特許第6386128号(P6386128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386128
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】無機酸化物多孔膜
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/02 20060101AFI20180827BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20180827BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C01F7/02 Z
   H01M2/16 M
   C09D1/00
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-79158(P2017-79158)
(22)【出願日】2017年4月12日
(62)【分割の表示】特願2016-552356(P2016-552356)の分割
【原出願日】2015年12月1日
(65)【公開番号】特開2017-165651(P2017-165651A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2017年4月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-255465(P2014-255465)
(32)【優先日】2014年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】江川 貴将
(72)【発明者】
【氏名】小橋 靖治
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/098579(WO,A1)
【文献】 特開2013−168361(JP,A)
【文献】 特開2008−174418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00− 17/00
C09D 1/00− 10/00
C09D 101/00−201/00
H01M 2/14− 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)平均3次元粒子凹凸度が3.6以上
かつ、
2)粒径0.3μm未満の粒子の個数存在割合が50%以上
であるαアルミナ粉末を含有し、
全ての塗膜内細孔の塗膜内細孔体積の合計に対する、塗膜内細孔径0.2μm以下の塗膜内細孔の塗膜内細孔体積の合計の割合が、35%以上であるαアルミナ多孔膜。
【請求項2】
前記αアルミナ粉末のBET比表面積が6.0m2/g以上である請求項に記載のαアルミナ多孔膜。
【請求項3】
空隙率が30〜75%である請求項1または2に記載のαアルミナ多孔膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物多孔膜に関し、とりわけ、非水電解液二次電池を構成する正極、負極またはセパレーターの少なくとも一つの表面に形成される絶縁性を有する無機酸化物多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池は高いエネルギー密度を有することから、携帯電話やパーソナルコンピューター等の民生用小型機器に用いられ、また近年では、これら小型機器に加えて自動車用途への応用も加速している。
【0003】
非水電解液二次電池は、有機溶媒系の電解液を用いたものであり、正極と負極とを有し、さらにこれら極板間を電気的に絶縁する目的でセパレーターが配置されていることが一般的である。例えば、リチウムイオン二次電池用のセパレーターとしては、ポリオレフィン系樹脂からなる微多孔性シートが使用されている。
【0004】
この微多孔性シートからなるセパレーターは、電池内部で短絡が発生した場合、セパレーターの有するシャットダウン機能によって、セパレーターの孔が塞がって、短絡した部分のリチウムイオンの移動ができなくなり、短絡部位の電池機能を失わせることにより、リチウムイオン二次電池の安全性を保持する役割を担っている。しかしながら、瞬間的に発生する発熱によって電池温度が例えば150℃を超えると、セパレーターは急激に収縮して、正極と負極の短絡部位が拡大することがある。この場合、電池温度は数百℃以上に異常過熱された状態に至ることがあり、安全性の面で課題となっている。
【0005】
そこで、特許文献1には、リチウムイオン二次電池を構成する正極または負極ないしはセパレーターの表面に、絶縁性を有する無機酸化物フィラーを含む無機酸化物多孔膜を形成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−147916号公報
【0007】
上述の特許文献にて開示されている無機酸化物多孔膜は、耐熱性が高く、セパレーターの急激な収縮を抑制することができる。
しかしながら、これらの特許文献に記載されている諸物性を満足する無機酸化物粉末を用いて無機酸化物多孔膜を形成した場合においても、得られる無機酸化物多孔膜の平均細孔半径や空隙率が十分でなく、イオン透過性が不足する結果、当該無機酸化物多孔膜を含むリチウムイオン二次電池のような非水電解液二次電池の負荷特性が不十分になってしまうという問題があった。
【0008】
さらに、近年では高密度・高出力容量である自動車用途等への応用も加速しており、非水電界液二次電池の各構成材料の薄膜化が求められており、無機酸化物多孔膜をより薄膜化すること、すなわち無機酸化物の目付量を少なくしても安全性を確保でき、適切な電池性能を維持する事が求められている。しかし、単純に無機酸化物の目付量を少なくするだけでは表面に存在する無機酸化物の量が更に減少し、無機酸化物の特徴である高い耐熱性という利点が十分に発揮されない、または大幅に損なわれ上記安全性が十分に確保できないという問題も顕在化している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
かかる状況下、本発明の目的は、リチウムイオン二次電池に代表される非水電界液二次電池を構成する正極、負極またはセパレーターの少なくとも一つの表面に、少ない目付量でも優れた耐熱性と絶縁性および膜強度を有し、かつ、十分なイオン透過性を与えることができる空隙率を有する無機酸化物多孔膜を形成するために好適な無機酸化物粉末を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、無機酸化物多孔膜を構成する無機酸化物粉末の特殊な形状(3次元粒子凹凸度)を維持しながら微粒化させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1>
1)平均3次元粒子凹凸度が3.6以上
かつ、
2)粒径0.3μm未満の粒子の個数存在割合が50%以上
であることを特徴とする無機酸化物粉末。
<2> BET比表面積が6.0m2/g以上である前記<1>に記載の無機酸化物粉末。
<3> 無機酸化物がαアルミナである前記<1>または<2>に記載の無機酸化物粉末。
<4> 前記<1>〜<3>のいずれかに記載の無機酸化物粉末とバインダーと溶媒とを含むことを特徴とする無機酸化物スラリー。
<5> 前記<1>〜<3>のいずれかに記載の無機酸化物粉末を含有してなる絶縁性を有する無機酸化物多孔膜が、正極、負極またはセパレーターの少なくとも一つの表面に形成されてなることを特徴とする非水電解液二次電池。
<6> 前記無機酸化物多孔膜における全ての塗膜内細孔の塗膜内細孔体積の合計に対する、塗膜内細孔径0.2μm以下の塗膜内細孔の塗膜内細孔体積の合計の割合が35%以上である前記<5>に記載の非水電解液二次電池。
<7> 前記<4>に記載の無機酸化物スラリーを正極、負極またはセパレーターの少なくとも一つの表面に塗工した後、乾燥させて無機酸化物多孔膜を形成する工程を含むことを特徴とする非水電解液二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少ない目付量でも優れた耐熱性と絶縁性および膜強度を有し、かつ、十分なイオン透過性を与えることができる空隙率を有する無機酸化物多孔膜を形成するために好適な無機酸化物粉末が提供される。該無機酸化物粉末で形成された無機酸化物多孔膜は、イオン透過性に優れるため負荷特性に優れ、かつ、高い耐熱性と膜強度を有するため、該無機酸化物多孔膜を正極、負極またはセパレーターの少なくとも一つの表面に備えた非水電解液二次電池は、電池性能と安全性を両立できる二次電池となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】3次元粒子凹凸度の説明のための模式図である。
図2】塗膜内細孔径および塗膜内細孔体積の説明のための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0015】
本発明は、
1)平均3次元粒子凹凸度が3.6以上
かつ、
2)粒径0.3μm未満の粒子の個数存在割合が50%以上
であることを特徴とする無機酸化物粉末。(以下、「本発明の無機酸化物粉末」あるいは単に「無機酸化物粉末」と称す場合がある。)に係るものである。
【0016】
本発明の無機酸化物粉末は、電気的に絶縁性を有する物質であれば特に限定はされず、その酸化物成分として、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム等を用いることができる。これらは1種でもよく、2種以上を混合してしてもよい。
中でも、酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましく、絶縁性や耐熱性に優れ、化学的に安定なαアルミナが特に好ましい。
【0017】
本発明の無機酸化物粉末は、無機酸化物粉末を構成する無機酸化物粒子が所定の形状(3次元粒子凹凸度)と大きさであることに特徴の一つがある。
ここで、「3次元粒子凹凸度」とは、無機酸化物粉末を構成する一つの無機酸化物粒子の形状パラメータであり、粒子体積V(μm3)及び粒子に外接する直方体の体積La×Lb×Lc(μm3)に基づき、以下の式(1)で規定される値である。
3次元粒子凹凸度=La×Lb×Lc/V ・・・・・(1)
ここで、Laは粒子の長径、Lbは粒子の中径、Lcは粒子の短径を意味し、La、Lb、Lcは直交する。図1に3次元粒子凹凸度の説明のための模式図を示す。上記式(1)を用いて、粒子100個以上から3次元粒子凹凸度を算出し、粒子形状の特徴を示す指標として「平均3次元粒子凹凸度」を得ることができる。ここでいう平均3次元粒子凹凸度とは、任意の100個以上の粒子について、3次元粒子凹凸度に対する累積体積分布をとった時の累積体積50%に対応する3次元粒子凹凸度の値である。
【0018】
また本発明の無機酸化物粉末は、大きい凹凸度を有しながらも粒径0.3μm未満の微粒が多いことも特徴の一つである。ここで、「粒径」とは無機酸化物粒子の一つのパラメータであり、無機酸化物粉末の粒子体積V(μm3)と同一の体積となる球の直径dのことであり、以下の式(2)を満たす値である。
V=4π/3×(d/2)3 ・・・・・(2)
上記式(2)を用いて粒子100個以上から「粒径」を算出し、0.3μm未満の粒子の個数存在割合を得ることができる。
【0019】
上記粒子体積V、粒子の長径La、粒子の中径Lb、粒子の短径Lc、球の直径dは、対象となる粒子の連続スライス像を3次元定量解析ソフト(例えば、ラトックシステムエンジニアリング製TRI/3D−PRT)にて解析して求めることができる。
また、粒子の連続スライス像は、所定量の無機酸化物粉末を分散させた粒子固定用樹脂(エポキシ樹脂等)を硬化させた評価用試料を、FIB加工で所定の間隔でスライスし、断面SEM像を得ることを繰り返して、所定の枚数の連続した断面SEM像を取得し、次いで、得られた断面SEM像を適当な画像解析ソフト(例えば、Visualization Sciences Group製Avizo ver.6.0)で位置補正を行い、得られた連続スライス像に対し3次元定量解析を行うことで得ることができる。
具体的な3次元粒子凹凸度や粒径の評価手順(連続スライス像用試料作製方法、3次元定量解析ソフトによるV、La、Lb、Lc、dの算出方法)は、アルミナ粒子を例として、実施例にて詳述する。
【0020】
上述の方法で規定される、本発明の無機酸化物粉末の平均3次元粒子凹凸度は3.6以上であることが特徴である。好ましくは3.8以上で、より好ましくは4.0以上である。また、平均3次元粒子凹凸度の上限は、10.0以下が好ましく、より好ましくは、6.0以下である。
平均3次元粒子凹凸度を3.6以上とすることにより、無機酸化物粉末をスラリー化して電極活物質(正極活物質あるいは負極活物質)とバインダーとを含む電極合剤層からなる電極(正極あるいは負極)の表面またはセパレーターの表面に塗工、乾燥して得られる無機酸化物多孔膜の空隙率やイオン透過性を向上させることができる。無機酸化物多孔膜の空隙率およびその強度を考慮すると、平均3次元粒子凹凸度は、10以下が好ましい。
【0021】
本発明の無機酸化物粉末は、大きい凹凸度を有しながらも上述の方法で規定される粒径0.3μmより小さい粒子を、無機酸化物粉末を構成する全粒子の数に対して(粒径0.3μm未満の粒子の個数存在割合)50%以上含むことが特徴であり、55%以上含むことが好ましく、60%以上含むことがより好ましく、65%以上含むことが最も好ましい。また、その上限は特に限定されず、100%であってもよい。大きい3次元粒子凹凸度と前記割合の微小な粒子を有する場合、無機酸化物粉末をスラリー化して電極活物質とバインダーとを含む電極合剤層やセパレーターの表面に塗工、乾燥して得られる無機酸化物多孔膜の空隙率が最適な範囲を維持でき、無機酸化物多孔膜のイオン透過性や電解液保持性能が良好となる。また、このような粒子からなる無機酸化物多孔膜は粒子同士の接点が増え、空隙率を維持しながらも強固な3次元ネットワークを形成できるため膜強度が高く、無機酸化物の粉落ちが少なくなることにより、例えばセパレーターの耐熱性や寸法安定性が向上し、より安全性の高い非水電解液二次電池となる。
【0022】
本発明の無機酸化物粉末の酸化物純度は通常99重量%以上であり、99.9重量%以上が好ましく、さらに好ましくは99.99重量%以上である。
なお、「酸化物純度」とは、本発明の無機酸化物粉末におけるすべての成分の合計を100重量%としたときに、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム等、あるいは、これらの混合物からなる酸化物成分の割合を意味する。その測定法は、基準となる酸化物成分がαアルミナである場合を例として実施例にて後述する。
特に本発明の無機酸化物粉末がαアルミナ粉末である場合、例えば電池用途においてその純度が99重量%を下回ると、αアルミナ粉末に含まれるSi、NaまたはFe等の不純物が多くなり、良好な電気絶縁性が得られなくなるばかりでなく、短絡の原因となる金属性異物の混入量が多くなり好ましくない。
【0023】
本発明の無機酸化物粉末のBET比表面積は、好ましくは6.0m2/g以上であり、より好ましくは6.5m2/g以上であり、最も好ましくは7.0m2/g以上である。BET比表面積が前記範囲にある場合、後述の方法にて無機酸化物多孔膜を作製する際に、バインダーとの結着性が向上し、強度の高い無機酸化物多孔膜が得られる。
【0024】
本発明の無機酸化物粉末の酸化物成分としては、アルミナが好ましく、さらにはαアルミナが特に好ましい。本発明の無機酸化物粉末がαアルミナである場合には、αアルミナ粉末とバインダーと溶媒を混合してαアルミナスラリーを作製して、電極活物質を含む電極合剤層からなる正極や負極の表面、あるいはセパレーターの表面に、αアルミナスラリーを塗工して塗膜形成を行うことができる。さらには圧延等の圧密処理を行っても良く、イオン伝導に適したαアルミナ多孔膜の空隙率等が十分に確保できると同時に、空隙率を好ましい範囲で任意に制御することも可能となる。
【0025】
本発明の無機酸化物粉末として好適であるαアルミナ粉末の製造方法は特に限定されないが、αアルミナ粉末の製造方法としては、例えば、アルミニウムアルコキシド法で製造された水酸化アルミニウムを焼成する方法;有機アルミニウムを使って、合成する方法;その原料に遷移アルミナまたは熱処理により遷移アルミナとなるアルミナ粉末を、塩化水素を含有する雰囲気ガス中にて焼成する方法;特開2010−150090号公報、特開2008−100903号公報、特開2002−047009号公報、特開2001−354413号公報などに記載の方法などが挙げられる。
【0026】
アルミニウムアルコキシド法としては、例えば、アルミニウムアルコキシドを、水を用いて加水分解してスラリー状、ゾル状、ゲル状の水酸化アルミニウムを得て、それを乾燥させることにより乾燥粉末状の水酸化アルミニウムを得る方法などが挙げられる。
乾燥させることにより得られる粉末状の水酸化アルミニウムは、軽装かさ密度が通常0.1〜0.4g/cm3程度のかさ高い粉末であり、好ましくは0.1〜0.2g/cm3の軽装かさ密度を有する。これらに限定されるだけではなく、得られた水酸化アルミニウム粉末を、後工程等で任意のかさ密度に高かさ化させて使用しても良い。
【0027】
水酸化アルミニウムの累計細孔容積(細孔半径が0.01μm以上1μm以下の範囲)は特に制限されないが、0.6mL/g以上の累計細孔容積を有することが好ましい。この場合、一次粒子が小さく、分散性に優れ、凝集粒子が少ないため、焼成して得られるアルミナ焼結体は、強固に結合した粉砕困難なアルミナ凝集粒子の発生を防ぐことができる。
【0028】
アルミニウムアルコキシド法により得られた乾燥粉末状の水酸化アルミニウムを焼成することにより、目的とするαアルミナ粉末を得ることができる。
水酸化アルミニウムの焼成は通常、焼成容器に充填して行われる。焼成容器としては、例えば鞘や匣鉢などが挙げられる。
また、焼成容器の材質は、得られるαアルミナ粉末の汚染防止の観点からアルミナであることが好ましく、特に高純度のαアルミナであるのがよい。ただし、焼成容器の耐熱性や使用サイクル特性の観点から、適切な範囲でシリカやマグネシア成分などを含むものを用いても良い。
水酸化アルミニウムの焼成容器への充填方法は特に制限されないが、自重で充填しても良いし、圧密してから充填しても良い。
【0029】
水酸化アルミニウムの焼成に用いる焼成炉としては、例えば、トンネルキルン、回分式通気流型箱型焼成炉、回分式並行流型箱型焼成炉などに代表される材料静置型焼成炉、ロータリーキルンまたは電気炉などが挙げられる。
【0030】
水酸化アルミニウムの焼成温度、焼成温度までの昇温速度及び焼成時間は、所望の物性を有するαアルミナとなるように適宜選定する。
水酸化アルミニウムの焼成温度は、例えば1000℃以上1450℃以下、好ましくは1000℃以上1350℃以下であり、この焼成温度まで昇温するときの昇温速度は、通常30℃/時間以上500℃/時間以下であり、水酸化アルミニウムの焼成時間は、通常0.5時間以上24時間以内、好ましくは1時間以上20時間以内である。
【0031】
水酸化アルミニウムの焼成は、例えば大気雰囲気中の他、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で焼成してもよく、プロパンガスなどの燃焼によって焼成するガス炉のように、水蒸気分圧が高い雰囲気中で焼成しても良い。通常、水蒸気分圧が高い雰囲気中で焼成すると大気雰囲気中とは違い、その水蒸気の効果により得られる粒子は焼き締まり易くなる。
【0032】
得られた焼成後のαアルミナ粉末は、平均粒径が10μmを超えた状態で凝集している場合がある。その場合は粒子の形状を損なわない程度に解砕することが好ましい。
その場合の解砕は、例えば振動ミル、ジェットミルなどの公知の装置を用いて行うことができ、乾式状態で解砕する方法、および、湿式状態で解砕する方法のいずれも採用することができる。しかしセラミックスボールなどのメディアを用いた解砕ではメディア摩耗粉の混入、メディアと無機酸化物粉末との接触による無機酸化物粉末への不純物汚染またはメディアと無機酸化物粉末との衝突による無機酸化物粉末の凹凸度が低下するなどの問題が起こるため、メディアレス解砕を行う方が好ましい。また、乾式状態で解砕する場合において生産性向上を目的として公知の助剤を添加しても良い。
【0033】
本発明の無機酸化物粉末は、表面処理等が施されていても良い。表面処理方法としては特に限定されないが、カップリング剤、界面活性剤などの表面処理剤を用いる方法が挙げられる。カップリング剤として、その分子構造内にアミノ基、エポキシ基、イソシアネート基などの官能基を有していても良い。これらの官能基を有するカップリング剤で無機酸化物粉末を表面処理することにより、バインダーとの結着性が向上する、後述の無機酸化物スラリー中の無機酸化物粉末の分散性が向上するなどの効果がある。
【0034】
本発明の無機酸化物スラリーは、上述の本発明の無機酸化物粉末、バインダー及び溶媒を含んでなる。
バインダーとしては公知のものを使用することができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル等のポリアクリル酸誘導体;ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル等のポリメタクリル酸誘導体;ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース(以下、CMC)、ポリアクリロニトリル及びその誘導体、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂等やこれらの塩でも用いることができ、単独あるいは2種類以上を混合しても良い。
また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸及びヘキサジエンより選択される2種類以上の材料の共重合体を用いてもよい。
溶媒としては、公知のものを使用することができ、具体的には、水、アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、キシレン、シクロヘキサノンまたはこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0035】
本発明の無機酸化物スラリーにおけるバインダーの含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明の無機酸化物粉末100重量部に対して、0.1〜20重量部であることが好ましい。また、本発明の無機酸化物スラリーにおける溶媒の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明の無機酸化物粉末100重量部に対して、10〜500重量部であることが好ましい。
【0036】
また、本発明の無機酸化物スラリーには、上記成分のほかにも分散安定化や塗工性の向上などを目的として、分散剤、増粘剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、酸やアルカリを含むpH調整剤、電解液分解などの副反応抑制等の機能を有する各種添加剤などを加えてもよい。これらの添加剤は、非水電解液二次電池の使用範囲において化学的に安定であり、電池反応に大きく影響しなければ特に限定されない。また、これらの各種添加剤は無機酸化物多孔膜形成時に除去できるものが好ましいが、多孔膜内に残存してもよい。それぞれの添加剤の含有量は特に限定されるものではないが、例えば、本発明の無機酸化物粉末100重量部に対して、10重量部以下であることが好ましい。
【0037】
本発明の無機酸化物粉末、バインダー及び溶媒を混合し、分散させることにより本発明の無機酸化物スラリーを調製することができる。前記無機酸化物スラリーの分散方法は特に限定されるものではなく、公知のプラネタリーミキサーなどによる攪拌方式や超音波照射による分散方法を用いることができる。
【0038】
このようにして得られた無機酸化物スラリーから製造される無機酸化物多孔膜は、耐熱性が高く、絶縁性である。この無機酸化物多孔膜は、正極、負極またはセパレーターの少なくとも一つの表面に形成され、正極、負極およびセパレーターと共に積層して形成した電池群(積層型電池群)、又は無機酸化物多孔膜を、正極、負極およびセパレーターと共に積層して巻回して形成した電極群(巻回型電池群)と、電解液とを含む非水電解液二次電池に好適に用いられる。
このような非水電解液二次電池を好適に製造する方法としては、電極活物質(正極活物質あるいは負極活物質)とバインダーとを含む電極合剤層からなる正極および/または負極の表面に上記の無機酸化物スラリーを塗工、乾燥させて、無機酸化物多孔膜を形成する工程を含む製造方法が挙げられる。また、正極および/または負極の表面ではなく、セパレーターの表面に上記の無機酸化物スラリーを塗工、乾燥させて、無機酸化物多孔膜を形成する工程を含む製造方法でもよい。
より具体的な製造方法として、例えば、負極に無機酸化物多孔膜を形成した巻回型電池群を含む非水電解液二次電池の製法の場合、無機酸化物多孔膜を表面に付与した負極リード接合部に負極リードの一端を、正極リード接合部に負極リードの一端を接合し、正極と負極とをセパレーターを介して積層、巻回して巻回型電極群を構成し、この電極群を上部と下部の絶縁リングではさまれた状態で電池缶に収納して、電解液を注入後、電池蓋にて塞ぐ方法が挙げられる。
【0039】
前記無機酸化物スラリーを、正極または負極活物質とバインダーを含んだ電極合剤層表面、あるいはセパレーター表面に塗工する方法は特には限定されず、例えば、公知のドクターブレード法やグラビア印刷法等を使用することができる。乾燥方法も特に限定されず、公知の熱風乾燥、真空乾燥等を使用することができる。その際に得られる無機酸化物多孔膜の厚みは、好ましくは0.3〜20μm、より好ましくは0.5〜10μm程度である。
【0040】
非水電解液二次電池の正極、負極、セパレーター、電解液等の電池構成材料は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、国際公開第09/041722号パンフレット等の公知文献にて開示されたものを用いることができる。
【0041】
上述の製造方法にて製造された本発明の非水電解液二次電池は、本発明の無機酸化物粉末から構成される無機酸化物多孔膜を含む。
【0042】
本発明の無機酸化物粉末から構成される無機酸化物多孔膜は、塗膜内に微細な細孔を有することに特徴の一つがある。なお、本明細書において、「無機酸化物多孔膜」を「塗膜」と称する場合がある。
ここで、当該無機酸化物多孔膜(塗膜)の性状は、以下に説明する「塗膜内細孔径」および「塗膜内細孔体積」をパラメータとして表すことができる。図2に塗膜内細孔径および塗膜内細孔体積の説明のための模式図を示す。
【0043】
「塗膜内細孔径」とは、3次元粒子凹凸度と同様にして無機酸化物多孔膜の3次元解析から求めることができるパラメータのひとつであり、図2に示す空隙の分岐点間を1つの細孔とみなし、これを塗膜内細孔(以下、単に「細孔」と記載する場合がある。)と定義したときに、「塗膜内細孔径」は、図2に示す細孔の短径(Thickness)と長径(Width)の和を2で除した以下の式(3)で規定される値である。
塗膜内細孔径=(Thickness+Width)/2 ・・・・・(3)
【0044】
なお、塗膜内細孔径を求めるに当たり、3次元解析を用いて、無機酸化物多孔膜を2階調化することで、粒子部分と空隙部分を識別する。識別された空隙部分について、ソフト上で細線化処理を行い、3個以上のネットワークまたは幅の異なるネットワークの結合点を塗膜内細孔の分岐点とし、すべての分岐点間の塗膜内細孔についてそれぞれ短径(Thickness)、長径(Width)、分岐点間距離(Length)を算出する。
【0045】
塗膜内細孔体積(以下、単に「細孔体積」と記載する場合がある。)は、短径(Thickness)と長径(Width)から細孔の断面積(CS)を以下の式(4)で算出し、得られた断面積と細孔の長さ(分岐点間距離(Length))から以下の式(5)で規定される値である。
CS=(Thickness/2)×(Width/2)×π ・・・・・(4)
塗膜内細孔体積=CS×Length ・・・・・(5)
【0046】
また、このようにして得られた塗膜内細孔における細孔径及び細孔体積から、塗膜内における塗膜内細孔分布を求めることができ、特定の範囲の細孔径を有する細孔の体積割合を求めることができる。
【0047】
本発明に係る無機酸化物多孔膜が、より優れた耐熱性と絶縁性と膜強度を有するためには、塗膜内細孔のうち、細孔径0.2μm以下の細孔の体積割合が多いものがよい。より詳しくは、この細孔径0.2μm以下の細孔の体積割合を、本発明に係る無機酸化物多孔膜(塗膜)における全ての塗膜内細孔の細孔体積の合計に対する、細孔径0.2μm以下の細孔の細孔体積の合計の割合((「細孔径0.2μm以下の細孔の細孔体積の合計」/「全ての塗膜内細孔の細孔体積の合計」)で規定したときに、当該割合が35%以上が好ましく、40%以上がさらに好ましく、50%以上(100%含む)が最も好ましい。
細孔径0.2μm以下の細孔の体積割合が上記要件を満たす場合、本発明に係る無機酸化物多孔膜は、より優れた耐熱性と絶縁性と膜強度を有する。そのため、このような無機酸化物多孔膜を備えた非水電解液二次電池は、セパレーターのシャットダウン温度においても耐熱性及び寸法安定性に優れ、より安全性に優れたものとなる。
【0048】
具体的な塗膜内細孔径、塗膜内細孔体積の評価手順(連続スライス像用試料作製方法、3次元定量解析ソフトによる各値の算出方法)は、アルミナ塗膜からなる無機酸化物多孔膜を例として、実施例にて詳述する。
【0049】
また、本発明の無機酸化物粉末から構成される無機酸化物多孔膜は、充分な空隙率を有することも特徴の一つである。本発明に係る無機酸化物多孔膜は、以下に規定する空隙率が、30〜75%が好ましく、35〜70%がより好ましい。
このように空隙率が上記要件を満たす場合、本発明に係る無機酸化物多孔膜は、より優れたイオン透過性を有する。そのため、このような無機酸化物多孔膜を備えた非水電解液二次電池は、イオン透過性に優れたものとなる。
ここで、本発明における「空隙率」は無機酸化物多孔膜内の空隙を示すパラメータであり、解析領域内の無機酸化物多孔膜の3次元解析から求めることができる。3次元解析を用いて、粒子部分と空隙部分に2階調化して識別された内の空隙部分について、空隙部分の総体積(BV)を解析領域の総体積(TV)で除した以下の式(6)で規定される値である。
空隙率=BV/TV ・・・・・(6)
【0050】
具体的な空隙率の評価手順(連続スライス像用試料作製方法、3次元定量解析ソフトによる各値の算出方法)は、アルミナ塗膜からなる無機酸化物多孔膜を例として、実施例にて詳述する。
【0051】
以上のように、本発明に係る無機酸化物多孔膜において上記の細孔の体積割合や空隙率が上記要件を満たす場合、より優れた耐熱性と絶縁性と膜強度を有しながらも、高いイオン透過性をもつことから、このような無機酸化物多孔膜を備えた非水電解液二次電池は、安全性と電池性能を両立できる優れたものとなる。
【0052】
この無機酸化物多孔膜を、例えばセパレーター上に形成させた積層多孔質フィルムの場合の電池性能として透気度が良く使用され、通常、ガーレー値で表される。一方の面から他方の面に空気が透過する秒数で表され、積層多孔質フィルムのガーレー値はセパレーターである基材多孔質フィルムにもよるが、30〜1000秒/100ccの範囲が好ましく、50〜500秒/100ccがより好ましく、50〜350秒/100ccが最も好ましい。
【0053】
この無機酸化物多孔膜を、例えばセパレーター上に形成させた積層多孔質フィルムの場合の安全性評価としてシャットダウンが生じる高温域における積層多孔質フィルムの寸法安定性がよく使用され、通常、加熱形状維持率で表される。一般的に積層多孔質フィルムの加熱形状維持率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が最も好ましい。なおここで言うシャットダウンが生じる高温域とは、80〜180℃であり、130〜170℃程度を指すこともある。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の評価方法は次の通りである。
【0055】
(酸化物純度)
無機酸化物粉末の酸化物純度(重量%)は、基準となる酸化物(αアルミナ)の重量と、該基準となる酸化物中に含まれるSiO2、Na2O、MgO、CuO、Fe23、ZrO2の重量の総和との合計を100(重量%)として、以下の算出式から求めた。なお、SiO2、Na2O、MgO、CuO、Fe23、ZrO2を基準となる酸化物(αアルミナ)に対する不純物と定義する。
酸化物純度(重量%)=100−不純物の重量の総和(重量%)
不純物であるSiO2、Na2O、MgO、CuO、Fe23の重量は、評価試料を固体発光分光法にて測定して得たSi、Na、Mg、Cu、Feの含有量を、残りの不純物であるZrO2の重量は、評価試料をICP発光法にて測定して得たZrの含有量を、それぞれの元素に対応する酸化物(SiO2、Na2O、MgO、CuO、Fe23、ZrO2)の重量に換算することで求めた。
【0056】
(BET比表面積)
比表面積測定装置として、島津製作所社製の「フロソーブII 2300」を使用し、JIS−Z8830(2013)に規定された方法に従って、窒素吸着法一点法により求めた。
【0057】
(平均3次元粒子凹凸度、粒径)
エポキシ樹脂100重量部に、分散剤2重量部とアルミナ粒子粉末2重量部を分散させ、真空脱気した後、硬化剤12重量部を入れ、得られたアルミナ分散エポキシ樹脂をシリコン型に流し込み硬化させた。
硬化後の試料を試料台に固定後、Pt−Pd蒸着し、FIB−SEM〔FEI製(HELIOS600)〕にセットし、加速電圧30kVでFIB加工により断面を作製し、その断面を加速電圧2.1kVでSEM観察した。観察後、試料奥行き方向に20nmの厚さでFIB加工して新しく断面を作製し、その断面をSEM観察した。このように20nm間隔でFIB加工、断面SEM観察を一定間隔で繰り返して100枚以上の連続した像を取得し、画像解析ソフト〔Visualization Sciences Group製Avizo ver.6.0〕で位置補正を行い、連続スライス像を得た。スケールはX、Y軸19nm/pix、Z軸20nm/pixとした。
得られた連続スライス像に対し、アルミナ粒子の3次元定量解析を行い、3次元粒子凹凸度及び粒径を算出した。3次元定量解析には、定量解析ソフトTRI/3D−PRT(ラトックシステムエンジニアリング製)を使用した。
3次元定量解析は、まず連続スライス像をTRI/3D−PRT上で開き、メディアンフィルターを適用しノイズ除去を行い、次に3次元的に孤立した粒子をそれぞれ識別してラベル化した後、測定領域外周で途切れた粒子を削除した。
上記処理で削除されずに残った粒子100個以上から、任意の粒子の粒子体積V、粒子の長径La、粒子の中径Lb、粒子の短径Lcを求め、上記式(1)、(2)から粒径dと平均3次元粒子凹凸度を算出した。なお、平均3次元粒子凹凸度算出の際は粒径0.3μm未満と1μm超過の粒子を除外して算出した。すなわち、平均3次元粒子凹凸度を算出するにあたっては、粒径が0.3μm以上1μm以下の粒子の値として求めた。
【0058】
(基材多孔質フィルム(セパレーター)の作製)
超高分子量ポリエチレン粉末(340M、三井化学株式会社製)を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞株式会社製)30重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.4重量部、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.1重量部、ステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに全体積に対して38体積%となるように平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延しシートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃で6倍に延伸して基材多孔質フィルム(厚み:16.2μm、目付量:7.3g/m2、透気度:140秒/100cc)を得た。
【0059】
(評価用積層多孔質フィルムの作製)
無機酸化物多孔膜の評価用の試料フィルムとして、以下の方法で評価用積層多孔質フィルムを作製した。
ダイセルファインケム株式会社製CMC;品番1110(3重量部)、イソプロピルアルコール(51.6重量部)、純水(292重量部)及び基準となる酸化物(αアルミナ)粉末(100重量部)を順に混合撹拌し10分間超音波分散させた後に、クレアミクス(エム・テクニック株式会社製「CLM−0.8S」)で21分間循環分散した後に、目開き10μmの網メッシュでろ過することでスラリーを調製した。
次いで、基材多孔質フィルム上に、バーコーター(#20)にて前記スラリーを塗工した後に乾燥温度65℃で乾燥し、基材多孔質フィルム表面に無機酸化物多孔膜が形成された評価用積層多孔質フィルムを得た。
【0060】
(スラリー粘度)
評価用積層多孔質フィルムを作製する際に使用したスラリーの粘度測定装置として、東機産業株式会社製「TVB10M」を使用し、No.3のローターを6rpmで回転させて測定した。
【0061】
(塗膜内細孔径、塗膜内細孔体積及び空隙率)
エポキシ樹脂に評価用積層多孔質フィルムを含浸させ硬化させた。硬化後の試料を試料台に固定後、FIB−SEM〔FEI製(HELIOS600)〕でFIB加工して断面を作製し、その断面(無機酸化物多孔膜の表面)を加速電圧2.1kVでSEM観察した。観察後、試料奥行き方向(無機酸化物多孔膜の膜厚方向)に20nmの厚さでFIB加工して新しく断面を作製し、その断面をSEM観察した。このように20nm間隔でFIB加工、断面SEM観察を一定間隔で繰り返して無機酸化物多孔膜の厚さ全部を含んだ連続スライス像を取得し、画像解析ソフト〔Visualization Sciences Group製Avizo ver.6.0〕で位置補正を行い、連続スライス像を得た。スケールはX、Y軸10.4nm/pix、Z軸20nm/pixとした。
得られた連続スライス像に対し、定量解析ソフトTRI/3D−BON(ラトックシステムエンジニアリング製)で塗膜の3次元定量解析を行い、塗膜内細孔径、塗膜内細孔体積及び空隙率を算出した。
3次元定量解析は、まず連続スライス像をTRI/3D−BON上で開き、メディアンフィルターを適用しノイズ除去を行い、次にAuto−LWで2階調化を行い、粒子部分と空隙部分を識別した。
上記処理で識別された空隙部分について、ソフト上で細線化処理を行い、短径Thicknes、長径Width、分岐点間距離Length、空隙部分の総体積BV、解析領域の総体積TVを求めて、塗膜内細孔を規定し、上記式(3)、(5)及び(6)から塗膜内細孔径、塗膜内細孔体積及び空隙率を算出した。
【0062】
(細孔径0.2μm以下の細孔の体積割合)
上記方法で得られた塗膜内細孔径、塗膜内細孔体積から塗膜内細孔分布を求め、塗膜内細孔のうち、細孔径0.2μm以下の細孔の体積割合(「細孔径0.2μm以下の細孔の細孔体積の合計」/「全ての塗膜内細孔の細孔体積の合計」)を算出した。なお、この塗膜内細孔分布(細孔径0.2μm以下の細孔の体積割合)は、17.6μm×11.3μm×4.8μm(954.6μm3)の領域を測定範囲とした。
【0063】
(無機酸化物多孔膜の塗膜厚み)
厚み(単位:μm)は、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測定機で測定した。無機酸化物多孔膜の塗膜厚みは、積層多孔質フィルムの厚みから基材多孔質フィルムの厚みを差し引いた上で算出した。
【0064】
(無機酸化物多孔膜の目付量)
積層多孔質フィルムを8cm×8cmの正方形に切り出し、重量W(g)を測定し、積層多孔質フィルムの目付量(g/m2)=W/(0.08×0.08)をまず算出した。
ここから基材多孔質フィルムの目付量を差し引いて、無機酸化物多孔膜の目付量を算出した。
【0065】
(加熱形状維持率)
積層多孔質フィルムを8cm×8cmの正方形に切り出し、その中に6cm×6cmの正方形を書き入れたフィルムを紙に挟んで、150℃に加熱したオーブンに入れた。1時間後、オーブンからフィルムを取り出し、書き入れた四角の辺の寸法を測定し、加熱形状維持率を計算した。算出方法は以下の通りである。
MD方向の加熱前の書き入れ線長さ:L1
MD方向の加熱後の書き入れ線長さ:L2
MD加熱形状維持率(%)=(L2/L1)×100
なお、L1とL2はそれぞれ、書き入れた正方形のMD方向の左右両辺の平均値とした。ここで言うMD方向とは、基材多孔質フィルムシート成型時の長尺方向を指す。
【0066】
(透気度)
JIS P8117(2009)に準拠して、株式会社東洋精機製作所製のガーレー式デンソメータで積層多孔質フィルムのガーレー値を測定した。
【0067】
(無機酸化物多孔膜の粉落ち性(粉落ち割合))
新東科学株式会社製往復磨耗試験機を用いた表面擦り試験で測定した。往復磨耗試験機の擦り部分に白布(カナキン3号)を1枚付け、白布と積層多孔質フィルムの無機酸化物多孔膜側を50g/m2の加重をかけて接触させ、6000mm/分(50mmストローク)の速度でMD方向に100回往復させた。上述の無機酸化物多孔膜の目付量(g/m2)と擦った部分の総面積(m2)から擦った部分に存在する無機酸化物多孔膜の重量B(g)を算出し、往復磨耗試験前後の積層多孔質フィルム重量から次式を用いて粉落ち割合(重量%)を求めた。粉落ち割合(重量%)が低い方が膜強度が高いと言える。
粉落ち割合(重量%)={(往復磨耗前のフィルム重量)−(往復磨耗後のフィルム重量)}/B×100
【0068】
(実施例1)
先ず、純度99.99%のアルミニウムを原料にして調製したアルミニウムイソプロポキシドを、水を用いて加水分解してスラリー状の水酸化アルミニウムを得て、これを乾燥させることにより軽装かさ密度が0.1g/cm3の乾燥粉末状の水酸化アルミニウムを得た。
さらに、この乾燥粉末状の水酸化アルミニウムを電気炉で大気雰囲気下1200℃、2.5時間保持して焼成し、凝集粒をジェットミルにて解砕してαアルミナ粉末(1)を得た。
【0069】
得られたαアルミナ粉末(1)の不純物量はSi=8ppm、Fe=31ppm、Cu=1ppm以下、Na=2ppm、Mg=1ppm以下、Zr=10ppm以下であり、アルミナを基準とする酸化物純度は99.99重量%以上であった。また、BET比表面積は7.5m2/gであり、FIB−SEMによる100個以上の粒子の平均3次元粒子凹凸度が5.0で、粒径0.3μm未満の粒子の個数存在割合は77.0%であった。
さらに、前記αアルミナ粉末(1)から、上述した方法によりαアルミナスラリーを調製すると、粘度は48mPa・sであった。このスラリーを基材多孔質フィルム上に塗工して、無機酸化物多孔膜が表面に形成された評価用積層多孔質フィルムを作製した。FIB−SEMによる該無機酸化物多孔膜の空隙率は52%であり、塗膜内細孔分布(細孔径0.2μm以下の細孔の体積割合)は61.9%であった。また、得られた積層多孔質フィルムの加熱形状維持率は93%であった。その他、塗膜厚み、目付量、透気度や粉落ち性などの評価結果は表1,2に示す。得られた無機酸化物多孔膜はイオン透過に対する十分な空隙率と塗膜内細孔径や透気度、かつ、高い耐熱性と膜強度を持つことから、この無機酸化物粉末を用いることで、少ない目付量でも電池性能が良好で、かつ安全性の高い非水電界液二次電池が得られることがわかる。
【0070】
(比較例1)
実施例1で得たαアルミナ粉末(1)の代わりに、焼成条件だけをプロパンガス等の燃焼によって焼成するガス炉で1220℃4時間保持に変えたαアルミナ粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行ってαアルミナ粉末(2)を得た。
【0071】
得られたαアルミナ粉末(2)の不純物量はSi=5ppm、Fe=4ppm、Cu=1ppm以下、Na=2ppm、Mg=1ppm、Zr=10ppm以下であり、アルミナを基準とする酸化物純度は99.99重量%以上であった。また、BET比表面積は4.4m2/gであり、FIB−SEMによる100個以上の粒子の平均3次元粒子凹凸度が4.4で、粒径0.3μm未満の粒子の個数存在割合は25.1%であった。
さらに、前記αアルミナ粉末(2)から上述の方法により調製したスラリー粘度は53mPa・sであった。このスラリーを基材多孔質フィルム上に塗工し、無機酸化物多孔膜が表面に形成された評価用積層多孔質フィルムを作製した。FIB−SEMによる該無機酸化物多孔膜の空隙率は54%であり、塗膜内細孔分布(細孔径0.2μm以下の細孔の体積割合)は21.4%であった。また、得られた積層多孔質フィルムの加熱形状維持率は32%であった。その他、塗膜厚み、目付量、透気度や粉落ち性などの評価結果も表1,2に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の無機酸化物粉末は、非水電解液二次電池用途として、イオン導電性に優れる高空隙率かつ高い膜強度および耐熱性を有する無機酸化物多孔膜を提供できる。該無機酸化物多孔膜は、少ない目付量でもイオン導電性や耐熱性に優れ、該無機酸化物多孔膜を正極、負極またはセパレーターの少なくとも一つの表面に備えた非水電解液二次電池は、電池性能と安全性に優れた二次電池となるため、工業的に有望である。
図1
図2