特許第6387631号(P6387631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387631
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】光学系および光学機器
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/02 20060101AFI20180903BHJP
【FI】
   G02B13/02
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-49204(P2014-49204)
(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公開番号】特開2015-172711(P2015-172711A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100157417
【弁理士】
【氏名又は名称】並木 敏章
(72)【発明者】
【氏名】藤本 誠
【審査官】 殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−025087(JP,A)
【文献】 特開2009−271354(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/024258(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 − 17/08
G02B 21/02 − 21/04
G02B 25/00 − 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体に対してフォーカシングを行うための合焦レンズの物体側に隣接して配設され、正の屈折力を有する第1レンズ群と、
前記第1レンズ群の像側に配設され、前記合焦レンズを含んで負の屈折力を有する第2レンズ群とにより実質的に2個のレンズ群からなり、
前記第1レンズ群を構成するレンズのうち少なくとも1つのレンズ面に、光軸に対して回転対称形状であって正の屈折力を有する回折光学素子が配設され、
前記第2レンズ群を構成するレンズのうち少なくとも1つのレンズ面に、光軸に対して回転対称形状であって負の屈折力を有する回折光学素子が配設され、
以下の条件式を満足することを特徴とする光学系。
0.001<f1/fdoe1<0.018
0.005<f2/fdoe2<0.030
但し、
f1:前記第1レンズ群の焦点距離、
fdoe1:前記第1レンズ群における回折光学素子の焦点距離の和、
f2:前記第2レンズ群の焦点距離、
fdoe2:前記第2レンズ群における回折光学素子の焦点距離の和。
【請求項2】
前記第2レンズ群は、前記合焦レンズよりも像側に配設された正レンズと負レンズとからなる色消しレンズを有し、
以下の条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
−15<νd3−νd4<15
但し、
νd3:前記色消しレンズにおける前記正レンズのd線に対するアッベ数、
νd4:前記色消しレンズにおける前記負レンズのd線に対するアッベ数。
【請求項3】
以下の条件式を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の光学系。
0.50<L/f<0.80
但し、
L:前記光学系における最も物体側のレンズ面から像面までの距離、
f:前記光学系の無限遠合焦時における焦点距離。
【請求項4】
物体の像を所定の面上に結像させる光学系を備えた光学機器であって、
前記光学系が請求項1から3のいずれか一項に記載の光学系であることを特徴とする光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子を備えた光学系および光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長焦点距離の撮影光学系に好適なレンズタイプとして、物体側から順に正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、を有する光学系である、いわゆる望遠レンズが知られている。
【0003】
焦点距離の長い望遠レンズでは、焦点距離が延びるにしたがって、諸収差のうち、特に軸上色収差及び倍率色収差等の色収差が悪化する傾向にある。これらの色収差を良好に補正する為に、低分散の硝材を用いた正レンズと高分散の硝材を用いた負レンズを組み合わせて色消しを行った望遠レンズが種々提案されている。一方、光学系の色収差を補正する方法として、分散の異なる2つの材質の硝材(レンズ)を組み合わせる方法に対して、レンズ面あるいは光学系の一部に回折作用を有する回折格子を設けた回折光学素子を用いて、色収差を減じる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
回折光学素子は、微小間隔(1mm)当たり数本程度の細い等間隔のスリット状もしくは溝状の格子構造を備えて作られた光学素子であり、光が入射されると、スリットや溝のピッチ(間隔)と光の波長とで定まる方向に回折光束を生じさせる性質を有している。このような回折光学素子は種々の光学系に用いられており、例えば、最近では、特定次数の回折光を一点に集めてレンズとして使用するものなどが知られている。
【0005】
このような回折光学素子を用いることにより、色収差等の諸収差を良好に補正しつつ、テレ比の小さい(レンズ全長の短い)、高い光学性能を有した望遠型の光学系(望遠レンズ)を実現することができる。特に、軸上色収差においては、一般的な2波長で軸上色収差が補正されるアクロマート補正に対し、回折光学素子を用いることにより3波長で軸上色収差が補正されるアポクロマート補正が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−271354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、軸上色収差だけでなく、倍率色収差も良好に補正する要望がある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、軸上色収差および倍率色収差を良好に補正しつつ、テレ比の小さい、高い光学性能を有した光学系および光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的達成のため、本発明に係る光学系は、物体に対してフォーカシングを行うための合焦レンズの物体側に隣接して配設され、正の屈折力を有する第1レンズ群と、前記第1レンズ群の像側に配設され、前記合焦レンズを含んで負の屈折力を有する第2レンズ群とにより実質的に2個のレンズ群からなり、前記第1レンズ群を構成するレンズのうち少なくとも1つのレンズ面に、光軸に対して回転対称形状であって正の屈折力を有する回折光学素子が配設され、前記第2レンズ群を構成するレンズのうち少なくとも1つのレンズ面に、光軸に対して回転対称形状であって負の屈折力を有する回折光学素子が配設され、以下の条件式を満足している。
0.001<f1/fdoe1<0.018
0.005<f2/fdoe2<0.030
但し、
f1:前記第1レンズ群の焦点距離、
fdoe1:前記第1レンズ群における回折光学素子の焦点距離の和、
f2:前記第2レンズ群の焦点距離、
fdoe2:前記第2レンズ群における回折光学素子の焦点距離の和。
【0012】
また、本発明に係る光学機器は、物体の像を所定の面上に結像させる光学系を備えた光学機器であって、前記光学系として本発明に係る光学系を用いている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軸上色収差および倍率色収差を良好に補正しつつ、テレ比の小さい、高い光学性能を有した光学系および、これを備えた光学機器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施例に係る光学系の断面図である。
図2】第1実施例に係る光学系の縦収差図である。
図3】第1実施例に係る光学系の横収差図である。
図4】第2実施例に係る光学系の断面図である。
図5】第2実施例に係る光学系の縦収差図である。
図6】第2実施例に係る光学系の横収差図である。
図7】デジタル一眼レフカメラの断面図である。
図8】光学系の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願の好ましい実施形態について図を参照しながら説明する。本願に係る光学系TLを備えたデジタル一眼レフカメラCAMが図7に示されている。図7に示すデジタル一眼レフカメラCAMにおいて、不図示の物体(被写体)からの光は、撮影レンズとしての光学系(望遠レンズ)TLで集光されて、クイックリターンミラーMを介して焦点板F上に結像される。焦点板F上に結像された光は、ペンタプリズムP中で複数回反射されて接眼レンズEへと導かれる。これにより、撮影者は、接眼レンズEを介して物体(被写体)の像を正立像として観察することができる。
【0017】
また、撮影者によって不図示のレリーズボタンが押されると、クイックリターンミラーMが光路外へ退避し、光学系TLで集光された物体(被写体)からの光は、撮像素子C上に結像されて被写体の像を形成する。これにより、物体(被写体)からの光は、撮像素子C上に結像されて当該撮像素子Cにより撮像され、物体(被写体)の画像として不図示のメモリーに記録される。このようにして、撮影者はデジタル一眼レフカメラCAMによる物体(被写体)の撮影を行うことができる。なお、クイックリターンミラーMを有しないカメラであっても、上記カメラCAMと同様の効果を得ることができる。また、図7に示すデジタル一眼レフカメラCAMは、光学系TLを着脱可能に保持する構成であってもよく、光学系TLと一体に構成されるものであってもよい。
【0018】
光学系TLは、例えば図1に示すように、物体に対してフォーカシングを行うための合焦レンズLFの物体側に配設され、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、第1レンズ群G1の像側に配設され、合焦レンズLFを含んで負の屈折力を有する第2レンズ群G2とを備えて構成される。第1レンズ群G1は、光軸に対して回転対称形状であって正の屈折力を有する回折光学素子DOE1を少なくとも1つ有している。第2レンズ群G2は、光軸に対して回転対称形状であって負の屈折力を有する回折光学素子DOE2を少なくとも1つ有している。そして、第1レンズ群G1および第2レンズ群G2は、次の条件式(1)〜(2)を満足している。
【0019】
0.001<f1/fdoe1<0.030 …(1)
0.005<f2/fdoe2<0.030 …(2)
但し、
f1:第1レンズ群G1の焦点距離、
fdoe1:第1レンズ群G1における回折光学素子DOE1の焦点距離の和、
f2:第2レンズ群G2の焦点距離、
fdoe2:第2レンズ群G2における回折光学素子DOE2の焦点距離の和。
【0020】
条件式(1)は、第1レンズ群G1に配置される回折光学素子DOE1のパワーを規定する条件式である。条件式(1)を満足することにより、軸上色収差および倍率色収差を効果的に補正することができる。条件式(2)は、第2レンズ群G2に配置される回折光学素子DOE2のパワーを規定する条件式である。条件式(2)を満足することにより、倍率色収差を効果的に補正することができる。このように、条件式(1)〜(2)を満足することにより、本実施形態によれば、軸上色収差および倍率色収差を良好に補正しつつ、テレ比の小さい、高い光学性能を有した望遠型の光学系TLおよび、これを備えた光学機器(デジタル一眼レフカメラCAM)を得ることができる。
【0021】
なお、条件式(1)の上限値を上回る条件である場合、回折光学素子DOE1のパワーが強すぎて回折フレアが増大するため、好ましくない。一方、条件式(1)の下限値を下回る条件である場合、第1レンズ群G1に回折光学素子DOE1を配置する効果が十分に得られず、軸上色収差および倍率色収差の補正が不十分となる。
【0022】
なお、本願の効果をより確実にするために、条件式(1)の上限値を0.020に設定することが望ましい。また、条件式(1)の上限値を0.018に設定することがより望ましい。一方、本願の効果をより確実にするために、条件式(1)の下限値を0.003に設定することが望ましい。
【0023】
なお、条件式(2)の上限値を上回る条件である場合、回折光学素子DOE2のパワーが強すぎて回折フレアが増大するため、好ましくない。一方、条件式(2)の下限値を下回る条件である場合、第2レンズ群G2に回折光学素子DOE2を配置する効果が十分に得られず、倍率色収差の補正が不十分となる。
【0024】
なお、本願の効果をより確実にするために、条件式(2)の上限値を0.028に設定することが望ましい。一方、本願の効果をより確実にするために、条件式(2)の下限値を0.010に設定することが望ましい。
【0025】
また、本実施形態における回折光学素子DOE1,DOE2は、鋸歯状の回折格子溝が形成された面を持つ回折素子要素を積み重ねてなるものであり、所望の広波長領域(例えば、可視光領域)のほぼ全域で高い回折効率が保たれる、すなわち波長特性が良好であるという特徴を有している。一般に、複層型の回折光学素子として、例えば、互いに異なる材料からなる2種類の回折素子要素から構成され、同一の回折格子溝で密着している、いわゆる密着複層型の回折光学素子が知られている。
【0026】
なお、密着複層型の回折光学素子を配置する場合、2枚のガラスレンズの接合面に配置する構成があるが、2枚のガラスレンズの接合面に回折光学素子を配置すると、応力により回折光学素子の屈折率が変化し、回折効率の低下を招きやすいという問題がある。そのため、密着複層型の回折光学素子を配置する場合、レンズの片側の面上に回折光学素子を配置する方法が適している。
【0027】
また、このような光学系TLにおいて、第1レンズ群G1は、正の屈折力を有する回折光学素子DOE1を1つ有し、次の条件式(1A)を満足することが好ましい。
【0028】
0.005<f1/fdoe1<0.015 …(1A)
【0029】
条件式(1A)は、正の屈折力を有する第1レンズ群G1に、比較的焦点距離の短い回折光学素子DOE1が配置されることを示している。条件式(1A)を満足することにより、屈折光学系で発生する高次の軸上色収差を小さくすることができるため、使用波長域全体に亘り軸上色収差の変動を小さくすることが可能となる。
【0030】
なお、本願の効果をより確実にするために、条件式(1A)の上限値を0.012に設定することが望ましい。一方、本願の効果をより確実にするために、条件式(1A)の下限値を0.007に設定することが望ましい。
【0031】
また、このような光学系TLにおいて、第2レンズ群G2は、合焦レンズLFよりも像側に配設された正レンズと負レンズとからなる色消しレンズを有し、次の条件式(3)を満足することが好ましい。
【0032】
−15<νd3−νd4<15 …(3)
但し、
νd3:色消しレンズにおける正レンズのd線に対するアッベ数、
νd4:色消しレンズにおける負レンズのd線に対するアッベ数。
【0033】
条件式(3)は、合焦レンズLFよりも像側に、分散の差が所望の値以下の正レンズと負レンズとからなる色消しレンズが配置されることを示している。この色消しレンズにおける正レンズと負レンズは、貼り合わせてもよく、隣接して配置してもよい。条件式(3)を満足することにより、高次の軸上色収差をより小さくすることができる。なお、条件式(3)の上限値および下限値を超える条件である場合、光学系TLの全系で、使用波長域における軸上色収差の変動を小さくすることが困難となる。
【0034】
なお、本願の効果をより確実にするために、条件式(3)の上限値を10に設定することが望ましい。一方、本願の効果をより確実にするために、条件式(3)の下限値を−10に設定することが望ましい。
【0035】
また、このような光学系TLにおいて、次の条件式(4)を満足することが好ましい。
【0036】
0.50<L/f<0.80 …(4)
但し、
L:光学系TLにおける最も物体側のレンズ面から像面までの距離、
f:光学系TLの無限遠合焦時における焦点距離。
【0037】
条件式(4)は、光学系TL全系での光学全長を焦点距離で割ったテレ比を規定するための条件式である。条件式(4)の上限値を上回る条件である場合、回折光学素子DOE1,DOE2の焦点距離が長くなりすぎ、回折光学素子DOE1,DOE2を入れる意味がなくなる。一方、条件式(4)の下限値を下回る条件である場合、光学系TL全系での発生収差が大きくなりすぎ、性能が悪化する。
【0038】
なお、本願の効果をより確実にするために、条件式(4)の上限値を0.75に設定することが望ましい。
【0039】
ここで、上述のような構成の光学系TLの製造方法について、図8を参照しながら説明する。まず、円筒状の鏡筒内に、合焦レンズLFの物体側に正の屈折力を有する第1レンズ群G1を配置し、第1レンズ群G1の像側に合焦レンズLFを含んで負の屈折力を有する第2レンズ群G2を配置する(ステップST10)。そして、合焦レンズLFを光軸に沿って移動させることにより、無限遠物体から有限距離物体へのフォーカシングが行われるように、合焦レンズLFを駆動可能に構成する(ステップST20)。
【0040】
レンズの組み込みを行うステップST10において、前述の条件式(1)〜(2)等を満足するように、第1レンズ群G1に正の屈折力を有する回折光学素子DOE1を少なくとも1つ配置し、第2レンズ群G2に負の屈折力を有する回折光学素子DOE2を少なくとも1つ配置する。このような製造方法によれば、軸上色収差および倍率色収差を良好に補正しつつ、テレ比の小さい(レンズ全長の短い)、高い光学性能を有した望遠型の光学系TLを得ることができる。
【実施例】
【0041】
(第1実施例)
以下、本願の各実施例を添付図面に基づいて説明する。まず、本願の第1実施例について図1図3および表1を用いて説明する。図1は、第1実施例に係る光学系TL(TL1)の断面図である。第1実施例に係る光学系TL1は、光軸に沿って物体側から順に並んだ、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、負の屈折力を有する第2レンズ群G2とを備えて構成される。
【0042】
第1レンズ群G1は、光軸に沿って物体側から順に並んだ、前群G1aと、この前群G1aに対し第1レンズ群G1の中で最も長い空気間隔を隔てた後群G1bとから構成される。第1レンズ群G1の前群G1aは、物体側から順に、単レンズである第1正レンズL11と、第2正レンズL12と第1負レンズL13とが貼り合わされた接合レンズと、回折光学素子DOE1が配置される第3正レンズL14とから構成される。なお、第3正レンズL14における像面I側のレンズ面に、正の屈折力を有する回折光学素子DOE1が配置される。第1レンズ群G1の回折光学素子DOE1は、互いに異なる材質の2種類の回折素子要素が同一の回折格子溝で接する密着複層型の回折光学素子であり、2種類の紫外線硬化樹脂によって格子高さが約20μmの1次の回折格子(光軸に対して回転対称形状の回折格子)が形成される。第1レンズ群G1の後群G1bは、物体側から順に、第2負レンズL15と第4正レンズL16とが貼り合わされた接合レンズから構成される。
【0043】
第2レンズ群G2は、物体側から順に、第5正レンズL21と第3負レンズL22とが貼り合わされた合焦レンズLFと、第4負レンズL23と第6正レンズL24とが貼り合わされた第1色消しレンズLC1と、第7正レンズL25と第5負レンズL26とが貼り合わされた接合レンズと、単レンズである第6負レンズL27と、第8正レンズL28と第7負レンズL29とが貼り合わされた第2色消しレンズLC2と、回折光学素子DOE2が配置される第9正レンズL30とから構成される。そして、無限遠物体から近距離(有限距離)物体への合焦(フォーカシング)の際、合焦レンズLFが光軸に沿って像面I側に移動するようになっている。なお、第9正レンズL30における物体側のレンズ面に、負の屈折力を有する回折光学素子DOE2が配置される。第2レンズ群G2の回折光学素子DOE2は、第1レンズ群G1の回折光学素子DOE1と同様であり、詳細な説明を省略する。また、第2レンズ群G2における合焦レンズLFと第1色消しレンズLC1との間に、絞りSが配設される。
【0044】
以下に、表1〜表2を示すが、これらは第1〜第2実施例に係る光学系(望遠レンズ)の諸元の値をそれぞれ掲げた表である。各表の[全体諸元]において、fは焦点距離を、FNOはFナンバーを、ωは半画角(最大入射角:単位は「°」)を、Yは像高を、Bfはバックフォーカス(空気換算長)をそれぞれ示す。また、[全体諸元]において、Lは光学系の全長(1番目のレンズ面から像面Iまでの距離)を、f1は第1レンズ群の焦点距離を、f2は第2レンズ群G2の焦点距離を、fdoe1は第1レンズ群G1における回折光学素子DOE1の焦点距離の和を、fdoe2は第2レンズ群G2における回折光学素子DOE2の焦点距離の和をそれぞれ示す。また、[レンズデータ]において、面番号は物体側から数えたレンズ面の番号を、Riは物体側からi番目のレンズ面の曲率半径を、Diは物体側からi番目のレンズ面とi+1番目のレンズ面との間のレンズ厚または空気間隔を、ndはd線(波長λ=587.6nm)に対する屈折率を、νdはd線(波長λ=587.6nm)に対するアッベ数をそれぞれ示す。なお、曲率半径「∞」は平面を示し、空気の屈折率nd=1.0000はその記載を省略している。
【0045】
また、[回折面データ]において示す回折面の位相形状ψは、次式(A)によって表わされる。
【0046】
ψ(h,m)={2π/(m×λ0)}×(C2×h2+C4×h4+C6×h6…) …(A)
但し、
h:光軸に対して垂直な方向の高さ、
m:回折光の回折次数、
λ0:設計波長、
Ci:位相係数(i=1,2,3,…)。
【0047】
また、任意の波長λおよび任意の回折次数mにおける回折面の屈折力φDは、最も低次の位相係数C1を用いて、次式(B)のように表わすことができる。
【0048】
φD(h,m)=−2×C1×m×λ/λ0 …(B)
【0049】
[回折面データ]において位相係数を示すが、「E-n」は「×10-n」を示す。また、[条件式対応値]には、各条件式の対応値をそれぞれ示す。なお、以下の全ての諸元値において掲載されている焦点距離f、曲率半径Ri、面間隔Di、その他長さの単位は一般に「mm」が使われるが、光学系は、比例拡大または比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、これに限られるものではない。また、後述の第2実施例の諸元値においても、本実施例と同様の符号を用いる。
【0050】
下の表1に、第1実施例における各諸元を示す。なお、表1における第1面〜第31面の曲率半径Riは、図1における第1面〜第31面に付した符号R1〜R31に対応している。また、第1実施例において、第8面および第29面が回折面となっている。
【0051】
(表1)
[全体諸元]
f=294
FNO=4.1
2ω=8.4
Y=21.63
Bf=54.00
L=190.4
f1=99.86
f2=-71.18
fdoe1=11135.50
fdoe2=-5343.01
[レンズ諸元]
面番号 Ri Di nd νd
1 119.301 6.91 1.4875 70.3
2 1138.274 1.01
3 80.232 11.49 1.4978 82.6
4 -504.651 2.50 1.5750 41.5
5 246.455 2.02
6 73.087 5.00 1.5168 63.9
7 98.376 0.20 1.5278 33.4
8 98.376 0.30 1.5572 50.0 (回折面)
9 98.376 26.00
10 41.419 1.50 1.9108 35.2
11 26.417 7.50 1.4875 70.3
12 76.338 6.33
13 125.596 2.38 1.6200 36.4
14 -356.488 1.20 1.6968 55.5
15 42.511 23.65
16 ∞ 2.77 (絞り)
17 52.557 2.08 1.9108 35.2
18 23.312 2.76 1.5750 41.5
19 226.400 2.58
20 60.916 2.13 1.7283 28.4
21 -102.282 0.85 1.7292 54.6
22 30.417 2.18
23 -71.955 0.80 1.7292 54.6
24 83.995 2.33
25 78.862 3.04 1.5481 45.5
26 -52.965 1.00 1.7880 47.4
27 -240.018 10.32
28 68.731 0.20 1.5572 50.0
29 68.731 0.20 1.5278 33.4 (回折面)
30 68.731 5.15 1.4875 70.3
31 -68.731 54.00
[回折面データ]
第8面 第29面
m 1 1
C1 -4.490E-05 9.358E-05
C2 -2.488E-09 -2.112E-07
[条件式対応値]
条件式(1),(1A) f1/fdoe1=0.0090
条件式(2) f2/fdoe2=0.0133
条件式(3) νd3−νd4=6.3 (第1色消しレンズLC1)
νd3−νd4=-1.9 (第2色消しレンズLC2)
条件式(4) L/f=0.65
【0052】
このように本実施例では、上記条件式(1)〜(4)が全て満たされていることが分かる。
【0053】
図2は第1実施例に係る光学系TL1の縦収差図であり、図3は第1実施例に係る光学系TL1の横収差図である。各収差図において、dはd線(λ=587.6nm)、gはg線(λ=435.8nm)における収差をそれぞれ示す。また、非点収差を示す収差図において、実線はサジタル像面を示し、破線はメリディオナル像面を示している。以上、各収差図の説明は他の実施例においても同様である。図2および図3より、第1実施例では、軸上色収差および倍率色収差等の諸収差が良好に補正され、優れた光学性能を有していることがわかる。その結果、第1実施例の光学系TL1を搭載することにより、デジタル一眼レフカメラCAMにおいても、優れた光学性能を確保することができる。
【0054】
(第2実施例)
以下、本願の第2実施例について図4図6および表2を用いて説明する。図4は、第2実施例に係る光学系TL(TL2)の断面図である。第2実施例に係る光学系TL2は、光軸に沿って物体側から順に並んだ、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、負の屈折力を有する第2レンズ群G2とを備えて構成される。
【0055】
第1レンズ群G1は、光軸に沿って物体側から順に並んだ、前群G1aと、この前群G1aに対し第1レンズ群G1の中で最も長い空気間隔を隔てた後群G1bとから構成される。第1レンズ群G1の前群G1aは、物体側から順に、単レンズである第1正レンズL11と、第2正レンズL12と第1負レンズL13とが貼り合わされた接合レンズと、回折光学素子DOE1が配置される第3正レンズL14とから構成される。なお、第3正レンズL14における像面I側のレンズ面に、正の屈折力を有する回折光学素子DOE1が配置される。第1レンズ群G1の回折光学素子DOE1は、第1実施例の回折光学素子と同様であり、詳細な説明を省略する。第1レンズ群G1の後群G1bは、物体側から順に、第2負レンズL15と第4正レンズL16とが貼り合わされた接合レンズから構成される。
【0056】
第2レンズ群G2は、物体側から順に、第5正レンズL21と第3負レンズL22とが貼り合わされた合焦レンズLFと、第4負レンズL23と第6正レンズL24とが貼り合わされた第1色消しレンズLC1と、第7正レンズL25と第5負レンズL26とが貼り合わされた接合レンズと、単レンズである第6負レンズL27と、第8正レンズL28と第7負レンズL29とが貼り合わされた第2色消しレンズLC2と、回折光学素子DOE2が配置される第9正レンズL30とから構成される。そして、無限遠物体から近距離(有限距離)物体への合焦(フォーカシング)の際、合焦レンズLFが光軸に沿って像面I側に移動するようになっている。なお、第9正レンズL30における物体側のレンズ面に、負の屈折力を有する回折光学素子DOE2が配置される。第2レンズ群G2の回折光学素子DOE2は、第1実施例の回折光学素子と同様であり、詳細な説明を省略する。また、第2レンズ群G2における合焦レンズLFと第1色消しレンズLC1との間に、絞りSが設けられる。
【0057】
下の表2に、第2実施例における各諸元を示す。なお、表2における第1面〜第31面の曲率半径Riは、図4における第1面〜第31面に付した符号R1〜R31に対応している。また、第2実施例において、第8面および第29面が回折面となっている。
【0058】
(表2)
[全体諸元]
f=294
FNO=4.1
2ω=8.4
Y=21.63
Bf=54.00
L=190.5
f1=101.56
f2=-70.80
fdoe1=10664.24
fdoe2=-2695.54
[レンズ諸元]
面番号 Ri Di nd νd
1 108.100 7.82 1.4875 70.3
2 1929.565 0.25
3 78.299 11.62 1.4978 82.6
4 -504.651 2.50 1.5827 46.5
5 175.188 2.06
6 77.145 5.00 1.5168 63.9
7 107.014 0.20 1.5278 33.4
8 107.014 0.30 1.5572 50.0 (回折面)
9 107.014 25.82
10 41.850 1.50 1.9108 35.2
11 26.436 7.60 1.4875 70.3
12 78.638 6.19
13 121.142 2.41 1.6200 36.4
14 -406.824 1.20 1.6968 55.5
15 41.951 23.56
16 ∞ 2.73 (絞り)
17 48.168 2.46 1.9108 35.2
18 22.821 2.82 1.5750 41.5
19 175.142 2.59
20 56.934 2.25 1.7283 28.4
21 -105.781 0.85 1.7292 54.6
22 29.506 2.27
23 -69.059 0.80 1.7292 54.6
24 87.427 2.22
25 66.543 2.95 1.5443 52.1
26 -64.557 1.00 1.7675 40.3
27 -744.439 10.41
28 74.687 0.20 1.5572 50.0
29 74.687 0.20 1.5278 33.4 (回折面)
30 74.687 4.71 1.5218 66.5
31 -73.143 54.00
[回折面データ]
第8面 第29面
m 1 1
C1 -4.689E-05 1.855E-04
C2 -1.487E-09 -2.405E-07
[条件式対応値]
条件式(1),(1A) f1/fdoe1=0.0095
条件式(2) f2/fdoe2=0.0263
条件式(3) νd3−νd4=6.3 (第1色消しレンズLC1)
νd3−νd4=11.8 (第2色消しレンズLC2)
条件式(4) L/f=0.65
【0059】
このように本実施例では、上記条件式(1)〜(4)が全て満たされていることが分かる。
【0060】
図5は第2実施例に係る光学系TL2の縦収差図であり、図6は第2実施例に係る光学系TL2の横収差図である。図5および図6より、第2実施例では、軸上色収差および倍率色収差等の諸収差が良好に補正され、優れた光学性能を有していることがわかる。その結果、第2実施例の光学系TL2を搭載することにより、デジタル一眼レフカメラCAMにおいても、優れた光学性能を確保することができる。
【0061】
なお、上述の実施形態において、以下に記載の内容は、光学性能を損なわない範囲で適宜採用可能である。
【0062】
上述の各実施例において、レンズ群または部分レンズ群を光軸に垂直な方向の成分を持つように移動させ、または、光軸を含む面内方向に回転移動(揺動)させて、手ブレによって生じる像ブレを補正する防振レンズ群としてもよい。例えば、絞りSよりも像側に配置されるレンズのうち少なくとも一部を防振レンズ群とすることができ、特に、第7正レンズL25、第5負レンズL26、第6負レンズL27を防振レンズ群とすることが好ましい。また、第7正レンズL25、第5負レンズL26、第6負レンズL27の物体側および像側の少なくとも一方に、正レンズと負レンズとからなる色消しレンズLC1,LC2を配置することがより好ましく、当該色消しレンズLC1,LC2は前述の条件式(3)を満足することがより好ましい。また、当該色消しレンズLC1,LC2は接合レンズとしてもよい。
【0063】
また、レンズ面は、球面または平面で形成されても、非球面で形成されても構わない。レンズ面が球面または平面の場合、レンズ加工および組立調整が容易になり、加工および組立調整の誤差による光学性能の劣化を防げるので好ましい。また、像面がずれた場合でも描写性能の劣化が少ないので好ましい。レンズ面が非球面の場合、非球面は、研削加工による非球面、ガラスを型で非球面形状に形成したガラスモールド非球面、ガラスの表面に樹脂を非球面形状に形成した複合型非球面のいずれの非球面でも構わない。また、レンズ面は回折面としてもよく、レンズを屈折率分布型レンズ(GRINレンズ)あるいはプラスチックレンズとしてもよい。
【0064】
また、開口絞りは合焦レンズLFよりも像側に配置されるのが好ましいが、開口絞りとしての部材を設けずに、レンズの枠でその役割を代用してもよい。
【0065】
また、各レンズ面には、フレアやゴーストを軽減し高コントラストの高い光学性能を達成するために、広い波長域で高い透過率を有する反射防止膜を施してもよい。
【0066】
また、本実施形態では、第1レンズ群G1に、正の屈折力を有する回折光学素子DOE1が1つ配置されているが、これに限られるものではなく、正の屈折力を有する回折光学素子DOE1が複数配置されてもよい。また、第2レンズ群G2に、負の屈折力を有する回折光学素子DOE2が1つ配置されているが、これに限られるものではなく、負の屈折力を有する回折光学素子DOE2が複数配置されてもよい。
【0067】
また、本実施形態では、光学系の一例として望遠レンズを例に説明したが、これに限られるものではなく、例えば、ズームレンズ等の光学系であってもよい。なお、本実施形態では、焦点距離が300mm程度としたが、これに限られるものではなく、焦点距離が200〜800mm(35mm換算)程度の望遠レンズであってもよい。
【0068】
また、本実施形態の光学系をデジタル一眼レフカメラに使用しているが、これに限られるものではなく、例えば、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等の光学機器にも使用することができる。
【符号の説明】
【0069】
CAM デジタル一眼レフカメラ(光学機器)
TL 光学系
G1 第1レンズ群 G2 第2レンズ群
LF 合焦レンズ
LC1 第1色消しレンズ LC2 第2色消しレンズ
DOE1 回折光学素子 DOE2 回折光学素子
S 絞り I 像面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8