特許第6386029号(P6386029)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386029
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】ウミホタルルシフェラーゼ生産法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/02 20060101AFI20180827BHJP
   C12N 9/06 20060101ALI20180827BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20180827BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20180827BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180827BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20180827BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20180827BHJP
   C12N 15/82 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C12N9/02ZNA
   C12N9/06 Z
   A01H1/00 A
   A01H5/00 A
   C12N5/10
   C12N15/53
   A01H6/82
   C12N15/82 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-511605(P2016-511605)
(86)(22)【出願日】2015年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2015059510
(87)【国際公開番号】WO2015152018
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2016年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-76936(P2014-76936)
(32)【優先日】2014年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近江谷 克裕
(72)【発明者】
【氏名】光田 展隆
(72)【発明者】
【氏名】三谷 恭雄
(72)【発明者】
【氏名】大島 良美
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−258287(JP,A)
【文献】 Nat.Biotechnol.,2004,22(11),p.1415-22,第1415頁等
【文献】 Anal.Chem.,2007,79(4),p.1634-8,第1635頁等
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/02
C12N 5/10
C12N 15/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を植物細胞のゲノムに導入する工程を含む、ウミホタルルシフェラーゼの製造法であって、
前記遺伝子導入工程がアグロバクテリウムを用いて行われ、
前記植物がタバコである、
方法
【請求項2】
前記遺伝子導入工程で得られた植物細胞を培養する工程、及び
上記植物細胞が分泌したウミホタルルシフェラーゼを回収する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養工程で得られた植物細胞のうち、ウミホタルルシフェラーゼ活性を有する株を選抜する工程をさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記回収工程で得られたウミホタルルシフェラーゼを精製する工程
を含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
アグロバクテリウムを用いてウミホタルルシフェラーゼ遺伝子ゲノムに導入されタバコ細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2014年4月3日に出願された、日本国特許出願第2014−076936号明細書(その開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、ウミホタルルシフェラーゼ及びウミホタルルシフェラーゼ融合タンパクの生産法、精製法などに関する。
【背景技術】
【0003】
ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応といった生物発光の発光量子収率は化学発光反応に比べて断然高く、酵素免疫測定などの微量分析に適していると考えられている。特に、酵素免疫測定の高感度検出系としてウミホタル発光系が注目されている。ウミホタルの発光系の量子収率は高く、且つ酵素の回転数はホタルルシフェラーゼなどに比べて、10倍以上であることから、酵素免疫測定への応用研究が行われてきた(特許文献1〜4)。また、酵素免疫測定に適した安価且つ有効なウミホタルルシフェラーゼ修飾法も開発されている(特許文献5)。しかしながら、ウミホタルルシフェラーゼの製造法において、非特許文献1の酵母を使用する系では酵母は多量のウミホタルルシフェラーゼを分泌するが、同時に多くのタンパクを分泌、さらには培地に含まれるタンパクも存在することから、その精製は容易ではなく、3段階の精製工程を経て精製される。また、非特許文献2において、昆虫細胞カイコを利用した製造法も開示されているが、アフィニティクロマトでも95%程度の精製純度であり、高感度の測定には向かない。また、これらの昆虫細胞、酵母に代えて、大腸菌を利用してウミホタルルシフェラーゼを生産すると、ルシフェラーゼ活性がほとんどないものとなってしまう。このように酵素免疫測定の高感度検出系としてウミホタル発光系は注目され、ビオチン化などの工程は高効率化されたが、一方、精製を含めた高効率且つ高純度のウミホタルルシフェラーゼの製造法は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-64583
【特許文献2】特開平5-113443
【特許文献3】特開平7-98316
【特許文献4】特開平8-262021
【特許文献5】特許第4911408号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wu C, et al., Analytical Chemistry 79:1634-1638, 2007
【非特許文献2】Wu C, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 106(37):15599-603, 2009
【非特許文献3】Plant Biotechnology, 2011 28, 201-210
【非特許文献4】Plant Biotechnology Journal, 2006 4, 325-332
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決すべき課題はウミホタルルシフェラーゼ高効率且つ高純度で製造する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような状況の下、本発明者らは、鋭意研究した結果、種々の細胞のうち、従来ウミホタルルシフェラーゼの製造に使用されてきた昆虫細胞、酵母等ではなく植物細胞を用いることによって、高効率かつ高純度でウミホタルルシフェラーゼを生産できることを見出した。本発明はかかる新規の知見に基づくものである。
【0008】
植物細胞は、細胞樹立に時間がかかること、細胞の凍結保存ができないことから、従来、物質生産にはあまり用いられていなかった。また、植物細胞は細胞壁を有するため、植物細胞に目的物質の遺伝子を導入して生産を試みても、目的物質を細胞外に分泌させることは難しいという課題もあった。しかし、本発明者らは、宿主細胞として多種多様な細胞を検討した結果、ウミホタルルシフェラーゼ生産のために植物細胞を用いたところ、意外にも、細胞内で作製されたウミホタルルシフェラーゼが細胞外に分泌され、そのため、得られたタンパク質の精製が非常に容易になることを見出した。
【0009】
さらに、前述したように、宿主細胞の種類により得られるウミホタルルシフェラーゼの活性は異なり、またその活性の高低について予測することは非常に困難である。かかる状況の下、本発明者らは、種々の細胞について検討した結果、植物細胞を用いて得られたウミホタルルシフェラーゼは精製が容易なだけでなく意外にも活性も非常に高くかつ天然物により近いものであることを見出した。
【0010】
従って、本発明は、以下の発明を提供することを目的とする:
項1.ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を植物細胞のゲノムに導入する工程を含む、ウミホタルルシフェラーゼの製造法。
【0011】
項2.前記遺伝子導入工程がアグロバクテリウムを用いて行われる、項1に記載の方法。
【0012】
項3.前記遺伝子導入工程で得られた植物細胞を培養する工程、及び
上記植物細胞が分泌したウミホタルルシフェラーゼを回収する工程
をさらに含む、項1又は2に記載の方法。
【0013】
項4.前記培養工程で得られた植物細胞のうち、ウミホタルルシフェラーゼ活性を有する株を選抜する工程をさらに含む、項3に記載の方法。
【0014】
項5.前記回収工程で得られたウミホタルルシフェラーゼを精製する工程
を含む、項3又は4に記載の方法。
【0015】
項6.前記植物がタバコである項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【0016】
項7.ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子をゲノムに導入した植物細胞。
【0017】
項8.前記植物がタバコである項7に記載の植物細胞。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、免疫測定法に活用できる高純度のウミホタルルシフェラーゼを効率良く、簡便に製造することが可能である。また、本発明の方法により得られたウミホタルルシフェラーゼとアビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンなどとの複合体も作成でき、免疫測定法(特に直接法、間接法、サンドイッチELISA法、ELISPOT法などの酵素免疫測定法)、DNAプローブ法、あるいは受容体、リガンド、糖鎖などの各種アッセイ、特に蛋白質、DNAを定量するためのアッセイに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】AAB86460のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。
図2】AAA30332のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
図3】BAD08210のアミノ酸配列(配列番号3)を示す。
図4】ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子の塩基配列(配列番号4)を示す。
図5】ホタルルシフェラーゼ遺伝子の塩基配列(配列番号7)を示す。
図6】酵母発現用ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子の塩基配列(配列番号8)を示す。
図7】ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子の塩基配列(配列番号9)を示す。
図8】本願参考例の概要及びシロイヌナズナの葉で発現させたホタルルシフェラーゼ、ウミホタルルシフェラーゼの活性測定の結果を示す。
図9】タバコ培養細胞及びカイコ細胞を用いて生産したウミホタルルシフェラーゼの活性測定の結果を示す。
図10】本願実施例における培養工程で得られた細胞塊のウミホタルルシフェラーゼ活性分布を示す。
図11】タバコ培養細胞を用いて生産したタグなし又はタグ付加したウミホタルルシフェラーゼの活性測定の結果を示す。
図12】実施例3で測定した天然ウミホタル由来ルシフェラーゼの基質濃度と発光強度との関係を示すグラフ及び近似曲線を示す。
図13】実施例3で測定した培養細胞生産ウミホタルルシフェラーゼの基質濃度と発光強度との関係を示すグラフ及び近似曲線を示す。
図14】実施例3で測定した培養細胞生産Aviタグ融合ルシフェラーゼの基質濃度と発光強度との関係を示すグラフ及び近似曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において、「タンパク質(タンパク)」及び「ペプチド」は、オリゴペプチド及びポリペプチドを含む意味で用いられる。また、本明細書において、「タンパク質」及び「ペプチド」は、特に言及しない限り、糖鎖などによって修飾されているタンパク質及び非修飾のタンパク質の両方を包含するものとする。このことは、タンパク質であることが明記されていないタンパク質についても同様である。
【0021】
本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、2本鎖DNA、1本鎖DNA(センス鎖又はアンチセンス鎖)、及びそれらの断片が含まれる。また、本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。
【0022】
ウミホタルルシフェラーゼの製造方法
本発明は、植物細胞を用いたウミホタルルシフェラーゼの製造方法を提供する。
【0023】
本発明で使用されているウミホタルルシフェラーゼは公知であり、例えば、Cypridina 属ウミホタル(Cypridina noctiluca)由来のルシフェラーゼ(Cypridinaルシフェラーゼ)、Vargula 属ウミホタル由来のルシフェラーゼ(Vargulaルシフェラーゼ)等が挙げられ、Cypridinaルシフェラーゼが好ましい。本明細書および特許請求の範囲において、用語「ウミホタルルシフェラーゼ」には、特に明示しない限り、野生型ウミホタルルシフェラーゼ、ならびにルシフェラーゼ活性を有する任意のその改変体及びその融合体が広く包含される。野生型ウミホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列としては、NCBIデータベースにアクセス番号AAB86460(配列番号1)、AAA30332(配列番号2)、BAD08210(配列番号3)等で記載されているものが挙げられる。配列番号1〜3のアミノ酸配列を図1〜3に示す。
【0024】
ウミホタルルシフェラーゼは、1または複数個、好ましくは1または数個のアミノ酸が置換、付加、欠失、挿入されていてもよく、ウミホタルルシフェリンを基質として発光させる活性を有している限り任意の改変体を包含する。
【0025】
ウミホタルルシフェラーゼ融合体としては、C末端に他のタンパク等に親和性を有するペプチド、タンパク等、或いは蛍光性などの他の機能を持つタンパク等が融合されたもの等を挙げることができ、ウミホタルルシフェリンを基質として発光させる活性を有している限り任意の融合体を包含する。また、ウミホタルルシフェラーゼ融合体にはウミホタルルシフェラーゼにHisタグ、アビジンタグ、ストレプトアビジンタグ、ニュートラアビジンタグ等を付加したものも包含される。
【0026】
また、例えば、ウミホタルルシフェラーゼ改変体には、ウミホタルルシフェラーゼの所定の位置(所定の位置のリジン残基等)を、任意選択でポリアルキレングリコール構造(ポリエチレングリコール等)をスペーサーとして介して、ビオチン化したもの等も含まれる。また、ウミホタルルシフェラーゼ改変体には、例えば、植物細胞からの分泌に適するようにシグナルペプチドを置換又は付加したもの等も含まれる。
【0027】
本発明において、植物細胞とは、典型的には植物から採取した細胞(植物由来の培養細胞等)を意味する。
【0028】
本発明にかかる方法は、植物細胞を用いてウミホタルルシフェラーゼを発現させる工程を含んでいてもよい。かかる工程には、例えば、ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子で植物細胞を形質転換し、形質転換体によりウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を発現させる方法等を広く用いることができる。本発明において、ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子としては、前記に示したウミホタルルシフェラーゼをコードする核酸分子等が挙げられる。
【0029】
本発明において用いる植物細胞は、植物由来の初代培養細胞であっても、株化細胞であってもよい。植物細胞としては、高等植物の細胞が好ましい。ここで、高等植物としては、被子植物及び裸子植物が挙げられ、被子植物が好ましい。被子植物としては、双子葉植物及び単子葉植物が挙げられる。より具体的な植物細胞の例としては、特に限定されず、例えば、タバコ、イネ、シロイヌナズナ、ブドウ、トマト等が挙げられ、タバコ(BY2細胞、BY2-H細胞、3n-3細胞、NT1細胞等)等が好ましい。
【0030】
本発明の方法は、ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を植物細胞のゲノムに導入する工程を含む。尚、本発明において、遺伝子を「ゲノムに導入する」とは、「染色体に組み込む」と言い換えることもできる。かかる遺伝子導入の方法としては、導入後の用途に対して適当な公知の方法を選択して実施することができる。具体的な方法として、例えば、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、PEG法などが挙げられる。ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子のゲノムへの導入しやすさの観点から、アグロバクテリウム法等が好ましい。遺伝子導入工程がアグロバクテリウムを用いて行われる場合、例えば、ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子をアグロバクテリウムに導入し、当該遺伝子を導入したアグロバクテリウムを植物細胞に感染させる方法により行うことができる。アグロバクテリウム法を用いる場合、アグロバクテリウムとしては、例えば、Agrobacterium tumefaciens(GV3101、C58C1、GV2260、LBA4404、EHA101、EHA105等)等が挙げられる。
【0031】
また、本発明の好ましい実施形態において、上記遺伝子導入工程はベクターを用いて行うことができる。例えば、前述した、ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子をアグロバクテリウムに導入する工程を、ベクターを用いて行うことができる。より具体的には、ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するベクターをアグロバクテリウムに導入し、ベクターを導入したアグロバクテリウムを植物細胞に感染させる方法が挙げられる。本発明の方法によりウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を導入された植物細胞は、ゲノムにウミホタルルシフェラーゼ遺伝子が組み込まれているため、当該遺伝子を安定的に保持している。
【0032】
ベクターとしては、例えば、p35SG/pBCKH、pDEST_35S_HSP_GWB5、pBI101等が挙げられる。ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子は、当該ベクターにおいてプロモーターの制御下に配置してもよい。プロモーターとしては、特に限定されず、例えば、CaMV35S、UBQ1、ACT1等が挙げられる。本発明の変異型ルシフェラーゼ遺伝子を含むベクターには、必要に応じて変異型ルシフェラーゼ遺伝子を導入するためのマルチクローニングサイト、プロモーター配列、エンハンサー配列、ポリアデニレーション配列、インスレータ配列、選択マーカー遺伝子配列、複製起点を有していても良いものとする。エンハンサー配列としては、タバコモザイクウイルス(TMV)のオメガ翻訳エンハンサー、タバコエッチウイルス(TEV)の翻訳エンハンサー、シロイヌナズナADH1の5’UTR領域が挙げられる。
【0033】
本発明は、ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するベクターを導入した植物細胞を培養する工程を含んでいてもよい。本発明の方法に用いる培地としては、植物細胞の種類等に応じて、培養に使用されるものを広く用いることができ、例えば、MS培地、B5培地等が挙げられる。培養温度も特に限定されず、例えば、20〜30℃、好ましくは、22〜28℃の範囲で適宜設定できる。培養時間も特に限定されず、例えば、24〜480時間、好ましくは、240〜360時間の範囲で適宜設定できる。上記培養を行うことにより、植物細胞からウミホタルルシフェラーゼが分泌される。
【0034】
本発明の方法においては、上記発現工程で得られたウミホタルルシフェラーゼを回収する工程を行ってもよい。回収方法としては特に限定されず、タンパク質生産の分野において通常用いられる手法を広く採用することができる。
【0035】
本発明の方法においては、前記培養工程で得られた植物細胞のうち、ウミホタルルシフェラーゼ活性を有する株を選抜する工程を行ってもよい。その際、ウミホタルルシフェラーゼ活性は、例えば、本願実施例に記載の方法により測定することができる。当該選抜工程においては、培養工程で得られた植物細胞のうち、例えば、ウミホタルルシフェラーゼ活性の高い株を選抜することが好ましい。ウミホタルルシフェラーゼ活性の高い株を選抜する工程においては、典型的には、ウミホタルルシフェラーゼ活性の最も高い1つの株又は複数の株(一群の株)が選抜される。尚、本発明において、「ウミホタルルシフェラーゼ活性の高い株を選抜する工程」は、「所定のウミホタルルシフェラーゼ活性を有する株を選抜する工程」といいかえることもできる。また、本発明の方法においては、上記選抜工程で選抜された株について、均質な培養液が得られ、かつ/又は、一定以上の増殖速度を有する1つ又は複数の株をさらに選抜する工程を、任意選択で行ってもよい。
【0036】
また本発明の方法においては、植物細胞を用いることによってウミホタルルシフェラーゼを高純度で得ることができるが、回収したウミホタルルシフェラーゼに対し、任意選択で精製工程をさらに行ってもよい。
【0037】
タンパク質の精製手法としては、特に限定されないが、例えば、フィルターによる夾雑物の除去、ゲルろ過、クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニテイークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー)、電気泳動、沈殿法(硫安沈殿、有機溶媒による沈殿法、等電点沈殿法等)等が挙げられる。
【0038】
本発明の方法により得られたウミホタルルシフェラーゼは、細胞培養液の状態で使用しても、細胞溶解液の状態で用いても、培養上清として用いても、培養上清から上記方法等で精製したものを用いてもよい。
【0039】
植物細胞
本発明は、ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を導入した植物細胞を提供する。かかる植物細胞の種類、製法などは前述のとおりである。本発明の植物細胞は、高純度のウミホタルルシフェラーゼを培地中に分泌することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されない。
【0041】
参考例
まず、ウミホタルルシフェラーゼが植物体内で正常に機能するかどうかを確かめるために、パーティクルガンを使用してウミホタルルシフェラーゼ遺伝子をシロイヌナズナの葉に一過的に発現させて発光を測定する実験を行った。非特許文献3に記載されているp35SHSPGベクターをSmaIで切断し、配列番号4で示すウミホタルルシフェラーゼ遺伝子(NCBIアクセス番号AB177531)を下記のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRで増幅して挿入した(35S:CLUC)。配列番号4で示されるウミホタルルシフェラーゼ遺伝子の塩基配列を図4に示す。
5'-GATGAAGACCTTAATTCTTGCCGTTG-3' (配列番号5)
5'-CTATTTGCATTCATCTGGTACTTCT-3' (配列番号6)
同様に比較対照としてホタルルシフェラーゼ遺伝子(配列番号7)を発現させるプラスミドも作成した(35S:FLUC)。また、NCBIデータベースにアクセス番号AB259056で記載されている酵母発現用ウミホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子(配列番号8)を発現させるプラスミドも作成した(35S:CLUCY)。実験にあたっては内部標準として、CaMV35Sプロモーターで発現させるウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子(配列番号9)を用いた(35S:RLUC)。金粒子を35S:CLUC(または35S:FLUC)、35S:RLUCプラスミドでコーティングし、固定式パーティクルガンでシロイヌナズナのロゼット葉に撃ち込んだ。その後、23℃、暗所で16時間静置し、緩衝液中で組織を破砕してタンパク質を抽出した。タンパク質抽出液の一部に、各ルシフェラーゼの基質溶液を添加して、ルミノメーターにより発光強度を測定した。
【0042】
活性測定の条件は以下の通り:
1マイクログラム/マイクロリットルの各酵素溶液をリン酸緩衝生理食塩水で1000倍希釈した溶液20マイクロリットルと2マイクロモーラーのウミホタルルシフェリン溶液80マイクロリットルを混合し、すぐにphelios(ATTO社製)で10秒間カウントし、その積算値を相対活性値とした。
【0043】
その結果、図8右に示すようにウミホタルルシフェラーゼは植物においてもホタルルシフェラーゼと大差無く発光することがわかった。
【0044】
実施例1
ウミホタルルシフェラーゼが植物においても細胞外に分泌されるかどうか、また、その場合、植物がウミホタルルシフェラーゼの生産に適しているかどうかを検討するため、ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子をタバコBY2培養細胞(Toshiyuki Nagata, Yasuyuki Nemoto, and Seiichiro Hasezawa, International Review of cytology, vol.132, p.p. 1-30(1992))に導入して遺伝子組換え体を作成した。まず、参考例で作成した35S:CLUCを、ゲートウェイLR反応にて非特許文献4に記載されているpBCKKベクターに移し替えた。このプラスミドを、土壌細菌アグロバクテリウムGV3101(Agrobacterium tumefaciens strain GV3101(C58C1Rifr)pMP90(Gmr)(koncz and Schell 1986))株にエレクトロポレーション法で導入した。導入した菌を、カナマイシン入り2ミリリットルのLB培地で1日間培養した。一方植え継ぎ後3日目のBY2培養細胞を4ミリリットル採取し、終濃度が20マイクロモーラーになるようアセトシリンゴンを添加した。その後、10ミリリットルのメスピペットで20回ピペッティング操作を行い、細胞に微細な傷を与えた。次に1日間培養したアグロバクテリウム液を100マイクロリットル添加し、暗所25℃で3日間共存培養した。3日後、クラフォラン入りBY2用液体培地で繰り返し洗浄し、カナマイシン、クラフォラン入りBY2用寒天培地に拡げ、25℃で培養した。2、3週間後に大きくなってきた細胞塊を新しい寒天培地に植え継ぐことを繰り返し、一定の大きさまで成長した細胞塊について、参考例と同様にルシフェラーゼ活性を測定した。その中から特に活性の高かった数ラインをBY2用液体培地に移植し、培養細胞化した。1週間に一度経代培養することを繰り返したのち、植え継ぎ後2週間の培養細胞から培養上清を回収し、ルシフェラーゼ活性の測定とSDS-PAGE、CBB染色によるウミホタルルシフェラーゼタンパク質の確認を行った。
【0045】
また、比較例として、片倉工業株式会社に依頼し、特許3090586に記載の方法に準じ、カイコ細胞及びカイコ核多角体病ウイルスを用いてCLUCルシフェラーゼを製造し、活性測定を行った。
【0046】
結果を図9に示す。その結果、ウミホタルルシフェラーゼはタバコBY2培養細胞から培地中に分泌され培地中に安定に存在することがわかった。また、電気泳動した結果、70kDa近くに二本のバンドが見られるが他に目立ったタンパクは確認できなかった(図8右)。これまでもカイコで合成されたウミホタルルシフェラーゼも2本のバンドとして確認されることから、この二本のバンドのタンパクはフォルディングのわずかな違いをもつウミホタルルシフェラーゼであり、イムノアッセイには精製する必要が無い程度の均一性が担保されている。セントリコン(タンパク濃縮用フィルター)で低分子性のものを除去、濃縮とバッファー交換が容易に達成された。1L培地あたり20−30mg程度の精製品が得られた。これは非特許文献3で用いた酵母細胞の系と同程度の発現量であるが、酵母細胞では3段階の精製を経て、同程度の精製度になるのに対してタバコ細胞では複雑なカラム精製を省くことが可能になる。
【0047】
上記のように、低分子化合物をフィルターで除去することで純度98%以上の高純度のタンパクが1Lあたり20-30mgのレベルで製造できた。従って、植物細胞を用いることによって高効率且つ簡易に高純度のウミホタルルシフェラーゼが製造でき、ウミホタルルシフェラーゼを用いた酵素免疫法を容易に構築することができた。
【0048】
精製されたウミホタルルシフェラーゼの活性を図9の左側に示す。図9左のグラフに示すように、酵素溶液中のウミホタルルシフェラーゼの含有量は同じであるにも関わらず、タバコ細胞を用いて生産したウミホタルルシフェラーゼの活性は、カイコ細胞を用いて生産したウミホタルルシフェラーゼよりも著しく高くなった。
【0049】
実施例2
非特許文献3に記載されているp35SHSPGベクターをSalI、SacIで切断し、下記のオリゴヌクレオチドペアをアニーリングさせたDNAを挿入して、p35S_avi_HSPGベクターを作成した。
5’-TCGACTCCGGCTTGAACGACATCTTCGAGGCCCAGAAGATCGAGTGGCACGAGTAGAGCT-3’(配列番号10)
5’-CTACTCGTGCCACTCGATCTTCTGGGCCTCGAAGATGTCGTTCAAGCCGGAG-3’(配列番号11)
つぎに、このベクターをSmaIで切断して、下記のオリゴヌクレオチドペアをプライマーとしたPCRでウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を増幅して挿入した(35S:CLUC-avi)。
5’-GATGAAGACCTTAATTCTTGCCGTTG-3’ (配列番号5)
5’-TTTGCATTCATCTGGTACTTCT-3’ (配列番号12)
つぎに、Methods in Molecular Biology, 2011 754, 87-105に記載されている、植物形質転換用のpBCKKベクターとの間でゲートウェイLR反応を行い、ベクターバックボーン以外の部分をpBCKKベクターに移し、土壌細菌アグロバクテリウムを利用してBY2培養細胞を形質転換して分泌発現系を確立した。ここで、一定の大きさまで成長した細胞塊166クローンについてそれぞれ参考例に準じてルシフェラーゼ活性を測定した時の活性分布を図10に示す。最も高い活性値を示した8クローンについて液体培養を行った。そして均質な培養液が得られ、かつ、一定以上の増殖速度が確認されたクローンを選抜した。上記で得られたAviタグ融合ウミホタルルシフェラーゼを含む培養細胞上清を回収し、HiTrapQ HP(GEヘルスケア・ジャパン製)を用いて、20 mM Tris-HCl (pH 8.0) バッファー及び20 mM Tris-HCl (pH 8.0) 1 M NaClバッファーによるグラジエントにより培養上清を分画した。参考例同様に各分画の活性を測定し、活性の高い画分を回収した。比較のために、タグを付加していないウミホタルルシフェラーゼも同様に回収した。具体的には、35S:CLUC-aviに代えて35S:CLUCを用いる以外、上記と同様の操作を行うことにより、タグを付加していないウミホタルルシフェラーゼを得た。それぞれ100 ng相当分をSDS-PAGEにより確認した(図11左)。また、それぞれ100 ngのタンパク質を1万倍希釈した溶液を用いて参考例同様に活性測定に供した。活性はタグの有無にかかわらず同程度であることが確認された(図11右)。
【0050】
実施例3
植物培養細胞で生産したウミホタルルシフェラーゼの基質に対する親和性
植物培養細胞で生産したウミホタルルシフェラーゼを用いて、段階的に希釈した基質(ウミホタルルシフェリン)と反応させ、発光強度を測定することで、Km値を実験的に推定した。Km値はミカエリス・メンテン式に対する近似曲線から推定した。天然ウミホタル由来ルシフェラーゼ、前記実施例2で得られた培養細胞生産ウミホタルルシフェラーゼ、および、前記実施例2で得られた培養細胞生産Aviタグ融合ルシフェラーゼのそれぞれについて図12〜14に示すような近似曲線が得られ、その近似式からそれぞれのKm値は、0.283マイクロモーラー、0.448マイクロモーラー、0.395マイクロモーラーと推定された。この結果から、植物細胞生産ルシフェラーゼは、天然型と同程度の基質親和性を有しており、それはタグの付加によっても全く影響を受けていないと考えられる。
図1
図2
図3
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図5
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図7
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図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]