(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記強塩基として、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウム、アルキルアミン、水酸化第四級ホスホニウムおよびアンモニアからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨用組成物製造用キット。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
この明細書によると、砥粒としてのシリカ粒子、強塩基および弱酸塩を少なくとも含む研磨用組成物を製造するための研磨用組成物製造用キットが提供される。以下では、上記研磨用組成物の構成成分についてまず説明し、次いでそれらの構成成分を2以上の複数の剤に分けて含む研磨用組成物製造用キットについて説明する。
【0021】
<砥粒>
ここに開示される技術は、砥粒としてシリカ粒子を用いる研磨用組成物および該組成物を製造するためのキットに好ましく適用され得る。シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物では、砥粒としてシリカ粒子を用いることが特に有意義である。その理由は、研磨対象物(シリコンウエハ)と同じ元素と酸素原子とからなるシリカ粒子を砥粒として使用すれば研磨後にシリコンとは異なる金属または半金属の残留物が発生せず、シリコンウエハ表面の汚染や研磨対象物内部にシリコンとは異なる金属または半金属が拡散することによるシリコンウエハとしての電気特性の劣化などの虞がなくなるからである。かかる観点から好ましいキットの一形態として、砥粒としてシリカ粒子のみを含有するキットが例示される。また、シリカは高純度のものが得られやすいという性質を有する。このことも砥粒としてシリカ粒子が好ましい理由として挙げられる。シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。研磨対象物表面にスクラッチが生じにくいという観点から、好ましいシリカ粒子としてコロイダルシリカおよびフュームドシリカが挙げられる。なかでもコロイダルシリカが好ましい。例えば、シリコンウエハの予備ポリシングまたはファイナルポリシングに用いられる研磨用組成物を製造するためのキットの砥粒として、コロイダルシリカを好ましく採用し得る。
【0022】
シリカ粒子を構成するシリカの真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大によって、高い研磨速度(単位時間当たりに研磨対象物の表面を除去する量)が得られやすくなる。また、研磨対象物の表面粗さまたは段差を低減する効果が高くなる傾向にある。これらの観点から、真比重が2.0以上(例えば2.1以上)のシリカ粒子が特に好ましい。シリカの真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.3以下、例えば2.2以下である。シリカの真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0023】
上記砥粒は、一次粒子の形態であってもよく、複数の一次粒子が凝集した二次粒子の形態であってもよい。また、一次粒子の形態の砥粒と二次粒子の形態の砥粒とが混在していてもよい。好ましい一態様では、少なくとも一部の砥粒が二次粒子の形態である。
【0024】
砥粒の平均一次粒子径は特に制限されないが、研磨効率等の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上である。より高い研磨効果を得る観点から、平均一次粒子径は、25nm以上が好ましく、30nm以上がさらに好ましい。平均一次粒子径が40nm以上の砥粒を用いてもよく、さらに50nm以上の砥粒を用いてもよい。また、保存安定性(例えば分散安定性)の観点から、砥粒の平均一次粒子径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは70nm以下、例えば60nm以下である。
【0025】
なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法により測定される比表面積S(m
2/g)から、平均一次粒子径(nm)=2727/Sの式により算出することができる。砥粒の比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0026】
砥粒の平均二次粒子径は特に限定されないが、研磨速度等の観点から、好ましくは15nm以上、より好ましくは25nm以上である。より高い研磨効果を得る観点から、平均二次粒子径は、40nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。また、保存安定性(例えば分散安定性)の観点から、砥粒の平均二次粒子径は、200nm以下が適当であり、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。砥粒の平均二次粒子径は、例えば、日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0027】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす砥粒の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。例えば、砥粒の多くがピーナッツ形状をした砥粒を好ましく採用し得る。
【0028】
特に限定するものではないが、砥粒の一次粒子の長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。砥粒の平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨速度が実現され得る。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0029】
上記砥粒の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)の砥粒粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0030】
ここに開示される研磨用組成物における砥粒の含有量は特に制限されない。
後述するように、そのまま研磨液として研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物(典型的にはスラリー状の研磨液であり、ワーキングスラリーまたは研磨スラリーと称されることもある。)の場合、砥粒の含有量は、典型的には0.05重量%以上であり、0.1重量%以上であることが好ましく、0.2重量%以上であることがより好ましい。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。砥粒の含有量は、0.3重量%以上であってもよく、さらに0.5重量%以上であってもよい。また、分散安定性等の観点から、上記含有量は、通常は10重量%以下が適当であり、好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下、例えば1重量%以下である。
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液)の場合、砥粒の含有量は、例えば50重量%以下とすることができる。分散安定性や濾過性等の観点から、通常、砥粒の含有量は、45重量%以下が好ましく、より好ましくは40重量%以下である。好ましい一態様において、砥粒の含有量を30重量%以下としてもよく、20重量%以下(例えば15重量%以下)としてもよい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、砥粒の含有量は、例えば0.5重量%以上とすることができ、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上(例えば5重量%以上)である。
【0031】
<強塩基>
強塩基としては、シリカ粒子を用いる研磨において使用し得ることが知られている各種の塩基から、弱酸塩との組合せで所望の緩衝作用を発揮し得るものを適宜選択することができる。強塩基は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好適例として、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウム、水酸化第四級ホスホニウム、アミン(好ましくは水溶性アミン)およびアンモニアが挙げられる。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。水酸化第四級アンモニウムの具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。水酸化第四級ホスホニウムの具体例としては、水酸化テトラメチルホスホニウム、水酸化テトラエチルホスホニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。
【0032】
ここに開示される技術における強塩基としては、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウム、アルキルアミン、水酸化第四級ホスホニウムおよびアンモニアからなる群から選択される少なくとも1種を好ましく採用することができる。なかでも好ましい強塩基として、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。TMAHが特に好ましい。
【0033】
ここに開示される研磨用組成物における強塩基の含有量は特に限定されず、pHが適切な範囲内となるように設定することができる。
例えば、そのまま研磨液として用いられる研磨用組成物の場合、該研磨用組成物1リットル(L)あたりに含まれる強塩基のモル量は、通常、0.0001モル以上とすることが適当であり、研磨速度の観点から、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.005モル以上である。一時的なpH上昇等によるシリカ粒子の溶解を防ぐ観点から、研磨用組成物に含まれる強塩基のモル量は、通常、1モル/L以下とすることが適当であり、0.5モル/L以下とすることが好ましい。
また、希釈して研磨液として用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液)の場合、強塩基のモル量は、例えば0.001〜10モル/Lとすることができ、0.01〜5モル/Lとすることが好ましい。
なお、本明細書中における強塩基としては、水溶液または研磨液中において実質的に完全に解離可能な化合物を好ましく採用し得る。強塩基の種類や使用量は、典型的には、水溶液または研磨液中において該強塩基が実質的に完全に解離し得るように選択される。
【0034】
<弱酸塩>
ここに開示される技術における弱酸塩としては、シリカ粒子を用いる研磨に使用可能であって、強塩基との組合せで所望の緩衝作用を発揮し得るものを適宜選択することができる。弱酸塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
例えば、弱酸塩を構成するアニオン成分として、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ホウ酸イオン、リン酸イオン、珪酸イオン、フェノールイオン、モノカルボン酸イオン(例えば酢酸イオン)、ジカルボン酸イオン(例えばシュウ酸イオン、マレイン酸イオン)およびトリカルボン酸イオン(例えばクエン酸イオン)等が挙げられる。また、塩を構成するカチオン成分の例としては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;マンガンイオン、コバルトイオン、亜鉛イオン等の遷移金属イオン;テトラアルキルアンモニウムイオン等のアンモニウムイオン;テトラアルキルホスホニウムイオン等のホスホニウムイオン;等が挙げられる。弱酸塩の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、オルト珪酸ナトリウム、オルト珪酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酢酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸コバルト等が挙げられる。
【0035】
シリカ粒子を用いた研磨(例えば、シリコンウエハの研磨)に適したpH域において良好な緩衝作用を示す研磨用組成物を得る観点から、酸解離定数(pKa)値の少なくとも一つが8.0〜11.8(例えば、8.0〜11.5)の範囲にある弱酸塩が有利である。好適例として、炭酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩、リン酸塩、珪酸塩およびフェノール塩が挙げられる。なかでも、アニオン成分が炭酸イオンまたは炭酸水素イオンである弱酸塩が好ましい。また、カチオン成分としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属イオンが好適である。特に好ましい弱酸塩として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムが挙げられる。なかでも炭酸カリウムが好ましい。pKaの値としては、公知資料に記載された25℃における酸解離定数の値を採用することができる。
【0036】
ここに開示される研磨用組成物における弱酸塩の含有量(濃度)は特に限定されない。弱酸塩の含有量は、この弱酸塩との関係で緩衝作用を発揮する強塩基の含有量等を考慮して、pH維持性を向上させる効果が適切に発揮されるように設定することができる。
【0037】
好ましい一態様において、研磨用組成物1リットル(L)当たりに含まれる弱酸塩(好適にはアルカリ金属炭酸塩)の含有量は、該研磨用組成物のpH維持性の観点から、0.0001モル以上とすることが適当であり、より好ましくは0.0002モル以上、さらに好ましくは0.0003モル以上である。また、研磨用組成物の分散安定性等の観点から、研磨用組成物1リットルあたりに含まれる弱酸塩の含有量としては、通常、1.0モル以下が適当である。そのまま研磨液として用いられる研磨用組成物では、該組成物1リットル当たりに含まれる弱酸塩の含有量は、0.1モル以下とすることが好ましく、好ましくは0.05モル以下、さらに好ましくは0.02モル以下である。
【0038】
特に限定するものではないが、強塩基として水酸化第四級アンモニウム(例えばTMAH)を使用し、弱酸塩としてアルカリ金属炭酸塩(例えば炭酸カリウム)を使用する場合、研磨用組成物に含まれるアルカリ金属炭酸塩のモル量m
Cに対する水酸化第四級アンモニウムのモル量m
Tの比(m
T/m
C)を、例えば0.5〜5とすることができる。通常は、(m
T/m
C)を1〜3とすることが適当であり、1.3〜2.7とすることが好ましく、1.3〜2.3(例えば1.7〜2.3)とすることがより好ましい。これにより、緩衝作用が効果的に発揮され、pH維持性を高める効果が好適に実現され得る。
【0039】
<水>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99〜100体積%)が水であることがより好ましい。
【0040】
<その他の成分>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、水溶性高分子、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には、シリコンウエハのポリシング工程に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。ここに開示される技術はまた、研磨用組成物が水溶性高分子やキレート剤を実質的に含まない態様で実施されてもよい。
【0041】
研磨用組成物に水溶性高分子を含有させることにより、研磨後の研磨対象物のロールオフ(端面ダレ)低減等の効果が実現され得る。水溶性高分子の例としては、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ビニルアルコール系ポリマー等が挙げられる。具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース、プルラン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、本明細書中において共重合体とは、特記しない場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等の各種の共重合体を包括的に指す意味である。
【0042】
水溶性高分子について、より詳しく説明する。
セルロース誘導体の具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。なかでもHECが好ましい。
デンプン誘導体の具体例としては、プルラン、アルファ化デンプン、シクロデキストリンなどが挙げられる。なかでもプルランが好ましい。
【0043】
オキシアルキレン単位を含むポリマーの例としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体やランダム共重合体、EOとブチレンオキサイド(BO)とのブロック共重合体やランダム共重合体等が挙げられる。そのなかでも、EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体が好ましい。EOとPOとのブロック共重合体の一好適例として、PEO−PPO−PEO型のトリブロック共重合体が挙げられる。
【0044】
窒素原子を含有するポリマーとしては、主鎖に窒素原子を含有するポリマーおよび側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有するポリマーのいずれも使用可能である。
主鎖に窒素原子を含有するポリマーの例としては、N−アセチルエチレンイミンやN−プロピオニルエチレンイミン等のN−アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。
【0045】
ペンダント基に窒素原子を有するポリマーの例としては、N−ビニルラクタムやN−ビニル鎖状アミド等のようなN−ビニル型のモノマー単位を含むポリマー、N−(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー等が挙げられる。ここで「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。
【0046】
N−ビニルラクタムの具体例としては、N−ビニルピロリドン(VP)、N−ビニルピペリドン、N−ビニルモルホリノン、N−ビニルカプロラクタム(VC)、N−ビニル−1,3−オキサジン−2−オン、N−ビニル−3,5−モルホリンジオン等が挙げられる。また、N−ビニル鎖状アミドの具体例としては、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルプロピオン酸アミド、N−ビニル酪酸アミド等が挙げられる。N−ビニルラクタム型のモノマー単位を含むポリマーの具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、VPとVCとのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方と他のビニルモノマー(例えば、アクリル系モノマー、ビニルエステル系モノマー等)とのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方を含むポリマーセグメントを含むブロック共重合体やグラフト共重合体(例えば、ポリビニルアルコールにポリビニルピロリドンがグラフトしたグラフト共重合体)等が挙げられる。
N−ビニル型のモノマー単位を含むポリマーの好適例として、ビニルピロリドン系ポリマーが挙げられる。ここでビニルピロリドン系ポリマーとは、VPの単独重合体およびVPの共重合体(例えば、VPの共重合割合が50重量%を超える共重合体)をいう。ビニルピロリドン系ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるVP単位のモル数の割合は、通常は50%以上であり、80%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)であることが適当である。水溶性高分子の全繰返し単位が実質的にVP単位から構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、典型的には、全繰返し単位の98%以上がVP単位であることをいう。
【0047】
N−(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、N−(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体(典型的には、N−(メタ)アクリロイル型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が含まれる。N−(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N−(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN−(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。
【0048】
N−(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド等のN−モノアルキル(メタ)アクリルアミド;N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(1−エチル−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−クロロエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,2,2−トリクロロ−1−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−[3−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノプロピル](メタ)アクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−2−ジメチルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−メチル−2−フェニル−3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−モルホリノエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−アミノ−1,2−ジシアノエチル)(メタ)アクリルアミド等の置換N−モノアルキル(メタ)アクリルアミド;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(n−ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N−(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N−イソプロピルアクリルアミドの単独重合体およびN−イソプロピルアクリルアミドの共重合体(例えば、N−イソプロピルアクリルアミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。
【0049】
N−(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。N−(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、アクリロイルモルホリン系ポリマーが挙げられる。アクリロイルモルホリン系ポリマーの典型例として、N−アクリロイルモルホリン(ACMO)の単独重合体およびACMOの共重合体(例えば、ACMOの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。アクリロイルモルホリン系ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるACMO単位のモル数の割合は、通常は50%以上であり、80%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)であることが適当である。水溶性高分子の全繰返し単位が実質的にACMO単位から構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、典型的には、全繰返し単位の98%以上がACMO単位であることをいう。
【0050】
ビニルアルコール系ポリマーは、典型的には、主たる繰返し単位としてビニルアルコール単位(VA単位)を含むポリマーである。当該ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合(すなわち、けん化度)は特に限定されない。上記VA単位のモル数の割合は、通常、50%以上であることが好ましく、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、例えば75%以上である。VA単位以外の繰返し単位の種類は特に限定されず、例えば酢酸ビニル単位、プロピオン酸ビニル単位、ヘキサン酸ビニル単位等が挙げられる。全繰返し単位が実質的にVA単位から構成されているビニルアルコール系ポリマー(ポリビニルアルコール)であってもよい。ここで「実質的に」とは、典型的には、全繰返し単位の98%以上がVA単位であることをいう。
【0051】
ここに開示される研磨用組成物に水溶性高分子を含有させることにより実現され得る効果として、研磨後の研磨対象物(例えばシリコンウエハ)の表面形状を制御する効果が挙げられる。例えば、研磨により外周部(エッジ近傍)の厚さが不所望に減少する事象(ロールオフ)を抑制し、研磨後における上記外周部の平坦度を向上させる効果が実現され得る。このような効果を得る観点から好ましい水溶性高分子として、ビニルピロリドン系ポリマーが挙げられる。なかでもポリビニルピロリドンが好ましい。
【0052】
水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は特に限定されず、例えば150×10
4以下、通常は100×10
4以下が適当である。研磨用組成物の濾過性や洗浄性等の観点から、水溶性高分子のMwは、50×10
4以下が好ましく、30×10
4以下がより好ましく、15×10
4以下(例えば8×10
4以下)がさらに好ましい。また、研磨後の表面保護性向上の観点から、通常は、Mwが1×10
4以上(例えば3×10
4以上)の水溶性高分子を好ましく採用し得る。
水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係は特に制限されない。凝集物の発生防止等の観点から、分子量分布(Mw/Mn)が10.0以下であるものが好ましく、5.0以下であるものがより好ましく、3.0以下であるものがさらに好ましい。
なお、水溶性高分子のMwおよびMnとしては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。
【0053】
特に限定するものではないが、砥粒100重量部に対する水溶性高分子の含有量は、例えば0.01重量部以上とすることができ、より高い効果を得る観点から0.05重量部以上とすることが適当であり、0.1重量部以上が好ましく、0.3重量部以上(例えば0.5重量部以上)がより好ましい。また、砥粒100重量部に対する水溶性高分子の含有量は、例えば40重量部以下とすることができ、研磨速度や洗浄性等の観点から20重量部以下が適当であり、15重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましい。
【0054】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸およびα−メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン六酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。キレート剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
防腐剤および防カビ剤の例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0056】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、種々の材質および形状を有する研磨対象物の研磨に適用され得る。研磨対象物の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された研磨対象物であってもよい。なかでも、シリコンからなる表面を備えた研磨対象物の研磨に好適である。例えば、シリコンウエハのラッピング工程、予備ポリシング工程、ファイナルポリシング工程等に適用することができる。
研磨対象物の形状は特に制限されない。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、板状や多面体状等の、平面を有する研磨対象物の研磨に好ましく適用され得る。
【0057】
<研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、希釈(典型的には、水により希釈)して研磨液として使用されるものであってもよく、そのまま研磨液として使用されるものであってもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨に用いられる濃縮液(ワーキングスラリーの原液)との双方が包含される。上記濃縮液の濃縮倍率は、例えば、体積基準で2倍〜100倍程度とすることができ、通常は5倍〜50倍程度が適当である。
【0058】
研磨用組成物のpHは、典型的には8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上、例えば10.0以上である。研磨液のpHが高くなると研磨速度が向上する傾向にある。一方、砥粒としてのシリカ粒子の溶解を防ぎ、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、研磨液のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.8以下であることが好ましく、11.5以下であることがより好ましく、11.0以下であることがさらに好ましい。
なお、研磨用組成物のpHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F−23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨液用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。研磨用組成物製造用キットを構成する各剤のpHや、上述した混合液の初期pH等についても同様である。
【0059】
<研磨用組成物製造用キット>
ここに開示される研磨用組成物製造用キットは、上述のような研磨用組成物の構成成分を2以上の複数の剤に分けて含む。これら複数の剤は、上記キットにおいて互いに別々に保管されている。製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、上記キットは、これら複数の剤および希釈溶媒(好ましくは水)を混合することによって研磨用組成物を製造し得るように構成されていることが好ましい。特に限定するものではないが、このとき使用する希釈溶媒の量は、体積基準で、上記キットに含まれる複数の剤の合計体積の1倍以上とすることができる。すなわち、上記キットは、上記研磨用組成物に対する濃縮倍率が2倍以上であり得る。この濃縮倍率は、例えば2〜100倍程度とすることができ、通常は5倍〜60倍程度が適当である。好ましい一態様に係るキットでは、上記濃縮倍率が10倍〜50倍であり、例えば15倍〜40倍である。
【0060】
ここに開示されるキットを構成する剤の数は特に制限されない。製造される研磨用組成物の品質を安定化するとともに該研磨用組成物の製造過程を単純化する観点から、通常は、上述した必須成分(砥粒、強塩基および弱酸塩)が2剤または3剤に分かれた構成のキットとすることが好ましい。必要に応じて用いられる任意成分は、これら必須成分を含む剤のいずれか1以上の剤に添加されていてもよく、これらの剤とは別の剤として添付されていてもよい。
【0061】
上記キットを構成する複数の剤は、それら複数の剤を一つに合わせて混合液を調製した場合における該混合液の初期pHが8.0以上11.8以下(例えば、8.0以上11.5以下)となるように構成されていることが好ましい。すなわち、上記初期pHを満たすように、上記キットに含まれる複数の剤の間に研磨用組成物の構成成分が分配されていることが好ましい。このようなキットによると、良好なpH維持性を示す研磨用組成物が好適に製造され得る。また、該キットを用いて研磨用組成物を製造する過程でシリカ粒子が一時的に過剰に高いpH(例えば12以上)に曝される事象が生じにくいので、シリカ粒子の溶解を効果的に防止することができる。このことは研磨速度の向上に有利である。上記混合液の初期pHが9.0以上11.0以下(好ましくは9.5以上11.0以下、より好ましくは10.0以上10.8以下、例えば10.2以上10.8以下)となるように構成されたキットによると、上述した効果の一または二以上がよりよく発揮され得る。
【0062】
ここで、上記混合液の初期pHとは、25℃程度の環境下で上記複数の剤を一つに合わせて約30分間攪拌したサンプルについて、3時間以内に測定されるpHをいう。上記複数の剤を一つに合わせる操作は、当該操作を開始してから終了するまでの時間が1時間以内となるように行うものとする。この操作は、例えば、少なくとも一つの剤を含む第1組成物を、残りの剤を含む第2組成物に添加する操作であり得る。上記第1組成物は、上記第2組成物への添加開始から終了までの時間が1時間以内となる限り、一度に添加してもよく、何度かに分けて添加してもよく、連続的に添加してもよい。
【0063】
複数の剤および希釈溶媒(例えば水)を用いて研磨用組成物を製造するように構成されているキットにおいては、この研磨用組成物と同程度の量比で希釈溶媒を含むように調製した混合液の初期pHが上記範囲にあることが好ましい。このような混合液は、例えば、複数の剤のうち少なくとも一つの剤を水で希釈して第2組成物を調製し、残りの剤からなる第1組成物を上記第2組成物に加えて攪拌混合することにより調製することができる。
【0064】
なお、上記混合液の調製条件およびその初期pHは、ここに開示されるキットの特性を示す指標であって、該キットの実際の使用態様を制限するものではない。したがって、ここに開示されるキットを用いた研磨用組成物の製造において、該キットに含まれる複数の剤を混合する態様は特に限定されない。例えば、全ての剤の全量を一度に混合することができる。あるいは、一部の剤の全量または一部の量を、他の剤とは異なるタイミングで添加してもよい。また、上記キットに含まれる複数の剤を合わせる操作を行う時間にも特に制限はない。各剤は、適宜希釈してから混合してもよい。上記混合には、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いることができる。
【0065】
ここに開示される研磨用組成物製造用キットの一好適例として、上記必須成分をA剤とB剤とに分けて含むキットが挙げられる。このようなキットは、典型的にはA剤およびB剤からなる2剤型のキットとして構成され得る。あるいは、必要に応じて用いられる任意成分を含む他の剤をさらに備えた3剤型以上のキットとして構成されてもよい。
水溶性高分子を含む研磨用組成物を製造するための研磨用組成物製造用キットを上記のような2剤型または3剤型以上のキットとして構成する場合、上記水溶性高分子は、A剤に含まれてもよく、B剤に含まれてもよく、A剤およびB剤の両方に含まれていてもよく、A剤およびB剤以外の剤に含まれていてもよい。
【0066】
<A剤>
A剤は、少なくとも砥粒(ここではシリカ粒子)を含み、さらに強塩基を含むことが好ましい。A剤に含まれるシリカ粒子は、研磨用組成物に含まれるシリカ粒子の全量であってもよく、一部の量であってもよい。例えば、シリカ粒子の全量がA剤に含まれている態様が好ましい。
【0067】
A剤における砥粒(シリカ粒子)の含有量Ws
A[重量%]は、例えば0.1重量%以上とすることができ、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上である。製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、通常は、Ws
Aを1重量%以上とすることが適当であり、3重量%以上、さらには5重量%以上としてもよい。また、分散安定性等の観点から、Ws
Aは、通常は50重量%以下が適当であり、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下、例えば10重量%以下である。
【0068】
A剤が強塩基を含む場合、該強塩基の量は、研磨用組成物に含まれる強塩基の全量であってもよく、一部の量であってもよい。例えば、強塩基の一部の量がA剤に含まれている態様が好ましい。強塩基の残りの量は、B剤に含まれていてもよく、A剤およびB剤以外の剤に含まれていてもよく、A剤以外の2以上の剤に分けて含まれていてもよい。A剤に含まれる強塩基のモル量は、研磨用組成物に含まれる強塩基の全モル量のうち、例えば25%以上とすることができ、通常は30%以上とすることが適当であり、40%以上とすることが好ましく、55%以上(例えば65%以上、さらには70%以上)とすることがより好ましい。このことによって、よりpH維持性の良い研磨用組成物を与えるキットが実現され得る。
【0069】
砥粒としてのシリカ粒子の溶解を防ぎ、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、A剤のpHは、12.0以下とすることが適当であり、好ましくは12.0未満、より好ましくは11.8以下、例えば11.6以下である。A剤のpHの下限は特に限定されないが、分散安定性の観点から、通常は、7.5以上が好ましく、8.0以上がさらに好ましい。研磨用組成物のpH維持性や研磨速度等の観点から、通常は、A剤のpHを9.0以上とすることが有利であり、10.0以上とすることが好ましく、10.5以上(例えば11.0以上)とすることがより好ましい。A剤における強塩基の含有量Wb
A[重量%]は、上述した好ましいpHが実現されるように設定することができる。
【0070】
ここに開示される技術において、Ws
A[重量%]に対するWb
A[重量%]の比(Wb
A/Ws
A)は、特に限定されない。良好なpH維持性を示す研磨用組成物を得る観点から、通常は、(Wb
A/Ws
A)を0.15以上とすることが適当であり、0.20以上とすることが好ましく、0.22以上とすることがより好ましい。好ましい一態様において、(Wb
A/Ws
A)を0.25以上1.00以下とすることができる。かかる態様によると、pH維持性および研磨速度の一方または両方がより改善された研磨用組成物が製造され得る。A剤の分散安定性等の観点から、(Wb
A/Ws
A)は、0.80以下とすることが有利であり、0.60以下とすることが好ましく、0.50以下(例えば0.45以下)とすることがより好ましい。
【0071】
<B剤>
B剤は、少なくとも弱酸塩(好適にはアルカリ金属炭酸塩)を含む。B剤に含まれる弱酸塩は、研磨用組成物に含まれる弱酸塩の全量であってもよく、一部の量であってもよい。例えば、弱酸塩の全量がB剤に含まれている態様が好ましい。
【0072】
B剤における弱酸塩の含有量は特に限定されない。B剤の1リットル当たりに含まれる弱酸塩のモル量、すなわちB剤の弱酸塩濃度Ma
B[モル/L]は、例えば0.0001モル/L以上とすることができ、好ましくは0.0005モル/L以上、よりに好ましくは0.001モル/L以上である。キットの製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、Ma
B[モル/L]は、0.01モル/L以上とすることができ、0.05モル/L以上としてもよく、さらに0.1モル/L以上としてもよい。Ma
B[モル/L]の上限は、弱酸塩が安定して溶解し得るように設定すればよい。例えば、Ma
B[モル/L]を5モル/L以下とすることができ、通常は2モル/L以下(例えば1モル/L以下)とすることが適当である。
【0073】
ここに開示される技術は、B剤が弱酸塩に加えて強塩基を含む態様で好ましく実施され得る。このように弱酸塩と強塩基とを組み合わせて含む組成のB剤は、緩衝作用を示すものとなり得る。B剤を緩衝溶液として形成することにより、該B剤またはその希釈液と他の剤(例えばA剤)とを混合したときに該混合液のpHが一時的に大きく上昇する事象(pHが跳ね上がる事象)を有意に抑制することができる。これにより、混合液の初期pHが11.8以下に抑えられたキットが構成されやすくなるので好ましい。
【0074】
B剤が強塩基を含む場合、該強塩基の量は、研磨用組成物に含まれる強塩基の全量であってもよく、一部の量であってもよい。例えば、強塩基の一部の量がB剤に含まれている態様が好ましい。強塩基の残りの量は、A剤に含まれていてもよく、A剤およびB剤以外の剤に含まれていてもよく、B剤以外の2以上の剤に分けて含まれていてもよい。
【0075】
ここに開示される技術において、B剤の弱酸塩濃度Ma
B[モル/L]に対する強塩基の濃度Mb
B[モル/L]の比(Mb
B/Ma
B)は、特に限定されず、例えば0以上1.00以下とすることができる。ここで、(Mb
B/Ma
B)が0であるとは、B剤が強塩基を含有しないことを意味する。上記混合液の初期pHが過剰に高くなる事象を回避する観点から、通常は、(Mb
B/Ma
B)を0より大きく1.00以下とすることが適当であり、0.05以上1.00以下、例えば0.05以上0.95以下とすることが好ましい。好ましい一態様において、(Mb
B/Ma
B)を例えば0.10以上0.90以下とすることができる。かかる態様によると、pH維持性および研磨速度の一方または両方がより改善された研磨用組成物が製造され得る。(Mb
B/Ma
B)を0.10以上0.80以下としてもよく、さらに0.20以上0.60以下としてもよい。このような組成のB剤によると、特に良好な結果が実現され得る。
【0076】
ここに開示される技術は、研磨用組成物に含まれる強塩基の全量のうち、一部がA剤に含まれ、残りの全部がB剤に含まれる態様で好ましく実施され得る。すなわち、研磨用組成物に含まれる強塩基の全量がA剤およびB剤に分配されている研磨用組成物製造用キットが好ましい。この場合において、A剤に含まれる強塩基のモル量は、研磨用組成物に含まれる強塩基の全モル量のうち、例えば25%〜98%とすることができ、通常は30%〜95%とすることが適当である。このことによって、これらA剤およびB剤を用いた研磨用組成物の製造過程においてpHが過剰に上昇することを回避し、砥粒の消耗を防いで機械的な研磨作用を適切に発揮させることができる。また、pH維持性および研磨速度の一方または両方がより改善された研磨用組成物が製造され得る。これらの観点から、A剤に含まれる強塩基のモル量を、研磨用組成物に含まれる強塩基の全モル量の40%〜90%とすることが好ましく、55%〜85%(例えば65〜85%、さらには70%〜80%)とすることがより好ましい。このことによって、よりpH維持性の良い研磨用組成物を与えるキットが実現され得る。
【0077】
このような構成のA剤およびB剤を含むキットを用いて研磨用組成物を製造する態様は特に制限されない。好ましい一態様では、これらA剤およびB剤と水等の希釈溶媒とを用いて研磨用組成物を製造する。かかる研磨用組成物の製造にあたっては、A剤とB剤とをそのまま混合した後に希釈してもよく、A剤およびB剤のうち一方の剤を希釈した後に他方の剤と混合してもよく、両方の剤をそれぞれ希釈した後に混合してもよい。
【0078】
上記A剤およびB剤を含むキットを用いた研磨用組成物の製造は、例えば、A剤を含む第1組成物を、B剤を含む第2組成物に添加することを含む態様で好ましく実施することができる。上記第1組成物は、A剤そのものであってもよく、A剤を水等の希釈溶媒で希釈したものや、A剤に他の剤を添加して調製されたものであってもよい。上記第2組成物は、B剤そのものであってもよく、B剤を水等の希釈溶媒で希釈したものや、B剤に他の剤を添加して調製されたものであってもよい。好ましい一態様として、まずB剤を水で希釈して第2組成物を調製し、この第2組成物にA剤を含む第1組成物(A剤そのものであり得る。)を添加する態様が挙げられる。かかる態様によると、第1組成物に含まれるシリカ粒子の凝集が好適に防止され得る。また、第1組成物と第2組成物とを合わせたときのpHの跳ね上がりを抑制しやすいので好ましい。
【0079】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物製造用キットは、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に使用することができる。
すなわち、ここに開示されるいずれかのキットを用いて製造された研磨用組成物(ワーキングスラリー)を用意する。次いで、その研磨用組成物を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨用組成物を供給する。典型的には、上記研磨用組成物を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0080】
上記研磨工程で使用される研磨パッドは特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。また、上記研磨装置としては、研磨対象物の両面を同時に研磨する両面研磨装置を用いてもよく、研磨対象物の片面のみを研磨する片面研磨装置を用いてもよい。
【0081】
特に限定するものではないが、ここに開示されるキットを用いて製造した研磨用組成物は、その製造後、比較的短期間のうち研磨に使用することが好ましい。このことによって、該研磨用組成物を製造するためのキットを多剤型(すなわち、複数の剤を備える構成)とすることの利点をよりよく活かすことができる。研磨用組成物の製造から使用までの期間は、例えば2週間以内とすることができ、通常は3日以内とすることが適当であり、24時間以内とすることが好ましく、12時間以内とすることがより好ましい。上記期間を3時間以内としてもよく、さらには1時間以内としてもよい。あるいは、キットを用いた上記研磨用組成物の製造を連続的に行いつつ、製造された研磨用組成物を研磨対象物に供給してもよい。
【0082】
上記研磨用組成物は、いったん研磨に使用したら使い捨てにする態様(いわゆる「かけ流し」)で使用されてもよいし、循環して繰り返し使用されてもよい。研磨用組成物を循環使用する方法の一例として、研磨装置から排出される使用済みの研磨用組成物をタンク内に回収し、回収した研磨用組成物を再度研磨装置に供給する方法が挙げられる。研磨用組成物を循環使用する場合には、かけ流しで使用する場合に比べて、廃液として処理される使用済みの研磨用組成物の量が減ることにより環境負荷を低減できる。また、研磨用組成物の使用量が減ることによりコストを抑えることができる。ここに開示される研磨用組成物は、pH維持性に優れることから、このように循環使用される使用態様に好適である。かかる使用態様によると、本発明の構成を採用することの意義が特によく発揮され得る。ここに開示される研磨用組成物を循環使用する場合、その使用中の研磨用組成物に、任意のタイミングで新たな成分、使用により減少した成分または増加させることが望ましい成分を添加してもよい。
【0083】
ここに開示される研磨用組成物製造用キットは、研磨用組成物の構成成分を多剤化することにより、保存安定性に優れたものとなり得る。また、この研磨用組成物製造用キットによると、pH維持性が高く、したがって例えば循環使用する場合にも性能変化が少なく安定した研磨性能を発揮し得る研磨用組成物が製造され得る。好ましい一態様に係るキットによると、1剤型の濃縮液を希釈して製造された研磨用組成物と同等のpH維持性を示し、かつ研磨速度がさらに向上した研磨用組成物が製造され得る。
【0084】
ここに開示される研磨用組成物は、良好なpH維持性と研磨速度とを高度に両立するものとなり得る。かかる特長を活かして、例えば、ラッピングを終えたシリコンウエハの予備ポリシングに好ましく適用することができる。予備ポリシング工程では、ファイナルポリシング工程に比べて要求される研磨速度が大きいため、削り取られたシリコンが研磨用組成物中に溶解する量が多い。したがって研磨用組成物にケイ酸イオンが多く含まれる傾向にある。このことは研磨用組成物のpHを下げる方向に作用する。研磨用組成物を循環使用する場合には、上記の作用が特に強く働く。ここに開示される研磨用組成物は、このような状況下でもpHの変動が少ない(pH維持性の高い)ものとなり得る。
【0085】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0086】
<実験例1>
<研磨用組成物製造用キットの作製>
(実施例1)
コロイダルシリカ、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)およびイオン交換水を、室温25℃程度で約30分間攪拌混合することにより、コロイダルシリカの含有量(Ws
A)が8.8重量%、TMAHの含有量(Wb
A)が3.092重量%(濃度0.357モル/Lに相当する。)のA剤を調製した。コロイダルシリカとしては、平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径66nmのものを使用した。
TMAH、炭酸カリウム(K
2CO
3)およびイオン交換水を、室温25℃程度で約30分間攪拌混合することにより、TMAH濃度(Mb
B)0.123モル/L、炭酸カリウム濃度(Ma
B)0.217モル/LのB剤を調製した。
上記A剤と上記B剤とを別々の容器内に同じ体積ずつ用意した。このようにして、上記A剤および上記B剤からなる2剤型の研磨用組成物製造用キットを得た。
【0087】
(実施例2)
実施例1において、B剤の炭酸カリウム濃度(Ma
B)を表1に示すように変更した。その他の点は実施例1と同様にして、2剤型の研磨用組成物製造用キットを得た。
【0088】
(実施例3)
実施例1において、B剤の炭酸カリウム濃度(Ma
B)を表1に示すように変更した。その他の点は実施例1と同様にして、2剤型の研磨用組成物製造用キットを得た。
【0089】
(実施例4)
本例では、A剤の調製にあたり、平均一次粒子径52nm、平均二次粒子径96nmのコロイダルシリカを使用した。また、A剤のTMAH濃度(Wb
A)を表1に示すように変更した。その他の点は実施例3と同様にして、2剤型の研磨用組成物製造用キットを得た。
【0090】
(
参考例5)
実施例1において、A剤のコロイダルシリカ含有量(Ws
A)およびTMAH含有量(Wb
A)をそれぞれ表1に示すように変更した。また、B剤のTMAH濃度(Mb
B)を表1に示すように変更した。その他の点は実施例1と同様にして、2剤型の研磨用組成物製造用キットを得た。
【0091】
(
参考例6)
実施例2において、A剤のTMAH含有量(Wb
A)およびB剤のTMAH濃度(Mb
B)をそれぞれ表1に示すように変更した。その他の点は実施例2と同様にして、2剤型の研磨用組成物製造用キットを得た。
【0092】
(比較例1)
実施例3において、A剤のTMAH含有量(Wb
A)およびB剤のTMAH濃度(Mb
B)をそれぞれ表1に示すように変更した。その他の点は実施例3と同様にして、2剤型の研磨用組成物製造用キットを得た。
【0093】
<濃縮液の作製>
(比較例2)
コロイダルシリカ、TMAH、炭酸カリウムおよびイオン交換水を、室温25℃程度で約30分間攪拌混合することにより、コロイダルシリカ含有量8.8重量%、TMAH含有量4.163重量%(濃度0.480モル/Lに相当する。)、炭酸カリウム濃度0.217モル/Lの組成を有する1剤型の濃縮液を調製した。コロイダルシリカとしては、実施例1と同じものを使用した。
【0094】
(比較例3)
比較例2において、TMAH含有量および炭酸カリウム濃度をそれぞれ表1に示すように変更した。その他の点は比較例2と同様にして、1剤型の濃縮液を得た。
【0095】
以上の各例に係る研磨用組成物製造用キットおよび濃縮液の概略を表1,2に示した。なお、表1では、便宜上、比較例2,3に係る濃縮液の概略を「A剤」の欄に表示している。また、実施例1〜
4、参考例5,6および比較例1に係る各キットを構成するA剤およびB剤の体積が合計1リットルである場合(すなわち、各キットがA剤0.5リットルおよびB剤0.5リットルから構成される場合)について、各キットに含まれる全TMAHのモル量および全炭酸カリウムのモル量と、各キットに含まれる全TMAHのモル量に対するA剤中のTMAHのモル量との比を表2に示した。また、比較例2,3に係る各濃縮液1リットル中に含まれるTMAHのモル量および炭酸カリウムのモル量を表2に示した。
【0096】
<研磨用組成物の作製>
(実施例1〜
4、参考例5,6および比較例1)
各例に係る研磨用組成物製造用キットのB剤をイオン交換水で29倍(体積基準)に希釈した。このB剤希釈液にA剤を一度に加え(A剤:B剤希釈液の体積比は1:29)、攪拌混合して研磨用組成物を作製した。
【0097】
(比較例2,3)
各例に係る濃縮液をイオン交換水で30倍(体積基準)に希釈することにより、研磨用組成物を作製した。
【0098】
<シリコンウエハの研磨>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用して、研磨対象物(試験片)の表面を下記の条件(研磨条件1)で研磨した。試験片としては、直径300mmのシリコンウエハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)を両面研磨装置により表面粗さ0.5nm〜1.5nmに調整し、これを洗浄して乾燥させた後、1辺が60mmの正方形状にカットしたものを使用した。
【0099】
(研磨条件1)
研磨装置:ENGIS社製の片面研磨装置、型式「EJ−380IN」
研磨圧力:51.6kPa
定盤回転数:50回転/分
キャリア回転数:50回転/分
研磨パッド:ニッタハース社製、商品名「MH S−15A」
研磨液の供給レート:50mL/分・試験片(500mLの研磨液を循環使用)
研磨環境の温度:25℃
【0100】
<平均研磨能率測定およびpH維持性試験>
上記の研磨条件1で研磨液を循環使用しながら、1回当たり15分間の研磨を連続で6回実施し、1回目〜6回目の各々について1分間当たりの研磨量[μm/分]を算出した。それら6つの研磨量[μm/分]の値の算術平均値を平均研磨能率[μm/分]とした。
また、1回目の研磨開始当初における研磨液のpH(初期pH)と、6回目の研磨を終了した直後における研磨液のpH(終了後pH)とをそれぞれ測定し、それらのpHの差分を算出した。その差分の値が小さいほどpH維持性が良いと評価した。
なお、各例に係る研磨用組成物を用いたシリコンウエハの研磨は、該研磨用組成物の製造後3時間以内に開始した。したがって、実施例1〜
4、参考例5,6および比較例1において、上記研磨液の初期pHは、各例に係る研磨用組成物製造用キットのA剤とB剤とを一つに合わせて調製した混合液の初期pHに該当する。
【0101】
<保存安定性試験>
実施例1〜
4、参考例5,6および比較例1の各例に係る研磨用組成物製造用キットのA剤と、比較例2,3に係る濃縮液とをサンプルとして、以下の保存安定性試験により、安定して品質を維持できる期間(安定性保持期間)を評価した。
すなわち、各サンプル300mLをポリプロピレン製の容器に入れ、43℃の雰囲気で管理されたエアバスにて保管した。それらのサンプルを定期的にエアバスから取り出して目視で観察し、サンプル中のシリカ凝集の有無を確認した。試験期間は最長1年間とした。試験開始から1年後にもシリカ凝集が確認されなかったサンプルについては、保存安定性(安定性保持期間)を「1年間以上」と評価した。試験開始から1年以内にシリカ凝集が確認されたサンプルについては、シリカ凝集が確認されなかった最後の観察時点までの期間を安定性保持期間とした。
なお、各キットのB剤はシリカ粒子を含まないので、保存中におけるシリカ凝集の問題が生じることはない。したがって、A剤の安定性保持期間をキットの安定性保持期間とみなすことができる。
【0102】
以上の測定または試験により得られた結果を表1に示した。
【0105】
表1に示されるように、実施例1〜
4および参考例5,6に係るキットは、いずれも安定性保持期間が1年間以上であり、比較例2,3の濃縮液に比べて明らかに保存安定性に優れていた。初期pHが8.0〜11.8の範囲にある実施例1〜
4および参考例5,6のキットによると、初期pHが11.8より大きい比較例1のキットに比べて、より良好なpH維持性を示す研磨用組成物(研磨液)が得られた。初期pHが11.0以下である実施例1〜4のキットによると、さらに良好なpH維持性を示す研磨用組成物が得られた。初期pHが10.5以下である実施例1,2のキットでは特に良好な結果が得られた。
【0106】
実施例1〜4を
参考例5,6および比較例1と対比することにより、(Wb
A/Ws
A)を0.25以上とし、(Mb
B/Ma
B)を1.00以下とすることがpH維持性の向上に有効であることがわかる。また、実施例2と
参考例6とでは研磨用組成物(研磨液)の組成は同じだが、pH維持性は実施例2のほうが明らかに高く、平均研磨能率も実施例2のほうが高かった。実施例3と比較例1との対比においても同様の傾向がみられた。
また、実施例1〜4と
参考例5,6および比較例1との対比から、全TMAH量に対するA剤中のTMAH量の割合を30%以上、さらには50%以上(特に60%以上)とすることがpH維持性の向上に有効であることがわかる。
【0107】
さらに、研磨用組成物(研磨液)の組成が同じ実施例1と比較例2との対比からわかるように、ここに開示される技術を適用した実施例1のキットを用いて製造された研磨用組成物によると、比較例2の研磨用組成物のpH維持性を損なうことなく、その平均研磨能率をさらに向上させることができた。
【0108】
<実験例2>
<研磨用組成物製造用キットの作製>
(実施例7)
コロイダルシリカ、TMAH、ポリビニルピロリドン(PVP)およびイオン交換水を、室温25℃程度で約30分間攪拌混合することにより、コロイダルシリカの含有量(Ws
A)が8.8重量%、TMAHの含有量(Wb
A)が3.092重量%(濃度0.357モル/Lに相当する。)、PVPの含有量が0.05重量%のA剤を調製した。コロイダルシリカとしては、実施例1と同じものを使用した。PVPとしては、Mwが約45000のものを使用した。
B剤は、実施例2におけるB剤の作製方法と同様にして調製した。
上記A剤と上記B剤とを別々の容器内に同じ体積ずつ用意した。このようにして、上記A剤および上記B剤からなる2剤型の研磨用組成物製造用キットを得た。
【0109】
(実施例8)
実施例7において、B剤の炭酸カリウム濃度(Ma
B)を表3に示すように変更した。その他の点は実施例7と同様にして、2剤型の研磨用組成物製造用キットを得た。
【0110】
(実施例9)
TMAH、炭酸カリウム(K
2CO
3)、PVPおよびイオン交換水を、室温25℃程度で約30分間攪拌混合することにより、TMAH濃度(Mb
B)0.123モル/L、炭酸カリウム濃度(Ma
B)0.326モル/L、PVP含有量が0.05重量%のB剤を調製した。PVPとしては、実施例7と同じものを使用した。
その他の点は実施例3と同様にして、2剤型の研磨用組成物製造用キットを得た。
【0111】
<研磨用組成物の作製>
各例に係る研磨用組成物製造用キットのB剤をイオン交換水で29倍(体積基準)に希釈した。このB剤希釈液にA剤を一度に加え(A剤:B剤希釈液の体積比は1:29)、攪拌混合して研磨用組成物を作製した。
【0112】
<シリコンウエハの研磨>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用して、研磨対象物(試験片)の表面を下記の条件(研磨条件2)で研磨した。試験片としては、直径300mmのシリコンウエハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)を両面研磨装置により表面粗さ0.5nm〜1.5nmに調整し、これを洗浄して乾燥させたものを使用した。
【0113】
(研磨条件2)
研磨装置:スピードファム社製の両面研磨装置、型式「DSM20B−5P−4D」
研磨圧力:15.0kPa
上定盤回転数:−13回転/分
下定盤回転数:35回転/分(上定盤とは逆の回転方向)
インターナルギア回転数:7回転/分
サンギア回転数:25回転/分
研磨パッド:ニッタハース社製、商品名「MH S−15A」
研磨液:総量100Lの研磨液を4.5L/分の速度で循環使用
研磨環境の温度:20℃
研磨時間:60分
【0114】
<外周部平坦度評価>
研磨後のシリコンウエハの外周部平坦度を評価するため、その指標となるロールオフ量(ROA;Roll−off Amount)を測定した。以下、本件に係るシリコンウエハのROAの測定方法について具体的に説明する。まず、上記の研磨条件2で研磨したシリコンウエハを平坦度検査装置(黒田精工株式会社製「ナノメトロ300TTM」)にセットした。このとき、シリコンウエハのノッチ部を0°としたとき、時計回りに45°の方向を示す直線上が上記平坦度測定の測定領域となるようにした。
図1に平坦度測定により得られるグラフの一例を示す。
図1中の横軸は、シリコンウエハの外周端からの距離を示し、縦軸はシリコンウエハ表面の形状の変位量を示す。
図1に示されるように、シリコンウエハ外周端から3mm〜6mmの位置は比較的平坦な領域である。この領域(3mm〜6mm位置)を基準領域とし、該領域における形状変位量に対して近似する直線(基準直線)を最小二乗法を用いて引く。次に、外周端から1mm位置における上記基準直線上の点を基準点とし、該1mm位置におけるシリコンウエハ形状変位量と上記基準点との差を測定し、これをシリコンウエハのロールオフ量(ROA)とした。
【0115】
実施例2、3および7〜9に係る研磨用組成物を用いて得られた外周部平坦度評価の結果を表3に示す。また、上記研磨用組成物を用いて上述する実験例1に係る測定または試験により得られた結果を表3に合わせて示す。
【0117】
表3に示されるように、実施例2と7との対比から、A剤にPVPを添加することにより、研磨後のROAが明らかに減少し、外周部平坦度が向上することが明らかとなった。実施例3と8との対比においても同様の傾向がみられた。また、実施例3と9との対比から、B剤にPVPを添加することにより、研磨後のROAが減少し、外周部平坦度が向上することが示された。なお、A剤またはB剤にPVPが添加された実施例7〜9は、概ね良好な平均研磨能率を示し、かつ良好なpH維持性および保存安定性を示すことが確認された。
【0118】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。