(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、前記試験セルの初回放電容量の11%以上30%以下の範囲の値となることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
前記電極の電位が0.4Vとなる時の放電容量が、前記試験セルの初回放電容量の35%以上60%以下の範囲の値となるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
前記電極の電位が0.4Vとなる時の放電容量が、前記試験セルの初回放電容量の40%以上50%以下の範囲の値となるものであることを特徴とする請求項3に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
前記試験セルの初回放電容量が1200mAh/g以上1520mAh/g以下となるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
前記ケイ素化合物の質量と前記炭素被膜の質量の合計に対する、前記炭素被膜の質量の割合が5質量%以上20質量%以下のものであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
前記負極活物質粒子は、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であると共に、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源である非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなる非水電解質二次電池の開発が望まれている。また、ケイ素材を用いた非水電解質二次電池は炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれている。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、電池容量を増加させ、サイクル特性を向上させることが可能な非水電解質二次電池用負極活物質及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、その負極活物質を用いた非水電解質二次電池を提供することも目的とする。さらに、本発明は、電池容量を増加させ、サイクル特性に優れる非水電解質二次電池用負極材を製造する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、負極活物質粒子を有し、該負極活物質粒子はLi化合物が含まれるケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含有するものである非水電解質二次電池用負極活物質であって、前記負極活物質粒子を含む電極と金属リチウムから成る対極を組み合わせた試験セルを、前記電極の電位が0.0Vに達するまで定電流充電し、該定電流充電後、前記定電流充電時の電流値の1/10の電流値となるまで定電圧充電し、その後、前記電極の電位が1.2Vに達するまで定電流放電した場合において、前記試験セルの初回効率が82%以上であり、かつ、前記試験セルにおける前記電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、前記試験セルの初回放電容量の7%以上30%以下の範囲の値となるものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質を提供する。
【0017】
対極を金属Liとした試験セルにおいて、上記のような条件の下、定電流定電圧充電、及び定電流放電を行った場合の初回効率が82%以上となる負極活物質であれば、この負極活物質を使用して非水電解質二次電池を製造した場合に、電池容量が向上するとともに、正極と負極とのバランスずれが抑えられ、電池の容量維持率を向上させることができる。また、このとき、試験セルの負極活物質粒子を含む電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、試験セルの初回放電容量の7%以上であれば、負極活物質粒子内のケイ素化合物の不均化の程度が適切であり、二酸化ケイ素の結晶成長が進み過ぎていないため、イオン導電性が良好なものとなる。また、上記の充電容量が、試験セルの初回放電容量の30%以下であれば、ケイ素化合物内のケイ素の結晶子が十分成長しており、電池の充放電時にリチウムイオンをトラップするサイト(Liトラッピングサイト)の量が少ないものとなる。以下、本発明におけるケイ素化合物から成る負極活物質粒子を「ケイ素系活物質粒子」とも称する。
【0018】
このとき、前記電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、前記試験セルの初回放電容量の11%以上30%以下の範囲の値となるものであることが好ましい。
【0019】
電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量がこの範囲であれば、ケイ素化合物の不均化の度合いがより適切となる。
【0020】
またこのとき、前記電極の電位が0.4Vとなる時の放電容量が、前記試験セルの初回放電容量の35%以上60%以下の範囲の値となるものであることが好ましい。また、前記電極の電位が0.4Vとなる時の放電容量が、前記試験セルの初回放電容量の40%以上50%以下の範囲の値となるものであることが特に好ましい。
【0021】
上記の放電容量が35%以上であれば、ケイ素化合物の不均化の程度が十分に大きく、電池の充放電時のLiトラッピングサイトが低減されたものとなる。上記の放電容量が60%以下であれば、ケイ素化合物の不均化の程度が大きくなり過ぎず、電池の充放電に伴うケイ素化合物の膨張収縮を小さく抑制できる。また、これらの効果は上記の放電容量が40%以上50%以下の範囲で一層向上する。
【0022】
このとき、前記試験セルの初回放電容量が1200mAh/g以上1520mAh/g以下となるものであることが好ましい。また、前記試験セルの初回放電容量が1200mAh/g以上1450mAh/g以下となるものであることが特に好ましい。
【0023】
試験セルの初回放電容量が1520mAh/g以下であれば、初回充電前の負極活物質にリチウムが十分に含まれているため、二次電池とした場合に初回効率がより向上する。試験セルの初回放電容量が1200mAh/g以上であれば、初回充電前の負極活物質に含まれるリチウムの量が多くなり過ぎず、導電性及びイオン導電性を高く保つことができる。
【0024】
またこのとき、前記ケイ素化合物は内部に、Li
2SiO
3、Li
6Si
2O
7、Li
4SiO
4のうち1つ以上を含むものであることが好ましい。
【0025】
電池を充放電する際の、リチウムイオンの挿入、脱離に伴い不安定化するSiO
2成分部が、予め上記のようなリチウムシリケートに改質された負極活物質であれば、充電時に発生する電池の不可逆容量を低減することができる。これにより、二次電池の初回効率がより向上する。
【0026】
このとき、前記ケイ素化合物は表面に、Li
2CO
3、Li
2O、LiOHのうち1つ以上を含むものであることが好ましい。
【0027】
これらのようなリチウム化合物を表面に有していれば、ケイ素系活物質粒子と電解液との分解反応を抑制することができ、ケイ素系活物質粒子の保存特性が飛躍的に向上する。その結果、二次電池とした場合の維持率がより向上する。
【0028】
またこのとき、前記ケイ素化合物は、電気化学的手法、熱的手法、又はその両方によりLiが挿入され、改質されたものであることが好ましい。
【0029】
Li化合物が、電気化学的手法、熱的手法、又はその両方を含む工程により生成したものであることにより、より安定したLi化合物を含むケイ素化合物となり、より電池特性を向上できる
【0030】
このとき、前記ケイ素化合物が、表面に炭素被膜を有するものであることが好ましい。
【0031】
ケイ素化合物の表面に炭素被膜を有する負極活物質であれば、高い導電性を有する。
【0032】
またこのとき、本発明の負極活物質が、前記ケイ素化合物の質量と前記炭素被膜の質量の合計に対する、前記炭素被膜の質量の割合が5質量%以上20質量%以下のものであることが好ましい。
【0033】
炭素被膜の質量の割合が上記の範囲であれば、十分な導電性を有するものとなり、かつ、高容量のケイ素化合物を適切な割合で含むことができ、十分な電池容量及び体積エネルギー密度を確保することができるものとなる。
【0034】
このとき、前記負極活物質粒子は、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であると共に、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下であることが好ましい。
【0035】
このような半値幅及び結晶子サイズを有するケイ素化合物は、結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないため、電池特性を向上させることができる。また、このような結晶性の低いケイ素化合物が存在することで、安定的なLi化合物の生成を行うことができる。
【0036】
またこのとき、前記負極活物質粒子のメディアン径が0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0037】
このようなメディアン径のケイ素系活物質粒子を含む負極活物質であれば、充放電時においてリチウムイオンの吸蔵放出がされやすくなるとともに、ケイ素系活物質粒子が割れにくくなる。その結果、容量維持率を向上させることができる。
【0038】
また、上記目的を達成するために、本発明は、さらに、上記のいずれかの非水電解質二次電池用負極活物質及び炭素系負極活物質を含むものであることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0039】
本発明のケイ素系活物質に加え、さらに、炭素系活物質粒子を含有することにより、負極の容量が大きく、かつ、良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる二次電池となる。
【0040】
このとき、前記非水電解質二次電池用負極活物質を前記炭素系負極活物質の質量に対する質量比で10質量%以上含むものであることが好ましい。
【0041】
高容量のケイ素系活物質を上記の範囲で含むことで、より高容量の二次電池となる。
【0042】
また、上記目的を達成するために、本発明は、非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であって、SiO
x(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物の粒子を作製する工程と、前記ケイ素化合物の粒子にLiを挿入することにより、該ケイ素化合物にLi化合物を生成させて、該ケイ素化合物の粒子を改質する工程とを有し、前記ケイ素化合物の粒子を改質する工程において、前記改質したケイ素化合物の粒子を含む電極と金属リチウムから成る対極を組み合わせた試験セルを、前記電極の電位が0.0Vに達するまで定電流充電し、該定電流充電後、前記定電流充電時の電流値の1/10の電流値となるまで定電圧充電し、その後、前記電極の電位が1.2Vに達するまで定電流放電した場合における、前記試験セルの初回効率が82%以上であり、かつ、前記試験セルにおける前記電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、前記試験セルの初回放電容量の7%以上30%以下の範囲の値となるように前記ケイ素化合物の粒子を改質し、前記改質後のケイ素化合物の粒子を非水電解質二次電池用負極活物質とすることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法を提供する。
【0043】
このような製造方法であれば、ケイ素化合物の粒子の改質条件を調整することで、上記の本発明の非水電解質二次電池用負極活物質を容易に得ることが可能である。
【0044】
また、上記目的を達成するために、本発明は、負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極材の製造方法であって、SiO
x(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物の粒子を作製する工程と、前記ケイ素化合物の粒子にLiを挿入することにより、該ケイ素化合物にLi化合物を生成させて、該ケイ素化合物の粒子を改質する工程と、該改質したケイ素化合物の粒子を含む電極と金属リチウムから成る対極を組み合わせた試験セルを、前記電極の電位が0.0Vに達するまで定電流充電し、該定電流充電後、前記定電流充電時の電流値の1/10の電流値となるまで定電圧充電し、その後、前記電極の電位が1.2Vに達するまで定電流放電した場合における、前記試験セルの初回効率が82%以上であり、かつ、前記試験セルにおける前記電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、前記試験セルの初回放電容量の7%以上30%以下の範囲の値となる前記ケイ素化合物の粒子を、前記改質されたケイ素化合物の粒子から選別する工程を有し、該選別したケイ素化合物の粒子を負極活物質粒子として、非水電解質二次電池用負極材を製造することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材の製造方法を提供する。
【0045】
このような製造方法であれば、上記のように選別したケイ素化合物をケイ素系活物質粒子として使用することで、高容量であるとともに優れた容量維持率及び初回効率を発揮する非水電解質二次電池用負極材を製造することができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明の負極活物質は、非水電解質二次電池の負極活物質として用いた際に、高容量で良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる。また、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質を含む二次電池においても同様の特性を得ることができる。また、本発明の二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができる。
【0047】
また、本発明の負極活物質の製造方法及び負極材の製造方法であれば、高容量で良好なサイクル特性及び初期充放電特性を有する負極活物質及び負極材を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
前述のように、非水電解質二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極を非水電解質二次電池の負極として用いることが検討されている。
【0051】
このケイ素材を用いた非水電解質二次電池は、炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれているが、炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極材は提案されていなかった。また、特に酸素を含むケイ素化合物は、炭素材と比較し初回効率が低いため、その分電池容量の向上は限定的であった。
【0052】
そこで、発明者らは、非水電解質二次電池の負極に用いた際に、良好なサイクル特性及び初回効率が得られる負極活物質について鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0053】
本発明の非水電解質二次電池用負極活物質は、負極活物質粒子を有する。この負極活物質粒子はLi化合物を含むケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含有するケイ素系活物質粒子である。さらに、このケイ素系活物質粒子を含む電極と金属リチウムから成る対極を組み合わせた試験セルを、電極の電位が0.0Vに達するまで定電流充電し、定電流充電後、定電流充電時の電流値の1/10の電流値となるまで定電圧充電し、その後、電極の電位が1.2Vに達するまで定電流放電した場合において、試験セルの初回効率が82%以上となるものである。さらに、このとき、試験セルにおける電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、試験セルの初回放電容量の7%以上30%以下の範囲の値となるものである。
【0054】
本発明におけるケイ素系活物質粒子は、Liを含むものであるため、電池作製時に使用する水系スラリーに対して高い安定性を有し、サイクル特性が向上する。また、ケイ素系活物質粒子が、Liを含むものであることで、充放電の際のLiの挿入・脱離時にSiO
2成分部が不安定となることが無く、初回効率が向上する。また、本発明におけるケイ素系活物質粒子は、ケイ素化合物を主体とする負極活物質であるので、電池容量を大きくすることができる。
【0055】
また、上記のような試験セルにおいて、上記のような条件の下、定電流定電圧充電、及び定電流放電を行った場合の初回効率が82%以上となる負極活物質であれば、この負極活物質を使用して電池を製造した場合に、電池容量が向上するとともに、正極と負極とのバランスずれが抑えられ、電池の容量維持率を向上させることができる。
【0056】
また、試験セルのケイ素系活物質粒子を含む電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、試験セルの初回放電容量の7%未満であると、ケイ素化合物の不均化が過度に進行し、ケイ素の結晶子が過度に成長し、その周囲にある二酸化ケイ素の結晶成長も進んだ状態であるため、イオン導電性が悪く、サイクル特性や初回充放電特性といった電池特性が悪化する。また、上記の充電容量が、試験セルの初回放電容量の30%より大きいと、ケイ素化合物内の不均化が不十分で、ケイ素の結晶子が十分に成長しておらず、Liトラッピングサイトが多く残っているため、初回効率が低下する。
【0057】
それに対し、本発明におけるケイ素系活物質粒子は、上記の充電容量が、試験セルの初回放電容量の7%以上という条件を満たすため、ケイ素化合物の不均化の程度が適切であり、二酸化ケイ素の結晶成長が進み過ぎていないため、イオン導電性が良好なものとなり電池特性が向上する。また、上記の充電容量が、試験セルの初回放電容量の30%以下であれば、ケイ素化合物内のケイ素の結晶子が十分成長しており、電池の充放電時のLiトラッピングサイトが少ないものとなり、電池の初回効率が向上する。
【0058】
<1.非水電解質二次電池用負極>
以下、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質を用いた非水電解質二次電池用負極について説明する。
図1は、本発明の一実施形態における非水電解質二次電池用負極(以下、単に「負極」と称することがある。)の断面構成を表している。
【0059】
[負極の構成]
図1に示したように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていても良い。さらに、本発明の負極活物質が用いられたものであれば、負極集電体11はなくてもよい。
【0060】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)があげられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0061】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、100ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0062】
負極集電体11の表面は、粗化されていても、粗化されていなくても良い。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などである。粗化されていない負極集電体は例えば、圧延金属箔などである。
【0063】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、本発明の負極活物質を含んでおり、電池設計上、さらに負極結着剤や負極導電助剤など、他の材料を含んでいても良い。負極活物質として、Li化合物を含むケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含有する負極活物質粒子(ケイ素系活物質粒子)の他に炭素系活物質なども含んでいても良い。本発明の非水電解質二次電池用負極活物質は、この負極活物質層12を構成する材料となる。
【0064】
本発明の負極活物質に含まれるケイ素系活物質粒子はリチウムイオンを吸蔵、放出可能なケイ素化合物を含有している。そして、このケイ素化合物の表面、内部、又はその両方にはLi化合物が含まれている。
【0065】
ケイ素化合物の表面に含まれるLi化合物としては、Li
2CO
3、Li
2O、LiOHのうち1つ以上が含まれていることが好ましい。これにより、表面のLi化合物がケイ素化合物と電解液との反応を抑制することができ、よりサイクル特性が向上する。
【0066】
ケイ素化合物の内部に含まれるLi化合物としては、Li
2SiO
3、Li
6Si
2O
7、Li
4SiO
4のうち1つ以上が含まれていることが好ましい。電池を充放電する際のリチウムイオンの挿入、脱離に伴い不安定化するSiO
2成分部が、予め上記のようなリチウムシリケートに改質された負極活物質であれば、充電時に発生する電池の不可逆容量を低減することができる。
【0067】
ケイ素化合物に含まれるLi化合物は、少なくとも1種存在すれば電池特性を向上させることができるが、2種以上のLi化合物が共存した状態であれば、より電池特性を向上させることができる。
【0068】
また、上記のように本発明におけるケイ素系活物質粒子はケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含む。ケイ素化合物の組成としてはxが1に近い方が好ましい。これは、高いサイクル特性が得られるからである。また、本発明におけるケイ素材組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいても良い。
【0069】
Li化合物が含まれるケイ素化合物は、ケイ素化合物の内部に生成するSiO
2成分の一部をLi化合物へ選択的に変更することにより得ることができる。このような選択的化合物の作成方法、即ち、ケイ素化合物の改質は、熱的方法、電気化学的方法、又はその両方を含む工程により行うことが好ましい。
【0070】
熱的方法又は電気化学的方法による改質(バルク内改質)方法を用いてケイ素系活物質粒子を製造することで、ケイ素化合物のSi領域のLi化合物化を低減、又は避けることが可能であり、大気中、又は水系スラリー中、溶剤スラリー中で安定した物質となる。また、熱的方法又は電気化学的方法により改質を行うことにより、室温でLi金属を負極または負極活物質粒子に直接接触させる方法(接触法)等よりも安定した物質を作ることが可能である。
【0071】
これらの選択的化合物(Li化合物)は、電気化学的手法においては、例えば、改質装置のリチウム対極(リチウム源)に対する電位規制や電流規制などを行い、例えば、熱的手法においては、焼成条件を変更することで作製が可能となる。ケイ素化合物に含まれるLi化合物は、NMR(核磁気共鳴)とXPS(X線光電子分光)で定量可能である。XPSとNMRの測定は、例えば、以下の条件により行うことができる。
XPS
・装置: X線光電子分光装置、
・X線源: 単色化Al Kα線、
・X線スポット径: 100μm、
・Arイオン銃スパッタ条件: 0.5kV 2mm×2mm。
29Si MAS NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置: Bruker社製700NMR分光器、
・プローブ: 4mmHR−MASローター 50μL、
・試料回転速度: 10kHz、
・測定環境温度: 25℃。
【0072】
また、上述のように本発明におけるケイ素系活物質粒子は、ケイ素系活物質粒子を含む電極と金属リチウムから成る対極を組み合わせた試験セルを、電極の電位が0.0Vに達するまで定電流充電し、定電流充電後、定電流充電時の電流値の1/10の電流値となるまで定電圧充電し、その後、電極の電位が1.2V(放電カットオフ電圧)に達するまで定電流放電した場合において、試験セルの初回効率が82%以上となるものである。また、本発明におけるケイ素系活物質粒子は上記の試験セルの電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、試験セルの初回放電容量の7%以上30%以下の範囲の値となるものである。特に、試験セルの電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、試験セルの初回放電容量の11%以上30%以下の範囲の値となるものであることが好ましい。
【0073】
ここで、このような試験セルの初回充放電時の電極の電位と試験セルの充電容量の関係を、
図4に示す初回充放電曲線の概略図を参照して説明する。
図4には、初回充電曲線aと初回放電曲線bが示されている。まず、電極の電位が0.0Vに達するまで定電流充電する(
図4に示す初回充電曲線a上の点p
0から点p
1までに相当)。その後、定電流充電時の電流値の1/10の電流値となるまで0.0Vで定電圧充電する(
図4に示す初回充電曲線a上の点p
1から点p
2までに相当)。その後、電極の電位が1.2Vに達するまで定電流放電する(
図4に示す初回放電曲線b上の点p
2から点p
3までに相当)。
【0074】
このような
図4に示す初回充放電において、試験セルの初回効率(%)は初回充電容量Bに対する、初回放電容量Aの割合、すなわち、A/B×100を計算することにより得られる。なお、
図4に示すCは不可逆容量をあらわす。そして本発明におけるケイ素系活物質粒子は、この試験セルの初回効率が82%以上となるものである。さらに、本発明におけるケイ素系活物質粒子は、
図4に示すような、電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量Dが、試験セルの初回放電容量Aの7%以上30%以下の範囲の値となるものである。すなわち、本発明におけるケイ素系活物質粒子は、電極の初回充放電曲線が、0.07≦D/A≦0.30の関係を満たすような曲線となるものである。
【0075】
試験セルの初回効率及び初回の充放電における電極の電位と充電容量の関係(すなわち、
図4に示すような初回充放電曲線の形状)が、上記条件を満たすケイ素系活物質粒子を含む負極活物質は、ケイ素化合物のLiドープ改質条件を調節することで作製できる。例えば、上述のように電気化学的手法においては、改質装置のリチウム対極に対する電位規制や電流規制などを行うことで、熱的手法においては、焼成条件を変更することで、生成するLi化合物の量、種類を制御することができる。このようにして上記のような試験セルにおいて初回充放電曲線の形状を示すケイ素系活物質粒子の作製が可能となる。また、他にも、試験セルの充電容量と電極の電位の関係が上記範囲を満たすように調整する方法としては、Liドープ改質を行った後、水やエタノールなどの溶媒で洗浄するなどの方法がある。この際に使用する溶媒に塩基性を示す物質が含まれていてもよい。
【0076】
このとき、本発明におけるケイ素系活物質粒子は、上記と同様の試験セルにおいて、上記と同様の定電流定電圧充電及び定電流放電を行った場合に、電極の電位が0.4Vとなる時の放電容量が、試験セルの初回放電容量の35%以上60%以下の範囲の値となるものであることが好ましい。また、電極の電位が0.4Vとなる時の放電容量が、試験セルの初回放電容量の40%以上50%以下の範囲の値となるものであることが特に好ましい。
【0077】
上記の放電容量が35%以上であれば、ケイ素化合物の不均化の程度が十分に大きく、電池の充放電時のLiとラッピングサイトの存在量がより低減されたものとなる。これにより、電池としたときの初回効率がより向上する。上記の放電容量が60%以下であれば、ケイ素化合物の不均化の程度が大きくなり過ぎず、電池の充放電に伴うケイ素化合物の膨張収縮を小さく抑制できる。これにより、電池としたときのサイクル特性がより向上する。また、これらの効果は上記の放電容量が40%以上50%以下の範囲で一層向上する。
【0078】
放電容量を上記の範囲に調節する方法としては、例えば、Liドープ改質時の処理温度を調節する方法や、炭素被膜を作成する際の処理温度を調節する方法がある。
【0079】
またこのとき、試験セルの初回放電容量が1200mAh/g以上1520mAh/g以下となるものであることが好ましい。このとき、試験セルの初回放電容量が1200mAh/g以上1450mAh/g以下となるものであることが特に好ましい。
【0080】
試験セルの初回放電容量が1520mAh/g以下であれば、初回充電前の負極活物質にリチウムが十分に含まれているため、電池とした場合に初回効率がより向上する。試験セルの初回放電容量が1200mAh/g以上であれば、初回充電前の負極活物質に含まれるリチウムの量が多くなり過ぎず、導電性及びイオン導電性を高く保つことができる。
【0081】
試験セルの初回放電容量を調節する方法としては、例えば、Liドープ改質する際に用いるLiの量を調節する方法や、熱的改質を行う際の焼成温度を調整する方法などがある。
【0082】
また本発明において、ケイ素化合物が、表面に炭素被膜を有するものであることが好ましい。ケイ素化合物の表面に炭素被膜を有する負極活物質であれば、高い導電性を有するため、電池特性を向上させることができる。炭素被膜の形成方法としては、黒鉛等の炭素材(炭素系化合物)によってケイ素化合物を被膜する方法を挙げることができる。
【0083】
また、本発明のケイ素系活物質粒子において、ケイ素化合物の質量と炭素被膜の質量の合計に対する、炭素被膜の質量の割合が5質量%以上20質量%以下のものであることが好ましい。
【0084】
炭素被膜の質量の割合が上記の範囲であれば、十分な導電性を有するものとなり、かつ、高容量のケイ素化合物を適切な割合で含むことができ、十分な電池容量及び体積エネルギー密度を確保することができるものとなる。これらの炭素系化合物の被覆手法は特に限定されないが、糖炭化法、炭化水素ガスの熱分解法が好ましい。これらの方法であれば、ケイ素化合物の表面における、炭素被膜の被覆率を向上させることができるからである。
【0085】
また、本発明において、ケイ素系物質粒子は、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であると共に、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下であることが好ましい。
【0086】
このような半値幅及び結晶子サイズを有するケイ素化合物は、結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないため、電池特性を向上させることができる。また、このような結晶性の低いケイ素化合物が存在することで、ケイ素化合物の内部又は表面若しくはその両方に安定的なLi化合物の生成を行うことができる。
【0087】
また、本発明において、ケイ素系活物質粒子のメディアン径が0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。このようなメディアン径のケイ素系活物質粒子を含む負極活物質であれば、充放電時においてリチウムイオンの吸蔵放出がされやすくなるとともに、粒子が割れにくくなるからである。メディアン径が0.5μm以上であれば表面積が大きすぎないため、電池不可逆容量を低減することができる。一方、メディアン径が20μm以下であれば、粒子が割れにくく、新生面が出にくいため好ましい。なお、メディアン径の測定における測定環境の温度は25℃である。
【0088】
負極活物質層には、負極活物質の他に、負極導電助剤を含んでいても良い。負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、鱗片状黒鉛等の黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどのうちいずれか1種以上があげられる。これらの導電助剤は、ケイ素化合物よりもメディアン径の小さい粒子状のものであることが好ましい。
【0089】
本発明において、
図1に示すような負極活物質層12は、本発明の負極活物質に加え、さらに、炭素材料(炭素系活物質)を含んでもよい。これにより、負極活物質層12の電気抵抗を低下させるとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。この炭素系活物質は、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、カーボンブラック類などがある。
【0090】
この場合、本発明の負極は、炭素系活物質とケイ素化合物の総量に対する、ケイ素化合物の割合が10質量%以上のものであることが好ましい。このような非水電解質二次電池用負極であれば、初回効率、容量維持率が低下することがない。また、この含有量の上限は、90質量%未満であることが好ましい。
【0091】
負極活物質層12は、例えば塗布法で形成される。塗布法とは負極活物質粒子と結着剤など、また必要に応じて上記の導電助剤、炭素系活物質を混合したのち、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0092】
[負極の製造方法]
本発明の負極を製造する方法について説明する。まず、負極に使用する負極材に含まれるケイ素系活物質粒子の製造方法を説明する。まず、SiO
x(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物を作製する。次に、ケイ素化合物にLiを挿入することにより、該ケイ素化合物の表面若しくは内部又はその両方にLi化合物を生成させてケイ素化合物を改質する。改質方法としては、上述の電気化学的手法、熱的手法が好ましい。また、改質前に、ケイ素化合物の表面に炭素被膜を形成しても良い。このようにケイ素系活物質粒子を製造した後に、ケイ素系活物質粒子を導電助剤、結着剤および溶媒と混合し、スラリーを得る。このとき、必要に応じて、炭素系活物質も混合しても良い。次に、スラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥させて負極活物質層を形成する。
【0093】
より具体的には、負極は、例えば、以下の手順により製造される。
【0094】
まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下900℃〜1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合であり、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。粒子中のSi結晶子は仕込み範囲や気化温度の変更、また生成後の熱処理で制御される。発生したガスは吸着板に堆積される。反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。
【0095】
次に、得られたケイ素化合物の粉末材料の表層に炭素被膜を生成することができるが、この工程は必須ではない。
【0096】
炭素被膜を生成する手法としては、熱CVDが望ましい。熱CVDは炉内にセットした酸化ケイ素粉末と炉内に炭化水素ガスを充満させ炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが特に1200℃以下が望ましく、より望ましいのは950℃以下である。これは、ケイ素化合物の意図しない不均化を抑制することが可能であるからである。
【0097】
熱CVDによって炭素被膜を生成する場合、例えば、炉内の圧力、温度を調節することによって、炭素被膜の被覆率や厚さを調節しながら炭素被膜を粉末材料の表層に形成することができる。
【0098】
熱分解CVDで使用する炭化水素ガスは特に限定することはないが、C
nH
m組成のうち3≧nが望ましい。製造コストを低くすることができ、分解生成物の物性が良いからである。
【0099】
次に、ケイ素化合物の粉末材料にLiを挿入することにより、ケイ素化合物にLi化合物を生成させて、該ケイ素化合物の粒子を改質する。この際に、改質したケイ素化合物の粒子を含む電極と金属リチウムから成る対極を組み合わせた試験セルを、電極の電位が0.0Vに達するまで定電流充電し、該定電流充電後、定電流充電時の電流値の1/10の電流値となるまで定電圧充電し、その後、電極の電位が1.2Vに達するまで定電流放電した場合における、試験セルの初回効率が82%以上であり、かつ、試験セルにおける電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、試験セルの初回放電容量の7%以上30%以下の範囲の値となるようにケイ素化合物の粒子を改質する。このような性質を持つように、ケイ素化合物のLiドープ改質を行うには、電気化学的又は熱的にLiを挿入・脱離し得ることが望ましく、両方の手法を組み合わせることがより好ましい。
【0100】
電気化学的な手法によりケイ素化合物の改質を行う場合は、特に装置構造を限定することはないが、例えば
図2に示すLiドープ改質装置20を用いて、改質を行うことができる。
図2に示す、Liドープ改質装置20は、有機溶媒23で満たされた浴槽27と、浴槽27内に配置され、電源26の一方に接続された陽電極(リチウム源、改質源)21と、浴槽27内に配置され、電源26の他方に接続された粉末格納容器25と、陽電極21と粉末格納容器25との間に設けられたセパレータ24とを有している。粉末格納容器25には、酸化ケイ素の粉末22が格納される。
【0101】
浴槽27内の有機溶媒23として、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどを用いることができる。また、有機溶媒23に含まれる電解質塩として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などを用いることができる。
【0102】
陽電極21はLi箔を用いてもよく、また、Li含有化合物を用いてもよい。Li含有化合物として、炭酸リチウム、酸化リチウム、コバルト酸リチウム、オリビン鉄リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸バナジウムリチウムなどがあげられる。この時、炭素粒子を、カルボキシメチルセルロースおよびスチレンブタジエンゴムを介して酸化ケイ素の粉末22に接着させることでスムーズな改質が得られる。この電気化学的手法による改質処理の前又は後に、リチウム源をケイ素化合物の粒子と混合後、焼成する熱的手法によりLiドープ改質を行ってもよい。
【0103】
ケイ素系化合物の粒子をリチウム源と混合し焼成することで改質する場合、改質に用いるリチウム源としては、リチウム金属、リチウムナフタレニド、LiH、LiAlH
4、Li
2O、LiOH、Li
2CO
3、又はLiの有機酸塩などを用いることができる。また、焼成温度は600℃−800℃とすることができる。
【0104】
上記のように、得られた改質粒子は、炭素被膜を含んでいなくても良い。ただし、電気化学的手法による改質処理において、より均一なLi化合物の量及び種類の制御を求める場合、ケイ素化合物の電位分布の低減などが必要であり、炭素被膜が存在することが望ましい。
【0105】
また、ケイ素化合物の粒子にLiを挿入することにより、ケイ素化合物にLi化合物を生成させて、ケイ素化合物の粒子を改質した後に、改質したケイ素化合物の粒子を含む電極と金属リチウムから成る対極を組み合わせた試験セルを、電極の電位が0.0Vに達するまで定電流充電し、定電流充電後、定電流充電時の電流値の1/10の電流値となるまで定電圧充電し、その後、電極の電位が1.2Vに達するまで定電流放電した場合における、試験セルの初回効率が82%以上であり、かつ、試験セルにおける電極の電位が0.17Vとなる時の充電容量が、試験セルの初回放電容量の7%以上30%以下の範囲の値となるケイ素化合物の粒子を、改質されたケイ素化合物の粒子から選別する工程を行っても良い。この選別工程により、上記のような試験セルにおける初回充放電特性を有するケイ素系活物質粒子を得ることができる。
【0106】
また、上記のようなケイ素系活物質粒子を用いて、負極活物質層を形成する際にケイ素化合物よりメディアン径の小さい炭素系材料を導電助剤として添加することができる。その場合、例えば、アセチレンブラックを選択して添加することができる。
【0107】
また、負極集電体が炭素及び硫黄を100ppm以下含んでいれば、より高い電池特性の向上効果を得ることができる。
【0108】
<2.リチウムイオン二次電池>
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
【0109】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図3に示すラミネートフィルム型二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回電極体31は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0110】
正負極リードは、例えば外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0111】
外装部材35は、例えば融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が巻回電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0112】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0113】
[正極]
正極は、例えば、
図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0114】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0115】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、結着剤、導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0116】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これら記述される正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、Li
xM
1O
2あるいはLi
yM
2PO
4で表される。式中、M
1、M
2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0117】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO
4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe
1−uMn
uPO
4(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量が得られるとともに、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0118】
[負極]
負極は、上記した
図1のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体11の両面に負極活物質層12を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池として充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これは、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができるためである。
【0119】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0120】
非対向領域、即ち、上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため負極活物質層の状態が形成直後のまま維持される。これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性良く組成などを正確に調べることができる。
【0121】
[セパレータ]
セパレータは正極と負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどが挙げられる。
【0122】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又はセパレータには液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0123】
溶媒は、例えば非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタン、又はテトラヒドロフランが挙げられる。
【0124】
この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせるとより優位な特性を得ることができる。これは、電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0125】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどがあげられる。
【0126】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0127】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0128】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、次の材料があげられる。六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などが挙げられる。
【0129】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0130】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて結着剤、導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロールまたはダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱を行っても良い。また、圧縮、加熱を複数回繰り返しても良い。
【0131】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0132】
正極及び負極を上記した同様の作製手順により作製する。この場合、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成することができる。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(
図1を参照)。
【0133】
続いて、電解液を調製する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体を作成し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ開放状態にて、巻回電極体を封入する。正極リード32、及び負極リード33と外装部材35の間に密着フィルム34を挿入する。開放部から上記調製した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、開放部を真空熱融着法により接着させる。
【0134】
以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池30を製造することができる。
【実施例】
【0135】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0136】
(実施例1−1)
最初に、ケイ素系活物質粒子を作製した。まず、金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料(気化出発材とも称する)を反応炉へ設置し、10Paの真空で堆積し、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。粒径を調整した後、熱分解CVDを行うことで炭素被膜を得た。炭素被膜形成後の粉末は、水素化リチウムと混合して600℃−800℃で加熱処理し、熱的Liドープ改質を行った後、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートの1:1混合溶媒(六フッ化リン酸リチウム:LiPF
6を1.3mol/kg含む)中で電気化学法を用い電気化学的Liドープ改質を行った。続いて、改質後のケイ素化合物を、エタノールを10%含む水で洗浄した。次に、洗浄処理後のケイ素化合物を減圧下で乾燥処理した。
【0137】
洗浄及び乾燥後のケイ素化合物(ケイ素系活物質粒子)は、Li
2CO
3、Li
4SiO
4、Li
2SiO
3が含まれていた。ケイ素化合物SiO
xのxの値は0.5、ケイ素化合物のメディアン径D
50は5μmであった。また、ケイ素化合物は、X線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.218°であり、その結晶面(111)に起因する結晶子サイズは7.21nmであった。また、炭素被膜の含有率は、ケイ素化合物及び炭素被膜の合計に対し5質量%であった。また、上述のように、ケイ素化合物は熱的Liドープ改質および電気化学的Liドープ改質を施した。その結果、ケイ素系活物質粒子に含まれるLi原子の質量濃度は、13.5質量%であった。
【0138】
なお、Li原子の定量は、フッ硝酸で溶解した試料を、硝酸で100倍程度に希釈したのち、ICP−AES(誘導結合プラズマ原子発光分析)法で定量を行った。
【0139】
続いて、ケイ素系活物質粒子を含む電極と対極リチウムから成る試験セルを作製した。この場合、試験セルとして2032型コイン電池を組み立てた。
【0140】
ケイ素系活物質粒子を含む電極は以下のように作製した。まず、ケイ素系活物質粒子(上記ケイ素系化合物の粉末)と結着剤(ポリアクリル酸(以下、PAAとも称する))、導電助剤1(鱗片状黒鉛)、導電助剤2(アセチレンブラック)、導電助剤3(カーボンナノチューブ)とを76.35:10.70:10.70:2.25の乾燥質量比で混合したのち、水で希釈してペースト状の合剤スラリーとした。結着剤として用いたポリアクリル酸の溶媒としては、水を用いた。続いて、コーティング装置で集電体の両面に合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この集電体としては、電解銅箔(厚さ=20μm)を用いた。最後に、真空雰囲気中90℃で1時間焼成した。これにより、負極活物質層が形成された。
【0141】
試験セルの電解液は以下のように作製した。溶媒(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合したのち、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF
6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.0mol/kgとした。
【0142】
対極としては、厚さ0.5mmの金属リチウム箔を使用した。また、セパレータとして、厚さ20μmのポリエチレンを用いた。
【0143】
続いて、2032型コイン電池の底ブタ、リチウム箔、セパレータを重ねて、電解液150mLを注液し、続けて負極、スペーサ(厚さ1.0mm)を重ねて、電解液150mLを注液し、続けてスプリング、コイン電池の上ブタの順にくみ上げ、自動コインセルカシメ機でかしめることで、2032型コイン電池を作製した。
【0144】
続いて、作製した2032型コイン電池を、0.0Vに達するまで定電流密度、0.2mA/cm
2で充電し、電圧が0.0Vに達した段階で0.0V定電圧で電流密度が0.02mA/cm
2に達するまで充電し、放電時は0.2mA/cm
2の定電流密度で電圧が1.2Vに達するまで放電した。そして、この初回充放電における初回充放電特性を調べた。
【0145】
その結果、試験セルの初回充放電特性は、初回放電容量が1360mAh/g、初回効率が82.4%、電極の電位が0.17V時の充電容量が初回放電容量の16.8%、電極の電位が0.40V時の放電容量が初回放電容量の44%となった。なお、初回効率(以下では初期効率と呼ぶ場合もある)は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。
【0146】
続いて、本発明の負極活物質を用いた非水電解質二次電池の電池特性を評価するために、
図3に示したラミネートフィルム型の二次電池30を作製した。
【0147】
最初にラミネートフィルム型の二次電池に使用する正極を作製した。正極活物質はリチウムコバルト複合酸化物であるLiCoO
2を95質量部と、正極導電助剤(アセチレンブラック)2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:Pvdf)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0148】
負極としては、上記の試験セルのケイ素系活物質粒子を含む電極と同様の手順で作製したものを使用した。
【0149】
電解液としては、上記の試験セルの電解液と同様の手順で作製したものを使用した。
【0150】
次に、以下のようにしてラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調製した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0151】
このようにして作製したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池のサイクル特性(維持率%)を調べた。
【0152】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り(%表示のため×100)、容量維持率を算出した。サイクル条件として、4.3Vに達するまで定電流密度、2.5mA/cm
2で充電し、電圧に達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.25mA/cm
2に達するまで充電した。また放電時は2.5mA/cm
2の定電流密度で電圧が3.0Vに達するまで放電した。
【0153】
(実施例1−2〜1−5、比較例1−1、比較例1−2)
ケイ素化合物のバルク内酸素量を調整したことを除き、実施例1−1と同様に、試験セル、及び二次電池の製造を行った。この場合、気化出発材の比率や温度を変化させることで、酸素量を調整した。実施例1−1〜1−5、比較例1−1、1−2における、SiO
xで表されるケイ素化合物のxの値を表1中に示した。
【0154】
実施例1−1と同様に、実施例1−2〜1−5、比較例1−1、1−2の試験セルの初回充放電特性及びラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池のサイクル特性(容量維持率)を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0155】
なお、下記表1から表9に示される二次電池の容量維持率は、天然黒鉛(例えば平均粒径20μm)等の炭素系活物質を含有せず、ケイ素系活物質粒子のみを使用した場合の数値、すなわち、ケイ素系活物質粒子に依存した数値を示す。これにより、ケイ素系化合物の変化(ケイ素化合物の酸素量、ケイ素化合物に含まれるLi化合物、ケイ素化合物の結晶性、ケイ素系活物質粒子のメディアン径、試験セルにおける0.17V時の充電容量、試験セルにおける0.4Vにおける放電容量、試験セルの初回放電容量、の変化)又は炭素被膜の含有率の変化のみに依存した維持率の変化を測定することができた。
【0156】
【表1】
【0157】
表1に示すように、SiOxで表わされるケイ素化合物において、xの値が、0.5≦x≦1.6の範囲外の場合、電池特性が悪化した。例えば、比較例1−1に示すように、酸素が十分にない場合(x=0.3)、二次電池の容量維持率が著しく悪化する。一方、比較例1−2に示すように、酸素量が多い場合(x=1.8)、ケイ素化合物の導電性の低下が生じ二次電池の維持率が低下した。
【0158】
(実施例2−1〜実施例2−2、比較例2−1〜比較例2−3)
基本的に実施例1−3と同様に試験セル及び二次電池の製造を行ったが、SiOxで表わされるケイ素化合物において、Liドープ処理(バルク内改質)の条件、すなわち、Liドープの処理方法を変化させ、ケイ素化合物に含まれるLi化合物種を変化させた。実施例2−1〜実施例2−2、比較例2−1〜2−3の試験セルの初回充放電特性及びラミネートフィルム型二次電池のサイクル特性(容量維持率)を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0159】
【表2】
【0160】
表2に示すように、実施例2−1〜2−2のケイ素系活物質は、比較例2−1〜比較例2−3より良好な容量維持率となった。また、ケイ素化合物にLi化合物を2種以上含ませることで、より確実に試験セルの初回効率を82%とできた。また、Li化合物として、特にLi
2CO
3、Li
2SiO
3、Li
4SiO
4などを含むことが望ましく、これらのLi化合物をより多くの種類含むことが、二次電池のサイクル特性を向上させるため望ましい。
【0161】
(実施例3−1〜3−4、比較例3−1〜3−4)
試験セルにおける電極の電位が0.17Vとなる時の初回充電容量を表3に示すように変化させた以外は、実施例1−3と同様に試験セル及びラミネートフィルム型二次電池の製造を行った。上記充電容量の調節は、Liドープ改質後にケイ素化合物を洗浄する際、洗浄に使用する溶媒の量および洗浄温度を変更することにより制御可能である。実施例3−1〜3−4、比較例3−1〜3−4の試験セルの初回充放電特性及び二次電池の容量維持率を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0162】
【表3】
【0163】
表3からわかるように、試験セルにおける電極の電位が0.17Vとなる時の初回充電容量が、7%以上30%以下である場合に、二次電池の維持率が良好な値となる。特に、11%以上30%以下で二次電池の維持率がより良好な値となる。
【0164】
(実施例4−1〜実施例4−8)
ケイ素化合物の結晶性を変化させた他は、実施例1−3と同様に試験セル及びラミネートフィルム型二次電池の製造を行った。結晶性の変化はLiの挿入、脱離後の非大気雰囲気下の熱処理で制御可能である。実施例4−1〜4−8のケイ素系活物質の半価幅を表4に示した。実施例4−8では半値幅を20.221°と算出しているが、解析ソフトを用いフィッティングした結果であり、実質的にピークは得られていない。よって実施例4−8のケイ素系活物質は、実質的に非晶質であると言える。実施例4−1〜実施例4−8の試験セルの初回充放電特性及び二次電池の容量維持率を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
【0165】
【表4】
【0166】
表4からわかるように、ケイ素化合物の結晶性を変化させたところ、それらの結晶性に応じて試験セルの初回放電容量に対する、0.17V時の初回充電容量の割合及び二次電池の容量維持率が変化した。特にSi(111)面に起因する結晶子サイズ7.5nm以下の低結晶性材料で高い二次電池の容量維持率となる。特に非結晶領域では最も良い容量維持率が得られる。
【0167】
(実施例5−1〜実施例5−4)
ケイ素系活物質粒子のメディアン径を調節した他は、実施例1−3と同様に試験セル及びラミネートフィルム型二次電池を製造した。メディアン径の調節はケイ素化合物の製造工程における粉砕時間、分級条件を変化させることによって行った。実施例5−1〜5−4の試験セルの初回充放電特性及びラミネートフィルム型二次電池の容量維持率を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
【0168】
【表5】
【0169】
表5からわかるように、ケイ素系活物質粒子のメディアン径を変化させたところ、それに応じて二次電池の容量維持率が変化した。実施例5−1〜5−3に示すように、ケイ素系活物質粒子のメディアン径が0.5μm〜20μmであると、二次電池の容量維持率がより高くなった。特に、メディアン径が4μm〜10μmである場合(実施例1−3、実施例5−3)、二次電池の容量維持率の大きな向上がみられた。
【0170】
(実施例6−1〜実施例6−5)
ケイ素化合物の質量と炭素被膜の質量の合計に対する、炭素被膜の質量の割合(炭素被膜の含有率)を変化させた以外は、実施例1−3と同様に試験セル及びラミネートフィルム型二次電池の製造を行った。炭素被膜の含有率はCVD時間、CVDガスおよびCVD時のケイ素化合物の粉の流動性を調節することで制御可能である。実施例6−1〜6−5の試験セルの初回充放電特性及びラミネートフィルム型二次電池の容量維持率を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0171】
【表6】
【0172】
表6からわかるように、炭素被覆量が、5質量%から20質量%の間で試験セルの初回効率及び二次電池の容量維持率がともにより良い特性となる。これは、炭素被覆量が5質量%以上であればケイ素化合物の電子伝導性が良好となり、炭素被覆量が20質量%以下であればケイ素化合物のイオン導電性が良好となるためである。
【0173】
(実施例7−1〜実施例7−5)
試験セルの初回放電容量に対する、電極の電位が0.4Vとなる時の放電容量の割合を表7のように変化させたこと以外、実施例1−3と同様に試験セル及びラミネートフィルム型二次電池の製造を行った。試験セルにおける電極の電位が0.4Vとなる時の放電容量の調節は、Liドープ改質時の焼成温度を変更することにより制御可能である。実施例7−1〜7−5の試験セルの初回充放電特性及びラミネートフィルム型二次電池の容量維持率を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
【0174】
【表7】
【0175】
表7からわかるように、試験セルの初回放電容量に対する、電極の電位が0.4Vとなる時の放電容量の割合を変化させたところ、それに応じて試験セルの初回効率及び二次電池の容量維持率が変化した。表7の実施例7−1〜7−5に示すように、試験セルの初回放電容量に対する、電極の電位が0.4Vとなる時の放電容量の割合が、35%以上60%以下であれば、二次電池の容量維持率が良好となる。さらに放電容量が40%以上60%以下であればより良好となる。
【0176】
(実施例8−1〜実施例8−3)
Liドープ改質方法を変化させた以外は、実施例1−3と同様に試験セル及びラミネートフィルム型二次電池の製造を行った。実施例8−1〜8−3の試験セルの初回充放電特性及びラミネートフィルム型二次電池の容量維持率を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0177】
【表8】
【0178】
室温でLi金属を負極または負極活物質粒子に直接接触させる接触法を用いるより、加熱ドープ法や、電気化学的ドープ法、又はこれらを組み合わせる方が、良好な二次電池の容量維持率が得られた。これは、熱ドープ法や、電気化学的ドープ法であれば、より安定したLi化合物を生成でき、試験セルの初回効率がより確実に82%以上となるとともに、電池作製時にケイ素系活物質が水系スラリー中で安定するためである。これにより、二次電池の容量維持率を向上させることができる。
【0179】
(実施例9−1、9−2)
ケイ素化合物のLiの含有量を変化させることで、試験セルの初回充放電容量を変化させたこと除き、実施例1−3と同様に、試験セル及びラミネートフィルム型二次電池の製造を行った。なお、Liの含有量の調節は、Liドープ改質時にケイ素化合物へ挿入あるいは混合するLi量を変化させることによって行った。実施例9−1、9−2の試験セルの初回充放電特性及びラミネートフィルム型二次電池の容量維持率を調べたところ、表9に示した結果が得られた。
【0180】
【表9】
【0181】
表9に示すように、試験セルの初回放電容量が1520mAh/g以下の場合、十分なLiがケイ素化合物にドープされているため、試験セルの初回効率がより確実に82%以上となる。これにより、表9に示すように、二次電池の容量維持率がより向上する。また、試験セルの初回放電容量が1450mAh/g以下の場合、試験セルの初回効率が特に向上するため、二次電池の容量維持率が特に向上する。また、試験セルの初回放電容量が1200mAh/g以上であれば、Liドープ量が適度に調節され、導電性の低下やスラリー作成時のゲル化を抑えることができ、二次電池の容量維持率が良好となる。
【0182】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。