【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は以下の技術的手段から構成される。
(1)水素と酸素から過酸化水素を直接合成する方法であって、
原料ガスの水素と、酸素又は空気のガス相、及び反応媒体の水若しくは酸水溶液の水相を中空の管内壁に貴金属薄膜を被覆した反応管にスラグ流として供給し、ガス相と水相を混合するミキサーの流出部内径と、該反応管内径と反応管継手内径を同じ径として、スラグ流サイズを流路により変化させないようにし、所定の反応温度及び反応圧力条件下で、水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成し、合成された過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収することを特徴とする過酸化水素の直接合成方法。
(2)上記反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜で被覆された反応管を用いる、前記(1)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(3)上記反応管の貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管を用いる、前記(1)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(4)上記中空の管として、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、チタン管、の中から選択された耐食管、又は内面チタンライニングを施した、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、の中から選択された耐食二重管、の何れかを用いる、前記(1)から(3)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(5)上記中空の管として、フュームドシリカチューブを用いる、前記(1)から(3)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(6)上記反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜を反応管内部に無電解メッキで作製する際、ベースとなる金属の酸化被膜を600℃以上の高温酸化、若しくは374℃以上の超臨界水酸化法により製造する、前記(4)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(7)上記反応管の内径が、10mm以下で、0.05mm以上か、又は5mm以下で、0.1mm以上である、前記(1)から(6)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(8)反応温度が0〜80℃の範囲で、反応圧力が0.1〜50MPaの範囲である、前記(1)から(7)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(9)反応管内部で合成された過酸化水素を、水若しくは酸水溶液によって過酸化水素水として連続的に回収する、前記(1)から(8)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(10)反応管内部で合成された過酸化水素を回収する水若しくは酸水溶液が、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、の何れか1種類以上のイオンを含む、前記(9)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(11)反応管内部で合成された過酸化水素を連続的に回収する際に、原料ガス相の気体と水相の液体をミキサーで混合して、その体積流量比を調整することにより、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成させ、該スラグ流を用いて、反応管内部で合成された合成直後の過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収する、前記(9)又は(10)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(12)原料ガス相と回収水相の体積流量比を、水相1に対してガス相を50以下として、又は水相1に対してガス相を10以下としてスラグ流を形成させる、前記(11)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(13)原料ガス相にはマスフローコントローラーを使用し、水相には定量ポンプを使用してそれぞれの流量及び吐出圧力を制御しつつ、マイクロミキサーで原料ガス相の気体と水相の液体を混合することによりスラグ流を発生させる、前記(11)から(12)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(14)上記
ミキサー又は上記マイクロミキサーにT字型マイクロミキサーを用いて、安定したスラグ流を発生させる、前記(11)から(13)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(15)原料ガス相の酸素と水素の比率(酸素/水素)を1.6以上とするか、又は酸素と水素の比率を2.0以上とする、前記(1)から(11)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(16)反応管からの回収水相を、反応管に再循環する、前記(9)から(15)の何れか一項に記載の過酸化水素を直接合成する方法。
(17)水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成する装置であって、
原料ガスの水素と、酸素又は空気のガス相、及び反応媒体の水若しくは酸水溶液の水相を中空の管内壁に貴金属薄膜を被覆した反応管にスラグ流として供給し、ガス相と水相を混合するミキサーの流出部内径と、該反応管内径と反応管継手内径を同じ径として、スラグ流サイズを流路により変化させないようにし、所定の反応温度及び反応圧力条件下で、水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成し、合成された過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収する手段を有することを特徴とする過酸化水素の直接合成装置。
(18)管内壁に貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜で被覆された反応管を備えた、前記(17)に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(19)上記反応管の貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管を用いる、前記(17)に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(20)上記中空の管として、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、チタン管、の中から選択された耐食管、又は内面チタンライニングを施した、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、の中から選択された耐食二重管、の何れかを用いた、前記(17)から(19)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(21)上記中空の管として、フュームドシリカチューブを用いた、前記(17)から(19)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(22)上記反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜を反応管内部に無電解メッキで作製する際、ベースとなる金属の酸化被膜として、600℃以上の高温酸化、若しくは374℃以上の超臨界水酸化法により製造したものを用いた、前記(20)に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(23)反応管に入る流路に、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成するミキサーを備えた、前記(17)から(21)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(24)原料ガス相の供給を制御するマスフローコントローラー、水相の供給を制御する定量ポンプを備え、上記マスフローコントローラー及び上記定量ポンプの下流に原料ガス相と水相とを混合するマイクロミキサーを配設して、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を発生させるようにした、前記(17)から(23)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(25)上記
ミキサー又は上記マイクロミキサーにT字型マイクロミキサーを用いて、安定したスラグ流を発生させるようにした、前記(23)から(24)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(26)反応管から出た回収水相を、反応管に再循環させる再循環手段を備えた、前記(17)から(25)の何れか一項以上に記載の過酸化水素の直接合成装置。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、中空の管内壁に貴金属薄膜を被覆した反応管を用いて、該反応管内部で水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成し、合成された過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収することからなる過酸化水素の直接合成方法及びその装置を提供するものである。
【0016】
本発明で用いられる反応管は、中空の反応管、すなわちチューブ状の中空細管から構成され、該中空細管の内部空間において、貴金属薄膜の被覆面積を広くすることが好ましい。面積/体積の比率を高くするために、反応管として、その内径が0.05mm〜10mmの中空細管が用いられる。すなわち、反応管の内径は、10mm以下、好ましくは5mm以下であり、更に、中空細管の内部の充分な物質拡散と熱拡散を保障するために、反応管の内径は1mm以下で、0.1mm以上のものが望ましく、更に、圧損を考慮すると、0.25mm以上のものが望ましい。
【0017】
また、反応管を構成する中空細管の長さは、反応における触媒の貴金属薄膜との接触時間を決定付ける重要な因子となる。このことから、中空細管の長さは長いほど水素の転換効率は高くなるが、長すぎると一度合成された過酸化水素が再分解する可能性がある。また、中空細管の長さは長いほど圧力損失が大きくなることから、これらが好適ないし最適になる長さが選択される。具体的には、反応管を構成する中空細管の長さは、使用される反応管の内径により体積が変化するため、同じ長さであっても反応時間(ガス平均滞留時間)が異なるので、一概には決定できない。
【0018】
更に、内径により内面積(触媒被覆面積)/体積(比表面積)が変化するため、同じ体積(同じ反応時間)としても、内径の違いにより反応結果は異なり、内径毎に好適ないし最適な反応時間、すなわち、中空細管の長さが選択される。内径を1mmとした場合には、反応時間が2分以内、好ましくは、1分以内が選択される。
【0019】
このような反応管を構成する中空細管の内表面への触媒の貴金属薄膜の被覆には、メッキ溶液を中空細管内に導入することにより比較的簡便に達成できる無電解メッキの手法を適用することができる。この無電解メッキの手法は、メッキ液の濃度と通液量によってメッキ膜の厚さを制御できることからも優位な手法である。この無電解メッキ法は、反応管を構成する中空細管の材質が、金属の他、電導性のないガラス、セラミックス、プラスチックなどの表面の場合にも、金属薄膜を被覆することができる利点を有している。
【0020】
本発明で用いる反応管を構成するチューブ状の中空細管の材質としては、好適には、例えば、金属、合金、ガラス、セラミックス、プラスチックなどを利用することができる。金属性の中空細管としては、耐食性の、チタン、ニッケル合金、クロム合金、鉄合金が用いられる。更に、耐薬品性を向上させるために、チタン若しくはチタン合金を内張りしたものが用いられる。上記中空管としては、好適には、例えば、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、チタン管、の中から選択された耐食管、又は内面チタンライニングを施した、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、フュームドシリカチューブなどを利用することができる。
【0021】
チタン若しくはチタン合金を内張りに用いる場合、無電解メッキの前処理として、シランカップリング処理を行うが、その際、チタン表面を酸化処理することが好ましい。チタン表面の酸化処理として、600℃以上の高温酸化処理、若しくは374℃以上の超臨界水酸化処理により、強固な酸化被膜を形成することが好ましい。
【0022】
ガラスでは、ガスクロマトグラフィーのカラムに用いるシリカガラスキャピラリーが、セラミックスでは、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどのチューブが、プラスチックでは、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドなどのチューブが、それぞれ好適な素材として用いられる。
【0023】
本発明では、反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜で被覆された反応管が用いられる。反応管を構成するチューブ状の中空細管の管内壁への触媒の貴金属薄膜の被覆は、該管内壁にパラジウムの種核を付与した後、錯形成剤、貴金属塩、還元剤を含むメッキ液を、該中空細管の内部に通液して、無電解メッキすることで達成される。用いる無電解メッキ溶液には、パラジウム、銀、白金、ロジウムなどの金属塩や、これらの金属錯体、これを安定に溶存させる錯形成剤、並びに、還元剤を、適当な溶媒に溶かして用いることができる。
【0024】
該触媒の貴金属薄膜の膜厚は、用いる無電解メッキ溶液の通液量により制御することができ、好適には、該無電解メッキ溶液の通液量は、0.1〜5μmの範囲が選ばれる。貴金属の使用量を少なくし、かつ均一なメッキ被膜を確保するために、触媒の貴金属薄膜の膜厚は、0.5〜2μmの範囲がより好適である。
【0025】
本発明では、反応管内部の流路に原料ガスの水素と、酸素又は空気のガス相、及び反応媒体の水相とを供給し、所定の反応温度及び反応圧力条件下で、反応管内部で水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成する。その際に、好適には、例えば、原料ガス相と水相のそれぞれの流量及び吐出圧力を制御しつつ、マイクロミキサーで原料ガス相の気体と水相の液体を混合すること、すなわち、水素と酸素の混合気体を酸性水溶液と混合することにより、ミキサーの出口からの気相と液相の相状態が交互に連続するスラグ流を形成させ、該スラグ流を用いて、反応管内部で合成された合成直後の過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収することができる。つまり、上記スラグ流を、触媒の貴金属薄膜を被覆した反応管に導入し、気相で過酸化水素を合成しつつ、液相で連続して回収する。安定したスラグ流を発生させるには、好適には、例えば、マイクロミキサーにT字型マイクロミキサーが用いられる。反応管を出た気相及び液相は、それぞれ混合器の前に戻して循環させることも適宜可能である。水素と酸素の体積混合比については、過酸化水素合成の量論比は、水素5:酸素5であるが、下記の4の副反応である水素による還元を抑えるために、好適には、水素10〜33%、酸素90〜67%である。
【0026】
スラグ流は、原料ガス相と液相の安定的な連続供給とその手段が重要であり、両者の流量比率により、スラグ流の気相、液相の容積が決定する。そのため、気相はマスフローコントローラー、液相は定量ポンプを使用して流量を制御することが好ましい。また、スラグ容積の安定性は、流路の内径が変化しないことにより保持されるため、気相入口内径、液相入口内径、ミキサー出口内径、反応管内径、反応管継手内径が変化せず、これらの径が一定であることが重要である。これらの径が一定であれば、スラグ容積は安定して保持される。
【0027】
本発明の過酸化水素の直接連続合成の反応系では、下記の4の副反応である水素による還元の反応は、原料ガス中の酸素比率(酸素/水素)が、水素過剰(1以下)となる条件で顕著となるため、酸素比率1.6以上、好ましくは2.0以上の条件を確保することが望ましい。
【0028】
過酸化水素の直接連続合成では、以下の1〜4の反応が生じる。
1:H
2+O
2→H
2O
2(目的反応:H
2O
2の合成)
2:H
2+1/2O
2→H
2O(副反応:酸化による燃焼)
3:H
2O
2→H
2O+1/2O
2(副反応:H
2O
2の分解)
4:H
2O
2+H
2→H
2O(副反応:水素による還元)
【0029】
酸性水溶液は、塩酸、硫酸、リン酸などから選ばれる無機酸を1種類以上含むことが好ましく、例えば、上記無機酸を1種類以上含む二酸化炭素の飽和水溶液を使用することができる。無機酸を使用する場合は、水溶液のpHは1〜4、好ましくは2〜3である。更に、この酸性水溶液に、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の何れか1種類以上の物質を添加することで、過酸化水素の合成効率を上げることができる。何れの物質も、酸性水溶液中での総濃度が0.01〜100mg/Lの範囲であることが好ましい。
【0030】
ミキサーは、マイクロミキサー、T字型ミキサー、スタティクミキサー、スワールミキサー、多薄層流接触型ミキサーなど、特に制約されないが、気相の気体と液相の液体の相状態が交互に連続するスラグ流を安定して発生させる場合においては、T字型ミキサー若しくはT字型ミキサーのマイクロミキサーを用いることが好ましい。気体と液体の体積混合比は、気体100:液体1、好ましくは、5〜50:液体1、より好ましくは、気体5〜10:液体1である。
【0031】
反応温度は、0〜80℃の範囲が好ましく、5〜50℃の範囲が更に好適である。過酸化水素は、水素と酸素の気体から合成されるため、合成された過酸化水素を高濃度化するには、気体密度を高めることが求められ、このことからも、高温条件下における反応は好ましくない。
【0032】
反応圧力は、特に、気体密度を高める上で重要な因子であり、合成された過酸化水素を高濃度化するには、高圧の条件下が好ましい。しかし、安全な工業化の観点からは、超高圧は、敬遠され、反応圧力は、0.1〜50MPaの範囲、特に、0.1〜20MPaの範囲に調整することが好ましい。
【0033】
反応時間については、反応管の径及び長さと、気相及び水溶液相の供給流量の和で制御する。この場合、目的の過酸化水素水の濃度に達するまで、水溶液相を循環させるプロセスを採用することが可能である。
【0034】
触媒の貴金属薄膜を被覆した反応管は、好適には、反応管内壁に触媒の貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆する手法で作製することができる。貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管の製造方法としては、文献(特許第4986174号)に記載された方法を適用することができる。メッキ貴金属としては、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜など、パラジウムを主体とした貴金属合金が有効なものとして例示され、特に、金の存在下では、水素の変換率を向上させることが可能である。
【0035】
また、無電解メッキ法では、例えば、反応管を構成する内径0.5mm×1000mmの中空細管に、膜厚2μmのパラジウムを全面に被膜した場合、37mgのパラジウムを使用することになる。しかし、これは、5%Pd担持活性炭1g(Pd:50mg)と比較しても、かなり少ない量である。また、反応管として、並列に束ねた中空糸に触媒の貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管を用いることも可能であり、これにより、反応管のスケールアップが可能となる。
【0036】
次に、水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成する装置について説明すると、本発明の過酸化水素の直接合成装置は、中空の管内壁に貴金属薄膜を被覆した反応管と、該反応管に原料ガスの水素と、酸素又は空気のガス相を供給する手段と、水相とを供給する手段と、反応管内部で合成された合成直後の過酸化水素を水若しくは酸水溶液によって連続的に回収する手段とを備えたことを特徴とするものである。
本発明では、上記反応管として、貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管を用いることができる。
そして、上記装置には、好適には、例えば、管内壁に貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜で被覆された反応管を備えた装置が用いられる。
【0037】
上記装置では、好適には、例えば、記中空の管として、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、チタン管、の中から選択された耐食管、又は内面チタンライニングを施した、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、の中から選択された耐食二重管、の何れかを用いた装置が用いられる。また、上記装置では、反応管に入る流路に、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成するミキサーを備えたこと、原料ガスと回収水を混合するミキサーの流出部内径と、反応管内径と、反応管継手内径が同じ径のものであること、反応管内部で合成された過酸化水素を、水若しくは酸水溶液によって過酸化水素水として連続的に回収する手段を備えたこと、を好ましい実施の態様としている。
【0038】
更に、上記装置では、原料ガス相の供給を制御するマスフローコントローラー、水相の供給を制御する定量ポンプを備え、上記マスフローコントローラー及び上記定量ポンプの下流に原料ガス相と水相とを混合するマイクロミキサーを配設して、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を発生させるようにしたこと、上記マイクロミキサーにT字型マイクロミキサーを用いて、安定したスラグ流を発生させるようにしたこと、反応管から出た回収水相を、反応管に再循環させる再循環手段を備えたこと、を好ましい実施の態様としている。
【0039】
次に、添付した図面を参照して、本発明の好ましい一実施形態を具体的に説明する。
図1に、管内壁に触媒の貴金属薄膜が被覆された中空細管内における過酸化水素合成と過酸化水素回収の基本コンセプトを示した。これは、原料ガス(水素と、酸素又は空気、若しくは水素と酸素と不活性ガス)と回収水は、例えば、ミキサーにより気体と液体の相状態を交互に連続させたスラグ流となり、原料ガス部分では管内壁に被覆された貴金属薄膜の触媒により過酸化水素合成反応が進行し、ここで合成された過酸化水素が直後の回収水部分で分解を受ける前に回収されることを示したものである。
【0040】
図1は、水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成する過酸化水素の直接合成装置のフロー図であり、本発明の過酸化水素の直接合成法を実現する装置の一例を示すものである。
【0041】
図中の符号は、以下に示す手段を示す。すなわち、該符号は、B−1:水素ガスボンベ、B−2:空気ガスボンベ、B−3:酸素ガスボンベ、R−1〜3:減圧弁、MFC−1〜3:マスフローコントローラー、V−1〜3:ストップバルブ、CV−1〜5:逆止弁、SV−1〜2:安全弁、P1〜3:圧力計、AT−1:回収液(酸水溶液)タンク、BV−1:ボール弁、LP−1:定量液供給ポンプ、M−1:ミキサー、T−1〜2:温度計、CR−1:触媒反応管、S−1:気液分離器、NV−1:ニードル弁、BPR1〜2:背圧弁、MFM−1:マスフローメーター、G−1:ガス捕集バック、をそれぞれ示す。また、
図1の点線内の手段は、水槽内に水没されており、水槽内の水を恒温サーキュレーターで温度制御することにより反応温度を制御している。
【0042】
上記過酸化水素の直接合成装置及びその動作について詳しく説明する。
原料ガスである水素と酸素は、別々の高圧ガスボンベ(B−1〜2)から供給され、減圧弁(R−1〜3)により所定の圧力に減圧された後、マスフローコンローラー(MFC1〜3)により所定のガス流量に調整される。
【0043】
この際、水素と酸素の流量比は、理論的には、水素5:酸素5で良いが、酸素を過剰に加えることも可能である。また、安全性をより向上させるために、必要に応じて、B−2のガスボンベを窒素や二酸化炭素などの不活性ガスに変更することも可能である。所定の流量比で混合された原料ガスは、水槽内で所定の温度に昇温された後、ミキサー(M−1)に導入される。
【0044】
一方、反応管内で合成された過酸化水素を速やかに水相に回収するための回収水相は、回収液タンク(AT−1)から定量液供給ポンプ(LP−1)のサクションに供給される。回収液は、水槽内で所定の温度に昇温された後、原料ガスと同様に、ミキサー(M−1)に導入される。ここで使用される回収水は、単なる純水でも良いが、合成された過酸化水素の再分解や反応の収率や選択性を向上することを目的として、硫酸や燐酸、塩酸などの酸の添加や、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどの添加を行うことが可能である。
【0045】
ミキサー(M−1)は、原料ガス相と回収水の水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成させる目的の場合には、例えば、T字型ミキサーやY字型ミキサーが用いられる。安定したスラグ流を形成するには、原料ガスの流量が回収水量の10倍以下、好ましくは5倍以下となるようにマスフローコントローラーで制御し、回収液は、定量ポンプを使用して流量を制御する。原料ガスと回収液は、そのガス相と水相の相状態が交互に連続して流れるスラグ流の状態で触媒反応管(CR−1)に供給される。次いで、原料ガスは、反応管の管内壁に被覆されている貴金属触媒の作用で過酸化水素に変換され、そのガス相の直後の水相で速やかに回収され、過酸化水素水となり、気液分離器(S−1)に回収され、貯蔵される。
【0046】
上記過酸化水素の直接合成装置における合成反応の条件については、反応温度は、好ましくは0〜80℃に設定され、更に好ましくは、5〜50℃に設定される。反応圧力は、好ましくは、0.1〜50MPaの範囲に設定され、更に好ましくは、0.1〜20MPaの範囲に設定される。反応時間は、反応管の内径に依存するが、内径が1mmの場合には、2分以内、好ましくは1分以内に設定される。
【0047】
ここで用いる反応管の内径は、スラグ流を安定的に形成するためには、好ましくは、10mm以下に設定し、更に、安全性の観点から、好適には、水素の消炎直径である1mm以下に設定する。貴金属触媒としては、好適には、例えば、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜が用いられる。
【0048】
回収液の過酸化水素濃度を高める目的で、気液分離器(S−1)の出口のニードル弁(NV−1)を閉じて、循環ライン(CL−1)から回収液タンク(AT−1)に回収液を戻す循環ラインを配設することも可能である。ただし、過酸化水素合成触媒である貴金属は、合成された過酸化水素の分解触媒としても作用するので、その循環には、注意が必要である。また、反応後のガスを再循環するラインを配設することも可能であり、反応ガスの転換率などを考慮して、適宜実施することが可能である。