特許第6387634号(P6387634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6387634
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】研磨方法及びCMP研磨液
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20180903BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20180903BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20180903BHJP
【FI】
   C09K3/14 550Z
   H01L21/304 622D
   H01L21/304 622X
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550D
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-53737(P2014-53737)
(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-174953(P2015-174953A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 公二
(72)【発明者】
【氏名】西山 雅也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 直己
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−216581(JP,A)
【文献】 特開平10−004091(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/047314(WO,A1)
【文献】 特開平06−124932(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/117592(WO,A1)
【文献】 特開2013−041992(JP,A)
【文献】 特開2006−306924(JP,A)
【文献】 特開2012−033647(JP,A)
【文献】 特開2011−181947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
H01L 21/304
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素部及び酸化珪素部を有し、前記窒化珪素部の下に位置し、前記窒化珪素部に覆われた金属部を有する基板を用意する工程
記窒化珪素部の少なくとも一部を、CMP研磨液を用いた研磨により選択的に、窒化珪素と酸化珪素との選択比5以上で除去する工程、及び、
前記金属部の上に位置し、前記金属部を覆う前記窒化珪素部を除去し、前記金属部の表面が露出したとき、又は、前記金属部の一部が除去されているが前記金属部の下層の少なくとも一部が露出する前に、研磨を停止する工程を有し、
前記CMP研磨液が、成分(A)負の表面電位を有するシリカ砥粒、成分(B)リン酸、リン酸誘導体、ホスフィン、及びホスフィン誘導体からなる群から選択される少なくとも一種、成分(C)水、並びに成分(D)pKaが3.5〜5.5の酸を含有し、pHが5.0〜7.0である、
研磨方法。
【請求項2】
前記基板が、磁気ランダムアクセスメモリー用の基板である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記金属部が、タンタル、窒化タンタル、チタン、窒化チタン、ルテニウム、タングステン、及び窒化タングステンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記成分(A)が負の表面電位を有するコロイダルシリカを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項5】
前記成分(B)がリン酸を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項6】
前記成分(D)が、酢酸、グリコール酸、及びリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項7】
前記CMP研磨液が、金属の酸化剤を実質的に含有しない、請求項1〜6のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項8】
成分(A)負の表面電位を有するシリカ砥粒、成分(B)リン酸、リン酸誘導体、ホスフィン、及びホスフィン誘導体からなる群から選択される少なくとも一種、成分(C)水、並びに成分(D)pKaが3.5〜5.5の酸を含有し、pHが5.0〜7.0であり、
窒化珪素部及び酸化珪素部を有し、前記窒化珪素部の下に位置し、前記窒化珪素部に覆われた金属部を有する基板を研磨し、前記窒化珪素部の少なくとも一部を選択的に除去するために用いられ、前記金属部の上に位置し、前記金属部を覆う前記窒化珪素部を除去し、前記金属部の表面が露出したとき、又は、前記金属部の一部が除去されているが前記金属部の下層の少なくとも一部が露出する前に、研磨を停止し得る、CMP研磨液。
【請求項9】
前記基板が、磁気ランダムアクセスメモリー用の基板である、請求項8に記載のCMP
研磨液。
【請求項10】
前記金属部が、タンタル、窒化タンタル、チタン、窒化チタン、ルテニウム、タングステン、及び窒化タングステンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項8又は9に記載のCMP研磨液。
【請求項11】
前記成分(A)が負の表面電位を有するコロイダルシリカを含む、請求項8〜10のいずれかに記載のCMP研磨液。
【請求項12】
前記成分(B)がリン酸を含む、請求項8〜11のいずれかに記載のCMP研磨液。
【請求項13】
前記成分(D)が、酢酸、グリコール酸、及びリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項8〜12のいずれかに記載のCMP研磨液。
【請求項14】
金属の酸化剤を実質的に含有しない、請求項8〜13のいずれかに記載のCMP研磨液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素の研磨方法、及び、窒化珪素の研磨に用いられるCMP研磨液に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路(Large−Scale Integration。以下、「LSI」と記す。)の分野においては、実装密度を高めるため、テクニカルノードは、既に3X〜2Xナノメーターのオーダーになっている(3Xとは30〜39、2Xとは20〜29を意味する)。そのため、種々の微細加工技術が研究開発されており、厳しい微細化の要求を満足するための技術の一つに化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing。以下、「CMP」と記す。)法がある。
【0003】
この技術は、半導体デバイスの製造工程において、例えば層間絶縁膜の平坦化、シャロートレンチ分離などに使われてきた技術である。CMPは、露光を施す層を完全に平坦化し、露光技術の負担を軽減し、歩留りを安定させることができるという利点を有する。また、CMPは、金属プラグの形成、埋め込み配線の形成などの多層配線形成工程においても頻繁に利用されている。
【0004】
ところで、近年は、LSI形成技術とCMP研磨液の進歩により、更に多様な用途へのCMPの適用が検討されている。
【0005】
具体的な例として、磁気ランダムアクセスメモリー(Magnetic Random Access Memory。以下、「MRAM」と記す。)製造工程へのCMPの適用が挙げられる(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0006】
MRAMは、強磁性体/絶縁体/強磁性体を基本構成とする強磁性トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction。以下、「MTJ」と記す。)を用いた不揮発性メモリであり、高信頼性、高速書き込み、低消費電力、ロジックデバイスとの混載が可能等の特徴を有し、次世代メモリデバイスとして期待されている。MRAMのセル構造の一例の断面模式図を、図1に示す。図1では、回路基板8上に、電極(ワード線)7と電極(ビット線)9とに挟み込まれる形で、金属部3及びMTJ層11が配されており、MTJ層11の側面には、MTJ層11を保護する窒化珪素部2と絶縁部である酸化珪素部1とが配されている。
【0007】
MRAM製造工程では、CMPは、例えば、酸化珪素部1の不要部、窒化珪素部2の不要部等を研磨し、除去するために適用される。この際、酸化珪素部1の研磨に用いるCMP研磨液には、酸化珪素を窒化珪素よりも優先的に除去し得るという特性が求められ、窒化珪素部2の研磨に用いるCMP研磨液には、窒化珪素を、酸化珪素及び金属よりも優先的に除去し得るという特性が求められる。
【0008】
酸化珪素部1の研磨には、一般的に知られている酸化珪素用のCMP研磨液を用いることができる。しかし、窒化珪素部2の研磨については、窒化珪素を、酸化珪素及び金属よりも優先的に除去し得るという特性を充分に満足するCMP研磨液が得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−73971号公報
【特許文献2】特開2009−253303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的に、酸化珪素に対して窒化珪素がどれだけ除去されやすいかを表す指標として、窒化珪素が研磨により除去される速度と、酸化珪素が研磨により除去される速度との比、すなわち、窒化珪素の研磨速度/酸化珪素の研磨速度(以下、「窒化珪素と酸化珪素との選択比」と記す。)が用いられる。同様に、金属に対して窒化珪素がどれだけ研磨されやすいかを表す指標として、窒化珪素の研磨速度/金属の研磨速度(以下、「窒化珪素と金属との選択比」と記す。)が用いられる。
【0011】
MRAM製造工程において、窒化珪素部2の不要部を除去する際に、酸化珪素部1及び金属部3までもが除去されることがないよう、「窒化珪素と酸化珪素との選択比」及び「窒化珪素と金属との選択比」は高いことが望ましい。
【0012】
上記の課題を鑑み、本発明は、窒化珪素を優先的に、高い選択比で研磨できる研磨方法を提供することを目的とする。また、本発明は、窒化珪素を優先的に、高い選択比で研磨できるCMP研磨液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態は、窒化珪素部を有する基板を用意する工程、及び、前記窒化珪素部の少なくとも一部を、CMP研磨液を用いた研磨により除去する工程を有し、前記CMP研磨液が、成分(A)負の表面電位を有するシリカ砥粒、成分(B)リン酸、リン酸誘導体、ホスフィン、及びホスフィン誘導体からなる群から選択される少なくとも一種、並びに成分(C)水を含有し、pHが5.0〜7.0である、研磨方法に関する。
【0014】
前記研磨方法の一例は、窒化珪素部及び酸化珪素部を有する基板を用意する工程、及び、前記窒化珪素部の少なくとも一部を、前記CMP研磨液を用いた研磨により選択的に除去する工程を有する。
【0015】
また、前記研磨方法の一例は、窒化珪素部及び当該窒化珪素部の下に位置する金属部を有する基板を用意する工程、前記窒化珪素部の少なくとも一部を、前記CMP研磨液を用いた研磨により除去する工程、及び、前記金属部で研磨を停止する工程を有する。
【0016】
前記研磨方法において、成分(A)が負の表面電位を有するコロイダルシリカを含むことが好ましい。
【0017】
また、前記研磨方法において、成分(B)がリン酸を含むことが好ましい。
【0018】
前記研磨方法においては、CMP研磨液が、更に、成分(D)pKaが3.5〜5.5の酸を含有してもよい。
【0019】
更に、前記研磨方法において、CMP研磨液が、金属の酸化剤を実質的に含有しないことが好ましい。
【0020】
また、本発明の実施形態は、成分(A)負の表面電位を有するシリカ砥粒、成分(B)リン酸、リン酸誘導体、ホスフィン、及びホスフィン誘導体からなる群から選択される少なくとも一種、並びに成分(C)水を含有し、pHが5.0〜7.0であり、窒化珪素部を有する基板の研磨に用いられる、CMP研磨液に関する。
【0021】
前記CMP研磨液は、窒化珪素部及び酸化珪素部を有する基板の研磨に用いることができる。
【0022】
また、前記CMP研磨液は、窒化珪素部及び当該窒化珪素部の下に位置する金属部を有する基板の研磨に用いることができる。
【0023】
前記CMP研磨液において、成分(A)が負の表面電位を有するコロイダルシリカを含むことが好ましい。
【0024】
また、前記CMP研磨液において、成分(B)がリン酸を含むことが好ましい。
【0025】
前記CMP研磨液は、更に、成分(D)pKaが3.5〜5.5の酸を含有してもよい。
【0026】
更に、前記CMP研磨液は、金属の酸化剤を実質的に含有しないことが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の研磨方法によれば、窒化珪素を優先的に、高い選択比で研磨できる。また、本発明のCMP研磨液によれば、窒化珪素を優先的に、高い選択比で研磨できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、MRAMのセル構造の一例を示す断面模式図である。
図2図2は、MRAM製造工程の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の実施形態は、窒化珪素部を有する基板を用意する工程、及び、前記窒化珪素部の少なくとも一部を、CMP研磨液を用いた研磨により除去する工程を有し、前記CMP研磨液が、成分(A)負の表面電位を有するシリカ砥粒、成分(B)リン酸、リン酸誘導体、ホスフィン、及びホスフィン誘導体からなる群から選択される少なくとも一種、並びに成分(C)水を含有し、pHが5.0〜7.0である、研磨方法に関する。
【0030】
また、本発明の実施形態は、成分(A)負の表面電位を有するシリカ砥粒、成分(B)リン酸、リン酸誘導体、ホスフィン、及びホスフィン誘導体からなる群から選択される少なくとも一種、並びに成分(C)水を含有し、pHが5.0〜7.0であり、窒化珪素部を有する基板を研磨するために用いられる、CMP研磨液に関する。
【0031】
まず、本発明の実施形態であるCMP研磨液について詳細に説明する。本実施形態のCMP研磨液を完成させるため、本発明者等は、金属部の研磨を抑えることを考慮しつつ、酸化珪素部及び窒化珪素部に対する砥粒の作用を効果的に発現させれば、窒化珪素部を優先的に研磨できるとの着想のもと、鋭意検討を行った。
【0032】
その結果、pHが5.0〜7.0の状態で、負に帯電したシリカ砥粒と、リン酸、リン酸誘導体、ホスフィン、及びホスフィン誘導体からなる群から選択される少なくとも一種(以下、簡単のため、単に成分(B)ということがある。)とを含むCMP研磨液によって、窒化珪素部及び酸化珪素部のうち、窒化珪素部を選択的に除去でき、且つ、金属部の研磨を抑制できることを見出した。
【0033】
CMP研磨液により研磨される研磨対象は、材料ごとに等電点が異なり、研磨対象の電荷はCMP研磨液のpHに依存して変化する。酸化珪素と窒化珪素の場合、pH依存性は両者で同様の傾向を示す。すなわち、酸化珪素と窒化珪素共に、酸性側からアルカリ性側へと向かうに従い、それぞれの電荷が正から負へと変わる。しかし、両者の等電点は異なるため、あるpH領域においては、酸化珪素の電荷と窒化珪素の電荷とが逆となる。つまり、酸化珪素と窒化珪素のそれぞれの等電点の間となるpH領域では、酸化珪素の電荷と窒化珪素の電荷とは逆符号となる。
【0034】
酸化珪素の等電点は窒化珪素の等電点よりも酸性側にあるため、両者の等電点の間のpH領域では、酸化珪素の電荷は負に、窒化珪素の電荷は正となる。このpH領域はおよそpH4.0〜7.0である。この領域において、負の表面電位を有した砥粒を用いれば、研磨対象である正に帯電した窒化珪素とは電気的に引き合い、砥粒と窒化珪素の接触頻度を高めることができる。反対に、研磨を抑えたい負に帯電した酸化珪素とは電気的に反発するため、砥粒と酸化珪素との接触頻度は減少する。ただし、前記の電荷は、膜質や液中における膜の表面状態等によって変化しうるため、効果をより確実なものとするには5.0〜7.0の範囲が適している。
【0035】
このように、酸化珪素及び窒化珪素に対する有効砥粒数(研磨に寄与する砥粒の数)の制御は、pHの調整によりある程度可能である。しかし、化学反応性に乏しい窒化珪素の研磨速度は機械的作用が支配的であるため、CMP研磨液の主成分が砥粒のみである場合、有効砥粒数の制御だけでは窒化珪素の研磨速度を高くすることは難しい。これは、一般に窒化珪素は酸化珪素と比較し硬度が高いことに起因する。そこで、本発明者等は、窒化珪素の研磨速度を速くするためには、有効砥粒数の制御に加えて、砥粒の効果を高める付加機能が必要であると考えた。
【0036】
本発明者等は、この付加機能に関して固体同士が接触する際の表面反応に着目し、具体的には、窒化珪素表面に酸を付着させることで窒化珪素表面を改質し研磨されやすい状態にする、又は、窒化珪素と砥粒の相互作用を強くすることで研磨されやすくすることを検討した。その結果、成分(B)を用いることによって、窒化珪素の高い研磨速度を達成するに至った。
【0037】
成分(B)による作用の詳細は分かっていないが、成分(B)が解離して窒化珪素と何らかの反応をして、窒化珪素の表面を改質することで軟質化させ、砥粒による機械的作用を補助していると推測される。又は、成分(B)が解離して窒化珪素に吸着し、窒化珪素の表面電位を正に大きくすることで負の表面電位を有する砥粒との電気的な引き合いを強くし、砥粒による機械的作用を補助していると推測される。その結果、窒化珪素の研磨速度は速くなり、酸化珪素と窒化珪素の選択比が大きくなると考えられる。
【0038】
また、pH5.0〜7.0の領域においては、金属の表面もまた負に帯電する。これにより、負の表面電位を有する砥粒とは電気的に反発し、砥粒と金属の接触頻度は少なくなるため、金属の研磨速度は抑制される。
【0039】
[CMP研磨液]
以下、本実施形態のCMP研磨液の各含有成分について詳細に説明する。
【0040】
[成分(A):負の表面電位を有するシリカ砥粒]
本実施形態のCMP用研磨液は負の表面電位を有するシリカ砥粒を含有する。負の表面電位を有するシリカ砥粒としては、特に制限はなく、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等を使用できる。シリカ砥粒は変性物であってもよい。窒化珪素を優先的に研磨するという観点、また、研磨傷の発生を抑制するという観点から、コロイダルシリカが好ましい。シリカ砥粒は、一種類を単独で、又は、二種類以上を混合して使用できる。
【0041】
前記変性物としては、例えば、シリカ砥粒の表面をアルキル基で変性したものが挙げられる。砥粒の表面をアルキル基で変性する方法は、特に制限はないが、例えば、砥粒の表面に存在する水酸基と、アルキル基を有するアルコキシシランとを反応させる方法が挙げられる。
【0042】
アルキル基を有するアルコキシシランとしては、特に制限はないが、モノメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルモノメトキシシラン、モノエチルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、トリエチルモノメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルモノエトキシシラン等が挙げられる。反応させる方法としては、特に制限はなく、例えば、シリカ砥粒とアルコキシシランとを砥粒分散液中又はCMP研磨液中で室温(25℃)又は所望により加熱下で反応させる。
【0043】
シリカ砥粒の一次粒子径は、窒化珪素の研磨速度を向上させる観点から、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、更に好ましくは10nm以上である。また、シリカ砥粒の一次粒子径は、酸化珪素の研磨速度を抑える観点から、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは40nm以下である。
【0044】
前記一次粒子径とは、BET比表面積Vから、D(nm)=2727/V(m/g)により換算した値をいう。例えば、まずシリカ砥粒を800℃(±10℃)で1時間加熱後、乳鉢(磁性)で細かく砕いて測定用試料とする。次に、BET比表面積測定装置(例えば、ユアサアイオニクス株式会社製「オートソーブ6」)を用いて、BET比表面積Vを測定し、D=2727/Vとして求められる値D(nm)を一次粒子径とする。
【0045】
負に帯電したシリカ砥粒の表面電位は、窒化珪素に対し良好な研磨速度が得られる点で、−0.1mV以下が好ましく、−1mV以下がより好ましく、−5mV以下が特に好ましい。また、シリカ砥粒の表面電位が前記範囲である場合、負に帯電した酸化珪素とは静電気的に反発し、シリカ砥粒が酸化珪素へ接近できないため、シリカ砥粒の酸化珪素に対する研磨効果を適切な程度に小さくできる。従って、前記範囲は、酸化珪素の研磨抑制という観点からも好ましい。
【0046】
前記表面電位は、シリカ砥粒の電気泳動移動度からHenryの式を用い換算して求めたゼータ電位をいう。例えば、CMP研磨液をゼータ電位測定装置(例えば、ベックマン・コールター株式会社製「デルサナノC」)を用いて、レーザードップラー検出式電気泳動法により得られた電気泳動移動度を用いたゼータ電位を表面電位とする。
【0047】
シリカ砥粒の含有量は、窒化珪素に対し高い研磨速度を得るという観点から、CMP研磨液100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましい。また、シリカ砥粒の含有量は、酸化珪素の研磨を抑制という観点から、CMP研磨液100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。
【0048】
[成分(B):リン酸、リン酸誘導体、ホスフィン、及びホスフィン誘導体]
本実施形態のCMP研磨液は、リン酸、リン酸誘導体、ホスフィン、及びホスフィン誘導体からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。成分(B)は、一種類を単独で、又は、二種類以上を混合して使用できる。リン酸誘導体としては、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスフィン酸等が挙げられる。ホスフィン誘導体としては、ホスフィンオキシド等が挙げられる。また、これらリン酸誘導体、ホスフィン、及びホスフィン誘導体の構造中、水素原子を有機基に置き換えることもできる。窒化珪素の高い研磨速度を得る観点から、リン酸が好ましく用いられる。
【0049】
成分(B)の含有量(二種類以上を含有する場合は、これらの合計量)は、CMP研磨液100質量部に対して、窒化珪素の研磨速度を向上させる観点から、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.002質量部以上、更に好ましくは0.003質量部以上である。また、成分(B)の含有量は、CMP研磨液のpHの調整が容易になるという観点から、CMP研磨液100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0050】
[成分(D):pKaが3.5〜5.5の酸]
本実施形態のCMP研磨液は、更に、pKaが3.5〜5.5の酸を含有してもよい。pKaが3.5〜5.5の酸は、CMP研磨液中でpH緩衝剤としての機能を有する。pKaが3.5〜5.5の酸を用いると、CMP研磨液のpH調整が容易になるだけでなく、保管中及びCMP研磨液中のpHも安定するという点で好ましい。pKaが3.5〜5.5の酸の種類には特に制限はなく、例えば、アジピン酸、アセチル酢酸、アニス酸、安息香酸、オキサロ酢酸、クエン酸、グリコール酸、グルタル酸、クロトン酸、コハク酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、トリメチル酢酸、ニトロ安息香酸、乳酸、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、ビニル酢酸、ピメリン酸、フェニル酢酸、フェニルプロピオン酸、フタル酸、フマル酸、プロピオン酸、メチルアクリル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等が挙げられる。なお、複数の酸性基を有する酸の場合、いずれかの酸解離定数が3.5〜5.5の範囲内にあればよい。
【0051】
pKaが3.5〜5.5の酸は、取り扱い性の観点から、好ましくは酢酸、グリコール酸、リンゴ酸等であり、より好ましくは酢酸である。pKaが3.5〜5.5の酸は、一種類を単独で、又は、二種類以上を混合して使用できる。
【0052】
pKaが3.5〜5.5の酸を用いる場合、その含有量は、CMP研磨液100質量部に対して、pHを安定させる観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上、更に好ましくは0.05質量部以上である。また、pKaが3.5〜5.5の酸の含有量は、他の成分の効果を阻害しないという観点から、CMP研磨液100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。
【0053】
[成分(E):pH調整剤]
本実施形態のCMP研磨液は、pH調整剤を含有してもよい。pH調整剤によりCMP研磨液を所望のpHにできる。pH調整剤の種類としては特に制限がなく、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等のアルカリ成分が挙げられる。CMP研磨後の基板表面に金属イオンが残存する可能性、CMP安全性を考慮した場合、pH調整剤はアンモニアが好ましい。pH調整剤は、一種類を単独で、又は、二種類以上を混合して使用できる。
【0054】
pH調整剤の含有量は、CMP研磨液の所望とするpHに応じて定められる。後述するとおり、CMP研磨液のpHは5.0〜7.0であり、pH調整剤は、CMP研磨液のpHを5.0〜7.0に調整するために適した量で用いられる。
【0055】
[金属の酸化剤]
本実施形態のCMP研磨液は、金属の酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。金属のCMPでは、酸化剤で酸化した金属を、酸等の酸化金属溶解剤で溶かすことのできる研磨液が一般的に用いられる。しかし、CMP研磨液が酸化剤を含有していなければ、金属は酸化されず安定した状態となるため、金属の研磨速度を抑制する点で好ましい。
【0056】
金属の酸化剤とは、通常、標準酸化還元電位が対象金属よりも大きな値を示す物質をいう。一方で、金属の種類によっては、クロム、アルミニウム、チタン等のように標準酸化還元電位が低くても、表面に不導体皮膜といわれる強く緻密な皮膜を形成し酸化を防ぐものが存在する。そこで本実施形態においては、一般的に酸化剤として認知されているものを金属の酸化剤とする。一般的な金属の酸化剤としては、過酸化水素、ペルオキソ硫酸塩(例えばアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩)、硝酸、過ヨウ素酸塩(例えばアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩)、次亜塩素酸、オゾン、過マンガン酸化合物、多価金属塩等が挙げられる。
【0057】
実質的に酸化剤を含有しないとは、例えば、酸化剤の含有量が、CMP研磨液100質量部に対して、0.01質量部未満であることをいう。酸化剤の含有量が0.01質量部未満であれば、金属の研磨を抑制するという点で好ましい。酸化剤の含有量は、好ましくは0.01質量部未満、より好ましくは0.005質量部未満、更に好ましくは0.001質量部未満である。
【0058】
[成分(C):水]
本実施形態のCMP研磨液は水を含有する。水の含有量は上記含有成分の残部でよい。水として、イオン交換水、蒸留水等の純水を用いることが好ましい。
【0059】
[CMP研磨液のpH]
本実施形態のCMP研磨液のpHは、窒化珪素を正に帯電したものとし、且つ、酸化珪素を負に帯電したものとするため、5.0〜7.0の範囲とする。pH5.0未満の領域では、窒化珪素が正電荷を有するという点では好ましいが、酸化珪素も正電荷を有するものとなるため、酸化珪素の研磨速度を低下させることが困難となり、窒化珪素と酸化珪素との選択比が大きくならない。また、pH7.0を超える領域では、窒化珪素が負電荷を有するものとなるため、窒化珪素の実用的な研磨速度が得られず、やはり選択比は大きくならない。このような観点で、pHとしては、6.8以下が好ましく、6.5以下がより好ましい。
【0060】
CMP研磨液のpHは、pHメータ(例えば、横河電機株式会社製「PH81」)で測定する。pHの値として、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性りん酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃))を用いて、2点校正した後、電極をCMP研磨液(25℃)に入れて、3分以上経過して安定した後の値を採用する。
【0061】
[貯蔵液]
本実施形態のCMP用研磨液は、貯蔵、運搬、保管等に係るコストを抑制する観点から、使用時に水等の液状媒体で希釈されて使用される貯蔵液として保管できる。貯蔵液を水等の液状媒体で希釈することによりCMP用研磨液が得られる。貯蔵液の希釈倍率(質量基準)の下限としては、倍率が高いほど貯蔵、運搬、保管等に係るコストの抑制効果が高い観点から、2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。また、希釈倍率の上限としては、特に制限はないが、10倍以下が好ましく、7倍以下がより好ましく、5倍以下が更に好ましい。希釈倍率がd倍であるとき、貯蔵液中の各成分の各含有量は、CMP用研磨液中の各成分の含有量のd倍である。
【0062】
[CMP研磨液の研磨対象]
本実施形態のCMP研磨液は、後述する基板の研磨に用いられる。本実施形態の研磨液を用いることによって、窒化珪素を優先的に研磨し、除去できる。その結果、研磨後に、各層が設計通りの膜厚を有する基板を得ることができる。本実施形態のCMP研磨液が示す特性として、「窒化珪素と酸化珪素との選択比」が、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、15以上が更に好ましい。また、「窒化珪素と金属との選択比」が、50以上が好ましく、100以上がより好ましく、150以上が更に好ましい。金属部に関していえば、できる限り除去されないことが好ましい。ここで、選択比を求めるための研磨速度は、それぞれの膜が形成された基板(ブランケットウエハ)を同一条件で研磨して求めることができる。
【0063】
窒化珪素と酸化珪素の選択比は、本実施形態のCMP研磨液による各膜の研磨速度より算出する。研磨速度は、研磨前後の膜厚を測定し、その変化量を研磨時間で除して1分あたりの研磨速度に換算した値を用いる。膜厚の測定に関しては、実施例にて詳細に説明する。求めた窒化珪素の研磨速度を酸化珪素の研磨速度で除することにより選択比が得られる。
【0064】
同様に、窒化珪素と金属の選択比は、本実施形態のCMP研磨液における各膜の研磨速度より算出する。窒化珪素の研磨速度を金属の研磨速度で除することにより選択比が得られる。
【0065】
[研磨方法]
次に、本発明の実施形態である研磨方法について詳細に説明する。
[基板]
本実施形態の研磨方法では、窒化珪素部を有する基板を、前記実施形態のCMP研磨液を用いて研磨する。本実施形態の研磨方法に特に適した基板として、窒化珪素部及び酸化珪素部を有する基板;窒化珪素部及び当該窒化珪素部の下に位置する金属部を有する基板;窒化珪素部及び酸化珪素部を有し、少なくとも窒化珪素部の下に金属部を有する基板等が挙げられる。これらの基板において、前記窒化珪素部は基板の表面にあることが好ましい。また、前記金属部は窒化珪素部と接していることが好ましい。
【0066】
窒化珪素とは、少なくとも珪素と窒素が結合した状態である物質を指す。例えば、窒素と珪素が結合した状態である物質、酸素と窒素と珪素が結合した状態である物質(酸化窒化珪素)等が挙げられる。また、酸化珪素とは、珪素と酸素が結合した状態である物質を指す。更に、金属としては、タンタル、窒化タンタル、チタン、窒化チタン、ルテニウム、タングステン、窒化タングステン等が挙げられる。研磨対象物は上記に限定されることはなく、一般的に知られる窒化珪素、酸化珪素又は金属であれば、適用可能である。
【0067】
窒化珪素部の形成方法としては、化学気相成長法、化学気相蒸着法、スピンコート法等が挙げられる。酸化珪素部の形成方法としては、化学気相成長法、化学気相蒸着法、常温オゾン化学気相反応法、プラズマ化学気相反応法、熱酸化法等が挙げられる。金属部は、単層であってもよく、又は積層されていてよい。金属部の形成方法としては物理蒸着法が一般的である。前記各材料の形状は特に限定されないが、例えば膜状であり、より具体的には、窒化珪素膜、酸化珪素膜、金属膜等が挙げられる。
【0068】
基板として、具体的には、MRAMの製造に用いられる基板が挙げられ、MRAMの構造の詳細は、例えば、図1に示したセル構造の他、特開2005−524238号公報、特開2011−204768号公報等に開示されている。
【0069】
研磨方法の具体例として、MRAM製造工程の一例を、図2(a)〜(c)に示す断面模式図を用いて説明する。図2(a)は、CMP前のセル構造である。回路基板8上電極(ワード線)7が形成され、その上にMTJ層11及び金属部3が形成されている。この具体例において、窒化珪素部2と金属部3とは接している。そして、これらの全体が窒化珪素部2で被覆され、更に酸化珪素部1で覆われている。
【0070】
まず、CMPにより、余分な酸化珪素部1を除去する。具体的には、図2(a)に示す酸化珪素部1を、CMP研磨液を用いて研磨して除去し、窒化珪素部2を露出させ、図2(b)に示す形状を得る。この際のCMPには、一般的に知られている酸化珪素用のCMP研磨液を適用できる。
【0071】
その後、本実施形態の研磨方法により、MTJ層11上の窒化珪素部2を除去する。図2(b)に示す表面に露出した窒化珪素部2を、前記実施形態のCMP研磨液を用いて研磨して除去し、金属部3を露出させ、図2(c)に示す形状とする。この際、前記実施形態のCMP研磨液を用いることによって、窒化珪素部を選択的に研磨により除去し、且つ、金属部で研磨を停止させる。なお、ここでの「窒化珪素部を選択的に研磨により除去」するとは、窒化珪素を酸化珪素よりも優先的に除去することをいう。このような観点で、前記CMP研磨液は、窒化珪素と酸化珪素との選択比(窒化珪素に対する研磨速度/酸化珪素に対する研磨速度)が、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上である。
【0072】
また、「金属部で研磨を停止」とは、金属部の表面が露出したとき、又は、金属部の一部が除去されているが金属部の下層(ここでは、磁性層4)の少なくとも一部が露出する前に、研磨を停止することをいう。
【0073】
[研磨条件]
研磨装置としては、例えば研磨布により研磨する場合、研磨される基板を保持できるホルダと、回転数を変更可能なモータなどと接続され、且つ研磨布を貼り付け可能な研磨定盤とを有する一般的な研磨装置を使用できる。研磨布としては、特に制限はなく、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等を使用できる。
【0074】
研磨条件には制限はないが、定盤の回転速度は、基板が飛び出さないように200min−1以下の低回転が好ましい。基板の研磨布への押し付け圧力は、1〜100kPaが好ましく、研磨速度の被研磨面内の均一性及びパターンの平坦性を満足するためには、2〜50kPaがより好ましい。研磨している間、好ましくは、研磨布にはCMP研磨液をポンプなどで連続的に供給する。この供給量に制限はないが、研磨布の表面が常に研磨液で覆われていることが好ましい。
【0075】
研磨終了後の基板は、流水中でよく洗浄後、スピンドライ等を用いて基板上に付着した水滴を払い落としてから乾燥させることが好ましい。また、市販の洗浄液を基板表面に流しつつ、ポリウレタン製のブラシを回転させながら、一定の圧力で押し付け基板上の付着物を除去する公知の洗浄方法を用いた後に、乾燥させることがより好ましい。
【0076】
研磨布の表面状態を常に同一にしてCMPを行うために、研磨の前に研磨布のコンディショニング工程を行うことが好ましい。例えば、ダイヤモンド粒子のついたドレッサを用いて少なくとも水を含む液で研磨布のコンディショニングを行う。続いて本実施形態に係る研磨方法を実施し、更に、基板洗浄工程を加えることが好ましい。
【実施例】
【0077】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明の技術思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。例えば、研磨液の材料の種類やその配合比率は、本実施例記載の種類や配合比率以外でも差し支えなく、研磨対象の組成や構造も、本実施例記載の組成や構造以外でも差し支えない。
【0078】
<実施例1>
[CMP研磨液(1)の作製]
以下に示す手順に従い、CMP研磨液(1)を作製した。得られたCMP研磨液(1)の成分、及びそれぞれの成分について、CMP研磨液100質量部に対する含有量を表1に示す。
【0079】
1:水895.00gを1Lの容器に測り取る。
2:撹拌羽を容器にセットし、水の撹拌を開始する。
3:85質量%リン酸水溶液1.00gを測り取り、2.の水に添加し、撹拌して混合する。
4:酢酸2.00gを測り取り、3.で得た水溶液に添加し、撹拌して混合する。
5:25質量%アンモニア水溶液2.00gを測り取り、4.で得た水溶液に添加し、撹拌して混合する。
6:水溶液を10分以上撹拌し充分に混合した後、コロイダルシリカ(扶桑化学工業製「PL−1」、固形分濃度20質量%、一次粒子径15nm)100.00gを測り取り、水溶液に添加する。
7:コロイダルシリカを添加した後、10分以上撹拌し充分に混合し、コロイダルシリカを充分に分散させる。
【0080】
<実施例2及び3>
[CMP研磨液(2)及び(3)の作製]
実施例1と同様に操作して、表1に示すCMP研磨液(2)〜(3)を作製した。
【0081】
<比較例1〜4>
[CMP研磨液(4)〜(7)の作製]
実施例1と同様に操作して、表1に示すCMP研磨液(4)〜(7)を作製した。
【0082】
<比較例5〜7>
[CMP研磨液(8)〜(10)の作製]
3.の操作を行わず、4.において酢酸に代えてグリコール酸を用いた他は実施例1と同様に操作して、表1に示すCMP研磨液(8)〜(10)を作製した。
【0083】
以下の方法に従い、得られたCMP研磨液(1)〜(10)のpH、並びにゼータ電位を測定した。
(pHの測定)
pHメーター(横河電機株式会社製「PH81」)を用いてCMP研磨液(1)〜(10)におけるpHを測定した。標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性りん酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃))を用いて、2点校正した後、電極全体をCMP研磨液に充分浸るように入れて固定し、3分以上経過して安定した後の値をCMP研磨液(25℃)のpHとした。
【0084】
(ゼータ電位の測定)
ベックマン・コールター社製「デルサナノ」を用いてCMP研磨液(1)〜(10)におけるシリカ砥粒のゼータ電位を測定した。まず、装置備え付けのセルに、シリンジを用いて空気が混入しないようCMP研磨液を注入し、セルを装置にセットした。その後、散乱光強度の表示によりシリカ砥粒の濃度が適当であるかを確認した。散乱光強度が規定の範囲に入らない場合には、純水でCMP研磨液を希釈し、再びセルに注入し直した。測定条件は、メーカー推奨の標準条件とし、溶媒は水とした。溶媒の屈折率は1.33、粘度は0.89、誘電率は78.3とし、測定温度は25℃とした。また、繰り返し測定回数は3回とし、その平均値をCMP研磨液中におけるシリカ砥粒のゼータ電位とした。
【0085】
[CMP研磨液(1)〜(10)の評価]
CMP研磨液(1)〜(10)を用いて酸化珪素、窒化珪素、及び金属の研磨を行い、それぞれの研磨速度、窒化珪素と酸化珪素との選択比、及び金属の研磨傷の有無を評価した。評価に用いた基板、研磨条件等を以下に示す。
(評価用基板)
以下の基板を研磨に使用した。
ブランケット基板(a):化学気相成長法で二酸化珪素(厚さ:1,000nm)を形成したシリコン基板(2cm×2cm)
ブランケット基板(b):化学気相成長法で四窒化三珪素(厚さ:200nm)を形成したシリコン基板(2cm×2cm)
ブランケット基板(c):物理蒸着法でタンタル(厚さ:160nm)を形成したシリコン基板(2cm×2cm)
【0086】
(研磨条件)
研磨装置:卓上小型研磨機(日本エンギス株式会社製「IMPTECH 10 DVT」)
研磨布:スウェード状ポリウレタン湿式発泡タイプの研磨布(ニッタ・ハース株式会社製「Politex」)
定盤回転数:160min−1
研磨圧力:30kPa
研磨液の供給量:15ml/min
研磨時間:60sec
【0087】
(基板の研磨工程)
前記ブランケット基板(a)〜(c)を、CMP研磨液(1)〜(10)を用いて研磨した。
【0088】
(評価項目)
研磨速度:窒化珪素、酸化珪素及び金属の研磨速度を、研磨前後の膜厚差及び研磨時間を使用して求めた。窒化珪素及び酸化珪素の膜厚は、光干渉式膜厚計(フィルメトリクス社製「F80」)にて測定した。また、金属の膜厚は、基板の抵抗値を4端子式抵抗計(ナプソン株式会社製「RT−70/RG−7B」)を用いて測定し、算出した。
選択比:窒化珪素の研磨速度値を酸化珪素の研磨速度値で除して「窒化珪素と酸化珪素との選択比」求めた。
研磨傷:研磨後の金属の表面を目視により観察し、研磨傷の有無を評価した。
研磨速度及び選択比につき、評価結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示されるように、CMP研磨液(1)〜(3)では、窒化珪素の研磨速度が約200Å/min以上と高いのに対し、酸化珪素の研磨速度は30Å/min未満に抑制されていた。また、窒化珪素と酸化珪素との選択比は5以上と高い結果であった。
【0091】
これに対し、pHが5.0〜7.0の範囲外にあるCMP研磨液(4)及び(5)では、窒化珪素の研磨速度は実用的ではあるものの、酸化珪素の研磨速度が高く、窒化珪素と酸化珪素との選択比は5未満と低い結果であった。CMP研磨液(6)及び(7)に至っては、窒化珪素と酸化珪素の研磨速度が非常に低く、CMP研磨液として使用できなかった。成分(B)を用いていないCMP研磨液(8)〜(10)においては、pHが5.0〜7.0の範囲内外にかかわらず、窒化珪素と酸化珪素との高い選択比を達成できなかった。
【0092】
金属については、全てのCMP研磨液で研磨速度を5Å/min未満に抑制できた。金属は研磨されず、窒化珪素と金属との高い選択比を達成できた。また、目視による表面観察においては、研磨傷は一切確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の実施形態の研磨方法及びCMP研磨液によれば、窒化珪素を実用的な研磨速度で除去でき、窒化珪素と酸化珪素との高い選択比を実現しつつ、更に、窒化珪素と金属との高い選択比を実現できる。それにより、MRAM製造工程では、酸化珪素に対し窒化珪素を選択的に研磨により除去し、且つ、研磨を金属部で停止できる。
本発明の実施形態の研磨方法及びCMP研磨液は、新たな加工技術と高い加工精度を提供でき、複雑な半導体デバイスの新たな設計及び製造を可能とできる。
【符号の説明】
【0094】
1 酸化珪素部
2 窒化珪素部
3 金属部
4 磁性層
5 トンネル障壁層
6 磁性層
7 電極(ワード線)
8 回路基板
9 電極(ビット線)
11 MTJ層
12 セル構造
図1
図2