のようにして求めた。
【0092】
溶湯中の水素量は、イニシャルバブル方式で溶湯の水素含有量を測定するガス量分析装置(エイコーエンジニアリング株式会社製 型式:ALFAITH M−DP MKII)を用い、求めた。この分析装置により、溶湯を100g坩堝に採取し、この坩堝を減圧室に配置し、減圧室を100mmHgまで序々に減圧し、最初に気泡が目視される時点を入力し、その時の溶湯の温度と圧力から、溶湯中の水素含有量を求めた。
【0093】
本発明における冷却工程を経たロードホイール中間体の破断面における単位面積当たりの介在物の個数は、上記水素量と同様に溶湯の清浄度を評価する指標であり、具体的には、冷却工程を経て得られたロードホイール中間体の任意の部分から試験片を採取し、この試験片を破断し、その破断面を拡大鏡にて倍率5倍で観察し、当該破断面の単位面積当たりに含まれる介在物の個数、つまり介在物の密度を確認した。なお、破断面に含まれる介在物とは、酸化物(いわゆるノロ、スラグ)などのことを指し、当該破断面を観察したときに基地組織と色が異なるので分別することができる。また、ロードホイール中間体全体における組織のばらつきを考慮し、ディスク部およびリム部の任意の位置から試験片を採取し、合計で5000mm
2以上の破断面を観察し、その破断面に含まれる介在物の個数を計測し、この結果から単位面積当たりの介在物の個数を求めた。介在物は、耐力および伸びへの影響が大きい、当該介在物の最も大きな部分の寸法が200μm以上の介在物を確認した。
【0094】
上記清浄工程を経て得られた溶湯を、
図5に示す製造装置10の保持炉(不図示)に移し、その後、100kPa以下の圧力で加圧することにより金型のキャビティに充填した(注湯工程)。なお、溶湯の注湯温度は、本実験例1および下記する他の実験例においても、660〜710℃の範囲とした。なお、金型のキャビティの形状は、
図1〜3に示すアルミホイール1の形状に対応しており、このアルミホイール1の主要な寸法は、最大外径φ497mm、回転軸方向長さ205mm、リム本体部1b最大肉厚4.5mm、ハブ部1f最大肉厚35mm、デザイン部1g最大肉厚26mmである。また、
図5に示すように、第2の開口部19aは、回転軸方向においてリム本体部用キャビティ10bの中央部に、第1の開口部13aよりも上方に配置した。
【0095】
上記注湯工程に引き続き、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度が2.2℃/秒であり、かつデザイン部用キャビティとリム本体部用キャビティの各々に充填された溶湯の冷却速度L1およびL2の比L1/L2が1.6となるよう冷却工程を行った。ここで、デザイン部用キャビティ10g、ハブ部用キャビティ10f、リム本体部用キャビティ10b、第1のフランジ部用キャビティ10cおよび第2のフランジ部用キャビティ10dに充填された溶湯の冷却工程における
図9に示す温度変化は、
図5において符号J、K、N、LおよびOで示す位置、具体的には肉厚の中央部に相当する位置に熱電対を設置して確認し、その結果から表2に示す各キャビティにおける溶湯の冷却速度等を算出した。なお、実験例1および下記する他の実験例における各キャビティに充填された溶湯の冷却速度は、上型入子14内に形成した冷却用空間14aまたは下型入子13に形成した管路17を流通させる冷却水の流量や流速を調整することにより制御した。また、冷却工程が完了し、金型のキャビティから取り出されたロードホイール中間体の一つは、それに含まれる介在物の密度を確認するために供試した。
【0096】
上記冷却工程が完了したロードホイール中間体を溶体化処理した。実験例1の溶体化処理は、
図10に示す第2の温度域を設けず、第1の温度域および冷却域でロードホイール中間体を溶体化処理する例であり、540℃で4時間、ロードホイール中間体を加熱処理し、その後の冷却域において50℃/秒の冷却速度で冷却した。なお、溶体化処理後、ロードホイール中間体に生じた歪量は、ディスク部を上方に向けた姿勢で定盤の上面にアルミホイールを置き、当該定盤の上面を基準とした場合の第1のフランジ部の上面の歪量をダイヤルゲージで測定することにより求めた。その歪量の確認結果を表4に示す。
【0097】
上記溶体化処理工程後、ロードホイール中間体を人工時効処理した。実験例1の人工時効処理は、
図10に示す第2の温度域を設けず、第1の温度域でのみロードホイール中間体を時効処理する例であり、162℃で0.92時間(55分間)、ロードホイール中間体を加熱処理した。その後、ロードホイール中間体に加工などの後工程を適宜施し、所望のアルミホイールを得た。
【0098】
<ヤング率、0.2%耐力および伸びの評価方法>
上記アルミホイールのリム本体部およびデザイン部の0.2%耐力および伸びは、JIS−Z2241に準じ、リム本体部およびデザイン部から採取した複数の試験片を試験に供し、各々の平均値を確認した。また、本実験例1および下記する他の実験例における剛性の指標であるヤング率は、JIS−Z2280で定められた自由共振法に準拠して測定した。
【0099】
<デンドライト2次アームスペーシングの測定方法>
デンドライト2次アームスペーシング(以下、DASIIと言う場合がある。)は、実験例1〜30のアルミホイールのうち、デザイン部の回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部、およびリム本体部の回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部より採取した複数の試験片の組織観察を、光学顕微鏡を用いて行った。α‐Alについて、複数個の2次アームの間隔を、その間隔中に含まれる2次アームの数で除するという2次枝法を用いて確認した。
【0100】
<密度の測定方法>
密度は、実験例1〜30のアルミホイールのうち、デザイン部の回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部、およびリム本体部の回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部より採取した複数の試験片を用いて、アルキメデス法により測定した。
【0101】
<平均円相当径の算出方法>
実験例1〜30のアルミホイールのうち、デザイン部の回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部、およびリム本体部の回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部より複数の試験片を採取した。試験片に存在する共晶Siの投影面積円相当径を測定し、これらの平均値を算出して平均円相当径とした。共晶Siの平均円相当径は、伸びへの影響が大きい円相当径が1μm以上の共晶Siを対象とし、平均円相当径を算出した。
【0102】
<平均円形度の算出方法>
実験例1〜30のアルミホイールのうち、デザイン部の回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部、およびリム本体部の回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部より複数の試験片を採取した。試験片に存在する共晶Siの円形度を、円形度=(投影面積の等しい円の周長/粒子の周長)によって求め、これらの平均値を算出して平均円形度とした。共晶Siの平均円形度は、伸びへの影響が大きい円相当径が1μm以上の共晶Siを対象とし、平均円形度を算出した。
【0103】
<デザイン部の表面欠陥の評価>
実験例1〜30のアルミホイールのデザイン部について、表面欠陥の有無を目視にて評価した。表面欠陥の認められないものを◎、表面欠陥がデザイン部の一部に発生しているものを○、表面欠陥がデザイン部の全面に発生しているものを△と評価した。
【0104】
<針状α‐Alの長軸長の評価>
上記デンドライト2次アームスペーシングの測定方法と同様に、実験例1〜30のアルミホイールのうち、デザイン部の回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部、およびリム本体部の回転軸方向と平行な断面における肉厚中心部より採取した複数の試験片の針状α‐Alの組織観察を、光学顕微鏡を用いて行った。デザイン部の組織写真より、長軸長が500μm以上の針状α‐Al、および長軸長が250μm以上500μm未満の針状α‐Alについて、1mm
2あたりに存在する数を求めた。同様に、リム本体部についても、長軸長が250μm以上500μm未満の針状α‐Alについて、1mm
2あたりに存在する数を求めた。そして、これらの結果より、デザイン部における長軸長が250μm以上500μm未満である針状α‐Alの単位面積当たりの個数と、リム本体部における長軸長が250μm以上500μm未満である針状α‐Alの単位面積当たりの個数との割合を算出した。
【0105】
また、デザイン部の組織写真より、長軸長が250μm以上である針状α‐Alのうち、前記ロードホイールの回転軸と平行な直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合を算出した。同様に、デザイン部の組織写真より、長軸長が250μm以上である針状α‐Alのうち、前記ロードホイールの回転軸と直行する直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合を算出した。これらのα‐Alの割合から、ロードホイールの回転軸と平行な直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合と、ロードホイールの回転軸と直行する直線であって、長軸と交わる直線と、前記長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合との差の絶対値を求めた。
図16は、実験例6のデザイン部の組織写真を基に長軸長が250μm以上である針状α‐Alの長軸を抜き出して模式化した図であり、針状α‐Alの長軸と当該長軸と交わる直線との挟角について説明する図である。直線Xは、ロードホイールの回転軸と平行な直線であって、針状α‐Alの長軸20と交わる直線である。直線Yは、ロードホイールの回転軸と直行する直線であって、針状α‐Alの長軸20と交わる直線である。挟角aは直線Xと長軸20との挟角であり、挟角bは直線Yと長軸20との挟角である。実験例1〜30について撮影したデザイン部の組織写真にて認められる、長軸長が250μm以上である針状α‐Alの全てを対象として、直線Xと直線Yを引き、長軸20との挟角a、挟角bを求めて、挟角が15°以内である針状α‐Alの割合を算出した。
【0106】
実験例1〜30のアルミホイールのヤング率、0.2%耐力、伸び、DASII、密度、平均円相当径、平均円形度およびデザイン部の表面欠陥についての確認結果を、表4、
5に示す。また、針状α‐Alの長軸長の評価結果を、表6に示す。
【0110】
<実験例2〜11>
実験例2〜11では、表2に示す通り、上記実験例1に対し、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度L1、およびL1とリム本体用キャビティに充填されたアルミニウム合金溶湯の前記第2の開口部近傍の冷却速度L2との比L1/L2のいずれかの水準を変化させた。他の製造条件は、実験例1と同一とした。
【0111】
<実験例12〜15>
実験例12〜15では、表2に示す通り、上記実験例1に対し、アルミホイールの組成(表1参照)ならびに溶湯清浄化度の指標である溶湯の水素含有量および介在物の密度の水準を変化させた。他の製造条件は、実験例1と同一とした。
【0112】
<実験例16〜21>
実験例16〜21は、溶体化処理に
図10に示す第2の温度域を付加し、主にその水準を変化させた例である。具体的には、実験例16は、実験例1に対し、溶体化処理の第1の温度域を525℃で3.5時間とし、第2の温度域を490℃で0.5時間とした点以外は、実験例1と同一条件とした(表3)。なお、実験例16の第2の温度域の温度プロファイルは、
図10において破線で示す階段状とした。また、実験例17は、上記実験例16に対し、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度を3.0℃/秒、デザイン部用キャビティおよびリム本体部用キャビティの各々充填された溶湯の冷却速度L1とL2との比L1/L2を2.0、溶体化処理の第1の温度域を525℃で2時間とし、第2の温度域を500℃で0.5時間とした点以外は、実験例16と同一条件とした(表2、表3)。実験例18は、上記実験例16に対し、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度を25.0℃/秒、デザイン部用キャビティおよびリム本体部用キャビティの各々充填された溶湯の冷却速度L1とL2との比L1/L2を10.0、溶体化処理の第1の温度域を525℃で7.5時間とし、第2の温度域を510℃で0.5時間とした点以外は、実験例16と同一条件とした(表2、表3)。実験例19は、上記実験例16に対し、溶体化処理の第1の温度域を525℃で3.65時間とし、第2の温度域を520℃で0.35時間とし、冷却域の冷却速度を5℃/秒とした点以外は、実験例16と同一条件とした(表3)。実験例20は、上記実験例16に対し、溶体化処理の第1の温度域を555℃で0.7時間とし、第2の温度域を550℃で0.3時間とした点以外は、実験例16と同一条件とした(表3)。実験例21は、溶体化処理の第1の温度域を523℃とし、
図10において実線で示すように、第2の温度域における温度プロファイルを第2の温度域の加熱時間(0.5時間)内において523℃から490℃に向け徐々に低下する漸減した温度プロファイルとした点以外は、実験例16と同一条件とした(表3)。
【0113】
<実験例22〜25>
実験例22〜25は、人工時効処理に
図10に示す第2の温度域を付加し、主にその水準を変化させた例である。具体的には、実験例22は、上記実験例16に対し、人工時効処理の第1の温度域を120℃で8時間とし、第2の温度域を95℃で6時間とした点および溶体化処理の第2の温度域の温度プロファイルを漸減する温度プロファイルとした点以外は、実験例16と同一条件とした(表3)。また、実験例23は、上記実験例22に対し、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度を3.0℃/秒、デザイン部用キャビティおよびリム本体部用キャビティの各々充填された溶湯の冷却速度L1とL2との比L1/L2を2.0、溶体化処理の第2の温度域を500℃で0.5時間とした点、および人工時効処理の第1の温度域を180℃で0.6時間とし、第2の温度域を110℃で1.2時間とした点以外は、実験例22と同一条件とした(表2、表3)。実験例24は、上記実験例22に対し、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度を25.0℃/秒、デザイン部用キャビティおよびリム本体部用キャビティの各々充填された溶湯の冷却速度L1とL2との比L1/L2を10.0、溶体化処理の第2の温度域を510℃で0.5時間とし、冷却域の冷却速度を100℃/秒とした点、および人工時効処理の第1の温度域を180℃で0.92時間とし、第2の温度域を160℃で1.2時間とした以外は、実験例22と同一条件とした(表2、表3)。実験例25は、上記実験例22に対し、溶体化処理の第2の温度域を510℃で0.5時間とし、冷却域の冷却速度を100℃/秒をとした点、および人工時効処理の第1の温度域を180℃で0.92時間とし、第2の温度域を180℃で0.3時間とした以外は、実験例22と同一条件とした(表3)。
【0114】
<実験例26>
実験例26では、上記実験例1に対し、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度を1.0℃/秒、リム本体部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度を0.6℃/秒とし、他の製造条件は、実験例1と同一とした(表2)。
【0115】
<実験例27>
実験例27では、上記実験例1に対し、リム本体部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度を変えることにより、デザイン部用キャビティおよびリム本体部用キャビティの各々充填された溶湯の冷却速度L1とL2との比L1/L2を1.2とし、他の製造条件は、実験例1と同一とした(表2)。
【0116】
<実験例28>
実験例28では、上記実験例1に対し、アルミホイールの組成を表1に示す組成Fに調整してSiの含有量を7.1%とし、他の製造条件は、実験例1と同一とした。
【0117】
<実験例29>
実験例29では、上記実験例1に対し、アルミホイールの組成を表1に示す組成Gに調整してSiの含有量を13.0%とし、他の製造条件は、実験例1と同一とした。
【0118】
<実験例30>
実験例30では、上記実験例1に対し、アルミホイールの組成を表1に示す組成Hに調整してSiの含有量を11.3%とし、他の製造条件は、実験例1と同一とした。
【0119】
<実験例に関する考察>
以下、上記実験例1〜30について考察する。本発明に係る製造方法、すなわちマルチゲート方式にて所定の組成のアルミホイールを一体的に低圧鋳造し、その後T6熱処理してアルミホイールを製造するにあたり、冷却工程において、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度L1が、リム本体部用キャビティに充填された溶湯の第2の開口部近傍の冷却速度L2よりも1.5倍以上早くかつ2℃/秒以上とする製造方法を実施した実験例1〜25(特に実験例1〜15)によれば、アルミホイールの剛性の指標であるヤング率はいずれも75GPa以上であり、かつデザイン部の変形能の指標である伸びはいずれも5%以上であった(表4)。
【0120】
一方で、実験例26は、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度を1.0℃/秒と遅くしたため(表2)、組織が粗大化し、得られたアルミホイールのデザイン部の伸びが4.0%と低かった(表4)。また、実験例27は、デザイン部用キャビティおよびリム本体部用キャビティの各々充填された溶湯の冷却速度L1とL2との比L1/L2を1.2と小さくしたため(表2)、凝固するデザイン部へのリム本体部キャビティからの溶湯補給が充分でなく、マイクロシュリンケージ(微小引け巣)が生じたものと推定され、得られたアルミホイールのデザイン部の伸びが3.0%と低かった(表4)。さらに、実験例28は組成をAC4CH材並みの低Siとしたため、ヤング率が73.6GPaと低く(表4)、実験例29は組成を高Siとしたため、デザイン部の伸びが3.9%と低かった(表4)。また、実験例30はMgが少ないことに起因して、リム本体部およびデザイン部のいずれにおいても耐力(0.2%)が低下する結果となった(表4)。
【0121】
実験例1〜25によれば、加えて、耐変形性の指標である0.2%耐力は、リム本体部およびデザイン部いずれにおいても150MPa以上、特にデザイン部の0.2%耐力は160MPa以上となり(表4)、アルミホイール全体としての剛性および耐変形性ならびにデザイン部の変形能いずれにも優れたアルミホイールを得ることができた。実験例9によれば、リム本体部の0.2%耐力の面から、デザイン部用キャビティおよびリム本体部用キャビティの各々充填された溶湯の冷却速度L1とL2との比L1/L2の上限は15が好ましいことが確認された(表2)。また、実験例5によれば、実験例4に対し、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度L1を速めてもデザイン部の伸びは改善されず、一方で製造装置が大型化、複雑化して工業生産上妥当なコストでアルミホイールを製造できないため、当該冷却速度L1の上限は30℃/秒が好ましいことが確認された(表2)。
【0122】
さらに、実験例16〜21によれば、実験例1〜15に対して、溶体化処理工程を、アルミニウム合金の共晶温度をT1としたときに(T1−2)〜(T1−37)℃の範囲に設定された温度で処理する第1の温度域と、第1の温度域の温度をT2としたとき(T2−5)〜(T2−40)℃の範囲に設定された温度で処理する第2の温度域と、前記第2の温度域の後段に配置された冷却域とで構成することにより、溶体化処理後のロードホイール中間体に生じる歪が効果的に抑制されることが判った(表4)。さらに、実験例21によれば、第2の温度域の温度プロファイルを、第1の温度域の温度から第2の温度域の温度へ徐々に低下するよう設定することにより、デザイン部の伸びがより向上した(表4)。加えて、冷却域の冷却速度は、ロードホイール中間体に生じる歪とデザイン部の伸びとを両立させるためには、5〜100℃/秒であることが好ましいことが確認された(表3、表4)。
【0123】
加えて、実験例22〜25によれば、実験例16〜21に対して、人工時効処理工程を、100〜200℃で0.5〜10時間処理する第1の温度域と、第1の温度域の後に当該第1の温度域より低い温度で加熱処理する第2の温度域とで構成することにより、デザイン部の伸びがより向上して8%以上となることが確認された(表3、表4)。なお、ロードホイール中間体に生じる歪とデザイン部の伸びとを両立させるためには、第2の温度域の温度を95〜180℃とし、処理時間を0.3〜6時間とすることが好ましいことが確認された(表3、表4)。
【0124】
デザイン部の表面欠陥を評価したところ、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度が25℃/秒以上となると、キラワレや不廻り等の表面欠陥の発生がデザイン部の一部に認められた(表2、表4)。さらに、当該冷却速度が30℃/以上を超えると、表面欠陥の発生がデザイン部の全面に認められた(表2、表4)。デザイン部の表面欠陥は、0.2%耐力の低下や伸びの不良といったアルミホイールの本質的な欠陥ではなく、副次的な欠陥であることから、鋳造工程後に当該表面欠陥を除去する手直しをすれば問題ない。ただし、このような手直し工程の付加による時間やコストを考慮すれば、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度を30℃/秒以下とすることが、好ましいことがわかった。
【0125】
[製造されたアルミホイールの組織および機械的特性など]
以下、上記本発明に係る製造方法で製造された各実験例のアルミホイールの組織等を分析し、知見されたその特徴について、
図1〜3を参照しつつ以下説明する。本発明に係る製造方法で製造されたアルミホイール1は、そのデザイン部1gのα‐Alの2次枝法で測定したデンドライト2次アームスペーシングが、回転軸方向と平行な各断面における肉厚の中心部において、いずれも10〜30μmの範囲であることが好ましいことが知見された(表5)。更にデザイン部のデンドライト2次アームスペーシングの平均値が15〜28μmであれば、アルミホイールの歪が0.8mm以下、リム本体部の0.2%耐力が165以上、デザイン部の0.2%耐力が198以上、リム本体部の伸びが1.5%以上、およびデザイン部の伸びが6.8%以上であり、さらにデザイン部の表面も欠陥がなく良好であることから、より好ましいことが知見された(表4、表5)。すなわち、デザイン部1gが極めて微細な組織となっており、故に衝撃的な負荷に対するデザイン部1gの変形能が高い点に特徴の一つがあることが判った。つまり、具体的には、デザイン部1gの回転軸方向と平行な各断面において肉厚中心部のα‐AlのDASIIの平均値が、リム本体部1bの回転軸方向と平行な各断面において肉厚中心部のα‐AlのDASIIの平均値よりも10%以上小さいことが好ましいことが判った。
【0126】
さらに、デザイン部1gの回転軸方向と平行な各断面における肉厚の中心部の密度の平均値をD1、リム本体部1bの回転軸方向と平行な各断面における肉厚の中心部の密度の平均値をD2としたとき、D1/D2が0.9990以上である場合には、デザイン部1gの伸び特性を改善し、その変形能を高める点で有効なことが知見された(表5)。その理由を以下説明する。
【0127】
すなわち、本発明に係る製造方法で形成されたアルミホイールは、共晶組成に近い領域までケイ素(Si)の含有量を高めた合金組成である。この合金組成の溶湯は、その凝固過程において、従来材であるAC4CH材の溶湯が粥状(マッシー)凝固するのに対し、皮殻形成型凝固(スキンフォーメーション)を示す。このため、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度だけを単に速めた場合には、凝固が完了する前に一部の溶湯の補給経路が閉じてしまい、組織的レベルで溶湯が不補給となり粒界相にマイクロシュリンケージ(微細引け巣)が生じやすく、第2の開口部からの溶湯補給が充分なリム本体部よりもデザイン部の密度が低くなり、その伸びや耐力が低下する場合がある。しかしながら、本発明に係る製造方法によれば、デザイン部用キャビティに充填された溶湯の冷却速度を2℃/秒以上としたうえで、加えてデザイン部用キャビティおよびリム本体部キャビティに充填された溶湯の各々の冷却速度L1およびL2の比L1/L2を1.5以上と規定した。その結果、凝固するデザイン部へのリム本体部キャビティからの溶湯の補給(押湯効果)がより円滑となり、デザイン部におけるマイクロシュリンケージの生成が抑制され、上記のようにデザイン部の密度D1がリム本体部の密度D2以上(D1/D2≧0.9990)となる。一方で、デザイン部用キャビティおよびリム本体部キャビティに充填された溶湯の各々の冷却速度L1およびL2の比L1/L2が1.2と低い実験例27のアルミホイールのデザイン部の密度D1は、リム本体部の密度D2より低く、D1/D2は0.9977であった。
【0128】
実験例1〜25のアルミホイールでは、いずれもデザイン部の前記肉厚中心部の共晶Siの平均円相当径が2.00〜2.55μmであり(表5)、表4よりデザイン部の0.2%耐力が160MPa以上、伸びが5%以上であることから、デザイン部の耐変形性および変形能ともに問題ないことがわかった。また、リム本体部の肉厚中心部の共晶Siの平均円相当径がデザイン部の共晶Siの平均円相当径よりも大きくかつ2.10〜2.65μmであるアルミホイールは、表4よりリム本体部の0.2%耐力が150MPa以上、伸びが1%以上であることから、アルミホイール全体として十分な剛性を確保するとともにリム本体部として求められる耐変形性および変形能を実現することが可能である。
【0129】
実験例1〜25のアルミホイールでは、いずれも前記デザイン部の共晶Siの平均円形度が0.79〜0.86であり、かつ前記リム本体部の共晶Siの平均円形度が0.79〜0.87である結果となった(表5)。表4よりデザイン部の0.2%耐力が160MPa以上、伸びが5%以上であることから、実験例1〜25のアルミホイールは、いずれもデザイン部の耐変形性および変形能をいずれも満足し、アルミホイール全体として十分な剛性を確保することができることがわかった。
【0130】
[針状α‐Alの長軸長の評価の結果]
実験例1〜25のアルミホイールでは、デザイン部における長軸長が500μm以上の針状α‐Alは5個/mm
2以下であり、長軸長が250μm以上であり、かつ500μm未満である針状α‐Alは1〜15個/mm
2以下であった(表6)。実験例3〜6、11、18、24の結果から、注湯工程におけるデザイン部の冷却速度が大きくなると、デザイン部の伸びが大きくなると共に(表4)、デザイン部における長軸長が500μm以上の針状α‐Alの個数、および長軸長が250μm以上であり、かつ500μm未満である針状α‐Alの個数が少なくなる傾向にあることがわかった(表6)。
【0131】
表6において、「デザイン部/リム部」の項目に示した結果は、デザイン部における長軸長が250μm以上500μm未満である針状α‐Alの単位面積当たりの個数と、リム本体部における長軸長が250μm以上500μm未満である針状α‐Alの単位面積当たりの個数との割合を算出したものである。実験例1〜25のアルミホイールでは、実験例5を除いて、いずれも90%以下であり、リム本体部よりもデザイン部の方が、長軸長が250μm以上500μm未満である針状α‐Alの単位面積当たりの個数が少ない結果となった。
【0132】
表6において、「0°配向性」の項目に示した結果は、長軸長が250μm以上である針状α‐Alのうち、ロードホイールの回転軸と平行な直線であって、長軸と交わる直線と、長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合を算出したものである。実験例1〜25のアルミホイールでは、実験例4〜6、11、18および24を除いていずれも長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合が5〜30%であった。
【0133】
表6において「90°配向性」の項目に示した結果は、長軸長が250μm以上である針状α‐Alのうち、ロードホイールの回転軸と直行する直線であって、長軸と交わる直線と、長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合を算出したものである。実験例1〜25のアルミホイールでは、いずれも長軸との挟角が、15°以内である針状α‐Alの割合が5〜30%であった。
【0134】
表6において「|0°配向性−90°配向性|」の項目に示した結果は、0°配向性と90°配向性との差の絶対値を算出したものである。実験例1〜25のアルミホイールでは、実験例4〜6、11、18および24を除いていずれも絶対値が20%以下であった。表6の「0°配向性」および「90°配向性」の項目において、針状α‐Alの割合がいずれも5〜30%であり、かつ「|0°配向性−90°配向性|」が20%以下である実験例1〜3、7〜10、12〜17、19〜23および25のアルミホイールは、デザイン部における一定の伸びを確保するとともに、表面の欠陥がなく良好であることが知見された(表4)。
【0135】
図17、
図18は、デザイン部の断面の光学顕微鏡写真であり、長軸長が500μm以上の針状α‐Alの長軸に実線を、長軸長が250μm以上500μm未満である針状α‐Alの長軸に破線を付している。
図17(a)は、実験例6のアルミホイールのデザイン部の断面の写真であり、
図17(b)、
図18(a)、
図18(b)は同様に実験例12、実験例26、実験例28のアルミホイールの写真である。実験例28の写真のみ、実験例6、12、26の写真とは倍率が異なる。
【0136】
表6に示す針状α‐Alの長軸長の評価は、これらの写真を基に評価を行った。実験例1〜5、7〜11、13〜25、27、29、30についても同様である。
【0137】
<指向性凝固が与えるアルミホイールの特性への影響>
下記実験例では、デザイン部を形成するキャビティに充填されたアルミニウム合金溶湯の指向性凝固が与えるアルミホイールの製品特性への影響について検証した。
【0138】
<実験例31〜41>
冷却工程において、デザイン部用キャビティに充填された溶湯が指向性凝固するように冷却する点以外は、実験例1と同一条件により、アルミホイールを製造した。具体的方法について、
図13〜
図15を用いて説明する。デザイン部を形成するキャビティは、半径方向においてハブ部を形成するキャビティとリム本体部を形成するキャビティとの間に配置された中間部V1を有する(
図13)。冷却工程のうち、デザイン部を形成するキャビティの溶湯を冷却する工程は、当該キャビティの中間部V1からリム本体部を形成するキャビティ前V3までに充填された溶湯を、V1からV3へと中間部からリム本体部を形成するキャビティへ半径方向に指向性凝固する工程とした。指向性凝固する工程における溶湯の冷却速度は、中間部V1の冷却速度W1を最も早め、中間部V2から中間部V3へと徐々に冷却速度を遅くした(
図14)。V1〜V3の各中間部の冷却速度W1〜W3が、いずれも3〜30℃/秒となるよう制御した。加えて、円周方向においてサイドゲートに最も近いデザイン部のリム本体部を形成するキャビティ前の中間部V3の冷却速度W3に対し、半径方向における位置が中間部V3と同位置であるとともに円周方向においてサイドゲートから最も遠いデザイン部のリム本体部を形成するキャビティ前の中間部V4の冷却速度W4を早める凝固とした(
図15)。中間部V3および中間部V4における冷却速度W3およびW4も、3〜30℃/秒となるよう制御した。指向性凝固する工程における冷却速度は、
図13の中間部V1〜V4で示す位置の肉厚の中央部に相当する部分に設置した熱電対により確認可能な温度変化を基に算出した。例えば、
図13の中間部V2の肉厚の中央部に位置する熱電対は、
図5において符号Oで示す位置の肉厚の中央部に相当する位置に設置した熱電対に相当する。また、
図2においてサイドゲートに最も近いスポーク(デザイン部)を1o−1、サイドゲートから最も遠いスポーク(デザイン部)を1o−2、これらの間にあるスポーク(デザイン部)を1o−3とした場合、スポーク1o−1、および1o−2に熱電対を設置して冷却速度を算出した。実験例31〜41におけるスポーク1o−1、および1o−2の冷却速度、およびこれらの冷却速度の差を表6に示す。
【0139】
<耐衝撃性の評価>
製造した実験例31〜41のアルミホイールについて、耐衝撃性の評価を行った。具体的には、国土交通省により告示された「道路運送車両の保安基準の細則を定める告示 2008.07.07 別添2(軽合金製ディスクホイールの技術基準)」の「2.3 衝撃試験」の記載内容に即した試験を行い、「3.3.衝撃試験」に記載された判定基準により評価した。500kgfの荷重に耐えられたものを○(良好)、600kgfの荷重に耐えられたものを◎(非常に良好)として評価した。
【0140】
その他、スポーク1o−1〜1o−3のDASII、時効処理の前後の歪量、デザイン部の表面欠陥について測定、評価を行った。結果を表7に示す。
【0142】
<実験例31〜41に関する考察>
指向性凝固する工程における冷却速度を3〜30℃/秒とすることにより、時効処理後の歪量が1.3mm以下となり、デザイン部の表面欠陥も○以上となった(実験例33〜41)。加えて、冷却速度差が25℃/秒以下であることにより、時効処理後の歪量が1.0mm以下となる結果となった(実験例33〜39)。さらに、冷却速度が3〜25℃/秒であることにより、デザイン部の表面欠陥が認められず、良好な結果となることを確認した(実験例33、36、37、39)。
【0143】
デザイン部のDASII測定結果より、DASIIの最大値の差が13μm以下であることにより、時効処理後の歪量が1.3mm以下となり、デザイン部の表面欠陥も○以上となった(実験例33〜39、41)。加えて、DASIIの最大値の差が11μm以下であることにより、時効処理後の歪量が1.0mm以下となる結果となった(実験例33〜39、41)。さらに、DASIIの最大値の差が10μm以下であることにより、デザイン部の表面欠陥が認められず、良好な結果となることを確認した(実験例33、35〜39)。
【0144】
耐衝撃性の評価からは、実験例31〜41のいずれのアルミホイールにおいても、500kgfに耐えうる結果となり、耐衝撃性に問題ないことを確認した。