(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る座位姿勢改善装置1およびこれを備えた椅子体10の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0018】
なお、以下の本実施形態では、椅子体10として車椅子を例示しているが、これに限定されるものではない。すなわち、本発明において、椅子体10とは、車椅子、肘掛け椅子、オフィスチェア、飛行機等の固定された乗り物の椅子等のように、本発明に係る座位姿勢改善装置1を後付けまたは予め組み込み可能な全ての椅子を含む概念である。
【0019】
図1および
図2に示すように、本実施形態の座位姿勢改善装置1は、椅子体10に設けられて着座者の座位姿勢を改善するためのものであって、着座者の骨盤を支持するための骨盤支持ベルト2と、着座者の胸郭を支持するための胸郭支持ベルト3と、これら骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3を椅子体10に取り付けるための一対のベルト取付具4,4と、骨盤支持ベルト2や胸郭支持ベルト3を連結する連結ベルト5と、椅子体10の背もたれ部分に設けられる背面カバー6とから構成されている。以下、各構成について説明する。
【0020】
骨盤支持ベルト2は、椅子体10の背もたれ11の前方下部に取り付けられ、着座者の骨盤を後方から支持するものである。本実施形態において、骨盤支持ベルト2は、着座者の姿勢条件に合わせて、一本または交差された二本によって構成される。具体的には、後述するとおり、着座者の骨盤が正常であるか、または骨盤の後傾が小さい場合は、
図1に示すように、一本の骨盤支持ベルト2が略水平方向に取り付けられる。一方、いわゆる仙骨座り等のように、骨盤の後傾が大きい場合には、
図2に示すように、二本の骨盤支持ベルト2,2が交差された状態で取り付けられる。なお、骨盤支持ベルト2の構成は、上記例が好適であるが、これに限定されるものではなく、所望の作用効果を奏する限り、例えば予め交差状に一体成形されたベルトを採用してもよいし、二本以上のベルトで構成してもよいし、あるいは複数のベルトを平行に取り付けて骨盤に当接する部分を連結ベルト5等で束ねる構成を採用してもよい。
【0021】
また、本実施形態において、骨盤支持ベルト2は、エラスティックウェビング製のエラスベルト等によって形成されている。このエラスティックウェビングは、ゴム入り織物やゴム入り細幅織物とも称され、所定の強度を有し、伸縮性に優れた素材(ストレッチ素材)である。このため、骨盤支持ベルト2は、着座者の身体に追従してフィットし、骨盤をしっかりと支持するようになっている。また、躯幹の大半の重量を支える強度や、車椅子を折り畳む際の逃げを確保する。ただし、骨盤支持ベルト2の素材は、エラスティックウェビングに限られるものではなく、丈夫で伸縮性を有する素材であればよい。
【0022】
なお、骨盤支持ベルト2は、後述するとおり、着座者の姿勢条件に合わせて、ベルト取付具4に対する取り付け位置が適宜変更される。このため、骨盤支持ベルト2の両端部には、面ファスナーが設けられている。これにより、骨盤支持ベルト2を所望のテンションで張設し、あるいは取り外す作業を極めて簡単に行うことが可能である。なお、骨盤支持ベルト2を着脱させる手段は、面ファスナーに限定されるものではなく、ボタン等の他の手段を採用してもよい。
【0023】
胸郭支持ベルト3は、椅子体10の背もたれ11の前方上部に取り付けられ、着座者の胸郭を支持するためのものである。本実施形態において、胸郭支持ベルト3は、
図1および
図2に示すように、二本の胸郭支持ベルト3,3が交差された状態で取り付けられる。このため、交差部分よりも下方で略逆V字形状を構成する胸郭下部支持部31は、胸郭の下部に沿って配置され胸郭の下部を支持する。一方、交差部分よりも上方で略V字形状を構成する胸郭上部支持部32は、胸郭の上部あたりに配置され胸郭の上部を支持する。なお、胸郭支持ベルト3は実用上、上記構成が好適であるが、これに限定されるものではなく、所望の作用効果を奏する限り、例えば、二本以上のベルトを交差状に構成してもよいし、逆に予め交差状に一体成形されてベルト端部がそれぞれ放射方向に延出された構成を採用してもよい。
【0024】
また、本実施形態において、胸郭支持ベルト3は、ポリプロピレン製のPPテープ等によって形成されている。このPPテープは、引っ張り強さに優れておりほとんど伸縮性がない。このため、胸郭支持ベルト3は、着座者からの荷重を受け止め、胸郭を所定の位置でしっかりと支持するようになっている。ただし、胸郭支持ベルト3の素材は、ポリプロピレンに限られるものではなく、丈夫で伸縮性の小さい素材であればよい。
【0025】
なお、胸郭支持ベルト3も、骨盤支持ベルト2と同様、着座者の姿勢条件に合わせて、ベルト取付具4に対する取り付け位置が適宜変更される。このため、胸郭支持ベルト3の両端部にも面ファスナーが設けられている。これにより、胸郭支持ベルト3を所望のテンションで張設し、あるいは取り外す作業を極めて簡単に行うことが可能である。また、胸郭支持ベルト3を着脱させる手段は、面ファスナーに限定されるものではなく、ボタン等の他の手段を採用してもよい。
【0026】
ベルト取付具4は、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3を椅子体10に取り付けるものである。本実施形態において、ベルト取付具4は、
図3に示すように、左右一対で構成されており、椅子体10の肘掛け12と座面13の左右端部との間に架け渡されて固定されている。また、各ベルト取付具4は、前方上部に垂設される前方バー41と、前方バー41の後方に垂設される後方バー42と、前方バー41の下端部から前方下向きに傾斜される下方バー43とを備えている。
【0027】
なお、ベルト取付具4は、複数のパイプ部材を連結して構成されているところ、各パイプ部材の径は、車椅子のフレームよりも小径に形成されている。このため、ベルト取付具4は、肘掛け12と座面13の左右端部との間にはみ出すことなく収まり、折り畳む際の邪魔にならない。また、ベルト取付具4の素材としては、カーボン樹脂、アルミニウム、ステンレス鋼等のように、強度や製造コスト等に応じて適宜選択することができる。
【0028】
以上の構成を有するベルト取付具4によって、骨盤支持ベルト2は、
図1および
図2に示すように、各端部が前方バー41、後方バー42または下方バー43のいずれかに固定されて椅子体10の背もたれ11の前方下部に取り付けられる。一方、胸郭支持ベルト3は、上方の各端部が背もたれ11の上部の左右位置に固定されるとともに、下方の各端部が前方バー41または後方バー42に固定されて背もたれ11の前方上部に取り付けられるようになっている。
【0029】
なお、本実施形態では、椅子体10に対してベルト取付具4を後付けで固定しているが、この構成に限定されるものではない。すなわち、予め椅子体10の一部としてベルト取付具4を組み込んでおいてもよい。
【0030】
連結ベルト5は、骨盤支持ベルト2や胸郭支持ベルト3を束ねて連結し、各ベルトの位置ズレや絡まりを防止するためのものである。本実施形態では、
図1に示すように、骨盤支持ベルト2が一本のベルトで構成される場合、当該骨盤支持ベルト2の略中央位置と、胸郭支持ベルト3の交差位置とを束ねて連結する。一方、骨盤支持ベルト2が二本のベルトで交差状に構成される場合、
図2に示すように、骨盤支持ベルト2の交差位置を束ねて連結するようになっている。
【0031】
なお、本実施形態において、連結ベルト5は柔軟性の高いネオプレーン素材によって形成されているが、この素材に限定されるものではなく、他の素材のものを適宜選択してもよい。また、連結ベルト5の両端部には、面ファスナーテープが設けられており、簡単に着脱できるようになっている。ただし、着脱手段は面ファスナーに限定されるものではなく、ボタン等の他の手段を採用してもよい。
【0032】
背面カバー6は、
図4(a)に示すように、椅子体10の背もたれ11部分に設けられ、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3の前面を被覆するものである。本実施形態において、椅子体10として想定している車椅子には、スリングシートが設けられている。このため、背面カバー6は、スリングシートの裏面を被覆する必要がなく、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3の前面のみを被覆する構成を採用している。また、前面のみの背面カバー6は、その厚みが両面のあるカバーの半分しかないため、
図5(a)に示すように、背面カバー6を後方に捲り上げると、
図5(b)に示すように、車椅子の折り畳みには支障がなくなる。なお、本実施形態では、
図4(b)に示すように、背面カバー6の上端部を少し裏面側に折り返して背もたれ11に引っかけるようになっている。
【0033】
また、背面カバー6は、骨盤支持ベルト2や胸郭支持ベルト3に対して補完的なサポートを提供するものである。すなわち、背面カバー6は、骨盤支持ベルト2や胸郭支持ベルト3が着座者の背面に与える圧力を緩和し、骨盤や胸郭全体を柔らかく支持する。また、本実施形態において、背面カバー6は、
図4(a)に示すように、胸郭支持ベルト3の胸郭下部支持部31に沿う縫い込みによって二段構成とされている。このため、背面カバー6が縦方向に位置がズレてしまうのを防止する。さらに、前記縫い込みを境にして異なる色の生地を用いることで、背面カバー6の下部は骨盤および胸郭下部のサポート機能を想起させる一方、上部は胸郭のサポート機能をイメージさせるため着座者や支援者への視覚教育的な効果を発揮するようになっている。
【0034】
なお、本実施形態において、背面カバー6は、Wラッセルメッシュ等のように、通気性および柔軟性の高い生地により形成されているが、この構成に限定されるものではない。例えば、座位姿勢が極めて悪い着座者の場合には、柔軟性が高く接触面における剪断力の発生が少ない3Dネットシート(デルタツーリング社)等により形成してもよい。
【0035】
なお、本実施形態では、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3の取り付け位置やテンション等を適宜調整しやすくするため、背面カバー6が、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3と別体として構成されている。しかしながら、この構成に限定されるものではなく、着座者が健常者の場合等には、取り扱い易さや、耐久性を考慮して、縫製接合や溶着接合等によって、背面カバー6を、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3と一体的に形成してもよい。この構成により、着座者の体型や姿勢が多種多様であっても、それらに合わせてオートマティックにフィットする機能を提供する。このため、正常姿勢をもつ健常者用の椅子体10としても利用でき、真の意味でのユニバーサルデザインとなる。
【0036】
つぎに、本実施形態の座位姿勢改善装置1およびこれを備えた椅子体10による作用について説明する。
【0037】
まず、本実施形態では、
図6に示すとおり、着座者における各種の座位姿勢条件に対して設定すべき骨盤支持ベルト2、胸郭支持ベルト3および連結ベルト5の適切なセッティングを定めた。
【0038】
具体的には、着座者の座位姿勢は多種多様であるところ、本実施形態では、主として下記(1)〜(5)の五通りに分類した。以下、各座位姿勢条件に対するセッティングについて詳細に説明する。
(1)正常姿勢
(2)正常姿勢側方支持強化
(3)仙骨座り(PT:Pelvic Tilt)
(4)側彎(SC:Scoliosis)+正常姿勢
(5)側彎+仙骨座り(SC+PT)
【0039】
まず、上記(1)の「正常姿勢」条件について説明する。この「正常姿勢」条件とは、全ての面で異常が認められない座位姿勢である。この正常姿勢の着座者に対するセッティングとしては、
図6および
図7に示すように、一本の骨盤支持ベルト2の両端を左右の後方バー42に固定する。これにより、骨盤支持ベルト2が背もたれ11の前方下部において略水平方向に取り付けられ、正常姿勢の骨盤を後方から支持する。また、骨盤支持ベルト2は、伸縮性に優れているため、着座者の身体に追従してフィットし、骨盤をしっかりと支持する。このため、骨盤支持ベルト2は、腸骨陵上端を支えて脊柱起立筋、腹直筋の起始部を安定させる。また、有効な支持力を確保しつつ、体格差や若干の上体の動きにも対応する。
【0040】
交差状の二本の胸郭支持ベルト3については、
図6および
図7に示すとおり、上方の両端部を背もたれ11の上部の左右位置に固定し、下方の両端部を左右の後方バー42に固定する。これにより、胸郭支持ベルト3が交差された状態で背もたれ11の前方上部に取り付けられる。このため、交差部分よりも下方によって構成される胸郭下部支持部31が、腰背腱膜の形状に沿う形で脊柱起立筋群の起始部を有効に支持し、脊柱起立筋群の機能化を助けながら、胸郭の質量を有効に支持する。一方、交差部分よりも上方によって構成される胸郭上部支持部32は、胸郭の上部あたりに配置されて頭頸部および胸郭上部を支えるため、頭頸部のアライメントが適切になる。
【0041】
なお、本実施形態において、胸郭支持ベルト3は、伸縮性をほとんど有しないため、着座者からの荷重を受け止め、胸郭を所定の位置でしっかりと支持する。また、本実施形態では、椅子体10として車椅子を想定しているため、胸郭支持ベルト3の左右の上端部が、背もたれ11上部の左右位置にあるハンドル部に巻き付けられている。しかしながら、この構成に限定されるものではなく、椅子体10によっては、背もたれ11上部の左右位置に胸郭支持ベルト3の上端部を固定するための部材を別途設けてもよい。
【0042】
以上のように、一対のベルト取付具4,4は、着座者の座位姿勢条件に合わせて、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3を所望の位置に簡単に取り付けられる。また、各ベルト取付具4は、車椅子のフレームよりも小径のため、肘掛け12と座面13の左右端部との間にはみ出すことなく収まり、車椅子を折り畳む際の邪魔にならない。
【0043】
つぎに、連結ベルト5によって、
図6および
図7に示すように、骨盤支持ベルト2の略中央位置と、胸郭支持ベルト3の交差位置とを束ねて連結する。これにより、連結ベルト5は、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3の自由な動きを規制して効果的な位置に保持する。このため、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3において、着座者を支持するポイントの位置ズレが防止され、座位姿勢保持機能を確実に発揮する。また、連結ベルト5は、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3を予め束ねることで、車椅子を折り畳む際などに絡まってしまうのを防ぐことができる。さらに、連結ベルト5は、柔軟性の高い素材によって形成されているため、着座者の背部に違和感や刺激を与えることも少ない。
【0044】
また、本実施形態では、
図4(a)に示すように、背面カバー6が、骨盤支持ベルト2や胸郭支持ベルト3の前面を被覆することで着座者の背面に与える圧力を緩和し、骨盤や胸郭全体を柔らかく支持する。すなわち、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3が、着座者の骨盤や胸郭を主導的にサポートする主支持体として機能するのに対し、背面カバー6は、着座者に対して侵襲的でない物性をもつ素材で支持し、主支持体を補助する補助支持体として機能する。
【0045】
また、補助支持体としての背面カバー6は、主支持体としての骨盤支持ベルト2や胸郭支持ベルト3よりも弾性効果の高い伸びる素材であるため、主支持体と補助支持体との相対的な差により、フィット感や支持感を提供する。これにより、着座者の体格差をオートマティックに吸収するとともに、座位姿勢における動きに対して柔軟な支持特性を与え、元の姿勢に戻るのを補助する。
【0046】
さらに、背面カバー6は、
図4(b)に示すように、背もたれ11の背面側にカバーを持たない薄いカバーであるため、
図5(a)に示すように、後方に捲り上げるだけで、
図5(b)に示すように、車椅子を折り畳む際の邪魔にならず、収納作業が容易に行える。
【0047】
また、背面カバー6は、
図4(a)に示すように、縫い込みを境にして異なる色の生地が二段で構成されている。このため、背面カバー6は、縦方向に位置ズレすることを抑制するとともに、その下部が骨盤および胸郭下部のサポート機能を想起させる一方、その上部が胸郭のサポート機能をイメージさせ、着座者や支援者への視覚教育的な効果を奏する。
【0048】
つぎに、上記(2)の「正常姿勢側方支持強化」条件について説明する。この「正常姿勢側方支持強化」条件は、上述した正常姿勢のセッティングに加えて、身体の側方におけるサポートを強化した姿勢条件である。一般的に、身体状況が低下してくると、自らの筋力だけでは正しい姿勢を維持することが難しくなり、特に、腹側(腹筋側)の筋力が低下する傾向があると指摘されている。また、姿勢は身体における屈曲側と伸展側との機能のバランスで維持されているため、当該バランスの低下は様々な姿勢異常に結びつく可能性がある。そこで、本条件では、腹側の弱さを補う背後の支持だけではなく、左右側方の支持を強化して、良い姿勢を維持させる。
【0049】
具体的には、
図6および
図8に示すように、骨盤支持ベルト2の使用本数および取り付け位置、胸郭支持ベルト3の上方両端部の取り付け位置、および連結ベルト5の取り付け位置は、正常姿勢のときと同様である。一方、胸郭支持ベルト3の下方両端部を左右の前方バー41に固定する点でのみ、正常姿勢のセッティングと異なっている。
【0050】
このセッティングにより、各ベルト取付具4が、各胸郭支持ベルト3の左右の下端部を前方に張り出した状態で固定する。このため、各胸郭支持ベルト3が、骨盤や胸郭の左右両側まで十分に沿うこととなり、側方をしっかりと支持する。
【0051】
したがって、「正常姿勢側方支持強化」条件によれば、上述した正常姿勢によるサポート機能に加えて、着座者の身体が側方からも支持されるため良い姿勢が維持される。なお、本条件において、上述した正常姿勢のセッティングと共通するセッティングについては、同様の作用効果を奏するため、再度の説明を省略する。
【0052】
つぎに、上記(3)の「仙骨座り」条件について説明する。「仙骨座り」条件は、
図9に示すように、骨盤が後傾し、臀部が前方へずれて仙骨で座位を維持する、いわゆる仙骨座りを改善するのに適した姿勢条件である。具体的には、
図6および
図10に示すとおり、胸郭支持ベルト3の取り付け位置は、上記「正常姿勢側方支持強化」のときと同様である。一方、骨盤支持ベルト2の使用本数・取り付け位置、および連結ベルト5の取り付け位置は、「正常姿勢側方支持強化」のセッティングと異なっている。
【0053】
すなわち、本条件では、二本の骨盤支持ベルト2を交差させ、その上方両端部を左右の後方バー42に固定するとともに、その下方両端部を左右の下方バー43に固定する。これにより、前方下向きに傾斜された下方バー43が、各骨盤支持ベルト2の下端部側を前方に張り出させ、前方下向きに傾斜した状態で取り付ける。このため、胸郭支持ベルト3とともに着座者の背中から臀部にかけて隙間無くフィットし、後傾した骨盤を後方から支持する。また、前記隙間を無くすことにより、着座者の背もたれ11に対する圧力中心が下方へ下がるため、背中を伸展させる方向に反力が作用する。さらに、骨盤の後傾が大きいほど大きな荷重を受けるが、交差された二本の骨盤支持ベルト2が当該荷重をしっかりと支える。
【0054】
また、連結ベルト5は、
図6および
図10に示すように、二本の骨盤支持ベルト2を交差位置で束ねて連結する。これにより、連結ベルト5は、骨盤支持ベルト2の自由な動きを規制して着座者を支持するのに効果的な位置に保持する。このため、骨盤支持ベルト2が骨盤を支持するポイントの位置ズレが防止され、座位姿勢保持機能を確実に発揮する。
【0055】
したがって、「仙骨座り」条件によれば、二本の骨盤支持ベルト2を交差させることにより、後傾した骨盤であってもしっかりと支持されるとともに、着座者の背中が伸展されるため、仙骨座りの姿勢が改善される。なお、本条件において、上述した各種姿勢条件のセッティングと共通するセッティングについては、同様の作用効果を奏するため、再度の説明を省略する。
【0056】
つぎに、上記(4)の「側彎+正常姿勢」条件について説明する。「側彎+正常姿勢」条件とは、
図11に示すように、骨盤は正常姿勢であるものの、片麻痺等によって左右の筋力のバランスが悪くなり、体幹が麻痺側に傾斜する姿勢である。なお、一般的に、側彎とは、骨盤、腰椎、胸椎、頸椎の総合的な捻れ現象であり、捻れながら正面(前額面)および側面(矢状面)の三次元的な変形様相を示すものである。しかしながら、本実施形態では、簡易的にシーティングの面で重要な正面視において、彎曲している側(
図11の左側)を凹側とし、その逆側(
図11の右側)を凸側として以下、説明する。
【0057】
まず、従来の場合、側彎に対する対策としては、「倒れるから押さえる」という対症療法的な考え方に基づき、身体が倒れないように押さえ付ける手段が設けられている。しかしながら、本願発明者らの研究成果によれば、そのような伝統的手法は効果が無く、長きに渡って側彎の患者を苦しめているという現状がある。この伝統的手法が効果を発揮しない理由は、以下のとおりである。
【0058】
通常、人が椅子上で倒れるのは機能を失った側であり、片麻痺の場合、片麻痺が生じている患側に捻れるようにして倒れる。このため、正常側である健側は自身の体の重量を支えきれず、大抵の場合、健側の能力だけでは正常な姿勢を保つことができなくなる。このように、患側に倒れることで、健側が凸側となる側彎が生じる。このとき、筋力の高い人であれば、何の支えも無い場合の防衛的な姿勢として、凸側の車椅子のコーナーに身を預け、意図的に体を健側に倒すことで患側の質量に対抗しようとする。しかしながら、従来の車椅子では、患者に対する車椅子の支持点が高すぎるため、患者は次第に圧迫を受け、さらに患側に倒れてしまうことになる。
【0059】
これに対し、本願発明者らが提唱するABS(Active Balanced Seating)理論は、身体各部の質量のバランスをとることで、良好な姿勢を図る方法である。このため、身体の支点を適正な位置に設定することが重要であり、本実施形態では、凸側の腸骨陵辺り(ベルトの位置)を「てこ」の支点に設定する。
【0060】
具体的には、
図6および
図12に示すように、二本の胸郭支持ベルト3については、上方の両端部を背もたれ11上部の左右位置にそれぞれ固定する一方、凸側の下端部を前方バー41に固定するとともに、凹側の下端部を後方バー42に固定する。この胸郭支持ベルト3のセッティング自体は、腰周りの大きな太った人、すなわち比較的栄養状態が良く骨盤が正常に近い人、または、適正な設定により骨盤が重力ファクター、時間ファクターと共に正常化する可能性のある人に適したセッティングである。
【0061】
しかしながら、健康状態が悪く、痩せてしまった人や、側彎の回復が難しい人の場合には、胸郭支持ベルト3を上記のとおり設定することに加えて、骨盤の後傾を進行させないように支持する必要がある。そこで、本条件では、一本の骨盤支持ベルト2の両端のうち、凸側の端部を前方バー41に固定するとともに、凹側の端部を後方バー42に固定する。これにより、
図12(b)に示すように、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3が、着座者の凸側において前方に張り出した状態で取り付けられる。
【0062】
これにより、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3の胸郭下部支持部31が、凸側の腸骨陵辺りの支点に作用し、主に頭頸部、胸郭、上肢等の身体の上方に位置する上方重量と、臀部や下肢等の身体の下方に位置する下方重量とのバランスをとる。このため、着座者が意図的に身体を健側に倒す姿勢をとることにより、患側を引き上げなくても自然に体幹が伸展する。
【0063】
したがって、「側彎+正常姿勢」条件によれば、身体各部の質量バランスによって、自然に体幹が伸展されるため、側彎の姿勢が改善される。すなわち、骨盤の後傾や軽度の側彎および体幹機能の低下した人に対する姿勢支援の機能を有していると言える。なお、本条件において、上述した各種姿勢条件のセッティングと共通するセッティングについては、同様の作用効果を奏するため、再度の説明を省略する。
【0064】
また、本条件においては、上述したとおり、骨盤支持ベルト2の凸側端部を前方バー41に固定するとともに、凹側端部を後方バー42に固定している。しかしながら、このセッティングに限定されるものではなく、側彎の状況によっては、凸側の端部も凹側の端部と同様、後方バー42に取り付けてもよい。
【0065】
つぎに、上記(5)の「側彎+仙骨座り」条件について説明する。「側彎+仙骨座り」条件は、上述した「側彎」に加えて「仙骨座り」を複合的に有する着座者に適した姿勢条件である。具体的には、
図6に示すとおり、胸郭支持ベルト3の取り付け位置は、「側彎+正常姿勢」のときと同様である。一方、骨盤支持ベルト2の使用本数・取り付け位置、および連結ベルト5の取り付け位置は、「仙骨座り」のセッティングとほぼ同様であるが、骨盤支持ベルト2の上端部の取り付け位置のみが異なっている。
【0066】
具体的には、
図6および
図13に示すように、二本の骨盤支持ベルト2の左右の上端部のうち、凸側の上端部を前方バー41に固定するとともに、凹側の上端部を後方バー42に固定する。これにより、
図13(b)に示すように、胸郭支持ベルト3は、上記「側彎+正常姿勢」条件と同様、着座者の凸側において前方に張り出した状態で取り付けられる。また、交差された二本の骨盤支持ベルト2が、着座者の凸側において前方に張り出した状態で取り付けられる。
【0067】
これにより、上述した「側彎+正常姿勢」条件の作用に加えて、骨盤支持ベルト2が、胸郭支持ベルト3とともに着座者の背中から臀部にかけて隙間無くフィットし、後傾した骨盤を後方から支持する。また、前記隙間を無くすことにより、着座者の背もたれ11に対する圧力中心が下方へ下がるため、背中を伸展させる方向に反力が作用する。
【0068】
したがって、「側彎+仙骨座り」条件によれば、身体各部の質量バランスによって、自然に体幹が伸展されるため、側彎の姿勢が改善される。また、後傾した骨盤がしっかりと支持されて着座者の背中が伸展されるため、仙骨座りの姿勢も改善される。なお、本条件において、上述した各種姿勢条件のセッティングと共通するセッティングについては、同様の作用効果を奏するため、再度の説明を省略する。
【0069】
また、本条件においては、上述したとおり、骨盤支持ベルト2の凸側上端部を前方バー41に固定するとともに、凹側上端部を後方バー42に固定している。しかしながら、このセッティングに限定されるものではなく、側彎の状況によっては、凸側上端部も凹側上端部と同様、後方バー42に取り付けてもよい。
【0070】
以上のような本実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
1.車椅子等の椅子体10に後付けまたは予め組み込まれて、着座者の座位姿勢を改善することができる。
2.一般的な車椅子の折り畳み機構、耐久性、社会的環境との適合性等を全て継承した上で、座位姿勢改善機能を付加することができる。
3.骨盤支持ベルト2、胸郭支持ベルト3および連結ベルト5を簡単に着脱したりセッティングすることができる。
4.椅子体10が車椅子の場合、座位姿勢改善装置1を車椅子から取り外すことなく、車椅子を折り畳むことができる。
5.長期的には、身体の諸機能(呼吸、嚥下、感覚運動等)を向上させるとともに、脊柱の変形(側彎や後彎)を予防することができる。
6.着座者の身体変形の程度に応じて骨盤支持ベルト2や胸郭支持ベルト3の取り付け位置を適切に調整することができ、側彎等の非対称姿勢の改善にも対応することができる。
7.骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3の位置ズレや、車椅子を折り畳む際の絡まりを防止することができる。
8.骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3から着座者の背中が受ける圧力を緩和し、身体全体を柔らかく支持することができる。
9.骨盤支持ベルト2は、その伸縮性によって身体運動への追従性に優れ、従来必要であった張り合わせ調整等を不要とし、不特定多数の着座者が使用することができる。
10.各種の座位姿勢条件に対するセッティングがマニュアル化し易くなり、着座姿勢に対する特別な知識を有している者でなくても誰でも簡単に着座者に適したセッティングを整えることができる。
【0071】
つぎに、本発明に係る座位姿勢改善装置1およびこれを備えた椅子体10の具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0072】
本実施例1では、椅子体10として標準的な車椅子(日進医療器株式会社製)を使用し、当該車椅子に対して、上記「正常姿勢」条件の骨盤支持ベルト2に関する設定に従って、骨盤支持ベルト2を一本取り付けた場合(以下、「一本仕様」という)と、上記「仙骨座り」条件の骨盤支持ベルト2に関する設定に従って骨盤支持ベルト2を二本取り付けた場合(以下、「二本仕様」という)における、被験者の座位姿勢を観察した。また、比較例として、骨盤支持ベルト2を一切取り付けない場合(以下、「標準仕様」という)についても同様の観察を行った。
【0073】
具体的には、健常青年6名(身長:155.1±5.38cm、体重:50.8±3.43kg)を被験者とし、上述した三つの各仕様に設定された車椅子に着座した状態で、側方からビデオ撮影した。
図14は、上記被験者のうちの二名(被験者A,B)が、各仕様に設定された車椅子に着座した状態での座位姿勢を示す画像である。
【0074】
図14に示すように、いずれの被験者A,Bにおいても、標準仕様では頭頸部が前方へ傾き、頸部が後屈し、胸郭が狭小化しているのに対し、一本仕様ではそれらが改善されている。また、二本仕様では、一本仕様よりも改善の度合いが向上されている。
【0075】
以上の本実施例1によれば、本実施形態の骨盤支持ベルト2を車椅子に取り付けることにより、着座者の骨盤を後方からしっかりと支持し、着座者の姿勢を改善することが示された。
【実施例2】
【0076】
本実施例2では、上記実施例1と同様の実験条件のもと、各仕様に設定された車椅子に各被験者が着座した状態において、ピエゾ抵抗型センサアレイによる圧力分布計測装置(FSA/BodiTrak:タカノ株式会社)を用いて座面および背面の圧力分布を測定し、座圧の最小値、最大値、平均値、変動、標準偏差及び偏差係数を算出した。
図15および
図16は、上記被験者A,Bの個別の測定結果を示すものである。
【0077】
図15および
図16に示すように、標準仕様では、胸郭上部にのみ圧力反応が現れるのに対し、一本仕様では、胸郭下部と骨盤部に圧力反応があり、下方の部位を正しく支持していることが示された。また、二本仕様では、骨盤後方下部と胸郭下部に圧力反応があり、より下方の部位をしっかりと支持していることが示された。
【0078】
また、各仕様に設定された車椅子に各被験者が着座した状態における座面および背面について、平均圧、センシングエリア(圧力検出領域)、最大値、垂直センター(垂直方向の圧力中心位置)、水平センター(水平方向の圧力中心位置)の平均値および標準偏差を算出した。その結果を
図17に示す。
【0079】
図17に示すように、座面の平均圧力および最大圧力は、標準仕様と比較して、一本仕様および二本仕様の方が低下している。一方、背面の平均圧力は、標準仕様と比較して、一本仕様、二本仕様の方が高くなっている。つまり、座面における圧力の減少は、背面が着座者に作用した証左である。また、垂直センターに示される圧力中心位置は、それぞれの支えの特徴を良く反映しており、背もたれ11のより下部で着座者の上体を支えていることを示している。
【0080】
以上の本実施例2によれば、本実施形態の骨盤支持ベルト2を車椅子に取り付けることにより、着座者の背もたれ11に対する圧力中心が下方へ下がり、背中を伸展させる方向に反力が作用することが示された。
【実施例3】
【0081】
本実施例3では、上記「正常姿勢」のセッティングに従って座位姿勢改善装置1を取り付けた車椅子に、軽度の座位姿勢障害がある被験者C(143cm,47kg)を着座させるとともに、上記「仙骨座り」のセッティングに従って座位姿勢改善装置1を取り付けた車椅子に、重度の座位姿勢障害がある被験者D(140cm,45kg)を着座させ、各被験者の座位姿勢を観察した。また、比較例として、座位姿勢改善装置1を取り付けていない場合についても同様の観察を行った。
【0082】
また、各被験者C,Dについて、実施例2と同様、座面および背面の圧力分布を測定し、座圧の最小値、最大値、平均値、変動、標準偏差及び偏差係数を算出した。
図18および
図19は、それぞれ被験者C,Dの測定結果であり、車椅子に着座した状態での座位姿勢を示す画像、および個別の測定結果を示すものである。
【0083】
図18および
図19に示すように、いずれの被験者C,Dについても、座位姿勢改善装置1が取り付けられていない車椅子では、着座者の背もたれ11に対する圧力中心が高い位置にあり、上体が前方に押された姿勢であった。一方、座位姿勢改善装置1を取り付けた車椅子では、前押し姿勢が改善されているとともに、頭頸部が適切にアライメントされ、胸郭や骨盤の姿勢が改善されていた。また、骨盤支持ベルト2と胸郭支持ベルト3に応じた圧力反応が見られ、被験者の身体がよく支えられていることが示された。
【0084】
以上の本実施例3によれば、標準的な車椅子に本実施形態の座位姿勢改善装置1を取り付けるだけで、座位姿勢に障害のある着座者の姿勢を実際に改善できることが示された。
【0085】
なお、上述した本実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明に係る座位姿勢改善装置1およびこれを備えた椅子体10を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、適宜変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。
【0086】
例えば、上述した本実施形態では、姿勢条件を上記(1)〜(5)の5つに分類していいるが、この構成に限定されるものではなく、様々な座位姿勢に合わせて、当該座位姿勢を改善するためのセッティングを適宜設定してもよい。
【0087】
また、上述した本実施形態では、骨盤支持ベルト2および胸郭支持ベルト3が、従来の専用機等におけるベルトと比較して、ベルト幅が広く形成されており、安定的な支持が可能となっている。しかしながら、この構成に限定されるものではなく、ベルト幅は適宜変更してもよい。