(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、太陽光のエネルギーを有効利用した、太陽電池、太陽熱温水器、太陽光照明などが知られている。例えば、太陽光照明では、太陽光を集光する複数のレンズと、当該レンズで集光した太陽光を導く光ファイバと、太陽の位置を検出する光センサーと、当該光センサーの検出結果に基づき上記レンズを動かして太陽光の動きを追尾する太陽追尾機構とを備えたものが利用されている。このような太陽光照明においては、レンズで集光された光が光ファイバなどを通じて室内に導かれるため、太陽光が届きにくい屋内の照明として利用されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
しかしながら、例えば非特許文献1に開示されたような太陽光照明においては、太陽光の入射角による依存性が高いため、光の入射面を太陽の方向に向けて太陽の動きを追尾する太陽追尾機構が必要である。太陽追尾機構を備えた太陽光集光装置は、大型になるという問題がある。よって、このような太陽光集光装置は、建物の屋根や屋上に設置することはできるが、例えば建物の壁面などに設置することは非常に困難であり、設置場所に大きな制約があるという問題がある。
【0004】
そこで、太陽追尾機構を用いずに太陽光の集光効率を高める技術が種々検討されている。このような技術としては、例えば、日周運動する太陽からさまざまな入射角で入射する光を集光光学素子の内部で反射させ、光を所望の位置に導く方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、天空に向けて設置される透過型の太陽光拡散板と、この太陽光拡散板の下面に設置され、前記太陽光拡散板を透過した太陽光を、受光面と反対側の面に形成された複数の傾斜光学面で全反射して所望の方向に導くマルチ全反射面型集光プリズムと、このマルチ全反射面型集光プリズムを出射した太陽光を集光する結合用集光レンズと、この結合用集光レンズによって集光された太陽光を導く光ファイバとを備えることを特徴とする太陽光集光装置が開示されている。
【0006】
また、例えば、特許文献2には、一方の上面が平面であり、底面に間欠的に形成されたプリズム形状部を有する導光体を2枚配置し、当該導光体の上面及び底面の平坦面で光を全反射させることにより、光を端面側に導くデバイスが開示されている。
【0007】
また、例えば、特許文献3には、導光体と、当該導光体の一方側の面側に設けられた第1の層と、他方側の面側に設けられた第2の層とを備え、第1の層及び第2の層を導光体よりも光の屈折率が小さな材質で形成し、さらに第2の層の導光体側の面とは反対側の面に凹凸構造を形成した集光構造体が開示されている。特許文献3の集光構造体では、導光体内の平面部分の全反射によって光を端面側に導くことができるとされている。
【0008】
さらに、例えば、特許文献4には、外部からの光を集光する導光体ユニットと、当該導光体ユニットから出射された光を受光する太陽電池素子とを備える太陽電池モジュールにおいて、当該導光体ユニットが、光を導く方向側の端面に近づくにつれて徐々に厚くなっている第1の導光体と、第1の導光体よりも屈折率が低く、第1の導光体を透過した光を反射させる反射面を有する第2の導光体とを備えたものが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば特許文献1〜4のように、集光光学素子の上から入射した光を集光光学素子内で反射させて、光を所望の位置に導くことにより、太陽追尾機構を用いずに、刻々と移動する太陽からの光の集光効率を高めることが考えられる。しかしながら、例えば特許文献1〜3においては、端面における集光効率(以下、「端面集光率」と表記する)について検討されておらず、特許文献4においても、1つの入射角(35°)における光の端面到達率がシミュレーションにより検討されているに過ぎない。このように、現状においては、種々の入射角で入射する光を効率よく端面側に集光する方法についての検討は不十分な状況にある。また、導光体に加えて、プリズム構造を有する他の部材を設ける場合には、集光光学素子が大きくなるため、建物の壁面などに設置することが困難になる場合がある。このような状況下、種々の入射角で入射する光に対する高い端面集光効率と小型化とを両立できる新規な集光光学素子が求められている。
本発明は、高い端面集光効率と小型化とを両立できる新規な集光光学素子、及びこれを用いた太陽追尾機構が不要な集光装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、複数の導光体が主面側において積層された積層体を備える集光光学素子であって、当該導光体は、主面の少なくとも一方に連続する複数のプリズム構造を有し、導光体の主面側から入射された外部光が、プリズム構造により屈折または反射し、複数の導光体内を伝播して、前記導光体の少なくとも一方の端面から出射される集光光学素子は、種々の入射角で入射する光に対する高い端面集光効率と小型化とを両立できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0013】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 複数の導光体が主面側において積層された積層体を備える集光光学素子であって、
前記導光体は、前記主面の少なくとも一方に連続する複数のプリズム構造を有し、
前記導光体の主面側から入射された外部光が、前記プリズム構造により屈折または反射し、前記複数の導光体内を伝播して、前記導光体の少なくとも一方の端面から出射される、集光光学素子。
項2. 前記プリズム構造の積層方向における断面形状が三角形状であり、
前記プリズム構造の断面形状において、前記導光体から突出している頂角が、45°〜120°の範囲にある、項1に記載の集光光学素子。
項3. 前記プリズム構造の積層方向における断面形状が三角形状であり、
前記プリズム構造の断面形状が、積層方向に対して線対称である、項1または2に記載の集光光学素子。
項4. 前記プリズム構造の積層方向における断面形状が三角形状であり、
前記プリズム構造の断面形状が、積層方向に対して非線対称である、項1または2に記載の集光光学素子。
項5. 前記プリズム構造が、前記導光体の主面に形成された連続する複数のV字状の溝により形成されている、項1〜4のいずれかに記載の集光光学素子。
項6. 前記複数のプリズム構造のピッチが、0.01〜1mmの範囲にある、項1〜5のいずれかに記載の集光光学素子。
項7. 前記各導光体の厚みが、それぞれ、0.1〜10mmの範囲にある、項1〜6のいずれかに記載の集光光学素子。
項8. 前記導光体の積層数が2〜6の範囲にある、項1〜7のいずれかに記載の集光光学素子。
項9. 前記複数の導光体の屈折率が、実質的に同一である、項1〜8のいずれかに記載の集光光学素子。
項10. 前記プリズム構造が、前記導光体の少なくとも一方側の主面の略全面に形成されている、項1〜9のいずれかに記載の集光光学素子。
項11. 前記集光光学素子において外部光が入射する最表面側に位置する導光体が、前記最表面側の主面に前記プリズム構造を有し、
他の導光体は、前記最表面側の主面とは反対側の主面に前記プリズム構造を有する、項1〜10のいずれかに記載の集光光学素子。
項12. 前記導光体は、積層方向からみた場合の形状が、矩形状または扇形である、項1〜11のいずれかに記載の集光光学素子。
項13. 項1〜12のいずれかに記載の集光光学素子を備える、集光装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、種々の入射角で入射する光に対する高い端面集光効率と小型化とを両立することのできる集光光学素子を提供することができる。当該集光光学素子は、さまざまな入射角で入射する光を集光光学素子の内部で反射させて外部光を所望の位置に効率よく導くことができる。このため、当該集光光学素子を備えた集光装置は、太陽追尾機構を用いる必要が無く、例えば建物の壁面などへ設置して用いてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の集光光学素子は、複数の導光体が主面側において積層された積層体を備える集光光学素子であって、導光体は、前記主面の少なくとも一方に連続する複数のプリズム構造を有し、導光体の主面側から入射された外部光が、プリズム構造により屈折または反射し、複数の導光体内を伝播して、導光体の少なくとも一方の端面から出射されることを特徴とする。以下、本発明の集光光学素子及びこれを備えた集光装置について詳述する。
【0017】
例えば
図1及び
図2に示されるように、本発明の集光光学素子1は、複数の導光体2が主面2a,2b側において積層された積層体を備えている。各導光体2は、上記の主面2a、2bと、光が出射される少なくとも一方の端面2c,2dと、幅方向x(後述する複数のプリズム構造2gが連続して形成されている方向であり、光が出射される端面方向)に伸びる側面2e,2fとを有する透明基材である。
図1及び
図2において、各導光体2は、積層方向yから見た際の形状が矩形状であるが、本発明においては、例えば扇形などであってもよい。各導光体2の形状が扇形である場合、面積の小さい方の端面に光を集中させることができ、小さな端面から強い光を出射させることができる。
【0018】
各導光体の厚み(積層方向yにおける長さ)としては、特に制限されないが、集光光学素子の高い端面集光効率と小型化とを両立する観点からは、好ましくは0.1〜10mm程度、より好ましくは0.2〜3mm程度の範囲が挙げられる。
【0019】
各導光体の幅方向xの長さとしては、特に制限されないが、集光光学素子の高い端面集光効率と小型化とを両立する観点からは、好ましくは50〜500mm程度、より好ましくは50〜150mm程度の範囲が挙げられる。当該幅方向xにおける導光体の長さが長くなるほど、例えば
図1に示す主面2aから入射された外部光が端面2c,2dに至るまでの距離が長くなるため、集光効率が低下しやすくなる。なお、本発明において、集光効率とは、端面集光効率(ECE)をいい、端面出射光パワー÷入射光パワー×100で算出される値(%)をいう。ここで光パワーとは、入射面または出射面の全域にわたって光強度(光パワー密度)を積分した値に相当する。
【0020】
各導光体の奥行方向zの長さとしては、特に制限されない。ただし、奥行方向の長さが長くなると、光が出射される端面の面積が大きくなるため、
図6に示すような端面からの出射光を導くための光ファイバ5などの本数が増え、集光光学素子が大きくなるという問題がある。例えば、光ファイバの本数としては、通常、10〜200本程度とすることが想定されるため、各導光体の奥行方向zの長さとしては、好ましくは10〜200mm程度の範囲が挙げられる。
【0021】
例えば幅方向100mm、奥行方向100mmの集光光学素子を80枚組み合わせると、その受光面積は0.8m
2となる。この受光面積において、晴天正午の屋外光の平均的な照度98000ルクスを受光すると、集光光学素子への全入射光束は照度×受光面積で計算されるので、78400ルーメンとなる。例えば端面集光効率が5%の集光光学素子では、全入射光束の5%が端面からの出射光束となるため、端面から出射される光の照度は3920ルーメンとなる。この出射光束で10m
2の室内(6畳程度)を照明すると、照度は光束÷照射面積と計算されるので392ルクスとなり、一般的な室内の照度300ルクスと同程度の照明が可能になる。
【0022】
例えば
図3に示されるように、各導光体2は、それぞれ、主面2a,2bの少なくとも一方に、連続する複数のプリズム構造2gを有している。本発明において、連続する複数のプリズム構造2gとは、光を屈折または反射させるプリズム構造が、幅方向xに伸びる平坦面を介することなく、隣接して少なくとも2つ以上、好ましくは3つ以上、より好ましくは4つ以上形成されている構造をいう。
【0023】
連続する複数のプリズム構造は、各導光体の一方側の主面にのみ形成されていてもよいし、両主面に形成されていてもよい。連続する複数のプリズム構造が導光体の一方側の主面にのみ形成されている場合、他方側の主面は、平坦面(鏡面)であることが好ましい。また、本発明の集光光学素子の積層構造としては、(1)一方側の主面にのみにプリズム構造が形成された導光体のみが積層された積層構造、(2)両主面にプリズム構造が形成された導光体のみが積層された積層構造、または(3)一方側の主面のみにプリズム構造が形成された導光体と両主面にプリズム構造が形成された導光体の両方が積層された積層構造が挙げられる。これらの積層構造の中でも、上記(1)または(3)の積層構造が好ましく、使用部材の単純化及び低コスト化の観点からは、上記(1)の積層構造がより好ましい。
【0024】
さらに、本発明の集光光学素子において、上記(1)の積層構造の中でも、外部光の入射面側の主面にプリズム構造が形成されており、裏面側の主面が平坦面である導光体を「F」と表記し、外部光の入射面側の主面が平坦面であり、裏面側の主面にプリズム構造が形成されている導光体を「B」と表記すると、集光光学素子の高い端面集光効率と小型化とを両立する観点から特に好ましい積層構造は、以下の通りである。
【0025】
本発明の集光光学素子が2層の導光体を有する場合、集光光学素子の裏面側から順に、BFの積層構造、FBの積層構造が好ましい。また、3層の導光体を有する場合、集光光学素子の裏面側から順に、BBFの積層構造、FFBの積層構造が好ましい。4層の導光体を有する場合、集光光学素子の裏面側から順に、BBBFの積層構造、FFFBの積層構造が好ましい。5層の導光体を有する場合、集光光学素子の裏面側から順に、BBBBFの積層構造、FFFFBの積層構造が好ましい。6層の導光体を有する場合、集光光学素子の裏面側から順に、BBBBBFの積層構造、FFFFFBの積層構造が好ましい。
【0026】
例えば上記「BBBF」の積層構造とは、
図2に示されるように、複数の導光体2のうち外部光が入射する最表面側に位置する導光体21の入射光側の主面2aにプリズム構造2gが形成されており(F)、他の導光体22〜24の裏面側の主面2bにプリズム構造2gが形成されている(BBB)積層構造である。すなわち、集光光学素子において外部光が入射する最表面側に位置する導光体が最表面側の主面に前記プリズム構造を有し、他の導光体が最表面側の主面とは反対側(裏面側)の主面にプリズム構造を有することにより、後述の通り、垂直方向付近(積層方向y、入射角0°)から入射する外部光がプリズム構造のコーナーキューブにより反射されやすくなる。このため、集光光学素子に垂直入射した光が端面に導かれずに裏面側から抜けていくことを抑制することができ、より高い端面集光効率と小型化とを発揮することができる。
【0027】
導光体に形成された1つのプリズム構造は、導光体2に入射した光が屈折または反射される形状であれば、特に制限されないが、集光光学素子の高い端面集光効率と小型化とを両立する観点からは、三角プリズム構造であることが好ましい。すなわち、例えば
図3に示されるように、導光体2の積層方向y及び幅方向x(xy平面)におけるプリズム構造2gの断面形状が三角形状であることが好ましい。このようなプリズム構造は、例えば
図2に示されるように、導光体2の主面2a又は2bに、連続する複数のV字状の溝を形成することにより設けることができる。なお、連続する複数のV字状の溝は、平坦面を有する導光体の透明基材を切削加工する方法、対応する形状を有する金型に樹脂を流し込んで成形する方法などにより形成することができる。
図2において、V字状の溝は、奥行方向zに伸びるようにして、端面2c,2dと略平行(平行)に形成されている。なお、導光体を積層方向yから見たときの形状が扇形である場合には、プリズム構造を形成するV字状の溝は、面積の小さい方の端面側を中心とした同心円状に形成されていることが好ましい。
【0028】
プリズム構造2gの積層方向y及び幅方向x(xy平面)における断面形状が三角形状である場合、プリズム構造2gの断面形状は、例えば
図4に示されるように積層方向yに対して線対称であってもよいし、例えば
図5に示されるように非線対称であってもよい。また、プリズム構造2gの断面形状が
図4に示すように線対称である場合、プリズム構造2gの断面形状において、導光体2から突出している頂角aの角度としては、特に限定されないが、高い端面集光効率と小型化とを両立する観点からは、好ましくは45°〜120°程度、より好ましくは85°〜95°程度の範囲にあることが好ましい。プリズム構造2gの断面形状が
図5に示されるように非線対称である場合、導光体2から突出している頂角と積層方向yの直線とで形成される角b,cのうち、小さい方の角bの角度としては、特に限定されないが、高い端面集光効率と小型化とを両立する観点からは、好ましくは0°〜角cの1/2°程度、より好ましくは0°〜2°程度の範囲が挙げられる。また、大きい方の角cの角度としては、特に限定されないが、高い端面集光効率と小型化とを両立する観点からは、好ましくは50°〜65°程度、より好ましくは58°〜62°程度の範囲が挙げられる。
【0029】
集光光学素子の高い端面集光効率と小型化とを両立する観点からは、導光体2の主面の少なくとも一方におけるプリズム構造は、少なくとも一方の主面の略全面(全面)に設けられていることが好ましい。複数のプリズム構造は、それぞれ同一の形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。また、プリズム構造の大きさも、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
複数のプリズム構造のピッチp(間隔)としては、特に制限されないが、高い端面集光効率と小型化とを両立する観点からは、好ましくは0.01〜1mm程度、より好ましくは0.05〜0.15mm程度の範囲が挙げられる。
【0031】
導光体を構成する材料としては、透明性の高いものであれば特に制限されず、好ましくはアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの透明な有機材料、またはガラスなどの透明な無機材料が挙げられる。本発明の集光光学素子においては、同一の材料により構成された導光体のみを用いてもよいし、異なる材料により構成された導光体を組み合わせて用いてもよい。なお、本発明において、透明とは、少なくとも可視光を透過することを意味する。導光体としては、例えば、360nm〜800nm程度の波長の光を90%以上の透過率を有するものが好ましい。
【0032】
導光体の屈折率としては、特に制限されないが、好ましくは1.3〜1.6程度、より好ましくは1.4〜1.5程度が挙げられる。本発明の集光光学素子においては、実質的に同一の屈折率を有する導光体を用いてもよいし、異なる屈折率を有する導光体を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明の集光光学素子においては、導光体同士が互いに接触するようにして積層されていてもよいし、少なくとも一部の導光体同士が離間するように積層されていてもよい。各導光体の間には、空気が存在していてもよい。なお、導光体同士が互いに光学的に接続されていてもよいが、その場合、光学的に接続された導光体が併せて1つの導光体を構成する。
【0034】
本発明の集光光学素子においては、一方側の端面から光を出射させてもよいし、両側の端面から光を出射させてもよい。一方側の端面から光を出射させる場合、出射光が出射される端面とは反対側の端面に光反射板を配置し、当該反対側の端面に到達した光を出射側の端面に反射させることが好ましい。また、一方側の端面から光を出射させる場合において、
図5のように、プリズム構造2gの断面形状が積層方向yに対して非線対称である場合、集光光学素子1の高い端面集光効率と小型化とを両立する観点からは、上記小さい方の角b側の端面から光を出射させることが好ましい。
【0035】
集光光学素子に入射される外部光としては、特に制限されず、集光させる光に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは太陽光が挙げられる。
【0036】
例えば、周囲よりも屈折率が高く、外部光が入射する主面が平行かつ平坦面である透明基材の内部において、臨界角以上で伝搬する光は、全反射により効率良く端面に導光される。しかしながら、透明基材の外部から入射する光は、当該透明基材の内部においては常に臨界角以下となるため、透明基材の内部において全反射を繰り返して光を端面まで導くことはできない。そこで、透明基材の主面から入射した光を透明基材の内部を伝播させて効率よく端面に導くためには、外部光の透明基材への入射時または入射後に光線の向きを変える必要がある。光線の向きを変える簡単なアプローチとしては、何らかの光散乱体を透明基材表面または内部に配置する方法が挙げられる。光散乱体を設けることにより、入射光の一部は透明基材内で臨界角以下となり端面に導光されやすくなる。しかしながら、光散乱体自体が全反射の妨げとなり、また透明基材内を端面に導光する際の損失となるため、光散乱体を用いて高い端面集光効率を有する集光光学素子とすることは困難である。
【0037】
これに対して、本発明の集光光学素子1においは、例えば
図1及び
図3に示されるように、集光光学素子1の最表面側に位置する導光体2の入射光側の主面2aから、外部光が種々の入射角で入射して様々な光路Aで進行する。入射した光は、導光体2に形成されたプリズム構造2gや、当該プリズム構造2gが形成された主面とは反対側の主面の平坦面による反射及び屈折を繰り返して、端面2c,2d方向へ導かれ、当該端面2c,2dから光が出射される。本発明においては、導光体に形成された連続するプリズム構造により入射光の一部は屈折し、臨界角以上で導光体の平坦面に到達した光は、全反射により100%の効率で反射される。その後、光は再びプリズム構造を持つ表面へと到達し、透過または反射を生じるが、一定割合の光は再び平坦面に対して臨界角以上の角度で平坦面に向かって進む。導光体内においてこのような屈折、反射、透過を繰り返すことにより、光は導光体の端面に到達する。臨界角未満の角度となった光も、全反射に比べて反射率は落ちるものの、反射され、再びプリズム構造によって進行方向を様々に変えられ、その一部は反射や全反射を繰り返して、端面に到達する。本発明の集光光学素子においては、このような特定構造の導光体が複数積層されているため、外部光が導光体内で反射、屈折、透過を繰り返して、集光効率よく端面から出射されるものと考えられる。
【0038】
また、一般には透明基板に入射した入射光の多くは全ての導光体を透過して、集光光学素子の裏面側から外部に出ていくため、集光ロスに繋がる。このような集光ロスを抑制し、集光効率をより向上させる観点からは、本発明の集光光学素子においては、導光体の裏面側にプリズム構造が形成されたものとすることがより好ましい。その場合、外部からの光の入射が垂直入射(積層方向、入射角0°)またはそれに近い場合などは、入射光の一部は
図3の左端に示される光路Aのようにコーナーキューブとして知られる反射構造と同様に入射側に戻る。残りの光は
図3の中央の光路Aのように次の導光体に入射するか、
図3の右端の光路Aのように導光体内を進んでいく。次の導光体に入射した光は同じ作用を繰り返す。この様に端面へと進んでいく光の量は導光体の積層数を増やすと最初は増加するが、さらに導光体の積層数を増加することによって、集光光学素子の裏面から外部に出ていく光量は減少するため、導光体の積層数の増加に伴う集光効率の向上効果は次第に限定的となる。全ての導光体を裏面側がプリズム構造となるように配置した場合には、外部からの光の入射が垂直入射(積層方向、入射角0°)またはそれに近い場合などは、入射側への戻り光が増加し、その入射角での端面集光効率が低下する。
【0039】
このような場合の端面集光効率の低下を抑制するためには、最表面側に位置する導光体のプリズム構造が形成されている主面の向きと、他の導光体のプリズム構造が形成されている主面の向きとを、逆向きにすることが好ましく、入射光側にプリズム構造が形成された導光体を最表面側に積層し、その他の導光体は裏面側にプリズム構造が形成されたものとすることがより好ましい。例えば、
図2に示されるように、最表面側に位置する導光体21(1層目の導光体21)の入射光側の主面2aにプリズム構造が形成されており裏面側の主面2bが平坦面であり、その直下に位置する導光体22(2層目の導光体22)の入射光側の主面が平坦面であり裏面側の主面にプリズム構造が形成されている集光光学素子1においては、1層目の導光体21に垂直入射して透過した光は、1層目の導光体21のプリズム構造2gによって進行方向を曲げられ、2層目の導光体22に入射する際には垂直入射ではなくなる。このことにより2層目の導光体22入射した光は、導光体22の端面に導光される。さらに、3層目、4層目の導光体23,24を2層目の導光体22と同様に配置することにより、3層目、4層目の導光体23,24についても2層目の導光体22と同様の効果を発揮し、また、最裏面により近い側の導光体から戻ってきた光の一定量も端面へと導かれることになり、結果として端面に導光される光束の総量は増加し、再表面からの入射光方向への戻り光を抑えることができる。
【0040】
本発明の光学素子においては、導光体2の積層数が多くなるほど、集光効率が高められるが、例えば積層数が6を超えても、集光効率の向上効果は小さくなる一方、厚みが大きくなるというデメリットが大きくなる。導光体の積層数は、2以上であれば特に制限されないが、集光光学素子の高い端面集光効率と小型化とを両立する観点からは、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜5、さらに好ましくは3〜5、特に好ましくは4〜5が挙げられる。
【0041】
なお、本発明の集光光学素子は、上記のプリズム構造が形成された導光体に加えて、プリズム構造が形成されていない導光体が積層されていてもよいが、集光光学素子の高い端面集光効率と小型化とを両立する観点からは、導光体としてはプリズム構造が形成されたもののみが積層されていることが好ましい。
【0042】
なお、集光光学素子の一方側の端面から光を出射させたい場合には、他方側の端面に光反射板を設ければよい。さらに、集光光学素子の集光効率をより高めるためには、裏面側と、側面側にも光反射板を設けることが好ましい。
【0043】
本発明の集光装置は、上記の集光光学素子を備えることを特徴とする。具体的には、例えば
図6に示されるように、集光装置10は、集光光学素子1と、集光光学素子1の端面から出射された光を集光するレンズまたはこれと同等の機能を備えた集光構造4と、当該レンズ等を透過した光を導く光ファイバ5とを備えている。集光光学素子1には、外部光が入射する側の主面と、光が出射する端面以外の面には、光反射板3が配置されている。
【0044】
本発明の集光装置を例えば太陽光照明などに用いる場合には、光ファイバ5によって、室内などに太陽光を導くことができる。また、本発明の集光装置を例えば太陽電池などに用いる場合には、光ファイバ5の代わりに光電変換素子を配置することができる。また、本発明の集光装置を例えば太陽熱温水器などに用いる場合には、光ファイバ5によって、太陽光を貯水槽に導き、貯水槽内の水を加熱することができる。
【0045】
本発明の集光装置によれば、高い端面集光効率と小型化とを両立した上記の集光光学素子を備えているため、さまざまな入射角で入射する光を集光光学素子の内部で反射させて光を所望の位置に効率よく導くことができる。このため、当太陽追尾機構を用いる必要が無く、設置場所の制限が小さくなり、例えば建物の壁面などへ設置するパネル型の集光装置として、太陽光エネルギーを有効利用できる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0047】
[シミュレーション1]
まず、上記のようにして複数の導光体を積層した集光光学素子について、様々な入射角で主面側から入射する光を端面に導く場合の集光効率をシミュレーションした。シミュレーションは、光線追跡法によるコンピュータ−シミュレーションとした(使用ソフト:米国Synopsys社製LightTool)。シミュレーションの条件は、次の通りである。導光体としては、
図4に示されるように、一方側の主面の全面において、プリズム構造の断面形状が積層方向に対して線対称となるようにV字状の溝が設けられた透明基材とした。集光光学素子は、
図2に示されるように、光の入射方向から順に、1層目の導光体は、入射面に対してプリズム構造を向けた配置(Fと表記)とし、2〜5層目の導光体は同じプリズム構造を入射面とは反対側(裏面側)に向けた配置(Bと表記)し、最裏面には光反射板を備えた5層構造の積層体(裏面側からBBBBFの積層構造)とした。このような集光光学素子に対して、入射角を変化させて外部光を入射させた場合について、積層体の一方側の端面から出射される光の効率(端面集光効率)をシミュレーションした。なお、積層体の積層方向が入射角0°である。各層のプリズム構造体は、頂角a=90°、ピッチp=0.1mmとし、各導光体の厚みL=2.0mm、導光体の屈折率1.49(アクリル樹脂)、入射光の波長λ=632nm、入射光の発散角1°とした(
図7〜12において、「Aim1°」と表記する)。また、外部光の光線が端面から、それぞれ、5mm、10mm、20mmの位置に入射する場合について、シミュレーションを行った。結果を
図7のグラフに示す。
図7に示されるグラフから明らかなように、入射角−40°〜+40°に亘って、低い角度依存性で数%を越える高い端面集光効率が得られる結果となった。
【0048】
[シミュレーション2]
最裏面側の導光体を1層取り除き、4層構造の積層体(裏面側からBBBFの積層構造、屈折率1.52(BK7))としたこと以外は、シミュレーション1と同様にしてシミュレーションした。結果を
図8のグラフに示す。
図8に示されるグラフから明らかなように、4層構造とした場合にも、入射角−40°〜+40°に亘って、低い角度依存性で数%を越える高い端面集光効率が得られ、入射角依存性は、5層構造とほとんど変わらなかった。
【0049】
[シミュレーション3]
1層目の導光体と2層目の導光体の向かい合う平面を光学的に接触させたことと導光体の屈折率を1.49(アクリル樹脂)としたこと以外は、シミュレーション2と同様にしてシミュレーションした。結果を
図9のグラフに示す。シミュレーション3では、1層目と2層目を合わせて、両主面にプリズム構造を形成した2倍の厚みの導光体を1層用いた場合に相当する。シミュレーション3では、入射角−45°付近の端面集光効率が改善した。他の入射角における端面集光効率は、シミュレーション1,2と大きくは変わらなかった。
【0050】
[シミュレーション4]
導光体として、
図5に示されるように、プリズム構造の断面形状が積層方向に対して非線対称となるようにV字状の溝が設けられた透明基材としたこと以外は、シミュレーション1と同様にシミュレーションした。
図5の頂角において、b=0°、c=60°とし、ピッチp=0.3mmとした。また、光が出射される端面は、
図5の頂角のb側として計算した。結果を
図10のグラフに示す。シミュレーション4では、入射角−40°〜+40°の広い範囲において、高い端面集光効率が得られる結果となった。
【0051】
[実施例1]
幅1cm、頂角90°のV字状の溝(プリズム構造)が一方側の主面の全面に設けられた板状のアクリル樹脂(屈折率1.49、寸法は幅4cm×奥行1cm×厚み2mm)を導光体とし、当該導光体を入射光側にプリズム構造を向けた配置(Fと表記)で5段重ねにした積層体(裏面側からFFFFFの積層構造)を作製し、集光光学素子とした。なお、集光光学素子において、積層体の裏面(入射側とは反対側の面)には、光拡散反射版を設けた。次に、632nmのリボン状(幅1mm、高さ1cm、高さは積層体の奥行方向に平行)の光ビームを入射した。光ビームの入射位置は、それぞれ、出射する端面からの距離d’=5mm、10mm、20mmとした。それぞれの場合について、端面からの出射光パワーを端面に配置した検出器で測定して、端面集光効率を算出した。ただし、d’=5mmの+20°を超える角度では、検出器自体が入射光を遮るため、測定を除外した。結果を
図11のグラフに示す。
図11のグラフに示される通り、d’=5mm、10mm、20mmのいずれの場合においても、入射角−40°〜+40°の広い範囲において、高い端面集光効率が得られた。なお、光の入射角は、集光光学素子の入射面と入射光とのなす角が90°未満となる側をマイナスに取り、垂直入射を0°とした。
【0052】
[実施例2]
図2に示されるように、光の入射方向から順に、1層目の導光体は入射面に対してプリズム構造を向けた配置(F)とし、2〜5層目の導光体は同じプリズム構造を入射面と反対側に向けた配置(B)し、最裏面には光反射板を備えた5層構造の積層体(裏面側からBBBBFの積層構造)を集光光学素子としたこと以外は、実施例1と同様にして、端面からの出射光パワーを端面に配置した検出器で測定し、端面集光効率を算出した。結果を
図12のグラフに示す。
図12のグラフに示される通り、d’=5mm、10mm、20mmのいずれの場合においても、入射角−40°〜+40°の広い範囲において、高い端面集光効率が得られた。
【0053】
[実施例3]
導光体を入射光側とは反対側にプリズム構造を向けた配置(B)とし、最裏面には光反射板を備えた5層構造の積層体(裏面側からBBBBBの積層構造)を集光光学素子としたこと以外は、実施例1と同様にして、端面からの出射光パワーを端面に配置した検出器で測定し、端面集光効率を算出した。結果を
図12のグラフに示す。
図13のグラフに示される通り、d’=5mm、10mm、20mmのいずれの場合においても、入射角−40°〜+40°の広い範囲において、高い端面集光効率が得られた。但し、全てがBの積層構造であるため、入射角0°付近の端面集光効率は低下した。
【0054】
[実施例4]
実施例2の集光光学素子において、導光体の寸法を幅9.8cm×奥行9.5cm×厚み8mmとし、裏面に位置する導光体を1つ取り除き、4層構造の積層体(裏面側からBBBFの積層構造)を集光光学素子とし、この集光光学素子のF側の表面に擬似太陽光(AM1.5)を
図6に示されるようなxy平面内で−60〜+60°の範囲において入射角度を変化させて入射させたこと以外は、実施例1と同様にして、端面からの出射光パワーを端面に配置した検出器で測定し、端面集光効率を算出した。その結果、
図14に示されるように、入射角−40〜+20°の範囲で端面集光効率が平均4.4%であり、入射角−10°において最大5.3%という高い端面集光効率を示した。
【0055】
[比較例1]
プリズム構造が形成されていない板状のアクリル樹脂(屈折率1.49、寸法は幅9.5cm×奥行9.5cm×厚み2mm)を導光体として用いたこと以外は、実施例4と同様にして、端面からの出射光パワーを端面に配置した検出器で測定し、端面集光効率を算出した。その結果、
図15に示されるように、入射角−40〜+20°の範囲で端面集光効率が平均0.9%であった。
【0056】
[実施例5]
図5に示されるように、プリズム構造の断面形状が積層方向に対して非線対称となるようにV字状の溝が設けられ、
図5の頂角において、b=0°、c=60°かつピッチp=0.3mmである5層構造の積層体(裏面側からBBBBBの積層構造)を集光光学素子とし、その積層体の寸法を幅9.4cm×奥行9.4cm×厚み10mmとし、また、光が出射される端面は、
図5の頂角のb側としたこと以外は、実施例4と同様にして、端面からの出射光パワーを端面に配置した検出器で測定し、端面集光効率を算出した。その結果、
図16に示されるように入射角−40〜+20°の範囲で端面集光効率が平均11.6%であり、入射角−11°において最大13.8%という高い端面集光効率を示した。
【0057】
[シミュレーション5]
1層目の導光体と2層目の導光体の向かい合う平面間に空気層を導入し光学的に分離させたこと、及び導光体の寸法を幅10cm×奥行10cm、積層体の厚みを8mmとし(各層2mm厚)、その全面に色温度5770Kの白色光を光入射させたこと以外は、シミュレーション3と同様にしてシミュレーションした。結果を
図17のグラフに示す。これは実施例4に対応した条件のシミュレーションとなり、入射角−40〜+20°の範囲において端面集光効率が平均7.5%と高い効率を示した。
【0058】
[シミュレーション6]
図5に示されるように、プリズム構造の断面形状が積層方向に対して非線対称となるようにV字状の溝が設けられ、
図5の頂角において、b=0°、c=60°かつピッチp=0.3mmである5層構造の積層体(裏面側からBBBBBの積層構造)を集光光学素子とし、その積層体の厚みを10mmとし(各層2mm厚)、また、光が出射される端面は、
図5の頂角のb側としたこと以外は、シミュレーション5と同様にしてシミュレーションした。結果を
図18のグラフに示す。これは実施例5に対応した条件のシミュレーションとなり、入射角−40〜+20°の範囲において端面集光効率が平均で11.1%という、実施例5に近い結果を得た。
【0059】
1 集光光学素子
2 導光体
2a,2b 主面
2c,2d 端面
2e,2f 側面
2g プリズム構造
21 1層目の導光体
22 2層目の導光体
23 3層目の導光体
24 4層目の導光体
3 光反射板
4 集光構造
5 光ファイバ
A 光路