(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0019】
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図1】hsa−miR−4667−3pのIL−6刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図2】hsa−miR−3934−5pのIL−17刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図3】hsa−miR−6842−5pのIL−17刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図4】hsa−miR−3646のIL−6刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図5】hsa−miR−3126−5pのIL−6刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図6】hsa−miR−5585−3pのIL−17刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図7】hsa−miR−3646のLPS刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図8】hsa−miR−4667−3pのLPS刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図9】hsa−miR−20b−5pのLPS刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図10】hsa−miR−20b−3pのLPS刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図11】hsa−miR−3126−5pのLPS刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図12】hsa−miR−4650−5pのLPS刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図13】hsa−miR−101−5pのLPS刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図14】hsa−miR−224−5pのLPS刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図15】hsa−miR−101−3pのポリI:C刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図16】hsa−miR−511−5pのポリI:C刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図17】hsa−miR−511−3pのポリI:C刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
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図18】hsa−miR−20b−5pのポリI:C刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
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図19】hsa−miR−4650−5pのポリI:C刺激による相対的発現量の変動を表したグラフである。
【
図20】hsa−miR−3646を導入したDCにおける、ポリI:C刺激後のIFN−β及びIL−12p35の遺伝子発現量の変化を表すグラフである。図中、左がIFN−β、右がIL−12p35である。
【
図21】hsa−miR−3646を導入したDCにおける、LPS刺激後のIFN−β及びIL−12p35の遺伝子発現量の変化を表すグラフである。図中、左がIFN−β、右がIL−12p35である。
【
図22】hsa−miR−3646に対する阻害性核酸を導入したDCにおける、ポリI:C刺激後のIFN−β及びIL−12p35の遺伝子発現量の変化を表すグラフである。図中、左がIFN−β、右がIL−12p35である。
【
図23】hsa−miR−3934−5pを導入したDCにおける、ポリI:C刺激後のIFN−β及びIL−12p35の遺伝子発現量の変化を表すグラフである。図中、左がIFN−β、右がIL−12p35である。
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図24】hsa−miR−3934−5pを導入したDCにおける、LPS刺激後のIFN−β及びIL−12p35の遺伝子発現量の変化を表すグラフである。図中、左がIFN−β、右がIL−12p35である。
【
図25】hsa−miR−3934−5pに対する阻害性核酸を導入したDCにおける、ポリI:C刺激後のIFN−β及びIL−12p35の遺伝子発現量の変化を表すグラフである。図中、左がIFN−β、右がIL−12p35である。
【
図26】hsa−miR−3934−5pに対する阻害性核酸を導入したDCにおける、LPS刺激後のIFN−β及びIL−12p35の遺伝子発現量の変化を表すグラフである。図中、左がIFN−β、右がIL−12p35である。
【
図27】hsa−miR−1266−5pを導入したDCにおける、LPS刺激後のIFN−βの遺伝子発現量の変化を表すグラフである。
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図28】hsa−miR−224−5pを導入したDCをがん抗原ペプチドを含む培地で培養した培養上清におけるIFN−γ及びIL−12の定量結果を示すグラフである。図中、左がIFN−γ、右がIL−12である。
【
図29】hsa−miR−224−5p−に対する阻害性核酸を導入したDCをがん抗原ペプチドを含む培地で培養した培養上清におけるIFN−γの定量結果を示すグラフである。
【
図30】hsa−miR−224−3pを導入したDCをがん抗原ペプチドを含む培地で培養した培養上清におけるIFN−γ及びIL−12の定量結果を示すグラフである。図中、左がIFN−γ、右がIL−12である。
【
図31】hsa−miR−20b−5pを導入したDCをがん抗原ペプチドを含む培地で培養した培養上清におけるIFN−γ及びIL−12の定量結果を示すグラフである。図中、左がIFN−γ、右がIL−12である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書を通じ、miRのID及びアクセション番号は、miRの配列情報等を集めたデータベースであるmiRBase(http://www.mirbase.org/)に定められたものを使用しており、各miRの塩基配列も前記データベースに全て登録されている。
【0021】
本発明にいう免疫応答制御とは、免疫応答を抑制する又は活性化することを意味する。なお、免疫応答を抑制するとは、抗原に対する免疫応答、すなわち抗原を排除又は無害化する生体防御反応の進行を阻害する、停止させる、低下させる又は減ずることを意味し、典型的にはDCの抗原提示能を阻害する、停止させる、低下させる若しくは減ずる、又はT細胞の分化誘導若しくは活性化を促すサイトカイン、例えばIFN−β若しくはIL−12の発現若しくは産生を阻害する、低下させる若しくは減ずることをいう。
【0022】
また免疫応答を活性化するとは、抗原に対する免疫応答、すなわち抗原を排除又は無害化する生体防御反応の進行を誘導する、促進する又は亢進することを意味し、典型的にはDCの抗原提示能を誘導する、促進する若しくは亢進する、又はT細胞の分化誘導若しくは活性化を促すサイトカイン、例えばIFN−β若しくはIL−12の発現若しくは産生を誘導する、促進する若しくは亢進することをいう。
【0023】
本明細書にいう相対的発現量とは、DNAマイクロアレイを用いて測定されるmiRの発現量を比較解析方法によって補正した値を意味する。かかる方法としては、グローバルノーマライゼーション法、quantile法、lowess法、75percentile法などを挙げることができる。これらの方法は、いかなる検体であっても複数の遺伝子の発現データを一塊とし、遺伝子発現データ群としてとらえた場合には、発現量に差がないという原理を前提とするものである。本明細書においては、DNAマイクロアレイ上に搭載した全遺伝子の発現量の中央値を求め、この中央値が25になるように補正するグローバルノーマライゼーション法(例えば特開2014−007995号公報など)で算出された相対的発現量を採用して説明する。
【0024】
本発明は、表1〜表7に示されるmiR、前記miRと相補的なmiR、前記miR及び前記相補的なmiRに対する阻害性核酸並びにそれらの機能的等価物よりなる群から選択される少なくとも一種以上の核酸を有効成分とする、免疫応答制御剤に関する。
【0025】
表1及び表2に示されるmiRは、IL−6又はIL−17を含む培地で培養したDCの内部において、これらサイトカインを含まない培地で培養したDC(コントロール)と比較したときに、DNAマイクロアレイを用いたグローバルノーマライゼーション法により求められた相対的発現量が有意(1/2以下)に減少するmiRである。表中の変動比は、コントロールにおけるmiRのDNAマイクロアレイを用いたグローバルノーマライゼーション法により求められた相対的発現量を1としたときの各miRの減少率を表す。
【0026】
表3及び表4に示されるmiRは、IL−6又はIL−17を含む培地で培養したDCの内部において、これらサイトカインを含まない培地で培養したDCと比較したときに、DNAマイクロアレイを用いたグローバルノーマライゼーション法により求められた相対的発現量が有意(2倍以上)に上昇するmiRである。表中の変動比は、コントロールにおけるmiRのDNAマイクロアレイを用いたグローバルノーマライゼーション法により求められた相対的発現量を1としたときの各miRの上昇率を表す。
【0027】
表5及び表6に示されるmiRは、免疫学的な刺激物質であるリポポリサッカライド(LPS)又はポリI:Cを含む培地で培養したDCの内部において、これら刺激物質を含まない培地で培養したDCと比較したときに、定量PCR法により求められた相対的発現量が上昇するmiRである。
【0028】
表7に示されるmiRは、免疫学的な刺激物質であるポリI:Cを含む培地で培養したDCの内部において、これら刺激物質を含まない培地で培養したDCと比較したときに、定量PCR法により求められた相対的発現量が減少するmiRである。
【0029】
IL−6は、DCに対してMHCクラスII分子及びCD86の発現を抑制して抗原提示能を低下させると共に、ナイーブT細胞からのエフェクターT細胞であるヘルパーT細胞への分化誘導能を有するIL−12の産生も抑制する。すなわちIL−6はDCを介した免疫応答を抑制するサイトカインである。またIL−17はかかるIL−6の産生を誘導する機能を有しており、結果的にIL−6と同様にDCを介した免疫応答を抑制するサイトカインである。また、LPSは細菌等の感染と同様の、またポリI:Cはウイルス感染と同様に免疫応答を活性化する物質である。
【0030】
表1〜表7に示されるmiRは、IL−6やLPSなどによる刺激を受けたときにDC内で発現する、免疫応答を抑制する又は活性化する様々な遺伝子をターゲットとして、それらの機能発現を調節していると考えられる。かかるターゲット遺伝子は、DCを介した免疫応答を誘導、促進若しくは亢進したりする、又は阻害若しくは抑制したりするなどの様々な機能が想定される。
【0031】
したがって、表1〜表7に示されるmiRを適切に選択することによって、生体特にDCを介した免疫応答を抑制又は活性化することができると期待される。係る意味において、表1〜表7に示されるmiRは、免疫応答制御剤として利用することができる。
【0032】
本発明の免疫応答制御剤の効果は、生体にmiRを直接投与して免疫応答が誘導される又は抑制されることを確認してもよく、また例えばDCに免疫応答型制御剤であるmiRを導入して、免疫応答の活性化に関与するIFN−β若しくはIL−12又は免疫応答の抑制に関与するIL−10の発現が誘導、促進、若しくは亢進される又は阻害若しくは抑制されることをもって確認してもよい。
【0033】
また、i)表1〜表7に示されるmiRと相補的なmiR、すなわちmiRの塩基配列と相補的な塩基配列からなるmiR、ii)適当な発現プロモーターの支配下に置かれることで表1〜表7に示されるmiRと同じ塩基配列からなるRNAを転写誘導することのできる核酸、並びにiii)表1〜表7に示されるmiRの機能を阻害することのできる阻害性核酸、例えば表1〜表7に示されるmiRの塩基配列を基に適宜設計することができる塩基配列を有することで表1〜表7に示されるmiRの機能を実質的に阻害することができる核酸、表1〜表7に示されるmiRの塩基配列を認識してその機能を阻害することができるsiRNA若しくはshRNAなどのRNA干渉誘導性核酸、又は適当な発現プロモーターの支配下に置かれることで表1〜表7に示されるmiRの機能を実質的に阻害するRNA若しくはRNA干渉誘導性核酸であるRNAを転写誘導することのできる核酸なども、本発明における免疫応答制御剤として利用することができるものと期待される。miRとこれに相補的なmiRは、例えばhsa−miR−4709−5pとhsa−miR−4709−3pなどのように、miRのIDにおいて5p及び3pと表記されて区別される関係にある。
【0034】
阻害性核酸を設計及び生産する手法は当業者に広く知られている他、このような設計から生産を受託により行う会社等も多数存在する。例えばこの様な受託生産は、SIGMA−ALDRICH(http://www.sigmaaldrich.com/life−science/functional−genomics−and−rnai/mirna/microrna−mimics.html)、QIAGEN(http://www.qiagen.com/products/catalog/assay−technologies/mirna/miscript−mirna−mimics)、Applied Bioscience(https://products.appliedbiosystems.com/ab/en/US/adirect/ab?cmd=catNavigate2&catID=602400)などが行っている。このような受託先に本明細書に記載の各表中のID又はアクセッション番号から特定される塩基配列を提供すれば、阻害性核酸を入手することができる。
【0035】
さらに、表1〜表7に示されるmiRを含む上記核酸の塩基配列の一部が修飾されてヌクレアーゼによる分解に対する安定性が高められた核酸も、本発明における免疫応答制御剤に包含される。ヌクレアーゼによる分解に対する安定性を向上させるための修飾としては、2’O−メチル化、2’−F化、4’−チオ化などを挙げることができる。
【0036】
また、表1〜表7に示されるmiRを含むRNA中のリボヌクレオチドの一部が、対応するデオキシリボヌクレオチド又はヌクレオチド類似体に置き換えられたキメラRNAもまた、本発明における免疫応答制御剤に包含される。ヌクレオチド類似体としては、例えば、5位修飾ウリジン又はシチジン、例えば5‐(2‐アミノ)プロピルウリジン、5‐ブロモウリジンなど;8位修飾アデノシン又はグアノシン、例えば8‐ブロモグアノシンなど;デアザヌクレオチド、例えば7−デアザ−アデノシンなど;O−又はN−アルキル化ヌクレオチド、例えばN6−メチルアデノシンなどを挙げることができる。
【0037】
以下、本発明では、適当な発現プロモーターの支配下に置かれることで表1〜表7に示されるmiRと同じ塩基配列からなるRNAを転写誘導することのできる核酸、表1〜表7に示されるmiRの塩基配列の一部が修飾されてヌクレアーゼによる分解に対する安定性が高められた核酸及びこれらのキメラRNAを、表1〜表7に示されるmiRと機能的に等価な核酸又はmiRの機能的等価物と表すこととする。
【0038】
同様に、適当な発現プロモーターの支配下に置かれることで表1〜表7に示されるmiRに対する阻害性核酸と同じ塩基配列からなるRNAを転写誘導することのできる核酸、表1〜表7に示されるmiRに対する阻害性核酸の塩基配列の一部が修飾されてヌクレアーゼによる分解に対する安定性が高められた核酸及びこれらのキメラRNAを、表1〜表7に示されるmiRに対する阻害性核酸と機能的に等価な核酸又は阻害性核酸の機能的等価物と表すこととする。
【0039】
本発明の免疫応答制御剤の一つの態様は、免疫応答を抑制することのできるmiR又はそれらの機能的等価物を有効成分とする、免疫抑制剤である。
【0040】
例えば、後の実施例で示すように、表3に示されるIL−6によって発現量が上昇するhsa−miR3646をDCに導入することによって、DCにおけるIFN−β遺伝子及びIL−12p35遺伝子の発現を低下させることができる。したがって、hsa−miR−3646は免疫抑制剤として利用可能である。
【0041】
本発明の免疫応答制御剤のもう一つの態様は、免疫応答を活性化することのできるmiR又はそれらの機能的等価物を有効成分とする、免疫活性化剤である。
【0042】
例えば、IL−17刺激によって相対的発現量が減少するhsa−miR−3934−5pをDCに導入することによって、DCにおけるIFN−β遺伝子及びIL−12p35遺伝子の発現を亢進させることができる。したがって、hsa−miR−3934−5pは免疫活性化剤として利用可能である。
【0043】
本発明の別の態様は、免疫応答を活性化することのできるmiRに対する阻害性核酸又はその機能的等価物を有効成分とする、免疫抑制剤である。
【0044】
例えば、先に述べた免疫活性化剤であるhsa−miR−3934−5pに対する阻害性核酸をDCに導入することによって、DCにおけるIFN−β遺伝子及びIL−12p35遺伝子の発現を低下させることができる。したがって、hsa−miR−3934−5pに対する阻害性核酸は免疫抑制剤として利用可能である。
【0045】
本発明のさらなる態様は、免疫応答を抑制することのできるmiRに対する阻害性核酸又はその機能的等価物を有効成分とする免疫活性化剤である。
【0046】
例えば、先に述べた免疫抑制剤であるhsa−miR−3646に対する阻害性核酸をDCに導入することによって、DCにおけるIFN−β遺伝子及びIL−12p35遺伝子の発現をいずれも亢進させることができる。したがって、hsa−miR−3646に対する阻害性核酸は免疫活性化剤として利用可能である。
【0047】
本発明において、表1〜表7に示されるmiRから免疫を抑制する又は活性化することのできるmiRを適宜選択することで、それら又はそれらの機能的等価物を免疫抑制剤又は免疫活性化剤として利用することができる。また、表1〜表7に示されるmiRから免疫を抑制する又は活性化することのできるmiRを適宜選択することで、それらに対する阻害性核酸又はこれらの機能的等価物を免疫活性化剤又は免疫抑制剤として利用することができる。
【0048】
本発明における好ましい免疫活性化剤又は免疫抑制剤は、表1及び表2に示される変動比が0.4以下のmiR、表3及び表4に示される変動比が3倍以上のmiR、それらの機能的等価物、それらに対する阻害性核酸又はその機能的等価物である。本発明におけるさらに好ましい免疫活性化剤又は免疫抑制剤は、表1及び表2に示される変動比が0.3以下のmiR、表3及び表4に示される変動比が4倍以上のmiR、それらの機能的等価物、それらに対する阻害性核酸又はその機能的等価物である。
【0049】
本発明の免疫応答制御剤である核酸は、化学合成技術を利用して人工的に合成することができる。核酸の化学合成方法、また非天然型の塩基の合成手法又はこれを含む核酸の合成手法としては、当業者に知られ又は周知である方法を採用することができる。またいわゆるDNAシンセサイザーなどの機器を用いることで、本発明の免疫応答制御剤を製造してもよい。
【0050】
本発明の免疫応答制御剤である核酸は、生体に直接投与されてもよい。また、生体から分離されたDCに適当な方法によって導入されてもよい。また、本発明の免疫応答制御剤である核酸は、そのままDCに導入されてもよく、又はDC内で適切に所望のRNAが誘導されるように機能的に組み込まれた発現ベクターの形態でDCに導入されてもよい。発現ベクターは、転写発現を調節する任意の機能性塩基配列、例えばPol IIIプロモーターなどのプロモーター配列、オペレーター配列、エンハンサーなどをさらに含んでいてもよい。これらの機能性塩基配列は、上記核酸と機能的に連結され得る。本発明の核酸を含む発現ベクターなどの核酸構築物もまた、本発明の範囲内にある。なお、本発明において2以上の核酸を用いる場合、これらの核酸は単一の発現ベクターに組み込んでもよく、2以上のベクターに別々に組み込んでもよい。
【0051】
本発明の核酸は、任意の既知の細胞導入手法、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、超音波導入法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター又はレトロウイルスベクターなど)を利用する方法、又はマイクロインジェクション法などを用いることによって、DC内に導入され得る。
【0052】
発現ベクターの構築及びそのDCへの導入を行う遺伝子工学的方法としては、当業者に公知又は周知の手法、例えばSambrookらによる「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd.edition」(1989年、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.)その他の、当分野の教科書又はハンドブックに記載され、当業者に広く利用されている手法を挙げることができる。また市販のキットや試薬を使用するときは、当該キットや試薬の製造者が定めたプロトコル及び/又はパラメータに従うことが好ましい。
【0053】
本発明はまた、哺乳動物の免疫応答を制御する方法を提供し、具体的には、哺乳動物に有効量の本発明の免疫応答制御剤を投与して哺乳動物の免疫応答を制御する方法、又は本発明の免疫応答制御剤の存在下で培養した哺乳動物由来のDCを投与して哺乳動物の免疫応答を制御する方法を含む。
【0054】
本明細書中で用いられる「哺乳動物」の例としてはヒト、ウシ、ウマ、イヌ及びネコ等を挙げることができるが、本発明の方法は特にヒトを対象とする。
【0055】
本明細書中で用いられる「有効量」とは、哺乳動物の免疫応答を活性化又は抑制するのに効果的な免疫応答制御剤の量を意味する。かかる有効量は疾患の種類、症状の重症度、患者その他の医学的要因によって適宜調節される。
【0056】
本発明の治療方法の好ましい実施形態の一つは、本発明の免疫応答制御剤の存在下で培養したヒトのがん患者由来のDCを当該がん患者に投与して、がん細胞に対するその患者の免疫応答を活性化する方法である。かかるDCの培養は適当ながん抗原又はがんワクチンを含む培地を用いて行われることが好ましい。また、同様の方法によって、細菌、真菌、寄生虫、ウイルスその他の外来生物による感染症に対する患者の免疫応答を活性化させることも可能である。
【0057】
本発明の治療方法の好ましい別の実施形態の一つは、本発明の免疫応答制御剤をヒト患者に投与して、その患者における肝炎、アレルギー疾患又は自己免疫疾患を治療する方法である。本実施形態の治療方法の対象となる疾患としては、肝炎;花粉症、アトピー、重症薬疹などのアレルギー疾患;リュウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症、移植病、クローン病、潰瘍性大腸炎、シェーグレン症候群等の自己免疫疾患などを挙げることができる。
【0058】
本発明の免疫応答制御剤は、薬学的に許容される賦形剤、担体その他の成分と共に医薬組成物を形成し又は製剤化して使用することが好ましい。特に、核酸製剤の調製に好適な賦形剤等の利用が好ましい。かかる医薬組成物又は製剤の形態にある免疫応答制御剤も、本発明の免疫応答制御剤の一態様である。
【0059】
薬学的に許容される成分は当業者において周知であり、当業者が通常の実施能力の範囲内で、例えば第十六改正日本薬局方その他の規格書に記載された成分から製剤の形態に応じて適宜選択して使用することができる。また、RNA干渉誘導性核酸などを含む製剤で利用されている各種の成分を利用することが好ましい。治療対象となる疾患に応じて、本発明の免疫応答制御剤とその他の医薬とを併用して使用してもよい。
【0060】
本発明の免疫応答制御剤を含む医薬組成物は、通常、注射剤、点滴剤などの非経口製剤の形態で用いられる。非経口製剤に用いることができる担体としては、例えば、生理食塩水や、ブドウ糖、D−ソルビトールなどを含む等張液といった、製剤において通常用いられる水性担体が挙げられる。本発明の免疫応答制御剤を含む医薬組成物はさらに、薬学的に許容される緩衝剤、安定剤、保存剤その他の成分を含んでもよい。
【0061】
また、本発明の免疫応答制御剤を含む医薬組成物は、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、マイクロスフェア及びナノスフェアなどの適切なDDSに封入及び/又は固定することもできる。
【0062】
本発明の免疫応答制御剤を含む医薬組成物の投与方法は、特に制限されないが、非経口製剤である場合は、例えば血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、腸管内投与、腫瘍内又はその近傍への局所投与などを挙げることができる。好ましい態様の一つにおいて、本発明の免疫応答制御剤を含む医薬組成物は、静脈内投与又は腫瘍内若しくはその近傍への局所投与により対象に投与される。
【0063】
ウイルスベクターを利用して哺乳動物の体内で本発明の核酸の発現を誘導する場合、その用量範囲は、例えば、ヒト対象1人あたり、1×10
3〜1×10
14、好ましくは1×10
5〜1×10
12、より好ましくは1×10
6〜1×10
11、最も好ましくは1×10
7〜1×10
10のプラーク形成単位(p.f.u.)であることができる。
【0064】
以下、非限定的な実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコル、細胞株、動物種及び属、コンストラクト並びに試薬に限定されるものではなく、これらは適宜変更することができるものであることは当業者に容易に理解されるものである。
【実施例】
【0065】
<実験例1>
1)IL−6又はIL−17刺激したDCのmRNAの調製
三人の健常ヒト血液より回収したヒト末梢血単核細胞(2×10
6個)を1mLのAIM−V(登録商標)(Life Technologies)に懸濁して1時間インキュベートし、細胞を底面に接着させた。接着した細胞を0.05mg/mLのIL−4及びGM−CSFの存在下で7日間培養することで、ヒト単球由来樹状細胞(Monocyte−derived Dendritic Cell、MoDC)とした。
【0066】
培養7日目にヒトIL−6(20μg/mL)又はヒトIL−17(100μg/mL)を培地に添加してさらに8時間培養を続けた。その後、細胞をそれぞれTrypsin−EDTA溶液を用いて回収し、抗CD11c抗体及び7−AADで染色後、FACS Ariaを用いてCD11c陽性7−ADD陰性細胞を単離した。そのうち5×10
6個の細胞をそれぞれ350μLのISOGEN IIで懸濁した後、IL−6刺激を行った三人のヒト由来の細胞懸濁液及びIL−17刺激を行った三人のヒト由来の細胞懸濁液をそれぞれ一つに混合してから、mRNAを回収した。また、IL−6及びIL−17を添加しなかったMoDCからもmRNAを回収し、コントロールとした。
【0067】
2)マイクロアレイ解析
1)のIL−6刺激又はIL−17刺激を受けたMoDC及びコントロールのMoDCから回収したmRNA画分に対して、東レ株式会社に委託してマイクロアレイ解析を行った。
【0068】
マイクロアレイの解析結果から、コントロールと比較してIL−6刺激による減少率が1/2以下で、かつ無刺激のグローバルノーマライゼーションの値が10以上であるmiRを選択して、表1に纏めた。表1のうち、hsa−miR−4667−3pのIL−6刺激による変動を表したグラフを
図1に示す。
【0069】
同様に、コントロールと比較してIL−17刺激による減少率が1/2以下で、かつ無刺激のグローバルノーマライゼーションの値が10以上であるmiRを選択し、表2に纏めた。表2のうち、hsa−miR−3934−5p及びhsa−miR−6842−5pのIL−17刺激による変動を表したグラフを
図2及び
図3にそれぞれ示す。
【0070】
また、コントロールと比較してIL−6刺激による上昇率が2倍で、かつ刺激後のグローバルノーマライゼーションの値が10以上であるmiRを選択して、表3に纏めた。表3のうち、hsa−miR−3646及びhsa−miR−3126−5pのIL−6刺激による変動を表したグラフを
図4及び
図5にそれぞれ示す。
【0071】
さらに、コントロールと比較してIL−17刺激による上昇率が2倍で、かつ刺激後のグローバルノーマライゼーションの値が10以上であるmiRを選択して、表4に纏めた。表4のうち、hsa−miR−5585−3pのIL−17刺激による変動を表したグラフを
図6に示す。
【0072】
<実験例2>
1)LPS又はポリI:C刺激したDCのmRNAの調製
実験例1の1)と同様にして調製した培養7日目のMoDCに、LPS(0.5μg/mL)又はポリI:C(10μg/mL)を培地に添加してさらに8時間培養を続けた。その後、実験例1の1)と同じ処理を行って、LPS刺激又はポリI:C刺激を受けたMoDC、及びコントロールのMoDCからそれぞれmRNAを回収した。
【0073】
2)定量PCR解析
1)のLPS刺激又はポリI:C刺激を受けたMoDC及びコントロールのMoDCから回収したmRNA画分に対して、目的のmiRを検出する合成プライマーを用いて定量PCR解析を行った。
【0074】
定量PCRの解析結果から、コントロールと比較してLPS刺激により発現量が上昇するmiRを選択して、表5に纏めた。さらに、コントロールと比較してポリI:C刺激により発現量が上昇するmiRを選択して、表6に纏めた。
【0075】
表5のうち、hsa−miR−3646、hsa−miR−4667−3p、hsa−miR−20b−5p、hsa−miR−20b−3p、hsa−miR−3126−5p、hsa−miR−4650−5p、hsa−miR−101−5p及びhsa−miR−224−5pのLPS刺激による変動を表したグラフを
図7〜
図14にそれぞれ示す。
【0076】
また、表6のうち、hsa−miR−101−3p、hsa−miR−511−5p、hsa−miR−511−3p及びhsa−miR−20b−5pのポリI:C刺激による変動を表したグラフを
図15〜
図18にそれぞれ示す。
【0077】
また、コントロールと比較してポリI:C刺激により発現量が減少するmiRを選択し、表7に纏めた。
【0078】
表7のうち、hsa−miR−4650−5pの刺激による変動を表したグラフを
図19に示す。
【0079】
<実施例1>
表3(IL−6刺激で発現量が上昇するmiR)のhsa−miR−3646及びこれに対する阻害性核酸(hsa−miR−3646−I)を、SIGMA−ALDRICH(http://www.sigmaaldrich.com/life−science/functional−genomics−and−rnai/mirna/microrna−mimics.htmlに依頼してそれぞれ化学合成した。
【0080】
実験例1の1)で調製したMoDC(1×10
6/ウェル)1mlに対して、lipofectamine(登録商標)(life Technologies)を用いて、製造者のプロトコルに従ってhsa−miR−3646又はhsa−miR−3646−I(30pmol/ウェル)をそれぞれ加えた。
【0081】
MoDCを一晩培養後、LPSを0.5μg/mL又はポリI:Cを10μg/mLとなるようにそれぞれ加えてさらに3時間培養した。培養後、ISOGEN IIを350mL添加して細胞を懸濁し、さらにUltraPure DNase/RNase−Free Distilled Water(UPW、Life Technologies)を140mL添加して混和後、5〜15分間待ち、12,000×gで15分間遠心した。遠心上清350μLを新たなチューブに回収し、350μLのイソプロパノールを添加して転倒混和後、10分静置してから12,000×gで10分間遠心する。さらに遠心上清を捨て、500μLの75%エタノールを添加し、8,000×gで2〜3分遠心した。この操作を2回繰り返して得たペレットを16mLのUPWで融解することによって、mRNA画分を得た。
【0082】
回収されたmRNA画分をもとに、SuperScript III Reverse transcriptases及びOkigo dTを用いた逆転写反応を行ってcDNAを調製した。これを鋳型として、TaqMan Universal PCR Master Mix(Roche)を使用し、Light cycler2.0(Roche)を用いたリアルタイム定量PCRによって、IFN−β及びIL−12p35の遺伝子発現量の解析を行った。それぞれの発現量はβ−actin mRNA量を元にDDCt method(DCt=DCtsample−DCtreference)によって補正し、各実験におけるコントロールの値を1とした。結果を
図20〜
図22に示す。
【0083】
図20及び
図21に示されるように、LPS刺激又はポリI:C刺激を受けるMoDCにhsa−miR3646を導入することにより、IFN−β遺伝子及びIL−12p35遺伝子の発現はいずれも抑制された。このことから、hsa−miR−3646のようなIL−6刺激によって発現量が上昇するmiRの一部は、DCに対してサイトカインの産生を阻害して免疫機能を抑制することのできる免疫抑制剤として利用可能であることが確認された。
【0084】
一方、
図22に示されるように、ポリI:C刺激を受けるMoDCにhsa−miR−3646−Iを導入することにより、IFN−β遺伝子及びIL−12p35遺伝子の発現はいずれも亢進された。このことから、hsa−miR−3646のようなIL−6刺激によって発現量が上昇するmiRの一部に対する阻害性核酸は、DCに対してサイトカインの産生を亢進させて免疫機能を活性化することができる免疫活性化剤として利用可能であることが確認された。
【0085】
<実施例2>
実施例1のhsa−miR−3646及びhsa−miR−3646−Iを、IL−17刺激によって発現量が減少するhsa−miR3934−5p及びこれに対する阻害性核酸であるhsa−miR−3934−5p−I(いずれもSIGMA−ALDRICHに合成を依頼)に換えて、実施例1と同様の実験を行った。その結果を、
図23〜
図26に示す。
【0086】
図23及び
図24に示されるように、LPS刺激又はポリI:C刺激を受けるMoDCにhsa−miR3934−5pを導入することにより、IFN−β遺伝子及びIL−12p35遺伝子の発現はいずれも亢進された。このことから、hsa−miR−3934−5pのようなIL−17刺激によって発現量が減少するmiRの一部は、DCに対してサイトカインの産生を亢進して免疫機能を活性化することのできる免疫活性化剤として利用可能であることが確認された。
【0087】
一方、
図25及び
図26に示されるように、LPS刺激又はポリI:C刺激を受けたMoDCにhsa−miR−3934−5p−Iを導入することによりIFN−β遺伝子及びIL−12p35遺伝子の発現はいずれも阻害された。このことから、hsa−miR−3934−5pのようなIL−17刺激によって発現量が減少するmiRの一部に対する阻害性核酸は、DCに対してサイトカインの産生を阻害して免疫機能を抑制することができる免疫抑制剤として利用可能であることが確認された。
<実施例3>
実施例1のhsa−miR−3646及びhsa−miR−3646−Iを、LPS刺激によって発現量が上昇するhsa−miR−1266−5p(SIGMA−ALDRICHに合成を依頼)に換え、DCへの刺激をLPSのみとした以外は実施例1と同様の実験を行い、IFN−βの発現量の変化を測定した。その結果を、
図27に示す。
【0088】
図27に示されるように、LPS刺激を受けたMoDCにhsa−miR−1266−5pを導入することにより、IFN−β遺伝子の発現は抑制された。このことから、hsa−miR−1266−5pのようなLPS刺激によって発現量が上昇するmiRの一部は、DCに対してサイトカインの産生を阻害して免疫機能を抑制することのできる免疫抑制剤として利用可能であることが確認された。
【0089】
<実施例4>
表5(LPS刺激で発現量が上昇するmiR)のhsa−miR−224−5p及びこれに対する阻害性核酸(hsa−miR−224−5p−I)をそれぞれ化学合成した(いずれもSIGMA−ALDRICHに合成を依頼)。
【0090】
実験例1の1)で調製したMoDC(5×10
3個/ウェル)に対して、lipofectamine(登録商標)(life Technologies)を用いて、製造者のプロトコルに従ってhsa−miR−224−5p又はhsa−miR−224−5p−I(30pmol/ウェル)をそれぞれ加えた。
【0091】
MoDCを一晩培養後、がん抗原STEAPタンパク由来のペプチドを用いて誘導したCD4陽性T細胞(5×10
4個/ウェル)を加えて、STEAPペプチド(2μM/ウェル)存在下で、さらに24時間培養した。刺激から24時間後に培養上清を回収し、human IFN−γ BD OptEIA set及びhuman IL−12 BD OptEIA set(いずれもBD Bioscience pharmingen)を用いて、IFN−γ及びIL−12のELISAによる定量を行った。各実験におけるコントロールの値を1とした結果を
図28及び
図29に示す。
【0092】
図28に示されるように、MoDCにhsa−miR−224−5pを導入することにより、IFN−γ及びIL−12の産生はいずれも抑制された。このことから、hsa−miR−224−5pのようなLPS刺激によって発現量が上昇するmiRの一部は、DCによる抗原提示を受けたT細胞及びDCからのサイトカインの産生を阻害して免疫機能を抑制することのできる免疫抑制剤として利用可能であることが確認された。
【0093】
一方、
図29に示されるように、MoDCにhsa−miR−224−5p−Iを導入することにより、IFN−γの産生は亢進された。このことから、hsa−miR−224−5pのようなLPS刺激によって発現量が上昇するmiRの一部に対する阻害性核酸は、DCによる抗原提示を受けて抗原特異的に活性化したT細胞より刺激を受けたDCからのサイトカインの産生を亢進させて免疫機能を活性化することができる免疫活性化剤として利用可能であることが確認された。
【0094】
<実施例5>
実施例4のhsa−miR−224−5pを、LPS刺激又はポリI:C刺激によって発現量が上昇するhsa−miR−224−3p又はhsa−miR−20b−5p(いずれもSIGMA−ALDRICHに合成を依頼)に換えて、実施例4と同様の実験を行った。その結果を、
図30〜
図31に示す。
【0095】
図30及び
図31に示されるように、MoDCにhsa−miR−224−3p又はhsa−miR−20b−5pを導入することにより、IFN−γ及びIL−12の産生はいずれも抑制された。このことから、hsa−miR−224−3p又はhsa−miR−20b−5pのようなLPS刺激又はポリI:C刺激によって発現量が上昇するmiRの一部は、DCによる抗原提示を受けたT細胞及びDCからのサイトカインの産生を阻害して免疫機能を抑制することのできる免疫抑制剤として利用可能であることが確認された。