【文献】
Database Genbank[online], Accession No. EIF47683, <URL: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/eif47683,NCBI,2012年 4月27日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/eif47683
【文献】
Database Genbank[online], Accession No. AHIQ01000135 (REGION: 159305..160555), <URL: http://www.ncbi,NCBI,2012年 4月27日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/385303550
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を、好ましい実施形態を用いて詳細に説明する。
【0024】
1.ポリペプチド
本発明のポリペプチドは、宿主において目的タンパク質の分泌生産性を向上させる活性を有する新規なポリペプチドであって、配列番号32または33に示すアミノ酸配列からなる。
【0025】
本発明において、「ポリペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合したものを指し、通常ペプチドやオリゴペプチドと呼ばれる鎖長の短いものも含まれる。
【0026】
本発明において、「目的タンパク質の分泌生産性を向上させる活性」とは、宿主細胞内及び/又は宿主細胞外における目的タンパク質の分泌生産量を増大させる活性をいう。
【0027】
配列番号32に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドは、DNAとの結合領域を有しているポリペプチドであり、当該ポリペプチドを宿主細胞内において高発現させると目的タンパク質の分泌生産性が向上する。また、配列番号33に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドは、配列番号32に示すアミノ酸残基114〜149の配列部位であり、DNAに結合する機能が期待される。これにより、配列番号33のポリペプチドと他のポリペプチドを機能的に連結させ、宿主細胞においてそのポリペプチドを高発現させれば、目的タンパク質の分泌生産性を向上させる効果を得ることができる。
【0028】
本発明において、「発現」とは、遺伝子の産物であるポリペプチドの生成をもたらす塩基配列の転写及び翻訳を指す。また、その発現は外部刺激や生育条件などに依存せずにほぼ一定の状態でもよいし、依存してもよい。発現を駆動するプロモーターは、ポリペプチドをコードする塩基配列の発現を駆動するプロモーターであれば特に限定されない。
【0029】
本発明において、「高発現」とは、宿主細胞内のポリペプチドの量、もしくは、宿主細胞内のmRNAの量が、通常の量に比較して増加していることを意味し、例えば、ポリペプチドを認識する抗体を利用して測定し、あるいは、例えば、RT-PCR法やノーザンハイブリダイゼーション、DNAアレイを使用するハイブリダイゼーション等によって測定し、親株又は野生型のような非改変株と比較することによって確認することができる。
【0030】
ポリペプチドの高発現は、染色体上及び/又はベクター上のポリペプチドをコードする遺伝子(以下、「ポリペプチド遺伝子」ともいう)の発現誘導の他、染色体上及び/又はベクター上のポリペプチド遺伝子の改変(コピー数の増加やプロモーターの挿入、コドン改変等)、ポリペプチド遺伝子の宿主細胞への導入、宿主細胞への変異導入によるポリペプチド遺伝子高発現株の取得等、公知の手法により達成し得る。
【0031】
染色体上のポリペプチド遺伝子の改変は、宿主染色体について相同組換えを利用した遺伝子の挿入や部位特異的変異導入の手法を使用して実施することができる。例えば、コピー数増加のためポリペプチド遺伝子の染色体への導入や、ポリペプチド上流プロモーターのより強力なプロモーターへの置換、ポリペプチド遺伝子の宿主細胞に適したコドンへの改変等によって実施できる。
【0032】
宿主細胞への変異導入によるポリペプチド高発現株の取得は、公知の方法、例えば宿主細胞を薬剤や紫外線照射による変異処理をした後にポリペプチドが高発現されている株を選抜することによって実施できる。
【0033】
本発明のポリペプチドには、配列番号32に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドのほか、配列番号32に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなるポリペプチドが含まれる。ここで「複数個のアミノ酸」とは、配列番号32に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドが有する目的タンパク質の分泌生産性向上活性を保持する限り、その個数は特に制限されないが、好ましくは33アミノ酸以下であり、より好ましくは30アミノ酸以下、さらに好ましくは20アミノ酸以下、最も好ましくは10、5、4、3、または2個以下である。
【0034】
本発明のポリペプチドには、配列番号33に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドのほか、配列番号33に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなるポリペプチドが含まれる。ここで「複数個のアミノ酸」とは、配列番号33に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドが有する目的タンパク質の分泌生産性向上活性を保持する限り、その個数は特に制限されないが、好ましくは5アミノ酸以下であり、より好ましくは4アミノ酸以下、さらに好ましくは3アミノ酸以下、最も好ましくは2個以下である。
【0035】
本発明のポリペプチドには、配列番号32または33に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドのほか、配列番号32または33に示すアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドが含まれる。
【0036】
本発明のポリペプチドには、配列番号32に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有し、且つ、配列番号33に示すアミノ酸配列部位(アミノ酸残基114〜149)の配列同一性が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドが含まれる。
【0037】
アミノ酸の配列同一性は、当業者に周知の方法、配列解析ソフトウェア等を使用して求めることができる。例えば、BLASTアルゴリズムのblastpプログラムやFASTAアルゴリズムのfastaプログラムが挙げられる。ここでのアミノ酸配列の配列同一性は、例えば配列番号32または33に示すアミノ酸配列に対して評価対象のアミノ酸配列を比較し、同一部位に同一のアミノ酸が出現する頻度を%で表示した値である。
【0038】
2.遺伝子
本発明の遺伝子は、オガタエア・アングスタの染色体DNAの塩基配列の網羅的解析により、構造および機能が初めて解明された遺伝子であり、配列番号9または34に示す塩基配列からなる。ここで、「配列番号9または34に示す塩基配列」とは、上記1.の配列番号32または33に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする。
【0039】
本発明において、「遺伝子」とは、DNAやRNAの塩基配列によって規定された生物の遺伝情報を指し、通常ポリペプチドをコードする塩基配列からなる。染色体配列から遺伝子探索プログラムやアノテーションプログラム等を用いることによって同定することが出来る。
【0040】
本発明の遺伝子は、配列番号9または34に記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる遺伝子であってもよい。ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列」とは、例えば、コロニーまたはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより取得できるDNAの塩基配列を挙げることができる。好ましくは65℃で0.5倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.2倍濃度のSSC溶液で洗浄、更に好ましくは65℃で0.1倍濃度のSSC溶液で洗浄することにより取得できるDNAの塩基配列である。
【0041】
本発明の遺伝子には、配列番号9または34に記載の塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子も含まれる。
【0042】
塩基配列の配列同一性は、当業者に周知の方法、配列解析ソフトウェア等を使用して求めることができる。例えば、BLASTアルゴリズムのblastnプログラムやFASTAアルゴリズムのfastaプログラムが挙げられる。ここでの塩基配列の配列同一性は、配列番号9または34に記載の塩基配列に対して評価対象の塩基配列を比較し、同一部位に同一の塩基が出現する頻度を%で表示した値である。
【0043】
上記の「配列番号9または34に示す塩基配列」は、オガタエア・アングスタ由来に限定はされず、他の哺乳動物、昆虫、真菌、細菌、ファージディスプレイライブラリからPCRなどで調製してもよいし、該塩基配列を元に全合成して調製してもよい。例えば、配列番号9または34に示す塩基配列に基づいて設計したDNAプライマーを合成し、次に、酵母等から単離した染色体DNAを鋳型に、上記のDNAプライマーを用いてPCRを行うことで、目的塩基配列を取得できる。
【0044】
3.ベクター
本発明のベクターは、2.に記載の遺伝子を含有し、宿主細胞に導入して1.のポリペプチドを高発現させるのに用いる。
【0045】
本発明において、「ベクター」とは、形質転換後の宿主細胞にて目的遺伝子が発現する機能を持った核酸分子のことを指し、発現カセット、組み込み相同領域、栄養要求性相補遺伝子または薬剤耐性遺伝子などの選択マーカー遺伝子、自律複製配列などを有する。形質転換後のベクターは、染色体に組み込まれている状態でもよいし、自律複製型として存在している状態でもよい。自律複製型ベクターの例としては、YEpベクター、YRpベクター、YCpベクターなどが挙げられる。オガタエア属酵母の場合はpPICHOLI、pHIP、pHRP、pHARSなどが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0046】
上記の「発現カセット」は、ポリペプチド遺伝子と、これを発現させるためのプロモーターにより構成され、ターミネーターを含んでもよい。本発現カセットは、例えばpUC19等のプラスミド上に構築することもできるし、PCR法によっても作成することができる。
【0047】
ここで、「プロモーター」とは、ポリペプチド遺伝子の上流に位置する塩基配列領域をいい、RNAポリメラーゼのほか、転写の促進や抑制に関わる様々な転写調節因子が該領域に結合または作用することによって鋳型である遺伝子の塩基配列を読み取って相補的なRNAを合成(転写)する。
【0048】
ポリペプチド遺伝子を発現させるプロモーターは、選択した炭素源にて発現が起こりうるプロモーターを適切に使用すればよく、特に限定されない。
【0049】
炭素源がメタノールの場合、ポリペプチド遺伝子を発現させるプロモーターは、MOXプロモーター、FMDプロモーター、DHASプロモーター、AOXプロモーター、GAPプロモーターなどが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0050】
炭素源がグルコースやグリセロールの場合、ポリペプチド遺伝子を発現させるプロモーターは、GAPプロモーター、TEFプロモーター、LEU2プロモーター、URA3プロモーター、ADEプロモーター、ADH1プロモーター、PGK1プロモーターなどが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0051】
4.形質転換体
本発明の形質転換体は、3.に記載のベクターにより宿主細胞を形質転換して得られる。
【0052】
本発明において、「宿主細胞」とは、ベクターが導入される細胞のことを指し、ベクターを導入することの出来る細胞であれば特に限定されない。
【0053】
形質転換に用いる宿主細胞としては、酵母、細菌、真菌、昆虫細胞、または動物細胞などが挙げられ、酵母が好ましく、メタノール資化性酵母がより好ましい。
【0054】
一般に、メタノール資化性酵母は、唯一の炭素源としてメタノールを利用して培養可能な酵母と定義されるが、人為的な改変あるいは変異によりメタノール資化性能を喪失していてもよい。
【0055】
メタノール資化性酵母としては、ピキア(Pichia)属、オガタエア(Ogataea)属、キャンディダ(Candida)属、トルロプシス(Torulopsis)属、コマガタエラ(Komagataella)属などに属する酵母が挙げられる。ピキア(Pichia)属ではピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、オガタエア(Ogataea)属ではオガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)、オガタエア・ミヌータ(Ogataea minuta)、キャンディダ(Candida)属ではキャンディダ・ボイディニ(Candida boidinii)、コマガタエラ(Komagataella)属ではコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)などが好ましい例として挙げられる。
【0056】
上記のメタノール資化性酵母のなかでも、オガタエア属酵母又はコマガタエラ属酵母が特に好ましい。
【0057】
オガタエア(Ogataea)属酵母としては、オガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)が好ましい。これら3つは近縁種であり、別名ハンゼヌラ・ポリモルファ(hansenula polymorpha)、または別名ピキア・アングスタ(Pichia angusta)でも表される。
【0058】
具体的に使用できる菌株として、オガタエア・アングスタNCYC495(ATCC14754)、オガタエア・ポリモルファ8V(ATCC34438)、オガタエア・パラポリモルファDL-1(ATCC26012)などの菌株が挙げられる。これらの菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション等から入手することができる。また、本発明においては、これらの菌株からの誘導株も使用でき、例えばロイシン要求性株であれば、NCYC495由来のBY4329、8V由来のBY5242、DL-1由来のBY5243などが挙げられ、これらはNational BioResource Projectから分譲可能である。
【0059】
また、コマガタエラ(Komagataella)属酵母としては、コマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)が好ましい。
【0060】
具体的に使用できる菌株として、コマガタエラ・パストリスY-11430、コマガタエラ・パストリスX-33などの株が挙げられる。これらの菌株は、Northern Regional Research Laboratory等から入手することができる。本発明においては、これらの菌株からの誘導株等も使用できる。
【0061】
本発明において、「形質転換体」とは、上記ベクターを宿主細胞に導入することによって得られる宿主細胞のことを指す。ベクターを宿主細胞へ導入する方法は公知の情報、例えば酵母の場合、エレクトロポレーション法や酢酸リチウム法、スフェロプラスト法などが挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。例えば、オガタエア・アングスタの形質転換法としては、Highly-efficient electrotransformation of the yeast Hansenula polymorpha.(Curr Genet 25: 305.310.)に記載されているエレクトロポレーション法が一般的である。
【0062】
ベクターを宿主細胞に形質転換する場合、栄養要求性相補遺伝子または薬剤耐性遺伝子などの選択マーカー遺伝子を用いることが好ましい。選択マーカーは特に限定されないが、酵母であれば、URA3遺伝子、LEU2遺伝子、ADE1遺伝子、HIS4遺伝子などの栄養要求性相補遺伝子であれば、それぞれウラシル、ロイシン、アデニン、ヒスチジンの栄養要求性株において原栄養株表現型の回復により選択することができる。また、G418耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子であれば、それぞれG418、ゼオシン、ハイグロマイシンを含む培地上における耐性により選択することができる。なお、酵母宿主を作成するときに用いた栄養要求性選択マーカーは、該選択マーカーが破壊されていない場合は、用いることができない。この場合、該選択マーカーを回復させればよく、方法は当業者には公知の方法を用いることができる。
【0063】
ベクターを宿主細胞の染色体に組み込む場合、宿主細胞の染色体の相同領域を同時に有するDNAとして作成することが好ましい。染色体上へのベクターの組み込みの方法は、相同領域を利用しない非特異的な組み込みでもよいし、1箇所の相同領域を利用した組み込みでもよいし、2箇所の相同領域を利用したダブルインテグレート型の組み込みでもよい。
【0064】
なお、相同領域とは、染色体とベクターの塩基配列を比較して、50%以上の配列同一性があればよく、その長さも特に限定されないが、50bp以上が好ましい。相同領域の配列同一性は、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがさらにより好ましく、最も好ましくは100%である。
【0065】
相同領域を利用した組み込みの場合、例えば、プラスミドベクターの相同領域を制限酵素で1箇所以上を切断し、直鎖状のベクターの末端に相同領域が来るようにして形質転換を行うことが出来る。例えばオガタエア・アングスタの場合、MOXターミネーターへの相同組込みであれば、MOXターミネーターの配列に1箇所存在するNruIサイトやEcoRVサイトで切断して直鎖状にした発現ベクターを用いることでMOXターミネーターへ組み込むことができる。
【0066】
染色体あたりの発現カセットのコピー数は特に限定されない。また、染色体上にベクターが組み込まれている位置は、ポリペプチドが菌体内で産生される限り、特に限定されない。なお、2コピー以上のベクターが組み込まれている形質転換体の組み込み位置については、同じ位置に複数が組み込まれている状態でもよいし、異なる位置に1コピーずつ組み込まれている状態でもよい。
【0067】
5.タンパク質の製造方法
本発明のタンパク質の製造方法は、4.に記載の形質転換体を培養し、培養物から目的タンパク質を回収する工程を含む。ここで、「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞、培養菌体、または細胞若しくは菌体の破砕物を意味する。
【0068】
よって、本発明の形質転換体を用いて目的タンパク質を生産する方法としては、上記の形質転換体を培養し、その菌体中または培養上清中に蓄積させる方法が挙げられる。
【0069】
形質転換体を培養する方法は、その宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。宿主細胞が酵母などの微生物の場合は、培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類、ビタミン類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、該微生物が資化し得るものであればよく、グルコース、シュークロース、マルトース等の糖類、乳酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸等の有機酸類、メタノール、エタノール、グリセロール等のアルコール類、パラフィン等の炭化水素類、大豆油、菜種油等の油脂類、またはこれらの混合物等が挙げられ、窒素源としては、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、コーンスチープリカー等が挙げられ、無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、培養はバッチ培養や連続培養のいずれでも可能である。
【0070】
本発明の好ましい態様として、宿主細胞にメタノール資化性酵母を用いた場合、上記炭素源は、グルコース、グリセロール、メタノールの1種でもよく、または2種以上であってもよい。また、これらの炭素源は培養初期から存在していてもよいし、培養途中に添加してもよい。
【0071】
形質転換体の培養は通常一般の条件により行なうことができ、例えば、酵母の場合、pH2.5〜10.0、温度範囲10℃〜48℃の範囲で、好気的に10時間〜10日間培養することにより行うことができる。
【0072】
本発明における「目的タンパク質」とは、微生物由来の酵素類、多細胞生物である動物や植物が産生するタンパク質等である。例えば、フィターゼ、プロテインA、プロテインG、プロテインL、アミラーゼ、グルコシダーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、グルタミナーゼ、ペプチダーゼ、ヌクレアーゼ、オキシダーゼ、ラクターゼ、キシラナーゼ 、トリプシン 、ペクチナーゼ、イソメラーゼ、蛍光タンパク質などが挙げられるが、これらに限定はされない。特に、ヒト及び/又は動物治療用タンパク質が好ましい。
【0073】
ヒト及び/又は動物治療用タンパク質として、具体的には、B型肝炎ウイルス表面抗原、ヒルジン、抗体、ヒト抗体、部分抗体、ヒト部分抗体、血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、上皮成長因子、ヒト上皮成長因子、インシュリン、成長ホルモン、エリスロポエチン、インターフェロン、血液凝固第VIII因子、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポエチン、IL-1、IL-6、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、レプチン、幹細胞成長因子(SCF)、などが挙げられる。
【0074】
ここで「抗体」とは、L鎖とH鎖の各2本のポリペプチド鎖がジスルフィド結合して構成されるヘテロテトラマータンパク質のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。
【0075】
ここで「部分抗体」とは、Fab型抗体、(Fab)2型抗体、scFv型抗体、diabody型抗体や、これらの誘導体等のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。Fab型抗体とは、抗体のL鎖とFd鎖がS-S結合で結合したヘテロマータンパク質、または抗体のL鎖とFd鎖がS-S結合を含まず会合したヘテロマータンパク質のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。
【0076】
上記目的タンパク質を構成するアミノ酸は天然のものでもよいし、非天然のものでもよいし、修飾を受けていてもよい。また、タンパク質のアミノ酸配列は、人為的な改変が施されていてもよいし、de-novoで設計されたものでもよい。
【0077】
本発明の形質転換体を用いて生産された目的タンパク質は、培養上清に存在する状態であってもよいし、菌体内に蓄積している状態であってもよいし、そこから任意の方法で回収したものでもよい。培養上清や菌体内からの目的タンパク質の回収は、公知のタンパク質精製法を適当に組み合わせて用いることにより実施できる。例えば、まず、当該形質転換体を適当な培地で培養し、培養液の遠心分離、あるいは、濾過処理により培養上清から菌体を除く。得られた培養上清を、塩析(硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿など)、溶媒沈殿(アセトンまたはエタノールなどによる蛋白質分画沈殿法)、透析、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、限外濾過等の手法を単独で、または組み合わせて用いることにより、該培養上清から目的タンパク質を回収する。
【0078】
回収された目的タンパク質は、そのまま使用することもできるが、その後PEG化等の薬理学的な変化をもたらす修飾、酵素やアイソトープ等の機能を付加する修飾を加えて使用することもできる。また、各種の製剤化処理を使用してもよい。
【0079】
目的タンパク質を菌体外に分泌させる場合には、該目的タンパク質遺伝子の5’末端にシグナル配列をコードする塩基配列を導入すればよい。シグナル配列をコードする塩基配列は、酵母が分泌発現できるシグナル配列をコードする塩基配列であれば特に限定されないが、サッカロマイセス・セレビシエのMating Factor α(MFα)やオガタエア・アングスタの酸性ホスファターゼ(PHO1)、コマガタエラ・パストリスの酸性ホスファターゼ(PHO1)、サッカロマイセス・セレビシエのインベルターゼ(SUC2)、サッカロマイセス・セレビシエのPLB1、牛血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、免疫グロブリンのシグナル配列をコードする塩基配列などが挙げられる。
【0080】
本発明における目的タンパク質のプロモーターは、形質転換体内において目的タンパク質を発現させるプロモーターであれば特に限定されない。好ましくはメタノール誘導性プロモーターである。
【0081】
本発明のメタノール誘導性プロモーターは、炭素源がメタノールの際に転写活性を有するプロモーターであれば特に制限されないが、好ましくはAOX1プロモーター、AOX2プロモーター、CATプロモーター、DHASプロモーター、FDHプロモーター、FMDプロモーター、GAPプロモーター、MOXプロモーターなどが挙げられる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例において用いた組み換えDNA技術に関する詳細な操作方法などは、次の成書に記載されている:
Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocolsin Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)。
【0083】
また、以下の実施例において、酵母の形質転換に用いるプラスミドは、構築した抗体発現ベクターおよび新規ポリペプチド発現ベクターを大腸菌E. coli DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)にそれぞれ導入し、得られた形質転換体を培養して増幅することによって調製した。プラスミド保持株からのプラスミドの調製は、QIAprep spin miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて行った。
【0084】
抗体発現ベクターの構築において利用したMOXプロモーター(配列番号1)、MOXターミネーター(配列番号2)、LEU2遺伝子(配列番号3)は、オガタエア・ポリモルファ 8V株の染色体DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。Mating Factorαプレプロシグナル遺伝子(MFα、配列番号4)は、サッカロマイセス・セレビシエS288c株の染色体DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。
【0085】
抗体遺伝子は、完全ヒト型化抗TNF-α 抗体の配列(adalimumab;HUMIRA(登録商標))の公開配列情報に基づいて、L鎖遺伝子(配列番号5)、Fd鎖遺伝子(配列番号6)を化学合成した(特開2009−082033)ものをテンプレートにしてPCRで調製した。
【0086】
新規ポリペプチド発現ベクターの構築において利用したGAPプロモーター(配列番号7)、GAPプロモーターで制御されたG418耐性遺伝子(配列番号8)はオガタエア・アングスタNCYC495株の染色体DNA、適当な市販ベクター等をテンプレートにしてPCRで調製した。
【0087】
新規ポリペプチド(NP1)遺伝子(配列番号9)は、オガタエア・アングスタNCYC495株の染色体DNAをテンプレートにして、当該ポリペプチド遺伝子の5’末端側にSpeI認識配列、3’末端側にBglII認識配列を付加した遺伝子断片を、プライマー18および19(配列番号28および29)を用いたPCRにより調製し、SpeI・BglII処理後にpUC19のXbaI・BamHIサイトに挿入して、当該ポリペプチド遺伝子を含むプラスミドを構築することによって調製した。
【0088】
PCRにはPrime STAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用い、反応条件は添付のマニュアルに記載の方法で行った。染色体DNAの調製は、各菌株からGenとるくん(タカラバイオ社製)を用いて、これに記載の条件で実施した。
【0089】
(実施例1)完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現ベクターの構築
HindIII-NotI-BamHI-SpeI-MunI-BglII-XbaI-EcoRIのマルチクローニングサイトをもつ遺伝子断片(配列番号10)を全合成し、これをpUC19のHindIII-EcoRIサイト間に挿入して、pUC-1を調製した。また、LEU2遺伝子の両側にHindIII認識配列を付加した遺伝子断片を、プライマー1および2(配列番号11および12)を用いたPCRにより調製し、HindIII処理後にpUC-1のHindIIIサイトに挿入して、pUC-2を調製した。次に、MOXプロモーターの両側にBamHI認識配列を付加した遺伝子断片を、プライマー3および4(配列番号13および14)を用いたPCRにより調製し、BamHI処理後にpUC-2のBamHIサイトに挿入して、pUC-Pmoxを調製した。
【0090】
MOXプロモーターの両側にMunI認識配列を付加した遺伝子断片をプライマー5および6(配列番号15および16)を用いたPCRにより調製し、MunI処理後にpUC-PmoxのMunIサイトに挿入して、pUC-PmoxPmoxを調製した。MOXターミネーターの両側にXbaI認識配列を付加した遺伝子断片を、プライマー7および8(配列番号17および18)を用いたPCRにより調製し、XbaI処理後にpUC-PmoxPmoxのXbaIサイトに挿入して、pUC-PmoxPmoxTmを調製した。
【0091】
MFαの上流にSpeI認識配列を付加した遺伝子断片をプライマー9および10(配列番号19および20)を用いたPCRにより調製した。L鎖の上流にMFαの3’末端19bpを付加し、下流にSpeI認識配列を付加した遺伝子断片を、プライマー11および12(配列番号21および22)を用いたPCRにより調製した。これらの遺伝子断片を混合してテンプレートにして、プライマー9および12を用いたPCRにより、MFαとL鎖の融合遺伝子の両側にSpeI認識配列を付加した遺伝子断片を調製した。本遺伝子断片をSpeI処理後、pUC-PmoxPmoxTmのSpeIサイトに挿入して、pUC-PmoxLPmoxTmを構築した。
【0092】
一方、MFαの上流にBglII認識配列を付加した遺伝子断片をプライマー13(配列番号23)および10を用いたPCRにより調製した。Fd鎖の上流にMFαの3’末端19bpを付加し、下流にBglII認識配列を付加した遺伝子断片を、プライマー14および15(配列番号24および25)を用いたPCRにより調製した。これらの遺伝子断片を混合してテンプレートにし、プライマー13および15を用いたPCRにより、MFαとFd鎖の融合遺伝子の両側にBglII認識配列を付加した遺伝子断片を調製した。本遺伝子断片をBglII処理後、pUC-PmoxLPmoxTmのBglIIサイトに挿入して、pUC-PmoxLPmoxFdTmを構築した。このpUC-PmoxLPmoxFdTmは、Fab型抗体のL鎖およびFd鎖がMOXプロモーター制御下で発現するように設計されている。
【0093】
(実施例2)新規ポリペプチド発現ベクターの構築
MOXターミネーターの両側にXbaI認識配列を付加した遺伝子断片を、プライマー7および8を用いたPCRにより調製し、XbaI処理後に実施例1にて調製したpUC-1のXbaIサイトに挿入して、pUCTmを調製した。
【0094】
次に、GAPプロモーターで制御されたG418耐性遺伝子の両側にEcoRI認識配列を付加した遺伝子断片を、プライマー16および17(配列番号26および27)を用いたPCRにより調製し、EcoRI処理後にpUCTmのEcoRIサイトに挿入して、pUCTmG418を調製した。次に、新規ポリペプチド遺伝子(NP1)を含むプラスミドをテンプレートとして、新規ポリペプチド遺伝子の5’末端側にSpeI認識配列、3’末端側にBglII認識配列を付加した遺伝子断片を、プライマー18および19(配列番号28および29)を用いたPCRにより調製し、SpeI・BglII処理後にpUCTmG418のSpeI・BglIIサイトに挿入して、pUCNP1TmG418を構築した。次に、GAPプロモーターの両側にBamHI認識配列を付加した遺伝子断片を、プライマー20および21(配列番号30および31)を用いたPCRにより調製し、BamHI処理後にpUCNP1TmG418のBamHIサイトに挿入して、pUCPgapNP1TmG418を調製した。本発現ベクターは、新規ポリペプチド(配列番号32)がGAPプロモーター制御下で発現するように設計されている。
【0095】
(実施例3)新規ポリペプチド発現酵母宿主細胞の取得
実施例2で構築したpUCPgapNP1TmG418を用いて大腸菌を形質転換して、得られた形質転換体を、5mlの2YT培地(1.6% tryptone bacto(Difco社製)、1.0% yeast extract bacto(Difco社製)、0.5% NaCl)で培養し、得られた菌体からQIAprep spin miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて、pUCPgapNP1TmG418を取得した。
【0096】
本プラスミドをMOXターミネーター遺伝子内のEcoRVサイトやNruIサイト、もしくはマルチクローニングサイト内のNotIサイトなどで切断して直鎖状にした。この直鎖状のpUCPgapNP1TmG418を用いて、以下のようにオガタエア・アングスタ及びコマガタエラ・パストリスを形質転換した。
【0097】
オガタエア・アングスタNCYC495ロイシン要求性株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Difco社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、37℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで37℃で振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。同様に、コマガタエラ・パストリスY-11430ロイシン要求性株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Difco社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで30℃で振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
【0098】
この懸濁液をオガタエア・アングスタは37℃、コマガタエラ・パストリスは30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース, 10mM Tris-HCl, 1mM塩化マグネシウム, pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25mlの氷冷STMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0099】
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUCPgapNP1TmG418溶液のそれぞれ3μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極,電極間隔2mm;ビーエム機器社製)に移し入れ、オガタエア・アングスタは7.5kV/cm、10μF、900Ω、コマガタエラ・パストリスは7.5kV/cm、25μF、200Ωのパルスに供した後、菌体をYPD培地1mlで懸濁し、オガタエア・アングスタは37℃、コマガタエラ・パストリスは30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、室温)し、1mlのYNBMSG培地(0.17% Yeast Nitrogen Base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Difco社製)、0.1% グルタミン酸ナトリウム)に懸濁後、再度集菌(3000×g、5分、室温)した。菌体を適当量のYNBMSG培地で再懸濁後、YNBMSGG418選択寒天プレート(0.17% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Difco社製)、0.1% グルタミン酸ナトリウム、1.5%アガロース、2%グルコース、0.05%G418二硫酸塩、100mg/Lロイシン)に塗布し、オガタエア・アングスタは37℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、オガタエア・アングスタ新規ポリペプチド発現酵母宿主細胞を取得した。コマガタエラ・パストリスは30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、コマガタエラ・パストリス新規ポリペプチド発現酵母宿主細胞を取得した。
【0100】
(実施例4)新規ポリペプチド発現/完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現形質転換体の取得
実施例1で構築したpUC-PmoxLPmoxFdTmを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlの2YT培地(1.6% tryptone bacto(Difco社製)、1.0% yeast extract bacto(Difco社製)、0.5% NaCl)で培養し、得られた菌体からQIAprep spin miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて、pUC-PmoxLPmoxFdTmを取得した。
【0101】
本プラスミドをMOXターミネーター遺伝子内のEcoRVサイトで切断して直鎖状にした。この直鎖状のpUC-PmoxLPmoxFdTmを用いて、以下のようにオガタエア・アングスタ及びコマガタエラ・パストリスを形質転換した。
【0102】
実施例3で取得したオガタエア・アングスタ新規ポリペプチド発現酵母宿主細胞またはオガタエア・アングスタNCYC495ロイシン要求性株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Difco社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、37℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで37℃で振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー,pH7.5に再懸濁した。同様に、実施例3で取得したコマガタエラ・パストリス新規ポリペプチド発現酵母宿主細胞またはコマガタエラ・パストリスY-11430ロイシン要求性株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Difco社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで30℃で振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー,pH7.5に再懸濁した。
【0103】
この懸濁液をオガタエア・アングスタは37℃、コマガタエラ・パストリスは30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース, 10mM Tris-HCl, 1mM塩化マグネシウム, pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25mlの氷冷STMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0104】
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-PmoxLPmoxFdTm 溶液3μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極,電極間隔2mm;ビーエム機器社製)に移し入れ、オガタエア・アングスタは7.5kV/cm、10μF、900Ω、コマガタエラ・パストリスは7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、オガタエア・アングスタは37℃、コマガタエラ・パストリスは30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、室温)し、1mlのYNBMSG培地(0.17% Yeast Nitrogen Base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Difco社製)、0.1% グルタミン酸ナトリウム)に懸濁後、再度集菌(3000×g、5分、室温)した。菌体を適当量のYNBMSG培地で再懸濁後、オガタエア・アングスタ新規ポリペプチド発現酵母宿主細胞の形質転換体はYNBMSGG418選択寒天プレート(0.17% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Difco社製)、0.1% グルタミン酸ナトリウム、1.5%アガロース、2%グルコース、0.05%G418二硫酸塩)に、オガタエア・アングスタNCYC495ロイシン要求性株の形質転換体はYNB選択寒天プレート(0.67% yeast nitrogen base Without Amino Acid(Difco社製)、1.5%アガロース、2%グルコース)に塗布し、オガタエア・アングスタは37℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、オガタエア・アングスタ新規ポリペプチド発現/完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現形質転換体と、オガタエア・アングスタ完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現形質転換体を取得した。コマガタエラ・パストリスは30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、コマガタエラ・パストリス新規ポリペプチド発現/完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現形質転換体と、コマガタエラ・パストリス完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現形質転換体を取得した。
【0105】
(実施例5)新規ポリペプチド発現/完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現形質転換体の培養
実施例4で得られた新規ポリペプチド発現/完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現形質転換体と完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現形質転換体を2mlのBMGY培地(1% yeast extract bacto(Difco社製)、2%polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Difco社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mMリン酸カリウム(pH6.0)、2% Glycerol)、また、BMGMY培地(1% yeast extract bacto(Difco社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Difco社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mMリン酸カリウム(pH6.0)、1% Glycerol、2% Methanol)に接種し、これを30℃、120rpm、72時間振盪培養後、遠心分離(12,000rpm、5分、4℃)により培養上清を回収した。菌体濃度はOD600にて測定した。
【0106】
(実施例6)ELISA法による完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体の分泌量の測定
新規ポリペプチド発現/完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現形質転換体の培養上清への抗TNF-α Fab抗体分泌発現量は、サンドイッチELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)法により以下に示す方法で行った。ELISA用プレート(マキシソープ;NUNC社製)に固定化バッファー(0.1N重炭酸ナトリウム溶液,pH9.6)にて2500倍希釈したGoat Anti-Human IgG (Fab Specific) Antibody(SIGMA社製)を各ウェル50μlずつ添加し、終夜4℃でインキュベートした。
【0107】
インキュベート後、ウェル中の溶液を除去し、イムノブロック(大日本住友製薬社製)250μlでブロッキングし、室温で1時間静置した。PBSTバッファー(8g/L塩化ナトリウム、0.2g/L塩化カリウム、1.15g/Lリン酸一水素ナトリウム(無水)、0.2g/Lリン酸二水素カリウム(無水)、0.1% Tween20)で3回洗浄後、系列希釈した標準Fab抗体(Anti-Human IgG Fab;rockland社製)と希釈した培養上清を各ウェル50μlずつ添加し、室温で1時間反応した。
【0108】
PBSTバッファーで4回洗浄後、PBSTバッファーにて8000倍希釈した二次抗体溶液(二次抗体:Anti-Human IgG(Fab Specific)HRP conjugate Antibody(SIGMA社製))を各ウェル50μlずつ添加し、室温で1時間反応させた。PBSTバッファーで4回洗浄後、50μlのTMB-1 Component Microwell Peroxidase Substrate SureBlue(KPL社製)を添加し、室温で20分静置した。50μlのTMB Stop Solution(KPL社製)を添加して反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(BenchMark Plus;Bio-Rad社製)で450nmの吸光度を測定した。培養上清中のFab抗体の定量は、標準Fab抗体の検量線を用いて行った。この方法により得られた抗TNF-α Fab抗体分泌発現量と各々の菌体濃度(OD600)を
図1に示した。
【0109】
その結果、新規ポリペプチド発現(pUCPgapNP1TmG418導入)/完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現形質転換体は、明らかに、新規ポリペプチド遺伝子を導入していない完全ヒト型化抗TNF-α Fab抗体発現形質転換体より高い分泌発現量を示した。メタノールを含む培地(BMGMY培地)においても高い分泌発現量を示すことから、本発明の新規ポリペプチド発現により、従来技術では成し得なかった目的タンパク質のメタノール誘導性プロモーター活性化と、目的タンパク質が効率的に分泌生産できる菌形態変化が同時に起こったことが考えられる。