特許第6386124号(P6386124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6386124
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20180827BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20180827BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20180827BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C08L59/00
   C08K5/13
   C08K3/22
   C08L71/02
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-69783(P2017-69783)
(22)【出願日】2017年3月31日
【審査請求日】2018年6月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】荒井 博樹
(72)【発明者】
【氏名】門間 智宏
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−509521(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/104255(WO,A1)
【文献】 特開2001−072830(JP,A)
【文献】 特開2004−204193(JP,A)
【文献】 特開2015−034221(JP,A)
【文献】 特開2016−011398(JP,A)
【文献】 特開2008−001850(JP,A)
【文献】 特開2015−110714(JP,A)
【文献】 特開2009−132768(JP,A)
【文献】 特開2012−233121(JP,A)
【文献】 国際公開第95/023171(WO,A1)
【文献】 特開平07−286023(JP,A)
【文献】 特開2008−126523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 59/00− 59/04
C08K 3/00− 5/59
C08G 2/00− 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ヘミホルマール末端基量が0.8mmol/kg以下であるポリアセタール共重合体100質量部に対し、(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.1〜1.0質量部、(C)マグネシウムまたは亜鉛の酸化物または水酸化物から選択される少なくとも一種を、2.0質量部を超えて30質量部以下、とを含有する組成物であるポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記マグネシウムまたは亜鉛の、酸化物または水酸化物から選択される少なくとも一種が酸化マグネシウムである請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸化マグネシウムのBET比表面積が100m/g以上である請求項1または2記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
(D)ポリアルキレングリコール0.5〜3.0質量部含有する請求項1〜3いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物の成形品からなる自動車部品。
【請求項6】
前記自動車部品が酸性洗浄剤接触自動車部品である請求項5記載の自動車部品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物の成形品を用いて、酸成分に対する酸耐性を向上させる方法。
【請求項8】
前記酸成分が、酸性洗浄剤由来である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸成分に対して高い耐性を有するポリアセタール樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は耐薬品性に優れることから、ポリアセタール樹脂を原料とする成形体は自動車部品として広く使用されている。例えば、燃料油と直接接触する燃料ポンプモジュール等燃料接触体に代表される燃料搬送ユニット等の大型部品として用いられる。
【0003】
近年、各国の環境規制に対応するため、燃料の低硫黄化が進められている。しかしながら、脱硫設備には多大な費用がかかることから、一部の国では未だ高硫黄燃料が流通している。これらの高硫黄燃料は、低硫黄燃料に比べてポリアセタール樹脂を劣化させやすい傾向がある。
【0004】
これらの課題に対して、本願出願人は、ポリアセタール樹脂にアルカリ土類金属酸化物、ポリアルキレングリコール、特定のエステルを含有させることにより、大幅に改善できることを報告している(特許文献1)。特に高硫黄燃料に接触する燃料搬送ユニット等の部品に対しては、大きな改善策が得られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5814419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料搬送ユニット等の自動車部品は、ボンネット等の筐体によって覆われているものの、洗車時に洗浄剤の飛沫が付着することがある。特に、ホイールに付着したブレーキダスト等を除去する際には、高硫黄燃料を上回る強酸性の洗浄剤を用いることがあり、この洗浄剤によるポリアセタール樹脂からなる自動車部品の劣化も大きな課題としてある。
【0007】
本発明は、成形品にした際、酸性洗浄剤に接触したときの劣化を抑えることの可能なポリアセタール樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ポリアセタール樹脂組成物の組成を特定の組成にすることで、成形品にした際、酸性洗浄剤に接触したときの劣化を最小限に抑えられることを見出した。
【0009】
従来、アルカリ土類金属酸化物の配合量が過剰の場合は、ポリアセタール樹脂中の不安定末端の分解を促進し、機械特性・成形性等に好ましくない影響が見られた(特許文献1)。本発明者らは、ポリアセタール樹脂中の特定の末端基量を一定値以下に抑制し、かつ特定の金属化合物を含む組成にすることで上記の悪影響を実用上問題ない範囲に抑制し、かつ耐酸性を著しく向上できることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、
1.(A)ヘミホルマール末端基量が0.8mmol/kg以下であるポリアセタール共重合体100質量部に対し、(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.1〜1.0質量部、(C)マグネシウム、または亜鉛の酸化物または水酸化物から選択される少なくとも一種を、2.0質量部を超えて30質量部以下、とを含有する組成物であるポリアセタール樹脂組成物。
【0011】
2.前記マグネシウム、または亜鉛の酸化物または水酸化物から選択される少なくとも一種が酸化マグネシウムである前記1記載のポリアセタール樹脂組成物。
3.前記酸化マグネシウムのBET比表面積が100m/g以上である前記1または2記載のポリアセタール樹脂組成物。
【0012】
4.(D)ポリアルキレングリコール0.5〜3.0質量部含有する前記1〜3いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
5.前記1〜4のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物の成形品からなる自動車部品。
6.前記自動車部品が酸性洗浄剤接触自動車部品である前記5記載の自動車部品。
7.前記1〜4のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物の成形品を用いて、酸成分に対する酸耐性を向上させる方法。
8.前記酸成分が、酸性洗浄剤由来である、前記7に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成形品にした際、酸性洗浄剤に接触したときの劣化を最小限に抑えることの可能なポリアセタール樹脂組成物を提供することができる。
なお、本発明において、「酸性洗浄剤」とは、pHが6以下、場合によりpHが2以下の洗浄剤を言い、例えば、ホイールクリーナー等が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
<ポリアセタール樹脂組成物>
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ヘミホルマール末端基量が0.8mmol/kg以下であるポリアセタール共重合体100質量部に対し、(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.1〜1.0質量部、(C)マグネシウムまたは亜鉛の酸化物または水酸化物から選択される少なくとも一種を、2.0質量部を超えて30質量部以下、とを含有する組成物であるポリアセタール樹脂組成物であることを特徴とする。
【0016】
≪(A)ポリアセタール共重合体≫
本発明においては、基体樹脂として特定の末端特性を有するポリアセタール共重合体(A)が用いられる。ポリアセタール共重合体は、オキシメチレン基(−OCH−)を主たる構成単位とし、オキシメチレン単位以外に他のコモノマー単位を有する樹脂であり、一般的にはホルムアルデヒド又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーを主モノマーとし、環状エーテルや環状ホルマールから選ばれた化合物をコモノマーとして共重合させることによって製造され、通常、加水分解によって末端の不安定部分を除去して熱分解または酸・アルカリ分解に対して安定化される。
【0017】
特に、主モノマーとしてはホルムアルデヒドの環状三量体であるトリオキサンを用いるのが一般的である。トリオキサンは、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることにより得られ、これを蒸留などの方法で精製して使用される。重合に用いるトリオキサンは、後述する如く、水、メタノール、蟻酸などの不純物の含有量が極力少ないものが好ましい。
【0018】
また、コモノマーである環状エーテル及び環状ホルマールとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、トリオキセパン、1,3−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、プロピレングリコールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、トリエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール、1,6−ヘキサンジオールホルマールなどが挙げられる。
【0019】
さらに、分岐構造や架橋構造を形成可能な化合物をコモノマー(或いはターモノマー)として使用することが可能であり、かかる化合物としては、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチル−ヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどのアルキル又はアリールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテルなどのアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのコモノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0020】
上記の如きポリアセタール共重合体は、一般には適量の分子量調整剤を添加し、カチオン重合触媒を用いてカチオン重合することにより得ることができる。使用される分子量調整剤、カチオン重合触媒、重合方法、重合装置、重合後の触媒の失活化処理、重合によって得られた粗ポリアセタールコポリマーの末端安定化処理法などは多くの文献によって公知であり、基本的にはそれらが何れも利用できる。
【0021】
本発明で使用するポリアセタール共重合体の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が10,000〜400,000程度のものが好ましい。また、樹脂の流動性の指標となるメルトインデックス(ASTM−D1238に準じ、190℃、荷重2.16kgで測定)が0.1〜100g/10分であるものが好ましく、さらに好ましくは0.5〜80g/10分である。
【0022】
本発明において使用するポリアセタール共重合体(A)は、前記の如く特定の末端特性を有していることが必要であり、具体的には、ヘミホルマール末端基量が0.8mmol/kg以下であることが必須である。
【0023】
ここでヘミホルマール末端基は−OCHOH−で示されるものであり、かかるヘミホルマール末端基の量は1H−NMR測定により求めることができ、その具体的な測定方法は、特開2001−11143号公報に記載された方法を参照できる。
【0024】
使用するポリアセタール共重合体(A)が上記の末端特性を有するものではなく、上限値を上回る場合、ホルムアルデヒド発生量が十分に低減されたポリアセタール樹脂組成物を得ることができず、さらに、熱履歴の繰返しによって生じるホルムアルデヒドの発生量を低レベルに維持することが困難となる。
【0025】
この場合、成形時のモールドデポジットの発生が過大となり成形に支障をきたす。また、ホルムアルデヒドの発生が成形品中のボイド発生を促進し、機械物性においても不具合をもたらす場合もある。
【0026】
このような耐酸性を維持しながら成形性も維持する観点から、本発明において用いるポリアセタール共重合体(A)は、ヘミホルマール末端基量が0.6mmol/kg以下のものが好ましく、さらに好ましくは0.4mmol/kg以下である。ヘミホルマール末端基量の下限は特に限定されるものではない。
【0027】
前記の如く特定の末端特性を有するポリアセタール重合体(A)は、モノマー及びコモノマーに含まれる不純物を低減し、製造プロセスの選択およびその製造条件の最適化などを行うことにより製造できる。
【0028】
以下に本件の発明の要件を満たす特定の末端特性を有するポリアセタール重合体(A)を製造する方法の具体例を挙げるが、何らこの方法に限定されるものではない。
【0029】
先ず、重合系で不安定末端を形成する活性不純物、具体的には、前記モノマー及びコモノマー中に含まれる水、アルコール(例えばメタノール)、酸(例えばギ酸)などの不純物を少なくすることが重要である。
【0030】
この含有量が過大であると当然ながら不安定末端部の少ないポリアセタール重合体を得るのに好ましくない。なお、不安定末端を形成することの無い連鎖移動剤、例えば、メチラールの如き両末端がアルコキシ基を有する低分子量線状アセタール等は任意の量を含有させ、ポリアセタール重合体の分子量を調整することができる。
【0031】
次に、重合反応時に使用する触媒の量も重要な要件である。触媒量が多すぎると重合温度の適正な制御を困難にし、重合中の分解反応が優勢となって、本発明の要件を満たす不安定末端部の少ないポリアセタール重合体を得ることが困難となる。一方、触媒量が少なすぎると重合反応速度の低下や重合収率が低下をまねき好ましくない。
【0032】
重合法としては、従来公知の方法が何れも可能であるが、液状モノマーを用いて重合の進行と共に固体粉塊状のポリマーを得る連続式塊状重合法が工業的には好ましく、重合温度は60〜105℃、特に65〜100℃に保つことが望ましい。
【0033】
三フッ化ホウ素又はその配位化合物からなる触媒を用いた場合、重合後の触媒の失活法としては、塩基性化合物を含む水溶液中に重合後のポリマーを加える等の方法が可能であるが、本発明の要件を満たすポリアセタール重合体を得るためには、重合反応により得られた重合体を粉砕し細分化して失活剤と接触させ、速やかに触媒の失活を図るのが好ましい。
【0034】
例えば、触媒の失活に供する重合体を粉砕し、その80質量%以上、好ましくは9 0質量%が1.5mm以下の粒径であり、15質量%以上、好ましくは20質量%以上が0.3mm以下の粒径に細分化されていることが望ましい。
【0035】
重合触媒を中和し失活するための塩基性化合物としては、アンモニア、あるいは、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、トリブタノールアミン等のアミン類、あるいは、アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、塩類、その他公知の触媒失活剤を用いることができ、これら塩基性化合物は、0.001〜0.5質量%、特に0.02〜0.3質量% の水溶液として加えるのが好ましい。
【0036】
また、好ましい水溶液の温度は10〜80℃、特に好ましくは15〜60℃である。また、重合終了後、これらの水溶液に速やかに投入し触媒を失活させることが好ましい。
【0037】
以上のようなモノマー及びコモノマーに含まれる不純物の低減、製造プロセスの選択およびその製造条件の最適化などにより不安定末端量の少ないポリアセタール重合体を製造することができるが、更に、安定化工程を経ることで更にヘミホルマール末端量を低減することが可能である。
【0038】
安定化工程としては、ポリアセタール重合体をその融点以上の温度に加熱して溶融状態で処理して不安定部分のみを分解除去することや、不溶性液体媒体中で不均一系を保って80℃ 以上の温度で加熱処理することで不安定末端部分のみを分解除去すること等公知の方法が挙げられる。
【0039】
≪(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤≫
本発明において使用される(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ヘキサメチレングリコール−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)、テトラキス[メチレン3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェノール)プロピオネート、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(6−t−ブチル−3−メチル−フェノール)、ジ−ステアリル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、3,9−ビス{2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が例示される。
【0040】
本発明においては、これらの酸化防止剤から選ばれた少なくとも一種又は二種以上を使用することができる。
【0041】
本発明における(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.1〜1.0質量部であり、0.2〜0.5質量部であることがより好ましい。(B)酸化防止剤の配合量が少ないと、本来の目的である酸化防止特性が不十分になるだけでなく、本発明の目的である耐洗浄剤性も劣るものとなる。(B)酸化防止剤の配合量が過剰の場合は、樹脂組成物の機械特性や成形性等の好ましくない影響が生じる。
【0042】
≪(C)マグネシウム、または亜鉛の酸化物または水酸化物から選択される少なくとも一種≫
本発明において使用される(C)マグネシウム、または亜鉛の酸化物または水酸化物から選択される少なくとも一種(以下(C)化合物と略す)としては、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらの化合物の中では酸化マグネシウムが最も耐洗浄剤性の改善と機械物性や成形性等の性能のバランスが優れており好ましい。酸化マグネシウムに関して、BET比表面積が100m/g以上である酸化マグネシウムがより好ましい。
【0043】
本発明における(C)化合物の含有量は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、2.0質量部を超えて、30質量部以下であり、2.0質量部を超えて10質量部以下であることがより好ましい。
【0044】
2.0質量部を超えることで耐酸性洗浄剤性において特に優れ、また30質量部以内で安定的な生産が可能となり、10質量部以内で機械特性のバランスにおいて特に優れる。
これまでは(C)化合物が多くなるとポリアセタール樹脂中の不安定末端の分解を促進することがあったが、本発明の(A)ポリアセタール共重合体であれば、その分解を抑制することができることから、(C)化合物を増量することによる酸耐性向上の特性を見出すことができた。
【0045】
≪(D)ポリアルキレングリコール]≫
本発明においては、場合により(D)ポリアルキレングリコールを含有させることも好ましい。これらの種類は特に限定されないが、ポリアセタール樹脂との親和性の観点から、ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールを含有するものが好ましく、ポリエチレングリコールを含有するものがより好ましい。
【0046】
ポリアルキレングリコールの数平均分子量(Mn)は特に限定されないが、ポリアセタール樹脂中での分散性の観点から、1,000以上50,000以下であることが好ましく、5,000以上30,000以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって求めたポリスチレン換算の分子量であるものとする。
【0047】
本発明における(D)ポリアルキレングリコールの含有量は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.5〜3.0質量部であり、1.0〜2.0質量部であることがより好ましい。(D)ポリアルキレングリコールを含有させなくとも十分な応力緩和得られる場合は、含有させる必要はないが、添加量の上限は、成形体の機械物性とのバランスで選択される。これらは2種以上を混合して使用しても良い。
【0048】
≪その他の成分≫
本発明におけるポリアセタール樹脂組成物は、必要に応じて他の成分を含有するものであってもよい。本発明の目的・効果を阻害しない限り、ポリアセタール樹脂組成物に対する公知の安定剤を1種又は2種以上添加することができる。
【0049】
≪ポリアセタール樹脂組成物の成形品からなる自動車部品≫
本発明のポリアセタール樹脂組成物からなる成形品は、自動車のホイール等車体洗浄の際に洗浄剤に触れる可能性のある自動車部品の全てに使用することができる。
【0050】
この成形品は、上記ポリアセタール樹脂組成物を用いて、慣用の成形方法、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、回転成形等の方法で成形することにより得ることができる。
本発明の成形品は、例えばPH2以下の強酸性洗浄剤に接触したとしても、劣化が抑制され、良好な成形品表面外観を保持できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0052】
表1における各種成分は次のとおりである。表中の単位は質量部である。
・ポリアセタール共重合体(A)
A−1:ポリアセタール共重合体[ヘミホルマール末端基量=0.4mmol/kg、メルトインデックス=9g/10分]
A−2:ポリアセタール共重合体[ヘミホルマール末端基量=0.7mmol/kg、メルトインデックス=9g/10分]
A−3:ポリアセタール共重合体[ヘミホルマール末端基量=1.0mmol/kg、メルトインデックス=9g/10分]
A−4:ポリアセタール共重合体[ヘミホルマール末端基量=2.0mmol/kg、メルトインデックス=9g/10分]
ポリアセタール共重合体A−1〜A−4は、次のようにして調製した。
【0053】
A−1 :二軸パドルタイプの連続式重合機にトリオキサン96.7質量%と1,3−ジオキソラン3.3質量%の混合物を連続的に供給し、触媒として三フッ化ホウ素10ppmを添加し重合を行った。また、重合に供するトリオキサンと1,3−ジオキソランの混合物は、不純物として水4ppm、メタノール2.5ppm、ギ酸2ppmを含有するものであった。
【0054】
重合機吐出口より排出された重合体は、直ちにトリエチルアミン1000ppm含有水溶液を加えて粉砕、攪拌処理を行うことにより触媒の失活を行い、次いで、遠心分離、乾燥を行うことにより粗ポリオキシメチレン共重合体を得た。
【0055】
次いで、この粗ポリオキシメチレン共重合体を、ベント口を有する二軸押出機に供給し、0.3%のトリエチルアミン水溶液を粗ポリオキシメチレン共重合体に対し、0.4%添加し、樹脂温度約220℃で溶融混練することにより不安定末端部を分解すると共に、分解生成物を含む揮発分をベント口から減圧脱揮した。押出機のダイから取り出した重合体を冷却、細断することにより、不安定末端部の除去されたペレット状のポリアセタール共重合体A−1を得た。
【0056】
A−2 :二軸パドルタイプの連続式重合機にトリオキサン96.7質量%と1,3−ジオキソラン3.3質量%の混合物を連続的に供給し、触媒として三フッ化ホウ素10ppmを添加し重合を行った。また、重合に供するトリオキサンと1,3−ジオキソランの混合物は、不純物として水10ppm、メタノール3.5ppm、ギ酸5ppmを含有するものであった。
【0057】
重合機吐出口より排出された重合体は、直ちにトリエチルアミン1000ppm含有水溶液を加えて粉砕、攪拌処理を行うことにより触媒の失活を行い、次いで、遠心分離、乾燥を行うことにより粗ポリオキシメチレン共重合体を得た。
【0058】
次いで、この粗ポリオキシメチレン共重合体を、ベント口を有する二軸押出機に供給し、0.3%のトリエチルアミン水溶液を粗ポリオキシメチレン共重合体に対し、0.4%添加し、樹脂温度約220℃で溶融混練することにより不安定末端部を分解すると共に、分解生成物を含む揮発分をベント口から減圧脱揮した。押出機のダイから取り出した重合体を冷却、細断することにより、不安定末端部の除去されたペレット状のポリアセタール共重合体A−2を得た。
【0059】
A−3 :二軸パドルタイプの連続式重合機にトリオキサン96.7質量%と1,3−ジオキソラン3.3質量%の混合物を連続的に供給し、触媒として三フッ化ホウ素15ppmを添加し重合を行った。また、重合に供するトリオキサンと1,3−ジオキソランの混合物は、不純物として水10ppm、メタノール3.5ppm、ギ酸5ppmを含有するものであった。
【0060】
重合機吐出口より排出された重合体は、直ちにトリエチルアミン1000ppm含有水溶液を加えて粉砕、攪拌処理を行うことにより触媒の失活を行い、次いで、遠心分離、乾燥を行うことにより粗ポリオキシメチレン共重合体を得た。
【0061】
次いで、この粗ポリオキシメチレン共重合体を、ベント口を有する二軸押出機に供給し、樹脂温度約220℃で溶融混練することにより不安定末端部を分解すると共に、分解生成物を含む揮発分をベント口から減圧脱揮した。押出機のダイから取り出した重合体を冷却、細断することにより、不安定末端部の除去されたペレット状のポリアセタール共重合体A−3を得た。
【0062】
A−4 :二軸パドルタイプの連続式重合機にトリオキサン96.7質量%と1,3−ジオキソラン3.3質量%の混合物を連続的に供給し、触媒として三フッ化ホウ素20ppmを添加し重合を行った。また、重合に供するトリオキサンと1,3−ジオキソランの混合物は、不純物として水20ppm、メタノール3.5ppm、ギ酸5ppmを含有するものであった。
【0063】
重合機吐出口より排出された重合体は、直ちにトリエチルアミン1000ppm含有水溶液を加えて粉砕、攪拌処理を行うことにより触媒の失活を行い、次いで、遠心分離、乾燥を行うことにより粗ポリオキシメチレン共重合体を得た。
【0064】
次いで、この粗ポリオキシメチレン共重合体を、ベント口を有する二軸押出機に供給し、樹脂温度約220℃で溶融混練することにより不安定末端部を分解すると共に、分解生成物を含む揮発分をベント口から減圧脱揮した。押出機のダイから取り出した重合体を冷却、細断することにより、不安定末端部の除去されたペレット状のポリアセタール共重合体A−4を得た。
【0065】
(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
(B−1)テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(製品名:Irganox1010,BASF社製)
【0066】
(C)金属化合物
(C−1)酸化マグネシウム比表面積30m/g(製品名:キョーワマグMF30、協和化学工業(株)製)
(C−2)酸化マグネシウム比表面積135m/g(製品名:キョーワマグMF150、 協和化学工業(株)製)
(C−3)水酸化マグネシウム(製品名:V−6, 神島工業化学(株)製)
(C−4)酸化亜鉛(製品名:活性亜鉛華AZO, 正同化学工業(株)製)
【0067】
(D)ポリアルキレングリコール
(D−1)製品名:PEG6000S(三洋化成工業(株)製)
(E)多価脂肪酸フルエステル:ペンタエリスリトールステアリン酸エステル(製品名:ユニスターH476,日油(株)製)
【0068】
<実施例及び比較例>
表1に示す各種成分を表1に示す割合で添加混合し、二軸の押出機で溶融混練してペレット状の組成物を調製した。
【0069】
<評価>
(1)成形性:モールドデポジット
実施例及び比較例で調製したポリアセタール樹脂組成物を用い、下記条件でモールドデポジット試験片(円盤型)を成形した。
【0070】
[評価方法]
2000shot成形した後、金型移動側のCavity部表面を目視にて観察し、以下の基準に従って付着物量を判定した。
0:付着物は確認されない
1:付着物が確認される
2:多量の付着物が確認される
* 成形機: FANUC ROBOSHOT S−2000i 50B(ファナック(株))
* 成形条件:シリンダー温度(℃) ノズル−C1−C2−C3
205 215 205 185℃
射出圧力 40(MPa)
射出速度 1.5(m/min)
金型温度 60(℃)
【0071】
(2)酸性洗浄剤への耐性の評価
実施例及び比較例で調製したポリアセタール樹脂組成物を用い、射出成形により厚さ4mmのISOtype1−A引張試験片を作製した。
【0072】
[評価方法]
ポリアセタール樹脂組成物の酸性洗浄剤への耐性を評価するため、上記引張試験片の両端を固定し、負荷歪み:1.5%の割合で湾曲させた。そして、引張試験片の表面に酸性洗浄剤をスプレーし、スプレー後の引張試験片を60℃の条件下で20時間放置した。その後、引張試験片を23℃55%RHの条件下で4時間放置した。
【0073】
酸性洗浄剤として、以下の酸性洗浄剤を用いた。
洗浄剤:硫酸:1.5%、フッ化水素酸:1.5%、リン酸:10%
酸性洗浄剤のスプレー、引張試験片の60℃20時間の放置、引張試験片の23℃4時間の放置を1サイクルとし、この1サイクルが終了する毎に、ダンベル試験片表面のクラック発生状況を目視で観察し、以下のサイクル数で×〜◎+に区分した。
【0074】
× :7未満
○ :7以上10未満
◎ :10以上16未満
◎+:16以上
【0075】
【表1】
【0076】
その結果、実施例1〜11及び比較例2〜4のポリアセタール樹脂組成物からなる試験片では、7サイクル以上でも試験片にクラックが生じることはなかった。
【0077】
これに対し、比較例1、3および6のポリアセタール樹脂組成物からなる試験片では、6サイクル終了するまでの間に、試験片にクラックが生じた。
実施例、比較例より、本発明品は、成形性および耐酸性洗浄剤性においてともに優れていることが確認された。
【要約】
【課題】成形体にした際、酸性洗浄剤に接触したときの劣化を最小限に抑えることの可能なポリアセタール樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)ヘミホルマール末端基量が0.8mmol/kg以下であるポリアセタール共重合体100質量部に対し、(B)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.1〜1.0質量部、(C)マグネシウム、または亜鉛の酸化物、水酸化物から選択される少なくとも一種を、2.0質量部を超えて30質量部以下、とを含有する組成物であるポリアセタール樹脂組成物。
【選択図】なし