(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(B)においては、前記複数の単芯ファイバ素線を前記界面活性剤を含む溶液を用いて束ねながら前記クラッドパイプの前記中空部に挿入して、前記バンドルプリフォームを得る、請求項1に記載のプラスチックイメージファイバの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(プラスチックイメージファイバ(PIF))
図面を参照して、本発明に係る一実施形態のPIFの構成について、説明する。
図1Aは、模式断面図である。
【0018】
本実施形態のPIF20は、後記製造方法によって製造されたものである。
図1Aに示すように、本実施形態のPIF20は、クラッド22と、クラッド22の中に形成された複数のコア21とを有する複芯ファイバからなり、個々のコア21が個々の画素をなす
プラスチックイメージファイバである。
PIF20は、断面視において、海部であるクラッド22の中に、複数のコア21が島状に形成された海島構造を有する。
【0019】
PIF20においては、個々のコア21内に光が通る。個々のコア21内に光を閉じ込めて良好に導光させるためには、コア21の屈折率がクラッド22の屈折率よりも相対的に大きいことが必要である。
コア21は比較的高屈折率の透光性ポリマーにより構成され、クラッド22は比較的低屈折率の透光性ポリマーにより構成される。
【0020】
コア材料/クラッド材料の組合せとしては、
ポリスチレン(PS、例えば屈折率1.59程度)/ポリメチルメタクリレート(PMMA、例えば屈折率1.494程度)、
ポリベンジルメタクリレート(PBzMA、例えば屈折率1.57程度)/ポリメチルメタクリレート(PMMA、例えば屈折率1.494程度)、
および、
ポリメチルメタクリレート(PMMA、例えば屈折率1.494程度)/メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル(例えば屈折率1.42程度)等が好ましい。
【0021】
PIF20は、コア21内の屈折率分布が一様なステップインデックス(SI)型でもよいし、コア21内の屈折率分布がゆるやかに変化したグレーデッドインデックス(GI)型でもよい。
【0022】
PIF20には、画像伝送に寄与しないクラッド材料からなる外縁部分が存在する。
この外縁部分を除く部分が、実質的に画像伝送に寄与する実効部分である。
図1Aには、PIF20の中心を中心点としてすべての画素(コア21)を含む最小の仮想円24を描いてある。この仮想円24の径をPIF20の実効径D1と定義し、仮想円24の断面積をPIF20の実効断面積と定義する。図中、符号D2はPIF20の外径である。
【0023】
図1Aにおいて、符号maはコア径を示し、符号mpはコアピッチ(画素ピッチ)を示す。PIF20において、コア数が画素数Nである。これらのパラメータは所望の仕様に応じて設計される。
図1Aでは、簡略化して、コア数を実際よりも少なく図示してある。
【0024】
PIF20においては、個々のコア21の周りに個々のコア21を被覆するクラッド層が存在するが、個々のコア21を被覆する個々のクラッド層と外縁部分のクラッド層とは互いに一体化され、それぞれを明確に識別することができない。
ただし、
図1Aには、個々のコア21を被覆する個々のクラッド層を、「仮想クラッド層23」として図示してある。なお、説明の便宜上、「仮想クラッド層23」は単にクラッド層と表記する場合もある。
図中、互いに隣接する2つのコア21の離間距離を2×mtとして図示してある。
ここで、mtは、個々のコア21を被覆する仮想クラッド層23の厚み(仮想クラッド層厚)である。
【0025】
PIF20において、1つの画素は、1つのコア21とこれを被覆する仮想クラッド層23とからなる。
画素径は、ma+2×mtである。
1つの画素において、コア21が実質的な点灯部分である。
【0026】
PIF20の画素数N(コア数)は用途等に応じて設計される。
画素数Nが多くなる程、高精細となる。
内視鏡等の用途において、画素数Nは、好ましくは2000以上、より好ましくは5200以上、より好ましくは10000以上、より好ましくは20000以上、より好ましくは30000以上、特に好ましくは40000以上である。
【0027】
一般に、PIF20において、画素径(コア径)および画素数(コア数)が同一条件であれば、点灯画素の平均的な明るさ(点灯コアおよびこれを被覆するクラッド層との平均的な明るさ)およびクロストークと呼ばれる画像のボケ度合いは、コア面積比率mEと相関する。
コア面積比率mEが大きい程、クラッド層の割合が小さくなるので、点灯画素の平均的な明るさが向上する一方、クロストークにより画像のボケ度合いが大きくなり画質が低下する傾向がある。反対に、コア面積比率mEが小さい程、クラッド層の割合が大きくなるので、クロストークが抑制されて画像のボケ度合いが小さくなり画質が向上する一方、点灯画素の平均的な明るさが低下する傾向がある。
【0028】
PIF20におけるコア面積比率mEは、PIF20の実効断面積(仮想円24の面積)に占めるすべてのコア21の総断面積の比率であり、一般式:[すべてのコアの総断面積]/[PIFの実効断面積]で求められる。
【0029】
上記のように、PIF20には、画像伝送に寄与しないクラッド材料からなる外縁部分(仮想円24より外側部分)が存在するが、コア面積比率mEの算出にあたっては、この外縁部分を除外してある。これによって、実質的に画像伝送に寄与する実効部分に特化して、パラメータの好適な範囲を議論することができる。
【0030】
PIF20においては、断面視において、複数のコア21は六方稠密に整然と配列している。
詳細については後記するが、本発明に係る製造方法によれば、画素数Nが5200以上であっても、複数の画素を六方稠密に整然と配列させることができ、画素数Nに対して断面視で六方稠密に配列している複数の画素の数の割合を90%以上または95%以上とすることができる。
本発明に係る製造方法では、画素数Nが10000以上、20000以上、30000以上、あるいは40000以上であっても、画素数Nに対して断面視で六方稠密に配列している複数の画素の数の割合を90%以上または95%以上とすることができる。
【0031】
本実施形態では、複数のコア21を自然に整然と配列させることができるため、PIF20の断面において、コア径ma、コアピッチmp、仮想クラッド層厚mt、およびコア面積比率mEには、ほとんどばらつきがない。
したがって、コア面積比率mEは、コア径ma、個々のコア21を被覆する仮想クラッド層23の厚み(仮想クラッド層厚)mt、およびコアピッチmpと相関し、下記式で求められる。
mE(%)=(ma/mp)
2×100、
mp=ma+2×mt。
【0032】
明るさおよびクロストークのバランスを考慮すると、PIF20のコア面積比率mEは好ましくは50〜62%であり、より好ましくは53〜60%である。
【0033】
PIF20において、外径は用途等に応じて設計される。
例えば医療用途において、内視鏡等ではPIF20はカテーテル管等の内部に挿入されるので、外径はカテーテル管等の内径より小さく設計される。
【0034】
PIF20において、外径が同一の条件において高精細とするには、画素数N(コア数)を大きくする必要がある。この場合、コア径maが小さくなる。ここで、コア面積比率mEが同じ条件のままコア径maを小さくすると、クロストークが発生する方向に向かう。そこで、クロストークを抑制するには、コア面積比率mEを小さくする必要がある。
すなわち、高精細化とクロストーク抑制の観点からは、コア径maが小さく、コア面積比率mEが小さいことが好ましい。
【0035】
PIF20のコア径maは、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下である。
製造容易性を考慮すれば、PIF20のコア径maは、好ましくは1μm以上、より好ましくは1.5μm以上、さらに好ましくは2μm以上、特に好ましくは3μm以上である。
【0036】
PIF20の仮想クラッド層厚mtは、所望のコア径maおよび所望のコア面積比率mEに応じて設計される。PIF20の仮想クラッド層厚mtは、好ましくは0.3〜1.0μmであり、より好ましくは0.5〜0.7μmである。
【0037】
PIF20の実効径D1は、所望の画素径(コア径ma)、所望の画素数N(コア数)、および所望のコア面積比率mEに応じて設計される。
画素径(コア径ma)および画素数N(コア数)が同一の条件であれば、外縁部分の厚み(=(D2−D1)/2)は薄い方が、PIF20の外径を小さくでき、好ましい。ただし、外縁部分の厚み(=(D2−D1)/2)が過小では、クラッドによる光閉じ込め効果が不充分となる恐れがある。
PIF20の外縁部分の厚み(=(D2−D1)/2)は、10〜30μmが好ましい。
【0038】
PIF20は、以上のように構成される。
【0039】
(PIFの製造方法)
以下、図面を参照して、PIF20の製造方法の一実施形態について、説明する。
図1Bは、バンドルプリフォームの模式断面図である。
図2は、コアロッドを第1のクラッドパイプの中空部に挿入している様子を示す模式斜視図である。
図3Aは、単芯ファイバ素線を製造する方法を示す模式図(左図)と、得られた単芯ファイバ素線の模式断面図(右図)である。
図3Bは、ファイバ素線束の模式斜視図である。
図3Cは、バンドルプリフォームの模式斜視図である。
図3Dは、バンドルプリフォームを用いてPIFを製造する方法を示す模式図である。
なお、図ごとに縮尺は適宜異ならせてある。
【0040】
(工程(A))
はじめに、
図3Aの右図に示すように、1つのコア14がクラッド層15で被覆された単芯ファイバ素線16を、PIF20の画素数Nに対応して複数用意する。
この工程では、PIF20のコア径maおよびコアピッチmpを均一化するために、同一仕様の単芯ファイバ素線16を複数用意することが好ましい。
単芯ファイバ素線16において、コア14はPIF20のコア21と同一材料(比較的高屈折率の透光性ポリマー)により構成され、クラッド層15はPIF20のクラッド22と同一材料(比較的低屈折率の透光性ポリマー)により構成される。
【0041】
単芯ファイバ素線16は以下のようにして製造される。
図2に示すように、コア材料(比較的高屈折率の透光性ポリマー)からなる1つのコアロッド11と、クラッド材料(比較的低屈折率の透光性ポリマー)からなる1つの第1のクラッドパイプ12とを用意する。
本明細書において、「ロッド」は内部に中空部を有しない円柱状部材であり、「パイプ」は内部に中空部を有する管状部材である。
コアロッド11の外径は、第1のクラッドパイプ12の内径より若干小さく設計される。
【0042】
コアロッド11および第1のクラッドパイプ12は、公知方法により製造される。
コアロッド11は例えば、ガラスアンプル等の有底筒状容器内で、1種または2種以上のモノマーを溶媒存在下で重合させることにより製造される。この方法では、製造に用いる容器の内径が、コアロッド11の外径となる。
第1のクラッドパイプ12は例えば、ガラスアンプル等の有底筒状容器内で、1種または2種以上のモノマーを溶媒存在下で遠心注型法により重合させることにより製造される。第1のクラッドパイプ12の製造では、1種または2種以上のモノマーの入った容器を中心軸の周りに回転させ、遠心力の作用で1種または2種以上のモノマーを容器の内壁面にへばりつかせた状態で重合させることで、パイプ状にポリマーを生成する。この方法では、製造に用いる容器の内径が、第1のクラッドパイプ12の外径となる。第1のクラッドパイプ12の厚みは、容器内に入れるモノマー等の材料の量および遠心力により調整される。
なお、後記する第2のクラッドパイプ18の製造方法は、用いる有底筒状容器の内径を変更し、また、材料の量および遠心力を必要に応じて変更する以外は、第1のクラッドパイプ12の製造方法と同様である。
【0043】
次に
図2に示すように、上記のコアロッド11を上記の第1のクラッドパイプ12の中空部に挿入して、単芯のクラッド/コア複合材13を得る。
【0044】
図2には、単芯のクラッド/コア複合材13において、中心軸から外周に向かう一方向(x方向)の屈折率ndの分布例を示してある。この例では、コアロッド11内の屈折率ndはx方向に対して一様であり、その値はn2である。第1のクラッドパイプ12の屈折率ndはx方向に対して一様であり、その値はn1である。ここで、n2>n1である。
コア14の屈折率n1、およびクラッド層15の屈折率n2は、モノマー組成および分子量等によって調整できる。
なお、コアロッド11はx方向に対して屈折率分布を有していてもよい。同様に、第1のクラッドパイプ12はx方向に対して屈折率分布を有していてもよい。
【0045】
得られた単芯のクラッド/コア複合材13を減圧雰囲気下、好ましくは真空雰囲気下で加熱して全体を一体化してから、次の線引きの工程に供する。
なお、減圧雰囲気好ましくは真空雰囲気の圧力および加熱温度は、公知方法と同様である。
【0046】
次に
図3Aの左図に示すように、得られた単芯のクラッド/コア複合材13を用い、単芯ファイバ素線の製造装置30を用いて、単芯ファイバ素線16を製造する。
【0047】
単芯ファイバ素線の製造装置30は、
単芯のクラッド/コア複合材13を保持し、かつ、その位置を調整することが可能な保持手段(図示略)と、
単芯のクラッド/コア複合材13の先端部を加熱する加熱手段31と、
加熱された単芯のクラッド/コア複合材13の先端部を線引きする線引き手段32と、
製造された単芯ファイバ素線16を所定の長さに切断する切断手段33とを備える。
【0048】
図示例において、加熱手段31は、単芯のクラッド/コア複合材13の先端部を挟んで互いに対向して配置された一対のヒータである。線引き手段32は、加熱された単芯のクラッド/コア複合材13の先端部を加圧挟持する一対の加圧ローラである。切断手段33はカッタである。
【0049】
単芯ファイバ素線の製造装置30において、製造される単芯ファイバ素線16のコア14とクラッド層15との間に空気等のガス、不純物、および異物が残ることを抑制するために、単芯ファイバ素線16の製造は、減圧雰囲気下、好ましくは真空雰囲気下で実施される。
すなわち、単芯ファイバ素線の製造装置30において、上記した保持手段(図示略)、加熱手段31、線引き手段32、および切断手段33は、内部を減圧好ましくは真空減圧することが可能な減圧容器好ましくは真空減圧容器内に配置される。
【0050】
図3Aに示すように、減圧雰囲気下、好ましくは真空雰囲気下で、単芯のクラッド/コア複合材13の先端部を加熱手段31によって加熱した後、線引き手段32により線引きし、切断手段33にて所定の長さに切断する。これら一連の工程によって、所定の長さの単芯ファイバ素線16が製造される。
なお、線引きの工程において、減圧雰囲気好ましくは真空雰囲気の圧力および加熱温度は、公知方法と同様である。
【0051】
図3Aの左図に示すように、単芯ファイバ素線16は、コアロッド11から形成された1つのコア14が第1のクラッドパイプ12から形成されたクラッド層15で被覆されたものである。
【0052】
単芯ファイバ素線16において、コア径をsa、クラッド層厚をstとし、単芯ファイバ素線16の外径をsdとし、コア面積比率をsEとする。
単芯ファイバ素線16の外径sdおよびコア面積比率sEは、下記式で表される。
sd=sa+2×st、
sE(%)=(sa/sd)
2×100。
【0053】
(工程(B))
次に
図3Cに示すように、PIF20の画素数Nに対応して用意された複数の単芯ファイバ素線16がクラッド材料からなる第2のクラッドパイプ18の中空部に挿入されたバンドルプリフォーム19を得る。
【0054】
図中、符号17は、複数の単芯ファイバ素線16の束(ファイバ素線束)である。
第2のクラッドパイプ18の内径は、ファイバ素線束17より若干大きいサイズに設計される。
第2のクラッドパイプ18は主として、PIF20の外縁部分となる。
【0055】
図1Bにバンドルプリフォーム19の拡大模式断面図を示す。
バンドルプリフォーム19は、1つのコア14とこれを被覆するクラッド層15とからなる単芯ファイバ素線16が複数、束になって、第2のクラッドパイプ18の中空部に挿入されたものである。
この時点において、バンドルプリフォーム19内には、複数の単芯ファイバ素線16の互いの間、および複数の単芯ファイバ素線16のうち最外周に位置する複数の単芯ファイバ素線16と第2のクラッドパイプ18との間に空隙が存在する。この時点において、複数の単芯ファイバ素線16のクラッド層15と第2のクラッドパイプ18とは、互いに一体化されておらず、識別可能である。
【0056】
図1Bには、単芯ファイバ素線16のコア径sa、互いに隣接する2つの単芯ファイバ素線16のコア14の離間距離2×st(クラッド層厚stの2倍に相当)、および単芯ファイバ素線16の外径sdを図示してある。
バンドルプリフォーム19におけるコアピッチは、単芯ファイバ素線16の外径sdと一致する。
【0057】
本実施形態の製造方法では、工程(B)において、複数の単芯ファイバ素線16を束ねる際に界面活性剤を含む溶液を用いる。
【0058】
図3Bおよび
図3Cに示すように、
工程(B)は、
複数の単芯ファイバ素線16を界面活性剤を含む溶液中で束ねて、ファイバ素線束17を得る工程(BX)と、
上記のファイバ素線束17をクラッドパイプ18の中空部に挿入して、バンドルプリフォーム19を得る工程(BY)とを含むことができる。
工程(BX)では例えば、界面活性剤を含む溶液中で複数の単芯ファイバ素線16を俵積みして、ファイバ素線束17を得ることができる。
【0059】
工程(B)においては、
工程(BX)と工程(BY)との2段工程を実施する代わりに、
複数の単芯ファイバ素線16を界面活性剤を含む溶液を用いて束ねながらクラッドパイプ18の中空部に挿入して、バンドルプリフォーム19を得るようにしてもよい。
【0060】
界面活性剤がない環境下、例えば空気中あるいは界面活性剤のない水中又は水溶液中では、複数の単芯ファイバ素線16の間の摩擦力が大きいため、複数の単芯ファイバ素線16が互いに擦り合って互いに傷付け合う恐れがある。
傷のある単芯ファイバ素線16を含むバンドルプリフォーム19を線引きすると、傷のあるコア21の透過率が低下して点灯画素が黒っぽく表示される暗欠陥が生じ得る。
複数の単芯ファイバ素線16を束ねる際に、これらが互いに擦り合って傷が付くと、傷を介して、単芯ファイバ素線16の内部に異物が混入する恐れもある。このことも暗欠陥の要因となり得る。
また、界面活性剤がない環境下では、複数の単芯ファイバ素線16の間の摩擦力が大きいため、複数の単芯ファイバ素線16の間の滑りが小さく、これらを自然に隙間なく整然と配列させることが難しい。この場合、画素抜けが生じる恐れがある。画素抜けが生じた場合、画素抜け部分に後から単芯ファイバ素線16を補充することも難しい。また、全体的に画素配列が整然としていないと、高精度に画像を伝送することが難しい。
【0061】
界面活性剤を含む溶液を用いて複数の単芯ファイバ素線16を束ねることで、複数の単芯ファイバ素線16の間の滑りを良くし、複数の単芯ファイバ素線16が互いに擦り合って互いに傷付け合うことを抑制することができる。これにより、単芯ファイバ素線16に付いた傷、あるいは傷を介した異物混入に起因するPIF20の暗欠陥が抑制される。
また、複数の単芯ファイバ素線16の間の滑りが良くなることで、これらを自然に整然と配列させることができる。例えば、断面視において、複数の単芯ファイバ素線16を自然に六方稠密配列させることが可能となる。このことにより、本来画素となる部分にコアがない画素抜けが抑制される。また、画素配列が整然とするため、画像の乱れが抑制され、高精細な画像の伝送が可能となる。
仮に画素抜けが生じたとしても、複数の単芯ファイバ素線16の間の滑りが良いので、画素抜け部分に後から単芯ファイバ素線16を補填することも容易である。
【0062】
界面活性剤は公知のものを1種または2種以上用いることができる。
【0063】
アニオン性界面活性剤としては、
脂肪酸ナトリウムおよびアルファスルホン化脂肪酸エステルナトリウム等の脂肪酸系;
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)等の直鎖アルキルベンゼン系;
ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)等のアルキル硫酸エステルナトリウム(AS)、およびアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)等の高級アルコール系;
アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム(AOS)等のアルファオレフィン系;
アルキルスルホン酸ナトリウム等のノルマルパラフィン系等が挙げられる。
【0064】
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、およびアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0065】
ノニオン性界面活性剤としては、
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)等の高級アルコール系;
ポリオキシエチレンアルキルフェニールエーテル(APE)等のアルキルフェノール系;
蔗糖脂肪酸塩エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、およびアルカノールアミド等の脂肪酸系等が挙げられる。
【0066】
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシドおよびアルキルカルボキシベタイン等が挙げられる。
【0067】
上記の中でも、低コストで入手しやすく残留しにくいことから、アニオン性界面活性剤が好ましく、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)等の高級アルコール系のアニオン性界面活性剤が特に好ましい。
【0068】
界面活性剤は、親水性と親油性とを有する。
界面活性剤は、後工程において除去が容易であることから、水溶液の形態で用いることが好ましい。水溶液であれば、水洗浄等により、後工程において、界面活性剤を容易に除去することができる。
すなわち、界面活性剤を含む水溶液中で複数の単芯ファイバ素線16を束ねて、ファイバ素線束17を得ることが好ましい。
水溶液中の界面活性剤の濃度は臨界ミセル濃度以上であれば特に制限なく、例えば0.3〜0.7質量%程度が好ましい。
【0069】
界面活性剤を含む溶液(好ましくは水溶液)には必要に応じて、仮接着剤を添加することができる。
仮接着剤としては、後工程において水洗浄等により容易に除去できることから、ポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性高分子が好ましい。
仮接着剤を用いることで、複数の単芯ファイバ素線16が仮接着されたファイバ素線束17が得られ、後工程に供する際の取扱い性が向上する。
界面活性剤を含む溶液(好ましくは水溶液)には必要に応じて、他の任意の成分を添加することができる。
他の任意成分についても、後工程において水洗浄等により容易に除去できることから、水溶性物質が好ましい。
【0070】
(工程(C))
次に好ましくは、バンドルプリフォーム19を洗浄する。これによって、バンドルプリフォーム19に付着した工程(B)で用いた溶液の成分(界面活性剤および必要に応じて用いられた仮接着剤等の任意成分)を除去する。
界面活性剤等の成分が付着したままバンドルプリフォーム19を後工程に供すると、残留した界面活性剤等の成分が析出してコアを圧迫し、PIF20の暗欠陥となる恐れがある。洗浄により、界面活性剤等の成分を除去しておくことで、PIF20の暗欠陥を抑制することができる。
ただし、工程(B)で用いた溶液中の界面活性剤等の量は微量であるので、用途等によっては、バンドルプリフォーム19内に多少残っても、支障のない場合もある。
【0071】
バンドルプリフォーム19の洗浄は、洗浄液を用いて行うことができる。
洗浄液は、単芯ファイバ素線16を傷付けず、界面活性剤および必要に応じて用いられた仮接着剤等の任意成分を除去できるものであればよい。
バンドルプリフォーム19に新たに余分な成分が付着することを抑制するために、洗浄液としては水(以下、洗浄水とも言う。)が好ましい。
洗浄水としては、不純物の少ない純水が好ましく、不純物量が0.01μg/L以下の超純水が特に好ましい。
【0072】
洗浄後のバンドルプリフォーム19を減圧雰囲気下、好ましくは真空雰囲気下で加熱して全体を一体化してから、次の線引きの工程に供する。
なお、減圧雰囲気好ましくは真空雰囲気の圧力および加熱温度は、公知方法と同様である。
【0073】
(工程(D))
次に
図3Dに示すように、上記のようにして得られたバンドルプリフォーム19を用いて、複芯ファイバの製造装置40を用いて、PIF20を製造する。
【0074】
複芯ファイバ素線の製造装置40は、バンドルプリフォーム19を保持し、かつ、その位置を調整することが可能な保持手段(図示略)と、
バンドルプリフォーム19の先端部を加熱する加熱手段41と、
加熱されたバンドルプリフォーム19の先端部を線引きする線引き手段42とを備える。
【0075】
図示例において、加熱手段41は、バンドルプリフォーム19の先端部を挟んで互いに対向して配置された一対のヒータである。線引き手段42は、加熱されたバンドルプリフォーム19の先端部を加圧挟持する一対の加圧ローラである。
【0076】
複芯ファイバの製造装置40において、PIF20の内部に空気等のガス、不純物、および異物が残ることを抑制するために、PIF20の製造は、減圧雰囲気下、好ましくは真空雰囲気下で実施される。
すなわち、複芯ファイバ素線の製造装置40において、上記した保持手段(図示略)、加熱手段41、および線引き手段42は、内部を減圧好ましくは真空減圧することが可能な減圧容器好ましくは真空減圧容器内に配置される。
【0077】
図3Dに示すように、減圧雰囲気下好ましくは真空雰囲気下で、バンドルプリフォーム19の先端部を加熱手段41によって加熱した後、線引き手段42により線引きする。これら一連の工程によって、PIF20が製造される。
なお、線引きの工程において、減圧雰囲気好ましくは真空雰囲気の圧力および加熱温度は、公知方法と同様である。
【0078】
図1Aに示したように、PIF20においては、バンドルプリフォーム19内にあった空隙はなくなり、複数の単芯ファイバ素線16のクラッド層15と第2のクラッドパイプ18とが互いに融着一体化してクラッド22が形成される。断面視において、海部であるクラッド22の中に、複数のコア21が島状に形成された海島構造を有するPIF20が製造される。
【0079】
本実施形態の製造方法においては、バンドルプリフォーム19の線引きの工程において、全体が細線化するが、個々のコアとこれを被覆するクラッド層との面積比は変化しない。また、本明細書では、PIF20のコア面積比率mEの算出において、外縁部分を除外してある。そのため、製造に用いた単芯ファイバ素線16のコア面積比率sEと、PIF20のコア面積比率mEとは、基本的に同一である。
したがって、単芯ファイバ素線16の製造の時点で、単芯ファイバ素線16のコア面積比率sEを、PIF20のコア面積比率mEの所望値に設計しておけばよい。
【0080】
上記したように、明るさおよびクロストークのバランスを考慮すると、PIF20のコア面積比率mEは好ましくは50〜62%であり、より好ましくは53〜60%である。
上記のように、単芯ファイバ素線16のコア面積比率sEは、PIF20のコア面積比率mEと基本的に同一であるので、単芯ファイバ素線16のコア面積比率sEはPIF20のコア面積比率mEと同様、好ましくは50〜62%であり、より好ましくは53〜60%である。
【0081】
単芯ファイバ素線16のコア面積比率sEは、単芯ファイバ素線16のコア径saと、クラッド層厚st、および単芯ファイバ素線16の外径sdと相関する。また、製造されるPIF20の各種パラメータは、単芯ファイバ素線16の上記パラメータに依存する。
したがって、PIF20の各種パラメータ設計に応じて、単芯ファイバ素線16の各種パラメータを好ましい範囲内に設計する。
単芯ファイバ素線16のコア径saは、3.2〜3.4mmが好ましい。
単芯ファイバ素線16のクラッド層厚stは、0.6〜0.5mmが好ましい。
単芯ファイバ素線16の外径sdは、4.3〜4.4mmが好ましい。
【0082】
本実施形態の製造方法では、複合口金を用いる必要がないので、画素径(コア径ma)、画素数N(コア数)、およびコア面積比率mE等の製品仕様の変更に柔軟に対応できる。
本実施形態の製造方法では、画素径(コア径ma)、画素数N(コア数)、およびコア面積比率mE等を自由に設計できるので、点灯画素の平均的な明るさおよびクロストーク等を好適な範囲に設計でき、光学品質に優れたPIF20を製造できる。
【0083】
本実施形態の製造方法では、界面活性剤を含む溶液(好ましくは水溶液)を用いて複数の単芯ファイバ素線16を束ねることで、複数の単芯ファイバ素線16の間の滑りを良くし、複数の単芯ファイバ素線16が互いに擦り合って互いに傷付け合うことを抑制することができる。これにより、単芯ファイバ素線16に付いた傷等に起因するPIF20の暗欠陥が抑制される。
また、複数の単芯ファイバ素線16の間の滑りが良くなることで、これらを自然に整然と配列させることができる。その結果、PIF20の画素抜けが抑制される。また、画素配列が整然とするため、PIF20を用いて高精細な画像の伝送が可能となる。
【0084】
本実施形態の製造方法では、画素数Nが5200以上であっても、複数の画素を整然と配列させることができ、画素数Nに対して断面視で六方稠密に配列している複数の画素の数の割合を90%以上または95%以上とすることができる。
本実施形態の製造方法では、画素数Nが10000以上、20000以上、30000以上、あるいは40000以上であっても、画素数Nに対して断面視で六方稠密に配列している複数の画素の数の割合を90%以上または95%以上とすることが可能である。
【0085】
本明細書において、ある任意の1つの画素(G
1)が六方稠密に配列しているか否かについては次の基準で判断する。
まず、断面視において、ある任意の1つの画素(G
1)から見て直近の周囲に存在する6つの画素(G
2〜G
7)を選択する。
なお、ある任意の1つの画素(G
1)の周囲に6つの画素が存在しない場合(例えば最外縁の画素が相当)もあるが、その画素は六方稠密に配列していないものとしてカウントする。このカウント基準では、必然的に画素数Nに対して断面視で六方稠密に配列している複数の画素の数の割合は100%とはならない。
前述のとおり選択した6つの画素(G
2〜G
7)に関して、画素G
1に属するコアと画素G
i(ここで、iは2〜7の整数である。)に属するコアとの画素ピッチの距離をmp
iとする。このとき、mp
2〜mp
7の値がいずれも、mp
2〜mp
7の平均値の90〜110%の範囲内である場合、画素(G
1)は断面視で六方稠密に配列しているとしてカウントする。
ここで、mp
2〜mp
7の平均値とは、下記式で定義される値である。
(mp
2+mp
3+mp
4+mp
5+mp
6+mp
7)/6
【0086】
以上のように、本実施形態によれば、画素径(コア径ma)、画素数(コア数)N、およびコア面積比率mE等の製品仕様の変更に柔軟に対応でき、かつ、暗欠陥および画素抜けが抑制され、複数の画素が整然と整列し、画像を高精度に伝送することが可能なPIF20の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明に係る実施例および比較例について説明する。
【0088】
(実施例1)
はじめに、外径53mmφのポリスチレン(PS、屈折率1.59)製のコアロッドと、内径55mmφ、外径70mmφのポリメチルメタクリレート(PMMA、屈折率1.494)製の第1のクラッドパイプとを用意した。
次に
図2に示したように、上記の第1のクラッドパイプの中空部に上記のコアロッドを挿入して、単芯のクラッド/コア複合材を得た。
単芯のクラッド/コア複合材において、中心軸から外周に向かう一方向(x方向)の屈折率ndの分布は、
図2に示したように、コアロッド内の屈折率ndはx方向に対して一様であり、第1のクラッドパイプの屈折率ndはx方向に対して一様であった。
次に
図3Aに示したように、得られた単芯のクラッド/コア複合材に対して、真空雰囲気下で先端部を加熱し、線引きし、切断して、単芯ファイバ素線を得た。
得られた単芯ファイバ素線は、コア径sa=0.68mm、クラッド層厚st=0.10mm、外径sd=0.87mmφ、コア面積比率sE=60%、長さ=200mmであった。
【0089】
上記の単芯ファイバ素線を5200本用意した。
次に
図3Bに示したように、0.5質量%のラウリル硫酸ナトリウム(SLS)水溶液中で、5200本の単芯ファイバ素線を束ねて、ファイバ素線束を得た。
次に
図3Cに示したように、得られたファイバ素線束を、外径70mmφ、肉厚2mmのポリメチルメタクリレート(PMMA、屈折率1.494)製の第2のクラッドパイプの中空部に挿入して、バンドルプリフォームを得た。
【0090】
次に、水道水を開口径0.2μmのろ過フィルタとイオン交換膜に順次通して得た超純水(最大抵抗値:18.2MΩ)を用いて、得られたバンドルプリフォームを水洗浄した。この水洗浄により、バンドルプリフォームに付着した界面活性剤を除去した。
【0091】
水洗浄後のバンドルプリフォームを真空雰囲気下(1kPa)250℃で加熱して全体を一体化してから、
図3Dに示したように、真空雰囲気下(1kPa)でその先端部を240℃で加熱し線引きして、複芯ファイバからなるPIFを得た。
PIFの長さは、2mとした。
【0092】
得られたPIFについて光学顕微鏡による断面観察を実施したところ、すべてのコアが六方稠密配列に整然と配列していた。
すなわち、画素数Nに対して断面視で六方稠密に配列している複数の画素の数の割合は92%であった。
暗欠陥および画素抜けも見られなかった。
光学顕微鏡による断面写真を
図4Aに示す。
【0093】
得られたPIFは、画素数N(コア数)=5200、コア径ma(画素径)=3.4μm、コアピッチmp=4.4μm、仮想クラッド層厚mt=0.5μm、コア面積比率mE=60%、実効径D1=328μm、外径D2=340μmであった。
なお、ma、mp、およびmtは、ランダムに選んだ10箇所の平均値としたが、測定箇所によるばらつきは見られなかった。
【0094】
主な製造条件と評価結果を表1に示す。
【0095】
(実施例2)
表1に示す製造条件に変更した以外は実施例1と同様にして、単芯ファイバ素線およびPIFの製造と評価を実施した。
評価結果を表1に示す。
実施例2においては、実施例1よりもコア径ma(画素径)が小さく、画素数N(コア数)が多いPIFを製造した。
【0096】
得られたPIFについて、実施例1と同様に光学顕微鏡による断面観察を実施したところ、ほぼすべてのコアが六方稠密配列に整然と配列していた。
実施例1と同様、画素数Nに対して断面視で六方稠密に配列している複数の画素の数の割合は97%であった。
暗欠陥および画素抜けも見られなかった。
光学顕微鏡による断面写真は、実施例1と同様であったので、図示を省略する。
【0097】
(実施例3)
バンドルプリフォームの水洗浄を実施しなかった以外は実施例1と同様にして、単芯ファイバ素線およびPIFの製造と評価を実施した。
評価結果を表1に示す。
【0098】
得られたPIFについて、実施例1と同様に光学顕微鏡による断面観察を実施したところ、ほぼすべてのコアが六方稠密配列に整然と配列していた。
実施例1と同様、画素数Nに対して断面視で六方稠密に配列している複数の画素の数の割合は92%であった。
画素抜けも見られなかった。
ただし、界面活性剤の残留に起因すると思われる暗欠陥が見られた。
光学顕微鏡による断面写真を
図4Bに示す。
【0099】
(比較例1)
表2に示す製造条件に変更した以外は実施例1と同様にして、単芯ファイバ素線およびPIFの製造と評価を実施した。
評価結果を表2に示す。
比較例1では、界面活性剤を使用せず、純水中で複数の単芯ファイバ素線を束ねる作業を行った。また、バンドル後の水洗浄を実施しなかった。
【0100】
比較例1では、画素数Nを実施例1〜3の半分以下としたにもかかわらず、得られたPIFについて、実施例1と同様に光学顕微鏡による断面観察を実施したところ、コアの配列が不揃いであった。
画素数Nに対して断面視で六方稠密に配列している複数の画素の数の割合は20%であった。
また、画素抜けも見られた。
また、複数の単芯ファイバ素線を束ねる際に生じた傷等に起因すると思われる暗欠陥も見られた。
光学顕微鏡による断面写真を
図4Cに示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。