【0007】
本発明の積層板は、金属板と、その上に設けられた絶縁層と、その上に設けられた金属箔とを有する積層板である。
本発明では、金属板として、圧延法により得られた金属板であって、少なくとも一方の面は、圧延方向の十点平均粗さ及び圧延方向に垂直な方向の十点平均粗さがそれぞれ独立に4〜20μmであり、かつ、圧延方向の十点平均粗さに対する圧延方向に垂直な方向の十点平均粗さの割合(圧延方向に垂直な方向の十点平均粗さ/圧延方向の十点平均粗さ)が1.5以下である粗面である金属板を用い、この粗面が絶縁層に接するように積層する。すなわち、金属板の絶縁層に接する面において、圧延方向の十点平均粗さをRz(MD)とし、圧延方向に垂直な方向の十点平均粗さをRz(TD)としたとき、Rz(MD)及びRz(TD)がそれぞれ独立に4〜20μmであり、かつ、Rz(TD)/Rz(MD)が1.5以下であるようにする。これにより、打抜き加工性及び曲げ加工性に優れ、放熱性にも優れる積層板を得ることができる。
金属板のもう一方の面、すなわち、絶縁層に接する面と反対側の面は、鏡面であってもよいし、粗面であってもよく、粗面である場合、絶縁層に接する面と同様、圧延方向の十点平均粗さ及び圧延方向に垂直な方向の十点平均粗さがそれぞれ独立に4〜20μmであり、かつ、圧延方向の十点平均粗さに対する圧延方向に垂直な方向の十点平均粗さの割合(圧延方向に垂直な方向の十点平均粗さ/圧延方向の十点平均粗さ)が1.5以下である粗面であってもよいし、これ以外の粗面であってもよい。
Rz(MD)及びRz(TD)は、それぞれ独立に、4〜10μmであることが好ましく、Rz(TD)/Rz(MD)は1.2以下であることが好ましく、これにより、積層板の打抜き加工性や曲げ加工性がより向上する。
金属板の面の十点平均粗さは、JIS B0601:1994に準拠して測定される。
このような金属板は、圧延法により得られた原料金属板の少なくとも一方の面を、前記所定の粗面になるように、均一かつ適度に粗面化することにより、得ることができる。粗面化は、両面に行ってもよいし、一方の面のみに行ってもよいが、積層板の打抜き加工性や曲げ加工性がより向上することから、両面に行うことが好ましい。
粗面化は、ブラスト処理、研磨処理等の乾式の粗面化方法により行ってもよいし、陽極酸化処理、エッチング処理等の湿式の粗面化方法により行ってもよい。中でも、ブラスト処理により粗面化することが好ましく、これにより、積層板の打抜き加工性や曲げ加工性がより向上する。ブラスト処理は、アルミナ、鋼粒、砂、ガラスビーズ等の研磨剤を、空気圧又は遠心力によって金属板に吹き付けることにより、金属板を粗面化する方法である。
金属板の材料としては、例えば、アルミニウム、鉄及び銅が挙げられ、アルミニウム合金やステンレス等の合金であってもよい。中でも、銅及びアルミニウム合金が好ましい。金属板は、炭素等の非金属を含んでいてもよく、例えば、炭素と複合化したアルミニウムを含んでいてもよい。金属板は、高い熱伝導率を有していることが好ましく、その熱伝導率は、60W・m
−1・K
−1以上であることが好ましい。
金属板の厚さは、通常0.2mm以上、好ましくは0.5mm以上であり、これにより、積層板の放熱性が向上し易くなる。また、金属板の厚さは、通常5mm以下、好ましくは1.5mm以下であり、これにより、積層板の打抜き加工性や曲げ加工性が向上し易くなる。金属板は、可撓性を有していてもよいし、可撓性を有していなくてもよい。金属板は、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。
絶縁層は、金属板上に設けられており、樹脂を含む。樹脂は、金属板と金属箔とを接着する接着剤としての役割と、絶縁層の表面を平坦にする役割とを果たしている。
樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、液晶ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、それらの2種以上を用いてもよい。中でも、耐熱性が高く、誘電損失が低いことから、液晶ポリエステルが好ましい。
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示すポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融する液晶ポリエステルであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなる液晶ポリエステル、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなる液晶ポリエステル、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなる液晶ポリエステル、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなる液晶ポリエステルが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなる誘導体(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなる誘導体(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなる誘導体(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなる誘導体(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなる誘導体(アシル化物)が挙げられる。
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
(1)−O−Ar
1−CO−
(2)−CO−Ar
2−CO−
(3)−X−Ar
3−Y−
(Ar
1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar
2及びAr
3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar
1、Ar
2又はAr
3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar
4−Z−Ar
5−
(Ar
4及びAr
5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar
1、Ar
2又はAr
3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar
1がp−フェニレン基である繰返し単位(1)(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びAr
1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar
2がp−フェニレン基である繰返し単位(2)(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar
2がm−フェニレン基である繰返し単位(2)(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar
2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びAr
2がジフェニルエーテル−4,4’−ジイル基である繰返し単位(2)(ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar
3がp−フェニレン基である繰返し単位(3)(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)が好ましい。
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは30〜60モル%、さらに好ましくは30〜40モル%である。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは20〜35モル%、さらに好ましくは30〜35モル%である。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは20〜35モル%、さらに好ましくは30〜35モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基である繰返し単位(3)を有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基である繰返し単位(3)のみを有することが、より好ましい。
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、通常250℃以上、好ましくは250℃〜350℃、より好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、液状組成物の粘度が高くなり易かったりする。
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm
2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となる(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
絶縁層に占める樹脂の割合は、好ましくは30〜60体積%、より好ましくは35〜55体積%である。この割合をあまり小さくすると、絶縁層と金属板又は金属箔との密着性が低下したり、絶縁層の表面平坦性が低下したりする。また、この割合をあまり大きくすると、積層板の放熱性が低下する。
絶縁層は、さらに酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ホウ素及び窒化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の無機充填材を含むことが好ましい。絶縁層に前記無機充填材が含まれることにより、積層板の放熱性が向上する。
前記無機充填材の少なくとも一部として、樹脂との密着性や後述の液状組成物中での分散性を向上させるべく、表面処理を施した無機充填材を用いてもよい。この表面処理に使用可能な表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤、長鎖脂肪酸、イソシアネート化合物、及び、エポキシ基、メトキシシリル基、アミノ基又はヒドロキシル基を有する高分子が挙げられる。
絶縁層に占める前記無機充填材の割合は、好ましくは40〜70体積%、より好ましくは45〜65体積%である。この割合をあまり小さくすると、積層板の放熱性が低下する。また、この割合をあまり大きくすると、積層板の打抜き加工性や曲げ加工性が低下する。
なお、絶縁層は、樹脂及び前記無機充填材以外の成分、例えば有機充填材や添加剤を含んでもよいが、その絶縁層に占める割合は、複数種含まれる場合は合計で、通常0〜10体積%である。有機充填材の例としては、硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂及び架橋アクリル樹脂が挙げられる。添加剤の例としては、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤及び着色剤が挙げられる。
また、絶縁層には、無機充填材として、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ホウ素及び窒化アルミニウム以外の無機充填材が含まれていてもよいが、その無機充填材に占める割合は、複数種含まれる場合は合計で、通常0〜10体積%である。
金属箔は、絶縁層上に設けられており、絶縁層を間に挟んで金属板と向き合っている。金属箔の材料としては、例えば、銅及びアルミニウムが挙げられ、合金であってもよい。金属箔の厚さは、通常10〜500μmである。
本発明の積層板の製造は、(A):まず、金属箔と絶縁層との積層中間体を製造し、次いで、この積層中間体を、その絶縁層面を貼合面として、金属板の粗面と熱圧着等により貼り合わせることにより行ってもよいし、(B):まず、金属板の粗面を貼合面として、金属板と絶縁層との積層中間体を製造し、次いで、この積層中間体を、その絶縁層面を貼合面として、金属箔と熱圧着等により貼り合わせることにより行ってもよいし、(C):まず、絶縁層となる絶縁フィルムを製造し、次いで、この絶縁フィルムを、金属板の粗面を貼合面として、金属板と金属箔とで挟んで、これらを熱圧着等により貼り合わせることにより行ってもよい。
絶縁層の形成は、樹脂と溶媒とを含む液状組成物を、支持体に塗布し、得られた塗膜を乾燥(溶媒除去)することにより行うことが好ましい。その際、支持体として金属箔を用いることにより、前記(A)における金属箔と絶縁層との積層中間体を製造することができる。また、支持体として金属板を用いることにより、前記(B)における金属板と絶縁層との積層中間体を製造することができる。また、支持体として金属箔及び金属板以外の支持体、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム等の樹脂フィルムを用いる場合は、支持体上に形成された絶縁層を支持体から金属箔に熱圧着等により転写することにより、前記(A)における金属箔と絶縁層との積層中間体を製造することができ、支持体上に形成された絶縁層を支持体から金属板に熱圧着等により転写することにより、前記(B)における金属板と絶縁層との積層中間体を製造することができ、支持体上に形成された絶縁層を支持体から剥がすことにより、前記(C)における絶縁フィルムを製造することができる。
溶媒としては、用いる樹脂が溶解可能な溶媒、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([樹脂]/[樹脂+溶媒])で溶解可能な溶媒が、適宜選択して用いられる。
溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド、テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリ−n−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられ、それらの2種以上を用いてもよい。
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。また、前記非プロトン性化合物としては、樹脂を溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミドを用いることが好ましい。
また、溶媒としては、樹脂を溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3〜5である化合物を用いることが好ましい。
また、溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
液状組成物中の樹脂の含有量は、樹脂及び溶媒の合計量に対して、通常5〜60質量%、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜45質量%であり、所望の粘度の液状組成物が得られるように、適宜調整される。
液状組成物の調製は、樹脂及び必要に応じて他の成分を溶媒に溶解させてなる溶液に、無機充填材及び必要に応じて他の成分を分散させることにより行うことが好ましい。無機充填材は、ボールミル、3本ロール、遠心攪拌機、ビーズミル等により粉砕しつつ、前記溶液に分散させてもよい。
液状組成物を支持体に塗布する方法としては、例えば、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、ダイスコーター法及びコンマコータ法が挙げられ、連続式であってもよいし、回分式(単板式)であってもよい。
塗膜の乾燥は、塗膜から溶媒を蒸発させることにより行うことが好ましい。支持体として金属箔及び金属板以外の支持体を用い、支持体上に形成された塗膜を乾燥し、得られた乾燥膜を支持体から金属箔又は金属板に熱圧着等により転写する場合は、溶媒の一部が乾燥膜中に残存するように行うことが好ましい。この場合、乾燥膜中の溶媒量は、好ましくは1〜25質量%である。乾燥温度は、通常50〜180℃、好ましくは80〜150℃である。
支持体上に形成された乾燥膜や金属箔又は金属板に転写された乾燥膜は、樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合は、熱処理することが好ましく、これにより、その分子量や結晶化度を調節することができ、接着性や熱伝導性に優れる絶縁層が得られる。熱処理は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、通常250〜350℃、好ましくは270〜320℃で行われる。
こうして金属箔と絶縁層との積層中間体を得た場合、前記(A)のとおり、この積層中間体を、その絶縁層面を貼合面として、金属板の粗面と熱圧着等により貼り合わせることにより、本発明の積層板が得られる。また、金属板の粗面を貼合面として、金属板と絶縁層との積層中間体を得た場合、前記(B)のとおり、この積層中間体を、その絶縁層面を貼合面として、金属箔と熱圧着等により貼り合わせることにより、本発明の積層板が得られる。また、支持体上に形成された絶縁層を支持体から剥がして絶縁フィルムを得た場合、前記(C)のとおり、この絶縁フィルムを、金属板の粗面を張合面として、金属板と金属箔とで挟んで、これらを熱圧着等により貼り合わせることにより、本発明の積層板が得られる。
こうして得られる積層板から、その金属箔をパターン化して、回路パターンを形成し、必要に応じて、切断加工、穴あけ加工の如き打抜き加工、曲げ加工等の加工を行うことにより、金属ベース回路基板が得られる。金属箔のパターン化は、例えば、金属箔上にマスクパターンを形成し、金属箔の露出部をエッチングで除去することにより行われる。
【実施例】
【0008】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm
2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000P)の粘度を示す温度を測定した。
〔液晶ポリエステル溶液の粘度の測定〕
B型粘度計(東機産業(株)の「TVL−20型」)を用いて、No.21のローターにより、回転数20rpmで測定した。
〔金属板の面の十点平均粗さの測定〕
表面粗さ測定装置(ケーエルエー・テンコール(株)、算出規格JIS B0601−1994)を用いて、JIS B0601:1994に準拠して、測定速度:5μm/秒、評価長さ:1.0mmの条件下で測定した。
〔金属板〕
金属板として、圧延法により得られた両面が鏡面(圧延方向の十点平均粗さ:1.2μm、圧延方向に垂直な方向の十点平均粗さ:2.4μm)である厚さ1.0mmのアルミニウム合金板の一方の面を、ブラスト処理により粗面化して得られた金属板であって、一方の面が表1に示す十点平均粗さを有する粗面であり、もう一方の面が鏡面のままである厚さ1.0mmの金属板(1)〜(4)を用いた。また、前記アルミニウム合金板を、そのまま金属板(5)として用いた。
【表1】
〔打抜き加工性〕
アルミニウム板用の総抜き型を用いて、積層板をプレス機(アイダエンジニアリング(株)の「80トンプレス」)により、ホルダ圧力20kN、ノックアウト力59kN、プレス速度60SPNの条件下で打抜き加工した後、その切削面の絶縁層の欠けの有無を光学顕微鏡により確認した。
〔曲げ加工性〕
10mm×30mmの寸法に切断した積層板の金属箔をエッチングにより除去し、得られた金属板と絶縁層との積層体を、絶縁層を外側として、曲げ部が直径15mmとなるように180°に曲げ加工した後、金属板からの絶縁層の剥れの有無を目視で観察した。
〔絶縁層の放熱性〕
30mm×40mmの寸法に切断した積層板の金属箔をエッチングにより部分的に除去して、14mm×10mmのランドを形成した。このランドに半田を用いてトランジスタ((株)東芝の「C2233」)を取り付け、得られたトランジスタ付き積層板を、水冷却装置に、金属板がシリコーングリース層を介して水冷却装置の冷却面と向き合うように、セットした。次いで、トランジスタに30Wの電力Pを供給して、トランジスタの温度T1と水冷却装置の冷却面の温度T2とを測定し、電力Pに対する温度T1と温度T2との差T1−T2の比の値(T1−T2)/Pを熱抵抗とした。
実施例1及び2並びに比較例1〜3
〔液晶ポリエステルの製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)及び無水酢酸2374g(23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで2時間50分かけて昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は、235℃であった。次いで、このプレポリマーを、窒素雰囲気下、室温から223℃まで6時間かけて昇温し、223℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、270℃であった。
〔液晶ポリエステル溶液の調製〕
液晶ポリエステル2200gを、N,N−ジメチルアセトアミド7800gに加え、100℃で2時間加熱して、液晶ポリエステル溶液を得た。この溶液の粘度は400cPであった。
〔液状組成物の調製〕
液晶ポリエステル溶液に、窒化ホウ素及び酸化アルミニウムを加え、遠心攪拌脱泡機で5分間攪拌して、液状組成物を得た。ここで、液晶ポリエステルと窒化ホウ素と酸化アルミニウムとの割合は、それぞれの比重(液晶ポリエステル1.37g/cm
3、酸化アルミニウム3.98g/cm
3、窒化ホウ素2.28g/cm
3)から、液晶ポリエステル50体積%、酸化アルミニウム25体積%、窒化ホウ素25体積%となるように、質量基準で調整した。
〔銅箔と絶縁層との積層中間体の製造〕
厚さ100μmのポリエステルフィルムに、液状組成物をその塗膜の厚さが約90μmになるように塗布した後、100℃で20分乾燥した。得られたポリエステルフィルムと乾燥膜との積層中間体を、厚さ35μmの銅箔と、乾燥膜が銅箔に接触するように、重ね合わせ、150℃に加熱した一対の熱ロール間に通過させて、乾燥膜と銅箔とを熱圧着した。次いで、ポリエステルフィルムを剥がし、得られた銅箔と乾燥膜との積層中間体を、290℃で3時間熱処理して、銅箔と絶縁層との積層中間体を得た。
〔積層板の製造〕
銅箔と絶縁層との積層中間体を、金属板と重ね合わせた。その際、金属板として金属板(1)〜(4)を用いた場合は、金属板の粗面が絶縁層に接触するようにし、金属板として金属板(5)を用いた場合は、金属板の一方の面が絶縁層に接触するようにした。次いで、20MPaの圧力を加えながら340℃で20分熱処理して、絶縁層と金属板とを熱圧着した。得られた積層板について、打抜き加工性及び曲げ加工性の評価、並びに絶縁層の熱抵抗の測定をし、表2に示した。
【表2】