(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パターン露光ステップにおいて、前記パターン露光により、前記増感体前駆体の構造変換によって前記増感体を生成するか、または、前記レジスト層内で生成された電子と前記増感体前駆体との反応によって前記増感体を生成する、請求項1または2に記載のレジストパターン形成方法。
前記フラッド露光ステップにおいて、前記レジスト層のうちの前記パターン露光および前記フラッド露光の両方の行われた領域にわたって前記酸の濃度はほぼ一定のピークを有する、請求項1から15のいずれかに記載のレジストパターン形成方法。
前記フラッド露光ステップにおいて、前記レジスト層のうちの前記フラッド露光が行われ、かつ、前記パターン露光の行われなかった領域にわたって前記塩基の濃度はほぼ一定のピークを有する、請求項1から16のいずれかに記載のレジストパターン形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して本発明によるレジストパターン形成方法、レジスト潜像形成装置およびレジスト材料の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0042】
まず、
図1および
図2を参照して、本発明によるレジストパターン形成方法およびレジスト材料の実施形態を説明する。なお、レジスト材料から構成されるレジスト層の種類には、露光部分が現像液において溶解するポジ型と露光部分が現像液において溶解しないネガ型とがあるが、以下の説明では、一例として、ポジ型のレジスト層を説明する。レジスト層は、露光によって酸を発生させる酸発生剤と酸の作用によって現像液での溶解性が変化する基材(ベース樹脂)を含有する化学増幅型であってもよい。
【0043】
図1(a)〜
図1(d)のそれぞれは、本発明によるレジストパターン形成方法の実施形態の各工程を示す模式図であり、
図2(a)および
図2(b)は、パターン露光時およびフラッド露光時のレジスト層10内の濃度分布をそれぞれ示す。
【0044】
まず、
図1(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。例えば、レジスト層10は、用意した基板S(例えばウェハー)上に、溶液に溶解させたレジスト材料を塗布してプリベークを行うことによって形成される。典型的には、基板Sの表面に、フォトリソグラフィの対象物(例えば、半導体層または絶縁層)が形成されている。
【0045】
レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAG(Photo Acid Generator:PAG)および塩基発生剤PBG(Photo Base Generator:PBG)を含有している。なお、レジスト層10は、基板S上に直接形成されてもよく、あるいは、基板S上に設けられた下地層の上に形成されてもよい。レジスト層10中において、例えば、100質量部のベース樹脂Rに対して、増感体前駆体Ppは0.1質量部以上40質量部以下であり、酸発生剤PAGは0.1質量部以上40質量部以下であり、塩基発生剤PBGは0質量部よりも多く40質量部以下である。
【0046】
ベース樹脂Rは、例えば、メチルメタクリレート系高分子(以下「MMA」と記載)である。後述するパターン露光L1およびフラッド露光L2の少なくとも一方に起因する化学反応には、中間体、ラジカルおよびイオン(カチオンまたはアニオン)等が関与するが、MMA樹脂は、中間体、ラジカルおよびイオンを消失させにくい。ただし、ベース樹脂Rは、ポリヒドロキシスチレン樹脂(PHS樹脂)を含むものであってもよい。あるいは、ベース樹脂Rは、MMA樹脂およびPHS樹脂の混合型であってもよい。
【0047】
また、ベース樹脂Rは、フェノール樹脂またはアセタール型の保護基を有する種々の樹脂でもよい。EUV露光またはEB露光の場合、プロトンは、主としてベース樹脂Rから発生して、ベース樹脂R中もしくはベース樹脂R間を移動し、酸発生剤PAGの解離によって生成したアニオンと反応して酸を生成する。ベース樹脂Rは、高分子化合物だけでなく低分子化合物を含むものであってもよいが、低分子化合物から発生したプロトンが、ベース樹脂間を移動し、酸発生剤PAGの解離によって生成したアニオンと反応して酸を生成することが好ましい。さらに、ベース樹脂Rは、ベース樹脂R中もしくはベース樹脂R間を移動するプロトンを発生させない樹脂でもよい。あるいは、ベース樹脂Rは無機物でもよい。なお、EUVまたはEBのビームを照射する場合、レジスト層10では放射線化学反応が生じる一方で、ArFレーザまたはKrFレーザのビームを照射した場合、レジスト層10では光化学反応が生じる。このように、照射するビーム源の種類に応じて、酸発生剤PAGの励起状態から開始される酸生成反応は異なる。
【0048】
なお、ベース樹脂Rは、パターン露光L1およびフラッド露光L2の少なくとも一方によって分解され、中間体、ラジカルおよびイオンを生成してもよい。特に、パターン露光L1のビームとして電子線またはEUVビームを用いる場合、ベース樹脂Rは比較的容易に分解できる。
【0049】
増感体前駆体Ppは、アセタール型であってもよく、アルコール型であってもよい。増感体前駆体Ppがアセタール型である場合、アセタール化合物は、アルデヒドから得られたものであってもよく、ケトンから得られたものであってもよい。あるいは、増感体前駆体Ppは、アセタール以外にケタール、ヘミアセタール(セミケタール)であってもよい。例えば、増感体前駆体Ppは、ジメトキシベンズヒドロール誘導体(DOBzMM)である。
【0050】
増感体前駆体Ppはベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、増感体前駆体Ppはレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えば、増感体前駆体Ppは、ベース樹脂Rに結合されている。
【0051】
また、増感体前駆体Ppがアルコール型である場合、レジスト層10はラジカル発生成分を含有している。ラジカル発生成分は、ベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、ラジカル発生成分はレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えば、ラジカル発生成分は、ベース樹脂Rに結合されていてもよく、あるいは、酸発生剤PAGに結合されていてもよい。
【0052】
レジスト層10内においてラジカル発生成分から発生したラジカルにより、増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。例えば、増感体前駆体Ppは、ビス(4−メトキシフェニル)メタノール(DOMeBzH)およびトリメトキシベンズヒドロール(TriOMeBzH)などのアルコール型増感体前駆体の少なくとも1つを含む。あるいは、増感体前駆体Ppは、アセタール型およびアルコール型の混合型であってもよい。
【0053】
酸発生剤PAGは、例えば、ヨードニウム塩(R
2IX)系のジフェニルヨードニウムパーフルオロブタンスルホン酸(DPI−PFBS)でも、スルフォニウム塩(R
3SX)系のトリフェニルスルホニウムパーフルオロブタンスルホン酸(TPS−PFBS)でもよい。また、酸発生剤PAGは、PBpS−PFBSのようなヨードニウム塩でもよい。
【0054】
なお、酸発生剤PAGは、拡散係数の小さいバルキーなものが好ましいが、酸発生剤PAGはベース樹脂Rに結合されていてもよい。酸発生剤PAGは励起状態の増感体Psから効率よく電子移動を受けるものが好ましい。また、酸発生剤PAGの濃度が高く、電子移動が起きやすいことが好ましい。なお、同じ化合物が増感体前駆体Ppおよび酸発生剤PAGの両方として機能してもよい。
【0055】
塩基発生剤PBGは、非イオン型であってもよく、イオン型であってもよい。非イオン型の塩基発生剤PBGは、例えば、9−アンスリルメチルーN,N−ジエチルカルバメートである。また、イオン型の塩基発生剤PBGは、例えば、シクロヘキシルアンモニウム 2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナート、ジシクロヘキシルアンモニウム 2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナートなどである。なお、塩基発生剤PBGから発生する塩基Baの拡散係数は小さいことが好ましい。
【0056】
次に、
図1(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。
【0057】
パターン露光L1によって、レジスト層10の領域10aにエネルギーが付与される。高解像度を実現するためにパターン露光L1のパターンが微細な場合、エネルギーの強度分布はサイン波で近似されることがある。領域10aに付与されたエネルギーにより、レジスト層10内の組成が励起またはイオン化されて活性状態が生成され、レジスト層10の増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。
図2(a)に、領域10aにおける増感体Psの濃度分布を示す。なお、パターン露光L1により、増感体Psが生成されるとともに、酸発生剤PAGから酸Acが発生してもよい。例えば、領域10aにおける酸Acの濃度分布は増感体Psの濃度分布とほぼ同じである。
【0058】
なお、例えば、レジスト層10周辺の環境は、増感体Psの生成に関与する酸やラジカルの減衰を制御できる雰囲気であることが好ましい。増感体Psの生成に関与する酸やラジカルの減衰を制御できる雰囲気は、塩基性物質を含まない不活性ガス雰囲気または真空雰囲気であってもよく、レジスト層10の上に塩基性物質および/または酸素を遮断するトップコート層が設けられてもよい。レジスト層10周辺の環境を不活性ガス雰囲気にする場合、不活性ガスとして、例えば窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスが用いられる。この場合、圧力は、減圧下であってもよく、または、加圧下であってもよい。また、レジスト層10周辺の環境を真空雰囲気にする場合、レジスト層10の周辺が真空下であればよく、レジスト層10の周辺が気圧1Pa以下の真空状態であることが好ましい。不活性ガス雰囲気または真空雰囲気の環境中では、レジスト層10内で増感体Psの生成に関与する酸やラジカルの減衰が抑制される。
【0059】
増感体前駆体Ppがアセタール型の場合、パターン露光L1は、現在の半導体量産プロセスで主に用いられている化学増幅レジストと同様に、クリーンルーム中に設置された露光装置の中にさらに塩基除去用フィルターを挿入して酸の失活が起きない雰囲気下で行うことが好ましい。また、増感体前駆体Ppがアルコール型の場合、パターン露光L1は、酸の失活が起きず、かつ、真空または不活性の雰囲気下で行われることが好ましい。
【0060】
パターン露光L1のビームとして、例えば、極端紫外線(EUV)、電子線(EB)またはArFエキシマーレーザ、KrFエキシマーレーザ等が用いられる。また、レジスト層10の上に塩基性物質および/または酸素を遮断するトップコート層が設けられてもよい。
【0061】
その後、
図1(c)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行う。フラッド露光L2によって、増感体Psの生成されたレジスト層10の全体にエネルギーが付与される。エネルギーが付与されると、
図2(b)に示すように、領域10aにおいて酸発生剤PAGから酸Acが発生し、レジスト層10全体において塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。なお、増感体Psの生成されていない領域10bにフラッド露光L2のビームが照射されても、領域10bにおける酸発生剤PAGおよび増感体前駆体Ppは実質的に反応しない。
【0062】
例えば、フラッド露光L2により、増感体Psは励起状態に遷移する。増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが領域10aにおいて発生する。なお、上述したように、フラッド露光L2により、レジスト層10全体において、塩基発生剤PBGから直接的に塩基Baを発生させてもよい。あるいは、フラッド露光L2により、増感体Psを介して塩基発生剤PBGから塩基Baを発生させてもよい。
【0063】
増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する場合、増感体Psの励起状態の電子が酸発生剤PAGに移動すると、酸発生剤PAGは解離型電子付加反応を起こして分解し、酸Acと励起前の増感体Psを新たに生成する。
【0064】
増感体Psおよび酸発生剤PAGの存在する領域10aにフラッド露光L2を続けると、酸発生剤PAGおよび増感体前駆体Ppがほぼ消失するまで酸Acおよび増感体Psが生成される。
【0065】
典型的には、フラッド露光L2のビーム強度はパターン露光L1のビーム強度よりも高く、フラッド露光L2はパターン露光L1よりも安価な光源を用いて実行可能である。また、典型的には、フラッド露光L2のビームとしてパターン露光L1のビームよりも長波長のビームが用いられる。ただし、本発明はこれに限定されず、フラッド露光L2のビームとしてパターン露光L1のビームよりも短波長のビームが用いられてもよい。例えば、フラッド露光L2の光源としてUVビーム光源を用いてもよい。レジスト層10がポジ型の場合、レジスト層10の領域10aを除去可能な潜像が形成される。
【0066】
なお、フラッド露光L2のビームはレジスト層10の全体にわたって照射されることが好ましい。ただし、フラッド露光L2のビームはレジスト層10の全体に対して一部のエリアにわたって照射されてもよい。
【0067】
フラッド露光L2を行った後、さらに、一般的に行われる処理をレジスト層10に行ってもよい。例えば、フラッド露光L2の後に、熱処理(Post Exposure Bake:PEB)を行ってもよい。熱処理は、例えばパルス熱処理であってもよい。熱処理により、酸拡散反応が発生する。例えば、熱処理は100℃以上110℃以下で行われる。また、フラッド露光L2後、レジスト層10をポジ型とネガ型との間で反転させる変質処理を行ってもよい。
【0068】
その後、
図1(d)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、酸Acの発生した領域(潜像が形成された領域)10aは現像液に溶解して除去される。以上のようにして、パターン露光L1のパターン形状にしたがったパターンを有するレジスト層10を形成できる。なお、必要に応じて、現像前に、レジスト層10を加熱するプリベークを行ってもよい。
【0069】
本実施形態のレジスト材料は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAGおよび塩基発生剤PBGを有するレジスト組成物を含有する。本実施形態のレジスト材料では、レジスト組成物に、パターン露光L1のビームが照射されると、増感体前駆体Ppから、パターン露光L1のビームの波長とは異なる波長のビームに対して強い吸収を示す増感体Psが生成する。この増感体Psはパターン露光L1のビームの照射に応じてパターン形状に生成される。また、フラッド露光L2のビームが照射されると、増感体Psがフラッド露光L2のビームを吸収し、増感体Psに起因して反応が促進される。例えば、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生し、所定の潜像パターンを簡便に形成させることができる。また、フラッド露光L2のビームの照射により、塩基発生剤PBGから塩基Baがレジスト層10において発生する。
【0070】
本実施形態では、パターン露光L1によってレジスト層10の領域10aに増感体Psを生成させた後に、フラッド露光L2によって増感体Psを励起させて酸発生剤PAGから酸Acを生成している。このため、パターン露光L1のビーム光源として低出力の光源を使用しても、適切なパターン形状の潜像を形成できる。例えば、パターン露光L1のビームとしてEUVビームでレジスト層10の領域10aを照射した後に、フラッド露光L2のビームとしてUVビームでレジスト層10を照射することで、領域10aに潜像を形成できる。この場合、EUVビームの照射時間を短縮でき、低出力の光源を用いても高いスループットが得られる。
【0071】
また、本実施形態によれば、領域10aに酸Acが発生し、レジスト層10全体に塩基Baが発生するため、PEB前には、室温下でも、領域10aにおいて酸Acの一部は塩基Baと中和して減少するものの領域10aには酸Acが存在し、領域10bには塩基Baが存在する。PEBよる温度上昇と酸Acの拡散に起因する解像度の低下は領域10bに存在する塩基Baによって抑制できる。
【0072】
さらに、本実施形態によれば、フラッド露光L2を十分続けると、
図2(b)に示すように、領域10bにおいて塩基発生剤PBGが消失して、塩基発生剤PBGから発生した塩基Baの濃度はほぼ一定のピークを示す。領域10aにおいて、領域10a内の塩基発生剤PBGから発生した塩基Baは酸Acと反応し、酸Acの濃度を低減させる。一般に、室温における酸Acおよび塩基Baの拡散係数は非常に小さいので、酸Acのピーク濃度および塩基Baのピーク濃度はそれぞれほぼ一定であり、酸Acの濃度および塩基Baの濃度は、領域10aと領域10bとの境界において非常に急峻な勾配を形成する。
【0073】
なお、PEB温度での酸Acおよび塩基Baの拡散係数が小さい場合、PEB後の反応で生成する化学勾配を大きくできる。LWRは化学勾配に反比例し、同様にフォトンショットノイズによるLWRも化学勾配の大きさに反比例するので、このプロセスでは、フォトンショットノイズによるLWRを大幅に改善できる。
【0074】
この関係は非常によく知られた関係であり、以下のように定式化されている。
【0075】
LWR ∝ constant/dm/dx
σ
LWR ∝ σ
m/dm/dx
ここで、σは標準偏差値、mは反応前の物質濃度で規格化した反応後の化学物質の濃度、xはレジスト層の位置、dm/dxは化学勾配を示す。フォトン数が少なくなると、反応のばらつきが大きくなるのでσ
mは大きくなるが、本実施形態では化学勾配dm/dxを非常に大きくできるので、σ
mが大きくても、LWRの標準偏差値を小さくできる。
【0076】
このように、本実施形態によれば、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消し、パターン解像度を維持しながらレジスト層10の感度を向上できる。また、本実施形態によれば、近年、トレードオフ以上に大きな課題となっているフォトンショットノイズを大幅に改善できる。この結果、露光工程のスループットの向上が実現され、露光システムの大幅な低コスト化を実現できる。また、低出力の光源が適用可能なため、光源装置、露光装置内の消耗部品の寿命を長くし、保守および運転コストも大幅に低減できる。以上のように、本実施形態によれば、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消してレジストの感度を向上させるとともに、フォトンショットノイズによるLWRを抑制することができる。
【0077】
なお、一般に、シャープな濃度分布を有する酸を形成するためには、レジスト材料に予め大量の塩基を添加して余分な酸を中和させることが知られている。この手法によれば、ある程度のシャープな濃度分布を有する酸を形成可能である。しかしながら、数十nm以下(例えば、5nm〜15nm以下)の微細なパターンを形成する場合、大量の塩基を添加しただけであると、酸が充分に発生しないため、微細なパターンの酸を適切な濃度で形成することができず、結果として、LERおよびフォトショットノイズを改善することができない。これに対して、本実施形態によれば、フラッド露光L2により、領域10bに塩基Baを発生できるため、酸Acの濃度分布をシャープにできる。したがって、LERおよびフォトショットノイズを改善して感度を向上させることができる。
【0078】
例えば、増感体前駆体Ppとして、ビス(4−メトキシフェニル)メタノール(DOMeBzH)を用いてもよい。この場合、パターン露光L1により、レジスト材料がイオン化し、主に高分子ラジカルカチオン(RH
+・)と電子(e
-)を生成する。高分子ラジカルカチオン(RH+・)は、高分子(RH)と反応し、ラジカルP・とカチオン(RH(H
+))に分離する。
【0079】
その後、電子(e
-)は酸発生剤(PAG)と反応し、中性分子(RI)、ラジカル(R・)、および、アニオン(X
-)を生成する。さらに、カチオン(RH(H
+))はアニオン(X
-)と反応し、高分子(RH)および酸(HX)が生成される。また、ラジカル(R・)が、増感体前駆体PpであるDOMeBzHと反応すると、ラジカル(DOMeBzH・)が生成される。このラジカルは酸発生剤(PAG)と反応し、電子が移動し、カチオン(DOMeBzH
+)が生成される。このカチオン(DOMeBzH
+)からアニオンへの陽子の移動により、増感体PsであるDOMeBzOおよび酸(HX)が生成される。
【0080】
次に、フラッド露光L2を行うと、増感体Ps(DOMeBzO)が励起される。励起状態の増感体Ps(DOMeBzO)から酸発生剤(PAG)への電子の移動により、増感体Psのラジカルカチオン(DOMeBzO・+)、中性分子(RI)、ラジカル(R・)およびアニオン(X
-)が生成される。また、フラッド露光L2により、領域10aにおいて、パターン露光L1時の反応と同様の反応が進行し、連鎖反応により、酸Acを効率よく生成できる。また、フラッド露光L2により、レジスト層10の全体にわたって、塩基発生剤PBG(例えば、上述した非イオン型またはイオン型)から塩基Baが発生する。ただし、レジスト層10の領域10aには、塩基Baよりも多くの酸Acが発生しているため、領域10aには、酸Acが存在する一方、塩基Baはほとんど存在していない。これに対して、領域10bでは、酸Acが実質的に発生しないため、塩基Baが存在する。
【0081】
その後、レジスト層10を現像することにより、酸Acの発生した領域(潜像が形成された領域)10aを除去できる。以上のように、ラジカルを介してレジスト層10を所定のパターン形状に形成してもよい。
【0082】
なお、
図1を参照した上述の説明では、塩基発生剤PBGから塩基Baの発生はフラッド露光L2によって行われたが、本発明はこれに限定されない。塩基発生剤PBGから塩基Baの発生はフラッド露光L2だけでなくパターン露光L1によって行われてもよい。
【0083】
また、
図1を参照した上述の説明では、パターン露光L1およびフラッド露光L2はそれぞれ1回行われたが、本発明はこれに限定されない。パターン露光L1およびフラッド露光L2はそれぞれ複数回行われてもよい。例えば、フラッド露光L2は複数回行われてもよい。
【0084】
以下、
図3および
図4を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法およびレジスト材料を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法は、フラッド露光を2回行う点を除いて
図1および
図2を参照して上述したレジストパターン形成方法およびレジスト材料と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0085】
図3(a)〜
図3(e)のそれぞれは、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図であり、
図4(a)、
図4(b)および
図4(c)は、パターン露光L1時、第1フラッド露光L2a時および第2フラッド露光L2b時のレジスト層10内の濃度分布をそれぞれ示す。
【0086】
まず、
図3(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAGおよび塩基発生剤PBGを含有している。
【0087】
次に、
図3(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。パターン露光L1によって、レジスト層10の領域10aにビームが照射されることにより、領域10aにおいて増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する。
図4(a)に増感体Psの濃度分布を示す。
【0088】
その後、
図3(c)に示すように、レジスト層10に第1フラッド露光L2aを行う。第1フラッド露光L2aによって、レジスト層10の全体にビームが照射されることにより、
図4(b)に示すように、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する。なお、酸発生剤PAGがなくなるまで酸Acが発生すると、その後、酸Acは発生しなくなるので、酸のピーク濃度は領域10aにわたってほぼ一定になる。最終的には、酸Acの濃度分布は、領域10aと領域10bとの境界において非常に急峻に変化する。
【0089】
その後、
図3(d)に示すように、レジスト層10に第2フラッド露光L2bを行う。第2フラッド露光L2bによって、レジスト層10の全体にビームが照射されることにより、塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。
【0090】
ここで、
図4(c)を参照して、塩基発生剤PBGからの塩基Baの発生を説明する。第2フラッド露光L2bを行う前には、
図4(c)のt0に示すように、レジスト層10には塩基発生剤PBGがほぼ均一に存在している。
【0091】
第2フラッド露光L2bが始まると、
図4(c)のt1に示すように、領域10bにおいて塩基発生剤PBGが減少し、塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。なお、領域10aにおいても塩基発生剤PBGから塩基Baが発生するが、領域10aにおいて発生した塩基Baは酸Acと中和し、酸Acの濃度を低減させる。
【0092】
第2フラッド露光L2bをさらに続けると、
図4(c)のt2に示すように、領域10bにおいて塩基発生剤PBGがさらに減少し、塩基発生剤PBGから発生した塩基Baの濃度が増加する。例えば、第2フラッド露光L2bは、領域10bの塩基発生剤PBGが無くなるまで続けられる。
【0093】
また、領域10aにおいて、領域10a内の塩基発生剤PBGから発生した塩基Baは酸Acと反応し、酸Acの濃度を低減させる。酸Acのピーク濃度および塩基Baのピーク濃度はそれぞれほぼ一定であり、酸Acの濃度および塩基Baの濃度は、それぞれ領域10aと領域10bとの境界において非常に急峻に変化する。したがって、PEB後の化学勾配も非常に大きくなる。フォトンショットノイズによるLWRは化学勾配の大きさに反比例するので、フォトンショットノイズによるLWRは大幅に改善される。
【0094】
その後、
図3(e)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、酸Acの発生した領域10aが取り除かれる。以上のようにして、パターン露光L1のパターン形状にしたがったパターンを有するレジスト層10を形成できる。
【0095】
なお、
図4を参照した上述の説明では、第2フラッド露光L2bは、領域10bの塩基発生剤PBGが無くなるまで続けられたが、本発明はこれに限定されない。第2フラッド露光L2bは、領域10bの塩基発生剤PBGが無くなるまで続けなくてもよい。
【0096】
また、
図3および
図4を参照した上述の説明では、塩基発生剤PBGから塩基Baへの反応は、第1フラッド露光L2aでは進行せずに、第2フラッド露光L2bによって進行する。このような反応は、例えば、以下のような条件下で進行する。
【0097】
図5(a)に、増感体前駆体Pp、増感体Psおよび塩基発生剤PBGの吸収波長の模式的なスペクトルを示す。増感体Psの吸収波長は増感体前駆体Ppの吸収波長よりも長く、塩基発生剤PBGの吸収波長は増感体Psの吸収波長よりも長い。この場合、パターン露光L1で比較的短い波長のビームを照射すると、増感体前駆体Ppから増感体Psが形成される。また、第1フラッド露光L2aでパターン露光L1のビームの波長よりも長い波長のビームを照射すると、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する。さらに、第2フラッド露光L2bで第1フラッド露光L2aのビームの波長よりも長い波長のビームを照射すると、塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。
【0098】
なお、
図5(a)を参照して、フラッド露光を2回行う場合の吸収波長の模式的なスペクトルを説明したが、フラッド露光は3回以上であってもよい。また、
図1および
図2を参照して上述したように、フラッド露光は1回であってもよい。
【0099】
図5(b)に、増感体前駆体Pp、増感体Psおよび塩基発生剤PBGの吸収波長の模式的なスペクトルを示す。
図5(b)に示すように、増感体Psの吸収波長スペクトルおよび塩基発生剤PBGの吸収波長スペクトルが特定の波長に対して比較的高い吸収率を示すように重なる場合、
図1および
図2を参照して上述したように、1回のフラッド露光L2により、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acを発生させるとともに、塩基発生剤PBGから塩基Baを発生させることができる。
【0100】
なお、増感体前駆体Ppはアセタール型であっても、アルコール型であってもよい。あるいは、増感体前駆体Ppはアセタール型およびアルコール型の混合型であってもよい。例えば、増感体前駆体Ppがアセタール型の場合、酸発生剤PAGから発生した酸Acが触媒として機能し、増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する。あるいは、増感体前駆体Ppがアルコール型の場合、レジスト層10は、ラジカル発生成分を含有し、発生したラジカルを介して増感体前駆体Ppから増感体Psが発生する。
【0101】
なお、
図3〜
図5を参照した上述の説明では、塩基発生剤PBGから塩基Baの発生は第2フラッド露光L2bによって行われたが、本発明はこれに限定されない。塩基発生剤PBGから塩基Baの発生は第2フラッド露光L2bだけでなくパターン露光L1および/または第1フラッド露光L2aによって行われてもよい。また、
図3〜
図5を参照した上述の説明では、フラッド露光として、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bを行ったが、本発明はこれに限定されない。第2フラッド露光L2bの後に、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acを発生させる第3フラッド露光を行ってもよい。
【0102】
なお、上述したように、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppから増感体Psを直接的に生成してもよい。例えば、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppが励起もしくはイオン化して増感体前駆体Ppが構造変換することにより、吸収波長または吸収係数の異なる増感体Psが生成されてもよい。構造変換は、例えば、共役長の変化、分解またはシストランス異性化である。または、パターン露光L1により、レジスト層10内の含有物のイオン化によって生成された電子と増感体前駆体Ppとの反応によって増感体Psが生成されてもよい。
【0103】
あるいは、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppは、酸発生剤PAGから発生した酸Acと反応して増感体Psを生成してもよい。
【0104】
以下、
図1、
図2および
図6を参照して、パターン露光L1によって増感体前駆体Ppから増感体Psを直接的に生成する実施形態によるレジストパターン形成方法およびレジスト材料を説明する。
【0105】
図1(a)〜
図1(d)のそれぞれは、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図であり、
図2(a)および
図2(b)はパターン露光L1時およびフラッド露光L2時のレジスト層内の濃度分布をそれぞれ示す模式図である。また、
図6は、パターン露光L1時のレジスト層10内の濃度分布を示す模式図である。
【0106】
まず、
図1(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAGおよび塩基発生剤PBGを含有している。塩基発生剤PBGは、例えば、ヘキシルアンモニウム2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナートである。
【0107】
次に、
図1(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。このため、
図2(a)に示すように、領域10aに増感体Psが生成される。
図2(a)は、パターン露光L1後の増感体Psの濃度分布を示す。
【0108】
ここでは、パターン露光L1によって増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。パターン露光L1を行う前には、
図6のt0に示すように、レジスト層10の酸発生剤PAGおよび増感体前駆体Ppは場所によらずほぼ一定の濃度を有している。
【0109】
パターン露光L1が始まると、
図6のt1に示すように、領域10aにおいて増感体前駆体Ppから増感体Psが発生する。増感体Psの濃度分布は、パターン露光L1のビームの強度分布とほぼ同様になる。なお、ここでは、レジスト層内の酸発生剤PAGの濃度は変化しない。例えば、パターン露光L1によって、増感体前駆体Ppがシス−トランス変換して増感体Psが形成されてもよい。この場合、シス−トランス変換は一方向にのみ生じる片道異性化反応であることが好ましい。
【0110】
その後、
図1(c)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行う。フラッド露光L2によって、レジスト層10の全体にエネルギーが付与される。エネルギーが付与されると、
図2(b)に示すように、領域10aにおいて酸発生剤PAGから酸Acが発生し、レジスト層10全体において塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。なお、増感体Psの生成されていない領域10bにフラッド露光L2のビームが照射されても、領域10bにおける酸発生剤PAGおよび増感体前駆体Ppは実質的に反応しない。
【0111】
その後、
図1(d)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、酸Acの発生した領域10aが取り除かれる。以上のようにして、パターン露光L1のパターン形状にしたがったパターンを有するレジスト層10を形成できる。
【0112】
なお、
図1、
図2および
図6を参照した上述の説明では、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppから増感体Psを直接的に生成したが、本発明はこれに限定されない。増感体前駆体Ppは、パターン露光L1によって発生した酸Acと反応して増感体Psを生成してもよい。
【0113】
以下、
図3、
図4、
図7および
図8を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法およびレジスト材料を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法において、増感体前駆体Ppはアセタール型である。ここでは、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから酸Acが発生し、発生した酸Acは増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。
【0114】
図3(a)〜
図3(e)のそれぞれは、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図であり、
図7および
図8は、パターン露光L1時および第1フラッド露光L2a時のレジスト層10内の濃度分布をそれぞれ示す。
【0115】
まず、
図3(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAGおよび塩基発生剤PBGを含有している。
【0116】
次に、
図3(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。
【0117】
パターン露光L1を行う前には、
図7のt0に示すように、レジスト層10の酸発生剤PAGおよび増感体前駆体Ppは場所によらずほぼ一定の濃度を有している。パターン露光L1が始まると、
図7のt1に示すように、領域10aにおいて酸発生剤PAGから酸Acが発生する。このため、領域10aにおいて酸Acの濃度が増加する一方、領域10aの酸発生剤PAGの濃度は領域10bの酸発生剤PAGの濃度よりも低くなる。酸Acの濃度分布は、パターン露光L1のビームの強度分布とほぼ同様になる。
【0118】
領域10aにおいて発生した酸Acは触媒として機能し、
図7のt2に示すように、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。このため、領域10aにおいて増感体Psの濃度が増加する一方、領域10aの増感体前駆体Ppの濃度は領域10bの増感体前駆体Ppの濃度よりも低くなる。
【0119】
次に、
図3(c)に示すように、レジスト層10に第1フラッド露光L2aを行う。第1フラッド露光L2aのビームを照射する前には、
図8のt0に示すように、領域10aにおける酸発生剤PAGおよび増感体前駆体Ppのそれぞれの濃度は領域10bにおける酸発生剤PAGおよび増感体前駆体Ppのそれぞれの濃度よりも低い。
【0120】
第1フラッド露光L2aが始まると、
図8のt1に示すように、領域10aにおいて、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する。このため、領域10aにおいて酸Acの濃度が増加する一方、領域10aの酸発生剤PAGの濃度はさらに減少する。
【0121】
領域10aにおいて発生した酸Acは触媒として機能し、
図8のt2に示すように、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。このため、領域10aにおいて増感体Psの濃度が増加する一方、領域10aの増感体前駆体Ppの濃度はさらに減少する。増感体前駆体Ppから増感体Psの生成は、酸Acを触媒とする反応であるため、酸Acは消失することなく、酸Acを介して増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する。
【0122】
第1フラッド露光L2aをさらに続けると、
図8のt3に示すように、領域10aにおいて、増加した増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acがさらに発生する。このため、領域10aの酸Acの濃度が増加するとともに酸発生剤PAGの濃度がさらに減少する。
【0123】
領域10aにおいて発生した酸Acは触媒として機能し、
図8のt4に示すように、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。このため、領域10aの増感体前駆体Ppの濃度はさらに減少する。このとき、領域10a内の増感体前駆体Ppのほとんどが増感体Psに変化している。このため、領域10aにおける増感体Psの濃度分布はパターン露光L1によって生成された酸Acの分布とは異なり、増感体Psの濃度はほぼ一定のピークを有する。
【0124】
第1フラッド露光L2aをさらに続けると、
図8のt5に示すように、領域10aにおいて、増加した増感体Psにより、酸発生剤PAGから酸Acがさらに発生する。このため、領域10aの酸Acの濃度がさらに増加するとともに酸発生剤PAGの濃度がさらに減少する。第1フラッド露光L2aにより、酸Acの濃度分布は、パターン露光L1によって生成された酸Acの濃度分布と比べて、領域10aのほぼ中央においてほぼ一定のピーク濃度を有するように変化する。
【0125】
なお、このとき、領域10aにおいて増感体前駆体Ppはほとんど存在しないため、酸Acを触媒とした増感体前駆体Ppから増感体Psの生成はほとんど生じない。したがって、
図8のt6に示すように、酸Acの濃度が増加し、領域10aの酸発生剤PAGの濃度はさらに減少する。領域10a内の酸発生剤PAGのほとんどが酸Acに変化すると、領域10aにおける酸Acの濃度のピークはほぼ一定となる。このように、レジスト層10のうちのパターン露光L1および第1フラッド露光L2aの行われた領域10aにわたって酸Acの濃度がほぼ一定のピークになるまで第1フラッド露光L2aは続けられる。このため、酸Acの濃度変化は、領域10aと領域10bとの境界において急峻となる。
【0126】
その後、
図3(d)に示すように、レジスト層10に第2フラッド露光L2bを行う。第2フラッド露光L2bによって、レジスト層10の全体にビームを照射することにより、
図4(c)を参照して上述したように、塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。
【0127】
図4(c)に示すように、酸Acのピーク濃度および塩基Baのピーク濃度はそれぞれほぼ一定であり、酸Acおよび塩基Baの濃度は、領域10aと領域10bとの境界において非常に急峻に変化する。このため、この後のPEB後の反応で生成した化学勾配も非常に大きくなる。上述したように、LWRは化学勾配に反比例し、同様にフォトンショットノイズによるLWRも化学勾配の大きさに反比例するので、フォトンショットノイズによるLWRが大幅に改善される。
【0128】
その後、
図3(e)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、酸Acの発生した領域10aが取り除かれる。以上のようにして、パターン露光L1のパターン形状にしたがったパターンを有するレジスト層10を形成できる。
【0129】
以上のように、本実施形態によれば、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消し、パターン解像度を維持しながらレジスト層10の感度を向上できる。また、近年、トレードオフ以上に大きな課題となっているフォトンショットノイズを大幅に改善できる。この結果、露光工程のスループットの向上が実現され、露光システムの大幅な低コスト化を実現できる。また、低出力の光源が適用可能なため、光源装置、露光装置内の消耗部品の寿命を長くし、保守および運転コストも大幅に低減できる。
【0130】
なお、
図8を参照した上述の説明では、第1フラッド露光L2aは、領域10aの増感体前駆体Ppおよび酸発生剤PAGが無くなるまで続けられたが、本発明はこれに限定されない。第1フラッド露光L2aは、必ずしも領域10aの増感体前駆体Ppおよび酸発生剤PAGが無くなるまで続けなくてもよい。
【0131】
また、
図3、
図4、
図7および
図8を参照した上述の説明では、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから発生した酸Acが触媒として機能し、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成した。このような反応は、例えば、以下のような条件下で進行する。
【0132】
図9に、酸発生剤PAG、増感体前駆体Pp、増感体Psおよび塩基発生剤PBGの吸収波長の模式的なスペクトルを示す。典型的には、増感体前駆体Ppの吸収波長は酸発生剤PAGの吸収波長よりも長い。また、増感体Psの吸収波長は増感体前駆体Ppの吸収波長よりも長く、塩基発生剤PBGの吸収波長は増感体Psの吸収波長よりも長い。
【0133】
この場合、パターン露光L1で比較的短い波長のビームを照射すると、酸発生剤PAGから酸Acが発生し、酸Acが触媒として機能し、増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。また、第1フラッド露光L2aでパターン露光L1のビームの波長よりも長い波長のビームを照射すると、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する。さらに、第2フラッド露光L2bで第1フラッド露光L2aのビームの波長よりも長い波長のビームを照射すると、塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。なお、
図9でも、
図5(b)を参照した上述の説明と同様に、1回のフラッド露光L2により、酸Acおよび塩基Baの両方を発生させてもよい。
【0134】
なお、上述した説明では、パターン露光L1を行う前に、レジスト層10は塩基発生剤PBGを含有する一方で、塩基を含有していなかったが、本発明はこれに限定されない。パターン露光L1を行う前のレジスト層10が塩基を含有してもよい。
【0135】
以下、
図10および
図11を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法およびレジスト材料を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法およびレジスト材料は、パターン露光L1を行う前のレジスト層10が塩基成分Boを含有する点を除いて、
図1および
図2を参照して上述したレジストパターン形成方法およびレジスト材料と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。塩基成分Boにより、レジスト層10は塩基性を示すため増感体前駆体Ppの分解が抑制されるとともに、パターン露光L1としてEUVを用いた場合の帯域外光(Out of Band)によって領域10bに生成される極低濃度の酸を除去することができる。
【0136】
図10(a)〜
図10(d)のそれぞれは、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図であり、
図11は、パターン露光L1時のレジスト層10内の濃度分布を示す。
【0137】
まず、
図10(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAG、塩基発生剤PBGおよび塩基成分Boを含有している。例えば、レジスト層10中において、100質量部のベース樹脂Rに対して、増感体前駆体Ppは0.1質量部以上40質量部以下であり、酸発生剤PAGは0.1質量部以上40質量部以下であり、塩基発生剤PBGは0質量部よりも多く40質量部以下であり、塩基成分Boは10質量部以下である。
【0138】
例えば、塩基成分(塩基性化合物)Boとしてはトリオクチルアミン等のアミン化合物が用いられる。塩基成分Boはベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、塩基成分Boはレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えば、塩基成分Boは、ベース樹脂Rに結合されている。塩基成分Boは、小さい拡散係数を有することが好ましい。
【0139】
次に、
図10(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。
【0140】
パターン露光L1を行う前には、
図11のt0に示すように、レジスト層10の酸発生剤PAG、増感体前駆体Ppおよび塩基成分Boは場所によらずほぼ一定の濃度を有している。なお、塩基成分Boの濃度は、酸発生剤PAG、増感体前駆体Ppの濃度と比べて比較的低くてもよい。
【0141】
パターン露光L1が始まると、
図11のt1に示すように、領域10aにおいて酸発生剤PAGから酸Acが発生する。このため、領域10aにおいて酸Acの濃度が増加する一方、領域10aの酸発生剤PAGの濃度は領域10bの酸発生剤PAGの濃度よりも低くなる。酸Acの濃度分布は、ほぼパターン露光L1のビーム強度分布を示す。
【0142】
なお、ここでは、レジスト層10が塩基成分Boを含有しているため、酸Acは塩基成分Boと反応して中和する。このため、酸Acの濃度分布は、
図11のt2に示すように、塩基成分Boを含有していない場合と比べてシャープになる。
【0143】
また、領域10aにおいて発生した酸Acは触媒として機能し、
図11のt2に示すように、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。このため、領域10aの増感体前駆体Ppの濃度は領域10bの増感体前駆体Ppの濃度よりも低くなる。上述したように、塩基成分Boを含有していない場合と比べて、酸Acの濃度分布がシャープであったため、酸Acに起因して生成される増感体Psの濃度分布もシャープになる。
【0144】
次に、
図10(c)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行う。パターン露光L1によって形成された増感体Psの濃度分布がシャープであるため、増感体Psを介して酸発生剤PAGから発生する酸Acの濃度分布をシャープにできる。
【0145】
その後、
図10(d)に示すように、レジスト層10の現像を行う。以上のように、レジスト層10に予め少量の塩基成分Boを添加することにより、コントラストおよび解像度を改善できるとともに、領域10bへの迷光または帯域外光(Out Of Band)の照射に伴う少量の酸の生成を抑制でき、レジスト性能を向上できる。
【0146】
上述したように、増感体前駆体Ppは、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから発生した酸Acと反応して増感体Psを生成してもよい。この場合、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppと酸Acとが反応して増感体Psを生成するプロセス1が進行した後に、フラッド露光L2により、励起状態の増感体Psと酸発生剤PAGとが反応するプロセス2が進行してもよい。
【0147】
プロセス1では、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppと酸Acとが反応して増感体Psを生成する。典型的には、酸Acがレジスト層内を拡散し、拡散する酸Acの近くに増感体前駆体Ppが存在していると、酸Acが増感体前駆体Ppと反応し、酸Acおよび増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。このように、プロセス1は酸Acの拡散によって進行する。拡散長は塩基濃度、酸分子の大きさ、温度、レジストのガラス転移温度Tgなどに依存して大きく変化する。一般に、温度が高いほど、酸Acの拡散長は長くなる。例えば、ベース樹脂のガラス転移温度Tgよりも高い温度において、酸Acの拡散長は比較的長くなる。以上のように、プロセス1は酸Acの熱拡散に伴う反応であり、酸Acの発生した領域から離れた領域でも、酸Acと増感体前駆体Ppとの反応が生じ得る。
【0148】
また、プロセス2では、典型的には、励起した増感体Psが酸発生剤PAGと反応して酸Acを発生させる。このように、プロセス2は、電子移動またはエネルギー移動等を生じさせる光化学反応であり、励起した増感体Psから比較的短い距離で3次元的かつ等方性の高い反応が生じる。
【0149】
ここで、プロセス1およびプロセス2におけるラフネス、および、フォトンショットノイズについて検討する。特に少量のフォトンで反応を進行させる場合、フォトンショットノイズに起因するラフネスが目立つことがある。フォトンショットノイズに起因するラフネスを抑制するために、反応距離は、プロセス1およびプロセス2のいずれにおいても短いことが好ましい。なお、プロセス1およびプロセス2を比較した場合、反応距離のばらつきは、熱拡散に伴うプロセス1において生じやすい。特に、酸Acの濃度が比較的低い場合、プロセス1の反応において拡散に伴うフォトンショットノイズに起因するラフネスが生じやすい。このため、フォトンショットノイズに起因するラフネスを抑制するために、プロセス1を行う際、酸Acおよび増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する反応が効率よく進行するのであれば、温度を低くして酸Acの拡散長を比較的短くすることが好ましい。例えば、パターン露光L1は、酸Acの拡散の温度依存性、および、酸Acおよび増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する反応の温度依存性等を考慮して行うことが好ましい。
【0150】
プロセス2では、3次元等方性の高い励起した増感体Psから酸発生剤PAGへの電子移動またはエネルギー移動に伴って酸Acが効率よく生成されるように励起した増感体Psと酸発生剤PAGを選択し、酸発生剤PAGの濃度を高くすることが好ましい。また、プロセス1よりプロセス2の比率を大きくすることがラフネスやフォトンショットノイズに起因するラフネスを低減する上で有効である。このように、パターン露光L1およびフラッド露光L2において、酸Acと増感体前駆体Ppとの反応における酸Acの拡散距離、および、励起した増感体Psから酸発生剤PAGへの電子移動またはエネルギー移動の反応距離を短くすることが好ましい。さらに、酸Ac等のランダムな拡散軌道に従った反応よりも3次元等方性の高い電子移動、エネルギー移動反応によって酸Acを生成する反応の寄与する度合を大きくすることが好ましい。これらにより、レジストパターンのフォトンショットノイズに起因するラフネスを低減させることができる。
【0151】
なお、上述したように、増感体前駆体Ppが、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから発生した酸Acと反応して増感体Psを生成する場合、増感体前駆体Ppは、増感体Psを生成するための反応物としてのみではなく、酸発生剤PAGから酸Acを発生させる反応に対して増感作用を有することが好ましい。この場合、増感体前駆体Ppは感度およびコントラストの向上に寄与する。このような増感体前駆体Ppは、例えば、アセタール、ケタール、ヘミアセタール(セミケタール)等である。より具体的な一例として増感体前駆体Ppは、ジメトキシベンズヒドロール誘導体であるジメトキシビス(4−メトキシフェニル)メタン(DOBzMM)である。DOBzMMの芳香族部分はベンゼン環構造である。なお、増感体前駆体Ppは、例えば、ナフタレンおよびアントラセン等の多環芳香族炭化水素もしくはチオキサントン等のヘテロ原子を含む芳香族分子の構造を含むアセタール、ケタール、ヘミアセタール(セミケタール)等である。なお、パターン露光L1の際に、増感体前駆体Ppは、増感体前駆体Ppから増感体Psを発生させる反応に対する増感作用および/または酸発生剤PAGから酸Acを発生させる反応に対する増感作用を有することが好ましい。
【0152】
なお、
図10および
図11を参照した上述の説明では、酸Acの拡散係数および塩基成分Boの拡散係数は互いにほぼ等しく、パターン露光L1のビームの照射された領域10aにおける酸Acおよび塩基成分Boいずれかの拡散について説明しなかったが、本発明はこれに限定されない。酸Acの拡散係数は塩基成分Boの拡散係数よりも大きくてもよい。あるいは、酸Acの拡散係数は塩基成分Boの拡散係数よりも小さくてもよい。
【0153】
ここで、
図12(a)を参照して、酸Acの拡散係数が塩基成分Boの拡散係数よりも大きい場合のパターン露光L1時のレジスト層内の濃度分布の変化を説明する。
【0154】
パターン露光L1が始まると、
図12(a)のt1に示すように、領域10aにおいて酸発生剤PAGから酸Acが発生する。このため、領域10aにおいて酸Acの濃度が増加する一方、領域10aの酸発生剤PAGの濃度は領域10bの酸発生剤PAGの濃度よりも低くなる。酸Acの濃度分布は、ほぼパターン露光L1のビーム強度分布を示す。
【0155】
なお、レジスト層10が塩基成分Boを含有しているため、酸Acは塩基成分Boと反応して中和する。ここでは、酸Acの拡散係数が塩基成分Boの拡散係数よりも大きいため、
図12(a)のt2に示すように、酸Acは拡散して、酸Acの濃度分布は広がってピークも低下する。また、領域10aにおいて発生した酸Acは触媒として機能し、
図12(a)のt2に示すように、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。このため、領域10aの増感体前駆体Ppの濃度は領域10bの増感体前駆体Ppの濃度よりも低くなる。上述したように、酸Acの濃度分布は比較的広いため、酸Acに起因して生成される増感体Psの濃度分布も広がることになる。したがって、パターン露光L1のビームの照射領域よりも広い領域にわたって濃度分布を有する増感体Psを生成できる。
【0156】
なお、
図12(a)を参照して上述したように、酸Acの拡散係数は塩基成分Boの拡散係数よりも大きくてもよいが、酸Acの拡散係数は塩基成分Boの拡散係数よりも小さくてもよい。
【0157】
ここで、
図12(b)を参照して、酸Acの拡散係数が塩基成分Boの拡散係数よりも小さい場合のパターン露光L1時のレジスト層内の濃度分布の変化を説明する。
【0158】
パターン露光L1が始まると、
図12(b)のt1に示すように、領域10aにおいて酸発生剤PAGから酸Acが発生する。このため、領域10aにおいて酸Acの濃度が増加する一方、領域10aの酸発生剤PAGの濃度は領域10bの酸発生剤PAGの濃度よりも低くなる。酸Acの濃度分布は、ほぼパターン露光L1のビーム強度分布を示す。
【0159】
なお、レジスト層10が塩基成分Boを含有しているため、酸Acは塩基成分Boと反応して中和する。ここでは、酸Acの拡散係数が塩基成分Boの拡散係数よりも小さいため、
図12(b)のt2に示すように、塩基成分Boは拡散して、酸Acの濃度分布は比較的狭くなる。また、領域10aにおいて発生した酸Acは触媒として機能し、
図12(b)のt2に示すように、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。このため、領域10aの増感体前駆体Ppの濃度は領域10bの増感体前駆体Ppの濃度よりも低くなる。上述したように、酸Acの濃度分布は比較的狭いため、酸Acに起因して生成される増感体Psの濃度分布も狭まることになる。したがって、パターン露光L1のビームの照射領域よりも狭い領域に濃度分布を有する増感体Psを生成できる。
【0160】
なお、
図10から
図12を参照した上述の説明では、酸Acおよび塩基成分Boの中和反応によって生じた生成物はプロセス1、2には関与しないが、本発明はこれに限定されない。酸Acおよび塩基成分Boの中和反応によって、レジスト層10内に含まれる酸発生剤PAGと同じ酸発生剤PAGが新たに生成されてもよい。
【0161】
ここで、
図13(a)を参照して、酸Acおよび塩基成分Boの中和反応によって酸発生剤PAGが新たに生成される場合のパターン露光L1時のレジスト層内の濃度分布の変化を説明する。例えば、レジスト層内の酸発生剤PAG、酸Acおよび塩基成分Boは、それぞれ、AX、HXおよびAYである。
【0162】
パターン露光L1が始まると、
図13(a)のt1に示すように、領域10aにおいて酸発生剤PAG(AX)から酸Ac(HX)が発生する。このため、領域10aにおいて酸Ac(HX)の濃度が増加する一方、領域10aの酸発生剤PAG(AX)の濃度は領域10bの酸発生剤PAG(AX)の濃度よりも低くなる。酸Ac(HX)の濃度分布は、ほぼパターン露光L1のビーム強度分布を示す。
【0163】
なお、レジスト層10が塩基成分Bo(AY)を含有しているため、酸Ac(HX)は塩基成分Bo(AY)と反応して中和する。ここでは、酸Ac(HX)および塩基成分Bo(AY)の中和反応によって酸発生剤PAG(AX)が新たに生成されるため、
図13(a)のt2に示すように、領域10aにおける酸発生剤PAG(AX)の濃度は回復する。また、領域10aにおいて発生した酸Ac(HX)は触媒として機能し、
図13(a)のt2に示すように、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。このため、領域10aの増感体前駆体Ppの濃度は領域10bの増感体前駆体Ppの濃度よりも低くなる。
【0164】
このように、酸Acおよび塩基成分Boの中和反応によって酸発生剤PAGが新たに生成されると、パターン露光L1を行っても、酸発生剤PAGの濃度は変化しないか、または、酸発生剤PAGの濃度の減少量を低減できる。このため、パターン露光L1後の酸発生剤PAGの濃度を高くすることができ、フラッド露光L2において発生する酸の濃度を増加できる。
【0165】
なお、酸Ac(HX)および塩基成分Bo(AY)の中和反応によって酸発生剤PAG(AX)以外に別の化合物(例えば、化合物(HY))が生成することもあるが、このような化合物は酸触媒反応を起こさないので、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成せず、化学増幅型レジスト反応は生じない。
【0166】
なお、
図13(a)を参照した上述の説明では、酸Acおよび塩基成分Boの中和反応によって酸発生剤PAGが新たに生成されたが、本発明はこれに限定されない。酸Acおよび塩基成分Boの中和反応によって、酸発生剤PAGとは異なる酸発生剤が生成されてもよい。
【0167】
ここで、
図13(b)を参照して、酸Acおよび塩基成分Boの中和反応によってレジスト層内に存在する酸発生剤PAGとは異なる酸発生剤PAGaが生成される場合のパターン露光L1時のレジスト層内の濃度分布の変化を説明する。例えば、酸Ac、塩基成分Bo、酸発生剤PAGおよび酸発生剤PAGaは、それぞれ、HX、BY、AXおよびBXである。
【0168】
パターン露光L1が始まると、
図13(b)のt1に示すように、領域10aにおいて酸発生剤PAG(AX)から酸Ac(HX)が発生する。このため、領域10aにおいて酸Ac(HX)の濃度が増加する一方、領域10aの酸発生剤PAG(AX)の濃度は領域10bの酸発生剤PAG(AX)の濃度よりも低くなる。酸Ac(HX)の濃度分布は、ほぼパターン露光L1のビーム強度分布を示す。
【0169】
なお、レジスト層10が塩基成分Bo(BY)を含有しているため、酸Ac(HX)は塩基成分Bo(BY)と反応して中和する。ここでは、酸Ac(HX)および塩基成分Bo(BY)の中和反応によって、
図13(a)のt2に示すように、レジスト層10内に含まれる酸発生剤PAG(AX)とは異なる酸発生剤PAGa(BX)が生成される。また、領域10aにおいて発生した酸Ac(HX)は触媒として機能し、
図13(b)のt2に示すように、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。このため、領域10aの増感体前駆体Ppの濃度は領域10bの増感体前駆体Ppの濃度よりも低くなる。
【0170】
領域10aにおいて発生した酸Acは触媒として機能し、
図13(b)のt2に示すように、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。このため、領域10aの増感体前駆体Ppの濃度は領域10bの増感体前駆体Ppの濃度よりも低くなる。
【0171】
このように、酸Acおよび塩基成分Boの中和反応によって酸発生剤PAGaが生成されると、パターン露光L1によって領域10aにおける酸発生剤PAGの濃度が減少しても、領域10aにおけるパターン露光L1後の酸発生剤PAGおよび酸発生剤PAGaの濃度の和はパターン露光L1前の酸発生剤PAGの濃度と比べてほとんど変化していないか、または、減少していたとしても減少量を低減できる。このため、パターン露光L1後の酸発生剤の濃度を高くすることができ、フラッド露光L2において発生する酸の濃度を増加できる。
【0172】
なお、
図9から
図13を参照して上述したように、レジスト層10が塩基成分Boを含有することが好ましい。塩基成分Boは塩基発生剤PBGから塩基Baを発生させるまで、レジスト層10中で、解像度およびラフネスにとって重要な酸Acおよび増感体Psの空間分布を決める非常に重要な役割を果たす。所望な高解像度でラフネスの小さいパターンを形成するためには、塩基発生剤PBGから塩基Baを発生させるまで塩基成分Boの濃度を充分に高くすることが好ましい。
【0173】
レジスト層10に含まれる塩基成分Boのうち、パターン露光L1のビームの照射されない領域10bに存在する塩基成分Boは、領域10bにおいて発生する酸Acを消失させるため、フォトンショットノイズを効率的に低減させることができる。一方、領域10aに存在する塩基成分Boは、領域10aにおいて発生する酸Acを消失させてしまう。領域10aにおける酸Acの消失を抑制するため、パターン露光L1により、塩基成分Boは分解することが好ましい。これにより、領域10bにおける酸Acの発生を抑制するとともに領域10aにおいて発生する酸Acの消失を抑制できる。例えば、パターン露光L1のビームとして、極端紫外光、電子線またはArFを用い、塩基成分Boとして光分解型塩基を用いることが好ましい。
【0174】
領域10aにおける酸Acの消失を抑制するため、フラッド露光L2のビームの照射によって励起した増感体Psが塩基成分Boと反応して塩基成分Boを分解して消失させることが好ましい。例えば、フラッド露光L2として、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bを行う場合、第1フラッド露光L2aのビームの照射によって励起した増感体Psが塩基成分Boと反応して塩基成分Boを分解して消失させることが好ましい。この場合、領域10bにおける酸Acの発生を抑制するとともに領域10aにおいて発生する酸Acの消失を抑制できる。
【0175】
また、レジスト層10に含まれる塩基発生剤PBGのうち、パターン露光L1のビームの照射されない領域10bに存在する塩基発生剤PBGは、仮に領域10bに酸Acが発生しても酸Acを消失させる塩基Baを発生させるため、フォトンショットノイズを効率的に低減させることができる。一方、パターン露光L1のビームの照射される領域10aに存在する塩基発生剤PBGが励起した増感体Psと反応して塩基Baを発生させると、発生した塩基Baが領域10aにおいて発生する酸Acを消失させてしまう。このため、塩基発生剤PBGは、フラッド露光L2のビームの照射によって励起された増感体Psと反応しないか、励起された増感体Psと反応しても塩基Baを発生させないことが好ましい。これにより、領域10bにおける酸Acの発生を抑制するとともに、領域10aにおいて発生する酸Acの消失を抑制できる。例えば、フラッド露光L2のビームとしてLEDから出射される波長365nmの光を用い、塩基発生剤PBGとして、ジシクロヘキシルアンモニウム 2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナートを用いることが好ましい。
【0176】
なお、
図10から
図13を参照して上述した説明では、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから発生した酸Acが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成し、また、パターン露光L1前のレジスト層10は塩基成分Boを含有していたが、本発明はこれに限定されない。レジスト層10は、パターン露光L1によって発生させたラジカルを介して増感体前駆体Ppから増感体Psを生成し、パターン露光L1前のレジスト層10はラジカル捕捉成分Rkを含有してもよい。
【0177】
以下、
図14を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法およびレジスト材料を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法およびレジスト材料は、パターン露光L1を行う前のレジスト層10がラジカル捕捉成分Rkを含有する点を除いて、
図1および
図2を参照して上述したレジストパターン形成方法およびレジスト材料と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。なお、本実施形態においてレジスト層10の増感体前駆体Ppはアルコール型であり、パターン露光L1によって発生したラジカルを介して増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。
【0178】
図14(a)〜
図14(d)のそれぞれは、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図である。
【0179】
まず、
図14(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAG、塩基発生剤PBGおよびラジカル捕捉成分Rkを含有している。
【0180】
例えば、ラジカル捕捉成分Rkとして、ヒンダードフェノールなどのラジカル捕捉剤、ラジカル禁止剤が用いられる。なお、ラジカル捕捉成分Rkはベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、ラジカル捕捉成分Rkはレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えばラジカル捕捉成分Rkはベース樹脂Rに結合されている。ベース樹脂Rとして、ポリヒドロキシスチレン樹脂(PHS樹脂)を用いる場合、PHS樹脂はラジカル捕捉剤として機能し得る。
【0181】
次に、
図14(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。
【0182】
パターン露光L1を行う前には、レジスト層10の酸発生剤PAG、増感体前駆体Ppおよびラジカル捕捉成分Rkは場所によらずほぼ一定の濃度を有している。なお、ラジカル捕捉成分Rkの濃度は、酸発生剤PAG、増感体前駆体Ppの濃度と比べて比較的低い。
【0183】
パターン露光L1が始まると、領域10a内にラジカルが発生し、ラジカルを介して増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。ここでは、レジスト層10がラジカル捕捉成分Rkを含有しているため、発生したラジカルの一部はラジカル捕捉成分Rkに捕捉される。このため、増感体Psの濃度分布は、レジスト層10がラジカル捕捉成分Rkを含有していない場合と比べてシャープになる。
【0184】
次に、
図14(c)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行う。パターン露光L1によって形成された増感体Psの濃度分布がシャープであるため、増感体Psを介して酸発生剤PAGから発生する酸Acの濃度分布をシャープにできる。
【0185】
その後、
図14(d)に示すように、レジスト層10の現像を行う。以上のように、レジスト層10に予め少量のラジカル捕捉成分Rkを添加することにより、コントラストおよび解像度を改善できるとともに、領域10bへの迷光または帯域外光(Out Of Band)の照射に伴う少量の酸の生成を抑制でき、レジスト性能を向上できる。
【0186】
なお、
図10および
図11を参照した上述の説明では、レジスト材料は塩基成分Boを含有し、
図14を参照した上述の説明では、レジスト材料はラジカル捕捉成分Rkを含有していたが、本発明はこれに限定されない。レジスト材料は、塩基成分Boおよびラジカル捕捉成分Rkの両方を含有してもよい。
【0187】
また、上述したように、レジスト層10は、酸発生剤PAGとは別にラジカル発生成分を含有してもよいが、酸発生剤PAGおよびラジカル発生成分は同一の成分であってもよい。この場合、フラッド露光L2により、酸発生剤PAGおよび増感体Psが生成される。この反応は、ラジカルに伴う反応を含むので、上述したように、レジスト層10は、ラジカル捕捉成分Rkを含有することが好ましい。また、レジスト層10は、露光(例えば、フラッド露光)によってラジカル捕捉成分を生成するラジカル禁止剤発生剤を含有してもよい。
【0188】
また、
図1〜
図14を参照した上述の説明では、レジスト層10は露出されており、外気と直接的に接触していたが、本発明はこれに限定されない。レジスト層10の表面にトップコート層が設けられてもよい。また、レジスト層10と基板Sとの間に下地層が設けられてもよい。
【0189】
以下、
図15を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法は、レジスト層10の表面にトップコート層Tをさらに形成する点を除いて、
図1および
図2を参照して上述したレジストパターン形成方法と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0190】
まず、
図15(a)に示すように、基板S上に下地層Uを形成する。下地層は、例えば、市販の無機材料または有機材料から形成される。
【0191】
次に、下地層Uの上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAGおよび塩基発生剤PBGを含有している。
【0192】
次に、レジスト層10の表面にトップコート層Tを形成する。トップコート層Tにより、塩基性物質および/または酸素のレジスト層10への侵入が遮断される。トップコート層Tは、パターン露光L1とフラッド露光L2のビームを透過し、帯域外光(Out of Band)のビームをなるべく遮断することが好ましい。
【0193】
例えば、増感体前駆体Ppがアセタール型の場合、トップコート層Tは、酸の失活を防ぐために、塩基性化合物を浸透しないことが好ましい。また、例えば、増感体前駆体Ppがアルコール型の場合、トップコート層Tは、酸素の透過しない架橋した高分子膜、または、ヒドロキノンや3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエンなどの酸素と反応する物質を含む高分子膜から形成される。トップコート層Tの厚さは、パターン露光L1のビーム源に応じて決定される。例えば、ビーム源としてEUVを用いる場合、トップコート層TでのEUVのエネルギー損失が大きいため、トップコート層Tの厚さは20nm以上50nm以下であることが好ましい。また、ビーム源としてEBを用いる場合、トップコート層Tの厚さは、EBのエネルギーに依存するが、50nm以下であることが好ましい。さらに、ビーム源として、ArFまたはKrFを用いる場合、トップコート層Tはビームに対して透明であることが好ましく、トップコート層Tの厚さは20nm以上200nm以下であってもよい。
【0194】
次に、
図15(b)に示すように、トップコート層Tを介してレジスト層10にパターン露光L1を行う。上述したように、パターン露光L1により、領域10aに増感体Psが形成される。
【0195】
次に、
図15(c)に示すように、トップコート層Tを介してレジスト層10にフラッド露光L2を行う。フラッド露光L2により、上述したように、領域10aに酸Acが形成され、領域10bに塩基Baが形成される。
【0196】
次に、
図15(d)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、酸Acの発生した領域(潜像が形成された領域)10aは現像液において溶解し除去される。以上のようにして、パターン露光L1のパターン形状にしたがったパターンを有するレジスト層10を形成できる。なお、パターン露光L1の後、または、フラッド露光L2の後、必要に応じてレジスト層10上のトップコート層Tを除去してもよい。パターン露光L1の間、または、フラッド露光L2の間、トップコート層Tが設けられていることにより、レジスト層10への塩基性物質および/またはラジカル捕捉成分の意図しない侵入が抑制され、これにより、レジスト層10のレジスト性能をさらに向上させることができる。
【0197】
なお、
図15を参照して上述した説明では、レジスト層10の上方にトップコート層Tを設け、レジスト層10の下方に下地層Uを設けたが、本発明はこれに限定されない。トップコート層Tを設けることなくレジスト層10の下方に下地層Uを配置してもよい。あるいは、下地層Uを設けることなくレジスト層10の上方にトップコート層Tを設けてもよい。
【0198】
また、下地層Uは、フラッド露光L2のビームの反射防止膜として機能することが好ましい。下地層Uの最適な厚さは、フラッド露光L2の波長によって決定される。
【0199】
上述したレジストパターン形成方法におけるパターン露光およびフラッド露光はレジスト潜像形成装置において好適に行われる。以下、
図16を参照して本発明によるレジスト潜像形成装置200の実施形態を説明する。
【0200】
レジスト潜像形成装置200は、パターン露光機210と、フラッド露光機220とを備える。パターン露光機210は、基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光する。上述したように、レジスト層10はベース樹脂、増感体前駆体、酸発生剤および塩基発生剤を含有している。なお、レジスト層10は、基板S上に直接形成されてもよく、あるいは基板S上に別の層を介して形成されてもよい。パターン露光機210のパターン露光L1により、レジスト層10の増感体前駆体から増感体が生成される。その後、フラッド露光機220はレジスト層10にフラッド露光L2を行い、パターン潜像を形成する。フラッド露光機220のフラッド露光L2により、増感体を介して酸発生剤から酸が発生し、塩基発生剤から塩基が発生する。
【0201】
パターン露光機210は、チャンバ212と、パターン光源214とを有している。チャンバ212は、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ212内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。活性ガス雰囲気は、例えば、分圧の制御された水素ガスを含む。チャンバ212は、収納している基板Sの温度を−10℃から100℃の範囲で制御可能であることが好ましい。
【0202】
パターン光源214は、チャンバ212内のレジスト層10にパターン形状のビームを照射する。パターン光源214のビームは、可視光、UV、DUV、EUVのような電磁波である。または、パターン光源214のビームは電子線またはイオンビームであってもよい。例えば、パターン光源214は、イオンビーム照射部、電子線照射部または電磁波照射部を含む。
【0203】
パターン露光L1の光源としてEUV光源を用いる場合、EUVの波長は1nm以上13.5nm以下であることが好ましく、6nm以上13.5nm以下であることがさらに好ましい。あるいは、パターン露光L1のビームとして電子線を用いる場合、電子線の加速エネルギーは10keV以上300keV以下であることが好ましく、40keV以上130keV以下であることがさらに好ましい。
【0204】
ここでは、パターン露光機210が基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光を行った後、基板Sはパターン露光機210からフラッド露光機220まで運搬される。基板Sがパターン露光機210からフラッド露光機220まで運搬される間、レジスト潜像形成装置200の内部は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。パターン露光からPEBまでの間に酸の失活が起きないように、レジスト潜像形成装置200では、塩基性化合物の除去用フィルター等を用いて、雰囲気が厳しく制御されることが好ましい。これにより、パターン露光機210によって生じたレジスト層10の活性が減衰することを抑制できる。チャンバ222は、収納している基板Sの温度を−10℃から100℃の範囲で制御可能であることが好ましい。
【0205】
フラッド露光機220は、チャンバ222と、フラッド光源224とを有している。チャンバ222は、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0206】
フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10にフラッド露光L2のビームを照射してパターン潜像を形成する。フラッド露光L2のビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。
図16では、フラッド露光L2のビームはミラーによって反射されて、チャンバ222内に導入されている。例えば、フラッド光源224は、イオンビーム照射部、電子線照射部または電磁波照射部を含む。
【0207】
フラッド露光機220は、ビームをエリア形状にするための機構をさらに有してもよい。例えば、フラッド露光機220は、投影レンズ系および遮断マスクを有する。ただし、フラッド露光機220は、投影レンズ系を有しておらず、遮断マスクのみを有してもよい。遮断マスクのみを有する場合、フラッド露光機220の構成が簡素になり好適である。
【0208】
このように、パターン光源214がレジスト層10のエリア内に、パターン形状にビームを照射した後、フラッド光源224が上記エリアにわたってビームを照射し、レジスト層10に所定のパターン潜像を形成する。パターン光源214は、パターン形状にビームを照射するパターン照射源であるのに対して、フラッド光源224は、エリア照射源である。
【0209】
レジスト層10にパターン潜像が形成された後、レジスト層10は、図示しない現像装置において現像されてもよい。現像により、所定のパターンのレジスト層10が出現する。
【0210】
なお、レジスト潜像形成装置200は、一例として、パターン光源214を備えるパターン露光機210、および、フラッド光源224を備えるフラッド露光機220に加えてコータ/デベロッパ(ここでは図示せず)をさらに備えることが好ましい。レジスト潜像形成装置200がコータ/デベロッパを備える場合、レジスト潜像形成装置200は、レジスト層10のパターン形成を以下のように行う。まず、コータ/デベロッパは、基板S上にスピンコートでアンダーレイヤーを形成し、アンダーレイヤーをベークする。
【0211】
次に、コータ/デベロッパは、アンダーレイヤー上にレジスト層10をコーティングし、レジスト層10をプリベークする。なお、必要に応じて、レジスト層10上にスピンコートでさらに別の層を形成し、当該層をベークしてもよい。
【0212】
次に、パターン露光機210のパターン光源214は、レジスト層10にビームを照射する。その後、フラッド露光機220のフラッド光源224はレジスト層10にビームを照射する。これにより、レジスト層10にパターン潜像が形成される。
【0213】
次に、コータ/デベロッパは、ポストベークを行う。その後、コータ/デベロッパは、レジスト層10を現像する。これにより、所定のパターン形状のレジスト層10が形成される。次に、コータ/デベロッパは、レジスト層10を純水でリンスし、ポストベーク(乾燥)を行う。以上のようにして、レジスト層10にパターンを形成することができる。
【0214】
なお、基板Sが、コータ/デベロッパ、レジスト層10を活性化する場所、レジスト層10にパターン潜像を形成する場所の間で運搬される場合、運搬は、所定の不活性ガス雰囲気下、活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で行われることが好ましい。運搬部材として、温度調整機能を有するステージが好適に用いられる。
【0215】
また、コータ/デベロッパは、パターン露光機210のチャンバ212内に配置されてもよく、あるいは、フラッド露光機220のチャンバ222内に配置されてもよい。さらには、コータ/デベロッパは、パターン露光機210およびフラッド露光機220と共通のチャンバ内に配置されてもよい。
【0216】
図16を参照して上述した説明では、チャンバ212においてパターン光源214から出射されたビームが照射され、チャンバ222においてパターン光源214とは異なるフラッド光源224から出射されたビームが照射されたが、本発明はこれに限定されない。
【0217】
また、
図16を参照して上述した説明では、基板S上に形成されたレジスト層10を活性化した後、基板Sは、チャンバ212から一旦とり出されて、チャンバ222まで運搬されたが、本発明はこれに限定されない。基板Sは、チャンバ212とチャンバ222とを連絡する連絡経路を通ってチャンバ212からチャンバ222まで搬送されてもよい。
【0218】
また、
図16を参照して上述した説明では、パターン露光機210およびフラッド露光機220は、チャンバ212およびチャンバ222をそれぞれ備えていたが、本発明はこれに限定されない。パターン露光機210およびフラッド露光機220のチャンバは同一であってもよい。
【0219】
また、
図16を参照して上述したレジスト潜像形成装置200は、1つのフラッド露光機220を備えていたが、本発明はこれに限定されない。レジスト潜像形成装置200は、波長の異なるビームを出射する複数のフラッド露光機を備えてもよいし、また、1つのフラッド露光機が複数の異なるビームを出射してもよい。
【0220】
以下、
図17を参照して本実施形態のレジスト潜像形成装置200を説明する。本実施形態のレジスト潜像形成装置200は、2つのフラッド露光機を備える点を除いて
図16を参照して上述したレジスト潜像形成装置と同様の構成を有しており、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0221】
レジスト潜像形成装置200は、パターン露光機210と、第1フラッド露光機220aと、第2フラッド露光機220bとを備える。パターン露光機210が、基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光L1を行った後、第1フラッド露光機220aがレジスト層10に第1フラッド露光L2aを行い、第2フラッド露光機220bがレジスト層10に第2フラッド露光L2bを行い、パターン潜像を形成する。
【0222】
パターン露光機210は、チャンバ212と、パターン光源214とを有している。パターン光源214は、チャンバ212内のレジスト層10にパターン形状のビームを照射する。パターン光源214のビームは、可視光、UV、DUV、EUVのような電磁波である。または、パターン光源214のビームは電子線またはイオンビームであってもよい。
【0223】
第1フラッド露光機220aは、チャンバ222aと、第1フラッド光源224aとを有している。チャンバ222aは、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222a内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0224】
パターン露光機210が基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光を行った後、基板Sはパターン露光機210から第1フラッド露光機220aまで運搬される。基板Sがパターン露光機210から第1フラッド露光機220aまで運搬される間、レジスト潜像形成装置200の内部は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0225】
第1フラッド光源224aは、チャンバ222a内のレジスト層10に第1フラッド露光L2aのビームを照射する。第1フラッド光源224aから出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。第1フラッド露光L2aのビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。
図17では、第1フラッド露光L2aのビームはミラーによって反射されて、チャンバ222a内に導入されている。
【0226】
第1フラッド露光機220aが基板S上に形成されたレジスト層10に第1フラッド露光L2aを行った後、基板Sは第1フラッド露光機220aから第2フラッド露光機220bまで運搬される。基板Sが第1フラッド露光機220aから第2フラッド露光機220bまで運搬される間、レジスト潜像形成装置200の内部は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0227】
第2フラッド露光機220bは、チャンバ222bと、第2フラッド光源224bとを有している。チャンバ222bは、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222b内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0228】
第2フラッド光源224bは、チャンバ222b内のレジスト層10に第2フラッド露光L2bのビームを照射してパターン潜像を形成する。第2フラッド光源224bから出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。第2フラッド露光L2bのビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。
図17では、第2フラッド露光L2bのビームもミラーによって反射されて、チャンバ222内に導入されている。
【0229】
なお、第2フラッド光源224bの出射するビームの波長は、第1フラッド光源224aの出射するビームの波長よりも長いことが好ましい。ただし、第2フラッド光源224bの出射するビームの波長は、第1フラッド光源224aの出射するビームの波長よりも短くてもよい。
【0230】
レジスト層10にパターン潜像が形成された後、レジスト層10は、図示しない現像装置において現像されてもよい。現像により、所定のパターンのレジスト層10が出現する。
【0231】
なお、
図17を参照して上述した説明では、異なる第1フラッド露光機220aおよび第2フラッド露光機220bが異なるフラッド露光を行ったが、本発明はこれに限定されない。フラッド露光機の同一のフラッド光源により、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bの両方が行われてもよい。
【0232】
以下、
図18を参照して本実施形態のレジスト潜像形成装置200を説明する。本実施形態のレジスト潜像形成装置200は、フラッド露光機220内の同一のフラッド光源224により、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bの両方が行われる点を除いて
図17を参照して上述したレジスト潜像形成装置と同様の構成を有しており、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
【0233】
フラッド露光機220は、チャンバ222と、フラッド光源224とを有している。チャンバ222は、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
【0234】
フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10にフラッド露光L2のビームを照射してパターン潜像を形成する。フラッド露光L2のビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。
【0235】
ここでは、フラッド露光機220は、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bを行う。フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10に第1フラッド露光L2aのビームを照射する。フラッド光源224から出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。
【0236】
その後、フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10に第2フラッド露光L2bのビームを照射する。この場合も、フラッド光源224から出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。なお、典型的は、第2フラッド露光L2b時のビームの波長は、第1フラッド露光L2a時のビームの波長とは異なる。このように、フラッド露光機220内の同一のフラッド光源224により、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bの両方が行われてもよい。
【0237】
また、上述した説明では、フラッド露光はパターン露光の後に行われたが、本発明はこれに限定されない。パターン露光に先立ち、予備的なフラッド露光を行ってもよい。あるいは、パターン露光のみによって、増感体前駆体Ppからの増感体Psの生成が完了しなくてもよく、パターン露光の後に、増感体前駆体Ppからの増感体Psを生成するためのフラッド露光を行ってもよい。
【0238】
なお、上述した説明では、ポジ型のレジスト層を説明したが、本発明はこれに限定されない。レジスト層はネガ型であってもよい。
【実施例】
【0239】
以下、本実施形態の実施例を説明する。なお、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0240】
シクロヘキサノンに溶解させた100質量部のメチルメタアクリレート系高分子(以下「MMA」と記載)に、酸発生剤PAGとしての5質量部のDPI−PFBS、増感体前駆体Ppとしての5質量部のDOBzMM、および、塩基発生剤PBGとしての1質量部のジシクロヘキシルアンモニウム 2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナートを添加して、レジスト材料として調製した。なお、ここでは、増感体前駆体Ppおよび塩基発生剤PBGが比較的近い吸収波長スペクトルを有するように、増感体前駆体PpとしてDOBzMMを選択し、塩基発生剤PBGとしてジシクロヘキシルアンモニウム 2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナートを選択した。
【0241】
予めヘキサメチルジシラサン(HMDS)処理を行ったシリコン基板上に、調製したレジスト材料を、スピンコーター(ミカサ株式会社製)を用いて1000rpm、120秒でスピンコートした。スピンコート後、100℃で1分間の熱処理を行い、レジスト層を形成した。スピンコート後、AFM(株式会社日立ハイテクサイエンス製NanoNavi II/SPA−300HV)を用いて計測したレジスト層の厚さは約50nmであった。
【0242】
パターン露光機として日本電子株式会社のパターニング装置JSM−6500F(ビームブランカ―装着:ラスタースキャン方式)を用い、照射電流12.5pA、加速電圧30keVの電子線でレジスト層を照射した。パターン露光後、レジスト層をインターバルとして大気中で1分間保持した後、フラッド露光を行った。フラッド露光機としてLED光源(365nm、浜松ホトニクス株式会社製LED、LC−L5)を用いた。大気中で1.3W/時の光源を用いて紫外線でレジスト層を照射した。
【0243】
フラッド露光の後、100℃で60秒間熱処理を行い、その後、濃度2.38%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)現像液によってレジスト層を24℃で1分間現像した。
【0244】
フラッド露光を1分間行った場合、レジスト層の感度E
0は17μC/cm
2であり、フラッド露光を2分間行った場合、レジスト層の感度E
0は8μC/cm
2であった。レジスト層の感度E
0は、紫外線の露光量の増加と共に減少した。
【0245】
図19(a)および
図19(b)は、パターン露光後に1分間フラッド露光を行ったレジスト層のSEM像を示す。
図19(a)は、パターン露光として、60nmのドットパターンで露光量90μC/cm
2の電子ビームを露光し、1分間フラッド露光を行った後に現像したレジスト層を示す。
図19(b)は、パターン露光として、60nmのドットパターンで露光量138μC/cm
2の電子ビームを露光し、1分間フラッド露光を行った後に現像したレジスト層を示す。いずれのレジスト層にも、充分なドットパターンが形成された。
【0246】
なお、参考のために、上述のレジスト材料と同一のレジスト材料に対して、フラッド露光としての紫外線を照射しないことを除き、プリベーク、PEB、現像等のプロセス条件を同じにしてレジスト層を形成した。このレジスト層の感度E
0は36μC/cm
2であった。
【0247】
図20(a)および
図20(b)は、パターン露光を行った後にフラッド露光を行わなかったレジスト層のSEM像を示す。
図20(a)は、パターン露光として、93nmのドットパターンで露光量240μC/cm
2の電子ビームを露光した後に現像したレジスト層を示す。
図20(b)は、パターン露光として、100nmのドットパターンで露光量300μC/cm
2の電子ビームを露光した後に現像したレジスト層を示す。
【0248】
露光量が不充分であったため、
図20(a)に示したレジスト層には、ドットが適切に形成されていない箇所があった。また、露光量が若干不足したため、
図20(b)に示したレジスト層でも、ドットが適切に形成されていない箇所があった。なお、電子ビームによるパターン露光のみを行った場合、露光量300μC/cm
2でもドットパターンを充分に形成できず、また、露光量を240μC/cm
2から300μC/cm
2に増大させると、解像度は93nmから100nmに低下した。
【0249】
電子ビームによるパターン露光のみでは、露光量300μC/cm
2でも充分にドットパターンを形成できなかったのに対して、電子ビームによるパターン露光に加えてフラッド露光を行った場合、露光量90μC/cm
2でも充分なドットパターンを形成でき、3倍以上の高感度を実現できた。同様に、電子ビームによるパターン露光のみでは、解像度100nmでも充分なドットパターンを形成できなかったのに対して、電子ビームによるパターン露光に加えてフラッド露光を行った場合、解像度60nmの充分なドットパターンを形成できた。
【0250】
さらに、上述した電子線露光装置を用いたパターン露光のみを行った場合、ビームスポットの線量を増大させると、ビームの線量が変動してしまい、解像度が低下してしまうことがあった。これに対して、上述した電子線露光装置を用いたパターン露光とともにフラッド露光を行った場合、ビームの線量変動を吸収でき、解像度の低下を抑制することができた。
【0251】
なお、パターン露光のみによって生成された酸の濃度分布を直接測定することはできないが、現像後のレジスト層の形状から、酸の濃度分布を推定可能である。
図20(a)および
図20(b)に示した結果から、酸の濃度分布は、
図2(a)および
図4(a)に示した増感体Psの濃度分布と同様の形状を有していると考えられる。
【0252】
これに対して、パターン露光およびフラッド露光によって生成された酸の濃度分布は、
図19(a)および
図19(b)に示した結果から、
図2(b)および
図4(c)に示した酸Acの濃度分布と同様の形状を有していると考えられる。このように、パターン露光に加えてフラッド露光を行うことにより、酸の濃度分布は、
図2(a)および
図4(a)に示した増感体Psと同様の濃度分布から、
図2(b)および
図4(c)に示した酸Acと同様の濃度分布に変化したと考えられる。
【0253】
本実施例により、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)というレジストのトレードオフを解消して高解像度化および高感度化を同時に達成するとともに、フォトンショットノイズによるラフネスへの影響を抑制できた。
【0254】
なお、上述した説明では、パターン露光ステップにおいて、増感体前駆体Ppから増感体Psが直接的に生成する形態として、パターン露光L1によって増感体前駆体Ppを直接イオン化または励起して増感体前駆体Ppを分解または異性化させて増感体Psを生成する形態、および、パターン露光L1によってレジスト層10内で生成した電子が増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する形態を説明したが、本発明はこれらに限定されない。また、上述した説明では、パターン露光ステップで、増感体前駆体Ppから増感体Psを間接的に生成する形態として、パターン露光L1によって、酸発生剤PAGから酸Acおよび/またはラジカルを生成し、酸Acおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する形態を説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0255】
フラッド露光ステップにおいても、フラッド露光L2によって励起した増感体Psが酸発生剤PAGと反応して酸Acおよび/またはラジカルを生成し、酸Acおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成してもよい。例えば、フラッド露光L2として、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bを行う場合、第1フラッド露光L2aによって励起した増感体Psが酸発生剤PAGと反応して酸Acおよび/またはラジカルを生成し、酸Acおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成してもよい。
【0256】
本実施形態において、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消してレジスト層の感度を向上させるとともにフォトンショットノイズによるラフネスを抑制可能なレジストパターンを形成するためには、パターン露光L1によって、増感体Psを狭い空間に効率よく生成し、フラッド露光L2によって、増感体Psを用いて酸Acを狭い空間に効率よく分布のラフネスを低減させながら生成することが好ましい。そのためには、以下の(1)〜(5)のうちの少なくともいずれかに留意することが好ましい。
(1)パターン露光L1のビーム強度分布とほぼ同一の濃度分布を有する増感体Psを生成するためには、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppを直接イオン化するか、励起させて増感体前駆体Ppを分解および/または異性化させて増感体Psを生成することが好ましい。このように、増感体前駆体Ppの直接イオン化または励起によって増感体Psを生成することが好ましい。
(2)パターン露光L1によってレジスト層10内に生成した熱化電子が増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを直接的に生成する場合、パターン露光L1の照射によって生成されたイオン化生成物の濃度分布はパターン露光L1のビーム強度分布とほぼ同一である。しかしながら、イオン化生物から発生した電子の熱化距離は数nmであり、また、熱化電子と増感体前駆体Ppとの反応頻度は増感体前駆体Ppの濃度に依存するが、この反応距離は通常数nmである。したがって、イオン化生成物を介して生成された増感体Psの濃度分布はパターン露光L1のビームの強度分布よりも若干広がることになる。
(3)パターン露光L1によって、酸発生剤PAGから酸Acおよび/またはラジカルが生成し、酸Acおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。この場合、酸Acおよび/またはラジカルは、パターン露光L1の照射によって生成されたイオン生成物から数nm離れた地点で生成する。酸Acおよび/またはラジカルと増感体前駆体Ppとの反応は増感体前駆体Ppの濃度に依存するが、反応距離は数nmであるので、増感体Psの濃度分布はパターン露光L1のビーム強度の分布よりもやや広がることになる。
(4)フラッド露光ステップにおいて、フラッド露光L2によって励起された増感体Psが酸発生剤PAGと反応して酸Acおよび/またはラジカルを生成し、酸Acおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。励起した増感体Psと酸発生剤PAGが反応して酸Acおよび/またはラジカルを生成する反応は、励起した増感体Psから酸発生剤PAGへの電子移動またはエネルギー移動であり、3次元空間での距離依存性の強いほぼ等方的な反応で開始するため、酸Acおよび/またはラジカルは励起した増感体Psを中心に球状に生成する。一方、生成した酸Acおよび/またはラジカルと増感体前駆体Ppとの反応によって増感体Psを生成する反応は、酸Acおよび/またはラジカルの熱拡散・衝突によって起こるので、酸やラジカルのランダムな拡散軌道に沿って生成する。
(5)3次元等方性の高い励起した増感体Psから酸発生剤PAGへの電子移動またはエネルギー移動反応による酸生成反応が効率よく起こるように励起した増感体Psと酸発生剤PAGを選択し、酸発生剤PAGの濃度を高くすることが好ましい。また、酸Acおよび/またはラジカルのランダムな拡散軌道に沿った反応よりも、3次元等方性の高い電子移動、エネルギー移動反応による酸生成反応の比率を大きくすることがラフネスやフォトンショットノイズに起因するラフネスを低減する上で有効である。
【0257】
なお、上述した説明では、ポジ型の化学増幅型レジストを説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ネガ型の化学増幅レジストは、従来のポジ型化学増幅型レジストに対してネガティブトーン現像(NTD)を伴う変質プロセスを行うことによって形成してもよい。
【0258】
また、上述した説明では、化学増幅型レジストを説明したが、本発明はこれに限定されない。非化学増幅型レジストであってもよい。なお、ある実施形態において、レジスト層10は、非化学増幅型レジストであり、レジスト層10は、ベース樹脂Rが金属酸化物のナノ粒子レジストであってもよい。金属酸化物の金属は、例えば、HfまたはZrである。この場合でも、パターン露光L1において、増感体前駆体Ppから増感体Psが生成され、フラッド露光L2において励起した増感体Psから金属酸化物のナノ粒子の反応が開始し、レジストを感度化する。ただし、言うまでもないが、本発明はこの形態に何ら限定されるものではない。なお、酸発生剤PAGを含む金属酸化物のナノ粒子レジストでは、光反応阻害剤発生剤と共に、または、単独で塩基発生剤PBGが使用されるため好ましい。