(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
銅、鉄、アルミニウムおよび珪酸カルシウムを含有する混合物であって、鉄およびアルミニウムの銅に対する原子比[(Fe+Al)/Cu]が1.71〜2.5であり、アルミニウムの鉄に対する原子比[Al/Fe]が0.001〜3.3であり、かつ珪酸カルシウムを15〜65質量%含有する前記混合物を、500〜1,000℃で焼成する異性化用銅系触媒前駆体の製造方法。
前記混合物が、水溶性銅塩、水溶性鉄塩および水溶性アルミニウム塩を含有する混合水溶液と塩基性水溶液との共沈物を、珪酸カルシウムと混合した共沈混合物の乾燥品である、請求項1に記載の異性化用銅系触媒前駆体の製造方法。
第一工程:水溶性銅塩、水溶性鉄塩および水溶性アルミニウム塩を含有する混合水溶液と塩基性水溶液とを反応させることにより、銅、鉄およびアルミニウムを含有する共沈物を生成させる工程、
第二工程:第一工程で得られた共沈物が水に懸濁した懸濁液へ珪酸カルシウムを添加して混合し、共沈混合物を得る工程、
第三工程:第二工程で得られた共沈混合物を分離し、水洗した後、乾燥させて共沈混合物の乾燥品を得る工程、
第四工程:第三工程で得られた共沈混合物の乾燥品を500〜1,000℃で焼成する工程、
を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の異性化用銅系触媒前駆体の製造方法。
第一工程において、反応温度が5〜150℃であり、水溶液のpHが6.0〜13.5であり、第二工程において、珪酸カルシウムを添加する懸濁液の温度が5〜100℃であり、懸濁液のpHが7〜9である、請求項8に記載の異性化用銅系触媒前駆体の製造方法。
第一工程において、水溶性銅塩が硫酸第二銅であり、水溶性鉄塩が硫酸第一鉄であり、および水溶性アルミニウム塩が硫酸アルミニウムである、請求項8または9に記載の異性化用銅系触媒前駆体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[銅系触媒前駆体]
本発明は、銅、鉄、アルミニウムおよび珪酸カルシウムを含有する混合物であって、鉄およびアルミニウムの銅に対する原子比[(Fe+Al)/Cu]が1.71〜2.5であり、アルミニウムの鉄に対する原子比[Al/Fe]が0.001〜3.3であり、かつ珪酸カルシウムを15〜65質量%含有する前記混合物を、500〜1,000℃で焼成して得られる銅系触媒前駆体である。
鉄およびアルミニウムの銅に対する原子比が1.71未満の場合、銅系触媒の銅結晶径を大きくすることにつながり、単位銅質量あたりの触媒活性の低下、大きな金属結晶径に由来する目的物への選択性低下、金属銅結晶成長による触媒活性の経時的低下をもたらす。一方、鉄およびアルミニウムの銅に対する原子比が2.5を超える場合、銅系触媒の単位質量当たりに含まれる銅そのものの含有量が低下するため、所望の触媒活性を達成できない。一方、アルミニウムの鉄に対する原子比が3.3を超える場合、β,γ−不飽和アルコール部位を有する化合物のアルデヒド化合物への異性化反応等において転化率および選択率が低下する。
上記観点から、[(Fe+Al)/Cu]は、好ましくは1.80〜2.50、より好ましくは1.90〜2.5、さらに好ましくは1.90〜2.4、特に好ましくは2.1〜2.21である。また、上記観点から、[Al/Fe]は、好ましくは0.001〜3.2、より好ましくは0.001〜3.0、さらに好ましくは0.005〜2.9、特に好ましくは0.20〜0.45である。
【0010】
本発明の銅系触媒前駆体の製造方法を以下に説明する。
前記混合物の製造方法としては、以下の方法が挙げられる。
(a)水溶性銅塩、水溶性鉄塩および水溶性アルミニウム塩を含有する混合水溶液と塩基性水溶液とを反応させることにより得られた共沈物を珪酸カルシウムと混合する方法。なお、前記共沈物を水中に懸濁した懸濁液と珪酸カルシウムとを混合する方法が好ましい。
(b)水溶性銅塩、水溶性鉄塩および水溶性アルミニウム塩を含有する混合水溶液と塩基性水溶液とを反応させることにより共沈物を生成させ、分離したものを乾燥し、これに珪酸カルシウムを添加し、固相混合する方法。
(c)水溶性銅塩、水溶性鉄塩および水溶性アルミニウム塩から選択される1つまたは2つを含有する混合水溶液と塩基性水溶液とを反応させることにより共沈物を生成させ、これと銅、鉄およびアルミニウムから選択される金属の酸化物もしくは水酸化物(但し、銅、鉄およびアルミニウムの3つの金属が全て混合物中に存在するように選択する。)および珪酸カルシウムとを混合し、この混合物を単離して乾燥する方法。
(d)銅、鉄およびアルミニウムの金属の酸化物もしくは水酸化物と珪酸カルシウムとを固相もしくは液相で混合する方法。
いずれの方法においても、その他の成分をさらに混合し、混合物中に銅、鉄およびアルミニウム以外の金属が含まれてもよい。
こうして得られた混合物または共沈混合物を分離した後、乾燥することにより、共沈混合物の乾燥品が得られる。
銅、鉄およびアルミニウムの均一混合および生産性という観点から、上記方法(a)を採用することが好ましい。銅、鉄、およびアルミニウムの混合が均一であるほど、銅系触媒が所望の選択性および活性を再現性良く達成する。
【0011】
本発明の銅系触媒前駆体は、以下の第一工程〜第四工程を有する製造方法により製造することがより好ましい。
第一工程:水溶性銅塩、水溶性鉄塩および水溶性アルミニウム塩を含有する混合水溶液と塩基性水溶液とを反応させることにより、銅、鉄およびアルミニウムを含有する共沈物を生成させる工程。
第二工程:第一工程で得られた共沈物が水に懸濁した懸濁液へ珪酸カルシウムを添加して混合し、共沈混合物を得る工程。
第三工程:第二工程で得られた共沈混合物を分離し、水洗した後、乾燥させて共沈混合物の乾燥品を得る工程。
第四工程:第三工程で得られた共沈混合物の乾燥品を500〜1,000℃で焼成する工程。
以下、各工程について順に詳細に説明する。
【0012】
(第一工程)
第一工程は、水溶性銅塩、水溶性鉄塩および水溶性アルミニウム塩を含有する混合水溶液と塩基性水溶液とを反応させることにより、銅、鉄およびアルミニウムを含有する共沈物を生成させる工程である。
第一工程で得られる共沈物中の鉄およびアルミニウムの銅に対する原子比[(Fe+Al)/Cu]は1.71〜2.5であることが好ましく、かつ、アルミニウムの鉄に対する原子比[Al/Fe]は0.001〜3.3であることが好ましい。この原子比であれば、目的とする前記銅系触媒前駆体を得ることができる。
上記共沈物において、[(Fe+Al)/Cu]は、好ましくは1.80〜2.50、より好ましくは1.90〜2.5、さらに好ましくは1.90〜2.4、特に好ましくは2.1〜2.21である。また、[Al/Fe]は、好ましくは0.001〜3.2、より好ましくは0.001〜3.0、さらに好ましくは0.005〜2.9、特に好ましくは0.20〜0.45である。
なお、[(Fe+Al)/Cu]と[Al/Fe]については、上記範囲を任意に組み合わせることができる。
【0013】
水溶性銅塩としては、銅の硫酸塩、硫酸水素塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩、塩化物などが挙げられる。より具体的には、例えば、硫酸第二銅、硝酸第二銅、塩化第二銅などが挙げられる。水溶性銅塩は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。入手容易性および価格の観点からは、硫酸第二銅が好ましい。
水溶性鉄塩としては、鉄の硫酸塩、硫酸水素塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩、塩化物などが挙げられる。より具体的には、例えば、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、塩化第一鉄などが挙げられる。水溶性鉄塩は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。入手容易性および価格の観点からは、硫酸第一鉄が好ましい。
水溶性アルミニウム塩としては、アルミニウムの酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩などが挙げられる。より具体的には、例えば、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどが挙げられる。水溶性アルミニウム塩は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。入手容易性および価格の観点からは、硫酸アルミニウムが好ましい。
なお、水溶性銅塩、水溶性鉄塩および水溶性アルミニウム塩は、金属と錯形成していない遊離酸を含有していてもよいし、水和物であってもよい。
【0014】
均質な共沈物を製造するという観点から、水溶性銅塩、水溶性鉄塩および水溶性アルミニウム塩(以下、金属塩と総称することがある。)の水溶液に不溶物がないことが好ましく、必要に応じ、濾過などによって均一な溶液を調製することが好ましい。
金属塩水溶液の濃度にとりわけ制限はないが、金属塩濃度は5〜35質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。35質量%以下であれば、塩基性水溶液との反応の際に不均質な共沈物を生じ難い。一方、5質量%以上であれば、容積効率が十分であり、銅系触媒前駆体の製造費用を低減できる。
また、金属塩が遊離酸を含有する場合、各金属塩に含まれる遊離酸は、いずれも0.05〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。遊離酸が0.05質量%以上の金属塩の場合、遊離酸除去のために結晶化による精製をする必要がなく、金属塩の製造費用を低減できる。また、遊離酸が20質量%以下の場合には、遊離酸を中和するための塩基性物質が不要であり、遊離酸と塩基性物質から生じる中和塩が共沈物に混入することによる触媒性能の低下の心配がない。
【0015】
塩基性水溶液を調製するための塩基性物質としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ土類金属の炭酸水素塩などが挙げられる。より具体的には、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。塩基性物質としては、他にも、アンモニアなどの無機塩基や、尿素、炭酸アンモニウムなどの有機塩基を用いることもできる。
塩基性物質は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。入手容易性および価格の観点からは、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0016】
反応温度としては5〜150℃が好ましく、60〜100℃がより好ましい。5℃以上であれば、中和までの所要時間が短くなり、酸のアルカリ金属塩などが共沈物に混入することによる触媒性能低下のおそれがない。また、150℃以下であれば、耐圧容器などが不要であり、経済的に好ましい。
【0017】
水溶性銅塩、水溶性鉄塩および水溶性アルミニウム塩を含む水性溶液と塩基性水溶液とを反応させるための薬液混合手順としては、(1)塩基性水溶液に対して各種金属塩水溶液を加える方法、(2)各種金属塩水溶液に対して塩基性水溶液を加える方法などが挙げられる。反応系内を塩基性に制御する観点からは、方法(1)が好ましい。
なお、反応系内のpHは6.0〜13.5が好ましく、7.0〜9.0がより好ましい。反応系内のpHが6.0以上であれば、銅成分の再溶解によって共沈物の均質性が損なわれることがなく、触媒性能の低下が起こらない。また、13.5以下であれば、塩基性物質から生じる中和塩が共沈物に混入することがなく、触媒性能が低下するおそれがない。
【0018】
また、所望のCu/Fe/Al原子比、つまり所望の[(Fe+Al)/Cu]および[Al/Fe]を有する共沈物を製造するに際しては、予め、所望の金属原子比となるように水溶性銅塩、水溶性鉄塩および水溶性アルミニウム塩を混合(好ましくは均一混合)してなる混合水溶液を調製し、該混合水溶液を塩基性水溶液に加えることが、均質な共沈物を製造する観点から好ましい。例えば、アルミニウム塩と塩基性水溶液とを反応させた後、銅塩および鉄塩と塩基性水溶液とを反応させる場合、水酸化アルミニウムを核として水酸化銅および水酸化鉄が堆積することがあり、不均質な共沈物となり得る。このような不均質な共沈物を焼成する場合、銅と鉄からなるスピネル構造を形成するため、所望の触媒性能を達成できない。
【0019】
こうして調製された混合水溶液を、塩基性水溶液に対して穏やかに加える、つまり滴下することが好ましい。滴下時間は30〜360分が好ましく、60〜240分がより好ましい。30分以上であれば、塩基性水溶液との攪拌混合が十分になるうえ、反応熱によって温度制御が困難となることがなく、不均質な共沈物を生じ難い。また、360分以下であれば、容積効率が十分であり、銅系触媒前駆体の製造費用を低減できる。
反応系内の状態に特に制限はないが、通常、生成する共沈物が沈降することなく、系内に分散する状態であることが好ましい。共沈物が沈降しない状態であれば不均質な共沈物が生成しないため、銅系触媒の性能が高くなる。
また、前記混合水溶液を塩基性水溶液へ滴下した後、反応完了まで熟成時間をとることが一般的であり好ましい。熟成時間は、通常、1〜10時間が好ましい。なお、熟成中、共沈物の懸濁液のpHの変化は、1時間あたり0.3未満であることが好ましい。
【0020】
以上のようにして得られた共沈物を含む懸濁液へ直接、珪酸カルシウムを添加し、次いで濾過することにより共沈混合物を取得することも可能であるが、中和塩の共沈物への混入などを回避する観点から、共沈物を洗浄し、それから後述する第二工程へ移行することが好ましい。より具体的には、好ましくは5〜100℃、より好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは30〜70℃において、共沈物を含む懸濁液を静置してデカンテーション法によって上澄み液を除去し、イオン交換水などを加える、という操作を上澄み液のpHが7〜9になるまで繰り返してから共沈物を得ることか好ましい。
【0021】
(第二工程)
第二工程は、第一工程で得られた共沈物が水に懸濁した懸濁液へ珪酸カルシウムを添加して混合し、共沈混合物を得る工程である。
共沈物が水に懸濁した懸濁液としては、前述の通り、第一工程で反応直後に得られた共沈物の懸濁液をそのまま用いてもよいし、第一工程で反応直後に得られた共沈物を洗浄したのち、水を添加して懸濁液としたものを用いてもよい。該懸濁液のpHは、好ましくは7.0〜9.0であり、より好ましくは7.0〜8.0である。
懸濁液と珪酸カルシウムの混合温度は、好ましくは5〜100℃、より好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは30〜70℃である。また、共沈物が沈降堆積しないような撹拌状態にて懸濁液と珪酸カルシウムとを混合することが好ましい。
【0022】
添加する珪酸カルシウムは、ケイ素のカルシウムに対する原子比[Si/Ca]が0.5〜6.5であることが好ましく、1.6〜4.0であることがより好ましく、2.3〜3.7であることがさらに好ましい。一方、後述する第三工程にて得られる混合物の乾燥品に含まれる珪酸カルシウムが15〜65質量%(より好ましくは20〜55質量%)となる量であることが好ましい。15質量%以上であれば、共沈物と珪酸カルシウムからなる共沈混合物の濾過速度が十分に大きい。また、65質量%以下であれば、銅系触媒中の銅の含有量を高く維持することができ、触媒活性の低下のおそれがない。
【0023】
本発明に用いる珪酸カルシウムとしては、ゾノライト、トバモライト、ジャイロライト、フォシャジャイト、ヒレブランダイトなどが挙げられ、これら1種以上からなる形態で用いることができる。また、本発明の銅系触媒前駆体の品質安定化を容易にする観点から、化学合成品が好ましい。
濾過速度向上および触媒成型性向上と成型触媒の力学強度を高めるという観点からは、とりわけ、ジャイロライト型に属する合成ケイ酸カルシウムを用いることが好ましく、ジャイロライト型に属する花弁状の合成ケイ酸カルシウムを用いることがより好ましい。
【0024】
花弁状の珪酸カルシウムの製造方法については、特公昭60−29643号公報に記載されている。すなわち、花弁状の珪酸カルシウムは、水性珪酸塩(例えば、珪酸ナトリウム)と水溶性カルシウム塩(例えば、塩化カルシウム)を150〜250℃で、得られる珪酸カルシウムに対して溶媒比5〜100質量倍の条件下で反応させることによって取得できる。このようにして取得できる花弁状の珪酸カルシウムの原子比[Si/Ca]は通常1.6〜6.5であり、嵩比容積は4mL/g以上であり、吸油量は2.0mL/g以上であり、屈折率は1.46〜1.54である。
より詳細には、例えば、珪酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液を原子比[Si/Ca]がおよそ2.6となるように大気圧下および常温にて混合し、水比30にてオートクレーブに導入し、200℃において5時間反応させた後、反応物を濾取、水洗、乾燥することにより、2CaO・3SiO
2・2.20SiO
2・2.30〜2.60H
2Oで表される花弁状の珪酸カルシウムを取得できる。
このような花弁状の珪酸カルシウムは、例えば、富田製薬(株)製「フローライト」として市販されている。この花弁状の珪酸カルシウムは、通常、2CaO・3SiO
2・mSiO
2・nH
2O(mおよびnは、各々、1<m<2および2<n<3を満たす数である。)で表される。この花弁状の珪酸カルシウムの形状は電子顕微鏡観察によって確認でき、通常、3,000〜10,000倍の電子顕微鏡観察によって花弁状の形状および厚みを確認できる。とりわけ、本発明の銅系触媒前駆体の製造速度向上、成型性向上および成型触媒前駆体の力学強度を高める観点から、用いる珪酸カルシウムのうち、5質量%以上は花弁状の珪酸カルシウムであることが好ましい。
【0025】
花弁状珪酸カルシウムに含まれる花弁の大きさおよび形状などは、珪酸カルシウム製造に用いる原料の種類、原料混合比および製造条件によって幾分異なるため、一概に限定できないが、通常、花弁は長手方向の平均直径が0.1〜30μm、厚みが0.005〜0.1μmである円状または楕円状などをなしたものが多く、薔薇の花弁に類似した形状のものが多い。また、原子比[Si/Ca]が1.6未満のものでは、珪酸カルシウムは花弁状の形態を有さず、結晶形態もトバモライト型またはゾノライト型となる。一方、原子比[Si/Ca]が6.5を超えるものでは、嵩比容積と吸油量が共に小さくなり、花弁状珪酸カルシウムの成長が見られなくなる。一般的には原子比[Si/Ca]が4.0以下のものが最も広く採用され、本発明においても同様である。
【0026】
(第三工程)
第三工程は、第二工程で得られた共沈混合物を分離し、水洗した後、乾燥させて共沈混合物の乾燥品を得る工程である。
第二工程で得られた共沈混合物の分離には、公知、任意の方法が適用できるが、操作の容易性の観点から、濾過法を適用することが好ましい。
濾取物を蒸留水もしくはイオン交換水などで洗浄することにより、硫酸ナトリウムなどの不純物を除去できる。
乾燥は水を除去できればよく、通常、大気圧下、100℃以上で行うことが好ましい。
【0027】
銅系触媒の寿命延長などを所望する場合、銅系触媒前駆体に、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ナトリウム、カリウムなどの金属の無機塩を含有させるような手段を講じることができる。これらの金属の銅に対する原子比[金属/Cu]は、0.1〜3.0であることが一般的にも好ましい。0.1以上であれば、銅系触媒の寿命延長などの所望の効果が発現し得る。また、3.0以下であれば、銅系触媒の耐久性を低下させることがない。
例えば、マグネシウムおよび亜鉛から選択される少なくとも1種を含有させる場合には、これらの硫酸塩水溶液を第一工程の金属酸塩水溶液に添加し、共沈物を取得する方法がある。また、バリウム、ナトリウムおよびカリウムから選択される少なくとも1種を含有させる場合には、第二工程の分離した共沈混合物に対して、これらの水酸化物水溶液を塗布し、乾燥させる方法がある。
【0028】
こうして得られる共沈混合物の乾燥品は、JIS Z8830:2001に記載の「気体吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に従って測定した窒素吸着比表面積としてのBET比表面積が、50〜250m
2/gであることが好ましく、100〜200m
2/gであることがより好ましく、125〜175m
2/gであることがさらに好ましい。BET比表面積が50m
2/g以上であれば、銅系触媒の細孔容積の増加に伴い触媒活性が向上する。また、250m
2/g以下であれば、共沈物と珪酸カルシウムの混合が均一となり、水素化反応や異性化反応における選択性が向上する。
【0029】
なお、本発明の銅系触媒前駆体の製造に用いる、銅、鉄、アルミニウムおよび珪酸カルシウムを含有する混合物における、銅、鉄、アルミニウムの原子比の規定および珪酸カルシウムの含有量の規定は、本第三工程で得られた共沈混合物の乾燥品についての規定であり、JIS K 0119:2008に記載の「蛍光X線分析方法通則」に従って測定した元素の定性・定量分析結果に基づく値である。
本方法に従って判明する酸化第二銅(CuO)、酸化第二鉄(Fe
2O
3)および酸化アルミニウム(Al
2O
3)の各含有率から、銅、鉄、アルミニウムの原子比を算出した。一方、本方法に従って判明する酸化カルシウム(CaO)と酸化珪素(SiO
2)の含有率の和を珪酸カルシウムの含有率とした。
【0030】
(第四工程)
第四工程は、第三工程で得られた共沈混合物の乾燥品を500〜1,000℃で焼成する工程である。
上記焼成により、または必要に応じて粉砕することにより、銅系触媒前駆体が得られる。この段階では銅系触媒前駆体は粉末状であり、以下、そのような銅系触媒前駆体を、粉末銅系触媒前駆体と称することがある。
また、共沈混合物の乾燥品を成型したのち焼成するか、または、前記粉末銅系触媒前駆体を成型することなどによって、固定床反応に使用し易い、成型された銅系触媒前駆体(以下、成型銅系触媒前駆体と称する)を得ることができる。
【0031】
焼成温度は500〜1,000℃である。500℃未満の場合、スピネル構造の形成が不十分であるために単位銅重量当たりの触媒活性が低いうえ、経時的な触媒活性の低下が顕著となる。一方、1,000℃を超える場合、溶融固着などにより細孔容積が低下し、触媒活性が低下するうえ、焼成釜に銅系触媒前駆体が固着してしまい、銅系触媒前駆体の収率が低下する。同様の観点から、焼成温度は600〜900℃がより好ましく、700〜900℃がさらに好ましい。
焼成は、空気雰囲気下、酸素雰囲気下もしくは水素雰囲気下、または窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、簡便性の観点から、空気雰囲気下で行うことがより好ましい。水素雰囲気下で焼成する場合には、銅金属の結晶成長(いわゆるシンタリング)によって触媒性能が低下することがあるため、注意が必要である。
また、焼成時のガス圧力は、大気圧以上から選択できる。銅系触媒の製造装置の簡便性、および、スピネル構造の形成速度向上の観点から、大気圧で焼成することが好ましい。焼成時間に特に制限はないが、通常、1〜12時間が好ましく、2〜10時間がより好ましく、4〜8時間がさらに好ましい。
【0032】
成型銅系触媒前駆体の製造方法としては、共沈混合物の乾燥品もしくは粉末銅系触媒前駆体に、成型助剤、細孔付与剤、補強剤、および粘土などのバインダーなどの添加物を加え、押出成型または圧縮成型する方法が好ましく適用できる。これらの添加物の使用は、ペーストの所望粘度または成型銅系触媒前駆体の間隙率を得る必要に応じて使用されるものであり、使用量としては、全混合物に対して0.5〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
成型助剤としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、タルク、スターチ、ポリアクリル酸、メチルセルロース、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、流動パラフィン、鉱油、植物油、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム塩、ステアリン酸カリウム塩、パルミチン酸、パルミチン酸マグネシウム塩、パルミチン酸カリウム塩等が挙げられる。細孔付与剤としては、例えば、グラファイト、ポリプロピレンなどの有機ポリマー粉末、糖類、スターチ、セルロースなどが挙げられる。また、無機ファイバー等の補強材料としては、例えば、ガラスファイバー等が挙げられる。
【0033】
成型銅系触媒前駆体の形状としては、タブレット、2スポークリング、押出し形状、ペレット、リブ押出し形状、トリローブ、リングと称されるいずれの形状であってもよいが、反応管へ充填する時の触媒微粉化の抑制という観点からは、圧壊強度の高い圧縮形成品であるタブレットまたは2スポークリングが好ましい。反応管への銅系触媒前駆体充填量を多くでき、かつ、反応管出口における圧力損失を小さくする点において、タブレットがより好ましい。タブレットとしての大きさに制限はないが、円柱状であれば直径0.5〜10mmかつ厚み0.5〜10mmのものが好ましく、直径1〜4mmかつ厚み1〜4mmのものがより好ましい。銅系触媒前駆体が大き過ぎなければ、基質の接触効率が低下せず、また、反応器への銅系触媒前駆体充填量が低下しないため、容積効率が高まる傾向がある。一方、銅系触媒前駆体が小さ過ぎなければ、圧力損失が高まることによる基質の偏流がなく、過度の温度上昇および副反応が抑制される傾向がある。
【0034】
[銅系触媒前駆体の使用方法]
以下、銅系触媒前駆体(粉末銅系触媒前駆体および成型銅系触媒前駆体)の使用方法に関して説明する。
本発明の銅系触媒前駆体は、β,γ−不飽和アルコール部位を有する化合物の異性化反応や、炭素−炭素二重結合および炭素−酸素二重結合のうちの少なくとも一方を有する化合物の水素化反応などに有用に利用できる。
ただし、銅系触媒前駆体に含まれる銅はI価またはII価の酸化状態にあるため、銅系触媒前駆体を上記反応などに使用する場合、そのままでは触媒としての機能を十分に発現しない。そのため、銅系触媒前駆体中の銅が0価となるように、予め還元しておくか、または上記反応を行なう際に、反応系内において銅が還元されるような条件にしておく必要がある。
【0035】
無溶媒で銅系触媒前駆体を還元する方法を説明する。この方法は、例えば、粉末銅系触媒を懸濁床反応方式、流動床反応方式または固定床反応方式で使用する場合、および成型銅系触媒を固定床反応方式で使用する場合などに適用できる。
無溶媒で粉末および成型銅系触媒前駆体を還元性ガスによって還元する場合、銅系触媒前駆体が発熱することがある。この場合、発熱によるシンタリングが加速されるため、単位体積当たりの銅系触媒濃度の低減および徐熱効率を高める目的で、銅系触媒前駆体をガラスビーズ、シリカ、アルミナ、シリコンカーバイドなどによって希釈して使用してもよい。
【0036】
還元には、水素、一酸化炭素などの還元性ガスを用いることが好ましい。該還元性ガスは、適宜、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスで希釈されていてもよい。還元性ガスとして水素を用い、希釈用不活性ガスとして窒素を用いることが常套であり、好ましい。
還元する際の温度は100〜800℃であることが好ましく、150℃〜250℃であることがより好ましい。100℃以上であれば、銅系触媒前駆体の還元により生じる水分子の除去が十分となり、還元に要する時間が短くなり、還元が十分となる。一方、800℃以下であれば、銅のシンタリングによって触媒性能が低下するおそれがない。
還元性ガス圧力は0.01〜1.9MPa(G)が好ましい。還元性ガスが高圧であるほどシンタリングが進行しやすいため、可能な限り大気圧に近い圧力下で還元することがより好ましい。
【0037】
還元性ガスの流量に特に制限はないが、供給ガス体積速度(m
3/hr)を、希釈物を含有してもよい銅系触媒前駆体からなる触媒層の体積(m
3)で割った値としての気体時空間速度(GHSV:gas hourly space velocity)が50〜20,000hr
-1であることが好ましく、100〜10,000hr
-1であることがより好ましい。50hr
-1以上であれば、還元によって生成する水分の除去効率が高く、還元に要する時間が短くなるため、銅系触媒の蓄熱によるシンタリングのおそれがない。また、20,000hr
-1以下であれば、触媒層の温度を維持するためのエネルギーが少なくて済むため、経済的に好ましい。
還元に要する時間は、還元温度などにより適宜変化するものであるが、通常、水の生成および還元性ガスの吸収の少なくとも一方が確認できなくなるまで還元を継続することが好ましい。
通常、このように還元処理して得られた銅系触媒を同じ反応管内に設置したままにしておき、そこへ直接基質を導入することによって所望の反応を進めることが、銅系触媒の発火などの危険の回避および目的物生産性向上の観点から好ましい。
【0038】
次に、溶媒中で銅系触媒前駆体を還元する方法を説明する。この方法は、粉末銅系触媒を懸濁床反応方式で使用する場合に適用できる。
銅系触媒前駆体を、銅系触媒が被毒されない溶媒中に存在せしめてから還元する。溶媒は、特に制限されないが、アルコール類、エーテル類、炭化水素類などを好ましく用いることができる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、オクタノール、ドデカノールなどが挙げられる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。炭化水素類としては、ヘキサン、シクロヘキサン、デカリン、流動パラフィンなどが挙げられる。
銅系触媒前駆体の還元に用いる還元剤としては、水素、一酸化炭素、アンモニア、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、メタノールなどの低級アルコールなどが挙げられる。還元剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。また、還元剤は、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスで希釈して用いてもよい。還元剤として水素を用い、希釈用不活性ガスとして窒素を用いることが常套であり、好ましい。
【0039】
還元する際の温度は100〜800℃であることが好ましく、100〜300℃であることがより好ましい。100℃以上であれば、銅系触媒前駆体の還元により生じる水分子の除去が十分となり、還元に要する時間が短くなり、還元が十分となる。一方、800℃以下であれば、銅のシンタリングによって触媒性能が低下するおそれがない。
水素、一酸化炭素、アンモニアなどの還元性ガスを用いる場合、還元性ガス圧力は0.01〜10MPa(G)が好ましい。還元性ガスが高圧であるほどシンタリングが進行しやすいため、可能な限り大気圧に近い圧力で還元することがより好ましい。さらには、懸濁液に還元性ガスをバブリングし、還元によって生じる水分子を効率的に除去することにより還元時間を短縮することが好ましい。
還元に要する時間は、還元温度などにより適宜変化するものであるが、通常、水の生成および還元性ガスの吸収の少なくとも一方が確認できなくなるまで還元を継続することが好ましい。
このように還元処理して得られた銅系触媒は、濾取などによって分離してから所望の反応系に導入することも可能であるが、通常、これら銅系触媒の懸濁液に対して反応基質を導入することによって所望の反応を進めることが、銅系触媒の発火などの危険回避および目的物生産性向上の観点から好ましい。
【0040】
(β,γ−不飽和アルコール部位を有する化合物の異性化反応)
本発明の銅系触媒前駆体を用いた、β,γ−不飽和アルコール部位を有する化合物の異性化反応により、アルデヒド化合物を製造することができる。前述の通り、銅系触媒前駆体は、還元処理してから用いる。
本異性化反応は、懸濁床反応方式、流動床反応方式および固定床反応方式のどの反応方式によって、液相または気相で実施できる。ただし、反応系が長時間高温下にさらされる場合には、生成するアルデヒドが熱的不安定であるために高沸物を生成することが懸念されること、並びに転化率および選択率の観点から、固定床反応方式を用いることが好ましい。また、気相にて実施することが好ましい。
以下に固定床反応方式による異性化反応方法について具体的に説明するが、銅系触媒(前駆体)の使用方法はこれに限定されるものではない。
【0041】
本異性化反応の基質である「β,γ−不飽和アルコール部位を有する化合物」は、−C=C−C−OH 部位を有する総炭素数4〜30の化合物を包含する。例えば、2−ブテン−1−オール、2−ペンテン−1−オール、2−ヘキセン−1−オール、2−ヘプテン−1−オール、2−オクテン−1−オール、2,7−オクタジエン−1−オール、2−ノネン−1−オール、2−デセン−1−オール、3−フェニル−2−プロペン−1−オール、4−フェニル−2−ブテン−1−オール、5−フェニル−2−ペンテン−1−オール、6−フェニル−2−ヘキセン−1−オール、7−フェニル−2−ヘプテン−1−オール、8−フェニル−2−オクテン−1−オール、9−フェニル−2−ノネン−1−オール、10−フェニル−2−デセン−1−オール、2−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−2−ペンテン−1−オール、2−メチル−2−ヘキセン−1−オール、2−メチル−2−ヘプテン−1−オール、2−メチル−2−オクテン−1−オール、2−メチル−2−ノネン−1−オール、2−メチル−2−デセン−1−オール、6−ベンジル−2−シクロヘキセン−1−オール、4−フェニル−1−ビニル−シクロヘキサン−1−オール、2,7−オクタジエン−1−オールなどが挙げられる。中でも、本発明の銅系触媒前駆体は、2,7−オクタジエン−1−オールの異性化反応に有用である。
【0042】
所望に応じ、銅系触媒を被毒しない溶媒に希釈した基質を用いることもできる。該溶媒は特に制限されないが、アルコール類、エーテル類、炭化水素類が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、オクタノール、ドデカノール、7−オクテン−1−オールなどが挙げられる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。炭化水素類としては、ヘキサン、シクロヘキサン、デカリン、流動パラフィンなどが挙げられる。場合によっては、水を溶媒として用いることもできる。
なお、上記のうち7−オクテン−1−オールを溶媒として使用する場合には、異性化反応系にて該7−オクテン−1−オールの一部が7−オクテナールに変換されるため、7−オクテナールを製造する場合には、生産性向上の観点から好適である。
【0043】
還元されて得られた銅系触媒が充填されている固定床反応器を所望温度および所望圧力とし、β,γ−不飽和アルコール部位を有する化合物と、不活性ガスおよび還元性ガスからなる混合ガスまたは不活性ガスとを同時に固定床反応器へ供給することによって、β,γ−不飽和アルコール部位を有する化合物の異性化反応が進行し、アルデヒド化合物を製造できる。
固定床反応器としては、ガスの流れを均一にする観点から、管状構造のものが好ましく、銅系触媒自体の温度を均一に制御することを勘案すると、反応管を多数並列に配置してなる多管式構造のものがより好ましい。反応管としては、一般的に、断面形状が円型のものが用いられる。触媒充填作業の容易さおよび銅系触媒の均一な充填の観点から、直線状の直管を垂直に配置することが好ましい。
管径は特に制限されるわけではないが、好ましくは15〜50mm、より好ましくは20〜40mmである。管径が15mm以上であれば、反応管数の増加を抑えることができるため反応器の製造費用を低減できる。また、50mm以下であれば、管中心部の銅系触媒の蓄熱を抑えることができるため、触媒失活の加速、逐次反応および暴走反応などを抑制できる。
反応管の長さおよび数には特に制限はないが、反応器の製造費用および所望生産能力を達成するために必要な銅系触媒量などから適宜設定することが好ましい。通常、固定床式多管式反応器は熱交換型反応器として使用され、銅系触媒が充填された反応管の外部にジャケットを有しており、該ジャケットにスチームもしくは加熱オイルなどを通じることにより反応温度を制御する方法が好ましく採用される。反応系における基質の状態は液体もしくは気体のどちらでもよいが、銅系触媒内部まで基質分子が拡散するために基質転化率を高く維持し、銅系触媒表面での基質および生成物の炭化などによる触媒活性低下を抑制する観点からは、気体状態であることが好ましい。
【0044】
反応温度は100〜800℃が好ましい。100℃以上であれば、反応活性化エネルギーが十分であるため、十分な生産性を達成できる。また、800℃以下であれば、基質または生成物の熱分解による目的物の収率低下が抑制され、さらに、基質もしくは生成物の炭化物が銅系触媒表面を覆うことによる生産性の低下や銅のシンタリングによる触媒性能の低下のおそれがない。同様の観点から、反応温度は100〜500℃が好ましく、100〜300℃がより好ましく、150〜250℃がさらに好ましい。
反応圧力は0.01〜1.9MPa(G)であることが、圧力制御の容易性および反応設備費用の低減の観点から好ましい。銅系触媒への基質の拡散効率を高めることによる生産性向上という観点から、基質をガス状にすることがより好ましく、可能な限り圧力を0.01MPa(G)に近づけることがより好ましい。
【0045】
基質と共に、不活性ガスか、還元性ガスおよび不活性ガスからなる混合ガスを供給する。ここで、混合ガスにおいて、還元性ガスの含有量は、好ましくは0.05〜20体積%、より好ましくは0.1〜15体積%、さらに好ましくは0.1〜10体積%である。
固定床反応器へは、反応器上部から供給するダウンフローであっても、反応器下部から供給するアップフローのどちらでもよいが、反応副生物としての液状高沸物を定常的に系外に除去するという観点からは、ダウンフローが好ましい。
還元性ガスとしては水素ガス、不活性ガスとしては窒素ガスを用いることが、安価であるという観点から好ましい。水素ガスの供給量にとりわけ制限はないが、窒素ガスおよび基質に含まれる酸素分子数以上の水素分子数が存在することが望ましく、逆に大過剰の水素分子数を供給する場合には基質の水素化が進行するために目的物選択性が低下する。さらには、銅系触媒と還元性ガスの分子との接触効率は使用する銅系触媒の形状もしくは分子拡散速度などの物性によって適宜選択すべきであり、所望とする反応と反応成績に合うように基質供給量、混合ガス供給量、混合ガスに含まれる還元性ガス含有量などを調整すべきである。
【0046】
基質と共に供給する水素ガス量は、基質と水素ガスの分子比(モル比)[基質/水素ガス]として99/1〜75/25が好ましく、99/1〜80/20がより好ましく、97/3〜80/20がさらに好ましい。該分子比(モル比)[基質/水素ガス]が小さ過ぎる、つまり水素ガス量が多すぎると、アルデヒド化合物への選択性が低下するおそれがある。一方、脱水素化合物の生成が加速されるのを抑制する観点からは、該分子比(モル比)[基質/水素ガス]が大き過ぎないようにする、つまり水素ガス量が少な過ぎることがないようにすることが好ましい。
【0047】
基質の供給量にとりわけ制限はないが、供給基質重量(kg/hr)を銅系触媒前駆体重量(kg)で割った値としての重量時空間速度(WHSV:weight hourly space velocity)が0.05〜20hr
-1であることが好ましく、0.1〜10hr
-1であることがより好ましい。0.05hr
-1以上であれば、基質および生成物と銅系触媒との接触時間が短くなり、基質や生成物の縮合物の生成または基質や生成物の炭化による目的物収率の低下を抑制できる。また、20hr
-1以下であれば、触媒層の温度を維持するためのエネルギーが少なくて済むため、経済的に好ましい。
【0048】
不活性ガスや混合ガスの流量にとりわけ制限はないが、供給ガス体積速度(m
3/hr)を、希釈物を含有してもよい銅系触媒前駆体からなる触媒層の体積(m
3)で割った値としての気体時空間速度(GHSV:gas hourly space velocity)が50〜20,000hr
-1であることが好ましく、100〜10,000hr
-1であることがより好ましい。50hr
-1以上であれば、銅系触媒の蓄熱によるシンタリングの心配がない。また、10,000hr
-1以下であれば、触媒層の温度を維持するためのエネルギーが少なくて済むため、経済的に好ましい。
【0049】
ガスと共に搬出される生成物を凝集器によって液化させ、大気圧下または減圧下で蒸留することによって、目的物とするアルデヒド化合物を分離精製することができる。
なお、反応を継続して行なっていると、触媒活性の低下が認められることがある。その場合、適宜、反応に使用した銅系触媒を空気または酸素雰囲気かつ0.01〜1.9MPa(G)の加圧下、反応使用温度〜800℃でか焼することによって銅系触媒表面に付着した有機化合物を炭化させ、これを除去したのち、再び還元処理を施して使用してもよい。
【0050】
(炭素−炭素二重結合または炭素−酸素二重結合を有する化合物の水素化反応)
本発明の銅系触媒前駆体を用いることにより、炭素−炭素二重結合および炭素−酸素二重結合のうちの少なくとも一方を有する化合物の水素化反応を効率的に行なうことができる。
炭素−炭素二重結合および炭素−酸素二重結合を有する化合物の水素化反応は、懸濁床反応方式、流動床反応方式および固定床反応方式のどの反応方式によっても実施できる。固定床反応方式によって実施する方法は、前述したβ,γ−不飽和アルコール部位を有する化合物の異性化反応条件において、混合ガスに含まれる水素ガス含有量を好ましくは1〜100体積%、より好ましくは50〜100体積%、さらに好ましくは80〜100体積%から選択する以外は同様に説明される。
以下に懸濁床反応方式による水素化反応について具体的に説明するが、銅系触媒の使用方法はこれに限定されるものではない。
【0051】
本水素化反応の基質である「炭素−炭素二重結合を有する化合物」は、−C=C− 部位を有する全ての化合物を包含する。炭素−炭素二重結合の概念には、炭素−炭素三重結合を水添してなる二重結合も包含する。
また、本水素化反応の別の基質である「炭素−酸素二重結合を有する化合物」は、−(C=O)− 部位を有する全ての化合物を包含するものであり、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステル、酸無水物および糖などを含む。また、1つの分子内において、これらの各々の部位を1つ以上有するものも包含する。
本水素化反応の基質としては、炭素−炭素二重結合を含んでいてもよいアルデヒド、炭素−炭素二重結合を含んでいてもよいケトン、炭素−炭素二重結合を含んでいてもよいカルボン酸、炭素−炭素二重結合を含んでいてもよいエステル、炭素−炭素二重結合を含んでいてもよい酸無水物および炭素−炭素二重結合を含んでいてもよい糖からなる群から選択したものであることが好ましい。また、本水素化反応の基質としては、生成物の分離容易性という観点からは、1分子内における総炭素数4〜30の化合物が好ましく、1分子内における総炭素数4〜20の化合物がより好ましく、1分子内における総炭素数4〜10の化合物がさらに好ましい。
【0052】
炭素−炭素二重結合を有する化合物としては、不飽和脂肪族炭化水素類、不飽和脂肪族基含有芳香族炭化水素類、脂環式オレフィン系炭化水素類、官能基を含有するオレフィン類などが挙げられる。
不飽和脂肪族炭化水素類としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、2−ブテン、イソブテン、2−オクテン、1,7−オクタジエン、ビニルシクロヘキセン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、ブタジエン重合物、イソプレン重合物などが挙げられる。不飽和脂肪族基含有芳香族炭化水素類としては、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、アルキル基核置換スチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。脂環式オレフィン系炭化水素類としては、シクロペンテン、シクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン、シクロオクテン、リモネンなどが挙げられる。官能基を含有するオレフィン類としては、アリルアルコール、クロチルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、7−オクテン−1−オール、2,7−オクタジエノール、ビニルアセテート、アリルアセテート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、アリルアクリレート、ビニルメチルエーテル、アリルエチルエーテル、5−ヘキセンアミド、アクリロニトリル、7−オクテナールなどが挙げられる。
さらに、天然物にも炭素−炭素二重結合を有する化合物があり、そのような天然物としては、大豆油、ナタネ油、ヒマワリ油、綿実油、落花生油、ゴマ油、パーム油、パーム核油、アマニ油、ヒマシ油、ヤシ油などの植物油、及び牛脂、魚油、豚脂などの動物油、並びにこれらから得られる不飽和脂肪酸等が挙げられる。
中でも、本発明の銅系触媒前駆体は、7−オクテナールの水素化反応に有用である。
【0053】
炭素−酸素二重結合を有する化合物としてのアルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステル、酸無水物および糖の具体例を以下に示す。
アルデヒド化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、2−メチルブチルアルデヒド、3−メチルブチルアルデヒド、2,2−ジメチルプロピオンアルデヒド、カプロンアルデヒド、2−メチルバレルアルデヒド、3−メチルバレルアルデヒド、4−メチルバレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、2,2−ジメチルブチルアルデヒド、3,3−ジメチルブチルアルデヒド、カプリルアルデヒド、カプリンアルデヒド、グルタルジアルデヒド、7−オクテナールなどが挙げられる。
さらに、分子内に水酸基を有するヒドロキシアルデヒド化合物であってもよく、例えば、3−ヒドロキシプロパナール、ジメチロールエタナール、トリメチロールエタナール、3−ヒドロキシブタナール、3−ヒドロキシ−2−エチルヘキサナール、3−ヒドロキシ−2−メチルペンタナール、2−メチロールプロパナール、2,2−ジメチロールプロパナール、3−ヒドロキシ−2−メチルブタナール、3−ヒドロキシペンタナール、2−メチロールブタナール、2,2−ジメチロールブタナール、ヒドロキシピバリンアルデヒドなどが挙げられる。
【0054】
ケトン化合物としては、例えば、アセトン、ブタノン、2−ペンタノン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ヘキサノン、シクロヘキサノン、イソホロン、メチルイソブチルケトン、メシチルオキシド、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、ベンザラクトン、ジベンザラクトン、ベンザラクトフェノン、2,3−ブタジオン、2,4−ペンタジオン、2,5−ヘキサジオン、5−メチルビニルケトンなどが挙げられる。
中でも、本発明の銅系触媒前駆体は、4−メチル−2−ペンタノンの水素化反応に有用である。
【0055】
カルボン酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、n−バレイン酸、トリメチル酢酸、カプロン酸、エナンチル酸、カプロル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、フェニル酢酸、オルト−トルイル酸、メタ−トルイル酸、パラ−トルイル酸、オルト−クロロ安息香酸、パラ−クロロ安息香酸、オルト−ニトロ安息香酸、パラ−ニトロ安息香酸、サリチル酸、パラ−ヒドロキシ安息香酸、アントラニル酸、パラ−アミノ安息香酸、シュウ酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。
更に、これらカルボン酸とアルコールからなるエステル化合物であってもよく、エステルを構成するアルコール成分は特に限定されるものではないが、通常、炭素数1〜6の脂肪族または脂環式アルコールであり、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。さらに、分子内環化したエステルとしてのラクトン、例えば、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなども含まれる。
【0056】
所望に応じて、銅系触媒を被毒しない溶媒に希釈した基質を用いることもできる。溶媒は、特に制限されないが、アルコール類、エーテル類、炭化水素類が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、オクタノール、ドデカノールなどが挙げられる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。炭化水素類としては、ヘキサン、シクロヘキサン、デカリン、流動パラフィンなどが挙げられる。場合によっては、水、基質および生成物から選択される少なくとも1種を溶媒として用いることもできる。
【0057】
なお、懸濁床反応方法は、回分式(半連続方式を含む)および流通連続式の2種の形態から選択でき、銅系触媒の回収使用が容易な流通連続方式が好ましい。以下、流通連続方式による懸濁床反応方法に関して簡潔に説明する。
銅系触媒前駆体の還元処理によって得られた懸濁液を充填した懸濁床反応器を、所望温度および所望圧力とし、炭素−炭素二重結合および炭素−酸素二重結合のうちの少なくとも一方を有する化合物および水素ガスを供給することによって水素化を実施できる。
粉末銅系触媒前駆体はサイズが小さいほど単位重量当たりの表面積が広くなるため、単位銅系触媒質量当たりの触媒活性が高くなり、一方、サイズが大きいほど反応後の濾去が容易になる。この観点から、通常、16〜400メッシュで振るい分けられた粉末銅系触媒前駆体を使用するのが好ましい。懸濁液中に含まれる粉末銅系触媒の濃度は、好ましくは0.01〜50質量%であり、単位時間当たりの生産性および粉末銅系触媒の濾去性の観点から、1〜10質量%がより好ましい。
【0058】
水素化反応温度は100〜800℃が好ましく、100〜300℃がより好ましく、150〜250℃がさらに好ましい。100℃以上であれば、反応活性化エネルギーが十分となり、十分な生産性を達成できる。また、800℃以下であれば、基質および生成物の熱分解による目的物の収率低下が抑制され、さらに基質および生成物の炭化物が銅系触媒表面を覆うことによる生産性の低下や、銅のシンタリングによる触媒性能の低下を抑制される。
水素圧力は、通常、1〜30MPa(G)から選択されるのが好ましい。懸濁床方式の水素化反応においては、水素圧力が高いほど溶媒に溶解する水素分子数が高まり、それに応じて反応速度が向上することから、前記水素圧力範囲の中でも、高圧であることが好ましい。
【0059】
液状生成物と銅系触媒の分離には、デカンテーション、濾過などの方法が採用できる。分離した使用済み銅系触媒は、アルコール、エーテル、炭化水素溶媒などで洗浄した後、空気と接触させ、か焼および還元処理を施すことによって、再使用することが可能である。一方、銅系触媒が分離された液体を、大気圧もしくは減圧蒸留することなどによって、目的物を分離精製できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
【0061】
本発明における銅系触媒前駆体の製造方法を実施例1〜7において詳細に説明する。また、触媒性能を比較するための触媒前駆体の製造方法を参考例1〜5において詳細に説明する。
【0062】
Cu、FeおよびAlの原子比、並びに珪酸カルシウム含有量(質量%)は、第三工程で得られた共沈混合物の乾燥品について、JIS K 0119:2008に記載の「蛍光X線分析方法通則」に従って、株式会社リガク製の走査型蛍光X線分析装置「ZSX Primus II」を用いて測定した元素の定性・定量分析結果に基づく値である。本方法に従って判明する酸化第二銅(CuO)含有量(質量%)、酸化第二鉄(Fe
2O
3)含有量(質量%)および酸化アルミニウム(Al
2O
3)含有量(質量%)から、Cu/Fe/Al原子比を算出し、さらに、(Fe+Al)/Cu、Al/Feを求めた。一方、本方法に従って判明する酸化カルシウム(CaO)含有量(質量%)と酸化珪素(SiO
2)含有量(質量%)の和を珪酸カルシウム含有量(質量%)とした。
また、BET比表面積は、第三工程で得られた共沈混合物の乾燥品について、JIS Z 8830:2001に記載の「気体吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に従って、マイクロメリティックス社製「ジェミニVII2390」を用いて測定した窒素吸着比表面積に基づく値である。
なお、以下の各例において、とりわけ説明の無い限り、水はイオン交換水を用い、大気圧の空気雰囲気下で操作した。
【0063】
[実施例1]
攪拌機および加熱装置を備えたガラス製5Lビーカー内で、水2,000gに対し、硫酸17.5g(0.178mol)、硫酸第二銅五水塩94.2g(銅原子として0.377mol)、硫酸第一鉄七水塩170.8g(鉄原子として0.614mol)、液体硫酸アルミニウム(Al
2O
3として8%含有)132.6g(アルミニウム原子として0.208mol)を順次加え、十分攪拌して均一な金属硫酸塩水溶液を調製し、これを50℃に昇温、維持した。
攪拌機および加熱装置を備えたガラス製10Lビーカー内で、水酸化ナトリウム120gを水2,000gに溶かし、80℃に昇温した。金属硫酸塩水溶液滴下終了後においても共沈物が沈降堆積しないような攪拌状態において、水酸化ナトリウム水溶液に対して定量ポンプを用いて金属硫酸塩水溶液を120分かけて滴下した。なお、この時、反応溶液の液温が80℃を維持するように加熱装置を制御した。
滴下終了後、同温度、同攪拌状態において1時間熟成させた。その後、50℃まで冷却し、静置した。上澄み液をデカンテーションによって除き、1回目の洗浄水4,000gを加え、50℃において攪拌することで共沈物を洗浄した。この操作を繰り返し、5回目の洗浄水投入後の上澄み液のpHが7.7であることを確認した。この5回目洗浄水が存在する状態において、50℃下、共沈物が沈降しないような攪拌状態で、珪酸カルシウム(富田製薬(株)製、「フローライト」)75.0gを加え、1時間熟成させた。この共沈混合物を室温で濾取し、空気下、120℃で16時間乾燥した。得られた共沈混合物の乾燥品を大気圧の空気下、800℃で6時間焼成することにより粉末銅系触媒前駆体を取得した。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体Aと称する。
【0064】
[実施例2]
実施例1において、硫酸(17.5g、0.178mol)、硫酸第二銅五水塩(94.2g、銅原子として0.377mol)、硫酸第一鉄七水塩(113.9g、鉄原子として0.410mol)、液体硫酸アルミニウム(215.8g、アルミニウム原子として0.339mol)を順次加え、均一な金属硫酸塩水溶液を調製すること、珪酸カルシウム(富田製薬(株)製、「フローライト」)86.7gを加える以外は同様の操作をした。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体Bと称する。
【0065】
[実施例3]
実施例1において、硫酸(17.5g、0.178mol)、硫酸第二銅五水塩(94.2g、銅原子として0.377mol)、硫酸第一鉄七水塩(227.7g、鉄原子として0.819mol)、液体硫酸アルミニウム(7.1g、アルミニウム原子として0.011mol)を順次加え、均一な金属硫酸塩水溶液を調製すること、珪酸カルシウム(富田製薬(株)製、「フローライト」)70.2gを加える以外は同様の操作をした。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体Cと称する。
【0066】
[実施例4]
実施例1において、硫酸(17.5g、0.178mol)、硫酸第二銅五水塩(94.2g、銅原子として0.377mol)、硫酸第一鉄七水塩(57.0g、鉄原子として0.205mol)、液体硫酸アルミニウム(396.5g、アルミニウム原子として0.622mol)を順次加え、均一な金属硫酸塩水溶液を調製すること、珪酸カルシウム(富田製薬(株)製、「フローライト」)89.4gを加える以外は同様の操作をした。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体Dと称する。
【0067】
[実施例5]
実施例2において、焼成温度を600℃に変更した以外は同様に操作を行ない、粉末銅系触媒前駆体を取得した。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体Eと称する。
【0068】
[実施例6]
実施例1において、珪酸カルシウム(富田製薬(株)製、「フローライト」)42.7gを加える以外は同様の操作をした。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体Fと称する。
【0069】
[実施例7]
実施例1において、珪酸カルシウム(富田製薬(株)製、「フローライト」)24.9gを加える以外は同様の操作をした。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体Gと称する。
【0070】
以下に、本発明の銅系触媒前駆体の触媒性能を比較するための粉末銅系触媒前駆体の調製方法を参考例として説明する。
参考例1〜3に示す銅系触媒前駆体は触媒前駆体Bと同様に調製できるが、珪酸カルシウムの代わりにγ−アルミナを添加するものであり、担体としての珪酸カルシウムの有用性を示すためのものである。参考例4に記載の銅系触媒前駆体は触媒前駆体Bと同様に調製できるが、焼成温度を400℃にしており、焼成温度の影響を明確化するためのものである。更に、参考例5に記載の銅系触媒前駆体は鉄を殆ど含有しないものであり、鉄の必要性を明確化するためのものである。
【0071】
[参考例1]
実施例2において、珪酸カルシウム(富田製薬(株)製、「フローライト」)86.7gの代わりにγ−アルミナ(シーアイ化成(株)製、「NanoTek Al
2O
3」)86.7gを加える以外は同様の操作をした。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体H1と称する。
【0072】
[参考例2]
参考例1において、焼成温度を600℃に変更した以外は同様に操作を行ない、粉末銅系触媒前駆体を取得した。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体H2と称する。
【0073】
[参考例3]
参考例1において、焼成温度を400℃に変更した以外は同様に操作を行ない、粉末銅系触媒前駆体を取得した。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体H3と称する。
【0074】
[参考例4]
実施例2において、焼成温度を
400℃に変更した以外は同様に操作を行ない、粉末銅系触媒前駆体を取得した。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体Iと称する。
【0075】
[参考例5]
実施例1において、硫酸(17.5g、0.178mol)、硫酸第二銅五水塩(94.2g、銅原子として0.377mol)、液体硫酸アルミニウム(471.3g、アルミニウム原子として0.740mol)を順次加え、均一な金属硫酸塩水溶液を調製すること、珪酸カルシウム(富田製薬(株)製、「フローライト」)95.8gを加える以外は同様の操作をした。このようにして得られた粉末銅系触媒前駆体を触媒前駆体Jと称する。
【0076】
表1に実施例1〜7および参考例1〜5で調製した共沈混合物の乾燥品の分析値を示す。
参考例1〜3を除く銅系触媒前駆体において、Cu/Fe/Al原子比は共沈混合物の乾燥品の成分分析値から算出した値であり、また、珪酸カルシウム量は共沈混合物の乾燥品分析値における酸化カルシウムと酸化ケイ素の質量%の和である。一方、参考例1〜3に記載の銅系触媒前駆体に関しては、共沈物のCu/Fe/Al原子比を成分分析した値から別途算出した値であり、乾燥品と共沈品の成分分析値の差から濾過時の添加物としてのγ−アルミナ質量%を算出した。すなわち、γ−アルミナは共沈物に対して添加していることから、本共沈混合物の乾燥品は、実質的にはCu/Fe/Al原子比は1/1.10/0.93であって、γ−アルミナが47.6質量%である。
【0077】
【表1】
【0078】
本発明における銅系触媒前駆体を還元してなる銅系触媒のβ,γ−不飽和アルコール部位を有する化合物の異性化によるアルデヒド化合物の製造能力、より具体的には、実施例1〜7で調製した銅系触媒前駆体を用いた固定床反応方式における2,7−オクタジエン−1−オールから7−オクテナールへの製造能力を評価例1〜7において更に詳細に説明する。
併せて、比較評価例1〜5において、本発明の範囲に含まれない銅系触媒前駆体を還元してなる銅系触媒を用いた固定床反応方式での7−オクテナールへの製造能力を示す。
【0079】
[評価例1]
外部に触媒層の温度を制御するための電気ヒーター、内部に触媒層の温度を測定するための熱伝対、上部にガス供給口、下部にサンプリング口を有する大気圧流通式ステンレスSUS316製縦型直管反応管(内径22mm、長さ1m)に、銅系触媒前駆体Aを直径3.962〜4.699mmであるソーダガラス製ガラスビーズによって50質量%に希釈した混合物を50mL充填した。なお、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体Aの重量は26.5gであった。
【0080】
触媒層の温度が200±5℃を維持した状態で空気を12L/hrで1時間通じた。その後、空気の供給をとめ、200±5℃を維持するように窒素ガスを137.5L/hrで1時間通じた。その後、200±5℃維持するように窒素ガス流量を減じながら水素ガス流量を高め、最終的に水素ガス流量6L/hrとし、1時間かけて銅系触媒前駆体Aを還元した。
還元処理後、水素ガスの供給を止め、触媒層が200±5℃を維持するように窒素ガスを137.5L/hr、2,7−オクタジエン−1−オールを70.2g/hr(0.558mol/hr)で供給した。反応は大気圧下で3時間実施し、30分ごとに生成物をガスクロマトグラフィー法で定量した。
【0081】
2,7−オクタジエン−1−オールの転化率は下記数式1によって算出した。なお、式中の各量の単位は、mol/hrとする。
【0082】
【数1】
【0083】
各生成物として、7−オクテナール、2,7−オクタジエン−1−アール、7−オクテン−1−オール、オクタジエン類、シスもしくはトランスの6−オクテナール、1−オクタナール、1−オクタノールが挙げられる。これら生成物への選択率は下記数式2によって算出した。なお、式中の各量の単位は、mol/hrとする。
【0084】
【数2】
【0085】
ガスクロマトグラフィーによって十分に定量できない高沸点生成物への選択率は、下記数式3によって算出した。なお、式中の各量の単位は、mol/hrとする。
【0086】
【数3】
【0087】
なお、反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0088】
[評価例2]
銅系触媒前駆体Bを用い、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体Bの重量を23.4gとする以外は評価例1と同様にして評価した。なお、反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0089】
[評価例3]
銅系触媒前駆体Cを用い、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体Cの重量を26.5gとする以外は評価例1と同様にして評価した。なお、反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0090】
[評価例4]
銅系触媒前駆体Dを用い、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体Dの重量を26.5gとする以外は評価例1と同様にして評価した。なお、反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0091】
[評価例5]
銅系触媒前駆体Eを用い、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体Eの重量を21.4gとする以外は評価例1と同様にして評価した。なお、反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0092】
[評価例6]
銅系触媒前駆体Fを用い、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体Fの重量を26.5gとする以外は評価例1と同様にして評価した。なお、反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0093】
[評価例7]
銅系触媒前駆体Gを用い、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体Gの重量を26.5gとする以外は評価例1と同様にして評価した。なお、反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0094】
[比較評価例1]
銅系触媒前駆体H1を用い、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体H1の重量を26.6gとする以外は評価例1と同様にして評価した。なお、反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0095】
[比較評価例2]
銅系触媒前駆体H2を用い、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体H2の重量を26.0gとする以外は評価例1と同様にして評価した。なお、反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0096】
[比較評価例3]
銅系触媒前駆体H3を用い、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体H3の重量を26.0gとする以外は評価例1と同様にして評価した。なお、反応3時間の間において経時的に2,7−オクタジエン−1−オールの転化率が低下した。反応直後の転化率は65.3%、反応1時間後64.0%、反応2時間後63.7%、反応3時間後62.2%となった。これらの平均値(63.8%)を転化率とした。一方、選択率に大きな変化はなかった。
【0097】
[比較評価例4]
銅系触媒前駆体Iを用い、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体Iの重量を23.3gとする以外は評価例1と同様にして評価した。なお、反応3時間の間において経時的に2,7−オクタジエン−1−オールの転化率が低下した。反応直後の転化率は50.1%、反応1時間後49.1%、反応2時間後48.4%、反応3時間後47.1%となった。これらの平均値(48.7%)を転化率とした。一方、選択率におおきな変化はなかった。
【0098】
[比較評価例5]
銅系触媒前駆体Jを用い、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体Jの重量を26.5gとする以外は評価例1と同様にして評価した。なお、反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0099】
表2に、実施例1〜7および参考例1〜5で調製した銅系触媒前駆体を還元してなる銅系触媒を用いたβ,γ−不飽和アルコール化合物としての2,7−オクタジエン−1−オールの異性化反応結果(評価例1〜7および比較評価例1〜5)を示す。
なお、表中記載の充填量とは、直径3.962〜4.699mmであるソーダガラス製ガラスビーズを用いて50質量%に希釈した触媒層50mL中に含まれる各銅系触媒前駆体の量である。
7−オクテナールを7−OEL、2,7−オクタジエナールをODL、7−オクテン−1−オールをOEA、オクタジエン類をOD、シスもしくはトランスの6−オクテナールを6−OEL、1−オクタナールをOL、1−オクタノールをOA、その他の高沸点化合物をHBと略称する。
【0100】
【表2】
【0101】
評価例2および5と比較評価例4との比較は、同じ共沈混合物の乾燥品における焼成温度の違いを示しており、800℃で焼成した銅系触媒前駆体Bおよび600℃で焼成した銅系触媒前駆体Eと、400℃焼成した銅系触媒前駆体Iとでは、焼成温度を600℃以上とした銅系触媒前駆体を用いた場合のみで、高転化率および高選択性が達成できた。このような高温焼成による触媒活性の向上は、γ−アルミナを添加した銅系触媒前駆体H1〜H3を用いた場合(比較評価例1〜3)でも確認できた。しかしながら、評価例2と比較評価例1との比較によれば、γ−アルミナを添加した銅系触媒前駆体H1に比べ、珪酸カルシウムを添加した銅系触媒前駆体Bを用いた方が、より一層の高転化率および高選択性を達成できた。
評価例3と比較評価例5との比較によれば、鉄を含まない銅系触媒前駆体Jでは高転化率と高選択性を達成できなかった。
とりわけ銅系触媒前駆体A、FおよびGを用いたときに、より一層の高転化率と高選択性を達成できた。なお、評価例1、6、7は、銅系触媒前駆体Aとほぼ同等のCu/Fe/Al原子比であって珪酸カルシウム量のみが異なるものである。
【0102】
本発明における銅系触媒前駆体を成型しても十分な性能が達成できることを説明する。実施例8および9に銅系触媒前駆体の成型方法を説明する。評価例8および9には成型した銅系触媒前駆体を還元してなる銅系触媒のβ,γ−不飽和アルコール部位を有する化合物からアルデヒド化合物への異性化能力、より具体的には、実施例8および9で調製した銅系触媒前駆体を用いた固定床反応方式における2,7−オクタジエン−1−オールから7−オクテナールへの異性化能力を更に詳細に説明する。
【0103】
[実施例8]
実施例1と同様の条件で調製した共沈混合物の乾燥品を、ロータリー打錠成型機を用いて、直径3mm、厚み3mmの円柱形状に成型した。この成型物を空気中800℃で6時間焼成することにより触媒前駆体Kを取得した。
【0104】
[実施例9]
実施例1と同様の条件で調製した粉末銅系触媒前駆体を、ロータリー打錠成型機を用いて、直径3mm、厚み3mmの円柱形状に成型した。その後、500℃で1時間焼成することにより触媒前駆体Lを取得した。
【0105】
[評価例8]
触媒前駆体Kを直径3.962〜4.699mmであるソーダガラス製ガラスビーズを用いて50質量%に希釈した混合物を50mL充填した以外、評価例1と同様の方法で評価した。なお、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体の質量は26.9gであった。
反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0106】
[評価例9]
触媒前駆体Lを直径3.962〜4.699mmであるソーダガラス製ガラスビーズを用いて50質量%に希釈した混合物を50mL充填した以外、評価例1と同様の方法で評価した。なお、希釈混合物中に含まれる銅系触媒前駆体の質量は26.9gであった。
反応3時間の間において、反応成績に大きな変化はなく、よって、3時間の平均組成から、転化率および選択率を算出した。
【0107】
表3の評価例8および9において、実施例8および9で調製した成型銅系触媒前駆体を還元してなる銅系触媒を用いたβ,γ−不飽和アルコール化合物としての2,7−オクタジエン−1−オールの異性化反応結果を示す。また、参考のため、粉末銅系触媒前駆体を用いた評価例1の結果を併せて示す。
【0108】
【表3】
【0109】
評価例1〜9に示すように、本発明の銅系触媒前駆体は、粉末状態であっても成型状態であってもβ,γ−不飽和アルコール化合物の異性化に使用できる。
【0110】
[評価例10](水素ガスおよび窒素ガスの存在下における異性化反応)
外部に触媒層の温度を制御するための電気ヒーター、内部に触媒層の温度を測定するための熱伝対、上部にガス供給口、下部にサンプリング口を有する大気圧流通式ステンレスSUS316製縦型直管反応管(内径22mm、長さ1m)に、銅系触媒前駆体Lを100mL充填した。
【0111】
触媒層の温度が200±5℃を維持した状態で空気を24L/hrで1時間通じた。その後、空気の供給をとめ、200±5℃を維持するように窒素ガスを275.0L/hrで1時間通じた。その後、200±5℃維持するように窒素ガス流量を減じながら水素ガス流量を高め、最終的に水素ガス流量12L/hrとし、1時間かけて銅系触媒前駆体Aを還元した。
還元処理後、水素ガスの供給を一旦止め、触媒層が200±5℃を維持するように水素0.3体積%と窒素99.7体積%からなる混合ガスを101.8L/hr、7−オクテン−1−オール30.4質量%と2,7−オクタジエン−1−オール69.6質量%からなる混合液を53.1g/hrで供給した。反応は0.145MPa(G)下で4時間実施した。
【0112】
反応4時間の間において、反応成績に大きな変化はなかった。4時間の平均組成は、2,7−オクタジエン−1−オール0.3質量%、7−オクテナール79.6質量%、2,7−オクタジエナール0.1質量%、7−オクテン−1−オール15.3質量%、オクタジエン類0.2質量%、シスもしくはトランスの6−オクテナール0.1質量%、1−オクタナール3.5質量%、1−オクタノール0.7質量%、その他の高沸点化合物0.2質量%であった。
【0113】
[比較評価例6]
銅系触媒前駆体Lを100mL用いる代わりに、日本触媒化成株式会社製「E26L」を100mL用いた以外、評価例10と同様に操作し、同様の方法で評価した。
反応4時間の間において、反応成績に大きな変化はなかった。4時間の平均組成は、2,7−オクタジエン−1−オール0.3質量%、7−オクテナール71.7質量%、2,7−オクタジエナール0.1質量%、7−オクテン−1−オール18.5質量%、オクタジエン類1.0質量%、シスもしくはトランスの6−オクテナール0.1質量%、1−オクタナール2.9質量%、1−オクタノール0.7質量%、その他の高沸点化合物4.7質量%であった。
【0114】
銅系触媒前駆体Lを用いた評価例10と、「E26L」を用いた比較評価例6との対比から明らかなように、水素ガス共存下で異性化反応を実施する場合においても、銅系触媒前駆体Lを用いる場合に、7−オクテナールの収率がより一層高くなった。
【0115】
本発明における銅系触媒前駆体は、これらの一般的用途としての炭素−炭素二重結合の水素化および炭素−酸素二重結合の水素化などに利用できる。より具体的には、以下の実施例10および11において、銅系触媒前駆体を用いた、懸濁床反応方式における7−オクテナールから1−オクタノールへの水素化反応を示す。
【0116】
[実施例10]
SUS316製100mLオートクレーブに、触媒前駆体Aを0.3g、脱水蒸留した1,4−ジオキサン20gを存在せしめ、窒素置換し、大気圧とした。その後、十分に攪拌した状態において、180℃、水素圧力10MPa(G)の状態で触媒前駆体Aを30分還元した。この状態を維持したままで、7−オクテナール40g(0.317mol)を圧送し、反応を開始した。
反応5時間後の生成物をガスクロマトグラフィー法で定量した。反応5時間後には7−オクテナールは検出限界以下であり、生成物として7−オクテン−1−オールおよび1−オクタノールのみが検出できる。これら生成物の収率は下記数式4によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【0117】
【数4】
【0118】
反応5時間後の7−オクテン−1−オール収率は2.4%であり、1−オクタノール収率は97.6%であった。
【0119】
[実施例11]
実施例10において触媒前駆体Bを0.3g用いる以外、同様に反応を行った。反応5時間後には7−オクテナールは検出限界以下であり、7−オクテン−1−オール収率は6.4%であり、1−オクタノール収率は93.6%であった。
【0120】
実施例10および11に示すように、本発明の銅系触媒前駆体は炭素−炭素二重結合および炭素−酸素二重結合の水素化にも利用できる。
【0121】
本発明における銅系触媒前駆体は、炭素−酸素二重結合を有するケトン化合物の水素化に使用できる。より具体的には、以下の実施例12において、銅系触媒前駆体を用いた懸濁床反応方式における、4−メチル−2−ペンタノンから4−メチル−2−ペンタノールへの水素化反応を示す。
【0122】
[実施例12]
実施例10において、7−オクテナールの代わりに4−メチル−2−ペンタノン40g(0.399mol)を用いる以外、同様の方法で反応を行った。40分後の反応液には4−メチル−2−ペンタノール40.31gが含まれており、収率98.8%であった。
【0123】
実施例12に示すように、本発明の銅系触媒前駆体は炭素−酸素二重結合を有するケトン化合物の水素化にも利用できる。