(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
食用油脂が分離しているソース、いわゆるオイルソースは、パスタ、マリネ、肉料理、魚料理等の幅広い料理に用いられている。オイルソースは、食用油脂を多量に含んでいることにより風味が保持されやすく、また、食材の乾燥や食材からの水分の浸出を防止することができるという利点がある。
オイルソースとして、例えば、パスタ料理の一種であるペペロンチーノに用いられるアーリオオーリオがある。アーリオオーリオは、オリーブオイル等の食用油脂にニンニクを加えて熱した後、必要に応じて食塩、胡椒等の調味料を添加することにより調製される。
オイルソースに具材を含有させる場合、通常、具材はソース調製後に投入される。
【0003】
食塩等のソースの味に寄与する成分、つまり調味料は、ソース中の水に含まれる。上記の方法で具材を含有するソースを調製する場合、ソース中に投入された具材は最初に食用油脂と接触するため、具材表面が食用油脂で被覆される。したがって、調味料を含む水は具材表面ではじかれてしまうため具材に味が浸透せず、具材を喫食した際に味気ないものとなる。
【0004】
食材に味を浸透させる方法としては、例えば、食材を調味料に漬け込む、調味料を含む湯中で煮る等の方法がある。
また、特許文献1には、鍋本体内を減圧することにより、浸透圧を利用して食材に味を浸透させる方法が記載されている。
特許文献2には、食材中の水分が凍結しない温度で減圧乾燥し、食材に浸透させる液体成分と接触させた後、水蒸気またはアルコール蒸気を用いた加圧を行って食材に味を浸透させる方法が記載されている。
【0005】
上記の方法によれば、具材に味を浸透させることができる。
しかしながら、食用油脂を多量に含有するソースを製造する場合、前もって具材と調味料を含有した水とを接触させて具材に味を浸透させる操作が必要となり、工業的に製造する際の工程が煩雑になるという課題がある。
よって、味が浸透した具材を含有する、食用油脂が分離しているソースの製造方法には、更なる検討の余地がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を、「ソース全量に対し」は「具材を除いたソース部の全量に対し」を意味する。
【0012】
<本発明の特徴>
本発明は、具材入りソースにおいて、
ソース全量に対する食用油脂及びタンパク質含有量を特定の範囲に調整し、
水中油型に乳化されたソースに具材が分散した状態で冷凍し、
解凍時に、配合された食用油脂が分離することに特徴を有する。
これにより、具材に味が浸透し、食用油脂が分離している具材入りソースを提供できる。
【0013】
<冷凍具材入りソース>
本発明の冷凍具材入りソースは、冷凍状態で流通され、解凍して使用されるものであり、パスタ、炒飯、マリネ、肉料理、魚料理、野菜炒め等の炒め料理等、幅広い料理に用いることのできる食用油脂が分離したソースであり、後述する具材を含むものである。
このような具材入りソースとしては、パスタソース、マリネソース、各種調理用ソース等が挙げられる。
本発明の冷凍具材入りソースは、食用油脂、タンパク質を特定量含有しており、必要に応じて調味料、添加物等を含むものである。
【0014】
本発明の冷凍具材入りソースは、水中油型に乳化されたソースに具材が分散した状態で冷凍され、解凍時に食用油脂が分離することが重要である。
通常、食塩等の調味料はソース中の水に含まれており、具材が調味料を含む水と接触することによって具材に味が浸透する。
ソースに配合した食用油脂が分離している状態では、食用油脂はソースの上層部に、調味料を含む水は下層に位置する。この状態のソースに具材を添加すると、具材は最初に食用油脂と接触するが、この際、具材表面に油脂の被膜が形成されるため、この後に水と接触しても水がはじかれてしまうため、ソース中の水に含まれる調味料を具材に十分に浸透させることができない。
本発明においては、ソースを水中油型に乳化することにより、食用油脂を大量に含有しても具材と調味料を含む水とを均一に接触させることができ、具材に十分に味を浸透させることが可能となる。
また、後述の実施に示しているように具材を食用油脂でソテーしたとしても、水中油型に乳化したソースと混合する際、具材表面を被覆した食用油脂が乳化され、結果的に具材と調味料を含む水とを均一に接触させることができる。
【0015】
水中油型に乳化されたソースに具材が分散した状態で冷凍すると、水の氷結が起こり、ソース中の調味料の濃度が相対的に高くなるため、具材に味が浸透しやすくなる。
また、具材中の水も氷結するために「す」が入った状態になり、より味が浸透しやすい状態となる。
さらに、本発明の冷凍具材入りソースは、冷凍によってソースが解乳化することにより、解凍時に食用油脂が分離する。
具材入りソースの冷凍時間は、具材に味が浸透する時間であれば特に限定されないが、12時間以上がよく、さらに15時間以上がよい。
【0016】
<具材>
本発明の冷凍具材入りソースの具材に使用される食材としては、例えば、トマト、タマネギ、ニンジン、ブロッコリー、ホウレンソウ、ナス、ズッキーニ、オリーブ、ニンニク等の野菜類、マイタケ、ヒラタケ、シイタケ、シメジ、エリンギ、マッシュルーム等のキノコ類、牛肉、豚肉、鶏肉等の肉類、エビ、カニ、イカ、タコ、サケ、タラコ、イクラ、ホタテ、ムール貝、ハマグリ、アサリ等の魚介類、又は湯通し、ソテー等を施したこれらの加工品等が挙げられる。
具材には、食材そのものを用いてもよく、適宜成形加工を行って用いてもよい。
具材の大きさは、本発明の効果が得られやすい大きさであるのが好ましく、具体的には、JIS規格Z8801−1に規定される公称目開き2mmの篩上に残る大きさとするとよく、さらに公称目開き5.6mmの篩上に残る大きさとするとよい。
一方、具材の上限の大きさは、食べやすさを考慮し、一口サイズ、具体的には5cm以下の大きさとするとよい。
【0017】
<食用油脂>
食用油脂とは、常温(15℃〜25℃)で液体であり、食用に適するものであればいずれのものでもよい。
このような食用油としては、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、オリーブ油、紅花油、綿実油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、魚油、卵黄油等の動植物油、又はこれらの精製油(サラダ油)、及びMCT(中佐脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリドのように化学的あるいは酵素的処理を施して得られる食用油等が挙げられる。
これらの食用油脂は、一種で使用しても二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
<食用油脂の含有量>
食用油脂の含有量は、ソース全量に対して30%以上であり、40%以上がよい。
食用油脂の含有量が前記範囲より少ないと、ソースを水中油型に乳化した際、ソースの粘度が低くなって具材が十分に分散しなくなるため、調味料を含む水と具材を均一に接触させることができず、具材への味の浸透が不十分なものとなる。
食用油脂の含有量の上限は、ソースを水中油型に乳化できる量であれば特に限定されないが、良好な乳化状態を維持する観点から、90%以下がよく、さらに85%以下がよい。
【0019】
<タンパク質>
本発明においてタンパク質とは、ソースに含有されているものをいい、食用に適するものであればいずれのものでもよい。
タンパク質として使用されるものとしては、タンパク質そのものでもよく、タンパク質を含有する食品素材として添加してもよい。
タンパク質そのものとしては、例えば、卵白タンパク質、卵黄タンパク質、乳タンパク質、大豆タンパク質、小麦タンパク質等が挙げられる。
タンパク質を含有する食品素材としては、例えば、牛乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、チーズ等の乳類及び乳加工品類、卵黄、卵白、全卵等の卵類、豆乳、醤油、味噌等の大豆加工品、畜肉エキス、水産エキス、野菜エキス、酵母エキス等のエキス類、魚醤油等が挙げられる。
なお、タンパク質は乳化性を有するが、本発明のタンパク質には、乳化性を有するタンパク質を加水分解したペプタイドも含まれる。
具体的には、例えば、上述したタンパク質を酵素、酸又はアルカリで加水分解した平均分子量3000以上のもの等が挙げられる。
【0020】
<タンパク質の含有量>
タンパク質の含有量は、ソースの乳化状態を維持するため、ソース全量に対して0.5%以上3%以下であり、0.5%以上2%以下がよい。
タンパク質の含有量が前記範囲より多いと、ソースの乳化状態が非常に安定なものとなり、ソースを冷凍しても解乳化しない。
タンパク質の含有量が前記範囲より少ないと、ソースの乳化状態が不安定なものとなり、具材を添加して冷凍する際に乳化を維持することができずに分離する。
【0021】
<具材とソースの割合>
本発明の冷凍具材入りソースにおいて、具材に味を十分に浸透させる観点から、具材とソースを特定の割合で含有するのがよい。
具体的には、質量比で1:9〜8:2がよく、さらに2:8〜7:3がよい。
具材とソースの割合が前期範囲であることにより、具材とソースが絡みやすく、具材と調味料を含む水とを均一に接触させやすい。よって、具材に十分味が浸透した具材入りソースが得られやすい。
【0022】
<増粘多糖類>
本発明の冷凍具材入りソースは、冷凍する際のソースの乳化状態を維持する観点から、増粘多糖類を含有するとよい。
増粘多糖類を含有することで、ソースの乳化状態を安定に維持し、具材を十分に分散することができるため、具材に味が十分浸透したソースが得られやすい。
本発明のソースに使用する増粘多糖類は、ガム類、ペクチンから選ばれる少なくとも一種であればよい。
ガム類としては、例えば、キサンタンガム、グアガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、タラガム、カラギーナン等が挙げられる。
【0023】
<増粘多糖類の含有量>
増粘多糖類の含有量としては、0.01%以上0.2%以下がよく、さらに0.02%以上0.15%以下であるとよい。
増粘多糖類の含有量が前記範囲であることにより、ソースの乳化状態を安定に維持しやすくなり、具材を十分に分散させることで具材に味を十分浸透させることができ、さらに冷凍時にソースが解乳化し、解凍時に食用油脂が分離するソースを得られやすい。
【0024】
<その他原料>
本発明の具材入りソースには、本発明の必須原料である、食用油脂、タンパク質及び具材以外の原料を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し、含有することができる。
具体的には、例えば、食塩、砂糖、食酢、柑橘果汁、ケチャップ等の各種調味料、各種スパイスオイル、タピオカ澱粉、ワキシコーンスターチ等の澱粉等の増粘剤、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸又はその塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、香辛料、色素などが挙げられる。
【0025】
本発明の具材入りソースは乳化剤を含有してもよいが、解凍時に食用油脂が分離する必要があるため、乳化剤の含有量としては、ソースに対して0.1%以下であるとよい。
なお、本発明における乳化剤とは、例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、オクテニルコハク酸化澱粉等であり、本発明のタンパク質は含まないものとする。
【0026】
<具材入りソースの製造方法>
本発明の具材入りソースは、常法により製すればよい。
具体的には、調味料を含む水と本発明の必須原料である食用油脂及びタンパク質とを、ミキサーやニーダー等を用いて撹拌混合して乳化することによりソースを調製し、得られたソースに具材が均一分散した状態で冷凍すればよい。
具材の投入順序は、ソースの乳化を妨げなければ特に限定されず、例えば、ソースの調製時に投入してもよく、ソースの調製後に投入してもよい。
具材入りソースは、容器に充填して冷凍される。容器としては、パウチ、缶、ボトル等、通常に利用されるものであればよいが、使いやすさの点から、パウチに充填したものがよい。
また、具材入りソースの充填量は、均一な冷凍状態を保つ観点から、500g以下とするのがよい。
【0027】
以下、本発明について、実施例、比較例及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
ソースを表1の配合にしたがって下記の通りに調製し、具材とソースの割合が5:5になるようにパウチに封入して15時間冷凍し、本発明の具材入りソースを得た。
<ソース>
ニーダーに菜種油28部を投入して80℃に達温させ、ニンニク(3mm角)5部を投入してさらに加熱し、100℃達温後に加熱をやめ、30分間ニンニクをソテーした。
ミキサーに菜種油10部、酵母エキス(タンパク質含有量60%)0.5部、チキンエキス(タンパク質含有量10%)5部、食塩3部、キサンタンガム0.02部、グアガム0.005部、及び清水を入れ、常温で撹拌混合して乳化させた後、前記ニーダーに投入して撹拌しながら加熱し、90℃に達温後、加熱を停止して冷却することにより製した。
なお、ソースは、ニンニクを除いた部分とする。
【0029】
【表1】
【0030】
<食用油脂の含有量>
実施例2、3及び比較例1、2は、表1の配合において、食用油脂の含有量を表2の通りとして調整した。増減分は清水で調製した。
【0031】
[試験例1]具材とソースの割合と具材への味の浸透
実施例1〜3、及び比較例1、2のソースを15時間冷凍した後解凍し、具材入りソースの具材のみを取り出してパネラー5人で喫食し、具材への味の浸透を評価した。
【0032】
<評価基準>
○:具材に味が十分に浸透しており、大変好ましい。
△:具材に味が浸透しており、好ましい。
×:具材に味が浸透していない、又は味が強く好ましくない。
【0033】
[試験例2]ソースの状態
実施例1〜3及び比較例1、2のソースを解凍した時の、ソースの食用油脂含有量を測定して評価した。
<評価基準>
A:冷凍時は良好な乳化状態が維持され、解凍時には食用油脂の5割以上が分離する。
B:冷凍時には一部に分離が見られるが、概ね良好な乳化状態が維持されており、解凍時には食用油脂の5割以上が分離する。
C−1:冷凍時に食用油脂が分離し、乳化状態が維持されていない。
C−2:解凍時の食用油脂の分離が5割以下である。
【0034】
【表2】
【0035】
表2より、食用油脂の含有量が30%以上である具材入りソース(実施例1、2、3)は、冷凍時のソースの乳化状態及び解凍時の食用油脂の分離状態が概ね良好であり、具材にも味が浸透していた。
また、食用油脂の含有量が40%以上である具材入りソース(実施例1、3)は、冷凍時のソースの乳化状態及び解凍時の食用油脂の分離状態が良好であり、具材にも十分味が浸透していた。
一方、食用油脂の含有量が前記範囲よりも少ない具材入りソース(比較例1)は、解凍時の食用油脂の分離が不十分であり、ソースの粘度も低いために具材が十分に分散せず、味が浸透していなかった。
ソース中に水を含まない具材入りソース(比較例2)は、ソース中に調味料を含む水の部分が存在しないため、具材に味が浸透していなかった。
【0036】
<タンパク質含有量>
実施例4、5及び比較例3、4は、表1の配合において、タンパク質を含有する酵母エキスとチキンエキスの含有量を表3の通りとして、ソース中のタンパク質含有量を調製した。増減分は清水で調整した。
なお、具材への味の浸透及びソースの状態の評価基準は、試験例1及び試験例2と同様である。
【0037】
【表3】
【0038】
表3より、ソースのタンパク質含有量が0.5%以上3%以下である具材入りソース(実施例1、4、5)は、冷凍時のソースの乳化状態及び解凍時の食用油脂の分離状態が良好であり、具材にも味が浸透していた。
また、ソースのタンパク質含有量が0.5%以上2%以下である具材入りソース(実施例1、4)は、冷凍時のソースの乳化状態及び解凍時の食用油脂の分離状態が非常に良好であり、具材にも十分に味が浸透していた。
一方、ソース中のタンパク質含有量が前記範囲より少ない具材入りソース(比較例3)は、冷凍時にソースの乳化状態を安定に維持することができずに分離しており、具材への味の浸透は十分ではなかった。
ソース中のタンパク質量が前記範囲より多い具材入りソース(比較例4)は、冷凍時のソースの乳化状態が非常に安定であり、具材に味が浸透していたが、解凍時の食用油脂の分離が不十分であった。
【0039】
<具材とソースの割合>
実施例6〜8は、実施例1の具材入りソースにおいて、具材とソースの割合を変えて調製した。
具材量は、それぞれの具材を同じ割合で増減させて調整した。
【0040】
【表4】
【0041】
表4より、具材とソースの割合が、1:9〜8:2である具材入りソース(実施例1、6〜8)は、具材に味が浸透した好ましいものであり、具材とソースの割合が2:8〜7:3である具材入りソース(実施例1、6、7)は、具材に味が十分に浸透した大変好ましいものであった。
【0042】
[実施例9]
ソースを表5の配合にしたがって実施例1の通りに調製し、具材とソースの割合が5:5になるようにパウチに封入して12時間冷凍し、本発明の具材入りソースを得た。
【0043】
【表5】
【0044】
<増粘多糖類の有無>
実施例10、11のソースは、表5の配合において、キサンタンガム及びグアガムの配合量を変更するか、又はペクチンに置き換えて調製し、増減分は清水で調整した。増粘多糖類の配合量は表6の通りである。
なお、具材への味の浸透及びソースの状態の評価基準は、試験例1及び試験例2と同様である。
【0045】
【表6】
【0046】
表6より、増粘多糖類を含有する具材入りソース(実施例1、9、10)は、増粘多糖類を含有しない具材入りソース(実施例11)と比較して、冷凍時のソースの乳化状態及び解凍時の食用油脂の分離状態が良好であり、具材にも味が浸透していた。
また、増粘多糖類を0.01%以上0.2%以下含有する具材入りソース(実施例1、9)は、冷凍時のソースの乳化状態及び解凍時の食用油脂の分離状態が非常に良好であり、具材に十分に味が浸透した好ましいものであった。