特許第6386712号(P6386712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386712
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】パン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/02 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
   A21D8/02
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-207703(P2013-207703)
(22)【出願日】2013年10月2日
(65)【公開番号】特開2015-70807(P2015-70807A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097825
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 久紀
(74)【代理人】
【識別番号】100137925
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 紀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 元
(72)【発明者】
【氏名】石原 英輔
(72)【発明者】
【氏名】近藤 泰史
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−273421(JP,A)
【文献】 特開昭62−069945(JP,A)
【文献】 特開平10−084855(JP,A)
【文献】 特開2008−118872(JP,A)
【文献】 特開2008−000133(JP,A)
【文献】 特開2008−092941(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/142439(WO,A1)
【文献】 特開2005−052014(JP,A)
【文献】 特開2001−224300(JP,A)
【文献】 特開2010−057368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 − 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α化ワキシーコーンスターチ5〜50%(w/w)、部分α化小麦粉20〜48%(w/w)、並びに未糊化の澱粉及び/又は小麦粉2〜75%(w/w)を含有するパン類の品質改良用組成物を1〜2.5倍量の水に混合・分散して生地の状態の前処理種を作製し、これを製パン原料に配合し混捏する工程を含むことを特徴とする、パン類の製造方法。
【請求項2】
α化ワキシーコーンスターチ部分α化小麦粉、並びに未糊化の澱粉及び/又は小麦粉を含有するパン類の品質改良用組成物を粉体ベースで計対粉3〜30%(w/w)用いることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
α化ワキシーコーンスターチ5〜50%(w/w)、部分α化小麦粉20〜48%(w/w)、並びに未糊化の澱粉及び/又は小麦粉2〜75%(w/w)を含有し、1〜2.5倍量の水に混合・分散して生地の状態で用いられることを特徴とする、パン類の品質改良用組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の組成物を、これと1〜2.5倍量の水に混合・分散し生地の状態とすることを特徴とする、パン類の品質改良用前処理種の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類の製造方法、及び、当該方法に用いるパン類の品質改良用組成物、当該組成物を用いて調製する前処理種等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好が多様化しており、パン類においても差別化された製品の要望が高まっている。特に、個性のある食感のパン類の要望が高まっており、例えば、やわらかさ(ソフト感)、保湿性(しっとり感)、弾力(もっちり感)、口どけなどが向上したものが好まれている。
【0003】
このようなソフトでしっとりとしたパン類を得るためには、原料小麦粉に加える添加水の量を増やす方法が考えられる。しかし、パン製造時(捏工程)に単純に加水を増やしても、水が捏工程で小麦粉全体に入っていかず、べちゃべちゃな生地となってしまう場合もあり、うまくパン類製造ができない。
【0004】
他にもっちり、しっとりとしたパン類を得る方法としては、湯種生地を用いる湯種製法が提案されている(特許文献1、2)。また、湯種生地とリミックスストレート法を組み合わせたものも提案されている(特許文献3)。そして、湯種製法でパン類を製造すると、パン類の食感改善(もっちり感向上)だけでなく、風味改善や老化防止の効果も得られることが知られている。しかしながら、湯種製法は熱水を小麦粉に添加して混捏する必要があり、熱湯と小麦粉が直接触れる部分とそうでない部分が生じるため、温度ムラが出来てしまい、均一の品質(α化度)を持つ生地を製造するのは難しい。また、湯種は、一旦冷却してから残りの生地に混ぜるため、冷却時間等の時間ロスがあり作業性が悪い。このような作業性等の問題点を改善したものとしてレトルト湯種も提案されているが(特許文献4)、これは得られるパン類の品質が充分でない場合が多い。
【0005】
以上のような背景の中、パン類製造の作業性を落とすことなく、簡便且つ効率的にソフトでもっちり、しっとりとし、口どけも良く、且つ、老化の遅いパン類を製造できる技術の開発が当業界において引き続き求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−042809号公報
【特許文献2】特開2011−103854号公報
【特許文献3】特開2008−245548号公報
【特許文献4】特開2003−111555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、パン類製造の作業効率を低下させることなく簡便にその品質を改良することができるパン類の製造方法、及び、当該方法に用いる組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉、部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉、並びに未糊化の澱粉及び/又は小麦粉を1〜2.5倍量の水に混合・分散し、これを原料小麦粉の一部代替として製パン原料に配合し混捏する工程を含む製造方法によりパン類を製造することで、簡便且つ効率的に、パン類の風味改善、クラム及びクラストの食感改善、老化抑制、上面落ち・ケービング抑制、パンボリューム維持・増加などをすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉、部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉、並びに未糊化の澱粉及び/又は小麦粉を1〜2.5倍量の水に混合・分散し、これを製パン原料に配合し混捏する工程を含むことを特徴とする、パン類の製造方法。
(2)水への混合・分散時に、α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉5〜50%(w/w)、部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉20〜48%(w/w)、未糊化の澱粉及び/又は小麦粉2〜75%(w/w)の割合で使用されることを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)α化コーンスターチが、α化ワキシーコーンスターチである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉、部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉、並びに未糊化の澱粉及び/又は小麦粉を粉体ベースで計対粉3〜30%(w/w)用いることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉、部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉、並びに未糊化の澱粉及び/又は小麦粉を含有し、1〜2.5倍量の水に混合・分散して生地の状態で用いられることを特徴とする、パン類の品質改良用組成物(パン類用品質改良剤)。
(6)水への混合・分散時に、α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉5〜50%(w/w)、部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉20〜48%(w/w)、未糊化の澱粉及び/又は小麦粉2〜75%(w/w)の割合となるような組成比であることを特徴とする、(5)に記載の組成物。
(7)α化コーンスターチが、α化ワキシーコーンスターチである、(5)又は(6)に記載の組成物。
(8)(5)〜(7)のいずれか1つに記載の組成物を、これと1〜2.5倍量の水に混合・分散して得られる、パン類の品質改良用前処理種。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便且つ効率的に、パン類の風味改善、クラム及びクラストの食感改善(もっちり感向上、しっとり感向上、口溶け感向上、ソフト感向上から選ばれる少なくとも1以上)、老化抑制、上面落ち・ケービング抑制、パンボリューム維持・増加などの効果を得ることができる。特に、食パン等のクラムだけでなくクラストまでソフトになる点、上面落ち・ケービングが抑制される点、原料小麦粉と一部置き換えてもパンボリュームが維持されるか大きくなる点、クラム部分のソフト性が経時的に低下しにくい点は、湯種製法で得られない効果である。そして、本発明では、熱湯使用及び冷却工程が必要ないためパン類製造の作業性を落とさないこと、乳化剤、酵素(リパーゼ、アミラーゼ等)、加工澱粉などの食品添加物を全く使用しなくても品質改良をできることも大きな特徴である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明においては、α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉、部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉、並びに未糊化の澱粉及び/又は小麦粉の3成分を、パン類の品質改良用組成物として使用する。なお、本発明は、これらの3成分の組み合わせによってはじめて本発明の効果を奏するものである。
【0012】
そして、本発明では、これらの成分を熱水ではなく1〜2.5倍量の水(例えば4〜30℃程度)に混合分散して前処理種を作製し、これをそのまま(冷却や長時間の寝かせ等を要することなく)パン類製造に用い得ることが特徴である。これら成分を原料小麦粉に直接粉体混合する方法は、水が粉体原料全体に行き渡らず、得られる生地が不均一なものになりやすく、また、製パンの作業性が低下し、得られるパンの食感も十分に改善されないなど、本発明の効果が十分に奏されないため採用できない。また、混合分散する水の量は、通常上記粉体成分の1〜2.5倍量、好適には1.2〜2倍量、更に好適には1.5倍量前後である。この水の量が1倍量未満であると、前処理種と原料小麦粉や他の製パン原料とを均一に混合し難くなり、2.5倍を超える量ではパンの食感改善効果が満足なものとならないなど、本発明の効果が十分に奏されない恐れがあるため好ましくない。
【0013】
使用するα化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉としては、α化度が90%以上、好ましくは93%以上のコーンスターチ及び/又はタピオカ澱粉を用いる。つまり、本発明において「α化澱粉(スターチ)」とはα化度が90%以上の澱粉を意味する。本発明では、特に、α化ワキシーコーンスターチを用いるのが好適である。なお、本発明におけるα化度は、グルコアミラーゼ法で測定した値である。
【0014】
使用する部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉としては、α化度が30〜80%の小麦粉及び/又は澱粉を用いる。部分α化澱粉の種類としては、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、米澱粉などを用いることができるが、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチが好ましい。なお、本発明において「部分α化澱粉・小麦粉」とはα化度が30〜80%の澱粉・小麦粉を意味する。
【0015】
使用する未糊化の澱粉及び/又は小麦粉としては、未糊化、即ちα化していない澱粉や小麦粉を用いれば良く、そのうち澱粉としては例えば馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等が挙げられるが、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉が好ましい。また、澱粉及び/又は小麦粉の水分が14%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下に調整されたものを用いるのが好適である。なお、本発明においては、α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉と部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉だけでは水に混合分散した際に不均一になったり糊になりやすく、作業性が悪くなるだけでなく、パンの食感改善効果が十分に奏されなくなるため、未糊化の澱粉及び/又は小麦粉の併用が必須である。
【0016】
なお、本発明で使用する澱粉(即ち、α化コーンスターチ、α化タピオカ澱粉、部分α化澱粉、及び未糊化の澱粉)は、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、リン酸化澱粉等の加工澱粉でない(未加工の澱粉である)ことが特徴である。なお、これらの澱粉に加えて、本発明の効果を妨げない範囲で加工澱粉を併用してもよいが、その量は本発明の組成物の粉体ベースで10%(w/w)以下にするのが好ましい。
【0017】
さらに本発明では、上記成分を所要の範囲の配合比で併用することが好ましい。具体的には、水への混合・分散時に、α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉5〜50%(w/w)、部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉20〜48%(w/w)、未糊化の澱粉及び/又は小麦粉2〜75%(w/w)の割合で使用することが好適である。なお、これら成分を水への混合・分散前に上記割合で粉体混合しておいても良いし、各成分を上記比率となるようにそれぞれ水に混合・分散しても良いが、水への混合・分散前に粉体混合するのがより好適である。このように、本発明の組成物を水に混合・分散して、生地の状態のもの(以下、「パン類の品質改良用前処理種」又は単に「前処理種」という)を調製するが、当該前処理種は調製後すぐに使用してもよいが、数十分〜数時間(例えば、30分間〜4時間程度)静置してから使用してもよい。なお、本発明の組成物を粉体の状態で小麦粉及び他の製パン原料に添加した場合には、本発明の効果が十分に得られないため、好ましくない。
【0018】
本発明の組成物のパン製造時の添加量としては、α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉、部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉、並びに未糊化の澱粉及び/又は小麦粉を原料小麦粉の一部代替として粉体ベースで計対粉3〜30%(w/w)用いることが例示される。しかし、これらの使用範囲に限定されるものではなく、パン類の種類や製造条件等によって適宜設計変更できる。この際、加水を前処理種に含まれる水と等量置き換えする必要はなく、例えば、原料小麦粉と一部代替する前の配合で製造する際より対粉2〜15%程度増えるような加水量(パン類の種類により異なるが、例えば総量として対粉50〜80%程度)として製造してもよい。
【0019】
本発明に係る、α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉、部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉、並びに未糊化の澱粉及び/又は小麦粉を水に混合分散して調製した前処理種は、中種製法、ストレート製法、冷凍生地製法のいずれにおいても用いることができ、捏工程時にこれを添加すれば良いが、中種製法の場合には本捏工程時に上記前処理種を用いるのが効果的である。
【0020】
本発明の品質改良対象となるパン類は、食パン、フランスパン、ロールパン、菓子パン、イーストドーナツ等のドーナツ類、中華まん、スコーンなどが例示される。なお、本発明においては、いわゆるスクラッチ製パン法だけでなく、パーベイク(半焼成)製品や冷蔵・冷凍生地製パン法などにも適用することができる。さらには、パン類以外、例えば菓子類(スポンジケーキ、ロールケーキ、ワッフル、クレープ、クッキー、タルト、パイなど)、等の小麦粉を原料とした食品に幅広く使用することも可能である。
【0021】
なお、本発明での「品質改良」とは、パン類の風味改善、クラム及びクラストの食感改善(もっちり感向上、しっとり感向上、口溶け感向上、ソフト感向上から選ばれる少なくとも1以上)、老化抑制、上面落ち・ケービング抑制、パンボリューム維持・増大から選ばれる少なくとも1以上、あるいは2以上を意味し、さらには全てを意味する場合もある。
【0022】
このようにして、本発明によれば、湯捏製パン製法のようにパン類製造の作業性を低下させることなく、また乳化剤や酵素、加工澱粉などの食品添加物を用いなくても、簡便且つ効率的にパン類の風味改善、クラム及びクラストの食感改善(もっちり感向上、しっとり感向上、口溶け感向上、ソフト感向上から選ばれる少なくとも1以上)、老化抑制、上面落ち・ケービング抑制、パンボリューム維持をすることができる。
【0023】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0024】
(前処理種作製)
以下の配合、方法により、本発明に係るパン類品質改良用前処理種を作製した。
【0025】
粉体での割合として、α化ワキシーコーンスターチ25.0%、部分α化小麦粉45.0%、コーンスターチ30.0%を混合し、ここに混合粉体の1.5倍量の水(15℃)を添加してミキサーでミキシング(L2M2)して、パン類品質改良用前処理種を得た。
【0026】
<参考例;自家製湯種の作製>
以下の配合、方法により、本発明の比較対照品としての自家製湯種を作製した。
【0027】
強力粉に等量の熱湯(95℃)を添加して縦型ミキサーでミキシング(L2M2)し、これを常温(20℃)で冷却して粗熱が取れたら冷蔵庫(4℃)で一晩保管して自家製湯種を得た。
【実施例2】
【0028】
(食パン品質試験)
本発明の組成物を添加して製造した食パンの品質を確認するため、以下の試験を実施した。
【0029】
下記表1〜4に示す配合・条件で中種製法により食パンを作製した。なお、試験区1はコントロール(無添加品)、試験区2は実施例1で作製した本発明に係るパン類品質改良用前処理種を対粉ベースで本捏工程の原料小麦粉と20%置き換えたもの(本発明品配合)、試験区3は参考例で作製した自家製湯種を対粉ベースで本捏工程の原料小麦粉と20%置き換えたもの(比較品A)、試験区4は市販レトルト湯種(商品名『い〜湯だね!R』、奥本製粉株式会社製品)を本捏で添加したもの(比較品B)である。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
このようにして得られた各試験区の食パンは、それぞれローフ体積、ローフ比容積、ローフ高さを測定するとともに、官能評価試験を実施した。なお、官能評価は、訓練された20名のパネラーにより、製造後1日目(D+1)〜4日目(D+4)まで硬さを5段階で評価した。
【0035】
結果を下記表5に示した。この結果から、本発明に係る前処理種を本捏工程で用いて中種製法で食パンを製造することで、原料小麦粉が水和性を得ることが可能となり、無添加品よりボリューム(体積)が増した、湯種を用いた製法で得た食パン(比較品A)と同等の体積、比容積及び高さで且つこれよりも老化が遅い(老化が抑制された)、非常にもっちりでしっとりとした食感の食パンが得られることが明らかとなった。
【0036】
【表5】
【0037】
また、本発明品配合食パンと比較品Aの外観を比較すると、比較品Aは上面落ちが1.0cm、側面のケービング(曲がり・折れ)が0.6cmあったが、本発明品配合食パンではそれぞれ0.3cmと0.2cmであり、上面落ち・ケービングが抑制されていることも明らかとなった。さらには、クラスト部分の水分についても、無添加品や比較品A、Bでは27〜28%程度であったのに対し、本発明品配合食パンは35%程度もあり、本発明品配合食パンはクラスト部分ももっちりとした口どけのある食感の食パンであることも明らかとなった。なお、試験区1の条件において本発明(試験区2)と同等量の加水(トータル79%)でも試験を行ったが、生地にならず食パンが製造できなかった。
【0038】
以上より、本発明に係る前処理種を本捏工程で用いて中種製法で食パンを製造することで、小麦粉の内割で本発明品を使用(強力粉の使用量が減少)しても無添加よりボリューム(体積)が増し、湯種を用いた製法で得た食パンと同等の体積、比容積及び高さであり、上面落ちやケービングも抑制され、クラスト部分もソフトであり、且つ、経時的変化においても、湯種製法で得た食パンより優れているだけでなく、D+4でのパン食感が無添加のD+1よりもソフト性、保湿性が優れている食パンが得られることが示された。
【0039】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0040】
本発明は、パン類製造の作業効率を低下させることなく簡便にその品質を改良することができるパン類の製造方法、及び、当該方法に用いる組成物等を提供することを目的とする。
【0041】
そして、α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉、部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉、並びに未糊化の澱粉及び/又は小麦粉を1〜2.5倍量の水に混合・分散し、これを小麦粉やその他の製パン原料に配合し混捏する工程を含む製造方法によりパン類を製造することで、簡便且つ効率的に風味改善、クラム及びクラストの食感改善、老化抑制、上面落ち・ケービング抑制、パンボリューム維持・増大などをすることができる。