(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387293
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】廃液処理装置および廃液処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
C02F1/58 H
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-251316(P2014-251316)
(22)【出願日】2014年12月11日
(65)【公開番号】特開2016-112485(P2016-112485A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100129160
【弁理士】
【氏名又は名称】古館 久丹子
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】渡部 純
(72)【発明者】
【氏名】澤田 松範
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩安
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆典
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−022494(JP,A)
【文献】
特開2000−107773(JP,A)
【文献】
特開2003−170175(JP,A)
【文献】
特開2012−045472(JP,A)
【文献】
実開平07−039993(JP,U)
【文献】
実開昭63−122698(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3030389(JP,U)
【文献】
特開2000−213341(JP,A)
【文献】
特開2006−035040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも過酸化水素及び硫酸を含有する被処理水の過酸化水素を分解し、当該被処理水を処理する廃液処理装置であって、
筐体と、
前記筐体に設けられ、被処理水を当該筐体の内部に導入する導入口と、
前記筐体に設けられ、前記被処理水を処理して得られる処理水を排出する排出口と、
前記筐体の内部に設けられ、表面に過酸化水素を分解可能な触媒が設けられた流路画定部材と、を備え、
前記流路画定部材は、前記導入口と前記排出口との間で、少なくとも一つの位置で折れ曲がる、前記被処理水用の流路を画定し、
前記流路画定部材が、
前記筐体の底面および第1の側面に取り付けられる第1の流路画定部材と、
前記筐体の前記底面および前記第1の側面に対向する第2の側面に取り付けられる第2の流路画定部材と、を含み、
前記第1の流路画定部材と前記第2の流路画定部材が、前記導入口と前記排出口との間で交互に配置され、前記被処理水が水平方向に異なる少なくとも二つの位置で折り返しながら流れるように、前記流路が画定され、
前記第1の流路画定部材と前記第2の流路画定部材が、所定の間隔をもって対向することによりそれぞれの表面に設けられた前記触媒が対向した状態で前記流路を画定し、
更に過酸化水素の分解により生じた気体を前記筐体の外部へ排出する排気口が前記筐体の上部に設けられる、
廃液処理装置。
【請求項2】
少なくとも過酸化水素及び硫酸を含有する被処理水の過酸化水素を分解し、当該被処理水を処理する廃液処理装置であって、
筐体と、
前記筐体に設けられ、被処理水を当該筐体の内部に導入する導入口と、
前記筐体に設けられ、前記被処理水を処理して得られる処理水を排出する排出口と、
前記筐体の内部に設けられ、表面に過酸化水素を分解可能な触媒が設けられた流路画定部材と、を備え、
前記流路画定部材は、前記導入口と前記排出口との間で、少なくとも一つの位置で折れ曲がる、前記被処理水用の流路を画定し、
前記流路画定部材が、
前記筐体の底面に取り付けられる第1の流路画定部材と、
前記筐体の前記底面から離れて設けられる第2の流路画定部材と、を含み、
前記第1の流路画定部材と前記第2の流路画定部材が、前記導入口と前記排出口との間で交互に配置され、前記被処理水が垂直方向に異なる少なくとも二つの高さで折り返しながら流れるように、前記流路が画定され、
前記第1の流路画定部材と前記第2の流路画定部材が、所定の間隔をもって対向することによりそれぞれの表面に設けられた前記触媒が対向した状態で前記流路を画定し、
更に過酸化水素の分解により生じた気体を前記筐体の外部へ排出する排気口が前記筐体の上部に設けられる、
廃液処理装置。
【請求項3】
少なくとも過酸化水素及び硫酸を含有する被処理水の過酸化水素を分解し、当該被処理水を処理する廃液処理装置であって、
筐体と、
前記筐体に設けられ、被処理水を当該筐体の内部に導入する導入口と、
前記筐体に設けられ、前記被処理水を処理して得られる処理水を排出する排出口と、
前記筐体の内部に設けられ、表面に過酸化水素を分解可能な触媒が設けられた流路画定部材と、を備え、
前記流路画定部材は、前記導入口と前記排出口との間で、少なくとも一つの位置で折れ曲がる、前記被処理水用の流路を画定され、
前記流路画定部材には前記被処理水が通過可能な穴が設けられており、当該流路画定部材を通過する前記被処理水が乱流を起こすことにより、少なくとも一つの位置で疑似的に折れ曲がる前記流路が画定され、
前記第1の流路画定部材と前記第2の流路画定部材が、所定の間隔をもって対向することによりそれぞれの表面に設けられた前記触媒が対向した状態で前記流路を画定し、
更に過酸化水素の分解により生じた気体を前記筐体の外部へ排出する排気口が前記筐体の上部に設けられる、
廃液処理装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の廃液処理装置であって、
前記流路画定部材が、一枚の板、パンチングメタル、エキスパンドメタルの少なくともいずれかにより形成される、廃液処理装置。
【請求項5】
少なくとも過酸化水素及び硫酸を含有する被処理水の過酸化水素を分解し、当該被処理水を処理する廃液処理方法であって、
請求項1から4のいずれか1項に記載の廃液処理装置の流路に、少なくとも過酸化水素及び硫酸を含有する被処理水を流して、前記被処理水の過酸化水素を分解する、廃液処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃液処理装置および廃液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程では、シリコンウエハ前処理などにおいて、酸(硫酸など)と過酸化水素を含むよう処理液を使用している。この処理液を繰り返し使用していくと、シリカなどの不純物の蓄積や過酸化水素が分解されて、酸濃度が希釈され処理機能が低下するため断続的に処理液を更新する必要がある。したがって、残存過酸化水素を含む濃厚な酸の廃液が多量に発生する。この廃液量は産業廃棄物処理法規制に関わることにもなる。
【0003】
このため、該廃液に残っている過酸化水素を安全かつ再利用の基準まで分解処理し、該廃液中の濃厚な酸(硫酸)を回収、再利用や有価売却することを可能とする技術の開発が重要になってくる。過酸化水素を分解した後、残存した酸は中和して処理すると中和により発生した沈殿物が浮上し分離処理するけれども、残存過酸化水素により浮上分離が困難になる場合がある。
【0004】
過酸化水素を分解処理する方法としては、例えば下記の技術が知られている。
【0005】
(1)水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニアなどのアルカリ剤を使用して、硫酸および過酸化水素を含む廃液を中和した後、過酸化水素を除去する方法。
(2)アルカリ剤を使用しない方法として、過酸化水素の分解触媒へ水素を供給しながら過酸化水素を分解処理する方法(特許文献1参照)。
(3)炭素質物質へ温度を上げた廃液を通じて過酸化水素を分解処理する方法(特許文献2参照)。
(4)過酸化水素を含む被処理液を粒状活性炭を充填した活性炭塔に底部側から上部側へ向けて上向流で流し、被処理液を粒状活性炭と接触させて過酸化水素を分解する活性炭処理装置であって、活性炭塔内部に充填された粒状活性炭によって形成される活性炭層の上部側の断面積を底部側に比べ大きくする方法(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−186208号公報
【特許文献2】特開平5−345188号公報
【特許文献3】特開平10−211487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(1)の方法では、使用するアルカリ剤に対応する大量の硫酸塩、たとえば硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウムなどが生成する問題があり、これらの塩を産業廃棄物として処理する必要が生じている。また、高濃度の硫酸をアルカリで中和するために、大量の中和熱が発生し、除熱などが必要となるとともに、温度上昇に伴う硫酸ミストが発生する場合もあり、その対策が必要となる。
【0008】
(2)の方法では、非常に可燃性の高い水素ガスを使用する必要があり、また触媒の活性低下の問題もある。
【0009】
(3)の方法では、過酸化水素を含む強酸性の溶液を加熱処理することに伴う危険性があり、さらに加熱のためのエネルギーも必要となる問題がある。
【0010】
(4)の方法では、被処理水の過酸化水素水の濃度の目安を数百mg/Lと想定しており、当初から想定した被処理水の過酸化水素水の濃度が低いため、実用上の能力としては不十分である。
【0011】
また上記各特許文献に開示された技術以外においても、過酸化水素を分解する際に亜硫酸等の薬品、光照射、蒸気、高圧等を適用する従来技術が数多く知られているが、このような手段では、過酸化水素の分解コストが著しく上昇してしまう。
【0012】
したがって本発明は、上記のような問題を解決しつつ、簡易かつ効率的に過酸化水素を含有する廃液(被処理水)を処理することの可能な廃液処理装置および廃液処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の廃液処理装置は、少なくとも過酸化水素を含有する被処理水の過酸化水素を分解し、当該被処理水を処理する廃液処理装置であって、筐体と、前記筐体に設けられ、被処理水を当該筐体の内部に導入する導入口と、前記筐体に設けられ、前記被処理水を処理して得られる処理水を排出する排出口と、前記筐体の内部に設けられ、表面に過酸化水素を分解可能な触媒が設けられた流路画定部材と、を備え、前記流路画定部材は、前記導入口と前記排出口との間で、少なくとも一つの位置で折れ曲がる、前記被処理水用の流路を画定する。
【0015】
本発明の廃液処理装置の一態様として、例えば、前記流路画定部材が、前記筐体の底面および第1の側面に取り付けられる第1の流路画定部材と、前記筐体の前記底面および前記第1の側面に対向する第2の側面に取り付けられる第2の流路画定部材と、を含み、前記第1の流路画定部材と前記第2の流路画定部材が、前記導入口と前記排出口との間で交互に配置され、前記被処理水が水平方向に異なる少なくとも二つの位置で折り返しながら流れるように、前記流路が画定される。
【0016】
本発明の廃液処理装置の一態様として、例えば、前記流路画定部材が、前記筐体の底面に取り付けられる第1の流路画定部材と、前記筐体の前記底面から離れて設けられる第2の流路画定部材と、を含み、前記第1の流路画定部材と前記第2の流路画定部材が、前記導入口と前記排出口との間で交互に配置され、前記被処理水が垂直方向に異なる少なくとも二つの高さで折り返しながら流れるように、前記流路が画定される。
【0017】
本発明の廃液処理装置の一態様として、例えば、前記流路画定部材には前記被処理水が通過可能な穴が設けられており、当該流路画定部材を通過する前記被処理水が乱流を起こすことにより、少なくとも一つの位置で疑似的に折れ曲がる前記流路が画定される。
【0018】
本発明の廃液処理装置の一態様として、例えば、前記流路画定部材が、一枚の板、パンチングメタル、エキスパンドメタルの少なくともいずれかにより形成される。
【0019】
本発明の廃液処理方法は、被処理水中に含まれる過酸化水素を分解し、当該被処理水を処理する廃液処理方法であって、表面に過酸化水素を分解可能な触媒が設けられた流路画定部材を有する筐体の内部に被処理水を導入し、前記流路画定部材によって画定される、少なくとも一つの位置で折れ曲がる流路に前記被処理水を流すことにより、前記被処理水を処理する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡易かつ効率的に過酸化水素を含有する廃液(被処理水)を処理することの可能な廃液処理装置および廃液処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態の廃液処理装置を含む廃液処理システムの概要を示すシステム構成図である。
【
図2】
図2は、廃液処理装置の一実施形態の内部構成図である。
【
図3】
図3は、廃液処理装置の他の実施形態の内部構成図である。
【
図4】
図4は、廃液処理装置の内部に設けられる流路画定部材の例を示し、(a)は流路画定部材がパンチングメタルにより形成された例であり、(b)は流路画定部材がエキスパンドメタルにより形成された例である。
【
図5】
図5は、廃液処理装置の他の実施形態の内部構成図を示し、(a)は、廃液処理装置の側面から見た内部構成図であり、(b)は、廃液処理装置の上方から見た内部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態の廃液処理装置を含む廃液処理システムの概要を示すシステム構成図である。廃液処理システム100は、電子部品製造工場などにおいて発生した、主に硫酸(H
2SO
4)と過酸化水素(H
2O
2)を含む廃液を処理するシステムである。廃液処理システム100は、工場の他のシステムから送られてきた被処理水(廃液)を一時的に貯留する第1の貯留槽10と、第1の貯留槽10から送出された被処理水を処理する廃液処理装置20と、廃液処理装置20により処理された処理済みの処理水を一時的に貯留する第2の貯留槽30とを備える。
【0024】
第1の貯留槽10は、一時的に貯留した被処理水を図示せぬ送出ポンプを用いて廃液処理装置20に送るものであり、特にその構成は限定されない。廃液処理装置20は、第1の貯留槽10から送出された被処理水を受けて、主として触媒の作用により被処理水中の過酸化水素を分解処理し、処理水にする。廃液処理装置20は、主に硫酸を含む処理水を第2の貯留槽30に送出し、第2の貯留槽30は処理水を一時的に貯留した後、外部の他のシステムに送出する。第2の貯留槽30の構成も特に限定はされない。
【0025】
次に、廃液処理装置20の一実施形態を
図2を用いて説明する。廃液処理装置20は、箱状の外観を呈し、筐体21と、被処理水の導入口22と、処理水の排出口23と、被処理水の流路を画定する複数の流路画定部材24とを含む。
【0026】
筐体21は所定の樹脂などで構成された直方体形状を有しているが、特にその形状、材料などは限定されない。導入口22は筐体21の一つの側壁に形成され、第1の貯留槽10から送られた被処理水を導入する役割を果たし、その形状や配置場所などは特に限定されない。
【0027】
筐体21の内部には、被処理水の流路を画定する複数の流路画定部材24が設けられている。本実施形態においては、流路画定部材24が設けられている領域の外側に仕切り壁25が筐体21の底面21aから上方に延びるように設けられており、被処理水の高さ、すなわち液面Lの位置(高さ)を均一にする役割を果たす。仕切り壁25の領域内で被処理水が処理されるため、仕切り壁25の高さHは、被処理水が流路画定部材24に接触する液面Lの位置(高さ)に略等しくなる。
【0028】
複数の流路画定部材24のうち、一部の流路画定部材(第1の流路画定部材)24aは筐体21の底面21aに設けられ、底面21aから上方に延びるように形成されている。その他の流路画定部材(第2の流路画定部材)24bは図示せぬ部材(例えば筐体21の両側面にわたるように設けられた梁など)によって、筐体21の内部の上方位置から底面21aに向かって下方に延びるように設けられているが、底面21aには達しておらず、流路画定部材24bの先端と底面21aとの間に被処理水が通過可能なスリットS1が形成される。一方、流路画定部材24aの先端と被処理水の液面Lとの間にはスリットS2が形成される。そして、流路画定部材24aと流路画定部材24bは、導入口22と処理水の排出口23との間で交互に配置される。
【0029】
本実施形態においては、流路画定部材24は所定の金属よりなる基材から構成された一枚の板の形状に構成されている。基材の材質は特に限定はされないが、好ましくは、硫酸に耐食性のあるZr、Nb、Ta等が使用される。Tiを使用する場合は、他の金属を被覆することが望ましい。
【0030】
さらに流路画定部材24の基材の表面には、過酸化水素を分解するための触媒が塗布されている。触媒の種類も特に限定はされないが、一例としてPt合金が使用され、基材にめっきの形式で塗布される。よって、
図2に示す流路画定部材24の間隔W1は触媒と触媒の間隔に等しくなる。また、流路画定部材(第2の流路画定部材)24bの先端と底面21aとの間のスリットS1の幅が、流路幅W2として規定される。
【0031】
本実施形態では、導入口22から筐体21の内部に流れ込んだ被処理水が、矢印Aで示す流れに沿って導入口22に隣接して設置された仕切り壁25aを乗り越え、破線矢印で示す流路Pに沿って流れる。流路Pは、スリットS1およびS2において、すなわち筐体21の内部の垂直方向に異なる二つの高さH1、H2で折り返すようにジグザクの形状に画定されており、流路Pにおける被処理水と流路画定部材24の触媒の接触面積として、所定量の接触面積が確保される。
【0032】
流路画定部材24の触媒に接した被処理水中の過酸化水素は、2H
2O
2→2H
2O+O
2の反応式に従い、水と酸素に分解される。そして、生成された酸素(O
2)は、筐体21の天井から排出される。
図2では筐体21の天井板は省略されているが、
図1に示すように天井板を設けてもよい。
【0033】
上述のプロセスにより被処理水を処理して得られる処理水は、矢印Bで示す流れに沿って排出口23に隣接して設けられた仕切り壁25bを乗り越え、排出口23から筐体21の外部へ排出され、第2の貯留槽30へ送られる。
【0034】
図3は、廃液処理装置20の他の実施形態を示す。本実施形態では総ての流路画定部材24が筐体21の底面21aに設けられている。さらに流路画定部材24には被処理水が通過可能な穴などが形成されており、仕切り壁25aを乗り越えた被処理水は当該穴を通過して横方向(水平方向)に乱流を起こし、液が撹拌されながら矢印Cに沿って仕切り壁25bまで流れる。すなわち、本実施形態では、流路画定部材24の穴を通過する被処理水が乱流を起こすため、筐体21の内部の垂直方向に少なくとも一つの位置で疑似的に折れ曲がる流路が、画定される。矢印Cは、被処理水の導入口22から排出口23に向かう流れに加え、このような乱流の作用による疑似的な折れ曲がり(被処理水自身が作り出す折れ曲がり)の流れも含むものである。
【0035】
図4は、
図3の廃液処理装置20で使用され得る流路画定部材24の例を示し、
図4(a)は、流路画定部材24がパンチングメタルにより形成された例であり、流路画定部材24に複数の穴24Aが形成され、被処理水が穴24Aを通過することができる。
図4(b)は、流路画定部材24がエキスパンドメタルにより形成された例であり、流路画定部材24に多数の網目24Bが形成され、被処理水が網目24Bを通過することができる。
【0036】
図5は、廃液処理装置20の他の実施形態を示す。
図5(a)は、廃液処理装置20の側面から見た内部構成図を示し、
図5(b)は、廃液処理装置20の上方から見た内部構成図を示す。本実施形態では総ての流路画定部材24が筐体21の底面21aに設けられている。さらに、一部の流路画定部材(第1の流路画定部材)24cが、筐体21の一の側面(第1の側面)21bにも取り付けられているとともに、他の流路画定部材(第2の流路画定部材)24dが、筐体21の他の側面(第2の側面)21cにも取り付けられている。流路画定部材24cの先端と他の側面21cとの間に被処理水が通過可能なスリットS3が形成されるとともに、流路画定部材24dの先端と一の側面21bとの間に被処理水が通過可能なスリットS4が形成される。そして、流路画定部材24cと流路画定部材24dは、導入口22と処理水の排出口23との間で交互に配置される。
【0037】
本実施形態でも、
図2の実施形態と同様、流路画定部材24の間隔W1は触媒と触媒の間隔に等しくなる。また、スリットS3およびスリットS4の幅が、流路幅W2として規定される。
【0038】
本実施形態では、導入口22から筐体21の内部に流れ込んだ被処理水が、
図5(a)に示す矢印Aで示す流れに沿って導入口22に隣接して設置された仕切り壁25aを乗り越え、
図5(b)に示す破線矢印で示す流路Pに沿って流れる。流路Pは、スリットS3およびS4において、すなわち筐体21の内部の水平方向に異なる二つの位置P1、P2で折り返すようにジグザクの形状に画定されており、流路Pにおける被処理水と流路画定部材24の触媒の接触面積として、所定量の接触面積が確保される。そして、被処理水を処理して得られる処理水は、
図5(a)に示す矢印Bで示す流れに沿って排出口23に隣接して設けられた仕切り壁25bを乗り越え、排出口23から筐体21の外部へ排出され、第2の貯留槽30へ送られる。
【0039】
上述したように、本発明の廃液処理装置では、表面に過酸化水素を分解可能な触媒が設けられた流路画定部材が筐体の内部に設けられる。ここで、流路画定部材は、種々の態様にて少なくとも一つの位置で折れ曲がる流路を画定し、被処理水がこの流路を流れる。流路が折れ曲がっているため、筐体の内部で所定量の流路の長さが確保され、所定量の被処理水と触媒との接触面積が確保される。
図2や
図5の例では、少なくとも一つの位置で折れ曲がる流路は、二つの流路画定部材の間の物理的に折れ曲がった空間により画定される。
図3の例では、少なくとも一つの位置で折れ曲がる流路は、流路画定部材の穴を通過する被処理水自身の乱流作用により疑似的に折れ曲がった流れにより画定される。
【0040】
次に上述した廃液処理装置20を用いて被処理水(廃液)を処理した実験結果について説明する。処理対象の被処理水における硫酸濃度は73質量%、過酸化水素濃度は1.8質量%(18000mg/L)であった。
【0041】
まず、
図2の廃液処理装置20について、被処理水と接触する触媒面積を、0(未処理の状態)、500cm
2、1000cm
2、1500cm
2、2000cm
2、2500cm
2と変更し、被処理水中の過酸化水素の残存濃度(mg/L)を調べた。ここで、面速0.64mL/cm
2・minで流量が32mL/min(第1流量条件)、面速0.32mL/cm
2・minで流量が16mL/min(第2流量条件)の二つの流量条件の下で、被処理水の中の過酸化水素の残存濃度を調べた。尚、触媒と触媒の間隔、すなわち流路画定部材24の間隔W1は5mm、流路幅W2は10mmに設定された。結果を以下に示す。
【0043】
次に、
図5の廃液処理装置20について、上記と同じ条件で実験を行い、被処理水の中の過酸化水素の残存濃度を調べた。結果を以下に示す。
【0045】
上記の実験結果からわかるように、本発明の廃液処理装置は、被処理水を装置の中に1回通すのみで、当初の過酸化水素濃度が18000mg/Lという非常に高い被処理液を、数百mg/Lの過酸化水素濃度レベルまで下げることが可能である。
【0046】
本発明の廃液処理装置および廃液処理方法では、筐体の内部に表面に触媒が設けられた流路画定部材を設け、流路画定部材が、導入口と排出口との間で、少なくとも一つの位置で折れ曲がる流路を画定する。このような簡易な構造により、所定量の被処理水と触媒の接触面積が確保され、効率的に被処理液を処理(過酸化水素の分解)することができる。装置の構造が簡易であるだけでなく、筐体内で折り返す流路を採用しているため、装置を小型にすることも可能であり、装置の取扱いが極めて容易である。例えば、筐体の上部より筐体の内部にアクセスして触媒や分解ガスの点検ができ、メンテナンスが容易となる。
【0047】
また、本発明の廃液処理装置によれば、被処理水を、余計な薬品を投入せず処理が可能なため、処理後に高濃度の硫酸として有効利用がしやすくなる。また、加熱など外部の余計なエネルギーを投入する必要もないため、低コストで処理が可能となる。被処理水を常温のままで処理することができ、短時間で処理することが可能となる。
【0048】
また、流路画定部材の変更、追加、削除などにより触媒の交換も容易なため、被処理水の濃度や処理後の残存過酸化水素濃度の基準の変更に対しても、柔軟に対応することが可能である。
【0049】
また、高機能・高耐食性の触媒を利用することにより、半永久的な使用が可能となり、活性炭素のように劣化しやすい素材に比べ、連続処理が容易に可能となる。
【0050】
上述した各実施形態においては、被処理水の流路を画定する流路画定部材として、板状の流路画定部材24を使用したが、流路を画定する流路画定部材であれば特にその形状などは限定されない。また、流路画定部材を構成する基材の表面に触媒が塗布されているが、流路画定部材の表面に過酸化水素を分解可能な触媒が設けられていればよく、触媒の種類、触媒を基材に設ける方法などは特に限定はされない。
【0051】
図2から
図5で示した廃液処理装置20では、流路Pは垂直方向に異なる少なくとも二つの高さ、または、水平方向に異なる少なくとも二つの位置で折り返すように画定されている。しかしながら、折り返す高さ、位置の数は特には限定されない。
【0052】
また、
図2の仕切り壁25(25a、25b)と、
図3、
図5の仕切り壁25(25a、25b)では高さHが異なっている。仕切り壁25の高さを変えることにより、被処理液の液面Lの高さを変えることができる。装置に要求される仕様に応じて、仕切り壁25の高さHを任意に変えることができる。
【0053】
上記の実施形態では、被処理水が硫酸および過酸化水素を含有する廃液の例を示したが、本発明の廃液処理装置および廃液処理方法は、硫酸以外の他物質と少なくとも過酸化水素を含有する廃液に対しても適用出来る。
【0054】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0055】
10 第1の貯留槽
20 廃液処理装置
21 筐体
22 導入口
23 排出口
24 流路画定部材
25 仕切り壁
30 第2の貯留槽
100 廃液処理システム