【実施例】
【0032】
(実施例1)
【0033】
実施例1においては、本発明の基本となるアルファ線を照射した際に、320nmないし580nmにわたって蛍光を放出し、そのピーク波長が395nmないし410nmである蛍光スペクトルを示す粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体について説明する。
【0034】
本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する工程の一つの例を以下に示す。工程のさらに詳細な内容については実施例3以降の製造方法において説明する。
【0035】
主原料である硫化亜鉛(ZnS)を50gr使用する。賦活材である銀(Ag)は硝酸銀(AgNO
3)の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材(フラックスとも呼ばれている)としては融点が613℃の塩化リチウム(LiCl)を使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては融点が388℃でその沸点が445℃である硫黄(S)を使用し、硫化亜鉛の重量の5%を添加する。以上の材料に蒸留水20ccを加えて混合した後、乾燥する。
【0036】
黒鉛を素材とした周囲を閉じたるつぼとしては、外側が60mmφで長さが50mm、内部が直径30mmφで底の厚さが10mm、上蓋の厚さが10mmの黒鉛るつぼを使用する。材料を入れる容積は直径30mmφで長さ30mmとなる。上蓋の中心には、内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための1mmφの穴を設ける。この黒鉛るつぼに乾燥させた焼成材料を入れた後上蓋を閉める。
【0037】
この黒鉛るつぼを電気炉にいれて焼成を行う。電気炉としては、最大使用温度が1100℃である(株)デンケン社製の電気炉KDF―S70型を使用した。焼成は以下の条件で行った。
焼成温度:820℃
カバーガス:CO
2を2リッター/分で流す。
焼成時間:2時間
【0038】
焼成された焼結物は粉状にした後、水で洗浄し粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体とする。この粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の色は白色ではなく薄い茶黄色を呈する。
【0039】
粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射とガンマ線照射に対しての蛍光特性を調べた。蛍光特性を測定するサンプルは、顕微鏡用カバーガラス(サイズ:18mmx18m、厚さ0.15mm)の上にニトムズ社製両面テープを張った後片面に粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の粉末を塗布した。この操作により両面テープの片面にZnS:Ag蛍光体粒子をほぼ一層塗布することができる。この方法を用いた場合のアルファ線照射に対する蛍光量(蛍光スペクトルの蛍光強度の積分値)に対する測定誤差は±10%である。
【0040】
アルファ線照射の場合にはアルファ線の線源を0.3mm離して照射する。また、ガンマ線照射の場合は12μm厚のアルミホイル4枚を重ねて作製したアルファ線遮蔽板を挿入した後照射した。アルファ線照射により放出された蛍光はカバーガラスの反対面から放出される。この測定サンプルを蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射及びガンマ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。
【0041】
硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルを、比較のために用意した従来のZnS:Ag蛍光体(日亜化学工業1109−041)のアルファ線照射蛍光スペクトルと共に
図9に示す。本実施例の硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は320nmないし580nmにわたって蛍光を放出し、そのピーク波長が401nmであることがわかる。また、日亜化学工業製1109−041とアルファ線照射蛍光スペクトルの形を比較すると、日亜化学工業製1109−041のアルファ線照射蛍光スペクトルの400nm付近の膨らみが本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の蛍光スペクトルに対応していることがわかる。また、本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体から放出される蛍光量(蛍光スペクトルの蛍光強度の積分値)は日亜化学工業製1109−041蛍光体から放出される蛍光量の72%が得られた。
【0042】
次に、硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のガンマ線照射結果について述べる。本蛍光体のガンマ線に対する感度が低いため、ガンマ線照射測定を100回繰り返して行い各波長の平均値を計算し、ガンマ線照射蛍光スペクトルを求めた。得られたガンマ線照射蛍光スペクトルと従来のZnS:Ag蛍光体(日亜化学工業製1109−041)のガンマ線照射蛍光スペクトルとを比較した図を
図10に示す。本実施例の硫黄を5%添加した粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の蛍光量が非常に少なく、そのピーク波長が410nm近辺であり、その蛍光スペクトルも
図9で示したアルファ線照射蛍光スペクトルと良く似ていることがわかる。従って、比較のためにプロットした日亜化学工業製1109−041蛍光体の場合ガンマ線照射蛍光スペクトルの範囲が350nmから550nmにわたり、そのピーク波長が450nmであることから、明らかに本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体と従来の蛍光体のガンマ線照射蛍光スペクトルは異なることがわかった。この結果、本実施例で示した粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は、従来のZnS:Ag蛍光体のガンマ線照射スペクトルとは異なる励起メカニズムを持つ蛍光体であることが確認できた。
【0043】
また、ガンマ線照射における本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体から放出される蛍光量(ガンマ線照射蛍光スペクトルのガンマ線蛍光強度の積分値)は日亜化学工業製1109−041蛍光体から放出される蛍光量の4.4%と非常に小さな量でありガンマ線に対して非常に低感度であることが確認できた。ガンマ線に対して低感度であることでも、本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は従来のZnS:Ag蛍光体とはアルファ線及びガンマ線に対して異なる励起メカニズムを持つ蛍光体であることが確認できる。
【0044】
次に、本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体にアルファ線を照射した際得られるパルス信号をオシロスコープで測定し、アルファ線に対しての蛍光寿命特性を測定した。測定サンプルは上記で作製したサンプルを用いた。アルファ線源としては直径10mmφの線源範囲に3.7MBqの
241Amを電着して製作された線源を用い、このアルファ線源の前面に0.4mmφの穴の開けた遮蔽板を置いて測定サンプルに照射し、実質の強度としては1kBq以下に下げて測定を行った。測定サンプルの片側の面に光電子増倍管を配置してアルファ線信号を検出した。光電子増倍管としては浜松ホトニクス製R1924Aを用い、印加電圧1000Vで使用した。得られたアルファ線蛍光信号はレクロイ社製LT344型オシロスコープを用いて波形データの収集を行った。収集条件としては、垂直感度100mV/divで、時間感度1μs/divそしてトリガレベルを32mVに設定してサンプリング周波数500MHzで測定した。
【0045】
2000個の信号を測定し、これらの信号を平均化して得た硫黄5%添加のZnS:Ag蛍光体のアルファ線信号波形と比較のため測定した従来のZnS:Ag蛍光体(日亜化学工業製1109−041)のアルファ線信号波形と共に
図11に示す。アフターグローの影響で1μs以降においても信号が長く続く従来のZnS:Ag蛍光体に比較して、本発明の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は1μs内で大半の蛍光(以後フォトンと呼称)が放出され1μs以降のフォトンが非常に少なくなっていることが確認できた。
【0046】
得られた信号を基にアフターグローの影響を調べるために蛍光寿命特性の解析を行った。従来から、ZnS:Ag蛍光体の短い成分に当たる減衰時間は1μs以下であるといわれているので、1μsまで積分することで得られた総信号電圧の0.632倍(1−e
−1に該当)にあたる値に積分信号電圧が達した経過時間を短減衰時間と定義した。そして、アフターグローに当たる長い成分の減衰時間を8μsまでの積分で得られた総信号電圧の0.632倍(1−e
−1に該当)にあたる値に積分信号電圧が達した経過時間を長減衰時間と定義した。
【0047】
解析の結果、本発明の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の減衰時間は、短減衰時間で0.181μsとなり、長減衰時間で0.295μsとなった。従来のZnS:Ag蛍光体に比較して短減衰時間では66%及び長減衰時間では17%の時間となり大きく改善された。
【0048】
また、アフターグローの影響がどのくらい残っているのかを知るために1μsまでの積分で得られた総信号電圧で8μsまでの積分で得られた総信号電圧を割り算しその値をアフターグロー比と定義して計算した。その結果、アフターグロー比についてもほとんど1μs以下で減衰してしまって1.14とほぼ10%程度しか残らないのに対して従来のZnS:Ag蛍光体では8μsを経過しても1.66とまだ60%以上の多くのアフターグロー成分が残っていることがわかった。
【0049】
以上に示したように本発明の硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体はガンマ線に対して非常に低感度であると共に減衰時間も短くアフターグローも非常に少ないことが確認できた。
【0050】
もう一つの実施例として、添加材として硫化物である硫化ストロンチウム(SrS)を加えて第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する工程の例を示す。工程のさらに詳細な内容については実施例3以降の製造方法において説明する。
【0051】
主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては塩化リチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては融点が2002℃である硫化ストロンチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の0.6%を添加する。以上の材料に蒸留水20ccを加えて混合した後、乾燥する。
【0052】
黒鉛を素材とした周囲を閉じたるつぼとしては、外側が60mmφで長さが50mm、内部が直径30mmφで底の厚さが10mm、上蓋の厚さ10mmの黒鉛るつぼを使用する。材料を入れる容積は直径30mmφで長さ30mmとなる。上蓋の中心には、内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための1mmφの穴を設ける。この黒鉛るつぼに乾燥させた焼成材料を入れた後上蓋を閉める。
【0053】
この黒鉛るつぼを電気炉にいれて焼成を行う。電気炉としては(株)デンケン社製の電気炉KDF―S70型を使用した。焼成は以下の条件で行った。
焼成温度:820℃
カバーガス:CO
2を2リッター/分で流す
焼成時間:2時間
【0054】
焼成された焼結物は粉状にした後、水で洗浄し粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体とする。この粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の色は白色ではなく薄い茶黄色を呈する。
【0055】
この粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射とガンマ線照射に対しての蛍光特性を調べた。蛍光特性の測定するサンプルは、上記で述べた方法を用いて作製した。この測定サンプルを蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射及びガンマ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。蛍光スペクトルの測定は上記で述べた方法を用いた。
硫化ストロンチウム0.6%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルを、比較のために、実施例1で述べた硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルと共に
図12に示す。
本実施例の硫化ストロンチウム0.6%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルは、320nmから580nmにわたって蛍光を放出し、そのピーク波長が398nmであることがわかる。一方、最初の実施例で示した硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は320nmから580nmにわたって蛍光を放出し、そのピーク波長が401nmである。両者を比較すると、蛍光スペクトルの領域はほぼ同じでありピーク波長もほぼ同じであるが、蛍光スペクトルの形は少し異なり、硫黄5%添加した粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の方が硫化物である硫化ストロンチウム0.6%添加した粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体より少し長波長側に膨らんだスペクトルとなることがわかった。
【0056】
実施例3以降の製造方法により色々な融材及び添加材を用いて製作した8種類の請求項1の第1の蛍光体のアルファ線有感蛍光スペクトルを調べると大きく分けてここで示した2種類のアルファ線照射蛍光スペクトルに分類されることがわかった。このため、ピーク波長に加えてアルファ線照射蛍光スペクトルの形を分類するパラメータとして硫黄添加に代表される少し長波長側に膨らんだアルファ線照射蛍光スペクトルを硫黄型、そして硫化ストロンチウム添加に代表される左右対称のガウシアン分布に近い形のアルファ線照射蛍光スペクトルを硫化物型と仮に定義して表1に分類した。アルカリ金属の硫化物であるLi
2S添加は硫黄型を示した。
【0057】
【表1】
【0058】
次に、硫化ストロンチウム0.6%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のガンマ線照射結果について述べる。本蛍光体のガンマ線に対する感度が低いため、ガンマ線照射測定を100回繰り返して行い各波長の平均値を計算し、ガンマ線照射蛍光スペクトルを求めた。得られたガンマ線照射蛍光スペクトルと前記したアルファ線照射蛍光スペクトルとを比較した図を
図13に示す。アルファ線照射蛍光スペクトルとガンマ線照射蛍光スペクトルを比較すると、蛍光スペクトルの形、蛍光波長の範囲及びピーク波長とも同じであり、良く一致していることがわかる。
【0059】
また、
図10で示した従来のZnS:Ag蛍光体(日亜化学工業製1109−041)のガンマ線照射蛍光スペクトルに比較すると、蛍光波長の範囲とピーク波長が全く異なり、蛍光強度が非常に少ないことがわかる。本蛍光体からガンマ線照射により放出される蛍光量(蛍光スペクトルの蛍光強度の積分値)は日亜化学工業製1109−041蛍光体から放出される蛍光量の4.5%と非常に小さな量でありガンマ線に対して非常に低感度であることが確認できた。
【0060】
従って、本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は、従来のZnS:Ag蛍光体とは異なる励起メカニズムを持つ蛍光体であることが確認できた。
【0061】
次に、本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体にアルファ線を照射した際得られるパルス信号をオシロスコープで測定しアルファ線に対しての減衰時間を測定した。測定方法については上記で述べた方法を用いた。
【0062】
2000個の信号を測定し、これらの信号を平均化して得られた硫化ストロンチウム0.6%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線信号波形と比較のため最初の実施例で述べた硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線信号波形とを
図14に示す。硫化ストロンチウム0.6%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体と硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の信号波形は同じ波形を示し、1μs内でほぼ多くのフォトンが放出され1μs以降のフォトンが非常に少なくなっていることが再確認できた。
【0063】
得られた信号を基にアフターグローの影響を調べるために蛍光寿命特性の解析を行った。解析方法については上記で述べた方法を用いた。解析の結果、本発明の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の減衰時間は、短減衰時間で0.124μsとなり、長減衰時間で0.254μsとなった。従来のZnS:Ag蛍光体に比較して短減衰時間では45%及び長減衰時間では14%の時間となり大きく改善された。
【0064】
また、アフターグロー比についてもほとんど1μs以下で減衰してしまって1.08と10%以下と非常に少ない量しか残らないのに対して従来のZnS:Ag蛍光体では8μsを経過しても1.66とまだ60%以上の多くのアフターグロー成分が残っていることがわかる。これらの性能は硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体と同じ性能を持つことがわかる。
【0065】
以上に示したように本実施例の硫化ストロンチウム0.6%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は上記で示した硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体と同様にガンマ線に対して非常に低感度であることまた減衰時間も短くアフターグローも非常に少ないことが確認できた。
【0066】
本実施例のまとめとして、実施例3から実施例8に基づいて色々な融材及び添加材を用いて製作した8種類の第1の蛍光体であるアルファ線有感蛍光スペクトルのピーク波長を主な製作条件と共に表1に示す。これらの結果より、第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を識別する上で最も重要なパラメータであるピーク波長が395nmないし410nmの範囲で製作条件によって変化することがわかる。また、詳細にこの実験結果を調べると同じ添加材を用いた場合、融材のハロゲン化物の内塩化物の方が臭化物よりもほんの少し短いピーク波長を示していることがわかった。
【0067】
なお、実施例2以降において第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射によって得られる蛍光スペクトルの形をアルファ線有感蛍光スペクトルと呼称して説明に使用する。
(実施例2)
【0068】
実施例2においては、第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体にアルファ線を照射した際に得られる320nmから580nmにわたって蛍光を放出し、そのピーク波長が395nmないし410nmである蛍光スペクトル、つまり上記で述べたアルファ線有感蛍光スペクトルに対応した蛍光スペクトルと、ガンマ線あるいは電子線を照射した際に放出される380nmから560nmにわたる蛍光スペクトルでピーク波長が435nmないし450nmの蛍光スペクトルに対応した蛍光スペクトルが、合成された蛍光スペクトルを示す銀賦活硫化亜鉛(ZnS:Ag)蛍光体であって、この合成された全蛍光スペクトルの強度に対して前者の蛍光スペクトルの強度が0.35倍ないし1倍未満である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体について説明する。なお、合成された全蛍光スペクトルの強度に対するアルファ線有感蛍光スペクトルの強度の割合をアルファ線検出割合と定義して以後呼称する。
【0069】
実施例1で述べた粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は薄い茶黄色を呈するため、中性子コンバータである
6LiFあるいは
10B
2O
3と混合して中性子シンチレータとして使用した場合、薄い茶黄色の着色により蛍光の透過率が低下するため、中性子に対する検出効率を上げる目的でシンチレータを厚くするとある厚さ以上では奥で中性子入射により発生した蛍光がシンチレータ表面から出てこなくなり、逆に検出効率が低下してしまうため、シンチレータを厚くすることが困難となる。
【0070】
このため、実施例1で述べた粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を開発する際に見つけ出していた添加材とする硫黄あるいは硫化物の添加量を変えて焼成すると、その添加量の増加に比例して焼成されたZnS:Ag蛍光体の色は着色を呈してくるという現象を用いて、ZnS:Ag蛍光体の着色が前記した中性子シンチレータ分野に応用した場合障害とならないレベルまで下げた粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する製造方法を開発した。また、本製造方法で製作した粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体はアフターグローの影響が少し出てくるもののアルファ線照射蛍光スペクトルの蛍光量は第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の蛍光量に比較して増加する利点がある。
【0071】
本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する工程の一つの例を以下に示す。工程のさらに詳細な内容については実施例3以降の製造方法において説明する。
【0072】
主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては塩化リチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては硫化ストロンチウムを使用する。実施例としては、硫化亜鉛の重量の0.175%の硫化ストロンチウムを添加する。以上の材料に蒸留水20ccを加えて混合した後、乾燥する。
【0073】
黒鉛を素材とした周囲を閉じたるつぼとしては、外側が60mmφで長さが50mm、内部が直径30mmφで底の厚さが10mm、上蓋の厚さ10mmの黒鉛るつぼを使用する。材料を入れる容積は直径30mmφで長さ30mmとなる。上蓋の中心には、内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための1mmφの穴を設ける。この黒鉛るつぼに乾燥させた焼成材料を入れた後、上蓋を閉める。
【0074】
この黒鉛るつぼを電気炉にいれて焼成を行う。電気炉としては(株)デンケン社製の電気炉KDF―S70型を使用した。焼成は以下の条件で行った。
焼成温度:820℃
カバーガス:CO
2を2リッター/分で流す
焼成時間:2時間
【0075】
焼成された焼結物は粉状にした後、水で洗浄し粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体とする。なお、この製造方法で製作される粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の色は、添加材である硫黄あるいは硫化物の量を少なくするに従い薄い茶黄色から白色近くまで変化する。本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の着色は非常に薄い黄褐色を呈した。
【0076】
得られた粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射とガンマ線照射に対しての蛍光特性を調べた。蛍光特性を測定するサンプルは、実施例1で述べた方法を用いて作製した。測定サンプルを蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射及びガンマ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。
【0077】
得られた硫化ストロンチウム0.175%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルとガンマ線照射により求めたガンマ線照射蛍光スペクトルをその最大値を1としてそれぞれ規格化した蛍光スペクトルとした後、アルファ線照射蛍光スペクトルからガンマ線照射蛍光スペクトルを差し引くことによりアルファ線有感蛍光スペクトル求め、得られたこれら3種類の蛍光スペクトルを
図15に示す。なお、ここで使用したガンマ線照射蛍光スペクトルは、アルファ線照射による蛍光スペクトルを求めるためのサンプルの作製方法ではサンプルの厚さが非常に薄いため十分な精度を持つガンマ線照射蛍光スペクトルが得られないことから、約10倍の厚さを持つサンプルを作製してガンマ線照射測定を行い求めた。以後の実施例においては、差し引きのために使用する蛍光スペクトルはこの方法によって得られた蛍光スペクトルを使用した。
【0078】
本実施例の硫化ストロンチウム0.175%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体はアルファ線照射により、320nmから580nmにわたって蛍光を放出することがわかる。一方、そのピーク波長は、アルファ線有感蛍光スペクトルとガンマ線照射蛍光スペクトルが合成された蛍光スペクトルであるため、合成の具合によっては、ピーク部分が平らとなり定義することが難しい。本実施例の場合、アルファ線有感蛍光スペクトルの寄与分が大きくピークを求めやすかったことから410nmと決定することができた。
【0079】
また、硫化ストロンチウム0.175%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のガンマ線照射した際得られるガンマ線照射蛍光スペクトルを
図16に示す。ピーク波長は440nmと従来の日亜化学工業製1109−041蛍光体のピーク波長450nmから少し短い波長の430nmにシフトした。本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体から放出される蛍光量(蛍光スペクトルの蛍光強度の積分値)は日亜化学工業製1109−041蛍光体から放出される蛍光量の40%とガンマ線に対して低感度であることが確認できた。
【0080】
本実施例では、アルファ線照射蛍光スペクトルに対するアルファ線有感蛍光スペクトルの割合は0.64となり、アルファ線有感蛍光スペクトルの方がガンマ線照射蛍光スペクトルに比較し約2倍の蛍光量を持つことが確認できた。また、本実施例のZnS:Ag蛍光体から放出される蛍光量(蛍光スペクトルの蛍光強度の積分値)は日亜化学工業製1109−041蛍光体から放出される蛍光量の105%とほぼ同じ蛍光量が得られた。
【0081】
次に、本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体にアルファ線を照射した際得られるパルス信号をオシロスコープで測定しアルファ線に対しての蛍光寿命特性を測定した。評価方法については実施例1で述べた評価方法を使用した。
【0082】
2000個の信号を測定し、これらの信号を平均化して得られた硫化ストロンチウム0.175%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線信号波形と実施例1で述べた硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線信号波形と共に
図17に示す。本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は1μs内でほぼ多くのフォトンが放出され1μs以降のフォトンが非常に少なくなっていることが確認できた。また、実施例1の硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体に比較して、ほんの少し1μs以降の蛍光成分が増加するだけであることもわかる。
【0083】
得られた信号を基にアフターグローの影響を調べるために減衰時間の解析を行った。解析方法は実施例1で述べた方法を用いた。
【0084】
解析の結果、本発明の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の減衰時間は、短減衰時間で0.227μsとなり、長減衰時間で0.527μsとなった。従来のZnS:Ag蛍光体に比較して短減衰時間では83%及び長減衰時間では30%の時間となり大きく改善された。また、アフターグロー比については、アルファ線照射蛍光スペクトルに、従来の蛍光スペクトル成分を含むため1.27と実施例1の第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体に比較して少し増加することが確認された。
(実施例3)
【0085】
本実施例では、第1及び第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する製作方法の例として、主原料である硫化亜鉛、賦活材である銀、融材と共に、添加材として硫化リチウム(Li
2S)を加えて第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する製造方法、添加材として硫黄と硫化ストロンチウムとの混合体を加えて第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製造方法及び添加材として硫化カルシウム(CaS)を加えて第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する製造方法、の3つの例について説明する。
【0086】
製造方法の詳細を述べる前に、最初に、硫黄が硫化亜鉛に導入される際にアルファ線有感蛍光スペクトル部分へ与える影響について調べた。硫化亜鉛と賦活材である銀のみを用い、融材を加えずに、添加材として硫黄の量を0%から5%まで変化させて焼成を行う実験を行った。焼成温度は820℃である。硫化亜鉛の粒度は中心が8μmの硫化亜鉛を使用した。なお、今後下記の特殊な場合を除いて実施例1から実施例8で使用する主原料の硫化亜鉛は中心が8μmの硫化亜鉛を使用した。この実験で得られたZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルの測定結果を
図18に示す。硫黄の添加量を0%から5%まで変化させてもほとんど変化がなかった。
【0087】
次に、硫黄との接触面積を大きくする、つまりZnSの実表面積を大きくする目的で硫化亜鉛の粒度を3μmに変更して、硫黄が硫化亜鉛に導入されやすくするために焼成温度を920℃に上げて同じ実験を行った。この実験で得られたZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルの測定結果を
図19に示す。硫黄の量が1.5%を超えるとアルファ線有感蛍光スペクトル部分が増加すると共にピークも短い波長側にシフトすることが確認できた。つまり、硫黄成分の増加によりアルファ線有感蛍光スペクトルの部分が増加することが確認できた。また、これらの実験結果より、添加材である硫黄を加えて焼成する際、融材がないとほんの少ししか硫黄が入らず、融材を使用することにより硫黄あるいは硫化物を加える効果が確実に出ることも確認できた。
【0088】
また、アルファ線有感蛍光スペクトル部分を増加させる可能性がある方法として融材の量を多くした場合があるため、従来から使用されている融材である塩化ナトリウム(NaCl)について、硫黄を添加せず、塩化ナトリウムの量をZnSの重量に対して10%とし通常の約2倍の量を添加して焼成温度920℃で焼成を行った。アルファ線を照射して得た蛍光スペクトルを、比較のため測定したP11蛍光体及び日亜化学1109−041蛍光体と比較して
図20に示す。従来のZnS:Ag蛍光体と全く同じアルファ線照射蛍光スペクトルが得られた。この実験結果より、融材である塩化ナトリウムを増加しただけではアルファ線有感蛍光スペクトル部分は増加せず、硫黄あるいは硫化物を加えることによりアルファ線有感蛍光スペクトル部分を増加させることができることが再確認できた。
【0089】
以上の実験結果を踏まえて、アルカリ金属の硫化物である硫化リチウム(Li
2S)を硫化亜鉛の重量の0.25%を添加して焼成した第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の製造方法についての実施例を述べる。
【0090】
主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。賦活材である銀(Ag)は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては塩化リチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては融点が硫化リチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の0.25%を添加する。以上の材料に蒸留水20ccを加えて混合した後、乾燥する。
【0091】
黒鉛を素材とした周囲を閉じたるつぼとしては、外側が60mmφで長さが50mm、内部が直径30mmφで底の厚さが10mm、上蓋の厚さが10mmの黒鉛るつぼを使用する。材料を入れる容積は直径30mmφで長さ30mmとなる。上蓋の中心には、内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための1mmφの穴を設ける。この黒鉛るつぼに乾燥させた焼成材料を入れた後上蓋を閉める。
【0092】
この黒鉛るつぼを電気炉にいれて焼成を行う。電気炉としては、最大使用温度が1100℃である(株)デンケン社製の電気炉KDF―S70型を使用した。焼成は以下の条件で行った。
焼成温度:820℃
カバーガス:CO
2を2リッター/分で流す
焼成時間:3時間
【0093】
焼成された焼結物は粉状にした後、水で洗浄し粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体とする。この粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の色は白色ではなく薄い茶黄色を呈する。
【0094】
得られた粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射とガンマ線照射に対しての蛍光特性を調べた。蛍光特性を測定するサンプルは、実施例1で述べた方法を用いて作製した。この測定サンプルを蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射及びガンマ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。
【0095】
硫化リチウム0.25%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルを比較のために実施例1で述べた硫化ストロンチウム0.6%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルと共に
図21に示す。本実施例の硫化リチウム0.25%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルは、320nmから580nmにわたって蛍光を放出し、そのピーク波長が401nmであることがわかる。一方、実施例1の硫化ストロンチウム0.6%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は320nmから580nmにわたって蛍光を放出し、そのピーク波長が398nmである。両者を比較すると硫化リチウム0.25%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の方が少し長い波長側に膨らむことがわかった。
【0096】
次の実施例として、添加材として硫黄と硫化ストロンチウムの混合体を用いて第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の製造方法についての実施例を述べる。
【0097】
製作工程は添加材としての硫黄と硫化ストロンチウムの混合体の添加量と焼成温度以外について上記で述べた工程と全く同じ条件で製作を行った。
【0098】
主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては塩化リチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては硫黄と硫化ストロンチウムの混合体を用い、硫黄としては硫化亜鉛の重量の2%を添加し、硫化ストロンチウムとしては硫化亜鉛の重量の1%を添加した。以上の材料に蒸留水20ccを加えて混合した後、乾燥する。
【0099】
焼成温度は820℃に設定して焼成を行った。得た粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は薄い黄褐色を呈した。
【0100】
得られた粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射に対しての蛍光特性を調べた。蛍光特性の測定するサンプルは、実施例1で述べた方法を用いて作製した。この測定サンプルを蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。
【0101】
硫黄2%と硫化ストロンチウム1%の混合体添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルを比較のために実施例1で述べた硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルと共に
図22に示す。本実施例の硫黄2%と硫化ストロンチウム1%の混合体添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルは、320nmから580nmにわたって蛍光を放出し、そのピーク波長が401nmであることがわかる。一方、実施例1の硫黄5%添加のZnS:Ag蛍光体は320nmから580nmにわたって蛍光を放出し、そのピーク波長が402nmである。両者を比較すると、ピーク波長も蛍光スペクトルがほんの少し長波長側に膨らむもののほとんど同じ第1の蛍光スペクトルなることが確認できた。
【0102】
また、添加材として、硫黄と硫化ストロンチウムの混合体を用い、混合比を前記の実施例と変えて、硫黄としては硫化亜鉛の重量の2%を添加し、硫化ストロンチウムとしては硫化亜鉛の重量の0.5%を添加した場合について、前記と全く同じ条件で粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を焼成した。
【0103】
得られた硫黄2%と硫化ストロンチウム0.5%の混合体添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射に対しての蛍光特性を調べた。蛍光特性の測定するサンプルは、実施例1で述べた方法を用いて作製した。この測定サンプルを蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射の測定を行った。
【0104】
硫黄2%と硫化ストロンチウム0.5%の混合体添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルを比較のために実施例1で述べた硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルと共に
図23に示す。本実施例の硫黄2%と硫化ストロンチウム0.5%の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルは、320nmから580nmにわたって蛍光を放出し、そのピーク波長が400nmであることがわかる。実施例1の硫黄5%添加の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体と比較すると上記硫黄2%と硫化ストロンチウム1%の混合体添加のZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルの場合と逆に短波長側に減少した蛍光スペクトルとなった。
【0105】
この結果より、硫黄と硫化ストロンチウムの混合体を用いて第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する場合にはその組み合わせにもよるが、実施例1で示した硫黄5%を添加して得られる蛍光スペクトルに近い蛍光スペクトルが得られることがわかった。
【0106】
本実施例3の最後に添加材として硫化カルシウム(CaS)を加えて第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する製造方法について述べる。
【0107】
製作工程は添加材の硫化カルシウムのZnSに対する添加量と焼成温度以外について上記で述べた工程と全く同じ条件で製作を行った。
【0108】
主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては塩化リチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては硫化カルシウムを使用し、硫化亜鉛の重量の5%を添加する。以上の材料に蒸留水20ccを加えて混合した後、乾燥する。
【0109】
焼成温度は硫化カルシウムの融点が2400℃と高いため、920℃に設定して焼成を行った。得た粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は極めて薄い黄褐色を呈した。
【0110】
この粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射とガンマ線照射に対しての蛍光特性を調べた。蛍光特性を測定するサンプルは、実施例1で述べた方法を用いて作製した。この測定サンプルを蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射及びガンマ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。
【0111】
得られた硫化カルシウムを硫化亜鉛の重量の5%を添加して焼成したZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルとガンマ線照射により求めたガンマ線照射蛍光スペクトルをその最大値を1としてそれぞれ規格化した蛍光スペクトルとした後、アルファ線照射蛍光スペクトルからガンマ線照射蛍光スペクトルを差し引くことによりアルファ線有感蛍光スペクトル求めた。得られたこれら3種類の蛍光スペクトルを
図24に示す。
【0112】
アルファ線照射蛍光スペクトルの量に対するアルファ線有感スペクトルの量を示すアルファ線検出割合は0.71となった。また、本粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体から放出される蛍光量(蛍光スペクトルの蛍光強度の積分値)は日亜化学工業製1109−041蛍光体から放出される蛍光量の90%が得られた。
(実施例4)
【0113】
本実施例としては、実施例3で述べた製造方法において、焼成温度を下げる融材として従来から使用されてきた塩化ナトリウムが属するアルカリ金属のハロゲン化物であるであるLiX、NaX,KX,RbX,CsX(XとしてはCl,Br,F)、MgX及びアルカリ土類金属のハロゲン化物であるCaX,SrX,BaX、Ce(XとしてはCl,Br,F)を硫化亜鉛の重量に対して2%から8%の重量を添加して製作する製造方法について説明する。
【0114】
従来、ZnS:Ag蛍光体の製造する際には通常、融材(フラックスとも呼ばれている)として塩化ナトリウム、塩化バリウム(BaCl)などが使用されており、詳細に表示する場合にはClが加えられてZnS:Ag、Clと表示されてきた。
【0115】
塩化ナトリウムが属するアルカリ金属のハロゲン化物であるであるLiX、NaX,KX,RbX,CsX(XとしてはCl,Br,F)、MgX及びアルカリ土類金属のハロゲン化物であるCaX,SrX,BaX、Ce(XとしてはCl,Br,F)についてそれぞれ入手しやすいものを本実施例では融材として使用した。選択に当たっては、融点が重要なため、一般に臭化物は融点が低く、次に塩化物そしてフッ化物は最も融点が高くなるので、融点が高いアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の塩化物については同じアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の臭化物を選択した。
【0116】
そのうち最も使用しやすい材料が塩化リチウムであったので実施例1から3及び実施例5から8までで使用した。
【0117】
アルカリ金属のハロゲン化物については、塩化物としては塩化ナトリウム(NaCl),塩化ルビジウム(RbCl),臭化物については臭化リチウム(LiBr),臭化カリウム(KBr)、臭化ルビジウム(RbBr),臭化セシウム(CsBr)そしてフッ化物としては、フッ化リチウム(LiF)を融材として使用した場合についての実施例について述べる。
【0118】
主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては上記で述べた7種類を使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては硫黄(S)を使用し、その添加量については表2に示す硫化亜鉛の重量に対する値の量を添加する。以上の材料に蒸留水20ccを加えて混合した後、乾燥する。
【0119】
【表2】
【0120】
黒鉛を素材とした周囲を閉じたるつぼとしては、外側が60mmφで長さが50mm、内部が直径30mmφで底の厚さが10mm、上蓋の厚さ10mmの黒鉛るつぼを使用する。材料を入れる容積は直径30mmφで長さ30mmとなる。上蓋の中心には、内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための1mmφの穴を設ける。この黒鉛るつぼに乾燥させた焼成材料を入れた後上蓋を閉める。
【0121】
この黒鉛るつぼを電気炉にいれて焼成を行う。電気炉としては(株)デンケン社製の電気炉KDF―S70型使用した。
焼成温度:表2に示す温度を使用した。
カバーガス:CO
2を2リッター/分で流す
焼成時間:表2に示す時間を焼成した。
【0122】
焼成された焼結物は粉状にした後、水で洗浄し粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体とする。
【0123】
焼成された融材が塩化ナトリウム,塩化ルビジウム,臭化リチウム,臭化カリウム、臭化ルビジウム,臭化セシウムそしてフッ化リチウムの7種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体について測定サンプルを作製し、蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。得られた7種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体について、アルファ線照射蛍光スペクトルを比較しやすいように最大値を1に規格化して得たアルファ線照射蛍光スペクトルを
図25から
図31に示す。
【0124】
得られたアルファ線照射蛍光スペクトルを解析して得たアルファ線照射蛍光スペクトルの量に対するアルファ線有感スペクトルの量の割合であるアルファ線検出割合を表2に示す。いずれも目標とする0.35以上の値が得られ、これらの融材により第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体が製作可能であることが確認できた。
【0125】
次に、マグネシウムと及びアルカリ土類金属のハロゲン化物については、塩化物としては塩化カルシウム(CaCl
2)、塩化セリウム(CeCl
3)、塩化ストロンチウム(SrCl
2)、臭化物については臭化マグネシウム(MgBr
2)、臭化バリウム(BaBr
2)を融材として使用した場合についての実施例について述べる。
【0126】
製作工程については上記と同じとし、硫黄の添加量と焼成温度は表2に示す条件で製作を行った
【0127】
焼成された融材が塩化カルシウム,塩化セリウム,塩化ストロンチウム、臭化マグネシウムそして臭化バリウムの5種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体について測定サンプルを作製し、蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。
【0128】
得られた5種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルを比較しやすいように最大値を1に規格化して得たアルファ線照射蛍光スペクトルを
図32から
図36に示す。各アルファ線照射蛍光スペクトルを解析して得たガンマ線照射蛍光スペクトルの量に対するアルファ線有感蛍光スペクトルの量の割合であるアルファ線検出割合を表2に示す。いずれも目標とする0.35以上の値が得られ、これらの融材により第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体が製作可能であることが確認できた。
【0129】
以上で示したように、アルファ線照射蛍光スペクトルの量に対するアルファ線有感スペクトルの量の割合であるアルファ線検出割合を、アルカリ金属、マグネシウム(Mg)及びアルカリ土類金属のハロゲン化物を融材として使用し、硫黄あるいは硫化物の硫化ストロンチウムを添加することにより制御できることができることから、アルファ線検出割合が1である第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体及び第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作できることが確認できた。
(実施例5)
【0130】
本実施例としては、実施例3及び実施例4で述べた製造方法を用いて第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する際に、主原料である硫化亜鉛、賦活材である銀(Ag)、焼成温度を下げる融材および添加材である硫黄あるいは硫化物を加えて焼成材料を作り、黒鉛を素材として周囲を閉じたるつぼに焼成の際にるつぼ内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための小さな穴を設けた黒鉛るつぼを使用し、この黒鉛るつぼに焼成材料を収容した後、酸素濃度の低いガスをカバーガスとして流しながら、融材の融点以上の温度からZnSの昇華温度より十分低い1000℃以下の温度で、焼成時間として2時間から3時間焼成する製造方法について説明する。
【0131】
既に、黒鉛を素材として周囲を閉じたるつぼに焼成の際にるつぼ内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための小さな穴を設けた黒鉛るつぼを使用し、この黒鉛るつぼに焼成材料を収容した後、酸素濃度の低いガスをカバーガスとして流しながら、融材の融点以上の温度からZnSの昇華温度より十分低い1000℃以下の温度で、焼成時間として2時間ないし3時間焼成することによる例については実施例1から実施例4において示した。
【0132】
本実施例では、最初に、黒鉛を素材として周囲を閉じたるつぼに焼成の際にるつぼ内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための小さな穴を設けた黒鉛るつぼの穴の大きさを変化させたことによって得られるZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルに与える影響について述べる。
【0133】
なお、黒鉛るつぼ内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための小さな穴の役割は、焼成により硫化亜鉛、融材及び添加した硫黄あるいは硫化物などの昇華物、特に硫黄と亜鉛の昇華物が黒鉛るつぼ内で滞留しながら硫化亜鉛と反応する過程でその滞留量と外部に逃げる量のバランスを取り、最終的に目的とする亜鉛と硫黄の構成比を得る役割を果たしていると考えられる。
【0134】
主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。本発明の実例では中心の粒度が8μmの硫化亜鉛を使用した。賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては臭化バリウム(BaBr
2)を使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては硫黄を使用し、その添加量は硫化亜鉛の重量に対して2%を添加する。以上の材料に蒸留水20ccを加えて混合した後、乾燥する。
【0135】
黒鉛を素材とした周囲を閉じたるつぼとしては、外側が60mmφで長さが50mm、内部が直径30mmφで底の厚さが10mm、上蓋の厚さ10mmの黒鉛るつぼを使用する。材料を入れる容積は直径30mmφで長さ30mmとなる。上蓋の中心に内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための穴を空ける。穴の直径が0.7mm、1mmそして1.4mmの3種類の穴を設けた3枚の上蓋を用意した。このるつぼに乾燥させた焼成材料を入れた後各上蓋を閉めて3種類の黒鉛るつぼを用意した。
【0136】
これらの黒鉛るつぼを電気炉にいれて焼成を行った。電気炉としては(株)デンケン社製の電気炉KDF―S70型を使用した。焼成は以下の条件で行った。
焼成温度:920℃
カバーガス:CO
2を2リッター/分で流す
焼成時間:2時間
【0137】
焼成された焼結物は粉状にした後、水で洗浄し粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体とした。
【0138】
融材として臭化バリウム6%を用い、添加材として硫黄2%を用いて焼成された3種類のZnS:Ag蛍光体について測定サンプルを作製し、蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射によるアルファ線照射蛍光スペクトルの測定を行った。得られた3種類のZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルを比較しやすいように最大値を1に規格化して
図37に示す。黒鉛るつぼの上蓋にあけた穴が大きくなるに従い、アルファ線照射蛍光スペクトルの420nm以下の短い波長領域に当たるアルファ線有感蛍光スペクトルの部分が増加することがわかる。
【0139】
この実験結果より、黒鉛を素材として周囲を閉じたるつぼに焼成の際にるつぼ内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための小さな穴を設けた黒鉛るつぼを使用してZnS:Ag蛍光体のアルファ線有感蛍光スペクトルの量を制御できることが確認できた。また、得られたアルファ線照射蛍光スペクトルを解析してアルファ線検出割合を求めた。その結果、上記焼成条件でZnS:Ag蛍光体を製作した場合、上蓋に直径1.4mmの穴を空けた黒鉛るつぼを使用すれば、アルファ線検出割合が0.56となり目標とする0.35以上の値が得られたことから、第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作できることが確認できた。
【0140】
以上の結果より、黒鉛るつぼの上蓋の中心に内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための穴を空けることにより、添加材の種類とその量をパラメータとし、昇華物の量を制御することにより目的とする粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を焼成できることが確認できた。
【0141】
次の製造方法に関わる実施例として、融材である塩化リチウムの添加量が焼成後の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体に与える影響について調べた。製造方法は上記で述べた方法を用い、賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加し、添加材である硫黄については硫化亜鉛の重量に対して2%添加し、そして融材である塩化リチウムについては2%,4%,6%及び8%の4種類の添加量について焼成材料を作製した。焼成温度は820℃に設定し、焼成時間2時間で焼成した。
【0142】
塩化リチウムの添加量が2%,4%,6%及び8%の4種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体についてアルファ線照射蛍光スペクトルを
図38に示す。塩化リチウムの添加量が最も低い2%の場合はアルファ線有感蛍光スペクトル部分が大きく減少したがその他については全く同じ効果を示すことが確認できた。このため、本実施例での融材である塩化リチウムの添加量は4%から8%が好ましいことが確認できた。
【0143】
次の製造方法に関わる実施例として、銀賦活として用いる硝酸銀の添加量が焼成後の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体に与える影響について調べた。製造方法は上記で述べた方法を用い、添加材である硫黄については硫化亜鉛の重量に対して2%添加し、融材である塩化リチウムについては硫化亜鉛の重量に対して6%添加し、賦活材である銀は硝酸銀の形として硫化亜鉛の重量の0.005%,0.008%, 0.012%,0.025%及び0.045%の5種類の添加量について焼成材料を作製した。焼成温度は780℃に設定し、焼成時間2時間で焼成した。
【0144】
賦活材である銀は硝酸銀の形として硫化亜鉛の重量の0.005%,0.008%, 0.012%,0.025%及び0.045%の5種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体についてアルファ線照射蛍光スペクトルを
図39に示す。最も低い硝酸銀の添加量である0.005%の場合はアルファ線有感蛍光スペクトル部分が大きく減少したがその他についてはほぼ同じ効果を示すことが確認できた。また、最も高い0.045%の時には焼成後のZnS:Ag蛍光体に着色が見られた。このため、硝酸銀の添加量は0.008%から0.025%が好ましいことが確認できた。
【0145】
さらに、これまで述べてきた本発明の実施例ではZnS:Ag蛍光体を焼成する際、電気炉内に流す酸素濃度の低いカバーガスとして炭酸ガス(CO
2)を用いてきたが、異なったガスとして窒素ガス(N
2)ガスを流した場合でもZnS:Ag蛍光体が焼成できることを確認する実験を行った。
【0146】
融材としては塩化ナトリウムを硫化亜鉛の重量に対して6%、添加材としては硫黄を2%用いた。焼成温度はいずれも920℃である。その他の条件は上記で述べた実施例と同じである。
【0147】
カバーガスとして炭酸ガス及び窒素ガスを流して焼成した2種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体についてアルファ線照射蛍光スペクトルを比較しやすいように最大値を1に規格化して
図40に示す。窒素ガスの方が少しアルファ線有感蛍光スペクトルの部分が多いが両方とも蛍光スペクトルのアルファ線有感蛍光スペクトルの部分が増加し、アルファ線検出割合が0.35以上となることを確認できた。この実験結果よりカバーガスとして炭酸ガス及び窒素ガスのどちらを使用しても、粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作できることを確認できた。
【0148】
本実施例の最後に、焼成時間が焼成された粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線有感蛍光スペクトルへ与える影響を調べるために、2種類の融材について焼成時間が2時間と3時間に場合について実験を行った。融材としては臭化ストロンチウム(SrBr
2)及び臭化マグネシウム(MgBr
2)をZnSの重量に対して6%使用し、添加材としては硫黄を2%用いた。焼成温度はいずれも920℃である。
【0149】
得られた融材として臭化ストロンチウム及び臭化マグネシウムを使用した粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の焼成時間が2時間の場合と3時間の場合のZnS:Ag蛍光体について、アルファ線照射蛍光スペクトルを比較しやすいように最大値を1に規格化してそれぞれ
図41と
図42に示す。両方の融材ともアルファ線照射蛍光スペクトルのアルファ線有感蛍光スペクトルの部分が、焼成時間を2時間から3時間に長くすることにより増加していることが確認できた。この実験結果より焼成時間を変えることにより、粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線検出割合を制御できることが確認できた。
【0150】
以上をまとめると、主原料である硫化亜鉛に硫化亜鉛の重量に対して0.008%から0.025%の重さの硝酸銀を賦活材である銀として加え、主原料の硫化亜鉛(ZnS)の重量に対して2%から8%の融材を加え、添加材については硫黄あるいは硫化ストロンチウムを希望とする第1あるいは第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体に合わせて加え、カバーガスとしては炭酸ガスあるいは窒素ガスを使用し、焼成温度は融材の融点を参考に融点から1000℃に設定し、焼成時間としては2時間ないし3時間とし、これらの条件で焼成することにより目的とする第1あるいは第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作することができることが確認できた。
(実施例6)
【0151】
本実施例としては、実施例3、実施例4及び実施例5の製造方法において、主原料である硫化亜鉛、賦活材である銀、焼成温度を下げる融材と共に添加材として硫黄及び硫化物である硫化ストロンチウムの添加量を変化させることにより減衰時間の異なる第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する製造方法について説明する。
【0152】
最初に、添加材として硫黄を用いた場合について述べる。主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては塩化リチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては硫黄を使用し、硫化亜鉛の重量の2%、2.5%,4%,5%、8%を添加する。以上の材料に蒸留水20ccを加えて混合した後、乾燥する。
【0153】
黒鉛を素材とした周囲を閉じたるつぼとしては、外側が60mmφで長さが50mm、内部が直径30mmφで底の厚さが10mm、上蓋の厚さ10mmの黒鉛るつぼを使用する。材料を入れる容積は直径30mmφで長さ30mmとなる。上蓋の中心には、内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための1mmφの穴を設ける。この黒鉛るつぼに乾燥させた焼成材料を入れた後上蓋を閉める。
【0154】
この黒鉛るつぼを電気炉にいれて焼成を行う。電気炉としては(株)デンケン社製の電気炉KDF―S70型を使用した。焼成は以下の条件で行った。
焼成温度:820℃
カバーガス:CO
2を2リッター/分で流す
焼成時間:2時間
【0155】
焼成された焼結物は粉状にした後、水で洗浄し粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体とする。この粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の色は白色ではなく薄い茶黄色を呈する。
【0156】
添加材として硫黄を用い、その添加量を変えて焼成された5種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体について測定サンプルを作製し、蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射及びガンマ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。
【0157】
得られた5種類のZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルを
図43に示す。添加材である硫黄の量を増加すると蛍光量が減少することがわかる。
【0158】
また、蛍光スペクトルの形の変化を比較しやすいように最大値を1に規格化して
図44に示す。
図43には、添加材が硫化物である硫化ストロンチウム量0.6%の蛍光スペクトルも蛍光スペクトルの形の比較のため加えた。
【0159】
蛍光スペクトルの変化については、添加材である硫黄の量を増加すると硫黄量2%についてはまだ長波長側にほんの少し膨らみがあることがわかるが、硫黄量2.5%以上ではほぼ同じとなり変化しなくなった。このため、硫黄を添加した場合の最終の蛍光スペクトルの形は硫黄量8%である。比較のために、
図44に加えた硫化ストロンチウム量0.6%添加の蛍光スペクトルと異なり、少し長波長側に膨らむ形となることが確認できた。
【0160】
なお、硫黄量2%については膨らみが他に比較して大きいことから、第2の蛍光体の蛍光スペクトルであると考えられるため、アルファ線照射蛍光スペクトルをガンマ線照射蛍光スペクトルとアルファ線有感スペクトルに分ける解析を行った。解析結果を
図45に示す。アルファ線照射蛍光スペクトルに対するアルファ線有感スペクトルの蛍光量の割合であるアルファ線検出割合は0.84であることがわかり、硫黄量2%ではまだ第2の蛍光体の蛍光スペクトルを持つ粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体であることがわかった。
【0161】
最終的に、第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体ができていることの確認は、ガンマ線照射を行って得られた蛍光スペクトルのピーク位置が従来のP11のガンマ線照射をした場合の蛍光スペクトルのピーク位置である450nmに近い値なのか、あるいは本発明のアルファ線有感蛍光スペクトルを示す蛍光部分のガンマ線感度に由来するピークつまり400nmに近いのかで判別できる。
【0162】
このため、硫黄量2.5%と硫黄量5%についてガンマ線照射試験を行った。得られたガンマ線照射蛍光スペクトルを
図46に示す。
【0163】
この結果、硫黄量2.5%と硫黄量5%の蛍光量が極めて低く、P11のガンマ線照射に比較して4.7%と4.4%であり、そのピーク波長は410nm付近であることがわかった。このため、硫黄の添加量が2.5%以上については第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体であることが確認できた。
【0164】
次に、もう一つの実施例として、添加材として硫化ストロンチウムを用いた場合について述べる。主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては塩化リチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては硫化ストロンチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の0.25%,0.4%,0.6%、1%,4%、8%を添加する。以上の材料を蒸留水20cc中で混合した後、乾燥する。
【0165】
黒鉛を素材とした周囲を閉じたるつぼとしては、外側が60mmφで長さが50mm、内部が直径30mmφで底の厚さが10mm、上蓋の厚さ10mmの黒鉛るつぼを使用する。材料を入れる容積は直径30mmφで長さ30mmとなる。上蓋の中心には、内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための1mmφの穴を設ける。このるつぼに乾燥させた焼成材料を入れた後上蓋をしめる。
【0166】
この黒鉛るつぼを電気炉にいれて焼成を行う。電気炉としては(株)デンケン社製の電気炉KDF―S70型を使用した。焼成は以下の条件で行った。
焼成温度:820℃
カバーガス:CO
2を2リッター/分で流す
焼成時間:2時間
【0167】
焼成された焼結物は粉状にした後、水で洗浄し粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体とする。このZnS:Ag蛍光体の色は白色ではなく薄い茶黄色を呈する。
【0168】
添加材として硫化ストロンチウムを用い、その添加量を変えて焼成された6種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体について測定サンプルを作製し、蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。得られた6種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルを
図47に示す。添加材である硫化ストロンチウムの量を増加すると蛍光量が減少することがわかる。
【0169】
また、形の変化を比較しやすいように最大値を1に規格化して
図48に示す。
【0170】
蛍光スペクトルの変化については、添加材である硫化ストロンチウムの量を増加すると硫化ストロンチウム量0.25%についてはまだ長波長側にほんの少し膨らみがあることがわかるが、硫化ストロンチウム量0.4%%以上ではほぼ同じとなり変化しなくなった。蛍光スペクトルをよく見ると、硫化ストロンチウム量が4%以上では、ピーク波長が360nmである蛍光スペクトルが新しく追加されており、硫化ストロンチウム量を増加することにより新しい蛍光発生メカニズムが生まれることが確認された。実際には
図47からわかるように硫化ストロンチウム量4%以上では蛍光量が非常に少なくなるため、実際にこのピークを持つ蛍光体を粒子線検出に使うことは難しい。このため、硫化ストロンチウムを添加した場合の実用的な蛍光スペクトルの形は硫化ストロンチウム量1%までである。
【0171】
第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体ができていることの確認は、上記で述べた添加材として硫黄を用いた場合と同じ方法を用いた。このため、硫化ストロンチウム量0.25%ついてガンマ線照射試験を行った。得られたガンマ線照射蛍光スペクトルを
図49に示す。
【0172】
この結果、硫化ストロンチウム量0.25%の蛍光量が極めて低く、P11のガンマ線照射の場合に比較して10%であり、そのピーク波長は410nm付近であることがわかった。このため、硫化ストロンチウムの添加量が0.25%以上については第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体であることが確認できた。
【0173】
硫化ストロンチウム量0.25%の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体が第1の蛍光体に属する蛍光体であることがわかったので、形が似ている硫黄量8%の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の蛍光スペクトルと比較した。比較結果を
図50に示す。完全に一致した。
【0174】
この結果より、本発明における重要な結論である、添加材として硫黄を添加していった場合に達した蛍光スペクトルは、まだ完全に究極の蛍光スペクトルに達したわけではなく、硫化ストロンチウムを添加した場合では、硫化亜鉛の重量に対して0.25%の添加で同じ蛍光スペクトルを持つ粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作できることが確認できた。つまり、実施例1で第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の蛍光スペクトルの形を硫黄型と硫化物型に仮に定義して分けていたが、硫黄型は単に硫化物型の添加量の少ない蛍光体に該当しているだけで、まだ究極の蛍光スペクトルへの途中段階であることが確認できた。
【0175】
次に、本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体にアルファ線を照射した際得られるパルス信号をオシロスコープで測定しアルファ線に対しての蛍光寿命特性を測定した。評価方法については実施例1で述べた評価方法を使用した。
【0176】
2000個の信号を測定し、これらの信号を平均化して求めたフォトン数(1μsの間に放出されたフォトンの数)及び短減衰時間(1μsの間に放出された量に対しての時間)を硫化ストロンチウムの添加量をパラメータとしてプロットしたグラフを
図51に示す。硫化ストロンチウムの添加量の増加と共にフォトン数及び短減衰時間が減少することがわかる。また、フォトン数と短減衰時間の相関を
図52に示す。フォトン数と短減衰時間が比例関係にあることがわかる。なお、
図51及び
図52のプロットの際、硫化ストロンチウムとして硫化亜鉛の重量の0.1%、0.5%、0.75%及び6%を添加した蛍光体の測定結果を追加してプロットした。
【0177】
この結果より、高計数率での測定のために減衰時間の短い蛍光体が要求される場合には、硫化ストロンチウムの添加量を増加して製作すればフォトン数は減少するが短い減衰時間を持つ第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作することができることが確認できた。
【0178】
また、硫黄を添加材として使用した場合についても
図43と
図47のアルファ線照射蛍光スペクトルを比較すると硫化ストロンチウムと同じように硫黄の添加量の増加とともに蛍光量が減少することから、同様に硫黄の添加量を増加して製作すればフォトン数は減少するが短い減衰時間を持つ第1の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作することができることがわかる。
(実施例7)
【0179】
本実施例としては、実施例3、実施例4及び実施例5の製造方法において、主原料である硫化亜鉛、賦活材である銀、融材と共に添加材として硫黄及び硫化物である硫化ストロンチウムの添加量を変化させることにより、アルファ線照射蛍光スペクトルに対するアルファ線有感蛍光スペクトルの割合を示すアルファ線検出割合を0.35倍ないし1倍未満の製造目的とする値とすることを特徴とした第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する製造方法について説明する。
【0180】
最初に、添加材として硫黄を用いた場合について述べる。主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては塩化リチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては硫黄を使用し、硫化亜鉛の重量の0.05%,0.1%、0.2%,0.3%、0.5%、1%、2%を添加する。以上の材料を蒸留水20cc中で混合した後、乾燥する。
【0181】
黒鉛を素材とした周囲を閉じたるつぼとしては、外側が60mmφで長さが50mm、内部が直径30mmφで底の厚さが10mm、上蓋の厚さ、10mmの黒鉛るつぼを使用する。材料を入れる容積は直径30mmφで長さ30mmとなる。上蓋の中心には、内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための1mmφの穴を設ける。このるつぼに乾燥させた焼成材料を入れた後上蓋をしめる。
【0182】
この黒鉛るつぼを電気炉にいれて焼成を行う。電気炉としては(株)デンケン社製の電気炉KDF―S70型を使用した。焼成は以下の条件で行った。
焼成温度:820℃
カバーガス:CO
2を2リッター/分で流す
焼成時間:2時間
【0183】
焼成された焼結物は粉状にした後、水で洗浄し粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体とする。この粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の色は白色ではなく極めて薄い茶黄色を呈する。
【0184】
融材として塩化リチウムを用いて添加材として硫黄を用い、その添加量を変えて焼成された7種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体について測定サンプルを作製し、蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。得られた6種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルの形の変化を比較しやすいように最大値を1に規格化して
図53に示す。
【0185】
得られたアルファ線照射蛍光スペクトルを解析して得たアルファ線検出割合について硫黄添加量をパラメータとして
図54に示す。いずれも目標とする0.35以上の値が得られ、添加する硫黄の量を変えることによって第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体が製作可能であることが確認できた。
【0186】
次に、添加材として硫化ストロンチウムを用いた場合について述べる。主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては塩化リチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては硫化ストロンチウムを使用し、硫化亜鉛の重量の0.05%、0.1%,0.15%、0.175%,0.2%を添加する。以上の材料を蒸留水20cc中で混合した後、乾燥する。
【0187】
黒鉛を素材とした周囲を閉じたるつぼとしては、外側が60mmφで長さが50mm、内部が直径30mmφで底の厚さが10mm、上蓋の厚さ10mmの黒鉛るつぼを使用する。材料を入れる容積は直径30mmφで長さ30mmとなる。上蓋の中心には、内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための1mmφの穴を設ける。このるつぼに乾燥させた焼成材料を入れた後上蓋をしめる。
【0188】
この黒鉛るつぼを電気炉にいれて焼成を行う。電気炉としては(株)デンケン社製の電気炉KDF―S70型を使用した。焼成は以下の条件で行った。
焼成温度:820℃
カバーガス:CO
2を2リッター/分で流す
焼成時間:2時間
【0189】
焼成された焼結物は粉状にした後、水で洗浄し粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体とする。この粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の色は白色ではなく極めて薄い茶黄色を呈する。
【0190】
融材として塩化リチウムを用いて添加材として硫化ストロンチウムを用い、その添加量を変えて焼成された6種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体について測定サンプルを作製し、蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。得られた6種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルの形の変化を比較しやすいように最大値を1に規格化して
図55に示す。
【0191】
得られたアルファ線照射蛍光スペクトルを解析して得たアルファ線検出割合について硫化ストロンチウムの添加量をパラメータとして
図56に示す。いずれも目標とする0.35以上の値が得られ、添加する硫化ストロンチウムの量を変えることによって第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体が製作可能であることが確認できた。
【0192】
次に、本実施例の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体にアルファ線を照射した際得られるパルス信号をオシロスコープで測定しアルファ線に対しての蛍光寿命特性を測定した。評価方法については実施例1で述べた評価方法を使用した。
【0193】
2000個の信号を測定し、これらの信号を平均化して求めた短減衰時間(1μsの間に放出された量に対しての時間)を硫化ストロンチウムの添加量をパラメータとして
図57に示す。硫化ストロンチウムの添加量の増加と共に短減衰時間が減少することがわかる。
【0194】
以上の測定結果より、硫黄及び硫化物である硫化ストロンチウムの添加量を変えることによって第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作できることが確認された。
(実施例8)
【0195】
本実施例としては、実施例3、実施例4及び実施例5の製造方法において、主原料である硫化亜鉛、賦活材である銀、融材と共に添加材として硫黄を添加して焼成する際に、焼成前に設定する焼成温度を変えることによって、アルファ線照射蛍光スペクトルに対するアルファ線有感蛍光スペクトルの割合を示すアルファ線検出割合を0.35倍ないし1倍未満の製造目的とする値とすることを特徴とした第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作する製造方法について説明する。
【0196】
主原料である硫化亜鉛を50gr使用する。賦活材である銀は硝酸銀の形で使用し硫化亜鉛の重量の0.015%を添加する。融材としては融点が800℃の塩化ナトリウムを使用し、硫化亜鉛の重量の6%を添加する。添加材としては硫黄を使用し、硫化亜鉛の重量の2%を添加する。以上の材料を蒸留水20cc中で混合した後、乾燥する。
【0197】
黒鉛を素材とした周囲を閉じたるつぼとしては、外側が60mmφで長さが50mm、内部が直径30mmφで底の厚さが10mm、上蓋の厚さ10mmの黒鉛るつぼを使用する。材料を入れる容積は直径30mmφで長さ30mmとなる。上蓋の中心には、内部で焼成材料から発生する昇華物の一部を逃すための1mmφの穴を設ける。このるつぼに乾燥させた焼成材料を入れた後上蓋をしめる。
【0198】
この黒鉛るつぼを電気炉にいれて焼成を行う。電気炉としては(株)デンケン社製の電気炉KDF―S70型を使用した。
焼成温度:780℃、800℃、850℃そして920℃の4種類の焼成温度で焼成
カバーガス:CO
2ガス及びN
2ガスとも2リッター/分で流す
焼成時間:2時間
【0199】
焼成された焼結物は粉状にした後、水で洗浄し粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体とする。
【0200】
添加材として硫黄2%を用いて、焼成温度が780℃、800℃、850℃及び920℃の4種類の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体について測定サンプルを作製し、蛍光光度計の励起光照射系のサンプル位置に設置してアルファ線照射による蛍光スペクトルの測定を行った。得られた4種類のZnS:Ag蛍光体のアルファ線照射蛍光スペクトルの形の変化を
図58に示す。
【0201】
得られた4種類のアルファ線照射蛍光スペクトルを解析して得たアルファ線検出割合としては0.39、0.45、0.65、0.78が得られた。この結果、温度として780℃以上に上げて焼成すれば、焼成温度を変えることによって目的のアルファ線検出割合を持つ第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体を製作できることが確認された。
(実施例9)
【0202】
上記実施例1から実施例8で述べた第1及び第2の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は、硫化亜鉛への添加物として硫黄あるいは硫化物を用い、融材としてアルカリ金属のハロゲン化物あるいはアルカリ土類金属のハロゲン化物を用い、かつ焼成温度あるいは焼成時間等が異なったさまざまな製作条件で焼成され製作された。
【0203】
実施例1から実施例8においてさまざまな製作条件で製作された粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の解析結果をもとに、本実施例では、粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の物理的状態を示す重要なパラメータである短減衰時間と、添加材である硫黄あるいは硫化ストロンチウムの添加量の増加とともに減少する蛍光量との相関を添加材(硫黄、硫化物)、融材(アルカリ金属、アルカリ土類金属)、融材(塩素、臭素)をパラメータとして調べた。使用した粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の添加材及び融材の組み合わせと得られた短減衰時間及び蛍光量を表3に示す。
【0204】
【表3】
【0205】
添加材として、硫黄型と硫化物型に分けて、硫黄あるいは硫化物の添加量に該当するフォトン数と短減衰時間の相関を求めた結果を
図59に示す。また、融材としてアルカリ金属とアルカリ土類金属に分けて、硫黄あるいは硫化物の添加量に該当するフォトン数と短減衰時間の相関を求めた結果を
図60に示す。さらに、融材の塩化物と臭化物に分けて、硫黄あるいは硫化物の添加量に該当するフォトン数と短減衰時間の相関を求めた結果を
図61に示す。
【0206】
得られた3つの相関図において、それぞれ異なった種類の添加材あるいは異なった種類の融材を用いてもその相関に際立った有意差がなく、フォトン数の増加に比例して短減衰時間が増加する関係が得られていることが確認された。
【0207】
以上の結果より、本発明の粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体の物理的状態を示す重要なパラメータである短減衰時間は、添加材として硫化亜鉛に導入される硫黄あるいは硫化物として入る硫黄の量に依存するだけで、添加材としての硫黄と硫化物との差、融材としてのアルカリ金属とアルカリ土類金属との差、及び融材としての塩化物と臭化物の差の依存性はないかあっても非常に少ないと結論される。
【0208】
従って、本発明の第1あるいは第の蛍光体である粒子線検出用ZnS:Ag蛍光体は焼成後に最終的に硫化亜鉛に導入される硫黄の量でその性質が決定され、添加物の種類及び融材の種類あるいは焼成条件にはほとんど依存しないと結論される。