特許第6386347号(P6386347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386347
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】気液分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 19/00 20060101AFI20180827BHJP
   B04C 9/00 20060101ALI20180827BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   B01D19/00 102
   B01D19/00 G
   B04C9/00
   F28D20/00 B
   F28D20/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-233217(P2014-233217)
(22)【出願日】2014年11月18日
(65)【公開番号】特開2016-97319(P2016-97319A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591117516
【氏名又は名称】近江鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】中村 崇志
(72)【発明者】
【氏名】山下 真彦
(72)【発明者】
【氏名】志満津 孝
(72)【発明者】
【氏名】板原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 茂弘
【審査官】 小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−300063(JP,A)
【文献】 特開2001−276505(JP,A)
【文献】 特開昭60−38008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00−19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体が循環する熱媒流路に接続されて当該熱媒体の膨張或いは収縮による体積変化を吸収緩和する膨張タンクと、気液分離機構を具備して前記熱媒流路内を循環する熱媒体に含まれる気泡を分離する分離タンクとを有し、前記分離タンクは、前記熱媒流路内に配設され、前記膨張タンクは、前記分離タンクを介して前記熱媒流路に接続されており、
前記膨張タンクと前記分離タンクとは、上下方向に配設されると共に少なくとも2つの流路により互いに連接しており、上方に位置する前記膨張タンクの内部が熱媒体からなる液層とその上方の気層とに分離し、下方に位置する前記分離タンクの内部が熱媒体からなる液層のみで充填されており、
前記分離タンク内で分離された気泡は、前記2つの流路のうち第1の流路を介して前記膨張タンク内の気層に流入し、前記膨張タンク内の液層にある熱媒体は、第2の流路を介して前記分離タンク内に流入しており、
前記熱媒流路における前記分離タンクの上流側に配設された流路切替手段と、当該流路切替手段を介して前記熱媒流路と前記膨張タンクとを連接する第3の流路とを有し、前記流路切替手段の作用により前記熱媒流路内を循環する熱媒体の一部又は全部が、前記第3の流路を介して前記膨張タンク内の液層に流入することを特徴とする気液分離装置。
【請求項2】
前記気液分離機構は、前記分離タンクの内部に流入する熱媒体の流入方向と流速とにより当該分離タンク内に熱媒体の渦流を発生させることを特徴とする請求項1に記載の気液分離装置。
【請求項3】
前記気液分離機構は、前記分離タンクの内部に流入する熱媒体が接触又は通過する多孔体を備えていることを特徴とする請求項1に記載の気液分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱媒体が循環する熱媒流路内に発生した気泡を除去するための気液分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱供給源から熱需要源への熱エネルギーの移動を行う際に、熱媒体を利用して熱交換する方法が多くの産業で採用されている。また、近年においては、環境に放出されている熱エネルギーを有効に利用する技術への関心が高まり、種々の蓄熱システムが検討されている。これらの蓄熱システムにおいても、熱媒体が蓄熱容器と熱供給源或いは熱需要源との間を循環することで、蓄熱容器内の蓄熱材と熱交換して熱エネルギーを移動させることができる。
【0003】
このように、熱媒体が熱供給源、熱需要源、及び蓄熱容器などの間で熱交換するために、熱媒体が循環する熱媒流路が設けられる。この熱媒流路内の熱媒体は、高温域を含む広範囲の温度域で液体状態を維持し、且つ効率的な熱媒機能を発揮することが要求される。また、熱媒流路内の熱媒体は、熱供給源又は放熱する蓄熱容器と熱交換する際には温度が上昇する。また、熱需要源又は蓄熱する蓄熱容器と熱交換する際には温度が降下する。このような温度変化により、熱媒流路内の熱媒体は、膨張と収縮を繰り返して体積変化を生じる。この熱媒体の体積変化は、熱媒流路内の熱媒体の流動を不安定にするという問題があった。
【0004】
また、熱媒流路内の熱媒体は、熱供給源、熱需要源、及び蓄熱容器などと熱交換する際には、常に高温状態で使用される。一般に、熱媒体を高温で長時間使用すると、熱媒体の一部が劣化して分子量の低下を引き起こす。この劣化により生じた分解物(以下「低分子量物質」という。)は、熱媒流路内で気化して気泡を発生させる。この熱媒流路内の気泡の発生は、熱媒流路内の流動を更に不安定にするという問題があった。
【0005】
一般に、熱媒流路内の熱媒体の流動を安定に維持するためには、例えば、下記特許文献1に係る熱供給装置に採用されている気液分離部を熱媒流路内に接続して熱媒体の膨張或いは収縮による体積変化を吸収緩和すると共に、熱媒体中の気泡を除去する。この気液分離部は、一般には「膨張タンク」と呼ばれている。また、熱媒流路内で発生する気泡に対しては、例えば、下記特許文献2に係る気泡除去装置なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−190964号公報
【特許文献2】特開2001−276505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1の気液分離部は、熱媒流路内の熱媒体の膨張或いは収縮による体積変化を吸収緩和することができる。また、熱媒体中の気泡を除去する効果を有するが、高粘度の熱媒体が高流速で流れている場合には、気液分離部内で気泡を十分に除去できないという問題があった。また、上記特許文献2の気泡除去装置は、熱媒流路の配管内を流動する液体の上層部分に集結する気泡を気泡捕集管に流入して除去するものであって(段落[0007]参照)、高粘度の熱媒体が高流速で流れている場合には、気泡が液体の上層部分に集結することがないので、気泡を十分に除去できないという問題があった。
【0008】
更に、循環する熱媒流路内では未だ気化していないが、気化する恐れのある低分子量物質が熱媒体に溶解して蓄積していく。この熱媒体に溶解した低分子量物質は、熱媒流路の流動ポンプ付近でキャビテーションを生じさせる。この熱媒流路内のキャビテーションは、熱媒流路内の流動を更に不安定にするという問題があった。この問題に関しては、熱媒流路内の熱媒体の一部を膨張タンクに回収し、この膨張タンク内の熱媒体を昇温することが考えられる。この方法は、熱媒体をその気化温度以下で低分子量物質の気化温度以上の温度に昇温して気液分離を促進するというものである。しかし、この方法による膨張タンクの昇温には多くの熱エネルギーを要するという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、以上のことに対処して、熱媒流路内の熱媒体の膨張或いは収縮による体積変化を吸収緩和すると共に、熱媒体中に発生する気泡及び熱媒体に溶解している低分子量物質を効率的に除去して熱媒流路内の熱媒体の流動を安定にすることのできる気液分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、膨張タンクを熱媒流路に接続する際の構造を検討し、熱媒流路内に配設した分離タンクを介して膨張タンクを接続することで上記問題を解決できることを見出し本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明に係る気液分離装置(100、200)は、請求項1の記載によれば、
熱媒体が循環する熱媒流路(40)に接続されて当該熱媒体の膨張或いは収縮による体積変化を吸収緩和する膨張タンク(120、220)と、気液分離機構を具備して前記熱媒流路内を循環する熱媒体に含まれる気泡を分離する分離タンク(110、210)とを有し、前記分離タンクは、前記熱媒流路内に配設され、前記膨張タンクは、前記分離タンクを介して前記熱媒流路に接続されており、
前記膨張タンクと前記分離タンクとは、上下方向に配設されると共に少なくとも2つの流路(72、73)により互いに連接しており、上方に位置する前記膨張タンクの内部が熱媒体からなる液層(121、221)とその上方の気層(122、222)とに分離し、下方に位置する前記分離タンクの内部が熱媒体からなる液層(111、211)のみで充填されており、
前記分離タンク内で分離された気泡は、前記2つの流路のうち第1の流路(73)を介して前記膨張タンク内の気層に流入し、前記膨張タンク内の液層にある熱媒体は、第2の流路(72)を介して前記分離タンク内に流入しており、
前記熱媒流路における前記分離タンクの上流側に配設された流路切替手段(60)と、当該流路切替手段を介して前記熱媒流路と前記膨張タンクとを連接する第3の流路(71)とを有し、前記流路切替手段の作用により前記熱媒流路内を循環する熱媒体の一部又は全部が、前記第3の流路を介して前記膨張タンク内の液層に流入することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、請求項2の記載によると、請求項1に記載の気液分離装置において、
前記気液分離機構は、前記分離タンクの内部に流入する熱媒体の流入方向と流速とにより当該分離タンク内に熱媒体の渦流(114)を発生させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1に記載の気液分離装置において、
前記気液分離機構は、前記分離タンクの内部に流入する熱媒体が接触又は通過する多孔体(216)を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記請求項1に記載の構成によれば、気液分離装置は、膨張タンクと分離タンクとを有している。膨張タンクは、熱媒流路を循環する熱媒体の膨張或いは収縮による体積変化を吸収緩和する。一方、分離タンクは、気液分離機構を具備しており、その作用により熱媒流路内を循環する熱媒体に含まれる気泡を分離する。また、分離タンクは、熱媒流路内に配設されており、この分離タンクを介して膨張タンクが熱媒流路に接続されている。このことにより、熱媒体中に発生する気泡を効率的に除去することができる。
また、膨張タンクと分離タンクとは、上下方向に配設される。また、これらのタンクは、少なくとも2つの流路により互いに連接している。また、上方に位置する膨張タンクの内部は、熱媒体からなる液層とその上方の気層とに分離している。一方、下方に位置する分離タンクの内部は、熱媒体からなる液層のみで充填されている。このことにより、分離タンクで分離された気泡が膨張タンクに移動しやすくなる。よって、上記作用効果をより一層達成することができる。
また、分離タンク内で分離された気泡は、第1の流路を介して膨張タンク内の気層に流入する。一方、膨張タンク内の液層にある熱媒体は、第2の流路を介して分離タンク内に流入する。よって、上記作用効果をより一層達成することができる。
また、熱媒流路の分離タンクの上流側に設けられた流路切替手段を介して、熱媒流路と膨張タンクとを連接する第3の流路が設けられている。この流路切替手段と第3の流路を介して高温の熱媒体を膨張タンク内に循環することにより、熱媒体に溶解している低分子量物質を膨張タンク内で気化して効率的に除去することができる。このことにより、熱媒体中に発生する気泡と熱媒体に溶解している低分子量物質を効率的に除去することができる。
【0018】
また、上記請求項2に記載の構成によれば、分離タンクが具備する気液分離機構は、分離タンク内に流入する熱媒体の流入方向を調整するもの(110a、110b)であって、この流入方向と熱媒体の流速により分離タンク内に熱媒体の渦流を発生させる。この渦流の発生により、熱媒体中に発生する気泡を効率的に除去することができる。よって、上記請求項2に記載の構成においては、請求項1と同様の作用効果をより具体的に達成することができる。
【0019】
また、上記請求項3に記載の構成によれば、分離タンクが具備する気液分離機構は、分離タンク内に多孔体を備えている。分離タンク内に流入する熱媒体がこの多孔体に接触又は通過することにより、熱媒体中に発生する気泡を効率的に除去することができる。よって、上記請求項3に記載の構成においては、請求項1と同様の作用効果をより具体的に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る気液分離装置を接続した熱媒流路を示す概略図である。
図2図1の気液分離装置において第1実施形態の分離タンクを示す概略図である。
図3図1の気液分離装置において第2実施形態の分離タンクを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一般に、熱媒流路を循環する熱媒体の膨張或いは収縮による体積変化を吸収緩和すると共に、熱媒体中に発生する気泡を除去して熱媒流路内の熱媒体の流動を安定にする目的で膨張タンクが使用される。これに対して、本発明に係る気液分離装置は、膨張タンクに加え気泡の除去効果が高い分離タンクを有しており、高粘度の熱媒体が高流速で流れている場合にも気液分離を効率的に行うことができる。以下、本発明に係る気液分離装置について説明する。
【0025】
本発明に係る気液分離装置は、熱供給源(以下「熱供給設備」という。)と熱需要源(以下「熱需要設備」という。)との間に熱媒体が循環する熱媒流路を設け、熱供給設備と熱交換した高温の熱媒体が熱媒流路を通じて熱需要設備に移送され、ここで熱交換して熱需要設備に熱エネルギーを移動する際に熱媒流路に接続して使用される。
【0026】
また、本発明に係る気液分離装置は、熱供給設備と熱需要設備とが遠隔地に存在する場合、或いは、熱供給設備の熱エネルギーを備蓄して必要時に熱需要設備で使用する場合に利用される蓄熱システムにおいても使用される。具体的には、気液分離装置は、熱供給設備において熱エネルギーを蓄熱容器に熱交換する際の熱媒流路に接続して使用される。この蓄熱した蓄熱容器は、遠隔地に移送、或いは、倉庫に備蓄される。そして、必要時に蓄熱容器の熱エネルギーを熱需要設備に熱交換する際の熱媒流路にも気液分離装置が使用される。
【0027】
ここで、蓄熱システムについて説明する。蓄熱容器内に収納して熱エネルギーを蓄熱する蓄熱材は、物質の顕熱や潜熱といった熱エネルギーを利用する直接蓄熱材と、化学エネルギーを利用する間接蓄熱材の2種類に分類される。直接蓄熱における顕熱蓄熱は、物質の温度上昇の形で熱エネルギーを蓄熱する方法であり、蓄熱材の取扱い容易性、装置の簡易性など経済性の点で好ましい方法である。しかし、物質の蓄熱密度が小さく、長距離の移送や長期間の蓄熱では熱損失が大きいという問題がある。また、直接蓄熱における潜熱蓄熱は、物質の溶解、凝固、蒸発、凝縮、昇華などの相変化の形で熱エネルギーを蓄熱する方法であり、顕熱蓄熱に比べれば蓄熱密度が大きいが、蓄熱・放熱の温度は一定である。また、潜熱蓄熱においても長距離の移送や長期間の蓄熱では熱損失が大きいという問題がある。
【0028】
一方、間接蓄熱における化学蓄熱は、物質の吸脱着熱、融解熱、希釈熱などの化学反応の形で熱エネルギーを蓄熱する方法であり、顕熱蓄熱や潜熱蓄熱に比べ蓄熱密度が非常に大きくなる。また、化学反応前後の物質が安定であれば、放熱ロスが殆どなく長距離の移送や長期間の蓄熱においても熱損失が生じない。更に、化学蓄熱においては、蓄熱温度と異なる温度、場合によっては蓄熱温度よりも高温で熱エネルギーを放出することのできるケミカルヒートポンプ機能も有している。そこで、化学蓄熱は、熱エネルギーを化学物質に変換して長期間保管し或いは遠隔地に安定して移送することができるので、蓄熱システムとして好適である。
【0029】
本発明に係る気液分離装置を蓄熱システムに使用する場合には、上述の直接蓄熱又は間接蓄熱のいずれの場合にも使用することができる。特に、高温での熱エネルギーの蓄熱を行う間接蓄熱(化学蓄熱)に使用する場合により効果を発揮する。これらの化学蓄熱に使用される蓄熱材としては、例えば、水酸化カルシウム系蓄熱材(CaOとCa(OH)の反応)などを挙げることができる。この水酸化カルシウム系蓄熱材は、400℃を超える高温域での蓄熱・放熱の繰り返し操作を安定して行うことができる。なお、本発明が化学蓄熱材との熱交換に利用される場合の化学蓄熱材の組成及び構造と形状については、特に限定するものではない。
【0030】
本発明において、熱媒体とは、熱供給設備、熱需要設備、或いは蓄熱容器中の蓄熱材との間で熱交換をして、熱を移動させる媒体となる物質であり、特に、熱交換器を介して熱供給設備、熱需要設備、或いは蓄熱容器中の蓄熱材と間接的に接触し熱移動する物質をいう。これらの熱媒体としては、例えば、各種シリコーンオイル、流動パラフィン等の飽和炭化水素系オイル、ハロゲン化ビフェニル等の芳香族炭化水素系オイル、空気、窒素、アルゴン、水、水蒸気、グリコール水溶液等が挙げられる。これらの中で、高温の熱源と安定して熱交換できる熱媒体として、耐熱性のシリコーンオイル系熱媒体を採用することが好ましい。
【0031】
なお、本発明においては、数百度の高温の熱量を熱交換することもあり、この場合には、熱媒体の高温による劣化が特に問題となる。例えば、耐熱性のシリコーンオイル系熱媒体を採用した場合においても、熱媒体が高温に長時間曝されると分解(解重合や環状シロキサンの生成による低分子化)が生じることとなる。この劣化により生じた低分子量物質は、熱媒流路内で気化して気泡を発生させ、熱媒体の流動を不安定にする。また、熱媒流路内が高圧状態である場合には、低分子量物質が熱媒体中に溶解していることもある。しかし、いずれの場合においても熱媒体は劣化しており、これを長時間放置すれば熱媒機能が低下する。
【0032】
よって、本発明は、熱媒体の劣化により生じた低分子量物質及びこの低分子量物質から発生した気泡を熱媒流路内から効率的に除去することにより、熱媒機能を長時間維持できることに着目して成されたものである。以下、本発明に係る気液分離装置を図面に従って説明する。なお、本発明は、下記に示す各実施形態に限定されるものではない。
【0033】
第1実施形態:
本第1実施形態は、着脱式の蓄熱容器を利用した蓄熱システムにおいて、蓄熱材の蓄熱時、及び、蓄熱材の放熱時の熱媒流路に本発明に係る気液分離装置を接続して使用するものである。なお、本第1実施形態においては、蓄熱容器内の蓄熱材として水酸化カルシウム系蓄熱材を使用する。また、本第1実施形態においては、熱媒体として耐熱性のシリコーンオイル系熱媒体を使用する。
【0034】
図1は、本発明に係る気液分離装置を接続した熱媒流路を示す概略図である。図1においては、本来は別の熱媒流路である蓄熱材の蓄熱時、及び、蓄熱材の放熱時を同じ図として表している。まず、熱供給設備10が放出する400℃を超える高温の廃熱(熱量Q)を着脱式の蓄熱容器30に蓄熱し、この蓄熱容器30を熱需要設備20(図1においては、熱供給設備10と同じ位置に記載)まで移送する。次に、蓄熱容器30に蓄熱した熱量Qを放熱して熱需要設備20に供給する。
【0035】
図1において、本発明に係る気液分離装置100は、分離タンク110と膨張タンク120とを有している。また、熱供給設備10(又は、熱需要設備20)と蓄熱容器30との間には、熱媒体を充填した熱媒流路40が設けられている。この熱媒流路40の経路には、熱媒体を循環させる流動ポンプ50、熱媒体の循環を切り替える三方弁60、及び気液分離装置100が有する分離タンク110が設けられている。分離タンク110は、流動ポンプ50と蓄熱容器30との間に設けられている。三方弁60は、分離タンク110の近傍(上流側)の熱媒流路40と還流流路71との分岐点41に設けられている。また、気液分離装置100が有する膨張タンク120は、還流流路71、72によって熱媒流路40と分離タンク110との間に設けられている。
【0036】
このような構成において、熱媒体は、流動ポンプ50の作動により、流動ポンプ50⇒熱供給設備10(又は、熱需要設備20)⇒蓄熱容器30⇒三方弁60⇒分離タンク110⇒流動ポンプ50の順に熱媒流路40の内部を循環する。
【0037】
分離タンク110は、ステンレススチール製の下方が円柱状で上方が半球状のタンクであって、その内部は、熱媒体からなる液層111のみで構成されており気層が殆ど存在しない(構造の詳細は後述する。)。また、分離タンク110の上方位置は、熱媒流路40の上流側流路と連通している。また、分離タンク110の下方位置は、熱媒流路40の下流側流路と連通している。更に、分離タンク110の頂点位置は、気体流路73により膨張タンク120の気層122(後述する)と連通している。
【0038】
膨張タンク120は、ステンレススチール製の円柱状タンクであって、その内部は、熱媒体からなる液層121とその上方にある気層122とで構成されている。膨張タンク120の液層121は、熱媒流路40に設けられた三方弁60の3つの弁61、62、63のうちの1つである分岐弁63から分岐した還流流路71により熱媒流路40と連通している。また、膨張タンク120の液層121は、還流流路72により分離タンク110の下方位置と連通している。なお、膨張タンク120の上方位置には、気層122の圧力変化を大気中に放出する開口部(図示しない)を設けるようにしてもよく、或いは、別途設けた回収タンク(図示しない)と連通するようにしてもよい。
【0039】
また、本第1実施形態においては、分離タンク110及び膨張タンク120の外壁部は、断熱構造により構成されている。従って、熱媒流路40から還流流路71を介して膨張タンク120に流入する熱媒体が持つ熱量が、外部に放散されずに維持される。このことにより、膨張タンク120に回収された熱媒体から低分子量物質を効率よく気化させる際に熱媒体が持つ熱量がより有効に活用され、外部から気化のための加熱用熱量を供給する必要がない。
【0040】
次に、本第1実施形態における気液分離装置100が有する分離タンク110の構造について説明する。図2は、本第1実施形態の分離タンク110を示す概略図である。図2において、分離タンク110は、上述のように、下方の円柱状部分112と上方の半球状部分113とから構成されたタンクである。また、分離タンク110の内部は、熱媒体からなる液層111(図示しない)のみで構成されており気層が殆ど存在しない(気液分離された気泡は一時的に存在する)。
【0041】
この分離タンク110は、その円柱状部分112の上方開口部110aにおいて熱媒流路40の上流側流路40aと連通している。このことにより、熱媒流路40を循環する熱媒体は、熱媒流路40の上流側流路40aから分離タンク110内に流入する。ここで、分離タンク110の上方開口部110aから流入する上流側流路40aの流入方向は、分離タンク110の円柱状部分112の内周縁に沿って形成されるように構成されている。
【0042】
また、分離タンク110は、その円柱状部分112の下方開口部110bにおいて熱媒流路40の下流側流路40bと連通している。このことにより、分離タンク110内の熱媒体は、円柱状部分112の下方開口部110bから熱媒流路40の下流側流路40bに流出する。ここで、分離タンク110の下方開口部110bから流出する下流側流路40bの流出方向は、分離タンク110の円柱状部分112の内周縁に沿って形成されるように構成されている。
【0043】
また、分離タンク110は、還流流路72の流出口72aにおいて還流流路72を介して膨張タンク120(図示しない)の液層121と連通している。また、分離タンク110は、その半球状部分113の頂点開口部110cにおいて気体流路73を介して膨張タンク120の気層122と連通している。
【0044】
このような構成において、本第1実施形態に係る気液分離装置の主たる3つの作用効果について以下に説明する。すなわち、第1の作用効果は、熱媒流路内の熱媒体の体積変化を吸収緩和することである。第2の作用効果は、熱媒体中に発生する気泡を効率的に除去することである。第3の作用効果は、熱媒体中に溶解している低分子量物質を効率的に除去することである。
【0045】
≪第1の作用効果≫
まず、熱媒流路内の熱媒体の体積変化を吸収緩和する気液分離装置の第1の作用効果について説明する。図1において、三方弁60の3方向の弁61、62、63を全て解放した状態で、熱供給設備10から蓄熱容器30への熱量Qの蓄熱(吸熱)を行う。まず、流動ポンプ50の作動により、熱媒流路40内を熱媒体が循環する。この状態において、熱供給設備10に設けられた熱交換器(図示せず)により、熱供給設備10の熱量Qが循環する熱媒体に移動する。次に、吸熱した熱媒体は蓄熱容器30まで送られ、蓄熱容器30に設けられた熱交換器(図示せず)により、熱媒体の熱量Qが蓄熱容器30内の蓄熱材(図示せず)に移動して蓄熱される。
【0046】
このとき、熱供給設備10から熱量Qを得た熱媒体は、温度が上昇して体積が膨張する。このような熱媒体の膨張による体積変化は、三方弁60の分岐弁63と還流流路71を介して熱媒体が膨張タンク120に流入することで吸収される。一方、蓄熱容器30に熱量Qを移動した熱媒体は、温度が降下して体積が収縮する。このような熱媒体の収縮による体積変化は、膨張タンク120から還流流路72と分離タンク110を介して熱媒体が熱媒流路40に流入することで吸収される。
【0047】
次に、蓄熱した蓄熱容器30を熱供給設備10の熱媒流路40から切り離し、熱需要設備20のところまで移送する。次に、移送した蓄熱容器30を熱需要設備20の熱媒流路40に組み込み(図1に同じ)、三方弁60の3方向の弁61、62、63を全て解放した状態で、蓄熱容器30から熱需要設備20への熱量Qの移動(放熱)を行う。まず、流動ポンプ50の作動により、熱媒流路40内を熱媒体が循環する。この状態において、蓄熱容器30に設けられた熱交換器(図示せず)により、蓄熱容器30内の蓄熱材に蓄熱されていた熱量Qが熱媒体に移動する。次に、吸熱した熱媒体は熱需要設備20まで送られ、熱需要設備20に設けられた熱交換器(図示せず)により、熱媒体の熱量Qが熱需要設備20に移動して消費される。
【0048】
このとき、蓄熱容器30から熱量Qを得た熱媒体は、温度が上昇して体積が膨張する。このような熱媒体の膨張による体積変化は、三方弁60の分岐弁63と還流流路71を介して熱媒体が膨張タンク120に流入することで吸収される。一方、熱需要設備20に熱量Qを移動した熱媒体は、温度が降下して体積が収縮する。このような熱媒体の収縮による体積変化は、膨張タンク120から還流流路72と分離タンク110を介して熱媒体が熱媒流路40に流入することで吸収される。
【0049】
このように、熱媒流路40内を熱媒体が循環する定常状態においては、温度変化による熱媒体の体積変化を気液分離装置100が有する分離タンク110及び膨張タンク120の作用で十分に吸収緩和することができる。よって、熱媒流路内の熱媒体の流動を安定にすることができる。
【0050】
≪第2の作用効果≫
次に、熱媒体中に発生する気泡を効率的に除去する気液分離装置の第2の作用効果について説明する。熱媒流路を循環する熱媒体中には、熱媒流路を循環中に高温暴露による劣化で低分子量物質が発生する。この低分子量物質の一部は、熱媒流路を循環中に気化して気泡を発生させて熱媒体に混入している。この熱媒体に混入した気泡は、主に気液分離装置100が有する分離タンク110によって気液分離され、分離タンク110に連通した膨張タンク120によって除去される。
【0051】
図2において、熱媒流路40を循環する熱媒体は、熱媒流路40の上流側流路40aから分離タンク110の上方開口部110aを介して分離タンク110内に流入する。この流入した熱媒体は、分離タンク110の円柱状部分112の内周縁に沿って流入し、その流入方向と流速により円柱状部分112の内周縁に沿った渦流114を形成する(図2においては、上方から見て反時計回り)。この熱媒体の渦流114は、分離タンク110内を下方向に移動する。その後、渦流114を形成した熱媒体は、分離タンク110の下方開口部110bから熱媒流路40の下流側流路40bに流出する。
【0052】
このとき、分離タンク110の内部で渦流114を形成する熱媒体は、その流速による遠心力によって気液分離される。このようにして分離された気泡115は、分離タンク110内を上方に移動する。ここで、分離タンク110の上方は、上述のように、半球状部分113で構成されている。従って、分離タンク110内を上方に移動した気泡115は、分離タンク110内の半球状部分113の頂点に集められ、頂点開口部110cから気体流路73を介して膨張タンク120の気層122に回収される。これと並行して、膨張タンク120(図示しない)の液層121の熱媒体は、還流流路72を介して還流流路72の流出口72aから分離タンク110内に流入する。
【0053】
このように、熱媒流路40内の熱媒体が分離タンク110内に流入することで、循環中に生じた低分子量物質が気化した気泡を効率的に除去することができる。よって、熱媒流路内の熱媒体の流動を安定にすることができる。
【0054】
≪第3の作用効果≫
次に、熱媒体中に溶解している低分子量物質を効率的に除去する気液分離装置の第3の作用効果について説明する。熱媒流路を循環する熱媒体中には、熱媒流路を循環中に高温暴露による劣化で低分子量物質が発生する。この低分子量物質の一部は、気化せずに熱媒流路を循環する熱媒体中に溶解している。この熱媒体に溶解する低分子量物質は、主に気液分離装置100が有する膨張タンク120によって除去される。
【0055】
図1において、熱媒流路40に設けられた三方弁60の3つの弁61、62、63のうち、熱媒流路40の下流側の弁62を閉鎖し、上流側の弁61と分岐弁63とを開放した状態で流動ポンプ50を作動する。このことにより、熱媒流路40内の熱媒体が三方弁60の分岐弁63と還流流路71を介して、膨張タンク120内に流入する。これと同時に、膨張タンク120の液層121の熱媒体が還流流路72を介して分離タンク110内に流入する。
【0056】
膨張タンク120に流入する熱媒体は、熱媒流路40を循環中に高温暴露による劣化で発生した低分子量物質を溶解している。この熱媒体に溶解していた低分子量物質は、膨張タンク120の内部の低圧状態(熱媒流路40内より低圧)に曝され、溶解していた低分子量物質が気化して液層121から気層122に分離される。なお、膨張タンク120内に流入する熱媒体の流量をある程度確保して高温の熱媒体を膨張タンク内に循環することにより、膨張タンク120内での低分子量物質の気化を効率的に行うことができる。また、膨張タンク120の断熱構造も低分子量物質の気化を促進する。
【0057】
ここで、膨張タンク120は一定の容積を有しており、ここに流入した熱媒体は、所定の滞留時間を確保することができる。この滞留時間内に、熱媒体に溶解していた低分子量物質の気化が完了し、発生した気泡は、膨張タンク120内の液層121から気層122に完全に分離される。従って、熱媒流路40内を高粘度の熱媒体が高流速で流れている場合においても、膨張タンク120に流入した高粘度の熱媒体は所定の滞留時間を確保することができる。このことにより、高粘度の熱媒体から低分子量物質が分離される。その後、膨張タンク120内の液層121の熱媒体は、低分子量物質を混入することなく還流流路72を介して分離タンク110内に流入する。
【0058】
このように、熱媒流路40内の熱媒体が膨張タンク120内に流入することで、循環中に生じた低分子量物質を効率的に除去することができる。よって、熱媒流路内の熱媒体の流動を安定にすることができる。
【0059】
第2実施形態:
本第2実施形態は、上記第1実施形態と同様に着脱式の蓄熱容器を利用した蓄熱システムにおいて、蓄熱材の蓄熱時、及び、蓄熱材の放熱時の熱媒流路に本発明に係る気液分離装置を接続して使用するものである。なお、本第2実施形態においては、本発明に係る気液分離装置が有する分離タンクの構造が上記第1実施形態と異なっている。また、本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様に蓄熱容器内の蓄熱材として水酸化カルシウム系蓄熱材を使用する。また、本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様に熱媒体として耐熱性のシリコーンオイル系熱媒体を使用する。
【0060】
図1は、上述のように、本発明に係る気液分離装置を接続した熱媒流路を示す概略図である。図1においては、本来は別の熱媒流路である蓄熱材の蓄熱時、及び、蓄熱材の放熱時を同じ図として表している。まず、熱供給設備10が放出する400℃を超える高温の廃熱(熱量Q)を着脱式の蓄熱容器30に蓄熱し、この蓄熱容器30を熱需要設備20(図1においては、熱供給設備10と同じ位置に記載)まで移送する。次に、蓄熱容器30に蓄熱した熱量Qを放熱して熱需要設備20に供給する。
【0061】
図1において、本発明に係る気液分離装置200は、分離タンク210と膨張タンク220とを有している。また、熱供給設備10(又は、熱需要設備20)と蓄熱容器30との間には、熱媒体を充填した熱媒流路40が設けられている。この熱媒流路40の経路には、熱媒体を循環させる流動ポンプ50、熱媒体の循環を切り替える三方弁60、及び気液分離装置200が有する分離タンク210が設けられている。分離タンク210は、流動ポンプ50と蓄熱容器30との間に設けられている。三方弁60は、分離タンク210の近傍(上流側)の熱媒流路40と還流流路71との分岐点41に設けられている。また、気液分離装置200が有する膨張タンク220は、還流流路71、72によって熱媒流路40と分離タンク210との間に設けられている。
【0062】
このような構成において、熱媒体は、流動ポンプ50の作動により、流動ポンプ50⇒熱供給設備10(又は、熱需要設備20)⇒蓄熱容器30⇒三方弁60⇒分離タンク210⇒流動ポンプ50の順に熱媒流路40の内部を循環する。
【0063】
分離タンク210は、ステンレススチール製の下方が円柱状で上方が半球状のタンクであって、その内部は、熱媒体からなる液層211のみで構成されており気層が殆ど存在しない(構造の詳細は後述する。)。また、分離タンク210の上方位置は、熱媒流路40の上流側流路と連通している。また、分離タンク210の下方位置は、熱媒流路40の下流側流路と連通している。更に、分離タンク210の頂点位置は、気体流路73により膨張タンク220の気層222(後述する)と連通している。
【0064】
膨張タンク220は、ステンレススチール製の円柱状タンクであって、その内部は、熱媒体からなる液層221とその上方にある気層222とで構成されている。膨張タンク220の液層221は、熱媒流路40に設けられた三方弁60の3つの弁61、62、63のうちの1つである分岐弁63から分岐した還流流路71により熱媒流路40と連通している。また、膨張タンク220の液層221は、還流流路72により分離タンク210の下方位置と連通している。なお、膨張タンク220の上方位置には、気層222の圧力変化を大気中に放出する開口部(図示しない)を設けるようにしてもよく、或いは、別途設けた回収タンク(図示しない)と連通するようにしてもよい。
【0065】
また、本第2実施形態においては、分離タンク210及び膨張タンク220の外壁部は、断熱構造により構成されている。従って、熱媒流路40から還流流路71を介して膨張タンク220に流入する熱媒体が持つ熱量が、外部に放散されずに維持される。このことにより、膨張タンク220に回収された熱媒体から低分子量物質を効率よく気化させる際に熱媒体が持つ熱量がより有効に活用される。
【0066】
次に、本第2実施形態における気液分離装置200が有する分離タンク210の構造について説明する。図3は、本第2実施形態の分離タンク210を示す概略図である。図3において、分離タンク210は、下方の円柱状部分212と上方の半球状部分213とから構成されたタンクである。また、分離タンク210の内部は、熱媒体からなる液層211(図示しない)のみで構成されており気層が殆ど存在しない(気液分離された気泡は一時的に存在する)。更に、分離タンク210の内部は、多孔板216を隔壁として上部室217と下部室218とに区画されている(作用の詳細は後述する。)。
【0067】
この分離タンク210は、その円柱状部分212の上方開口部210aにおいて熱媒流路40の上流側流路40aと連通している。なお、この上方開口部210aは、分離タンク210の上部室217内に開口している。このことにより、熱媒流路40を循環する熱媒体は、熱媒流路40の上流側流路40aから分離タンク210の上部室217内に流入する。
【0068】
また、分離タンク210は、その円柱状部分212の下方開口部210bにおいて熱媒流路40の下流側流路40bと連通している。なお、この下方開口部210bは、分離タンク210の下部室218内に開口している。このことにより、分離タンク210の下部室218内の熱媒体は、円柱状部分212の下方開口部210bから熱媒流路40の下流側流路40bに流出する。
【0069】
また、分離タンク210の下部室218は、還流流路72の流出口72aにおいて還流流路72を介して膨張タンク220(図示しない)の液層221と連通している。また、分離タンク210の上部室217は、その半球状部分213の頂点開口部210cにおいて気体流路73を介して膨張タンク220の気層222と連通している。
【0070】
このような構成において、本第2実施形態に係る気液分離装置の主たる3つの作用効果について以下に説明する。すなわち、第1の作用効果は、熱媒流路内の熱媒体の体積変化を吸収緩和することである。第2の作用効果は、熱媒体中に発生する気泡を効率的に除去することである。第3の作用効果は、熱媒体中に溶解している低分子量物質を効率的に除去することである。
【0071】
≪第1の作用効果≫
まず、熱媒流路内の熱媒体の体積変化を吸収緩和する気液分離装置の第1の作用効果について説明する。図1において、三方弁60の3方向の弁61、62、63を全て解放した状態で、熱供給設備10から蓄熱容器30への熱量Qの蓄熱(吸熱)を行う。まず、流動ポンプ50の作動により、熱媒流路40内を熱媒体が循環する。この状態において、熱供給設備10に設けられた熱交換器(図示せず)により、熱供給設備10の熱量Qが循環する熱媒体に移動する。次に、吸熱した熱媒体は蓄熱容器30まで送られ、蓄熱容器30に設けられた熱交換器(図示せず)により、熱媒体の熱量Qが蓄熱容器30内の蓄熱材(図示せず)に移動して蓄熱される。
【0072】
このとき、熱供給設備10から熱量Qを得た熱媒体は、温度が上昇して体積が膨張する。このような熱媒体の膨張による体積変化は、三方弁60の分岐弁63と還流流路71を介して熱媒体が膨張タンク220に流入することで吸収される。一方、蓄熱容器30に熱量Qを移動した熱媒体は、温度が降下して体積が収縮する。このような熱媒体の収縮による体積変化は、膨張タンク220から還流流路72と分離タンク210を介して熱媒体が熱媒流路40に流入することで吸収される。
【0073】
次に、蓄熱した蓄熱容器30を熱供給設備10の熱媒流路40から切り離し、熱需要設備20のところまで移送する。次に、移送した蓄熱容器30を熱需要設備20の熱媒流路40に組み込み(図1に同じ)、三方弁60の3方向の弁61、62、63を全て解放した状態で、蓄熱容器30から熱需要設備20への熱量Qの移動(放熱)を行う。まず、流動ポンプ50の作動により、熱媒流路40内を熱媒体が循環する。この状態において、蓄熱容器30に設けられた熱交換器(図示せず)により、蓄熱容器30内の蓄熱材に蓄熱されていた熱量Qが熱媒体に移動する。次に、吸熱した熱媒体は熱需要設備20まで送られ、熱需要設備20に設けられた熱交換器(図示せず)により、熱媒体の熱量Qが熱需要設備20に移動して消費される。
【0074】
このとき、蓄熱容器30から熱量Qを得た熱媒体は、温度が上昇して体積が膨張する。このような熱媒体の膨張による体積変化は、三方弁60の分岐弁63と還流流路71を介して熱媒体が膨張タンク220に流入することで吸収される。一方、熱需要設備20に熱量Qを移動した熱媒体は、温度が降下して体積が収縮する。このような熱媒体の収縮による体積変化は、膨張タンク220から還流流路72と分離タンク210を介して熱媒体が熱媒流路40に流入することで吸収される。
【0075】
このように、熱媒流路40内を熱媒体が循環する定常状態においては、温度変化による熱媒体の体積変化を気液分離装置200が有する分離タンク210及び膨張タンク220の作用で十分に吸収緩和することができる。よって、熱媒流路内の熱媒体の流動を安定にすることができる。
【0076】
≪第2の作用効果≫
次に、熱媒体中に発生する気泡を効率的に除去する気液分離装置の第2の作用効果について説明する。熱媒流路を循環する熱媒体中には、熱媒流路を循環中に高温暴露による劣化で低分子量物質が発生する。この低分子量物質の一部は、熱媒流路を循環中に気化して気泡を発生させて熱媒体に混入している。この熱媒体に混入した気泡は、主に気液分離装置200が有する分離タンク210によって気液分離され、分離タンク210に連通した膨張タンク220によって除去される。
【0077】
図3において、熱媒流路40を循環する熱媒体は、熱媒流路40の上流側流路40aから分離タンク210の上方開口部210aを介して分離タンク210の上部室217内に流入する。この上部室217内に流入した熱媒体は、上部室217と下部室218との間に隔壁として存在する多孔板216を通過して分離タンク210の下部室218内に流入する。その後、下部室218内に流入した熱媒体は、分離タンク210の下方開口部210bから熱媒流路40の下流側流路40bに流出する。
【0078】
このとき、多孔板216を通過する熱媒体は、多孔板216が有する無数の細孔によって通過抵抗を受けて気液分離される。その結果、上部室217内に流入した熱媒体が含有していた気泡が上部室217内に取り残され、気液分離され気泡を含有しない熱媒体が下部室218内に流入する。なお、多孔板216の構造及び細孔の孔径については、特に限定するものではない。例えば、熱媒体の種類、粘度及び使用温度によって通過抵抗を考慮して、気液分離の効率のよいものを適宜選定すればよい。
【0079】
一方、多孔板216の作用で分離された気泡215は、分離タンク210の上部室217内を上方に移動する。ここで、分離タンク210の上方は、上述のように、半球状部分213で構成されている。従って、分離タンク210の上部室217内を上方に移動した気泡215は、分離タンク210の上部室217内の半球状部分213の頂点に集められ、頂点開口部210cから気体流路73を介して膨張タンク220の気層222に回収される。これと並行して、膨張タンク220(図示しない)の液層221の熱媒体は、還流流路72を介して還流流路72の流出口72aから分離タンク210の下部室218内に流入する。
【0080】
このように、熱媒流路40内の熱媒体が分離タンク210内に流入することで、循環中に生じた低分子量物質が気化した気泡を効率的に除去することができる。よって、熱媒流路内の熱媒体の流動を安定にすることができる。
【0081】
≪第3の作用効果≫
次に、熱媒体中に溶解している低分子量物質を効率的に除去する気液分離装置の第3の作用効果について説明する。熱媒流路を循環する熱媒体中には、熱媒流路を循環中に高温暴露による劣化で低分子量物質が発生する。この低分子量物質の一部は、気化せずに熱媒流路を循環する熱媒体中に溶解している。この熱媒体に溶解する低分子量物質は、主に気液分離装置200が有する膨張タンク220によって除去される。
【0082】
図1において、熱媒流路40に設けられた三方弁60の3つの弁61、62、63のうち、熱媒流路40の下流側の弁62を閉鎖し、上流側の弁61と分岐弁63とを開放した状態で流動ポンプ50を作動する。このことにより、熱媒流路40内の熱媒体が三方弁60の分岐弁63と還流流路71を介して、膨張タンク220内に流入する。これと同時に、膨張タンク220の液層221の熱媒体が還流流路72を介して分離タンク210内に流入する。
【0083】
膨張タンク220に流入する熱媒体は、熱媒流路40を循環中に高温暴露による劣化で発生した低分子量物質を溶解している。この熱媒体に溶解していた低分子量物質は、膨張タンク220の内部の低圧状態(熱媒流路40内より低圧)に曝され、溶解していた低分子量物質が気化して液層221から気層222に分離される。なお、膨張タンク220内に流入する熱媒体の流量をある程度確保して高温の熱媒体を膨張タンク内に循環することにより、膨張タンク220内での低分子量物質の気化を効率的に行うことができる。また、膨張タンク220の断熱構造も低分子量物質の気化を促進する。
【0084】
ここで、膨張タンク220は一定の容積を有しており、ここに流入した熱媒体は、所定の滞留時間を確保することができる。この滞留時間内に、熱媒体に溶解していた低分子量物質の気化が完了し、発生した気泡は、膨張タンク220内の液層221から気層222に完全に分離される。従って、熱媒流路40内を高粘度の熱媒体が高流速で流れている場合においても、膨張タンク220に流入した高粘度の熱媒体は所定の滞留時間を確保することができる。このことにより、高粘度の熱媒体から低分子量物質が分離される。その後、膨張タンク220内の液層221の熱媒体は、低分子量物質を混入することなく還流流路72を介して分離タンク210内に流入する。
【0085】
このように、熱媒流路40内の熱媒体が膨張タンク220内に流入することで、循環中に生じた低分子量物質を効率的に除去することができる。よって、熱媒流路内の熱媒体の流動を安定にすることができる。
【0086】
以上説明したように、本発明においては、熱媒流路内の熱媒体の膨張或いは収縮による体積変化を吸収緩和すると共に、熱媒体中に発生する気泡及び熱媒体に溶解している低分子量物質を効率的に除去して熱媒流路内の熱媒体の流動を安定にすることのできる気液分離装置を提供することができる。
【0087】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記各実施形態においては、いずれも、脱着式の蓄熱容器を利用した蓄熱システムに使用される気液分離装置について説明する。しかし、本発明に係る気液分離装置は、これに限定されるものではなく、熱供給設備と熱需要設備との間を直接循環する熱媒流路に使用されるものであってもよい。
(2)上記各実施形態においては、いずれも、熱供給設備が放出する廃熱の温度が400℃を超える高温であり、この高温の廃熱を利用するために化学蓄熱材として水酸化カルシウム系蓄熱材を採用するものであるが、これに限定されるものではなく、熱供給設備が放出する熱量の温度に合わせて蓄熱材の種類を適宜選定することにより、様々な温度領域の熱量に対しても本発明を適用することができる。
(3)上記各実施形態においては、いずれも、分離タンクの構造を円柱状部分と半球状部分からなるものとするが、これに限定されるものではなく、気液分離した気泡を膨張タンクに流出できるものであれば、どのような構造であってもよい。
(4)上記各実施形態においては、いずれも、還流流路を流れる熱媒体の流れ方向を制御することについて説明していないが、熱媒流路の分岐点或いは還流流路内に熱媒体が一定方向に流れるように整流器などを設けるようにしてもよい。
(5)上記第1実施形態においては、熱媒流路から分離タンク内に流入する熱媒体の流入方向と流速により渦流を形成し、その遠心力により気液分離を行うようにしたものである。しかし、これに限定されるものではなく、駆動式の撹拌機構により渦流を発生させ気液分離するようにしてもよい。
(6)上記第2実施形態においては、多孔板の細孔を通過する熱媒体の通過抵抗により気液分離を行うようにしたものである。しかし、多孔板に限定されるものではなく、分離膜、メッシュなど微細な細孔を無数に有する多孔体であって、通過抵抗或いは接触抵抗により気液分離できるものであればどのようなものを使用してもよい。
【符号の説明】
【0088】
10…熱供給設備、
20…熱需要設備、
30…蓄熱容器、
40…熱媒流路、41…分岐点、
50…流動ポンプ、
60…三方弁、61、62、62…弁、
71、72…還流流路、73…気体流路、
100、200…気液分離装置、
110、210…分離タンク、
120、220…膨張タンク、
110a、110b、110c、210a、210b、210c…開口部、
111、121、211、221…液層、
122、222…気層、
112、212…円柱状部分、113、213…半球状部分、
114…渦流、115、215…気泡、
216…多孔板。
図1
図2
図3