特許第6385110号(P6385110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385110
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】石膏からのフッ素溶出量分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
   G01N31/00 Q
   G01N31/00 Y
【請求項の数】3
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-77697(P2014-77697)
(22)【出願日】2014年4月4日
(65)【公開番号】特開2014-219388(P2014-219388A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2017年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-80174(P2013-80174)
(32)【優先日】2013年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】安池 慎治
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−216214(JP,A)
【文献】 特開2005−075650(JP,A)
【文献】 特開平07−045958(JP,A)
【文献】 特開2009−040638(JP,A)
【文献】 特開2011−226811(JP,A)
【文献】 特表2005−523231(JP,A)
【文献】 特開2008−001785(JP,A)
【文献】 特開2007−209740(JP,A)
【文献】 特開2006−273599(JP,A)
【文献】 特開2013−043168(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0111821(US,A1)
【文献】 米国特許第03301495(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00142017(EP,A1)
【文献】 安池慎治,「脱硫石膏および石膏ボード廃棄物を用いた環境浄化材の合成法の開発」,電力中央研究所報告,財団法人電力中央研究所,2006年 5月,研究報告:V05011
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N31/00〜31/22
G01N1/00〜1/44
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を溶媒とした媒体撹拌ミルにより石膏を処理して前記石膏を粉砕し、石膏粉砕物と前記水のスラリーを作製する工程と、
前記スラリーから前記石膏粉砕物を除去してフッ素分析用検液を得る工程と、
前記フッ素分析用検液をフッ素濃度分析に供して前記フッ素分析用検液のフッ素分析値を得る工程とを含み
かつ前記媒体撹拌ミルによる粉砕処理を、比重が1以上で且つ直径3mm〜7mmのボールと直径0.05mm〜0.2mmのガラスビーズとを粉砕媒体として使用し、前記石膏と前記水の固液比を10L/kg[水体積/石膏重量]とし、前記水に対して前記ボールを体積比で1/30〜1/10投入し、前記水に対して前記ガラスビーズを体積比で1/30〜1/10投入して、回転数2000rpm以上で3〜30分間実施する
ことを特徴とする石膏からのフッ素溶出量分析方法。
【請求項2】
フッ素含有量の異なる複数の石膏について、(1)水に投入して360分間往復振とう処理して得られるフッ素分析用検液のフッ素分析値を得、(2)請求項1に記載の方法によりフッ素分析値を得、(1)のフッ素分析値及び(2)のフッ素分析値から、(2)のフッ素分析値を(1)のフッ素分析値に換算するための補正係数を予め求めておき、請求項1に記載の方法により得られるフッ素分析値にこの補正係数を乗じる工程をさらに含む、
請求項1に記載の石膏からのフッ素溶出量分析方法。
【請求項3】
水を溶媒とした媒体撹拌ミルにより石膏を処理して前記石膏を粉砕し、石膏粉砕物と前記水のスラリーを作製する工程と、
前記スラリーから前記石膏粉砕物を除去してフッ素分析用検液を得る工程とを含み、
かつ前記媒体撹拌ミルによる粉砕処理を、比重が1以上で且つ直径3mm〜7mmのボールと直径0.05mm〜0.2mmのガラスビーズとを粉砕媒体として使用し、前記石膏と前記水の固液比を10L/kg[水体積/石膏重量]とし、前記水に対して前記ボールを体積比で1/30〜1/10投入し、前記水に対して前記ガラスビーズを体積比で1/30〜1/10投入して、回転数2000rpm以上で3〜30分間実施する、
ことを特徴とする石膏からのフッ素溶出量分析用試料の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏からのフッ素溶出量分析方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、石膏からフッ素を溶出させるための工程を迅速に行うことによって、石膏からのフッ素溶出量を迅速に定量分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏ボード中には0〜0.5%程度のフッ素(F)が含まれていることから、廃石膏ボードを土工材として利用した場合、土壌環境基準(溶出量基準値)を超過するフッ素が検出され得る(非特許文献1)。廃石膏ボードから溶出するフッ素は、原料として使用された石膏に由来するものである。したがって、石膏ボード原料として石膏を供給するに際しては、石膏からのフッ素溶出量の管理が重要となり得る。
【0003】
現在、石膏からのフッ素溶出量については、土壌環境基準に定める環境庁告示46号法(溶出量値)を準用して評価が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】井上雄三、廃石膏ボード(再生石膏)の再資源化への課題と展望、第4回廃石膏ボード再資源化・情報交換会講演レジメ集、2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、環境庁告示46号法(以下、「環告46号法」と呼ぶこともある。)では、石膏からフッ素を溶出させるために、石膏と水を6時間(360分間)往復振とう処理するようにしていることから、石膏からのフッ素溶出量の分析に長時間を要するという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、石膏からフッ素を溶出する工程を従来よりも短時間で実施することにより、石膏からのフッ素溶出量を迅速に分析することのできる方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、石膏からのフッ素溶出量分析用試料を従来よりも短時間で作製することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、本願発明者が鋭意検討を行った結果、石膏からフッ素を溶出する工程を、6時間往復振とう処理に代えて、水を溶媒とした媒体撹拌ミルによる処理とすることが有効であることを知見し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明の石膏からのフッ素溶出量分析方法は、水を溶媒とした媒体撹拌ミルにより石膏を処理して石膏を粉砕し、石膏粉砕物と水のスラリーを作製する工程と、このスラリーから石膏粉砕物を除去してフッ素分析用検液を得る工程と、フッ素分析用検液をフッ素濃度分析に供してフッ素分析用検液のフッ素分析値を得る工程とを含かつ媒体撹拌ミルによる粉砕処理を、比重が1以上で且つ直径3mm〜7mmのボールと直径0.05mm〜0.2mmのガラスビーズとを粉砕媒体として使用し、石膏と水の固液比を10L/kg[水体積/石膏重量]とし、水に対してボールを体積比で1/30〜1/10投入し、水に対してガラスビーズを体積比で1/30〜1/10投入して、回転数2000rpm以上で3〜30分間実施するようにしている。
【0010】
ここで、本発明の石膏からのフッ素溶出量分析方法においては、フッ素含有量の異なる複数の石膏について、(1)水に投入して360分間往復振とう処理して得られるフッ素分析用検液のフッ素分析値を得、(2)本発明の方法によりフッ素分析値を得、(1)のフッ素分析値及び(2)のフッ素分析値から(2)のフッ素分析値を(1)のフッ素分析値に換算するための補正係数を予め求めておき、本発明の方法により得られるフッ素分析値にこの補正係数を乗じる工程をさらに含むようにすることが好ましい。これにより、本発明の方法により得られるフッ素分析値を、環告46号法によって得られるフッ素分析値に補正することができる。
【0012】
次に、本発明の石膏からのフッ素溶出量分析用試料の作製方法は、水を溶媒とした媒体撹拌ミルにより石膏を処理して石膏を粉砕し、石膏粉砕物と水のスラリーを作製する工程と、スラリーから石膏粉砕物を除去してフッ素分析用検液を得る工程とを含かつ媒体撹拌ミルによる粉砕処理を、比重が1以上で且つ直径3mm〜7mmのボールと直径0.05mm〜0.2mmのガラスビーズとを粉砕媒体として使用し、石膏と水の固液比を10L/kg[水体積/石膏重量]とし、水に対してボールを体積比で1/30〜1/10投入し、水に対してガラスビーズを体積比で1/30〜1/10投入して、回転数2000rpm以上で3〜30分間実施するようにしている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の石膏からのフッ素溶出量分析方法によれば、石膏からフッ素を溶出する工程を環告46号法よりも短時間で実施することができると共に、この工程により作製されるフッ素溶出量分析用試料のフッ素溶出量分析値の、環告46号法によるフッ素溶出量分析値との相関性も十分に確保することができる。したがって、石膏からのフッ素溶出量について、環告46号法よりも迅速に、しかも信頼性のある分析値を得ることが可能となる。
【0015】
また、本発明の石膏からのフッ素溶出量分析用試料の作製方法によれば、石膏からフッ素を溶出する工程を環告46号法よりも短時間で実施することができると共に、作製されるフッ素溶出量分析用試料のフッ素溶出量分析値の、環告46号法によるフッ素溶出量分析値との相関性も十分に確保することができる。したがって、石膏からのフッ素溶出量について、環告46号法よりも迅速に、しかも信頼性のある分析値を得ることが可能なフッ素溶出量分析用試料を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】石膏試料4種(D148、D820、D133及びD840)の粒径分布測定結果を示す図である。
図1B】石膏試料3種(D157、D72及びD144)の粒径分布測定結果を示す図である。
図2】実施例1における、石膏のフッ素含有量と環告46号法によるフッ素溶出量との関係を示す図である。
図3A】石膏試料D72に対して、各種フッ素溶出処理を施した場合のフッ素溶出量の比較図である。
図3B】石膏試料D133に対して、各種フッ素溶出処理を施した場合のフッ素溶出量の比較図である。
図3C】石膏試料D144に対して、各種フッ素溶出処理を施した場合のフッ素溶出量の比較図である。
図3D】石膏試料D148に対して、各種フッ素溶出処理を施した場合のフッ素溶出量の比較図である。
図3E】石膏試料D157に対して、各種フッ素溶出処理を施した場合のフッ素溶出量の比較図である。
図3F】石膏試料D820に対して、各種フッ素溶出処理を施した場合のフッ素溶出量の比較図である。
図3G】石膏試料D840に対して、各種フッ素溶出処理を施した場合のフッ素溶出量の比較図である。
図4】環告46号法によるフッ素溶出量と各種溶出方法によるフッ素溶出量との関係を示す図である。
図5】媒体撹拌ミルによる処理について、複数の直径のボールを同時に使用した場合の試験結果を示す図である。
図6】Al及びSiO濃度による重回帰式によってフッ素溶出量を予測することを検討した図である。
図7】実施例3における、石膏のフッ素含有量と環告46号法によるフッ素溶出量との関係を示す図である。
図8】実施例3において用いた石膏試料の長径と短径の中央値の分布を示す図である。
図9】超音波処理と媒体撹拌ミルによる処理の比較検討結果を示す図である。
図10】パラメータ設計の試験結果を示す入出力図である。
図11】媒体撹拌ミル処理による溶出法の機能の定義を示す図である。
図12】各石膏試料のフッ素溶出量に対する要因効果を示す図である。
図13】パラメータ設計試験データの要因効果を示す図である。
図14】実験A及び実験Bによるフッ素溶出量について、環告46号法によるフッ素溶出量との相関を示す図である。
図15】10%粒径値に対するフッ素溶出量(環告46号法との相対値)について検討した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
本発明の石膏からのフッ素溶出量分析方法は、以下の工程A1〜A3を含むようにしている。
(工程A1)水を溶媒とした媒体撹拌ミルにより石膏を処理して石膏を粉砕し、石膏粉砕物と水のスラリーを作製する工程
(工程A2)スラリーから石膏粉砕物を除去してフッ素分析用検液を得る工程
(工程A3)フッ素分析用検液をフッ素濃度分析に供してフッ素分析用検液のフッ素分析値を得る工程
【0019】
工程A1〜A3のうち、工程A1〜A2を実施することで、石膏からのフッ素溶出量分析用試料を作製することができる。そして、工程A1〜A2を実施することで作製された石膏からのフッ素溶出量分析用試料(フッ素分析用検液)を工程A3に供することによって、石膏からのフッ素溶出量の分析を行うことができる。以下、工程A1〜A3について、詳細に説明する。
【0020】
(工程A1)
工程A1では、水を溶媒とした媒体撹拌ミルにより石膏を処理して石膏を粉砕し、石膏粉砕物と水のスラリーを作製する。
【0021】
媒体撹拌ミルに供する石膏と水の割合は、媒体撹拌ミルによる処理をスムーズに進行させ得る限り、特に限定されるものではないが、環告46号法における往復振とう処理と同様、固液比(水体積/石膏重量)=10L/kgとすることが好適である。
【0022】
媒体撹拌ミルとは、ボールミルの一分類に位置づけられる粉砕装置である。容器中にボールやビーズなどの粉砕媒体を入れ、この媒体間に挿入した撹拌機構によって力を伝達して攪拌し、主として媒体のせん断、摩擦作用によって粉砕を行う微粉砕機であり、溶媒を用いた湿式粉砕が主に行われる。媒体に小径ボールやビーズを用いることが多く、これらを使用した場合の一般的欠点である衝撃・せん断・摩擦力の弱さを、強制的な撹拌でカバーしており、超微粉砕機として極めて有効である(伊藤光弘 粉粒体装置、東京電機大学出版局、2011、367p)。
【0023】
また、媒体撹拌ミルによる処理は、少量(例えば数グラム程度)の石膏を粉砕して水とのスラリーを作製でき、且つ交差汚染を防ぐ上でワンウェイ型(1回限りの使用)の粉砕容器を利用可能な装置を使用して行うことが、石膏の品質管理を行い易くする上で好適である。
【0024】
このような装置としては、例えばIKA社のULTRA−TURRAX(登録商標)Tube Drive controlホモジナイザと、これに装着して用いられる密閉式使い捨て撹拌容器BMT−50Sの組み合わせが挙げられる。この装置は、樹脂製容器下部(容積50mL)に撹拌棒が取り付けてあり、撹拌棒は円錐面に沿った軌道を高速周回(最大4000rpm)することで、容器内に入れた粉砕媒体(ボール)が運動して混合・分散・粉砕が行われる。尚、Tube Drive controlホモジナイザは、機器の導入コストがボールミル装置としては小さいため、現場への配備が容易であるという利点もある。また、この装置は、密閉容器内で撹拌を行うことができることから、撹拌操作中に空気中の二酸化炭素や酸素の影響を受けないという利点もある。さらに、この装置は、回転速度が可変かつ微調整可能であり、作業者が扱いやすいという利点もある。但し、媒体撹拌ミルによる処理を行うための装置は、これに限定されるものではない。
【0025】
溶媒に用いる水は、環境庁告示46号法で規定される溶媒、すなわち「純水に塩酸を加え、水素イオン濃度指数が5.8以上6.3以下となるようにしたもの」が望ましいが、純水(JIS K0557:1998のA3またはA4)を用いても良い。溶出操作時の温度、圧力についても環境庁告示46号法における操作条件である常温(おおむね20℃)常圧(おおむね1気圧)と同じ条件で行うことが望ましい。
【0026】
媒体撹拌ミルによる処理に使用するボール等の粉砕媒体の材質については、石膏の粉砕をスムーズに進行させ得るものであれば特に限定されない。
【0027】
粉砕媒体の材質については、例えばステンレス鋼(SUS304等)等の金属、ジルコニア・アルミナ等のセラミック、ガラス、樹脂等が挙げられる。また、媒体撹拌ミルによる処理を行う際に、材質の異なる二種以上の粉砕媒体を使用してもよい。また、媒体撹拌ミルによる処理中に粉砕媒体が水面に浮くのを防ぐために、粉砕媒体の比重は1以上とすることが好ましい。
【0028】
媒体撹拌ミルによる処理に使用する粉砕媒体の総量については、粉砕撹拌ミルによる処理に供する石膏と水の量に応じて設定される。例えば、石膏と水の固液比(水体積/石膏重量)=10L/kgの場合には、粉砕媒体の水に対する総投入量は、体積比(粉砕媒体体積/水体積)で1/30〜1/5とすることが好適であり、1/15〜4/30とすることがより好適である。但し、粉砕媒体の水に対する総投入量は、この範囲に限定されるものではない。尚、必要な粉砕媒体体積に相当する量の粉砕媒体は、粉砕媒体の素材自体の比重[g/cm]を用いて、必要な体積に相当する量の重量を予め計算しておき、その重量を計りとることで得られる。
【0029】
媒体撹拌ミルによる処理に使用する粉砕媒体のサイズについては、媒体撹拌ミルによる処理に供される石膏粒子の平均粒径及び粒径分布等に応じて設定される。石膏の場合、一定の粉砕物を得るのに必要な仕事量を測定して算出する指数(粉砕仕事指数相当値:Work Index)は評価粒径が10μm以下になると急速に増加することが報告されている(神田良照.微粉砕に要する仕事量の予測、山形大学紀要(工学).2006,29,1,7−15)。したがって、媒体撹拌ミルによる処理においては、粗大な石膏粒子は比較的粉砕しやすいが、微小な石膏粒子は粉砕しにくい。ここで、媒体撹拌ミルによる処理においては、使用する粉砕媒体のサイズが小さいほど、石膏粒子の粉砕限界粒子径を小さくすることができる。また、媒体撹拌ミルによる処理の時間を増やす程、石膏粒子の粒子径を小さくすることができる。したがって、環告46号法における6時間往復振とう処理によるフッ素溶出量と相関性のあるフッ素溶出量を6時間よりも短時間で確保することができるように、粉砕媒体のサイズを設定する。例えば、平均粒径(50%粒径)47μm程度の石膏粒子に対し、粉砕媒体としてのボールの径(直径)を1mmオーダー(1mm〜9mm)とすることが好適であり、3mm〜7mmとすることがより好適であり、5mmとすることがさらに好適であるが、この範囲には限定されない。
【0030】
ここで、媒体撹拌ミルによる処理に使用する粉砕媒体は、サイズの異なる二種以上を併用することが好適である。例えば、1mmオーダー(1mm〜9mm)、好適には3〜7mm、より好適には5mm程度のサイズの粉砕媒体と、この粉砕媒体よりも数mm〜二桁程度小さなサイズ、好適には0.05mm〜0.2mm、より好適には0.1mm程度のサイズの粉砕媒体を併用するようにしてもよい。これにより、サイズの小さな方の粉砕媒体が粉砕助剤のような働きをして、微小な石膏粒子からのフッ素溶出を促進させて、環告46号法におけるフッ素溶出量との相関性をより優れたものとできる。
【0031】
サイズの異なる二種以上の粉砕媒体を用いる場合、それぞれの粉砕媒体の材質は、同一としても異なるものとしてもよい。尚、径の小さな粉砕媒体については、入手容易性の観点から、ガラス製の粉砕媒体(例えばガラスビーズ等)とすることが好適である。
【0032】
また、サイズの異なる二種以上の粉砕媒体を用いる場合、それぞれの粉砕媒体の水に対する投入量は、多すぎると、粉砕効率が低下し得る。特に粉砕助剤として機能する粉砕媒体を投入しすぎると、スラリーの粘性が高まってしまい、この影響が顕著となり得る。また、投入量が少なすぎても、十分に粉砕が起こらなくなる。したがって、例えば石膏と水の固液比(水体積/石膏重量)=10L/kgの場合には、体積比(粉砕媒体体積/水体積)で1/30〜1/10とすることが好適であり、1/15とすることがより好適である。
【0033】
ここで、粉砕媒体についての極めて好適な条件としては、直径3mm〜7mm(より好適には5mm)のボールと、直径0.05mm〜0.2mm(より好適には0.1mm)のガラスビーズとを併用し、石膏と水の固液比(水体積/石膏重量)=10L/kgの場合には、水に対してボールを体積比(ボール体積/水体積)で1/30〜1/10(好適には1/15)投入し、水に対してガラスビーズを体積比(ガラスビーズ体積/水体積)で1/30〜1/10(好適には1/15)投入することである。これにより、微小な石膏粒子からのフッ素溶出をさらに促進させて、環告46号法におけるフッ素溶出量との相関性を極めて優れたものとできる。
【0034】
媒体撹拌ミルによる処理の回転速度及び媒体撹拌ミルによる処理時間については、石膏粒子の平均粒径及び粒径分布等に応じて設定される。媒体撹拌ミルによる処理においては、回転速度が大きいほど石膏粒子の粉砕速度が大きくなり、逆に小さいほど石膏粒子の粉砕速度が小さくなる。したがって、要求される媒体撹拌ミルによる処理時間と、石膏粒子の平均粒径及び粒径分布等に応じて、媒体撹拌ミルによる処理の回転速度が設定される。媒体撹拌ミルによる処理の回転速度及び媒体撹拌ミルによる処理時間については、例えば、2000rpm以上、好適には4000rpm以上で、3〜30分間、好適には10分間とすればよいが、この条件に限定されるものではない。尚、媒体撹拌ミルによる処理の回転速度については、大きくするほどフッ素を溶出させ易くできる可能性があると考えられるが、フッ素溶出効率(つまり、回転のために導入するエネルギーに対するフッ素溶出量)や媒体撹拌ミルによる処理における現状の最大速度等を考慮すると、およそ8000rpm程度が上限値と考えられる。但し、回転速度の上限値は、必ずしもこの値には限定されない。
【0035】
媒体撹拌ミルによる処理により石膏を粉砕することで、石膏粉砕物と水のスラリーが得られる。このスラリーを次工程A2に供する。
【0036】
(工程A2)
工程A2では、工程A1で得られたスラリーから石膏粉砕物を除去してフッ素分析用検液を得る。
【0037】
スラリーから石膏粉砕物を除去する方法としては、環境庁告示46号で定められた孔径0.45μmのメンブランフィルターを用いたろ紙ホルダーやシリンジフィルター等を利用した濾過処理が挙げられる。この場合、濾過処理により得られる濾液がフッ素分析用検液となる。但し、スラリーから石膏粉砕物を除去する方法は、濾過処理には限定されず、スラリーを構成する石膏粉砕物と水を固液分離可能な方法を適宜採用してもよい。例えば、遠心分離を行った後の上清をフッ素分析用検液としてもよい。
【0038】
フッ素分析用検液は、次工程A3におけるフッ素濃度分析に供される。
【0039】
(工程A3)
工程A3では、工程A2で得られたフッ素分析用検液をフッ素濃度分析に供してフッ素分析用検液のフッ素分析値を得る。これにより、石膏からのフッ素溶出量を分析することができる。
【0040】
フッ素分析用検液をフッ素濃度分析するための方法としては、例えば表1に示す公知の分析方法が挙げられる。
【0041】
【表1】
【0042】
表1中、「U.S.EPA(2003)」は、詳細には、U.S. EPA. Analytical feasibility support document for the six year review of existing national primary drinking water regulations (reassessment of feasibility for chemical contaminants), 815-R-03-003, 2003.のことである。
【0043】
また、表1中、「Health Canada(2010)」は、詳細には、Health Canada , Guidelines for. Canadian Drinking Water Quality: Guideline Technical Document. Prepared by the Federal-Provincial-Territorial Committee on Drinking Water of the Federal-Provincial-Territorial Committee on Health and the Environment, 2010.のことである。
【0044】
また、表1中、「APHA(2005)」とは、詳細には、APHA (American Public Health Association), Standard methods for the examination of water and wastewater, 2005, Washington, D. C. : APHA-AWWA-WEF (ISBN 0875530478).のことである。
【0045】
LAC法(ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法)は、アリザリンコンプレキソンとランタンのキレートにフッ素イオンが反応して複合錯体が生成されることを利用した分析方法であり、この複合錯体と空試験との吸光度の差を用いて定量する(JIS K0102 34.1、JIS R 9101)。LAC法はわが国のフッ素定量法として広く普及しており、専用の呈色試薬(同仁化学研究所製アルフッソン)も発売されている。
【0046】
SPADNS法は、SPADNS(2−(4−スルホフェニルアゾ)−1,8−ジヒドロキシナフタレン−3,6−ジスルホン酸三ナトリウム水和物)のジルコニウム錯体の呈色反応を利用した分析方法である(4500F−D APHA(2005))。
【0047】
Acac−LAC法は、アセチルアセトン(Acac)を利用したLAC法であり、検液へのアセチルアセトンの添加により、アルミニウムや鉄による測定の妨害を抑止する分析方法である。例えば、アセチルアセトンを検液の8重量%添加すると、アルミニウムは最大0.3mg/L、鉄は0.5mg/Lまで共存したとしても、その妨害を抑止できることが報告されている(橋谷博、吉田秀世、安達武雄.アセチルアセトンをデマスキング剤とする水中フッ素の直接定量.分析化学、1979、28、11、680−685.)。
【0048】
尚、Acac−LAC法は、東京都認定の簡易土壌汚染調査法において利用されている方法である。以下、検液50mLに対するAcac−LAC法の実施の一例を示す。
(a)pH7になるように検液に硫酸又は水酸化ナトリウムを添加する。
(b)酢酸緩衝液4mL、アセチルアセトン4mLを添加する。
(c)5重量%アルフッソン溶液10mL、アセトン20mLを加える。
(d)純水を添加して100mLとし、30分間静置した後、分光光度計で620nmの吸光度を測定する。
【0049】
連続流れ分析法によるLAC法は、オートアナライザーを利用した連続流れ分析によるフッ素分析方法である(4500F−E APHA(2005))。
【0050】
上記分析方法は、吸光光度法を利用したものであるが、IC(イオンクロマトグラフ)法(JIS K0102 34.3)やイオン電極法(JIS K0102 34.2、4500F−B APHA(2005))等も挙げられる。
【0051】
上記分析方法のうち、LAC法、SPADNS法については、検液に含まれる妨害成分に応じて、水蒸気蒸留等により適宜妨害成分を除いてから分析が実施される。但し、水蒸気蒸留操作には熟練を要することから、作業者間で分析値にばらつきが出やすい。連続流れ分析法によるLAC法については、自動分析工程中に水蒸気蒸留工程が含まれている。したがって、作業者間の分析値ばらつきを抑制できると共に、水蒸気蒸留操作にかかる作業者の負担が無くなるという利点もある。但し、装置が極めて高額であり、石膏の品質管理を必要とする現場への導入が難しい。
【0052】
これらに対し、IC法やイオン電極法は、水蒸気蒸留等の前処理工程を原則として必要としない。また、Acac−LAC法も水蒸気蒸留等の前処理工程が不要である。したがって、これらの分析方法については、水蒸気蒸留操作に起因する作業者間の分析値ばらつきが無く、水蒸気蒸留操作にかかる作業者の負担も無くなり、しかも水蒸気蒸留にかかる時間を削減できるという利点がある。そして、特にAcac−LAC法については、分析自体に要する時間も40〜100分と短時間であると共に、安価且つ汎用性の高いコンパクトな装置である吸光光度計で分析を行うことが可能であり、石膏の品質管理を必要とする現場において導入しやすい分析方法であると言える。
【0053】
以上、工程A1〜A3により、石膏からのフッ素溶出量の分析を、環告46号法と比較して、迅速且つ簡易に実施することが可能となる。
【0054】
ここで、本発明の石膏からのフッ素溶出量分析方法においては、環告46号法により得られる分析値との相関性は十分に確保できるものの、その値が若干小さくなることがある。この場合には、以下の手順により補正係数を求め、この補正係数を工程A3で得られたフッ素分析用検液のフッ素分析値に乗じることによって、環告46号法による分析値と同等の値を得ることができる。即ち、フッ素含有量の異なる複数の石膏について、(1)水に投入して360分間往復振とう処理して得られるフッ素分析用検液のフッ素分析値(つまり、環告46号法により得られる分析値)を得、(2)本発明の方法(工程A1〜A3)によりフッ素分析値を得る。次に、同一の石膏試料について、(1)のフッ素分析値α及び(2)のフッ素分析値γからα/γを求める。そして、α/γを複数の石膏試料について求めた後、その平均値を計算して得られた補正係数を工程A3で得られたフッ素分析用検液のフッ素分析値に乗じる。また、石膏試料数が多い場合は、測定結果をグラフで表示して、グラフ横軸を(1)のフッ素分析値、グラフ縦軸を(2)のフッ素分析値として測定結果をグラフ上に配置し、原点を通過する回帰直線を求めて、その直線の傾きの逆数を算出し、それを補正係数として工程A3で得られたフッ素分析用検液のフッ素分析値に乗じるようにしてもよい。
【0055】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、媒体撹拌ミルによる処理における回転速度は、全処理時間を通じて一定とすることには限定されず、処理時間の経過に合わせて減速したり、加速したりするようにしてもよい。また、回転と停止を交互に繰り返して間欠的に粉砕処理を行うようにしてもよい。
【0056】
また、検液のフッ素濃度分析方法については、上記の方法には限定されず、公知又は新規の方法を適宜採用することが可能である。
【0057】
また、環告46号法における6時間往復振とう処理と同一の条件で、往復振とう処理時間のみを短縮してフッ素分析用検液を得て、このフッ素分析用検液のフッ素分析値から、6時間往復振とう処理を行った場合のフッ素分析値を推定するようにしてもよい。具体的には、フッ素溶出量の異なる複数の石膏試料について、往復振とう処理を6時間実施した場合のフッ素分析値と、往復振とう処理時間を短縮した場合(処理時間が短い場合には相関性が低くなるため、90分以上が好適条件)のフッ素分析値とから予め求められる、往復振とう処理時間を短縮した場合のフッ素分析値を6時間実施した場合のフッ素分析値に換算する補正係数を、往復振とう処理時間を短縮した場合のフッ素分析用検液のフッ素分析値に乗ずることで、6時間往復振とう処理を行った場合のフッ素分析値を推定するようにしてもよい。
【実施例】
【0058】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0059】
尚、以降の説明では、環境庁告示46号法(環告46号法)を「公定法」と呼ぶこともある。
【0060】
[実施例1]
1.試料
試料として、7種の石膏を使用した。これら7種の石膏のフッ素含有量と粒径を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すフッ素含有量は、JIS R 9101−1995に従い、蒸留操作付きのLAC法により測定した値である。また、表1に示す粒径(50%粒径)は、島津製作所レーザー回折式粒度分布測定装置SLAD−3000を用いて計測した値である。
【0063】
また、上記7種の石膏の粒径分布を図1A図1Bに示す。
【0064】
尚、比較試料として、廃石膏ボード2種(B151(新築系)、B66(解体系))を一部試験に供した。
【0065】
2.溶出時間の短縮に関する検討
石膏からフッ素を溶出する工程の短縮化について検討した。
【0066】
(1)試験方法
上記7種の石膏を対象とし、石膏からフッ素を溶出する工程の短縮化方法として、以下の(a)〜(e)の方法について検討を行った。尚、対照試験として、公定法(6時間往復振とう)についても実施した。
(a)5分間超音波処理
(b)10分間超音波処理
(c)30分間超音波処理
(d)60分間超音波処理
(e)媒体撹拌ミル処理(10分間)
【0067】
超音波処理((a)〜(d))については、シャープ株式会社製据置型超音波洗浄機UC−6200(発振周波数:40kHz、貯水容量約36リットル)を用いて、固液比10L/kgで所定の時間実施した。
【0068】
媒体撹拌ミル処理(e)は、以下の手順で実施した。まず、IKA社製BMT−50S(容量50mL)に、水を30mL、石膏3gを投入し、粉砕媒体として付属ステンレス球(SUS304、直径5mm)を30個投入した。この状態でBMT−50SをIKA社製ULTRA−TURRAX(登録商標) Tube Drive control ホモジナイザに装着し、回転数4000rpmで湿式粉砕処理を行い、石膏粉砕物と水のスラリーを得た。次いで、このスラリーを減圧濾過器(フィルターホルダー:アドバンテック東洋製KGS-47,フィルター:アドバンテック東洋製A045A047A)で濾過した。媒体撹拌ミルによる処理時間は10分間とした。
【0069】
尚、公定法及び(a)〜(e)の方法により得られた検液(フッ素溶出液)のフッ素濃度分析は、東ソー株式会社製IC−2010を用いて、IC(イオンクロマトグラフ)法により実施した(JIS K 0102 34.3)。
【0070】
(2)試験結果及び検討
上記試験に先立ち、石膏のフッ素含有量と公定法によるフッ素溶出量との関係について検討した。その結果、両者に明確な関係は見られなかった(図2)。したがって、石膏のフッ素含有量からフッ素溶出量を推定することは困難であることがわかった。
【0071】
次に、公定法及び(a)〜(e)の方法により得られた検液のフッ素濃度(フッ素溶出量)の分析結果を図3A図3Gに示す。尚、図中の「ボールミル」とは、(e)の媒体撹拌ミル処理のことである。
【0072】
超音波処理によるフッ素溶出量は、公定法によるフッ素溶出量(以下、公定法値と呼ぶ。)と比較すると概ね低くなることが確認された。
【0073】
媒体撹拌ミル処理によるフッ素溶出量は、D144については公定法値よりも大きいことが確認された。また、D157とD820については公定法値と近い値を示すことが確認された。その他の石膏試料については、公定法値よりも低い値を示すことが確認された。
【0074】
超音波処理の場合の処理時間の長短によるフッ素溶出量の変動については明確な傾向は見られなかった。
【0075】
次に、上記(a)〜(e)の方法によるフッ素溶出量を、公定法値に対する比率として求め、7種の石膏試料について平均値を算出した。その結果、超音波処理(60分)が70%、媒体撹拌ミル処理(10分)が89%となり、(e)の媒体撹拌ミル処理が、フッ素の溶出操作として最も効率が高いと考えられた。
【0076】
また、公定法値と、上記(a)〜(e)の方法によるフッ素溶出量との関係を図4に示す。
【0077】
超音波処理は、最も溶出量の多い60分の条件下でも1試料を除き80%以下であり、分布のばらつきも大きかった。したがって、超音波処理によるフッ素溶出量から公定法値を推定するのは困難であると考えられた。
【0078】
一方で、媒体撹拌ミル処理は、超音波処理と比較すると、分布ばらつきもそれほど大きくない上に、10分間という短時間の処理で公定法値を超えるフッ素溶出量が得られる試料が存在したことから、公定法(6時間)よりも極めて短時間で、公定法と相関性のあるフッ素溶出量が得られうることが明らかとなった。
【0079】
[実施例2]
石膏試料D133、D148について、実施例1の(e)媒体撹拌ミル処理(10分間)と同条件で、かつ使用するボールを以下のように変更して試験を実施した。
(g−1)
・使用したボールの材質:東ソー(株)、ジルコニア粉砕ボールYTZ(登録商標)、硬度1250HV
・ボールの直径と個数 :直径5mmのボール30個と直径1mmのボール約3750個(5mmボール30個と同じ重量)を同時に使用
尚、直径5mmボール30個は、体積2cmに相当する。水との体積比は1/15である。
(g−2)
・使用したボールの材質:東ソー(株)、ジルコニア粉砕ボールYTZ(登録商標)、硬度1250HV
・ボールの直径と個数 :直径5mmのボール30個と直径2mmのボール約469個(5mmボール30個と同じ重量)を同時に使用
【0080】
試験結果を図5に示す。実施例1の(e)の試験結果(図中5mmのみと表記)と比較すると、本実施例で新たに検討した条件である「(e−1)」(図中5mm+1mmと表記)及び「(e−2)」(図中5mm+2mmと表記)では、溶出するフッ素濃度が高くなる傾向がみられた。このことから、複数の直径のボールを組み合わせて用いることで、溶出操作の効率をさらに改善することが可能であることが明らかとなった。
【0081】
[実施例3]
実施例1及び2において有効と考えられた媒体撹拌ミル処理について、公定法との相関性のさらなる向上とフッ素溶出量のばらつきの低減を図ることについて検討を行った。
【0082】
1.試料
試料として、17種の石膏(試料の頭文字D−)を用いた。また、比較のために廃石膏ボード粉砕物2種(試料の頭文字B−)も用いた。これらの石膏の公定法による溶出液の水質分析方法を表3に示し、水質分析結果を表4に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
尚、イオンクロマトグラフは東ソー(株)IC−2010を用いて行った。ICP−AESは島津製作所ICPS−8100を用いて行った。石膏中フッ素含有量はJIS R 9101−1995(セッコウの化学分析方法)に従い、蒸留操作後にランタンアリザリンコンプレキソン吸光光度法(LAC法)で測定した。
【0086】
表4に示す結果から、石膏の溶出液のpHは7.5〜8.6の範囲にあることが明らかとなった。また、Naの濃度はD−HQGとD−L6が顕著に高く、Mgの濃度はD−F2、D−HQG、D−L2、D−L5及びD−L6で10mg/L以上あり、特にD−L5は55.8mg/Lと非常に高い値を示していた。Clの濃度もD−L5及びD−L6で10mg/L以上を示していた。NOの濃度もD−L5及びD−L6が高かった。
【0087】
フッ素溶出量とその他水質項目の間の相関に関しては、Alとの間に弱い相関(R=0.728、p=0.0009)があった。さらに、フッ素を目的変数として、変数増減法で重回帰分析を行ったところ、AlとSiOの2つの項目を用いた式が最もAIC(赤池情報量基準)が小さく、重相関係数は0.8287であった。この回帰式による実測値と予測値の関係を図6に示す。
【0088】
次に、JIS R 9101−1995に従い、蒸留操作付きのLAC法により石膏のフッ素含有量を測定し、この測定値と公定法によるフッ素溶出量との関係について検討した図を図7に示す。図7に示す結果から、両者の相関は小さく、フッ素含有量値からフッ素溶出量を予測することは、実施例1と同様に、困難と考えられた。尚、図中の「JST−46」とは、環境庁告示46号法(環告46号法)、即ち「公定法」のことである。以降の図面においても、「JST−46」は「公定法」を意味している。
【0089】
次に、17種の石膏(試料の頭文字D−)について、粒径の測定を行った。尚、実施例1では、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒径を測定したが、この測定装置では、球形粒子を仮定して得られる情報を元に有効径を算出しているため、石膏粒子のアスペクト比(長径/短径の比)を求めることができなかった。そこで、本実施例では、実体顕微鏡の画像解析による測定を実施した。実体顕微鏡画像はスリーアールシステム(株)のデジタル顕微鏡WM601を用いた。撮影時倍率は550倍、測定長さの校正はケニス(株)製マイクロルーラーを用いて行った。撮影画像上で、石膏粒子の長径と短径を各試料それぞれ200点以上測定し、長径、短径の中央値およびアスペクト比の中央値を求めた。結果を表5に示す。また、長径と短径の中央値の分布を図8に示す。
【0090】
【表5】
【0091】
石膏試料のアスペクト比は1.5〜1.9の間にあり、長径の中央値は44〜72μmの範囲に分布していた。また、D−L6のみアスペクト比が大きく、標準的な石膏の形状から解離していることが明らかとなった。水質分析結果から、D−L6はNa、Mg、NOの溶出量が極めて大きかった点が他試料と異なっていたことから、D−L6は生成条件において他の石膏と違いがあることが推察された。
【0092】
2.超音波処理と媒体撹拌ミル処理の比較検討
土壌の迅速溶出操作用機器として実績のある卓上型超音波洗浄機(3波長可変型、本田電子製W−113)による溶出法と、媒体撹拌ミル処理による溶出法を比較検討した。超音波処理は、東京都の土壌汚染調査選定法(大成基礎設計(株)提案方法)で指定された周波数28kHzを中心に検討した。28kHzについては石膏7試料の処理を実施した。また、比較のため、45kHz、100kHzの周波数については石膏3試料の処理を実施した。全ての溶出操作において,石膏と水の固液比は10L/kg[水体積/石膏重量]、溶出時間は10分とした。溶出処理後は固液分離し、東ソー株式会社製IC−2010を用いて、IC(イオンクロマトグラフ)法によりフッ素濃度分析を実施した(JIS K 0102 34.3)。
【0093】
また、同じ試料について、媒体撹拌ミル処理を実施した。媒体撹拌ミル処理の溶出操作条件および溶出処理後の固液分離条件は、実施例1と同様とした。そして、フッ素濃度分析は、超音波洗浄機による溶出法の場合と同様、東ソー株式会社製IC−2010を用いて実施した。
【0094】
図9に超音波処理及び媒体撹拌ミル処理による溶出結果と、公定法による溶出結果との関係を示す。横軸は公定法の値であり、縦軸は超音波処理又は媒体撹拌ミル処理による値である。媒体撹拌ミル処理による溶出量値がY=X直線近傍に位置し、公定法の結果と正の相関が認められた。これに対し、超音波処理による溶出量値は洗浄効果の高い28kHzにおいても、結果は全て過小評価であり、公定法の溶出量値との間に明確な相関を見いだすことは困難であった。以上より、石膏を対象とした溶出試験に関しては、超音波洗浄よりも媒体撹拌ミル処理の方が、公定法による溶出特性に対する相関性が高いことが明らかとなった。
【0095】
ここで、この実験の結果において、土壌汚染調査で用いられる超音波洗浄処理によるフッ素溶出値が、公定法によるフッ素溶出値との相関性が認められなかったのは以下の理由によると考えられる。即ち、石膏中のフッ素は、石膏粒子の表面だけでなく、内部にも存在する。このため表面を洗浄しても、公定法試験では、石膏粒子相互の衝突による表面粉砕作用によりフッ素は長期間持続的に溶出する。石膏のフッ素溶出が粒子表面の溶解後も持続的に続くことは、繰り返し水洗処理の試験において確認されている(袋布昌幹.廃石膏ボードの安全・安心リサイクル推進を可能とする石膏中フッ素の簡易分析・除去技術の開発.環境省廃棄物処理等科学研究費補助金総合研究報告書(K1846).2007.(CD−ROM))。これに対し、超音波処理においては、石膏粒子表面付近のフッ素だけが溶出に寄与すると考えられる。以上の理由から、汚染土壌の溶出現象では、フッ素は主に粒子表面に吸着し、超音波処理の結果が公定法のフッ素溶出値とほぼ整合するのに対して、石膏を対象とした場合においては、公定法のフッ素溶出値との解離が大きくなったものと考えられる。
【0096】
以上のことから、粒子表面に吸着した物質を効率よく溶出する土壌汚染分野での迅速溶出法を石膏に準用することは困難であると考えられ、公定法の溶出試験において石膏粒子表面に物理的に加わる摩擦力・せん断力を再現可能な媒体撹拌ミルを用いることが好ましいと考えられた。
【0097】
3.媒体撹拌ミル処理条件の検討
石膏7検体を対象とし、公定法のフッ素溶出量とのさらなる相関性の向上とフッ素溶出量のばらつきの低減を目指して、媒体撹拌ミル処理条件について、品質工学のパラメータ設計を行った。
【0098】
表6に示す18ケースの実験条件について、ボールの材質(2水準)、回転速度、時間、ボール直径、ボール体積、助剤直径及び助剤体積(各3水準)をL18直交表(表7を参照)の配列に基づき割り付けを行った。尚、ボール体積及び助剤体積は、(投入した重量)/(素材の比重)で算出した値である。本実施例では、助剤(粉砕助剤)として0.05mm〜0.2mm粒径(直径)のガラスビーズ(ソーダガラス製、比重2.5、硬度550HV)を用いた。SUS304ボールは、実施例1で用いたものと同様とした。YTZボールは、実施例2で用いたものと同様とした。尚、ボールと助剤(粉砕助剤)は、媒体撹拌ミル処理における粉砕媒体である。
【0099】
【表6】
【0100】
【表7】
【0101】
L18直交表に従い設定した各試験のフッ素溶出量測定結果を表8に示す。
【0102】
【表8】
【0103】
実験間の溶出量値の違いについて、同一試料の溶出液のフッ素濃度値に1.8〜3.6倍の差が見られた。各試料の実験間の変動係数はD−G試料が37%と最も大きく、D−L2試料が最も小さかった(18%)。公定法濃度に対する実験結果の関係を示す入出力図を図10に示す。図中、横軸が公定法によるフッ素濃度であり、縦軸が媒体撹拌ミル処理によるフッ素濃度である。実験条件により図中の各実験の点の分布傾向は異なり、No.9とNo.15はグラフ回帰直線からのバラツキが特に小さく、他方、No.18のバラツキが最も大きいことが明らかとなった。
【0104】
次に、品質工学のパラメータ設計の考え方に沿って、媒体撹拌ミル溶出の制御因子の最適化を行った。尚、パラメータ設計の原理の詳細に関しては、品質工学概論(矢野 宏.日本規格協会、2009.287p.)に系統的に解説されている。
【0105】
パラメータ設計では、改善の対象となる機械や製品の機能をエンジニアードシステムで捉える。エンジニアードシステムは、入力信号、出力特性、システム、ノイズという要素で構成される。媒体撹拌ミル処理条件の開発という観点でこれらの要素を具体的に表現すると、“入力信号”は公定法によるフッ素溶出量値(=石膏のフッ素溶出に関する特性)であり、“出力特性”は媒体撹拌ミル処理によるフッ素溶出量値である。“ノイズ”の原因となる誤差因子は、石膏試料の粒径分布、化学組成、粉砕抵抗の等の差に起因すると考えられるものであり、“システム”の設計の制御因子は、ミルの回転速度、ボール径、ボール体積等に相当する(図11)。
【0106】
パラメータ設計の実験を実施することで、石膏の性状の差に起因するノイズの影響を最小とするように、制御因子を最適化することができ、その結果、様々な性状の石膏に対して汎用的に適用可能な手法を構築できる。理想的な入出力の関係については、公定法によって測定された試料の溶出に関する特性に応じて、媒体撹拌ミル処理による溶出量値が直線的に変化する関係にあることが望ましい。また、公定法値が0の試料では、媒体撹拌ミル処理による溶出量値も0になることが求められることから、両者の関係はゼロ点比例式で表現される。
y=βM ・・・・(1)
ここで、yは迅速法の溶出量値、Mは公定法の溶出量値、βは直線の勾配である。
【0107】
品質工学では、理想状態に近い状態にあることを示す尺度としてSN比(η)という尺度を用いる。
η=10log(β/σ) ・・・・(2)
上式でσはゼロ点比例式からの平均2乗誤差である。
【0108】
ゼロ点比例式の傾きの指標(感度)は以下の式で算出する。
S=10logβ ・・・・(3)
【0109】
上記のSN比は品質工学用語規格QES S 1001:2007に規定されている専門用語であり、シグナル(平均的な効果)とノイズ(バラツキの大きさ)の比を表す尺度で単位はdb(デシベル、小文字表記)を用いる。パラメータ設計では様々な設定の制御因子による試験により、得られたSN比が最も大きくなる条件を最適として制御因子の設定値の探索を行う。傾き(β)に関しては本実験では1になることが理想であるが、短時間での溶出操作では結果はβ<1となるため、最も大きくなる(1に近い)ように最適水準を選択することになる。
【0110】
品質工学における試験では制御因子の設定は直交表を用いて行う。直交表とは因子が互いに独立して配置してある表である。パラメータ設計では、表7に示すようなL18直交表が標準形として推奨されている(矢野 宏.品質工学概論、日本規格協会、2009.287p.)。L18直交表を用いることで、8因子で試験を実施した場合、各パラメータ総当たりの試験では2×3=4374回の試験が必要であるのに対し、L18直交表では18回の試験において最適なパラメータ設定値を探索することが可能になる。また、L18直交表に代表される混合系の直交表は交互作用(複数の制御因子が共存することで現れる相乗効果)が各列に分散されるので、ある程度の交互作用があっても最適条件などの指摘を誤らない(田口 玄一、横山 巽子.ベーシック オフライン品質工学.日本規格協会、2007.358p)。
【0111】
パラメータ設計において、本実施例では、制御因子としてミルの回転速度、溶出時間、ボール材質、ボール径、ボール量、粉砕助剤(ガラスビーズ)粒径、助剤量の7つを設定している。L18直交表の制御因子は2水準が1個、3水準の因子が7個設定可能である。そこで、表6に示したように、ボール材質を2水準とし、その他因子は3水準に設定した。ボール材質はYTZボールとステンレスボールの2種類を使用し、ボールの直径は1、2、5mm、ボールの容積は1.0、2.0、3.9 cmとした。撹拌棒の回転数は2000、3000、4000rpm、撹拌時間は5、10、20分を設定した。助剤として用いるガラスビーズの直径は0.05、0.1、0.2mm、体積は0.4、1.0、2.0cmとした。このようにL18直交表の1〜7列までは因子を割り付けており、8列は因子の割り付けがない。因子の割り付けのない場合は、結果において3水準間に差が無いはずであるが、実際には制御因子以外の要因がSN比に与えた影響(実験間誤差変動)が反映される(田口 玄一、横山 巽子.ベーシック オフライン品質工学.日本規格協会、2007.358p)。
【0112】
使用した石膏試料は溶出量の大小等を考慮して代表的な7試料を選定した。試験は直交表に従って各試料毎に18回実施した。
【0113】
各実験についてSN比と感度を算出した。具体的には、品質工学のSN比計算の一般式を用いて以下のように計算した。
【0114】
石膏試料の数をn(今回はn=7)とし、各サンプルの公定法溶出量値Mを用いて有効除数rを求めた。
【0115】
【数1】
【0116】
次に、線形式Lを求めた。
【0117】
【数2】
【0118】
次に、全変動Sを求めた。
【0119】
【数3】
【0120】
入力の効果Sβを求めた。
【0121】
【数4】
【0122】
誤差変動Sを求めた。
【0123】
【数5】
【0124】
誤差分散Vを求めた。
【0125】
【数6】
【0126】
以上の結果を基に、SN比(η)を以下の式で算出した。
【0127】
【数7】
【0128】
感度Sは以下の式で算出した。
【0129】
【数8】
【0130】
L18直交表を用いた試験結果(表8)から、フッ素溶出量に対する要因効果を算出した結果を図12に示す。7試料ともにボール材質、時間、ボール体積に関しては、要因の水準に対する傾向はほぼ同様であり、図中の折れ線は右上がりの傾向にあった。しかし、助剤直径及び助剤体積に関してはD−E及びD−HUで助剤が細粒になるほど、そして助剤の投入量が多くなるほどフッ素溶出量は低下する傾向を示したのに対して、D−HQG、D−L2及びD−F2ではその傾向は見られず、D−L4については上記と逆の傾向を示していた。以上より助剤直径と助剤体積の2要因は、石膏の性状の差によって異なる傾向を示す特性を持っていることが明らかとなった。
【0131】
次に、L18直交表を用いた試験結果(表8)から求められるSN比と感度を表9に示す。また、この結果の効果要因図を図13に示す。
【0132】
【表9】
【0133】
実験間誤差変動(h列)より大きい変動を有効な情報とみなすと、ボール材質以外の制御因子は、その相対的な変動の大きさから、いずれも情報として考慮すべき要因であることがわかった。SN比を高くする各要因の水準値は、時間10分、回転数4000rpm、ボール直径5mm、助剤直径0.1mm、助剤体積2cm、ボール体積1cmであった。また、感度に影響を与える因子は、「時間」が最も大きく、次がボール体積であったが、その他の要因は実験間誤差変動と比較して大きくはなかった。
【0134】
これらの関係から最適なパラメータを選択すると、ボール体積の1cmと2cmはSN比においてほとんど差が無いが、感度については1cmを選択した場合は大幅に低下することが予測されることから、感度を維持する観点からボール体積は2cmが適切と判断した。以上より、時間10分、回転数4000rpm、ボール直径5mm、助剤直径0.1mm、助剤体積2cm、ボール体積2cmが最適条件と判定することができた。この条件は結果的にNo.15の実験条件と同一であった。
【0135】
次に、実験の再現性を確認し、パラメータ設計が適切に実施されているか否かを検討した。確認実験は、効果要因図から最適条件と比較条件の2つの条件において制御因子レベルを設定し、計算から得られた2条件のSN比の差(利得)と実測から得られた2条件SN比の差を比較して実施した。感度についても同様な確認を実施した。本実施例では、No.15の実験と最適条件が同一条件であり、再試験を実施した場合にも、結果が内包する交互作用効果を含めてほぼ同一のSN比となることが予測されたことから、確認実験においてはNo.15の条件に若干の変更を加えることとした。No.15条件において回転数を2000rpm、時間を20分に変更した条件(表10、実験C)を好適条件(最適ではないが大きいSN比が期待できる条件)とし、他方、小さいSN比が予測される条件(表10、実験D)を比較条件として、両方について確認試験を実施した。結果を表11に示す。実験Cの実験Dに対するSN比の利得は推定値4.58db、実験結果3.14dbであり、その差は?1.44dbであった。また、感度の利得は推定値2.15db、実験結果1.48dbであり、その差は?0.67dbであった。パラメータ設計においては、推定値と実験値の利得の差が±3db以内にあることが、実験の再現性確認の目安となっており(棟近雅彦、山田 秀、立林和夫、吉野 睦、パラメータ設計・応答曲面法ロバスト最適化入門.日科技連、2012.175p)、本確認実験により、本実施例においてパラメータ設計が適切に実施されたことが確認された。
【0136】
【表10】
【0137】
【表11】
【0138】
次に、パラメータ設計で最適と判断された実験Bと、改善前の実験A、前記確認試験で設定した実験Cの3つの試験条件下で、全石膏試料19種類に対して媒体撹拌ミル溶出を行い、公定法による結果との相関を調べた結果を表12に示す。
【0139】
【表12】
【0140】
全試料結果におけるSN比と感度は、実験Bが最も高い値を示した。単回帰分析の結果では,実験Aの決定係数(R)0.82が、実験Bでは0.95に改善され、標準誤差をX係数で除した感度補正後の標準誤差では、実験Aが1.35mg/Lであるのに対し、実験Bでは0.75 mg/Lとなり、パラメータ設計による改善により、標準誤差は改善前と比較して約45%低減した(図14)。X係数は、全石膏試料について、測定結果をグラフで表示して、グラフ横軸を公定法分析値、グラフ縦軸を実験A〜Cの分析値として測定結果をグラフ上に配置し、原点を通過する回帰直線を求めて得られた傾きである。なお、廃石膏ボード試料2種の結果については、石膏(頭文字D−)の示す傾向との解離は見られなかった。
【0141】
次に、助剤(直径0.1mmガラスビーズ)添加の有無に起因して実験結果に違いが生じた実験Aと実験Bについて、公定法試験による溶出量に対する実験A及び実験Bによる溶出量の比を計算し、石膏の細粒分含有量の指標である10%粒径(μm)との関係を検討した結果を図15に示す。実験Aの結果では、細粒分の少ない(10%粒径が大きい)石膏のフッ素溶出量が多く、細粒分の多い石膏は過小評価になる傾向が見られ、実験Aの結果には粒径に対する依存性が見られた。これに対し、実験Bの場合には、粒径に対する依存性が見られなかった。
【0142】
ここで、助剤の添加効果について考察する。助剤添加により液相(スラリー)全体の質量増加によりボールの運動エネルギーが減少する反面、細粒粒子(ガラスビーズ)の衝突頻度(捕捉頻度)は増加する。一般に、粒子の粉砕現象は体積粉砕と表面粉砕の2つに区分される。体積粉砕は、粉砕が衝撃力や圧縮力によって行われ、粒子全体がばらばらに壊れる現象である。表面粉砕は、摩擦力や剪断力、ずり応力により粒子の表面から粉砕が進む現象である。公定法における溶出操作時には石膏は主に石膏粒子相互の衝突による表面粉砕が作用すると考えられるが、石膏とほぼ同じ粒径のガラスビーズの添加は、時間当たりの石膏粒子相互の衝突回数を増やすのと類似の効果を有する。一方、ボールの運動エネルギーの減少は、助剤なしの場合と比較して、石膏の粗大粒子に対して有効な体積粉砕の効率を低下させる。結果として、助剤の添加は,ボールの粗大粒子の粉砕の効率を低下させると共に、細粒粒子に対しては捕捉頻度の増加による表面粉砕の効率を向上させるため、結果として溶出誤差傾向に見られる粒径に対する依存性が解消されたと考えられる。このような作用によりSN比が向上したものと考えられる。
【0143】
以上の結果より、媒体撹拌ミルを用いた溶出法においては、環境庁告示46号に定める溶出試験および、環境庁告示13号に定める溶出試験において行われる6時間往復振とう処理過程における、試料の粒子相互の物理的な表面粉砕に伴う持続的な化学物質の溶出が模擬可能であり、6時間往復振とう試験終了時の溶出量の推定が可能であることが明らかになった。このため本迅速溶出法は石膏の他に、表面粉砕による持続的な化学物質の溶出が存在するゴミ焼却灰、ゴミ焼却灰溶融スラグ、下水汚泥焼却灰、下水汚泥焼却灰溶融スラグ、鉄鋼ダスト、鉄鋼スラグ、廃ガラス粉砕物の試料の溶出法として使用可能と考えられる。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15