特許第6387633号(P6387633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6387633触媒被覆反応管を用いた過酸化水素の連続直接合成・回収方法及びその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387633
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】触媒被覆反応管を用いた過酸化水素の連続直接合成・回収方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 15/029 20060101AFI20180903BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20180903BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20180903BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20180903BHJP
   B01J 23/50 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   C01B15/029
   B01J37/02 301N
   B01J37/08
   B01J23/44 M
   B01J23/50 M
【請求項の数】26
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-51839(P2014-51839)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-198665(P2014-198665A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2017年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-54265(P2013-54265)
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度 独立行政法人科学技術振興機構、「復興促進プログラム(A−STEPシーズ顕在化タイプ)/水素と酸素から過酸化水素を安全に連続合成するプロセスの開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】300046821
【氏名又は名称】三徳化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102004
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 政彦
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 慎一朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏重
(72)【発明者】
【氏名】ジャウィド ラハット
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一弘
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0233695(US,A1)
【文献】 特開2010−104928(JP,A)
【文献】 特開2008−221094(JP,A)
【文献】 特表2006−523522(JP,A)
【文献】 特表2008−519241(JP,A)
【文献】 特開2007−105668(JP,A)
【文献】 特表2001−508393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/00 − 15/16
B01J 21/00 − 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と酸素から過酸化水素を直接合成する方法であって、
原料ガスの水素と、酸素又は空気のガス相、及び反応媒体の水若しくは酸水溶液の水相を中空の管内壁に貴金属薄膜を被覆した反応管にスラグ流として供給し、ガス相と水相を混合するミキサーの流出部内径と、該反応管内径と反応管継手内径を同じ径として、スラグ流サイズを流路により変化させないようにし、所定の反応温度及び反応圧力条件下で、水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成し、合成された過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収することを特徴とする過酸化水素の直接合成方法。
【請求項2】
上記反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜で被覆された反応管を用いる、請求項1に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項3】
上記反応管の貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管を用いる、請求項1に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項4】
上記中空の管として、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、チタン管、の中から選択された耐食管、又は内面チタンライニングを施した、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、の中から選択された耐食二重管、の何れかを用いる、請求項1から3の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項5】
上記中空の管として、フュームドシリカチューブを用いる、請求項1から3の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項6】
上記反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜を反応管内部に無電解メッキで作製する際、ベースとなる金属の酸化被膜を600℃以上の高温酸化、若しくは374℃以上の超臨界水酸化法により製造する、請求項4に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項7】
上記反応管の内径が、10mm以下で、0.05mm以上か、又は5mm以下で、0.1mm以上である、請求項1から6の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項8】
反応温度が0〜80℃の範囲で、反応圧力が0.1〜50MPaの範囲である、請求項1から7の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項9】
反応管内部で合成された過酸化水素を、水若しくは酸水溶液によって過酸化水素水として連続的に回収する、請求項1から8の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項10】
反応管内部で合成された過酸化水素を回収する水若しくは酸水溶液が、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、の何れか1種類以上のイオンを含む、請求項9に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項11】
反応管内部で合成された過酸化水素を連続的に回収する際に、原料ガス相の気体と水相の液体をミキサーで混合して、その体積流量比を調整することにより、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成させ、該スラグ流を用いて、反応管内部で合成された合成直後の過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収する、請求項9又は10に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項12】
原料ガス相と回収水相の体積流量比を、水相1に対してガス相を50以下として、又は水相1に対してガス相を10以下としてスラグ流を形成させる、請求項11に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項13】
原料ガス相にはマスフローコントローラーを使用し、水相には定量ポンプを使用してそれぞれの流量及び吐出圧力を制御しつつ、マイクロミキサーで原料ガス相の気体と水相の液体を混合することによりスラグ流を発生させる、請求項11から12の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項14】
上記ミキサー又は上記マイクロミキサーにT字型マイクロミキサーを用いて、安定したスラグ流を発生させる、請求項11から13の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項15】
原料ガス相の酸素と水素の比率(酸素/水素)を1.6以上とするか、又は酸素と水素の比率を2.0以上とする、請求項1から11の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
【請求項16】
反応管からの回収水相を、反応管に再循環する、請求項9から15の何れか一項に記載の過酸化水素を直接合成する方法。
【請求項17】
水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成する装置であって、
原料ガスの水素と、酸素又は空気のガス相、及び反応媒体の水若しくは酸水溶液の水相を中空の管内壁に貴金属薄膜を被覆した反応管にスラグ流として供給し、ガス相と水相を混合するミキサーの流出部内径と、該反応管内径と反応管継手内径を同じ径として、スラグ流サイズを流路により変化させないようにし、所定の反応温度及び反応圧力条件下で、水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成し、合成された過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収する手段を有することを特徴とする過酸化水素の直接合成装置。
【請求項18】
管内壁に貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜で被覆された反応管を備えた、請求項17に記載の過酸化水素の直接合成装置。
【請求項19】
上記反応管の貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管を用いる、請求項17に記載の過酸化水素の直接合成装置。
【請求項20】
上記中空の管として、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、チタン管、の中から選択された耐食管、又は内面チタンライニングを施した、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、の中から選択された耐食二重管、の何れかを用いた、請求項17から19の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
【請求項21】
上記中空の管として、フュームドシリカチューブを用いた、請求項17から19の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
【請求項22】
上記反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜を反応管内部に無電解メッキで作製する際、ベースとなる金属の酸化被膜として、600℃以上の高温酸化、若しくは374℃以上の超臨界水酸化法により製造したものを用いた、請求項20に記載の過酸化水素の直接合成装置。
【請求項23】
反応管に入る流路に、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成するミキサーを備えた、請求項17から21の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
【請求項24】
原料ガス相の供給を制御するマスフローコントローラー、水相の供給を制御する定量ポンプを備え、上記マスフローコントローラー及び上記定量ポンプの下流に原料ガス相と水相とを混合するマイクロミキサーを配設して、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を発生させるようにした、請求項17から23の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
【請求項25】
上記ミキサー又は上記マイクロミキサーにT字型マイクロミキサーを用いて、安定したスラグ流を発生させるようにした、請求項23から24の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
【請求項26】
反応管から出た回収水相を、反応管に再循環させる再循環手段を備えた、請求項17から25の何れか一項以上に記載の過酸化水素の直接合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒被覆反応管を用いた過酸化水素の連続直接合成・回収方法及びその装置に関するものであり、更に詳しくは、中空の管内壁に触媒の貴金属薄膜を無電解メッキなどにより被覆した反応管を利用して、水素と酸素から過酸化水素を直接連続合成し、更に、該直接連続合成した過酸化水素を過酸化水素水として連続的に回収する、過酸化水素の直接合成方法及びその装置に関するものである。本明細書では、中空の管内壁に触媒の貴金属薄膜を被覆した反応管を触媒被覆反応管と記載することがある。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、被処理物との反応後には水となる、環境負荷の小さい酸化剤として、例えば、水処理、殺菌、漂白、洗浄などの分野、特に、半導体洗浄などの分野で、広範囲に利用されている。現在、市場に流通している過酸化水素のほぼ全ては、芳香族有機化合物であるアントラキノンの逐次酸化・還元法(アントラキノン法)によって合成されている。当該アントラキノン法は、多段反応であること、有機試薬、有機溶媒を多量に消費することなどから、近年、それらによる環境汚染の問題が指摘されている。
【0003】
一方、水素と酸素から過酸化水素を直接合成するプロセスは、環境負荷の小さいシンプルな合成プロセスとして期待されている。そして、この直接合成について、種々の貴金属触媒などを用いて、水素と酸素から過酸化水素を直接合成する方法が、様々な視点から検討されている。
【0004】
水素と酸素から過酸化水素を直接合成する技術における課題としては、水素と酸素の混合気体である、いわゆる爆鳴気を安全に取り扱うことが最も重要になっている。加えて、この技術の工業化に向けての課題としては、過酸化水素の生産量の確保と、高濃度化、並びに、高価な貴金属触媒の使用量の削減が重要になっている。これまで、これらの課題を克服するべく様々な技術開発や提案がなされており、近年では、先行技術として、例えば、水素、酸素、窒素の混合気体を、金属触媒コロイド分散液に連続的に供給し、液中に過酸化水素を蓄積する直接合成法が提案されている(引用文献1)。
【0005】
この方法では、窒素を用いることで、過酸化水素の直接合成の安全性を確保し、固定された液に原料ガスの混合気体を連続的に導入することで、高濃度化を図っている。しかし、この方法は、バッチ式であるため、該方法には、生産量を確保することが難しいこと、金属触媒コロイドを合成過酸化水素水中からの回収する方法が必要となること、生成した過酸化水素の再分解が生じること、などの問題があった。
【0006】
他の先行技術として、過酸化水素を連続的に合成する際に、液体(水)と、気体の水素、酸素、窒素を、カラムに充填した固体触媒に同時に供給し、該カラム充填固体触媒を用いて、連続的に過酸化水素を合成する方法が提案されている(引用文献2)。
【0007】
この方法では、固体触媒粒子の表面に液体が膜となって流動し、気体は連続相を形成し、連続式プロセスで過酸化水素の生産量を確保することが可能である。しかし、この方法では、安全性の確保のために、不活性ガスの導入量を多くする必要がある。そのために、該方法には、合成に関わる水素と酸素の量が減少すること、合成された過酸化水素が再度触媒に接触して分解する可能性が高いこと、触媒をカラムに充填することで触媒の使用量が増大すること、カラム内での物質移動による負荷抵抗が増大すること、などの問題があった。
【0008】
また、他の先行技術として、連続式の、例えば、微細な流路を持つマイクロチャンネルに固体触媒を充填した連続合成法も提案されている(引用文献3)。この方法では、マイクロチャンネルを用いて水素消炎距離を確保し、気体と液体を同時供給することで、反応場の水が消炎距離の延長を促し、安全性を確保している。しかし、該方法には、触媒金属粒子をマイクロチャンネル内に充填することによる物質移動における負荷抵抗が増大すること、反応場の、触媒表面、液相、気相の三相における反応性の制御が複雑になること、などの問題があった。
【0009】
先行技術において、直接合成に用いられる不均一触媒には、例えば、単一金属粒子、合金粒子の他、活性炭や金属酸化物担持触媒、金属錯体修飾触媒など、様々の触媒種がある。これらのうち、金属としては、Pd,Pt,Au,PdO,及びPd/C,Pd/Alなどを担持した触媒など、種々の提案がなされている(例えば、引用文献4〜6)。しかし、何れの触媒も、比表面積を大きくするために、微細粒子やコロイドとして使用することが必要とされる、という問題があった。
【0010】
これらの方法では、充填型の固体触媒が使用される。しかし、一般的に、過酸化水素の直接合成では、合成触媒が過酸化水素の分解触媒にもなること、水素と酸素を含む気体連続相による爆発の危険性があること、物質移動における負荷抵抗の低減が求められること、などの観点から、充填型の固体触媒の適用は、余り好ましくないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−84372号公報
【特許文献2】特開平6−183703号公報
【特許文献3】WO2010/044271号公報
【特許文献4】特開平5−213607号公報
【特許文献5】特表2004−516921号公報
【特許文献6】特開昭51−4097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上述の従来技術における諸問題を解決することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、中空の管内壁に触媒の貴金属薄膜を無電解メッキなどにより被覆した反応管を使用することで、円滑な物質移動を確保し、触媒表面、液相、気相からなる好適ないし最適な三相界面を形成することが可能であることを見出した。更に、本発明者らは、気体の気相と液体の液相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成させることにより、爆鳴気である水素と酸素の混合気体を液体で分割して、それにより、過酸化水素の直接合成の安全性を確保することができることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、従来のエネルギー多消費型で、環境汚染の可能性があるアントラキノン法に代替できる、クリーンで、安全な、過酸化水素製造の工業化可能な製造プロセスを提供することを目的とするものである。すなわち、本発明は、触媒表面、液相、気相からなる好適な三相界面を形成し、水素と酸素から、安全に、過酸化水素を直接合成する方法を確立し、それにより、高価な貴金属触媒の使用量を削減し、目的生成物の生産性を確保しつつ、安全かつ安定して運転できる工業化可能な過酸化水素の直接合成方法及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は以下の技術的手段から構成される。
(1)水素と酸素から過酸化水素を直接合成する方法であって、
原料ガスの水素と、酸素又は空気のガス相、及び反応媒体の水若しくは酸水溶液の水相を中空の管内壁に貴金属薄膜を被覆した反応管にスラグ流として供給し、ガス相と水相を混合するミキサーの流出部内径と、該反応管内径と反応管継手内径を同じ径として、スラグ流サイズを流路により変化させないようにし、所定の反応温度及び反応圧力条件下で、水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成し、合成された過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収することを特徴とする過酸化水素の直接合成方法。
(2)上記反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜で被覆された反応管を用いる、前記(1)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(3)上記反応管の貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管を用いる、前記(1)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(4)上記中空の管として、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、チタン管、の中から選択された耐食管、又は内面チタンライニングを施した、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、の中から選択された耐食二重管、の何れかを用いる、前記(1)から(3)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(5)上記中空の管として、フュームドシリカチューブを用いる、前記(1)から(3)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(6)上記反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜を反応管内部に無電解メッキで作製する際、ベースとなる金属の酸化被膜を600℃以上の高温酸化、若しくは374℃以上の超臨界水酸化法により製造する、前記(4)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(7)上記反応管の内径が、10mm以下で、0.05mm以上か、又は5mm以下で、0.1mm以上である、前記(1)から(6)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(8)反応温度が0〜80℃の範囲で、反応圧力が0.1〜50MPaの範囲である、前記(1)から(7)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(9)反応管内部で合成された過酸化水素を、水若しくは酸水溶液によって過酸化水素水として連続的に回収する、前記(1)から(8)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(10)反応管内部で合成された過酸化水素を回収する水若しくは酸水溶液が、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、の何れか1種類以上のイオンを含む、前記(9)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(11)反応管内部で合成された過酸化水素を連続的に回収する際に、原料ガス相の気体と水相の液体をミキサーで混合して、その体積流量比を調整することにより、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成させ、該スラグ流を用いて、反応管内部で合成された合成直後の過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収する、前記(9)又は(10)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(12)原料ガス相と回収水相の体積流量比を、水相1に対してガス相を50以下として、又は水相1に対してガス相を10以下としてスラグ流を形成させる、前記(11)に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(13)原料ガス相にはマスフローコントローラーを使用し、水相には定量ポンプを使用してそれぞれの流量及び吐出圧力を制御しつつ、マイクロミキサーで原料ガス相の気体と水相の液体を混合することによりスラグ流を発生させる、前記(11)から(12)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(14)上記ミキサー又は上記マイクロミキサーにT字型マイクロミキサーを用いて、安定したスラグ流を発生させる、前記(11)から(13)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(15)原料ガス相の酸素と水素の比率(酸素/水素)を1.6以上とするか、又は酸素と水素の比率を2.0以上とする、前記(1)から(11)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成方法。
(16)反応管からの回収水相を、反応管に再循環する、前記(9)から(15)の何れか一項に記載の過酸化水素を直接合成する方法。
(17)水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成する装置であって、
原料ガスの水素と、酸素又は空気のガス相、及び反応媒体の水若しくは酸水溶液の水相を中空の管内壁に貴金属薄膜を被覆した反応管にスラグ流として供給し、ガス相と水相を混合するミキサーの流出部内径と、該反応管内径と反応管継手内径を同じ径として、スラグ流サイズを流路により変化させないようにし、所定の反応温度及び反応圧力条件下で、水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成し、合成された過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収する手段を有することを特徴とする過酸化水素の直接合成装置。
(18)管内壁に貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜で被覆された反応管を備えた、前記(17)に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(19)上記反応管の貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管を用いる、前記(17)に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(20)上記中空の管として、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、チタン管、の中から選択された耐食管、又は内面チタンライニングを施した、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、の中から選択された耐食二重管、の何れかを用いた、前記(17)から(19)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(21)上記中空の管として、フュームドシリカチューブを用いた、前記(17)から(19)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(22)上記反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜を反応管内部に無電解メッキで作製する際、ベースとなる金属の酸化被膜として、600℃以上の高温酸化、若しくは374℃以上の超臨界水酸化法により製造したものを用いた、前記(20)に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(23)反応管に入る流路に、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成するミキサーを備えた、前記(17)から(21)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(24)原料ガス相の供給を制御するマスフローコントローラー、水相の供給を制御する定量ポンプを備え、上記マスフローコントローラー及び上記定量ポンプの下流に原料ガス相と水相とを混合するマイクロミキサーを配設して、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を発生させるようにした、前記(17)から(23)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(25)上記ミキサー又は上記マイクロミキサーにT字型マイクロミキサーを用いて、安定したスラグ流を発生させるようにした、前記(23)から(24)の何れか一項に記載の過酸化水素の直接合成装置。
(26)反応管から出た回収水相を、反応管に再循環させる再循環手段を備えた、前記(17)から(25)の何れか一項以上に記載の過酸化水素の直接合成装置。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、中空の管内壁に貴金属薄膜を被覆した反応管を用いて、該反応管内部で水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成し、合成された過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収することからなる過酸化水素の直接合成方法及びその装置を提供するものである。
【0016】
本発明で用いられる反応管は、中空の反応管、すなわちチューブ状の中空細管から構成され、該中空細管の内部空間において、貴金属薄膜の被覆面積を広くすることが好ましい。面積/体積の比率を高くするために、反応管として、その内径が0.05mm〜10mmの中空細管が用いられる。すなわち、反応管の内径は、10mm以下、好ましくは5mm以下であり、更に、中空細管の内部の充分な物質拡散と熱拡散を保障するために、反応管の内径は1mm以下で、0.1mm以上のものが望ましく、更に、圧損を考慮すると、0.25mm以上のものが望ましい。
【0017】
また、反応管を構成する中空細管の長さは、反応における触媒の貴金属薄膜との接触時間を決定付ける重要な因子となる。このことから、中空細管の長さは長いほど水素の転換効率は高くなるが、長すぎると一度合成された過酸化水素が再分解する可能性がある。また、中空細管の長さは長いほど圧力損失が大きくなることから、これらが好適ないし最適になる長さが選択される。具体的には、反応管を構成する中空細管の長さは、使用される反応管の内径により体積が変化するため、同じ長さであっても反応時間(ガス平均滞留時間)が異なるので、一概には決定できない。
【0018】
更に、内径により内面積(触媒被覆面積)/体積(比表面積)が変化するため、同じ体積(同じ反応時間)としても、内径の違いにより反応結果は異なり、内径毎に好適ないし最適な反応時間、すなわち、中空細管の長さが選択される。内径を1mmとした場合には、反応時間が2分以内、好ましくは、1分以内が選択される。
【0019】
このような反応管を構成する中空細管の内表面への触媒の貴金属薄膜の被覆には、メッキ溶液を中空細管内に導入することにより比較的簡便に達成できる無電解メッキの手法を適用することができる。この無電解メッキの手法は、メッキ液の濃度と通液量によってメッキ膜の厚さを制御できることからも優位な手法である。この無電解メッキ法は、反応管を構成する中空細管の材質が、金属の他、電導性のないガラス、セラミックス、プラスチックなどの表面の場合にも、金属薄膜を被覆することができる利点を有している。
【0020】
本発明で用いる反応管を構成するチューブ状の中空細管の材質としては、好適には、例えば、金属、合金、ガラス、セラミックス、プラスチックなどを利用することができる。金属性の中空細管としては、耐食性の、チタン、ニッケル合金、クロム合金、鉄合金が用いられる。更に、耐薬品性を向上させるために、チタン若しくはチタン合金を内張りしたものが用いられる。上記中空管としては、好適には、例えば、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、チタン管、の中から選択された耐食管、又は内面チタンライニングを施した、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、フュームドシリカチューブなどを利用することができる。
【0021】
チタン若しくはチタン合金を内張りに用いる場合、無電解メッキの前処理として、シランカップリング処理を行うが、その際、チタン表面を酸化処理することが好ましい。チタン表面の酸化処理として、600℃以上の高温酸化処理、若しくは374℃以上の超臨界水酸化処理により、強固な酸化被膜を形成することが好ましい。
【0022】
ガラスでは、ガスクロマトグラフィーのカラムに用いるシリカガラスキャピラリーが、セラミックスでは、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどのチューブが、プラスチックでは、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドなどのチューブが、それぞれ好適な素材として用いられる。
【0023】
本発明では、反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜で被覆された反応管が用いられる。反応管を構成するチューブ状の中空細管の管内壁への触媒の貴金属薄膜の被覆は、該管内壁にパラジウムの種核を付与した後、錯形成剤、貴金属塩、還元剤を含むメッキ液を、該中空細管の内部に通液して、無電解メッキすることで達成される。用いる無電解メッキ溶液には、パラジウム、銀、白金、ロジウムなどの金属塩や、これらの金属錯体、これを安定に溶存させる錯形成剤、並びに、還元剤を、適当な溶媒に溶かして用いることができる。
【0024】
該触媒の貴金属薄膜の膜厚は、用いる無電解メッキ溶液の通液量により制御することができ、好適には、該無電解メッキ溶液の通液量は、0.1〜5μmの範囲が選ばれる。貴金属の使用量を少なくし、かつ均一なメッキ被膜を確保するために、触媒の貴金属薄膜の膜厚は、0.5〜2μmの範囲がより好適である。
【0025】
本発明では、反応管内部の流路に原料ガスの水素と、酸素又は空気のガス相、及び反応媒体の水相とを供給し、所定の反応温度及び反応圧力条件下で、反応管内部で水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成する。その際に、好適には、例えば、原料ガス相と水相のそれぞれの流量及び吐出圧力を制御しつつ、マイクロミキサーで原料ガス相の気体と水相の液体を混合すること、すなわち、水素と酸素の混合気体を酸性水溶液と混合することにより、ミキサーの出口からの気相と液相の相状態が交互に連続するスラグ流を形成させ、該スラグ流を用いて、反応管内部で合成された合成直後の過酸化水素を、過酸化水素水として連続的に回収することができる。つまり、上記スラグ流を、触媒の貴金属薄膜を被覆した反応管に導入し、気相で過酸化水素を合成しつつ、液相で連続して回収する。安定したスラグ流を発生させるには、好適には、例えば、マイクロミキサーにT字型マイクロミキサーが用いられる。反応管を出た気相及び液相は、それぞれ混合器の前に戻して循環させることも適宜可能である。水素と酸素の体積混合比については、過酸化水素合成の量論比は、水素5:酸素5であるが、下記の4の副反応である水素による還元を抑えるために、好適には、水素10〜33%、酸素90〜67%である。
【0026】
スラグ流は、原料ガス相と液相の安定的な連続供給とその手段が重要であり、両者の流量比率により、スラグ流の気相、液相の容積が決定する。そのため、気相はマスフローコントローラー、液相は定量ポンプを使用して流量を制御することが好ましい。また、スラグ容積の安定性は、流路の内径が変化しないことにより保持されるため、気相入口内径、液相入口内径、ミキサー出口内径、反応管内径、反応管継手内径が変化せず、これらの径が一定であることが重要である。これらの径が一定であれば、スラグ容積は安定して保持される。
【0027】
本発明の過酸化水素の直接連続合成の反応系では、下記の4の副反応である水素による還元の反応は、原料ガス中の酸素比率(酸素/水素)が、水素過剰(1以下)となる条件で顕著となるため、酸素比率1.6以上、好ましくは2.0以上の条件を確保することが望ましい。
【0028】
過酸化水素の直接連続合成では、以下の1〜4の反応が生じる。
1:H+O→H(目的反応:Hの合成)
2:H+1/2O→HO(副反応:酸化による燃焼)
3:H→HO+1/2O(副反応:Hの分解)
4:H+H→HO(副反応:水素による還元)
【0029】
酸性水溶液は、塩酸、硫酸、リン酸などから選ばれる無機酸を1種類以上含むことが好ましく、例えば、上記無機酸を1種類以上含む二酸化炭素の飽和水溶液を使用することができる。無機酸を使用する場合は、水溶液のpHは1〜4、好ましくは2〜3である。更に、この酸性水溶液に、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の何れか1種類以上の物質を添加することで、過酸化水素の合成効率を上げることができる。何れの物質も、酸性水溶液中での総濃度が0.01〜100mg/Lの範囲であることが好ましい。
【0030】
ミキサーは、マイクロミキサー、T字型ミキサー、スタティクミキサー、スワールミキサー、多薄層流接触型ミキサーなど、特に制約されないが、気相の気体と液相の液体の相状態が交互に連続するスラグ流を安定して発生させる場合においては、T字型ミキサー若しくはT字型ミキサーのマイクロミキサーを用いることが好ましい。気体と液体の体積混合比は、気体100:液体1、好ましくは、5〜50:液体1、より好ましくは、気体5〜10:液体1である。
【0031】
反応温度は、0〜80℃の範囲が好ましく、5〜50℃の範囲が更に好適である。過酸化水素は、水素と酸素の気体から合成されるため、合成された過酸化水素を高濃度化するには、気体密度を高めることが求められ、このことからも、高温条件下における反応は好ましくない。
【0032】
反応圧力は、特に、気体密度を高める上で重要な因子であり、合成された過酸化水素を高濃度化するには、高圧の条件下が好ましい。しかし、安全な工業化の観点からは、超高圧は、敬遠され、反応圧力は、0.1〜50MPaの範囲、特に、0.1〜20MPaの範囲に調整することが好ましい。
【0033】
反応時間については、反応管の径及び長さと、気相及び水溶液相の供給流量の和で制御する。この場合、目的の過酸化水素水の濃度に達するまで、水溶液相を循環させるプロセスを採用することが可能である。
【0034】
触媒の貴金属薄膜を被覆した反応管は、好適には、反応管内壁に触媒の貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆する手法で作製することができる。貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管の製造方法としては、文献(特許第4986174号)に記載された方法を適用することができる。メッキ貴金属としては、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜など、パラジウムを主体とした貴金属合金が有効なものとして例示され、特に、金の存在下では、水素の変換率を向上させることが可能である。
【0035】
また、無電解メッキ法では、例えば、反応管を構成する内径0.5mm×1000mmの中空細管に、膜厚2μmのパラジウムを全面に被膜した場合、37mgのパラジウムを使用することになる。しかし、これは、5%Pd担持活性炭1g(Pd:50mg)と比較しても、かなり少ない量である。また、反応管として、並列に束ねた中空糸に触媒の貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管を用いることも可能であり、これにより、反応管のスケールアップが可能となる。
【0036】
次に、水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成する装置について説明すると、本発明の過酸化水素の直接合成装置は、中空の管内壁に貴金属薄膜を被覆した反応管と、該反応管に原料ガスの水素と、酸素又は空気のガス相を供給する手段と、水相とを供給する手段と、反応管内部で合成された合成直後の過酸化水素を水若しくは酸水溶液によって連続的に回収する手段とを備えたことを特徴とするものである。
本発明では、上記反応管として、貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管を用いることができる。
そして、上記装置には、好適には、例えば、管内壁に貴金属薄膜を無電解メッキにより被覆した反応管として、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜、の何れか1種以上からなる薄膜で被覆された反応管を備えた装置が用いられる。
【0037】
上記装置では、好適には、例えば、記中空の管として、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、チタン管、の中から選択された耐食管、又は内面チタンライニングを施した、ステンレス管、インコネル管、ハステロイ管、の中から選択された耐食二重管、の何れかを用いた装置が用いられる。また、上記装置では、反応管に入る流路に、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成するミキサーを備えたこと、原料ガスと回収水を混合するミキサーの流出部内径と、反応管内径と、反応管継手内径が同じ径のものであること、反応管内部で合成された過酸化水素を、水若しくは酸水溶液によって過酸化水素水として連続的に回収する手段を備えたこと、を好ましい実施の態様としている。
【0038】
更に、上記装置では、原料ガス相の供給を制御するマスフローコントローラー、水相の供給を制御する定量ポンプを備え、上記マスフローコントローラー及び上記定量ポンプの下流に原料ガス相と水相とを混合するマイクロミキサーを配設して、原料ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を発生させるようにしたこと、上記マイクロミキサーにT字型マイクロミキサーを用いて、安定したスラグ流を発生させるようにしたこと、反応管から出た回収水相を、反応管に再循環させる再循環手段を備えたこと、を好ましい実施の態様としている。
【0039】
次に、添付した図面を参照して、本発明の好ましい一実施形態を具体的に説明する。
図1に、管内壁に触媒の貴金属薄膜が被覆された中空細管内における過酸化水素合成と過酸化水素回収の基本コンセプトを示した。これは、原料ガス(水素と、酸素又は空気、若しくは水素と酸素と不活性ガス)と回収水は、例えば、ミキサーにより気体と液体の相状態を交互に連続させたスラグ流となり、原料ガス部分では管内壁に被覆された貴金属薄膜の触媒により過酸化水素合成反応が進行し、ここで合成された過酸化水素が直後の回収水部分で分解を受ける前に回収されることを示したものである。
【0040】
図1は、水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成する過酸化水素の直接合成装置のフロー図であり、本発明の過酸化水素の直接合成法を実現する装置の一例を示すものである。
【0041】
図中の符号は、以下に示す手段を示す。すなわち、該符号は、B−1:水素ガスボンベ、B−2:空気ガスボンベ、B−3:酸素ガスボンベ、R−1〜3:減圧弁、MFC−1〜3:マスフローコントローラー、V−1〜3:ストップバルブ、CV−1〜5:逆止弁、SV−1〜2:安全弁、P1〜3:圧力計、AT−1:回収液(酸水溶液)タンク、BV−1:ボール弁、LP−1:定量液供給ポンプ、M−1:ミキサー、T−1〜2:温度計、CR−1:触媒反応管、S−1:気液分離器、NV−1:ニードル弁、BPR1〜2:背圧弁、MFM−1:マスフローメーター、G−1:ガス捕集バック、をそれぞれ示す。また、図1の点線内の手段は、水槽内に水没されており、水槽内の水を恒温サーキュレーターで温度制御することにより反応温度を制御している。
【0042】
上記過酸化水素の直接合成装置及びその動作について詳しく説明する。
原料ガスである水素と酸素は、別々の高圧ガスボンベ(B−1〜2)から供給され、減圧弁(R−1〜3)により所定の圧力に減圧された後、マスフローコンローラー(MFC1〜3)により所定のガス流量に調整される。
【0043】
この際、水素と酸素の流量比は、理論的には、水素5:酸素5で良いが、酸素を過剰に加えることも可能である。また、安全性をより向上させるために、必要に応じて、B−2のガスボンベを窒素や二酸化炭素などの不活性ガスに変更することも可能である。所定の流量比で混合された原料ガスは、水槽内で所定の温度に昇温された後、ミキサー(M−1)に導入される。
【0044】
一方、反応管内で合成された過酸化水素を速やかに水相に回収するための回収水相は、回収液タンク(AT−1)から定量液供給ポンプ(LP−1)のサクションに供給される。回収液は、水槽内で所定の温度に昇温された後、原料ガスと同様に、ミキサー(M−1)に導入される。ここで使用される回収水は、単なる純水でも良いが、合成された過酸化水素の再分解や反応の収率や選択性を向上することを目的として、硫酸や燐酸、塩酸などの酸の添加や、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどの添加を行うことが可能である。
【0045】
ミキサー(M−1)は、原料ガス相と回収水の水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成させる目的の場合には、例えば、T字型ミキサーやY字型ミキサーが用いられる。安定したスラグ流を形成するには、原料ガスの流量が回収水量の10倍以下、好ましくは5倍以下となるようにマスフローコントローラーで制御し、回収液は、定量ポンプを使用して流量を制御する。原料ガスと回収液は、そのガス相と水相の相状態が交互に連続して流れるスラグ流の状態で触媒反応管(CR−1)に供給される。次いで、原料ガスは、反応管の管内壁に被覆されている貴金属触媒の作用で過酸化水素に変換され、そのガス相の直後の水相で速やかに回収され、過酸化水素水となり、気液分離器(S−1)に回収され、貯蔵される。
【0046】
上記過酸化水素の直接合成装置における合成反応の条件については、反応温度は、好ましくは0〜80℃に設定され、更に好ましくは、5〜50℃に設定される。反応圧力は、好ましくは、0.1〜50MPaの範囲に設定され、更に好ましくは、0.1〜20MPaの範囲に設定される。反応時間は、反応管の内径に依存するが、内径が1mmの場合には、2分以内、好ましくは1分以内に設定される。
【0047】
ここで用いる反応管の内径は、スラグ流を安定的に形成するためには、好ましくは、10mm以下に設定し、更に、安全性の観点から、好適には、水素の消炎直径である1mm以下に設定する。貴金属触媒としては、好適には、例えば、パラジウム、パラジウムと金の合金、パラジウム薄膜表面に金ナノ粒子を析出させたもの、パラジウムと銀の合金、パラジウムの多孔質膜が用いられる。
【0048】
回収液の過酸化水素濃度を高める目的で、気液分離器(S−1)の出口のニードル弁(NV−1)を閉じて、循環ライン(CL−1)から回収液タンク(AT−1)に回収液を戻す循環ラインを配設することも可能である。ただし、過酸化水素合成触媒である貴金属は、合成された過酸化水素の分解触媒としても作用するので、その循環には、注意が必要である。また、反応後のガスを再循環するラインを配設することも可能であり、反応ガスの転換率などを考慮して、適宜実施することが可能である。
【発明の効果】
【0049】
本発明により、以下のような効果が奏される。
(1)本発明の過酸化水素の直接合成技術により、公知技術の課題であった触媒使用量の削減を実現することができる。
(2)触媒の貴金属薄膜を無電解メッキなどにより被覆した反応管を用いることで、触媒として有効な貴金属表面をミクロンオーダーの薄膜から形成させることができ、反応に必要な触媒表面を十分に確保しつつ、高価な貴金属の使用量を削減させることができる。
【0050】
(3)チューブ形状の反応場を備えた過酸化水素の直接合成装置を用いることにより、物質移動による負荷抵抗が低減され、反応場における反応暴走がなくなり、過酸化水素の均一な合成反応を行うことが可能である。
【0051】
(4)水素と酸素の混合気体を、水溶液で、その相状態が交互に連続するスラグ流に分割する方法、又は水素若しくは酸素を事前に水溶液と混合して反応場に供給する方法、又は不活性ガスとして窒素や二酸化炭素を同時供給する方法、の何れかの方法で、過酸化水素の直接合成の安全性を確保することが可能となる。
(5)反応管に内径1mm以下の中空細管を用いることで、いわゆる消炎直径の概念を実現することができ、それにより、水素と酸素の混合気体の爆発を抑制することが可能となる。
【0052】
(6)物質移動による負荷抵抗が少ないチューブ形状の反応場を用いることで、合成された過酸化水素が触媒に再接触して分解することを抑制することができ、かつ連続流通式の反応により、目的生成物の生産性を飛躍的に向上させることができる。
【0053】
(7)現在、市場で流通している過酸化水素には、製法由来の有機物が不可避的に含まれているが、本発明により、純度要求の厳しい半導体向けの超高純度過酸化水素や、微量分析用試薬としての有機物フリーの過酸化水素を製造し、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】水素と酸素から過酸化水素を連続的に直接合成する過酸化水素の直接合成装置のフロー図を示す。
図2】スラグ流の流動状態の安定化を検証するための可視化フロー図を示す。
図3】実施例1の合成された過酸化水素の濃度の結果を示す。
図4】実施例1の過酸化水素合成時の水素の転換率と過酸化水素の選択率、過酸化水素の収率の結果を示す。
図5】実施例2の合成された過酸化水素の濃度の結果を示す。
図6】実施例1の過酸化水素合成時の水素の転換率と過酸化水素の選択率、過酸化水素の収率の結果を示す。
図7】スラグ流の流動状態の安定化を検証するためのPFA可視化チューブの接続形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
次に、製造例及び実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の製造例及び実施例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
製造例1
(チタン内張りニッケル合金チューブ反応管内壁へのパラジウム種核の形成)
(1)チタン内張りニッケル合金チューブ反応管の製造
外管と内管から構成される二重管の外管の材料として、ニッケル合金のインコネル625(商品名)を使用し、内管の材料として、純チタンを使用し、純チタン製の内管をニッケル合金製の外管の内側に挿入し、圧延、嵌合することにより、中空部を有する中空細管の二重管からなるチタン内張りニッケル合金チューブ反応管を製造した。内面チタンライニングを施した、ステンレス管、ハステロイ管についても、同様の方法で同様に製造した。
【0057】
(2)チタン表面の酸化処理
上記二重管からなるチタン内張りニッケル合金チューブ反応管の入口から、高温高圧条件(500℃、30MPa)の超臨界水の存在下で、0.3wt%の過酸化水素水を供給した。該過酸化水素から分解した酸素は、超臨界水と均一相を形成して良好な酸化環境を生起し、それによって、内管の純チタンの表面は酸化されて酸化チタンの皮膜が均一に形成され、約100μmの厚さのチタン酸化物の層となった。
【0058】
得られたニッケル合金−純チタン−チタン酸化物から構成される二重管からなるチタン内張りニッケル合金チューブ反応管は、内径が1mm、外径が1.5mm、長さが100cmで、内表面積が31.4cmであった。
【0059】
(3)シランカップリング剤の導入
上記ニッケル合金―純チタン―チタン酸化物から構成される二重管からなるチタン内張りニッケル合金チューブ反応管に、パラジウムと酸化チタンを定着させるためのシランカップリング剤として、3−トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミンをトルエンに1%溶解したものを導入し、70℃で、16時間封入した状態で、保持した。
【0060】
(4)パラジウム種核の形成
上記ニッケル合金―純チタン―チタン酸化物から構成される二重管からなるチタン内張りニッケル合金チューブ反応管に、無電解メッキの前処理として、その酸化チタン表面にパラジウム粒子の種核を付けた。具体的には、反応管の内壁に、0.1Mの酢酸パラジウムの水溶液5mlを通液して吸着させ、更に、1Mのヒドラジン水溶液を5ml通液し、該内壁の表面にパラジウム粒子を種核として析出させた。
【0061】
製造例2
(チタン内張りニッケル合金チューブ反応管内壁へのパラジウムの無電解メッキ)
製造例1の工程で作製したパラジウム粒子の種核を付けた中空細管のチタン内張りニッケル合金チューブ反応管を、60℃の水浴に浸し、中空細管のチューブの先端から、メッキ液として、4mM[Pd(NH]Cl、0.15MのEDTA、1Mアンモニア10mMヒドラジンを含む50℃のメッキ水溶液を、毎分0.5mlの流速で通液し、200mlのメッキ液を供給した時点で通液を止めた。
【0062】
通液中に、該チューブの末端から流出するメッキ液を分取し、該流出メッキ液に含まれるパラジウム量をICP発光分光分析法で分析した。その結果、消費されたパラジウム量は、57mgであり、これが、上記チューブの内壁の表面にメッキされた。初濃度380ppmのパラジウムは、10ppm以下に減少して流出した。上記チューブの断面をSEM観察した結果、パラジウム層の厚さは、3.5μmであった。
【0063】
製造例3
(チタン内張りニッケル合金チューブ反応管内壁へのパラジウムと銀の無電解メッキ)
製造例1の工程で作製したパラジウム粒子の種核を付けた中空細管のチタン内張りニッケル合金チューブ反応管を、60℃の水浴に浸し、中空細管のチューブの先端から、メッキ液として、9mMの酢酸パラジウム、1mMの硝酸銀、0.15MのEDTA、4Mのアンモニア及び10mMのヒドラジンを含む60℃の水溶液を、毎分0.5mlの流速で通液した。
【0064】
この場合のメッキ液の組成は、パラジウムと銀の比率が、質量比で90:10の組成のものであった。該メッキ液を、中空細管のチューブの先端から110ml通液した後、水を通して洗浄した。チューブの末端から流出するメッキ液を分取し、該流出メッキに含まれるパラジウムと銀の量をICP発光分光分析法で分析した。その結果、消費されたパラジウムの量並びに銀の量は、それぞれ67.7mg、10.1mgであり、これらが、上記チューブの管内壁にメッキされた。これらは、質量比でそれぞれ87%、13%に相当した。
【0065】
製造例4
(銀の選択的溶出除去による多孔質パラジウム膜の形成)
製造例3の工程で作製したパラジウムと銀を、67.7mg(87質量%):10.1mg(13質量%)の割合で被覆した中空細管のチタン内張りニッケル合金チューブ反応管に、4Mの硝酸700mlを、25℃で、流速毎分0.5mlで通液し、銀を選択的に溶出させて除去して多孔質パラジウム膜を形成した。溶出したパラジウムと銀の量をICP発光分光分析法で分析した。その結果、残留したパラジウムは、48.1mg(94質量%)、銀は2.9mg(5.7質量%)であった。
【0066】
製造例5
(熱処理によるパラジウムと銀の合金膜の被覆の形成)
製造例3の工程で作製したパラジウムと銀を、67.7mg(87質量%):10.1mg(13質量%)の割合で被覆した中空細管のチタン内張りニッケル合金チューブ反応管を、内径4cmの石英管に挿入し、全体を管状炉に入れた。中空細管のチューブの一端から水素を流しながら、600℃で、3時間加熱し、合金化して、パラジウムと銀の合金膜の被膜を形成した。加熱前にパラジウム(2θ=40.0°)と銀(2θ=38°)のX線回折ピークが観測されたが、上記加熱後にパラジウムと銀の合金膜の新規なピーク(2θ=39.5°)が観察された。
【0067】
実施例1
(直接合成装置の説明)
過酸化水素の直接合成は、図1に示した直接合成装置を用いて行った。図1の直接合成装置について説明する。図1の点線内に示した装置は、安全確保と反応温度の制御のため、水槽内に水没させた。過酸化水素の合成温度を40℃に設定し、反応圧力を、圧力計(PT;P−1、P−2、P−3)で0.8MPaとして、背圧弁(BPR−1、BPR−2)を使用して制御した。また、直接合成装置には、液循環ライン(CL−1)が設置されており、合成された過酸化水素水を循環させることも可能とした。
【0068】
過酸化水素の合成に使用する原料ガスは、水素ボンベ(B−1)と、空気ボンベ(B−2)、必要に応じて、酸素ボンベ(B−3)を使用して、各ボンベに設置したマスフローコントローラー(MFC;MFC−1,MFC−2、MFC−3)で、原料ガスの供給量を制御した。それにより、原料ガスの組成を任意に設定して定量供給できるようにした。過酸化水素の回収に使用する酸水溶液は、硫酸0.02mol/L、臭素ナトリウム26ppmの水溶液とし、該酸水溶液を予め酸水溶液タンク(Acid tank;AT−1)に仕込み、ポンプ(LP−1)で定量供給した。
【0069】
(水素と酸素と空気からの過酸化水素の直接合成 1)
図1に記載した直接合成装置を使用し、過酸化水素の合成に使用する原料ガス中の水素濃度を21.4vol%とした。酸素濃度は、空気と酸素を使用して、酸素比率(酸素/水素)で1、1.6、及び2.0に変化させた。何れの条件においても、不活性ガスである窒素を30vol%以上含む原料ガスの組成とした。
【0070】
過酸化水素の合成と回収は、原料ガスの総供給量を7ml/min(0.8MPa、40℃)とし、酸水溶液(0.02mol/L硫酸、臭素20ppm添加)の供給量を1ml/minとした。これらを直接合成装置の反応管に導入する前に、原料ガスと酸水溶液をミキサーの1/8インチT字ミキサーで混合した。原料ガスと酸水溶液は、気体のガス相と液体の水相の相状態を交互に連続させたスラグ流を形成して反応管に供給され、連続的に合成と回収が行われた後に、反応管から流出するようにした。反応後の残ガス及び酸水溶液は、気液分離器(S−1)で分離した。合成された過酸化水素は、酸水溶液とともに、気液分離器(Separator;S−1)内に捕集し、残ガスを、背圧弁(BPR−1)とマスフローメーター(MFM;MFM−1)を経由して、ガスバック(G−1)に捕集した。
【0071】
図1の直接合成装置には、合成触媒として、パラジウム単層の無電解メッキにより被覆した反応管を用いた。反応時間は、64秒とした。反応管は、2m×5本で10mとし、該反応管の外径は、気液混合のT字ミキサー同様に、1/8インチとした。反応管を繋ぐための反応管継手のユニオンの内径は、反応管の内径と同一のものとし、内径の変化でスラグ流の相状態が乱れるのを防止した。
【0072】
気液分離器(S−1)に捕集した酸水溶液を回収した後に、ヨウ素電量滴定法(平沼産業(株)製、過酸化水素カウンタHP−300)により、合成された過酸化水素の濃度を定量した。ガスバック(G−1)に捕集した残ガスを、TCDガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、GC−8A)により分析し、水素の転換率を求めた。
【0073】
その結果、水素21.4vol%、酸素42.9vol%の条件で、合成された過酸化水素の濃度は、10940ppmであった。また、この条件での水素の転換率は、95.7%、過酸化水素の選択率は、63.6%であり、収率=水素の転換率×過酸化水素の選択率/100の式で求めた過酸化水素の収率は、60.9%であった。
【0074】
実施例2
(水素と空気と酸素からの過酸化水素の直接合成 2)
図1の直接合成装置を使用し、原料ガスの組成を、水素濃度13.6vol%、酸素比率0.5から4.0まで変化させた以外は、実施例1と同じ条件で、過酸化水素の合成を行った。
【0075】
合成された過酸化水素の濃度は、原料ガス中の酸素濃度が高くなるに従って上昇し、原料ガス中の酸素比率(酸素/水素)が2未満では、酸素比率の低下に伴い、過酸化水素の選択率が急激に低下した。酸素比率が2以上の場合は、酸素比率の上昇に伴い、過酸化水素の選択率が微増した。
【0076】
実施例3
(合成された過酸化水素水の循環による過酸化水素の濃度の上昇)
図1の直接合成装置を使用し、原料ガスの組成を、水素13.6vol%、空気86.4%(酸素/水素=1.3)とした以外は、実施例1と同じ条件で、過酸化水素の合成(1サイクル)を行った。続いて、ここで得られる合成された過酸化水素を回収し、これを酸水溶液タンク(AT−1)に仕込み、1サイクルの場合と同じ条件で、酸水溶液のみ1サイクルで得られる合成された過酸化水素水に変えて、合成された過酸化水素を循環させる方法で、過酸化水素の合成(2サイクル)を行った。
【0077】
1サイクルでは、合成した過酸化水素の濃度が4903ppmであり、2サイクルでは7710ppmとなった。このことから、合成した過酸化水素水のみを循環させることで、合成した過酸化水素の濃度を上昇させることができることが確認された。
【0078】
実施例4
(スラグ流の流動状態の安定化)
ガス相と水相の相状態を交互に連続させたスラグ流の流動状態の安定化を検証するために、PFA可視化チューブ(PFA Tube)を用いて、図2に示す可視化フローで実験を行った。
原料ガスと水の気液を混合するミキサー(Mixer)には、1/8インチのT字ミキサー(M−2)を使用し、該ミキサーの出口に1/8インチPFA可視化チューブ(PFA Tube、内径;1.6mm)を接続した。この1/8インチPFA可視化チューブを2mごとに反応管継手のストレートユニオン(Union;U−1、内径;2.3mm)で繋ぎ合わせて全長を10mとしたチューブと、該ストレートユニオンを使用しないで10mとしたチューブの2種類とを準備した。
【0079】
PFA可視化チューブの出口に気液分離器(Separator;S−2)を接続し、気体のみが背圧弁(BPR;BPR−3)を経由して系外に排出され、液体が該気液分離器に蓄積するようにした。始めに、装置全体を空気(Ar)で昇圧し、該空気を流通させたまま、背圧弁(BPR−3)で装置全体の圧力を0.8MPaに保持した。可視化が容易になるように、食紅を添加して着色した水を1ml/minで供給し、空気供給量を1.2 ml/min、2ml/min、6ml/min、及び12ml/minと変化させ、ストレートユニオンで繋ぎ合わせたチューブと、ユニオンなしのシームレスチューブそれぞれで、スラグ流の流動状態を観察、確認した。
【0080】
上述のストレートユニオンで繋ぎ合わせたチューブとシームレスチューブの何れの条件のチューブにおいても、PFA可視化チューブには、安定したスラグ流が吐出されたが、配管の内径変動が起こるユニオン通過後には、空気と液体それぞれが合一してしまい、均一なセグメント(分節)が崩れた。一方、ユニオンを設けていないチューブでは、入口のセグメントのサイズが10m先の出口まで保持されていた。この結果から、スラグ流の流動状態の継続性を保つためには、配管の内径を一定にすることが必須であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上詳述したように、本発明は、触媒被覆反応管を用いた過酸化水素の連続直接合成・回収方法及びその装置に係るものであり、触媒の貴金属薄膜を被覆した反応管を用いることで、触媒として有効な貴金属表面をミクロンオーダーの薄膜から形成させることができ、反応に必要な触媒表面を十分に確保しつつ、高価な貴金属の使用量を削減させることが可能となった。本発明の過酸化水素直接合成装置では、チューブ形状の反応場を用いることにより、物質移動による負荷抵抗が低減され、反応場における反応暴走がなくなり、均一な合成反応が可能となった。本発明では、水素と酸素の混合気体を、水溶液で、交互に連続するスラグ流に分割する方法、水素若しくは酸素を事前に水溶液と混合し反応場に供給する方法、不活性ガスとして窒素や二酸化炭素を同時供給する方法、の何れかの方法で、過酸化水素の直接合成の安全性を確保することを実現することが可能である。本発明は、中空の管内壁に触媒の貴金属薄膜を被覆した触媒被覆反応管を利用して、水素と酸素から過酸化水素を直接連続合成し、更に、合成した過酸化水素を水相で過酸化水素水として連続回収する新しい方法及びその装置を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0082】
B:ガスボンベ(B−1;水素、B−2;空気、B−3;酸素、B−4;窒素)
R:ボンベレギュレーター
MFC:マスフローコントローラー(MFC−1、MFC−2、MFC−3、MFC−4)
V:バルブ(V−1、V−2、V−3、V−4)
CV:逆止弁(CV−1、CV−2、CV−3、CV−4、CV−5、CV−6、CV−7)
PT:圧力計(P−1、P−2、P−3、P−4)
SV:安全弁(SV−1、SV−2)
AT−1:Acid tank;酸水溶液タンク
BV−1:ボールバルブ
LP:液ポンプ(LP−1、LP−2)
TI:温度計(T−1、T−2)
CR−1:Catalytic reactor;パラジウム触媒反応管
S:気液分離器(Separator;S−1、S−2)
NV:ニードルバルブ(NV−1)
BPR:背圧弁(BPR−1、BPR−2、BPR−3)
MFM:マスフローメーター(MFM−1)
G−1:ガスバッグ
M:T字ミキサー(Mixer;M−1、M2)
WT−1:水タンク(Water tank)
Union:ストレートユニオン(U−1)
CL−1:循環ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7