【文献】
B. Barmada, et al.,Unequal error protection for layered source coding using MIMO technology,Electronics Letters,2014年 2月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明では、例えば、偏波を用いたMIMO伝送に偏波間のデータ拡散を行う。偏波間のデータ拡散とは、送信機Tx1とTx2のキャリアに信号処理等を施し、変換後の各キャリアに元々のTx1とTx2の両方の情報を含ませることである。すなわち、偏波を用いたSDM−MIMO伝送(Tx1:水平偏波、Tx2:垂直偏波)の場合、Tx1とTx2の間でデータ拡散を施すことで、データ拡散後のキャリアには元々のTx1,Tx2の両方の情報が含まれる。
水平偏波、垂直偏波共に、このデータ拡散したキャリアが出力されるが、受信特性を向上させるため、片方の偏波のみ更にキャリアの位相を回転させる(つまり、複素振幅を変位させる)。
受信側では、データ拡散の影響を考慮したMLD復号を行う。
またOFDM等のマルチキャリア伝送の場合、データ拡散は偏波間だけでなく、キャリア間に組み合わせることも可能である。例えば、偏波間の2キャリアとその両隣のキャリアも組み合わせた4キャリア間でのデータ拡散も可能である。
【0020】
以下では、図面を参照しながら、本発明の複数の実施形態について説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態による送信装置の概略機能構成を示すブロック図である。図示するように、送信装置1は、キャリア変調部11と、拡散部12と、変位部14と、OFDMフレーム化部15と、IFFT部16と、GI付加部17と、を含んで構成される。なお、変位部14の機能は、拡散部12の機能に含めてもよい。
なお、OFDMフレーム化部15と、IFFT部16と、GI付加部17との一連の処理機能をまとめて「送信処理部」と呼ぶ。
送信装置1の構成として、2つの送信アンテナに対応する2系統の送信処理部を備えており、これら2つの送信機の系統の各々が信号を処理する。
【0021】
キャリア変調部11は、入力される映像音声データ(デジタルデータ)をキャリア変調する。キャリア変調部11は、キャリア変調後、2つの送信機(Tx1およびTx2)の系統にキャリアを分配する。つまり、キャリア変調部11は、これら2つの系統の互いに異なる信号AおよびBを出力する。信号AおよびBは、下の式(1)で表される。式(1)において、AおよびBはそれぞれ複素振幅として表わされ、iは虚数単位である。
【0023】
拡散部12は、キャリア変調部11によって分配された信号を基に、各送信系統間で信号を拡散処理する。具体的には、拡散部12は、キャリア変調部11から出力された信号AおよびBを基に、情報の拡散を行い、信号XおよびYを出力する。信号XとYとは異なるが、信号XとYのいずれもが信号AおよびBの情報を含むように、拡散部12は拡散処理を行う。
【0024】
拡散部12による信号変換の第1の例は、下の式(2)で表される。この信号変換を行うことにより、拡散後のXおよびYを得る。式(2)において、θは、拡散の位相回転角を表すパラメーターであり、適宜定められる。
【0026】
式(1)および(2)より、XとYは、下の式(3)のように表される。
【0028】
式(3)に示すように、拡散後のキャリアXおよびYは、それぞれ、拡散前のキャリアの情報a,b,c,dを全て含んだ形で表される。なお、ここでは、sin(θ)やcos(θ)の値がゼロにならないようにθの値を適切に選択する。
【0029】
拡散部12による信号変換の第2の例は、下の式(4)で表される。式(4)において、θは、位相回転角を表すパラメーター(単位は、度(degree))であり、適宜定められる。また、Re(・)は複素数の実部を表し、Im(・)は複素数の虚部を表す。つまり、この例では、拡散部12は、式(1)により示された変調後のキャリアAおよびBの位相をそれぞれθ(度)回転させた後、I信号のみを入れ替えて、またはQ信号のみを入れ替えて、データを拡散させる。
【0031】
式(1)および(4)より、XとYは、下の式(5)のように表される。
【0033】
変位部14は、拡散部12から出力される複数の送信系統の信号のうち、少なくとも一部の送信系統の信号の複素振幅を変位させる。具体的には、変位部14は、拡散部12から出力される信号XおよびYのうち、片方の系統の信号であるXを複素平面上で変位させ信号X
2を出力する。本実施形態では、変位部14は、Xを角度φだけ回転させる。
【0034】
つまり、式(3)に示したX,Yについて、変位部14が出力するX
2は下の式(6)の通りである。
【0036】
また、式(5)に示したX,Yについて、変位部14が出力するX
2は下の式(7)の通りである。
【0038】
OFDMフレーム化部15は、各系統に設けられており、それぞれ、X
2およびYを基に、OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)フレームを生成する。
IFFT部16は、各系統に設けられており、それぞれ、OFDMフレーム化部15から出力された信号を、逆フーリエ高速変換(Inverse Fast Fourier Transform)する。つまり、IFFT部16は、周波数領域の信号を時間領域の信号に変換する。
GI付加部17は、各系統に設けられており、それぞれ、IFFT部16から出力された信号に、ガードインターバル(Guard Interval)を付加する。
そして、送信装置1は、これら2系統の信号を、送信機Tx1および送信機Tx2から送信する。つまり、送信部は、各送信系統における信号を各々の送信アンテナから送信する。
【0039】
送信機Tx1,Tx2のそれぞれに個別のアンテナが接続されている。なお、送信装置1がこれらの信号を送信する際に、アンテナを適切に配置することにより、両者の偏波面を交差させる。具体的には、送信機Tx1からの出力を垂直偏波とし、送信機Tx2からの出力を水平偏波とする。逆に、送信機Tx1からの出力を水平偏波とし、送信機Tx2からの出力を垂直偏波としても良い。
【0040】
図2は、QPSKの場合の送信装置1の内部における信号(シンボル)のI/Q平面(複素平面)上での配置(コンスタレーションポイント)を示す概略図である。なお同図は、信号の配置の一例を模式的に示すものであり、具体的な配置の座標はこの図に示すものと異なっていても良い。実際の座標は、前記のパラメーターθやφに依存する。ここでは、QPSK−MIMOの場合の例を示しており、θ=27°、φ=27°としている。なお、「QPSK」は、四位相偏移変調(Quadrature Phase Shift Keying)を表す。
【0041】
同図(a)は、キャリア変調部11(
図1)から出力される信号AおよびBのそれぞれの配置を示す。同図(a)に示す例では、信号AおよびBは、座標(1,i),(−1,i),(−1,−i)、(1,−i)の4点に配置されている。本例ではAの配置点(4種類)とBの配置点(4種類)とは重なっている。同図(b)は、拡散部12によって拡散された後の信号XおよびYのそれぞれの配置を示す。信号XおよびYのそれぞれは、信号AとBの両方の情報を含む。つまり、信号XおよびYは、複素平面上の16点に配置されている。本例では、Xの配置点(16種類)とYの配置点(16種類)とは重なっている。同図(c)は、変位部14によって変位された後の信号X
2の配置を示す。本実施形態では、信号Xを角度φだけ回転させた結果が信号X
2であり、したがって、信号X
2は、複素平面上の16点に配置されている。なお、パラメーターを適切に調整することにより、信号X
2の配置点と信号Yの配置点とが、互いに重ならないようにすることが望ましい。あるいは、信号X
2の配置点と信号Yの配置点とが重なる度合いができるだけ小さくなるようにすることが望ましい。
【0042】
図2に示したように、変位部14は、拡散部12から出力される複数の送信系統の信号のうち、一部の送信系統(例えば、2送信系統中の1つ)の信号の複素振幅を変位させる。この変位部14の処理は、信号X
2と信号Yとの間で配置点が互いに重ならないようにする作用を有する。よって、受信装置側で信号X
2と信号Yとを区別して復号することがより容易になり、伝送品質が向上する。
【0043】
つまり、拡散後の片方のキャリアにφの回転を施すことでXPDには大きく左右されずに安定して受信装置側で受信することが可能となる。このθ、φの値は、受信特性を決める要因となるため、システムに応じて変えていく必要があり、この値には特性が良好となる固定値を使用することや、ランダム値(乱数)を割り当てることができる。
【0044】
図3は、送信装置が送信する信号のリソースにおける、パイロット信号の配置を示す概略図である。同図は、送信機Tx1と送信機Tx2のそれぞれの系統における、リソースの配置を縦・横2次元の配置で示している。同図において、横方向(左から右へ)は、キャリア(またはサブキャリア)の並びに対応している。つまり、横方向は、周波数の方向である。また、縦方向(上から下へ)は、シンボルの配置に対応している。つまり、縦方向は、時間の方向である。同図において、特定の周波数における特定の時間の領域が、それぞれリソースであり、個々の丸印に対応している。ここで、白の丸印はデータキャリアを表す。また、黒の丸印はパイロット信号を表す。また、二重丸の印は反転したパイロット信号を表す。一例としてBPSK変調(binary phase-shift keying,二位相偏移変調)したパイロット信号を用いる場合、複素平面における信号点(1,0)のパイロット信号に対して、「反転したパイロット信号」とは信号点(−1,0)の信号である。つまり、黒の丸印が信号点(1,0)の信号を表す場合、二重丸の印は信号点(−1,0)の信号を表す。同図に示すリソース割り当ての配置では、送信機Tx1のパイロット信号と送信機Tx2のパイロット信号とが、互いに直交している。
【0045】
次に受信装置について説明する。
図4は、受信装置の概略機能構成を示すブロック図である。受信装置6は、前述の送信装置1から送信される信号を受信するための装置である。図示するように、受信装置6は、GI除去部61と、FFT部62と、伝送路推定部63と、最尤復号部64と、を含んで構成される。
なお、GI除去部61と、FFT部62と、伝送路推定部63との一連の処理機能をまとめて「受信処理部」と呼ぶ。受信処理部(GI除去部61とFFT部62と伝送路推定部63)は、受信機Rx1および受信機Rx2のそれぞれに対応して設けられる。また、受信機Rx1およびRx2の各々に個別の受信アンテナが接続されている。同図における上側の受信系統が受信機Rx1に対応し、下側の受信系統がRx2に対応する。
【0046】
つまり、受信処理部(GI除去部61と、FFT部62と、伝送路推定部63)は、各々が受信アンテナに接続される複数の受信系統のそれぞれに設けられ、送信装置側から送信される信号を受信する。また、最尤復号部64は、複数の受信系統の受信処理部で受信した信号を基に、MLD法による復号処理を行う。
【0047】
各々のGI除去部61は、それぞれのアンテナで受信した受信信号からガードインターバルを除去する。
FFT部62は、GI除去部61から出力される信号を高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)する。つまり、FFT部62は、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する。
【0048】
伝送路推定部63は、受信信号に含まれるパイロット信号に基づいて、伝送路応答を推定する。送信装置側から送信されるパイロット信号の複素振幅が既知であるため、伝送路推定部63は、実際に受信したパイロット信号の複素振幅を基に伝送路応答を求める。なお、伝送路推定部63は、MIMOにおける送信アンテナと受信アンテナの各々の組み合わせについての伝送路応答を求める。
【0049】
最尤復号部64は、受信信号と、伝送路推定部63によって推定された伝送路情報とに基づいて、MLD(Maximum Likelihood Decoding)による復号を行う。このとき、最尤復号部64は、送信側において信号が拡散されていることを前提として復号を行う。送信装置側から送出された信号(X
2およびY)と受信信号(R
1およびR
2)との関係は、下の式(8)で表される。
【0051】
なお、式(8)において、R
1は受信機Rx1のアンテナで受信された信号であり、R
2は受信機Rx2のアンテナで受信された信号である。また、H
1はTx1の送信アンテナからRx1の受信アンテナへの伝送路応答であり、H
2はTx2の送信アンテナからRx1の受信アンテナへの伝送路応答であり、H
3はTx1の送信アンテナからRx2の受信アンテナへの伝送路応答であり、H
4はTx2の送信アンテナからRx2の受信アンテナへの伝送路応答である。
【0052】
最尤復号部64は、式(8)のX
2およびYに、式(6)あるいは式(7)で表されるX
2およびYをそれぞれ代入し、展開して得られる式に基づくMLD復号を行う。なお、QR分解やMアルゴリズムなどの手法もここで適用することが可能である。
【0053】
次に、伝送シミュレーションの結果について説明する。
図5は、送信装置1(
図1)と受信装置6(
図4)とを用いて伝送を行う場合の伝送特性を、計算機シミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。このシミュレーションでは、キャリア変調としてQPSKを用いており、伝送方式はSDM−MIMO−OFDMである。シミュレーションの諸元は、表1に示す通りである。なお、「拡散あり」の場合の送信信号の拡散方法は、式(4)、式(5)、式(7)による。「拡散なし」のデータは、比較対象である。
【0055】
図5において、横軸は、C/N(Carrier to Noise ratio,搬送波電力対雑音電力比)を表し、その単位はデシベルである。また、縦軸は、BER(Bit Error Rate,ビットエラーレート)である。縦軸は対数目盛であり、例えば表記「1.00E−02」は、1.00×10
−2を表す。
【0056】
XPD(交差偏波識別度)が0dBのAWGN環境において、「拡散なし」の場合には、C/Nが大きくなってもビットエラーレートは全く下がらない、つまり受信不可能である。これに対して、本実施形態による「拡散あり」の場合には、受信可能であり、C/Nが大きくなるにつれてビットエラーレートは急激に下がっていく。XPDが5dBの場合、「拡散なし」であってもC/Nが大きくなるにつれてビットエラーレートは下がっていくが、「拡散あり」の場合のほうがビットエラーレートはより小さい。
つまり、本実施形態による拡散部12および変位部14(いずれも、
図1)による作用が伝送品質を向上させることが、このシミュレーションからわかる。
【0057】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。なお、前述の実施形態と共通の事項については説明を省略し、本実施形態特有の事項を中心に説明を行う。
本実施形態における送信装置は、第1の実施形態における送信装置1と同様のものである。
図6は、本実施形態による受信装置の概略機能構成を示すブロック図である。図示するように、受信装置7は、GI除去部71と、FFT部72と、伝送路推定部73と、最尤復号部74と、を含んで構成される。なお、GI除去部71と、FFT部72と、伝送路推定部73との一連の処理機能をまとめて「受信処理部」と呼ぶ。この受信装置7は、第1の実施形態で説明した送信装置1によって送信される無線信号を受信する。
【0058】
第1の実施形態による受信装置6が、2本のアンテナと2系統の受信機を備えていたのに対して、本実施形態でのこの受信装置7は、1本のアンテナと1系統の受信機のみを備えている。
つまり、受信処理部(GI除去部61と、FFT部62と、伝送路推定部63)は、受信アンテナに接続される単一の受信系統に設けられ、送信装置側から送信される信号を受信する。また、最尤復号部64は、単一の受信系統の受信処理部で受信した信号を基に、MLD法による復号処理を行う。
【0059】
GI除去部71そのものの機能は、第1の実施形態におけるGI除去部61のそれと同様である。即ち、GI除去部71は、アンテナで受信した受信信号からガードインターバルを除去する。
FFT部72そのものの機能は、第1の実施形態におけるFFT部62のそれと同様である。即ち、FFT部72は、GI除去部71から出力される信号を高速フーリエ変換する。つまり、FFT部72は、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する。
【0060】
伝送路推定部73そのものの機能は、第1の実施形態における伝送路推定部63のそれと同様である。即ち、伝送路推定部73は、送信装置側から送信される既知のパイロット信号に基づき、伝送路応答を推定する。つまり、伝送路推定部73は、送信機Tx1に接続された送信アンテナから受信機Rxに接続された受信アンテナへの伝送路応答を推定するとともに、送信機Tx2に接続された送信アンテナから受信機Rxに接続された受信アンテナへの伝送路応答を推定する
【0061】
最尤復号部74は、受信信号と、伝送路推定部73によって推定された伝送路情報とに基づいて、MLDによる復号を行う。送信装置側から送出された信号(X
2およびY)と受信信号(R)との関係は、下の式(9)で表される。
【0063】
この式(9)は、前記の式(8)における片側のアンテナに関する式(R
1のみに関する式)と同様のものである。式(9)において、Rは、受信機Rxが受信した信号である。また、H
1はTx1の送信アンテナからRxの受信アンテナへの伝送路応答であり、H
2はTx2の送信アンテナからRxの受信アンテナへの伝送路応答である。
【0064】
受信装置7では、1本のアンテナのみで無線信号を受信するが、式(9)に示すように、受信信号Rは、元の信号A(=a+ib)およびB(=c+id)に関する情報を含んでいる。また、前述のとおり、信号X
2と信号Yのコンスタレーションポイントが重ならないようにすることにより、受信信号Rから、MLDによるAおよびBの復号が可能である。
【0065】
前述の通り、偏波(水平、垂直)を用いたSDM−MIMO伝送の場合、2つの送信アンテナからは別々のデータが伝送されるため、通常は、受信アンテナもそれぞれの偏波を受信するために2本必要となる。1本受信アンテナで受信する場合、片方の偏波のみは受信できても、もう片方の偏波は受信出来ないので結果として受信することが出来ない。また、XPDの小さい受信アンテナ1本で2つの偏波を受信しようとする場合、フェージング環境等であれば受信できる場合もあるが、AWGNの環境では信号が分離出来ず受信不可となる。
これに対して、本実施形態による受信装置7は、1本のアンテナで、MIMO方式の前述の送信装置から送信された無線信号を受信し、復号することができる。例えば、既存の無線信号受信設備(家庭に設置されたテレビ受信アンテナおよびテレビ受像機等)が特定の偏波面を有する無線信号を受信するために設置されている場合にも、受信装置7を用いれば、受信アンテナの設備を更新することなく、MIMO方式で送信される無線信号(例えば送信装置1から送信される信号)を受信し、復号することができる。
【0066】
図7は、送信装置1(
図1)と受信装置7(
図6)とを用いて伝送を行う場合の伝送特性を、計算機シミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。このシミュレーションでは、キャリア変調としてQPSKを用いており、伝送方式はSDM−MIMO−OFDMである。ただし、受信アンテナは1本である。シミュレーションの諸元は、表2に示す通りである。なお、「拡散あり」の場合の送信信号の拡散方法は、式(4)、式(5)、式(7)による。「拡散なし」のデータは、比較対象である。
【0068】
図7においても、横軸は、C/Nを表し、その単位はデシベルである。また、縦軸は、BERである。
XPD(交差偏波識別度)が0dBのAWGN環境において、「拡散なし」の場合には、C/Nが大きくなってもビットエラーレートは全く下がらない、つまり受信不可能である。これに対して、本実施形態による「拡散あり」の場合には、受信可能であり、C/Nが大きくなるにつれてビットエラーレートは急激に下がっていく。XPDが5dBの場合、「拡散なし」であってもC/Nが大きくなるにつれてビットエラーレートは下がっていくが、「拡散あり」の場合のほうがビットエラーレートはより小さい。
つまり、本実施形態による受信装置7でも、伝送品質を向上させることが可能であるということが、このシミュレーションからわかる。
【0069】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。なお、前述の実施形態と共通の事項については説明を省略し、本実施形態特有の事項を中心に説明を行う。
図8は、本実施形態による送信装置の概略機能構成を示すブロック図である。図示するように、送信装置2は、キャリア変調部21と、拡散部22と、変位部24と、OFDMフレーム化部25と、IFFT部26と、GI付加部27と、を含んで構成される。
なお、OFDMフレーム化部25と、IFFT部26と、GI付加部27との一連の処理機能をまとめて「送信処理部」と呼ぶ。
送信装置2の特徴は、2つの送信アンテナに対応する2系統の送信処理部を備えており、これら2つの送信機の系統の各々が2つのキャリア(所定の帯域を有する周波数)分の信号を処理する点である。
【0070】
具体的には、キャリア変調部21は、各送信系統に異なるキャリア周波数による複数の信号を分配する。拡散部22は、各送信系統間で、且つ各送信系統における異なるキャリア周波数の信号間で拡散処理を行う。変位部24は、送信系統に割り当てられた複数のキャリア周波数の信号それぞれについて複素振幅を変位させる。送信処理部(OFDMフレーム化部25と、IFFT部26と、GI付加部27)は、各送信系統における複数のキャリア周波数の前記信号を各々の送信アンテナから送信する。
【0071】
つまり、送信機Tx1の系統(図における上側の系統)は、信号XおよびYを各キャリアに割り当てて、送信アンテナから送出する。また、送信機Tx2の系統(図における下側の系統)は、信号ZおよびWを各キャリアに割り当てて、送信アンテナから送出する。なお、送信機Tx1の系統においては、信号XおよびYを変位させて、それぞれ、信号X
2およびY
2とする。
【0072】
キャリア変調部21は、入力される映像音声データ(デジタルデータ)をキャリア変調する。キャリア変調部21は、キャリア変調を行い、2つの送信機(Tx1およびTx2)の系統の、それぞれ2つのキャリアに分配する。つまり、キャリア変調部21は、4つの系統の互いに異なる信号A,B,C,Dを出力する。信号A〜Dは、下の式(10)で表される。式(10)において、A〜Dの各々は複素振幅として表わされ、iは虚数単位である。
【0074】
拡散部22は、キャリア変調部21から出力された信号A〜Dを基に、情報の拡散を行い、信号X,Y,Z,Wを出力する。
【0075】
拡散部22による信号変換の例は、下の式(11)で表される。この信号変換を行うことにより、拡散後のX,Y,Z,Wを得る。式(11)において、θ
1およびθ
2は、拡散の回転角を表すパラメーターであり、適宜定められる。
【0077】
変位部24は、送信機Tx1側の系統のみに設けられ、拡散部22から出力される信号X、Y,Z,Wのうち、信号X,Yを複素平面上で変位させ、それぞれ、信号X
2,Y
2を出力する。具体的には、変位部24は、XおよびYをそれぞれ角度φだけ回転させることにより、それぞれX
2,Y
2を得る。
【0078】
なお、式(11)は4キャリア間での拡散を行う場合を表しているが、より一般的には、Nキャリア(Nは正整数)に拡張することも可能である。式(2)に示した2キャリアでの拡散の係数をK
2と置くと、Nキャリアで拡散した場合の拡散の係数K
Nは式(12)で示される。
【0080】
なお、上の式(12)は式(2)を拡張した場合の例であり、その他の数式で示される拡散を同様にNキャリアに拡張するようにしてもよい。
【0081】
OFDMフレーム化部25は、各系統に設けられている。送信機Tx1側の系統に設けられたOFDMフレーム化部25は、X
2およびY
2を基に、OFDMフレームを生成する。また、送信機Tx2側の系統に設けられたOFDMフレーム化部25は、ZおよびWを基に、OFDMフレームを生成する。
IFFT部26は、各系統に設けられており、それぞれ、OFDMフレーム化部25から出力された信号を、逆フーリエ高速変換する。つまり、IFFT部26は、周波数領域の信号を時間領域の信号に変換する。
GI付加部27は、各系統に設けられており、それぞれ、IFFT部26から出力された信号に、ガードインターバルを付加する。
そして、送信装置2は、これら2系統(各系統において2キャリア)の信号を、送信機Tx1および送信機Tx2から送信する。送信機Tx1,Tx2のそれぞれに個別のアンテナが接続されている。なお、実施形態1の場合と同様に、両アンテナの偏波面を交差させるようにする。
なお、信号Xと信号Zは、同じ周波数のキャリアで送信される。また、信号Yと信号Wは、同じ周波数のキャリアで送信される。
【0082】
つまり、本実施形態の送信装置2においては、キャリア変調部21は、各送信系統に異なるキャリア周波数による複数の信号を分配する。また、拡散部22は、各送信系統間で、且つ各送信系統における異なるキャリア周波数の信号間で拡散処理を行う。また、変位部24は、当該変位部24が設けられている送信系統に割り当てられた複数のキャリア周波数の信号それぞれについて複素振幅を変位させる。送信処理部(OFDMフレーム化部25,IFFT部26,GI付加部27)は、各送信系統における複数のキャリア周波数の前記信号を各々の送信アンテナから送信する。
【0083】
[第4の実施形態]
次に、第4の実施形態について説明する。なお、前述の実施形態と共通の事項については説明を省略し、本実施形態特有の事項を中心に説明を行う。
図9は、本実施形態による送信装置の概略機能構成を示すブロック図である。図示するように、送信装置3は、キャリア変調部31aと、キャリア変調部31bと、拡散部32と、変位部34と、OFDMフレーム化部35と、IFFT部36と、GI付加部37と、を含んで構成される。
なお、OFDMフレーム化部35と、IFFT部36と、GI付加部37との一連の処理機能をまとめて「送信処理部」と呼ぶ。
【0084】
送信装置3の構成の特徴は、キャリア変調部31aと31bが互いに異なる変調方式でキャリア変調を行うことである。つまり、キャリア変調部31aおよび31bは、送信系統に応じて異なる変調方式でキャリア変調する。これにより、キャリア変調部31aが出力する信号Aとキャリア変調部31bが出力する信号Bの間では、公司多レーションパターンが異なる。なお、一例として、同図では、キャリア変調部31aがQPSKによる変調を行い、キャリア変調部31bが64QAM(64 Quadrature Amplitude Modulation)による変調を行う。なお、キャリア変調部31aや31bがその他の方式による変調を行うようにしても良い。
【0085】
各部の機能について説明する。
キャリア変調部31aは、入力される映像音声データのうちの一部を、QPSKにより変調し、信号Aを出力する。
キャリア変調部31bは、入力される映像音声データのうちの残りの部分を、64QAMにより変調し、信号Bを出力する。
拡散部32は、上記の信号AおよびBを拡散することにより、信号XおよびYを出力する。信号XとYとは異なるが、信号XとYのいずれもが信号AおよびBの情報を含むように、拡散部32は拡散処理を行う。
変位部34は、送信機Tx1側の系統のみに設けられ、を複素平面上で変位させ、それぞれ、信号X
2を出力する。具体的には、変位部34は、Xを角度φだけ回転させることによりX
2を得る。
つまり、適切な角度φを設定することにより、変位部34は、信号Xと信号Yの配置点が重ならないようにする作用を生じさせる。あるいは、変位部34は、信号Xと信号Yの配置点の重なり度合いを小さくさせる方向の作用を生じさせる。
【0086】
OFDMフレーム化部35は、各系統に設けられており、それぞれ、信号X
2およびYを基に、OFDMフレームを生成する。
IFFT部36は、各系統に設けられており、それぞれ、OFDMフレーム化部35から出力された信号を、逆フーリエ高速変換する。つまり、IFFT部36は、周波数領域の信号を時間領域の信号に変換する。
GI付加部27は、各系統に設けられており、それぞれ、IFFT部26から出力された信号に、ガードインターバルを付加する。
そして、送信装置3は、これら2系統の信号を、送信機Tx1および送信機Tx2から送信する。送信機Tx1,Tx2のそれぞれに個別のアンテナが接続されている。なお、実施形態1の場合と同様に、両アンテナの偏波面を交差させるようにする。
【0087】
本実施形態のように、複数の系列のキャリア変調部31aおよび31bから出力されるキャリア変調の方式が異なっている場合にも、拡散部32によって拡散された結果得られる信号XおよびYに対して(信号XとYは、それぞれ、信号AとBが有する情報の両方を含んでいる)、変位部34が信号Xについて複素振幅の変位を行わせる。この変位部34の処理は、信号X
2と信号Yとの間で配置点が互いに重ならないようにする作用を有する。よって、受信装置側で信号X
2と信号Yとを区別して復号することがより容易になり、伝送品質が向上する。
【0088】
なお、上述した各実施形態における送信装置、受信装置の機能の少なくとも一部をコンピューターで実現するようにしても良い。その場合、この各機能を実現するためのプログラムをコンピューター読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピューターシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバーやクライアントとなるコンピューターシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0089】
以上、複数の実施形態を説明したが、本発明はさらに次のような変形例でも実施することが可能である。なお、下に列挙する変形例のうちの複数を組み合わせて実施しても良い。
【0090】
変形例1:受信装置6(第1の実施形態)は、送信装置1(第1の実施形態)からの信号だけでなく、送信装置2(第3の実施形態)あるいは送信装置3(第4の実施形態)から送信される無線信号を受信するように構成しても良い。また、受信装置7(第2の実施形態)は、送信装置1(第1の実施形態)からの信号だけでなく、送信装置2(第3の実施形態)あるいは送信装置3(第4の実施形態)から送信される無線信号を受信するように構成しても良い。
【0091】
変形例2:前述の各実施形態による送信装置および受信装置は、映像音声データを伝送するための装置として構成されていたが、送信対象のデータは映像音声データに限らず、デジタルデータ一般を伝送するためにこれらの送信装置よび受信装置を構成しても良い。
【0092】
変形例3:上記の各実施形態では、送信装置1、2、3のそれぞれにおいて、変位部は、IQ平面の原点を中心とする位相角の回転の処理を行うことによって、信号の複素振幅を変位させていた。しかし、変位の方法は、このような回転に限らず、コンスタレーションポイントずらすような作用を有する、IQ平面上における任意の写像であっても良い。
【0093】
変形例4:伝送するデータの誤り検出または誤り訂正を可能とするため、送信装置側で冗長符号化を行うようにしても良い。この場合、受信装置側の最尤復号部では、採用される冗長符号化方式に応じた、MLDによる復号処理を行う。
【0094】
変形例5:上記の各実施形態では、送信装置における送信系統を2系統としていた。また、受信装置における受信系統を1系統または2系統としていた。この変形例では、送信系統を3系統以上(例えば、4系統、8系統等)として良い。また、この変形例では、受信系統を3系統以上(例えば、4系統、8系統等)として良い。いずれの場合も、送信装置においては、拡散部によって拡散された複数系統の信号のうちの一部の系統の信号を、変位部が変位させる。また、受信装置においては、各々の受信アンテナで受信した複数系統の信号のそれぞれについて、送信アンテナとの間の伝送路応答を推定した後、それら複数系統の受信信号に基づきMLDによる復号を行う。
【0095】
変形例6:上記の第1の実施形態では、拡散部が式(3)や式(5)の数式により信号の拡散を行うこととした。しかし、拡散の方法はこれらの式に限らず、両系統のそれぞれにa,b,c,dの情報を含めることができるような、他の方法で(即ち、他の数式によって)信号の拡散を行うようにしても良い。また、第3の実施形態では、式(10)で表される信号A,B、C,Dを、拡散部が式(11)で拡散するようにした。しかし、拡散の方法はこれに限らず、拡散後の各系統の信号にa,b,c,d,e,f,g,hの情報を含めることができるような他の方法で信号の拡散を行うようにしても良い。またさらに、送信系統の数が2ないしは4以外の場合についても同様であり、信号の拡散の方法は特定の数式での表現に限定されるものではなく、拡散後の単一の系統における信号に伝送したい情報のすべてが含まれるような任意の拡散方法を用いることができる。
【0096】
変形例7:上記の各実施形態では、OFDMによる伝送を行っていた。代わりに、シングルキャリアによる伝送を行うよう、送信装置と受信装置を構成するようにしても良い。なお、シングルキャリアによる伝送を行う場合には、拡散部は、異なるキャリア間での拡散を行うようにする。
【0097】
変形例8:上記の実施形態の送信装置においては、拡散部が拡散処理した結果について、その一部の送信系統のみの信号を変位部が変位させる構成としていた。本変形例では、それらの処理を拡散部が一括して行うようにする。つまり、拡散部が一旦拡散処理してから、変位部が変位させるのではなく、変位部が変位させた後の信号をも拡散部が直接出力するようにする。このように送信装置を構成した場合、送信される信号は前記の実施形態における信号と変わらないが、送信装置の内部の構成を小規模化したり、処理の段階を削減(つまり、処理時間も削減)したりすることができる。つまり、本変形例における拡散部は、キャリア変調部によって分配された信号を基に、各送信系統間で信号を拡散処理するとともに複数の送信系統のうちの少なくとも一部の送信系統については信号の複素振幅を変位させた結果を出力する。
【0098】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。