(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明が下記の実施形態に限定されることはない。
本発明の実施形態に係るPAS樹脂組成物は、少なくとも、ポリアリーレンサルファイド樹脂と、充填剤と、エラストマーと、カーボンブラックと、含む。
【0013】
<カーボンブラック>
カーボンブラックは、炭素主体の微粒子である。カーボンブラックとしては、pH5以下のカーボンブラックを用いる。
カーボンブラックをPAS樹脂を含む組成物に添加することでバリを低減することが可能であるが、エラストマーが樹脂組成物に含まれると、カーボンブラックの種類によっては、バリ低減効果が得られにくい場合がある。しかし、pH5以下のカーボンブラックを用いると、PAS樹脂の溶融粘度及び充填剤の含有量についての特定の関係を満たすことと相まって、樹脂組成物がエラストマーを含んでいても、バリ低減効果を発揮することができる。
カーボンブラックのpHは、4.5以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましい。また、カーボンブラックのpHは、例えば、1.0以上である。
カーボンブラックのpHは、JIS K 6221に準拠して、カーボンブラック及び蒸留水の混合液のpHをガラス電極pHメーターにより測定した値である。
【0014】
カーボンブラックとしては、pH5以下のものであればとくに限定されない。カーボンブラックとしては、製法別ではファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等が挙げられ、また、原料別ではガスブラック、オイルブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。また、導電性カーボンブラックとして、ケッチェンブラック等が挙げられる。
pH5以下のカーボンブラックは、カーボンブラックの酸や熱による酸化処理等の方法で得ることができる。また、pH5以下のカーボンブラックの市販品の具体例としては、例えば、アディティア・ビルラ製Raven 3500、アディティア・ビルラ製Raven 7000、三菱化学(株)製#2650、三菱化学(株)製#2350等が挙げられる。
カーボンブラックは1種のみ、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
カーボンブラックの算術平均粒子径は、黒色色調とバリ抑制効果のバランスの観点から、10〜15nmが好ましく、13〜15nmがより好ましい。カーボンブラックの算術平均粒子径が10nm以上である場合には、黒色色調に優れ、15nm以下である場合には、バリ抑制に優れる。カーボンブラックの算術平均粒子径は、カーボンブラック粒子1000個を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径である。
【0016】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、特に限定されないが、160〜600m
2/gであることが好ましい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JISK6217における、窒素吸着量からS−BET式で求めた比表面積である。一般に粒子径が小さいほど、比表面積は大きくなる。
カーボンブラックのDBP(ジブチルフタレート) 吸収量は、特に限定されないが、45〜200cm
2/100gが好ましい。カーボンブラックのDBP吸収量は、カーボンブラック100g が吸収するDBP(ジブチルフタレート)量であり、JIS K6221に記載される方法に準じて測定された値である。一般にストラクチャーが発達しているほど、DBP吸収量が大きくなる。
カーボンブラックの揮発分は、特に限定されないが、7%以下であることが好ましい。カーボンブラックの揮発分は、カーボンブラックを950℃で7分間加熱した際の揮発(減量)分(もとの重量に対する揮発分の重量の割合)である。一般に表面官能基が多いほど、揮発する成分は多くなる。
【0017】
pH5以下のカーボンブラックのPAS樹脂組成物中の含有量は、PAS樹脂100質量部に対して0.2〜2.5質量部である。
カーボンブラックのPAS樹脂組成物中の含有量が、PAS樹脂100質量部に対して0.2質量部以上である場合には、得られる組成物は黒色色調に優れる。カーボンブラックのPAS樹脂組成物中の含有量が、PAS樹脂100質量部に対して2.5質量部以下である場合には、曲げ強さ特性などの機械的物性に優れる。カーボンブラックのPAS樹脂組成物中の含有量は、黒色色調と曲げ強さ特性などの性能のバランスの観点から、PAS樹脂100質量部に対して0.2〜2.0質量部がより好ましく、0.3〜2.0質量部がさらに好ましい。
【0018】
<PAS樹脂>
PAS樹脂は、繰り返し単位−(Ar−S)−(なお、「Ar」はアリーレン基を示す)を主な構成成分とする。PAS樹脂としては、一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0019】
アリーレン基としては、特に限定されないが、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。
PAS樹脂は、一種の繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、複数種の繰返し単位を含んだコポリマーであってもよい。
【0020】
ホモポリマーとしては、例えば、アリーレン基としてp−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするものが好ましく用いられる。p−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするホモポリマーは、高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらには高い寸法安定性を示す。
【0021】
コポリマーとしては、上述したアリーレン基を含むアリーレンサルファイド基の中で、アリーレン基が相異なる2種以上のアリーレンサルファイド基の組み合わせを使用することができる。これらの中では、p−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが、耐熱性、成形性、機械的等の物性上の点から好ましい。また、p−フェニレンサルファイド基を70mol%以上の割合で含むポリマーがより好ましく、80mol%以上の割合で含むポリマーがさらに好ましい。また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できる。
PAS樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
なお、フェニレンサルファイド基を有するPAS樹脂は、PPS樹脂である。PAS樹脂として、PPS樹脂を好ましく使用することができる。
【0022】
PAS樹脂としては、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、架橋構造を有するPAS樹脂、例えば、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造または架橋構造を形成させたポリマーや、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋または熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも挙げられる。
PAS樹脂としては、直鎖構造のPAS樹脂と架橋構造のPAS樹脂とを組み合わせて用いてもよい。
【0023】
PAS樹脂は、従来公知の重合方法により製造することができる。一般的な重合方法により製造されたPAS樹脂は、通常、副生不純物等を除去するために、水あるいはアセトンを用いて数回洗浄した後、酢酸、塩化アンモニウム等で洗浄する。その結果として、PAS樹脂末端には、カルボキシル末端基を所定量の割合で含む。
【0024】
温度310℃、剪断速度1216sec
−1で測定したPAS樹脂の溶融粘度としては、成形時のPAS樹脂組成物の流動性、及びカーボンブラックの分散性の観点から、40〜180Pa・sである。なお、以下において、温度310℃、剪断速度1216sec
−1で測定したPAS樹脂の溶融粘度を、単に「PAS樹脂の溶融粘度」と呼ぶ。
なお、成形時のPAS樹脂組成物の流動性、及び、樹脂組成物でのカーボンブラックの分散性が良好であるとき、カーボンブラックによるバリ低減効果が、より発揮されやすい。
【0025】
PAS樹脂の溶融粘度は、45Pa・s以上であることがより好ましく、50Pa・s以上であることがさらに好ましい。また、PAS樹脂組成物の溶融粘度は、150Pa・s以下であることがより好ましく、130Pa・s以下であることがさらに好ましい。
なお、2種以上のPAS樹脂を用いた時の溶融粘度は、2種以上のPAS樹脂の混合物についての数値である。
【0026】
PAS樹脂の溶融粘度を上記範囲内にする方法としては、例えば、市販のPAS樹脂を適宜選択して混合する方法、ビニルシラン、メタクリロキシシラン、エポキシシラン、アミノシラン、メルカプトシラン等のシランカップリング剤やジスルフィド系化合物などの添加剤により溶融粘度を調整する方法などが挙げられる。
【0027】
<充填剤>
充填剤からは、pH5以下のカーボンブラックは除外される。充填剤は、無機又は有機充填剤のいずれでもよく、これらの組み合わせでもよい。また、繊維状、粉粒状、板状のいずれも形状であってもよく、これらを目的に応じて選択できる。
繊維状充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。尚、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機質繊維物質も使用することができる。
粉粒状充填剤としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトのごとき珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛のごとき金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのごとき金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのごとき金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられる。
また、板状充填剤としてはマイカ、ガラスフレークが挙げられる。
充填剤は1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0028】
充填剤はガラス繊維を含むことが好ましい。
ガラス繊維の繊維径は、特に限定されないが、例えば、5〜20μmであってもよい。ここで、ガラス繊維の繊維径とは、ガラス繊維の繊維断面の長径をいう。
【0029】
ガラス繊維の断面形状は、例えば、真円状、楕円状等であってもよい。また、ガラス繊維の種類についても特に限定されず、例えば、Aガラス、Cガラス、Eガラス等を用いることができるが、その中でもEガラス(無アルカリガラス)を用いることが好ましい。また、そのガラス繊維は、表面処理が施されたものであっても、施されていないものであってもよい。なお、ガラス繊維に対する表面処理としては、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系等の被覆剤或いは集束剤による処理や、アミノシランやエポキシシラン等のシランカップリング剤等による処理が挙げられる。
【0030】
また、ガラス繊維は、通常、これらの繊維を多数本集束したものを所定の長さに切断したチョップドストランド(チョップドガラス繊維)として用いることが好ましい。なお、チョップドガラス繊維のカット長については特に限定されず、例えば1〜10mm程度とすることができる。
【0031】
PAS樹脂組成物中の充填剤の含有量は、PAS樹脂組成物の成形時の流動性、及び、カーボンブラックの分散性、並びにPAS樹脂組成物の機械的物性の観点から、PAS樹脂100質量部に対して10〜80質量部である。
充填剤の含有量を10質量部以上とすることで、カーボンブラックの分散性、及びPAS樹脂組成物の機械的物性を高めることができる。また、80質量部以下とすることで、PAS樹脂組成物の流動性が過度に低下することを防ぐことができる。
PAS樹脂100質量部に対する充填剤の含有量は、20質量部以上であることがより好ましい。また、PAS樹脂100質量部に対する充填剤の含有量は、65質量部未満であることがより好ましい。
【0032】
充填剤の含有量が増加すると、PAS樹脂組成物の成形時の流動性が低くなる傾向がある。また、PAS樹脂の溶融粘度が高くなると、PAS樹脂組成物の成形時の流動性が低くなる傾向がある。したがって、成形時の樹脂組成物の良好な流動性を得るためには、PAS樹脂の溶融粘度と充填剤の量とのバランスをとることがより好ましい。
この観点から、本実施形態において、充填剤の含有量と、PAS樹脂の溶融粘度は、PAS樹脂の溶融粘度が40〜180Pa・sであり、PAS樹脂組成物中の充填剤の含有量が、PAS樹脂100質量部に対して10〜80質量部であり、かつ、下記の式(1)を満たす。下記式(1)において、xは、PAS樹脂100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)を表し、yは、PAS樹脂の溶融粘度(Pa・s)を表す。
y≦−1.087x+216.96 (1)
【0033】
換言すれば、PAS樹脂の溶融粘度、及び、PAS樹脂組成物中の充填剤の含有量が、PAS樹脂100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)をx軸とし、PAS樹脂の溶融粘度(Pa・s)をy軸とするグラフにおいて、x=10(質量部)の直線、x=80(質量部)の直線、y=40(Pa・s)の直線、y=180(Pa・s)の直線、及びy=−1.087x+216.96の直線(以下、「直線1」という場合がある。)で囲まれる五角形の範囲に入る。x=10(質量部)の直線は、x=10及びy=40の点Aでy=40(Pa・s)の直線と交差し、x=10及びy=180の点Bでy=180(Pa・s)の直線と交差する。y=180(Pa・s)の直線は、x=約34(質量部)及びy=180(Pa・s)の点Cで直線1と交差する。x=80(質量部)の直線は、x=80(質量部)及びy=130(Pa・s)の点Dで直線1と交差し、x=80及びy=40(Pa・s)の点Eで、y=40(Pa・s)の直線と交差する。したがって、当該五角形の範囲は、さらに換言すれば、点A及び点Bを結んだ直線と、点B及び点Cを結んだ直線と、点C及び点Dを結んだ直線と、点D及び点Eを結んだ直線と、点E及び点Aを結んだ直線と、によって形成される五角形である。
図1は、この五角形を説明するための概略的グラフであり、PAS樹脂100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)をx軸とし、PAS樹脂の溶融粘度(Pa・s)をy軸とするグラフにおいて、x=10(質量部)の直線、x=80(質量部)の直線、y=40(Pa・s)の直線、y=180(Pa・s)の直線、及び直線1で囲まれる五角形の範囲、及び点A〜Eを概略的に示している。そして、PAS樹脂の溶融粘度、及び、PAS樹脂組成物中の充填剤の含有量が
図1に示す五角形の範囲内であると、成形時のPAS樹脂組成物の流動性、及び、樹脂組成物におけるカーボンブラックの分散性が良好になり、pH5以下のカーボンブラックと相まってバリ低減効果を十分に発揮することができる。なお、
図1は、説明のための概略的なグラフであり、各直線及び点を正確に示すためのものではない。
【0034】
<エラストマー>
エラストマーとしては、特に限定されないが、例えば、オレフィン系共重合体が挙げられる。エラストマーは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
エラストマーを添加すると、樹脂組成物の溶融粘度が大きくなる傾向があるため、エラストマー添加前に比べ、バリは短くなる傾向がある。一方、エラストマーが含まれるとき、カーボンブラックによるバリ低減効果が得られにくい場合がある。しかし、pH5以下のカーボンブラックを用いること、及びPAS樹脂の溶融粘度及び充填剤の含有量についての特定の関係を満たすことで、PAS樹脂組成物中にエラストマーが含まれていても、バリ低減効果を発揮することができる。
【0035】
オレフィン系共重合体としては、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基及びビニル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するオレフィン系共重合体が好ましい。
エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、α−オレフィン由来の構成単位と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位と、を含むオレフィン系共重合体が好ましい。
【0036】
オレフィン系共重合体は、さらに、必要に応じて、他の共重合成分由来の構成単位を含有することができる。例えば、オレフィン系共重合体は、上記の構成単位に加えて、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むのも好ましい。なお、以下、(メタ)アクリル酸エステルを(メタ)アクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0037】
α−オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、特にエチレンが好ましい。α−オレフィンは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。オレフィン系共重合体がα−オレフィン由来の構成単位を含むことで、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて形成される成形品に可撓性を付与しやすい。成形品が可撓性を有する場合、インサート成形品を製造する際に、インサート部材、特に金属インサート部材と樹脂部材との接合強度を高めやすい。
【0038】
α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられ、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。オレフィン系共重合体がα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを含むことで、インサート成形品を製造する際に、インサート部材と樹脂部材との間の接合強度を高めやすい。
【0039】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−オクチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−アミル、メタクリル酸−n−オクチル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。中でも、特にアクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。オレフィン系共重合体が(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むことによって、インサート成形品を製造する際に、インサート部材と樹脂部材との間の接合強度を高めやすい。
【0040】
上記の構成単位を含むエポキシ基含有オレフィン系共重合体は、従来公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。
例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記共重合体を得ることができる。共重合体の種類は、特に問われず、例えば、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、上記オレフィン系共重合体に、例えば、ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸−2エチルヘキシル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリル酸ブチル・スチレン共重合体等が、分岐状に又は架橋構造的に化学結合したオレフィン系グラフト共重合体であってもよい。
【0041】
より具体的には、エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、例えば、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体等が挙げられ、中でも、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体が好ましい。
グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体としては、グリシジルメタクリレートグラフト変性エチレン重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体を挙げることができる。中でも、特に優れた金属樹脂複合成形体が得られることから、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が好ましく、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が特に好ましい。エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体の具体例としては、「ボンドファースト(登録商標)」(住友化学(株)製)等が挙げられる。
グリシジルエーテル変性エチレン共重合体としては、例えば、グリシジルエーテルグラフト変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル−エチレン共重合体を挙げることができる。
【0042】
PAS樹脂組成物中のエラストマーの含有量は、PAS樹脂100質量部に対して2〜16質量部である。PAS樹脂100質量部に対するエラストマーの含有量は、2.5質量以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましい。また、PAS樹脂100質量部に対するエラストマーの含有量は、14質量以下であることがより好ましく、12質量部以下であることがさらに好ましい。
【0043】
<その他の成分>
PAS樹脂組成物は、本発明の効果を害さない範囲で他の樹脂を含んでもよい。また、成形品に所望とする特性を付与するために、例えば、核剤、pH5以下のカーボンブラック以外の顔料(例えば、無機焼成顔料等)、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、及び難燃剤等の添加剤を添加してもよい。このように所望の特性を付与した樹脂組成物も、本発明で用いるPAS樹脂組成物に含まれる。
【0044】
<樹脂組成物の調製>
PAS樹脂組成物は、従来公知の方法により調製することができる。具体的には、例えば、上述した各成分を混合した後、押出機により練り込み押出してペレットを調製する方法、一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し、成形後に目的組成の成形品を得る方法、成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れの方法であっても好適に用いることができる。
PAS樹脂組成物は、曲げ強度(FS)が150MPa以上であることが好ましい。曲げ強度(FS)は、樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、成形シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO316に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製し、この試験片を用い、ISO178に準じて測定した値である。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0046】
[実施例1〜14、比較例1〜22]
<PAS樹脂組成物の製造>
各実施例及び比較例について、表1〜5に示す各原料をドライブレンドして得た混合物を、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入し(充填剤は押し出し機のサイドフィード部より別添加)、溶融混練し、ペレット化した。表に示す各原料の詳細を下記に示す。
【0047】
(1)PAS樹脂
・PPS樹脂1:(株)クレハ製「フォートロン KPS」(溶融粘度:28Pa・s(温度310℃及び剪断速度1216sec
−1))
・PPS樹脂2:(株)クレハ製「フォートロン KPS」(溶融粘度:130Pa・s(温度310℃及び剪断速度1216sec
−1))
・PPS樹脂3:(株)クレハ製「フォートロン KPS」(溶融粘度:7Pa・s(温度310℃及び剪断速度1216sec
−1))
・PPS樹脂4:(株)クレハ製「フォートロン KPS」(溶融粘度:220Pa・s(温度310℃及び剪断速度1216sec
−1))
【0048】
(PAS樹脂の溶融粘度の測定)
PAS樹脂の溶融粘度は、以下のようにして測定した。
東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、剪断速度1216sec
−1での溶融粘度を測定した。
PPS樹脂1〜4の溶融粘度は、個々の樹脂について測定した値である。
表に記載するPAS樹脂の溶融粘度は、組成物中に2種以上のPAS樹脂が用いられている場合には、表に記載される割合で混合したこれら2種以上のPAS樹脂の混合物について測定した値である。
【0049】
(2)充填剤
・ガラス繊維:日本電気硝子(株)製「チョップドストランドECS03T−747H」(平均繊維径:10.5μm)
【0050】
(3)エラストマー
・オレフィン系共重合体:住友化学(株)製「ボンドファースト(登録商標)7L」(グリシジルメタクリレート(GMA)含有量:3質量%)
【0051】
(4)カーボンブラック
・カーボンブラック1(CB1):アディティア・ビルラ製「Raven 3500」(pH:3〜3.5、算術平均粒子径:13nm、比表面積(NSA):375m
2/g、DBP吸収量:105cm
3/100g、揮発分:5質量%)
・カーボンブラック2(CB2):三菱化学(株)製「#750B」(pH:7.5、算術平均粒子径:22nm、比表面積(NSA):124m
2/g、DBP吸収量:116cm
3/100g、揮発分:1質量%)
表中、カーボンブラックの量は、揮発分を含むカーボンブラックとしての量を示す。
なお、上記のカーボンブラックのpH、算術平均粒子径、比表面積(NSA)、DBP吸収量、及び揮発分は、カーボンブラックの項で述べた方法で測定された値である。
【0052】
(5)離型剤
・ペンタエリスリトールステアリン酸エステル:日油(株)製「ユニスター(登録商標)H476」
【0053】
<評価>
下記の評価を行った。結果を表1〜5に示す。
(1)バリ長さ
各樹脂組成物ペレットについて、一部に20μmの金型間隙を有するバリ測定部が外周の一部に設けられている円板状キャビティーの金型を用いて射出成形し、その部分に発生するバリ長さを画像測定機にて計測し、解析することによって、バリ長さを求めた。成形条件は以下の通りであり、各々5ショットずつ成形してその平均値を示した。
金型温度: 150℃
シリンダー温度: 320℃
射出圧力: キャビティーが完全に充填するに充分な最少圧力
【0054】
(2)組成物の溶融粘度(MV)
PAS樹脂組成物の溶融粘度(MV)は、東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、剪断速度1000sec
−1での溶融粘度を測定した。
【0055】
(3)曲げ強さ(FS)
各樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、成形シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO316に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製した。この試験片を用い、ISO178に準じて曲げ強さ(MPa)を測定した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
実施例1〜14のPAS樹脂組成物は、いずれも、比較例の樹脂組成物に比べ、短いバリ長さを示した。
これに対して、PAS樹脂の溶融粘度が低い比較例7及び20〜22では、180μm以上の長さのバリが生じており、加えて、比較例7、20及び22では、曲げ強度(FS)がそれぞれ90MPa、125MPa、107MPaと小さかった。比較例8〜10では、PAS樹脂組成物の流動性が低く、成形を行うことができなかった。
また、実施例1〜5、8〜14は、それぞれ、カーボンブラックのpHが5より大きい点のみ異なる比較例1〜5、13〜19に比べて、短いバリ長さを示した。
で測定した溶融粘度が40〜180Pa・sであるポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部と、充填剤10〜80質量部と、エラストマー2〜16質量部と、pH5以下のカーボンブラック0.2〜2.5質量部と、を含み、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対する充填剤の量(質量部)をxとし、ポリアリーレンサルファイド樹脂の温度310℃、剪断速度1216sec